JP2015081836A - 質量分析方法及び質量分析装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】ISDマススペクトルからインソース分解により生成したフラグメントイオンを確実に識別し、ペプチドやタンパク質の同定精度を向上させる。
【解決手段】レーザ光パワーを複数段階に変えてISD-MS分析を行い、それぞれマススペクトルを取得する(S1-S2)。主としてインソース分解により生成されるc系列フラグメントイオンは、主としてクーリングによる意図しない開裂で生成されるb系列イオン等と異なり、低レーザ光パワーにおいて信号強度増加が顕著である。そこで、複数のISDマススペクトルに共通のイオンを基準として各ISDマススペクトルにおいて他のピークの強度を規格化し(S4)、複数のISDマススペクトル間で同じm/zのピークの相対強度を比較する(S5)。その結果により、c系列フラグメントイオンを識別し(S6)、フラグメントイオン情報を利用しつつペプチドの同定等を実施する(S7)。
【選択図】図2

Description

本発明は、マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)イオン源及びイオントラップを具備する質量分析装置を用いた質量分析方法及び該方法に用いられる質量分析装置に関する。
近年、タンパク質やペプチド、糖鎖、核酸などの生体由来の高分子化合物の同定や構造解析に、イオンに対する解離操作を伴う質量分析の手法が盛んに利用されている。イオンを解離させる手法としては、イオントラップやコリジョンセルを用いた衝突誘起解離(CID=Collision Induced Dissociation)がよく用いられているが、イオン源の種類によっては、インソース分解(ISD=In-Source Decay)と呼ばれる手法が用いられることがある。インソース分解はイオン化と同時に又はイオン化の直後にイオン化室内等で生じる開裂のことであり、よく知られているのは、電子イオン化法(EI)によるイオン化の際の分子イオンの開裂である。
MALDI法によるイオン化は一般にソフトなイオン化であると言われ、もともとイオン化に際して開裂を起こしにくいが、例えば試料に照射するレーザ光の強度を高める等、イオン化の際のエネルギを高めることで、生成されたイオンの開裂が促進されることが知られている。特にタンパク質やペプチドを対象とした、MALDIイオン源におけるインソース分解では、レーザ光の照射によってマトリクスから発生した水素ラジカルによりペプチド主鎖のN-Cα結合の開裂が誘起され、主としてc系列イオン及びこれと対になるz系列イオンが生成することが知られている(非特許文献1参照)。こうした現象を利用して、MALDI飛行時間型質量分析装置においてインソース分解で得られたマススペクトルを解析することにより、ペプチドのアミノ酸配列を推定するといった解析が行われている。
なお、以下の説明では、MALDIイオン源におけるインソース分解を利用した質量分析方法を「MALDI−ISD分析」と称す。
ところで、MALDIイオントラップ型質量分析装置やMALDIイオントラップ-飛行時間型質量分析装置などのイオントラップ型質量分析装置では、分析感度及び質量分解能を向上させるために、イオントラップに捕捉されているイオンに対するクーリングがしばしば行われる(特許文献1、非特許文献2など参照)。クーリングを行う際には、不活性ガスであるHeやArなどの希ガスやN2ガス(クーリングガス)などをイオントラップ内に導入し、電場の作用によってイオントラップ内に捕捉されているイオンをこれらのガスと衝突させる。この衝突によってイオンが持つ運動エネルギは失われるため、イオンの自由運動範囲は狭くなり、イオンはイオントラップ内の捕捉空間の中心近傍に集まる。その結果、例えばイオントラップからイオンを射出する際のイオンの初期位置のばらつきが小さくなり、またイオンが持つ初期エネルギのばらつきも小さくなる。これによって、分析感度及び質量分解能が向上する。
しかしながら、上述したクーリング操作においては、イオンとクーリングガスとが衝突するため、意図せぬイオンの開裂(フラグメンテーション)が生じる場合がある。イオントラップ型質量分析装置においてMALDI−ISD分析を実施する場合、試料中の目的化合物由来の分子イオンのほかに、目的化合物由来であってインソース分解により生成されたフラグメントイオンがイオントラップに導入され、イオントラップ内に一時的に捕捉される。このときにクーリングを行うと、目的化合物由来の分子イオンなどがクーリングガスと衝突して開裂する可能性がある。その結果、インソース分解により生成されたフラグメントイオンとクーリングガスとの衝突に起因する意図しないフラグメントイオンとがイオントラップ内で混在し、分析のターゲットであるインソース分解により生成されたフラグメントイオンのイオン系列への帰属が困難になるという問題があった。
特開2005-78810号公報
高山光男、「各種質量分析分解法におけるインソース分解の特徴−Hydrogen-Attachment Dissociation(HAD)」、日本質量分析学会誌、第50巻、第6号、2002年、pp.337-349 田中耕一、ほか1名、「MALDI-QIT-TOF MSnを用いたトップダウンプロテオミクス解析法の試行」、島津評論、2004年10月30日発行、61巻、第1・2号、p.3-10
一般に、MALDI−ISD分析で得られたマススペクトル(以下「ISDマススペクトル」と称す)やCIDを用いたMSnスペクトルには、目的化合物に由来する様々なイオンピークが現れるが、その中で一部のフラグメントイオンだけでもそのイオンの系列が決定されれば、つまりフラグメントイオンが帰属されれば、データベース検索などの解析手法を利用したペプチド配列決定や構造解析の精度が向上する。換言すれば、上述したようにISDマススペクトルで観測されるフラグメントイオンの帰属が困難になると、ペプチドやタンパク質の同定や構造解析も困難になり、その精度や信頼性が低下することになる。
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ペプチドやタンパク質などの化合物に対するMALDI−ISD分析で得られたマススペクトル上で観測される様々なイオンピークの中から、インソース分解によるフラグメントイオンを容易に識別することができ、その結果を用いてペプチドのアミノ酸配列推定やタンパク質同定の精度を向上させることができる質量分析方法及び質量分析装置を提供することである。
イオントラップ内におけるイオンとクーリングガスとの衝突によるイオンの開裂で生じるフラグメントイオンの量は、イオンの内部エネルギが高いほど多くなる。これは、イオンの内部エネルギが高いほど、クーリングガスとの衝突エネルギが大きくなるためである。MALDIイオン源においてイオンの内部エネルギを高める最も容易な方法は、イオン化のために試料に照射されるレーザ光エネルギを高くすることである。また、クーリングガスとの衝突によるイオンの開裂は、一般的に、イオントラップを用いたMS/MS分析で利用される低エネルギ衝突誘起解離と類似しており、ペプチドの低エネルギ衝突誘起解離と同様に、b系列及びy系列イオンが主に生成し、上述したようにMALDI−ISD分析で主に生成するc系列及びz系列イオンは殆ど生成しないことが経験的に分かっている。
こうしたことを踏まえて本願発明者は、MALDI−ISD分析に関する実験を繰り返した。その結果、MALDIイオン源においてレーザ光エネルギを高くすると、インソース分解、イオントラップ内でのクーリングによるイオンの開裂、がいずれも促進されるものの、インソース分解に起因するフラグメントイオン(主としてc系列、z系列イオン)の生成量の増加度合いと、イオントラップ内でのクーリングガスとの衝突に由来するフラグメントイオン(主としてb系列、y系列イオン)の生成量の増加度合いとが有意に異なることを見出した。本願発明者はこのような実験的な知見に基づき本発明をするに至った。
即ち、上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析方法は、マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)イオン源と、イオンを一時的に保持するイオントラップとを具備し、前記イオントラップにより又は該イオントラップとは別に具備された質量分離部により、イオンを質量電荷比に応じて分離して検出する質量分析装置を用いた質量分析方法であって、
a)同一の試料に対し、MALDIイオン源において試料に照射するレーザ光のパワーを複数段階に変化させつつインソース分解を利用した質量分析を行い、それぞれマススペクトルを取得するマススペクトル取得ステップと、
b)前記複数のマススペクトルで観測される任意のピークの信号強度を基準として、その各マススペクトルにおいて他のピークの相対強度を求め、複数のマススペクトルの間で同一の質量電荷比を持つピークの相対強度を比較することにより、該ピークに対応するフラグメントイオンのイオン系列を識別するフラグメントイオン識別ステップと、
を実行することを特徴としている。
また、本発明に係る質量分析装置は、上記本発明に係る質量分析方法を実施するための装置であって、マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)イオン源と、該イオン源で生成されたイオンを一時的に保持するイオントラップとを、具備し、前記イオントラップにより又は該イオントラップとは別に具備された質量分離部により、イオンを質量電荷比に応じて分離して検出する質量分析装置において、
a)同一の試料に対し、MALDIイオン源において試料に照射するレーザ光のパワーを複数段階に変化させつつインソース分解を利用した質量分析を行い、それぞれマススペクトルを取得するべく各部を制御する測定実行制御部と、
b)前記測定実行制御部の制御の下で得られた複数のマススペクトルで観測される任意のピークの信号強度を基準として、その各マススペクトルにおいて他のピークの相対強度を求め、複数のマススペクトルの間で同一の質量電荷比を持つピークの相対強度を比較することにより、該ピークに対応するフラグメントイオンのイオン系列を識別するデータ処理部と、
を備えることを特徴としている。
なお、本発明に係る質量分析装置は、イオントラップ自体でイオンを質量電荷比に応じて分離しつつ該イオントラップから排出し、外部のイオン検出器によりイオンを検出する質量分析装置と、イオントラップからイオンを射出して飛行時間型質量分離器や四重極マスフィルタなどによりイオンを質量電荷比に応じて分離して検出する質量分析装置と、の両方を含む。
また、イオントラップは一般的には3次元四重極型イオントラップであるが、リニアイオントラップでもよい。
MALDIイオン源において試料に照射するレーザ光のパワーを上げると、主としてインソース分解に起因するc系列やz系列のフラグメントイオンの信号強度が増加する。また同時に、主としてイオントラップ内でのクーリングに由来するb系列やy系列のフラグメントイオンの信号強度も増加する。ただし、上述したように、それらのフラグメントイオンの信号強度の増加度合いは異なる。そこで、本発明に係る質量分析方法において、フラグメントイオン識別ステップでは、レーザ光パワーを変えることで得られた複数のマススペクトルにおいて共通に観測される適宜のイオンの信号強度を基準とし、各マススペクトルにおいてその基準以外の他のピークの相対強度を求める。これにより、複数のマススペクトル間の信号強度の比較が可能となるから、その複数のマススペクトルの間で同一の質量電荷比を持つピークの相対強度を比較する。そして、その結果により、インソース分解に由来するフラグメントイオン、つまりc系列イオン及びz系列イオンを識別する。
本願発明者の検討によれば、主としてインソース分解に由来するc系列及びz系列のフラグメントイオンの信号強度は、b系列やy系列のフラグメントイオンに比べて、低いレーザ光パワー(ただし、インソース分解が起こるような、通常の分析時よりは高いレーザ光パワー)の下で相対的に高くなる。そこで、本発明に係る質量分析方法において、好ましくは、上記フラグメントイオン識別ステップでは、相対的に高いレーザ光パワーの下で得られたマススペクトル上のピークの相対強度に比べて、相対的に低いレーザ光パワーの下で得られたマススペクトル上のピークの相対強度比が高くなるイオンを探索し、該イオンをインソース分解に由来するフラグメントイオンであると判断するとよい。
より具体的には、例えば、異なるレーザ光パワーの下での複数のマススペクトルにおける同一質量電荷比のピークの相対強度の差を求め、この差が所定の閾値以上であるピークに対応するイオンをインソース分解に由来するフラグメントイオンであると判断することできる。
本発明に係る質量分析方法及び質量分析装置によれば、例えばペプチドやタンパク質に対するMALDI−ISD分析で得られたマススペクトルから、インソース分解により生成したフラグメントイオンを容易に識別することができる。これにより、ISDマススペクトル中の一部のイオンピークの帰属を定めた上で、ピーク情報をタンパク質同定やペプチドのアミノ酸配列決定のための解析処理に供することができるので、そうした同定や配列決定の精度を一層向上させることができる。
本発明に係る質量分析方法を実施するためのMALDI−IT−TOFMSシステムの一実施例の概略構成図。 本実施例のMALDI−IT−TOFMSシステムにおける特徴的な分析動作の一例を示すフローチャート。 レーザ光パワーを変化させたときのAng2のISDマススペクトルの一例を示す図。 レーザ光パワーを変化させたときのReninのISDマススペクトルの一例を示す図。 レーザ光パワーを変化させたときのACTH18-39のISDマススペクトル(低質量電荷比範囲)の一例を示す図。 レーザ光パワーを変化させたときのACTH18-39のISDマススペクトル(高質量電荷比範囲)の一例を示す図。 図3に示したAng2由来フラグメントイオンの相対強度の比較結果を示す図。 図4に示したRenin由来フラグメントイオンの相対強度の比較結果を示す図。 図5に示したACTH18-39由来フラグメントイオンの相対強度の比較結果を示す図。 図6に示したACTH18-39由来フラグメントイオンの相対強度の比較結果を示す図。
以下、本発明に係る質量分析方法及び該方法を実施するMALDI−IT−TOFMSシステムの一実施例について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施例によるMALDI−IT−TOFMSシステムの概略構成図である。まず、このシステムの構成と基本的な分析動作について説明する。
図1において、MALDIイオン源1は、サンプルプレート10が載置される試料ステージ11と、引出電極13と、イオン収束電極14と、レーザ照射部15と、反射鏡16と、を含む。
サンプルプレート10上には、目的化合物を含み、所定のマトリクスを用いて調製されたサンプル12が形成されている。レーザ照射部15からパルス状に出射されたレーザ光は、反射鏡16を経てサンプル12上の微小領域に集光される。このレーザ光のエネルギによりサンプル12からマトリクスとともに目的化合物が気化し、その際に目的化合物はイオン化される。MALDI−ISD分析を行う場合には、通常の分析(つまりはインソース分解を行わない分析)時よりもレーザ光の強度を高め、目的化合物がイオン化されると同時に又はその直後にイオンの開裂を促進させる。サンプルプレート10の近傍で生成された各種イオンは引出電極13とサンプルプレート10との間に形成されている電場の作用により引き出され、イオン収束電極14により加速されつつ収束されて白抜き矢印の方向に進む。
イオントラップ2は、環状のリング電極20と、該リング電極20を挟んで配置された一対のエンドキャップ電極21、22とから成る、3次元四重極型の構成である。上記のようにMALDIイオン源1から送られてきた各種イオンはイオントラップ2の内部に形成される四重極高周波電場の作用によって一旦捕捉され、ガス供給部4から供給されるクーリングガスとの衝突によるクーリング作用を利用したエネルギの収束が行われる。その後、所定のタイミングでエンドキャップ電極21、22間に印加される直流電圧により、各イオンに所定の初期エネルギが付与され、それらイオンはイオントラップ2から一斉に吐き出されて質量分析部3へと送られる。なお、ガス供給部4からイオントラップ2内にCIDガスを供給し、一時的に捕捉したイオンを共鳴励振させてCIDガスに接触させることでCIDによるイオンの開裂操作を行うことも可能である。ただし、ここではCIDによる意図的な開裂は実施しない。
質量分析部3は、イオンが飛行する飛行空間30と、イオンを反射させる電場を形成する反射器31と、イオンを検出してイオン量に応じた検出信号を出力する検出器32と、を含む。上記のようにイオントラップ2から吐き出されて質量分析部3へと送り込まれた各種イオンは、飛行空間30中を自由飛行し、反射器31により形成される反射電場の作用で折り返されて再び飛行空間30を経て検出器32に到達する。質量分析部3へ導入される時点で各イオンはその質量電荷比に応じた飛行速度を有しており、質量電荷比が小さなイオンほど、早く検出器32に到達する。
検出器32から出力された信号はデータ処理部6に入力される。データ処理部6は、スペクトルデータ格納部61、フラグメントイオン帰属処理部62、タンパク質/ペプチド同定処理部63などの機能ブロックを含むが、これについては後述する。制御部5はサンプル12に対する質量分析を実行するために各部を制御する機能と、付設された入力部6及び表示部7を通したユーザインターフェイスの機能とを有する。なお、この制御部5及びデータ処理部6の機能の少なくとも一部は、コンピュータをハードウエア資源とし、該コンピュータにインストールされた専用のソフトウエアを実行することにより実現する構成とすることができる。
本実施例のMALDI−IT−TOFMSシステムでは、ペプチド又はタンパク質を目的化合物とし、MALDIイオン源1においてインソース分解を促進させ、それによって生成されるフラグメントイオン由来のピークが観測されるISDマススペクトル(擬似的なMS2スペクトル)を解析することで、ペプチドのアミノ酸配列の推定又はタンパク質の同定を行う。その際に、特徴的な測定動作及び該測定によって得られたデータ処理を行うことで、インソース分解により生成されたフラグメントイオンの帰属を行う。
ここで、本実施例のMALDI−IT−TOFMSシステムにおけるフラグメントイオン帰属処理の原理について、実測結果を用いつつ説明する。
実測条件は以下のとおりである。
(1)試料(目的化合物)
(A)Angiotensin II, human[アミノ酸配列:DRVYIHPF](以下「Ang2」と称す)
(B)N-Acetyl-Renin Substrate Tetradecapeptide, porcine[アミノ酸配列:Ac-DRVYIHPFHLLVYS](以下「Renin」と称す)
(C)Adrenocorticotropic hormone fragment 18-39, human[アミノ酸配列:RPVKVYPNGAEDESAEAFPLEF](以下「ACTH18-39」と称す)
(2)マトリクス: 2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-dihydroxybenzoic acid)
(3)質量分析装置:MALDI四重極イオントラップ飛行時間型質量分析計(島津製作所製 AXIMA-Resonance)
(4)サンプルプレート: ステンレス製2mm厚プレート
レーザー光パワーを3段階に変化させて取得した、Ang2のISDマススペクトルの一例を図3に、ReninのISDマススペクトルの一例を図4に、ACTH18-39のISDマススペクトルの一例を図5及び図6に示す。図5と図6とは質量電荷比範囲が相違するだけである。レーザ光パワーは任意単位つまり相対値で、「70」、「80」、及び「90」の3段階である。インソース分解を行わない通常の分析の際のレーザ光パワーは該任意単位で「60」以下であり、ここで用いたレーザ光パワーはいずれもインソース分解が起こり易い条件である。なお、図3〜図6中には、ピークに対応するフラグメントイオンの系列とフラグメント番号とを記載してあるが、測定対象である化合物が未知である場合には、当然、これらは不明である。
レーザ光パワーが相違するISDマススペクトルに現れる同一質量電荷比のピークの強度を比較するために、強度値を相対化(又は規格化)する。図7は、図3に示した各ISDマススペクトルにおいて、適宜に設定した一つの基準イオンに対して他のフラグメントイオンのピーク強度を規格化して求めた相対強度のグラフである。同じく、図8は図4に示した各ISDマススペクトルにおいて、図9は図5に示した各ISDマススペクトルにおいて、図10は図6に示した各ISDマススペクトルにおいて、それぞれ適宜に設定した一つの基準イオンに対して他のフラグメントイオンのピーク強度を規格化して求めた相対強度のグラフである。基準イオンは共通に観測されるイオンの中で適当に定めることができるが、図3及び図7の例ではy7イオン、図4及び図8の例ではy13イオン、図5、図6、図9及び図10の例ではb13イオンを基準イオンとしている。
図7〜図10において、各レーザ光パワーに対応した折線は基準イオンの強度に対する相対強度であるから、異なるレーザ光パワーの下での同一イオンに対する相対強度を比較することで、各イオン強度のレーザ光パワー依存性が明らかになる。即ち、図7〜図10に示すグラフを見ると、いずれの(3種類の)化合物でも、各フラグメントイオンにおいて、高いレーザ光パワーの下で得られたフラグメントイオン強度よりも、低いレーザ光パワーの下で得られたフラグメントイオン強度のほうが相対的に顕著に高くなるイオンが存在することが分かる。そして、こうしたイオンの大多数はc系列イオン、つまりはクーリングの過程では発生しにくく、主としてインソース分解により発生するフラグメントイオンであることが分かる。グラフ上ではこうしたイオンを下向き太線矢印で示している。
以上のことから、インソース分解が促進されるレーザ光パワーの範囲でレーザ光パワーを段階的に変化させてそれぞれISDマススペクトルを取得し、取得した複数のISDマススペクトル中の同一フラグメントイオンの強度を比較することによって、検出された多数のフラグメントイオンの中からISD由来であると推定できるフラグメントイオン(ここではc系列イオン)を識別できると結論付けることができる。本実施例のMALDI−IT−TOFMSでは上記原理を利用してインソース分解によるフラグメントイオンを帰属する。そのための具体的な分析動作について、図2のフローチャートに沿って説明する。
分析が開始されると、制御部5はレーザ照射部15を含むMALDIイオン源1、イオントラップ2、ガス供給部4、質量分析部3をそれぞれ制御し、サンプルプレート10上に用意された同一のサンプル12に対して、イオン化のためのレーザ光パワーを複数段階に切り替えたMALDI−ISD分析をそれぞれ実行する(ステップS1)。データ処理部6においては、検出信号を順次デジタルデータに変換して得られる飛行時間スペクトルデータの飛行時間を質量電荷比に換算することでISDマススペクトルデータを取得し、これをデータ格納部61に格納する。例えば、上記実測例で示したレーザ光パワー「70」と「90」の2段階にレーザ光パワーを切り替えるようにすればよいが、より多段階にレーザ光パワーを切り替えるようにしてもよい。
複数段階のレーザ光パワーの下でのISDマススペクトルデータが得られたならば、フラグメントイオン帰属処理部62は、スペクトルデータ格納部61からISDマススペクトルデータを読み出し、異なるレーザ光パワーに対するISDマススペクトルを作成する(ステップS2)。次に、フラグメントイオン帰属処理部62は、各ISDマススペクトルについてピーク検出を行い、検出された各ピークの質量電荷比及び信号強度をピーク情報として収集する(ステップS3)。
続いて、複数のISDマススペクトルに共通に存在するピーク(質量電荷比が同じ、厳密には所定の許容質量誤差範囲内に入るピーク)の中から予め定めた基準に則って一つのピークを選択し、該ピークに対応するイオンを基準イオンとする。そして、各ISDマススペクトル毎に、その基準イオン以外のピークの強度を基準イオンの強度に対して規格化して相対強度を求める(ステップS4)。これは、例えば図3に示したISDマススペクトルから図7に示したグラフを求める作業に相当する。ただし、当然のことながら、このときには各フラグメントイオンの系列やフラグメント番号は不明であり、単に各ISDマススペクトルにおいて或る質量電荷比におけるピークの相対強度が判明しているだけである。
フラグメントイオン帰属処理部62は、異なるレーザ光パワーの下で得られたISDマススペクトルに対する相対強度のグラフに基づき、質量電荷比が同じ、厳密には所定の許容質量誤差範囲内に入るピークの相対強度を順次比較する(ステップS5)。上述したように、c系列イオンではレーザ光パワーが低い条件で得られた相対強度がレーザ光パワーが高い条件で得られた相対強度よりも大きくなる傾向にある。そこで、例えば同じ質量電荷比であるイオンの相対強度の差が所定閾値以上であるか否かを判定し、所定閾以上であるイオンがc系列イオンであると判断する。ただし、実測例の結果からも明らかなように、全く誤りなくc系列イオンを識別できるわけではないから、自動的にc系列イオンを抽出する処理を行う場合であっても、その処理過程や処理結果を例えば表示部8に表示し、分析者がそれを確認して適宜修正を加えることができるようにしてもよい。
いずれにしても、高い確率でc系列のフラグメントイオンを識別することができることから、識別されたフラグメントイオンをインソース分解により生成されたc系列イオンとして帰属する(ステップS6)。また、それ以外のフラグメントイオンは少なくともc系列ではない系列のイオンとして帰属する。こうして、ISDマススペクトルから得られたピーク情報の中で、一部のピークの帰属が決定されることになる。
そうした帰属の情報を含めたピーク情報がタンパク質/ペプチド同定処理部63に送られる。タンパク質/ペプチド同定処理部63はそうしたピーク情報に基づいて例えばデータベース検索或いはデノボシーケンスサーチを行うことにより、例えばペプチドのアミノ酸配列を推定したりタンパク質を同定したりする(ステップS7)。タンパク質/ペプチド同定処理部63において使用されるアルゴリズムが何であるのかに拘わらず、多数のピークがどのような種類のイオン由来のものであるのかが全く不明であるとアミノ酸配列推定やタンパク質同定の精度が低くなる。それに対し、本実施例のシステムでは、少なくともc系列イオンに関する帰属情報がタンパク質/ペプチド同定処理部63に供されるので、これを一つの手掛かりとしてアミノ酸配列の推定やタンパク質同定を行うことができ、それ故にアミノ酸配列推定やタンパク質同定の精度を高めることができる。
上記実施例による質量分析装置はイオントラップのほかに飛行時間型質量分離器を備えていたが、イオントラップ自体でイオンを質量電荷比に応じて分離しつつ該トラップから順次排出し、その排出されたイオンを該トラップの外部に配置したイオン検出器で検出する構成としてもよい。即ち、本発明に係る質量分析装置において、MALDIイオン源、イオントラップ以外の構成は適宜に変更することができる。また、イオントラップは3次元四重極型イオントラップではなく、リニアイオントラップでもよい。
また、上記実施例は本発明の一例にすぎないから、上記記載以外の点において本発明の趣旨の範囲で適宜に修正、変更、追加などを行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
1…MALDIイオン源
10…サンプルプレート
11…試料ステージ
12…サンプル
13…引出電極
14…加速電極
15…レーザ照射部
16…反射鏡
2…イオントラップ
20…リング電極
21、22…エンドキャップ電極
3…質量分析部
30…飛行空間
31…反射器
32…検出器
4…ガス供給部
5…制御部
6…データ処理部
61…スペクトルデータ格納部
62…フラグメントイオン帰属処理部
63…タンパク質/ペプチド同定処理部
7…入力部
8…表示部

Claims (4)

  1. マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)イオン源と、イオンを一時的に保持するイオントラップとを具備し、前記イオントラップにより又は該イオントラップとは別に具備された質量分離部により、イオンを質量電荷比に応じて分離して検出する質量分析装置を用いた質量分析方法であって、
    a)同一の試料に対し、MALDIイオン源において試料に照射するレーザ光のパワーを複数段階に変化させつつインソース分解を利用した質量分析を行い、それぞれマススペクトルを取得するマススペクトル取得ステップと、
    b)前記複数のマススペクトルで観測される任意のピークの信号強度を基準として、その各マススペクトルにおいて他のピークの相対強度を求め、複数のマススペクトルの間で同一の質量電荷比を持つピークの相対強度を比較することにより、該ピークに対応するフラグメントイオンのイオン系列を識別するフラグメントイオン識別ステップと、
    を実行することを特徴とする質量分析方法。
  2. 請求項1に記載の質量分析方法であって、
    前記フラグメントイオン識別ステップでは、相対的に高いレーザ光パワーの下で得られたマススペクトル上のピークの相対強度に比べて、相対的に低いレーザ光パワーの下で得られたマススペクトル上のピークの相対強度比が高くなるイオンを探索し、該イオンをインソース分解に由来するフラグメントイオンであると判断することを特徴とする質量分析方法。
  3. マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)イオン源と、該イオン源で生成されたイオンを一時的に保持するイオントラップとを、具備し、前記イオントラップにより又は該イオントラップとは別に具備された質量分離部により、イオンを質量電荷比に応じて分離して検出する質量分析装置において、
    a)同一の試料に対し、MALDIイオン源において試料に照射するレーザ光のパワーを複数段階に変化させつつインソース分解を利用した質量分析を行い、それぞれマススペクトルを取得するべく各部を制御する測定実行制御部と、
    b)前記測定実行制御部の制御の下で得られた複数のマススペクトルで観測される任意のピークの信号強度を基準として、その各マススペクトルにおいて他のピークの相対強度を求め、複数のマススペクトルの間で同一の質量電荷比を持つピークの相対強度を比較することにより、該ピークに対応するフラグメントイオンのイオン系列を識別するデータ処理部と、
    を備えることを特徴とする質量分析装置。
  4. 請求項3に記載の質量分析装置であって、
    前記データ処理部は、相対的に高いレーザ光パワーの下で得られたマススペクトル上のピークの相対強度に比べて、相対的に低いレーザ光パワーの下で得られたマススペクトル上のピークの相対強度比が高くなるイオンを探索し、該イオンをインソース分解に由来するフラグメントイオンであると判断することを特徴とする質量分析装置。
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