以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な実施形態であるので、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明によって不当に限定されるものではなく、また、本実施の形態で説明される構成の全てが本発明の必須の構成要件ではない。
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1にかかる印刷装置、印刷システムおよび印刷物の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。実施形態1は、被処理物表面を改質して高品質な印刷物を製造可能にするために、以下の特徴を有する。
すなわち、実施形態1では、1色目のインクドットに重畳または隣接する領域に2色目のインクを着弾させる。このような場合、2色目のインクドットは1色目のインクドットに比べて形状変化が大きくなるため、その変化を検出し易いという特徴がある。そこで、2色目のインクドットの形状変化を検出し、その検出結果に基づいてプラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を調整することで、プラズマ処理された被処理物表面の濡れ性、pH値の低下によるインク顔料の凝集性や浸透性をより適切にコントロールすることが可能となる。その結果、インクドットの合一を防止してドットの鮮鋭度や色域を拡げることが可能となるため、ビーディングやブリードといった画像不良を解決して、高品質な画像が形成された印刷物を得ることができる。また、被処理物表面の顔料の凝集厚みが薄く均一になるため、インク液滴量を削減して、インク乾燥エネルギーの低減および印刷コストの低減を図ることも可能になる。
実施形態1を説明するにあたり、まず、実施形態1で採用するプラズマ処理の一例について、以下に図面を参照して詳細に説明する。実施形態1で採用するプラズマ処理では、被処理物に大気中のプラズマ照射を行うことによって、被処理物表面の高分子を反応させ、親水性の官能基を形成する。詳細には、放電電極から放出された電子eが電界中で加速されて、大気中の原子や分子を励起・イオン化する。イオン化された原子や分子からも電子が放出され、高エネルギーの電子が増加し、その結果、ストリーマ放電(プラズマ)が発生する。このストリーマ放電による高エネルギーの電子によって、被処理物(たとえばコート紙)表面の高分子結合(コート紙のコート層は炭酸カルシウムとバインダーとして澱粉で固められているが、その澱粉が高分子構造を有している)が切断され、気相中の酸素ラジカルO*や水酸ラジカル(―OH)、オゾンO3と再結合する。これらの処理をプラズマ処理と呼ぶ。これにより、被処理物の表面に水酸基やカルボキシル基等の極性官能基が形成される。その結果、被処理物の表面に親水性や酸性が付与される。なお、カルボキシル基の増加により、被処理物表面が酸性化(pH値の低下)する。
被処理物表面における隣接したドットは、被処理物表面の親水性が上がることにより、濡れ拡がって合一する。これに起因したドット間の混色の発生を防ぐためには、着色剤(例えば顔料や染料)をドット内で迅速に凝集させることや、ビヒクルが濡れ拡がるよりも早くビヒクルを乾燥させたり被処理物内へ浸透させたりすることが必要になる。上記において例示したプラズマ処理は、被処理物表面を酸性化させる酸性化処理手段(工程)としても作用することから、ドット内での着色剤の凝集速度を高めることができる。この点においても、インクジェット記録処理の前処理としてプラズマ処理を実行することは有効であると考えられる。
実施形態1において、プラズマ処理には、たとえば誘電体バリア放電を利用した大気圧非平衡プラズマ処理を採用することができる。大気圧非平衡プラズマによる酸性化処理は、電子温度が極めて高く、ガス温度が常温付近であるため、記録媒体などの被処理物に対するプラズマ処理方法として好ましい方法の1つである。
大気圧非平衡プラズマを広範囲に安定して発生させる方法としては、ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電を採用した大気圧非平衡プラズマ処理が存在する。ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電は、たとえば誘電体で被覆された電極間に交番する高電圧が印加することで得ることが可能である。ただし、大気圧非平衡プラズマを発生させる方法としては、上述したストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電以外にも、種々の方法を用いることができる。たとえば、電極間に誘電体等の絶縁物を挿入する誘電体バリア放電、細い金属ワイヤ等に著しい不平等電界を形成するコロナ放電、短パルス電圧を印加するパルス放電などを適用することが可能である。また、これらの方法を2つ以上組み合わせることも可能である。
図1は、実施形態1で採用されるプラズマ処理を実施するためのプラズマ処理装置の一例を示す概略図である。図1に示すように、実施形態1で採用されるプラズマ処理には、放電電極11と、カウンター電極(接地電極ともいう)14と、誘電体12と、高周波高圧電源15とを備えたプラズマ処理装置10を用いることができる。誘電体12は、放電電極11とカウンター電極14との間に配置される。放電電極11およびカウンター電極14は、金属部分が露出した電極であってもよいし、絶縁ゴムやセラミックスなどの誘電体または絶縁体で被覆された電極であってもよい。また、放電電極11とカウンター電極14との間に配置される誘電体12は、ポリイミド、シリコン、セラミックスなどの絶縁体であってもよい。なお、プラズマ処理として、コロナ放電を採用した場合、誘電体12は省略されてもよい。ただし、例えば誘電体バリア放電を採用した場合など、誘電体12を設けた方が好ましい場合もある。その場合、誘電体12の位置は、放電電極11側に近接または接触するように配置するよりも、カウンター電極14側に近接または接触するように配置した方が、沿面放電の領域が広がるため、よりプラズマ処理の効果を高めることが可能である。また、放電電極11およびカウンター電極14(もしくは誘電体12が設けられている側の電極はその誘電体12)は、2つの電極間を通過する被処理物20と接触する位置に配置されてもよいし、接触しない位置に配置されてもよい。
高周波高圧電源15は、放電電極11とカウンター電極14との間に高周波・高電圧のパルス電圧を印加する。このパルス電圧の電圧値は、たとえば約10kV(キロボルト)(p−p)程度である。また、その周波数は、たとえば約20kHz(キロヘルツ)とすることができる。このような高周波・高電圧のパルス電圧を2つの電極間に供給することで、放電電極11と誘電体12との間に大気圧非平衡プラズマ13が発生する。被処理物20は、大気圧非平衡プラズマ13の発生中に放電電極11と誘電体12との間を通過する。これにより、被処理物20の放電電極11側の表面がプラズマ処理される。
なお、図1に例示したプラズマ処理装置10では、回転型の放電電極11とベルトコンベア型の誘電体12とが採用されている。被処理物20は、回転する放電電極11と誘電体12との間で挟持搬送されることで、大気圧非平衡プラズマ13中を通過する。これにより、被処理物20の表面が大気圧非平衡プラズマ13に接触し、これに一様なプラズマ処理が施される。ただし、実施形態1において採用されるプラズマ処理装置は、図1に示される構成に限られるものではない。たとえば、放電電極11が被処理物20と接触せずに近接している構成や、放電電極11がインクジェットヘッドと同じキャリッジに搭載された構成など、種々変形可能である。
また、本説明における酸性化とは、インクに含まれる顔料が凝集するpH値まで印刷媒体表面のpH値を下げることを意味する。pH値を下げるとは、物体中の水素イオンH+濃度を上昇させることである。被処理物表面に触れる前のインク中の顔料はマイナスに帯電し、ビヒクルなどの液体中で分散している。図2に、インクのpH値とインクの粘度との関係の一例を示す。図2に示すように、インクは、そのpH値が低いほど、その粘度が上昇する。これは、インクの酸性度が高くなるほど、インクのビヒクル中でマイナスに帯電している顔料が電気的に中和され、その結果、顔料同士が凝集するためである。したがって、たとえば図2に示すグラフにおいてインクのpH値が必要な粘度と対応する値となるように印刷媒体表面のpH値を下げることで、インクの粘度を上昇させることが可能である。これは、インクが酸性である印刷媒体表面に付着した際、顔料が印刷媒体表面の水素イオンH+によって電気的に中和された結果、顔料同士が凝集するためである。それにより、隣接したドット間の混色を防止するとともに、顔料が印刷媒体の奥深く(さらには裏面まで)浸透するのを防止することが可能となる。ただし、必要な粘度と対応するpH値となるようにインクのpH値を下げるためには、印刷媒体表面のpH値を必要な粘度と対応するインクのpH値よりも低くしておく必要がある。
また、インクを必要な粘度とするためのpH値は、インクの特性によって異なる。すなわち、図2のインクAに示すように、比較的中性に近いpH値で顔料が凝集して粘度が上がるインクもあれば、インクAとは異なる特性を持つインクBに示すように、顔料を凝集させるためにインクAよりも低いpH値が必要なインクも存在する。
着色剤がドット内で凝集する挙動や、ビヒクルの乾燥速度や被処理物内への浸透速度は、ドットの大きさ(小滴、中滴、大滴)によって変わる液滴量や、被処理物の種類などによって異なる。そこで実施形態1では、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を、被処理物の種類や印刷モード(液滴量)などに応じて最適な値に制御してもよい。
ここで、図3〜図6を用いて、実施形態1にかかるプラズマ処理を施した場合と施していない場合との印刷物の違いを説明する。図3は、実施形態1にかかるプラズマ処理を施していない被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図4は、図3に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。図5は、実施形態1にかかるプラズマ処理を施した被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図6は、図5に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。なお、図3および図5に示す印刷物を得るにあたり、デスクトップ型のインクジェット記録装置を用いた。また、被処理物20には、コート層21を備える一般的なコート紙を用いた。
プラズマ処理を施していないコート紙は、コート紙表面にあるコート層21の濡れ性が悪い。そのため、プラズマ処理を施していないコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、たとえば図3および図4に示すように、ドットの着弾時にコート紙の表面に付着したドットの形状(ビヒクルCT1の形状)が歪になる。また、ドットの乾燥が十分でない状態で近接ドットを形成すると、図3および図4に示すように、コート紙への近接ドットの着弾時にビヒクルCT1およびCT2同士が合一し、これによりドット間で顔料P1およびP2の移動(混色)が起き、その結果、ビーディング等による濃度ムラが生じてしまう場合がある。
一方、実施形態1にかかるプラズマ処理を施したコート紙は、コート紙表面にあるコート層21の濡れ性が改善されている。そのため、プラズマ処理を施したコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、たとえば図5に示すように、ビヒクルCT1がコート紙の表面に比較的平坦な真円状に広がる。これにより、図6のようにドットが平坦な形状となる。また、プラズマ処理で形成された極性官能基によってコート紙表面が酸性になるため、インク顔料が電気的に中和され、顔料P1が凝集してインクの粘性が上がる。これにより、図6のようにビヒクルCT1およびCT2が合一した場合でも、ドット間の顔料P1およびP2の移動(混色)が抑制される。さらに、コート層21内部にも極性官能基が生成されるため、ビヒクルCT1の浸透性が上がる。これにより比較的短時間で乾燥することが出来る。濡れ性向上により真円状に広がったドットが、浸透しながら凝集することにより、顔料P1が高さ方向に均等に凝集され、ビーディング等による濃度ムラの発生を抑えることが可能となる。なお、図4、図6は模式図であり、実際には図6の場合にも顔料は層になって凝集している。
このように、実施形態1にかかるプラズマ処理を施した被処理物20では、プラズマ処理によって被処理物20の表面に親水性の官能基が生成されて濡れ性が改善される。さらに、プラズマ処理によって被処理物20の表面粗さが大きくなり、その結果、被処理物20表面の濡れ性がさらに向上する。また、プラズマ処理によって極性官能基が形成された結果、被処理物20表面が酸性になる。それらにより、着弾したインクが被処理物20表面で均一に拡がりつつ、マイナスに帯電した顔料が被処理物20表面で中和されることで凝集して粘性が上がり、結果的にドットが合一したとしても顔料の移動を抑制することが可能となる。また、被処理物20表面に形成されたコート層21内部にも極性官能基が生成されることで、ビヒクルが速やかに被処理物20内部に浸透し、これにより乾燥時間を短縮することが出来る。つまり、濡れ性が上がることで真円状に広がったドットは、凝集によって顔料の移動が抑えられた状態で浸透することで、真円に近い形状を保つことが可能となる。
図7は、実施形態1にかかるプラズマエネルギー量と被処理物表面の濡れ性、ビーディング、pH値および浸透性との関係を示すグラフである。図7では、被処理物20としてコート紙へ印刷した場合の表面特性(濡れ性、ビーディング、pH値、浸透性(吸液特性))がプラズマエネルギー量に依存してどのように変化するかが示されている。なお、図7に示す評価を得るにあたり、インクには、顔料が酸により凝集する特性の水性顔料インク(マイナスに帯電した顔料が分散されているアルカリ性インク)を使用した。
図7に示すように、コート紙表面の濡れ性は、プラズマエネルギー量が低い値(たとえば0.2J/cm2程度以下)で急激に良くなり、それ以上エネルギーを増加させてもあまり改善はしない。一方、コート紙表面のpH値は、ある程度まではプラズマエネルギー量を高めることにより低下していく。ただし、プラズマエネルギー量がある値(たとえば4J/cm2程度)を超えたところで飽和状態になる。また、浸透性(吸液特性)は、pHの低下が飽和したあたり(たとえば4J/cm2程度)から急激に良くなっている。ただし、この現象は、インクに含まれている高分子成分に依存して異なる。
上述したように、被処理物20表面の特性と画像品質との関係では、表面の濡れ性が向上することにより、ドットの真円度が向上している。この理由としては、プラズマ処理による表面粗さの増加および生成された親水性の極性官能基によって被処理物20表面の濡れ性が向上するとともにこれが均一化したことが考えられる。また、被処理物20表面のゴミや油分や炭酸カルシウムなどの撥水要因がプラズマ処理によって除外されることも1つの要因と考えられる。すなわち、被処理物20表面の濡れ性が向上しつつ被処理物20表面の不安定要因が取り除かれた結果、液滴が円周方向に均等に拡がり、ドットの真円度が向上すると考えられる。
また、被処理物20表面を酸性化(pHの低下)させることにより、インク顔料の凝集、浸透性の向上、ビヒクルのコート層内部への浸透などが生じる。これらにより、被処理物20表面の顔料濃度が上昇するため、ドットが合一したとしても、顔料の移動を抑えることが可能となり、その結果、顔料の混濁が抑制し、顔料を均一に被処理物表面に沈降凝集させることが可能となる。ただし、顔料混濁の抑制効果は、インクの成分やインクの滴量に依存して異なる。たとえばインクの滴量が小滴の場合、大滴の場合に比べて、ドットの合一による顔料の混濁は発生し難い。それは、ビヒクル量が小滴の場合の方が、ビヒクルがより早く乾燥・浸透するためであり、少しのpH反応で顔料を凝集することができるためである。なお、プラズマ処理の効果は、被処理物20の種類や環境(湿度など)によって変動する。そこで、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を、液滴の量や被処理物20の種類、環境などに応じて最適な値に制御してもよい。その結果、被処理物20の表面改質効率が向上し、さらなる省エネを達成することが可能な場合が存在する。
つづいて、プラズマエネルギー量とドットの真円度との関係を説明する。図8は、プラズマエネルギー量とドットの真円度との関係を示すグラフである。図9は、プラズマエネルギー量と実際に形成されたドット形状との関係を示す図である。なお、図8および図9では、同色同種のインクを用いた場合を示す。
図8および図9に示すように、ドットの真円度は、プラズマエネルギー量が低い値(たとえば0.2J/cm2程度以下)であっても大幅に改善されている。これは、上述したように、被処理物20をプラズマ処理することで、ドット(ビヒクル)の粘性が上がるとともにビヒクルの浸透性が上がり、これにより顔料が均等に凝集されたためであると考えられる。
また、ドット内の濃度ムラについて、プラズマ処理を行った場合と行わなかった場合とについて説明する。図10は、実施形態1にかかるプラズマ処理を行わなかった場合のドットの濃度を示すグラフである。図11は、プラズマ処理を行った場合のドットの濃度を示すグラフである。なお、図10および図11では、それぞれ図面中右下にあるドット画像における線分a−b上の濃度を示している。
図10および図11の測定では、形成したドットの画像を取り込み、その画像における濃度ムラを測定して、濃度のバラツキを計算した。図10および図11を比較すると明らかなように、プラズマ処理を行った場合(図11)の方が、行わなかった場合(図10)よりも、濃度のバラツキ(濃度差)を小さくすることができた。そこで、以上のような算出方法にて求めた濃度のバラツキに基づいて、一番バラツキ(濃度差)が小さくなるように、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を最適化してもよい。これにより、より鮮明な画像を形成することが可能となる。
なお、濃度のバラツキは、上述した算出方法に限らず、顔料の厚みを光干渉膜厚計測手段にて測定して算出してもよい。その場合、顔料の厚みの偏差を最小にするように、プラズマエネルギー量の最適値を選定してもよい。
また、図8〜図11は、被処理物表面に形成した1色目のドットを測定した結果の一例を示している。ただし、2色目のドットに関しても、図8〜図11に示す結果を得るために1色目のドットに対して行った測定方法と同様の方法を用いることが可能である。
つぎに、被処理物20に直接インクドットを形成した場合(以下、単独記録という)と、下地として画像(たとえばベタ画像)を形成し、その上にさらにインクドットを形成した場合(以下、重ね記録という)との、それぞれのインクドットの形状変化について、以下に図面を参照して詳細に説明する。
図12は、プラズマ処理を施していない被処理物表面に直接インクドット(単独ドット)を形成すること(単独記録)で得られた印刷物の拡大撮像画像図である。図13は、プラズマ処理を施していない被処理物表面に下地として1色目のベタ画像を形成した後に2色目のインクドットを形成すること(重ね記録)で得られた印刷物の拡大撮像画像図である。なお、図12および図13において、形状変化計測用のインク(図12では1色目のインクであり、図13では2色目のインクである)には、シアン(C)を用いた。また、図13において、下地(ベタ)用のインク(1色目のインク)には、イエロー(Y)を用いた。さらに、被処理物20には、コート層21を備える一般的なコート紙を用いた。
図12に示すように、プラズマ処理が施されていないコート紙に対して単独記録をした場合、ドットの着弾時にコート紙の表面に付着したドットの形状が歪になり、また、顔料も十分に凝集されていない。しかしながら、コート紙表面に形成されるドットパターンが他色インクや隣接ドット等が配置されない単独ドットであるため、ドット間の混色が生じず、また、ドットの形状変化も小さい。
一方、図13に示すように、コート紙に対して重ね記録をした場合、1色目のドットが十分に浸透・乾燥していない状態で2色目のドットが形成されるため、1色目のドットと2色目のドットとの境界でインクの混色が生じ、その結果、2色目のドットの形状が大きく変化する。これは、重ね記録で形成された2色目のドットを観察した方が、単独記録で形成された単独ドットを観察するよりも、その形状変化を検出し易いことを示している。なお、図13に示す例では、図12に示す例と同様に、プラズマ処理が施されていないコート紙を用いた。
つぎに、重ね記録を行う場合において、被処理物20にプラズマ処理を施した場合と、プラズマ処理を施していない場合との、それぞれのドット形状の変化について、以下に図面を参照して詳細に説明する。
図14は、プラズマ処理を施した被処理物表面に重ね記録をすることで得られた印刷物の拡大撮像画像図である。図15は、プラズマ処理を施していない被処理物表面に重ね記録をすることで得られた印刷物の拡大撮像画像図である。なお、図14および図15では、図13と同様に、1色目のインクにはイエロー(Y)を用い、2色目のインクにはシアン(C)を用いた。また、被処理物20には、図12および図13と同様に、コート層21を備える一般的なコート紙を用いた。
図14に示すように、プラズマ処理を施したコート紙表面では、プラズマ処理で形成された極性官能基によって表面の濡れ性が改善することで、1色目のドットが比較的平坦に拡がって浸透している。そのため、図15に示すプラズマ処理を施さない場合に比べ、インクの混じり合いが少ない。また、極性官能基によりコート紙表面が酸性になった結果、1色目のインクのpH値が中和されて低下し、それにより、1色目のドット中の顔料が凝集してインクの粘性が上昇する。その結果、図14に示す画像では、1色目のドットとその上に形成された2色目のドットとの混じり合いが抑制されている。さらに、2色目のドットのpH値は、pH値が低下した1色目のドットと接触することで低下する。そのため、1色目のドットと同様に、2色目のドット中の顔料が凝集してインクの粘性が上がり、その結果、2色目のドットの形状も維持されている。
なお、図12〜図15に示す印刷物は、デスクトップ型のインクジェット記録装置を用いて形成した。このインクジェット記録装置では、インクジェットヘッドを1回走査することで、600dpiの画像が形成される。また、1色目のインクドット形成から2色目のインクドット形成までの着弾時間の差は約40ミリ秒であり、インクの滴量は1ドットあたり9pL(ピコリットル)である。
また、図14および図15に示す印刷物の形成では、2色目のインクドットパターンとして、図16に示すような、4×4ドットと、2×2ドットと、1×1ドット(単独ドット)とを含むテストパターンを用いた。ただし、このテストパターンに限定されず、たとえば図17に示すような1ドットラインのテストパターンや、図18に示すような2ドットラインのテストパターンなど、種々のテストパターンを採用することができる。
図19に、被処理物表面に着弾した時点からのインクドットの径変化を、高速度カメラを用いて測定した結果を示す。なお、被処理物20には、コート層21を備える一般的なコート紙を用いた。また、プラズマ処理ありの場合のプラズマエネルギー量は2.8J/cm2とした。さらに、インク滴量を50pLとし、着弾後200msまでを定期的に撮影し、得られた時間毎の静止画からドット径を測定した。
図19に示すように、プラズマ処理を施した場合(プラズマ処理あり)においては、プラズマ処理をしない場合(プラズマ処理なし)に比べて、ドット径の拡がりが速く、またドットの飽和も速い。これは、プラズマ処理を施すことで、被処理物内部へのビヒクル浸透と被処理物表面での顔料凝集とにより、被処理物表面でインクが十分に増粘しているためと考えられる。一方、プラズマ処理をしない場合(プラズマ処理なし)では、ドット径変化の立ち上がりが遅く、また、着弾後200msでもドット形状変化が継続している。これは、被処理物表面でインクが十分に増粘していないためであると考えられる。
つづいて、被処理物に与えたプラズマエネルギー量とインクドットの画像面積変化との関係について説明する。図20は、被処理物に与えたプラズマエネルギー量とインクドットの画像面積変化との関係を示すグラフである。なお、図20には、図16に示すテストパターンを印刷した際の画像面積が示されている。図20に示すように、プラズマエネルギー量を大きくした場合その画像面積は小さくなる傾向にある。これは、プラズマ処理の結果、顔料の凝集効果(凝集による粘性の増加)と浸透性効果(ビヒクルのコート層内への浸透)とが向上し、これにより、ドットが拡がる過程で迅速に凝集・浸透するためであると考えられる。また、その形状変化は、パターンサイズが大きいほど(パターン4×4)検出しやすい。これは、パターンサイズが大きい方(パターン4×4)が画像面積変化が大きいためであると考えられる。そこで、この効果を利用することで、プラズマエネルギー量の制御を細かく調整することが可能となる。
つづいて、実施形態1にかかる印刷装置、印刷システムおよび印刷物の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態1では、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の4色の吐出ヘッド(記録ヘッド、インクヘッド)を有する画像形成装置を説明するが、これらの吐出ヘッドに限定されない。すなわち、グリーン(G)、レッド(R)及びその他の色に対応する吐出ヘッドを更に有してもよいし、ブラック(K)のみの吐出ヘッドを有していてもよい。ここで、以後の説明において、K、C、M及びYは、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの夫々に対応するものとする。
また、実施形態1では、被処理物として、ロール状に巻かれた連続紙(以下、ロール紙という)を用いるが、これに限定されものではなく、たとえばカット紙など、画像を形成できる記録媒体であればよい。そして、紙の場合その種類としては例えば、普通紙、上質紙、再生紙、薄紙、厚紙、コート紙等を用いることができる。また、OHPシート、合成樹脂フィルム、金属薄膜及びその他表面にインク等で画像を形成することができるものも被処理物として用いることができる。ここで、ロール紙は、切断可能なミシン目が所定間隔で形成された連続紙(連帳紙、連続帳票)であってよい。その場合、ロール紙におけるページ(頁)とは、例えば所定間隔のミシン目で挟まれる領域とする。
図21は、実施形態1にかかる印刷装置(システム)の概略構成例を示す模式図である。図21に示すように、印刷装置(システム)1は、被処理物20(ロール紙)を搬送経路D1に沿って搬入(搬送)する搬入部30と、搬入された被処理物20に対して前処理としてのプラズマ処理を施すプラズマ処理装置100と、プラズマ処理された被処理物20の表面に画像を形成する画像形成装置40とを有する。これらの装置は、別の筐体で存在し全体でシステムを構成してもよいし、同じ筐体内に収められた印刷装置であってもよい。画像形成装置40は、プラズマ処理された被処理物20にインクジェット処理により画像を形成するインクジェットヘッド170と、被処理物20に形成された画像を読み取るパターン読取部180と、を含むことができる。また、画像形成装置40は、画像が形成された被処理物20を後処理する後処理部を含んでもよい。さらに、印刷装置(システム)1は、後処理された被処理物20を乾燥する乾燥部50と、画像形成された(場合によってはさらに後処理された)被処理物20を搬出する搬出部60とを有してもよい。なお、パターン読取部180は、搬送経路D1上における乾燥部50よりも下流の位置に設けられていてもよい。さらにまた、印刷装置(システム)1は、印刷用の画像データからラスタデータを生成したり、印刷装置(システム)1の各部を制御したりする制御部160を含んでもよい。この制御部160は、有線または無線のネットワークを介して印刷装置(システム)1と通信可能であるとする。なお、制御部160は、単一のコンピュータで構成されている必要はなく、複数のコンピュータがLAN(Local Area Network)などのネットワークを介して接続された構成であってもよい。また、制御部160は、印刷装置(システム)1の各部に個別に設けられた制御部を含む構成であってもよい。また、印刷システムとして構成される場合には、制御部160は何れかの装置に含まれてもよい。
つづいて、実施形態1にかかる印刷装置(システム)1を、より詳細に説明する。印刷装置(システム)1では、インクジェット記録手段の下流側に、形成されたドットの画像を取得するパターン読取手段が設けられる。また、取得した画像を解析して、ドットの真円度、ドット径、濃度のバラツキ等を算出し、この結果に基づいてプラズマ処理手段をフィードバック制御またはフィードフォワード制御する。
図22に、実施形態1にかかる印刷装置(システム)1におけるプラズマ処理装置からインクジェット記録装置の下流に配置されたパターン読取部までの概略構成例を示す。その他の構成は、図21に示す印刷装置(システム)1と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
図22に示すように、印刷装置(システム)1は、搬送経路D1の上流側に配置されたプラズマ処理装置100と、搬送経路D1におけるプラズマ処理装置100よりも下流側に配置されたインクジェットヘッド170と、インクジェットヘッド170よりも下流側に配置されたパターン読取部180と、プラズマ処理装置100の各部を制御する制御部160とを含む。インクジェットヘッド170は、上流側に配置されたプラズマ処理装置100によって表面がプラズマ処理された被処理物20にインクを吐出して画像形成を行う。なお、インクジェットヘッド170は、別に設けられた制御部(不図示)によって制御されてもよいし、制御部160によって制御されてもよい。
プラズマ処理装置100は、搬送経路D1に沿って配列された複数の放電電極111〜116と、各放電電極111〜116に高周波・高電圧のパルス電圧を供給する高周波高圧電源151〜156と、複数の放電電極111〜116に対して共通に設けられたカウンター電極141と、放電電極111〜116とカウンター電極141との間を搬送経路D1に沿って流れるように配置されたベルトコンベア型の無端状の誘電体121およびローラ122と、を備える。被処理物20は、搬送経路D1を搬送されながらプラズマ処理される。搬送経路D1に沿って配列する複数の放電電極111〜116を用いる場合には、図22に示すように、誘電体121に無端状のベルトが用いられることが好適である。
制御部160は、ローラ122を駆動することで、誘電体121を循環させる。被処理物20は、上流の搬入部30(図21参照)から誘電体121上に搬入されると、誘電体121の循環によって搬送経路D1を通過する。
また、制御部160は、複数の高周波高圧電源151〜156を個別にオン/オフすることが可能である。高周波高圧電源151〜156は、それぞれ制御部160からの指示にしたがって、高周波・高電圧のパルス電圧を放電電極111〜116に供給する。
パルス電圧は、すべての放電電極111〜116に供給されてもよいし、放電電極111〜116のうちの一部に供給されてもよい。すなわち、被処理物20の表面を所定のpH値以下とするのに必要な数の放電電極に供給されればよい。また、制御部160は、各高周波高圧電源151〜156から供給されるパルス電圧の周波数および電圧値を調整することで、被処理物20の表面を所定のpH値以下とするのに必要となるプラズマエネルギー量に調整してもよい。さらに、制御部160は、たとえば印刷速度情報に比例して、高周波高圧電源151〜156の駆動数を選択してもよいし、各放電電極111〜116に与えるパルス電圧の強度を調整してもよい。さらにまた、制御部160は、被処理物20の種類(たとえばコート紙やPETフィルムなど)に応じて、高周波高圧電源151〜156の駆動数、および/または、各放電電極111〜116に与えるプラズマエネルギー量を調整してもよい。
ここで、被処理物20表面を必要十分にプラズマ処理するために必要なプラズマエネルギー量を得る方法の1つとしては、プラズマ処理の時間を長くすることが考えられる。これは、たとえば被処理物20の搬送速度を遅くすることで実現可能である。ただし、印刷処理のスループットを上げるためには、プラズマ処理の時間を短くすることが望まれる。プラズマ処理時間を短くする方法としては、上述のように、放電電極111〜116を複数備え、印刷速度および必要なプラズマエネルギー量に応じて必要な数の放電電極111〜116を駆動する方法や、各放電電極111〜116が被処理物20に与えるプラズマエネルギー量の強度を調整する方法などが考えられる。ただし、これらに限定されるものではなく、これらを組み合わせた方法や、その他の方法など、適宜変更することが可能である。
また、複数の放電電極111〜116を備えることは、被処理物20の表面を均一にプラズマ処理する点においても有効である。すなわち、たとえば同じ搬送速度(または印刷速度)とした場合、1つの放電電極でプラズマ処理を行う場合よりも複数の放電電極でプラズマ処理を行う場合の方が被処理物20がプラズマの空間を通過する時間を長くすることが可能となる。その結果、より均一に被処理物20の表面にプラズマ処理を施すことが可能となる。
また、図22において、パターン読取部180は、たとえば被処理物20に形成された画像のドットを撮像する。以下の説明では、画像内に形成された解析用ドットパターンである場合を例に挙げて説明する。
パターン読取部180で取得された画像は、制御部160に入力される。制御部160は、入力された画像を解析することで、解析用ドットパターンにおけるドットの真円度、ドット径、濃度のバラツキ等を算出し、この算出結果に基づいて、駆動する放電電極111〜116の数、および/または、各高周波高圧電源151〜156から各放電電極111〜116へ供給するパルス電圧のプラズマエネルギー量を調整する。
また、インクジェットヘッド170としては、複数の同色ヘッド(4色×4ヘッド)を備えてもよい。これにより、インクジェット記録処理の高速化が可能になる。その際、たとえば高速で1200dpiの解像度を達成するためには、インクジェットヘッド170における各色のヘッドは、インクを吐出するノズルとノズルとの間隔を補正するようにずらして固定される。さらに、各色のヘッドには、そのノズルから吐出されるインクのドットが大/中/小滴と呼ばれる3種類の容量に対応するように、いくつかのバリエーションを持った駆動周波数の駆動パルスが入力される。
つづいて、実施形態1にかかるプラズマ処理を含む印刷処理について、図面を参照して詳細に説明する。図23は、実施形態1にかかるプラズマ処理を含む印刷処理の一例を示すフローチャートである。図24は、図23に示すフローチャートにおいてインク滴量とプラズマエネルギー量とを特定する際に用いるテーブルの一例を示す図である。なお、図23では、テストパターンとして図16に示したようなドット画像を用いた場合の印刷処理の流れを示す。また、図23では、図22に示す印刷装置1を用いてカット紙(所定の大きさにカットされた記録媒体)を被処理物20として印刷する場合を例に挙げる。ただし、カット紙に限らず、ロール状に巻かれたロール紙に対しても、同様の印刷処理を適用可能である。
図23に示すように、印刷処理では、まず、制御部160が被処理物20の種類(紙種)を特定する(ステップS101)。被処理物20の種類(紙種)は、ユーザが不図示のコントロールパネルから印刷装置1に設定入力してもよい。もしくは、印刷装置1が図示しない用紙種検出手段を備え、この用紙種検出手段により検出された紙種情報に基づいて、制御部160が特定してもよい。なお、用紙種検出手段は、例えば用紙表面にレザー光を照射し、その反射光の干渉スペクトルを分析して種類を特定するものなど、種々の手段を適用することができる。
また、制御部160は、印刷モードを特定する(ステップS102)。印刷モードは、たとえば印刷物の画像の解像度(600dpi、1200dpi等)であり、たとえばユーザによって不図示の入力部を用いて設定されてよいし、不図示の上位装置から印刷データ(ラスタデータ等)とともに指定されてもよい。また、印刷モードには、白黒印刷やカラー印刷などの指定が含まれていてもよい。
つぎに、制御部160は、プラズマ処理時の暫定のプラズマエネルギー量を設定する(ステップS103)。プラズマエネルギー量は、特定した被処理物20の種類(紙種)と印刷モードとに基づき、図24に示すようなテーブルから特定することが可能である。たとえば被処理物20の種類がコート紙Aであり、印刷モードが600dpiである場合、制御部160は、プラズマエネルギー量を1.4J/cm2に設定する。なお、図24に示すテーブルでは、プラズマエネルギー量の値を登録したが、これに限らず、たとえば高周波高圧電源151〜156から放電電極111〜116へ供給するパルス電圧の電圧値およびパルス時間幅が登録されていてもよい。また、図24に示すテーブルでは、白黒印刷モードとカラー印刷モードとに応じてプラズマエネルギー量が変更されるように登録されていてもよい。
つぎに、制御部160は、設定したプラズマエネルギー量に基づいて高周波高圧電源151〜156から放電電極111〜116に適宜パルス電圧を供給することで、被処理物20に対するプラズマ処理を実行する(ステップS104)。つづいて、制御部160は、プラズマ処理後の被処理物20に対するテストパターンの印刷を実行する(ステップS105)。テストパターンの印刷では、たとえば下地として1色目のベタ画像を印刷し、その後、ベタ画像に図16に示すようなドット画像を重ねて印刷する。つづいて、制御部160は、パターン読取部180を用いてテストパターンのドットを撮像することで、プラズマ処理後の被処理物20に形成された2色目のドットの画像(ドット画像)を読み取る(ステップS106)。
つぎに、制御部160は、読み取ったドット画像から2色目のドットの真円度(ステップS107)と、ドット径(ステップS108)と、ドットにおける濃度の偏差(バラツキ、濃度差等)(ステップS109)とをそれぞれ検出する。ただし、ステップS108では、ドット径の代わりに、ドット面積が検出されてもよい。また、制御部160は、読み取ったドット画像からドット間の合一の状態を判定してもよい。ドット間の合一の状態は、たとえばパターン認識によって判定することが可能である。
つぎに、制御部160は、検出したドットの真円度、ドット径およびドットにおける濃度の偏差(およびドットの合一の状態)に基づいて、形成されたドットの品質が十分な品質であるか否かを判定する(ステップS110)。十分な品質でない場合(ステップS110;NO)、制御部160は、検出したドットの真円度、ドット径およびドットにおける濃度の偏差(およびドットの合一の状態)に応じてプラズマエネルギー量を補正し(ステップS111)、ステップS104へリターンして、再度、テストパターンの印刷からドットの解析を実行する。この補正は、たとえば予め定めておいた所定量の補正値で設定中のプラズマエネルギー量を増減してもよいし、検出したドットの真円度、ドット径およびドットにおける濃度の偏差(およびドットの合一の状態)に応じて最適なプラズマエネルギー量を求め、この値に設定し直してもよい。
一方、ドットが十分な品質である場合(ステップS110;YES)、制御部160は、特定した被処理物20の種類(紙種)と印刷モードとに基づいて、図24に登録されているプラズマエネルギー量を更新するとともに(ステップS112)、実際の印刷対象の全原稿画像を印刷し(ステップS113)、完了次第、本動作を終了する。
なお、被処理物20としてロール紙を用いた場合、ステップS104〜S111では、不図示の給紙装置より導かれた紙の先端部分を使ってプラズマ処理後に形成したドット画像を取得してもよい。ロール紙を用いた場合では、1つのロールで性状がほとんど変わらないため、先端部分を使ってプラズマエネルギー量を調整した後は、そのままの設定で安定して連続印刷が可能となる。ただし、ロール紙を使い切らずに長期間停止した場合、紙の性状が変化する可能性があるため、印刷再開前に同様に先端部分を使ってプラズマ処理後に形成したドット画像を再度取得し、これを解析すればよい。また、先端部分を使ってプラズマ処理後に形成したドット画像を解析してプラズマエネルギー量を調整した後に、定期的または連続してドット画像を測定してプラズマエネルギー量を調整してもよい。これにより、より詳細に安定した制御を行うことが可能となる。
また、テストパターンとして図17または図18に示したようなライン画像を用いた場合の印刷処理について説明する。図25は、テストパターンとして図16に示したようなドット画像を用いた場合の印刷処理の流れを示すフローチャートである。なお、図25では、図23と同様に、図22に示す印刷装置1を用いてカット紙(所定の大きさにカットされた記録媒体)を被処理物20として印刷する場合を例に挙げる。ただし、カット紙に限らず、ロール状に巻かれたロール紙に対しても、同様の印刷処理を適用可能である。
図25において、ステップS201〜S204までの流れは、図23におけるステップS101〜S104までの流れと同様である。その後、図25では、制御部160は、プラズマ処理後の被処理物20に対するライン画像を含むテストパターンの印刷を実行する(ステップS205)。テストパターンの印刷では、たとえば下地として1色目のベタ画像を印刷し、その後、ベタ画像に図17または図18に示すようなライン画像を重ねて印刷する。つづいて、制御部160は、パターン読取部180を用いてテストパターンのラインを撮像することで、プラズマ処理後の被処理物20に形成された2色目のラインの画像(ライン画像)を読み取る(ステップS206)。
つぎに、制御部160は、読み取ったライン画像から2色目のラインの面積(ステップS207)と、ライン幅(ステップS208)と、ライン幅の偏差(バラツキ)(ステップS209)とをそれぞれ検出する。
つぎに、制御部160は、検出したラインの面積、ライン幅およびライン幅の偏差に基づいて、形成されたラインの品質が十分な品質であるか否かを判定する(ステップS210)。十分な品質でない場合(ステップS210;NO)、制御部160は、検出したラインの面積、ライン幅及びライン幅の偏差に応じてプラズマエネルギー量を補正し(ステップS211)、ステップS204へリターンして、再度、テストパターンの印刷からラインの解析を実行する。この補正は、たとえば予め定めておいた所定量の補正値で設定中のプラズマエネルギー量を増減してもよいし、検出したラインの面積、ライン幅及びライン幅の偏差に応じて最適なプラズマエネルギー量を求め、この値に設定し直してもよい。
一方、ラインが十分な品質である場合(ステップS210;YES)、制御部160は、特定した被処理物20の種類(紙種)と印刷モードとに基づいて、図24に登録されているプラズマエネルギー量を更新するとともに(ステップS212)、実際の印刷対象の全原稿画像を印刷し(ステップS213)、完了次第、本動作を終了する。
以上、テストパターンとしてドットやラインを用いた場合を例示したが、これに限らず、その他のパターンを用いて画像を形成し、形成画像を撮像してこの読み取った読取画像を解析するようにしてもよい。その場合、解析画像の印字面積や周囲長を検出し、その品質を判定するようにしてもよい。
また、図23や図25では、図24に示すようなテーブルを用いたが、この方法に限定されず、たとえば最初のプラズマエネルギー量を最小値としておき、得られたテストパターンのドット画像またはライン画像の解析結果に基づいて、プラズマエネルギー量を段階的に上げていくように動作してもよい。
プラズマエネルギー量を最小値から段階的に上げていくことで最適なプラズマエネルギー量を特定する場合、図22における各放電電極111〜116に与えられるプラズマエネルギー量を下流側から段階的に大きくなるように変化させてもよいし、被処理物20の搬送速度、すなわち誘電体121の巡回速度を変化させてもよい。その結果、図23のステップS104(または図25のステップS204)では、図26に示すように、領域ごとに異なるプラズマエネルギー量でプラズマ処理された被処理物20を得ることができる。なお、図26では、領域R1はプラズマ処理をしなかった領域(プラズマエネルギー量=0J/cm2)であり、領域R2は0.1J/cm2のプラズマエネルギー量でプラズマ処理された領域を示し、領域R3は0.5J/cm2のプラズマエネルギー量でプラズマ処理された領域を示し、領域R4は2J/cm2のプラズマエネルギー量でプラズマ処理された領域を示し、領域R5は5J/cm2のプラズマエネルギー量でプラズマ処理された領域を示す。
また、図26に示すような、領域ごとに異なるプラズマエネルギー量でプラズマ処理された被処理物20に対しては、たとえば図27に示すようなテストパターンTPが、図23のステップS105(または図25のステップS205)でそれぞれの領域R1〜R5に形成されてもよい。ここで、テストパターンTPとしては、1色目のイエローのドット(ベタ画像)の上に2色目のシアンのドットを形成した例を示しているが、2色目のドットはマゼンタやブラックでもよい。また、1色目のドット(ベタ画像)は、イエロー以外であってもよい。特に、フィルムメディアにおいては、CMYK以外のホワイトインクも使用される場合もあることから、1色目のドットとしてホワイトインクが用いられてもよい。さらに、テストパターンの印刷結果をユーザが確認する場合には、テストパターンの1色目のドット(ベタ画像)はイエローやホワイトなどの明度が高いインクが望ましく、解析画像である2色目のドットはシアンやマゼンタやブラックなどの明度が低いインクが望ましい。
次に、実施形態1にかかるパターン読取部180について説明する。図28は、実施形態1にかかるパターン読取部の一例を示す模式図である。図28に示すように、パターン読取部180には、たとえば発光部182と受光部183とを含む反射型の2次元センサが用いられる。発光部182と受光部183とは、たとえば被処理物20に対してドット形成側に配置された筐体181内に配置される。筐体181の被処理物20側には開口部が設けられており、発光部182から放射された光が被処理物20表面で反射して、受光部183に入射する。受光部183は、被処理物20の表面で反射した反射光量(反射光強度)を結像する。結像された反射光の光量(強度)は、印字(テストパターンTPのドットDT)がある部分とない部分とで変化するため、受光部183で検出された反射光量(反射光強度)を基にドット形状及びドット内部の画像濃度を検出することが可能である。なお、パターン読取部180の構成やその検出方法は、例えばカラーCCDカメラで読み取り検出する方法など、被処理物20に印刷されたテストパターンTPを検出することが可能であれば種々変更することが可能である。
次に、図を参照しながら、被処理物20に形成されたテストパターンのドットの大きさの判別方法例について説明する。解析用ドットパターンのドットの大きさを判別するには、プラズマ処理後の被処理物20に記録した解析用ドットパターンをパターン読取部180で基準パターン185と共に撮像することで、図29に示すようなドットの撮像画像(ドット画像)を取得する。
なお、基準パターン185の位置は、図28に示す受光部183の全撮像領域(二次元センサ全撮像領域)のうちのいずれの位置であるか、予め計測によって把握されているものとする。制御部160は、取得された解析用ドットパターン画像のピクセルと、基準パターン185のドット画像のピクセルとを比較することで、解析用ドット画像に対するキャリブレーションを行なう。その際、たとえば図29に示すように、完全に円ではないが、円のような図形(たとえば解析用ドットの輪郭部分:実線)があり、これを真円(基準パターン185のドットの輪郭部分:一点破線)でフィッティングするが、このフィッティングでは最小二乗法が用いられる。
図30に示すように、最小二乗法では、円のような図形(実線)と真円(一点破線)との偏差を数値化するために、大まかな中心位置に原点Oを取り、この原点Oを基準としたXY座標系を設定して、最終的に最適な中心点A(座標(a,b))と真円の半径Rとを求める。そこで、まず、円のような図形の一周(2π)を角度に基づいて均等に分割し、この分割により得られたデータ点P1〜Pnそれぞれについて、X軸に対する角度θと原点Oからの距離ρiとを求める。ここで、データ点の数(すなわち、データセットの数)を‘N’とすると、三角関数の関係から、以下の式(1)を導き出すことができる。
このとき、最適な中心点A(座標(a,b))と真円の半径Rとは、以下の式(2)で与えられる。
このように、基準パターン185のドット画像を読み取り、上記した最小二乗法により算出されたドット径の直径と、基準チャートの直径とを比較してキャリブレーションを行なう。キャリブレーション後、パターンで印字されたドット画像を読み取り、ドットの直径を算出する。
また、真円度は、一般には、円のような図形を2つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心円の間隔が最小となった際の2つの同心円の半径の差で表すが、同心円での最小径/最大径の比率を真円度として定義することもできる。その場合、最小径/最大径の値が‘1’となった場合が真円であることを意味する。この真円度も、ドット画像を取り込むことによって、最小二乗法にて算出することができる。
最大径は、取り込んだ画像のドット中心と円周上の各点とを結んだ際に最大になる距離として求めることができる。一方、最小径は、同様にドット中心点と円周上の各点とを結んだ際に最小になる距離として算出することが可能である。
被処理物20のインク浸透状態によっては、ドット径およびドットの真円度が異なる。実施形態1では、被処理物20の種類や、インクの吐出量に応じて、ドット形状(真円度)やドット径が目標とする値となるようにコントロールすることで、画像の品質を向上する。また、実施形態1では、形成した画像を読み取り、この画像を解析することで、インク吐出量毎のドット径が目的のドット径になるように、プラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を調整することにより、高画質化を図っている。
また、実施形態1では、反射光の光量に基づいてドットの顔料濃度を検出できるので、ドット画像を取り込み、そのドット内部の濃度を計測する。その濃度値を、統計計算よりバラツキ分散として算出することで、濃度ムラを測定する。また、算出した濃度ムラが最小となるようにプラズマエネルギー量を選定することで、ドットの合一による顔料の混濁を防止することが可能となり、これにより、さらなる高画質化が図れる。ドット径の制御を優先とするか、濃度ムラの抑制を優先とするか、真円度の向上を優先とするかは、好みの画質に応じてユーザがモードを切り替えられるように構成されてもよい。
また、読取画像がライン画像(図25のステップS206)である場合には、ライン画像が形成されるピクセル数から画像面積を算出できる。また、ライン幅やライン幅の偏差(バラツキ)については、たとえば日本工業規格JIS−X6930における測定方法を用いて測定することができる。これらにより、ライン画像の画像面積やライン幅が目標とする値となるようにプラズマエネルギー量を選択することで、前述のドット画像を用いた場合と同様の効果を得ることができる。もしくは、ライン幅の偏差が最小となるように、プラズマエネルギー量を選択することによっても、同様の効果を得ることができる。
以上のように、実施形態1では、ドットの真円度、ドット内の顔料のムラ、ライン幅の偏差等が少なくなるように、もしくは、ドット径、ライン幅、画像面積等が目的の大きさになるように、プラズマエネルギー量がコントロールされる。それにより、先塗り液を使用することなく高画質な印刷品を提供することが可能となる。また、被処理物の性状を変更したり印刷速度を変更したりしても、安定したプラズマ処理を行うことが可能であるため、良好な画像記録を安定して実現することが可能となる。
上記した実施形態1では、主として被処理物に対してプラズマ処理を行う場合を説明したが、先述の通り、プラズマ処理を行うと被処理物に対するインクの濡れ性が向上する。その結果、インクジェット記録時に付着させるドットが拡がるため、未処理の被処理物に対してイメージ展開した場合と異なる画像が記録される可能性がある。そのような場合、プラズマ処理した記録媒体に印刷する際に、たとえばインクジェット記録を行う際のインクの吐出電圧を下げてインクの滴量を少なくすることで、未処理の被処理物に対してイメージ展開した場合と異なる画像が記録されることを抑制することが可能である。また、吐出電圧を低減した結果、インク滴量の削減や駆動電力の低減が可能となるため、印刷コストを削減することも可能となる。
ここで、インク吐出量と画像濃度との関係について説明する。図31は、インク吐出量と画像濃度との関係を示すグラフである。図31において、実線C1は上述した実施形態1にかかるプラズマ処理を施していない被処理物に対してインクジェット記録処理を行った際のインク吐出量と画像濃度との関係を示し、破線C2は上述した実施形態1にかかるプラズマ処理を施した被処理物に対してインクジェット記録処理を行った際のインク吐出量と画像濃度との関係を示す。また、一点破線C3は、実線C1に対する破線C2のインク低減率を示す。
図31における実線C1と破線C2との比較、ならびに、一点破線C3から分かるように、上述した実施形態1にかかるプラズマ処理をインクジェット記録処理の前に被処理物20に施しておくことで、ドットの真円度の向上、ドットの拡大、顔料のドット内の濃度均一化などの効果により、同一画像濃度を得るために必要となるインク吐出量が低減される。
また、上述した実施形態1にかかるプラズマ処理をインクジェット記録処理の前に被処理物20に施しておくことで、被処理物20に付着した顔料の厚みが薄くなるため、彩度が向上し、色域も拡がる効果を得ることができる。さらに、インク量が低減された結果、そのインクの乾燥エネルギーも低減可能であるため、省エネ効果も得ることが可能である。
上記した実施形態1では、2次色画像の2色目インクのドットやライン等を解析する例を挙げたが、三次色画像やそれ以上の重ね画像を解析するようにしてもよい。また、インクの成分や種類や被処理物の変更等によって、各々の被処理物の濡れ性や浸透性が向上する理想的なpH値があると考えられる。そこで、インクの種類や被処理物の種類ごとに最適条件であるプラズマエネルギー量もしくは目標pH値をあらかじめ求めておき、これを制御部に登録しておいてもよい。また、ユーザがテストパターンを見て、適宜な入力部によりプラズマエネルギー量を直接設定するようにしてもよい。さらに、画像を解析するタイミングは、印刷ジョブとしての画像形成前に実施する形態としてだけでなく、ジョブ中もしくはジョブ間などの一定時間毎に画像解析するようにしてもよく、また、ユーザが任意に行なうようにしてもよい。なお、インクジェット記録処理の前に、放電により雰囲気ガスを電離させてなる放電プラズマを被印刷物表面に施すように構成してもよい。このように、インクジェット記録処理の前に被印刷物表面に親水化処理を施すことで、被処理物表面の濡れ性がよくなるため、インクジェット記録処理で形成されるドットの真円度を向上することが可能になる。また、ビヒクルの乾燥時間を短縮することも可能となるため、ビーディングの発生を低減することも可能になる。
(実施形態2)
つぎに、本発明の実施形態2にかかる印刷装置、印刷システムおよび印刷物の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明において、実施形態1と同様の構成または動作については、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
実施形態1では、実際の印刷対象の画像を印刷する前にテストパターンを印刷し、それにより得られたドット画像またはライン画像を解析した結果に基づいてプラズマエネルギー量を調節していた。これに対し、実施形態2では、実際の印刷対象の画像における一部をテストパターンとして使用し、その撮像画像を解析した結果に基づいてプラズマエネルギー量を調節する。
テストパターンとして使用する印刷対象画像の部分は、実施形態1のテストパターンと同様に、1色目のインクドットに重畳または隣接する領域に2色目のインクドットが形成される部分であってよい。それにより、実施形態1と同様に、比較的検出が容易な2色目のインクドットの形状変化を検出し、その検出結果に基づいてプラズマ処理におけるプラズマエネルギー量を調整することで、プラズマ処理された被処理物表面の濡れ性、pH値の低下によるインク顔料の凝集性や浸透性をより適切にコントロールすることが可能となる。その結果、インクドットの合一を防止してドットの鮮鋭度や色域を拡げることが可能となるため、ビーディングやブリードといった画像不良を解決して、高品質な画像が形成された印刷物を得ることができる。また、被処理物表面の顔料の凝集厚みが薄く均一になるため、インク液滴量を削減して、インク乾燥エネルギーの低減および印刷コストの低減を図ることも可能になる。
実施形態2にかかる印刷装置(システム)は、実施形態1において例示した印刷装置(システム)1と同様の構成を有していてよい。ただし、実施形態2では、プラズマ処理を含む印刷処理が以下のようになる。
図32は、実施形態2にかかるプラズマ処理を含む印刷処理の一例を示すフローチャートである。図33は、図32に示すフローチャートにおいてインク滴量とプラズマエネルギー量とを特定する際に用いるテーブルの一例を示す図である。なお、図32では、実施形態1において図22に例示した印刷装置(システム)1を用いてカット紙(所定の大きさにカットされた記録媒体)を被処理物20として印刷する場合を例に挙げる。ただし、カット紙に限らず、ロール状に巻かれたロール紙に対しても、同様の印刷処理を適用可能である。
図32に示すように、印刷処理では、まず、制御部160は、原稿画像(たとえばラスタデータ等)を受信する(ステップS301)。つぎに、制御部160は、図23のステップS101およびS102と同様に、被処理物20の種類(紙種)を特定する(ステップS302)とともに、印刷モードを特定する(ステップS303)。
つぎに、制御部160は、原稿画像を印刷する際のインク滴量を特定する(ステップS304)。インク滴量は、たとえば特定した印刷モードとドットサイズとに基づき、図33に示すようなテーブルから特定することが可能である。たとえば印刷モードが1200dpiで且つドットサイズが小滴である場合、インク滴量は、図33に示すテーブルに基づいて、2pl(ピコリットル)と特定することができる。また、印刷モードが600dpiで且つドットサイズが大滴である場合には、インク滴量は、15pl(ピコリットル)と特定することができる。なお、ドットサイズは、インクジェットヘッド170から吐出する液滴の大きさ、または、被処理物20に形成するドットの大きさであり、印刷対象の画像情報から制御部160によって特定されてもよい。
つぎに、制御部160は、原稿画像を走査し(ステップS305)、その結果に基づいて、テストパターンとして使用可能な解析用ドットパターンが原稿画像内に存在するか否かを判定する(ステップS306)。なお、テストパターンとして使用可能な解析用ドットパターンについては、後述において例示する。
ステップS306の判定の結果、原稿画像上にテストパターンとして使用可能な解析用ドットパターンが存在する場合(ステップS306;YES)、制御部160は、ステップS308へ進む。一方、原稿画像上にテストパターンとして使用可能な解析用ドットパターンが存在しない場合(ステップS306;NO)、制御部160は、解析用のドットパターンを新たに原稿画像内に追加し(ステップS307)、その後、ステップS308へ進む。なお、テストパターンとして使用可能な解析用ドットパターンの存在の判定および追加については、後述において詳細に説明する。
ステップS308では、制御部160は、プラズマ処理時の暫定のプラズマエネルギー量を設定する(ステップS308)。プラズマエネルギー量は、特定した被処理物20の種類(紙種)とインク滴量とに基づき、図33に示すようなテーブルから特定することが可能である。たとえば被処理物20の種類がコート紙Aであり、解像度が1200dpiであり、インク滴量が大滴の6plである場合、制御部160は、プラズマエネルギー量を0.7J/cm2に設定する。ただし、印刷処理においてインク滴量の種類(以下、滴種類という)が単一であることはきわめて稀であり、小滴、中滴および大滴が混在することが普通である。そこで、印刷処理において滴種類が混在する場合には、その画像形成に使用される滴種類で最もプラズマエネルギー量を必要とするインク滴量に基づいてプラズマエネルギー量を設定してもよい。その場合、たとえば画像形成に使用される滴種類に小滴、中滴および大滴が混在している場合は大滴のエネルギー設定が使用され、小滴および中滴である場合は中滴のエネルギー設定が使用される。なお、図33に示すテーブルでは、判定に用いる際に暫定で使用するプラズマエネルギー量の値を登録したが、これに限らず、たとえば高周波高圧電源151〜156から放電電極111〜116へ供給するパルス電圧の電圧値およびパルス時間幅が登録されていてもよい。また、図33に示すテーブルでは、白黒印刷モードとカラー印刷モードとに応じてプラズマエネルギー量が変更されるように登録されていてもよい。
つぎに、制御部160は、設定したプラズマエネルギー量に基づいて高周波高圧電源151〜156から放電電極111〜116に適宜パルス電圧を供給することで、被処理物20に対するプラズマ処理を実行する(ステップS309)。ここで、プラズマ処理を行う範囲は解析用ドットパターンが形成される領域までであってよい。つづいて、制御部160は、被処理物20におけるプラズマ処理が施された領域に対して、原稿画像における解析用ドットパターンを含む領域までを印刷する(ステップS310)。
つぎに、制御部160は、図23におけるステップS106〜S110と同様の処理を実行することで、パターン読取部180を用いて読み取った解析用ドットパターンのドット画像におけるドットの品質が十分な品質であるか否かを判定する(ステップS311〜S315)。
ステップS315の判定の結果、ドットが十分な品質でない場合(ステップS315;NO)、制御部160は、図23におけるステップS111と同様に、検出したドットの真円度、ドット径およびドットにおける濃度の偏差(およびドットの合一の状態)に応じてプラズマエネルギー量を補正する(ステップS316)。また、制御部160は、被処理物20を巻き戻し(ステップS317)、ステップS306へリターンする。ただし、ステップS306へリターンした場合、前回までの流れにおいて既に部分的なプラズマ処理の実行と画像の一部の形成とが済んでいるため、ステップS306へリターンした後は、前回までの流れによってプラズマ処理および画像形成がなされた領域よりも後の領域から、プラズマ処理および画像形成が実行されてもよい。その場合、ステップS317は省略されてもよい。
一方、解析用ドットが十分な品質である場合(ステップS315;YES)、制御部160は、特定した被処理物20の種類(紙種)と印刷モードとに基づいて、図33に登録されているプラズマエネルギー量を更新するとともに(ステップS318)、被処理物20を巻き戻し(ステップS319)、設定されたプラズマエネルギー量で被処理物20全面を処理し(ステップS320)、実際の印刷対象の全原稿画像を印刷し(ステップS321)、完了次第、印刷動作を終了する。なお、ステップS319の被処理物20の巻き戻しは省略されてもよい。
図32に例示したように、被処理物20としてロール紙を用いた場合、1つのロールで性状がほとんど変わらない。そのため、原稿画像の上流部を使ってプラズマエネルギー量を調整した後は、そのままの設定で安定した連続印刷が可能である。ただし、ロール紙を使い切らずに長期間停止した場合、紙の性状が変化する可能性がある。そのような場合、印刷再開前と同様に、原稿画像の上流部分を使ってドット画像を再度取得し、これを解析してプラズマエネルギー量を調整するとよい。また、最初に原稿画像の上流部分を使ってプラズマエネルギー量を調整した後に、定期的または連続してドット画像を測定してプラズマエネルギー量を調整してもよい。これにより、より詳細に安定した制御を行うことが可能となる。
また、テストパターンとして使用可能な解析用ドットパターンが複数存在する場合、ステップS310において実際にテストパターンとして印刷する解析用ドットパターンは、原稿画像における最も上流の位置にあるドットパターンであることが好ましい。また、実際にテストパターンとして印刷する解析用ドットパターンは、原稿画像における比較的先頭付近(たとえば原稿画像の先頭頁における上端から数cm以内)に位置していることが好ましい。実際にテストパターンとして使用可能な解析用ドットパターンが原稿画像における比較的先頭付近に存在しない場合には、たとえばステップS306において、原稿画像上にテストパターンとして使用可能な解析用ドットパターンが存在しないと判断し(ステップS306;NO)、ステップS307において、解析用のドットパターンを新たに原稿画像における比較的先頭付近に追加してもよい。なお、比較的先頭付近であるか否かの判定は、たとえばドットパターンの検索範囲に閾値を設けるなどの構成によって実現可能である。
さらに、ステップS317およびS319の被処理物20の巻き戻しは、プラズマ処理位置からインクジェット記録位置およびパターン読取位置までの距離が比較的長い場合に有効である。この距離が長い場合、被処理物20の巻き戻しをせずにステップS315のNOを経由するループを数多く繰り返すと、ドット品質の判定や実際の印刷処理に使用されずに消費される被処理物20が非常に多く出る。そこで、ステップS309およびS310において、原稿画像における解析用ドットパターンを含む領域までに対するプラズマ処理および印刷処理を実行して得られた画像の解析処理を行った後、ステップS317またはS319にて被処理物20を巻き戻すことで、ドット品質の判定や実際の印刷処理に使用されずに消費される被処理物20の領域を低減することが可能となる。
つぎに、テストパターンとして使用可能な解析用ドットパターンの例について、以下に具体例を上げて説明する。なお、以下の説明では、1色目のインクをシアン(C)とし、2色目のインクをイエロー(Y)とする。
テストパターンとして使用可能な解析用ドットパターンとしては、図16〜図18に例示したような、1色目のベタ画像上に2色目のm×n(m、nはともに整数)のドットパターンやラインパターンが配置された部分画像を使用することができる。なお、2色目のドットの滲みの影響を考慮すると、1色目のベタ画像としては、2色目のドット/ラインパターンよりも十分広い範囲で形成してあることが望ましい。たとえば図34に示すように、2色目のドットパターンG2が1×1ドットである場合には、1色目のベタ画像G1は、2色目のドットパターンG2の周囲に少なくとも1ドット分の余裕を有する3×3のベタ画像G1であることが望ましい。また、たとえば図35に示すように、2色目のドットパターンG12が2×2ドットである場合には、1色目のベタ画像G11は、2色目のドットパターンG12の周囲に少なくとも2ドット分の余裕を有する6×6のベタ画像G11であることが望ましい。
また、解析用ドットパターンとしては、画像形成過程のドットパターンを利用することも可能である。図36は、1色目のベタ画像G100の上に2色目のドットパターンG110として文字(M)を形成した場合のドット配置パターンの一例を示す図である。図37は、図36に示すドット配置パターンの序盤の形成過程を示す図である。
図37に示すように、図36に示すドット配置パターンは、図面中上方のドット列から形成される。具体的には、まず、図37(a)に示すように、1色目のベタ画像G100における1列目のドットラインG101と2列目のドットラインG102とが順次形成される。つづいて、図37(b)に示すように、2列目のドットラインG102上に2色目のドットパターンG111が形成される。つぎに、図37(c)に示すように、1色目のベタ画像G100における3列目のドットラインG103が形成され、つづいて、図37(d)に示すように、3列目のドットラインG103上に2色目のドットパターンG112が形成される。以降、1色目のベタ画像G100におけるn(nは整数)列目のドットラインの形成と、その上への2色目のドットパターンの形成とが順次行われることで、図36に示すドット配置パターンが形成される。
以上のようなドット配置パターンの形成過程では、図37(c)に示すような、1色目のラインパターンG101〜G103によるベタ画像上に2色目のドットパターン(単独ドット)G111が形成された状態が発生する。そこで、この段階でステップS310の印刷処理を終了し、ステップS311〜S315においてドットパターンG111の品質を判定することで、画像形成過程のドットパターンを利用したドット画像の品質判定が可能となる。
つぎに、ステップS306における、テストパターンとして使用可能な解析用ドットパターンが存在するか否かの判定処理について説明する。この判定処理には、たとえば画像処理後の吐出用の2bit画像データが用いられる。判別処理では、まず、RGB原稿画像データからCMYK画像に分離された何れかの色成分の画像(たとえばシアン(C)画像)におけるベタ部分を判別および抽出する。部分画像がベタ画像であるか否かは、画像データをスキャンし、一般的に知られる画像データのラベリング処理等を行うことによりドットの連続性を判定することで判別することができる。抽出されたベタ画像が存在する(x,y)座標範囲は、たとえば不図示のメモリ等に記憶される。つづいて、記憶されたベタ画像の座標範囲内に十分な余裕を持って他の色成分(たとえばイエロー(Y))の特定のドットパターン(たとえば1×1ドット)が存在するか否かを判定する。ベタ画像の座標範囲内に十分な余裕を持って他色の特定ドットパターンが存在するか否かは、ベタ画像の判別と同様に、ラベリング処理等を行うことにより判別することができる。ベタ画像の座標範囲内に十分な余裕を持って他色の特定ドットパターンが存在することが確認された場合、その特定ドットパターンの(x,y)座標範囲(もしくは座標位置)が不図示のメモリ等に記憶される。この特定ドットパターンの座標範囲(もしくは座標位置)は、たとえばステップS311におけるドット画像の読取の際に使用される。
つぎに、ステップS307における、解析用ドットパターンの追加処理について説明する。この追加処理には、上述の判定処理と同様に、たとえば画像処理後の吐出用の2bit画像データが用いられる。追加処理では、判別処理と同様に、まず、RGB原稿画像データからCMYK画像に分離された何れかの色成分の画像(たとえばシアン(C)画像)におけるベタ部分が判別および抽出される。抽出されたベタ画像が存在する(x,y)座標範囲は、たとえば不図示のメモリ等に記憶される。つづいて、抽出されたベタ画像に対し、その座標範囲内における十分な余裕を持った位置または範囲に、他の色成分(たとえばイエロー(Y))の特定ドットパターンが追加される。追加される特定ドットパターンは、たとえば1×1ドットなどの固定されたドットパターンであってもよいし、確保可能な余裕に応じて選択されたサイズ(たとえば6×6サイズのベタ画像であれば2×2サイズのドットパターン)のドットパターンであってもよい。追加された特定ドットパターンの(x,y)座標範囲(もしくは座標位置)は、不図示のメモリ等に記憶される。この特定ドットパターンの座標範囲(もしくは座標位置)は、たとえばステップS311におけるドット画像の読取の際に使用される。
なお、上記の例では1色目のベタ画像に対して追加される2色目のドットパターンの色は、1色目のベタ画像に重ねた場合に視認しにくい色であることが望ましい。たとえば、ある明度を持つベタ画像に対してその明度よりも低い明度の色を重ねた場合、重ねられた色が視認され易くなる。その場合、重ねる2色目の色は、より高い明度の色であることが望ましい。具体的には、カラーベタ画像に対して黒ドットを重ねると黒ドットが視認され易くなるため、カラーベタ画像上にはそのベタ画像よりも明度の高い色のドットを形成することが望ましい。これは、黒ベタ画像に対しても同様である。
以上のような構成によれば、実施形態1と同様の効果に加え、実際の原稿画像の印刷中でのプラズマエネルギー量の調整も容易に可能となる。その他の構成、動作および効果は、上述した実施形態1と同様であってよいため、ここでは詳細な説明を省略する。
以上、本発明者によってなされた発明を好適な実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例で説明したものに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。