JP2015095364A - 電極体、及び当該電極体を備える電池 - Google Patents

電極体、及び当該電極体を備える電池 Download PDF

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貢治 須藤
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Toshiro Hirai
敏郎 平井
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Abstract

【課題】本発明は、電池に使用された際に当該電池の容量低下を抑制する電極体、及び当該電極体を備える電池を提供することを課題とする。【解決手段】本発明は、少なくとも電極活物質層及び電解質層を備える電極体であって、上記電極活物質層は、第3族〜第14族に属する金属元素を含有する金属塩化物、及び上記金属塩化物の還元体の少なくとも1つである電極活物質を含有し、上記電解質層は、塩化物イオン及び有機オニウムカチオンを含むイオン性液体、塩化アルミニウム(III)、並びにフッ化炭化水素化合物を含む電解質を含有することを特徴とする電極体を提供することにより、上記課題を解決する。【選択図】図7

Description

本発明は、電池に使用された際に当該電池のサイクル特性を向上させる電極体、及び当該電極体を備える電池に関する。
二次電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換し放電を行うことができる他に、放電時と逆方向に電流を流すことにより、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して蓄積(充電)することが可能な電池である。
近年、負極にアルミニウム金属を用いた、アルミニウム電池(アルミニウム二次電池)の研究開発が盛んに行われている。
非特許文献1には、塩化鉄(III)を正極活物質として用いたアルミニウム電池が開示されている。当該文献によれば、当該アルミニウム電池の放電時の全反応式は下記式(A)により表される。
Al+AlCl +3FeCl→AlCl +3FeCl (A)
非特許文献1には、正極に塩化鉄(III)スラリーを、負極に円筒状のアルミニウム金属をそれぞれ用い、さらに正極と負極の間に、電解質として1−メチル−3−エチルイミダゾリウムクロライド及び塩化アルミニウム(III)を用いた電池が開示されている(非特許文献1の「2.Experimantal details」より)。
また特許文献1〜4には、負極にアルミニウム金属を用いたアルミニウム電池において使用される非水電解液であって、塩化アルミニウム(III)とフルオロベンゼンとを含有する非水電解液が開示されている。
特開平6−293991号公報 特開平7−272755号公報 特開平9−120816号公報 特開平9−259892号公報
F.M.Donahue et al.Journal of Applied Electrochemistry 22(1992)230−234
電極活物質として第3族〜第14族に属する金属元素を含有する金属塩化物と、イオン性液体及び塩化アルミニウム(III)を含む電解液とを備える電極体では、電極活物質が電解質中に溶出してしまうという問題点がある。その結果、当該電極体が使用された電池では充放電に伴う容量低下が著しい。
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、電池に使用された際に当該電池の容量低下を抑制する電極体、及び当該電極体を備える電池を提供することを目的とする。
本発明の電極体は、少なくとも電極活物質層及び電解質層を備える電極体であって、上記電極活物質層は、第3族〜第14族に属する金属元素を含有する金属塩化物、及び上記金属塩化物の還元体の少なくとも1つである電極活物質を含有し、上記電解質層は、塩化物イオン及び有機オニウムカチオンを含むイオン性液体、塩化アルミニウム(III)、並びにフッ化炭化水素化合物を含む電解質を含有することを特徴とする。
本発明において、上記電解質における上記フッ化炭化水素化合物の含有量(mol)を[フッ化炭化水素化合物]で表し、上記電解質における上記有機オニウムカチオンの含有量(mol)を[有機オニウムカチオン]で表すとき、下記式(1)により求められる上記フッ化炭化水素化合物の濃度Y(%)が0.05%〜90%の範囲内であることが好ましい。
本発明において、上記フッ化炭化水素化合物が芳香族炭化水素化合物のフッ化物であることが好ましい。
本発明において、本発明の電極体が、アルミニウム電池用電極体であることが好ましい。
本発明の電池は、負極活物質層、及び上述した電極体を備える電池であって、上記負極活物質層と、上記電極体における上記正極活物質層とは、上記電極体における上記電解質層を間に介在して配置されることを特徴とする。
本発明によれば、第3族〜第14族に属する金属元素を含有する金属塩化物、及びその還元体の少なくとも1つである電極活物質を含有する電極活物質層を備える電極体において、イオン性液体及び塩化アルミニウム(III)に、フッ化炭化水素化合物を添加した電解質を用いることで、電極活物質の電解質への溶出を抑制することができる。そのため、電池に使用された際に当該電池の容量低下を抑制することができ、その結果、電池の容量維持率を高くすることができる。
本発明に係る電極体の積層構造の典型例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。 本発明に係る電池の積層構造の典型例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。 電極活物質の電解質への溶出量測定結果を示すグラフである。 フッ化炭化水素化合物を添加した電解質中における白金電極のサイクリックボルタモグラムである。 実施例1および比較例1の電池における各サイクルの容量維持率を示す棒グラフである。 実施例1の電池に関するサイクリックボルタモグラムである。 実施例1の電池に関するサイクリッククロノポテンショグラムである。
1.電極体
本発明の電極体は、少なくとも電極活物質層及び電解質層を備える電極体であって、上記電極活物質層は、第3族〜第14族に属する金属元素を含有する金属塩化物、及び上記金属塩化物の還元体の少なくとも1つである電極活物質を含有し、上記電解質層は、塩化物イオン及び有機オニウムカチオンを含むイオン性液体、塩化アルミニウム(III)、並びにフッ化炭化水素化合物を含む電解質を含有することを特徴とする。
一般的に、電気化学デバイスにおいて複数回の充放電を可能とするためには、電気化学的に可逆な酸化還元が可能であることが必要とされる。しかしながら、非特許文献1に記載されたような従来のアルミニウム電池においては、酸化還元が不可逆的に進行するため、容量維持率に劣る。したがって、非特許文献1に記載されたような従来のアルミニウム電池は、繰り返し充放電可能な電気化学デバイスとしては使用できないと考えられる。
電極活物質として特定の金属元素を含有する金属塩化物を用い、電解質としてイオン性液体及び塩化アルミニウム(III)を用いた従来のアルミニウム電池が電気化学的に不可逆である理由は、以下の通りである。
後述する実施例における、電極活物質の電解質への溶出性の試験において示すように、イオン性液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド及び塩化アルミニウム(III)のみを含む電解質に対する電極活物質の溶出量は著しく大きいことが実証された。
ここで、本発明における溶出とは、電解質への電極活物質の分散と、電解質への電極活物質の溶解とを総じて示すものである。
電解質に対する電極活物質の溶出量が著しく大きい場合に、電気化学デバイス中における酸化還元反応が不可逆になる原因は以下のように推定される。
イオン性液体及び塩化アルミニウム(III)を含む電解質では、有機オニウムカチオンと、塩化アルミニウム由来のアニオンとが存在する。塩化アルミニウム由来のアニオンとしては、AlCl 、AlCl 、AlCl10 等が挙げられる。電極活物質として使用される金属塩化物は、電解質中の塩化アルミニウム由来のアニオンに含まれる塩素と、クーロン力により強く相互作用し、その結果、錯体様の物質としてイオン性液体中に溶出するものと考えられる。
ここで、また電極活物質が電解質へ分散する場合、電解質中へ分散した電極活物質は、電極活物質層中の他の電極活物質から離れて存在するため、電極反応に寄与できなくなる。そのため、電解質の分散が進行すると電極活物質層上の集電可能な電極活物質が減少すると考えられる。
また電極活物質が電解質へ溶解する場合、電解質へ溶解し、電解質中を泳動する電極活物質は、対向する電極の表面で還元され、自己放電を起こす。この自己放電は、電極活物質由来のイオンの自己拡散が、一般的な電気化学デバイス内における程度に高く、且つ、電極活物質の還元電位が対向する電極の平衡電位より高い場合には、顕著に発生する。
粘性の高い電解質を用いた場合には、当該電極活物質に由来するイオンが泳動する速度が遅くなるため、電気化学デバイスにおける充放電速度の著しい減衰が生じる。その結果、特に定電位酸化の場合には過電圧の急速な上昇が起こり、副次的により高電位において電解質の分解反応を引き起こすため、電気化学デバイスが不可逆的に劣化する。
本発明者らは、このような知見に基づいて上記課題を見出し、鋭意検討を重ねた結果、電極活物質の電解質中への溶出を抑制しない限り、電気化学的に可逆な酸化還元反応を起こす電気化学デバイスの設計は困難であるとの結論に至った。
本発明者らは、電極活物質として第3族〜第14族に属する金属元素を含有する金属塩化物及びその還元体の少なくとも1つを用いる電極活物質層を備えた電極体において、イオン性液体及び塩化アルミニウム(III)に、フッ化炭化水素化合物を添加した電解質を用いることで、電極活物質の電解質への溶出を抑制できることを見出し、当該電極体を使用して電池を作製するところ電池の容量低下を抑制でき、その結果、容量維持率を高くできることを見出し、本発明を完成させた。
ここで、フッ化炭化水素化合物を添加する電解質を使用することで、特定の金属元素を含有する金属塩化物またはその還元体である電極活物質の電解質への溶出を抑制できる推定メカニズムとしては、次のように考えられる。
フッ化炭化水素化合物は、イオン性液体への溶解性に優れており、塩化アルミニウム由来のアニオンと電極活物質との間で、両者の親和的なクーロン力による相互作用を抑制する。その結果、電極活物質の電解質への溶出及び電解質中での安定化がしにくくなるため、電極活物質の電解質への溶出性は著しく低下すると推測される。
本発明の電極体は、少なくとも電極活物質層及び電解質層を備える。本発明の電極体は、当該電極活物質層及び電解質層に加えて、通常、電極集電体や、当該電極集電体に接続された電極リードを備えていてもよい。
以下、本発明に使用される電極活物質層及び電解質層、本発明に使用できる電極集電体、並びに、本発明の電極体の製造方法について、順に説明する。
(1)電極活物質層
本発明に使用される電極活物質層は、第3族〜第14族に属する金属元素を含有する金属塩化物及び上記金属塩化物の還元体の少なくとも1つである電極活物質を含有するものである。
ここで、電極活物質は、第3族〜第14族に属する金属元素を含有するものであれば特に限定されないが、例えばバナジウム、チタン、鉛、タングステン、ニッケル、ニオブを含有するものであることが好ましく、中でもバナジウム、鉛、タングステン、ニッケルを含有するものであることが好ましく、さらにバナジウムを含有するものであることが特に好ましい。
このような電極活物質としては、具体的に、塩化バナジウム(III)(VCl)、塩化バナジウム(II)(VCl)、塩化鉛(II)(PbCl)、塩化タングステン(II)(WCl)、塩化ニッケル(II)(NiCl)、塩化チタン(III)(TiCl)、塩化チタン(II)(TiCl)、若しくは塩化ニオブ(V)(NbCl)、又は、これら金属塩化物の還元体であるバナジウム(V)、鉛(Pb)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)若しくはニオブ(Nb)を含有する。本発明に係る電極体が電池に使用された際に、上記電極活物質は、当該電池の充電状態において、塩化バナジウム(III)、塩化バナジウム(II)(VCl)、塩化鉛(II)、塩化タングステン(II)、塩化ニッケル(II)、塩化チタン(III)、塩化チタン(II)又は塩化ニオブ(V)となる。これらの電極活物質は、1種類のみ配合されていてもよいし、2種類以上組み合わせて配合されていてもよい。
まず、正極活物質として塩化バナジウム(III)を含む電池における電気化学反応について検討する。なお、以下の検討において、当該電池は、負極としてアルミニウム金属を備え、さらに電解質中に塩化アルミニウム(III)を含む電池であるものとする。
塩化バナジウム(III)を含む正極においては、放電の際、下記半反応式(B−Ia)及び(B−Ib)により表される2段階反応が進行する。なおカッコ内は、後述する実施例1の電池に関する実験結果より推測される、各反応の平衡電位である。
VCl+AlCl +e→VCl+2AlCl (1.1V vs.Al3+/Al) (B−Ia)
VCl+2AlCl +2e→V+4AlCl (0.6V vs.Al3+/Al) (B−Ib)
また、当該電池の負極においては、放電の際、下記半反応式(B−II)により表される反応が進行する。
Al+7AlCl →4AlCl +3e (B−II)
以上の式(B−Ia)、(B−Ib)、及び式(B−II)より、当該電池における、満充電状態から放電状態までの反応は、下記全反応式(B−III)により表される。なお、当該全反応式(B−III)におけるアニオンに対するカウンターカチオンとしては、例えば、後述する有機オニウムカチオン等が挙げられる。
Al+AlCl +VCl→AlCl +V (B−III)
上記全反応式(B−III)に対する逆反応、すなわち、放電状態から満充電状態までの反応は、やや遅いと考えられる。
なお、正極活物質としてバナジウム金属を含む電極体を用いた電池においては、正極活物質として塩化バナジウム(III)を含む電極体を用いた電池とは逆に、充電反応((B−III)の逆反応)から開始される。
後述する実施例における、塩化バナジウム(III)の電解質への溶出性に関する試験結果より、フッ化炭化水素化合物が添加された電解質に対する塩化バナジウム(III)の飽和溶出量は、フッ化炭化水素化合物が添加されていない電解質に対する塩化バナジウム(III)の飽和溶出量と比べて、極めて低いことが分かった。通常電池に使用される電解質にフッ化炭化水素化合物を添加することで、塩化バナジウム(III)の電解質への溶出が抑制されることが実証された。
次に、正極活物質として塩化鉛(II)を含む電池における電気化学反応について検討する。なお、以下の検討において、当該電池は、負極としてアルミニウム金属を備え、さらに電解質中に塩化アルミニウム(III)を含む電池であるものとする。
当該電池の正極においては、放電の際、下記半反応式(C−I)により表される反応が進行する。
PbCl+2AlCl +2e→Pb+4AlCl (C−I)
また、当該電池の負極においては、放電の際、下記半反応式(C−II)により表される反応が進行する。
Al+7AlCl →4AlCl +3e (C−II)
以上の式(C−I)及び式(C−II)より、当該電池における、満充電状態から放電状態までの反応は、下記全反応式(C−III)により表される。なお、当該全反応式(C−III)におけるアニオンに対するカウンターカチオンとしては、例えば、後述する有機オニウムカチオン等が挙げられる。
2Al+2AlCl +3PbCl→2AlCl +3Pb (C−III)
なお、正極活物質として鉛金属を含む電極体を用いた電池においては、正極活物質として塩化鉛(II)を含む電極体を用いた電池とは逆に、充電反応((C−III)の逆反応)から開始される。
続いて、正極活物質として塩化タングステン(II)を含む電池における電気化学反応について検討する。なお、以下の検討において、当該電池は、負極としてアルミニウム金属を備え、さらに電解質中に塩化アルミニウム(III)を含む電池であるものとする。
当該電池の正極においては、放電の際、下記半反応式(D−I)により表される反応が進行する。
WCl+2AlCl +2e→W+4AlCl (D−I)
また、当該電池の負極においては、放電の際、下記半反応式(D−II)により表される反応が進行する。
Al+7AlCl →4AlCl +3e (D−II)
以上の式(D−I)及び式(D−II)より、当該電池における、満充電状態から放電
状態までの反応は、下記全反応式(D−III)により表される。なお、当該全反応式(D−III)におけるアニオンに対するカウンターカチオンとしては、例えば、後述する有機オニウムカチオン等が挙げられる。
2Al+2AlCl +3WCl→2AlCl +3W (D−III)
なお、正極活物質としてタングステン金属を含む電極体を用いた電池においては、正極活物質として塩化タングステン(II)を含む電極体を用いた電池とは逆に、充電反応((D−III)の逆反応)から開始される。
次に、正極活物質として塩化ニッケル(II)を含む電池における電気化学反応について検討する。なお、以下の検討において、当該電池は、負極としてアルミニウム金属を備え、さらに電解質中に塩化アルミニウム(III)を含む電池であるものとする。
当該電池の正極においては、放電の際、下記半反応式(E−I)により表される反応が進行する。
NiCl+2AlCl +2e→Ni+4AlCl (E−I)
また、当該電池の負極においては、放電の際、下記半反応式(E−II)により表される反応が進行する。
Al+7AlCl →4AlCl +3e (E−II)
以上の式(E−I)及び式(E−II)より、当該電池における、満充電状態から放電状態までの反応は、下記全反応式(E−III)により表される。なお、当該全反応式(E−III)におけるアニオンに対するカウンターカチオンとしては、例えば、後述する有機オニウムカチオン等が挙げられる。
2Al+2AlCl +3NiCl→2AlCl +3Ni (E−III)
なお、正極活物質としてニッケル金属を含む電極体を用いた電池においては、正極活物質として塩化ニッケル(II)を含む電極体を用いた電池とは逆に、充電反応((E−III)の逆反応)から開始される。
次に、正極活物質として塩化チタン(III)を含む電池における電気化学反応について検討する。なお、以下の検討において、当該電池は、負極としてアルミニウム金属を備え、さらに電解質中に塩化アルミニウム(III)を含む電池であるものとする。
塩化チタン(III)を含む正極においては、放電の際、下記半反応式(F−Ia)及び(F−Ib)により表される2段階反応が進行する。
TiCl+AlCl +e→TiCl+2AlCl (F−Ia)
TiCl+2AlCl +2e→Ti+4AlCl (F−Ib)
また、当該電池の負極においては、放電の際、下記半反応式(F−II)により表される反応が進行する。
Al+7AlCl →4AlCl +3e (F−II)
以上の式(F−Ia)、(F−Ib)、及び式(F−II)より、当該電池における、満充電状態から放電状態までの反応は、下記全反応式(F−III)により表される。なお、当該全反応式(F−III)におけるアニオンに対するカウンターカチオンとしては、例えば、後述する有機オニウムカチオン等が挙げられる。
Al+AlCl +TiCl→AlCl +Ti (F−III)
なお、正極活物質としてチタン金属を含む電極体を用いた電池においては、正極活物質として塩化チタン(III)を含む電極体を用いた電池とは逆に、充電反応((F−III)の逆反応)から開始される。
最後に、正極活物質として塩化ニオブ(V)を含む電池における電気化学反応について検討する。なお、以下の検討において、当該電池は、負極としてアルミニウム金属を備え、さらに電解質中に塩化アルミニウム(III)を含む電池であるものとする。
当該電池の正極においては、放電の際、下記半反応式(G−I)により表される反応が進行する。
NbCl+5AlCl +5e→Nb+10AlCl (G−I)
また、当該電池の負極においては、放電の際、下記半反応式(G−II)により表される反応が進行する。
Al+7AlCl →4AlCl +3e (G−II)
以上の式(G−I)及び式(G−II)より、当該電池における、満充電状態から放電状態までの反応は、下記全反応式(G−III)により表される。なお、当該全反応式(G−III)におけるアニオンに対するカウンターカチオンとしては、例えば、後述する有機オニウムカチオン等が挙げられる。
5Al+5AlCl +3NbCl→5AlCl +3Nb (G−III)
なお、正極活物質としてニオブ金属を含む電極体を用いた電池においては、正極活物質として塩化ニオブ(V)を含む電極体を用いた電池とは逆に、充電反応((G−III)の逆反応)から開始される。
また本発明における電極活物質の形状としては、例えば、粒子形状(真球状、楕円球状等)、薄膜形状等を挙げることができる。電極活物質が粒子形状である場合、その平均粒子径は、例えば0.01μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。電極活物質層における電極活物質の含有量は、例えば10体積%〜99体積%の範囲内であることが好ましく、20体積%〜99体積%の範囲内であることがより好ましい。
本発明に使用される電極活物質層は、上述した電極活物質の他に、導電性材料及び結着剤のうち少なくともいずれか1つを含んでいてもよい。
本発明に使用される導電性材料は、導電性を有し、且つ、上述した電極反応を阻害するものでなければ特に限定されない。本発明に使用される導電性材料としては、例えば炭素材料、ペロブスカイト型導電性材料、多孔質導電性ポリマー及び金属多孔体等を挙げることができる。炭素材料は、多孔質構造を有するものであっても良く、多孔質構造を有しないものであっても良い。多孔質構造を有する炭素材料としては、具体的にはメソポーラスカーボン等を挙げることができる。一方、多孔質構造を有しない炭素材料としては、具体的にはグラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバー等を挙げることができる。
電極活物質層における導電性材料の含有割合としては、特に限定されるものではないが、例えば50質量%以下、中でも1質量%〜40質量%であることが好ましい。
本発明に使用される結着剤は、電極活物質層中の結着力を高め、且つ、上述した電極反応を阻害するものでなければ特に限定されない。本発明に使用される結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ化物ポリマーや、スチレン・ブタジエンゴム(SBRゴム)等のゴム系樹脂等を挙げることができる。
電極活物質層における結着剤の含有割合としては、特に限定されるものではないが、例えば30質量%以下、中でも1質量%〜20質量%であることが好ましい。
本発明に用いられる電極活物質層の厚さは、電池の用途等により異なるものであるが、例えば1〜500μmであることが好ましい。
(2)電解質層
本発明に使用される電解質層は、イオン性液体、塩化アルミニウム(III)及びフッ化炭化水素化合物を含む電解質を含有する。
(i)イオン性液体
本発明に使用されるイオン性液体は、塩化物イオン及び有機オニウムカチオンを含む。ここで、有機オニウムカチオンとは、中性のヘテロ原子をその構造中に含む有機カチオンのことであり、且つ、当該ヘテロ原子に対し、正電荷をもつ1価のアルキル基(カルボカチオン)が配位することにより、原子価が1つ増えて正に帯電した有機カチオンのことである。
本発明に使用される有機オニウムカチオンは、上述した電極反応を阻害するものでなければ特に限定されない。本発明に使用される有機オニウムカチオンとしては、例えば、ジアルキルイミダゾリウム(例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウム)カチオン、トリアルキルイミダゾリウム(例えば1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム)カチオン、不飽和アルカン基を持つアルキルイミダゾリウム(例えば1−アリル−3−メチルイミダゾリウム)カチオン、アルキルピリジニウム(例えば1−ブチルピリジニウム)カチオン、芳香環にアルキル基を持つアルキルピリジニウム(例えば1−エチル−3−メチルピリジニウム)カチオン、第4級脂肪族アンモニウム(例えばテトラブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム等)カチオン、第4級脂肪族ホスホニウム(例えばテトラメチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム等)カチオン、ジアルキルピペリジニウム(例えば1−メチル−1−プロピルピペリジニウム)カチオン、アルキルピロリジニウム(例えば1−エチル−1−メチルピロリジニウム)カチオン、ピラゾニウム(例えば1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾニウム)カチオン、第3級スルホニウム(例えばトリエチルスルホニウム)カチオン、グライム(例えばグアニジウム、エチレングリコール・ジメチルエーテル等)カチオン、または上記カチオン中のアルキル基の代わりにメトキシエチル基等のエーテル基を有するカチオン等を挙げることができる。これらの有機オニウムカチオンは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。また、これらのカチオンの水酸基置換体や、アリル基置換体等の誘導体を用いてもよい。なお、本発明において利用する上述した電気化学反応(B−III)、(C−III)、(D−III)、及び(E−III)においては、電解質中に含まれるカチオン種の違いによる性能の差は小さい。電解質中に含まれるカチオン種の違いは、本発明においては、溶媒和エネルギー等の差による電気化学反応の平衡電位の差にせいぜい寄与する程度である。
本発明に使用されるイオン性液体としては、具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムクロリド、1−ブチルピリジニウムクロリド、N−ブチル−N−メチルピペリジニウムクロリド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド、1−オクタデシル−3−イミダゾリウムクロリド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムクロリド、1,1−ジメチル−1−エチル−メトキシエチルアンモニウムクロリド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリドが例示できる。これらのイオン性液体の中でも、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムクロリド、及び/又は1−ブチルピリジニウムクロリドを使用することが好ましい。
本発明に使用されるイオン性液体としては、塩化物イオンおよび上述した有機オニウムカチオン以外の構成を含有していてもよい。他の構成としては、上述した電気化学反応に影響しないアニオン等を挙げることができ、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホン酸、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタイド、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド等のフッ化アルキルスルホン酸系アニオンやメタンスルホン酸等のスルホン酸系アニオン、アセテート、エチル硫酸、チオシアネート、ジブチルリン酸、6フッ化リン酸やトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロ燐酸等リン酸系アニオン、4フッ化ホウ素やテトラシアノホウ酸等ホウ酸系アニオン、6フッ化ヒ素等の無機フッ化物錯体アニオンを含有していてもよい。なお、本発明においては、これらのアニオンから1種類または2種類以上組み合わせて含有していてもよい。
また電解質中におけるイオン性液体と塩化アルミニウム(III)のモル含有比は、イオン性液体1.0molに対する塩化アルミニウム(III)のモル含有比が、1.0molより大きく2.0mol以下であることが好ましい。中でも、イオン性液体:塩化アルミニウム(III)=1.0mol:1.5mol〜1.0mol:1.9molであることが好ましい。
本発明においては、電解質中におけるイオン性液体と塩化アルミニウム(III)との含有比に伴い、電解質中のアニオン種も変化する。例えば、電解質中における塩化アルミニウム(III)のモル含有割合が、電解質中におけるイオン性液体のモル含有割合よりも少ない場合には、電解質中におけるアニオンは塩化物アニオン(Cl)が主となる。一方、電解質中におけるイオン性液体と塩化アルミニウム(III)のモル含有比が、イオン性液体:塩化アルミニウム(III)=1.0mol:1.0mol〜1.0mol:1.4molの場合には、電解質中におけるアニオンはAlCl が主となる。さらに、電解質中におけるイオン性液体と塩化アルミニウム(III)のモル含有比が、イオン性液体:塩化アルミニウム(III)=1.0mol:1.5mol〜1.0mol:1.9molの場合には、電解質中におけるアニオンはAlCl が主となる。また、電解質中におけるイオン性液体と塩化アルミニウム(III)のモル含有比が、イオン性液体:塩化アルミニウム(III)=1.0mol:1.95mol〜1.0mol:2.0molの場合には、電解質中にAlCl10 が現れる。アニオン中のアルミニウム核が多いほどルイス酸性が高く、より強く塩化物イオン等の塩基をひきつける。電解質中におけるイオン性液体と塩化アルミニウム(III)のモル含有比が異なることによって、電極活物質の電解質に対する溶出性、電極活物質と電解質との反応性、及び本発明の電極体を電池に用いた場合の対向する電極におけるアルミニウム金属の析出の有無とその電位がそれぞれ異なる。したがって、塩化物アニオン(Cl)が主となる電解質の組成、AlCl が主となる電解質の組成、AlCl が主となる電解質の組成、及び電解質中にAlCl10 が現れる電解質の組成においては、いずれも、電解質中の化学平衡、電極反応、及び電極と電解質との界面における電気化学反応性は異なる。
上述したイオン性液体:塩化アルミニウム=1.0mol:1.5mol〜1.0mol:1.9molのモル含有比の範囲内においては、電解質中におけるアニオンはAlCl が主となる。当該モル含有比の範囲内においては、上述した電極活物質に対する電解質への溶出性が比較的低く、且つ、電気化学的な酸化還元が起こりやすくなる。
また本発明においては、電解質中のイオン性液体及び塩化アルミニウム(III)の総含有量に対する塩化アルミニウム(III)の濃度X(%)は、イオン性液体や有機オニウムカチオンの種類に応じて適宜調整されるものであり、電解質として機能するものであれば特に限定されない。例えば、イオン性液体として1−エチル−3−メチルクロリド(EMICl又はEMIClと表記)を用いる場合、塩化アルミニウム(III)の濃度X(%)は、50.0%<Xであることが好ましく、中でも51.0%≦X≦65.5%の範囲内であることが特に好ましい。
上述した塩化アルミニウム(III)の濃度Xが上記範囲内である場合、電解質中に電気化学的に活性な、塩化アルミニウム(III)由来のアニオンであるAlCl が十分な濃度発生する。そのため、このアニオンを媒介とした負極でのアルミニウムの溶解・析出反応、および正極での金属種の塩化・脱塩化反応が起こりやすくなり、且つ、電極活物質の電解質への溶出性が比較的低くなる。従って本発明の電極体を使用して電池を作製する際に、当該電池が十分に動作できると考えられるからである。
ここで、上述した塩化アルミニウム(III)濃度X(%)は、次式を用いて算出することができる。なお、式中では、イオン性液体である1−エチル−3−メチルクロリドの含有量(mol)を[EMICl]と表記し、塩化アルミニウム(III)の含有量(mol)を[AlCl]と表記する。
X(%)=[AlCl]/([EMICl]+[AlCl])×100
本発明においては、上述した塩化アルミニウム(III)の濃度X(%)に伴い、電解質中のアニオン種も変化する。例えば、塩化アルミニウム(III)の濃度X(%)が、50%よりも小さい場合には、電解質中におけるアニオンは塩化物アニオン(Cl)が主となる。一方、塩化アルミニウム(III)の濃度X(%)が、50.0%≦X≦60.0%である場合には、電解質中におけるアニオンはAlCl が主となる。また、塩化アルミニウム(III)の濃度X(%)が、60.0%≦X≦65.5%である場合には、電解質中におけるアニオンはAlCl が主となる。さらに、塩化アルミニウム(III)の濃度Xが、65.5%≦X≦66.7%である場合には、電解質中にAlCl10 が現れる。
アニオン中のアルミニウム核が多いほどルイス酸性が高く、より強く塩化物イオン等の塩基をひきつける。上述した塩化アルミニウム(III)の濃度X(%)が異なることによって、電極活物質の電解質に対する溶出性、電極活物質と電解質との反応性、及び本発明の電極体を電池に用いた場合の対向する電極におけるアルミニウム金属の析出の有無とその電位がそれぞれ異なる。したがって、塩化物アニオン(Cl)が主となる電解質の組成、AlCl が主となる電解質の組成、AlCl が主となる電解質の組成、及び電解質中にAlCl10 が現れる電解質の組成においては、いずれも、電解質中の化学平衡、電極反応、及び電極と電解質との界面における電気化学反応性は異なる。
(ii)フッ化炭化水素化合物
本発明に使用されるフッ化炭化水素化合物は、上述したイオン性液体及び塩化アルミニウム(III)を含む電解質に添加することで、電極活物質の電解質への溶出を抑制できるものであれば特に限定されない。中でも電解質に相溶しつつ化学反応的に不活性であり、また極性基を有し分子内分極が比較的小さいものであることが好ましい。なお、本発明において、フッ化炭化水素化合物は、炭化水素を主体とする化合物のフッ化物であることを示す。本発明においては、フッ化炭化水素化合物は、炭素−フッ素結合を有していることが好ましい。またフッ化炭化水素化合物は、例えば炭素、水素及びフッ素のみから構成されるものであってもよく、炭素、水素、フッ素以外に他の官能基を有していてもよい。
フッ化炭化水素化合物としては、常温(25℃)で固体であってもよく、常温で液体であってもよいが、中でも常温で液体であることが好ましい。イオン性液体と容易に相溶できるからである。なお、フッ化炭化水素化合物が常温で固体である場合、通常、イオン性液体と相溶し均一な電解質を形成可能なことが必要である。
本発明においては、フッ化炭化水素化合物が、鎖状であってもよく、環状であってもよい。ここで、鎖状のフッ化炭化水素化合物としては、例えば、1−フルオロペンタン、1,2−ジフルオロペンタン、1−フルオロオクタン等のフッ化アルカン(炭素数5以上)を挙げることができる。また環状のフッ化炭化水素化合物としては、例えば、1−フッ化シクロヘキサン、1,2−ジシクロペンタン、テトラデカフルオロヘキサン、等のシクロアルキルのフッ化物や、フルオロベンゼン、1,2−ジフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン等の芳香族炭化水素化合物のフッ化物等を挙げることができる。中でも、本発明においては、芳香族フッ化炭化水素化合物であることが好ましい。すなわち、芳香族炭化水素化合物のフッ化物を電解質に添加する場合、芳香族炭化水素化合物のフッ化物のうち、非常に強い極性を有するフッ素が電極活物質と作用し、芳香族炭化水素部分は電極活物質の最表面に配される。イオン性液体は、イオン性化合物であるため、電気的に中性な芳香族炭化水素部分が表面に配された電極活物質とは相互作用しにくくなる。すなわち、電極活物質と電解質との配位バランスが変化し、その結果、電極活物質の電解質への溶出を抑制することができると考えられるからである。さらに、芳香族炭化水素は、電極活物質に作用する際、芳香族炭化水素部分同士がスタッキングすることで、立体障害によって電解質を排除するという効果が期待できるからである。
フッ化炭化水素化合物としては、電解質に添加して相溶できるものであることが好ましい。フッ化炭化水素化合物の炭素数としては、例えば、5〜18の範囲内であることが好ましい。炭素数が上記範囲外となる場合、フッ化炭化水素化合物が電解質中に十分に相溶できない可能性があるからである。
また、フッ化炭化水素化合物の分子量としては、例えば、70〜1000の範囲内であることが好ましい。分子量が上記範囲を超える場合、フッ化炭化水素化合物が電解質中に十分に相溶できない可能性があるからである。一方、分子量が上記範囲に満たない場合、非常に揮発性が高くなるために常温で安定に取り扱うことが難しく、電池の使用時に電解質組成が変化して特性を保つことができない可能性があるからである。
本発明における電解質は、上述したイオン性液体及び塩化アルミニウム(III)に、フッ化炭化水素化合物が添加されているものであれば特に限定されない。電解質中のフッ化炭化水素化合物の濃度Y(%)は、通常、0より大きく、例えば0.05%以上となることが好ましい。また一方、フッ化炭化水素化合物の濃度Y(%)が、通常100%以下であり、中でも90.0%以下となることが好ましい。なお、上述したフッ化炭化水素化合物の濃度Y(%)は、電解質におけるフッ化炭化水素化合物の含有量(mol)[フッ化炭化水素化合物]で表し、電解質における[有機オニウムカチオン]の含有量(mol)を[有機オニウムカチオン]で表すとき、下記式(1)によって算出できる。
具体的に、フッ化炭化水素化合物としてフルオロベンゼンを用い、イオン性液体として1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(EMICl)を用いる場合、イオン性液体に含有される有機オニウムカチオンである1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン(EMI)を用いる場合、下記式(2)によって算出できる。
(iii)電解質
本発明における電解質に対する、上述した電極活物質(例えば塩化バナジウム(III)等)の溶出量は、小さければ小さいほど好ましい。当該溶出量が大きすぎる場合には、電極活物質が当該電解質中に溶出し、その結果、上述したような自己放電が発生して電池が劣化し、電気化学的に不可逆となるおそれがある。
電解質に対する、上述した電極活物質の溶出量としては、電極活物質及び電解質の種類にもよるが、例えば100μmol/L以下であることが好ましく、0μmol/L〜50μmol/Lの範囲内であることがより好ましく、0μmol/L〜30μmol/Lの範囲内であることが特に好ましい。
本発明における電解質は、イオン性液体、塩化アルミニウム(III)及びフッ化炭化水素化合物を含有するものであり、通常、液状(液体電解質)である。また、上記電解質は必要に応じて、エーテル系溶媒、カーボネート系溶媒、及びアセトニトリル等の有機溶媒を含んでいてもよい。エーテル系溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。カーボネート系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート等が挙げられる。
(3)電極体
本発明に係る電極体は、さらに電極集電体を備えていてもよい。
電極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば白金、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、カーボン等を挙げることができる。空気極集電体の形状としては、例えば箔状、板状及びメッシュ(グリッド)状等を挙げることができる。中でも、本発明においては、集電効率に優れるという観点から、電極集電体の形状がメッシュ状であることが好ましい。本発明においては、後述する電池ケースが電極集電体の機能を兼ね備えていても良い。
電極集電体の厚さは、例えば1μm〜500μmであることが好ましい。
本発明に係る電極体は、例えばアルミニウム電池に用いられることが好ましい。ここで、本発明においては、アルミニウムイオン及びアルミニウムを含有するアニオン(例えば、AlCl 、AlCl 等の塩化アルミニウム(III)由来のアニオン)が電池反応に寄与する電池を示す。
以下、本発明に係る電極体の製造方法の典型例について詳細に述べる。
まず、電極活物質を、必要であれば成形することにより、電極活物質層を作製する。電極活物質に対し、さらに導電性材料及び/又は結着剤を、適切な含有比となるように混合し、電極活物質の合剤層を形成してもよい。電極集電体を用いる場合には、電極活物質層の一面側に積層させればよい。
一方、電解質としては、上述したイオン性液体及び塩化アルミニウム(III)にフッ化炭化水素化合物を添加したものを用いる。ここで、上述した式(1)で算出される電解質中のフッ化炭化水素化合物の濃度Y(%)は0.05%〜90%の範囲内であることが好ましい。また、電解質中のイオン性液体及び塩化アルミニウム(III)の総含有量に対する塩化アルミニウム(III)の濃度X(%)は、50%<X≦67%の範囲内であることが好ましい。電解質層の形成方法としては、例えば、成形した電極活物質層の一面側に、電解質をスパチュラ等で薄く均一に塗布する方法や、電解質を電極活物質層にスプレー塗布する方法等が例示できる。
以上の製造工程においては、酸素濃度0.5ppm以下の低酸素条件下、且つ、露点−85℃以下の低水分条件下で行うことが好ましい。
なお、電極体中の電解質側に負極を積層させることにより、後述する電池を製造することができる。
図1は、本発明に係る電極体の積層構造の典型例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。電極体10は、電極活物質層1、及び電解質層2を備える。なお、本発明に係る電極体は、必ずしも上記典型例のみに限定されるものではない。また、図1に描かれた各層の厚さは、必ずしも本発明に係る電極体における各層の厚さを反映するものとは限らない。
また本発明においては、上述したような電極活物質層および電解質層を備えた電極体以外に、次のような電極体を提供することができる。すなわち、電極活物質として第3族〜第14族に属する金属元素を含有する金属塩化物又は上記金属塩化物の還元体を含む電極活物質層と、イオン性液体及び塩化アルミニウム(III)を含む電解質層とを有する電極体であって、上記電極活物質の表面に、上述したフッ化炭化水素化合物から構成されるコート層を有する電極体も提供することができる。上述したフッ化炭化水素化合物から構成されるコート層が、電極活物質の表面に形成されていることで、電極活物質の電解質への溶出を抑制することができるという効果を奏するものである。
2.電池
本発明の電池は、負極活物質層及び上記電極体を備える電池であって、前記負極活物質層と、前記電極体における前記正極活物質層とは、前記電極体における前記電解質層を間に介在して配置されることを特徴とする。
本発明の電池においては、上記電極体中の電極活物質層が正極活物質層として使用される。
図2は、本発明に係る電池の積層構造の一例を示し、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。
電池20は、正極活物質層11と、負極活物質層12と、当該正極活物質層11及び当該負極活物質層12の間に介在する電解質層13とを備える。正極活物質層11及び電解質層13は、上述した電極体10の電極活物質層1及び電解質層2にそれぞれ対応する。また電池20は、正極活物質層11の集電を行う正極集電体14と、負極活物質層12の集電を行う負極集電体15と、電池ケース16とを備える。
なお、図2に描かれた各層の厚さは、必ずしも本発明に係る電池における各層の厚さを反映するものとは限らない。
本発明に係る電池のうち正極活物質層及び電解質層については、上述した本発明に係る電極体中の電極活物質層及び電解質層と同様である。以下、本発明に係る電池の他の構成要素である負極活物質層、並びに本発明に好適に用いられるセパレータ及び電池ケースについて、詳細に説明する。
本発明に使用される負極活物質層は、アルミニウムイオン又は塩化アルミニウム(III)由来のアニオン(例えばAlCl 、AlCl 等)を可逆的に還元析出、酸化溶解可能な電極であれば特に限定されるものではなく、金属、合金、金属化合物、及び炭素材料のうち少なくともいずれか1つを負極活物質として含有する。
負極活物質として使用できる金属、合金、及び金属化合物としては、具体的には、リチウム等のアルカリ金属元素;マグネシウム、カルシウム等の第2族元素;チタン等の第4族元素;クロム、タングステン等の第6族元素;マンガン等の第7族元素;鉄及びルテニウム等の第8族元素;ロジウム等の第9族元素;ニッケル、白金及びパラジウムからなる第10族元素;銅及び金等の第11族元素;亜鉛等の第12族元素;アルミニウム等の第13族元素;ケイ素等の第14族元素;を含む金属、合金、及び金属化合物を例示することができる。これらの元素の中でも、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金、タングステン、アルミニウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、ニッケル、銅、マンガン、クロム、亜鉛、ケイ素、及びチタンのうち少なくともいずれか1つの元素を含むことが好ましい。
負極活物質として使用できる炭素材料としては、多孔質構造を有する炭素材料、多孔質構造を有しない炭素材料が例示できる。多孔質構造を有する炭素材料としては、具体的にはメソポーラスカーボン等を挙げることができる。一方、多孔質構造を有しない炭素材料としては、具体的にはグラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバー等を挙げることができる。
本発明には、合金負極を用いてもよい。
本発明においては、負極活物質として、アルミニウム金属、アルミニウム合金、及びアルミニウム化合物を用いることがより好ましい。負極活物質として使用できるアルミニウム合金としては、例えば、アルミニウム−バナジウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金、アルミニウム−ケイ素合金、アルミニウム−銅合金、及びアルミニウム−リチウム合金等を挙げることができる。また、負極活物質として使用できるアルミニウム化合物としては、例えば、硝酸アルミニウム(III)、アルミニウム(III)クロリドオキシド、シュウ酸アルミニウム(III)、臭化アルミニウム(III)、及びヨウ化アルミニウム(III)等を挙げることができる。
本発明においては、負極活物質として、アルミニウム金属を用いることがさらに好ましい。
また、上記負極活物質層は、負極活物質のみを含有するものであっても良く、負極活物質の他に、導電性材料及び結着剤の少なくとも一方を含有するものであっても良い。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極活物質層とすることができる。一方、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質及び結着剤を含有する負極活物質層とすることができる。なお、負極活物質層の作製に使用できる導電性材料及び結着剤は、上述した電極活物質層の作製に使用できる導電性材料及び結着剤と同様である。
本発明の電池は、負極活物質層自体を負極として使用してもよい。また、本発明の電池は、負極活物質層に加えて、さらに負極集電体、及び当該負極集電体に接続された負極リードを備えていてもよい。
本発明に使用できる負極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば銅、ステンレス、ニッケル、カーボン等を挙げることができる。上記負極集電体の形状としては、例えば箔状、板状及びメッシュ(グリッド)状等を挙げることができる。本発明においては、後述する電池ケースが負極集電体の機能を兼ね備えていても良い。
本発明に係る電池の一部にセパレータを設けることができる。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;及び樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
1.電池の製造
[実施例1]
実施例1の電池の製造は、低酸素条件下(酸素濃度:0.5ppm以下)、且つ、低水分条件下(露点:−85℃以下)のアルゴン雰囲気下で行った。
正極活物質として塩化バナジウム(III)(純度:99.8%、関東化学株式会社製)、導電性材料としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、型番:HS−100)、及び、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、正極活物質:導電性材料:結着剤=6:3:1の質量比となるように混練し、シート状に成形して、正極活物質層(正極合剤層)を作製した。
イオン性液体として1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(関東化学社製、純度99%、真空中で100℃で精製、(EMIClまたはEMIClと表記))を用い、当該イオン性液体と塩化アルミニウム(III)(アルドリッチ社製、純度99.999%)を、イオン性液体:塩化アルミニウム(III)=1.0:1.5のモル比で混合して混合液を得た。なお、電解質中におけるイオン性液体と塩化アルミニウム(III)との総含有量に対する塩化アルミニウム(III)の濃度X(%)は60%であった。上記混合液に、さらにフッ化炭化水素化合物であるフルオロベンゼン(製造会社名:アルドリッチ社製、純度:99%)を添加して混合し、電解質を得た。なお、フルオロベンゼンは、上記式(2)で算出されるフルオロベンゼン濃度が80%となるように添加した。
負極活物質層として機械的に新生面を露出させたアルミニウムを用意した。
以上の材料を、正極活物質層、電解質層、及び負極活物質層の並びで積層させ、実施例1の電池を製造した。
[比較例1]
実施例1と同様に、比較例1の電池の製造は、低酸素条件下(酸素濃度:0.5ppm以下)、且つ、低水分条件下(露点:−85℃以下)のアルゴン雰囲気下で行った。
イオン性液体として1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(関東化学社製、純度99%、真空中で100℃で精製)を用い、当該イオン性液体と塩化アルミニウム(III)(アルドリッチ社製、純度99.999%)を、イオン性液体:塩化アルミニウム(III)=1.0:1.5のモル比で混合した混合液を、電解質層用の電解質とした。
正極活物質層及び負極活物質層は、実施例1と同様のものを用意した。
以上の材料を、正極活物質層、電解質層、及び負極活物質層の並びで積層させ、比較例1の電池を製造した。
2.電極活物質の電解質への溶出性の試験
実施例1及び比較例1において電極活物質として用いる塩化バナジウム(III)の、フルオロベンゼンを添加した電解質を用いた電解質層(実施例1で使用する電解質層)への溶出性と、フルオロベンゼンを添加していない電解質を用いた電解質層(例えば比較例1で使用する電解質層)への溶出性とについてそれぞれ試験を行った。
ここで、イオン性液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドは、1週間かけて真空脱水したものを用いた。真空脱水後の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、及び無水塩化アルミニウム(III)(99.999%、アルドリッチ社製)を、低酸素条件(酸素濃度:0.5ppm以下)且つ低水分条件(露点:−85℃以下)下でマグネチックスターラーにて攪拌しながらゆっくり混合して混合物を得た。混合比は、モル比にして1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド:塩化アルミニウム(III)=1.0:1.5とした(上述した塩化アルミニウム(III)の濃度X:60%)。さらに、フルオロベンゼンを添加して電解質を調製した。なお、フルオロベンゼンの添加量は、上記式(2)で算出される濃度(%)が(0%)、1.00%、9.09%、11.1%、20.0%、33.3%、50.0%、66.7%、80.0%、88.9%、90.9%、99.0%、99.9%、100%となるようにそれぞれ調製した。
上記電解質を攪拌しながら、飽和溶出量の塩化バナジウム(III)(99%、平均粒子径2μm)を加えて一昼夜撹拌した後、6000回転で5分間遠心分離した。遠心分離した上澄みから、さらにシリンジフィルター(細孔径:0.2μm)を用いてろ過した。さらに得られたろ液に対して、次のような処理を施した。すなわち、気化蒸発によりフルオロベンゼンを取り除いた後、硝酸と過酸化水素とを用いた湿式灰化およびイオン交換処理を施した。処理後のろ液を0.1M希硝酸で1万倍及び10万倍に希釈し、測定用試料を得た。
また上述した1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド及び塩化アルミニウム(III)の混合物に、同様に、飽和量の塩化バナジウム(III)を加えて撹拌、遠心分離した後、ろ過を行った。得られたろ液を0.1M希硝酸で1万倍及び10万倍に希釈し、測定用試料を得た。
得られた測定用試料の溶出量の測定には、誘導結合プラズマ質量分析(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry:ICP−MS)装置(Agilent7500cx、アジレントテクノロジー株式会社製)を用いた。なお、塩化物イオンによるバナジウム測定への影響をできる限り抑えるため、反応ガスとして、アルゴン酸素混合ガス及びヘリウムガスを用いた。
その結果を図3(a)、(b)に示す。なお、図3(b)は、図3(a)を縦軸方向に拡大した図である。図3(a)及び(b)に示すように、電解質に対するフルオロベンゼン濃度が0%より大きい場合(フルオロベンゼンを添加する場合)では、電解質に対するフルオロベンゼン濃度が0%である場合(フルオロベンゼンを添加していない場合、比較例1)に比べて、正極活物質として用いた塩化バナジウム(III)の溶出量が極めて低いことが確認できた。
このように、塩化バナジウム(III)の電解質への溶出性は、電解質中のフルオロベンゼンの添加の有無によって顕著に異なる。また中でも、フルオロベンゼン濃度が0.05%〜90%の範囲内となる場合に、特に顕著な効果が得られる。具体的に、当該範囲内では、最大でバナジウム(質量数51)濃度が450分の1程度まで減少した。
3.電解質の性質評価
上述した溶出性試験で調製したフルオロベンゼン濃度が50%、90%、99%である電解質を用いて以下の構成の評価用電池を作製した。
作用極及び対極としてPt箔(ニラコ製、純度99.999%)を用い、対極の表面積が作用極に対して十分に大きいものとした。電位参照電極として、バイコールガラスに封入した電解質に機械的に表面酸化膜を除去したアルミニウム線を浸漬したものを用いた。
当該評価用電池について、サイクリックボルタンメトリーを行った。サイクリックボルタンメトリーの条件は以下の通りである。
掃引速度 :0.5mV/s
電位の掃引範囲:−0.3〜2.0V(vs.Al3+/Al)
サイクル数 :2サイクル
測定雰囲気:低酸素条件(酸素濃度:0.5ppm以下)且つ低水分条件(露点:−85℃以下)
図4(a)及び(b)は、当該評価用電池に関するサイクリックボルタモグラム(以下、CVと称する場合がある。)である。なお、図4(a)及び(b)のCVの電位は、アルミニウム参照極を基準とする。したがって、以下、電位については、アルミニウム基準(vs.Al3+/Al)により示す。
図4(a)及び(b)は、縦軸に電流(mA)、横軸に電位(V vs.Al3+/Al)をそれぞれとったグラフである。図4(a)から分かるように、還元掃引すると、−0.1V付近から還元電流が立ち上がり、さらに還元掃引するにしたがって、直線的に電流が増加することが観察された。一方で、反転して酸化方向に電位を掃引すると、電流は直線的に減少し、0Vを境に酸化電流に転じることが観察された。また0.3V付近でピークを迎えた後に再び酸化電流は減衰することが観察された。このとき酸化電流と還元電流との積算電化量はほぼ同じ、すなわち、ほぼ100%のクーロン効率であると考えられる。
測定された電気化学反応は下記に示す反応である。
Al+4AlCl ⇔AlCl +3e
サイクリックボルタモグラムにおける還元電流は、上式の右辺から左辺への反応式に対応し、このときPt箔表面では電解質からアルミニウムが電解析出する過程に伴うものである。一方で酸化電流は上式の左辺から右辺への反応式に対応し、還元反応でPt箔上に析出したアルミニウムが再酸化して電解質中へ溶出する過程に伴うものである。
図4(a)からわかるように、フルオロベンゼン濃度が50%である場合、最も電流値が高くなり、続いて90%、99%と、電解質中のフルオロベンゼンの添加量が増加するにしたがって電流値は減少していくことが観察された。これは、電解質中に含まれる塩素源及びアルミニウム源であるクロロアルミネートイオン(AlCl )の濃度に対応すると考えられる。
なお、図4(b)は、図4(a)のアルミニウムの還元電流付近を拡大したものである。図4(b)から、フルオロベンゼン濃度が99%である電解質中でもアルミニウムの酸化還元反応が起きていることが確認できた。
4.電池の性能評価
4−1.容量維持率の評価
図5は、実施例1および比較例1の電池における各サイクルの容量維持率(放電容量維持率)を示す棒グラフである。なお、横軸のD1〜D10はそれぞれ放電回数を示し、例えば、D10は10サイクル目における放電を示す。
図5から分かるように、実施例1及び比較例1の電池のどちらでも、容量維持率が低下していくこと、及び減衰速度がサイクルごとに遅くなっていくことが観察された。なお、初回の放電容量は、どちらの電池も同等の放電容量が確認された。したがって、第3族〜第14族に属する金属元素を含有する金属塩化物である塩化バナジウム(III)を正極活物質として用いた本発明の電池においては、フッ化炭化水素化合物を添加した電解質を用いることで、電池の容量維持率を高くできることが実証された。
4−2.サイクリックボルタンメトリー
実施例1の電池について、サイクリックボルタンメトリーを行った。サイクリックボルタンメトリーの条件は以下の通りである。
掃引速度:0.5mV/s
電位の掃引範囲:0.30〜1.8V(vs.Al3+/Al)
サイクル数:10サイクル
測定雰囲気:低酸素条件(酸素濃度:0.5ppm以下)且つ低水分条件(露点:−85℃以下)
図6は、実施例1の電池に関するサイクリックボルタモグラム(以下、CVと称する場合がある。)、すなわち、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド及び塩化アルミニウム(III)に、フッ化炭化水素化合物であるフルオロベンゼンを添加した電解質に対する、塩化バナジウム(III)を含む正極活物質層のCVである。なお、図6のCVの電位は、アルミニウム参照極を基準とする。したがって、以下、電位については、アルミニウム基準(vs.Al3+/Al)により示す。
図6は、縦軸に電流(mA)、横軸に電位(V vs.Al3+/Al)をそれぞれとったグラフである。図6から分かるように、自然電位から電位を還元側へ掃引したところ、0.85V及び0.40Vの電位においてそれぞれピークが観察される。これらの還元電位のうち、0.85Vはバナジウム(+3価)からバナジウム(+2価)への還元における還元電位、0.40Vはバナジウム(+2価)からバナジウム(0価)への還元における還元電位にそれぞれ帰属される。したがって、正極活物質に含まれるバナジウム(+3価)は、電池内において2段階でバナジウム(0価)へ還元されることが分かる。一方、図6から分かるように、0.30Vから電位を酸化側へ掃引すると、0.90V、及び1.45Vの電位においてそれぞれピークが観察される。これらの酸化電位のうち、0.90Vはバナジウム(0価)からバナジウム(+2価)への酸化における酸化電位、1.45Vはバナジウム(+2価)からバナジウム(+3価)への酸化における酸化電位にそれぞれ帰属される。したがって、バナジウム(0価)は、電池内において、2段階でバナジウム(+3価)へ酸化されることが分かる。
よって、実施例1の電池内に含まれるバナジウムは、可逆的に酸化還元されることが分かる。バナジウム(+3価)からバナジウム(+2価)への還元電位(0.85V)及びバナジウム(+2価)からバナジウム(+3価)への酸化電位(1.45V)、バナジウム(+2価)からバナジウム(0価)への還元電位(0.40V)及びバナジウム(0価)からバナジウム(+2価)への酸化電位(0.90V)が、それぞれ互いに離れている理由は、実施例1の電池の正極活物質層において起こる電極反応が固体反応であるため、電位軸における不可逆性が高いことによる。
また10サイクル目のCVでは、電位を還元側へ掃引すると、0.85Vの電位においてピークが観察され、電位を酸化側へ掃引すると、1.45Vの電位においてピークが観察された。これより、バナジウム(3価)とバナジウム(2価)との酸化還元反応(アノード側の酸化還元反応)は可逆的であることが確認できる。一方、バナジウム(2価)とバナジウム(0価)との酸化還元反応(カソード側の酸化還元反応)が減衰することが確認された。
4−3.サイクリッククロノポテンショメトリー
実施例1の電池について、一定の電流値の下で繰り返し酸化還元を行う、サイクリッククロノポテンショメトリーを行った。サイクリッククロノポテンショメトリーの条件は以下の通りである。
1サイクルの電流値条件:100μAの電流値条件で還元し、電位が0.1Vに達した後に1時間開回路電位にて休止し、その後に100μAの電流値条件で酸化する。
電位の掃引範囲:0.1〜1.75V(vs.Al3+/Al)
サイクル数:10サイクル
測定雰囲気:低酸素条件(酸素濃度:0.5ppm以下)且つ低水分条件(露点:−85℃以下)
図7は、実施例1の電池に関するサイクリッククロノポテンショグラム、すなわち、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド及び塩化アルミニウム(III)に、フルオロベンゼンを添加した電解質に対する、塩化バナジウム(III)を含む正極活物質層のサイクリッククロノポテンショグラムである。なお、図7のサイクリッククロノポテンショグラムの電位は、アルミニウム参照極を基準とする。したがって、以下、電位については、アルミニウム基準(vs.Al3+/Al)により示す。
図7は、縦軸に電位(V vs.Al3+/Al)、横軸に時間(h)をそれぞれとったグラフである。図7から分かるように、1サイクル目の還元(図7中の初回還元)においては、1.1V付近において小さなプラトーが観察された。その後、0.6V付近からは徐々に電圧が減衰していくことが観察された。この2段階の放電反応は、高電位側がバナジウム(3価)からバナジウム(2価)、及びバナジウム(2価)からバナジウム(0価)への反応にそれぞれ対応すると考えられる。
一方で、充電時には0.7V付近から1.1V付近までなだらかに上昇し、1.3V付近でプラトーが観察された。充電初期のなだらかな上昇時にはバナジウム(0価)からバナジウム(2価)への酸化反応が、またプラトーではバナジウム(2価)からバナジウム(3価)への酸化反応が起こっていると考えられる。
なお、図6において、10サイクル時のバナジウム(0価)及びバナジウム(2価)の間での酸化還元反応は減衰していることが確認されたが、図7においても、同反応に対応する定電位側のプラトーまたはショルダーがサイクルを重ねることで消失することが観察された。
これより、第3族〜第14族に属する金属元素を含有する金属塩化物を電極活物質として用い、イオン性液体及び塩化アルミニウム(III)にフッ化炭化水素化合物であるフルオロベンゼンを添加した電解質を用いた電池は、二次電池として動作することが確認できた。
1 電極活物質層
2 電解質層
10 電極体
11 正極活物質層
12 負極活物質層
13 電解質層
14 正極集電体
15 負極集電体
16 電池ケース
20 電池

Claims (5)

  1. 少なくとも電極活物質層及び電解質層を備える電極体であって、
    前記電極活物質層は、第3族〜第14族に属する金属元素を含有する金属塩化物、及び前記金属塩化物の還元体の少なくとも1つである電極活物質を含有し、
    前記電解質層は、塩化物イオン及び有機オニウムカチオンを含むイオン性液体、塩化アルミニウム(III)、並びにフッ化炭化水素化合物を含む電解質を含有することを特徴とする電極体。
  2. 前記電解質における前記フッ化炭化水素化合物の含有量(mol)を[フッ化炭化水素化合物]で表し、
    前記電解質における前記有機オニウムカチオンの含有量(mol)を[有機オニウムカチオン]で表すとき、
    下記式(1)により求められる前記フッ化炭化水素化合物の濃度Y(%)が0.05%〜90%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の電極体。
  3. 前記フッ化炭化水素化合物が芳香族炭化水素化合物のフッ化物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電極体。
  4. アルミニウム電池用電極体であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の電極体。
  5. 負極活物質層、及び前記請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の電極体を備える電池であって、
    前記負極活物質層と、前記電極体における前記正極活物質層とは、前記電極体における前記電解質層を間に介在して配置されることを特徴とする電池。
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