JP2013067599A - 歯科治療用組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】採取時の操作性を向上させ、採取混合後は、歯科充填及び歯内療法の治療操作に適した良好なペースト性状となり、充填後の組成物に骨類似結晶を生じて良好な封鎖性をもたらす、操作性、硬化特性、充填後の良好な封鎖性を合わせ持った歯科充填用及び歯内療法用組成物の提供。
【解決手段】ペーストA剤とペーストB剤を混合して得られる歯科治療用組成物であって、ペーストA剤は、ユージノール、グアヤコール、高級脂肪酸、ポリアクリル酸、リン酸から選ばれる成分を含有し、ペーストB剤は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化亜鉛、リン酸カルシウム、アルミノシリケートガラスから選ばれる成分を含有し、かつ、ペーストA剤及びペーストB剤のいずれか一方又は両方に、酸化カルシウムと二酸化ケイ素を含有するガラス粉末を配合した、歯科治療用組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、歯科充填用組成物、及び歯内療法用組成物等の、歯科治療用組成物に関する。
歯科充填治療は、生活歯、失活歯の双方において、う蝕、外傷などで生じた歯牙の欠損部分の修復を行うことで、充填用セメント剤、充填用レジン、アマルガム等が用いられる。生活歯の充填治療の際には、歯髄を保護するため覆髄が必要となることが多く、また窩洞の形態を整えるため、覆髄剤に加えて裏装材を貼付することがある。覆髄材が裏装材の役割を兼ねることもある。歯内療法には、グロスマン著「エンドドンティックス」によると、a)覆髄、b)断髄、c)抜髄法、d)感染根管治療等があり、a)の覆髄とは、健康歯髄を保護する手法で、正常な生活力と機能を保つために、セメント、結晶性物質、糊剤などの薬剤で歯髄または歯面を覆うことであり、間接覆髄と直接覆髄とに分かれる。間接覆髄は、外来刺激を遮断し、歯髄の鎮静をはかりつつ、第三象牙質の形成を促すことを目的とする。直接覆髄は、感染象牙質除去後の窩洞で偶発的に露髄した場合に、軽度の露髄でかつ細菌感染がないものに歯髄保護とデンティン・ブリッジ形成誘導のために試みられる。b)の断髄とは、感染していない歯冠部の生活歯髄を除去することで、断髄に成功すると、歯根部歯髄は生活を続け、歯髄の切断面には象牙芽細胞で覆われ、さらに歯髄を保護する一層または数層のデンティンブリッジを形成する。c)の抜髄とは、歯髄腔から、正常または病的な生活歯髄を全部除去する処置をいう。d)の感染根管治療とは、無髄歯(失活歯とも言う、根尖など歯周組織に病巣を有する歯牙を含む)に対して行われる処置をいう。
抜髄は、歯髄炎、う蝕や外傷などによる露髄、便宜抜髄に適応される。感染根管治療の適応歯は、多くはa)〜c)の治療が既に為されていて、充填材等が充填されているが、根管内に失活歯髄が残存している症例をも含む。
抜髄、感染根管治療とも、術式に大差はなく、まず、歯髄腔の天蓋を除去し、髄腔の歯髄または充填物を切除または除去した後、根管内を探り、ファイルで根管歯髄組織または充填物を除去する。抜髄の場合は、根尖方向の歯髄は生活しているため、神経刺激性を有する薬剤の貼付、処置は避け、歯髄組織の適切な創傷治癒、再生誘導を発揮する材料を貼付することが好ましい。感染根管治療では、根尖狭窄部まで、根管形成するのが通例であり、根管内には生活歯髄が残存していることは殆どなく、根尖を封鎖、密閉性を高めることが重要になる。すなわち、根管内の成分が根尖に漏出しないようにすること、また、根尖周囲の組織液、浸出液などが根管内に侵入しないようにすることが必要となる。しかしながら、乳歯、根尖が完成していない幼若永久歯に加え、根尖病巣により、根尖が吸収し歯牙、歯根端切除が行われた歯牙などは、アピカルシートの形成が困難なため、上述の様な、根管内と根尖周囲との交通が生じることもある。
このような基礎的知見、共通認識を基に、a)、b)では窩洞の空隙を安全な材料で封鎖し、高い密閉性を実現することで、歯髄の保護を図りつつ、第三象牙質の形成またはデンティン・ブリッジ形成を誘導する治療が行われる。c)、d)では治療の最終段階として、根管内の空隙を、同じように、生体に安全な材料で封鎖し、高い密閉性を実現することで、
根尖孔、穿孔部等、歯周組織からの細菌による二次感染を防止する目的で根管充填が広く行なわれなくてはならない。そのため、生体為害性のない材料からなる覆髄材、根管充填材を使用し、できるだけ緊密に窩洞、根管を充塞できることが重要となる。さらに、残存歯髄及び歯周組織、主に歯槽骨など、生体組織の適切な創傷治癒、再生誘導を発揮する材料が好ましい。
この充填治療、及び歯内療法には、これまで、多種の材料、薬剤が用いられてきた。さまざまな臨床結果をもとにして、現在用いられているのは、キレート反応や酸−塩基反応により硬化するセメント組成物、重合反応により硬化する重合性組成物であり、根管治療では、これらの材料と、固形のポイントとを併用し根管内を封鎖する方法、単一の根管充填用糊材で充填する糊剤根管充填、樹脂を熱溶解して根管充填を行うオブチュラといったものが挙げられる。
歯内療法用組成物(裏装材も含む)として現在広く使用されているもの一つは、酸化亜鉛とユージノールとを主成分とした材料である。歯髄鎮静作用を有する酸化亜鉛・ユージノール系の歯内療法材は、永年の臨床実績があり、現在でも幅広く臨床使用されている。練和物は、糸引きのある粘稠性ペーストで、流動性も高く、狭い根管内など、器具が届きにくく、操作が困難な部位へ練和物を送り込むのに都合のよい性状をしている。操作時のペースト性状が糸引きのある粘稠性ペーストであるということが、根管充填など歯内療法用組成物に求められる性状であるが、歯周組織には刺激性があり、根尖孔または穿孔部からの漏出のおそれのある場合には使用しづらい。また、充填用セメントとしては強度の面で問題がある。
また、歯科充填用組成物及び歯内療法用組成物の操作性として、簡単に採取、混合できることも求められる。一般的な歯科充填材及び歯内療法材は、使用直前に2材を混合し、その後の硬化反応を利用して、患部に密接に貼付、又は根管内を緊密に充填することを意図しているが、使用直前の混合は非常に煩わしい作業になる。組成物が粉液タイプのものであれば、採取も面倒であり、加えて粉材と液材の採取比によって特性が変わってしまうため、使用者にとっては大きなストレスとなる。このような問題は、製材を2ペーストタイプとすることで解決できる。さらに、充填用組成物としての物性を備えることができれば、露髄、裏装、窩洞形成、充填、または根管充填、印象、修復物装着の4段階以上の手順を単回の処理で終えることも可能になる。
例えば特許文献1には、ユージノールを含まない根管充填シーラーが記載されている。2種類のペーストがデュアル型シリンジに充填された形態をしており、1回の押出しで2ペーストの等量を練板紙上に採取することができる。そのため、経験の有無、長短にかかわらず、簡単操作で常に均一な性状の練和物を得ることができ、繁忙な歯科治療の合間にも容易に使用することができる。
しかしながら、これらの歯内療法材は現状多く用いられてはいるものの、完全に理想的な封鎖性を示しているとは言い難い。なぜならば上述の歯内療法材と歯質とは完全に接着することは材料的に不可能であり、材料−歯質間の微小な間隙は避けられないためである。近年ではこの歯質接着性に焦点を当て、窩洞の修復に用いるレジン系歯内療法材(非特許文献1)も市販されてはいるが操作性は悪く、根管内など、器具が到達しにくく、操作が困難な部位では接着性材料に不可欠な被着体のエアー乾燥が行えないため、湿潤環境になりがちで接着性の低下が指摘されている。
一方、Mineral Trioxide Aggregate(MTA)と呼ばれるケイ酸カルシウムセメントが、歯科治療の、とりわけ歯内療法分野で注目されている。すぐれた封鎖性、抗菌性、生体適合性、硬組織誘導能を有していることが報告され(非特許文献2)、その有用性が評価されている。特に抗菌性、生体適合性、硬組織誘導能を有することから、穿孔や破折歯、難治性の根管治療症例等に対して、従前は抜歯するしかなかったような症例でも、天然歯を保存し良好な治癒経過を辿ったという報告(非特許文献2、3)が多くなされている。また、優れた封鎖性は、MTA製材の硬化体を疑似体液(SBF)のような生体内溶液を模した電解質組成の緩衝液に浸し、生体内の状況の再現実験によると、表面から骨類似結晶を生じ、これにより充填物と歯質の間に生じた間隙を封鎖するためと考えられている(非特許文献4)。このような特性は、歯内、根管内、または歯牙と歯周組織との密閉性を高めることが重要となる歯内療法用の材料には大変適した特性である。
しかしながら、現在日本国内で販売されているMTA製材(製品名:ProRootMTA、デンツプライ三金)は、粉材と液材とを練和して使用するタイプの製品である。練和物は泥水のような性状のペーストとなって先述のような糸引きのある粘稠性のある性状には程遠く、練和物充填時の操作性がよいとはいえない。したがって現状では、操作性に問題を有しつつも、MTA製材のみが有する臨床効果に期待して、器具が到達しやすく、操作の容易な部位の穿孔封鎖や破折歯の治療に適用はなされているが、狭い根尖部など、操作の困難な部位へ練和物を填入するのは、非常に困難で、応用範囲は限定的である。
特許文献2には、ProRootMTA以外のMTA製材(製品名:Biodentine、仏Septodont社)について記載されている。使用直前に粉材と液材を混合して使用するが、カプセルミキサーのような機械を用いて練和するように指示している。練和後は比較的良好な操作性とMTA製材の有する優れた封鎖性を有し、歯牙の欠損部の修復に必要な強度を持つことを特徴としているが、あくまで従来の歯科用覆髄材としての範疇を出ない操作性であり、操作性の面で根管充填、穿孔部封鎖、また操作の困難な部位の露髄の覆髄、断髄面の露髄など細かな操作を要求される場合の材料には適さない。
操作性に問題のあるMTA製材であるが、採取時の操作性を向上させる目的で2ペーストとした製材も市販されている(製品名:MTA
FILLAPEX、伯angelus社)。
該製剤は、歯内療法用の材料にふさわしい操作性などの物性は備えているものの、レジンをベースとした組成であり、MTA成分(ケイ酸カルシウムなど)は製材の13%程度しか含まないため、上述のMTA製材同様に硬化体表面から骨類似結晶を生じて充填物と歯質の間に生じた間隙を封鎖する特性は有するものの、ややその能力に乏しい。
また、MTA製材を1ペーストとした製材も市販されている(製品名:EndoSequence BC Sealer、米Brasseler社)。ケイ酸カルシウムの他に水酸化カルシウム、X線造影剤として酸化ジルコニウムを含む1ペースト製材であり、練和を要しない点では操作は単純となり得るのだが、ペーストの性状はやや硬くて糸引きのある粘稠性は示さないため、MTA製材の問題であった操作性を完全に解決するには至らない。
このように、硬化体表面から骨類似結晶を生じて充填物と歯質の間に生じた間隙を封鎖することから、良好な封鎖性を実現するMTA製材は操作性に問題があり、2ペースト製材として採取時の操作性を向上させようとすると、良好な封鎖性を示すために必要な充填物と歯質の間に生じた間隙を封鎖するMTA製材の特性を損ねてしまうため、これらの両立が求められてきた。
また、特許文献3には、生物分解性熱可塑性ポリマーと、必要に応じて用いる生物活性フィラー等を含む歯科充填材について記載されているが、生物分解性熱可塑性ポリマーの性質によって歯質に接着することを意図しており、本発明のような骨類似結晶を生じて充填物と歯質の間に生じた間隙を封鎖することにより、生体組織の適切な創傷治癒・再生誘導を発揮する生体活性な歯内療法用組成物については意図されていない。
歯科に限らず、例えば医科の整形外科分野では、金属やセラミックス、ガラス等の人工生体材料が骨補填材などとして臨床応用されている。これらの材料の中には、MTA製材と同じようにSBF中で骨類似結晶を生成する生体活性材料と呼ばれるものがあり、これを介して骨と結合することが知られている。非特許文献5では、45S5バイオガラスと呼ばれる生体活性材料をリン酸水溶液と練和したペーストの細胞毒性について検証している。この文献では知覚過敏抑制材や齲蝕治療材としての運用を想定しており、この技術を応用したとしても本発明のような操作性と封鎖性を両立した歯科充填用または歯内療法用組成物は得られない。整形外科分野で用いられる人工生体材料はそれ自身で骨欠損部を補填したり、人工関節等のマテリアルと骨との接着を促進・補助したりといった役割を有する。そのため欠損部・修復部分の形態であったり、他材料のコーティング材として用いられたりすることが主であり、歯科の窩洞充填、覆髄、裏装、根管充填、穿孔部封鎖などの操作に適する糸引く粘稠性のものには、それ単体では成り得ないものであるからである。
特許第4614376号公報 特許第4302633号公報 特許第4657102号公報
デンタルマガジン116号、42−46頁、2005年 Trabinejad M et al., Journal of Endodontics, (25), 197−205, 1999. Tahsin Y et al., Journal of Endodontics, (35), 2, 292−295, 2009. Jessie F. et al., Journal of Endodontics, (35), 731−736, 2009. T. Kokubo et al., Biomaterials, (27), 2907−2915, 2006. Bakry AS et al., Journal of Dentistry, (9), 599−603, 2011.
そこで、本発明が解決しようとする課題は、歯科充填用及び歯内療法用組成物において、採取時の操作性を向上させ、採取混合後は、歯科充填及び歯内療法の治療操作に適した良好なペースト性状となり、充填後の組成物に骨類似結晶を生じて良好な封鎖性をもたらす、すなわち操作性、硬化特性、充填後の良好な封鎖性を合わせ持った歯科充填用及び歯内療法用組成物を提供することにある。
本発明者らは、上記課題解決につき鋭意研究の結果、ある限定された組成の二酸化ケイ素及び酸化カルシウムを必須成分とするガラス粉末をフィラーとして使用直前に2ペーストタイプの製材を混合して硬化させることを意図する組成物を構成することで、生体内でその表面から骨類似結晶を析出する性質を有しつつ、歯科充填及び歯内療法の操作性を損なわないという、これらの課題解決に優れた結果を与えることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)ペーストA剤とペーストB剤を混合して得られる歯科治療用組成物であって、ペーストA剤は、ユージノール、グアヤコール、高級脂肪酸、ポリアクリル酸、リン酸から選ばれる1種又は2種以上の成分を、ペーストA剤全量に対し5質量%以上含有し、ペーストB剤は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化亜鉛、リン酸カルシウム、アルミノシリケートガラスから選ばれる1種又は2種以上の成分を、ペーストB剤全量に対し5質量%以上含有し、かつ、ペーストA剤及びペーストB剤のいずれか一方又は両方に、酸化カルシウムと二酸化ケイ素を、質量比が6:4〜3:7の範囲で、ガラス粉末全量に対し50〜100質量%含有するガラス粉末を、各ペーストに対し70質量%以下、組成物全量に対し40質量%以上配合した、歯科治療用組成物。
(2)ガラス粉末として、さらにアルカリ金属酸化物を0〜40質量%、及びリン酸を0〜10質量%含有する、(1)に記載の歯科治療用組成物。
(3)歯科充填に使用する、(1)又は(2)に記載の歯科治療用組成物。
(4)歯内療法に使用する、(1)又は(2)に記載の歯科治療用組成物。
(5)歯内療法が、直接覆髄、間接覆髄、断髄、抜髄、感染根管治療、又は穿孔部封鎖である、(1)、(2)、又は(4)に記載の歯科治療用組成物。
(6)(1)に記載のペーストA剤とペーストB剤を含む、歯科治療用組成物用のキット。
本発明の歯科充填用及び歯内療法用組成物は、良好な操作性を有するため、違和感なく使用することが可能である。すなわち、糸引きのある粘稠性・流動性ペーストであることから、覆髄・断髄の際に、一様に且つ過不足なく完全に歯面を緊密に覆うことができ、特に露髄面が操作困難な箇所にある場合にも容易に送達し封鎖することができる。また、根管穿孔部や根尖部まで容易に送達し、根管を封鎖しやすい性状を有し、硬化後は、歯科充填材に要求される物性を発揮する。さらに、本発明の歯科充填用及び歯内療法用組成物は、生体内において、ハイドロキシアパタイトなどの空間群P6/mに属する結晶相、すなわち骨類似結晶を生成する。生体内の硬組織の大部分を占める骨や歯は、ハイドロキシアパタイトを主成分として含んでおり、本発明の歯科充填用及び歯内療法用組成物は、歯の主成分と同一の構造を有する骨類似結晶をその表面から生じて歯科充填用及び歯内療法用組成物と歯質との間に生じた僅少な間隙を埋めていき、さらにこの結晶を介して歯質及び骨組織と一体化することが可能である。特に、この性質は、乳歯や幼若永久歯で、根尖が形成されていない歯牙、加えて感染根管治療においてアピカルシート形成ができていない歯牙・歯根端切除術により根尖が大きく開口していない歯牙など、封鎖が困難な歯牙の根管充填に有効である。これにより、臨床的に完全な密封が不可能な症例においても、歯質及び骨組織と密に接し良好な封鎖性・硬組織誘導を導くことができる。
すなわち、本発明の歯科充填用及び歯内療法用組成物は、長年歯科医師に望まれてきた、採取時の操作性、貼付・充填時の操作性、貼付・充填後の良好な封鎖性を合わせ持ち、且つバイオガラスの特性である生体組織の適切な創傷治癒・再生誘導を発揮することにより、高い治療効果を期待できる歯科充填用及び歯内療法用組成物である。
フィールドエミッション走査型電子顕微鏡写真例(実施例6) 粉末X線回折結果例(実施例6) フィールドエミッション走査型電子顕微鏡写真例(比較例7)
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の歯科充填用及び歯内療法用組成物は、ペーストA剤とペーストB剤によって構成され、使用時にペーストA剤とペーストB剤を練和して適用される。ペーストA剤のユージノール、グアヤコール、高級脂肪酸、ポリアクリル酸、リン酸から成る群から選ばれる、1つあるいは2つ以上の成分、ペーストB剤の酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化亜鉛、リン酸カルシウム、アルミノシリケートガラスから成る群から選ばれる、1つあるいは2つ以上から選ばれる成分は、練和して硬化する特性を与えるために必須の成分であり、その配合量は、フィラーとして添加する粉末ガラスの配合量との関係で定まる。すなわち、その配合量は、両剤を練和した時に硬化するのに必要な量であると同時に、粉末ガラスの骨類似結晶を析出する性質を確保して良好な封鎖性を維持するのに適した量であることが必要であり、配合量もその観点から定められる。具体的には、ペーストA剤のユージノール、グアヤコール、高級脂肪酸、ポリアクリル酸、リン酸から成る群から選ばれる1つあるいは2つ以上の成分の量は、5質量%以上、ペーストB剤の酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化亜鉛、リン酸カルシウム、アルミノシリケートガラスから成る群から選ばれる1つあるいは2つ以上の成分の量は、5質量以上である。なお、ペーストB剤の配合成分としての選択肢であるアルミノシリケートガラスは、本発明の粉末ガラスとは異なり、生体内で骨類似結晶を生成する機能はないが、ポリアクリル酸やリン酸と混合して硬化する特性がすでに歯科領域で実績のある硬化性素材であり、練和して硬化する特性を与えるものとして選択できる。
各ペーストには、良好なペースト性状を得るために基材を配合することができる。基材の種類については、各ペーストの成分と反応性を持たないものであれば何でもよく、これまでの歯科充填用及び歯内療法用組成物に使用されているものも使用できる。例えばオリブ油や落花生油などの植物油、高級脂肪酸とグリセリンのエステル化合物、プロピレングリコールやポリエチレングリコール、グリセリン、多価アルコール化合物のような水混和性有機溶媒や、場合によっては水も使用できる。この際は上述の必須成分の組成範囲を外さない範囲の量が配合可能である。
その他、歯科充填及び歯内療法の治療に必要な粘稠性を持たせるためマツ属諸植物の分泌物から精油を除いて得られる光景樹脂であるロジンや、そのエステル化化合物であるエステルガム、根管内に適正に充填されたかどうかの判定や経過観察に用いられる目的で硫酸バリウム、次炭酸ビスマス、酸化ジルコニウム等のX線造影剤もしくは不透過剤を配合することができるが、これらの成分についても各ペーストの成分と反応性を持たないものであれば何でもよく、上述の必須成分の組成範囲を外さない範囲の量であれば配合可能である。
ペーストA剤及びペーストB剤は、常法によって調製することができる。
本発明の歯科充填用及び歯内療法用組成物は、ペーストA剤又はペーストB剤の一方又は両方に、粉末ガラスをフィラーとして配合する。粉末ガラスの量は、多ければ多いほど骨類似結晶を析出する性質を高めるのに有効で、少ない場合は骨類似結晶を析出する性質に影響し良好な封鎖性を損ねてしまう。このため、粉末ガラスの配合量は、ペーストA剤、ペーストB剤の一方に配合する場合には少なくとも40質量%以上必要となり、両方のペーストに配合する場合には、両方のペーストへの配合量の合計が40質量%以上必要となる。一方、あまりに多いと硬化特性に影響し、極端なところでは硬化しなくなった場合、その後の封鎖性にも影響する。さらには使用時の操作性を損ねる原因にもなる。この時の配合の上限は、ペーストA剤、ペーストB剤の一方に配合する場合、両方のペーストに配合する場合のいずれも、各ペーストに対して70質量%以下にする必要がある。
粉末ガラスを、バイオセラミックス等の無機材料を生分解性ポリマーや有機系樹脂などと複合させ、その操作性や硬化体強度を向上させる研究・特許はこれまでにも多く報告されていて、生体内でアパタイト様結晶をガラス表面から生成し、これを介して骨や歯と結合することが知られている。こういった特性は「生体活性」と呼ばれ、生体活性を持つガラスの組成については、これまでに多くの検討・研究がなされている。その構成成分・組成は、酸化カルシウムと二酸化ケイ素を、両者の質量比で6:4〜3:7の範囲で、50〜100質量%含み、さらにアルカリ金属の酸化物を0〜40質量%、リン酸を0〜10質量%含むこともできる。また酸化ランタン等のX線造影成分を含むこともできる。
粉末ガラスは、常法によって調製できるが、市販のものを使用することもできる。
以下に、実施例及び比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例において、「%」は、「質量%」を示す。
表1に本実施例に用いた粉末ガラスの組成を、表2にペーストA剤の組成A1〜A12を、表3にペーストB剤の組成B1〜B14の組成を示す。A剤及びB剤の各原料をそれぞれ磁性乳鉢にて混合してサンプルを調製した。調製されたペーストは、表4に示す組合せでペーストA材、ペーストB材それぞれ等量採取、練和し、下記の試験項目により評価した。
〔ペースト稠度(JIS−T6522)〕
ペーストの操作性の指標として、歯科用根管充填シーラーのJIS(JIS−T6522)に規定される試験方法を参考とした。すなわち、ペーストA材とペーストB材を等容量採取して練和し、3分後にその0.05mL相当の量をガラス板に挟む。23℃、相対湿度50%の環境下で、120gf(ガラス板の重量含む)の加重を7分間かけ、試料の広がり径を計測し、ペースト稠度が20〜35mmを合格(○判定)とし、逸脱した稠度を不合格(×判定)とした。なお、JIS−T6522による稠度の試験結果は、粘稠性の高いペーストに対しては小さな実測値を、粘稠性の低いペーストに対しては大きな実測値で観測される。
〔操作性:練和物の糸引き性〕
ペーストA材とペーストB材を等容量採取して練和した練和物の性状をスパチュラで引き上げ、練和物が糸を引く様子を目視で確認した。
〔硬化特性〕
ペーストA材とペーストB材を等容量採取して練和し、練和物を塗布したガッタパーチャポイント(ジーシー社製、マスターポイント#35)をパスツールピペットの先端部に充填する。練和から2分後から37℃、相対湿度95%以上の環境におき、所定の時間が経過した時点で引き抜き荷重30gfをガッタパーチャポイントにかけ、抜けないことを確認した。ガッタパーチャポイントが抜けないことを合格(○判定)とし、抜けてしまったものを不合格(×判定)とした。
〔骨類似結晶生成能〕
ペーストA材とペーストB材を等容量採取して練和し、練和物をポリエチレン製メッシュに絡め試験片を作成する。この試験片をSBF中に4日間浸漬静置した後、フィールドエミッション走査型電子顕微鏡(日本電子社製JSM−7000F)にて表面観察した。併せて粉末X線回折装置(理学機器社製RINT−2500HF)で生成した結晶構造の解析を行い、結晶がハイドロキシアパタイトに属する構造であることを確認した。なお、このとき用いたSBFは、動物実験を行うことなしに本発明品のアパタイト様結晶生成能を予備的に判断することができるものとされており、生体内における人工材料表面のアパタイト形成能を評価する標準溶液(ISO 23317)として国際標準化機構に登録されるものを使用した。
表4に各試験の結果を示す。
ペーストA材の組成A1〜A9と、ペーストB材の組成B1〜B9と組み合わせて使用した実施例1〜9は、操作性、硬化性、結晶生成能について、いずれも良好な操作性、硬化特性、充填後の良好な封鎖性を合わせ持った特性をすべて満足できるものであった。骨類似結晶生成能の確認結果の例として、図1には実施例6におけるフィールドエミッション走査型電子顕微鏡の観察結果を、図2には粉末X線回折で析出した結晶に由来する回折パターンを示す。
走査顕微鏡観察の結果、擬似体液(SBF)に浸漬した試験片の表面には、網状の結晶構造が析出しているのが観察された。網状結晶構造は、粉末エックス線回折による解析結果からハイドロキシアパタイト(HAP)と同等のものが同定された。
pHについて、本願発明のペーストを練和し、精製水に浸漬するとpH10.1と高アルカリ性を示すものの、予め擬似体液(SBF)中に7日間浸漬しておいた硬化体については、中性に近い値を示すことが明らかとなった。
さらに、象牙芽細胞様細胞株(KN−3細胞)へのセメントの影響を位相差顕微鏡で観察したところ、セメントに直接接触する位置まで細胞が増殖しているのが観察された。また、セメントの存在しない場合と比較して細胞突起が伸長している細胞も観察された。
このことから、本願発明品の表層に析出した結晶がHAPと同等のものであること、セメント硬化後のpHが中性域で安定すること、またセメントが細胞に為害性を与えず良好な影響を示すことが明らかとなった。即ち、この結果は、本願発明品が生体親和性の非常に高いセメントであることを示している。pHが中性域に留まることで、歯髄及び歯周組織を刺激することなく、覆髄、断髄では、歯髄を保護する一層または数層のデンティンブリッジを形成すること、根管治療、穿孔部封鎖などにおいては、骨類似結晶を生成して封鎖性を高めることが分かった。
これに対し、比較例1、比較例2及び比較例5では、練和して硬化する特性を与えるために必須となる成分が少なすぎるため、練和後72時間以上経過しても硬化することはなかった。このような場合、根管充填後の封鎖性に問題が生じる。また、比較例8では、練和して硬化する特性を与えるために必須となる成分が多すぎて、練和直後に硬化するため、操作性に問題が生じる。
比較例3、比較例6、比較例7及び比較例9では、用いた粉末ガラス組成が生体内で骨類似結晶生成能を生じさせるにはふさわしくない組成であるため、操作性及び硬化性については満足するものの結晶生成能を有さない。比較例4は、粉末ガラス組成は適しているものの、その配合量が少ないために骨類似結晶生成能はやや乏しいものになった。このような場合、従来の根管充填用組成物と同様の封鎖性しか見込めない。骨類似結晶生成能が見られなかった例として、図3には比較例7におけるフィールドエミッション走査型電子顕微鏡の観察結果を示す。
走査顕微鏡観察の結果、擬似体液(SBF)に浸漬した試験片の表面には、網状の結晶構造の析出は観察されなかった。即ち、試験片の表面には、ハイドロキシアパタイト(HAP)は析出せず、従来の材料と同様に材料−歯質間の微小な間隙を生じることは避けられず、創傷治癒、再生誘導などの作用は期待できないことが分かった。
比較例10には、従来のMTA製材の代表としてProRootMTAの結果を示す。骨類似結晶生成能は示すものの良好な糸引き性を示さず、操作性に問題があることが改めて確認できた。
Figure 2013067599
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Claims (6)

  1. ペーストA剤とペーストB剤を混合して得られる歯科治療用組成物であって、ペーストA剤は、ユージノール、グアヤコール、高級脂肪酸、ポリアクリル酸、リン酸から選ばれる1種又は2種以上の成分を、ペーストA剤全量に対し5質量%以上含有し、ペーストB剤は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化亜鉛、リン酸カルシウム、アルミノシリケートガラスから選ばれる1種又は2種以上の成分を、ペーストB剤全量に対し5質量%以上含有し、かつ、ペーストA剤及びペーストB剤のいずれか一方又は両方に、酸化カルシウムと二酸化ケイ素を、質量比が6:4〜3:7の範囲で、ガラス粉末全量に対し50〜100質量%含有するガラス粉末を、各ペーストに対し70質量%以下、組成物全量に対し40質量%以上配合した、歯科治療用組成物。
  2. ガラス粉末として、さらにアルカリ金属酸化物を0〜40質量%、及びリン酸を0〜10質量%含有する、請求項1に記載の歯科治療用組成物。
  3. 歯科充填に使用する、請求項1又は2に記載の歯科治療用組成物。
  4. 歯内療法に使用する、請求項1又は2に記載の歯科治療用組成物。
  5. 歯内療法が、直接覆髄、間接覆髄、断髄、抜髄、感染根管治療、又は穿孔部封鎖である、請求項1、2、又は4に記載の歯科治療用組成物。
  6. 請求項1に記載のペーストA剤とペーストB剤を含む、歯科治療用組成物用のキット。
















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