JP2015101505A - ガラス成形品の製造方法および製造装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】加圧成形後の冷却工程において反りが発生することが効果的に防止できるガラス成形品の製造方法を提供する。【解決手段】ガラス成形品の製造方法は、溶融または軟化したガラス素材71を加圧成形する工程と、第1金型31にガラス素材71を付着させた状態のままガラス素材71を冷却する工程と、冷却後のガラス素材71であるガラス成形品を離型する工程とを備える。加圧成形後のガラス素材71を第1金型31に付着させた状態のまま冷却する工程においては、少なくとも所定期間にわたってガラス素材71に遠赤外線100が照射される。【選択図】図10

Description

本発明は、溶融または軟化したガラス素材を複数の金型を用いて加圧成形することでガラス成形品を製造するガラス成形品の製造方法および製造装置に関する。
従来、各種のガラス製光学素子(たとえばガラスレンズ等)やカバーガラスを製造するための方法として、溶融または軟化したガラス素材を複数の金型を用いて最終形状かまたはそれに近いかたちに加圧成形するダイレクトプレス法およびリヒートプレス法が利用されている。
ダイレクトプレス法は、溶融炉から流出する溶融したガラス素材を所定量だけ複数の金型間に直接供給し、供給したガラス素材をこれら複数の金型を用いて加圧成形するものである。リヒートプレス法は、所定量のガラスブランクを一の金型上に載置して加熱することで軟化させ、軟化後のガラス素材を当該一の金型を含む複数の金型を用いて加圧成形するものである。
これらダイレクトプレス法またはリヒートプレス法を利用してガラス成形品を製造した場合には、高い面転写性が実現できるため、特に研磨処理を施さずとも鏡面かまたはそれに近い状態でガラス成形品の外表面を仕上げることができるメリットが得られたり、比較的複雑な立体形状のガラス成形品の製造が可能になるメリットが得られたりする。
通常、これらダイレクトプレス法またはリヒートプレス法においては、加圧成形後において一の金型にガラス素材が付着した状態を維持しつつ当該ガラス素材の冷却が行なわれ、その後、冷却後のガラス素材であるガラス成形品が当該一の金型から離型されることで取り出される。これは、複数の金型を用いてガラス素材を挟み込んだ状態のまま冷却を行なった場合には、当該冷却の際にガラス素材と金型との間に過大なストレスが発生してしまい、製造されるガラス成形品に割れが発生してしまうためである。
このような一の金型に加圧成形後のガラス素材が付着した状態を維持しつつ当該ガラス素材の冷却が行なわれる工程が含まれたガラス成形品の製造方法が具体的に開示された文献としては、たとえばダイレクトプレス法に基づいたものとして特開2010−105874号公報(特許文献1)や特開2009−149477号公報(特許文献2)があり、またリヒートプレス法に基づいたものとして特開2002−326826号公報(特許文献3)がある。
特開2010−105874号公報 特開2009−149477号公報 特開2002−326826号公報
ここで、加圧成形後において一の金型にガラス素材が付着した状態を維持しつつ当該ガラス素材の冷却を行なった場合には、当該一の金型に付着したガラス素材の主面と、当該一の金型に付着せずに外気に晒されたガラス素材の主面との間に大きな温度差が発生してしまう。そのため、一方の主面と他方の主面との間においてガラス素材が冷却される際に発生する収縮の程度に大きな差が生じることになり、ガラス成形品に反りが発生してしまう問題が生じる。このような問題は、たとえばスマートフォンやタブレット端末に代表されるディスプレイ装置に具備されるカバーガラスのような比較的大型のガラス成形品を製造する場合に特に顕著に発生する。
これを防止するための1つの手法として、上記特許文献2には、加圧成形後において金型に付着していない方のガラス素材の主面に冷却用の型を接触させることにより、ガラス素材の表裏面における冷却条件を揃えるようにする手法が提案されている。
しかしながら、当該手法を採用するためには、加圧成形後のガラス素材の外表面に冷却用の型をぴったりと接触させることが必要になるが、ガラス素材の面形状を崩さずにこれを実現することは非常に難しく、その実現は困難を極める。特に、比較的複雑な立体形状を有するガラス成形品の製造を行なう場合には、当該手法の適用は事実上不可能と言える。
したがって、本発明は、上述した問題点を解決すべくなされたものであり、加圧成形後の冷却工程において反りが発生することが効果的に防止できるガラス成形品の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
本発明に基づくガラス成形品の製造方法は、溶融または軟化したガラス素材を第1金型および第2金型を用いて挟み込むことで加圧成形する工程と、加圧成形後の上記ガラス素材から上記第2金型を離隔させることにより、上記第1金型に上記ガラス素材を付着させた状態のまま上記ガラス素材を冷却する工程と、冷却後の上記ガラス素材であるガラス成形品を上記第1金型から引き離すことで上記ガラス成形品を離型する工程とを備える。上記本発明に基づくガラス成形品の製造方法にあっては、加圧成形後の上記ガラス素材を上記第1金型に付着させた状態のまま冷却する工程が、少なくとも所定期間にわたって上記ガラス素材に遠赤外線を照射する工程を含む。
上記本発明に基づくガラス成形品の製造方法にあっては、加圧成形後の上記ガラス素材を上記第1金型に付着させた状態のまま冷却する工程において、上記ガラス素材の上記第1金型に付着していない方の主面をおもて面とし、上記ガラス素材の上記第1金型付着している方の主面をうら面とし、上記おもて面の中心部の温度をT1[℃]とし、上記うら面が付着した上記第1金型の型面の中心部近傍の温度をT2[℃]とし、上記ガラス素材のガラス転移点をTg[℃]とした場合に、加圧成形後においてT1[℃]およびT2[℃]のいずれもが(Tg−30)[℃]に低下するまでの間、(T1−T2)[℃]の絶対値が30[℃]以下に収まることとなるように、上記ガラス素材に向けて上記遠赤外線を照射することが好ましい。ここで、第1金型の型面の中心部近傍とは、第1金型の型面の中心部から第1金型の内部に向けた深さ方向における4[mm]までの範囲を意味する。
上記本発明に基づくガラス成形品の製造方法にあっては、上記遠赤外線の波長が、4.0[μm]以上10.0[μm]以下であることが好ましい。
上記本発明に基づくガラス成形品の製造方法にあっては、上記ガラス成形品が、製品となる製品領域と、製品とはならない非製品領域とを有していてもよく、その場合には、上記ガラス素材に上記遠赤外線を照射する工程において、上記製品領域および上記非製品領域のいずれにも上記遠赤外線を照射することが好ましい。
上記本発明に基づくガラス成形品の製造方法は、離型後の上記ガラス成形品の上記非製品領域を除去する工程をさらに備えていてもよい。
本発明に基づくガラス成形品の製造装置は、第1金型および第2金型と、上記第1金型および上記第2金型を相対的に移動させる駆動機構と、遠赤外線を外部に向けて照射する遠赤外線照射装置と、上記駆動機構の動作および上記遠赤外線照射装置の動作を制御する制御部とを備えている。上記本発明に基づくガラス成形品の製造装置にあっては、上記制御部が、溶融または軟化したガラス素材が上記第1金型および上記第2金型によって挟み込まれることで加圧成形され、その後、加圧成形後の上記ガラス素材から上記第2金型が離隔されることにより、上記第1金型に上記ガラス素材が付着された状態のまま上記ガラス素材が冷却されるように、上記駆動機構の動作を制御するとともに、加圧成形後の上記ガラス素材が上記第1金型に付着された状態のまま冷却される際に、少なくとも所定期間にわたって上記ガラス素材に遠赤外線が照射されるように、上記遠赤外線照射装置の動作を制御する。
本発明によれば、加圧成形後の冷却工程において反りが発生することが効果的に防止できるガラス成形品の製造方法および製造装置を提供することができる。
本発明の実施の形態におけるガラス成形品の製造装置の概略的な構成を示す図である。 図1に示す製造装置の平面的なレイアウトを示す図である。 本発明の実施の形態におけるガラス成形品の製造方法に従ったカバーガラスの製造フローを示す図である。 図3に示すガラス素材を下型に滴下する工程を示す模式図である。 図3に示すガラス素材を下型に滴下する工程の後状態を示す模式図である。 図3に示す上型を下降させる工程の第1段階を示す模式図である。 図3に示す上型を下降させる工程の第2段階を示す模式図である。 図3に示すガラス素材を加圧成形する工程を示す模式図である。 図3に示す上型を上昇させる工程を示す模式図である。 図3に示すガラス素材を冷却する工程を示す模式図である。 図3に示すガラス成形品に必要な加工を施す工程を示す模式図である。 検証試験における試験条件および試験結果を示した表である。
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
以下に示す実施の形態は、スマートフォンに具備される平板状のカバーガラスをダイレクトプレス法に基づいて製造する場合に本発明を適用した場合を示すものであるが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、本発明は、他の用途に用いられるガラス成形品の製造方法や、たとえば凸面形状や凹面形状等を有するガラス製光学素子、主板部とその周縁に連設された側板部とで構成される略箱形状のカバーガラス、ロゴマーク等の図形が外表面上に立体的に形成されたカバーガラス等、比較的複雑な形状を有するガラス成形品の製造方法等にも適用することが可能なものである。
図1は、本発明の実施の形態におけるガラス成形品の製造装置の概略的な構成を示す図である。また、図2は、図1に示す製造装置の平面的なレイアウトを示す図である。まず、これら図1および図2を参照して、本実施の形態におけるガラス成形品の製造装置の構成について説明する。なお、本実施の形態におけるガラス成形品の製造装置は、複数のガラス成形品が順次製造されるものである。
図1に示すように、ガラス成形品の製造装置1は、素材供給部10と、切断部20と、成形部30と、冷却部40と、離型部50と、制御部60とを主として備えている。
素材供給部10は、溶融したガラス素材を後述する下型31に供給するための部位であり、切断部20は、下型31に供給されるガラス素材の量を適切な量に調整するための部位である。成形部30は、下型31に供給されたガラス素材を当該下型31を含む複数の金型を用いて加圧成形するための部位である。冷却部40は、加圧成形されたガラス素材を冷却するための部位であり、離型部50は、冷却されたガラス素材であるガラス成形品を下型31から取り出すための部位である。また、制御部60は、上述した切断部20、成形部30、冷却部40および離型部50の動作を制御する部位である。
素材供給部10は、連続溶融炉11と、ノズル部12と、流出管13とを含んでいる。連続溶融炉11は、溶融したガラス素材を貯留するものであり、ノズル部12は、連続溶融炉11にて貯留されたガラス素材を流出管13に導入するものである。流出管13は、その下端に設けられた流出口から鉛直下方に向けて連続的に溶融したガラス素材を溶融ガラス流70として流出させるものである。
切断部20は、切断機構としてのカッター21およびカッター駆動機構22を含んでいる。カッター21は、流出管13から流出する溶融ガラス流70を切断して当該切断部分を溶融ガラス流70から分離させるものであり、上述したカッター駆動機構22によって駆動される。カッター21は、一対の平板形状の剪断刃によって構成されており、これら一対の剪断刃が流出管13の下方において突き合わされることで溶融ガラス流70の切断が行なわれる。カッター駆動機構22は、制御部60からの指令を受け、カッター21を駆動する。カッター駆動機構22としては、各種のものが利用できるが、好適にはエアシリンダ、サーボモータ、油圧シリンダ、リニアモータ、ステッピングモータ等が利用できる。
成形部30は、第1金型としての下型31と、第2金型としての上型32と、下型駆動機構33と、上型駆動機構34とを含んでいる。下型31は、後述する加圧成形工程において鉛直下方に配置される金型であり、上型32は、後述する加圧成形工程において鉛直上方に配置される金型である。下型31は、上述した下型駆動機構33によって駆動されることで移動し、上型32は、上述した上型駆動機構34によって駆動されることで移動する。
下型31および上型32を形成する材料としては、耐熱合金(ステンレス合金等)、炭化タングステンを主成分とする超鋼材料、各種セラミックス(炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム等)、カーボンを含む複合材料等、ガラス成形品を製造するための金型として公知の材料の中から適宜選択して用いることができる。下型31および上型32は、同一の材料にて構成されていてもよいし、それぞれ別の材料にて構成されていてもよい。
下型31および上型32の表面は、耐久性の向上や溶融したガラス素材との融着の防止を図る観点から、所定の被覆層にて覆われていることが好ましい。被覆層の材料は、特に制限されるものではないが、たとえば種々の金属(クロム、アルミニウム、チタン等)、窒化物(窒化クロム、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化硼素等)、酸化物(酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化チタン等)等を用いることができる。被覆層の成膜方法も、特に制限されるものではないが、たとえば真空蒸着法やスパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等が利用できる。
下型31および上型32は、図示しない加熱手段によって所定温度に加熱できるように構成されている。加熱手段は、特に制限されるものではないが、公知の加熱手段を適宜選択して用いることができる。たとえば、被加熱部材の内部に埋め込んで使用するカートリッジヒーターや、被加熱部材の外側に接触させて使用するシート状のヒーター、赤外線加熱装置、高周波誘導加熱装置等を加熱手段として用いることができる。
図1および図2に示すように、下型駆動機構33は、制御部60からの指令を受け、図中に矢印で示すDR1方向(水平方向)に下型31を移動させる。これにより、下型31は、素材供給部10から滴下されるガラス素材を受け止めるための位置(滴下ポジションP1)と、受け止めたガラス素材を加圧成形するために上型32と対向する位置(成形ポジションP2)と、加圧成形後のガラス素材を冷却するための位置(冷却ポジションP3,P4,P5)と、冷却後のガラス素材であるガラス成形品を取り出すための位置(離型ポジションP6)との間で移動する。下型駆動機構33としては、各種のものが利用できるが、たとえば図2に示す如くの回転テーブル38と、当該回転テーブル38を駆動する駆動源とによって構成される。なお、上述した駆動源としては、好適にはサーボモータ、エアシリンダ、油圧シリンダ、リニアモータ、ステッピングモータ、あるいはこれらの組み合わせ等が利用できる。
図1に示すように、上型駆動機構34は、制御部60からの指令を受け、図中に矢印で示すDR2方向(鉛直方向)に上型32を移動させる。これにより、上型32は、鉛直上方の位置と鉛直下方の位置との間を往復動することになり、成形ポジションP2において、上型32と下型31とが接近および離隔することになる。なお、このうちの鉛直下方の位置が、下型31との間でガラス素材を加圧成形するための位置である。上型駆動機構34としては、各種のものが利用できるが、好適にはサーボモータ、エアシリンダ、油圧シリンダ、リニアモータ、ステッピングモータ、あるいはこれらの組み合わせ等が利用できる。
制御部60によって上型駆動機構34を制御するモードとしては、上型32の位置を制御するモード(位置制御モード)と、上型32に負荷される荷重を制御するモード(荷重制御モード)とがあり、これら2つの制御モードが切り替え可能に構成されていることが好ましい。上型駆動機構34は、上型32を用いて最大3トンの加圧力でガラス素材を加圧成形することが可能となるように構成されていることが好ましい。
冷却部40は、遠赤外線照射装置41を含んでいる。遠赤外線照射装置41は、冷却ポジションP3に移動された下型31と対向するように配置されており、制御部60によってその動作が制御される。遠赤外線照射装置41は、外部に向けて遠赤外線を照射することが可能なものであり、非接触式の加熱装置として利用される。
上述したように、冷却部40は、成形されたガラス素材を冷却するための部位であるが、遠赤外線照射装置41を用いて遠赤外線がガラス素材に向けて照射されることにより、ガラス素材の露出する外表面が急激に冷却されることを防止して徐々に冷却されるように構成されている。
遠赤外線照射装置41としては、遠赤外線が照射可能なものであればどのようなものでも利用可能であるが、好適には、ガラス材料を効率的に加熱することができる4.0[μm]以上10.0[μm]以下の波長域の遠赤外線を照射可能なものが利用される。具体的には、遠赤外線照射装置41としては、遠赤外線を放射する放射素子としてセラミックス、カーボン、ステンレス等が用いられたセラミックヒータ、カーボンヒータ、シーズヒータ等、各種のものが利用できる。
離型部50は、吸着装置51を含んでいる。吸着装置51は、離型ポジションP6に移動された下型31と対向するように配置されており、制御部60によってその動作が制御される。吸着装置51としては、真空吸着を利用した公知の手段が利用できる。また、吸着装置51に代えてロボットハンドを使用することとしてもよい。
制御部60は、主として、上述したカッター駆動機構22、下型駆動機構33、上型駆動機構34、遠赤外線照射装置41および吸着装置51の動作を制御する。すなわち、制御部60は、カッター21による溶融ガラス流70の切断のタイミング、下型31の移動のタイミング、上型32の移動のタイミング、遠赤外線照射装置41の動作のタイミング、吸着装置51の動作のタイミング等のガラス成形品の製造に係る一連のシーケンスを制御する。
図3は、本実施の形態におけるガラス成形品の製造方法に従ったカバーガラスの製造フローを示す図である。また、図4ないし図11は、図3に示す製造フローにおける所定の工程または所定の工程の後状態を示す図である。次に、これら図3ないし図11を参照して、本実施の形態に係るカバーガラスの製造フローについて順を追って説明する。
本実施の形態に係るカバーガラスの製造フローは、上述した本実施の形態におけるガラス成形品の製造装置1を用いて好適に実施できる。また、本実施の形態に係るカバーガラスの製造フローは、後述する一連の工程を繰り返すことにより、複数のカバーガラスが順次製造できるものである。
本実施の形態に係るカバーガラスの製造フローに基づいて製造されたカバーガラスは、そのガラス組成として、50[重量%]以上70[重量%]以下のSiOと、5[重量%]以上15[重量%]以下のAlと、0[重量%]以上5[重量%]以下のBと、2[重量%]以上20[重量%]以下のNaOと、0[重量%]以上10[重量%]以下のKOと、0[重量%]以上10[重量%]以下のMgOと、0[重量%]以上10[重量%]以下のCaOと、0[重量%]以上5[重量%]以下のBaOと、0[重量%]以上5[重量%]以下のTiOと、0[重量%]以上15[重量%]以下のZrOとを含有していることが好ましい。
カバーガラスが上記のようなガラス組成を有していれば、ガラス転移点をTg[℃]とした場合に、加圧成形にてガラスに転写される形状に大きく影響を及ぼす(Tg−30)[℃]以上(Tg+150)[℃]以下の温度範囲において適切なガラス粘性を維持し、良好な転写性を確保した状態で面転写を完了させることができ、またガラスの収縮による割れを効果的に抑制することができる。
当該ガラスの線膨張係数αは、100[℃]以上300[℃]以下の温度範囲において70[×10−7/℃]以上110[×10−7/℃]以下であることが好ましい。たとえば、100[℃]以上300[℃]以下の範囲で98[×10−7/℃]の線膨張係数αを有するガラスを使用してもよい。また、ガラス粘性をη[dPa・s]とすると、logη=11.0〜14.5であることが好ましい。上記のような特性を持つガラスは、特に湾曲した形状を有するカバーガラスの成形に適している。
また、カバーガラスの外形は、平面視した状態において、40[mm]×40[mm]以上かつ300[mm]×300[mm]以下に収まる範囲の大きさであることが好ましい。このような範囲内において、後述する本実施の形態に係るカバーガラスの製造フローを好適に用いることができる。
また、カバーガラスのおもて面およびうら面は、いずれも鏡面またはこれに近い状態に仕上げられていることが必要である。そのため、カバーガラスのおもて面およびうら面の表面粗さは、概ね0.5[nm]以上20[nm]以下とされることが好ましいが、後述する本実施の形態に係るカバーガラスの製造フローは、当該条件を少なくともおもて面またはうら面のうちの一方が充足するようにカバーガラスを加圧成形することが可能なものである。
ここで、本実施の形態に係るカバーガラスの製造フローにおいては、下型31および上型32が、それぞれ上述した加熱手段によって予め所定の温度に加熱されている。ここで、所定の温度とは、ガラス成形品に良好な転写面が形成できる温度を意味する。
一般的に、下型31および上型32の温度が低すぎると高精度な転写面を形成することが困難になる。逆に、必要以上に下型31および上型32の温度を高くし過ぎることは、溶融したガラス素材との間で融着が発生し易くなったり、下型31および上型32の寿命が短くなったりするおそれがあるため好ましくない。
通常は、加圧成形するガラス材料のガラス転移点Tg[℃]に対し、下型31および上型32の温度を(Tg−100)[℃]以上(Tg+100)[℃]以下の範囲に設定する。実際には、ガラス材料の種類、ガラス成形品としてのカバーガラスの形状および大きさ、下型31および上型32の形成材料、保護膜の種類等、種々の条件を考慮に入れて適正な温度を決定する。下型31および上型32の加熱温度は、同一の温度であってもよいし、異なる温度であってもよい。
本実施の形態に係るカバーガラスの製造フローは、下型31および上型32を所定の温度に加熱した後に高温の状態にある溶融したガラス素材を下型31および上型32を用いて加圧成形するものであることから、下型31および上型32の温度を一定に保ったまま、後述する一連の工程を行なうことができる。さらに、下型31および上型32の温度を一定に保ったまま、複数のカバーガラスを順次製造することもできる。したがって、1つのカバーガラスを製造する毎に下型31および上型32の加熱と冷却とを繰り返す必要がないことから、極めて短時間で効率よく複数のカバーガラスを製造することができる。
ここで、下型31および上型32の温度を一定に保つとは、下型31および上型32を加熱するための温度制御における目標設定温度を一定に保つという意味である。したがって、後述する各工程の実施中において、溶融したガラス素材の接触等による下型31および上型32の温度変動までをも防止しようとするものではなく、かかる温度の変動は許容できる。
本実施の形態に係るカバーガラスの製造フローにあっては、まず、下型が滴下ポジションP1に配置される。具体的には、制御部60が、下型31の現在位置を検出し、下型31が滴下ポジションP1以外の位置に配置されていることを検出した場合には、下型駆動機構33を駆動することで下型31を滴下ポジションP1に移動させる。制御部60が、下型31の現在位置を検出し、下型31が滴下ポジションP1に配置されていることを検出した場合には、下型31の移動は行なわない。これにより、滴下ポジションP1に配置された下型31は、流出管13の鉛直下方に位置することになる。
次に、図3に示すように、ガラス素材が下型に滴下される(工程S1)。図4は、図3に示すガラス素材を下型に滴下する工程を示す模式図であり、図5は、図3に示すガラス素材を下型に滴下する工程の後状態を示す模式図である。
具体的には、図4に示すように、制御部60が、カッター駆動機構22を駆動することでカッター21を駆動し、流出管13から連続して流出する溶融ガラス流70を適宜の位置で切断する。これにより、切断されたガラス素材71が鉛直下方に向けて(図中に示す矢印A方向に向けて)落下することになる。
図5に示すように、落下したガラス素材71は、その後、下型31の型面31aによって受け止められる。下型31の型面31aによって受け止められたガラス素材71は、当該型面31a上で濡れ広がる。下型31に滴下されたガラス素材71の温度は、好適には800[℃]以上900[℃]以下とされる。
次に、下型が成形ポジションに配置される。具体的には、制御部60が、下型駆動機構33を駆動することで下型31を成形ポジションP2に移動させる。これにより、成形ポジションP2に移動した下型31は、上型32と鉛直方向に沿って対向配置されることになる。
次に、図3に示すように、上型が下降させられる(工程S2)。図6および図7は、それぞれ図3に示す上型を下降させる工程の第1段階および第2段階を示す模式図である。
具体的には、図6に示すように、制御部60が上型駆動機構34を駆動することで上型32が鉛直方向に沿って駆動され、これにより上型32が下型31に近づく方向(すなわち図中に示す矢印B1方向)に向けて下降される。
図7に示すように、上型32の下降に伴い、上型32と下型31とが接近することになり、これにより下型31の型面31a上に位置するガラス素材71が上型32の型面32aに接触し、さらに、上型32が図中矢印B1方向に下降を続けることにより、ガラス素材71が型面32aによって加圧されて押し広げられる。押し広げられたガラス素材71は、上型32の下降が停止した時点(図8参照)において、下型31と上型32との間に位置する空間35内に行き渡る。
次に、図3に示すように、ガラス素材が加圧成形される(工程S3)。図8は、図3に示すガラス素材を加圧成形する工程を示す模式図である。
具体的には、図8に示すように、下型31と上型32との間に位置する空間35に充填されたガラス素材71が、所定時間(たとえば10秒程度)にわたって挟み込まれた状態とされて加圧されることでガラス素材71の加圧成形が行なわれる。
加圧処理の開始時点におけるガラス素材71の温度は、ガラス転移点Tg[℃]に対し、(Tg+50)[℃]以上(Tg+200)[℃]以下に設定されることが好ましい。たとえばTgが540[℃]である場合には、加圧直前のガラス素材71の温度を680[℃]とすればよい。ガラス素材71がこのような温度条件を満たすためには、上型32の温度を(Tg−60)[℃]以上(Tg−20)[℃]以下に設定し、下型31の温度を(Tg−80)[℃]以上(Tg−10)[℃]以下に設定するとよい。たとえばTgが540[℃]である場合には、上型32の温度を500[℃]に設定し、下型31の温度を520[℃]に設定すればよい。
次に、図3に示すように、上型が上昇させられる(工程S4)。図9は、図3に示す上型を上昇させる工程を示す模式図である。
具体的には、図9に示すように、制御部60が上型駆動機構34を駆動することで上型32が鉛直方向に沿って駆動され、これにより上型32が下型31から遠ざかる方向(すなわち図中に示す矢印B2方向)に向けて上昇させられる。これにより、加圧成形後のガラス素材71から上型32が離隔して分離することになり、加圧成形後のガラス素材71が下型31にのみ付着した状態となる。
上型32を加圧成形後のガラス素材71から分離させるための上昇動作を開始する時点におけるガラス素材71の温度は、ガラス転移点Tg[℃]に対し、(Tg−30)[℃]以上(Tg+100)[℃]以下に設定されることが好ましい。たとえばTgが540[℃]の場合、上型32の上昇開始時のガラス素材71の温度は、510[℃]以上640[℃]以下に設定されるとよい。
なお、以下においては、上型32の型面32aによって成形されたガラス素材71の主面をおもて面と称し、下型31の型面31aによって成形されたガラス素材71の主面をうら面と称する。すなわち、図9に示す状態においては、ガラス素材71のうら面が下型31に付着した状態にあり、ガラス素材71のおもて面が下型31に付着せずに露出した状態にあることになる。
次に、下型が冷却ポジションに配置され、ガラス素材が冷却される(工程S5)。図10は、図3に示すガラス素材を冷却する工程を示す模式図である。
具体的には、制御部60が、下型駆動機構33を駆動することで下型31を冷却ポジションP3、冷却ポジションP4および冷却ポジションP5の順に移動させる。これにより、冷却ポジションP3,P4,P5に移動した下型31は、上型32と鉛直方向に沿って対向しない位置に配置されることになる。
図10に示すように、冷却ポジションP3に下型31が配置された状態においては、ガラス素材71のうら面が下型31に付着した状態に維持されるとともに、ガラス素材71のおもて面が下型31に付着せずに露出した状態に維持される。当該状態においては、ガラス素材71が有する熱の一部がガラス素材71のうら面側から下型31に対して放熱されるとともに、残る一部がガラス素材71のおもて面が外気に晒されることによってガラス素材71のおもて面側から外気に向けて放熱される。これにより、ガラス素材71が、そのおもて面側およびうら面側の双方から主として冷却されることになる。
このとき、遠赤外線照射装置41からは、遅滞なくガラス素材71に対して遠赤外線100が照射される。その結果、ガラス素材71のおもて面近傍において遠赤外線100が吸収されることになり、ガラス素材71のおもて面における急激な温度低下が防止され、当該部分が徐々に冷却されることになる。
一方、ガラス素材71の下型31による冷却は、下型31自体が比較的高温に加熱された状態にあるため、ガラス素材71のうら面近傍における温度低下も比較的にゆっくりと進行することになる。そのため、ガラス素材71のおもて面およびうら面における冷却の進行が、遠赤外線100を照射していない場合に比べて均衡することになり、ガラス素材71の表面全域における温度ムラの発生が抑制され、結果としてガラス素材71のおもて面における冷却条件とうら面における冷却条件とが近いものとなる。
したがって、このように遠赤外線100をガラス素材71に照射しつつ冷却を行なうことにより、ガラス素材71のおもて面とうら面との間においてガラス素材71が冷却される際に発生する収縮の程度に大きな差が生じることが抑制されることになり、製造されるガラス成形品に反りが発生してしまうことが効果的に防止できることになる。
ここで、遠赤外線100の照射時間や照射強度といった照射条件は、特に制限されるものではないが、ガラス素材71のおもて面の中心部の温度をT1[℃]とし、ガラス素材71のうら面が付着した下型31の型面31aの中心部近傍の温度をT2[℃]とした場合に、加圧成形後においてT1[℃]およびT2[℃]のいずれもが(Tg−30)[℃]に低下するまでの間、(T1−T2)[℃]の絶対値(すなわち、ガラス素材71のおもて面とうら面との温度差)が30[℃]以下に収まることとなるように調整されることが好ましい。このようにすれば、製造されるガラス成形品に反りが発生してしまうことがさらに効果的に防止できることになる。
なお、冷却ポジションP4,P5においては、冷却ポジションP3においてガラス素材71の冷却が相当程度完了する場合(すなわち、加圧成形後において上述したT1[℃]およびT2[℃]のいずれもが(Tg−30)[℃]以下にまで低下する場合)には、遠赤外線100をさらに照射しつつガラス素材71を冷却する必要はなく、通常の冷却処理が実施されればよい。一方、タクトタイムの関係上、冷却ポジションP3においてガラス素材71の冷却が上述した相当程度にまで完了しない場合には、冷却ポジションP4においても(必要に応じて冷却ポジションP5においても)遠赤外線100をさらに照射しつつガラス素材71を冷却するとよい。
次に、図3に示すように、下型が離型ポジションに配置され、ガラス成形品が離型される(工程S6)。
具体的には、制御部60が、下型駆動機構33を駆動することで下型31を離型ポジションP6に移動させる。これにより、離型ポジションP6に移動した下型31は、吸着装置51と鉛直方向に沿って対向配置されることになる。
離型ポジションP6においては、制御部60が吸着装置51を駆動することにより、冷却後のガラス素材71であるガラス成形品72が吸着装置51によって吸着保持される。これにより、ガラス成形品72が製造装置1から取り出されることになる。
なお、ガラス成形品72が取り出された後の下型31は、その後、滴下ポジションP1へと移動され、上述した工程S1〜S6が繰り返されることになる。
一方、図3に示すように、製造装置1から取り出されたガラス成形品72には、必要な加工が施される(工程S7)。図11は、図3に示すガラス成形品に必要な加工を施す工程を示す模式図である。
具体的には、図11に示すように、平板状のカバーガラスが得られることとなるように、図中に示す切断線Cに沿ってガラス成形品72が切断され、その後、切断面の研磨処理が実施される。これにより、ガラス成形品72から非製品領域72bが除去されるとともに、ガラス成形品72の製品領域72aのうら面が鏡面に仕上げられる。
なお、ガラス成形品72の製品領域72aは、上述した加圧成形工程および冷却工程を経ることにより、直接的に鏡面に仕上げられているため、ここでは研磨処理を施す必要はない。以上により、製品領域72aのみによって構成された平板状のカバーガラスが得られることになる。
以上において説明したように、本実施の形態においては、加圧成形後のガラス素材71を下型31に付着させた状態のまま冷却する工程(すなわち工程S5)において、少なくとも所定期間にわたってガラス素材71に遠赤外線100が照射されるため、ガラス素材71のおもて面およびうら面における冷却の進行が、遠赤外線100を照射していない場合に比べて均衡することになる。そのため、ガラス素材71のおもて面における冷却条件とうら面における冷却条件とが近いものとなり、結果として加圧成形後の冷却工程において反りが発生することが効果的に防止できることになる。したがって、高品位のカバーガラスを歩留まりよく製造することが可能になり、製造コストを大幅に削減することができる。
なお、以上において説明した本実施の形態においては、ガラス成形品72が製品領域72aと非製品領域72bとを有するように構成した場合を例示したが、これに限定されず、ガラス成形品72が製品領域72aのみを有するように構成することとしてもよい。ただし、製品領域72aを取り囲むように非製品領域72bを設けることにより、製品領域72aに割れや欠け、反りといった不具合が生じる可能性が大幅に低減されるため、当該観点に基づけば非製品領域72bを設けることが好ましい。なお、その場合には、上述した不具合が生じることを防止するために、上述した冷却工程において、ガラス素材71の製品領域72aとなる部分のみならず非製品領域72bとなる部分にも遠赤外線100を照射することが好ましい。
図12は、上述した本発明の効果がどの程度得られるかを検証した検証試験における試験条件および試験結果を示した表である。次に、この図12を参照して、当該検証試験について説明する。
図12に示すように、検証試験においては、遠赤外線の照射の有無、加圧成形完了から遠赤外線照射開始までの時間、および、遠赤外線の照射時間をそれぞれ異なしめることにより、合計で6種類のカバーガラスの製造フローに基づいてカバーガラスを実際に製造した。なお、これら6種類のカバーガラスの製造フローは、上述した点を除いた他の製造条件においてすべて共通するものである。
具体的には、ガラス素材として、66.8[重量%]のSiOと、14.2[重量%]のAlと、3.0[重量%]のNaOと、1.8[重量%]のKOと、2.4[重量%]のMgOと、1.9[重量%]のTiOと、7.3[重量%]のLiOと、2.4[重量%]のNbとを含有しているものを使用した。当該ガラス素材のガラス転移点Tgは、540[℃]であり、線膨張係数αは、100[℃]以上300[℃]以下の範囲で98[×10−7/℃]である。
また、製造するガラス成形品の非製品領域を含めた外形は、縦幅および横幅が140[mm]×80[mm]で厚みが2[mm]であり、このうちの製品領域の形状は、縦幅および横幅が120[mm]×60[mm]で厚みが0.8[mm]の略平板状とした。
また、加圧成形の開始直前のガラス素材の温度は、680[℃]となるように調整し、下型の温度は、520[℃]に設定し、上型の温度は、500[℃]に設定した。
さらに、遠赤外線照射装置としては、坂口電熱株式会社製の遠赤外線セラミックヒータ(型式:YIR21030)を使用した。
比較例においては、遠赤外線の照射は行なわず、加圧成形後のガラス素材をそのうら面側において下型で冷却し、そのおもて面を大気に開放することで冷却した。
実施例1ないし5においては、加圧成形後のガラス素材をそのうら面側において下型で冷却し、そのおもて面に向けて遠赤外線を照射しつつ当該おもて面を大気に開放して冷却した。実施例1ないし5においては、加圧成形完了から遠赤外線照射開始までの時間をそれぞれ5[s]、8[s]、8[s]、12[s]、12[s]とし、遠赤外線の照射時間をそれぞれ30[s]、24[s]、14[s]、14[s]、8[s]とした。
製造されたサンプルの反りの程度は、それぞれ製品領域のおもて面の短辺の中点を通る直線上に沿ったP(Peak)−V(Valley)値(最大高さと最大深さの差)を計測することで確認した。なお、判定に際しては、実用上の観点から、P−V値が20[μm]未満のものを「優」とし、P−V値が20[μm]以上30[μm]未満のものを「良」とし、P−V値が30[μm]以上70[μm]未満のものを「可」とし、P−V値が70[μm]以上のものを「不可」とした。
また、図12に示す表においては、冷却中におけるガラス素材のおもて面とうら面との最大温度差の実測値と、遠赤外線照射完了時におけるガラス素材のおもて面の温度の実測値とをそれぞれ示している。ここで、ガラス素材のおもて面の温度は、放射温度計を用いてその中心部を計測した値であり、ガラス素材のうら面の温度は、下型の中心部の型面近傍(より詳細には、下型の中心部から下型の内部に向けた深さが4[mm]である位置)に設けた熱電対によって計測した値である。なお、比較例におけるガラス素材のおもて面の温度の欄に記載した温度は、実施例1との比較を図るために、加圧成形完了から35[s]経過後のものとしている。
図12から分かるように、遠赤外線の照射を行なわなかった比較例においては、ガラス成形品に大きな反りが発生し、その評価は「不可」となった。これに対し、遠赤外線の照射を行なった実施例1ないし5においては、ガラス成形品に発生する反り量が抑制されており、その評価は、「優」または「良」あるいは「可」となった。特に、実施例1においては、P−V値が12.3[μm]にまで抑制されており、実施例2においては、P−V値が25.9[μm]にまで抑制されている。
ここで、実施例1ないし5において採用した遠赤外線の照射条件の範囲内おいては、加圧成形完了から遠赤外線照射開始までの時間がより短い場合に、反りの抑制の効果が高まる傾向にあるとともに、遠赤外線の照射時間がより長い場合に、反りの抑制の効果が高まる傾向にあることが理解される。また、冷却中におけるガラス素材のおもて面とうら面との最大温度差が小さい場合に、反りの抑制の効果が高まる傾向にあることも理解される。
当該検証試験の結果から、加圧成形後のガラス素材に対して可能な限り遅滞なく遠赤外線を照射するとともに、加圧成形にてガラスに転写される形状に大きく影響を及ぼす(Tg−30)[℃]以上の温度範囲において遠赤外線を継続的に照射することにより、冷却中におけるガラス素材のおもて面とうら面との最大温度差を小さく抑制することが可能になり、結果としてガラス成形品に反りが発生することが抑制できるものと考察される。
以上の検証試験より、上述した本発明の実施の形態におけるガラス成形品の製造方法および製造装置を用いてガラス成形品を製造することにより、加圧成形後の冷却工程において反りが発生することが効果的に防止できることが実験的に確認された。
上述した本発明の実施の形態においては、溶融したガラス素材を加圧成形するための金型として下型および上型の一対の型を利用した場合を例示して説明したが、金型の数はこれに限定されるものではなく、3つ以上の型を用いて加圧成形を行なってもよい。
また、上述した本発明の実施の形態においては、一対の金型として下型および上型を利用してガラス素材を鉛直方向に挟み込んで加圧成形した場合を例示して説明したが、水平方向に配置された一対の金型を用いて落下するガラス素材を水平方向において挟み込んで加圧成形する場合に本発明を適用することもできる。
また、上述した本発明の実施の形態においては、ダイレクトプレス法に基づいてガラス成形品を製造する場合に本発明を適用した場合を例示して説明を行なったが、リヒートプレス法に基づいてガラス成形品を製造する場合に本発明を適用することもできる。
さらには、上述した本発明の実施の形態においては、本発明が適用されて製造されるガラス成形品として、スマートフォンに具備されるカバーガラスを例示して説明を行なったが、これに限定されるものではなく、たとえばタブレット端末等の他のディスプレイ装置のカバーガラスの製造や、モバイルコンピュータ、デジタルカメラ等に代表される電子機器等の外装カバーの製造に本発明が適用されてもよいし、ガラスレンズ等の各種のガラス製光学素子やガラス製の光記録媒体の製造に本発明が適用されてもよい。
このように、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
1 製造装置、10 素材供給部、11 連続溶融炉、12 ノズル部、13 流出管、20 切断部、21 カッター、22 カッター駆動機構、30 成形部、31 下型、31a 型面、32 上型、32a 型面、33 下型駆動機構、34 上型駆動機構、35 空間、38 回転テーブル、40 冷却部、41 遠赤外線照射装置、50 離型部、51 吸着装置、60 制御部、70 溶融ガラス流、71 ガラス素材、72 ガラス成形品、72a 製品領域、72b 非製品領域、100 遠赤外線。

Claims (6)

  1. 溶融または軟化したガラス素材を第1金型および第2金型を用いて挟み込むことで加圧成形する工程と、
    加圧成形後の前記ガラス素材から前記第2金型を離隔させることにより、前記第1金型に前記ガラス素材を付着させた状態のまま前記ガラス素材を冷却する工程と、
    冷却後の前記ガラス素材であるガラス成形品を前記第1金型から引き離すことで前記ガラス成形品を離型する工程とを備え、
    加圧成形後の前記ガラス素材を前記第1金型に付着させた状態のまま冷却する工程が、少なくとも所定期間にわたって前記ガラス素材に遠赤外線を照射する工程を含む、ガラス成形品の製造方法。
  2. 加圧成形後の前記ガラス素材を前記第1金型に付着させた状態のまま冷却する工程において、前記ガラス素材の前記第1金型に付着していない方の主面をおもて面とし、前記ガラス素材の前記第1金型付着している方の主面をうら面とし、前記おもて面の中心部の温度をT1[℃]とし、前記うら面が付着した前記第1金型の型面の中心部近傍の温度をT2[℃]とし、前記ガラス素材のガラス転移点をTg[℃]とした場合に、加圧成形後においてT1[℃]およびT2[℃]のいずれもが(Tg−30)[℃]に低下するまでの間、(T1−T2)[℃]の絶対値が30[℃]以下に収まることとなるように、前記ガラス素材に向けて前記遠赤外線を照射する、請求項1に記載のガラス成形品の製造方法。
  3. 前記遠赤外線の波長が、4.0[μm]以上10.0[μm]以下である、請求項1または2に記載のガラス成形品の製造方法。
  4. 前記ガラス成形品は、製品となる製品領域と、製品とはならない非製品領域とを有し、
    前記ガラス素材に前記遠赤外線を照射する工程において、前記製品領域および前記非製品領域のいずれにも前記遠赤外線を照射する、請求項1から3のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法。
  5. 離型後の前記ガラス成形品の前記非製品領域を除去する工程をさらに備える、請求項4に記載のガラス成形品の製造方法。
  6. 第1金型および第2金型と、
    前記第1金型および前記第2金型を相対的に移動させる駆動機構と、
    遠赤外線を外部に向けて照射する遠赤外線照射装置と、
    前記駆動機構の動作および前記遠赤外線照射装置の動作を制御する制御部とを備え、
    前記制御部は、溶融または軟化したガラス素材が前記第1金型および前記第2金型によって挟み込まれることで加圧成形され、その後、加圧成形後の前記ガラス素材から前記第2金型が離隔されることにより、前記第1金型に前記ガラス素材が付着された状態のまま前記ガラス素材が冷却されるように、前記駆動機構の動作を制御するとともに、加圧成形後の前記ガラス素材が前記第1金型に付着された状態のまま冷却される際に、少なくとも所定期間にわたって前記ガラス素材に遠赤外線が照射されるように、前記遠赤外線照射装置の動作を制御する、ガラス成形品の製造装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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