JP2015110500A - 炭化珪素の結晶成長方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶液法による低欠陥で高品質な単結晶炭化珪素の結晶成長方法を提供する。
【解決手段】溶液法による炭化珪素の結晶成長方法において、Si−C溶液4の収容部としてSiCを主成分とする坩堝1を加熱して、坩堝1内のSi−C溶液4の温度が上側から下側に向かって高くなる温度分布を形成するとともに、Si−C溶液4と接触する坩堝1表面の高温領域から該坩堝1の主成分であるSiCを源とするSiおよびCを前記Si−C溶液4内に溶出せしめ、Si−C溶液4と接触する坩堝1表面でのSiC多結晶の析出を抑制する。このような状態のSi−C溶液4に、坩堝1の上部からSiC種結晶3を接触させて、該SiC種結晶3上にSiC単結晶を成長させる。SiCを主成分とする坩堝1を用いることにより、S−C溶液4の組成変動が少なく、坩堝1の内壁に析出する多結晶や添加金属元素Mと炭素Cが結合して形成される金属炭化物の発生も抑制される。
【選択図】図1

Description

本発明は、炭化珪素の結晶成長方法に関し、より詳細には、坩堝内のSi−C溶液の組成変動を抑え、坩堝の内壁に析出する多結晶や添加金属元素Mと炭素Cが結合して形成される金属炭化物の発生も抑制して、低欠陥で高品質な単結晶炭化珪素を得ることを可能とする技術に関する。
炭化珪素(SiC)はワイドバンドギャップ半導体材料であり、熱伝導性および化学的安定性に優れ、絶縁破壊特性および飽和ドリフト速度等のトランジスタ特性の観点からも、パワーデバイスとしての優れた基本的物理特性を有している。このような理由により、SiCは、次世代のパワーデバイス用の材料としての期待が高まっており、SiCパワーデバイスの製品化も報告されている。
しかし、SiC基板は、Si基板に比較して高価であることに加え、単結晶基板の低欠陥化・高品質化が十分ではないという問題がある。
低欠陥で高品質なSiC単結晶基板の製造が難しい主な理由は、常圧下では融解しないことにある。半導体デバイス用基板として広く用いられるSiの場合、常圧下での融点は1414℃であり、このSi融液から、CZ法やFZ法により低欠陥・高品質で大口径の単結晶を得ることができる。
これに対し、SiCの場合、常圧下で加熱すると2000℃程度の温度で昇華してしまうため、CZ法やFZ法による結晶成長方法は採用できない。そのため、現在では、SiC単結晶は、主として、改良レーリ法をはじめとする昇華法により製造されている。
しかしながら、昇華法により得られたSiC単結晶を用いてパワーデバイスを作製しても、その特性は必ずしも十分とは言えない。その原因は、SiC単結晶の低欠陥化が容易ではないことにある。昇華法による結晶成長は、気相からの析出現象であり、成長速度は遅く、反応空間内の温度管理も難しい。近年では、各種研究開発機関による精力的な改良・改善の結果、マイクロパイプの転移密度は低減してきているものの、貫通らせん転移や刃状転移、基底面転移などの、デバイスの電気特性に影響を与える格子欠陥に関しては、未だ、高い密度で内在しているという状況にある。
そこで、最近では、溶液法による炭化珪素の結晶成長方法が注目されるようになってきた(例えば、特許文献1〜3などを参照)。上述のように、SiCそのものは、常圧下では融解しない。そこで、溶液法によるSiC単結晶の製造方法では、黒鉛るつぼ内のSi融液に、坩堝の下方の高温部からCを溶解せしめ、このSi−C融液に、SiC種結晶を接触させ、SiC種結晶上にエピタキシャル成長させてSiC単結晶を得ている。このような溶液法では、SiCの結晶成長が、熱平衡にきわめて近い状態で進行するため、昇華法で得られたSiC単結晶に比較して、低欠陥なものが得られる。
SiC単結晶を得るための溶液法には、種々の手法があり、非特許文献1(SiCパワーデバイス最新技術)では、(a)溶媒移動結晶成長法(TSM:Traveling Solvent Method)、(b)徐冷法(SCT:Slow Cooling Technique)、(c)蒸気気相固相法(VLS: Vapor Liquid Solid)、(d)種付け溶液成長法(TSSG: Top Seeded Solution Growth)の4つに大別されている。本明細書で用いる「溶液法」なる用語は、種付け溶液成長法(TSSG: Top Seeded Solution Growth)を意味する。
溶液法によるSiC単結晶の製造方法では、黒鉛るつぼ内にSi融液を形成するが、Si融液へのCの溶解度は1at%程度と極めて小さいため、一般に、Cを溶解し易くするためにSi融液中に遷移金属などを添加する(特許文献1〜3などを参照)。
このような添加元素の種類と量は、Cの溶解を助長させること、溶液からSiCが初晶として析出し残部が液相として上手く平衡すること、添加元素が炭化物やその他の相を析出させないこと、SiCの結晶多型のうち目的とする多型が安定して析出すること、更には、なるべく単結晶の成長速度を高くする溶液組成とすること等を考慮して決定される。
特開2000−264790号公報 特開2004−002173号公報 特開2006−143555号公報
「SiCパワーデバイス最新技術」 第1節 1.2 SiC溶液成長の手法 41〜43頁(サイエンス&テクノロジー株式会社、2010年5月14日刊行)。
しかし、黒鉛坩堝を用いる従来の溶液法には、下記のような問題点がある。
第1は、SiCの単結晶成長につれて、Si−C溶液から徐々にSi成分が失われ、溶液組成が次第に変化してしまう問題である。SiCの単結晶成長中に溶液組成が変化すれば、当然に、SiCの析出環境は変化する。その結果、SiCの単結晶成長を、長時間、安定して継続することは難しくなる。
第2は、黒鉛坩堝からのCの過剰な融け込みの問題である。SiCの単結晶成長につれてSi−C溶液から徐々にSi成分が失われる一方で、Cは継続的に黒鉛坩堝から供給される。そのため、Si−C溶液には、相対的にCが過剰に融け込むという結果となり、溶液中のSi/C組成比が変化してしまう。
第3は、黒鉛坩堝内壁面での、Si−C溶液と接触する黒鉛坩堝表面でのSiC多結晶の析出の問題である。上述のように、黒鉛坩堝からSi−C溶液中にCが過剰に融け込むと、黒鉛坩堝内壁面に微細なSiC多結晶が発生し易くなる。そして、このようなSiC多結晶は、SiC溶液中を浮遊し、結晶成長中のSiC単結晶とSi−C溶液の固液界面近傍に達して、単結晶成長を阻害する結果となる。
本発明は、このような従来法が抱える問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、従来の黒鉛坩堝を用いる方法に比べ、S−C溶液の組成変動を少なくし、坩堝の内壁に析出する多結晶の発生も抑制することで、低欠陥で高品質な単結晶炭化珪素を得るための技術を提供することにある。
上述の課題を解決するために、本発明に係る炭化珪素の結晶成長方法は、溶液法による炭化珪素の結晶成長方法であって、Si−C溶液の収容部としてSiCを主成分とする坩堝を用い、前記Si−C溶液に、第1の金属元素M1(M1は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Luの群から選択される少なくとも1種の金属元素)と第2の金属元素M2(M2は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuの群から選択される少なくとも1種の金属元素)を含有させ、前記坩堝を加熱して、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面の高温領域から前記坩堝の主成分であるSiCを源とするSiおよびCを前記Si−C溶液内に溶出せしめて、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出を抑制し、前記坩堝の上部から、前記Si−C溶液にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させる、ことを特徴とする。
好ましくは、前記加熱は、前記SiCを主成分とする坩堝内のSi−C溶液の温度が上側から下側に向かって高くなる温度分布を形成するように実行される。
また、好ましくは、前記第1の金属元素M1と前記第2の金属元素M2の前記Si−C溶液中の総含有量を、1at%〜80at%とする。
また、好ましくは、前記加熱により、前記Si−C溶液を1300℃〜2300℃の温度範囲に制御する。
さらに、好ましくは、前記誘導加熱が、前記SiCを主成分とする坩堝を耐熱性炭素材料から成る第2の坩堝内に収容した状態で行われる。
本発明によれば、SiCを主成分とする坩堝を用いることにより、Si−C溶液の組成変動が少なくなり、坩堝の内壁に析出する多結晶や添加金属元素Mと炭素Cが結合して形成される金属炭化物の発生も抑制される。その結果、黒鉛坩堝を用いる従来の方法に比較して、低欠陥で高品質な単結晶炭化珪素が得られる。
本発明に係る方法により炭化珪素を結晶成長させる際の、結晶成長装置の主要部の構成例を説明するための図である。 本発明に係る方法により炭化珪素を結晶成長させる際の、Si−C溶液内の温度分布を概念的に説明するための図である。 本発明に係る方法により炭化珪素を結晶成長させる際の、SiC坩堝の壁面からSi−C溶液中にSiおよびCが溶出する様子を概念的に説明するための図である。 SiC坩堝を用いる本発明の炭化珪素の結晶成長方法で生じている、SiC坩堝からのSiおよびCの溶出反応と、SiC種結晶上へのSiCの析出反応のメカニズムを、概念的に説明するための図である。 実施例1において、結晶成長後に取り出したSiC坩堝1を切断して得た断面の光学写真である。 実施例1の単結晶成長条件をパラメータとして炉内の温度分布をシミュレーションした結果である。 実施例1の条件下で得られたSiC単結晶の上面の光学写真(A)および側面の光学写真(B)である。 比較例1として、SiC坩堝に代えて黒鉛坩堝を用いた以外は実施例1と同条件下で育成したSiC結晶の、上面の光学写真(A)および側面の光学写真(B)である。 (A)は、実施例2で得られたSiC単結晶の上面の光学写真、(B)は、比較例2で得られたSiC結晶の上面の光学写真である。 (A)は、実施例3で得られたSiC単結晶の上面の光学写真、(B)は、比較例3で得られたSiC結晶の上面の光学写真である。 (A)は、実施例4で得られたSiC単結晶の上面の光学写真、(B)は、比較例4で得られたSiC結晶の上面の光学写真である。 (A)は、実施例5で得られたSiC単結晶の上面の光学写真、(B)は、比較例5で得られたSiC結晶の上面の光学写真である。 実施例6で得られたSiC単結晶の上面の光学写真である。
以下に、図面を参照して、本発明に係る溶液法による炭化珪素の結晶成長方法について説明する。なお、以降の説明においては、本発明を、SiC坩堝を高周波加熱する態様で説明するが、加熱方法は高周波によるものに限定される必要はなく、Si−C溶液の制御温度等に応じて、抵抗加熱等の他の方法によってもよい。
図1は、本発明に係る方法により炭化珪素を結晶成長させる際の、結晶成長装置の主要部の構成例を説明するための図である。
図中、符号1はSi−C溶液の収容部であるSiCを主成分とする坩堝、符号2はこのSiC坩堝1を収容する耐熱性炭素材料から成る第2の坩堝、符号3は種結晶としてのSiC単結晶、符号4はSiC坩堝1内に形成されるSi−C溶液、符号5はSiCの結晶成長中に坩堝1(および坩堝2)を回転させるための坩堝回転軸、符号6は種結晶3を保持し且つSiCの結晶成長中に種結晶3を回転させるための種結晶回転軸、符号7は黒鉛材料等で形成されたサセプタ、符号8は同じく黒鉛材料等で形成された断熱材、符号9はSi−C溶液の蒸発を抑えるための上蓋、そして、符号10はSiC坩堝1を加熱するとともにSiC溶液4内を好ましい温度分布とするための高周波コイルである。
なお、図示はしないが、炉内の雰囲気を真空にするための排気口及び排気バルブ、ガス導入のためのガス導入口及びガス導入バルブが設けられている。また、加熱前のSiC坩堝1にはSiが充填されるが、C源を一緒に充填しておいてもよい。
図2は、本発明に係る方法により炭化珪素を結晶成長させる際の、Si−C溶液内の温度分布を概念的に説明するための図である。図中のT1〜T4で示した曲線はそれぞれ、Si−C溶液内での等温度曲面の断面を意味する温度曲線であり、T1>T2>T3>T4の関係にある。つまり、SiC坩堝1内のSi−C溶液4は、上側から下側に向かって高くなる温度分布を有するとともに、各温度曲線(等温線)は下側に凸となる温度分布となっている。
本発明では、高周波コイル10からのSiC坩堝1の誘導加熱により、Si−C溶液4に上記の温度分布を形成するとともに、このSi−C溶液4と接触するSiC坩堝1の表面から、該坩堝の主成分であるSiCを源とするSiおよびCをSi−C溶液4内に溶出せしめる。そして、SiC坩堝1の上部から、Si−C溶液4にSiC種結晶3を接触させて、該SiC種結晶3上にSiC単結晶を成長させる。従って、図2に示したT1〜T4のうち、少なくとも、温度T1はSiC坩堝1からSiおよびCをSi−C溶液4内に溶出せしめるに充分な程度に高い温度とされ、温度T4はSiC種結晶3上にSiCが単結晶として成長するために充分な程度の温度とされる。
図3は、本発明に係る方法により炭化珪素を結晶成長させる際の、SiC坩堝の壁面からSi−C溶液中にSiおよびCが溶出する様子を概念的に説明するための図である。なお、図中にMで示したものは、Si−C溶液4中へのC溶解度を高める効果を有する金属元素であり、添加される金属元素は1種に限らず、複数種の金属元素を添加する場合もある。
上述した温度分布を形成すると、Si−C溶液4と接触するSiC坩堝1の表面(の高温領域)から、該坩堝1の主成分であるSiCを源とするSiおよびCがSi−C溶液4内に溶出する。当然のことながら、この溶出したSiおよびCは、Si−C溶液4の新たなSi成分およびC成分となり、SiC種結晶3上に成長する単結晶の源となる。
このようなSiC坩堝1からのSiおよびCのSi−C溶液4への溶出が生じる環境下にあっては、Si−C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出の問題は生じない。なぜならば、坩堝1の主成分であるSiCがSiおよびCとしてSi−C溶液4へ溶出する条件下では、SiとCがSiCとして析出する余地はないからである。つまり、Si−C溶液の収容部としてSiCを主成分とする坩堝を用いることにより、Si−C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出が抑制される。
加えて、SiC坩堝を用いることにより、添加金属元素Mと炭素Cが結合して形成される金属炭化物の形成が抑制されるという効果もある。黒鉛坩堝を用いた場合には、Si−C溶液中のSi組成比が低下したりCが過剰に溶け込んだりしてSi/C組成比が小さくなると、炭素Cの溶け込みを容易化するために添加されている金属元素Mが炭素Cと結合し易くなり金属炭化物が形成される傾向にある、このような金属炭化物の融点は高く、Si−C溶液中を漂って種結晶表面近傍に達し、SiCの単結晶化を阻害する要因となる。これに対し、SiC坩堝を用いた場合には、Si−C溶液中に炭素Cが過剰に溶け込むことがなく、その結果、上記の金属炭化物の形成が抑制され、育成するSiC結晶の単結晶化が容易なものとなる。
このように、本発明に係る炭化珪素の結晶成長方法では、Si−C溶液の収容部としてSiCを主成分とする坩堝を用い、該坩堝を加熱して、前記坩堝内のSi−C溶液の温度が上側から下側に向かって高くなる温度分布を形成するとともに、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面の高温領域から前記坩堝の主成分であるSiCを源とするSiおよびCを前記Si−C溶液内に溶出せしめて、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出を抑制し、前記坩堝の上部から、前記Si−C溶液にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させる。通常、結晶成長時のSi−C溶液温度は、1300℃〜2300℃の温度範囲で制御する。
なお、SiC単結晶の成長プロセス中、高周波コイル10からの誘導加熱条件を適切に制御して、上述の温度分布を好適なものとすることはもとより、坩堝1の位置を上下に移動させたり、坩堝1や種結晶3を回転させるなどして、SiC単結晶の成長速度とSiC溶液4中へのSiおよびCの溶出速度を適切に制御し、SiC単結晶の成長に伴ってSi−C溶液4から失われたSiおよびCだけ坩堝1から供給するようにすると、Si−C溶液4の組成変動を抑えることができる。
図4は、SiC坩堝を用いる本発明の炭化珪素の結晶成長方法で生じている、SiC坩堝からのSiおよびCの溶出反応と、SiC種結晶上へのSiCの析出反応のメカニズムを、概念的に説明するための図である。この図は、SiCとSi−C溶液(Si、C、およびMを含む溶液)との固液界面を断面としたときの、擬二元系の状態図である。縦軸は温度であり、横軸は溶液中のC濃度を表している。横軸は、右に進むほどC濃度が高く、右端ではSiC結晶となる。
また、図中にST1〜ST4で示した曲線はそれぞれ、図2に示した温度T1〜T4における液相(Liquid)と固液共存相(Liquid+SiC)の境界を表しており、溶解度曲線とも言われる。これらの溶解度曲線は、Si−C溶液が、各曲線の示すところまでCをSi−C溶液中に溶解することができることを表している。溶解度曲線より左上は、SiとCとMからなる液相であって、SiとCが均一に溶けている。一方、溶解度曲線より右下は、SiCの固相と、SiとCとMが溶けている溶液相の、2相共存状態となる。
図4に示したように、Cの溶解度は、溶液温度が高くなるほど増大するので、相対的に高温であるT1の溶解度曲線ST1は、他の溶解度曲線よりも図中の右側にあることとなる。一方、相対的に低温になるほどCの溶解量が少なくなるため、T4の溶解度曲線ST4は、他の溶解度曲線の左側に位置することになる。
ここで、C濃度がC0の溶液L1を考える。この溶液L1中に、図2に示したような温度分布(T1>T2>T3>T4)があるとすると、溶液L1中の各温度おける溶解度状態は、図4中に示したa〜dの各点で示される。図4から分かるように、点aは温度T1における溶解度曲線ST1からみて左側にあるので、溶液はさらにSiCを溶解することができ、L1溶液の組成は図中のa’方向に進むことになる。つまり、a点の状態にある溶液に、坩堝のSiCがSiとCとなって溶け込んでくる。
1よりも低温のT2の点であるbも、僅かではあるが、上記の点aと同様に、SiCを溶解することができ、L1溶液の組成は図中のb’方向に進むことになる。
更に低温であるT3となると、c点は温度T3における溶解度曲線ST3の下側に位置することとなるため、溶液はSiCを溶解することができず、逆に、SiCを析出する状態となる。しかし、析出現象が実際に生じるためには、ある程度の過冷却な状態が実現している必要である。このため、溶解度曲線ST3のすぐ下に位置しているc点が充分に過冷却な状態であるかどうかは、一概には判断できない。ここでは、c点の過冷却が充分でなく、SiCの析出は起こらないと仮定する。
3よりもさらに低温のT4のd点では、充分に過冷却な状態にあり、このT4の近傍温度で、SiCの析出が生じる。種結晶はこのような温度にあるから、該SiC種結晶上にSiC単結晶が成長する。この析出反応によって、L1からSiCが析出し、それに従って液相L1の組成はd’方向へと移る。
坩堝からは継続的にSiとCが溶出してくるが、通常、坩堝と種結晶を回転させながら単結晶の育成を行うから、Si−C溶液は撹拌効果により溶液内組成の均一化が図られる。その結果、図3に示したような、溶液内での状態が実現されることとなる。
本発明によれば、溶液法によるSiC単結晶の製造において、高品質のSiC単結晶を、長時間に渡って安定的に製造することができる。その理由は、下記のように整理することができる。
従来の溶液法では、黒鉛坩堝に代表されるような耐熱性炭素材料から成る坩堝を用い、この坩堝に溶液を収容するとともに、坩堝からCを溶出させて溶液中にCを補給する。しかし、SiCの結晶成長が進むにつれて、溶液中のSi成分の組成比の低下は避けられない。
これに対し、本発明では、SiCを主成分と坩堝を容器に用い、坩堝成分であるSiCを源としてSiとCを溶液中に供給する。この場合、種結晶上にSiCが結晶成長しても、それにより失われた溶液中のSiとCはSiC坩堝から供給され、その結果、溶液の組成変化が抑制され、SiC単結晶を安定して長時間成長させることができる。
このような本発明の結晶成長方法は、FZ法に類似の結晶成長方法、若しくは、一種のFZ法であるとも言える。FZ法においては、多結晶部の溶融と単結晶部の成長が、Si溶融部を介して進行する。本発明の結晶成長方法においても、上記の多結晶部に相当する坩堝が加熱により融解し、上記の溶融部に相当するSiとCを含む溶液を介して、種結晶上にSiC単結晶が成長する。
以下に、実施例により、本発明の結晶成長方法について具体的に説明する。
図1に示した構造の装置を用いて、SiC単結晶を育成した。原料としてのSi多結晶(純度99wt%)およびSi−C溶液中へのC溶解度を高める効果を有する金属であるCr(純度99wt%)を充填したSiC坩堝1を、耐熱性炭素材料から成る第2の坩堝2内に収容し、真空乃至Ar雰囲気下で、高周波コイル10により誘導加熱し、3時間かけてSiC坩堝1内に充填した原料を溶解した。
ここで用いたSiC坩堝1は、外径70mm、内径50mm、外壁高さ80mm、内壁高さ70mmである。また、種結晶3には、21mm径で厚みが0.4mmの4H型のSiC単結晶を用いた。この種結晶3を、黒鉛製の種結晶回転軸6(19mm径)の端面に、結晶育成面がC面となるよう接着した。
SiC坩堝1に充填したSi多結晶およびCrは、これらが溶解した状態での浴組成が、Crが38at%でSiが62at%となるように調合した。なお、これらの原料には、不純物としてのFeが1wt%以下で含まれている。
SiC坩堝1内の溶液の表面温度を、装置の上方から光温度計測定したところ、1800℃であった。この状態で2時間保持し、SiC坩堝1から、SiとCを溶液中に溶出させてSi−C(−Cr)溶液とし、坩堝1の上部から、Si−C溶液にSiC種結晶3を接触させて、該SiC種結晶3上にSiC単結晶を成長させた。
結晶成長中は、種結晶回転軸6の引き上げ速度を0.5mm/h、回転速度を20rpmとした。また、SiC坩堝1は20rpmで回転させた。10時間の単結晶成長の後、炉内にArガスを導入し、室温まで冷却した。
図5は、結晶成長後に取り出したSiC坩堝1を切断して得た断面の光学写真である。SiC坩堝1の底部の両側において、Si−C溶液へのSiおよびCの溶出に伴う浸食が、明瞭に認められる。
図6は、上記の単結晶成長条件をパラメータとして炉内の温度分布をシミュレーションした結果で、図中には、SiC坩堝1の右側半分の輪郭を白線で示した。このシミュレーションから、図5で明瞭に認められるSiC坩堝1の底部の両側の浸食部分の温度は、最も高温となっていることが分かる。また、このシミュレーションは、後述する実施例6の条件下でのものであるが、この結果によれば、図2中に示した温度は、T1=1934℃、T2=1926℃、T3=1918℃、T4=1918℃となっている。
図7は、上述の条件下で得られたSiC単結晶の上面の光学写真(A)および側面の光学写真(B)で、図7(B)に矢印で示したものがSiC単結晶である。目視では欠陥は認められず、表面も平滑であることが確認できる。
図8は、比較例1として、SiC坩堝1に代えて黒鉛坩堝を用いた以外は上述の実施例1と同条件下で育成したSiC結晶の、上面の光学写真(A)および側面の光学写真(B)である。結晶面には多数の結晶粒界が認められ、単結晶は得られていない。
溶液の初期組成が、Tiが20at%でSiが80at%となるように調合したこと以外、実施例1と同条件でSiC単結晶の育成を行った。なお、これらの原料には、不純物としてのFeが1wt%以下で含まれている。
図9(A)は、上述の条件下で得られたSiC単結晶の上面の光学写真である。目視では欠陥は認められず、表面も平滑であることが確認できる。
図9(B)は、比較例2として、SiC坩堝1に代えて黒鉛坩堝を用いた以外は上述の実施例2と同条件下で育成したSiC結晶の、上面の光学写真である。結晶面には多数の結晶粒界が認められ、単結晶は得られていない。
溶液の初期組成が、Alが20at%でSiが80at%となるように調合したこと以外、実施例1と同条件でSiC単結晶の育成を行った。なお、これらの原料には、不純物としてのFeが1wt%以下で含まれている。
図10(A)は、上述の条件下で得られたSiC単結晶の上面の光学写真である。目視では欠陥は認められず、表面も平滑であることが確認できる。
図10(B)は、比較例3として、SiC坩堝1に代えて黒鉛坩堝を用いた以外は上述の実施例3と同条件下で育成したSiC結晶の、上面の光学写真である。結晶面には多数の結晶粒界が認められ、単結晶は得られていない。
溶液の初期組成が、Prが20at%でSiが80at%となるように調合したこと以外、実施例1と同条件でSiC単結晶の育成を行った。なお、これらの原料には、不純物としてのFeが1wt%以下で含まれている。
図11(A)は、上述の条件下で得られたSiC単結晶の上面の光学写真である。目視では欠陥は認められず、表面も平滑であることが確認できる。
図11(B)は、比較例4として、SiC坩堝1に代えて黒鉛坩堝を用いた以外は上述の実施例4と同条件下で育成したSiC結晶の、上面の光学写真である。結晶面には多数の結晶粒界が認められ、単結晶は得られていない。
溶液の初期組成が、Prが20at%でCrが30at%でSiが50at%となるように調合したこと以外、実施例1と同条件でSiC単結晶の育成を行った。なお、これらの原料には、不純物としてのFeが1wt%以下で含まれている。
図12(A)は、上述の条件下で得られたSiC単結晶の上面の光学写真である。目視では欠陥は認められず、表面も平滑であることが確認できる。
図12(B)は、比較例5として、SiC坩堝1に代えて黒鉛坩堝を用いた以外は上述の実施例5と同条件下で育成したSiC結晶の、上面の光学写真である。結晶面には多数の結晶粒界が認められ、単結晶は得られていない。
溶液の初期組成が、Prが20at%でFeが30at%でSiが50at%となるように調合したこと以外、実施例1と同条件でSiC単結晶の育成を行った。なお、これらの原料には、不純物としてのCrが1wt%以下で含まれている。
図13は、上述の条件下で得られたSiC単結晶の上面の光学写真である。目視では欠陥は認められず、表面も平滑であることが確認できる。
上記実施例では、Si−C溶液中に添加する金属元素として、Cr、Ti,Al、Prが選択されているが、これら以外にも、種々の金属元素を選択し得る。
例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Luの群から選択される少なくとも1種の金属元素であってよい。
また、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuの群から選択される少なくとも1種の金属元素であってよい。
さらに、例えば、Al、Ga、Ge、Sn、Pb、Znの群から選択される少なくとも1種の金属元素であってよい。
なお、上記金属元素の組み合わせとしてもよく、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Luの群から選択される少なくとも1種の金属元素M1と、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuの群から選択される少なくとも1種の金属元素M2の組み合わせであってよい。
通常は、このような金属元素の添加は、Si−C溶液中の総含有量を1at%〜80at%とする。
上述したように、本発明に係る炭化珪素の結晶成長方法によれば、従来の黒鉛坩堝を用いる方法に比べ、S−C溶液の組成変動が少なく、坩堝の内壁に析出する多結晶の発生も抑制される。その結果、低欠陥で高品質な単結晶炭化珪素が得られる。
本発明に係る炭化珪素の結晶成長方法は、下記のような発明として整理することができる。
第1の態様のものは、溶液法による炭化珪素の結晶成長方法であって、Si−C溶液の収容部としてSiCを主成分とする坩堝を用い、該坩堝を加熱して、前記坩堝内のSi−C溶液の温度が上側から下側に向かって高くなる温度分布を形成するとともに、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面の高温領域から該坩堝の主成分であるSiCを源とするSiおよびCを前記Si−C溶液内に溶出せしめ、前記坩堝の上部から、前記Si−C溶液にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させる、ことを特徴とする炭化珪素の結晶成長方法。
好ましくは、前記加熱は、前記坩堝内における等温線が下側に凸となる温度分布となるように実行される。
また、好ましくは、前記Si−C溶液には、該Si−C溶液中へのC溶解度を高める効果を有する金属Mが予め添加される。
第2の態様のものは、溶液法による炭化珪素の結晶成長方法であって、Si−C溶液の収容部としてSiCを主成分とする坩堝を用い、該坩堝を加熱して、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面の高温領域から前記坩堝の主成分であるSiCを源とするSiおよびCを前記Si−C溶液内に溶出せしめて、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出を抑制し、前記坩堝の上部から、前記Si−C溶液にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させる、ことを特徴とする炭化珪素の結晶成長方法。
好ましくは、前記加熱は、前記SiCを主成分とする坩堝内のSi−C溶液の温度が上側から下側に向かって高くなる温度分布を形成するように実行される。
また、好ましくは、前記Si−C溶液には、該Si−C溶液中へのC溶解度を高める効果を有する金属Mが予め添加される。
第3の態様のものは、溶液法による炭化珪素の結晶成長方法であって、Si−C溶液の収容部としてSiCを主成分とする坩堝を用い、前記Si−C溶液に、第1の金属元素M1(M1は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Luの群から選択される少なくとも1種の金属元素)と第2の金属元素M2(M2は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuの群から選択される少なくとも1種の金属元素)を含有させ、前記坩堝を加熱して、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面の高温領域から前記坩堝の主成分であるSiCを源とするSiおよびCを前記Si−C溶液内に溶出せしめて、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出を抑制し、前記坩堝の上部から、前記Si−C溶液にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させる、ことを特徴とする炭化珪素の結晶成長方法。
第4の態様のものは、溶液法による炭化珪素の結晶成長方法であって、Si−C溶液の収容部としてSiCを主成分とする坩堝を用い、前記Si−C溶液に、金属元素M(Mは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Luの群から選択される少なくとも1種の金属元素)を含有させ、前記坩堝を加熱して、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面の高温領域から前記坩堝の主成分であるSiCを源とするSiおよびCを前記Si−C溶液内に溶出せしめて、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出を抑制し、前記坩堝の上部から、前記Si−C溶液にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させる、ことを特徴とする炭化珪素の結晶成長方法。
第5の態様のものは、溶液法による炭化珪素の結晶成長方法であって、Si−C溶液の収容部としてSiCを主成分とする坩堝を用い、前記Si−C溶液に、金属元素M(Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuの群から選択される少なくとも1種の金属元素)を含有させ、前記坩堝を加熱して、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面の高温領域から前記坩堝の主成分であるSiCを源とするSiおよびCを前記Si−C溶液内に溶出せしめて、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出を抑制し、前記坩堝の上部から、前記Si−C溶液にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させる、ことを特徴とする炭化珪素の結晶成長方法。
第6の態様のものは、溶液法による炭化珪素の結晶成長方法であって、Si−C溶液の収容部としてSiCを主成分とする坩堝を用い、前記Si−C溶液に、金属元素M(Mは、Al、Ga、Ge、Sn、Pb、Znの群から選択される少なくとも1種の金属元素)を含有させ、前記坩堝を加熱して、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面の高温領域から前記坩堝の主成分であるSiCを源とするSiおよびCを前記Si−C溶液内に溶出せしめて、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出を抑制し、前記坩堝の上部から、前記Si−C溶液にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させる、ことを特徴とする炭化珪素の結晶成長方法。
上記の第3〜6の態様において、好ましくは、前記加熱は、前記SiCを主成分とする坩堝内のSi−C溶液の温度が上側から下側に向かって高くなる温度分布を形成するように実行される。
本発明では、好ましくは、前記第1の金属元素M1と前記第2の金属元素M2の前記Si−C溶液中の総含有量、若しくは、前記金属元素Mの前記Si−C溶液中の総含有量を1at%〜80at%とする。
また、本発明では、好ましくは、前記加熱により、前記Si−C溶液を1300℃〜2300℃の温度範囲に制御する。
さらに、本発明では、好ましくは、前記加熱が、前記SiCを主成分とする坩堝を耐熱性炭素材料から成る第2の坩堝内に収容した状態で行われる。
本発明に係る炭化珪素の結晶成長方法によれば、従来の黒鉛坩堝を用いる方法に比べ、S−C溶液の組成変動が少なく、坩堝の内壁に析出する多結晶や添加金属元素Mと炭素Cが結合して形成される金属炭化物の発生も抑制される。その結果、低欠陥で高品質な単結晶炭化珪素が得られる。
1 SiCを主成分とする坩堝
2 耐熱性炭素材料から成る第2の坩堝
3 種結晶
4 Si−C溶液
5 坩堝回転軸
6 種結晶回転軸
7 サセプタ
8 断熱材
9 上蓋
10 高周波コイル

Claims (5)

  1. 溶液法による炭化珪素の結晶成長方法であって、
    Si−C溶液の収容部としてSiCを主成分とする坩堝を用い、
    前記Si−C溶液に、第1の金属元素M1(M1は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Luの群から選択される少なくとも1種の金属元素)と第2の金属元素M2(M2は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuの群から選択される少なくとも1種の金属元素)を含有させ、
    前記坩堝を加熱して、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面の高温領域から前記坩堝の主成分であるSiCを源とするSiおよびCを前記Si−C溶液内に溶出せしめて、前記Si−C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出を抑制し、
    前記坩堝の上部から、前記Si−C溶液にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させる、ことを特徴とする炭化珪素の結晶成長方法。
  2. 前記加熱は、前記SiCを主成分とする坩堝内のSi−C溶液の温度が上側から下側に向かって高くなる温度分布を形成するように実行される、請求項1に記載の炭化珪素の結晶成長方法。
  3. 前記第1の金属元素M1と前記第2の金属元素M2の前記Si−C溶液中の総含有量を、1at%〜80at%とする、請求項1または2に記載の炭化珪素の結晶成長方法。
  4. 前記加熱により、前記Si−C溶液を1300℃〜2300℃の温度範囲に制御する、請求項1〜3の何れか1項に記載の炭化珪素の結晶成長方法。
  5. 前記加熱が、前記SiCを主成分とする坩堝を耐熱性炭素材料から成る第2の坩堝内に収容した状態で行われる、請求項1〜4の何れか1項に記載の炭化珪素の結晶成長方法。
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