JP2015137200A - 低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法 - Google Patents

低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】コバルト水溶液の添加量を少なくでき、かつ、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を低減できる低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法を提供する。【解決手段】塩素および水酸化第二ニッケルを含有するスラリーにコバルト水溶液を添加するコバルト添加工程と、スラリーに硫酸を添加する硫酸溶解工程とを備え、硫酸溶解工程において硫酸の添加流量を25L/分以下とする。添加された硫酸がスラリーの液面近傍に留まるので、発生した塩素ガスがスラリーに再溶解することなく放出され、塩素の除去効率がよくなる。その結果、コバルト水溶液の添加量を少なくでき、かつ、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を低減できる。【選択図】図1

Description

本発明は、低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法に関する。さらに詳しくは、少なくとも塩素および水酸化第二ニッケルを含有するスラリーから塩素濃度が低い硫酸ニッケル/コバルト溶液を製造する低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法に関する。
硫酸ニッケルは、一般電解めっきや、ハードディスク用の無電解めっき等のめっき原料、触媒、電池材料等として使用されている。近年、より高純度の硫酸ニッケル、特に不純物として、鉄、銅、亜鉛、マグネシウム等の金属や塩素等が含有されていない硫酸ニッケルが求められている。
硫酸ニッケルは、例えば以下の方法で製造される。まず、ニッケルを含有する原料を硫酸に溶解し、不純物を除去して硫酸ニッケル溶液を得る。つぎに、硫酸ニッケル溶液を加熱濃縮し、ついで冷却して硫酸ニッケルの結晶を析出させ、遠心分離器等を用いて硫酸ニッケル結晶を得る。ここで、高純度な硫酸ニッケル結晶を製造するためには、硫酸ニッケル溶液が高純度であることが重要である。
硫酸ニッケルの原料としては、銅製錬プロセスの銅電解工程の副産物として得られる粗硫酸ニッケルや、ニッケル精錬の原料として使用されるニッケルマット、ニッケル精錬プロセスの浄液工程から得られる混合金属水酸化物(ニッケル、コバルト、鉄、銅、鉛等が含まれている)が用いられる。以下、混合金属水酸化物を硫酸ニッケルの原料とする場合について説明する。
ニッケル精錬プロセスでは、ニッケルマット等のニッケル硫化物を塩素ガスで塩素浸出した後、得られた粗塩化ニッケル液を浄液工程に送り、粗塩化ニッケル液からコバルト、鉄、鉛等の不純物を除去する。浄液工程では、塩素ガスを用いて粗塩化ニッケル液中のコバルトイオンおよび鉄イオンを三価とし、その後中和して混合金属水酸化物として沈殿させる酸化中和法が行われる(例えば、特許文献1)。
酸化中和法を行うと、粗塩化ニッケル液中のコバルトおよび鉄は、それぞれ水酸化第二コバルトおよび水酸化第二鉄として沈殿する。粗塩化ニッケル液中の不純物を十分に沈殿分離できる条件で酸化中和法を行うと、粗塩化ニッケル液中のニッケルの一部も酸化され水酸化第二ニッケルとして共沈する。混合金属水酸化物には、これら水酸化第二コバルト、水酸化第二鉄、および水酸化第二ニッケルが含まれる。また、酸化中和法には塩素ガスを用いることから、粗塩化ニッケル液中の一部の金属は塩素を含む化合物として沈殿する。さらに、塩素イオンを含有する母液の付着もあり、得られる混合金属水酸化物は高濃度で塩素を含有する。
硫酸ニッケルの製造工程において、混合金属水酸化物を硫酸で溶解すると硫酸ニッケル/コバルト溶液が得られるが、混合金属水酸化物に含まれる鉄、銅、塩素等の不純物も溶解されてしまう。高純度な硫酸ニッケル結晶を製造するためには硫酸ニッケル/コバルト溶液が高純度であることが重要であり、そのためには混合金属水酸化物に含まれる不純物を除去する必要がある。
陽イオンの除去については、沈殿法、溶媒抽出法、イオン交換法など種々の方法が知られており、比較的容易に除去することができる。一方、陰イオンは一般的に除去されにくく、特に塩素イオンは一旦溶解液に混入してしまうと除去は極めて困難である。
混合金属水酸化物から塩素を除去する方法として以下の方法が知られている。まず、混合金属水酸化物を水でレパルプ洗浄し、濾過することで付着している塩素イオンを含有する母液を除去する。つぎに、混合金属水酸化物と硫酸ニッケル溶液とを混合させて再度レパルプしスラリーとする。
その後、得られたスラリーに硫酸を添加して、温度60℃以上で溶液のpHが2.0以下となるように制御しながら溶解させる(特許文献2)。そうすると、下記の式1に示すように、スラリー中の水酸化第二ニッケルおよび水酸化第二コバルトが溶解するとともに、塩素が塩素ガスとして放出されて除去される。
(式1) Ni/Co(OH)3 + 3H+ + Cl- = Ni2+/Co2+ + 3H2O + 1/2Cl2
ここで、式1の反応が右に進むには、スラリーに水酸化第二コバルトが含まれていることが必要である。水酸化第二コバルトの酸化力よりも水酸化第二ニッケルの酸化力の方が強いため、スラリーに水酸化第二コバルトが所定量含有されていないと反応電位が上昇して過剰酸化雰囲気となる。そうすると、塩化物イオンが次亜塩素酸イオン等にまで酸化されて水溶液中に溶存し、塩素ガスとして除去されなくなるためである。すなわち、特許文献2に記載の方法では、スラリーに水酸化第二コバルトが含まれていないと、十分に塩素濃度の低い硫酸ニッケル/コバルト溶液が得られないという問題がある。
ニッケル製錬プロセスの浄液工程では、上記酸化中和法による処理の前段に、溶媒抽出法等によるコバルトの除去が行われる場合がある。この場合には、混合金属水酸化物に水酸化第二コバルトはほとんど含まれなくなり、上記方法による塩素除去を行なっても、得られる硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度は十分に低いものとならない。
特許文献3には、以上のような問題を解決するために、混合金属水酸化物を含有するスラリーにコバルト水溶液を添加した後、そのスラリーに硫酸を添加して溶解させる方法が開示されている。下記の式2に示すように、スラリーにコバルト水溶液を添加すると、コバルト水溶液中のコバルトイオンは水酸化第二ニッケル中のニッケルと置換反応を起こして水酸化第二コバルトを生成する。水酸化第二コバルトの生成により硫酸溶解時の酸化雰囲気を緩和でき、良好に塩素を除去できることから、塩素濃度が低い硫酸ニッケル/コバルト溶液を製造できる。
(式2) Ni(OH)3 + Co2+ → Co(OH)3↓ + Ni2+
特開昭50−133921号公報 特開2000−203848号公報 特開2012−001414号公報
しかし、式2から分かるように、特許文献3に記載の方法では、水酸化第二コバルトの生成を促進させると、硫酸ニッケルの原料であるニッケルがイオンとして液中に溶け出すので、ニッケルを効率的に利用できないという問題がある。
また、特許文献2および3に記載の方法では、塩素濃度が500mg/L以下の硫酸ニッケル/コバルト溶液を製造できるが、近年の塩素濃度に対する要求はより厳しくなっている。具体的には、硫酸ニッケル結晶の塩素濃度の要求値が30ppm以下であり、これに対応するためには、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を250mg/L以下とすることが求められる。
以上のように、ニッケルの溶出を抑えるためにコバルト水溶液の添加量を最小限に抑えることが求められている一方で、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度のさらなる低減も求められている。
本発明は上記事情に鑑み、コバルト水溶液の添加量を少なくでき、かつ、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を低減できる低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法を提供することを目的とする。
第1発明の低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法は、塩素および水酸化第二ニッケルを含有するスラリーにコバルト水溶液を添加することで、水酸化第二コバルトを生成するコバルト添加工程と、前記コバルト添加工程の後、前記スラリーに硫酸を添加することで、該スラリー中の水酸化第二ニッケルおよび水酸化第二コバルトを溶解して硫酸ニッケル/コバルト溶液を得るとともに、該スラリー中の塩素を塩素ガスとして放出して除去する硫酸溶解工程と、を備え、前記硫酸溶解工程において、前記硫酸の添加流量を25L/分以下とすることを特徴とする。
第2発明の低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法は、第1発明において、前記硫酸溶解工程において、前記硫酸を複数の添加口から添加することを特徴とする。
第3発明の低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法は、第1または第2発明において、前記コバルト添加工程において、前記コバルト水溶液の添加量を、コバルト水溶液の添加後のスラリーに含まれる水酸化澱物中のニッケル当量に対するコバルト当量が0.05以上0.2以下となる添加量とすることを特徴とする。
第4発明の低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法は、第1、第2または第3発明において、前記スラリーの固形分濃度を400g/L以上500g/L以下に調整した後に、前記硫酸溶解工程に供給することを特徴とする。
第5発明の低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法は、第1、第2、第3または第4発明において、前記硫酸溶解工程において、前記硫酸の濃度を65質量%以上75質量%以下とすることを特徴とする。
第6発明の低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記コバルト水溶液は、塩化コバルト水溶液であることを特徴とする。
第1発明によれば、硫酸溶解工程において、硫酸の添加流量を25L/分以下とすることで、添加された硫酸がスラリーの液面近傍に留まる。そうすると、スラリー中の塩素から塩素ガスが生成される反応が液面近傍で生じ、発生した塩素ガスがスラリーに再溶解することなく放出されるので、塩素の除去効率がよくなる。その結果、コバルト水溶液の添加量を少なくでき、かつ、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を低減できる。
第2発明によれば、硫酸を複数の添加口から添加することで、添加口1箇所当たりの添加流量を少なくでき、添加された硫酸がよりスラリーの液面近傍に留まり、塩素の除去効率がよりよくなる。
第3発明によれば、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を250mg/L以下とすることができる。
第4発明によれば、スラリーの固形分濃度が400g/L以上500g/L以下であるので、硫酸溶解工程において一般的で安価な設備を使用できる。
第5発明によれば、硫酸の濃度が65質量%以上75質量%以下であるので、一般に入手しやすい硫酸であり、操業コストを抑えることができる。
第6発明によれば、塩化コバルト水溶液はニッケル精錬プロセス内で調達できるため、ニッケル精錬全体の操業コストを抑えることができる。
本発明の一実施形態に係る低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法の工程図である。 ニッケル精錬プロセスの工程図である。 硫酸溶解工程における溶解液のpHと酸化還元電位との関係を示す相関図である。 硫酸溶解工程の設備の説明図である。 実施例および比較例の測定結果をまとめた表である。
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明に係る低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法は、少なくとも塩素および水酸化第二ニッケルを含有するスラリーを原料とし、塩素濃度が低い硫酸ニッケル/コバルト溶液を製造する方法である。原料としては、少なくとも塩素および水酸化第二ニッケルを含有するスラリーであれば特に限定されないが、以下ではニッケル精錬プロセスの浄液工程から得られる混合金属水酸化物を含有するスラリーを原料とする場合について説明する。
図2に示すように、ニッケル精錬プロセスでは、ニッケルマット等のニッケル硫化物を塩素ガスで塩素浸出した後、得られた粗塩化ニッケル液を浄液工程に送り、粗塩化ニッケル液からコバルト、鉄、鉛等の不純物を除去して塩化ニッケル溶液を得る。得られた塩化ニッケル溶液は電解工程に送られ、電解採取により塩化ニッケル溶液に含まれるニッケルが電気ニッケルとして回収される。
浄液工程では、まず、溶媒抽出法等によるコバルトの除去が行われ、塩化コバルト水溶液が排出される。つぎに、塩素ガスを用いて粗塩化ニッケル液中のコバルトイオンおよび鉄イオンを三価とし、その後中和して混合金属水酸化物として沈殿させる酸化中和法が行われ、混合金属水酸化物を含有するスラリーが排出される。
酸化中和法を行うと、粗塩化ニッケル液中のコバルトおよび鉄は、それぞれ水酸化第二コバルトおよび水酸化第二鉄として沈殿する。粗塩化ニッケル液中の不純物を十分に沈殿分離できる条件で酸化中和法を行うと、粗塩化ニッケル液中のニッケルの一部も酸化され水酸化第二ニッケルとして共沈する。混合金属水酸化物には、これら水酸化第二コバルト、水酸化第二鉄、および水酸化第二ニッケルが含まれる。また、酸化中和法には塩素ガスを用いることから、粗塩化ニッケル液中の一部の金属は塩素を含む化合物として沈殿する。さらに、塩素イオンを含有する母液の付着もあり、得られる混合金属水酸化物は高濃度で塩素を含有する。なお、溶媒抽出法等により予めコバルトの除去が行われているため、混合金属水酸化物に含まれる水酸化第二コバルトの量は少ない。
つぎに、本実施形態に係る低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法を説明する。
図1に示すように、まず、ニッケル精錬プロセスの浄液工程から得られた混合金属水酸化物を含有するスラリーにコバルト水溶液を添加する(コバルト添加工程)。下記の式3に示すように、混合金属水酸化物を含有するスラリーにコバルト水溶液を添加すると、コバルト水溶液中のコバルトイオンは水酸化第二ニッケル中のニッケルと置換反応を起こして水酸化第二コバルトを生成する。
(式3) Ni(OH)3 + Co2+ → Co(OH)3↓ + Ni2+
コバルト水溶液としては、特に限定されないが、ニッケル精錬プロセスの浄液工程において粗塩化ニッケル液から分離された塩化コバルト水溶液を用いることができる(図2参照)。塩化コバルト水溶液はニッケル精錬プロセス内で調達できるため、ニッケル精錬全体の操業コストを抑えることができる。
つぎに、スラリーを固液分離し、水酸化澱物と濾液とを得る(固液分離工程)。水酸化澱物には、混合金属水酸化物として元々含まれていた水酸化第二コバルト、水酸化第二鉄、および水酸化第二ニッケルのほか、式3の反応で生成された水酸化第二コバルトが含まれる。すなわち、式3の反応により混合金属水酸化物中の水酸化第二ニッケルの量が減少し、水酸化第二コバルトの量が増加している。
得られた水酸化澱物を水で洗浄し、濾過することで、付着している塩素イオンを含有する母液を除去する(洗浄・濾過工程)。一方、濾液には式3の反応により溶出したニッケルが含まれているため、ニッケルを回収するために塩素浸出工程に繰り返される。
つぎに、水酸化澱物にニッケル水溶液または水を添加することでレパルプしてスラリーを得る(レパルプ工程)。以下、レパルプ工程で得られるスラリーをレパルプスラリーと称する。ここで、レパルプスラリーの固形分濃度は特に限定されないが、400g/L以上500g/L以下に調整することが好ましい。このような固形分濃度であれば、後述の硫酸溶解工程に用いられるタンクや撹拌機などの設備として、一般的で安価な設備を使用できる。
つぎに、レパルプスラリーに硫酸を添加する(硫酸溶解工程)。そうすると、下記の式4に示すように、レパルプスラリー中の水酸化第二ニッケルおよび水酸化第二コバルトが溶解するとともに、レパルプスラリー中の塩素が塩素ガスとなる。これにより、レパルプスラリー中の塩素を塩素ガスとして放出して除去でき、塩素濃度が低い硫酸ニッケル/コバルト溶液を製造できる。
(式4) Ni/Co(OH)3 + 3H+ + Cl- = Ni2+/Co2+ + 3H2O + 1/2Cl2
添加する硫酸の濃度は特に限定されないが、65質量%以上75質量%以下とすることが好ましい。このような濃度の硫酸は、一般に入手しやすく、操業コストを抑えることができる。
図3は、硫酸溶解工程における溶解液のpHと酸化還元電位との関係を示す相関図である。図3中、直線a1〜a5によってCo(OH)3、Co2+、Co(OH)2、Coそれぞれの存在領域が特定され、直線b1〜b3によってClO-、Cl2、Cl-それぞれの存在領域が特定され、直線c1〜c5によってNi(OH)3、Ni2+、Ni(OH)2、Niそれぞれの存在領域が特定される。
すなわち、図3に示す直線c1、c2、c3で囲まれる領域にはNi2+が存在し、直線a1、a2、a3で囲まれる領域にはCo2+が存在し、直線b1、b3で囲まれる領域にはCl2が存在する。この図3に示すように、溶解液のpHが2.5以下である直線a1、b3で囲まれる領域には、Ni2+、Co2+、Cl2が全て存在し、他の元素および化合物は存在しない。したがって、溶解液のpHを2.5以下とすることにより、式4に示す反応において、ニッケルイオンおよびコバルトイオンが生成するとともに塩素ガスが発生する右方向への反応を良好に進行させることができる。
また、水溶液中の塩素の溶解度は、温度と相関関係にあり、水溶液の温度上昇に伴って減少する。したがって、高温度での沈殿物の溶解は、ニッケルおよびコバルトの溶解速度を速め、回収率を増加させるだけでなく、生成した塩素を効率的に系外へ排出することができる。一方、低温では、溶液への塩素の溶解度が高いため、高濃度で残留しやすい。そこで、溶解液の温度を60℃以上とすることが好ましい。
このため、硫酸溶解工程では、溶解液を温度60℃以上で、pHが2.5以下となるように制御しながらスラリーを溶解させることが好ましい。
図4に示すように、硫酸溶解工程では、タンク1に所定量のレパルプスラリーを貯留し、撹拌機2で撹拌しつつ、添加口3から硫酸を添加する。タンク1の形状や寸法は特に限定されないが、例えば、略円筒形であり、直径が1.5m程度、高さが2m程度のタンクが用いられる。この場合、タンク1に収容されるスラリー量は3〜5kL程度である。前述のごとく硫酸溶解工程では塩素ガスが発生するため、タンク1の上面にはフタが設置されており、密閉されている。また、上部の空間に発生する塩素ガスを吸引して回収する設備(図示せず)が備えられている。
本実施形態は、硫酸溶解工程において、硫酸の添加流量を25L/分以下に抑えるところに特徴を有する。なお、添加流量を抑えるほど硫酸溶解工程の所要時間が長くなるので、操業効率を考慮すると硫酸の添加流量を3L/分以上とすることが好ましい。
硫酸の添加流量が多いと、その勢いにより硫酸がレパルプスラリーの液面近傍より深部にまで達し、その深さで式4の反応が生じて塩素ガスが発生する。塩素ガスは水溶液に溶解しやすいため、発生した塩素ガスの一部は液面に達する前にレパルプスラリーに再溶解されてしまう。そのため、塩素の除去効率が悪くなる。これに対して、本実施形態のように硫酸の添加流量を抑えれば、添加された硫酸がレパルプスラリーの液面近傍に留まり、式4の反応が液面近傍で生じ、発生した塩素ガスがスラリーに再溶解することなく放出されるので、塩素の除去効率がよくなる。
図4に示す形態では添加口3は1箇所であるが、添加口3を2箇所以上設けてもよい。添加口3を複数設ける場合には、硫酸の添加流量を全添加口3の合計値で25L/分以下に抑える。硫酸を複数の添加口3から添加することで、添加口1箇所当たりの添加流量を少なくでき、添加された硫酸がよりレパルプスラリーの液面近傍に留まり、塩素の除去効率がよくなる。
なお、添加口3の形状や寸法は特に限定されないが、例えば、直径が約10cm以上の円形とし、所定の添加流量に対して充分に広い断面積を有することが好ましい。このような形状とすることで、硫酸がレパルプスラリーに勢いよく添加されることを防止でき、レパルプスラリーに硫酸を緩やかに添加できる。
また、添加口3の液面からの高さは低い方が好ましい。撹拌機2による撹拌条件にもよるが、撹拌によってスラリー面がタンク1壁面を這い上がる高さ程度に添加口3の高さを調整することが好ましい。添加口3が液面に近いほど、タンク1内のレパルプスラリーに硫酸を緩やかに添加できる。
硫酸溶解工程における塩素の除去効率がよくなる結果、コバルト添加工程におけるコバルト水溶液の添加量を少なくでき、かつ、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を低減できる。具体的には、コバルト添加工程において、コバルト水溶液の添加量を、洗浄・濾過工程後の水酸化澱物中のニッケル当量に対するコバルト当量が0.05以上0.2以下となる添加量とすることで、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を250mg/L以下とすることができる。
以上のように、コバルト水溶液の添加量を少なくできるので、硫酸ニッケルの原料であるニッケルの溶出を抑えることができ、ニッケルを効率的に利用できる。
ニッケルが溶出した液(固液分離工程で得られた濾液)は塩素浸出工程に繰り返されるが、ニッケルの溶出が抑えられることで、ニッケル精錬プロセス内で繰り返されるニッケルの量が少なくなり、その分操業効率が良くなる。
以上の方法で得られた硫酸ニッケル/コバルト溶液は、例えば4.0Nm3/m3・分でエアーバブリングを15分行うことにより冷却される。その後、溶媒抽出方等により硫酸ニッケル/コバルト溶液から鉄、銅、コバルト等の不純物を除去して硫酸ニッケル水溶液を得る。この硫酸ニッケル水溶液を加熱濃縮し、ついで冷却して硫酸ニッケルの結晶を析出させ、遠心分離器等を用いて硫酸ニッケル結晶を得る。このようにして、塩素濃度が30ppm以下の高純度な硫酸ニッケル結晶を製造できる。
つぎに、実施例について説明する。
(共通の条件)
以下の実施例および比較例ではつぎの条件を共通とした。
塩素および水酸化第二ニッケルを含有するスラリーを原料として、上記実施形態に係る低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法により硫酸ニッケル/コバルト溶液を製造した。原料であるスラリーのニッケル濃度は57.3質量%、コバルト濃度は0.1質量%であった。コバルト添加工程では塩化コバルト水溶液を添加した。レパルプ工程では硫酸ニッケル水溶液(ニッケル濃度20〜40g/L)を添加して、固形分濃度450g/L、塩素濃度約8,000ppmのレパルプスラリーを得た。硫酸溶解工程では、濃度70質量%の硫酸を添加し、溶解液の液温を90℃に維持し、pHが1.0となるまで溶解した。
コバルト添加工程における塩化コバルト水溶液の添加量の指標として、洗浄・濾過工程後の水酸化澱物中のニッケル当量に対するコバルト当量(以下、「Co/Ni値」と称する。)を測定した。また、硫酸溶解工程後に得られた硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を測定した。Co/Ni値および塩素濃度の測定は蛍光X線分析法を用いて行った。硫酸溶解工程における硫酸の添加流量は、電磁流量計(株式会社山武製)を用いて測定した。以下の実施例および比較例における測定結果を図5に示す表にまとめた。なお、図5に示す表において、「○」は要求値を満たすことを意味し、「×」は要求値を満たさないことを意味する。
(実施例1)
コバルト添加工程における塩化コバルト水溶液の添加量をCo/Ni値が0.155となる添加量とした。硫酸溶解工程における硫酸の添加流量を添加口1箇所当たり21L/分とし、添加口の数を1箇所とした。
その結果、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度は172ppmであり要求値である250mg/L以下を満たした。
(実施例2)
コバルト添加工程における塩化コバルト水溶液の添加量をCo/Ni値が0.155となる添加量とした。硫酸溶解工程における硫酸の添加流量を添加口1箇所当たり15L/分とし、添加口の数を1箇所とした。
その結果、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度は153ppmであり要求値である250mg/L以下を満たした。
(実施例3)
コバルト添加工程における塩化コバルト水溶液の添加量をCo/Ni値が0.155となる添加量とした。硫酸溶解工程における硫酸の添加流量を添加口1箇所当たり12L/分とし、添加口の数を1箇所とした。
その結果、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度は131ppmであり要求値である250mg/L以下を満たした。
(実施例4)
コバルト添加工程における塩化コバルト水溶液の添加量をCo/Ni値が0.155となる添加量とした。硫酸溶解工程における硫酸の添加流量を添加口1箇所当たり6L/分とし、添加口の数を1箇所とした。
その結果、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度は115ppmであり要求値である250mg/L以下を満たした。
以上の実施例1〜4から、硫酸の添加流量を抑えるほど硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を低減でき、硫酸の添加流量が全添加口の合計値で25L/分以下であれば、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を250mg/L以下とできることが分かった。
(実施例5)
コバルト添加工程における塩化コバルト水溶液の添加量を、実施例1〜4に比べて少なくし、Co/Ni値が0.143となる添加量とした。硫酸溶解工程における硫酸の添加流量を添加口1箇所当たり12L/分とし、添加口の数を1箇所とした。
その結果、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度は192ppmであり要求値である250mg/L以下を満たした。
(実施例6)
コバルト添加工程における塩化コバルト水溶液の添加量を、実施例5に比べて少なくし、Co/Ni値が0.077となる添加量とした。硫酸溶解工程における硫酸の添加流量を添加口1箇所当たり6L/分とし、添加口の数を2箇所とした。
その結果、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度は243ppmであり要求値である250mg/L以下を満たした。
以上の実施例1〜6から、コバルト添加工程における塩化コバルト水溶液の添加量をCo/Ni値が0.2以下となる添加量に抑えつつ、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度を低減できることが分かった。
(比較例1)
コバルト添加工程において塩化コバルト水溶液を添加しなかったため、Co/Ni値は0.007となった。硫酸溶解工程における硫酸の添加流量を添加口1箇所当たり26L/分とし、添加口の数を1箇所とした。
その結果、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度は1,000ppmであり要求値を満たさなかった。
(比較例2)
コバルト添加工程における塩化コバルト水溶液の添加量を多くし、Co/Ni値が0.526となる添加量とした。硫酸溶解工程における硫酸の添加流量を添加口1箇所当たり26L/分とし、添加口の数を1箇所とした。
その結果、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度は244ppmであり要求値である250mg/L以下を満たした。しかし、塩化コバルト水溶液の添加量を多くしたため、原料中のニッケルがイオンとして液中に溶け出し、ニッケルを効率的に利用できないと考えられる。
(比較例3)
コバルト添加工程における塩化コバルト水溶液の添加量を多くし、Co/Ni値が0.238となる添加量とした。硫酸溶解工程における硫酸の添加流量を添加口1箇所当たり26L/分とし、添加口の数を1箇所とした。
その結果、硫酸ニッケル/コバルト溶液の塩素濃度は307ppmであり要求値を満たさなかった。しかも、塩化コバルト水溶液の添加量を多くしたため、原料中のニッケルがイオンとして液中に溶け出し、ニッケルを効率的に利用できないと考えられる。
1 タンク
2 撹拌機
3 添加口

Claims (6)

  1. 塩素および水酸化第二ニッケルを含有するスラリーにコバルト水溶液を添加することで、水酸化第二コバルトを生成するコバルト添加工程と、
    前記コバルト添加工程の後、前記スラリーに硫酸を添加することで、該スラリー中の水酸化第二ニッケルおよび水酸化第二コバルトを溶解して硫酸ニッケル/コバルト溶液を得るとともに、該スラリー中の塩素を塩素ガスとして放出して除去する硫酸溶解工程と、を備え、
    前記硫酸溶解工程において、前記硫酸の添加流量を25L/分以下とする
    ことを特徴とする低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法。
  2. 前記硫酸溶解工程において、前記硫酸を複数の添加口から添加する
    ことを特徴とする請求項1記載の低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法。
  3. 前記コバルト添加工程において、前記コバルト水溶液の添加量を、コバルト水溶液の添加後のスラリーに含まれる水酸化澱物中のニッケル当量に対するコバルト当量が0.05以上0.2以下となる添加量とする
    ことを特徴とする請求項1または2記載の低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法。
  4. 前記スラリーの固形分濃度を400g/L以上500g/L以下に調整した後に、前記硫酸溶解工程に供給する
    ことを特徴とする請求項1、2または3記載の低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法。
  5. 前記硫酸溶解工程において、前記硫酸の濃度を65質量%以上75質量%以下とする
    ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法。
  6. 前記コバルト水溶液は、塩化コバルト水溶液である
    ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の低塩素硫酸ニッケル/コバルト溶液の製造方法。
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