以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、下記の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、細胞観察に使用できるレーザ顕微鏡100の構造を示す模式図である。レーザ顕微鏡100は、ステージ110、レーザ装置120、走査系130、光学系140、検出系150および制御系160を備える。
レーザ顕微鏡100は、CARS(コヒーレント反ストークスラマン散乱)、SRS(誘導ラマン散乱)等の非線形光学効果を利用して、培養した細胞、組織および微生物等を生かしたまま観察することができる。また、レーザ顕微鏡100は、位相差顕微鏡としても使用できる。
レーザ顕微鏡100において、ステージ110は、レーザ顕微鏡100により観察されるサンプル112を支持する。ステージ110に支持されたサンプル112に対しては、一方の面(図示の例では図中下面)からレーザ光が照射される。また、ステージ110に対して、レーザ光が照射される側とは反対の側から射出されるCARS光を検出して観察画像が形成される。
レーザ装置120は、複数のレーザ光源122、124と、コンバイナ126とを有する。レーザ光源122、124は、CARS光検出による観察に用いられるパルスレーザを発生する。また、レーザ光源122、124が発生するパルスレーザは、互いに異なる波長λP、λSを有する。
レーザ光源122、124としては、例えば、モードロックピコ秒Nd:YVO4レーザ、モードロックピコ秒イットリビウムレーザー等を用いることができる。なお、レーザ光源122、124の一方を、他方のレーザ光源122、124が発生したパルスレーザの波長を変換する光パラメトリック発振器に置き換えてもよい。
レーザ光源122、124により発生した2波長のピコ秒パルスのうち、短い方の波長λPを有するパルスレーザは、CARS光観察におけるポンプ光として利用される。また、レーザ光源122、124の発生するピコ秒パルスのうち、長い方の波長λS有するパルスレーザは、CARS光観察におけるストークス光として利用される。
コンバイナ126は、複数のレーザ光源122、124が発生したレーザ光を統合して単一の光路上に照射光として射出する。これにより、ポンプ光とストークス光とを併せた照射光をサンプル112に照射してCARS光を発生させることができる。
なお、レーザ装置120には、レーザ光源122、124が発生するポンプ光とストークス光とを同期させる目的で遅延光路を設けてもよい。遅延光路は、互いの間隔を変更できる複数の反射鏡により形成できる。また、レーザ装置120においては、フォトニック結晶ファイバを用いてストークス光を広帯域化してもよい。
レーザ顕微鏡100において、走査系130は、ガルバノスキャナ132およびスキャンレンズ134を有する。ガルバノスキャナ132は、互いに向きが異なる2軸の周りを揺動する反射鏡を備え、入射した照射光の光路を、光軸と交差する方向に二次元的に変位させる。スキャンレンズ134は、ガルバノスキャナ132から射出された照射光を、予め定められた一次像面136上に合焦させる。これにより、レーザ装置120から射出された照射光でサンプル112の観察領域を走査させ、予め定められた広さを有する観察領域に照射光を照射できる。
光学系140は、ステージ110に対してレーザ装置120側に配された一対の第一対物レンズ142、144と、ステージ110に対して対物レンズ142、144と反対側に配されたコンデンサレンズ146とを有する。対物レンズ142、144は、互いに同じ開口数(NA)を有し、サンプル112に向かって照射される照射光を、サンプル112における観察領域内で合焦させる。
光学系140の入射端側において、レーザ装置120と対物レンズ142との間の照射光の光路上には、反射鏡148が配される。反射鏡148は、照射光の光路を折り曲げて、レーザ顕微鏡100の構造物が過剰に高くなることを防止する。反射鏡148としては、全反射プリズムではなく、入射光を表面で反射させる金属鏡を用いてもよい。光学系140から射出された光の伝搬光路には検出系150が配される。
検出系150は、集光レンズ152、リレーレンズ154、光電子増倍管156およびダイクロイックミラー158を有し、サンプル112から射出されたCARS光の検出に用いられる。ダイクロイックミラー158は、サンプル112から射出された光からCARS光を分岐させて、集光レンズ152およびリレーレンズ154を通じて光電子増倍管156に導入する。よって、CARS光は、光量を低下することなく、光電子増倍管156に効率よく受光される。
制御系160は、制御部162、キーボード164、マウス166および表示部168を有する。制御部162は、汎用パーソナルコンピュータに後述する制御手順を実行させるプログラムを実装することにより形成できる。
キーボード164およびマウス166は、制御部162に接続され、制御部162にユーザの指示を入力する場合に操作される。表示部168は、キーボード164およびマウス166によるユーザの操作に対してフィードバックを返すと共に、制御部162が生成した画像または文字列をユーザに向かって表示する。
また、制御部162は、レーザ装置120、検出系150および走査系130の各々に接続され、それぞれの動作を制御する。また、検出系150の検出結果に基づいて、表示部168に表示する画像を生成する。また、制御部162は、検出系150の検出結果に基づいて、サンプル112の状態を判定する。
更に、制御系160は、ユーザから受け付けた指示に応じて、レーザ顕微鏡100全体の動作を制御する。また、制御系160は、検出系150の検出結果に基づいて観察画像を生成する。また、制御系160は、サンプル112の状態を反映した判定結果を示す文字列または符号を併せて出力してもよい。
図2は、レーザ顕微鏡100において、被観察物がCARS光を発生するCARS過程を説明する模式図である。CARS過程は、互いに異なる光周波数ω1、ω2を有するポンプ光およびストークス光の二つのレーザ光を含む励起光を被観察物に照射して、ポンプ光の光周波数ω1とストークス光の光周波数ω2との差[ω1−ω2]が、被観察物に含まれる分子の固有振動の角振動数ω0と一致した場合に発生する。
CARS過程により、被観察物に含まれる特定の分子構造の振動モードが励振されると、分子振動が光周波数ω3を有する第3のレーザ光であるプローブ光と相互作用することにより、三次の非線形分極に由来するCARS光がラマン散乱光として発生する。
更に、ポンプ光はプローブ光としても利用できるので、[ω1=ω3]という条件の下で、CARS光が発生する。被観察物において発生するCARS光は、[ωCARS=ω1−ω2+ω3]を満たす光周波数を有する。よって、被観察物から射出されたCARS光を検出することにより、被観察物に含まれる特定の分子構造、例えば官能基の存在を検出できる。更に、照射光を被観察物に照射する位置を変えながら繰り返しCARS光を検出することにより、被観察物における特定の分子構造の分布を画像化することができる。
CARS光は自発ラマン散乱光等に比べると光強度が高いので、光電気変換素子を用いた場合に短時間で検出できる。よって、検出に要する時間が単に短くなるばかりではなく、ビデオレートでの観察もできる。これにより、特定分子構造の分布だけではなく、分布の変化も検出することができる。また、被観察物に照射する照射光の帯域を、生細胞に与えるダメージが少ない赤外帯域とすることにより、被観察物の生細胞を生かしたまま観察することができる。
更に、非線形効果により生じるCARS光は、対物レンズにより照射光が絞り込まれた極めて狭い領域において発生する。このため、CARS光検出の対象となる領域は、照射光の光軸に交差する方向と、光軸と平行な方向の両方に関して狭い領域となる。よって、CARS光による被観察物の観察は、立体的に高い解像度を有する。
よって、赤外帯域または近赤外帯域の照射光を用いて、観察平面を被観察物の内部に形成してもよい。また、観察平面を、被観察物の深さ方向に順次移動させることにより、特定の分子構造の三次元的な分布を反映した画像を生成することもできる。
また更に、被観察物の特定の位置に照射する照射光の光周波数を変化させることにより、当該照射位置から射出されたラマン散乱光の周波数分布を示すスペクトル画像が得られる。また、照射光の光路に対して交差する方向に被観察物を移動させながら照射光を繰り返し照射することにより、第一対物レンズ142の焦点を含む観察平面における特定の分子の分布を画像化して検出画像を生成できる。
図3は、レーザ顕微鏡100においてステージ110に置かれたサンプル112の模式的断面図である。ここで、レーザ顕微鏡100の被観察物になる細胞シート111は、培養容器200に収容された状態で、サンプル112としてステージ110に置かれる。
なお、細胞シート111は、被検者から採取した細胞を培養して作成された、シートをなす細胞組織を意味する。培養された細胞シートは、細胞が生きている状態のまま被検者の生体組織に付着させさて使用される。このため、培養の過程で培養量、細胞生存率等を検査する場合も、細菌等による汚染は厳重に防止される。
レーザ顕微鏡100において、ステージ110には、ステージ110上に置かれた培養容器200の底面を露出させる観察窓114が設けられている。よって、ステージ110に置かれた培養容器200は、底面側からも、上面側からも観察することができる。また、ステージ110に置かれた培養容器200に対しては、底面側からも、上面側からも励起光を照射することができる。
培養容器200は、保持部210および透過部220を有する。保持部210は、樹脂により形成された短い円筒形の形状を有する。保持部210は、円筒形の側壁を形成し、下端面においてステージ110の上面に接する。保持部210の下面中央は、開口部212を形成する。
透過部220は、保持部210により保持され、保持部210の開口部212を液密に封止して、培養容器200の底面を形成する。これにより、培養容器200は、培養液240を漏らすことなく収容できる。また、透過部220により形成された培養容器200の底面は光学的に透明になる。
なお、保持部210は、例えば、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン、シリコーンポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂により形成できる。透過部220は、例えば、カバーガラス等の透明な材料により形成できる。
培養容器200において、透過部220の上面、即ち、培養容器200の内側の底面には、温度応答性ポリマー層230が設けられる。温度応答性ポリマー層230は、例えば、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドにより形成できる。ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドは、30度前後の温度で水和力が変化する。よって、細胞シート111を、酵素処理等によりダメージを与えることなく、培養容器200の底面に固定または開放できる。
なお、温度応答性ポリマー層230の材料はポリ−N−イソプロピルアクリルアミドに限られるわけではなく、(メタ)アクリルアミド化合物、N−イソプロピルアクリルアミドなどのN−(またはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体およびビニルエーテル誘導体のいずれか、または、2種以上を組み合わせて使用できる。また、上記以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、ポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。更に、所与の温度応答性を喪失しない範囲で架橋させて使用することもできる。
上記のような培養容器200において、細胞シート111は、培養液240に浸漬され、温度応答性ポリマー層230により底面に固定された状態で観察される。培養容器200の底面を形成する透過部220は透明なので、レーザ顕微鏡100において、培養容器200に収容したまま細胞シート111に光を照射できる。
図4は、カバー部材300の模式的断面図である。カバー部材300は、透過部310および接触防止部320を有する。透過部310は、培養容器200の透過部220と同様に、カバーガラス等の透明な材料で形成されてカバー部材300の底面を形成する。
筒状の接触防止部320は、透過部310を液密に保持して、カバー部材300の側壁を形成する。また、接触防止部320は、内側に向かって突出する複数の位置決め部330を内面に有する。なお、接触防止部320は、例えば、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン、シリコーンポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂により形成できる。
なお、図示のカバー部材300には、底面に水145の液滴が形成されている。水145は、カバー部材300が対物レンズ142に装着された場合に、対物レンズ142と透過部310との間を充填する。これにより、対物レンズ142の実効的な開口数(NA)をより大きくすることができる。
図5は、カバー部材300の使用状態を示す模式的断面図である。培養容器200に収容された細胞シート111は、サンプル112としてレーザ顕微鏡100のステージ110上に置かれる。
培養容器200における保持部210の下面は平坦に成形されており、培養容器200は、ステージ110の上面に水平に支持される。また、培養容器200における透過部220は、カバーガラスのように平坦なガラス板により形成されている。よって、透過部220の上面に、温度応答性ポリマー層230により固定された細胞シート111も、水平に固定される。
レーザ顕微鏡100において、培養容器200内の培養液に浸漬された細胞シート111を観察する場合、上側の対物レンズ142の先端、即ち、図中下端に、カバー部材300が装着される。なお、対物レンズ142を保持する鏡筒の図中中程には、水平方向外側に向かって突出して設けられたフランジ部147が設けられている。なお、以下の記載においては、フランジ部147が設けられた鏡筒も含めて対物レンズ142と記載する。
カバー部材300は、対物レンズ142の下側から、先端近傍を覆うように嵌め込まれる。これにより、カバー部材300における位置決め部330の上端に形成された突起がフランジ部147の上端の縁に掛かる。これにより、カバー部材300が、対物レンズ142から脱落することが防止される。
また、位置決め部330の下部は、フランジ部147の図中下面に当接する。これにより、カバー部材300の透過部310が対物レンズ142に直接に当接することが規制される。よって、透過部310および対物レンズ142の間には、予め定められた幅の間隙が形成される。
こうして形成された透過部310および対物レンズ142の間隙は、空気よりも屈折率が大きな水145等の液体により充填される。これにより、対物レンズ142の開口数(NA)は、空気中で使用する場合よりも大きくなり、細胞シート111をより高倍率で観察することができる。
また、レーザ顕微鏡100において細胞シート111を観察する場合、対物レンズ142に装着されたカバー部材300の下端近傍は、培養容器200に収容された培養液240に浸漬される。これにより、対物レンズ142を、被観察物である細胞シート111に対して十分に接近させて、高い倍率で観察できる。
レーザ顕微鏡100において、下側の対物レンズ144は、ステージ110の観察窓114を通じて、培養容器200の底面をなす透過部220下面に接近している。これにより、対物レンズ144を、被観察物である細胞シート111に対して十分に接近させることができる。
対物レンズ144と透過部220との間は、空気よりも屈折率が大きな水143等により充填することができる。これにより対物レンズ144の開口数(NA)を、空気中で使用する場合よりも大きくすることができる。
上記のようなレンズ顕微鏡において、細胞シートと111上側の対物レンズ142との間には、培養液240、透過部310および水145が介在する。一方、細胞シート111と下側の対物レンズ142との間には、温度応答性ポリマー層230、透過部220および水143が介在する。この場合、上側の対物レンズ142と下側の対物レンズ144とは、培養液240の光学的な特性と、温度応答性ポリマー層230の光学的特性との相違を除くと、被観察物としての細胞シート111に対して略対称に配置される。
また、上側の対物レンズ142および下側の対物レンズ144は、大きな開口数(NA)を有して、被観察物としての細胞シート111に十分に接近する。これにより、細胞シート111を、大きな倍率で観察することができる。
なお、下側の対物レンズ144と細胞シート111との間に温度応答性ポリマー層230が介在することを考慮して、細胞シート111を観察する場合に照射するレーザ光の波長を、温度応答性ポリマー層230を透過しやすいことを条件として選択してもよい。あるいは、温度応答性ポリマー層230の材料を選択できる場合は、照射するレーザ光の波長に対して透明なものを選択してもよい。
また、培養容器200において、下側の対物レンズ144と細胞シート111とに挟まれる領域の温度応答性ポリマー層230を予め取り除いておいてもよい。これにより、上下の対物レンズ142、144に関して、細胞シート111に対して上下に対称な光学的条件を形成できる。このように、カバー部材300は、レーザ顕微鏡100の一部として形成できる。
なお、カバー部材301の下端部すなわち接触防止部320の下端部の外面は、滑らかな曲面または傾斜面を有する。よって、カバー部材301を培養液240に浸漬させたまま培養容器200に対して相対的に変位させた場合に、培養液240を波立たせて気泡等が生じることを抑制できる。また、カバー部材301の下端のエッジが細胞シート111を損傷することが防止される。
図6は、カバー部材300を用いた観察方法の手順を示す流れ図である。カバー部材300を用いて、レーザ顕微鏡100により細胞シート111を観察する場合は、まず、対物レンズ142とステージ110との間隔を大きく拡げた状態で、対物レンズ142の下端に、カバー部材300を装着する(ステップS101)。対物レンズ142に取り付けられたカバー部材300は、位置決め部330の先端と対物レンズ142の側面との摩擦により自重を支え、対物レンズ142と一体的に取り扱うことができる。
なお、カバー部材300の内部で対物レンズ142と透過部310との間隙を充填する水145は、カバー部材300を対物レンズ142に装着する前に、予めカバー部材300に入れておいてもよい。また、水145は、カバー部材300を対物レンズ142に装着した後に、カバー部材300の中に流し込んでもよい。
次に、サンプル112をレーザ顕微鏡100のステージ110に置く(ステップS102)。即ち、被観察物としての細胞シート111を収容した培養容器200を、レーザ顕微鏡100のステージ110に置く。ここで、培養容器200の保持部210の下面がステージ110の上面に密着して、培養容器200内の細胞シート111は、ステージ110と平行に、水平に固定される。培養容器200の内部において、細胞シート111は培養液240に浸漬されている。
なお、下側の対物レンズ144と培養容器200の透過部220との間隙を充填する水143は、培養容器200をステージ110に置く前に、予め対物レンズ144の上端に保持させておいてもよい。また、水143は、培養容器200をステージ110に置いた後に、対物レンズ144と透過部220との間隙に注いでもよい。
次に、上側の対物レンズ142を下降させて、レーザ顕微鏡100により細胞シート111を観察する(ステップS103)。このとき、図5に示したように、カバー部材300の下端を、培養容器200内の培養液240に浸漬させることにより、対物レンズ142の下端を、培養容器200内の細胞シート111に十分に接近させることができる。よって、レーザ顕微鏡100を用いて、細胞シート111を高い倍率で観察できる。
また、カバー部材300においては、透過部310に液密に結合された接触防止部320が対物レンズ142の下端近傍を包囲しているので、カバー部材300を培養液240に浸漬させても、培養液240が対物レンズ142に接触することが防止される。これにより、対物レンズ142が接触することにより培養液240が汚染されることが防止される。
次に、対物レンズ142を上昇させて、対物レンズ142とステージ110との間を拡げ、培養容器200をステージ110から取り出してサンプル112を回収する(ステップS104)。更に、対物レンズ142からカバー部材300を取り外す(ステップS105)。こうして、ひとつのサンプル112を観察する一連の作業が完了する。
ステップS105において対物レンズ142から取り外したカバー部材300は破棄し、レーザ顕微鏡100により引き続き他のサンプル112を観察する場合は、まだ使用したことのない別のカバー部材300を、ステップS101において、対物レンズ142に装着する。これにより、培養液240には常に清浄なカバー部材300を浸漬させて、汚染を防止できる。
なお、使用後に対物レンズ142から取り外したカバー部材300を洗浄して再利用することもできる。カバー部材の洗浄は、被観察物となるサンプル112の種類に応じて、流水、洗浄剤、ガス、紫外線、放射線等を利用できるが、バリデーションに耐える洗浄をするにはコストと時間がかかる。また、カバー部材300は、接触防止部320を樹脂製とするなどして十分に廉価に製造されているので、再使用せずに破棄してもよい。更に、上記した例では、カバー部材300を取り外して洗浄する例を示したが、カバー部材300を対物レンズ142に取り付けた状態で洗浄または殺菌をしてもよい。
上記のような観察方法により、培養液240に浸漬する対物レンズ142の先端を常に清浄に保ち、被観察物としての細胞シート111の汚染とそれによる損傷を未然に防止できる。カバー部材300は廉価であり、対物レンズ142に対して着脱自在なので簡単に交換できる。これにより、複数のサンプル112を順次観察する場合に、観察者の費用負担および作業負担が増すことが防止される。
更に、ユーザの利便を図り、対物レンズ142に対してカバー部材300を自動的に交換する交換機構を設けてもよい。これにより、カバー部材300の装着忘れ、交換忘れ等を防止して、細胞シート111の汚染を確実に防止できる。
交換機構は、例えば、カバー部材300を搬送する搬送部を備える。搬送部は、搬送アームを有し、複数のカバー部材300を収容する収容ケースから次に使用するカバー部材300を搬送アームで取り出し、ステージ110上に搬送し、対物レンズ142に取り付ける。このとき、搬送アームの移動で対物レンズ142にカバー部材300を取り付けてもよく、対物レンズ142の移動により対物レンズ142にカバー部材300を取り付けてもよい。
観察後、カバー部材300を対物レンズ142から搬送アームにより取り外し、収容ケースに回収する。搬送アームは、新たなカバー部材300を収容ケースから取り出し、次の観察が開始する前に、対物レンズ142にカバー部材300を取り付ける。
また、交換機構は、対物レンズ142をレーザ顕微鏡100から取り外して搬送するレンズ搬送部を更に備えてよい。この場合、対物レンズ142を取り付けるための取付ステージを別途設け、レンズ搬送部により対物レンズ142を取付ステージに搬送し、上記搬送アームで搬送したカバー部材300を取付ステージで対物レンズ142に取り付ける。カバー部材300が取り付けられた対物レンズ142は、レンズ搬送部によりレーザ顕微鏡に取り付けられる。
更に、例えば、複数の対物レンズ142を設け、一つの対物レンズ142が使用されている間に、他の対物レンズ142にカバー部材300を取り付けてもよい。この場合、複数の対物レンズ142を、被観察物を観察する観察位置と、対物レンズ142の着脱が行われる着脱位置との間で移動可能に設けてもよい。着脱位置に移動した対物レンズ142に取り付けられているカバー部材300は、上記搬送部で取り外され、収容ケースに回収される。
対物レンズ142から取り外されたカバー部材300を洗浄殺菌装置に搬送し、そこで洗浄または殺菌を行ってもよい。カバー部材300の搬送は上記搬送部により行ってもよい。また、上記収容ケース内に洗浄殺菌機構を設け、収容ケース内で洗浄または殺菌を行ってもよい。
図7は、他のカバー部材301の構造と使用状態を示す模式的断面図である。ステージ110を含むレーザ顕微鏡100と、被観察物としての細胞シート111を収容した培養容器200とは、図5に示した例と変わらないので、同じ要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
図示のカバー部材301は、透過部310および接触防止部320に加えて、支持部340を有する。また、カバー部材301は、接触防止部320の内面から内側に突出して、対物レンズ142の側面に接する位置決め部330を有する。この位置決め部330は、カバー部材301の高さ方向については、位置決めはしない。
支持部340は、水平方向について、培養容器200の外側まで延在し、更に、図中下方に伸びて、下端の接地部342においてステージ110の上に接する。これにより、カバー部材301は、ステージ110に対して位置決め固定される。また、支持部340によりカバー部材301がステージ110に対して位置決めされた場合、接触防止部320の下端に固定された透過部310は、ステージ110上に置かれた培養容器200内の培養液240に浸漬される。
更に、カバー部材301がステージ110上に置かれている場合、対物レンズ142を、接触防止部320の上方からカバー部材301の内部に挿入することができる。挿入された対物レンズ142の先端(下端)と透過部310との間隙は、水145が充填される。これにより、対物レンズ142の実効的な開口数(NA)をより大きくすることができる。
また、カバー部材301に挿入された対物レンズ142に対しては、接触防止部320の位置決め部330が、対物レンズ142の側面に接する。この状態で対物レンズ142が培養容器200に対して水平方向に相対的に変位した場合、カバー部材301は、対物レンズ142に追従してステージ110に対して水平方向に相対的に変位する。よって、カバー部材301を用いた場合は、被観察物としての細胞シート111において、水平方向に異なる位置を観察することができる。
なお、カバー部材301の外周面と下端面は、滑らかな曲面または傾斜面により結合されている。よって、カバー部材301を培養液240に浸漬させたまま培養容器200に対して相対的に変位させた場合に、培養液240を波立たせて気泡等が生じることを抑制できる。また、カバー部材301の下端のエッジが細胞シート111を損傷することが防止される。このように、カバー部材301は、レーザ顕微鏡100の一部として形成することができる。
図8は、カバー部材301を用いた観察方法の手順を示す流れ図である。カバー部材301を用いて、レーザ顕微鏡100により細胞シート111を観察する場合は、まず、対物レンズ142とステージ110との間隔を大きく拡げた状態で、細胞シート111を収容した培養容器200を、サンプル112としてステージ110に置く(ステップS201)。
なお、下側の対物レンズ144と培養容器200の透過部220との間隙を充填する水143は、培養容器200をステージ110に置く前に、予め対物レンズ144の上端に保持させておいてもよい。また、水143は、培養容器200をステージ110に置いた後に、対物レンズ144と透過部220との間隙に注いでもよい。
次に、ステージ110の上に、培養容器200に重ねてカバー部材301を置く(ステップS202)。これにより、カバー部材301における透過部310と、接触防止部320の下端近傍は、培養容器200内の培養液240に浸漬される。
次いで、対物レンズ142を下降させて、対物レンズ142の下端をカバー部材301の接触防止部320の内側に挿入する。カバー部材301の下端は既に培養液240に浸漬されているので、対物レンズ142は、細胞シート111に十分に接近させることができる。こうして、対物レンズ142を用いて、培養容器200内に固定された細胞シート111を、レーザ顕微鏡100により観察する(ステップS203)。
なお、対物レンズ142と透過部310との間隙を充填する水145は、対物レンズ142を挿入する前に、カバー部材301に入れておいてもよい。また、また、水145は、対物レンズ142をカバー部材301に挿入した後に、カバー部材301の中に流し込んでもよい。
次に、対物レンズ142を上昇させて、対物レンズ142をカバー部材301から抜き取り、次いで、ステージ110からカバー部材301を取り外す(ステップS304)。カバー部材301は、ステージ110に対して着脱自在なので、容易に取り外すことができる。更に、培養容器200をステージ110から取り出してサンプル112を回収する(ステップS205)。こうして、細胞シート111を観察する一連の作業が完了する。
図7に示した例では、カバー部材301が支持部340を有する例を示したが、これに代えて、ステージ110に該ステージから立つ支持部を設け、この支持部上にカバー部材301を載置してもよい。この場合、カバー部材301の接触防止部320の側面から支持部上に伸びる延在部を設ける。
図9は、他のカバー部材302を含む観察器具401の構造とその使用状態を示す模式的断面図である。ステージ110を含むレーザ顕微鏡100と、被観察物としての細胞シート111を収容した培養容器200とは、図5に示した例と変わらないので、同じ要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
図示のカバー部材302は、透過部310および接触防止部320に加えて、支持部340を有する。カバー部材302において、透過部310および接触防止部320の形状は、カバー部材300と変わらない。ただし、接触防止部320の内面に位置決め部330は設けられていない。
カバー部材302において、支持部340は、水平方向について、培養容器200の外側まで延在し、培養容器200の保持部210の上端に載っている。また、支持部340における培養容器200外側の端部は、僅かに下方に伸びてフランジ部344を形成する。これにより、カバー部材302は、対物レンズ142でもステージ110でもなく、培養容器200に対して固定される。カバー部材302が培養容器200に対して固定された場合、接触防止部320の下端に固定された透過部310は、培養容器200内の培養液240に浸漬される。
更に、カバー部材302が固定された培養容器200がステージ110上に置かれた場合、対物レンズ142を、接触防止部320の上方からカバー部材302の内部に挿入できる。挿入された対物レンズ142の先端(下端)と透過部310との間隙は、水145により充填される。これにより、対物レンズ142の実効的な開口数(NA)をより大きくすることができる。
図10は、カバー部材302を用いた観察方法の手順を示す流れ図である。カバー部材302を用いて、レーザ顕微鏡100により細胞シート111を観察する場合は、まず、カバー部材302を培養容器200に装着して固定する(ステップS301)。
これにより、カバー部材302における透過部310と、接触防止部320の下端近傍は、培養容器200内の培養液240に浸漬される。カバー部材302は培養容器200に対して着脱自在ではあるものの、以後、培養容器200と一体的に取り扱われる。
次に、カバー部材302を装着された培養容器200は、ステージ110の上に置かれる(ステップS302)。培養容器200をステージ110上に置いた後に、カバー部材302を培養容器200に装着してもよい。下側の対物レンズ144と培養容器200の透過部220との間隙を充填する水143は、培養容器200をステージ110に置く前に、予め対物レンズ144の上端に保持させておいてもよい。また、水143は、培養容器200をステージ110に置いた後に、対物レンズ144と透過部220との間隙に注いでもよい。
次に、対物レンズ142を下降させて、対物レンズ142の下端をカバー部材302の接触防止部320の内側に挿入する。カバー部材302の下端は既に培養液240に浸漬されているので、対物レンズ142を、被観察物である細胞シート111に十分に接近させることができる。こうして、対物レンズ142を用いて、培養容器200内に固定された細胞シート111を、レーザ顕微鏡100により観察する(ステップS303)。
なお、対物レンズ142と透過部310との間隙を充填する水145は、対物レンズ142を挿入する前に、カバー部材302に入れておいてもよい。また、また、水145は、対物レンズ142をカバー部材302に挿入した後に、カバー部材302の中に流し込んでもよい。
次に、対物レンズ142を上昇させて、対物レンズ142をカバー部材302から抜き取り、次いで、ステージ110からカバー部材302および培養容器200を取り出す(ステップS304)。更に、培養容器200からカバー部材302を取り外す(ステップS305)。こうして、細胞シート111を観察する一連の作業が完了する。
なお、カバー部材302を使用した上記の一連の手順において、培養容器200にカバー部材302を装着する段階(ステップS301)と、培養容器200からカバー部材302を取り外す段階(ステップS305)とは省いてもよい。即ち、カバー部材302を、培養容器200の蓋として当初より装着したままとし、レーザ顕微鏡による観察後も、カバー部材302を培養容器200の蓋として用いてもよい。これにより、同じサンプル112を再度観察する場合に、別のカバー部材302を用いなくてもすむ。また、カバー部材302の着脱の手間も省かれる。
図11は、他のカバー部材303を含む観察器具402の構造と使用状態を示す模式的断面図である。図中、ステージ110を含むレーザ顕微鏡100と、被観察物としての細胞シート111を収容した培養容器200とは、図5に示した例と変わらない。また、カバー部材303は、次に説明する部分を除くと、図9に示したカバー部材302と同じ構造を有する。よって、同じ要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
カバー部材303においては支持部340が、培養容器200の保持部210よりも外側まで水平に拡がっている点に固有の構造を有する。また、支持部340の外周縁部に設けられたフランジ部344は、培養容器200の外周面から離れている。
更に、カバー部材303は、接触防止部320の内面から内側に向かって突出する位置決め部330を有する。位置決め部330は、対物レンズ142の側面に当接して、対物レンズ142に対するカバー部材303の水平方向の相対位置を位置決めする。
このような構造により、対物レンズ142が培養容器200に対して水平方向に相対的に変位した場合に、カバー部材303は、対物レンズ142に追従して、培養容器200に対して水平方向に相対的に変位する。よって、カバー部材303を用いた場合、被観察物としての細胞シート111において、水平方向に異なる複数の位置を観察できる。
なお、カバー部材303における接触防止部320の外周面と下端面とは滑らかな曲面または傾斜面により結合されている。よって、カバー部材303を培養液240に浸漬させたまま培養容器200に対して相対的に変位させた場合に、培養液240を波立たせて気泡等が生じることが抑制される。また、カバー部材303の下端のエッジが細胞シート111を損傷することが防止される。
図12は、他のカバー部材304を含む観察器具403の構造と使用状態を示す模式的断面図である。観察器具403は、カバー部材304と、カバー部材304を装着した培養容器200とを有する。図12において、ステージ110を含むレーザ顕微鏡100と、被観察物としての細胞シート111を収容した培養容器200とは、図5に示した例と変わらないので、同じ要素に同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
図示のカバー部材304は、共通の単一の支持部340に対して、複数組の透過部310および接触防止部320を有する点において、図9に示したカバー部材302と異なっている。また、カバー部材304のフランジ部344は、培養容器200の側面から突出したキー250と嵌合するキー溝350を有する。
上記のようなカバー部材304を用いた場合、図9に示したカバー部材302を使用する場合と同様に、図10に示した手順でレーザ顕微鏡100による細胞シート111の観察を実行できる。更に、カバー部材304は、位置の異なる複数の透過部310を有するので、培養容器200に収容された細胞シート111の異なる位置を、カバー部材304を取り外すことなく、また、カバー部材304を移動させることなく観察できる。
図13は、図12に示した観察器具403の斜視図である。なお、図12に示した断面は、図13において矢印Sで示す断面に相当する。観察器具403のカバー部材304において、複数の透過部310の各々は、接触防止部320の下端に液密に保持される。また、透過部310を保持した接触防止部320は、円形の支持部340において2次元的に配列される。
培養容器200の保持部210の上端に載っているので、カバー部材304は、培養容器200に対して垂直方向に位置決めされる。また、カバー部材304におけるフランジ部344が、培養容器200の保持部210の周囲を包囲するので、カバー部材304は、水平方向について培養容器200に対して固定される。
更に、培養容器200から外向きに突出したキー250と、フランジ部344に形成されたキー溝350とが嵌合するので、カバー部材304は、培養容器200に対して回転を規制される。一方、既に説明した通り、被観察物としての細胞シート111は、温度応答性ポリマー層230により培養容器200に対して固定されている。よって、カバー部材304における複数の透過部310と、培養容器200に収容された細胞シート111との位置関係は固定され、複数の透過部310から培養容器200内の細胞シートを観察する場合に、使用する透過部310に応じて、細胞シート111の決まった位置を観察できる。
なお、カバー部材304も、培養容器200の蓋として使用し続けることができる。ただし、カバー部材304を蓋として用いる場合は、図13に点線で示すように、気体を透過できる止水弁360を設けて、培養容器200に収容された細胞シート111の呼吸を妨げないことが好ましい。
本実施例では、被観察物として細胞シートを用いた例を示した。しかしながら、細胞シートに代えて、シート状をなさない細胞、例えば皮膚の断片のような組織、細菌のような微生物等の観察に、本発明を用いることができる。細胞の種類も、人工多機能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)等を用いてもよい。
以上、実施の形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。