以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な実施形態であるので、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明によって不当に限定されるものではなく、また、本実施の形態で説明される構成の全てが本発明の必須の構成要件ではない。
以下の実施形態では、被処理物(記録媒体または印刷メディアともいう)にインクが着弾した直後にインク顔料の分散を防止しつつ顔料を凝集させるために、被処理物表面を酸性化させる。酸性化する手段としては、プラズマ処理を例示する。
また、以下の実施形態では、プラズマ処理された被処理物表面の濡れ性、pH値の低下によるインク顔料の凝集性や浸透性をコントロールすることで、インクドット(以下、単にドットという)の真円度を向上させるとともに、ドットの合一を防止してドットの鮮鋭度や色域を拡げる。これにより、ビーディングやブリードといった画像不良を解決して、高品質な画像が形成された印刷物を得ることができる。また、被処理物上の顔料の凝集厚みを薄く均一にすることにより、インク液滴量を削減して、インク乾燥エネルギーの低減および印刷コストの低減を図ることも可能にする。
酸性化処理手段(工程)としてのプラズマ処理では、被処理物に大気中のプラズマ照射を行うことによって、被処理物表面の高分子を反応させ、親水性の官能基を形成する。詳細には、図1に示すように、放電電極から放出された電子eが電界中で加速されて、大気中の原子や分子を励起・イオン化する。イオン化された原子や分子からも電子が放出され、高エネルギーの電子が増加し、その結果、ストリーマ放電(プラズマ)が発生する。このストリーマ放電による高エネルギーの電子によって、被処理物20(たとえばコート紙)表面の高分子結合(コート紙のコート層21は炭酸カルシウムとバインダとして澱粉で固められているが、その澱粉が高分子構造を有している)が切断され、気相中の酸素ラジカルO*やオゾンO3と再結合する。これにより、被処理物20の表面に水酸基やカルボキシル基等の極性官能基が形成される。その結果、被処理物20の表面に親水性や酸性化が付与される。
被処理物上で隣接したドットが、親水性が上がることにより濡れ拡がって合一することで、ドット間の混色が発生するのを防ぐためには、着色剤(例えば顔料や染料)をドット内で凝集させることや、ビヒクルが濡れ拡がるよりも早くビヒクルを乾燥させたり被処理物内へ浸透させたりすることが重要であることも分かった。そこで、実施形態では、インクジェット記録処理の前処理として、被処理物表面を酸性化する酸性化処理を実行する。
本説明における酸性化とは、インクに含まれる顔料が凝集するpH値まで印刷媒体表面のpH値を下げることを意味する。pH値を下げるとは、物体中の水素イオンH+濃度を上昇させることである。被処理物表面に触れる前のインク中の顔料はマイナスに帯電し、ビヒクル中で顔料が分散している。図2に、インクのpH値とインクの粘度との関係の一例を示す。図2に示すように、インクは、そのpH値が低いほど、その粘度が上昇する。これは、インクの酸性度が高くなるほど、インクのビヒクル中でマイナスに帯電している顔料が電気的に中和され、その結果、顔料同士が凝集するためである。したがって、たとえば図2に示すグラフにおいてインクのpH値が必要な粘度と対応する値となるように印刷媒体表面のpH値を下げることで、インクの粘度を上昇させることが可能である。これは、インクが酸性である印刷媒体表面に付着した際、顔料が印刷媒体表面の水素イオンH+によって電気的に中和された結果、顔料同士が凝集するためである。それにより、隣接したドット間の混色を防止するとともに、顔料が印刷媒体の奥深く(さらには裏面まで)浸透するのを防止することが可能となる。ただし、必要な粘度と対応するpH値となるようにインクのpH値を下げるためには、印刷媒体表面のpH値を必要な粘度と対応するインクのpH値よりも低くしておく必要がある。
また、インクを必要な粘度とするためのpH値は、インクの特性によって異なる。すなわち、図2のインクAに示すように、比較的中性に近いpH値で顔料が凝集して粘度が上がるインクもあれば、インクAとは異なる特性を持つインクBに示すように、顔料を凝集させるためにインクAよりも低いpH値が必要なインクも存在する。
着色剤がドット内で凝集する挙動や、ビヒクルの乾燥速度や被処理物内への浸透速度は、ドットの大きさ(小滴、中滴、大滴)によって変わる液滴量や、被処理物の種類などによって異なる。そこで以下の実施形態では、プラズマ処理におけるプラズマエネルギーを、被処理物の種類や印刷モード(液滴量)などに応じて最適な値に制御してもよい。
図3は、実施形態で採用される酸性化処理の概略を説明するための模式図である。図3に示すように、実施形態で採用される酸性化処理には、放電電極11と、カウンター電極14と、誘電体12と、高周波高圧電源15とを備えたプラズマ処理装置10が用いられる。プラズマ処理装置10において、誘電体12は、放電電極11とカウンター電極14との間に配置される。高周波高圧電源15は、放電電極11とカウンター電極14との間に高周波・高電圧のパルス電圧を印加する。このパルス電圧の電圧値は、たとえば約10kV(キロボルト)程度である。また、その周波数は、たとえば約20kHz(キロヘルツ)とすることができる。このような高周波・高電圧のパルス電圧を2つの電極間に供給することで、放電電極11と誘電体12との間に大気圧非平衡プラズマ13が発生する。被処理物20は、大気圧非平衡プラズマ13の発生中に放電電極11と誘電体12との間を通過する。これにより、被処理物20の放電電極11側の表面がプラズマ処理される。
なお、図3に例示したプラズマ処理装置10では、回転型の放電電極11とベルトコンベア型の誘電体12とが採用されている。被処理物20は、回転する放電電極11と誘電体12との間で挟持搬送されることで、大気圧非平衡プラズマ13中を通過する。これにより、被処理物20の表面が大気圧非平衡プラズマ13に接触し、これに一様なプラズマ処理が施される。
ここで、図4〜図7を用いて、実施形態にかかるプラズマ処理を施した場合と施していない場合との印刷物の違いを説明する。図4は、実施形態にかかるプラズマ処理を施していない被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図5は、図4に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。図6は、実施形態にかかるプラズマ処理を施した被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図7は、図6に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。なお、図4および図6に示す印刷物を得るにあたり、デスクトップ型のインクジェット記録装置を用いた。また、被処理物20には、コート層21(図1参照)を備える一般的なコート紙を用いた。
実施形態にかかるプラズマ処理を施していないコート紙は、コート紙表面にあるコート層21の濡れ性が悪い。そのため、プラズマ処理を施していないコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、たとえば図4および図5に示すように、ドットの着弾時にコート紙の表面に付着したドットの形状(ビヒクルCT1の形状)が歪になる。また、表面の濡れ性が悪い場合、ビヒクルCT1の表面張力によってドットが高さのある形状となり、その乾燥に比較的長い時間を要してしまう。ドットの乾燥が十分でない状態で近接ドットを形成すると、図4および図5に示すように、コート紙への近接ドットの着弾時にビヒクルCT1およびCT2同士が合一し、これによりドット間で顔料P1およびP2の移動(混色)が起き、その結果、ビーディング等による濃度ムラが生じてしまう場合がある。
一方、実施形態にかかるプラズマ処理を施したコート紙は、コート紙表面にあるコート層21の濡れ性が改善されている。そのため、プラズマ処理を施したコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、たとえば図6に示すように、ビヒクルCT1がコート紙の表面に比較的平坦な真円状に広がる。これにより、図7のように、ドットが平坦な形状となる。そのため、ドットは真円を保ったまま比較的短時間で乾燥することができる。また、プラズマ処理で形成された極性官能基によってコート紙表面が酸性になるため、インク顔料が電気的に中和され、顔料P1が凝集してインクの粘性が上がる。これにより、図7のように、ビヒクルCT1およびCT2が合一した場合にも、ドット間の顔料P1およびP2の移動(混色)が抑制される。さらに、コート層21内部にも極性官能基が生成されるため、ビヒクルCT1の浸透性が上がる。これによりビヒクルが被処理物20内部へ浸透し、比較的短時間で乾燥することができる。濡れ性向上により真円状に広がったドットが浸透しながら凝集することにより、顔料P1が高さ方向に均等に凝集され、ビーディング等による濃度ムラの発生を抑えることが可能となる。なお、図5および図7は模式図であり、実際には図7の場合にも顔料は層になって凝集している。
このように、実施形態にかかるプラズマ処理を施した被処理物20では、プラズマ処理によって極性官能基が形成された結果、表面が酸性になる。それにより、マイナスに帯電した顔料が被処理物20表面で中和されることにより、顔料が凝集して粘性が上がり、結果的にドットが合一したとしても顔料の移動を抑制することが可能となる。また、被処理物20表面に形成されたコート層21内部にも極性官能基が生成されることで、ビヒクルが速やかに被処理物20内部に浸透し、これにより、乾燥時間を短縮することができる。つまり、濡れ性が上がることで真円状に広がったドットは、凝集によって顔料の移動が抑えられた状態で浸透することで、真円に近い形状を保つことが可能となる。
図8は、実施形態にかかるプラズマエネルギーと被処理物表面の濡れ性、ビーディング、pH値および浸透性との関係を示すグラフである。図8では、被処理物20としてコート紙へ印刷した場合の表面特性(濡れ性、ビーディング、pH値、浸透性(吸液特性))がプラズマエネルギーに依存してどのように変化するかが示されている。なお、図8に示す評価を得るにあたり、インクには、顔料が酸により凝集する特性の水性顔料インク(マイナスに帯電した顔料が分散されているアルカリ性インク)を使用した。
図8に示すように、コート紙表面の濡れ性は、プラズマエネルギーが低い値(たとえば0.2J/cm2程度以下)で急激に良くなり、それ以上エネルギーを増加させてもあまり改善はしない。一方、コート紙表面のpH値は、ある程度まではプラズマエネルギーを高めることにより低下していく。ただし、プラズマエネルギーがある値(たとえば4J/cm2程度)を超えたところで飽和状態になる。また、浸透性(吸液特性)は、pHの低下が飽和したあたり(たとえば4J/cm2程度)から急激に良くなっている。ただし、この現象は、インクに含まれている高分子成分に依存して異なる。
この結果として、浸透性(吸液特性)がよくなり始めて(例えば4J/cm2程度)からビーディング(粒状度)の値が非常に良い状態となっている。ここでのビーディング(粒状度)とは、画像のざらつき感を数値で表したものであり、濃度のばらつきを平均濃度の標準偏差で表したものである。図8では、2色以上のドットからなる色のベタ画像の濃度を複数サンプリングし、その濃度の標準偏差をビーディング(粒状度)として表している。このように実施形態にかかるプラズマ処理を施したコート紙に吐出されたインクが真円上に広がりかつ凝集しながら浸透するため、画像のビーディング(粒状度)が改善される。
上述したように、被処理物20表面の特性と画像品質との関係では、表面の濡れ性が向上することにより、ドットの真円度が向上している。この理由としては、プラズマ処理により生成された親水性の極性官能基によって被処理物20表面の濡れ性が向上するとともにこれが均一化したことに加え、ゴミや油分や炭酸カルシウムなどの撥水要因がプラズマ処理によって除外されたことによると考えられる。被処理物20表面の濡れ性が向上した結果、液滴が円周方向に均等に拡がり、ドットの真円度が向上する。
また、被処理物20表面を酸性化(pHの低下)させることにより、インク顔料の凝集、浸透性の向上、ビヒクルのコート層内部への浸透などが生じる。これらにより、被処理物20表面の顔料濃度が上昇するため、ドットが合一したとしても、顔料の移動を抑えることが可能となり、その結果、顔料の混濁が抑制し、顔料を均一に被処理物表面に沈降凝集させることが可能となる。ただし、顔料混濁の抑制効果は、インクの成分やインクの滴量に依存して異なる。たとえばインクの適量が小滴の場合、大滴の場合に比べて、ドットの合一による顔料の混濁は発生し難い。それは、ビヒクル量が小滴の場合の方が、ビヒクルがより早く乾燥・浸透するためであり、少しのpH反応で顔料を凝集することができるためである。なお、プラズマ処理の効果は、被処理物20の種類や環境(湿度など)によって変動する。そこで、プラズマ処理の際のプラズマエネルギーを最適な値とすることで、被処理物20の表面改質効率が向上するため、さらなる省エネを達成することが可能となる。
また、図9は、実施形態にかかるプラズマエネルギーとpHとの関係を示すグラフである。通常、pHは溶液中で測定するのが一般的であるが、近年では、固体表面のpHの測定が可能である。その測定器としては、たとえば堀場製作所製のpHメーターB−211等が存在する。
図9において、実線はコート紙のpH値のプラズマエネルギー依存性を示し、点線はPETフィルムのpH値のプラズマエネルギー依存性を示す。図9に示すように、コート紙と比べてPETフィルムは、少ないプラズマエネルギーで酸性化する。ただし、コート紙においても、酸性化する際のプラズマエネルギーは3J/cm2程度以下であった。そして、pH値が5以下となった被処理物20にアルカリ性の水性顔料インクを吐出するインクジェット処理装置で画像記録した場合、形成された画像のドットは真円に近い形状となった。また、ドットの合一による顔料の混濁もなく、にじみのない良好な画像が得られた(図6参照)。
つぎに、本発明の実施形態にかかる被処理物改質装置、印刷装置、印刷システムおよび印刷物の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、本実施形態では、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の4色の吐出ヘッド(記録ヘッド、インクヘッド)を有する画像形成装置を説明するが、これらの吐出ヘッドに限定されない。すなわち、グリーン(G)、レッド(R)及びその他の色に対応する吐出ヘッドを更に有してもよいし、ブラック(K)のみの吐出ヘッドを有していてもよい。ここで、以後の説明において、K、C、M及びYは、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの夫々に対応するものとする。
また、本実施形態では、被処理物として、ロール状に巻かれた連続紙(以下、ロール紙という)を用いるが、これに限定されものではなく、たとえばカット紙など、画像を形成できる記録媒体であればよい。そして、紙の場合その種類としては例えば、普通紙、上質紙、再生紙、薄紙、厚紙、コート紙等を用いることができる。また、OHPシート、合成樹脂フィルム、金属薄膜及びその他表面にインク等で画像を形成することができるものも被処理物として用いることができる。紙がコート紙のような非浸透、緩浸透紙の場合、本発明はより効果を発する。ここで、ロール紙は、切断可能なミシン目が所定間隔で形成された連続紙(連帳紙、連続帳票)であってよい。その場合、ロール紙におけるページ(頁)とは、例えば所定間隔のミシン目で挟まれる領域とする。
図10は、本実施形態にかかる印刷装置(システム)の概略構成を示す模式図である。図10に示すように、印刷装置(システム1)は、被処理物20(ロール紙)を搬送経路D1に沿って搬入(搬送)する搬入部30と、搬入された被処理物20に対して前処理としてのプラズマ処理を施すプラズマ処理装置100と、プラズマ処理された被処理物20の表面に画像を形成する画像形成部40とを有する。プラズマ処理装置100とインクジェット記録装置170との間には、プラズマ処理などの前処理済の被処理物20のインクジェット記録装置170への送り量を調節するためのバッファ部80が設けられている。また、画像形成部40は、プラズマ処理された被処理物20にインクジェット処理により画像を形成するインクジェット記録装置170を含む。画像形成部40は、画像が形成された被処理物20を後処理する後処理部70をさらに含んでもよい。
なお、印刷装置(システム1)は、後処理された被処理物20を乾燥する乾燥部50と、画像形成された(場合によってはさらに後処理された)被処理物20を搬出する搬出部60とを有してもよい。また、印刷装置(システム1)は、被処理物20に対して前処理を施す前処理部として、プラズマ処理装置100の他に、被処理物20表面に高分子材料を含む先塗り剤と呼ばれる処理液を塗布する先塗り処理部(不図示)をさらに備えてもよい。さらに、プラズマ処理装置100と画像形成部40との間には、プラズマ処理装置100による前処理後の被処理物20表面のpH値を検出するためのpH検出部180が設けられてもよい。
さらにまた、印刷装置(システム1)は、各部の動作を制御する制御部(不図示)を有する。この制御部は、たとえば印刷対象の画像データからラスタデータを生成する印刷制御装置に接続されてもよい。印刷制御装置は、印刷装置(システム)1の内部に設けられても、インターネットやLAN(Local Area Network)などのネットワークを介した外部に設けられてもよい。
実施形態では、図10に示す印刷装置(システム)1において、上述したように、インクジェット記録処理の前に、被処理物の表面を酸性化する酸性化処理が実行される。この酸性化処理には、たとえば誘電体バリア放電を利用した大気圧非平衡プラズマ処理を採用することができる。大気圧非平衡プラズマによる酸性化処理は、電子温度が極めて高く、ガス温度が常温付近であるため、記録媒体などの被処理物に対するプラズマ処理方法として好ましい方法の1つである。
大気圧非平衡プラズマを広範囲に安定して発生させるには、ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電を採用した大気圧非平衡プラズマ処理を実行するとよい。ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電は、たとえば誘電体で被覆された電極間に交番する高電圧が印加することで得ることが可能である。
なお、大気圧非平衡プラズマを発生させる方法としては、上述したストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電以外にも、種々の方法を用いることができる。たとえば、電極間に誘電体等の絶縁物を挿入する誘電体バリア放電、細い金属ワイヤ等に著しい不平等電界を形成するコロナ放電、短パルス電圧を印加するパルス放電などを適用することが可能である。また、これらの方法を2つ以上組み合わせることも可能である。
つづいて、図10に示す印刷装置(システム)1におけるプラズマ処理装置100からインクジェット記録装置170までの構成を、図11に抜粋して示す。図11に示すように、印刷装置(システム)1は、被処理物20の表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置100と、被処理物20表面のpH値を測定するpH検出部180と、被処理物20にインクジェット記録にて画像を形成するインクジェット記録装置170と、印刷装置(システム)1全体を制御する制御部160とを含む。また、印刷装置(システム)1は、被処理物20を搬送経路D1に沿って搬送するための搬送ローラ190を備える。搬送ローラ190は、たとえば制御部160からの制御にしたがって回転駆動することで、被処理物20を搬送経路D1に沿って搬送する。
プラズマ処理装置100は、図3に示す大気圧非平衡プラズマ処理装置10と同様に、放電電極110と、カウンター電極141と、高周波高圧電源150と、電極間に挟まれた誘電体ベルト121とを備える。ただし、図11では、放電電極110が5つの放電電極111〜115で構成され、これらの放電電極111〜115と誘電体ベルト121を挟んで対向する範囲全体にカウンター電極141が設けられている。また、高周波高圧電源150は、放電電極111〜115の数に応じて5つの高周波高圧電源151〜155より構成されている。
誘電体ベルト121には、被処理物20を搬送する用途を兼ねるために、無端のベルトが用いられるとよい。そこで、プラズマ処理装置100は、誘電体ベルト121を巡回させて被処理物20を搬送するための回転ローラ122をさらに備える。回転ローラ122は、制御部160からの指示に基づいて回転駆動することで、誘電体ベルト121を巡回させる。これにより、被処理物20が搬送経路D1にそって搬送される。
制御部160は、高周波高圧電源151〜155を個別にオン/オフすることが可能である。また、制御部160は、各高周波高圧電源151〜155が各放電電極111〜115へ供給する高周波・高電圧パルスのパルス強度を調整することもできる。
pH検出部180は、プラズマ処理装置100および先塗り装置(不図示)よりも下流に配置され、プラズマ処理装置100および/または先塗り装置による前処理(酸性化処理)が施された被処理物20表面のpH値を検出して制御部160に入力してもよい。これに対し、制御部160は、pH検出部180から入力されたpH値に基づいてプラズマ処理装置100および/または先塗り装置(不図示)をフィードバック制御することで、前処理後の被処理物20表面のpH値を調整してもよい。
なお、プラズマ処理に要したプラズマエネルギーは、たとえば各高周波高圧電源151〜155から各放電電極111〜115へ供給した高周波・高電圧パルスの電圧値および印加時間と、その際に被処理物20に流れた電流とから求めることができる。なお、プラズマ処理に要したプラズマエネルギーは、放電電極111〜115ごとではなく、放電電極110全体でのエネルギー量として制御されてよい。
被処理物20は、プラズマ処理装置100においてプラズマが発生している最中に放電電極110と誘電体ベルト121との間を通過することでプラズマ処理が施される。それにより、被処理物20表面のバインダ樹脂の鎖が破壊され、さらに気相中の酸素ラジカルやオゾンが高分子と再結合することで、被処理物20表面に極性官能基が生成される。その結果、被処理物20表面に親水性および酸性化が付与される。なお、本例ではプラズマ処理を大気中で行っているが、窒素や希ガス等のガス雰囲気中で実施してもよい。
また、複数の放電電極111〜115を備えることは、被処理物20の表面を均一に酸性化する点においても有効である。すなわち、たとえば同じ搬送速度(または印刷速度)とした場合、1つの放電電極で酸性化処理を行う場合よりも複数の放電電極で酸性化処理を行う場合の方が被処理物20がプラズマの空間を通過する時間を長くすることが可能となる。その結果、より均一に被処理物20の表面に酸性化処理を施すことが可能となる。
インクジェット記録装置170は、インクジェットヘッドを備える。インクジェットヘッドは、たとえば印刷速度の高速化のために、複数の同色ヘッド(たとえば4色×4ヘッド)を備えている。また、高速で高解像度(たとえば1200dpi)の画像形成を達成するために、各色のヘッドのインク吐出ノズルは、間隔を補正するようにずらして固定されている。さらに、インクジェットヘッドは、各ノズルから吐出されるインクのドット(液滴)が大/中/小滴と呼ばれる3種類の容量に対応するように、複数の駆動周波数で駆動可能となっている。
インクジェットヘッド171は、被処理物20の搬送経路上においてプラズマ処理装置100よりも下流に配置される。インクジェット記録装置170は、制御部160からの制御のもと、プラズマ処理装置100による前処理(酸性化処理)が施された被処理物20に対してインクを吐出することで画像形成を行う。
図11に示すように、インクジェット記録装置170のインクジェットヘッドとしては、複数の同色ヘッド(4色×4ヘッド)を備えてもよい。これにより、インクジェット記録処理の高速化が可能になる。その際、たとえば高速で1200dpiの解像度を達成するためには、インクジェットヘッドにおける各色のヘッドは、インクを吐出するノズルとノズルとの間隔を補正するようにずらして固定されている。さらに、各色のヘッドには、そのノズルから吐出されるインクのドットが大/中/小滴と呼ばれる3種類の容量に対応するように、いくつかのバリエーションを持った駆動周波数の駆動パルスが入力される。
また、複数の放電電極111〜115を備えることは、被処理物20の表面を均一にプラズマ処理する点においても有効である。すなわち、たとえば同じ搬送速度(または印刷速度)とした場合、1つの放電電極でプラズマ処理を行う場合よりも複数の放電電極でプラズマ処理を行う場合の方が被処理物20がプラズマの空間を通過する時間を長くすることが可能となる。その結果、より均一に被処理物20の表面にプラズマ処理を施すことが可能となる。
つづいて、図10におけるバッファ部80について、図面を用いて詳細に説明する。プラズマ処理装置100における処理速度、すなわち被処理物20の搬送速度は、インクジェット記録装置170での印刷速度に応じて変化させることで、プラズマ処理装置100とインクジェット記録装置170との間の被処理物20の量(長さ)を調整することが可能である。ただし、プラズマ処理装置100における処理速度とインクジェット記録装置170での印刷速度とを完全に一致させることは困難である。
そこで上述したように、プラズマ処理装置100とインクジェット記録装置170との間には、プラズマ処理などの前処理済の被処理物20のインクジェット記録装置170への送り量を調節するためのバッファ部80が設けられる。
また、インクジェット記録装置170の印刷速度が速い場合、プラズマ処理装置100における表面処理の速度を上げる必要がある。そのため、短時間で表面処理を終えるにはプラズマエネルギーを大きくしなければならず、その結果、印刷装置(システム1)が搭載する高周波高圧電源150の大型化などが発生する場合がある。
そこで実施形態では、バッファ部80で蓄えられた前処理済の被処理物20を搬入部30側に巻き戻しし、再度、プラズマ処理装置100にてプラズマ処理できる構成とすることで、高出力の高周波高圧電圧を用いることなく、必要なプラズマエネルギーでのプラズマ処理を可能にする。このような構成によれば、搭載する高周波高圧電源の大型化を回避するだけでなく、インク付着量(使用量)の低減や印刷後の乾燥エネルギーの低減などの効果も得られる。
図12は、実施形態にかかるバッファ部の概略構成を示す模式図である。図12に示すように、バッファ部80は、被処理物20を保持する複数のコロ81と、各コロ81を位置変位および回転可能に保持するスプリング82と、複数のコロ81の少なくとも1つの位置を検出するためのセンサ83とを備える。
また、バッファ部80のプラズマ処理装置100側には、プラズマ処理装置100からの被処理物20の搬入/搬出位置を安定化させるための導入/導出部84が設けられている。導入/導出部84は、たとえば被処理物20を2つのコロで挟持する構成を備えている。この導入/導出部84は、たとえば2つのコロのうち少なくとも1つが自転することで、被処理物20をバッファ部80内に引き込む、または、被処理物20をプラズマ処理装置100へ送り出すように動作してもよい。
また、バッファ部80のインクジェット記録装置170側には、インクジェット記録装置170への被処理物20の搬出位置を安定化させるための導出部85が設けられている。導出部85は、導入/導出部84と同様に、たとえば被処理物20を2つのコロで挟持する構成を備えており、たとえば2つのコロのうち少なくとも1つが自転することで被処理物20をインクジェット記録装置170へ送り出すように動作してもよい。
各スプリング82は、たとえば複数のコロ81が互い違いの方向へ交互に引っ張られるように、各コロ81を保持する。バッファ部80に搬入された被処理物20は、互い違いの方向へ交互に引っ張られる複数のコロ81によってその張力が保たれるように、複数のコロ81に互い違いに掛架される。
センサ83は、複数のコロ81の少なくとも1つの位置を検出する。制御部160は、センサ83の検出結果に基づいて、スプリング82が有効範囲内にあるか否かを判定する。なお、有効移動範囲とは、複数のコロ81によって保持された被処理物20に適切な張力を与えることができる各コロ81の位置範囲である。したがって、少なくとも1つのコロ81が有効範囲を外れている場合、被処理物20にたわみが生じているか、もしくは、被処理物20が破れる可能性がある程度に引っ張られていることになる。
バッファ部80内の被処理物20のたわみは、結果物として出力される印刷物のシワや印刷位置ずれなどの原因となる。そこで制御部160は、被処理物20にたわみが生じないように、センサ83の検出結果と有効範囲とに基づいて、搬入部30による被処理物20の送り出し量、および、プラズマ処理装置100における処理速度のうち少なくとも1つを制御する。同様に、制御部160は、被処理物20が破れないように、センサ83の検出結果と有効範囲とに基づいて、搬入部30による被処理物20の送り出し量、および、プラズマ処理装置100における処理速度のうち少なくとも1つを制御する。
搬入部30は、ロール状に巻かれた被処理物20を正回転および逆回転自在な構成を備える。ロール状に巻かれた被処理物20を正回転させた場合、被処理物20は搬送経路D1に沿って順方向R1に搬送される。その結果、被処理物20がプラズマ処理装置100を介してバッファ部80に供給される。
一方、ロール状に巻かれた被処理物20を逆回転させた場合、被処理物20は搬送経路D1に沿って逆方向R2に搬送される。その結果、被処理物20が巻き取られる。その際、バッファ部80に保持された被処理物20がスプリング82を伸張し、それにより引き出された被処理物20がバッファ部80からプラズマ処理装置100側へ巻き戻される。プラズマ処理装置100は、被処理物20が順方向R1に移動する際、被処理物20が逆方向R2に移動する際、および、被処理物20が再度順方向R1に移動する際のうち少なくとも1つで、被処理物20に対する前処理としてのプラズマ処理を実施する。
つづいて、実施形態にかかるインクジェット記録装置170のインクジェットヘッドについて、図面を用いて詳細に説明する。インクジェットヘッドとしては、図13に示すようなシャトル方式や、図14に示すようなラインヘッド方式などが存在する。
図13に示すように、シャトル方式のインクジェットヘッド170Aは、被処理物20の搬送経路D1に対して垂直な方向D3に延在する軸部172と、方向D3に軸部172をスライド可能なヘッド部171Aとを備える。ヘッド部171Aには、上述したように、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)などの複数種類の吐出ヘッド(記録ヘッド、インクヘッド)が設けられる。このようなシャトル方式のインクジェットヘッド170Aでは、被処理物20を搬送経路D1に沿って所定距離移動して停止すると、ヘッド部171Aが軸部172に沿って方向D3に移動しつつ吐出ヘッドからインクを吐出する。このような動作を繰り返すことで、被処理物20に画像が形成される。
また、図14に示すように、ラインヘッド方式のインクジェットヘッド170Bは、搬送経路D1に対して垂直な方向D3に複数の吐出ヘッド173a〜173jが配列したヘッド部171Bを備える。このようなラインヘッド方式のインクジェットヘッド170Bでは、被処理物20の搬送経路D1に沿った搬送と、吐出ヘッドからのインクの吐出とを同時に行うことができる。
つづいて、実施形態にかかる制御部160を、図面を用いてより詳細に説明する。図15は、実施形態にかかる制御部の一例を示す機能ブロック図である。図15に示すように、制御部160は、CPU(Central Processing Unit)161、ROM(Read Only Memory)162、RAM(Random Access Memory)163、ホストインターフェイス(I/F)166などを備えたパーソナルコンピュータなどの一般的な情報処理装置であってよい。また、制御部160は、特定の処理を実行するためのASIC(Application Specific Integrated Circuits)165を備えてもよい。
さらに、制御部160は、インクジェットヘッド171を駆動するためのヘッドドライバ104およびインクジェットヘッド171のインク吐出動作をヘッドドライバ104を介して制御するためのヘッド駆動制御部103と、搬送モータ191を駆動・制御する搬送ベルト駆動制御部105と、前処理手段であるプラズマ処理装置100を駆動・制御する前処理駆動制御部106とを備える。なお、インクジェットヘッド171は、たとえば図13または図14に示したインクジェットヘッド171Aまたは171Bに相当する。搬送モータ191は、たとえば図11に示す搬送ローラ190や誘電体ベルト121が掛架された回転ローラ122を順回転または逆回転させるための動力源である。インバータ142は、放電電極110およびカウンター電極141間に高周波・高電圧パルスを印加するための高周波高圧電源150のインバータである。
また、制御部160は、印刷モードやカラー/白黒モードなどの画像モードを設定する画像モード設定部101と、被処理物20の種類を設定する用紙種類設定部102と、これらを情報処理装置へ接続する入出力(I/O)ポート164とを備えてもよい。I/Oポート164には、その他の各種センサを接続することもできる。
以上のような構成において、制御部160は、上位装置であるホストから印刷指示を受け付けると、前処理実行の有無を判断する。なお、本説明では、前処理とはプラズマ処理である。前処理実行が指示されている場合、印刷条件として画像モード設定部101から指示される画像モードおよび用紙種類設定部102から指示される用紙種類に応じて前処理駆動制御部106及び搬送ベルト制御部105が動作することにより、被処理物20の搬送と前処理であるプラズマ処理とが行なわれる。画像モードおよび用紙種類に応じたプラズマ処理に必要なプラズマエネルギー(以下、必要エネルギーという)は、あらかじめ設計時に条件テーブルとしてROM162に保存され、プラズマ処理実行時にその条件テーブルを読み出されてもよい。前処理駆動制御部106及び搬送ベルト制御部105は、読み出した必要エネルギーに応じてインバータ142および搬送モータ191を駆動することで、必要なエネルギーのプラズマ処理を被処理物20に実施する。なお、読み出した必要エネルギーに応じて実施されるプラズマ処理の回数は、1回でなくてもよい。すなわち、2回またはそれ以上の回数に分割してプラズマ処理が実施されることで、必要エネルギーが満足されてもよい。または、プラズマ処理の繰返し回数または往復回数が必要エネルギーとともに条件テーブルに登録されており、プラズマ処理回数または往復回数に基づいて被処理物20が往復搬送されてもよい。
制御部160は、印刷動作時に、I/F166に含まれる受信バッファ内の印刷データをCPU161で読み出して解析し、ASIC165で印刷データの並び替え処理や画像処理の一部の処理を行った後、処理後の画像データをヘッド駆動制御部103へ転送する。画像出力するための印刷データの1つであるビットマップデータ(印刷ラスタデータ)への変換は、ホスト側のプリンタドライバで画像データをビットマップデータに展開することで作成される。制御部160へは、この作成された印刷ラスタデータがホストから転送される。
ヘッド駆動制御部103は、I/F166が印刷ラスタデータを受け取ると、このドットパターンデータ(印刷ラスタデータ)をクロック信号に同期してヘッドドライバ104にシリアル送信するとともに、所定のタイミングでラッチ信号をヘッドドライバ104に送出する。ヘッド駆動制御部103は、駆動波形(駆動信号)のパターンデータを格納したROMと、このROM162から読出される駆動波形のデータをD/A変換するD/A変換器を含む波形生成回路及びアンプ等で構成される駆動波形発生回路を含む。また、ヘッドドライバ104は、ヘッド駆動制御部103からのクロック信号及び画像データであるシリアルデータを入力するシフトレジスタと、シフトレジスタのレジスト値をヘッド駆動制御部103からのラッチ信号でラッチするラッチ回路と、ラッチ回路の出力値をレベル変化するレベル変換回路(レベルシフタ)と、このレベルシフタでオン/オフが制御されるアナログスイッチアレイ(スイッチ部)等を含む。
ヘッドドライバ104は、アナログスイッチアレイのオン/オフを制御することで駆動波形に含まれる所要の駆動波形を選択的に各インクジェットヘッド171のアクチュエータに印加して吐出ヘッドを駆動する。これにより、画像データのドットパターンが形成される。
搬送ベルト駆動部制御部105は、前処理及び印刷時に、搬送モータ191を作動する。インクジェットヘッド171は不図示の搬送ベルトや誘電体ベルト121によって搬送される被処理物20に対し、図示しない用紙先端検知センサからの検知信号とタイミングに基づいてインクを吐出することで、画像データのドットパターンを形成する。
つぎに、実施形態にかかる制御部160の動作について、図面を用いて詳細に説明する。図16は、実施形態にかかる制御部160の印刷動作例を示すフローチャートである。図16に示すように、制御部160は、まず、ホストからの印刷指示を待機し(ステップS101;NO)、印刷指示を受信すると(ステップS101;YES)、画像モード設定部101から画像モードの指示を受け付ける(ステップS102)とともに、用紙種類設定部102から用紙種類の指示を受け付ける(ステップS103)。なお、画像モードと用紙種類とは、印刷指示とともにホストから指示され、RAM163に記録される。
つぎに、制御部160は、たとえば搬送ベルト駆動制御部105を介して搬送モータ191を駆動することで、搬入部30(図10参照)から搬送経路D1上への被処理物20の搬入を開始する(ステップS104)。つぎに、制御部160は、前処理としてのプラズマ処理を実施する指示があったか否かを判定する(ステップS105)。この指示は、たとえばホストから受信した印刷指示に含まれていてもよいし、ユーザが不図示の入力手段から設定入力してもよい。
前処理実施の指示がない場合(ステップS105;NO)、制御部160は、ステップS107へ移行して、印刷処理を開始する。一方、前処理実施の指示がある場合(ステップS105;YES)、制御部160は、搬送ベルト駆動制御部105および前処理駆動制御部106を介したプラズマ処理装置100の駆動を開始することで、被処理物20に対するプラズマ処理を開始し(ステップS106)、つづいて、ステップS107において印刷処理を開始する。なお、ステップS106によって開始されるプラズマ処理の動作については、図17に示す。
ステップS107において印刷処理された被処理物20は、順次搬出部から搬出される(ステップS108)。その後、制御部160は、印刷処理を終了するか否かを判定し(ステップS109)、終了しない場合(ステップS109;NO)、ステップS101へリターンして、以降の動作を実行する。
また、図17に示すように、図16のステップS106においてプラズマ処理を開始すると、制御部160は、まず、ROM162等から条件テーブルを読み出す(ステップS111)。具体的には、制御部160は、画像モードと用紙種類との組み合わせに応じたプラズマ処理条件をあらかじめROM162に記録された条件テーブルから選択する。
つぎに、制御部160は、読み出した条件テーブルに含まれる必要エネルギーに基づき、プラズマ処理を繰り返す回数Nを設定する(ステップS112)。つづいて、制御部160は、不図示のカウンタの値Kをリセット(K=0)する(ステップS113)。なお、プラズマ処理の繰返し回数Nは、上述したように、条件テーブルに含まれていてもよいし、条件テーブルより特定される必要エネルギーまたは往復回数から求められてもよい。
つぎに、制御部160は、搬送ベルト駆動制御部105を介した搬送モータ191の駆動を開始することで、搬入部30のロール紙から所定量(長さ)の被処理物20の搬送経路D1上への搬入を開始する(ステップS114)。なお、搬入された被処理物20は、プラズマ処理装置100を介してバッファ部80に一時蓄えられる。また、制御部160は、被処理物20の所定量の搬送中にインバータ142を駆動してプラズマ処理装置100を動作させることで、被処理物20に対するプラズマ処理を1回実行する(ステップS115)。
つぎに、制御部160は、カウンタ値Kに1加算し(ステップS116)、加算後のカウンタ値Kが繰返し回数N以上となったか否かを判定する(ステップS117)。カウンタ値Kが繰返し回数N未満である場合(ステップS117;NO)、制御部160は、搬送ベルト駆動制御部105を介して搬送モータ191を駆動してプラズマ処理装置100より上流(搬入部30側)の搬送ローラおよび搬入部30を逆回転に駆動することで、被処理物20を搬入部30のロール紙に巻き戻す(ステップS118)。この際、バッファ部80の導出部85(図12参照)から上流(搬出部60側)の搬送ローラは停止または順回転しているため、バッファ部80に蓄えられている被処理物20が搬送経路D1を逆方向R2に搬送される。その後、制御部160は、ステップS114にリターンし、以降の動作を再度実行することで、2回目以降のプラズマ処理を実行する。なお、制御部160は、被処理物20を搬入部30のロール紙に巻き戻している最中にインバータ142を駆動してプラズマ処理装置100を動作させることで、被処理物20に対してプラズマ処理を実行してもよい。
一方、カウンタ値Kが繰返し回数N以上である場合(ステップS117;YES)、制御部160は、前処理としてのプラズマ処理を終了するか否かを判定し(ステップS119)、終了する場合(ステップS119;YES)、本動作を終了する。一方、前処理を継続する場合(ステップS119;NO)、制御部160は、ステップS114へリターンし、以降の動作を実行する。
ここで、上述した説明における画像モードとは、たとえば文字優先(文字)、文字写真混在(文字/写真)、写真優先(写真)等のモード等であり、印刷品質に応じたディザパターンの種類や誤差拡散方式の選択など、印刷品質に関わる画像ドット配置の方式選択の指示である。
写真優先の画像モードの場合、ドットの滲みや意図しないドットの合一などが発生すると階調表現の悪化につながるため、たとえば文字優先の画像モードと比べてプラズマ処理の繰返し回数を増加させるとよい。これに対し、文字優先の画像モードの場合、文字が判読できる程度の品質であればよいため、プラズマ処理の繰返し回数は、細かい4p等の文字の滲みが悪化して判読不可にならない程度の回数でよい。また、文字/写真の画像モードでは、文字と写真とが混在するため、上述した写真優先と文字優先との間の範囲でプラズマ処理を行なうとよい。
また、用紙種類とは、たとえばアート紙、上質コート紙、軽量コート紙、微塗工紙、普通紙、IJ(インクジェット)専用紙などの用紙設定である。これらの用紙種類は、用紙表面コート層の塗工量に基づいて主に分類されている。たとえば、オフセットコート紙においては、アート紙は約40g/m2、上質コートは約20g/m2、軽量コート紙は約15g/m2、微塗工は約12g/m2と、塗工量が定義されている場合がある。一般的に、塗工量が増えるほど水性インクは浸透しにくい傾向となる。そのような場合、プラズマ処理の繰返し回数を増やすことで、水性インクの浸透性を改善することができる。一方で、普通紙やIJ専用紙は、たとえばオフセットコート紙と比較して浸透性に優れている。そのため、オフセットコート紙に比べて、プラズマ処理の繰返し回数は少なくてよい。
なお、用紙種類は、ユーザにより様々な用紙が使われる可能性があるため、ユーザモードとして用紙種類を個別登録可能な構成としてもよいし、インターネットにつないで使用用紙をオンラインのデータベース上に登録したり用紙設定をダウンロードできたりする構成としてもよい。
つづいて、用紙種類と画像モードとに基づいてプラズマ処理の繰返し回数Nを決定する方法について説明する。以下の表1は、実施形態にかかる条件テーブルの一例を示している。ただし、表1では、必要エネルギー(プラズマエネルギー)の代わりに、プラズマ処理の繰返し回数nが用紙種類および画像モードに対応づけて登録されている。したがって、表1から、プラズマ処理の繰返し回数Nは、そのまま繰返し回数nと特定できる。なお、繰返し回数nの代わりに必要エネルギーが登録されている場合には、たとえばプラズマ処理1回分のプラズマエネルギーで必要プラズマエネルギーを除算することで、繰返し回数Nを求めることができる。
また、以下の表2は、表1に示した条件テーブルから特定される繰返し回数nに被処理物20の処理前の表面pH値(以下、メディアpH値という)を加味してプラズマ処理の繰返し回数Nを決定する際に表1とともに使用する条件テーブルの一例を示す。表2では、メディアpH値に係数pが対応づけて登録されている。メディアpH値を加味した繰返し回数Nの決定方法では、以下の式(1)に示すように、表1に示す条件テーブルから特定した繰返し回数nに、メディアpH値から特定した係数pが乗算される。たとえば、用紙種類がアート紙、画像モードが文字優先、メディアpH値が6.3である場合、表1から繰返し回数nが5回、表2から係数pが1.2と求まるため、以下の式(1)より、繰返し回数Nは、6回と算出される。なお、式(1)から求まる値が少数点を含む場合、1回のプラズマ処理または複数回のプラズマエネルギーを調整してもよいし、式(1)から求まる値の小数点以下を四捨五入してもよい。
N=n×p…(1)
さらに、表3は、表1に示した条件テーブルから特定される繰返し回数nにインク種類を加味してプラズマ処理の繰返し回数Nを決定する際に表1とともに使用する条件テーブルの一例を示す。表3では、インク種類に係数qが対応づけて登録されている。インク種類を加味した繰返し回数Nの決定方法では、以下の式(2)に示すように、表1に示す条件テーブルから特定した繰返し回数nに、インク種類から特定した係数qが乗算される。たとえば、用紙種類がアート紙、画像モードが文字優先、pH反応性が小のインクを用いた場合、表1から繰返し回数nが5回、表3から係数qが2と求まるため、以下の式(2)より、繰返し回数Nは、10回と算出される。なお、式(2)から求まる値が少数点を含む場合、1回のプラズマ処理または複数回のプラズマエネルギーを調整してもよいし、式(2)から求まる値の小数点以下を四捨五入してもよい。
N=n×q…(2)
さらにまた、表1〜表3を用いて繰返し回数Nを算出してもよい。すなわち、表1に示した条件テーブルから特定される繰返し回数nに、メディアpH値およびインク種類を加味してプラズマ処理の繰返し回数Nを決定してもよい。その場合、以下の式(3)に示すように、表1に示す条件テーブルから特定した繰返し回数nに、メディアpH値から特定した係数pと、インク種類から特定した係数qとが乗算される。たとえば、用紙種類がアート紙、画像モードが文字/写真混在、メディアpH値が6.6、pH反応性が小のインクを用いた場合、表1から繰返し回数nが6回、表2から係数pが1.5、表3から係数qが2と求まるため、以下の式(3)より、繰返し回数Nは、18回と算出される。なお、式(3)から求まる値が少数点を含む場合、1回のプラズマ処理または複数回のプラズマエネルギーを調整してもよいし、式(2)から求まる値の小数点以下を四捨五入してもよい。
N=n×p×q…(3)
なお、表1〜表3から特定される繰返し回数n、係数pおよびqは、それぞれプラズマ処理装置100で発生可能なプラズマエネルギーにより決定される値である。
また、図18に、先塗り処理を施した被処理物とプラズマ処理を施した被処理物とのインク付着量に対する画像(ドット)濃度の測定結果を示す。なお、図18では、被処理物20として普通紙を用い、インクとして黒色のインクを用いた。図18に示すように、被処理物20として普通紙を用いた場合、プラズマ処理が施された普通紙のドット濃度は、前処理が何も施されていない普通紙(以下、未処理の普通紙という)に比べて全体的に高めであるものの、先塗り処理が施された普通紙と比較すると、その飽和濃度が低かった。
また、濃度平衡状態になる前のドット濃度(中間調濃度)は、プラズマ処理の方が先塗り処理よりも効率的に上昇している。これは、中間調のドットを形成する場合、同じドット濃度を得るためのインク付着量は、先塗り処理が施された普通紙よりもプラズマ処理が施された普通紙の方が少なくて済むことを示している。具体的には、プラズマ処理が施された普通紙では、未処理の普通紙と比較してインク付着量を1%〜18%低減でき、また、先塗り処理が施された普通紙と比較して15%〜29%低減できた。
プラズマ処理が施された普通紙での飽和濃度が先塗り処理が施された普通紙の飽和濃度よりも低くなる理由としては、先塗り処理が施された普通紙では、セット効果によってドット濃度が高くなるためであると考えられる。すなわち、プラズマ処理を施した普通紙では着弾したドットが広がるため、同じ付着量でも広がった分顔料が分散してピーク濃度が落ちるが、先塗り処理を施した普通紙ではドットが広がり難いため、その分飽和濃度が高くなると考えられる。
以上の結果から、浸透し難い被処理物と浸透し易い被処理物とでは、プラズマ処理と先塗り処理とでそれぞれ異なった効果が得られた。このことから、印刷システムとしてプラズマ処理と先塗り処理とを併用することで、被処理物20の画像形成に対する対応能力を向上させることが可能であることがわかる。また、プラズマ処理と先塗り処理との併用は、たとえば、プラズマエネルギーをプラズマ処理単体の1/20程度、塗布量を先塗り処理単体の約3/5程度に減らすことを可能にする。このことは、低消費エネルギーおよび低塗布量で高画質の印刷物を得られることを意味する。さらに、高いドット濃度を得ることが可能であるため、付着させるインク量を減らすことが可能となる。その結果、印刷コストの更なる削減が可能となる。
さらにまた、図18に示す結果からは、浸透し難い被処理物にはプラズマ処理が効果的に作用し、浸透し易い被処理物には先塗り処理が効果的に作用していることが判る。これは、被処理物の性状に応じてプラズマ処理と先塗り処理との実施条件を適宜調整することで、被処理物に対して最適な前処理を実現することが可能であることを示している。
図19は、プラズマ処理と先塗り処理とを併用したときの浸透し難い被処理物の粒状度を示すグラフである。図19に示すグラフでは、粒状度が低い値ほど良好な画像であることを示している。なお、図19において、破線は、プラズマエネルギーを0J/cm2とした場合(すなわち、プラズマ処理を施さなかった場合)の先塗り処理における処理液の塗布量に対する結果を示し、実線は、プラズマエネルギーを0.14J/cm2とした場合(すなわち、プラズマ処理と先塗り処理とを併用した場合)の先塗り処理における処理液の塗布量に対する結果を示している。図19に示すように、たとえば粒状度0.5以下を達成するためには、先塗り処理のみでは約0.2mg/cm2の塗布量が必要であるのに対し、プラズマ処理との併用では約0.1mg/cm2と、およそ半分の塗布量で済むことがわかる。
なお、図19から導き出した上記最適化制御は、被処理物に対するものである。画像の最適化を考えると、実際に印刷して得られた印刷物に基づき最適化制御を行うことがより好ましい。たとえば印刷装置(システム)1に反射濃度計を組み込み、被処理物に対してプラズマ処理のエネルギーや先塗り処理の塗布量を連続的に変化させ、基準となる印刷パターンをインクジェット記録装置170で印刷し、得られた印刷物の印刷濃度を反射濃度計で測定する。そして、最も高い印刷濃度を得た処理条件を最適条件としてこれを維持するように最適化制御を実行しつつ、インクジェット記録を行う。これにより、短時間で測定や処理条件の変更等が行えるため、印刷処理のスループットを向上することが可能となる。また、反射濃度計から取り込んだ濃度情報に基づき特定された最適条件をデータベースとして蓄積することも可能となる。
ただし、インクの成分や種類、被処理物の種類が変更された場合、最適条件も変化する可能性がある。その場合、最適条件をインクの成分や種類や被処理物の種類に対応づけて蓄積および管理しておくことで、様々な条件に応じた最適化制御を実現することが可能となる。
さらに、プラズマ処理前に例えば被処理物の電気抵抗を測定して被処理物の厚さや性状をある程度特定しておいた上で、上記の検討を行って最適条件を導き出すことも容易に考えられる。
さらにまた、被処理物がカット紙である場合、プラズマ処理装置100の排出部と先塗り処理装置の排出部とにそれぞれセンサを設けて各処理の状態を把握し、必要に応じて別の搬送経路を経て再処理を行うように構成してもよい。その場合、制御部160は、センサからの情報に基づきプラズマ処理装置100および先塗り処理装置の処理条件をそれぞれフィードバック制御またはフィードフォワード制御してもよい。
以上のように、プラズマ処理と先塗り処理との併用処理は、プラズマ処理にかかるエネルギーを減らしつつ印刷装置(システム1)の小型化が可能になるとともに、先塗り処理による塗布量を減らしつつ処理液やビヒクルの乾燥時間および乾燥エネルギーを減らすことが可能になる。また、インクの使用量を減らすことも可能になる。さらに、プラズマ処理と先塗り処理との併用処理を実施してインクジェット記録した場合、ドットを真円に近い形状とすることができるとともに、ドットが合一しても顔料が混ざることを防止できるため、にじみの発生の少ない、良好な画像を得ることが可能となる。
以上、本発明者によってなされた発明を好適な実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例で説明したものに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。