JP2015216900A - 細胞培養容器 - Google Patents

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【課題】コンタミネーションの可能性を高めることなく、単純な処理で細胞培養容器中の細胞若しくは細胞構造体の懸濁液、又は培地を回収する手段を提供する。【解決手段】本発明は、底部と、該底部の上面においてその周縁に立設された側壁部と、該底部及び側壁部によって画定される収容部とを備え、該収容部の内部に、基材と、該基材の上面に配置された下限臨界溶解温度がTc1である温度応答性高分子層とを有する細胞培養支持体と、該細胞培養支持体の下方に配置された温度応答性体積変化部材と、を備える細胞培養容器であって、前記温度応答性体積変化部材は、Tc2未満の温度で体積膨張するものであり、前記温度応答性体積変化部材は、温度Tc2以上において前記細胞培養支持体の表面が前記底部の表面と略平行となるように配置されており、前記底部の表面に投影された前記温度応答性体積変化部材の重心位置は、前記底部の表面に投影された該底部の重心位置と異なる位置に配置されている、前記細胞培養容器に関する。【選択図】図1

Description

本発明は、細胞若しくは細胞構造体の懸濁液、又は培地を容易に回収できる細胞培養容器、及び該細胞培養容器を用いる細胞構造体の回収方法に関する。
幹細胞研究のような細胞生物学の研究分野、並びに再生医療分野及び臨床検査分野等において、細胞培養は必要不可欠な技術である。例えば、再生医療分野では、患者から採取した細胞を生体外で培養し、シート形状の細胞構造体(以下、「細胞シート」とも記載する)を作製した上で、該細胞シートを患者の生体内へ移植する技術が開発されている。
細胞シートのような細胞構造体は、通常は、シャーレ又はフラスコのような細胞培養容器の底面に細胞を播種し、次いで該底面上で該細胞を培養して細胞構造体を形成させることによって作製される。前記作製方法の場合、形成された細胞構造体は、細胞から分泌される接着分子を介して細胞培養容器の底面と強固に結合する。このため、形成された細胞構造体を回収するために、該細胞構造体を細胞培養容器の底面から剥離する必要がある。前記剥離処理としては、トリプシンのような酵素又は薬剤で細胞構造体を処理することによって接着分子を切断する方法が知られている。
特許文献1は、水に対する臨界溶解温度が0〜80℃の温度応答性ポリマーを与えるモノマーを基材上に塗布し、電子線照射を行って該モノマーを重合させることによって製造される細胞培養支持体を記載する。当該文献は、前記細胞培養支持体の表面で細胞を培養した後、前記温度応答性ポリマーの臨界溶解温度以下の温度条件で処理することによって、該細胞培養支持体の表面から細胞を剥離し得ることを記載する。特許文献1に記載の細胞培養支持体は、酵素又は薬剤で処理することなく、温度のような外部環境を変化させる処理によって、該細胞培養支持体の表面から細胞又は細胞構造体を剥離することができる。このため、多数の細胞培養容器を用いて細胞培養を行う場合であっても、効率的に細胞又は細胞構造体を剥離し得る。
細胞培養技術において、細胞の継代及び培地の交換は日常的に行われる処理である。前記処理は、細胞培養容器中の培地、又は細胞若しくは細胞構造体の懸濁液を該細胞培養容器から回収する工程を含む。このような工程は、通常は、細胞培養容器を傾斜させ、該細胞培養容器の一端に前記培地又は懸濁液を集積させた後、ピペット又はアスピレーター等の器具を用いて該培地又は懸濁液を吸引することによって実施される。多数の細胞培養容器を用いて細胞培養を行う場合、前記工程を実施するためには、細胞培養容器を1個ずつ傾斜させる必要がある。また、細胞培養容器を傾斜させる際に、該細胞培養容器中の培地、又は細胞若しくは細胞構造体の懸濁液を誤って流出させてしまう可能性がある。
特許文献2は、培地を貯留可能な容器本体と、該容器本体の底面と略同等の面積を有し、該容器本体内に取り出し可能に挿入される平面状の培養面を有する培養面部材とを備える培養容器を記載する。当該文献は、前記培養容器により、培地交換時における塵埃の発生を低減し、簡易に培地交換を行うことを可能とし、且つ培地交換の自動化を容易にすることができると記載する。
特開平5-192130号公報 特開2004-89135号公報
特許文献2に記載の技術においては、細胞培養容器中の取り出し可能な培養面部材を取り出すことによって培地を回収する。しかしながら、無菌的な細胞培養条件下でこのような作業を実施することは、極めて煩雑であるだけでなく、コンタミネーションが生じる可能性がある。
それ故、本発明は、コンタミネーションの可能性を高めることなく、単純な処理で細胞培養容器中の細胞若しくは細胞構造体の懸濁液、又は培地を回収する手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、細胞培養支持体を有する細胞培養容器において、該細胞培養支持体の下方の特定の位置に温度応答性体積変化部材を備えることにより、単純な温度変化の処理によって、該細胞培養支持体の表面を傾斜した状態にし得ることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 底部と、該底部の上面においてその周縁に立設された側壁部と、該底部及び側壁部によって画定される収容部とを備え、該収容部の内部に、基材と、該基材の上面に配置された下限臨界溶解温度がTc1である温度応答性高分子層とを有する細胞培養支持体と、該細胞培養支持体の下方に配置された温度応答性体積変化部材と、を備える細胞培養容器であって、
前記温度応答性体積変化部材は、Tc2未満の温度で体積膨張するものであり、
前記温度応答性体積変化部材は、温度Tc2以上において前記細胞培養支持体の表面が前記底部の表面と略平行となるように配置されており、
前記底部の表面に投影された前記温度応答性体積変化部材の重心位置は、前記底部の表面に投影された該底部の重心位置と異なる位置に配置されている、
前記細胞培養容器。
(2) 前記温度応答性体積変化部材が外装材に収容されている、前記(1)に記載の細胞培養容器。
(3) 前記温度応答性体積変化部材の下方に、前記底部の表面に対して傾斜した傾斜面を有する傾斜部材がさらに配置されており、
前記温度応答性体積変化部材は、その下面の略全体に亘って前記傾斜部材の傾斜面と密着しており、且つ前記温度応答性体積変化部材は、その上面の略全体に亘って前記細胞培養支持体の下面と密着している、前記(1)に記載の細胞培養容器。
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載の細胞培養容器を用いて細胞を培養して、前記細胞培養容器の細胞培養支持体の表面に細胞構造体を形成させる、細胞構造体形成工程;
前記細胞培養容器の温度応答性体積変化部材をTc2未満の温度に冷却することによって該温度応答性体積変化部材を体積膨張させて、前記細胞培養支持体の表面に、前記底部の表面に対して傾斜した傾斜面を形成させる、傾斜面形成工程;
前記細胞培養容器の温度応答性高分子層をTc1未満の温度に冷却することによって該温度応答性高分子層の表面特性を変化させて、前記細胞構造体を前記細胞培養支持体の表面から剥離させる、剥離工程;
前記傾斜面形成工程で形成された前記細胞培養支持体の傾斜面の底部側から、前記剥離工程で剥離された細胞構造体を回収する、回収工程;
を含む、細胞構造体の回収方法。
本発明により、コンタミネーションの可能性を高めることなく、単純な処理で細胞培養容器中の細胞若しくは細胞構造体の懸濁液、又は培地を回収する手段を提供することが可能となる。
図1は、本発明の細胞培養容器の一実施形態を示す断面図である。(a)(1-II)-(1-II’)断面図;(b)水平形態の(1-I)-(1-I’)断面図;(c)傾斜形態の(1-I)-(1-I’)断面図。 図2は、本発明の細胞培養容器の別の実施形態を示す断面図である。(a)(2-II)-(2-II’)断面図;(b)水平形態の(2-I)-(2-I’)断面図。 図3は、本発明の細胞培養容器の別の実施形態を示す断面図である。(a)(3-II)-(3-II’)断面図;(b)水平形態の(3-I)-(3-I’)断面図。 図4は、本発明の細胞培養容器の別の実施形態を示す断面図である。(a)水平形態の(4-II)-(4-II’)断面図;(b)水平形態の(4-I)-(4-I’)断面図。 図4は、本発明の細胞培養容器の別の実施形態を示す断面図である。(c)傾斜形態の(4-IV)-(4-IV’)断面図;(d)傾斜形態の(4-III)-(4-III’)断面図。 図5は、低温処理後のポリ(NIPAAm)ゲルを示す写真である。(a)低温処理開始1分後のポリ(NIPAAm)ゲル;(b)低温処理開始5分後のポリ(NIPAAm)ゲル;(c)低温処理開始3時間後のポリ(NIPAAm)ゲル。 図6は、傾斜形態の細胞培養ディッシュを模擬的に再現した写真である。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。
<1. 細胞培養容器>
本発明は、細胞培養容器に関する。本発明の細胞培養容器は、底部と、該底部の上面においてその周縁に立設された側壁部と、該底部及び側壁部によって画定される収容部とを備え、該収容部の内部に、基材と、該基材の上面に配置された温度応答性高分子層とを有する細胞培養支持体と、該細胞培養支持体の下方に配置された温度応答性体積変化部材と、を備えることが必要である。
本発明の細胞培養容器の好ましい一実施形態を図1に示す。図1(b)に示すように、本発明の細胞培養容器1は、底部101と、該底部101の上面においてその周縁に立設された側壁部102と、該底部101及び側壁部102によって画定される収容部とを備え、該収容部の内部に、基材111と、該基材111の上面に配置された温度応答性高分子層112とを有する細胞培養支持体110と、該細胞培養支持体110の下方に配置された温度応答性体積変化部材120と、を備える。本発明の細胞培養容器1は、底部101と、該底部101の上面においてその周縁に立設された側壁部102と、該底部101の下面においてその周縁に垂設された脚部103と、該側壁部102の上端側の外縁によって画定される上方に開放した開放口とを有する形状であることが好ましい。本明細書において、前記形状を「ディッシュ型」又は「プレート型」と記載する場合がある。本発明の細胞培養容器1がディッシュ型の形状の場合、その具体的な形状は特に限定されず、当該技術分野で通常使用される各種の形状を採用することができる。例えば、図1では、本発明の細胞培養容器1の形状は円形で示されているが、該細胞培養容器1の形状は、楕円形、方形又は多角形等の様々な形状であり得る。
或いは、本発明の細胞培養容器は、底部と、該底部の上面においてその周縁に立設された側壁部と、該底部及び側壁部によって画定される収容部とを有し、該側壁部の上端側の外縁に密着するように接合され、該底部に対向配置される天部と、該側壁部に穿設された通孔と、該通孔の外縁から容器の外側方向に延設された首部とを有する形状であってもよい。本明細書において、前記形状を「フラスコ型」と記載する場合がある。本発明の細胞培養容器がフラスコ型の形状の場合、該細胞培養容器は、所望により、底部の下面においてその周縁に垂設された脚部を有していてもよい。また、首部には、蓋を係止するための係止部が形成されていてもよい。この場合、蓋は、係止部を介して着脱可能に装着することができる。
本発明の細胞培養容器は、前記で例示したディッシュ型及びフラスコ型の形状に限定されない。本発明の細胞培養容器は、当該技術分野で通常使用される各種の形状を採用することができる。
本発明の細胞培養容器を形成する材料は、特に限定されない。当該技術分野で細胞培養容器に通常使用される材料を使用することができる。前記材料としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂及び塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、並びにガラス及び石英等の無機材料を挙げることができる。前記樹脂材料は、所望により、1種以上の樹脂材料を組み合わせて使用してもよい。また、前記樹脂材料は、所望により、表面の親水化処理等の後処理を施してもよい。本発明の細胞培養容器を形成する材料は、前記群より選択される少なくとも1種の樹脂材料であることが好ましく、ポリスチレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂であることがより好ましい。
前記基材を構成する材料は、特に限定されない。当該技術分野で細胞培養用の基材に通常使用される材料を使用することができる。前記材料としては、例えば、金属、ガラス、セラミック、樹脂及びエラストマー等、並びにこれらの複合材料を挙げることができる。前記樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン及びアクリル等を挙げることができる。また、前記樹脂材料は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸若しくはポリカプロラクタン、又はそれらの共重合体のような生分解性ポリマーであってもよい。本発明の細胞培養容器に含まれる基材を構成する材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン又はポリカーボネートであることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートは、低価格であり、且つ量産に適した材料である。このため、前記基材を構成する材料としてポリエチレンテレフタレートを用いる場合、本発明の細胞培養容器を低コストで量産することができる。ポリスチレンは、細胞毒性が低い材料である。このため、前記基材を構成する材料としてポリスチレンを用いる場合、本発明の細胞培養容器の細胞毒性を実質的に減少させることができる。
前記基材の形状は、特に限定されない。膜状(例えばフィルム状又は板状)のような、当該技術分野で細胞培養用の基材に通常使用される形状を適用することができる。前記基材が膜状の形状である場合、その製膜方法は特に限定されない。例えば、溶液流延法、溶融押出法又はカレンダー法等の、当該技術分野で通常使用される方法を使用することができる。或いは、あらかじめ製膜された市販の基材を使用してもよい。いずれの場合も、本発明の実施形態に包含される。
本発明において、「温度応答性高分子層」は、温度変化の刺激に応答して表面特性が変化する高分子(以下、「温度応答性高分子」とも記載する)を含む層を意味する。前記温度応答性高分子層は、細胞を培養する温度範囲では細胞接着性を示す状態であるが、所定の温度(例えば、細胞を培養する温度未満の温度範囲)への温度変化に応答して、細胞非接着性を示す状態に変化し得ることが好ましい。本発明において、「細胞接着性」及び「細胞非接着性」は、一の表面領域と他の表面領域とにおける細胞の接着度合いの相対的な強さを意味し、典型的には、「細胞接着性」は、細胞が接着しやすい表面特性を意味する。細胞接着性は、通常は、表面の化学的性質及び/又は物理的性質等に起因して、細胞の接着及び/又は伸展が起こりやすいか否かに基づき、決定される。細胞培養容器の細胞接着性を判断する指標としては、例えば、実際に該細胞培養容器で細胞を培養した際の細胞接着伸展率を用いることができる。本発明において、温度応答性高分子層が細胞接着性を示す状態の場合、該温度応答性高分子層の表面は、細胞接着伸展率が60%以上であることが好ましく、細胞接着伸展率が80%以上であることがより好ましい。温度応答性高分子層の細胞接着伸展率が高い場合、効率的に細胞を培養することができる。また、温度応答性高分子層が細胞非接着性を示す状態の場合、該温度応答性高分子層の表面は、細胞接着伸展率が60%未満であることが好ましく、40%未満であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、2%以下であることが特に好ましい。
なお、細胞接着性の指標となる細胞接着伸展率は、例えば、以下の方法で決定することができる。培養しようとする細胞を、4000〜30000 cells/cm2の範囲の初期播種密度で測定対象表面に播種した後、37℃、5%のCO2濃度の条件下で培養する。培養開始3時間後に、培地交換を行い、接着していない細胞を除去した後、細胞が接着している数箇所を観察する。細胞接着伸展率を、次の式:({(接着している細胞数)/(播種した細胞数)}×100(%))に基づき算出する。
前記温度応答性高分子における表面特性の変化は、以下のように説明することができる。但し、本発明の作用効果は、以下の説明に制限されるものではない。温度応答性高分子の温度を特定の温度未満に変化させることにより、該高分子の周囲の水分子に対する親和性が向上する。これにより、温度応答性高分子は、水分子を取り込んで膨張し得る。膨張した温度応答性高分子は、該高分子間の網目構造が密となるため、その表面に細胞が接着し難くなる。これに対し、温度応答性高分子の温度を特定の温度以上に変化させることにより、該高分子の周囲の水分子に対する親和性が低下する。これにより、温度応答性高分子は、取り込んでいる水分子を放出して収縮し得る。収縮した温度応答性高分子は、該高分子間の網目構造が粗となるため、その表面に細胞が接着し易くなる。本明細書において、温度応答性高分子における前記のような変化の閾値となる温度を、「下限臨界溶解温度(Tc)」と記載する。
本発明において、温度応答性高分子層に含まれる温度応答性高分子の下限臨界溶解温度を「Tc1」と記載する場合がある。前記温度応答性高分子層に含まれる温度応答性高分子のTc1は、細胞培養に通常適用される温度範囲内であることが好ましい。例えば、Tc1は、5〜40℃の範囲であることが好ましく、10〜37℃の範囲であることがより好ましく、20〜35℃の範囲であることがさらに好ましい。前記範囲のTc1を有する温度応答性高分子を用いる場合、本発明の細胞培養容器を用いて細胞を培養する際に、細胞の損傷を可能な限り少なくすることができる。
前記温度応答性高分子層に含まれる温度応答性高分子としては、アクリル系ポリマー及びメタクリル系ポリマーを挙げることができ、例えば、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)(Tc=32℃)、ポリ-N-n-プロピルアクリルアミド(Tc=21℃)、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド(Tc=32℃)、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド(Tc=約35℃)、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(Tc=約28℃)、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(Tc=約35℃)及びポリ-N,N-ジエチルアクリルアミド(Tc=32℃)等を挙げることができる。前記温度応答性高分子層に含まれる温度応答性高分子は、前記高分子を形成し得るモノマーの2種以上を共重合させることによって形成される共重合体であってもよい。前記温度応答性高分子層に含まれる温度応答性高分子は、PNIPAAm、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド又はポリ-N,N-ジエチルアクリルアミドであることが好ましく、PNIPAAmであることがより好ましい。前記温度応答性高分子は、前記で説明した好ましい範囲のTcを有する。それ故、前記温度応答性高分子を用いる場合、本発明の細胞培養容器で細胞を培養する際に、細胞の損傷を可能な限り少なくすることができる。
前記温度応答性高分子を形成するためのモノマーとしては、放射線照射によって重合し得るモノマーを用いることが好ましい。前記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N-(若しくはN,N-ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体及びビニルエーテル誘導体等を挙げることができる。前記モノマーを単独で使用して重合する場合、得られる温度応答性高分子はホモポリマーの形態となり、前記モノマーの2種以上を使用して共重合する場合、得られる温度応答性高分子は共重合体(コポリマー又はヘテロポリマー)の形態となる。いずれの形態の温度応答性高分子であっても、本発明の細胞培養容器に使用することができる。
前記温度応答性高分子は、前記で説明した1種以上のモノマーと、前記以外のさらなるモノマーとを共重合することによって形成される共重合体であってもよい。或いは、前記温度応答性高分子は、前記で説明した1種以上のモノマーを重合又は共重合することによって形成される重合体又は共重合体と、さらなる重合体又は共重合体とをグラフト重合又はブロック重合することによって形成される、グラフト共重合体又はブロック共重合体であってもよい。或いは、前記温度応答性高分子は、前記で説明した1種以上の重合体又は共重合体の混合物の形態であってもよい。これらの形態の場合、使用される材料を適宜選択することにより、Tcを所望の範囲に調整することができる。
本発明の細胞培養容器において、基材と、該基材の上面に配置された温度応答性高分子層とを有する細胞培養支持体の表面は、通常は、細胞を培養するための培養面又は足場として使用される。すなわち、本発明の細胞培養容器において、Tc1以上の温度で細胞を培養することにより、該細胞から分泌された細胞外マトリクスを介して、細胞接着性である前記細胞培養支持体の表面と細胞とが接着されて、該細胞培養支持体の表面に、複数の細胞からなる細胞構造体が形成される。ここで、前記細胞培養支持体をTc1未満の温度に冷却すると、該細胞培養支持体に含まれる温度応答性高分子層の表面が細胞接着性から細胞非接着性に変化する。これにより、形成された細胞構造体は、前記細胞培養支持体の表面から剥離する。それ故、前記の特徴を備える基材及び温度応答性高分子層を有することにより、前記細胞培養支持体は、所定の条件下で細胞を培養するための培養面として使用することができる。
本発明の細胞培養容器において、細胞培養支持体は、その側面の略全体に亘って該細胞培養容器の側壁部の内面と密着するように配置されていてもよく、その側面の一部又は全部が該細胞培養容器の側壁部の内面から離間するように配置されていてもよい。すなわち、本発明の細胞培養容器において、細胞培養支持体は、該細胞培養容器の収容部の略全面を覆うように配置されていてもよく、該収容部の一部を覆うように配置されていてもよい。いずれの場合も、本発明の実施形態に包含される。
本発明において、「温度応答性体積変化部材」は、温度変化の刺激に応答して体積が変化する部材を意味する。前記温度応答性体積変化部材は、Tc2未満の温度で体積膨張するものであることが必要である。すなわち、前記温度応答性体積変化部材は、Tc2未満の温度で体積膨張する温度応答性体積変化材料を含む。例えば、Tc2は、5〜40℃の範囲であることが好ましく、10〜37℃の範囲であることがより好ましく、20〜35℃の範囲であることがさらに好ましい。Tc2は、Tc1以上の温度であることが好ましい。この場合、本発明の細胞培養容器をTc1以上且つTc2未満の温度とすることにより、本発明の細胞培養容器の細胞培養支持体の表面から細胞又は細胞構造体を剥離することなく、該細胞培養支持体の表面に、前記細胞培養容器の底部の表面に対して傾斜した傾斜面を形成させることができる。これにより、細胞又は細胞構造体を回収することなく、培地のみを回収することができる。Tc2は、Tc1と同一の温度であることがとりわけ好ましい。この場合、前記で説明した温度応答性高分子層における温度変化の刺激に応答する表面特性の変化と、該温度応答性体積変化部材における温度変化の刺激に応答する体積の変化とを、同調させることができる。これにより、本発明の細胞培養容器の細胞培養支持体の表面から細胞又は細胞構造体を剥離させるのと同調して、該細胞培養支持体の表面に、前記細胞培養容器の底部の表面に対して傾斜した傾斜面を形成させることができる。それ故、細胞培養容器中の培地、又は細胞若しくは細胞構造体の懸濁液を容易に回収することができる。
前記温度応答性体積変化部材に含まれる温度応答性体積変化材料は、前記で例示した温度応答性高分子の群より選択されることが好ましい。前記温度応答性体積変化材料は、PNIPAAm、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド又はポリ-N,N-ジエチルアクリルアミドであることが好ましく、PNIPAAmであることがより好ましい。前記温度応答性高分子は、温度変化の刺激に応答して所定の範囲で体積が膨張する材料である。このため、前記温度応答性体積変化部材に含まれる温度応答性体積変化材料としてこれらの温度応答性高分子を用いることができる。前記温度応答性体積変化部材に含まれる温度応答性体積変化材料は、前記温度応答性高分子層に含まれる温度応答性高分子と同一であることがとりわけ好ましい。この場合、前記温度応答性高分子層における温度変化の刺激に応答する表面特性の変化と、前記温度応答性体積変化部材における温度変化の刺激に応答する体積の変化とを、略完全に同調させることができる。
本発明の細胞培養容器において、温度応答性体積変化部材は、温度Tc2以上において細胞培養支持体の表面が前記底部の表面と略平行となるように配置されていることが必要である。本発明の細胞培養容器が、底部の表面が水平面と略平行となるように配置されており、且つ細胞培養支持体の表面が該底部の表面と略平行となるように温度応答性体積変化部材が配置されている場合、細胞培養支持体の表面は、水平面と略平行となる。本発明において、前記配置における本発明の細胞培養容器の形態を、「水平形態」と記載する場合がある。本発明の細胞培養容器において、細胞培養支持体の表面は、細胞を培養するための培養面として使用される。それ故、前記条件を満たす場合、底部の表面が水平面と略平行となるように配置された本発明の細胞培養容器は、Tc2以上の温度において、培養面として使用される細胞培養支持体の表面を略水平に維持することができる。
本発明の細胞培養容器において、前記底部の表面に投影された前記温度応答性体積変化部材の重心位置は、前記底部の表面に投影された該底部の重心位置と異なる位置に配置されていることが必要である。例えば、図1に示すように、本発明の細胞培養容器1において、底部101の表面に投影された温度応答性体積変化部材120の重心位置g2は、細胞培養容器1の底部101の表面に投影された該底部101の重心位置g1と異なる位置に配置されている。この場合、g1とg2との距離dgは、0より大きく且つ細胞培養容器1の底部101の表面と略平行な方向の該底部101の最大長さの1/2未満であることが好ましく、0より大きく且つ細胞培養容器1の底部101の表面と略平行な方向の該底部101の最大長さの1/3未満であることがより好ましい。例えば、本発明の細胞培養容器1がディッシュ型の形状の場合、細胞培養容器1の底部101の表面と略平行な方向の該底部101の最大長さは、該ディッシュ底部の直径に相当する。本発明の細胞培養容器1がプレート型又はフラスコ型の形状の場合、細胞培養容器1の底部101の表面と略平行な方向の該底部101の最大長さは、該プレート又はフラスコ底部の対角線に相当する。前記条件を満たす場合、前記温度応答性体積変化部材をTc2未満の温度に冷却することによって該温度応答性体積変化部材を体積膨張させて、前記細胞培養支持体の表面に、前記底部の表面に対して傾斜した傾斜面を形成させることができる。このような傾斜面が形成されることにより、培地、又は細胞若しくは細胞構造体の懸濁液を、本発明の細胞培養容器から容易に回収することができる。
本発明の細胞培養容器において、温度応答性体積変化部材をTc2未満の温度に冷却することによって、該温度応答性体積変化部材が体積膨張し得る。前記体積膨張により、本発明の細胞培養容器の細胞培養支持体の表面は、前記底部の表面と略平行の状態から、該底部の表面に対して傾斜した状態に変化する。底部の表面が水平面と略平行となるように配置された本発明の細胞培養容器において、温度応答性体積変化部材をTc2未満の温度に冷却することによって、前記細胞培養支持体の表面に、該底部の表面に対して傾斜した傾斜面が形成された場合、細胞培養支持体の表面は、水平面に対して傾斜した状態となる。本発明において、前記配置における本発明の細胞培養容器の形態を、「傾斜形態」と記載する場合がある。傾斜形態の本発明の細胞培養容器において、前記細胞培養支持体の表面の傾斜面は、水平面と略平行な前記底部の表面に対して角度θ1の傾斜角をなす。傾斜角θ1は、5°以上であることが好ましく、5〜45°の範囲であることがより好ましく、10〜30°の範囲であることがさらに好ましい。θ1が前記範囲の場合、傾斜形態の本発明の細胞培養容器において、培地、又は細胞若しくは細胞構造体の懸濁液を、該細胞培養容器から容易に回収することができる。
以下、図1〜4を参照しながら、本発明の細胞培養容器の構造をさらに説明する。本発明の細胞培養容器の別の実施形態を図2に示す。図2(a)に示すように、本発明の細胞培養容器2は、複数の部材からなる温度応答性体積変化部材220を備えてもよい。この場合、図2(b)に示すように、本発明の細胞培養容器2は、底部201と、該底部201の上面においてその周縁に立設された側壁部202と、該底部201及び側壁部202によって画定される収容部とを備え、該収容部の内部に、基材211と、該基材211の上面に配置された温度応答性高分子層212とを有する細胞培養支持体210と、該細胞培養支持体210の下方に配置された複数の部材からなる温度応答性体積変化部材220と、を備える。温度応答性体積変化部材220が複数の部材からなる場合、前記底部201の表面に投影された前記温度応答性体積変化部材220の重心位置g2は、該複数の部材の集合体の重心位置を意味する。
本発明の細胞培養容器の別の実施形態を図3に示す。図3(a)に示すように、本発明の細胞培養容器3は、温度応答性体積変化部材320が、外装材321に収容されている形態であってもよい。外装材321は、温度応答性体積変化部材320の周縁に密着するように立設された側壁部と、該側壁部の上端側の外縁によって画定される上方に開放した上方開放口と、該側壁部の下端側の外縁によって画定される下方に開放した下方開放口と、を有する形状であることが好ましい。この場合、図3(b)に示すように、本発明の細胞培養容器3は、底部301と、該底部301の上面においてその周縁に立設された側壁部302と、該底部301及び側壁部302によって画定される収容部とを備え、該収容部の内部に、基材311と、該基材311の上面に配置された温度応答性高分子層312とを有する細胞培養支持体310と、該細胞培養支持体310の下方に配置された温度応答性体積変化部材320と、該温度応答性体積変化部材320を収容する外装材321と、を備える。前記外装材321は、所望により、上方開放口を封止する外装材天部又は下方開放口を封止する外装材底部を有していてもよい。温度応答性体積変化部材320が、外装材321に収容されている形態の場合、該温度応答性体積変化部材320をTc2未満の温度に冷却することによって生じる体積膨張が、該温度応答性体積変化部材320の上方及び下方に制限される。また、前記外装材321が外装材天部又は外装材底部を有する場合、温度応答性体積変化部材320をTc2未満の温度に冷却することによって生じる体積膨張が、該温度応答性体積変化部材320の上方又は下方のみにさらに制限される。それ故、温度応答性体積変化部材320の体積膨張によって、細胞培養支持体310の表面の傾斜角θ1をより大きくすることができる。
本発明の細胞培養容器の別の実施形態を図4に示す。図4(b)に示すように、本発明の細胞培養容器4は、底部401と、該底部401の上面においてその周縁に立設された側壁部402と、該底部401及び側壁部402によって画定される収容部とを備え、該収容部の内部に、基材411と、該基材411の上面に配置された温度応答性高分子層412とを有する細胞培養支持体410と、該細胞培養支持体410の下方に配置された温度応答性体積変化部材420と、を備える。本発明の細胞培養容器4において、前記温度応答性体積変化部材420の下方には、前記底部401の表面に対して傾斜した傾斜面を有する傾斜部材430がさらに配置されている。本発明の細胞培養容器4において、傾斜部材430は、通常は、細胞培養支持体410及び温度応答性体積変化部材420とともに、底部401及び側壁部402によって画定される収容部の内部に配置される。この場合において、前記傾斜部材430は、その下面の略全体に亘って前記底部401の上面と密着していることが好ましい。また、前記傾斜部材430は、その側面の略全体に亘って前記側壁部402の内面と密着していることが好ましい。前記温度応答性体積変化部材420は、その下面の略全体に亘って前記傾斜部材430の傾斜面と密着していることが好ましい。前記温度応答性体積変化部材420は、その上面の略全体に亘って前記細胞培養支持体410の下面と密着していることが好ましい。また、前記温度応答性体積変化部材420は、その側面の略全体に亘って前記側壁部402の内面と密着していることが好ましい。底部401の表面が水平面と略平行となるように配置された本発明の細胞培養容器4において、前記傾斜部材430の傾斜面は、水平面と略平行な前記底部401の表面に対して角度θ4の傾斜角をなす。傾斜角θ4は、5°以上であることが好ましく、5〜45°の範囲であることがより好ましく、10〜30°の範囲であることがさらに好ましい。傾斜角θ4が前記範囲の場合、図4(c)に示すように、前記底部401の表面に投影された前記温度応答性体積変化部材420の重心位置g2は、前記底部401の表面に投影された該底部401の重心位置g1と異なる位置に配置される。前記条件を満たす場合、前記温度応答性体積変化部材をTc2未満の温度に冷却することによって該温度応答性体積変化部材420を体積膨張させて、前記細胞培養支持体410の表面に、水平面と略平行な前記底部401の表面に対して傾斜した傾斜面を形成させることができる。それ故、細胞培養容器中の培地、又は細胞若しくは細胞構造体の懸濁液を容易に回収することができる。
図4に示す本発明の細胞培養容器4において、傾斜部材430は、該細胞培養容器4と同一の材料からなることが好ましい。前記傾斜部材430は、前記細胞培養容器4と一体的に成型されていてもよく、前記細胞培養容器4とは別に成型されていてもよい。前記成型工程は、射出成型等の当該技術分野で通常使用される手段を用いることができる。本発明の細胞培養容器4において、前記傾斜部材430が前記細胞培養容器4とは別に成型される場合、本発明の細胞培養容器4は、ディッシュ型、プレート型又はフラスコ型のような当該技術分野で通常使用される細胞培養容器の底部401及び側壁部402によって画定される収容部内に、傾斜部材430を接合し、該傾斜部材430の傾斜面全体に亘って密着し、上面が該底部401の表面と略平行である温度応答性体積変化部材420を形成させ、さらに、該温度応答性体積変化部材420の上面に、基材411と、該基材411の上面に配置された温度応答性高分子層412とを順次配置することにより、製造することができる。
<2. 細胞構造体の回収方法>
本発明はまた、細胞構造体の回収方法に関する。
[2-1. 細胞構造体形成工程]
本発明の細胞構造体の回収方法は、本発明の細胞培養容器を用いて細胞を培養して、前記細胞培養容器の細胞培養支持体の表面に細胞構造体を形成させる、細胞構造体形成工程を含むことが必要である。本工程において使用される本発明の細胞培養容器は、前記で説明したいずれの実施形態であってもよい。
本工程において培養に使用される細胞は、特に限定されない。生体に存在するあらゆる組織若しくは器官自体、又はそれに由来する各種の細胞を用いることができる。本工程に使用される細胞は、接着性の組織又は細胞であることが好ましい。例えば、生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞若しくは内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、軟骨細胞、神経系を構成するニューロン若しくはグリア細胞、線維芽細胞、生体の代謝に関係する肝実質細胞、非肝実質細胞、又は脂肪細胞等を使用することができる。或いは、本工程に使用される細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)、多分化能を有する間葉系幹細胞等の多能性幹細胞、単分化能を有する血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞、又は人工多能性幹細胞(iPS細胞)等であってもよく、分化が終了した細胞であってもよい。本工程に使用される細胞は、前記組織又は器官から直接採取した初代細胞系でもよく、該初代細胞を何代か継代させた継代細胞系であってもよい。前記細胞は、1種類のみを使用してもよく、2種類以上を同時に使用してもよい。細胞が由来する動物も特に限定されず、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ又はヒツジ等の動物に由来する細胞を使用することができる。
本工程において、細胞を培養する条件は、使用される細胞の種類に基づき、当該技術分野で通常使用される培養条件を適宜適用することができる。
本工程により、前記細胞培養支持体の表面に細胞構造体が形成される。本発明において、「細胞構造体」は、細胞同士が互いに接着することによって形成される複数の細胞からなる細胞の集合体を意味する。本工程において形成される細胞構造体は、特定の組織又は器官に分化した形態であってもよく、未分化の形態であってもよい。本工程において形成される細胞構造体としては、例えば、シート形態の細胞シートを挙げることができる。
[2-2. 傾斜面形成工程]
本発明の細胞構造体の回収方法は、前記細胞構造体形成工程で使用された本発明の細胞培養容器の細胞培養支持体の表面に、前記底部の表面に対して傾斜した傾斜面を形成させる、傾斜面形成工程を含むことが必要である。
本工程において、前記細胞構造体形成工程で使用された本発明の細胞培養容器の温度応答性体積変化部材をTc2未満の温度に冷却することによって、該温度応答性体積変化部材を体積膨張させる。前記体積膨張により、本発明の細胞培養容器の細胞培養支持体の表面は、前記底部の表面と略平行の状態から、該底部の表面に対して傾斜した状態に変化する。これにより、底部の表面が水平面と略平行となるように配置された本発明の細胞培養容器を、水平形態から傾斜形態へと変化させることができる。前記温度Tc2及び傾斜面の傾斜角θ1は、前記で説明した範囲であることが好ましい。
[2-3. 剥離工程]
本発明の細胞構造体の回収方法は、前記細胞構造体形成工程で形成された細胞構造体を、本発明の細胞培養容器の細胞培養支持体の表面から剥離させる、剥離工程を含むことが必要である。
本工程において、前記細胞構造体形成工程で使用された本発明の細胞培養容器の温度応答性高分子層をTc1未満の温度に冷却することによって、該温度応答性高分子層の表面特性を変化させる。前記表面特性の変化は、細胞接着性から細胞非接着性への変化であることが好ましい。これにより、前記細胞構造体形成工程で形成された細胞構造体を、前記細胞培養支持体の表面から剥離させることができる。前記温度Tc1は、前記で説明した範囲であることが好ましい。
本発明の細胞構造体の回収方法において、傾斜面形成工程及び剥離工程を実施する順序は特に限定されない。例えば、前記細胞構造体形成工程に続いて傾斜面形成工程を実施してもよく、前記細胞構造体形成工程に続いて剥離工程を実施してもよい。すでに説明したように、本発明の細胞培養容器において、Tc2は、Tc1以上の温度であることが好ましい。この場合、本発明の細胞構造体の回収方法は、前記細胞構造体形成工程に続いて傾斜面形成工程を実施することが好ましい。そして、前記傾斜面形成工程において、前記細胞構造体形成工程で使用された本発明の細胞培養容器の温度応答性体積変化部材をTc1以上且つTc2未満の温度とすることが好ましい。このような実施形態の場合、前記傾斜面形成工程において、本発明の細胞培養容器の細胞培養支持体の表面から細胞又は細胞構造体を剥離することなく、該細胞培養支持体の表面に、前記底部の表面に対して傾斜した傾斜面を形成させることができる。これにより、細胞又は細胞構造体を剥離することなく、培地のみを回収することができる。その後、前記の手順で剥離工程を実施することにより、前記細胞構造体形成工程で形成された細胞構造体を、前記細胞培養支持体の表面から剥離させることができる。また、本発明の細胞培養容器において、Tc2は、Tc1と同一の温度であることがとりわけ好ましい。この場合、剥離工程において、前記細胞構造体形成工程で使用された本発明の細胞培養容器の温度応答性高分子層をTc1未満の温度に冷却することにより、前記細胞培養容器の温度応答性体積変化部材は、実質的に同時にTc2未満の温度に冷却されることとなる。それ故、前記細胞構造体形成工程に続いて剥離工程を実施する場合、傾斜面形成工程を実質的に同時に実施することができる。
[2-4. 回収工程]
本発明の細胞構造体の回収方法は、前記傾斜面形成工程で形成された前記細胞培養支持体の傾斜面の底部側から、前記剥離工程で剥離された細胞構造体を回収する、回収工程を含むことが必要である。
本工程において、細胞構造体を回収する手段としては、アスピレーター又はピペット等の当該技術分野で通常使用される手段を適用することができる。
前記で説明した傾斜面形成工程及び剥離工程を実施することにより、本発明の細胞培養容器の細胞培養支持体の表面に形成された細胞構造体は、前記細胞培養支持体の表面から剥離して、前記細胞培養支持体の傾斜面の底部側に集積する。このため、細胞培養容器を1個ずつ傾斜させることなく、前記細胞培養支持体の傾斜面の底部側に集積した細胞構造体を容易に回収することができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[I. 温度応答性体積変化部材の作製]
50 mlサンプル管瓶に、3.153 gのN‐イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)、0.046 gの開始剤2,2’‐アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、及び0.022 gの架橋剤N,N’-メチレンビスアクリルアミドを入れて混合した。前記混合物に、10 mlのメタノール及び10 mlの純水を加えて溶解させた。得られた溶液を、ゲル化前のNIPAAm溶液と記載する。
50 mlサンプル管瓶に入れたゲル化前のNIPAAm溶液に、アルゴンガスを30分間バブリングして溶存酸素を除去した。その後、サンプル管瓶に蓋をして、60℃で24時間静置することにより、NIPAAmのゲル化を完了させた。サンプル管瓶からゲルを取り出し、純水で3日間透析することにより、ポリ(NIPAAm)ゲルを得た。
[II-1. 温度変化による温度応答性体積変化部材の体積変化]
水を入れた容器内に、所定量のポリ(NIPAAm)ゲル(5.5×4.0 cm)を静置した。この容器を、50℃に温めた乾熱滅菌装置内に1時間静置することにより、ポリ(NIPAAm)ゲルの体積を収縮させた(4.5×3.3 cm)。次に、体積収縮したポリ(NIPAAm)ゲルを取り出し、水を入れた別の容器内に移動させた。ポリ(NIPAAm)ゲルの隣に、細胞培養ディッシュ及びサンプル瓶蓋を重ねたもの(高さ3.5 cm)を静置した。ポリ(NIPAAm)ゲル及びサンプル瓶蓋の上面にカバーガラスを静置した。カバーガラスの上面は、水平面に対して約-3°の傾斜角を有していた。
前記状態の容器を室温に静置して、低温処理後のポリ(NIPAAm)ゲルの体積変化を観察した。低温処理後のポリ(NIPAAm)ゲルを図5に示す。(a)は、低温処理開始1分後、(b)は、低温処理開始5分後、(c)は、低温処理開始3時間後のポリ(NIPAAm)ゲルを、それぞれ示す。
図5に示すように、ポリ(NIPAAm)ゲルは、低温環境下で冷却することによって徐々に体積膨張した。低温処理開始5分後には、ポリ(NIPAAm)ゲルの上面がサンプル瓶蓋の上面と略同じ高さとなるまで体積膨張した。このとき、カバーガラスの上面は、水平面と略平行(すなわち、傾斜角が約2°)となった(図5(b))。低温処理開始3時間後には、ポリ(NIPAAm)ゲルの上面がサンプル瓶蓋の上面を超える高さとなるまで体積膨張した(図5(c))。
[II-2. 細胞構造体の回収]
細胞培養ディッシュ(直径3.5 cm、UpCell、セルシード社)に、HH細胞(P22)を1×105cells/dishの密度で播種し、コンフルエントとなるまで培養した。培養開始から6日目に、細胞培養ディッシュを約5°傾けて、細胞培養ディッシュ底部の表面に、約5°の傾斜角を有する傾斜面を形成させた(図6(a))。前記傾斜面が形成された状態のまま、細胞培養ディッシュを23℃で低温処理した。低温処理開始約20分後に、細胞培養ディッシュ底部の表面から細胞シートが剥離し始めた。剥離した細胞シートは、前記傾斜面の底部側に集積した(図6(b))。
[II-3. 細胞培養容器の作製]
図4に示すように、ポリスチレン製細胞培養ディッシュの底部401及び側壁部402によって画定される収容部内に、該底部401の表面に対して角度θ4の傾斜角をなす傾斜面を有する傾斜部材430を射出成型で作製する。前記Iの手順で調製したゲル化前のNIPAAm溶液を、前記細胞培養ディッシュ4に流し込む。所定の温度でNIPAAmのゲル化を完了させ、傾斜部材430の傾斜面全体に亘って密着し、上面が該底部401の表面と略平行である温度応答性体積変化部材420を形成させる。前記底部401の表面に投影された温度応答性体積変化部材420の重心位置は、底部401の表面に投影された該底部401の重心位置と異なる位置に配置されている。前記温度応答性体積変化部材420の上面に、基材411と、該基材411の上面に配置された温度応答性高分子層412とを順次配置することにより、細胞培養ディッシュ4を作製することができる。
1, 2, 3, 4…本発明の細胞培養容器
101, 201, 301, 401…底部
102, 202, 302, 402…側壁部
103, 203, 303, 403…脚部
110, 210, 310, 410…細胞培養支持体
111, 211, 311, 411…基材
112, 212, 312, 412…温度応答性高分子層
120, 220, 320, 420…温度応答性体積変化部材
321…外装材
430…傾斜部材
g1…細胞培養容器の底部の表面に投影された該底部の重心位置
g2…細胞培養容器の底部の表面に投影された温度応答性体積変化部材の重心位置
dg…g1とg2との距離
θ1…細胞培養支持体の表面の傾斜面の、細胞培養容器の底部の表面に対する傾斜角
θ2…傾斜部材の傾斜面の、細胞培養容器の底部の表面に対する傾斜角

Claims (4)

  1. 底部と、該底部の上面においてその周縁に立設された側壁部と、該底部及び側壁部によって画定される収容部とを備え、該収容部の内部に、基材と、該基材の上面に配置された下限臨界溶解温度がTc1である温度応答性高分子層とを有する細胞培養支持体と、該細胞培養支持体の下方に配置された温度応答性体積変化部材と、を備える細胞培養容器であって、
    前記温度応答性体積変化部材は、Tc2未満の温度で体積膨張するものであり、
    前記温度応答性体積変化部材は、温度Tc2以上において前記細胞培養支持体の表面が前記底部の表面と略平行となるように配置されており、
    前記底部の表面に投影された前記温度応答性体積変化部材の重心位置は、前記底部の表面に投影された該底部の重心位置と異なる位置に配置されている、
    前記細胞培養容器。
  2. 前記温度応答性体積変化部材が外装材に収容されている、請求項1に記載の細胞培養容器。
  3. 前記温度応答性体積変化部材の下方に、前記底部の表面に対して傾斜した傾斜面を有する傾斜部材がさらに配置されており、
    前記温度応答性体積変化部材は、その下面の略全体に亘って前記傾斜部材の傾斜面と密着しており、且つ前記温度応答性体積変化部材は、その上面の略全体に亘って前記細胞培養支持体の下面と密着している、請求項1に記載の細胞培養容器。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養容器を用いて細胞を培養して、前記細胞培養容器の細胞培養支持体の表面に細胞構造体を形成させる、細胞構造体形成工程;
    前記細胞培養容器の温度応答性体積変化部材をTc2未満の温度に冷却することによって該温度応答性体積変化部材を体積膨張させて、前記細胞培養支持体の表面に、前記底部の表面に対して傾斜した傾斜面を形成させる、傾斜面形成工程;
    前記細胞培養容器の温度応答性高分子層をTc1未満の温度に冷却することによって該温度応答性高分子層の表面特性を変化させて、前記細胞構造体を前記細胞培養支持体の表面から剥離させる、剥離工程;
    前記傾斜面形成工程で形成された前記細胞培養支持体の傾斜面の底部側から、前記剥離工程で剥離された細胞構造体を回収する、回収工程;
    を含む、細胞構造体の回収方法。
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