図1から図15を参照して、実施の形態における内燃機関について説明する。本実施の形態においては、車両に取り付けられている火花点火式の内燃機関を例示して説明する。本実施の形態における内燃機関は、機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構を備える。
図1は、実施の形態における内燃機関の概略図である。内燃機関は、機関本体90を備える。機関本体90は、クランクケース1を含む支持構造物を含む。支持構造物は、クランクシャフトを支持するように形成されている。機関本体90は、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3を含む。シリンダブロック2の内部に形成された穴部には、ピストン4が配置されている。燃焼室5の頂面の中央部には、点火栓6が配置されている。本発明においては、任意のピストン4の位置において、ピストン4の冠面、シリンダブロック2の穴部およびシリンダヘッド3に囲まれる空間を燃焼室と称する。
シリンダヘッド3には、吸気ポート8および排気ポート10が形成されている。吸気ポート8の端部には吸気弁7が配置されている。吸気弁7は、吸気カム49が回転することにより開閉する。排気ポート10の端部には、排気弁9が配置されている。吸気ポート8は、吸気枝管11を介してサージタンク12に連結されている。吸気枝管11には夫々対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置されている。なお、燃料噴射弁13は吸気枝管11に取付ける代りに、各燃焼室5に直接的に燃料を噴射するように配置されていても構わない。
サージタンク12は、吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結されている。吸気ダクト14の内部にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17が配置されている。また、吸気ダクト14の内部には、例えば熱線を用いた吸入空気量検出器18が配置されている。一方、排気ポート10は、排気マニホールド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒装置20に連結されている。排気マニホールド19には空燃比センサ21が配置されている。
本実施の形態における内燃機関は、ピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aを備える。可変圧縮比機構Aは、クランクケース1に対するシリンダブロック2のシリンダ軸線方向における相対位置を変化させるように形成されている。クランクケース1とシリンダブロック2との間には、付勢部材としてのリフトスプリング65が配置されている。リフトスプリング65は、クランクケース1から離れる向きにシリンダブロック2を付勢するように形成されている。なお、付勢部材としては、この形態に限られず、クランクケース1から離れる向きにシリンダブロック2を付勢する任意の部材を採用することができる。
クランクケース1とシリンダブロック2には、クランクケース1に対するシリンダブロック2の相対位置を検出するための相対位置センサ22が取付けられている。相対位置センサ22からはクランクケース1とシリンダブロック2との間隔の変化を示す出力信号が出力される。スロットル弁駆動用のアクチュエータ16にはスロットル弁開度を示す出力信号を発生するスロットル開度センサ24が取付けられている。
本実施の形態における内燃機関の制御装置は、電子制御ユニット30を含む。本実施の形態における電子制御ユニット30は、デジタルコンピュータを含む。デジタルコンピュータは、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を含む。
吸入空気量検出器18、空燃比センサ21、相対位置センサ22およびスロットル開度センサ24の出力信号は夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続されている。負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。負荷センサ41の出力により要求負荷を検出することができる。更に、入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続されている。クランク角センサ42の出力により、クランク角度および機関回転数を検出することができる。
一方、出力ポート36は、対応する駆動回路38を介して点火栓6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用のアクチュエータ16、および可変圧縮比機構Aに接続される。これらの装置は、電子制御ユニット30により制御されている。
図2に、本実施の形態における可変圧縮比機構の分解斜視図を示す。図3に本実施の形態における可変圧縮比機構の第1の概略断面図を示す。図2および図3を参照して、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されている。各突出部50には断面形状が円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁には互いに間隔を隔てて、突出部50同士の間に嵌合される複数個の突出部52が形成されている。これらの突出部52にも断面形状が円形のカム挿入孔53が形成されている。
本実施の形態における可変圧縮比機構は、一対のカムシャフト54,55を含む。カムシャフト54,55は、クランクケース1とシリンダブロック2との間に介在する。各カムシャフト54,55上には、一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が配置されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム58の両側には、図3に示すように各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心して配置された偏心軸57が延びている。この偏心軸57には、別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるように、円形カム56は、各円形カム58の両側に配置されている。これらの円形カム56は対応する各カム挿入孔51に回転可能に挿入されている。シリンダブロック2は、偏心軸57を含むカムシャフト54,55を介して、クランクケース1に支持されている。
図4に、本実施の形態における可変圧縮比機構の第2の概略断面図を示す。図5に、本実施の形態における可変圧縮比機構の第3の概略断面図を示す。図3から図5は、通常運転において機械圧縮比を変更するときの可変圧縮比機構の機能を説明する断面図である。図3に示す状態から各カムシャフト54,55上に配置された円形カム58を矢印68に示すように、互いに反対方向に回転させると偏心軸57が互いに近づく方向に移動する。偏心軸57は、それぞれのカムシャフト54,55の回転軸線の周りに回転する。シリンダブロック2は、矢印99に示すようにクランクケース1から離れる向きに移動する。このときに円形カム56は、カム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図4に示されるように偏心軸57が低い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム58を矢印68で示される方向に回転させると、シリンダブロック2は、矢印99に示すように更にクランクケース1から離れる向きに移動する。この結果、図5に示されるように偏心軸57は最も高い位置となる。
図3から図5には、それぞれの状態における円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。図3から図5を比較するとわかるように、クランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まる。円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほど、シリンダブロック2はクランクケース1から離れる。即ち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたリンク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2との間の相対位置が変化する。
シリンダブロック2がクランクケース1から離れると、ピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大する。シリンダブロック2がクランクケース1に近づくと、ピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は減少する。従って各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
本実施の形態における可変圧縮比機構は、燃焼室5の容積を変更するための偏心軸57を回転させる駆動装置を含む。図2に示されるように、駆動装置は、回転機としてのモータ59、クラッチ70、ウォーム61,62およびウォームホイール63,64等を含む。回転軸60には、カムシャフト54,55を夫々反対方向に回転させるように、螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61,62が取付けられている。ウォーム61,62と噛合するウォームホイール63,64が夫々各カムシャフト54,55の端部に固定されている。なお、駆動装置の回転機としては、モータ59に限られず、クラッチ70の入力軸を回転させることができる任意の装置を採用することができる。
本実施の形態では、モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。可変圧縮比機構は、電子制御ユニット30に制御されており、カムシャフト54,55を回転させるモータ59は、対応する駆動回路38を介して出力ポート36に接続されている。
このように、本実施の形態における可変圧縮比機構は、クランクケース1に対してシリンダブロック2が相対的に移動することにより、ピストンが上死点に到達したときの燃焼室5の容積が可変に形成されている。本実施の形態においては、下死点から上死点までのピストンの行程容積とピストンが上死点に到達したときの燃焼室の容積のみから定まる圧縮比を機械圧縮比と称する。機械圧縮比は、吸気弁の閉弁時期等に依存せずに、(機械圧縮比)=(ピストンが上死点に到達したときの燃焼室の容積+ピストンの行程容積)/(ピストンが上死点に到達したときの燃焼室の容積)にて示すことができる。
図3に示す状態では、燃焼室5の容積が小さくなっており、機械圧縮比が高い状態である。吸入空気量が常時一定の場合には実際の圧縮比が高くなる。これに対して、図5に示す状態では、燃焼室5の容積が大きくなっており、機械圧縮比が低い状態である。吸入空気量が常時一定の場合には実際の圧縮比が低くなる。
本実施の形態における内燃機関は、運転期間中に機械圧縮比を変更することにより、実際の圧縮比を変更することができる。内燃機関の運転状態に応じて、可変圧縮比機構により機械圧縮比を変更することができる。たとえば、要求負荷が大きくなるほど、吸入空気量が多くなりノッキング等の異常燃焼が生じやすくなる。このために、予め定められた運転領域において、要求負荷が大きくなるほど機械圧縮比を低下させる制御を行うことができる。
図3から図5を参照して、偏心軸57は、カムシャフト54,55の回転軸、すなわち円形カム58の回転軸を中心に回転する。機械圧縮比を低下させる場合には、偏心軸57を矢印68に示す向きに回転させる。機械圧縮比を上昇させる場合には、偏心軸57を矢印69に示す向きに回転させる。
本実施の形態においては、クランクケース1に対してシリンダブロック2を離す向きに相対移動させるときの偏心軸57の回転方向を、一方の回転方向と称する。また、クランクケース1に対してシリンダブロック2を近づける向きに相対移動させるときの偏心軸57の回転方向を他方の回転方向と称する。本実施の形態においては、矢印68が一方の回転方向であり、矢印69が他方の回転方向である。
図2を参照して、本実施の形態における可変圧縮比機構は、モータ59の回転力(トルク)をカムシャフト54,55に伝達する駆動力伝達経路に配置されているクラッチ70を含む。本実施の形態におけるクラッチ70は、入力側がモータ59の回転力を伝達する回転軸66に接続され、出力側がウォーム61,62を支持する回転軸60に接続されている。
本実施の形態におけるクラッチ70は、いわゆる逆入力遮断クラッチである。本実施の形態における逆入力遮断クラッチは、入力軸からの回転力を出力軸に伝達し、出力軸からの回転力を遮断するように形成されている。すなわち、クラッチ70は、モータ59から伝達される回転軸66の回転力はウォーム61,62に伝達し、ウォーム61,62から伝達される回転軸60の回転力は遮断して、モータ59に伝達しない構造を有する。
図6に、本実施の形態におけるクラッチ70の第1の概略断面図を示す。図7に、本実施の形態におけるクラッチ70の第2の概略断面図を示す。図7は、図6におけるX線に沿って切断したときの概略断面図である。図6および図7を参照して、本実施の形態のクラッチ70は、外輪77を含む。外輪77は、ねじ85によりハウジング78に固定されている。外輪77は、クラッチ70が駆動している期間中にも移動せずに固定されている。
クラッチ70は、外輪77の内部に配置されている出力軸74を有する。出力軸74は、ウォーム61,62が固定されている回転軸60に接続されている。出力軸74は、回転中心軸88を回転中心にして回転する。出力軸74は、穴部75を有する。穴部75は、出力軸74が回転する周方向に沿って複数個が形成されている。本実施の形態における出力軸74は、断面形状が多角形に形成されている。図6に示す例では、出力軸74は、断面形状が正八角形に形成されている。
クラッチ70は、入力軸71を含む。入力軸71は、回転中心軸88を回転中心にして回転する。入力軸71は、モータ59の回転力を伝達する回転軸66に接続されている。入力軸71は、挿入部72と保持部73とを有する。挿入部72および保持部73は、一体的に回転する。
複数の挿入部72は、出力軸74の複数の穴部75に対応する位置に形成されている。挿入部72は、出力軸74の穴部75に挿入されている。穴部75の内径は挿入部72の外径よりも大きくなるように形成されている。挿入部72と穴部75との間には隙間が形成されている。複数の保持部73は、外輪77と出力軸74との間に配置されている。また、保持部73はローラ80a,80bに対向し、偏心軸57が一方の回転方向に回転する向きに入力軸71が回転したときにローラ80aを押圧し、偏心軸57が他方の回転方向に回転する向きに入力軸71が回転したときにローラ80bを押圧するように形成されている。
出力軸74と外輪77との間の空間には、ローラ80a,80bが配置されている。本実施の形態におけるローラ80a,80bは円柱状に形成されている。ローラ80aとローラ80bとの間には、スプリング81が配置されている。スプリング81は、ローラ80a,80bを互いに離す向きに付勢する。
出力軸74と外輪77とにより、ローラ80a,80bを係止させるための係止部86a,86bが形成される。係止部86a,86bは、出力軸74の回転方向に沿って出力軸74の外面と外輪77の内面との間隔が徐々に狭くなっている部分である。また、また、係止部86a,86bは、ローラ80a,80bが通過しないように狭く形成されている。
図2を参照して、本実施の形態におけるクラッチ70は、モータ59とウォーム62との間に配置されているが、この形態に限られず、モータ59の回転力をカムシャフト54,55に伝達する駆動力伝達経路に配置することができる。例えば、クラッチ70は、ウォームホイール63,64と、カムシャフト54,55との間に配置されていても構わない。この場合には、それぞれのカムシャフト54,55に対してクラッチを配置することができる。
次に、本実施の形態おけるクラッチ70の動作について説明する。本実施の形態におけるクラッチ70は、モータ59の回転力が入力軸71に入力されると、この回転力を出力軸74に伝達する。一方で、クラッチ70は、カムシャフト54,55の側からの回転力が出力軸74に伝達されると、ロックされてこの回転力を遮断する。特に、クラッチ70は、偏心軸57が一方の回転方向に回転する向きにてウォーム61,62から回転力が伝達されると、この回転力を遮断する。
図1を参照して、本実施の形態においては、リフトスプリング65によって、シリンダブロック2がクランクケース1から離れる向きに付勢されている。内燃機関の運転期間中には、重力の影響や燃焼サイクルの吸気行程において燃焼室5が負圧になる影響により、クランクケース1に対してシリンダブロック2が近づく向きに力が作用する。しかしながら、リフトスプリング65が配置されることにより、クランクケース1に対してシリンダブロック2が離れる向きに常に付勢され、シリンダブロック2に振動等が生じることを抑制できる。更に、燃焼室5において燃料の燃焼が行なわれごとに、筒内圧によりクランクケース1に対してシリンダブロック2が離れる方向に力が作用する。
シリンダブロック2がクランクケース1から離れる向きの回転力は、カムシャフト54,55、ウォームホイール63,64およびウォーム61,62を介してクラッチ70に伝達される。図6を参照して、矢印100は、クランクケース1に対してシリンダブロック2が上昇する方向に対応する方向である。すなわち、機械圧縮比が小さくなり、ピストン4が上死点に到達したときの燃焼室5が大きくなる回転方向を示している。シリンダブロック2にはクランクケース1に対して離れる方向に常に力が加わり、出力軸74には矢印100に示す向きに力が加わっている。
ローラ80aは、スプリング81に押圧されて係止部86aに接触している。このために、ローラ80aに楔の効果が生じて、外輪77に対する出力軸74の回転が阻止され、出力軸74がロックされる。このように、クラッチ70は、クランクケース1に対してシリンダブロック2が離れる方向に対応する出力側からの回転力を遮断することができる。また、同様に、矢印100と反対向きの回転力が出力軸74に加わった場合には、ローラ80bが係止部86bに接触して出力軸74がロックされる。この様に、クラッチ70は、モータ59を駆動しない場合に、ローラ80a,80bが係止部86a,86bに係止して出力軸74をロックする。
図8は、機械圧縮比を低下させるときの動作を説明するクラッチ70の第1の概略断面図である。機械圧縮比を低下させる場合には、クランクケース1に対してシリンダブロック2を離す向きに移動させる。モータ59を駆動することにより、入力軸71の挿入部72は、矢印101に示す向きに回転する。挿入部72が穴部75の内面に接触する前に、保持部73がローラ80aに接触する。
図9は、機械圧縮比を低下させるときの動作を説明するクラッチ70の第2の概略断面図である。入力軸71を更に回転させることにより、保持部73がローラ80aを押圧する。ローラ80aは、係止部86aから離れる。すなわち、ローラ80aのくさび効果が消失する。このため、出力軸74は、ロック状態が解除され、外輪77に対して矢印101に示す方向に回転可能になる。入力軸71の挿入部72が、矢印101に示す向きに回転することにより、挿入部72が出力軸74の穴部75を押圧し、出力軸74を回転させることができる。このときに、出力軸74は、ローラ80bが係止部86bから離脱する向きに回転するためにローラ80bによるロック状態も解除される。
図10は、機械圧縮比を上昇させるときの動作を説明するクラッチ70の概略断面図である。機械圧縮比を上昇させる場合には、クランクケース1に対してシリンダブロック2を近づける向きに移動させる。モータ59を駆動することにより、入力軸71の挿入部72および保持部73を、矢印102に示す向きに回転させる。
入力軸71の挿入部72および保持部73を矢印102に示す向きに回転させることにより、保持部73がローラ80bを押圧する。ローラ80bが係止部86bから離脱してローラ80bのくさび効果が消失する。次に、入力軸71の挿入部72が出力軸74の穴部75を押圧することにより、入力軸71の回転力を出力軸74に伝達することができる。出力軸74は、矢印102に示す向きに回転する。このときに、出力軸74は、ローラ80aが係止部86aから離脱する向きに回転するために、ローラ80aによるロック状態も解除される。このように、入力軸71の回転力を出力軸74に伝達することができる。
ところで、機関本体90の運転期間中には、燃焼室5にて燃焼が生じることによる筒内圧がシリンダヘッド3に作用する。このために、機関本体90の運転期間中には、リフトスプリング65の付勢力に加えて筒内圧がシリンダブロックに加わる。
図8および図9を参照して、機械圧縮比を低下させる場合には、入力軸71が矢印101に示す向きに回転する。矢印100に示す出力軸74に加わる回転力は、筒内圧に依存する。筒内圧が高くなると、出力軸74に加わる回転力も大きくなり、逆入力トルクをロックしている係止部86aにおけるくさび効果も強くなる。ところが、筒内圧は振動するために、筒内圧が減少する期間中に保持部73にてローラ80aを押圧すると、比較的に小さな力にてローラ80aを係止部86aから離脱させることができる。
図10を参照して、機械圧縮比を上昇させる場合には、入力軸71が矢印102に示す向きに回転する。保持部73は、逆入力トルクを遮断していない側の係止部86bのローラ80bを押圧するために、容易にローラ80bを係止部86bから離脱させることができる。係止部86aにおいては、ローラ80aが係止部86aから離脱する方向に入力軸71が回転する。
内燃機関を停止している期間中には、機関本体90の運転も停止しており、燃焼室5における燃料の燃焼が停止している。更に、内燃機関の制御装置も停止している。内燃機関の停止期間中には、筒内圧によりシリンダブロック2に加えられる荷重は零になる。ところが、クランクケース1とシリンダブロック2との間に配置されているリフトスプリング65により、シリンダブロック2にはクランクケース1から離れる向きに荷重が加わっている。
図2を参照して、シリンダブロック2に作用する荷重は、カムシャフト54,55、ウォームホイール63,64、ウォーム61,62および回転軸60を介して、クラッチ70の出力軸74に入力される。このときの出力軸74に入力されるトルクの回転方向は、クランクケース1に対してシリンダブロック2が離れる方向に対応する。図6を参照して、内燃機関の停止期間中においても、クラッチ70には、出力軸74に対して矢印100に示す回転方向のトルクが加えられている。
図3から図5を参照して、本実施の形態においては、円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bとを結ぶ線と、シリンダブロック2の移動方向とのなす角度を偏心軸角度θと称する。機械圧縮比が最も高い図3に示す状態では、偏心軸角度が0°である。本実施の形態においては、機械圧縮比が低下するほど、偏心軸角度θが増大する。そして、図5に示すように、機械圧縮比が最小の状態では、偏心軸角度θがほぼ180°である。
図11に、内燃機関の停止期間中にクラッチ70の出力軸74に加わるトルクを説明するグラフを示す。縦軸は、クラッチ70への逆入力トルクを示している。シリンダブロック2に作用する荷重はリフトスプリング65の縮み量に依存する。このために、シリンダブロック2に作用する荷重は偏心軸角度θに依存する。更に、シリンダブロック2に作用する荷重は圧縮比可変機構のリンク機構を介して出力軸74に伝達されるために、出力軸74に加わるトルクは偏心軸角度θに依存する。すなわち、出力軸74に加わるトルクは、内燃機関を停止したときの機械圧縮比に依存する。偏心軸角度θmaxにおいて出力軸74に加わるトルクが最大になり、偏心軸角度が0°または180°に近づくにつれて零に近づくことが分かる。
図12に、本実施の形態における可変圧縮比機構の機械圧縮比の変更領域を説明する概略図を示す。本実施の形態の可変圧縮比機構では、偏心軸角度を0°から180°まで変化させることにより最も大きく機械圧縮比を変更することができる。偏心軸角度が0°から180°までの領域が、最大限に機械圧縮比を変更可能な領域になる。すなわち、図3に示す偏心軸57が最も低い位置から図5に示す偏心軸57が最も高い位置までカムシャフト54,55を回転させることにより、最も大きく機械圧縮比を変更することができる。
本実施の形態の内燃機関においては、機関本体90の運転期間中に変更する機械圧縮比の変更領域が設定されている。ここで、機関本体90の運転期間中とは、機関回転数が零よりも大きな状態の期間を示し、たとえば燃焼室5において燃料の燃焼が行われる期間を含む。機関本体90の運転期間中の機械圧縮比の変更領域は、最大限に機械圧縮比を変更可能な領域よりも狭く設定されている。本実施の形態の運転期間中の変更領域は、偏心軸角度が0°よりも僅かに大きな値が下限値に設定されている。また、偏心軸角度が180°よりも僅かに小さな値が上限値に設定されている。
図11を参照して、機関本体90の運転を停止する時には、運転期間中の変更領域内の機械圧縮比に設定することができる。しかしながら、運転期間中の変更領域内の機械圧縮比にて機関本体90の運転を停止すると、クラッチ70の出力軸74にはリフトスプリング65による逆入力トルクが加えられる。すなわち、内燃機関を停止した期間中においても、逆入力トルクがクラッチ70に加えられる。図6を参照して、出力軸74には矢印100に示す向きにトルクが加わり、ローラ80aが係止部86aに係止した状態になる。出力軸74は、ロック状態になる。ローラ80aは、外輪77の内面および出力軸74の外面に圧接した状態になる。内燃機関を長期間停止していると、接触部分では潤滑油切れが生じて、ローラ80aに対して外輪77または出力軸74が金属接触する虞がある。この結果、内燃機関を長期間停止した後に始動すると、クラッチ70が損傷する虞がある。
または、内燃機関を停止させる場合には、機関本体90の運転を停止した後に機械圧縮比を低下させる制御を行うことが考えられる。すなわち、点火栓6による点火を停止して機関回転数が零になった後に、機械圧縮比を低い状態に移行する制御が考えられる。この制御の場合には、図8および図9に示したように、係止部86aからローラ80aが離脱した状態で機械圧縮比が低下され、予め定められた機械圧縮比にて停止することができる。ところが、予め定められた位置にて入力軸71の駆動を停止すると、矢印100に示す出力軸74に加わるトルクにより、出力軸74が回転し、やがては図6に示す様にローラ80aが係止部86aに係止した状態になる。この場合にも、内燃機関を長期間停止した後に始動すると、クラッチ70が損傷する虞がある。
図2を参照して、本実施の形態における可変圧縮比機構は、機械圧縮比を低下した時に、カムシャフト54,55の回転を予め定められた位置にて停止させる回転止め部を有する。本実施の形態においては、回転止め部として、クランクケース1にストッパ部91が形成されている。本実施の形態においては、内燃機関の停止期間中にクラッチ70の出力軸74に逆入力トルクが作用しないように、ストッパ部91にウォームホイール63,64を当接させた状態で内燃機関を停止する。
図13に、本実施の形態におけるウォーム61,62およびウォームホイール63,64の部分の第1の概略正面図を示す。図13は、機関本体90の運転期間中の状態を示している。図13および図2から図5を参照して、本実施の形態におけるウォームホイール63,64は、平面形状が半円形に形成されている。ウォームホイール63,64には、回転方向に直交する当接面63a,64aが形成されている。当接面63a,64aは、ウォームホイール63,64が回転した時にストッパ部91に当接するように形成されている。また、ストッパ部91は、ウォームホイール63,64の回転を予め定められた位置にて停止させることができるように配置されている。
機関本体90の運転期間中においては、矢印68に示す方向にウォームホイール63,64を回転することにより機械圧縮比を低下させる。また、矢印69に示す方向にウォームホイール63,64を回転させることにより、機械圧縮比を上昇させる。機関本体90の運転期間中には、当接面63a,64aがストッパ部91には接触しない状態で運転が継続される。
図14に、本実施の形態におけるウォーム61,62およびウォームホイール63,64の部分の第2の概略正面図を示す。図14は、内燃機関を停止するときのウォーム61,62およびウォームホイール63,64の状態を示している。内燃機関を停止するときには、矢印68に示す機械圧縮比を低下させる方向にウォームホイール63,64を回転させる。当接面63a,64aがストッパ部91に接触するまで回転させる。内燃機関は、この状態を維持して停止する。
図12および図14を参照して、本実施の形態においては、運転期間中の機械圧縮比の変更領域の上限値と180°との間の位置において、ウォームホイール63,64がストッパ部91に当接している。ウォームホイール63,64の当接位置は、運転期間中の機械圧縮比の変更領域よりも機械圧縮比の低い位置に設定されている。ウォームホイール63,64がストッパ部91に当接することにより、機械圧縮比が低くなる側へのカムシャフト54,55の回転が阻止される。シリンダブロック2からカムシャフト54,55を介してウォームホイール63,64に伝達される回転力が、更にウォーム61,62に伝達されることが阻止される。リフトスプリング65により、シリンダブロック2が付勢されていても、矢印68に示す向きにウォームホイール63,64が回転することが阻止される。
図9を参照して、機械圧縮比を低下している期間中には係合部86aからローラ80aが離脱した状態になる。ウォームホイール63,64がストッパ部91に当接することにより、矢印100に示す出力軸74の回転力が阻止される。ウォームホイール63,64がストッパ部91に当接した後にモータ59を停止することにより、保持部73がローラ80aを押圧した状態が維持される。すなわち、係止部86aからローラ80aが離脱した状態が維持される。
内燃機関は、ローラ80aが外輪77や出力軸74に圧接した状態が解除された状態で停止する。このために、内燃機関の停止期間中に、潤滑油切れが生じることを抑制できる。内燃機関を始動した後にクラッチ70に金属剥離等の損傷が生じることを抑制できる。
図12を参照して、本実施の形態において、ウォームホイール63,64がストッパ部91に接触する位置は、機械圧縮比の変更領域の外側に設定されている。ストッパ部91は、機械圧縮比の変更領域よりも機械圧縮比が低い位置にてカムシャフト54,55の回転を停止させている。内燃機関の停止期間中に維持する機械圧縮比としては、運転期間中の変更領域の内部の機械圧縮比を採用しても構わない。しかしながら、図13を参照して、機械圧縮比の変更領域にストッパ部を配置すると、ウォームホイール63,64の動作に障害が生じる。たとえば、可動式のストッパ部を形成し、ウォームホイールにストッパ部を挿入可能な穴部を形成することができる。可動式のストッパ部をウォームホイールに形成された穴部に挿入することにより、変更領域の内部においてウォームホイールの回転を阻止することができる。ところが、このような装置は構造が複雑になる。
本実施の形態のように、ウォームホイール63,64がストッパ部91に接触する位置が機械圧縮比の変更領域の外側に設定されることにより、可変圧縮比機構の装置の構成を簡易にすることができる。
図15に、本実施の形態における内燃機関の運転制御のフローチャートを示す。ステップ121においては、内燃機関の停止要求を検出する。例えば、運転者がキースイッチ装置を駆動位置から停止位置に変更したことを検出する。ステップ121において、内燃機関の停止要求を検出しない場合には、この制御を終了する。ステップ121において、内燃機関の停止要求を検出した場合にはステップ122に移行する。
ステップ122においては、機関本体90の運転を停止する。本実施の形態においては、燃料噴射弁13による燃料の供給を停止すると共に点火栓6による点火を停止する。機関回転数は零になる。この場合に、機械圧縮比を運転期間中の変更領域内の所定の位置まで変化させた後に機関本体90の運転を停止しても構わない。
次に、ステップ123においては機械圧縮比を低下する。図13を参照して、矢印68に示す向きにウォームホイール63が回転するように、モータ59を駆動する。
ステップ124においては、ウォームホイール63,64がストッパ部91に当接したか否かを判別する。すなわち、図14に示すように、ウォームホイール63,64の機械圧縮比が低下する側の回転が阻止された状態に到達したか否かを判別する。本実施の形態においては、相対位置センサ22の出力によりウォームホイール63,64がストッパ部91に当接したか否かを判別している。ステップ124において、ウォームホイール63,64は、ストッパ部91に当接していない場合には、ステップ123に戻り、機械圧縮比の低下を継続する。ステップ124において、ウォームホイール63,64がストッパ部91に当接した場合には、ステップ125に移行する。
ステップ125においては、機械圧縮比の低下を停止する。次に、ステップ126においては、内燃機関全体を停止する。例えば、内燃機関の制御装置の電源を遮断する制御を行う。
本実施の形態の内燃機関は、停止期間中には機械圧縮比が低い状態で維持される。内燃機関を始動する時には、始動時に設定された機械圧縮比まで変更した後に、点火の始動等を行うことができる。
本実施の形態の運転制御では、機関本体90の運転を停止した後に機械圧縮比を運転期間中の変更領域よりも低く低下させているが、この形態に限られず、機械圧縮比を運転期間中の変更領域よりも低く低下させた後に機関本体90の運転を停止しても構わない。
本実施の形態の可変圧縮比機構においては、クランクケース1にストッパ部91を形成している。また、ウォームホイール63を半円状に形成して当接面63a,64aを形成しているが、この形態に限られず、任意の機構により、カムシャフト54,55の回転を停止させる回転止め部を形成することができる。例えば、ウォームホイールの平面形状が円形になるように形成し、ウォームホイールと一体的に回転する回転部材を配置し、この回転部材がストッパ部に当接するように形成しても構わない。
また、本実施の形態におけるクラッチは、外輪と出力軸との間の空間により構成されている係止部にローラが係止することにより、入力軸への回転力の伝達を遮断しているが、この形態に限られず、クラッチは、出力軸の回転を阻止する任意の部材や機構を採用することができる。
本実施の形態における逆入力遮断クラッチは、機械圧縮比が上昇する回転方向および機械圧縮比が低下する回転方向の両方向の入力軸からの回転力を出力軸に伝達し、出力軸からの両方向の回転力を遮断するように形成されているが、この形態に限られず、入力軸からの両方向の回転力を出力側に伝達し、機械圧縮比が低下する方向の出力軸からの回転力を遮断するように形成されていれば構わない。
本実施の形態においては、車両に取り付けられている内燃機関を例示して説明を行なったが、この形態に限られず、任意の装置や設備等に配置されている内燃機関に本発明を適用することができる。
上述のそれぞれの制御においては、機能および作用が変更されない範囲において適宜ステップの順序を変更することができる。
上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される変更が含まれている。