JP2015128111A - 圧電素子、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及びセンサー - Google Patents

圧電素子、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及びセンサー Download PDF

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Abstract

【課題】リーク電流を低減し、変位量を向上することができる圧電素子、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及びセンサーを提供する。【解決手段】第1電極60と、第1電極60上に設けられた圧電体層70と、圧電体層70上に設けられた第2電極80とを備えた圧電素子300であって、圧電体層70は、薄膜形成プロセスで形成され、ビスマス、鉄、バリウム、チタン及びマグネシウムを含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなり、(100)面に優先配向している。【選択図】図3

Description

本発明は、圧電素子、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及びセンサーに関する。
圧電素子としては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した圧電材料からなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子は、例えば撓み振動モードのアクチュエーター装置として液体噴射ヘッドに搭載される。液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。
このような圧電素子に用いられる圧電材料としては、一般的に、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に代表される鉛系の圧電セラミックスが使用されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、環境問題の観点から、鉛を含有しない圧電材料、すなわち、非鉛系圧電材料の開発が進められている。非鉛系圧電材料としては、例えばABOで示されるペロブスカイト構造を有するチタン酸バリウム(BaTiO)や鉄酸ビスマス(BiFeO)が挙げられる(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、非鉛系圧電材料は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)と比較して、リーク電流が大きく、変位量が不十分であるため、例えばインクジェット式記録ヘッドにおいては大液滴の吐出が難しいという問題がある。このような非鉛系圧電材料のリーク特性及び変位特性を向上させるため、ペロブスカイト構造のAサイトを占める元素や、Bサイトを占める元素の一部をイオン価数及びイオン半径の異なる元素で置換する技術が提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。
特開2001−223404号公報 特開2009−252789号公報 特開2010−214841号公報 特開2011−035385号公報
しかしながら、鉛(Pb)系圧電材料に匹敵するほどのリーク特性や変位特性を得るためには、ペロブスカイト構造の置換サイトや置換元素の選択、置換量等についてさらに検討を加え、一層の最適化を図る必要がある。なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電素子に限定されず、インク以外の液滴を吐出する他の液体噴射ヘッド、液体噴射装置及びセンサーに搭載される圧電素子においても同様に存在する。
本発明はこのような事情に鑑み、リーク電流を低減し、変位量を向上することができる圧電素子、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及びセンサーを提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の態様は、第1電極と、前記第1電極上に設けられた圧電体層と、前記圧電体層上に設けられた第2電極とを備えた圧電素子であって、前記圧電体層は、薄膜形成プロセスで形成され、ビスマス、鉄、バリウム、チタン及びマグネシウムを含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなり、(100)面に優先配向していることを特徴とする圧電素子にある。かかる態様では、ペロブスカイト構造のBサイトにマグネシウムが導入されるため、鉄の含有率が相対的に低くなり、リーク電流の原因となるFe2+の発生が抑制される。また、マグネシウムの導入により結晶構造が不安定になるためドメイン回転が起こりやすくなる。これにより、リーク電流が低減され、変位量が向上した圧電素子を実現することができる。また、鉛を含有しないため、環境への負荷を低減することができる。
ここで、前記圧電体層は、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムとマグネシウムチタン酸ビスマスとの混晶として表される組成を有する複合酸化物からなることが好ましい。これによれば、圧電体層が、菱面体晶である鉄酸ビスマス及びマグネシウムチタン酸ビスマスと、正方晶であるチタン酸バリウムとの3元系混晶として表される組成を有する複合酸化物となるため、モルフォトロピック相境界(MPB)近傍の組成が形成されやすくなる。これにより、大きな変位量を得ることができる。
ここで、前記圧電体層は、マンガンを含むことが好ましい。これによれば、Fe2+の発生がより抑制され、リーク電流をさらに低減することができる。
また、前記圧電体層の前記バリウムの含有量は、20mol%以上30mol%以下であることが好ましい。これによれば、ペロブスカイト構造のAサイトを占めるバリウムの量が最適となるため、より大きな変位量を得ることができる。
また、前記圧電体層の前記マグネシウムの含有量は、2.5mol%以上7.5mol%以下であることが好ましい。これによれば、ペロブスカイト構造のBサイトに導入されるマグネシウムの量が最適となるため、リーク電流の低減と変位量の向上を確実に達成することができる。
また、前記第1電極と前記圧電体層との間には、前記圧電体層を(100)面に優先配向させる配向制御層が設けられていることが好ましい。これによれば、圧電体層が(100)面に優先配向するため、リーク特性や変位特性等の圧電特性を十分に発揮させることができる。
本発明の他の態様は、上記態様の圧電素子を具備する液体噴射ヘッドにある。かかる態様では、リーク電流が低減され、変位量が向上した圧電素子を具備する液体噴射ヘッドを実現することができる。また、鉛を含有しないため、環境への負荷を低減することができる。
本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、リーク電流が低減され、変位量が向上した液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置を実現することができる。また、鉛を含有しないため、環境への負荷を低減することができる。
本発明の他の態様は、上記態様の圧電素子を具備することを特徴とするセンサーにある。かかる態様では、リーク電流が低減され、変位量が向上した圧電素子を具備するため、検出感度の高いセンサーを実現することができる。また、鉛を含有しないため、環境への負荷を低減することができる。
実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図。 実施形態1に係る記録ヘッドの平面図。 実施形態1に係る記録ヘッドの断面図。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。 実施例1〜5及び比較例1のX線回折パターンを示す図。 実施例6〜8及び比較例1の2次元マッピング。 実施例1,2の分極量と電圧との関係を示す図。 実施例3,4の分極量と電圧との関係を示す図。 実施例5,6の分極量と電圧との関係を示す図。 実施例7,8の分極量と電圧との関係を示す図。 比較例1の分極量と電圧との関係を示す図。 実施例1〜5及び比較例1の電流密度と電圧との関係を示す図。 実施例6〜8の電流密度と電圧との関係を示す図。 本発明の一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図であり、図3は図2のA−A′線断面図である。図1〜図3に示すように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば厚さ30〜50nm程度の酸化チタン等からなり、弾性膜50と第1電極60との密着性を向上させるための密着層56が設けられている。密着層56の材質は第1電極60とその下地の種類等により異なるが、例えば、チタン、ジルコニウム、アルミニウムを含む酸化物や窒化物や、SiO、MgO、CeO等とすることができる。なお、弾性膜50上に、必要に応じて酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜が設けられていてもよい。
さらに、この密着層56上には、白金(Pt)やイリジウム(Ir)等からなる第1電極60と、詳しくは後述するが、圧電体層70を(100)面に優先配向させる配向制御層65と、圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段としての圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、配向制御層65、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、密着層56、第1電極60及び必要に応じて設ける絶縁体膜が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50や密着層56が設けられていなくてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。ただし、流路形成基板10上に直接第1電極60を設ける場合には、第1電極60とインクとが導通しないように第1電極60を絶縁性の保護膜等で保護するのが好ましい。
本実施形態の配向制御層65は、当該配向制御層65上に形成される圧電体層70を(100)面に優先配向させるものである。ここで、「(100)面に優先配向する」とは、圧電体層70の全ての結晶が(100)面に配向している場合と、ほとんどの結晶(例えば、50%以上)が(100)面に配向している場合を含むものである。
このような配向制御層65は、ビスマス(Bi)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)及びチタン(Ti)から選ばれる少なくとも一種以上を含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる。具体的には、Bi及びMn、又はBi、Mn及びFe、又はBi、Fe及びTiを含む複合酸化物が挙げられる。ペロブスカイト構造、すなわち、ABO型構造ではAサイトに酸素が12配位しており、Bサイトに酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。例えば配向制御層65がBi、Mn、Fe及びTiを含む場合、このAサイトにBiが、BサイトにMn、Fe、Tiが位置する。
配向制御層65の厚さは、当該配向制御層65上に形成される圧電体層70を(100)面に優先配向させることができる厚さであればよく、例えば5nm〜20nmである。なお、このような厚さを有する配向制御層65は、全面に設けられていなくてもよく、例えば島状に設けられていてもよい。「島状」とは、複数のドメインが互いに離間して形成されている状態をいう。
ここで、圧電体層70は結晶方位によって、変位量、誘電率、ヤング率等様々な物理的性質や、ヒステリシス曲線、I−V曲線等の電気特性が異なるものとなる。このため、配向制御層65を用いて圧電体層70を単一配向、すなわち、(100)面に優先配向させることにより圧電特性を十分に発揮させることができる。
本発明に係る圧電体層70は、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)及びマグネシウム(Mg)を含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなり、(100)面に優先配向している。ペロブスカイト構造のAサイトには、Bi及びBaが位置し、BサイトにはFe、Ti及びMgが位置する。本実施形態では、圧電体層70として鉄酸ビスマス(BiFeO)と、チタン酸バリウム(BaTiO)と、マグネシウムチタン酸ビスマス(BiMgTiO)との3元系混晶として表される組成を有する複合酸化物を用いている。ここで、BiFeO及びBiMgTiOの結晶構造は菱面体晶であり、BaTiOの結晶構造は正方晶である。このため、圧電体層70は、モルフォトロピック相境界(MPB)近傍の組成が形成されやすく、大きな変位量を得ることができると考えられる。
また、圧電体層70は薄膜形成プロセスにより形成される。ここで、薄膜形成プロセスとは、化学溶液法、レーザーアブレーション法、スパッター法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、化学蒸着法(CVD法)、エアロゾル・デポジション法等を用いて、厚さミクロンオーダーの薄膜を形成する方法をいう。薄膜形成プロセスにより形成された圧電体層70の厚さは、一般的に3μm以下、好ましくは0.6μm〜1.2μmである。
このようなBi、Fe、Ba、Ti及びMgを含むペロブスカイト構造の複合酸化物からなる圧電体層70の組成は、((Bi,Ba)(Fe,Ti,Mg)O)で表される。代表的には、下記一般式(1)で表される鉄酸ビスマス((BiFeO)、略「BF」)と、チタン酸バリウム((BaTiO)、略「BT」)と、BiFeOのBサイトに位置するFeの一部をMg及びTiで置換したマグネシウムチタン酸ビスマス((BiMg0.5Ti0.5)、略「BMT」)との3元系混晶(略「BF−BT−BMT」)として表される。鉄酸ビスマス(BF)とマグネシウムチタン酸ビスマス(BMT)は、どちらも結晶構造が菱面体晶であるため、BiFeOのBサイトに位置するFeは、正方晶であるBaTiOのBサイトに位置するTiに比べ、MgやTiに置換されやすいと考えられる。また、この式(1)は、下記一般式(1’)で表すこともできる。
(1-x-y)[BiFeO3]-x[BaTiO3]-y[BiMg0.5Ti0.5O3] (1)
(0.2≦x≦0.3、0.05≦y≦0.15)
(Bi1-xBax)(Fe1-x-yTix+0.5yMg0.5y)O3 (1’)
(0.2≦x≦0.3、0.05≦y≦0.15)
また、圧電体層70の組成は、鉄酸ビスマス(BF)とチタン酸バリウム(BT)との2元系混晶((略「BF−BT」))に対し、マグネシウムチタン酸ビスマス(BMT)を添加してなる3元系混晶(BF−BT−BMT)としても表すことができる。代表的には、鉄酸ビスマス(BF)のモル分率を0.75、チタン酸バリウム(BT)のモル分率を0.25で固定した場合、下記一般式(2)で表すことができる。
(1-x)[0.75BiFeO3-0.25BaTiO3]+x[BiMg0.5Ti0.5O3] (2)
(0.05≦x≦0.15)
ここで、一般式(1)、(1’)及び(2)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、元素(Bi、Fe、Ba、Ti、MgやO)の一部欠損等による不可避な組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。例えば、化学量論比を1とすると、0.85〜1.20の範囲内のものは許容される。また、上記のように一般式で表した場合は異なるものであっても、Aサイトの元素とBサイトの元素との比が同じものは、同一の複合酸化物とみなせる場合がある。
上記一般式(1)のように、BiFeO(BF)のBサイトに位置するFeの一部をMg及びTiで置換したBiMg0.5Ti0.5(BMT)を導入する、すなわち、圧電体層70にMgを導入することにより、ペロブスカイト構造のBサイトに位置するFeの含有率は相対的に低くなる。これにより、リーク電流の原因となるFe3+の価数変動により生じるFe2+の発生を抑制することができ、リーク電流を低減することができる。また、配位数別に算出されたShannonのイオン半径によれば、Fe3+のイオン半径(0.645Å)は、Mg2+のイオン半径(0.72Å)及びTi4+のイオン半径(0.605Å)と異なるため、BiFeOのBサイトに位置するFeの一部をMg及びTiで置換することにより、結晶中に格子欠陥が誘起され、結晶構造が不安定になる。これにより、ドメイン回転が起こりやすくなり、変位量を向上することができる。
なお、上記一般式(2)のように、BiMg0.5Ti0.5(BMT)を導入(添加)した場合でも、ペロブスカイト構造のBサイトに位置するFeの含有率は相対的に低くなり、結晶中に格子欠陥が誘起され、結晶構造が不安定になる。これにより、リーク電流を低減することができ、変位量を向上することができる。
さらに、結晶中に格子欠陥を誘起させることにより、圧電体層70にかかる応力を緩和することができる。具体的には、圧電体層70を形成する際の焼成工程等で発生する熱応力や、電圧印加時に発生する応力を緩和することができる。これにより、クラックの発生も抑制することができる。
ここで、圧電体層70のバリウムの含有量は、20mol%以上30mol%以下であることが好ましい。これによれば、ペロブスカイト構造のAサイトを占めるバリウムの量が最適となるため、より大きな変位量を得ることができる。
また、圧電体層70のマグネシウムの含有量は、2.5mol%以上7.5mol%以下であることが好ましい。これによれば、ペロブスカイト構造のBサイトに導入されるマグネシウムの量が最適となるため、リーク電流の低減と変位量の向上を確実に達成することができる。
また、圧電体層70を構成する鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム及びマグネシウムチタン酸ビスマスは、それぞれペロブスカイト構造を有する公知の圧電材料であり、それぞれ種々の組成のものが知られている。例えば、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム及びマグネシウムチタン酸ビスマスとして、BiFeO、BaTiO及びBiMgTiO以外に、元素(Bi、Fe、Ba、Ti、MgやO)が一部欠損する又は過剰であったり、元素の一部が他の元素に置換されたものも知られているが、本発明で鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム及びマグネシウムチタン酸ビスマスと表記した場合、欠損・過剰により化学量論の組成からずれたものや元素の一部が他の元素に置換されたものも、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム及びマグネシウムチタン酸ビスマスの範囲に含まれるものとする。また、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム及びマグネシウムチタン酸ビスマスとの比も、種々変更することができる。
また、圧電体層70を構成する複合酸化物は、Bi、Fe、Ba、Ti及びMg以外に、さらにマンガン(Mn)、コバルト(Co)、クロム(Cr)などの他の元素を含むことが好ましく、これらの中でもMnを含むことがより好ましい。Mn、Co、Crなどを含むことにより、リーク特性を向上させることができ、圧電特性に優れた非鉛系の圧電材料とすることができる。なお、圧電体層70が他の元素を含む複合酸化物である場合も、ペロブスカイト構造を有する必要がある。
圧電体層70が、Mn、CoやCrを含む場合、Mn、CoやCrはBサイトに位置する。例えば、圧電体層70がMnを含む場合、圧電体層70を構成する複合酸化物は、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムとマグネシウムチタン酸ビスマスが均一に固溶した固溶体のFe、Ti、Mgの一部がMnで置換された構造、又は鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムとマグネシウムチタン酸ビスマスとの3元系混晶のペロブスカイト構造を有する複合酸化物として表され、基本的な特性は鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムとマグネシウムチタン酸ビスマスとの3元系混晶のペロブスカイト構造を有する複合酸化物と同じであるが、リーク特性がさらに向上することがわかっている。また、CoやCrを含む場合も、Mnと同様にリーク特性が向上するものである。
このようなBi、Fe、Ba、Ti及びMgに加えて、例えばMnを含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる圧電体層70は、代表的には、下記一般式(3)で表される鉄酸マンガン酸ビスマス((BiFe0.95Mn0.05)、略「BFM」)と、チタン酸バリウム(略「BT」)と、マグネシウムチタン酸ビスマス(BMT)との3元系混晶(略「BFM−BT−BMT」)として表される。ここで、一般式(3)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、元素(Bi、Fe、Ba、Ti、MgやO)の一部欠損等による不可避な組成のずれ、元素の一部置換は許容される。例えば、化学量論が1であれば、0.85〜1.20の範囲内のものは許容される。また、下記のように一般式で表した場合は異なるものであっても、Aサイトの元素とBサイトの元素との比が同じものは、同一の複合酸化物とみなせる場合がある。
(1-x-y)[BiFe0.95Mn0.05O3]-x[BaTiO3]-y[BiMg0.05Ti0.05O3] (3)
(0.2≦x≦0.3、0.05≦y≦0.15)
また、圧電体層70の組成は、鉄酸マンガン酸ビスマス(BFM)とチタン酸バリウム(BT)との2元系混晶(BFM−BT)に対し、マグネシウムチタン酸ビスマス(BMT)を添加してなる3元系混晶(BFM−BT−BMT)としても表すことができる。代表的には、鉄酸マンガン酸ビスマス(BFM)のモル分率を0.75、チタン酸バリウム(BT)のモル分率を0.25で固定した場合、下記一般式(4)で表すことができる。
(1-x)[0.75BiFe0.95Mn0.05O3-0.25BaTiO3]+x[BiMg0.5Ti0.5O3] (4)
(0.2≦x≦0.3、0.05≦y≦0.15)
上述の圧電体層70では、圧電体層70がBi、Fe、Ba、Ti及びMg以外に、さらに他の元素としてMn、CoおよびCrを含む場合について説明したが、その他遷移金属元素の2元素を同時に含む場合にも同様にリーク特性が向上することがわかっており、これらも圧電体層70とすることができる。また、圧電体層70は特性を向上させるため公知のその他の添加物をさらに含んでいてもよい。
なお、X線回折パターンにおいて、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、マグネシウムチタン酸ビスマス、鉄酸マンガン酸ビスマス、鉄酸コバルト酸ビスマス、及び鉄酸クロム酸ビスマスなどは、単独では検出されないものである。
しかしながら、X線回折装置(Rigaku RINT−2000、CuKα線)を使用し、シンクロトロン放射施設(SPring−8)のビームライン(BL02B2)を用いた高強度シンクロトロンX線回折によれば、鉄酸ビスマス(BF)とチタン酸バリウム(BT)とマグネシウムチタン酸ビスマス(BMT)との3元系混晶(BF−BT−BMT)として表される焼結体や、チタン酸バリウム(BT)とマグネシウムチタン酸ビスマス(BMT)との2元系混晶(BT−BMT)として表される焼結体について、ペロブスカイト構造に帰属されるピークを観測することができる場合もある。
具体的には、3元系混晶(BF−BT−BMT)のピークは、鉄酸ビスマス(BF)とチタン酸バリウム(BT)との2元系混晶(BF−BT)と同様のプロファイルを示し、2元系混晶(BT−BMT)のピークは、純粋のチタン酸バリウム(BT)と同様のプロファイルを示すことが確認されている。特に2元系混晶(BT−BMT)のピークは、半値全幅(FWHM)が純粋のチタン酸バリウム(BT)の半値全幅よりも小さくなっているため、かかる2元系混晶(BT−BMT)中では、全ての陽イオンが均等に分散されていることが推定される。
以上のことから、本発明の薄膜形成プロセスで形成された3元系混晶(BF−BT−BMT)として表される複合酸化物についても、Bi、BaがAサイトに、Fe、Ti及びMgがBサイトに均等に分散され、かかる3元系混晶(BF−BT−BMT)の存在は、2元系混晶(BF−BT)と同様のプロファイルを示すX線回折ピークにより確認することができると考えられる。
第2電極80としては、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の各種金属の何れでもよく、また、これらの合金や、酸化イリジウム等の金属酸化物が挙げられる。圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、流路形成基板10上に延設された金(Au)等のリード電極90がそれぞれ接続されている。このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加される。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50や必要に応じて設ける絶縁体膜及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、必要に応じて設ける絶縁体膜等)にマニホールド100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、密着層56、第1電極60、配向制御層65及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
次に、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について、図4〜図8を参照して説明する。なお、図4〜図8は、圧力発生室の長手方向の断面図である。
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO)等からなる二酸化シリコン膜を熱酸化等で形成する。次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜)上に、酸化チタン等からなる密着層56を、スパッタリング法や熱酸化等で形成する。
次に、図5(a)に示すように、密着層56の上に、白金やイリジウム等からなる第1電極60をスパッタリング法や蒸着法等により全面に形成する。次に、図5(b)に示すように、第1電極60上に所定形状のレジスト(図示なし)をマスクとして、密着層56及び第1電極60の側面が傾斜するように同時にパターニングする。
次に、図5(c)に示すように、第1電極60上に配向制御層前駆体膜64を形成する。この配向制御層前駆体膜64は、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いて形成することができる。その他、レーザーアブレーション法、スパッター法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法などでも形成することができる。
配向制御層前駆体膜64を化学溶液法で形成する場合の具体的な形成手順例としては、まず、第1電極60上に、金属錯体、具体的には、金属錯体を含むMOD溶液やゾルからなる配向制御層形成用組成物(配向制御層の前駆体溶液)をスピンコート法などを用いて、塗布して配向制御層前駆体膜64を形成する(配向制御層前駆体溶液塗布工程)。
塗布する配向制御層の前駆体溶液は、配向制御層前駆体膜64を形成しうる金属錯体を混合し、当該混合物を有機溶媒に溶解または分散させたものである。本実施形態では、ビスマス及びマンガンを含む複合酸化物からなる配向制御層前駆体膜64を形成する場合について例示する。Bi及びMnをそれぞれ含む金属錯体としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。Biを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマス、酢酸ビスマスなどが挙げられる。Mnを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸マンガン、酢酸マンガンなどが挙げられる。
勿論、Bi、Mnを含む金属錯体を二種以上用いてもよい。また、配向制御層の前駆体溶液の溶媒としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、オクタン、デカン、シクロヘキサン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸、オクチル酸などが挙げられる。
このように、配向制御層前駆体膜64を形成するには、配向制御層前駆体膜64の構成元素を含む金属錯体を含有する前駆体溶液を用い、これを第1電極60上に塗布等し焼成すればよい。配向制御層の前駆体溶液等の原料の組成は特に限定されず、各金属が所望のモル比となるように混合すればよい。
次いで、この配向制御層前駆体膜64を所定温度(例えば、150〜200℃)に加熱して一定時間乾燥させる(配向制御層乾燥工程)。次に、乾燥した配向制御層前駆体膜64を所定温度(例えば、350〜450℃)に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(配向制御層脱脂工程)。ここで言う脱脂とは、配向制御層前駆体膜64に含まれる有機成分を、例えば、NO、CO、HO等として離脱させることである。配向制御層乾燥工程や配向制御層脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。
次に、図5(d)に示すように、配向制御層前駆体膜64を所定温度、例えば600〜850℃程度に加熱して、一定時間、例えば、1〜10分間保持することによって結晶化させ、Bi及びMnを含む複合酸化物からなる配向制御層65を形成する(配向制御層焼成工程)。
この配向制御層焼成工程においても、雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。配向制御層乾燥工程、配向制御層脱脂工程及び配向制御層焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
本実施形態では、塗布工程を1回として一層からなる配向制御層65を形成したが、上述した配向制御層前駆体溶液塗布工程、配向制御層乾燥工程及び配向制御層脱脂工程や、配向制御層前駆体溶液塗布工程、配向制御層乾燥工程、配向制御層脱脂工程及び配向制御層焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数層からなる配向制御層65を形成してもよい。このような配向制御層65を設けることにより、当該配向制御層65上に形成される圧電体層70を、(100)面に優先配向させることが可能となる。
次いで、この配向制御層65上に、薄膜の圧電体層70を形成する。圧電体層70の形成方法は特に限定されないが、例えば、金属錯体を含む溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得るMOD法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いて圧電体層70を形成することができる。その他、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、PLD法、CVD法、エアロゾル・デポジション法など、気相法、液相法や固相法でも圧電体層70を形成することができる。本実施形態では、Bi、Fe、Ba、Ti及びMgを含む10層の複合酸化物層72からなる圧電体層70を形成する場合について説明する。
圧電体層70を化学溶液法で形成する場合の具体的な形成手順例としては、まず、図6(a)に示すように、配向制御層65上に、金属錯体、具体的には、Bi、Fe、Ba、Ti及びMgを含有する金属錯体を含むMOD溶液やゾルからなる酸化物層形成用組成物(前駆体溶液)をスピンコート法などを用いて、塗布して複合酸化物層72の前駆体膜(複合酸化物層前駆体膜)71を形成する(塗布工程)。
塗布する前駆体溶液は、焼成によりBi、Fe、Ba、Ti及びMgを含む複合酸化物層前駆体膜71を形成しうる金属錯体を混合し、当該混合物を有機溶媒に溶解または分散させたものである。また、Mn、CoやCrを含む複合酸化物層前駆体膜71を形成する場合は、さらに、Mn、CoやCrを有する金属錯体を含有する前駆体溶液を用いる。Bi、Fe、Ba、Ti、Mg、Mn、Co、Crをそれぞれ含む金属錯体を有する金属錯体の混合割合は、各金属が所望のモル比となるように混合すればよい。Bi、Fe、Ba、Ti、Mg、Mn、Co、Crをそれぞれ含む金属錯体としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。Bi及びMnを含む金属錯体については、配向制御層前駆体膜64を形成する際に用いた金属錯体と同様のものを用いることができる。Feを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸鉄、酢酸鉄、トリス(アセチルアセトナート)鉄などが挙げられる。Baを含む金属錯体としては、例えば、酢酸バリウム、バリウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸バリウム、バリウムアセチルアセトナートなどが挙げられる。Tiを含有する金属錯体としては、例えば、チタンイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸チタン、チタン(ジ−i−プロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)などが挙げられる。Mgを含有する金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸マグネシウム、マグネシウムアセチルアセトナートなどが挙げられる。Coを含む有機金属化合物としては、例えば2−エチルヘキサン酸コバルト、コバルト(III)アセチルアセトナートなどが挙げられる。Crを含む有機金属化合物としては、2−エチルヘキサン酸クロムなどが挙げられる。勿論、Bi、Ba、Fe、Ti、Mg、Mn、Co、Crを二種以上含む金属錯体を用いてもよい。また、前駆体溶液の溶媒としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、オクタン、デカン、シクロヘキサン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸、オクチル酸などが挙げられる。
次いで、この複合酸化物層前駆体膜71を所定温度(例えば、150〜200℃)に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した複合酸化物層前駆体膜71を所定温度(例えば、350〜450℃)に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。ここで言う脱脂とは、複合酸化物層前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO、CO、HO等として離脱させることである。乾燥工程や脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。なお、塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を複数回行ってもよい。
次に、図6(b)に示すように、複合酸化物層前駆体膜71を所定温度、例えば600〜850℃程度に加熱して、一定時間、例えば、1〜10分間保持することによって焼成する(焼成工程)。これにより結晶化し、Bi、Ba、Fe、Mg及びTiを含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる複合酸化物層72となる。この焼成工程においても、雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA装置やホットプレート等が挙げられる。
次いで、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数層の複合酸化物層72を形成することで、図6(c)に示すように、複数層の複合酸化物層72からなる所定の厚さの圧電体層70を形成する。例えば、塗布溶液の1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、10層の複合酸化物層72からなる圧電体層70全体の膜厚は約1.0μm程度となる。なお、本実施形態では、10層の複合酸化物層72を積層して設けたが、1層のみでもよい。
このように圧電体層70を形成した後は、図7(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80からなる圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。その後、必要に応じて、例えば、500〜800℃の温度域でアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と配向制御層65及び第1電極60や、圧電体層70と第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
次に、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
次に、図7(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
次に、図8(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
そして、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
本実施形態では、圧電体層70をBi、Fe、Ba、Ti及びMgを含むペロブスカイト構造の複合酸化物で構成することにより、リーク電流が低減され、変位量が向上した圧電素子を得ることができる。さらに、クラックの発生も抑制することができる。このような圧電素子、当該圧電素子を具備する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置は圧電特性に優れ、信頼性が高いものとなる。
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。表1,2に、実施例1〜8及び比較例1の圧電体層の組成、各組成の含有量、バイポーラ駆動による変位量及びユニポーラ駆動による変位量を示す。なお、表1に示す実施例1〜5及び比較例1の圧電体層の組成は、BiFeMnO(BFM)と、BaTiO(BT)と、BiMg0.5Ti0.5(BMT)との3元系混晶(BFM−BT−BMT)として表されている。また、表2に示す実施例6〜8の圧電体層の組成は、BiFeMnO(BFM)のモル分率を0.75、BaTiO(BT)のモル分率を0.25で固定した場合の2元系混晶(BFM−BT)に対し、BiMg0.5Ti0.5(BMT)を添加してなる3元系混晶(BFM−BT−BMT)として表されている。
(実施例1)
まず、(100)に配向した単結晶シリコン(Si)基板の表面に熱酸化により厚さ1200nmの二酸化シリコン膜を形成した。次に、二酸化シリコン膜上にRFマグネトロンスパッター法により厚さ40nmのチタン膜を形成し、熱酸化することで酸化チタン膜(密着層56)を形成した。次に、酸化チタン膜上にRFマグネトロンスパッター法により、厚さ100nmの白金膜を形成し、(111)面に配向した電極(第1電極60)とした。
次に、第1電極60上に圧電体層70を(100)面に優先配向させるための配向制御層65を形成した。その手法は以下のとおりである。まず、2−エチルヘキサン酸ビスマスと2−エチルヘキサン酸マンガンのn−オクタン溶液を、BiとMnのモル比が1:1となるように混合して配向制御層の前躯体溶液を調製した。次いで、配向制御層の前躯体溶液を酸化チタン膜及び白金膜が形成された上記基板上に滴下し、上記基板を回転させてスピンコート法により配向制御層前駆体膜64を形成した(配向制御層前駆体溶液塗布工程)。次いで、ホットプレート上で180℃、2分で乾燥した(配向制御層乾燥工程)。次いで、ホットプレート上で350℃、2分で脱脂した(配向制御層脱脂工程)。その後、3℃/秒で700℃まで昇温し、酸素雰囲気中でRTA装置で700℃、2分で焼成を行った(配向制御層焼成工程)。これにより、Bi及びMnを含むペロブスカイト構造の複合酸化物からなる配向制御層65を得た。
次いで、配向制御層65上に、ペロブスカイト構造を有し、AサイトにBi及びBaを含み、BサイトにFe、Mn、Ti及びMgを含む複合酸化物層72からなる圧電体層70を形成した。その手法は以下のとおりである。まず、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸マグネシウムの各n−オクタン溶液を、各元素がモル比でBi:Fe:Mn:Ba:Ti:Mg=75:66.5:3.5:25:27.5:2.5となるように混合して、前駆体溶液を調製した。
次いで、この前駆体溶液を、配向制御層65上に滴下し、500rpmで6秒間上記基板を回転させた後、3000rpmで20秒間上記基板を回転させてスピンコート法により複合酸化物層前駆体膜71を形成した(塗布工程)。次に、ホットプレート上に上記基板を載せ、180℃で2分間乾燥した(乾燥工程)。次いで、ホットプレート上に上記基板を載せ、350℃で2分間脱脂を行った(脱脂工程)。この塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に、酸素雰囲気中で、RTA装置で750℃で5分間焼成を行った(焼成工程)。そして、塗布工程と乾燥工程と脱脂工程の組合せを2回と焼成工程の組合せを6回繰り返すことにより、複合酸化物層72が12層積層された厚さ900nmの圧電体層70を得た。
その後、圧電体層70上に、第2電極80としてRFマグネトロンスパッター法により厚さ100nmの白金膜を形成して第2電極80とした。これにより、第1電極60、配向制御層65、圧電体層70及び第2電極80を具備する圧電素子300を得た。
(実施例2)
前駆体溶液として、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸マグネシウムの各n−オクタン溶液を、各元素がモル比でBi:Fe:Mn:Ba:Ti:Mg=80:71.25:3.75:20:22.5:2.5となるように混合したものを用いて圧電体層70を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、圧電素子300を作製した。
(実施例3)
前駆体溶液として、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸マグネシウムの各n−オクタン溶液を、各元素がモル比でBi:Fe:Mn:Ba:Ti:Mg=80:66.5:3.5:20:25:5となるように混合したものを用いて圧電体層70を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、圧電素子300を作製した。
(実施例4)
前駆体溶液として、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸マグネシウムの各n−オクタン溶液を、各元素がモル比でBi:Fe:Mn:Ba:Ti:Mg=70:61.75:3.25:30:32.5:2.5となるように混合したものを用いて圧電体層70を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、圧電素子300を作製した。
(実施例5)
前駆体溶液として、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸マグネシウムの各n−オクタン溶液を、各元素がモル比でBi:Fe:Mn:Ba:Ti:Mg=70:57:3:30:35:5となるように混合したものを用いて圧電体層70を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、圧電素子300を作製した。
(実施例6)
前駆体溶液として、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸マグネシウムの各n−オクタン溶液を、各元素がモル比でBi:Fe:Mn:Ba:Ti:Mg=76.25:67.69:3.56:23.75:26.25:2.5となるように混合したものを用いて圧電体層70を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、圧電素子300を作製した。
(実施例7)
前駆体溶液として、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸マグネシウムの各n−オクタン溶液を、各元素がモル比でBi:Fe:Mn:Ba:Ti:Mg=77.5:64.13:3.38:22.5:27.5:5となるように混合したものを用いて圧電体層70を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、圧電素子300を作製した。
(実施例8)
前駆体溶液として、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸マグネシウムの各n−オクタン溶液を、各元素がモル比でBi:Fe:Mn:Ba:Ti:Mg=78.75:60.56:3.19:21.25:28.75:7.5となるように混合したものを用いて圧電体層70を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、圧電素子300を作製した。
(比較例1)
前駆体溶液として、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタンの各n−オクタン溶液を、各元素がモル比でBi:Fe:Mn:Ba:Ti=75:71.25:3.75:25:25となるように混合したものを用いて圧電体層70を形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、圧電素子300を作製した。
(試験例1)
実施例1〜8及び比較例1の圧電体層について、Bruker AXS社製の「D8 Discover」を用いてX線回折の測定を行った。図9に、実施例1〜5及び比較例1のX線回折パターンを示す。また、図10に実施例6〜8及び比較例1の2次元検出器を用いた場合の2次元マッピングを示す。
まず、X線回折パターンについて説明する。図9に示すように、実施例1〜5及び比較例1の全ての圧電体層は、ペロブスカイト構造に由来する(100)面を示す鋭いピークと(200)面を示すピークが認められた。これにより、実施例1〜5及び比較例1の圧電体層は、(100)面に優先配向していることがわかった。また、実施例1〜5の(100)面及び(200)面を示すピークは、比較例1よりも若干強度が小さいため、圧電体層にMgを導入することにより、結晶中に格子欠陥が誘起されていることがわかった。この結果、実施例1〜5の圧電体層は、比較例1の圧電体層よりもドメイン回転が起こりやすく、変位量が大きくなることが推定された。
次に、二次元マッピングについて説明する。図10に示す二次元マッピングは、二次元の検出器の2θの位置を35°に固定し、サンプルの角度を動かすことにより得られたものある。なお、回折ピークが得られる位置は、(100)面が2θ=22.4°、(110)面が2θ=31.8°、(111)面が2θ=38.2°付近となる。
このような2次元マッピングから、ペロブスカイト構造の圧電体層の配向を判別することができる。具体的に、2次元マッピングでペロブスカイト構造の(100)面の回折線が観察される2θ=22°付近において、中央部を中心にスポット状に回折線が観測される場合は(100)面に優先配向している場合である。なお、このような判別方法は、(110)面、(111)面においても同様に適用することができる。
図10に示すように、実施例6〜8及び比較例1の圧電体層は、ペロブスカイト構造の(100)面及び(200)面の配向を示す位置の中央部にスポット状の回折線が観測され、(110)面や、白金(Pt)以外の(111)面の配向を示す回折線は観測されなかった。これにより、実施例6〜8及び比較例1の圧電体層は、(100)面に優先配向していることがわかった。2次元マッピングでは、実施例6〜8と比較例1との(100)面の回折線の強度の差は認められなかったが、図9に示すX線回折パターンの結果と同様に、圧電体層にMgを導入することにより、結晶中に格子欠陥が誘起され、変位量が大きくなると考えられる。
(試験例2)
実施例1〜8及び比較例1の圧電素子について、東陽テクニカ社製「FCE−1A」で、φ=500μmの電極パターンを使用し、室温(25℃)で周波数1kHzの三角波を印加して、P分極量と電圧との関係(ヒステリシス曲線)を求めた。図11〜図14に実施例1〜8のヒステリシス曲線を示し、図15に比較例1のヒステリシス曲線を示す。なお、駆動方法はバイポーラ駆動によるものである。
図11〜図15に示すように、実施例1〜8及び比較例1の圧電素子は、いずれも強誘電性に由来する良好なヒステリシス曲線が観測され、分極量も大きく、工業的に実用性があることが確認された。
(試験例3)
実施例1〜8及び比較例1の圧電素子について、±50Vの電圧を印加して、電流密度と電圧との関係(I−V曲線)を求めた。I−V曲線の測定は、ヒューレットパッカード社製「4140B」を用い、測定時の保持時間を2秒として大気下で行った。また、測定は遮光したプローバーを使用し、光起電力等の影響を排除して行った。図16に実施例1〜5及び比較例1の測定結果を示し、図17に実施例6〜8の測定結果を示す。
図16に示すように、実施例1,3〜5の圧電素子は、比較例1より電流密度(リーク電流値)が小さく、比較例1の圧電素子が破壊された電圧(約40V)で破壊されなかった。また、実施例2の圧電素子は、比較例1とリーク電流値がほぼ同等であったが、比較例1の圧電素子が破壊された電圧で破壊されなかった。すなわち、実施例2の圧電素子は、耐圧が比較例1より高くなった。
また、図17に示すように、実施例6〜8の圧電素子は、図16に示す比較例1よりリーク電流値が小さく、比較例1の圧電素子が破壊された電圧(約40V)で破壊されなかった。
この結果、圧電体層にMgを導入することにより、リーク電流を低減することができ、絶縁性を向上できることがわかった。
(試験例4)
実施例1〜8及び比較例1の圧電素子について、アグザクト社製の変位測定装置(DBLI)を用いて、室温でφ=500μmの電極パターンを使用し、周波数1kHzで30Vの電圧を印加して、バイポーラ駆動及びユニポーラ駆動でそれぞれ電界誘起歪(変位量)を測定した。測定結果を表1,2に示す。
実施例1〜8の圧電素子は、バイポーラ駆動及びユニポーラ駆動のどちらの場合であっても、比較例1よりも変位量が大きくなった。この結果、圧電体層にMgを導入することにより、変位量を向上できることがわかった。特にバイポーラ駆動の場合には、実施例1〜3,6〜8の変位量が極めて大きく、ユニポーラ駆動の場合には、実施例1,3,5の変位量が極めて大きくなった。
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
さらに、上述した実施形態では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、配向制御層65、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
上述した実施形態1では、第1電極60が圧力発生室12の並設方向に亘って連続的に設けられた共通電極を構成し、第2電極80が圧力発生室12に対応して独立して設けられた個別電極を構成している液体噴射ヘッドを例示したが、第1電極60が圧力発生室12に対応して独立して設けられた個別電極を構成し、第2電極80が圧力発生室12の並設方向に亘って連続的に設けられた共通電極を構成していてもよい。
また、インクジェット式記録ヘッドI(図1参照)は、例えば、図18に示すように、インクジェット式記録装置IIに搭載される。インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動可能に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、ブラックインク組成物及びカラーインク組成物を噴射する。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4には搬送手段としての搬送ローラー8が設けられており、紙等の記録媒体である記録シートSが搬送ローラー8により搬送されるようになっている。なお、記録シートSを搬送する搬送手段は、搬送ローラーに限られずベルトやドラム等であってもよい。
なお、上述した例では、インクジェット式記録装置IIとして、インクジェット式記録ヘッドIがキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、その構成は特に限定されるものではない。インクジェット式記録装置IIは、例えば、インクジェット式記録ヘッドIを固定し、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させることで印刷を行う、いわゆるライン式の記録装置であってもよい。
また、上述した実施形態では、圧電素子を具備する液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
また、本発明に係る圧電素子300は、各種センサーに搭載して用いることができる。各種センサーとしては、例えば、焦電センサー、赤外線センサー、テラヘルツセンサー、温度センサー、超音波センサー、感熱センサー、圧力センサー、加速度センサー、及びジャイロセンサー(角速度センサー)等が挙げられる。これらのセンサーは、リーク電流が低減され、変位量が向上した圧電素子を具備するため、検出感度が高いものとなる。
また、本発明に係る圧電素子300は、強誘電体素子に好適に用いることができる。強誘電体素子としては、強誘電体メモリ(FeRAM)、強誘電体トランジスタ(FeFET)、強誘電体演算回路(FeLogic)、強誘電体キャパシタなどが挙げられる。
さらに、本発明に係る圧電素子300は、光学素子に好適に用いることができる。光学素子としては、波長変換機、光導波路、赤外線などの有害光線の遮断フィルター、量子ドット形成によるフォトニック結晶効果を使用した光学フィルター、薄膜の光干渉を利用した光学フィルター、特定パターン構造を利用した光−熱変換フィルターなどが挙げられる。
さらに、本発明に係る圧電素子300は、発電装置に搭載して用いることができる。発電装置としては、圧力−電気変換効果を使用した発電装置、光による電子励起(光起電力)を使用した発電装置、熱による電子励起(熱起電力)を使用した発電装置、振動を利用した発電装置などが挙げられる。
また、本発明に係る圧電素子300は、上述の液体噴射ヘッド、当該液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置、各種センサー、強誘電体素子、光学素子及び発電装置に用いられる圧電素子に限定されず、その他のデバイスにも用いることができる。その他のデバイスとしては、例えば、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、圧電トランス、圧電モーター、振動式ダスト除去装置等が挙げられる。
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 56 密着層、 60 第1電極、 65 配向制御層、 70 圧電体層、 72 複合酸化物層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 300 圧電素子

Claims (9)

  1. 第1電極と、前記第1電極上に設けられた圧電体層と、前記圧電体層上に設けられた第2電極とを備えた圧電素子であって、
    前記圧電体層は、薄膜形成プロセスで形成され、ビスマス、鉄、バリウム、チタン及びマグネシウムを含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなり、(100)面に優先配向していることを特徴とする圧電素子。
  2. 前記圧電体層は、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムとマグネシウムチタン酸ビスマスとの混晶として表される組成を有する複合酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載する圧電素子。
  3. 前記圧電体層は、マンガンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載する圧電素子。
  4. 前記圧電体層の前記バリウムの含有量は、20mol%以上30mol%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載する圧電素子。
  5. 前記圧電体層の前記マグネシウムの含有量は、2.5mol%以上7.5mol%以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載する圧電素子。
  6. 前記第1電極と前記圧電体層との間には、前記圧電体層を(100)面に優先配向させる配向制御層が設けられていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載する圧電素子。
  7. 請求項1〜6の何れか一項に記載する圧電素子を具備することを特徴とする液体噴射ヘッド。
  8. 請求項7に記載する液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
  9. 請求項1〜6の何れか一項に記載する圧電素子を具備することを特徴とするセンサー。
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CN114262222A (zh) * 2021-12-31 2022-04-01 中国科学院上海硅酸盐研究所 一种调控铁酸铋-钛酸钡基压电陶瓷材料电阻率和极化强度的方法

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