JP6013717B2 - 液状保存可能なタンパク質溶液及びタンパク質溶液の液状での保存方法 - Google Patents
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一方、タンパク質溶液が凍結するほど低温になった場合、凍結−解凍サイクルはタンパク質の分解や変性の原因となり得ることも知られており、タンパク質溶液を繰り返し凍結融解して使用することは通常避けられる。
特許文献1(WO92/01808)には、抗体を液状で保存する方法として、抗体含有溶液にアルブミンを添加する方法が開示されている。
特許文献2(特開昭61−076423)には、抗体を液状で保存する方法として、抗体含有溶液に加水分解された卵アルブミンを添加する方法が開示されている。
特許文献3(特開平06−186230)には、抗体を液状で保存する方法として、抗体含有溶液にアルブミン及び構造中にナフタレンスルホン酸を含むアゾ系色素を添加する方法が開示されている。
特許文献4(特開2007−514954)には、トロポニンIやB型ナトリウム利尿ペプチドといった心臓マーカーポリペプチドを液状で保存する方法として、当該ポリペプチド含有溶液に塩基性側鎖を有する複数のアミノ酸及びアルブミンを添加する方法が開示されている。
特許文献6では、BPFの配列を含むDnaKのアミノ酸配列386番目から638番目のポリペプチドを用いて、液状でタンパク質を保存する臨床診断用酵素や抗体、研究用酵素などの保存安定性を向上させる用途への応用について指摘している。しかし、液状でヘキソキナーゼを45℃、24時間保存処理した試験では、DnaKのアミノ酸配列386番目から638番目のポリペプチドを添加した場合でも、未処理の(変性していない)ヘキソキナーゼに対する相対活性は50%であり、BSA添加または何も添加していないコントロールの45%と大きな差はなかった。
しかし、保存対象タンパク質を液状で長期間保存する際のBPFの効果(生物活性の維持ほか)について、実際に試験をした報告はない。また、高温や凍結、さらに凍結融解の繰り返しといった、厳しい温度条件でのタンパク質の保存に対するBPFの効果についても報告はない。
また、もうひとつのより詳細な課題としては、保存対象タンパク質を含む溶液が高温や凍結といった一般的にタンパク質が変性するとされる条件に晒された場合でも、保存対象タンパク質を安定的に保存するための該タンパク質液状保存用水溶液の使用と該使用によるタンパク質の保存方法を提供することが挙げられる。
〔1〕容器に充填され、インスリンおよび大腸菌由来熱ショックタンパク質(HSP)であるDnaKのアミノ酸配列419番目から607番目のポリペプチド(BPF)を含むことを特徴とする、インスリン保存用水溶液。
〔2〕インスリン保存用水溶液中のBPF濃度が0.01〜5重量%である前記〔1〕に記載のインスリン保存用水溶液。
〔3〕容器の材質が、ポリプロピレン、ポリスチレン又はガラスのいずれかである前記〔1〕または〔2〕に記載のインスリン保存用水溶液。
〔4〕37℃で2週間保存した後のインスリンの残存率が90%以上である前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のインスリン保存用水溶液。
〔5〕60℃で18時間保存した後のインスリンの残存率が50%以上である前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のインスリン保存用水溶液。
〔6〕1日凍結保存した後、融解し37℃で1日保存した後のインスリンの残存率が90%以上である前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のインスリン保存用水溶液。
〔7〕1日凍結保存した後、融解し37℃で1日保存する保存サイクルを3回繰り返した後のインスリンの残存率が85%以上である前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のインスリン保存用水溶液。
〔8〕容器に充填され、インスリンおよび大腸菌由来熱ショックタンパク質(HSP)であるDnaKのアミノ酸配列419番目から607番目のポリペプチド(BPF)を含むことを特徴とする、インスリン凍結保存用水溶液。
〔9〕インスリン含む水溶液の保存方法であって、インスリンを含む水溶液にBPFを添加することを特徴とする前記保存方法。
〔10〕インスリンを含む水溶液中のインスリンの容器への吸着防止方法であって、BPFを添加することを特徴とする前記吸着防止方法。
〔11〕インスリンを含む水溶液中のインスリンの容器への吸着防止剤であって、BPFを有効成分として含有する前記吸着防止剤。
また、本発明のタンパク質液状保存用水溶液は、保存対象タンパク質を含む液体が高温や凍結といった一般的にタンパク質が変性するとされる条件に晒された場合でも、保存対象タンパク質の安定的な保存に使用することができる。
本発明方法等に使用するBPFは、特許文献5の記載に従い調製することができる。また、市販品(東洋紡社製、カタログ番号BPF−301)を使用してもよい。本発明方法等における使用濃度としては、保存対象タンパク質を液状で保存しようとする溶液中の濃度として、0.01〜5%が好適であり、より好適には0.05〜3%、さらに好適には0.08〜2%を例示することができる。なお、本明細書中では特に断らない限り%はw/v%をしめすものとする。当業者であれば、保存対象タンパク質の性状や濃度(量)などを考慮し、実験的に最適なBPFの濃度を決定することができる。
本発明方法等における液状保存液の組成は、BPFを有効成分として当該溶液中に含有させる以外、本発明方法等の効果を損なわないこと、保存対象タンパク質の用途に対して妨害的に作用しないことを限度として特に制限はない。保存対象タンパク質を免疫学的測定方法に使用するのであれば、本発明方法等の効果を損なわず、かつ、抗原抗体反応、ビオチン・アビジンによる検出のための標識反応、酵素免疫測定法である場合の酵素反応など、測定系を構成する反応の全部又は一部を妨害しなければよい。免疫学的測定方法において通常使用される各種成分、例えば、酢酸、クエン酸、リン酸、トリス、グリシン、ホウ酸、炭酸やグッドなどの各種緩衝液、イオン強度や浸透圧を調整するための成分(例えば、NaCl、KCl、CaCl2などの金属塩)、非特異的な反応を抑制するための成分(Tween20、TritonX−100などの非イオン性界面活性剤など)、抗原抗体反応を促進する成分(ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、リン脂質ポリマーなどの高分子など)、BPF以外のタンパク質やペプチド(アルブミンやカゼインなど)、アミノ酸、糖類(ショ糖、シクロデキストリンなど)、防腐剤(アジ化ナトリウム、ProClin300など)などを目的に応じ、適宜選択して使用することができる。
本発明方法等が使用可能な保存対象タンパク質は、特に制限はない。インスリンなどのペプチド、シスタチンCなどの低分子タンパク質、CRP(C反応性タンパク質)、アディポネクチンなどの多量体タンパク質、抗CCP(環状シトルリン化ペプチド)抗体、抗リン脂質抗体、抗梅毒抗体などの特異抗体類、酸化LDL、IV型コラーゲン、前立腺特異抗原(PSA)、マイクロアルブミン、リウマチ因子(RF)、IgG、IgA、IgM、FDP、Dダイマー、可溶性フィブリン(SF)、トロンビン−アンチトロンビンIII複合体(TAT)、プラスミン−インヒビター複合体(PIC)、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター−1(PAI−1)、血液凝固第XIII因子、ペプシノーゲンI・II、インフルエンザ抗原などを例示できるが、これらに限定されない。
本発明方法等は、インスリンおよびインスリン類似体に対し特に有効である。インスリンとしては、ヒトインスリン以外に、ブタインスリン、ウサギインスリン、などのヒト以外の動物のインスリンも含まれる。インスリン類似体としては、インスリンリスプロ、インスリンアスパルト、インスリングラルギン、インスリンデテミル、インスリングルリジンなどが挙げられる。
本発明方法等は、免疫学的測定方法における標準品溶液(濃度較正用基準:キャリブレーター)、精度管理などに用いる管理試料溶液、標識抗体溶液などに好適に使用することができる。また、保存対象タンパク質を含有しない状態の溶液(以下、「BPF溶液」ということがある)として調製し、測定試料の希釈液として使用(希釈された後の測定試料は、本発明の液状保存液に含まれる)したり、凍結乾燥されている標準品、管理試料、標識抗体を溶液状態に復元する際に使用(復元された後の標準品溶液、管理試料溶液、標識抗体溶液は、本発明の液状保存液に含まれる)することもできる。
本発明方法等は、生物学的活性の維持に加え、容器への吸着を防止・抑制する効果も有している。本発明方法等に好適な保存容器の材質としては、ポリプロピレン、ポリスチレン、ガラスを挙げることができる。保存容器の形態としては、ハードタイプまたはソフトタイプのいずれでもよく、アンプル、バイアル、ソフトバッグ、注射型容器などが例示される。
本発明方法等は、上記のとおり、容器への吸着を防止・抑制する効果も有していることから、本発明の別の態様はタンパク質を含む水溶液中にBPFを添加することによる、当該タンパク質の容器への吸着防止方法である。
また、本吸着防止方法において、BPFは、タンパク質を含む水溶液中の当該タンパク質の容器への吸着防止剤としての役割を担っている。
本発明の液状保存液は、保存対象タンパク質を長期間安定して保存できることが望ましく、具体的には、インスリンを37℃で2週間保存した場合、インスリンの残存率が90%であることがより望ましい。
また、本発明の液状保存液は、高温における保存でも高い安定化効果を有することが望ましく、例えばインスリンを60℃で18時間保存した場合、インスリンの残存率が50%以上であることがより望ましい。
また、本発明の液状保存液は、凍結状態の保存でも高い安定化効果を有することが望ましく、インスリンを凍結後さらに37℃で保存した場合、インスリンの残存率は90%以上であることがより望ましい。
さらにまた、本発明の液状保存液は凍結と融解のサイクルを繰り返した後の保存であっても高い安定化効果を有していることが望ましく、インスリンを1日凍結保存した後、融解し37℃で1日保存する保存サイクルを3回繰り返した場合、インスリンの残存率85%以上であることがより望ましい。
本発明のタンパク質液状保存用水溶液は、凍結保存溶液として使用することもできる。インスリンは凍結によって構造変化が起こることが知られているが、本発明の液状保存液で保存した場合、凍結・融解してもインスリンの残存率は非常に高く、本発明の液状保存液は、タンパク質の凍結保存用の水溶液としても有用であることがわかる。特にインスリンの凍結保存用水溶液としての用途が望ましい。また、本発明のタンパク質液状保存用水溶液は、保存対象タンパク質を凍結保存し、その後使用時に解凍して全部あるいは必要量を使用し、その後残余があればこれを凍結し、あるいは液状のまま保存することができる。
インスリンを保存対象タンパク質とし、BPFの液状保存効果をBSAと比較した。
(1)BPF溶液A
1% BPF(東洋紡社製、カタログ番号BPF-301)溶液(25mM HEPES緩衝液(pH8.2)、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例1)
インスリン(シグマ社製)濃度が、0pg/mL、100pg/mL、500pg/mL、1,000pg/mL、5,000pg/mL、10,000pg/mLになるようBPF溶液Aで希釈し、保存対象タンパク質をインスリンとする本発明の液状保存液を調製した。
(1)保存条件
各濃度のインスリン液状保存液を2.0mL凍結保存チューブ(アシスト社製、材質:ポリプロピレン)に、0.5mL分注した。ヒーター式インキュベーター(三洋電機社製)中で37℃、2週間保存した。
(2)インスリンの測定
2種類の抗体(国際寄託番号:FERM BP-11233及びFERM BP-11234)を使用するラテックス免疫比濁法(PCT/JP2010/062261、WO2011/010673)により測定した。
PCT/JP2010/062261の実施例1に記載の第一試薬と第二試薬を用い、日立7170形自動分析装置により測定した。具体的には、各濃度のインスリン液状保存液10μLに、第一試薬150μLを加えて37℃で5分間加温後、第二試薬50μLを加えて攪拌し、その後5分間の吸光度変化を、主波長570nm、副波長800nmにて測定した。測定された吸光度の変化量を濃度既知の標準物質を測定して得られる検量線を用いてインスリン濃度に換算した。
(3)インスリン残存率(%)の算出
37℃、2週間保存後の各インスリン液状保存液のインスリン濃度について、次式を用いて、インスリン残存率(%)を算出した。
インスリン残存率(%)=37℃2週間保存後のインスリン液状保存液のインスリン濃度(pg/mL)/調製直後のインスリン液状保存液のインスリン濃度(pg/mL)×100
BPF溶液Aに代えて、1% BSA(シグマ社製)溶液(25mM HEPES緩衝液(pH8.2)、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用し従来の保存液Aとした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
実施例1、比較例1の試験結果を表1に示した。
BSAを使用する従来の保存液Aで調製した比較例1の2週間経過後のインスリン残存率は、いずれのインスリン濃度においても20%以下の残存率しか示さなかった。一方、BPFを使用する本発明の液状保存液の場合、2週間経過後の残存率はいずれのインスリン濃度においても92%以上を維持しており、従来の保存液Aを使用した場合と比較してはるかに高い残存率を示した。
以上より、本発明の液状保存液は、37℃、2週間という保存対象タンパク質にとっての劣悪条件下での保存においてもインスリンの抗原性の喪失を防止していると考えられ、すぐれた液状保存効果を有していることが確認された。
シスタチンCを保存対象タンパク質とし、BPFの液状保存効果をBSAと比較した。
(1)BPF溶液B
0.1% BPF(東洋紡社製、カタログ番号BPF-301)溶液(リン酸緩衝液(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、2mM KH2PO4 (pH7.4))、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用した。
(2)シスタチンC液状保存液(実施例2)
組換えシスタチンC(オリエンタル酵母社製)粉末1mgに生理食塩液1mLを加えシスタチンC原液とした。シスタチンC原液を3mg/LになるようBPF溶液Bで希釈し、保存対象タンパク質をシスタチンCとする本発明の液状保存液を調製した。
(1)保存条件
シスタチンC液状保存液2.0mLをガラス瓶V2(不二硝子社製)(以下、ガラス瓶という)に充填した。これを充填時シスタチンC溶液とした。充填時シスタチンC溶液0.2mLをサンプルカップ(EVER GREEN SCIENTIFIC社製、BMC/Hitachi/Olympus Sample Cups、材質:ポリスチレン)に移し、シスタチンC濃度を測定した。残りの1.8mLが入ったガラス瓶を封栓し、ウェイブローター WR-40(サーモニクス社製)にて、室温、60rpmの条件で15分間回転混和した後、新しいガラス瓶に移した。この操作を2回行い、操作後のシスタチンC液状保存液をガラス瓶保存後シスタチンC溶液とした。ガラス瓶保存後シスタチンC溶液0.2mLを、前記サンプルカップに移し、シスタチンC濃度を測定した。
2種類の抗体を使用するラテックス免疫比濁法(WO2010/064435)により測定した。
WO2010/064435の実施例に記載の第一試薬と第二試薬を用い、日立7170形自動分析装置により測定した。具体的には、充填時シスタチンC溶液あるいはガラス瓶保存後シスタチンC溶液2.4μLに、第一試薬120μLを加えて37℃で5分間加温後、第二試薬120μLを加えて攪拌し、その後5分間の吸光度変化を、主波長570nm、副波長800nmにて測定した。測定された吸光度の変化量を濃度既知の標準物質を測定して得られる検量線を用いてシスタチンC濃度に換算した。
ガラス瓶充填時及びガラス瓶保存後シスタチンC溶液の濃度から次式を用いて、シスタチンC残存率(%)を算出した。
シスタチンC残存率(%)=ガラス瓶保存後シスタチンC溶液のシスタチンC濃度(mg/L)/充填時シスタチンC溶液のシスタチンC濃度(mg/L)×100
BPF溶液Bに代えて、0.1%BSA(デザートバイオロジカル社製)溶液(リン酸緩衝液(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、2mM KH2PO4 (pH7.4))、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用し従来の保存液Bとした以外は、実施例2と同様の操作を行った。
実施例2、比較例2の試験結果を表2に示した。
BSAを使用する従来の保存液B(比較例2)の場合、ガラス瓶保存後のシスタチンCの残存率は87.6%であった。一方、BPFを使用する本発明の液状保存液(実施例2)のガラス瓶保存後の残存率は99.0%であり、従来の保存液Bを使用した場合に対して、きわめて高い残存率を確認することができた。
以上より、BPFは、液状保存時の抗原性の喪失防止効果に加え、容器への非特異吸着防止効果も有していることが確認された。
インスリンを保存対象タンパク質とし、BPFの液状保存効果を、ブロッキング剤として汎用されているカゼインと比較した。
(1)BPF溶液A
実施例1に記載のBPF溶液Aを使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例3)
インスリン(シグマ社製)を、濃度が5,000pg/mLになるようBPF溶液Aで希釈し、保存対象タンパク質をインスリンとする本発明の液状保存液を調製した。
(1)保存条件
インスリン液状保存液を2.0mL凍結保存チューブ(アシスト社製、材質:ポリプロピレン)に、0.5mL小分け分注したあと、ヒーター式インキュベーター(三洋電機社製)中で37℃、9日間保存した。
(2)インスリンの測定およびインスリン残存率(%)の算出
実施例1と同様の測定を行った。また、次式を用いて残存率の算出を行った。
インスリン残存率(%)=保存後のインスリン液状保存液のインスリン濃度(pg/mL)/調製直後のインスリン液状保存液のインスリン濃度(pg/mL)×100
なお、本試験では残存率90%以上を保存安定性ありと判断した。
BPF溶液Aに代えて、1.0%カゼイン(VWR International Ltd.社製)溶液(25mM HEPES緩衝液(pH8.2)、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用し従来の保存液(比較例3)とした以外は、実施例3と同様の測定および残存率の算出を行った。
結果を表3に示す。カゼインを使用する従来の保存液(比較例3)の場合、インスリンの抗原性はほぼ失われており、測定不能であった。これよりカゼインを使用する従来の保存液は37℃、9日間という長期間の過酷条件でのタンパク質液状保存に適さないことがわかった。これに対してBPFを使用する本発明の液状保存液(実施例3)では、残存率が90%以上であり、インスリンを安定的に保存できた。
インスリンを保存対象タンパク質とし、ガラス容器におけるBPFの液状保存効果をBSA(比較例4−1)、カゼイン(比較例4−2)と比較した。
(1)BPF溶液
0.01、1.0、5.0% BPF(東洋紡社製、カタログ番号BPF-301)溶液(25mM HEPES緩衝液(pH8.2)、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例4)
インスリン(シグマ社製)を、濃度が5,000pg/mLになるよう(1)のBPF溶液でそれぞれ希釈し、保存対象タンパク質をインスリンとする本発明の液状保存液を調製した。
インスリン液状保存液をガラス瓶V2(不二硝子社製)に保存した以外は実施例3と同様の試験および残存率の算出を行った。
なお、本試験では、残存率75%以上を保存安定性ありと判断した。
(1)比較例4−1
BPF溶液に代えて、0.01,1.0,5.0% BSA(シグマ社製)溶液(25mM HEPES緩衝液(pH8.2)、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用し従来の保存液(比較例4−1)とした以外は実施例4と同様の試験および残存率の算出を行った。
(2)比較例4−2
BPF溶液に代えて、比較例3に記載の1.0%カゼイン(VWR International Ltd.)溶液を使用し従来の保存液(比較例4−2)とした以外は、実施例4と同様の試験および残存率の算出を行った。
結果を表4に示す。BSAを使用する従来の保存液(比較例4−1)の場合、ガラス瓶保存後のインスリンの残存率はいずれも75%以下であった。また、カゼインを使用する従来の保存液(比較例4−2)の場合、測定不能となり、ガラス容器での保存に適さないことが示された。一方、BPFを使用する本発明の液状保存液(実施例4)のガラス瓶保存後の残存率はいずれの濃度で用いた場合も75%以上であり、比較例4−1、比較例4−2に対して、きわめて高い残存率を示した。
インスリンを保存対象タンパク質とし、高温条件におけるBPFの液状保存効果をBSA(比較例5)と比較した。
(1)BPF溶液
実施例4に記載のBPF溶液を使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例5)
インスリン(シグマ社製)濃度が、1,000pg/mL、5,000pg/mLになるよう(1)のBPF溶液でそれぞれ希釈し、保存対象タンパク質をインスリンとする本発明の液状保存液を調製した。
各濃度のインスリン液状保存液を2.0mL凍結保存チューブ(アシスト社製、材質:ポリプロピレン)に、0.5mL小分け分注したあと、ヒーター式インキュベーター(エスペック社製)中で60℃18時間保存した以外は実施例3と同様に測定および残存率の算出を行った。
なお、本試験では、残存率50%以上を保存安定性ありと判断した。
BPF溶液に代えて、比較例4−1に記載のBSAを使用する従来の保存液(比較例5)とした以外は、実施例5と同様の試験および残存率の算出を行った。
結果を表5に示す。インスリンは37℃以上では速やかに変性が進むことが知られているが、BPFを使用する本発明の液状保存液を用いた場合(実施例5)、いずれの濃度においてもインスリンの残存率は60%以上であり、BSAを使用する従来の保存液(比較例5)と比較して熱に対する高い安定化効果を有していることが示された。
インスリンを保存対象タンパク質とし温度変化に対するBPFの液状保存効果をBSA(比較例6)と比較した。
(1)BPF溶液
実施例4に記載のBPF溶液を使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例6)
実施例5に記載のインスリン液状保存液を使用した。
各濃度のインスリン液状保存液を2.0mL凍結保存チューブ(アシスト社製、材質:ポリプロピレン)に、0.5mL小分け分注したあと、バイオメディカルフリーザ(三洋電機社製)中で-30℃1日凍結保存したあと、ヒーター式インキュベーター(三洋電機社製)中で37℃1日保存した以外は実施例3と同様に測定および残存率の算出を行った。
なお、本試験では、残存率90%以上を保存安定性ありと判断した。
BPF溶液に代えて、比較例4−1に記載のBSAを使用する従来の保存液(比較例6)とした以外は、実施例6と同様に試験および残存率の算出を行った。
結果を表6に示す。インスリンは凍結によって構造変化が起こることが知られているが、BPFを使用する本発明の液状保存液(実施例6)では、凍結後さらに37℃で保存してもインスリンの残存率は90%以上であった。
BSAを使用する従来の保存液(比較例5)は、BSAの添加濃度によっては高い残存率を示したが、高濃度で用いた場合には残存率が著しく低下し、安定的な保存に適さないことがわかった。
インスリンを保存対象タンパク質とし、凍結融解に対するBPFの液状保存効果をBSA(比較例7)と比較した。
(1)BPF溶液
実施例4に記載のBPF溶液を使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例7)
実施例5に記載のインスリン液状保存液を使用した。
各濃度のインスリン液状保存液を2.0mL凍結保存チューブ(アシスト社製、材質:ポリプロピレン)に、0.5mL小分け分注したあと、バイオメディカルフリーザ(三洋電機社製)中で-30℃1日凍結保存したあと、ヒーター式インキュベーター(三洋電機社製)中で37℃1日保存した。このサイクルを3回おこなった以外は実施例3と同様に測定および残存率の算出を行った。
なお、本試験では、残存率85%以上を保存安定性ありと判断した。
BPF溶液に代えて、比較例4−1に記載のBSAを使用する従来の保存液(比較例7)とした以外は、実施例7と同様に試験および残存率の算出を行った。
結果を表7に示す。BPFを使用する本発明の液状保存液を用いた場合(実施例7)、凍結融解を3回繰り返す過酷試験後でも、残存率85%以上の高いインスリンの残存率を示した。一方、0.01%または1.0%BSAを使用する従来の保存液を用いた場合(比較例7)、凍結融解1回の条件(比較例6)ではインスリン残存率75.0%以上であったが、凍結融解を3回繰り返すより過酷な条件では残存率が低下した。BSAを使用する従来の保存液は分注したインスリンを凍結保存し、融解して使いきるような場合には適用可能であるが、1本の試薬を繰り返し凍結融解して使用するような場合には不適であると考えられる。本発明の液状保存液は、凍結と融解が長期に繰り返される条件下で用いた場合でも、タンパク質を安定的に保存可能である。
本発明により、保存対象タンパク質を含む溶液を凍結したり、凍結乾燥をすることなく、流動性のある溶液状態(液状)のまま長期間保存することが可能になる。
また、本発明により、保存対象タンパク質を高温や凍結状態に晒した後、または凍結・融解を繰り返した後であっても安定した保存対象タンパク質溶液を提供することが可能となる。
さらにまた、本発明の液状保存溶液は、凍結保存溶液としての使用も可能である。
Claims (9)
- 容器に充填され、インスリンおよび大腸菌由来熱ショックタンパク質(HSP)であるDnaKのアミノ酸配列419番目から607番目のポリペプチド(BPF)を含むことを特徴とする、インスリン保存用水溶液。
- インスリン保存用水溶液中のBPF濃度が0.01〜5重量%である請求項1に記載のインスリン保存用水溶液。
- 容器の材質が、ポリプロピレン、ポリスチレン又はガラスのいずれかである請求項1または2に記載のインスリン保存用水溶液。
- 37℃で2週間保存した後のインスリンの残存率が90%以上である請求項1〜3のいずれかに記載のインスリン保存用水溶液。
- 60℃で18時間保存した後のインスリンの残存率が50%以上である請求項1〜4のいずれかに記載のインスリン保存用水溶液。
- 1日凍結保存した後、融解し37℃で1日保存した後のインスリンの残存率が90%以上である請求項1〜5のいずれかに記載のインスリン保存用水溶液。
- 1日凍結保存した後、融解し37℃で1日保存する保存サイクルを3回繰り返した後のインスリンの残存率が85%以上である請求項1〜6のいずれかに記載のインスリン保存用水溶液。
- 容器に充填され、インスリンおよび大腸菌由来熱ショックタンパク質(HSP)であるDnaKのアミノ酸配列419番目から607番目のポリペプチド(BPF)を含むことを特徴とする、インスリン凍結保存用水溶液。
- インスリン含む水溶液の保存方法であって、インスリンを含む水溶液に大腸菌由来熱ショックタンパク質(HSP)であるDnaKのアミノ酸配列419番目から607番目のポリペプチド(BPF)を添加することを特徴とする前記保存方法。
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