JP2015177786A - アルカリフォスファターゼの安定化剤および免疫試験キット - Google Patents

アルカリフォスファターゼの安定化剤および免疫試験キット Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、アルカリフォスファターゼまたはアルカリフォスファターゼ標識複合体を安定に保存させるための酵素の安定化剤、並びに、これを含む免疫試験キットを提供する。
【解決手段】タンパク質の分解物を有効成分として含有する、アルカリフォスファターゼまたはアルカリフォスファターゼ標識複合体の安定化剤であって、 前記タンパク質の分解物中のアミノ酸組成に占めるリジンの割合が、50mg/g以上であることを特徴とする安定化剤を提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、アルカリフォスファターゼおよびアルカリフォスファターゼ標識複合体の安定化剤、これを含む免疫試験キット、およびアルカリフォスファターゼを保存する方法に関する。
アルカリフォスファターゼ(以下「ALP」と略すことがある)は、酵素免疫測定法や化学発光酵素免疫測定法など、臨床検査や研究試薬として幅広く利用されている酵素であり、これを安定に保存することは、試薬、製品を保証する上で非常に重要である。
ALPをはじめとする酵素の安定化剤として、ALP溶液中にウシ血清アルブミン(以下「BSA」)を添加する方法は古くから知られているが、BSAの添加のみでは、長期間、安定してALPを保存させることが困難であった。それゆえ、これまでに様々な酵素の安定化を図る工夫が試みられている。
特許文献1では、1%(W/V)のBSA添加の他に、ゼラチンの加水分解物を加えることで、酵素の安定性を向上させている。また、特許文献2では、BSA添加の代わりとして、繭糸を構成するタンパク質の分解物を添加している。さらに、特許文献3では、BSA添加の代わりとして、植物由来タンパク質の分解物を添加している。
特開2001−183374号公報 特開2007−151546号公報 特開2006−42757号公報
タンパク質はアミノ酸から構成され、種々のタンパク質はそれぞれ特有のアミノ酸配列を有している。先述したゼラチン、繭、および植物由来のタンパク質分解物は、主にポリペプチドを含み、ポリペプチドが、ALPの安定性を向上させていると考えられる。
一方、タンパク質は、動物や植物の由来(種類)が同じであっても、個体によりそのアミノ酸組成は大きく異なっている。
特許文献3では、3種のダイズ由来タンパク質を用いて、酵素の安定性試験を行っているが、その効果には優劣の差が見られる。さらに、本発明者らの研究の結果によると、全てのダイズ由来タンパク質分解物が、ALPの安定性に有効であるとは言えない。
本発明は、ALPを水溶液中でより安定に保存させるための安定化剤、並びに、これを含む免疫試験キット、ALPの保存方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するための鋭意検討の結果、そのアミノ酸組成に占めるリジンの割合が高いタンパク質分解物を安定化剤として用いると、ALPあるいはALP標識複合体の長期保存が可能となることを見出した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)タンパク質の分解物を有効成分として含有する、アルカリフォスファターゼまたはアルカリフォスファターゼ標識複合体の安定化剤であって、前記タンパク質分解物中のアミノ酸組成に占めるリジンの割合が、50mg/g以上であることを特徴とする安定化剤。
(2)前記タンパク質の分解物は、その95%(重量)以上が重量平均分子量10kDa以下のタンパク質分解物であることを特徴とする、(1)に記載の安定化剤。
(3)タンパク質分解物が、大豆、エンドウ豆、またはジャガイモの何れかに由来することを特徴とする、(1)および(2)に記載の安定化剤。
(4)タンパク質分解物が、大豆に由来することを特徴とする、(1)から(3)に記載の安定化剤。
(5)タンパク質分解物は、その20%(重量)以上が、重量平均分子量1〜2kDaのタンパク質分解物であることを特徴とする、(4)に記載の安定化剤。
(6)少なくとも、アルカリフォスファターゼ標識複合体と、(1)から(5)に記載の安定化剤を具備することを特徴とする、免疫試験キット
(7)(1)から(5)の安定化剤を含む安定化溶液中でアルカリフォスファターゼまたはアルカリフォスファターゼ標識複合体を保存する方法。
本発明は、アミノ酸組成に占めるリジンの割合が50mg/g以上であり、さらには、その95%(重量)以上が重量平均分子量10kDa以下のタンパク質分解物であるタンパク質分解物を、安定化剤として使用することで、ALPの酵素活性の失活や低下を防止し、冷蔵環境下での長期的な保存を可能とする。また、本発明により、ALPの安定化剤を選定やロット変更等においても、使用するタンパク質分解物のリジンの割合とその分子量分布を調べることで、ALPの保存に適した材料であるのかを容易に判断することができる。それゆえ、種々の動植物由来タンパク質の中から、ALPの保存に適した材料を、それぞれの用途に合わせて選定可能となる。
また、本発明の一実施形態は、タンパク質分解物が大豆、エンドウ豆、またはジャガイモの何れかに由来することを特徴とし、これらにおいては、植物由来タンパク質分解物を安定化剤として使用することで、人畜共通感染症(牛海綿状脳症:BSE)等の心配が無く、安全な安定化剤を提供が可能となる。
また、本発明の一実施形態は、本発明の安定化剤を具備する免疫試験キットを提供する。タンパク質分解物のロット変更時であっても、ALPの保存に適した材料を容易に選定できれば、ロット変更による保存性能の低下を懸念する必要が無く、同一性能の免疫試験キットを安定して供給することが可能となる。
また、さらには、本発明の一実施形態は、アミノ酸組成に占めるリジンの割合が50mg/g以上であり、さらには、その95%(重量)以上が重量平均分子量10kDa以下のタンパク質分解物であるタンパク質分解物を、安定化剤として使用するALPの保存方法を提供する。
本発明の実施例1、2で使用した、分析装置の概念図である。 本発明の実施例1、2で使用した、不溶性担体の概念図である。 本発明の実施例1、2で使用した、免疫試験キットの概念図である。 本発明の実施例2で行った検討結果を示す図である。
以下、本発明のアルカリフォスファターゼおよびアルカリフォスファターゼ標識複合体の安定化剤、また、これを含む免疫試験キットの実施形態について説明する。尚、ここに示す実施の形態は、あくまでも一例であって、必ずしもこの実施の形態に限定されるものではない。
(第一の実施の形態)
本発明の第一の実施形態として、タンパク質の分解物を有効成分として含有する、アルカリフォスファターゼまたはアルカリフォスファターゼ標識複合体の安定化剤であって、前記タンパク質の分解物中のアミノ酸組成に占めるリジンの割合が、50mg/g以上であることを特徴とする安定化剤を提供する。
アルカリフォスファターゼ(ALP)は、アルカリ(性)ホスファターゼ、Alkaline phosphatase、アルカリ性フォスファターゼなどと同義であり、最適pHをアルカリ性にもち、多くのリン酸エステル結合を加水分解する酵素であり、多くの生物種に広く存在する。ALPは、前述のとおり、酵素免疫測定法や化学発光酵素免疫測定法など、臨床検査や研究試薬として幅広く利用されている。
リジンとは2,6−ジアミノ−n−カプロン酸、Lysine,リシンであり、Lys,あるいはKと略記される塩基性アミノ酸の1つである。
本実施形態において、「タンパク質分解物中のアミノ酸組成に占めるリジンの割合が、50mg/g以上である」とは、タンパク質分解物1グラム中、遊離または非遊離のリジンが50mg相当量以上含まれていることを意味し、より、詳細には、リジンの割合は、アミノ酸組成分析に基づき、アミノ酸組成分析の例として、ニンヒドリン法を挙げることができる。本実施形態の安定化剤は、有効成分であるタンパク質の分解物1g中のアミノ酸組成に占めるリジンの割合が50mg/g以上を満たす。本発明の安定化剤における「タンパク質」は、例えば、穀類、イモ類、豆類、種実類、野菜類、果実類、茸類、藻類、魚介類、肉類、卵類、乳類などから抽出される種々のタンパク質であり、これらのタンパク質の分解物のうち、アミノ酸組成に占めるリジンの割合が50mg/g以上であれば本発明の安定化剤として利用可能である。さらに、タンパク質分解物中のリジンの割合は高いほどよく、55mg/g以上がより好適と言える。なお、タンパク質分解物中のリジンの割合は、必ずしも、その食品自体のリジン含有量と比例するものではない。例えば、なし、りんご、みかん等の果実種や、米、トウモロコシ、小麦等の穀物類には、リジンがあまり含まれていないことが知られているが、これらに由来するタンパク質については、分解物1g中のリジンの割合が50mg/g以上を満たすものもあり、そのようなタンパク質は当然、本発明のALPの安定化剤として好適と言える。なお、本発明において、タンパク質の由来について限定はないが、好ましくは、大豆、エンドウ豆、またはジャガイモの何れかに由来し、さらに好ましくは、大豆を挙げることができる。
タンパク質の「分解物」とは、タンパク質を分解して得られる物質の混合物を意味しており、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸、塩等を含み、主にはポリペプチドを含む。本実施形態においては、タンパク質の分解物は、好ましくは、分解物の分子量分布において、重量平均分子量10kDa以下の物質を95%(重量)以上含有し、さらに好適には、前記タンパク質の分解物が、重量平均分子量10kDa以下の物質を95%(重量)以上含有し、且つ、1〜2kDaの物質を20%(重量)以上含んでいる。
タンパク質分解物を得る方法としては、特に限定がなく、酸分解、酵素分解、アルカリ分解等があげられる。
タンパク質の分解に使用できる酵素は、プロテアーゼに属するもので、タンパク質を主にポリペプチドに分解できるものであれば良い。例えば、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン等の動物由来のプロテアーゼや、パパイン、フィシン、ブロメライン等の植物由来プロテアーゼが挙げられる。また、酸分解の場合は、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等が挙げられ、アルカリ分解の場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
タンパク質の分解により、重量平均分子量10kDa以下の様々な長さのポリペプチドが得られるが、本発明における分解物は、様々な長さのポリペプチドが混合した混合物を含んでもよいし、一定の長さの範囲に分画されたポリペプチドを含んでもよい。また、タンパク質を分解すると、同時にアミノ酸が生ずることもあるが、本発明の安定化剤においては、上記のポリペプチドが含まれる限り、アミノ酸およびその他、タンパク質に由来する物質が混入していてもよい。なお、本明細書中、ポリペプチドとは、アミノ酸が複数結合したもの全般を指し、アミノ酸の単位数、分子量や、立体構造は問わない。
本発明において、安定化剤は、溶液に調製して、ALPまたはALP標識複合体の失活や活性低下を防止する為に使用される。安定化剤を含む溶液を安定化溶液と呼ぶ。
安定化溶液の調製には、各種の水系溶媒を用いることができる。例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液生理食塩水などが挙げられるが、グッドの緩衝液が特に好ましい。さらに、緩衝液のpHについては、適宜、好適なpHを選択して用いればよく、pH3〜9の範囲で選択されるが、好ましくはpH6〜8であり、さらに好ましくは、pH6.3〜6.8の範囲である。また上記緩衝液に、各種の糖類、ポリエチレングリコール、塩化マグネシウムや塩化亜鉛等の金属塩、アジ化ナトリウムもしくは抗生物質などの各種防腐剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤もしくは陰イオン性界面活性剤などの各種界面活性剤等を、1種または2種以上を適宜含有させてもよい。
本発明における安定化溶液中のタンパク質分解物の濃度は、0.01〜20%(W/V)の範囲であればよく、さらに好ましくは、0.1〜10%(W/V)である。
ALP標識複合体とは、ALPと被標識物が結合した化合物をいう。被標識物には特に限定はない。一般的なALPの使用目的を考慮すると、被標識物としては、生体物質を特異認識する物質を例示することができ、例えば、抗原と抗体、ビオチンとアビジン、又はビオチンとストレプトアビジン、特定の糖とそれに対応するレクチン、サイトカインやケモカインとそれに対応するレセプター、エンドトキシンとエンドトキシン中和タンパク質、等の対物質の一方が挙げられる。被標識物が抗体である場合は、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ等の種々の免疫動物から獲得される抗体、さらに、ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体、または、これらの抗体のFab、F(ab’)2、Fab’等のフラグメントを例として挙げられる。
なお本発明はALPあるいはALP標識複合体の安定化剤であるが、本発明の安定化剤は、ALPに限らず、その他酵素、あるいは、その他のタンパク質の安定化剤としても用いることも可能である。
(第二実施の形態)
本発明の第二の実施形態として、少なくとも、前述した安定化剤を含む安定化溶液で希釈されたアルカリフォスファターゼまたはアルカリフォスファターゼ標識複合体を具備することを特徴とする、免疫試験キットを提供する。
免疫試験とは、抗原抗体反応を利用した試験全般を指し、酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、蛍光酵素免疫測定法など、公知の方法に基づく試験を例示することができる。例えば、化学発光酵素免疫測定法の場合、第一抗体が固相化された不溶性担体と、前記安定化剤に希釈されたALP標識第二抗体、洗浄緩衝液、及び発光/発色基質溶液を用いて実施される。信号の検出は、第二抗体に標識されているALPに、その至適条件下で前記の基質を反応させ、その酵素反応生成物の量を光学的方法により測定することで実施される。免疫試験は、用手法で行ってもよいし、分析装置等の装置を用いて行ってもよい。
免疫試験に用いる不溶性担体としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ラテックス、リポソーム、ゼラチン、アガロース、セルロース、セファロース、ガラス、金属、セラミックス、または、磁性体等の材質よりなるビーズ、マイクロプレート、試験管、スティック、メンブレン、等の形状の固相担体を用いることができる。
前記第一抗体の不溶性担体への固相化方法としては、公知の固相化方法が利用できる。例えば、物理吸着法としては、抗体と担体を緩衝液などの溶液中で混合し接触させる方法、また、緩衝液などに溶解した抗体と担体を接触させる方法が挙げられる。
また、化学的結合法により第一抗体を固相化する場合も公知の方法に従い調製することができる。例えば、抗体と担体をグルタルアルデヒド、カルボジイミド、イミドエステルまたはマレイミド等の二価性の架橋試薬と混合、接触させて、抗体と担体双方のアミノ基、カルボキシル基、チオール基、アルデヒド基、または水酸基等と反応させる方法などが挙げられる。
さらに、非特異的反応や、第一抗体を固相化させた不溶性担体の自然凝集等を抑制するために処理を行う必要があれば、公知の方法により処理することができる。例えば、抗体を固相化させた不溶性担体の表面または内壁面に、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ゼラチン、卵白アルブミンもしくはその塩などのタンパク質、界面活性剤または脱脂粉乳等を接触させ、被覆させる方法などが挙げられる。
前記第二抗体へのALPの標識方法としては、公知の標識方法が利用できる。例えば、抗体とALPをグルタルアルデヒド、カルボジイミド、イミドエステルまたはマレイミド等の二価性の架橋試薬と混合、接触させて、抗体とALP双方のアミノ基、カルボキシル基、チオール基、アルデヒド基、または水酸基等と反応させる方法などが挙げられる。
本発明の免疫試験キットの構成としては、ALP標識複合体溶液に、タンパク質の分解物を有効成分として含有する安定化剤が含まれている限り、特に限定はなく、前記ALP標識複合体溶液の他に、前述した免疫試験に必要な種々の試薬を具備させることができる。例えば、緩衝液、試薬希釈液、発色などのシグナルを生成する物質を含有する試薬、発色などのシグナルの生成に関与する物質を含有する試薬、較正(キャリブレーション)を行うための物質を含有する試薬、又は精度管理を行うための物質を含有する試薬などが挙げられる。
使いきりタイプの免疫試験キットの形態の一例としては、第一抗体が固相化された球状や棒状の不溶性担体、試薬希釈液、安定化剤に希釈されたALP標識第二抗体、洗浄液、および発光基質溶液などを、検査容器に充填する構成が考えられる。
検査容器の形状は、検体の測定を行うことができる限り特に限定されるものではない。例えば、反応槽や試薬格納槽が複数並んだ舟型の容器や、板状の基体に溝を設け、反応槽や格納槽を流路で繋いだ流路型の容器があげられる。また、検査容器の大きさも特に限定されるものではないが、自動分析装置等に組み込んで用いるためには、10センチメートル×10センチメートル程度以下の小型であることが望ましい。
さらに、反応槽への異物の混入や、試薬格納槽に充填しておいた試薬の蒸発・劣化を避けるために、各槽の上部をシールすることもできる。例えば、アルミニウム箔や高分子フィルム等を検査容器の反応槽と格納槽の上部に接着させる方法があげられる。特に、アルミニウム箔によるシールは、分析装置の穿孔機構や分注チップの先端で容易に開封できるので好ましい。検査容器の素材としては、被測定物質を測定するための反応を阻害する物質でない限り特に限定されるものではない。例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等があげられる。
また、マイクロプレートタイプの試験キットの形態としては、以下の構成が考えられる。例えば、第一抗体が固相化されたマイクロプレートと共に、検体希釈液、安定化剤に希釈されたALP標識第二抗体、洗浄液、および発色基質溶液などを、それぞれ試薬ボトルとして付属する構成である。
(第三の実施形態)
本発明の第三の実施形態として、上記の安定化剤を含む安定化溶液中でアルカリフォスファターゼまたはアルカリフォスファターゼ標識複合体を保存する方法を提供する。本実施形態における安定化溶液中のタンパク質分解物の濃度は、0.01〜20%(W/V)の範囲が好ましく、さらに好ましくは、0.1〜10%(W/V)である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものではない。
(1)免疫試験キット用の分析装置
図1に本実施例で作製した免疫試験キット用の分析装置の概念図を示す。図示のように検査容器1が分析装置に組み込まれている。同図において、2は光電子倍増管、3はフォトンカウンター、4は不溶性担体5を搬送するためのハンドリングアームである。図示のように、光電子倍増管2は、被測定物質の測定の際に生じる発光反応を受光するために、検査容器1の上部に配置されている。また、フォトンカウンター3は、光電子増倍管2からの信号を計測するために設置されており、外部出力装置に接続されている。図示のように、ハンドリングアーム4は、不溶性担体5を搬送する際に用いられ、検査容器1の上部に設置されている。
(2)不溶性担体の作製
ポリスチレン樹脂を射出成形することにより、図2に記載の不溶性担体5を作製した。担体上部の平板状部位は、ハンドリングアーム4による搬送の際に使用される平板状の部位であり、直径を10mm、厚みは1.5mmとした。また、不溶性担体5の柱状部位は、被測定物質を特異的に認識する抗体16を固相化しておくための部位であり、直径を0.7mm、長さを40mmとした。
(3)検査容器の作製
ポリプロピレン樹脂を射出成形することにより、図1に記載の検査容器1を作製した。検査容器には免疫試験を行うための反応槽が複数設けられている。各槽の直径は2.6mm、深さは41mmとした。また隣の槽との間隔を10mmとした。
(4)不溶性担体の搬送方法
ハンドリングアーム4の先端に、シリコーンゴム製の円柱形先端を有する管状治具とチューブを取り付けた(不図示)。更に、そのチューブの先に電磁バルブと空気ポンプを取り付けた。この空気ポンプによりチューブ内を負圧とし、電磁バルブをオン/オフさせることで、平板状部位を介して不溶性担体5を持ち上げ/放せるようにした。この機構により、ハンドリングアーム4を移動させて、検査容器1の各槽から槽へ不溶性担体5を移動させることが可能になった。
(5)不溶性担体への第一の抗IL−6抗体の固相化
抗IL−6モノクローナル抗体(R&D Systems社)をトリス緩衝液(pH8.0)で10μg/mlに希釈し、抗体固相化用の容器に100μLずつ分注した。その後、この溶液に不溶性担体5の柱状部位を浸漬させて、4℃で一昼夜静置した。次に、不溶性担体5を取り出し、表面をトリス緩衝液(pH8.0)で洗浄した。次に、Bovine Serum Albumin(シグマアルドリッチジャパン社)をトリス緩衝液(pH8.0)で5%(重量%)に希釈し、抗体固相化用の容器に100μLずつ分注した。その後、この溶液に不溶性担体5の柱状部位を浸漬させて、室温で2時間静置した。その後、不溶性担体5を取り出し、表面をトリス緩衝液(pH8.0)で洗浄した。次に、Sucrose(和光純薬工業社)をトリス緩衝液(pH8.0)で5%(W/V)に希釈し、抗体固相化用の容器に100μLずつ分注した。その後、この溶液に不溶性担体5の柱状部位を浸漬させて、室温で2時間静置した。最後に不溶性担体5を取り出し、乾燥させて4℃で保存した。
(6)不溶性担体への第一の抗CRP抗体の固相化
上記(5)と同様の手順にて、抗CRPモノクローナル抗体(オリエンタル酵母社)が固相化された不溶性担体5を作製した。
(7)安定化溶液の作製
2−Morpholinoethanesulfonic acid, monohydrate(25mM)、塩化ナトリウム(150mM)、塩化マグネシウム(1mM)、塩化亜鉛(0.1mM)、アジ化ナトリウム(0.09%)を純水に添加し、緩衝液を作製した。
次に、作製した緩衝液に、表1に示した9種類の植物性タンパク質分解物(シグマアルドリッチジャパン社)を、5%(W/V)となるようにそれぞれ添加し、水酸化ナトリウムにてpHを6.5に調製して、この溶液をALPの安定化溶液(No.1〜9)とした。また、作製した緩衝液に、表1に示した4種類の動物性タンパク質分解物(ニッピ社)を、10%(W/V)となるようにそれぞれ添加し、水酸化ナトリウムにてpHを6.5に調製して、この溶液をALPの安定化溶液(No.10〜13)とした。
また、タンパク質未分解物との性能比較を行うために、作製した緩衝液に5%(W/V)のウシ血清アルブミン(シグマアルドリッチジャパン社)を添加した溶液(Control)も調製した。
尚、表1に示した試薬は、酵素および酸により分解されたタンパク質分解物であり、重量平均分子量で10kDa以下のポリペプチドを95%(重量)以上含有している。
さらに、No.2のダイズタンパク質分解物の分子量分布は、重量比率に換算すると、10kDa以上が0.5%、5〜10kDaが3.1%、2〜5kDaが13%、1〜2kDaが20.5%、0.5〜1kDaが25.2%、0.5kDa以下が37.7%である。
Figure 2015177786
(8)第二の抗IL−6抗体へのALP標識
抗IL−6モノクローナル抗体(R&D Systems社)への酵素標識は、Alkaline Phosphatase Labeling Kit−NH2(商品名、同仁化学研究所社)を用いてメーカープロトコール通りに行った。
次に、表1に示した13種類の安定化剤とコントロール溶液を用いて、ALP標識された抗IL−6モノクローナル抗体を2.0μg/mlとなるように希釈し、4℃で保存した。
(9)第二の抗CRP抗体へのALP標識
上記(8)と同様の手順にて、ALP標識された抗CRPモノクローナル抗体を作製した。次に、表1に示したNo.7(ダイズタンパク質分解物)を用いてALP標識された抗CRPモノクローナル抗体を2.0μg/mlに調製し、4℃で保存した。
(10)免疫試験キットの作製
図3に本実施例で使用した免疫試験キット15の概念図を示す。
検査容器1の不溶性担体設置槽6に、上記(5)および(6)で示した、抗体を固相化した不溶性担体5を挿入した。次に、0.05%(W/V)−Tween20含有トリス緩衝液(pH8.0)を洗浄液として、洗浄槽8、9、11、12に、115μLずつ分注した。次に、操作(8)および(9)示した、2.0μg/mlのALP標識された抗体溶液を、ALP標識抗体試薬槽10に100μL分注した。次に、化学発光試薬(Lumigen社)を発光反応槽13に100μL分注した。最後に、ラミネートフィルム14を、検査容器1に熱圧着させて、これを免疫試験キット15とした。
免疫試験キット15の使用に当たっては、ラミネートフィルム14を剥がし、検体100μLを免疫反応槽7に分注した。その後、図1に示した分析装置に免疫試験キットを設置して、測定を行った。
(11)各安定化剤で使用したタンパク質分解物のアミノ酸組成
上記(7)の安定化剤で使用した9種類のタンパク質分解物(No.1〜9)とアルブミン(タンパク質未分解物)のアミノ酸組成分析を行った。アミノ酸組成分析は次のように行った。
先ず、各試験管に上述の試料(No.1〜9およびアルブミン)を約2mgずつ採取し、6mol/Lの塩酸250μLをそれぞれ添加し、窒素置換後、減圧封管を行った。次に、110℃で22時間加水分解を行い、その後、減圧乾固を行った。次に、各試料を乾固させた試験管に、0.02mol/Lの塩酸400μLをそれぞれ添加し、試料を溶解させて、0.22μmの遠心式ろ過ユニットでろ過を行った。その後、ろ液を回収し、0.02mol/Lの塩酸で10倍に希釈し、この試料溶液50μLをアミノ酸分析用の試料カップに移した。その後、各試料溶液をアミノ酸分析計L−8900(日立ハイテクノロジーズ社)に設置し、ニンヒドリン法によるアミノ酸の定量分析を行った。
タンパク質分解物(No.1〜9)とアルブミン(タンパク質未分解物)のアミノ酸組成を、表2に示した。尚、表に記載された値は、タンパク質分解物(試料)1g中に占める各アミノ酸の割合(mg/g)を表している。
No.2、No.4、No.7、No.8に示されるように、ダイズ由来のタンパク質分解物であっても、タンパク質分解物(1g)中に占める各アミノ酸の割合は大きく異なっていた。例えば、リジンの割合は、No.2、No.4、No.7、No.8の順に、56mg/g、36mg/g、50mg/g、35mg/gであった。また、No.2、No.3、No.7、No.9のタンパク質分解物に占めるリジンの割合は、50mg/g以上であった。一方、Controlであるアルブミン(タンパク質未分解物)中のリジンの割合は、109mg/gと高値であった。
Figure 2015177786
実施例1として、上記(7)で作製した安定化溶液13種類とコントロール溶液による、ALP標識抗IL−6モノクローナル抗体溶液の保存性試験を行った。
測定は前述の分析装置を用いた。また、IL−6測定用の免疫測定キットは、上記(5)、(7)、(8)、(10)に従って作製し、それぞれを4℃で保管した。また、検体として、160ng/mlの濃度に調製したIL−6(鎌倉テクノサイエンス社)溶液を、−30℃で小分け保存しておき、測定毎に解凍して使用した。
測定方法としては、先ず、4℃に保管されていた免疫試験キットを、室温に30分以上静置した。次に、免疫試験キットのラミネートフィルムを剥がして、コントロール検体100μLを免疫反応槽7の位置に分注した。尚、免疫試験は2ステップサンドイッチCLEIA法を用いた。
2ステップサンドイッチCLEIAは37℃で行った。先ず、IL−6固相化不溶性担体を免疫反応槽7に浸漬し、10分静置した。次に、前記不溶性担体を洗浄槽8に浸漬し、2分静置後、同担体を洗浄槽9に浸漬し、2分静置した。次に、前記不溶性担体をALP標識抗体試薬槽10に浸漬し、7.5分静置した。その後、前記不溶性担体を洗浄槽11に浸漬し、2分静置後、同担体を洗浄槽12に浸漬し、2分静置した。そして、前記不溶性担体を発光反応槽13に浸漬し、3分静置した。最後に、発光反応槽13から前記不溶性担体を引き抜き、化学発光試薬の発光強度を計測した。
保存性試験は以下の通りに行った。先ず、免疫試験キットの保存開始から1日目に、上記検体を測定した際に得られた信号値を基準値とした。その後、約10日間おきに各免疫試験キットを用いた検体の測定を行い、得られた信号値を基準値で割った値を、残存活性率(%)と定義した。
評価方法としては、保存開始30日、60日、90日後の各カートリッジの残存活性率を算出し、60日時点で90%以上の残存活性率を示していた場合「○」、90日時点で90%以上の残存活性率を示した場合「◎」とした。
その結果、保存開始60日後の残存活性率が90%以上であった安定化剤は、No.2、No.3、No.7、No.9であり、塩基性アミノ酸であるリジンの割合は、全て50mg/g以上であった。
また、保存開始90日後の残存活性率が90%以上であった安定化剤は、No.2、No.3であり、塩基性アミノ酸であるリジンの割合は、55mg/g以上であった。
一方、Controlとして使用したアルブミンは、その組成中リジンの割合が109mg/gであり、タンパク質未分解物(重量平均分子量66kDa)であり、60日および90日後の残存活性率は90%以下と低かった。
また、No.10〜13で使用した動物性タンパク質分解物(コラーゲンペプチド)は、グリシン、プロリン、ヒドロキシプロリンを主成分とするポリペプチドであるが、リジンの割合が低く、30日後の残存活性率はどれも低かった。
以上のように、リジンの割合が50mg/g以上であり、尚且つ、分子量分布において、重量平均分子量10kDa以下のポリペプチドを95%(重量)以上含有している、タンパク質分解物を用いることで、アルカリフォスファターゼ標識複合体を安定して保存させることができた。
Figure 2015177786
実施例2として、安定化剤No.7を用いた、CRP測定用免疫試験キットを作製し、4℃における保存安定性を調べた。
測定は前述の分析装置を用いた。また、CRP測定用の免疫測定キットは、上記(6)、(7)、(9)、(10)に従って作製し、4℃で保管した。また、検体として、0.15mg/dlの濃度に調製したCRP(オリエンタル酵母社)溶液を、−30℃で小分け保存しておき、測定毎に解凍して使用した。
測定方法としては、先ず、4℃に保管されていた免疫試験キットを、室温に30分以上静置した。次に、免疫試験キットのラミネートフィルムを剥がして、コントロール検体100μLを免疫反応槽7に分注した。免疫試験は、実施例1に記載した2ステップサンドイッチCLEIA法により行った。
結果を図4に示した。保存開始から60日目の残存活性率は91.9%であり、90日目の残存活性率は88.7%であった。この結果は、表3(No.7)の結果を支持するものであり、アミノ酸組成に占めるリジンの割合が50mg/g以上であるタンパク質の分解物を用いることで、アルカリフォスファターゼ標識複合体を安定して保存可能であることが示された。
1.検査容器
2.光電子倍増管
3.フォトンカウンター
4.ハンドリングアーム
5.不溶性担体
6.不溶性担体設置槽
7.免疫反応槽
8.洗浄槽
9.洗浄槽
10.ALP標識抗体試薬槽
11.洗浄槽
12.洗浄槽
13.発光反応槽
14.ラミネートフィルム
15.免疫試験キット
16.抗体

Claims (7)

  1. タンパク質の分解物を有効成分として含有する、アルカリフォスファターゼまたはアルカリフォスファターゼ標識複合体の安定化剤であって、前記タンパク質の分解物中のアミノ酸組成に占めるリジンの割合が、50mg/g以上であることを特徴とする安定化剤。
  2. 前記タンパク質の分解物は、その95%(重量)以上が重量平均分子量10kDa以下のタンパク質分解物であることを特徴とする、請求項1に記載の安定化剤。
  3. 前記タンパク質が、大豆、エンドウ豆、または、ジャガイモの何れかに由来することを特徴とする、請求項1または2のいずれか1項に記載の安定化剤。
  4. 前記タンパク質が、大豆に由来することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の安定化剤。
  5. 前記タンパク質分解物は、その20%(重量)以上が、重量平均分子量で1〜2kDaであることを特徴とする、請求項4に記載の安定化剤。
  6. 少なくとも、請求項1から5のいずれか1項に記載の安定化剤を含む安定化溶液で希釈されたアルカリフォスファターゼまたはアルカリフォスファターゼ標識複合体を具備することを特徴とする、免疫試験キット。
  7. 請求項1から5のいずれか1項に記載の安定化剤を含む安定化溶液中でアルカリフォスファターゼまたはアルカリフォスファターゼ標識複合体を保存する方法。
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