図1から図16を参照して、本発明の実施の形態における可変圧縮比内燃機関について説明する。この可変圧縮比内燃機関は、機関本体90を備える。機関本体90は、クランクケース1を含む支持構造物を含む。支持構造物は、クランクシャフトを支持するように形成されている。機関本体90は、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3を含む。
シリンダブロック2の内部に形成された穴部には、ピストン4が配置されている。燃焼室5の頂面の中央部には、点火栓6が配置されている。本実施の形態においては、任意のピストン4の位置において、ピストン4の冠面、シリンダブロック2の穴部およびシリンダヘッド3に囲まれた空間を燃焼室と称する。
シリンダヘッド3には、吸気ポート8および排気ポート10が形成されている。吸気ポート8の端部には吸気弁7が配置されている。吸気弁7は、吸気カム49が回転することにより開閉する。排気ポート10の端部には、排気弁9が配置されている。吸気ポート8は、吸気枝管11を介してサージングタンク12に連結されている。
吸気枝管11には夫々対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置されている。なお、燃料噴射弁13は吸気枝管11に取付けられる代りに、各燃焼室5に直接的に燃料を噴射するように配置されていても構わない。
サージングタンク12は、吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結されている。吸気ダクト14の内部には、例えば熱線を用いた吸入空気量検出器18が配置されている。一方、排気ポート10は、排気マニホールド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒装置20に連結されている。排気マニホールド19には空燃比センサ21が配置されている。
本実施の形態における可変圧縮比内燃機関は、ピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aを備えている。可変圧縮比機構Aは、クランクケース1のような静止部材に対するシリンダブロック2のような可動部材のシリンダ軸線方向における相対位置を変化させるように形成されている。クランクケース1とシリンダブロック2との間には、付勢部材としてのリフトスプリング65が配置されている。
リフトスプリング65は、クランクケース1から離れる向きにシリンダブロック2を付勢するように形成されている。なお、付勢部材としては、この形態に限られず、クランクケース1から離れる向きにシリンダブロック2を付勢する任意の部材を採用することができる。
クランクケース1とシリンダブロック2には、クランクケース1に対するシリンダブロック2の相対位置を検出するための相対位置センサ22が取付けられている。相対位置センサ22からはクランクケース1とシリンダブロック2との間隔の変化を示す出力信号が出力される。スロットル弁駆動用のアクチュエータ16にはスロットル弁17の開度を示す出力信号を発生するスロットル開度センサ24が取付けられている。
本実施の形態における可変圧縮比内燃機関の制御装置は、電子制御ユニット30を含む。本実施の形態における電子制御ユニット30は、デジタルコンピュータを含む。デジタルコンピュータは、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を含む。
吸入空気量検出器18、空燃比センサ21、相対位置センサ22およびスロットル開度センサ24の出力信号は、夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続されている。
負荷センサ41の出力電圧は、対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。負荷センサ41の出力により要求負荷を検出することができる。更に、入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続されている。クランク角センサ42の出力により、クランク角度および機関回転数を検出することができる。
一方、出力ポート36は、対応する駆動回路38を介して点火栓6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用のアクチュエータ16、および可変圧縮比機構Aに接続される。これらの装置は、電子制御ユニット30により制御されている。
図2に本実施の形態における可変圧縮比内燃機関の分解斜視図を示す。図3に本実施の形態における可変圧縮比内燃機関の第1の概略断面図を示す。図2および図3を参照して、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されている。
各突出部50には断面形状が円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁には互いに間隔を隔てて、突出部50同士の間に嵌合される複数個の突出部52が形成されている。これらの突出部52にも断面形状が円形のカム挿入孔53が形成されている。
本実施の形態における可変圧縮比内燃機関は、一対のカムシャフト54,55を含む。カムシャフト54,55は、クランクケース1とシリンダブロック2との間に介在する。各カムシャフト54,55上には、一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が配置されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。
一方、各円形カム58の両側には、図3に示すように各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心して配置された偏心軸57が延びている。この偏心軸57には、別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるように、円形カム56は、各円形カム58の両側に配置されている。
これらの円形カム56は、対応する各カム挿入孔51に回転可能に挿入されている。シリンダブロック2は、偏心軸57を含むカムシャフト54,55を介して、クランクケース1に支持されている。
図4に、本実施の形態における可変圧縮比機構の第2の概略断面図を示す。図5に、本実施の形態における可変圧縮比機構の第3の概略断面図を示す。図3から図5は、通常運転において機械圧縮比を変更するときの可変圧縮比機構の機能を説明する断面図である。
図3に示す状態から各カムシャフト54,55上に配置された円形カム58を矢印68に示すように、互いに反対方向に回転させると偏心軸57が互いに近づく方向に移動する。
偏心軸57は、それぞれのカムシャフト54,55の回転軸線の周りに回転する。シリンダブロック2は、矢印99に示すようにクランクケース1から離れる向きに移動する。このときに円形カム56は、カム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図4に示されるように偏心軸57が低い位置から中間高さ位置となる。
次いで更に円形カム58を矢印68で示される方向に回転させると、シリンダブロック2は、矢印99に示すように更にクランクケース1から離れる向きに移動する。この結果、図5に示されるように偏心軸57は最も高い位置となる。
図3から図5には、それぞれの状態における円形カム58の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。図3から図5を比較するとわかるように、クランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まる。
円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほど、シリンダブロック2はクランクケース1から離れる。即ち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたリンク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2との間の相対位置が変化する。
シリンダブロック2がクランクケース1から離れると、ピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大する。シリンダブロック2がクランクケース1に近づくと、ピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は減少する。従って、各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
本実施の形態における可変圧縮比機構は、燃焼室5の容積を変更するための偏心軸57を回転させる駆動装置を含む。図2に示されるように、駆動装置は、アクチュエータ、例えば回転機としてのモータ59、逆入力遮断クラッチ(以下、クラッチともいう)70、ウォーム61,62およびウォームホイール63,64等を含む。
回転軸60には、カムシャフト54,55を夫々反対方向に回転させるように、螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61,62が取付けられている。ウォーム61,62と噛合するウォームホイール63,64が夫々各カムシャフト54,55の端部に固定されている。なお、駆動装置の回転機としては、モータ59に限られず、クラッチ70の入力軸を回転させることができる任意の装置を採用することができる。
本実施の形態では、モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。可変圧縮比機構は、電子制御ユニット30に制御されており、カムシャフト54,55を回転させるモータ59は、対応する駆動回路38を介して出力ポート36に接続されている。
このように、本実施の形態における可変圧縮比機構は、クランクケース1に対してシリンダブロック2が相対的に移動することにより、ピストンが上死点に到達したときの燃焼室5の容積が可変に形成されている。
本実施の形態においては、下死点から上死点までのピストンの行程容積とピストンが上死点に到達したときの燃焼室の容積のみから定まる圧縮比を機械圧縮比εと称する。この機械圧縮比εは、吸気弁の閉弁時期等に依存せずに、(機械圧縮比ε)=(ピストンが上死点に到達したときの燃焼室の容積+ピストンの行程容積)/(ピストンが上死点に到達したときの燃焼室の容積)にて示すことができる。
図3に示す状態では、燃焼室5の容積が小さくなっており、機械圧縮比が高い状態である。吸入空気量が常時一定の場合には実際の圧縮比が高くなる。これに対して、図5に示す状態では、燃焼室5の容積が大きくなっており、機械圧縮比が低い状態である。吸入空気量が常時一定の場合には実際の圧縮比が低くなる。
本実施の形態における内燃機関は、運転期間中に機械圧縮比を変更することにより、実際の圧縮比を変更することができる。従って、内燃機関の運転状態に応じて、可変圧縮比機構により機械圧縮比を変更すればよい。例えば、要求負荷が大きくなるほど、吸入空気量が多くなり、ノッキング等の異常燃焼が生じやすくなる。この場合、予め定められた運転領域において、要求負荷が大きくなるほど機械圧縮比を低下させる制御を行えばよい。
図3から図5を参照して、偏心軸57は、カムシャフト54,55の回転軸、すなわち円形カム58の回転軸を中心に回転する。機械圧縮比を低下させる場合には、偏心軸57を矢印68に示す向きに回転させる。機械圧縮比を上昇させる場合には、偏心軸57を矢印69に示す向きに回転させる。
本実施の形態においては、クランクケース1に対してシリンダブロック2を離す向きに相対移動させるときの偏心軸の回転方向を、一方の回転方向と称する。また、クランクケース1に対してシリンダブロック2を近づける向きに相対移動させるときの偏心軸57の回転方向を他方の回転方向と称する。本実施の形態においては、矢印68が一方の回転方向であり、矢印69が他方の回転方向である。
図2を参照して、本実施の形態における可変圧縮比機構は、モータ59の回転力(トルク)をカムシャフト54,55に伝達する駆動力伝達経路に配置されている逆入力遮断クラッチ70を含む。本実施の形態における逆入力遮断クラッチ70は、入力側がモータ59の回転力を伝達する回転軸66に接続され、出力軸がウォーム61,62を支持する回転軸60に接続されている。
本実施の形態における逆入力遮断クラッチ70は、入力軸からの回転力を出力軸に伝達し、出力軸からの回転力を遮断するように形成されている。すなわち、逆入力遮断クラッチ70は、モータ59から伝達される回転軸66の回転力をウォーム61,62に伝達し、ウォーム61,62から伝達される回転軸60の回転力は遮断してモータ59に伝達しない構造を有する。
図6に本実施の形態における逆入力遮断クラッチ70の第1の概略断面図を示す。図7に本実施の形態における逆入力遮断クラッチ70の第2の概略断面図を示す。図7は、図6におけるX線に沿って切断したときの概略断面図である。
図6および図7を参照して、本実施の形態の逆入力遮断クラッチ70は、外輪77を含む。外輪77は、ねじ85によりハウジング78に固定されている。外輪77は、逆入力遮断クラッチ70が駆動している期間中にも移動せずに固定されている。逆入力遮断クラッチ70は、出力軸74を有する。
出力軸74は、ウォーム61,62が固定されている回転軸60に接続されている。出力軸74は、回転中心軸88を回転中心として回転する。出力軸74は、穴部75を有する。穴部75は、出力軸74が回転する周方向に沿って複数個が形成されている。本実施の形態における出力軸74は、断面形状が多角形に形成されている。図6に示す例では、出力軸74は、断面形状が正八角形に形成されている。
逆入力遮断クラッチ70は、図7に示すように入力軸71を含む。入力軸71は、回転中心軸88を回転中心にして回転する。入力軸71は、モータ59の回転力を伝達する回転軸66に接続されている。入力軸71は、挿入部72と保持部73とを有する。挿入部72および保持部73は、一体的に回転する。
複数の挿入部72は、出力軸74の複数の穴部75に対応する位置に形成されている。挿入部72は、出力軸74の穴部75に挿入されている。穴部75の内径は挿入部72の外形よりも大きくなるように形成されている。挿入部72と穴部75との間には隙間が形成されている。複数の保持部73は、外輪77と出力軸74との間に配置されている。
また、保持部73はローラ80a,80bに対向し、偏心軸57が一方の回転方向に回転する向きに入力軸71が回転したときにローラ80aを押圧し、偏心軸57が他方の回転方向に回転する向きに入力軸71が回転したときにローラ80bを押圧するように形成されている。
出力軸74と外輪77との間の空間には、ローラ80a,80bが配置されている。本実施の形態におけるローラ80a,80bは円柱状に形成されている。ローラ80aとローラ80bとの間には、スプリング81が配置されている。スプリング81は、ローラ80a,80bを互いに離す向きに付勢する。
出力軸74と外輪77とにより、ローラ80a,80bを係止させるための係止部86a,86bが形成される。係止部86a,86bは、ローラ80a,80bが付勢されている向きに沿って、出力軸74の端面と外輪77の内面との間隔が徐々に狭くなっている部分がある。
また、係止部86a,86bは、ローラ80a,80bが付勢されている向きに沿って、出力軸74の端面と外輪77の内面との間隔が徐々に狭くなっている部分である。また、係止部86a,86bは、ローラ80a,80bが通過しないように狭く形成されている。外輪77は円筒状に形成され、出力軸74は角柱状(図示例では八角の角柱状)に形成されている。
図2を参照して、本実施の形態における逆入力遮断クラッチ70は、モータ59とウォーム62との間に配置されているが、この形態に限られず、モータ59の回転力をカムシャフト54,55に伝達する駆動力伝達経路に配置することができる。例えば、逆入力遮断クラッチ70は、ウォームホイール63,64と、カムシャフト54,55との間に配置されていても構わない。この場合には、それぞれのカムシャフト54,55に対してクラッチを配置することができる。
次に、本実施形態における逆入力遮断クラッチ70の動作について説明する。本実施の形態における逆入力遮断クラッチ70は、モータ59の回転力が入力軸71(図7参照)に入力されると、この回転力を出力軸74に伝達する。
一方で、逆入力遮断クラッチ70は、カムシャフト54,55の側からの回転力が出力軸74に伝達されると、ロックされてこの回転力を遮断する。特に、逆入力遮断クラッチ70は、偏心軸57が一方の回転方向に回転する向きにてウォーム61,62から回転力が伝達されると、この回転力を遮断する。
図1を参照して、本実施の形態においては、リフトスプリング65によって、シリンダブロック2がクランクケース1から離れる向きに付勢されている。内燃機関の運転期間中には、重力の影響や燃焼サイクルの吸気行程において燃焼室5が負圧になる影響により、クランクケース1に対してシリンダブロック2が近づく向きに力が作用する。
しかしながら、リフトスプリング65が配置されることにより、クランクケース1に対してシリンダブロック2が離れる向きに常に付勢され、シリンダブロック2に振動等が生じることを抑制できる。更に、燃焼室5において燃料の燃焼が行われるごとに筒内圧によりクランクケース1に対してシリンダブロック2が離れる方向に力が作用する。
シリンダブロック2がクランクケース1から離れる向きの回転力は、カムシャフト54,55、ウォームホイール63,64およびウォーム61,62を介して逆入力遮断クラッチ70に伝達される。図6を参照して、矢印100は、クランクケース1に対してシリンダブロック2が上昇する方向に対応する方向である。
すなわち、機械圧縮比が小さくなり、ピストン4が上死点に到達したときの燃焼室5が大きくなる回転方向を示している。シリンダブロック2にはクランクケース1に対して離れる方向に常に力が加わり、出力軸74には矢印100に示す向きに力が加わっている。
ローラ80aは、スプリング81に押圧されて係止部86aに接触している。このために、ローラ80aに楔の効果が生じて、外輪77に対する出力軸74の回転が阻止され、出力軸74がロックされる。このように、逆入力遮断クラッチ70は、クランクケース1に対してシリンダブロック2が離れる方向に対応する出力軸からの回転力を遮断することができる。
また、同様に、矢印100と反対向きの回転力が出力軸74に加わった場合には、ローラ80bが係止部86bに接触して出力軸74がロックされる。この様に、逆入力遮断クラッチ70は、モータ59を駆動しない場合に、ローラ80a,80bが係止部86a,86bに係止して出力軸74をロックする。
図8は、機械圧縮比を低下させるときの動作を説明する逆入力遮断クラッチ70の第1の概略断面図である。機械圧縮比を低下させる場合には、クランクケース1に対してシリンダブロック2を離す向きに移動させる。モータ59を駆動することにより、入力軸71の挿入部72は、矢印101に示す向きに回転する。挿入部72が穴部75の内面に接触する前に、保持部73がローラ80aに接触する。
図9は、機械圧縮比を低下させるときの動作を説明する逆入力遮断クラッチ70の第2の概略断面図である。入力軸71を更に回転させることにより、保持部73がローラ80aを押圧する。ローラ80aは、係止部86aから離れる。すなわち、ローラ80aのくさび効果が消失する。
このため、出力軸74は、ロック状態が解除され、外輪77に対して矢印101に示す方向に回転可能になる。入力軸71の挿入部72が、矢印101に示す向きに回転することにより、挿入部72が出力軸74の穴部75を押圧し、出力軸74を回転させることができる。このとき、出力軸74は、ローラ80bが係止部86bから離れる向きに回転するためにローラ80bによるロック状態も解除される。
図10は、機械圧縮比を上昇させるときの動作を説明するクラッチ70の概略断面図である。機械圧縮比を上昇させる場合には、クランクケース1に対してシリンダブロック2を近づける向きに移動させる。モータ59を駆動することにより、入力軸71の挿入部72および保持部73を、矢印102に示す向きに回転させる。
入力軸71の挿入部72および保持部73を矢印102に示す方向に回転させることにより、保持部73がローラ80bを押圧する。ローラ80bが係止部86bから離脱してローラ80bのくさび効果が消失する。次に、入力軸71の挿入部72が出力軸74の穴部75を押圧することにより、入力軸71の回転力を出力軸74に伝達することができる。
出力軸74は、矢印102に示す向きに回転する。このときに、出力軸74は、ローラ80aが係止部86aから離れる向きに回転するために、ローラ80aによるロック状態も解除される。このように、入力軸71の回転力を出力軸74に伝達することができる。
ところで、機関本体90の運転期間中には、燃焼室5にて燃焼が生じることによる筒内圧がシリンダヘッド3に作用する。このために、機関本体90の運転期間中には、リフトスプリング65の付勢力に加えて筒内圧がシリンダブロック2に加わる。
図8および図9を参照して、機械圧縮比を低下させる場合には、入力軸71の挿入部72が矢印101に示す向きに回転する。矢印100に示す出力軸74に加わる回転力は、筒内圧に依存する。筒内圧が高くなると、出力軸74に加わる回転力も大きくなり、逆入力トルクをロックしている係止部86aにおけるくさび効果も強くなる。ところが、筒内圧は振動するために、筒内圧が減少する期間中に保持部73にてローラ80aを押圧すると、比較的に小さな力にてローラ80aを係止部86bから離脱させることができる。
図10を参照して、機械圧縮比を上昇させる場合には、入力軸71が矢印102に示す向きに回転する。係止部86aにおいては、ローラ80aが係止部86aから離脱する方向に入力軸71が回転する。係止部86aにおいては、ローラ80aが係止部86aから離脱する方向に入力軸71が回転する。保持部73は、逆入力トルクを遮断していない側の係止部86bのローラ80bを押圧するために、容易にローラ80bを係止部86bから離脱させることができる。
ところで、逆入力遮断クラッチ70に作用する逆入力が逆入力遮断クラッチ70の許容筒内圧を越えると、入力遮断クラッチ70の例えばローラ80a,80bが変形し又は破壊され、したがって逆入力遮断クラッチ70が破損する。
特に、本実施の形態の可変圧縮比エンジンにおいては、図11に示すように逆入力遮断クラッチ70の許容筒内圧が正常時の最大筒内圧よりも高くかつプレイグニッション発生時の筒内圧よりも低く設定される。したがって、正常時は逆入力遮断クラッチ70は破損せず、プレイグニッションが発生すると逆入力遮断クラッチ70が破損する。逆入力遮断クラッチ70が破損すると、シリンダヘッド3に作用する筒内圧によりシリンダヘッド3はシリンダブロック1から離れる方向に移動する。その結果、機械圧縮比が所定の低機械圧縮比まで低下する。本実施の形態では、所定の低機械圧縮比は可変圧縮比機構が取りうる最低の機械圧縮比である。その後、機械圧縮比の変更が禁止される。その結果、プレイグニッションの継続的な発生を防止することができる。
ここで、ピストンやコンロッド、クランクシャフト等の他部品の許容筒内圧は、従来では、プレイグニッション発生時の筒内圧よりも高く設定されていた。これに対し、本実施の形態では、他部品の許容筒内圧を、プレイグニッション発生時の筒内圧よりも低い値まで下げることができる。
その上で、本発明の第1実施形態においては、図12に示すように、実際の機械圧縮比(実ε)が目標機械圧縮比(目標ε)になるようにモータ59に駆動指令を出す(S1)。実εが目標εに到達したか否かが判別される(S2)。実εが目標εに到達していないときにはS1に戻る。実εが目標εに到達したときには、モータ59の停止指令を出す(S3)。次いで、実εが目標εに維持されているか否かを判定する(S4)。実εが目標εに維持されているときには処理サイクルを終了する。実εが目標εに維持されていないときには、逆入力遮断クラッチ70が破損していると判定し(S5)、警告信号(例えば、警告灯ON)を出力する(S6)。このとき、筒内圧により機械圧縮比が所定の低機械圧縮比まで低下されている。そこで、低圧縮比運転モードに切り換えると共にその後の機械圧縮比の変更が禁止される(S7)。なお、低圧縮比運転モードでは、機械圧縮比が所定の低機械圧縮比であるときに適した吸入空気量、燃料噴射時期、燃料噴射量、点火時期等のもとで機関運転制御が行われる。
これにより、従来のプレイグニション対応の往復回転部品の強度を上げる必要性がなくなるため、燃費及び性能の向上並びにコストの低減を図ることができる。また、クラッチが破損すると、筒内圧により自動的に低圧縮比側にシリンダブロック2が移動し、機械圧縮比が低く維持されるため、その後のプレイグニションを回避することもできる。
従って、本実施の形態によれば、ピストンやコンロッド等の部品強度を高めることなくプレイグニッションの継続的な発生を防止することができ、重量の増加を伴わないため、燃費の向上及びコストの低減を図ることができる可変圧縮比内燃機関を提供することができる。
なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、例えば図13から図15に示す実施の形態にも適用することができる。図13に示す第2の実施の形態は、全気筒に筒内圧センサ(CPS)が取付けられている一例である。図13において、実εは機械圧縮比の実測値、目標εは機械圧縮比の目標値である。
この第2の実施の形態では筒内圧センサ(CPS)により各気筒にプレイグニッションが発生していないか否か、すなわちCPS実測値が閾値よりも低いか否かが判別される(S1)。CPS実測値≧閾値のとき、すなわちプレイグニッションが発生したときには、実ε=目標εであるか否かが判別される(S2)。実ε=目標εのときにはS1に戻る。実ε=目標εでないときには逆入力遮断クラッチ70が故障(破損)していると判定し(S5)、警告信号(例えば、警告灯ON)を出力し(S6)、低圧縮比運転モードに切り換えると共にその後の機械圧縮比の変更が禁止される(S7)。S1においてCPS実測値<閾値のとき、すなわちプレイグニッションが発生していないときには、実ε=目標εであるか否かが判別される(S2´)。実ε=目標εのときにはS1に戻る。実ε=目標εでないときには、カムシャフト54,55、ウォーム61,62、回転軸60のような伝達系部品が故障(破損)していると判定し(S5´)、警告信号(例えば、警告灯ON)を出力する(S6)。このとき、筒内圧により機械圧縮比が所定の低機械圧縮比まで低下されている。そこで、低圧縮比運転モードに切り換えると共にその後の機械圧縮比の変更が禁止される(S7)。
図14に示す第3の実施形態は、モータ59の保持電流を検出する他の一例である。すなわち、第3の実施形態では、実εが目標εに保持されるようにモータ59が駆動される。このときモータ59に通電される電流を保持電流と称すると、通常、保持電流は0であるが、振動等によりシリンダブロック2とクランクケース1の相対位置が変化した場合、すなわち実εが目標εからずれた場合、実εを目標εに合わせるためにモータ59を駆動するときに保持電流が発生する(目標ε指示は変更されない)。この場合、目標εに対する実εのずれが大きくなるにつれて保持電流の絶対値が大きくなる。したがって、保持電流の絶対値が閾値以上になったときには逆入力遮断クラッチ70が破損していると判別できる。
図14を参照すると、実際の機械圧縮比(実ε)が目標機械圧縮比(目標ε)になるようにモータ59に駆動指令を出す(S1)。実εが目標εに到達したか否かが判別される(S2)。実εが目標εに到達していないときにはS1に戻る。実εが目標εに到達したときには、目標εの保持指令を出す(S3)。保持電流の絶対値が閾値よりも小さいか否かが判定される(S4)。保持電流の絶対値が閾値よりも小さいときには処理サイクルを終了する。保持電流の絶対値が閾値以上のときには、逆入力遮断クラッチ70が破損していると判定し(S5)、警告信号(例えば、警告灯ON)を出力する(S6)。更に、実εが最低εになるようにモータ59が駆動される(S6a)。このようにすると、実εが最低εまで速やかに変更される。なお、逆入力遮断クラッチ70が破損していても、入力軸71と出力軸74との係合により機械圧縮比εが変更可能になっている。次いで、低圧縮比運転モードに切り換えると共にその後の機械圧縮比の変更が禁止される(S7)。
第4の実施の形態では、これまで述べてきた各実施の形態において、プレイグニッションが発生しやすい負荷回転領域で偏心軸57のリンク角度(図4,図5のθ)が90°付近になるように設定されている。本実施形態によれば、リンク角度が他の角度の場合に比べて筒内圧による逆入力トルクが大きくなるので、ピストン4、コンロッド、クランクの強度を高めることなくプレイグニッションの継続的な発生を防止することができるため、例えば図12に示される実施の形態に比べて、性能及び燃費の向上を更に図ることができると共に、コストの低減を更に図ることができる。なお、プレイグニッションが発生しやすい負荷回転領域は図15においてAで示されている。
図16に示す第5の実施形態は、燃料タンク内の燃料の残量を検出する他の一例である。実際の機械圧縮比(実ε)が目標機械圧縮比(目標ε)になるようにモータ59に駆動指令を出す(S1)。実εが目標εに到達したか否かが判別される(S2)。実εが目標εに到達していないときにはS1に戻る。実εが目標εに到達したときには、モータ59の停止指令を出す(S3)。次いで、実εが目標εに維持されているか否かを判定する(S4)。実εが目標εに維持されているときには処理サイクルを終了する。実εが目標εに維持されていないときには、逆入力遮断クラッチ70が破損していると判定する(S5)。次いで燃料残量がOKか否か、すなわち燃料残量が所定値よりも多いか否かが判別(S5a)。燃料残量が所定値よりも多いときには、警告信号(例えば、低機械圧縮比モードで機関運転が行われていることを表す低ε運転用の警告灯ON)を出力し(S6a)、低圧縮比運転モードに切り換えると共にその後の機械圧縮比の変更が禁止される(S7a)。すなわち、この場合には、筒内圧又はモータ59により機械圧縮比が所定の低機械圧縮比まで低下される。これに対し、燃料残量が所定値よりも少ないときには、警告信号(例えば、低機械圧縮比モードで機関運転が行われていることを表す高ε運転用の警告灯ON)を出力し(S6b)、高圧縮比運転モードに切り換える(S7b)。すなわち、この場合には、モータ59により機械圧縮比が所定の高圧縮比まで上昇される。本実施の形態では所定の高圧縮比は最高機械圧縮比である。なお、高圧縮比運転モードでは、機械圧縮比が所定の高機械圧縮比であるときに適した吸入空気量、燃料噴射時期、燃料噴射量、点火時期等のもとで機関運転制御が行われる。
ここで、高圧縮比運転モードでは、プレイグニッションの発生を抑制するために、逆入力遮断クラッチ70が破損していない通常運転時に比べて、機関出力が抑制される。その結果、燃料消費量が抑制され、したがって燃料タンク内の燃料の残料が少ないときでも長距離走行が可能となる。これに対し、低圧縮比運転モードでは、機械圧縮比が低いのでプレイグニッションは発生しにくく、したがって機関出力を抑制する必要はない。
なお、機械圧縮比が最高圧縮比のときに偏心軸57のリンク角度(図4,図5のθ)はゼロになっている。このため、機械圧縮比が最高圧縮比に制御されると、シリンダヘッドに筒内圧が作用しても機械圧縮比が最高圧縮比に維持される。その結果、機械圧縮比を最高圧縮比に維持するためのモータ59の保持電流を必要としない。