JP2015105435A - ピニオンシャフト - Google Patents

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Abstract

【課題】材料成形性がよく加工コストを抑えることができ、かつ使用条件が過酷な環境下でも熱変形曲がりが小さく、長寿命のピニオンシャフトを提供する。【解決手段】特定組成の合金鋼を、浸炭処理または浸炭窒化処理した後、焼入れ処理及び焼戻し処理を施して外周面に硬化された表面層を形成してなり、かつ、転送面表面のCとNとの合計含有量が0.6〜1.4質量%で、炭化物の面積率が10%以下であり、転送面における表面及び転動体直径の1%に相当する深さでの硬さがHv653〜Hv900であり、転送面における表面及び転動体直径の1%に相当する深さでの残留オーステナイト量が20〜50体積%であり、芯部の硬さがHv402〜Hv550であり、芯部の残留オーステナイト量が3体積%以下であるピニオンシャフト。【選択図】図1

Description

本発明は、遊星歯車装置に使用される合金製ピニオンシャフトに関する。
自動車等の遊星歯車装置は、例えば図1に示すように、図示しない軸が挿通されたサンギア1と、サンギア1と同心に配されたリングギア2と、サンギア1及びリングギア2に噛み合う1個以上(図1においては3個)のピニオンギア3と、サンギア1及びリングギア2と同心に配されピニオンギア3を回転自在に支持するキャリア4とを備えている。また、ピニオンギア3の中心には、かしめによりキャリア4に固定されたピニオンシャフト5が挿通されており、ピニオンシャフト5の外周面とピニオンギア3の内周面との間には図示されない複数の針状ころが配されている。ピニオンシャフト5の外周面は針状ころが転走する転動部となっており、ピニオンギア3はピニオンシャフト5を軸として回転自在とされている。
従来の遊星歯車装置では、ピニオンシャフト5はJIS鋼種SK5等で構成され、針状ころが転送する部分(転送面)は焼入れにより、ピニオンシャフトとして必要な硬さが付与されている。また、潤滑不良等による剥離寿命が問題となる場合には、ピニオンシャフト5をJIS鋼種SUJ2等で作製し、浸炭窒化処理して寿命を確保するなどの対策が採られている。
一方、近年では自動車の低燃費化の要求がますます強まっており、トランスミッションの小型化や高効率化が行われている。それに伴って遊星歯車装置の回転速度が高まっており、ピニオンシャフト5に加わる荷重が増大し、かつ温度も上昇しており、更には潤滑油量が減少する傾向にもなっていることからピニオンシャフト5の寿命低下につながっている。
更に、荷重の増加とともに温度も上昇しているため、ピニオンシャフト5に塑性変形が発生し易い。この変形により、針状ころとピニオンシャフト5との間の滑りが増大して軌道面の摩耗やピーリングが生じるというも問題や、針状ころとピニオンシャフト5との接触がエッジロールになって早期剥離に至るという問題が生じるおそれがある。
ピニオンシャフト5の塑性変形は、ピニオンシャフト5に負荷される荷重を緩和する方向に曲がりが生じる現象であり、鋼に内在する残留オーステナイト量が多いほど大きくなる傾向がある。そのため、塑性曲がりを抑制するためには残留オーステナイト量を極力少なくすることが最も重要である。しかしながら、ピニオンシャフト5の転走面の残留オーステナイト量が少ないと、転がり疲労寿命が低下し、必要な耐久性が得られないおそれがある。
また、遊星歯車装置に使用される転がり軸受は、高温、高速、軽荷重で使用されることがあり、ピニオンシャフト5の転送面に、潤滑油中に混入する硬質の異物の噛み込み等による圧痕を起点する表面起点型剥離や、軽荷重下で生じ易いスミアリングが早期に発生し、軸受寿命を著しく低下させることがある。SK5鋼やSUJ2鋼では、このような高温、高速、軽荷重という条件下では十分な軸受寿命が得られないおそれがある。
更に、遊星歯車装置に使用される転がり軸受は、高温、高荷重、高振動、潤滑不足という条件で使用されることもあり、転送面下の最大せん断応力位置に白色組織と呼ばれる微細なフェライト粒の組織が生じて転がり寿命を著しく低下させることがある。このような組織変化型剥離の原因は完全には解明されていないが、潤滑剤の分解によって発生する水素が鋼中に侵入し、水素脆性を引き起こすことにより組織変化の発生を加速させ、剥離に至ると考えられている。
このような問題に対し、特許文献1には、浸炭窒化処理後に調質を行い、引き続き高周波焼き入れを行うことにより、芯部の残留オーステナイト量を0体積%としてピニオンシャフトの塑性曲がりを抑制する方法が開示されている。そして、表層部を高周波焼入れして硬化させることにより、転動疲労寿命を向上させている。
また、特許文献2では、特定の鋼種に浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入れ・焼戻し処理を行うことで、高温下、潤滑不良下、異物混入下、またはスミアリングや白色組織が発生しやすい環境下で使用されても、塑性変形が生じにくく耐久性に優れた転動軸が開示されている。
特開2002−4003号公報 特開2008−150672号公報
しかしながら、特許文献1には、ピニオンシャフト用鋼材としてSUJ2、S55C、SAC5610、SCr420等が例示されているが、これらの鋼材では高速回転や、潤滑剤の汚染及び供給不足に耐え得るだけの転動疲労寿命の確保が困難になる。
特許文献2では、転動軸が炭素を0.3〜0.5質量%含有しており、炭素量が多いことに起因して材料成形性が悪く、径を細く成形するのが困難であり、更には鍛造性や冷間加工性、被削性が低下して加工コストの上昇を招く場合がある。また、芯部の残留オーステナイト量が比較的多いことから、使用条件が過酷(高荷重、高速回転、高温度)な環境下では熱変形曲がりが大きくなるおそれもある。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、材料成形性がよく加工コストを抑えることができ、かつ使用条件が過酷な環境下でも熱変形曲がりが小さく、長寿命のピニオンシャフトを提供することを目的とする。
上記課題を解決するために本発明は、相手部材である転動体に対して相対的に転動するピニオンシャフトにおいて、
C :0.1〜0.3質量%
Si:0.2〜0.5質量%
Mn:0.2〜1.2質量%
Cr:2.6〜4.5質量%
Mo:0.1〜0.4質量%
Ni:0.2質量%以下(0質量%を含む)
Cu:0.2質量%以下(0質量%を含む)
S :0.02質量%以下(0質量%を含む)
P :0.02質量%以下(0質量%を含む)
O :12質量ppm以下(0質量ppmを含む)
を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる合金鋼を、浸炭処理または浸炭窒化処理した後、焼入れ処理及び焼戻し処理を施して外周面に硬化された表面層を形成してなり、かつ、
転送面表面のCとNとの合計含有量が0.6〜1.4質量%で、炭化物の面積率が10%以下であり、
転送面における表面及び転動体直径の1%に相当する深さでの硬さがHv653〜Hv900であり、
転送面における表面及び転動体直径の1%に相当する深さでの残留オーステナイト量が20〜50体積%であり、
芯部の硬さがHv402〜Hv550であり、
芯部の残留オーステナイト量が3体積%以下
である
ことを特徴とするピニオンシャフトを提供する。
本発明のピニオンシャフトは、塑性変形が抑制され、高荷重・高速回転・高温下においても長寿命となる。また、特定組成の鋼材を用いることにより、加工性にも優れる。
遊星歯車装置の分解斜視図である。 0.01D深さでの硬さと寿命比との関係を示すグラフである。 0.01D深さでの残留オーステナイト量と寿命比との関係を示すグラフである。 芯部での残留オーステナイト量と塑性曲がり量との関係を示すグラフである。
以下、本発明に関して詳細に説明する。
本発明においてピニオンシャフトは、例えば、図1に示した遊星歯車装置に使用されるものであるが、その材料として下記組成の合金鋼からなる。
C :0.1〜0.3質量%
Si:0.2〜0.5質量%
Mn:0.2〜1.2質量%
Cr:2.6〜4.5質量%
Mo:0.1〜0.4質量%
Ni:0.2質量%以下(0質量%を含む)
Cu:0.2質量%以下(0質量%を含む)
S :0.02質量%以下(0質量%を含む)
P :0.02質量%以下(0質量%を含む)
O :12質量ppm以下(0質量ppmを含む)
を含有し、残部は鉄及び不可避的不純物である。
〔C:0.1〜0.3質量%〕
C(炭素)は、焼入れによって合金鋼の基地組織に固溶し、その硬さを向上させる元素である。その含有量は、0.1〜0.3質量%、好ましくは0.16〜0.28質量%とする。C含有量が0.1質量%未満であると、芯部の硬さが不足して剛性が低下してしまう。一方、C含有量が0.3質量%を超えると、芯部の靭性が低下してしまうとともに、鍛造性や冷間加工性、被削性が低下して加工コストの上昇を招く場合がある。更に、芯部の残留オーステナイト量が多くなり、熱変形曲がりが大きくなり、転動疲労寿命が低下するとともに、棒材成形性が悪く、特に直径φ15mm以下への塑性加工が困難で、加工時に割れやクラックが発生する。
〔Si:0.2〜0.5質量%〕
けい素(Si)は、製鋼時に脱酸剤として作用する元素である。また、基地組織に固溶して焼入れ性を向上させるとともに、基地組織のマルテンサイト化や残留オーステナイトを安定化させるため、水素による組織変化が遅延されて軸受寿命を延長させる効果をもたらす。そのため、Si含有量は0.2〜0.5質量%、好ましくは0.3〜0.5質量%とする。Si含有量が0.2質量%未満であると、組織変化を遅延させる効果が十分に得られない。一方、Si含有量が0.5質量%を超えると、浸炭性並びに浸炭窒化性が低下する場合がある。
〔Mn:0.2〜1.2質量%〕
マンガン(Mn)は、Siと同様に製鋼時に脱酸剤として作用する元素である。また、基地組織に固溶して焼入れ性を向上させるとともに、基地組織のマルテンサイトを安定化させるため、水素による組織変化を遅延して軸受寿命を延長させる効果をもたらす。更に、基地に固溶してMs点を降下させて多量の残留オーステナイトを確保する作用を有する。生成された残留オーステナイトは合金鋼中での水素の拡散及び集積を遅延させるため、組織変化が居所的に生じるのを遅延させ、寿命を延長させる効果をもたらす。そのため、Mn含有量は0.2〜1.2質量%、好ましくは0.6〜1.2質量%とする。Mn含有量が0.2質量%未満であると、上記した組織変化を遅延させる効果等が十分に得られない。一方、Mn含有量が1.2質量%を超えると、旧オーステナイト粒径が粗大化したり、残留オーステナイト量が過多になるため、寸法安定性が低下する。組織変化を抑制する効果を安定して得るためには、Mn含有量を0.6質量%以上とする。
〔Cr:2.6〜4.5質量%〕
クロム(Cr)は、合金鋼の基地組織に固溶して焼入れ性を向上させる元素である。また、炭素と結合して炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる効果をもたらす。更に、炭化物と基地組織のマルテンサイトとを安定化させるため、水素による組成変化が遅延されて、寿命を延長させる効果をもたらす。そのため、Cr含有量は2.6〜4.5質量%、好ましくは2.6〜3.5質量%とする。Cr含有量が2.6質量%未満であると、上記の組織変化を遅延させる効果等が十分に得られない。一方、Cr含有量が4.5質量%を超えると、靭性が低下したり、浸炭性及び浸炭窒化製が低下する場合がある。また、合金鋼のコストアップを招いたり、焼入れ温度を高くしないと所定の硬さが得られなくなるため、生産性を低下させる。
〔Mo:0.1〜0.4質量%〕
モリブデン(Mo)は、合金鋼の基地組織に固溶して焼入れ性及び焼戻し性軟化抵抗性を向上させる元素である。また、炭素と結合して硬い炭化物を形成して耐摩耗性及び転動疲労寿命と向上させる効果をもたらす。更に、炭化物と基地組織のマルテンサイト及びオーステナイトとを安定化させるため、水素による組織変化を遅延して寿命を延長させる効果をもたらす。そのため、Mo含有量は0.1〜0.4質量%、好ましくは0.2〜0.4質量%とする。Mo含有量が0.1質量%未満になると、上記の組織変化を遅延させる効果等が十分に得られない。一方、Mo含有量が0.4質量%を超えると、靭性が低下してしまう。また、合金鋼のコストアップを招いたり、生産性を低下させる。
〔Ni:0.2質量%以下(0質量%を含む)〕
ニッケル(N)は、鋼の精錬時に微量に含まれる元素であり、焼入れ性を向上させる効果と、オーステナイトを安定化させる効果のある元素である。更に、その添加により靭性が向上する。そのため、Ni含有量を0.2質量%以下とする。Ni含有量が多いほど上記効果が得られるが、ニッケルは高価であり、鋼材コストを上げる原因になるため、積極的には添加せず、0.2質量%以下に抑制することが望ましい。
〔Cu:0.2質量%以下(0質量%を含む)〕
銅(Cu)は、鋼の精錬時に微量に含まれる元素であり、焼入れ性を向上させる効果と、粒界強度を向上させる効果のある元素である。そのため、Cu含有量を0.2質量%以下とする。Cu含有量が0.2質量%を超えると、熱間鍛造性が低下するため、積極的には添加せず、0.2質量%以下に抑制することが望ましい。
〔S:0.02質量%以下(0質量%を含む)〕
硫黄(S)は、硫化マンガンを形成し、合金鋼中で硫化物系介在物として作用するため、S含有量は少ない方が好ましい。そのため、S含有量を0.2質量%以下、好ましくは0.12質量%以下にする。
〔P:0.02質量%以下(0質量%を含む)〕
リン(P)は、結晶粒界に偏析して粒界強度や破壊靭性値を低下させるため、P含有量は少ない方が好ましい。そのため、P含有量を0.2質量%以下、好ましくは0.12質量%以下にする。
〔O:12質量ppm以下(0質量ppmを含む)〕
酸素(O)は、合金鋼中で酸化アルミニウム等の酸化物系介在物を形成する。酸化物系介在物は、剥離の起点となり、転動疲労寿命に悪影響を及ぼすことからO含有量は少ない方が好ましい。そのため、O含有量を12質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下にする。
上記のように硫化物や酸化物、更には窒化物のような大きな非金属介在物が存在すると、その周りに応力が集中し、これらを起点とした疲労亀裂が生じて剥離の原因となる。また、合金鋼中に侵入した水素がこの応力集中部に集積しやすいため、大きな介在物の回りでは組織変化も生じ易くなる。非金属介在物のうち、AiやMgO、CaO等の酸化物系介在物であっても、粒径が10μm以上のものは疲労亀裂の起点となりやすい。一方、粒径が10μm未満であると、これらの介在物を起点とした亀裂が発生する前に、基地組織が水素で変化し、それに伴う疲労亀裂が先に発生する。そのため、粒径が10μm未満の酸化物系介在物が存在していても、実質的に問題が生じることはない。
そこで、酸化物系介在物を起点とする疲労亀裂が生じることを抑制するために、任意の切断面の面積320mm当たりに存在する粒径10μm以上の酸化物系介在物の数を10個以下にすることが好ましく、5個以下にすることがより好ましい。
上記組成の合金鋼は、浸炭処理または浸炭窒化処理後に焼入れ処理及び焼戻し処理が施され、転送面が下記のように硬化される。
〔転送面表面のCとNとの合計含有量が0.6〜1.4質量%で、炭化物の面積率が10%以下〕
相手材である転動体(針状ころ)と摺動する転送面表面において、CとNとの合計含有量(以下、(C+N)含有量)は、0.6〜1,4質量%、好ましくは0.8〜1.2質量%に規制される。また、炭化物の面積率は10%以下、好ましくは5%以下に規制される。
浸炭処理または浸炭窒化処理により、合金鋼中に侵入したCとNの量が、焼入れないし焼戻し後の硬さや残留オーステナイト量に影響を及ぼす。(C+N)含有量が0.6質量%未満では、耐摩耗性の向上に有効な炭窒化物の析出が不十分となり、耐摩耗性が低下するおそれがある。また、表層部の残留オーステナイト量も低くなり、転がり軸受の低下を引き起こすおそれもある。一方、(C+N)含有量が1.4質量%を超えると、炭化物や窒化物の析出量が過剰になり、旧オーステナイト粒界に沿ってネット状の炭化物が生成する。このネット状の炭化物が生成すると、炭化物に沿って疲労亀裂の発生や伝播が容易に起こり、靭性が著しく以下する。また、(C+N)含有量が0.6〜1.4質量%であっても、炭化物の面積率が10%を越えると靭性が低下するため、炭化物の面積率を量的に規制する必要がある。
尚、(C+N)含有量は、合金鋼中のC含有量、浸炭処理または浸炭窒化処理における炉内のガス濃度と保持時間を被処理材のサイズに応じて適切に選択することにより、調整することができる。ガス濃度については、プロパンガスやエンリッチガス等の炭化水素系のガス流量を制御することによりC濃度を、アンモニアのガス流量を制御することによりN濃度をそれぞれ調整する。また、炭化物の面積率の調整も同様であり、浸炭処理または浸炭窒化処理における炉内のガス濃度と保持時間を適切に選択する。
〔転送面における表面及び転動体直径の1%に相当する深さでの硬さがHv653〜Hv900〕
異物潤滑環境下における遊星歯車装置の転がり寿命の低下は、異物の噛み込みによって形成された圧痕の盛り上がり縁部における応力集中が原因とされている。ピニオンシャフトの転送面の表面硬さがHv653〜Hv900であれば圧痕が形成されにくく、異物混入下で使用されても長寿命になる。表面硬さがHv653未満であると、硬さが不十分であるため圧痕が形成されるおそれがあり、Hv900よりも硬すぎると焼入れ温度を高くする必要があり、結晶粒径の粗大化により靭性が低下するおそれがある。
また、ピニオンシャフトでは、転動体との接触応力により内部にせん断応力が発生し、このせん断応力によって金属疲労が生じて接触面の表面の剥離に至る。このせん断応力の分布は、転動軸と転動体との接触面積により決定されるので、転動体直径(D)がせん断応力の分布に大きく影響を与える。通常の使用条件では、転動体直径(D)の約1%に相当する深さ(0.01D深さ)でせん断応力が最大となり、その領域を起点して剥離あ生じる。
水素による組織変化も同様で、せん断応力が最大となる0.01D深さで発生しやすいことが明らかになっている。水素は合金鋼中を動き回るため、応力が高い領域に集積しやすい。上記のように、0.01D深さでせん断応力が最大になるため、この位置に水素が集積しやすい。本発明者らは、水素による組織変化について鋭意検討したところ、この水素による組織変化は、局所的に塑性変形が生じることにより引き起こされ、この組織変化の発生を遅延させるためには、0.01D深さでの硬さを高めて塑性変形に対する抵抗値を向上させる必要があるとの知見を得た。そして、0.01D深さでの硬さをHv653〜Hv900、好ましくはHv700〜Hv850にすることにより水素による組織変化の発生を効果的に抑制できることを見出した。即ち、0.01D深さでの硬さがHv653未満では、硬さが不足して水素による組織変化の発生を十分に抑制できずに転動疲労寿命の低下をもたらす。一方、この硬さがHv900を超えると、靭性が低下してしまう。
〔転送面における表面及び0.01D深さでの残留オーステナイト量が20〜50体積%〕
転送面表面の残留オーステナイト量が20〜50体積%であると、上記のような応力集中が生じにくい。20体積%未満でると、表面疲労を緩和する応力集中の軽減効果が乏しく、疲労寿命が低下する。一方、50体積%を越えると、表面硬さが不十分となり、耐摩耗性や耐表面疲労性が損なわれるおそれがある。このような不都合が生じにくく、優れた疲労寿命が安定して得られるためには、転送面表面の残留オーステナイト量を20〜50体積%、好ましくは30〜45体積%とする。
また、金属組織中の残留オーステナイトは、合金鋼の基地組織であるマルテンサイトと結晶構造が異なっており、その結晶構造により水素の拡散定数を低下させる効果がある。このため、残留オーステナイトは、それが存在する位置にて水素が局所的に集積するのを遅延させ、その位置での組織変化の発生を遅延させる効果を有する。本発明では、0.01D深さでの残留オーステナイト量を20〜50体積%、好ましくは30〜45体積%とする。
尚、基地組織へのCやNの固溶量が多いと、基地組織の強度が高くなり素折敷変化が生じにくくなる。そのため、0.01D深さでの(C+N)含有量を0.6〜1.4質量&とすることが好ましく、0.8〜1.2質量%とすることがより好ましい。0.01D深さでの(C+N)含有量が0.6質量%未満では上記効果が得られず、1.4質量%を超えると大きな炭化物または窒化物が生成して、その周辺に応力集中が発生して組織変化が起こりやすくなる。
また、旧オーステナイト粒界には合金成分の偏析や水素の集積が起こりやすい。旧オーステナイト粒が小さい場合には合金成分の偏析や水素の集積が細かく、均一に分散されるため靭性が向上するが、旧オーステナイト粒が大きい場合にはその界面に沿って亀裂の発生及び伝播が起こり、靭性が低下する可能性がある。そして、旧オーステナイト粒が大きいほど、応力集中も大きくなるため、靭性の低下が顕著になる。
上記のとおり、通常の使用条件では0.01D深さでせん断応力が最大になり、その後は芯部に行くほどせん断応力が小さくなっていく。しかしながら、転送面の表面から転動体直径の3%に相当する深さ(0.03D深さ)までは、ある程度高いせん断応力が作用しているため、0.03D深さまでにおいて大きな旧オーステナイト粒が存在すると、亀裂の発生及び伝搬が容易に生じて靭性が低下する。そこで、0.01D〜0.03D深さの領域に旧オーステナイト粒の平均粒径を20μm以下にすることが好ましく、16μm以下にすることがより好ましい。一方、十分な硬さを安定定的にえるためには、この領域における旧オーステナイト粒の平均粒径を5μm以上にすることが好ましく、10μm以上にすることがより好ましい。これらの観点から、0.01D〜0.03D深さの領域における旧オーステナイト粒の平均粒径を10〜16μmにすることがより好ましい。
更に、旧オーステナイト粒が小さく均一であると、水素による組成変化も効果的に抑制される。転動疲労寿命の低下は、水素により組織変化が局所的に加速されることに起因する。即ち、合金鋼中に局所的に弱い部分があると、その部分で水素による組織変化が加速され、この部分を起点として剥離が起こり、転動疲労寿命の低下につながる。従って、旧オーステナイト粒が小さくでも、大きな旧オーステナイト粒が混在し、その均一性が十分でない場合には、大きな旧オーステナイト粒の粒内または粒界から水素による組織変化が生じて寿命低下につながる。この観点から、0.01D〜0.03D深さの領域における旧オーステナイト粒の平均粒径を20μm以下にすることが好ましく、更には旧オーステナイト粒の最大粒径が平均粒径の3倍以下、より好ましくは2.4倍以下にする。
尚、旧オーステナイト粒の平均粒径は、0.01D〜0.03D深さの領域の任意の1mmを観察し、JIS G0551:2005(鋼−結晶粒度の顕微鏡試験方法)に従って、以下の式から求められる。
旧オーステナイト粒の平均粒径(μm)=(1/m)0.5×10
m:JIS G0551で示される1mm当たりの結晶粒の個数
また、旧オーステナイト粒の最大粒径は、0.01D〜0.03D深さの領域の任意の1mmを観察し、以下の式から求められる。
旧オーステナイト粒の最大粒径(μm)=(a×b)0.5
a:観察した範囲内における最大の結晶粒の長径(μm)
b:観察した範囲内における最大の結晶粒の短径(μm)
〔芯部の硬さがHv402〜Hv550〕
上記した転送面の硬さの規定に加えて、芯部の硬さも規定する。ここで、芯部とは、浸炭または浸炭窒化処理における、表面からの硬さ勾配が完全に下がりきって一定となった位置を示す。そして、この芯部の硬さをHv402〜Hv550、好ましくはHv450〜Hv550とする。芯部の硬さがHv402未満であるとピニオンシャフトの剛性が低下し、Hv550を超えると靭性が低下する。
〔芯部の残留オーステナイト量が3体積%以下〕
上記したように転送面表面の残留オーステナイト量を20〜50体積%確保することにより、異物潤滑環境下の転動疲労寿命を向上させることができるが、一方で残留オーステナイトは荷重等の応力や熱が加わると、分解してフェライトとセメンタイトの混合物やマルテンサイトに変化するため、ピニオンシャフトに塑性変形が生じる。そこで、芯部の残留オーステナイト量を極力少なくすることにより、ピニオンシャフトの塑性変形を抑制することができる。そのためには、芯部の残留オーステナイト量を3体積%以下にする必要があり、0体積%であることがより好ましい。
本発明のピニオンシャフトを製造するには、上記組成の合金鋼を旋削加工した後、浸炭処理または浸炭窒化処理した後、焼入れ処理及び焼戻し処理を施すことを行う。その際、上記した転送面及び芯部の硬さや残留オーステナイト量になるように、浸炭処理、浸炭窒化処理、焼入れ処理及び焼戻し処理を調整する。例えば、浸炭窒化処理は820〜980℃で2〜5時間、焼入れ処理は860〜950℃で0.5〜5時間、焼戻処理は150〜250℃で1〜5時間行う。そして、外径粗研削及び超仕上げ研削する。
以下に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
(実施例1〜8、比較例1〜8)
表1に示す合金鋼からなる線材を、旋削加工、熱処理、外径粗研削、外径仕上げ研削及び超仕上げ研削を行って直径14.17mm、長さ70mmのピニオンシャフトを作製した。熱処理条件は、820〜980℃で2〜5時間の浸炭窒化処理(処理ガス:RXガス、エンリッチガス、アンモニアガス)を行った後、860〜950℃で1.5時間の焼入れ処理を行い、150〜250℃で1.5時間の焼戻しを行った。その後、860〜950℃で0.5時間の焼入れ処理を行った後、最後に150〜300℃で2時間焼戻しを行った。
作製したピニオンシャフトについて、転送面表面の(C+N)含有量及び炭化物の面積率、転送面における表面及び0.01D深さでの硬さ、転送面における表面及び0.01D深さでの残留オーステナイト量、芯部の硬さ及び残留オーステナイト量を測定した。また、下記の(1)転動疲労寿命試験、(2)塑性変形曲がり量測定、(3)白色剥離寿命試験を行った。それぞれの結果を表2に示す。
(1)転動疲労寿命試験
ピニオンシャフトを日本精工株式会社製のプラネタリニードル試験機に装着し、試験を行った。ピニオンギアの中心穴にピニオンシャフトを挿通し、ピニオンシャフトの外周面とピニオンギアの内周面との間に複数の針状ころを転動自在に介装した。これにより、ピニオンギアはピニオンシャフトを軸として回転自在となる。針状ころは、高炭素クロム鋼(SUJ2)製であり、その寸法は直径2.5mm、長さ24.8mmであり、JIS鋼種SCM415製で浸炭窒化処理された保持器で保持されてケージアンドローラとされている。
そして、下記条件にて回転試験を行い、ピニオンシャフト、ピニオンギア、針状ころのうち、少なくとも1つが破損した時点で寿命に至ったとし、それまでの回転時間を転動疲労寿命とした。結果を表2に、比較例8の転動疲労寿命に対する相対値で示す。また、予備試験を行ってピニオンシャフト、ピニオンギア、針状ころのうち、どれが最も破損しやすいかを確認し、ピニオンシャフトが最も破損しやすいことを確認した後に回転試験を行っている。
・基本動定格荷重C:15500N
・基本静定格荷重C:16700N
・ラジアル荷重:5000N
・ピニオンギアの自転速度:1000min−1
・計算寿命L10:72.4時間
・潤滑油の種類:オートマチックトランスミッションフルード
・基油の供給量:30mL/min
・潤滑油の温度:120℃
(2)塑性変形曲がり量測定
サーフコム形状測定機を用い、(1)転動疲労寿命試験を終えたピニオンシャフトについて曲がり量を測定した。測定値は、ピニオンシャフトの両端部を結ぶ線と、この線から最も離れた部分との間の荷重負荷方向(ピニオンシャフトの軸方向に垂直な方向)の距離である。
(3)白色剥離寿命試験
下記のようにラジアル荷重等の条件が異なる以外は(1)転動疲労寿命試験と同様にして回転試験を行い、ピニオンシャフト、ピニオンギア、針状ころのうち、少なくとも1つに白色剥離が発生した時点で寿命に至ったとし、それまでの回転時間を白色剥離寿命とした。結果を表2に、比較例8の白色剥離寿命に対する相対値で示す。また、予備試験を行ってピニオンシャフト、ピニオンギア、針状ころのうち、どれが最も白色剥離が発生しやすいかを確認し、ピニオンシャフトが最も白色剥離を発生しやすいことを確認した後に回転試験を行っている。
・ラジアル荷重:8000N
・計算寿命L10:15.1時間
Figure 2015105435
Figure 2015105435
表1、2からわかるように、実施例1〜8は、何れも本発明の合金鋼を用いてピニオンシャフトを作製しており、得られたピニオンシャフトも、転送面表面の(C+N)含有量及び炭化物の面積率、転送面における表面及び0.01D深さでの硬さ、転送面における表面及び0.01D深さでの残留オーステナイト量、芯部の硬さ及び残留オーステナイト量)も本発明の規定値を満足している。そのため、転動疲労寿命が比較例8に比べて5倍以上延びており、剥離も発生しなかった。また、芯部の残留オーステナイト量が少ないほど塑性曲がり量が小さくなる傾向があり、実施例1〜8では比較例3、6〜8に比べて塑性曲がり量が小さくなっている。更に、実施例1〜8では比較例8と比べて白色剥離寿命も10倍以上延びている。
これに対し比較例1〜8は、何れも合金鋼の成分が本発明の範囲外であり、実施例1〜8に比べて転動疲労寿命が短くなっている。比較例1ではO含有量が範囲外であるため清浄度が十分ではなく、酸化物系介在物を起点とする剥離が生じたため、寿命が短くなっていると考えられる。また、比較例2、4、5では、転送面表面の(C+N)含有量及び硬さ、残留オーステナイト量、0.01D深さでの硬さ及び残留オーステナイト量が不足しているため、転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。更に、比較例3、6、7では転送面表面または芯部の残留オーステナイト量が多く、塑性曲がり量が大きいため、転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。
以上、本発明に関して遊星歯車装置のピニオンシャフトを例示して説明したが、他の転がり軸受の内輪に相当する部材に適用することも可能である。
1 サンギア
2 リングギア
3 ピニオンギア
4 キャリア
5 ピニオンシャフト

Claims (1)

  1. 相手部材である転動体に対して相対的に転動するピニオンシャフトにおいて、
    C :0.1〜0.3質量%
    Si:0.2〜0.5質量%
    Mn:0.2〜1.2質量%
    Cr:2.6〜4.5質量%
    Mo:0.1〜0.4質量%
    Ni:0.2質量%以下(0質量%を含む)
    Cu:0.2質量%以下(0質量%を含む)
    S :0.02質量%以下(0質量%を含む)
    P :0.02質量%以下(0質量%を含む)
    O :12質量ppm以下(0質量ppmを含む)
    を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる合金鋼を、浸炭処理または浸炭窒化処理した後、焼入れ処理及び焼戻し処理を施して外周面に硬化された表面層を形成してなり、かつ、
    転送面表面のCとNとの合計含有量が0.6〜1.4質量%で、炭化物の面積率が10%以下であり、
    転送面における表面及び転動体直径の1%に相当する深さでの硬さがHv653〜Hv900であり、
    転送面における表面及び転動体直径の1%に相当する深さでの残留オーステナイト量が20〜50体積%であり、
    芯部の硬さがHv402〜Hv550であり、
    芯部の残留オーステナイト量が3体積%以下
    であることを特徴とするピニオンシャフト。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2023080064A1 (ja) * 2021-11-04 2023-05-11 Ntn株式会社 軸部材及び転がり軸受

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