JP2015186913A - 印刷装置、印刷システム、印刷物の製造方法およびpH検出装置 - Google Patents

印刷装置、印刷システム、印刷物の製造方法およびpH検出装置 Download PDF

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Abstract

【課題】高品質な印刷物を製造することを課題とする。
【解決手段】印刷装置(システム)は、酸性化手段によって酸性化処理が行われた被処理物の表面にpH指示薬を付与する付与手段と、前記被処理物表面に付与された前記pH指示薬の色情報を検出する色情報検出手段と、前記色情報から前記被処理物表面のpH値を特定するpH特定手段と、前記酸性化処理が行われた面にインクジェット記録を行う記録手段と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図14

Description

本発明は、印刷装置、印刷システム、印刷物の製造方法およびpH検出装置に関する。
従来のインクジェット記録装置では、ヘッドが紙やフィルムに代表される記録媒体の幅方向に往復するシャトル方式が中心であるため、高速印刷によるスループットの向上が困難であった。そこで近年では、高速印刷に対応するために、記録媒体の幅全体を網羅するように複数のヘッドを並べて、一度に記録する1パス方式が提案されている。
しかしながら、1パス方式は高速化には有利ではあるが、隣接ドットを打滴する時間的間隔が短く、先に打滴されたインクが記録媒体に浸透する前に隣接ドットが打滴されるため、隣接ドットの合一(以下、打滴干渉と呼ぶ)が起こりやすく、画質が低下しやすいという問題が存在した。
そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、高品質な印刷物を製造するために被処理物の表面状態を検出することが可能な印刷装置、印刷システム、印刷物の製造方法およびpH検出装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明にかかる印刷装置は、酸性化手段によって酸性化処理が行われた被処理物の表面にpH指示薬を付与する付与手段と、前記被処理物表面に付与された前記pH指示薬の色情報を検出する色情報検出手段と、前記色情報から前記被処理物表面のpH値を特定するpH特定手段と、前記酸性化処理が行われた面にインクジェット記録を行う記録手段と、を備えることを特徴とする。
また、本発明にかかる印刷システムは、被処理物に酸性化処理を行う酸性化装置と、前記酸性化装置によって酸性化処理が行われた被処理物の表面にpH指示薬を付与する付与装置と、前記被処理物における前記酸性化処理が行われた面にインクジェット記録を行う記録装置と、を備える印刷システムであって、前記被処理物表面に付与された前記pH指示薬の色情報を検出する色情報検出手段と、前記色情報から前記被処理物表面のpH値を特定するpH特定手段とを備えることを特徴とする。
また、本発明にかかる印刷物の製造方法は、被処理物にインクジェット記録方式で画像が形成された印刷物を製造するための製造方法であって、前記被処理物表面を酸性化し、前記酸性化された被処理物表面にpH指示薬を付与し、前記被処理物表面に付与された前記pH指示薬の色情報を検出し、前記検出したpH指示薬の色情報から前記被処理物表面のpH値を特定し、前記特定されたpH値に基づいて前記被処理物表面を酸性化する際のエネルギーを決定し、前記決定されたエネルギーを用いて被処理物表面を酸性化し、前記決定されたエネルギーを用いて酸性化された被処理物に対してインクジェット記録方式にて画像を形成することを含むことを特徴とする。
また、本発明にかかるpH検出装置は、被処理物における酸性化処理が行われた表面にインクジェットヘッドを用いてpH指示薬を付与する付与手段と、前記被処理物表面に付与された前記pH指示薬の色情報を検出する色情報検出手段と、前記色情報から前記被処理物表面のpH値を特定するpH特定手段と、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、高品質な印刷物を製造することを可能にする印刷装置、印刷システム、印刷物の製造方法およびpH検出装置を提供することが可能となる。
図1は、実施形態1で採用されるプラズマ処理を実施するためのプラズマ処理装置の一例を示す概略図である。 図2は、実施形態1におけるインクのpH値とインクの粘度との関係の一例を示す図である。 図3は、実施形態1にかかるプラズマ処理を施していない被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図である。 図4は、図3に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。 図5は、実施形態1にかかるプラズマ処理を施した被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図である。 図6は、図5に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。 図7は、実施形態1にかかるプラズマエネルギーと被処理物表面の濡れ性、ビーディング、pH値および浸透性との関係を示すグラフである。 図8は、実施形態1にかかるプラズマエネルギーとドットの真円度との関係を示すグラフである。 図9は、実施形態1にかかるプラズマエネルギー量と実際に形成されたドット形状との関係を示す図である。 図10は、実施形態1にかかるプラズマ処理を行わなかった場合のドットの顔料濃度を示すグラフである。 図11は、実施形態1にかかるプラズマ処理を行った場合のドットの顔料濃度を示すグラフである。 図12は、実施形態1にかかるプラズマエネルギー量とpH値との関係を示すグラフである。 図13は、実施形態1にかかる印刷装置(システム)の概略構成例を示す模式図である。 図14は、実施形態1にかかる印刷装置(システム)における酸性化処理手段としてのプラズマ処理装置およびインクジェット記録装置周辺の概略構成例を示す図である。 図15は、実施形態1においてpH指示薬としてブロモクレゾールパープル(BCP)溶液を用いた場合の色彩計による測定結果の一例をa平面に示したグラフである。 図16は、図15に示す色彩計の測定結果に基づくb測定値とpH値との関係を示すグラフである。 図17は、実施形態1にかかる酸性化処理を含む印刷処理の一例を示すフローチャートである。 図18は、実施形態2にかかる酸性化処理のプラズマエネルギー量を段階分けしたパターンの一例を示す図である。 図19は、実施形態2にかかる酸性化処理を含む印刷処理の一例を示すフローチャートである。
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な実施形態であるので、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明によって不当に限定されるものではなく、また、本実施の形態で説明される構成の全てが本発明の必須の構成要件ではない。
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1にかかる印刷装置、印刷システム、印刷物の製造方法およびpH検出装置について、図面を用いて詳細に説明する。実施形態1は、被処理物表面を改質して高品質な印刷物を製造可能にするために、以下の特徴を有する。
すなわち、実施形態1では、被処理物(記録媒体または印刷メディアともいう)にインクが着弾した直後にインク顔料の分散を防止しつつ顔料を凝集させるために、被処理物表面を酸性化させる。酸性化する手段としては、誘電バリア放電型の沿面ストリーマ放電による大気中プラズマ処理を例示するが、必ずしもこれに限られるものではない。
また、以下の実施形態では、被処理物表面の酸性度(pH値)が目標の範囲となるようにプラズマエネルギー量をコントロールすることで、インクドット(以下、単にドットという)の真円度を向上させるとともに、ドットの合一を防止してドットの鮮鋭度や色域を拡げる。これにより、ビーディングやブリードといった画像不良を解決して、高品質な画像が形成された印刷物を得ることができる。また、印刷メディア上の顔料の凝集厚みを薄く均一にすることにより、インク液滴量を削減して、インク乾燥エネルギーの低減および印刷コストの低減をも可能にする。
実施形態1を説明するにあたり、まず、実施形態1で採用するプラズマ処理の一例について、以下に図面を参照して詳細に説明する。実施形態1で採用するプラズマ処理では、被処理物に大気中のプラズマ照射を行うことによって、被処理物表面の高分子を反応させ、親水性の官能基を形成する。詳細には、放電電極から放出された電子eが電界中で加速されて、大気中の原子や分子を励起・イオン化する。イオン化された原子や分子からも電子が放出され、高エネルギーの電子が増加し、その結果、ストリーマ放電(プラズマ)が発生する。このストリーマ放電による高エネルギーの電子によって、被処理物(たとえばコート紙)表面の高分子結合(コート紙のコート層は炭酸カルシウムとバインダーとして澱粉で固められているが、その澱粉が高分子構造を有している)が切断され、気相中の酸素ラジカルOや水酸ラジカル(―OH)、オゾンOと再結合する。これらの処理をプラズマ処理と呼ぶ。これにより、被処理物の表面に水酸基やカルボキシル基等の極性官能基が形成される。その結果、被処理物の表面に親水性や酸性が付与される。なお、カルボキシル基の増加により、被処理物表面が酸性化(pH値の低下)する。
被処理物表面における隣接したドットは、被処理物表面の親水性が上がることにより、濡れ拡がって合一する。これに起因したドット間の混色の発生を防ぐためには、着色剤(例えば顔料や染料)をドット内で迅速に凝集させることや、ビヒクルが濡れ拡がるよりも早くビヒクルを乾燥させたり被処理物内へ浸透させたりすることが必要になる。上記において例示したプラズマ処理は、被処理物表面を酸性化させる酸性化処理手段(工程)としても作用することから、ドット内での着色剤の凝集速度を高めることができる。この点においても、インクジェット記録処理の前処理としてプラズマ処理を実行することは有効であると考えられる。
実施形態1において、プラズマ処理には、たとえば誘電体バリア放電を利用した大気圧非平衡プラズマ処理を採用することができる。大気圧非平衡プラズマによる酸性化処理は、電子温度が極めて高く、ガス温度が常温付近であるため、記録媒体などの被処理物に対するプラズマ処理方法として好ましい方法の1つである。
大気圧非平衡プラズマを広範囲に安定して発生させる方法としては、ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電を採用した大気圧非平衡プラズマ処理が存在する。ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電は、たとえば誘電体で被覆された電極間に交番する高電圧が印加することで得ることが可能である。ただし、大気圧非平衡プラズマを発生させる方法としては、上述したストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電以外にも、種々の方法を用いることができる。たとえば、電極間に誘電体等の絶縁物を挿入する誘電体バリア放電、細い金属ワイヤ等に著しい不平等電界を形成するコロナ放電、短パルス電圧を印加するパルス放電などを適用することが可能である。また、これらの方法を2つ以上組み合わせることも可能である。
図1は、実施形態1で採用されるプラズマ処理を実施するためのプラズマ処理装置の一例を示す概略図である。図1に示すように、実施形態1で採用されるプラズマ処理には、放電電極11と、カウンター電極(接地電極ともいう)14と、誘電体12と、高周波高圧電源15とを備えたプラズマ処理装置10を用いることができる。プラズマ処理装置10において、放電電極11とカウンター電極14との間に配置される誘電体12は、ポリイミド、シリコン、セラミック等の絶縁体であってよい。高周波高圧電源15は、放電電極11とカウンター電極14との間に高周波・高電圧のパルス電圧を印加する。このパルス電圧の電圧値は、たとえば約10kV(キロボルト)(p−p)程度である。また、その周波数は、たとえば約20kHz(キロヘルツ)とすることができる。このような高周波・高電圧のパルス電圧を2つの電極間に供給することで、放電電極11と誘電体12との間に大気圧非平衡プラズマ13が発生する。被処理物20は、大気圧非平衡プラズマ13の発生中に放電電極11と誘電体12との間を通過する。これにより、被処理物20の放電電極11側の表面がプラズマ処理される。
なお、図1に例示したプラズマ処理装置10では、回転型の放電電極11とベルトコンベア型の誘電体12とが採用されている。被処理物20は、回転する放電電極11と誘電体12との間で挟持搬送されることで、大気圧非平衡プラズマ13中を通過する。これにより、被処理物20の表面が大気圧非平衡プラズマ13に接触し、これに一様なプラズマ処理が施される。ただし、実施形態1において採用されるプラズマ処理装置は、図1に示される構成に限られるものではない。たとえば、放電電極11が被処理物20と接触せずに近接している構成や、放電電極11がインクジェットヘッドと同じキャリッジに搭載された構成など、種々変形可能である。
また、本説明における酸性化とは、インクに含まれる顔料が凝集するpH値まで印刷媒体表面のpH値を下げることを意味する。pH値を下げるとは、物体中の水素イオンH濃度を上昇させることである。被処理物表面に触れる前のインク中の顔料はマイナスに帯電し、ビヒクル中で顔料が分散している。図2に、インクのpH値とインクの粘度との関係の一例を示す。図2に示すように、インクは、そのpH値が低いほど、その粘度が上昇する。これは、インクの酸性度が高くなるほど、インクのビヒクル中でマイナスに帯電している顔料が電気的に中和され、その結果、顔料同士が凝集するためである。したがって、たとえば図2に示すグラフにおいてインクのpH値が必要な粘度と対応する値となるように印刷媒体表面のpH値を下げることで、インクの粘度を上昇させることが可能である。これは、インクが酸性である印刷媒体表面に付着した際、顔料が印刷媒体表面の水素イオンHによって電気的に中和された結果、顔料同士が凝集するためである。それにより、隣接したドット間の混色を防止するとともに、顔料が印刷媒体の奥深く(さらには裏面まで)浸透するのを防止することが可能となる。ただし、必要な粘度と対応するpH値となるようにインクのpH値を下げるためには、印刷媒体表面のpH値を必要な粘度と対応するインクのpH値よりも低くしておく必要がある。
また、インクを必要な粘度とするためのpH値は、インクの特性によって異なる。すなわち、図2のインクAに示すように、比較的中性に近いpH値で顔料が凝集して粘度が上がるインクもあれば、インクAとは異なる特性を持つインクBに示すように、顔料を凝集させるためにインクAよりも低いpH値が必要なインクも存在する。
ビヒクルの着色剤がドット内で凝集する挙動や、乾燥速度や被処理物内への浸透速度は、ドットの大きさ(小滴、中滴、大滴)によって変わる液滴量や、被処理物の種類などによって異なる。そこで実施形態1では、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を、被処理物の種類や印刷モード(液滴量)などに応じて最適な値に制御してもよい。
ここで、図3〜図6を用いて、実施形態1にかかるプラズマ処理を施した場合と施していない場合との印刷物の違いを説明する。図3は、実施形態1にかかるプラズマ処理を施していない被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図4は、図3に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。図5は、実施形態1にかかるプラズマ処理を施した被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図6は、図5に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。なお、図3および図5に示す印刷物を得るにあたり、デスクトップ型のインクジェット記録装置を用いた。また、被処理物20には、コート層21(図1参照)を備える一般的なコート紙を用いた。
プラズマ処理を施していないコート紙は、コート紙表面にあるコート層21の濡れ性が悪い。そのため、プラズマ処理を施していないコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、たとえば図3および図4に示すように、ドットの着弾時にコート紙の表面に付着したドットの形状(ビヒクルCT1の形状)が歪になる。また、ドットの乾燥が十分でない状態で近接ドットを形成すると、図3および図4に示すように、コート紙への近接ドットの着弾時にビヒクルCT1およびCT2同士が合一し、これによりドット間で顔料P1およびP2の移動(混色)が起き、その結果、ビーディング等による濃度ムラが生じてしまう場合がある。
一方、実施形態1にかかるプラズマ処理を施したコート紙は、コート紙表面にあるコート層21の濡れ性が改善されている。そのため、プラズマ処理を施したコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、たとえば図5に示すように、ビヒクルCT1がコート紙の表面に比較的平坦な真円状に広がる。これにより、図6のようにドットが平坦な形状となる。また、プラズマ処理で形成された極性官能基によってコート紙表面が酸性になるため、インク顔料が電気的に中和され、顔料P1が凝集してインクの粘性が上がる。これにより、図6のようにビヒクルCT1およびCT2が合一した場合でも、ドット間の顔料P1およびP2の移動(混色)が抑制される。さらに、コート層21内部にも極性官能基が生成されるため、ビヒクルCT1の浸透性が上がる。これにより比較的短時間で乾燥することが出来る。濡れ性向上により真円状に広がったドットが、浸透しながら凝集することにより、顔料P1が高さ方向に均等に凝集され、ビーディング等による濃度ムラの発生を抑えることが可能となる。なお、図4、図6は模式図であり、実際には図6の場合にも顔料は層になって凝集している。
このように、実施形態1にかかるプラズマ処理を施した被処理物20では、プラズマ処理によって被処理物20の表面に親水性の官能基が生成されて濡れ性が改善される。さらに、プラズマ処理によって被処理物20の表面粗さが大きくなり、その結果、被処理物20表面の濡れ性がさらに向上する。また、プラズマ処理によって極性官能基が形成された結果、被処理物20表面が酸性になる。それらにより、着弾したインクが被処理物20表面で均一に拡がりつつ、マイナスに帯電した顔料が被処理物20表面で中和されることで凝集して粘性が上がり、結果的にドットが合一したとしても顔料の移動を抑制することが可能となる。また、被処理物20表面に形成されたコート層21内部にも極性官能基が生成されることで、ビヒクルが速やかに被処理物20内部に浸透し、これにより乾燥時間を短縮することが出来る。つまり、濡れ性が上がることで真円状に広がったドットは、凝集によって顔料の移動が抑えられた状態で浸透することで、真円に近い形状を保つことが可能となる。
図7は、実施形態1にかかるプラズマエネルギーと被処理物表面の濡れ性、ビーディング、pH値および浸透性との関係を示すグラフである。図7では、被処理物20としてコート紙へ印刷した場合の表面特性(濡れ性、ビーディング、pH値、浸透性(吸液特性))がプラズマエネルギーに依存してどのように変化するかが示されている。なお、図7に示す評価を得るにあたり、インクには、顔料が酸により凝集する特性の水性顔料インク(マイナスに帯電した顔料が分散されているアルカリ性インク)を使用した。
図7に示すように、コート紙表面の濡れ性は、プラズマエネルギーが低い値(たとえば0.2J/cm程度以下)で急激に良くなり、それ以上エネルギーを増加させてもあまり改善はしない。一方、コート紙表面のpH値は、ある程度まではプラズマエネルギーを高めることにより低下していく。ただし、プラズマエネルギーがある値(たとえば4J/cm程度)を超えたところで飽和状態になる。また、浸透性(吸液特性)は、pHの低下が飽和したあたり(たとえば4J/cm程度)から急激に良くなっている。ただし、この現象は、インクに含まれている高分子成分に依存して異なる。
上述したように、被処理物20表面の特性と画像品質との関係では、表面の濡れ性が向上することにより、ドットの真円度が向上している。この理由としては、プラズマ処理による表面粗さの増加および生成された親水性の極性官能基によって被処理物20表面の濡れ性が向上するとともにこれが均一化したことが考えられる。また、被処理物20表面のゴミや油分や炭酸カルシウムなどの撥水要因がプラズマ処理によって除外されることも1つの要因と考えられる。すなわち、被処理物20表面の濡れ性が向上しつつ被処理物20表面の不安定要因が取り除かれた結果、液滴が円周方向に均等に拡がり、ドットの真円度が向上すると考えられる。
また、被処理物20表面を酸性化(pHの低下)させることにより、インク顔料の凝集、浸透性の向上、ビヒクルのコート層内部への浸透などが生じる。これらにより、被処理物20表面の顔料濃度が上昇するため、ドットが合一したとしても、顔料の移動を抑えることが可能となり、その結果、顔料の混濁が抑制し、顔料を均一に被処理物表面に沈降凝集させることが可能となる。ただし、顔料混濁の抑制効果は、インクの成分やインクの滴量に依存して異なる。たとえばインクの滴量が小滴の場合、大滴の場合に比べて、ドットの合一による顔料の混濁は発生し難い。それは、ビヒクル量が小滴の場合の方が、ビヒクルがより早く乾燥・浸透するためであり、少しのpH反応で顔料を凝集することができるためである。なお、プラズマ処理の効果は、被処理物20の種類や環境(湿度など)によって変動する。そこで、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を、液滴の量や被処理物20の種類、環境などに応じて最適な値に制御してもよい。その結果、被処理物20の表面改質効率が向上し、さらなる省エネを達成することが可能な場合が存在する。
つづいて、プラズマエネルギー量とドットの真円度との関係を説明する。図8は、プラズマエネルギーとドットの真円度との関係を示すグラフである。図9は、プラズマエネルギー量と実際に形成されたドット形状との関係を示す図である。なお、図8および図9では、同色同種のインクを用いた場合を示す。
図8および図9に示すように、ドットの真円度は、プラズマエネルギーが低い値(たとえば0.2J/cm程度以下)であっても大幅に改善されている。これは、上述したように、被処理物20をプラズマ処理することで、ドット(ビヒクル)の粘性が上がるとともにビヒクルの浸透性が上がり、これにより顔料が均等に凝集されたためであると考えられる。
また、ドット内の濃度ムラについて、プラズマ処理を行った場合と行わなかった場合とについて説明する。図10は、実施形態1にかかるプラズマ処理を行わなかった場合のドットの濃度を示すグラフである。図11は、プラズマ処理を行った場合のドットの濃度を示すグラフである。なお、図10および図11では、それぞれ図面中右下にあるドット画像における線分a−b上の濃度を示している。
図10および図11の測定では、形成したドットの画像を取り込み、その画像における濃度ムラを測定して、濃度のバラツキを計算した。図10および図11を比較すると明らかなように、プラズマ処理を行った場合(図11)の方が、行わなかった場合(図10)よりも、濃度のバラツキ(濃度差)を小さくすることができた。そこで、以上のような算出方法にて求めた濃度のバラツキに基づいて、一番バラツキ(濃度差)が小さくなるように、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を最適化してもよい。これにより、より鮮明な画像を形成することが可能となる。
なお、濃度のバラツキは、上述した算出方法に限らず、顔料の厚みを光干渉膜厚計測手段にて測定して算出してもよい。その場合、顔料の厚みの偏差を最小にするように、プラズマエネルギー量の最適値を選定してもよい。
また、図8〜図11は、被処理物表面に形成した1色目のドットを測定した結果の一例を示している。ただし、2色目のドットに関しても、図8〜図11に示す結果を得るために1色目のドットに対して行った測定方法と同様の方法を用いることが可能である。
また、図12は、実施形態1にかかるプラズマエネルギーとpH値との関係を示すグラフである。通常、pHは溶液中で測定するのが一般的であるが、近年では、固体表面のpHの測定が可能である。その測定器としては、たとえば堀場製作所製のpHメーターB−211やpHテスターペン、等が存在する。
図12において、実線はコート紙のpH値のプラズマエネルギー依存性を示し、点線はPETフィルムのpH値のプラズマエネルギー依存性を示す。図12に示すように、コート紙と比べてPETフィルムは、少ないプラズマエネルギーで酸性化する。ただし、コート紙においても、酸性化する際のプラズマエネルギーは3J/cm程度以下であった。そして、pH値が5以下となった被処理物20にアルカリ性の水性顔料インクを吐出するインクジェット処理装置で画像記録した場合、形成された画像のドットは真円に近い形状となった。また、ドットの合一による顔料の混濁もなく、にじみのない良好な画像が得られた。
そこで実施形態1では、酸性化処理手段の下流側にpH検出手段を設け、被処理物表面のpHに関する情報をpH検出手段で読み取る。また、読み取ったpHに関する情報に基づいてプラズマ処理手段をフィードバック制御またはフィードフォワード制御することで、被処理物の表面のpH値が所定範囲の値(たとえば5.3以上6.0以下)となるように制御する。
つづいて、実施形態1にかかる印刷装置、印刷システム、印刷物の製造方法およびpH検出装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態1では、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の4色の吐出ヘッド(記録ヘッド、インクヘッド)を有する画像形成装置を説明するが、これらの吐出ヘッドに限定されない。すなわち、グリーン(G)、レッド(R)及びその他の色に対応する吐出ヘッドを更に有してもよいし、ブラック(K)のみの吐出ヘッドを有していてもよい。ここで、以後の説明において、K、C、M及びYは、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの夫々に対応するものとする。
また、実施形態1では、被処理物として、ロール状に巻かれた連続紙(以下、ロール紙という)を用いるが、これに限定されものではなく、たとえばカット紙など、画像を形成できる記録媒体であればよい。そして、紙の場合その種類としては例えば、普通紙、上質紙、再生紙、薄紙、厚紙、コート紙等を用いることができる。また、OHPシート、合成樹脂フィルム、金属薄膜及びその他表面にインク等で画像を形成することができるものも被処理物として用いることができる。ここで、ロール紙は、切断可能なミシン目が所定間隔で形成された連続紙(連帳紙、連続帳票)であってよい。その場合、ロール紙におけるページ(頁)とは、例えば所定間隔のミシン目で挟まれる領域とする。
図13は、実施形態1にかかる印刷装置(システム)の概略構成例を示す模式図である。図13に示すように、印刷装置(システム)1は、被処理物20(ロール紙)を搬送経路D1に沿って搬入(搬送)する搬入部30と、搬入された被処理物20に対して前処理としてのプラズマ処理を施すプラズマ処理装置100と、プラズマ処理された被処理物20の表面に画像を形成する画像形成装置40とを有する。画像形成装置40は、プラズマ処理された被処理物20にインクジェット処理により画像を形成するインクジェットヘッド170と、被処理物20に与えたpH指示薬のpH指示色(色彩等)を測定する色彩計180と、を含むことができる。インクジェットヘッド170は、ピエゾ方式のインクジェットヘッドであってもよいし、その他、サーマル方式のインクジェットヘッドなど、種変形可能である。また、画像形成装置40は、画像が形成された被処理物20を後処理する後処理部を含んでもよい。さらに、印刷装置(システム)1は、後処理された被処理物20を乾燥する乾燥部50と、画像形成された(場合によってはさらに後処理された)被処理物20を搬出する搬出部60とを有してもよい。さらにまた、印刷装置(システム)1は、印刷用の画像データからラスタデータを生成したり、印刷装置(システム)1の各部を制御したりする制御部160を含んでもよい。この制御部160は、有線または無線のネットワークを介して印刷装置(システム)1と通信可能であるとする。なお、制御部160は、単一のコンピュータで構成されている必要はなく、複数のコンピュータがLAN(Local Area Network)などのネットワークを介して接続された構成であってもよい。また、制御部160は、印刷装置(システム)1の各部に個別に設けられた制御部を含む構成であってもよい。
つづいて、実施形態1にかかる印刷装置(システム)1を、より詳細に説明する。図14は、実施形態1にかかる印刷装置(システム)における酸性化処理手段としてのプラズマ処理装置およびインクジェット記録装置周辺の概略構成例を示す図である。なお、その他の構成は、図13に示す印刷装置1と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
図14に示すように、印刷装置(システム)1では、複数のヘッドを備えるインクジェットヘッド170の1つのヘッドがpH指示薬を吐出するためのヘッドとして用いられる。すなわち、インクジェットヘッド170は、インク吐出用のノズル171と、pH指示薬吐出用のノズル172とを備えている。また、インクジェットヘッド170の下流には、被処理物20に付着したpH指示薬のpH指示色を測定するための色彩計180が設けられている。
プラズマ処理装置100は、搬送経路D1に沿って配列された複数の放電電極111〜116と、各放電電極111〜116に高周波・高電圧のパルス電圧を供給する高周波高圧電源151〜156と、複数の放電電極111〜116に対して共通に設けられたカウンター電極141と、放電電極111〜116とカウンター電極141との間を搬送経路D1に沿って流れるように配置されたベルトコンベア型の無端状の誘電体121およびローラ122とを備える。搬送経路D1に沿って配列する複数の放電電極111〜116を用いる場合には、図14に示すように、誘電体121に無端状のベルトが用いられることが好適であるが、金属ローラに誘電体をコーティングした誘電体ローラを用いてもよい。
制御部160は、不図示の上位装置からの指示に基づいてローラ122を駆動することで、誘電体121を巡回させる。被処理物20は、上流の搬入部30(図13参照)から誘電体121上に搬入されると、誘電体121の巡回によって搬送経路D1を通過する。高周波高圧電源151〜156は、それぞれ制御部160からの指示にしたがって、高周波・高電圧のパルス電圧を放電電極111〜116に供給する。パルス電圧は、すべての放電電極111〜116に供給されてもよいし、放電電極111〜116のうち被処理物20の表面を所定のpH値以下とするのに必要な数の放電電極に供給されてもよい。または、制御部160は、各高周波高圧電源151〜156から供給されるパルス電圧の周波数および電圧値(プラズマエネルギーに相当)を、被処理物20の表面を所定のpH値以下とするのに必要となるプラズマエネルギー量に調整してもよい。
ここで、被処理物20表面の酸性化に必要なプラズマエネルギー量を得る方法の1つとしては、プラズマ処理の時間を長くすることも考えられる。これは、たとえば被処理物20の搬送速度を遅くすることで実現可能である。ただし、被処理物20へ高速で画像記録を行う場合には、プラズマ処理の時間を短くすることが望まれる。プラズマ処理時間を短くする方法としては、上述のように、放電電極111〜116を複数備え、印刷速度および必要なpH値に応じて必要な数の放電電極111〜116を駆動する方法や、各放電電極111〜116に与えるプラズマエネルギーの強度を調整する方法などが考えられる。また、プラズマ処理装置100に湿度調整機構を設けることでも酸性化処理の調整が可能である(特開2013−199017号公報参照)。さらに、これらを組み合わせた方法や、その他の方法など、適宜変更することも可能である。
また、プラズマ処理装置100が複数の放電電極111〜116を備えることは、被処理物20の表面を均一に酸性化する点においても有効である。すなわち、たとえば同じ搬送速度(または印刷速度)とした場合、1つの放電電極で酸性化処理を行う場合よりも複数の放電電極で酸性化処理を行う場合の方が、被処理物20がプラズマの空間を通過する時間を長くすることが可能となる。その結果、より均一に被処理物20の表面に酸性化処理を施すことが可能となる。
インクジェットヘッド170におけるインク吐出用ノズル171は、複数の同色ヘッド(4色×4ヘッド)を備えてもよい。これにより、インクジェット記録処理の高速化が可能になる。その際、たとえば高速で1200dpiの解像度を達成するためには、インクジェットヘッド170における各色のヘッドは、インクを吐出するノズルとノズルとの間隔を補正するようにずらして固定されてもよい。さらに、各色のヘッドには、そのノズルから吐出されるインクのドットが大/中/小滴と呼ばれる3種類の容量に対応するように、いくつかのバリエーションを持った駆動周波数の駆動パルスが入力されてもよい。
インクジェットヘッド170におけるpH指示薬吐出用ノズル172は、pH値によってpH指示色を呈するpH指示薬を吐出する。これにより、被処理物20の白紙面にpH指示薬を付与することが可能となる。本例では、ターゲットとする被処理物20表面のpH値の範囲が5.3以上6.0以下(より好ましくは5.8)であるため、pH6.8(紫色)からpH5.2(黄色)までの範囲(以下、pH指示域という)に感度を持つブロモクレゾールパープル(BCP)溶液をpH指示薬として用いるのが好適である。ただし、インクの種類によって最適なpH値が異なるため、ブロモクレゾールパープル(BCP)溶液に限らず、その他のpH指示域を持ったpH指示薬を用いることも可能である。
なお、pH指示薬の付与手段であるpH指示薬吐出用ノズル172は、インクジェットヘッド170、すなわちインク吐出用ノズル171とは分離して備えられてもよい。その場合、pH指示薬吐出用ノズル172は、pH指示薬用に別に設けられた制御部(不図示)によって制御されてもよいし、インク吐出用ノズル172と同様に、制御部160によって制御されてもよい。また、pH指示薬が熱で変質する場合、pH指示薬を吐出するインクジェットヘッド170はピエゾ方式であることが好ましい。ただし、熱で変質しない場合にはサーマル方式を用いることも可能である。このように、pH指示薬の付与手段は、pH指示薬の性質に応じて種々の変形が可能である。
ただし、pH指示薬が水溶液である場合、pH指示薬の付与手段をプラズマ処理装置100よりも上流に配置すると、水の誘電率により被処理物20に大電流が流れてしまう可能性がある。そのため、pH指示薬吐出用ノズル172は、プラズマ処理装置100よりも下流に配置することが好ましい。
インクジェットヘッド170の下流に配置された色彩計180は、被処理物20表面に与えられたpH指示薬のpH指示色を非接触により測定する。色彩計180により測定された色彩値は、制御部160に入力される。
制御部160は、色彩計180で測定されたpH指示色(たとえば色彩値)に基づいて、駆動する放電電極111〜116の数、および/または、各高周波高圧電源151〜156から各放電電極111〜116へ供給するパルス電圧のプラズマエネルギーを調整したり、被処理物20のプラズマ処理装置100の通過速度を調整したりすることで、被処理物20表面のpH値がターゲットとする範囲(たとえば5.3以上6.0以下)の値となるように、被処理物20に与えるプラズマエネルギー量を調節する。
上述のようにpH指示薬としてブロモクレゾールパープル(BCP)溶液を用いた場合、紫色から黄色までのpH指示色の変化は、たとえばCIE 1976 (L,a,b)色空間におけるa平面上で縦軸b方向に伸びた分布を示す。図15は、実施形態1においてpH指示薬としてブロモクレゾールパープル(BCP)溶液を用いた場合の色彩計による測定結果の一例をa平面に示したグラフである。また、図16は、図15に示す色彩計の測定結果に基づくb測定値とpH値との関係を示すグラフである。図15および図16から分かるように、色彩計180で測定されたpH指示色のうちbを解析することで、被処理物20表面のpH値を特定することが可能である。
なお、図13または図14に示す各部(装置)は、別の筐体で存在し全体で印刷システム1を構成してもよいし、同じ筐体内に納められて印刷装置1を構成してもよい。さらに、印刷システム1として構成される場合には、pH指示薬吐出用ノズル172および色彩計180からなるpH検出装置が印刷システム1内に存在してもよい。さらにまた、印刷システム1として構成される場合には、制御部160は何れかの部または装置に含まれてもよい。
つづいて、実施形態1にかかるプラズマ処理を含む印刷処理について、図面を参照して詳細に説明する。図17は、実施形態1にかかる酸性化処理を含む印刷処理の一例を示すフローチャートである。なお、図17では、図14に示す印刷装置1を用いてカット紙(所定の大きさにカットされた記録媒体)を被処理物20として印刷する場合を例に挙げる。ただし、カット紙に限らず、ロール状に巻かれたロール紙に対しても、同様の印刷処理を適用可能である。
図17に示すように、印刷処理では、まず、制御部160がローラ122を駆動して誘電体121を巡回させることで、上流側から誘電体121上に流れてきた被処理物20をプラズマ処理装置100内に搬入する(ステップS101)。つぎに、制御部160が高周波高圧電源151〜156を駆動して放電電極111〜116にパルス電圧を供給することで、プラズマ処理を実行する(ステップS102)。なお、プラズマ処理では、色彩計180からの検出結果が入力されていない場合、制御部160は、所定強度のプラズマエネルギーを放電電極111〜116に供給する。一方、色彩計180から検出結果が入力されている場合、制御部160は、検出されたpH値に基づいて駆動する高周波高圧電源151〜156の数や各放電電極111〜116に与えるプラズマエネルギーを調節する。その際、制御部160は、ローラ122の回転速度を制御して被処理物20の搬送速度を調節してもよい。
つぎに、インクジェットヘッド170のpH指示薬吐出用ノズル172よりpH指示薬を吐出して、これを被処理物20におけるプラズマ処理済の領域に付与する(ステップS103)。つづいて、制御部160は、色彩計180からpH指示薬の色情報(たとえばpH指示色)を取得し(ステップS104)、これを解析することで、プラズマ処理後の被処理物20表面のpH値を特定する(ステップS105)。
つぎに、制御部160は、特定したpH値が所定の範囲(たとえば5.3以上6.0以下)であるか否かを判定する(ステップS106)。pH値が所定の範囲内でない場合(ステップS106;NO)、制御部160は、高周波高圧電源151〜156の駆動本数を変更し(ステップS107)、ステップS102へリターンする。たとえばpH値が所定の範囲よりも高い値を示している場合、制御部160は、オフされている高周波高圧電源151〜156をオンしたり、各放電電極111〜116に与えるプラズマエネルギーを増加したりする。もしくは、制御部160は、被処理物20の搬送速度を遅くするようにローラ122の回転速度を制御する。また、pH値が所定の範囲よりも低い値を示している場合、制御部160は、駆動中の高周波高圧電源151〜156をオフしたり、各放電電極111〜116に与えるプラズマエネルギーを減少したりする。もしくは、制御部160は、被処理物20の搬送速度を早めるようにローラ122の回転速度を制御する。これにより、被処理物20に対するプラズマエネルギー量が増減されるため、処理後の被処理物20表面のpH値が所定範囲内に含まれるように調節される。
一方、pH値が所定の範囲内である場合(ステップS106;YES)、制御部160は、インクジェットヘッド170のインク吐出用ノズル171を駆動することで、プラズマ処理後の被処理物20に対するインクジェット記録処理を実行し(ステップS108)、その後、被処理物20をインクジェットヘッド170より下流側に搬出して(ステップS109)、処理を終了する。
なお、ステップS106でpH値が所定の範囲よりも高い値を示している場合、被処理物20を不図示の迂回経路に迂回させて、再度、同一の被処理物20にプラズマ処理(ステップS102)を実行してもよい。これにより、無駄な被処理物20の発生を回避できる。また、被処理物20として性状の異なる種類の記録媒体が混在していても、同様の流れで処理することが可能となる。
また、被処理物20としてロール紙を用いた場合、ステップS103〜S106では、不図示の給紙装置より導かれた紙の先端部分を使ってプラズマ処理後のpH値を測定してもよい。ロール紙を用いた場合では、1つのロールで性状がほとんど変わらないため、先端部分を使ってプラズマエネルギー量を調整した後は、そのままの設定で安定して連続印刷が可能となる。ただし、ロール紙を使い切らずに長期間停止した場合、紙の性状が変化する可能性があるため、印刷再開前に同様に先端部分を使ってプラズマ処理後のpH値を測定してもよい。
さらに、pH指示薬を付与してプラズマエネルギー量を調整するステップS103〜S107の処理は、定期的または連続して実行されてもよい。その際、ロール紙の余白部分を使ってプラズマ処理後のpH値を測定してもよい。これにより、より詳細に安定した制御を行うことが可能となる。
以上のように、実施形態1によれば、プラズマ処理手段のプラズマエネルギー量を調節することによって高画質な印刷品を提供することが可能となる。また、被処理物20の性状を変更したり印刷速度を変更したりしても、安定した酸性化処理を行うことが可能であるため、良好な画像記録を安定して実現することが可能となる。
なお、上記した実施形態では、pH指示薬としてブロモクレゾールパープル(BCP)溶液を例示したが、これに限られるものではない。すなわち、求められるpH指示値にあったpH指示薬を用いてよい。ブロモクレゾールパープル(BCP)溶液以外のpH指示薬としては、たとえばリトマス液やブロモチモーブル(BTB)溶液などを用いることができる。
また、使用するpH指示薬の種類によっては、たとえばCIE 1976 (L,a,b)色空間におけるaを解析してもよいし、Lを解析してもよい。さらに、標色系は「1976 CIE L Space」に限らず、RGB系、XYZ系、Luv系等を使用してもよい。たとえば、求められるpH値がリトマスの変化範囲と合致していた場合、pH指示薬をリトマスとし、XYZ色空間のX軸の値を検出してもよい。さらにまた、pH指示薬から色情報を取得する手段は、色彩計180に限られるものではない。すなわち、pH値を特定可能な何らかの色情報を取得することが可能なものであれば、種々変形可能である。
(実施形態2)
次に、実施形態2にかかる印刷装置、印刷システム、印刷物の製造方法およびpH検出装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、上述した実施形態における構成と同様の構成については、重複する説明を省略する。
図18は、実施形態2にかかる酸性化処理のプラズマエネルギー量を段階分けしたパターンの一例を示す図である。実施形態2では、被処理物20表面を酸性化するプラズマ処理手段のプラズマエネルギー量を段階的に切り替えてプラズマ処理を実行することで、図18に示すような、それぞれ異なるプラズマエネルギー量で処理された複数の領域を形成する。そして、実施形態2では、図18に示す領域のうち少なくとも1つを解析することで、被処理物20に対して最適なpH値となるプラズマエネルギー量を特定する。これにより、実施形態2では、より適切なプラズマエネルギー量を特定することが可能となる。
実施形態2にかかる印刷装置(システム)の構成は、実施形態1と同様であってよい。その構成を用いてプラズマ処理装置100のプラズマエネルギー量を段階的に制御することで、図18に示すような、異なるプラズマエネルギー量で処理された複数の領域が形成される。その後、プラズマ処理装置100よりも下流側に配置されたインクジェットヘッド170から被処理物20表面へpH指示薬を吐出し、さらにインクジェットヘッド170の下流に配置された色彩計180にて取得したpH指示薬の色情報から最適なプラズマエネルギー量条件を特定して、プラズマ処理の条件(駆動本数、パルス電圧、搬送速度等)を調整する。
図19は、実施形態2にかかる酸性化処理を含む印刷処理の一例を示すフローチャートである。なお、図19でも、図17と同様、図14に示す印刷装置1を用いてカット紙(所定の大きさにカットされた記録媒体)を被処理物20として印刷する場合を例に挙げる。ただし、カット紙に限らず、ロール状に巻かれたロール紙に対しても、同様の印刷処理を適用可能である。
図19に示すように、印刷処理では、まず、制御部160がローラ122を駆動して誘電体121を巡回させることで、上流側から誘電体121上に流れてきた被処理物20をプラズマ処理装置100内に搬入する(ステップS201)。次に、制御部160は、高周波高圧電源151〜156の上流側から順番に対応する値Rに、先頭であることを示す‘1’を代入し(ステップS202)、また、プラズマ処理装置100のプラズマエネルギーEに初期値E0を設定する(ステップS203)。なお、プラズマエネルギーの初期値E0は、0J/cmであってもよい。
つぎに、制御部160は、設定されたプラズマエネルギーE(=E0)にて被処理物20の第R領域をプラズマ処理する(ステップS204)。これにより、たとえば図18に示す領域R1が形成される。
つぎに、制御部160は、インクジェットヘッド170のpH指示薬吐出用ノズル172より第R領域にpH指示薬を吐出し(ステップS205)、つづいて、第R領域のpH指示色を色彩計180により測定する(ステップS206)。
つぎに、制御部160は、測定したpH指示色から第R領域のpH値を特定し(ステップS207)、この特定したpH値と、第R領域に対するプラズマ条件(プラズマエネルギー、搬送速度、紙種等)とを不図示のメモリ等に記憶しておく(ステップS208)。
つぎに、制御部160は、Rが予め設定しておいた上限値nに達したか否かを判定し(ステップS209)、上限値nに達していない場合(ステップS209;NO)、Rを1増加するとともに(ステップS210)、プラズマエネルギーEに予め決定しておいたエネルギー幅ΔEを加算した値(E+ΔE)を設定する(ステップS211)。その後、制御部160は、ステップS204へリターンし、以降の動作を繰り返す。これにより、図18に示す領域R2以降に対するpH値の測定が実施され、その値がその際のプラズマ条件と組み合わせて不図示のメモリ等に記憶される。
一方、Rが上限値nに達していた場合(ステップS209;YES)、制御部160は、不図示のメモリ等に記憶されたpH値から最適なプラズマ条件を特定してこれをプラズマ条件として設定し(ステップS212)、以降、このプラズマ条件でのプラズマ処理とインクジェット記録処理とを被処理物20に対して実行する(ステップS213)。その後、制御部160は、被処理物20をインクジェットヘッド170より下流側に搬出して(ステップS214)、処理を終了する。
なお、上記実施形態2では、予め決めておいた上限値nまでの段階的なプラズマエネルギー量で処理された領域に対するpH値の特定を実行したが、これに限られるものではない。たとえば、特定されたpH値が予め定めておいた所定のpH範囲(たとえば5.3以上6.0以下)内になった時点のプラズマ条件を最適なプラズマ条件として、ステップS213を実行してもよい。もしくは、少なくとも1つのプラズマエネルギー量で処理された領域に対するpH値の特定を実行し、得られた結果から最適なプラズマ条件(プラズマエネルギー量等)を推定して、その推定結果に基づいてステップS213を実行するように構成されてもよい。
以上のように、実施形態2によれば、実施形態1と同様に酸性化処理手段のプラズマエネルギー量を精度よく調節することによって高画質な印刷品を提供することが可能となる。また、被処理物の性状を変更したり印刷速度を変更したりしても、安定した酸性化処理を行うことが可能であるため、良好な画像記録を安定して実現することが可能となる。
なお、上述した実施形態では、被処理物20に対してプラズマ処理後にpH指示薬を付着させたが、この構成に限定されるものではない。たとえば、被処理物20にpH指示薬を塗った後、これを十分に乾燥した場合には、その後にプラズマ処理を実行するように構成することも可能である。また、被処理物20に付着したpH指示薬を乾燥させる装置を搬送経路上に設けた場合には、その乾燥装置よりも下流側にプラズマ処理装置を配置することも可能である。
また、上記した実施形態では、pH指示薬としてブロモクレゾールパープル(BCP)溶液を使用した場合のターゲットとするpH値の範囲を5.3〜6.0としたが、これに限られるものではない。たとえば、ドット径や真円度やビーディングの抑制等の観点からターゲットとするpH値を検討した場合、ターゲットとするpH値を5.8とし、この値にできる限り近づけるように制御することも可能である。
さらに、pH指示薬の被処理物20への付与手段として、インクジェットヘッド170におけるヘッド(ノズル)を用いたが、これに限定されるものではない。たとえば先塗り剤などの溶剤を被処理物20に塗布する装置を用いることも可能である。その他の付与手段としては、たとえば、ローラ、はけ、スポンジ(好ましくはメラミンスポンジ等)、ウレタンブレード、バーコーター(ワイヤーバーコーター等も含む)、マジックペンなど、種々のものを用いることが可能である。
ただし、インクジェットヘッドをpH指示薬の付与手段として用いることは、付着したインクの付着状態に近い条件でpH指示薬を被処理物20に付着させることが可能である点で好ましい。すなわち、インクジェットヘッドを用いることは、インクの付着状態を検出(または推定)する点で有効であると考えられる。その際、pH指示薬の解像度を600〜1200dpiと比較的高い解像度とすることで、被処理物20表面を隙間なくpH指示薬で覆うことが可能であるため、より正確に被処理物20表面のpH値を検出することが可能となる。
さらにまた、pH指示薬から色情報を取得(検出)する手段として色彩計180を用いたが、これに限らず、CCDや他の撮像手段など、pH指示薬から色情報を取得(検出)可能な手段であれば如何様にも変形することが可能である。
以上、本発明者によってなされた発明を好適な実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例で説明したものに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
1 印刷装置(システム)
10、100 プラズマ処理装置
11、111〜116 放電電極
12、121 誘電体
13 大気圧非平衡プラズマ
14、141 カウンター電極
15、151〜156 高周波高圧電源
20 被処理物
30 搬入部
40 画像形成装置
50 乾燥部
60 搬出部
170 インクジェットヘッド
171 インク吐出用ノズル
172 pH指示薬吐出用ノズル
180 色彩計
特許第4662590号公報 特開2010−188568号公報 特開2003−34069号公報

Claims (15)

  1. 酸性化手段によって酸性化処理が行われた被処理物の表面にpH指示薬を付与する付与手段と、
    前記被処理物表面に付与された前記pH指示薬の色情報を検出する色情報検出手段と、
    前記色情報から前記被処理物表面のpH値を特定するpH特定手段と、
    前記酸性化処理が行われた面にインクジェット記録を行う記録手段と、
    を備えることを特徴とする印刷装置。
  2. 前記付与手段は、インクジェットヘッドであることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
  3. 前記インクジェットヘッドは、ピエゾ方式であることを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。
  4. 前記色情報検出手段は、色彩計であることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
  5. 前記色情報検出手段は、pH指示薬の種類に応じた色空間の座標系の値を検出することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
  6. 前記pH指示薬がブロモクレゾールパープルの場合、前記色情報検出手段は、L色空間の少なくともb軸の値を検出することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
  7. 前記pH検出薬がリトマスの場合、前記色情報検出手段は、XYZ色空間の少なくともX軸の値を検出することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
  8. 前記酸性化手段は、前記被処理物の少なくとも表面をプラズマ処理するプラズマ処理手段であることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
  9. 前記被処理物表面に異なるプラズマエネルギー量で処理された複数の領域を形成するように前記プラズマ処理手段を制御し、前記複数の領域それぞれに前記pH指示薬を付与するように前記付与手段を制御し、前記複数の領域それぞれに付与された前記pH指示薬から色情報を検出するように前記色情報検出手段を制御し、検出された各領域のpH値を特定するように前記pH特定手段を制御するとともに、前記特定されたpH値に基づいて前記プラズマ処理手段のプラズマエネルギー量を設定する制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の印刷装置。
  10. 前記付与手段は、前記記録手段が有するインクジェットヘッドの一部であることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
  11. 前記記録手段が吐出するインクは、負帯電した顔料が液体中へ分散しているインクであることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
  12. 前記記録手段が吐出するインクは、水性顔料インクであることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
  13. 被処理物に酸性化処理を行う酸性化装置と、
    前記酸性化装置によって酸性化処理が行われた被処理物の表面にpH指示薬を付与する付与装置と、
    前記被処理物における前記酸性化処理が行われた面にインクジェット記録を行う記録装置と、
    を備える印刷システムであって、
    前記被処理物表面に付与された前記pH指示薬の色情報を検出する色情報検出手段と、
    前記色情報から前記被処理物表面のpH値を特定するpH特定手段と
    を備えることを特徴とする印刷システム。
  14. 被処理物にインクジェット記録方式で画像が形成された印刷物を製造するための製造方法であって、
    前記被処理物表面を酸性化し、
    前記酸性化された被処理物表面にpH指示薬を付与し、
    前記被処理物表面に付与された前記pH指示薬の色情報を検出し、
    前記検出したpH指示薬の色情報から前記被処理物表面のpH値を特定し、
    前記特定されたpH値に基づいて前記被処理物表面を酸性化する際のエネルギーを決定し、
    前記決定されたエネルギーを用いて被処理物表面を酸性化し、
    前記決定されたエネルギーを用いて酸性化された被処理物に対してインクジェット記録方式にて画像を形成する
    ことを含むことを特徴とする印刷物の製造方法。
  15. 被処理物における酸性化処理が行われた表面にインクジェットヘッドを用いてpH指示薬を付与する付与手段と、
    前記被処理物表面に付与された前記pH指示薬の色情報を検出する色情報検出手段と、
    前記色情報から前記被処理物表面のpH値を特定するpH特定手段と、
    を備えることを特徴とするpH検出装置。
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