以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施できる。
[シリカ多孔質膜]
本発明のシリカ多孔質膜は、下記(1)〜(3)を満たすものであり、好ましくは、更に下記(4)を満たし、表面粗さ(Ra)が好ましくは0.2〜20nmであるものである。
(1)シリカ多孔質膜の表面から深さ方向10nmの位置までの領域において、X線光電子分光法(XPS)によって元素分析することにより算出される、炭素原子、酸素原子、フッ素原子及びケイ素原子の合計数に対するフッ素原子数の割合が35原子%を超え、酸素原子数の割合が30原子%以下である。
(2)シリカ多孔質膜の表面から深さ方向10nmの位置から、該表面から深さ方向40nmの位置までの領域において、深さ方向のXPS分析によって元素分析することにより算出される、炭素原子、酸素原子、フッ素原子及びケイ素原子の合計数に対するフッ素原子数の割合が15原子%以下である。
(3)屈折率が1.35以下である。
(4)シリカ多孔質膜の表面から深さ方向10nmの位置までの領域において、XPSによって元素分析することにより算出される、炭素原子、酸素原子、フッ素原子及びケイ素原子の合計数に対するフッ素原子数の割合が80原子%以下であり、酸素原子数の割合が5原子%以上である。
なお、以下において、本発明における、シリカ多孔質膜の表面から深さ方向10nmの位置までの領域(以下、「最表層」と称する場合がある。)において、X線光電子分光法(XPS)によって元素分析(以下、この分析を「表面元素分析」と称す場合がある。)することにより算出される、炭素原子、酸素原子、フッ素原子及びケイ素原子の合計数に対するフッ素原子数の割合を「最表層フッ素量」と称し、シリカ多孔質膜の表面から深さ方向10nmの位置から、該表面から深さ方向40nmの位置までの領域(以下、「第2表層」と称す場合がある。)において、深さ方向のXPS分析によって元素分析(以下、この分析を「深さ方向元素分析」と称す場合がある。)することにより算出される、炭素原子、酸素原子、フッ素原子及びケイ素原子の合計数に対するフッ素原子数の割合を「第2表層フッ素量」と称す場合がある。
また、シリカ多孔質膜の表面から深さ方向10nmの位置までの領域(最表層)において、XPSによって表面元素分析することにより算出される、炭素原子、酸素原子、フッ素原子及びケイ素原子の合計数に対する酸素原子数の割合を「最表層酸素量」と称す場合がある。
<XPS元素分析>
本発明において、シリカ多孔質膜のX線光電子分光法(XPS)による表面及び深さ方向の元素分析は、アルバック・ファイ社製XPS装置(モデル名Quantum2000)を用いて、以下の条件で測定、解析を行った値をいう。
(表面元素分析測定)
X線源には単色化したAl−Kα線を用い、出力は17kV−34Wとした。試料表面の300μm×300μmの領域でX線を走査し、発生した光電子を分光した。XPS定時には電子線とArイオンを同時に照射して、試料の帯電を中和した。
(深さ方向分析)
深さ方向分析には2kVに加速したArイオンを用い、ArイオンスパッタとXPS測定とを交互に行って深さ方向の組成変化を追跡した。深さ(nm)の換算には、熱酸化Siウエハー(酸化膜厚100nm)を実測して得たスパッタレートを用いた。
(測定結果の解析)
XPS測定で得られた各元素の光電子ピークについて、シャーリー法に基づきバックグラウンド除去処理を行った後の面積強度を求め、装置メーカーから提供された相対感度補正係数を用いて原子濃度を算出した。
<最表層フッ素量>
本発明のシリカ多孔質膜の最表層フッ素量は、35原子%を超えるものであり、38原子%以上が好ましく、42原子%以上であることがより好ましい。
また上限値は特に限定されないが、通常85原子%以下、好ましくは80原子%以下、より好ましくは75原子%以下、さらに好ましくは67原子%以下である。特に最表層フッ素量を67原子%以下とすることは、フッ素原子間の反発による膜強度の低下を抑えることができるため特に好ましい。
シリカ多孔質膜の最表層フッ素量を35原子%を超えるものとすることで、膜の表面自由エネルギーが低下し、十分に表面摩擦係数が低下し、その結果、十分な耐摩耗性を得ることができる。
<第2表層フッ素量>
本発明のシリカ多孔質膜の第2表層フッ素量は、15原子%以下であり、11原子%以下が好ましく、7原子%以下がより好ましい。
最表層の物性だけでは膜の耐摩耗性を向上させるには十分ではなく、その下地層となる第2表層の物性が最表層の性能を発現させるために重要な役割をすることを見出した。シリカ多孔質膜の深さ方向、即ちシリカ多孔質膜内部に存在するフッ素原子は、シリカ多孔質膜の耐摩耗性を損なう原因となる。これは、フッ素原子は表面エネルギーが小さい反面、分子間凝集エネルギーも小さいため、膜内部のフッ素原子がシリカ多孔質膜内のシラン縮合体間の凝集力を低下せしめ、その結果、シリカ多孔質膜の強度を低下させるためである。
一方、第2表層フッ素量の下限値は特に限定されないが、通常0.1原子%以上、好ましくは0.2原子%以上、特に好ましくは0.3原子%以上である。第2表層フッ素量をこの下限値以上とすることで、最表層と第2表層の界面の自由エネルギー差を比較的小さく抑えることができ、最表層が剥離する可能性を十分に低下させることが可能になる。また、上記下限値以上にすることで、第2表層に侵入したフッ素材料によるアンカー効果による密着性の向上も期待できる。比較的大きなアンカー効果を期待する場合には、1原子%以上とすることがよい。
シリカ多孔質膜の耐摩耗性、耐擦傷性においては、シリカ多孔質膜の最表面の物性だけでなく、ある一定の深さ(表面と結合する界面層)の物性が大きく左右する。本発明では、上記のようにシリカ多孔質膜の最表層フッ素量と第2表層フッ素量を規定することにより、最表面の表面エネルギーを制御しつつ、表面から深さ方向40nmの領域の膜強度を制御することで、膜の耐摩耗性を著しく向上させることが可能となる。
<最表層酸素量>
本発明のシリカ多孔質膜の最表層酸素量は30原子%以下である。本発明のシリカ多孔質膜の最表層酸素量は25原子%以下が好ましく、特に20原子%以下が好ましい。一方、下限値としては、通常1原子%以上、好ましくは3原子%以上、特に好ましくは5原子%以上である。
特に、本発明のシリカ多孔質膜において、最表層酸素量を少なくすることにより、未反応の官能基を少なくできる。この未反応官能基には水、アルコールなどの不純物が表面及びその近傍に多量に存在している可能性があり、これらを減らすことにより、耐摩耗性だけではなく、防汚性も向上させることができる。さらに、これらの水、アルコールなどの不純物によって加水分解及び加溶媒分解が進行してシロキサン結合を切断してしまい、膜強度を低下させることを防ぐことができる。その結果、使用される雰囲気にもよるが、高い耐摩耗性を維持することができると期待される。
一方、本発明のシリカ多孔質膜の最表層酸素量の下限値としては、通常1原子%以上、好ましくは3原子%以上、特に好ましくは5原子%以上である。特に最表層酸素量を5原子%以上とすることにより、最表層とその下の第2表層との境界面で十分なシロキサン結合の量を確保でき、耐摩耗性を向上させることができる。
<多孔質構造>
本発明のシリカ多孔質膜は、屈折率を低く維持するために空孔を有した多孔質構造を有する。その構造は特に制限はなく、その空孔は、通常、トンネル状や独立空孔がつながった連結孔であるが、詳細な空孔の構造にも特に制限はない。ただし、当該空孔の構造としては耐摩耗性の観点から、小さな細孔が不連続に存在するような多孔質構造が好ましい。
本発明のシリカ多孔質膜の細孔径は、特に制限は無いが、平均細孔径は通常100nm以下、耐摩耗性を重視する場合には好ましくは10nm以下、より好ましくは7nm以下であり、5nm以下が最も好ましい。また平均細孔径の下限値としては特に制限されないが、通常0.3nm以上、好ましくは0.4nm以上、より好ましくは0.5nm以上である。シリカ多孔質膜の平均細孔径を上記下限値以上とすることで、多孔質膜中に水分子が吸着され、屈折率が上昇してしまう可能性がなくなる。一方、細孔径が大きすぎると、表面に欠陥ができ、表面性が悪化したり、散乱等のヘーズが生じる危険性がある。また、膜の強度が著しく低下し、耐摩耗性を損ねる可能性がある。特に平均細孔径を10nm以下とすることにより、細孔内の空気領域とシリカバルク領域の間の屈折率差によって生じる光散乱および反射が起こるような光の波長範囲を狭め、幅広い波長領域に亘って透明な光学材料としての応用が可能となり好ましい。また、平均細孔径を上記の値以下にすることにより、後述の方法1の手法で最表層を形成する際にシリカ多孔質膜内へ、フッ素原子が必要以上に浸透しないようにすることができる。これら細孔径の制御は、シリカ多孔質膜の製造に用いる鋳型材の種類、シリカ粒子の粒径制御、などの方法により行うことができる。
本発明のシリカ多孔質膜の空隙率には特に制限はないが、平均空隙率は5%以上、より好ましくは10%以上、特に好ましくは20%以上である。平均空隙率を上記下限以上とすることにより、十分に小さい屈折率が得られやすくなる。一方、平均空隙率の上限値としては好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、最も好ましくは80%以下である。平均空隙率を上記上限値以下にすることで、表面に欠陥ができにくく、表面性が悪化したり、散乱等のヘーズが生じにくくなる。また、膜の強度を十分に得ることができ、十分な耐摩耗性を得ることができる。
なお、本発明のシリカ多孔質膜の平均細孔径および平均空隙率は、気体(N2,Ar等)吸着等温線の測定結果から算出できる。また、平均空隙率については、シリカ多孔質膜の屈折率の値からも見積もることができる。
<厚さ>
膜状である本発明のシリカ多孔質膜の厚さには特に制限はないが、光学機能層として用いるためには、0.02〜5μmが好ましく、0.03〜4μmがより好ましく、0.04〜3μmがさらに好ましく、0.05〜2μmが最も好ましい。シリカ多孔質膜の厚さが上記下限値以上であると、後述の本発明のシリカ多孔質膜を形成する基材の平面度を過度に向上させる必要もなく、基材の大面積化において、製膜工程が困難になることがない。一方、シリカ多孔質膜の厚さが上記上限値以下であると、本発明のシリカ多孔質膜製造時の後述の加熱工程において、シリカ系前駆体膜−基材界面でゾル−ゲル反応の進行が不均質になることを防止して、得られるシリカ多孔質膜に歪みが残存することを防止することができる。尚、膜厚が40nm以下の場合には、本発明の要件である、第2表層、即ち、シリカ多孔質膜の表面から深さ方向10nmの位置から、該表面から深さ方向40nmの位置までの領域は、該10nmの位置から、膜の設けられている基材までの領域とみなすものとする。例えばシリカ多孔質膜の厚さが0.03μm=30nmである場合には、シリカ多孔質膜の表面から深さ方向10nmから30nmまでを、第2表層、即ち、「シリカ多孔質膜の表面から深さ方向10nmの位置から、該表面から深さ方向40nmの位置までの領域」とみなす。
なお、シリカ多孔質膜の膜厚は、反射率測定結果から算出することができる。
<屈折率>
本発明のシリカ多孔質膜の屈折率は1.35以下である。前述のように、本発明のシリカ多孔質膜は、容易に入手できる化合物として最も低い屈折率であるMgF2の一般的な屈折率である1.35以下であることがより好ましく、特に好ましくは1.33以下である。屈折率を上記上限値以下とすることにより、本発明のシリカ多孔質膜中の歪みを小さくでき、外力に対して強くすることができる。一方、屈折率の下限は、通常1.05以上、好ましくは1.1以上、特に好ましくは1.15以上である。屈折率をこの下限値以上とすることで、最表層と第2表層間の接触面積を十分にとることができ、本発明のシリカ多孔質膜の機械的強度を十分に保つことができる。
本発明において、シリカ多孔質膜の屈折率は、分光エリプソメーター法、反射率測定、反射分光スペクトル測定或いはプリズムカプラーなどの光学的手法で測定された波長400nm〜700nmにおける値をいい、好ましくは分光エリプソメーターで測定されたものをいう。分光エリプソメーターで測定する場合、測定値をCauthyモデル又はTauc−Lorentzモデルでフィッティングすることで、屈折率を見積もることができる。また、反射率測定で測定する場合は、測定結果からフレネルの式を用いることで、屈折率を見積もることができる。
<表面粗さ(Ra)>
本発明のシリカ多孔質膜は、表面粗さ(Ra)が20nm以下であることが好ましく、より好ましくは19nm以下、更に好ましくは18nm以下、更に好ましくは17nm以下、特に好ましくは15nm以下、とりわけ好ましくは13nm、最も好ましくは11nm以下である。表面粗さ(Ra)を上限値以下にすることで、摩耗時に、凸部へ応力が集中し局所的な凝集破壊が発生しにくくなり、耐摩耗性が向上する。また、シリカ多孔質膜の均質性も保ちやすい。一方、表面粗さ(Ra)の下限に制限は無いが、通常0.2nm以上、好ましくは0.3nm以上である。表面粗さ(Ra)を上記下限値以上とすることでシリカ多孔質膜の歪みをより小さく抑えることができる。さらに膜に残留する応力が小さいことは、外力が加わった際に損傷を受けにくく、耐摩耗性に対しても悪影響を及ぼす危険性が低い。
なお、本発明のシリカ多孔質膜の表面粗さ(Ra)は、JIS B0601:2001に規定されている基準に基づき、ケ−エルエー・テンコール社製P−15型接触式表面粗さ計を用いて、1走査距離0.5μmの条件で数回測定した値から、平均値を算出して求めることができる。
<シリカ骨格>
本発明のシリカ多孔質膜を構成するシリカ骨格内にはアルキル基を有することが好ましい。即ち、シリカ骨格中にアルキル基、特にメチル基あるいはエチル基を導入することにより、シリカ多孔質膜の表面自由エネルギーを低減し、それによって、後述の本発明のシリカ多孔質膜の製造工程において、一般に小さな表面自由エネルギーを有する含フッ素化合物とシリカ多孔質膜骨格との間の表面自由エネルギー差を低減することで、フッ素含有コートの多孔質膜に対する濡れ性を高め、シリカ多孔質膜表面でのはじきによって生じる途工ムラを抑制することができ、前記(1)〜(3)を満たす本発明のシリカ多孔質膜を容易に製造することができるようになる。
シリカ骨格内にアルキル基を有するシリカ多孔質膜は、後述の本発明のシリカ多孔質膜の製造方法において、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物として、後述のアルキルアルコキシシランを含むものを用いることにより得ることができる。
[シリカ多孔質膜の製造方法]
本発明のシリカ多孔質膜の製造方法には特に制限はない。
一般的な方法としては、1.シリカ多孔質膜形成後に表面処理としてフッ素含有コート(後述のフッ素含有シランおよび/またはその重合体を含有する表面処理用組成物による表面処理)を行う方法、2.シリカ多孔質膜形成用組成物中に、この組成物に含まれる溶質分子、固形物よりも十分に低い表面自由エネルギーを有するフッ素含有化合物を添加した組成物を用いて成膜することにより、フッ素含有量の高い層を分離して形成する方法、3.フッ素化合物とシリカ多孔質膜最表面が接触した状態で、界面およびその近傍に選択的に電気、熱、ないしは光エネルギーを加える方法、及び4.これらの製法を組み合わせた方法、を用いることができる。このうち、最も簡便なのは1.のシリカ多孔質膜形成後に表面処理としてフッ素含有コートを行う方法である。以下の説明では、本発明を理解しやすいよう1.の方法(以下、「方法1」と称す場合がある。)に加え、2.の方法(以下、「方法2」と称す場合がある。)を用いる場合を含め記載する形をもって、本発明のシリカ多孔質膜の製造方法の一例を説明するが、本発明のシリカ多孔質膜の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
本発明のシリカ多孔質膜は、例えば、アルコキシシラン、水、及び有機溶媒を含む組成物(以下、「本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物」又は「本発明の組成物」と称す場合がある。)を用いて製造される。
本発明のシリカ多孔質膜を製造するには、まず、原料となる本発明の組成物を調合し、これを膜化した後、加熱して本発明のシリカ多孔質膜を得る。
通常、アルコキシシラン、水、有機溶媒、必要に応じてフッ素含有シラン、鋳型材としての有機ポリマーを含む組成物を基板上に塗布(製膜工程)してシリカ系前駆体膜を形成し、必要に応じて有機ポリマーの抽出工程を経てシリカ多孔質膜を有する積層体を得る。
また、本発明のシリカ多孔質膜の製造においては、必要に応じて、その他の操作を行なってもよい。即ち、本発明の効果を著しく損なわない限り、以下に説明する各工程の前、工程中及び工程後の任意の段階で、任意の工程を行なってもよい。例えば、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物の調合中又は調合後に熟成を行なってもよく、硬化後の本発明のシリカ多孔質膜の冷却及び後処理などを行なってもよい。
{本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物}
まず、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物について、その配合成分、調合方法を説明する。
<アルコキシシラン>
アルコキシシランとしては、テトラアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシラン、これらの加水分解物及び部分縮合物(アルコキシシランオリゴマー等)などが挙げられる。
アルコキシシランは、2種以上併用することが好ましく、また、これらのアルコキシシランの加水分解物及び部分縮合物を含むことが好ましい。アルコキシシランを2種以上併用することにより、その配合比率を制御することにより、形成されるシリカ骨格の強度と屈折率を制御することが可能であるという利点がある。
(テトラアルコキシシラン)
テトラアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(sec−ブトキシ)シラン、テトラ(t−ブトキシ)シラン、テトラ(n−ペントキシ)シラン、テトラ(イソペントキシ)シランなどが挙げられる。
(アルコキシシランオリゴマー)
アルコキシシランオリゴマーの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(sec−ブトキシ)シラン、テトラ(t−ブトキシ)シラン、テトラ(n−ペントキシ)シラン、テトラ(イソペントキシ)シランなどを水および酸、塩基触媒存在下で縮合させたものや、三菱化学(株)製メトキシシランオリゴマーMS51、MS56、MS57、MS56Sなどが挙げられる。
後述の粗乾燥工程におけるシリカ系前駆体膜の安定性の観点から、テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシラン並びにそれらの部分縮合物が好ましく、テトラエトキシシランがさらに好ましい。ただし、テトラアルコキシシランは経時的に加水分解及び部分縮合を生じやすいため、テトラアルコキシシランのみを用意した場合でも、通常はそのテトラアルコキシシランの加水分解物及び部分縮合物がテトラアルコキシシランと共存することが多い。
(モノアルキルトリアルコキシシラン)
モノアルキルトリアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリ−n−プロポキシシラン、トリイソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシランなどが挙げられる。また、ケイ素原子に置換するアルキル基が反応性官能基を有する3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3−カルボキシプロピルトリメトキシシラン、3−トリハイドロキシシリル−1−プロパン−スルフォン酸などを用いることもできる。
(ジアルキルジアルコキシシラン)
ジアルキルジアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジ−n−プロポキシシラン、メチルジイソプロポキシシラン、エチルジメトキシシラン、エチルジエトキシシラン、エチルジ−n−プロポキシシラン、エチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジ−n−プロポキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルエトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルジイソプロポキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルエトキシシラン、ジイソプロピルジ−n−プロポキシシラン、ジイソプロピルジイソプロポキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルエトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジメトキシシラン、ジ−sec−ブチルエトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−sec−プロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジメトキシシラン、ジ−tert−ブチルエトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジイソプロポキシシランなどが挙げられる。また、ケイ素原子に置換するアルキル基が反応性官能基を有するN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどを用いることもできる。
(トリアルキルアルコキシシラン)
トリアルキルアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリ−n−プロピルメトキシシラン、トリ−n−プロピルエトキシシランなどが挙げられる。
(他のアルコキシシラン)
アルコキシシランとしては、上記のもの以外に、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン等の有機残基が2つ以上のトリアルコキシシリル基を結合したものなどを用いることもできる。
上記のアルコキシシランの中でも、多孔質構造の骨格を強固にするためには、テトラアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシランが好ましく、テトラアルコキシシランがより好ましい。さらに、多孔質膜の耐環境性の観点では、脂肪族炭化水素基を有するモノアルキルトリアルコキシシラン及びジアルキルジアルコキシシランが好ましい。これは、前述のように、シリカ骨格中にアルキル基、特にメチル基あるいはエチル基を導入することにより、シリカ多孔質膜の表面自由エネルギーを低減し、それによって一般に小さな表面自由エネルギーを有する含フッ素化合物とシリカ多孔質膜骨格との間の表面自由エネルギー差を低減することで、フッ素含有コートの多孔質膜上に対する濡れ性を高め、シリカ多孔質膜表面でのはじきによって生じる途工ムラを抑制することができるためである。具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどが好ましいものとして挙げられる。
(アルコキシシランの好ましい組み合わせ)
アルコキシシランを2種以上併用する場合、ゾル−ゲル反応の制御という観点では、その組み合わせとしては、テトラアルコキシシランおよび/またはアルコキシシランオリゴマーとモノアルキルトリアルコキシシランおよびジアルキルジアルコキシシラン、テトラアルコキシシランおよび/またはアルコキシシランオリゴマーとジアルキルジアルコキシシランが好ましく、中でも、テトラアルコキシシランおよび/またはアルコキシシランオリゴマーとモノアルキルトリアルコキシシランおよびジアルキルジアルコキシシランの組み合わせがより好ましい。テトラアルコシシランおよび/またはアルコキシシランオリゴマーによってシリカ骨格が強固になり、モノアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシランによって屈折率の低下および/または接触角の増大を図ることができる。即ち、両者の配合比率の制御によってシリカ骨格強度と屈折率、親疎水性の制御が可能となる。また、基材への濡れ性の観点では、テトラアルコキシシランとジアルキルジアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシランとジアルキルジアルコキシシランが好ましい。
多孔質構造の骨格を強固にする観点では、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物中に、テトラアルコキシシランおよび/またはアルコキシシランオリゴマーを含むことが有効であり、テトラアルコキシシランおよび/またはアルコキシシランオリゴマー由来のケイ素原子の、全アルコキシシランのケイ素原子に対する割合が、通常0.15(mol/mol)以上、好ましくは0.3(mol/mol)以上、より好ましくは0.35(mol/mol)以上であり、また、通常0.95(mol/mol)以下、好ましくは0.90(mol/mol)以下、より好ましくは0.8(mol/mol)以下である。
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物は以下のフッ素含有シランを含んでいてもよく、その場合、組成物中の全アルコキシシラン類由来のケイ素原子に対するフッ素含有シランの割合は0.10(mol/mol)以下が好ましく、0.05(mol/mol)以下がより好ましく、0.02(mol/mol)以下がさらに好ましい。フッ素含有シランの割合が大きすぎると、後述の組成物の製膜性が大きく低下し、製膜後の膜の均一性が損なわれる可能性がある。
ここで、全アルコキシシランのケイ素原子とは、組成物に含有される全てのアルコキシシランが有するケイ素原子の数の合計をいう。従って、組成物がアルコキシシラン以外にケイ素原子を有する化合物を含有していたとしても、当該化合物が有するケイ素原子は前記の割合の算出には関与しない。なお、前記のアルコキシシランのケイ素原子の割合は、Si−NMRにより測定することができる。
<フッ素含有シラン>
フッ素含有シランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、トリフルオロシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエチルシラン、トリフルオロメチルトリメチルシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメチルクロロシラン、3−(3,3,3−トリフルオロプロピル)ヘプタエチルトリシロキサン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルシクロトリシロキサン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルシクロテトラシロキサン、(3−ヘプタフルオロイソプロピル)プロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロエチルトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリエトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、ノナフルオロヘキシルジメチルクロロシラン、ノナフルオロヘキシルメチルジクロロシラン、ノナフルオロヘキシルトリス(ジメチルアミノ)シラン、ノナフルオロヘキシルジメチル(ジメチルアミノ)シラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリメトキシシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリクロロシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)メチルジクロロシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)ジメチルクロロシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)シラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)ジメチルクロロシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)シラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)メチルジクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)ジメチルクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)シラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)ジメチルクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)シラン、(パーフルオロデシル)エチルトリクロロシラン、ビス((トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)−ジメチルシロキシ)メチルクロロシラン、ビス((トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)−ジメチルシロキシ)メチルシラン、ビス((トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)−ジメチルシロキシ)テトラメチルジシロキサン、5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−トリデカフルオロ−2−(トリデカフルオロヘキシル)デシルトリクロロシラン、ヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン、ヘキサデカフルオロドデカ−11−エンー1−イルトリメトキシシラン、ヘキサデカフルオロドデカ−11−エンー1−イルトリクロロシラン、1,8−ビス(トリクロロシリルエチル)ヘキサデカフルオロオクタン、m−(トリフルオロメチル)フェニルトリメトキシシラン、p−トリフルオロメチルテトラフルオロフェニルトリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルジメチルクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルメチルジクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルフェニルトリクロロシラン、これらの加水分解物及び部分縮合物などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記のフッ素含有シランの中でも、十分な防汚性、耐摩耗性のためには、炭素数が6〜10の直鎖状のフルオロアルキル基を有するシランが好ましい。中でも、ノナフルオロヘキシルトリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリエトキシシランが好ましい。フッ素含有シランの炭素鎖が短すぎるとフルオロアルキル基による摩擦低減効果が低すぎる可能性があり、炭素鎖が長すぎると、後述の組成物の製膜性が大きく低下し、製膜後の膜の均一性が損なわれる可能性がある。
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物中には、前述のフッ素含有シランとアルコキシシランを含めて、ケイ素を含有する化合物(ケイ素原子含有化合物)が、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上含有されていることが好ましく、また通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下含有されていることが好ましい。組成物中のケイ素原子含有化合物の含有量を0.01重量%以上とすることで、加熱工程において多孔質膜の表面性が良好になりやすくなり、外観が好ましいものになる。一方、50重量%以下とすることにより、基材の平面性の影響を受にくくなり、製膜工程におけるゾル−ゲル反応が面方向にも均一になる。
また、得られるシリカ多孔質膜の膜厚制御の観点から、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物中の前記ケイ素原子含有化合物や下記に説明する鋳型材としての有機ポリマーなどを含む固形分濃度は通常0.02重量%以上であり、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上である。また通常50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、35重量%以下がさらに好ましい。
<水>
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物は水を含有する。水はゾル−ゲル反応においては必須であるが、本発明では組成物の表面張力を制御し、製膜工程において良質なシリカ系前駆体膜を形成する上で重要な役割をする。用いる水の純度には特に制限はないが、通常は、イオン交換及び蒸留のうち、いずれか一方又は両方の処理を施した水を用いればよい。ただし、例えば光学用途積層体のような微小不純物を特に嫌う用途分野に、得られたシリカ多孔質膜を用いる場合には、より純度の高いシリカ多孔質膜が望ましいため、蒸留水をさらにイオン交換した超純水を用いることが好ましい。また、不純物の中でも100nm以上のコンタミはゾル−ゲル反応の進行に影響を与える恐れがある。従って、例えば0.01μm〜0.5μmの孔径を有するフィルターを通した水を用いることが好ましい。
水の使用量は、組成物中の全アルコキシシランのケイ素原子に対する水の割合が、通常、下限として1(mol/mol)以上、好ましくは3(mol/mol)以上、より好ましくは5(mol/mol)以上とする。また、通常、上限値として400(mol/mol)以下、好ましくは300(mol/mol)以下とする。全アルコキシシランのケイ素原子に対する水の割合を前記の下限値以上とすることにより、ゾル−ゲル反応のコントロールが容易で、ポットライフも長く、また、均質な状態で膜が形成され、膜表面が滑らかで耐摩耗性に優れるものとなる。また、前記の上限値以下とすることにより、ゾル−ゲル反応が適宜に進み、反応時間が短くなり、十分な耐水性が得られやすい。なお、水の量は、カールフィッシャー法(電量滴定法)により算出できる。
<有機溶媒>
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物は有機溶媒を含有する。有機溶媒としてはアルコール類が最も適している。アルコール類は、前記アルコキシシラン、その加水分解物、さらには部分縮合物に対して親和性を有するため、シリカ多孔質膜形成中のゾル−ゲル反応を均質に進行させるために好ましい。さらに製膜工程に生じる気−液(組成物)界面、固(基材)−液(組成物)界面において安定した状態を保つことで、良質なシリカ系前駆体膜を形成するために有効である。
アルコール類の種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、2−エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの1価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの2価アルコール、グリセリンなどの3価アルコール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコールなどが挙げられる。なお、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
これらの中でも、含有するアルコキシシランの加水分解反応の進行の観点から1価アルコール、2価アルコールが好ましく、1価アルコールがより好ましい。また、得られるシリカ多孔質膜の表面性の観点から、メタノール、エタノール、1−プロパノール、t−ブタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、エチルアセテート、酢酸メチル、イソブチルアセテートなどが好ましい。従って、これらの中から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
また、製膜工程におけるシリカ系前駆体膜の構造形成を容易にし、基材との濡れ性向上の観点から、用いる有機溶媒の沸点は110℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましい。このようなものとして、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、t−ブタノール、2−プロパノールなどが好ましい。一方、加熱工程において多孔質構造の変形を抑制する観点から、有機溶媒の沸点は100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がより好ましい。このようなものとしては例えば、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノールが好ましい。
さらに上記の沸点が異なるアルコール類を混合して用いてもよく、その際、各工程における共沸を抑制するために、組み合わせるアルコール類の沸点の差は5℃以上であることが好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。また、全アルコール類に対する高沸点側のアルコール類の割合は、通常5重量%以上であり、好ましくは10重量%以上、より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは80重量%以上とする。なお、当該割合の上限は通常98重量%である。この上限以下であると、得られるシリカ多孔質膜の表面性が良好であり、下限以上であると十分な効果が得られる。
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物には、上記アルコール類以外の有機溶媒を含有してもよい。例えば、後述の基材との濡れ性や製膜工程における造膜性をより向上させるために、アルコール類以外の有機溶媒を用いることができる。
好適な有機溶媒の例を挙げると、酢酸メチル、エチルアセテート、イソブチルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエーテル類又はエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−アセチルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−アセチルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルピロリジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジアセチルピペラジン等のアミド類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;テトラメチルウレア、N,N’−ジメチルイミダゾリジン等のウレア類;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
有機溶媒の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物中の含有量として、通常0.05重量%以上、中でも0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。また、通常90重量%以下、中でも80重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましい。有機溶媒の使用量をこの範囲にすることで、本発明のシリカ多孔質膜を得やすくなる。
<触媒>
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物には触媒を含有していてもよく、触媒としては、例えば上述したアルコキシシランの加水分解及び脱水縮合反応を促進させる物質を任意に用いることができる。
その例を挙げると、フッ酸、燐酸、ホウ酸、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、ステアリン酸、リノレイン酸、安息香酸、フタル酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、ピルビン酸、マロン酸、アジピン酸、グルタル酸、サリチル酸、アコニット酸などの酸類;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物;アンモニア、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の塩基性アンモニウム塩類;ピリジン、ピロールなどの塩基性窒素含有複素環化合物類;アルミニウムのアセチルアセトン錯体などのルイス酸類;その他、グルタミン酸、アルギニン、リジンなどの酸性及び塩基性のアミノ酸類などが挙げられる。
また、触媒の例としては、金属キレート化合物も挙げられる。この金属キレート化合物の金属種としては、例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン等が挙げられる。金属キレート化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
アルミニウム錯体としては、例えば、ジ−エトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−イソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物等を挙げることができる。
チタン錯体としては、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等を挙げることができる。
上述したものの中でも、アルコキシシラン化合物の加水分解及び脱水縮合反応をより容易に制御するためには、酸触媒である酸類若しくは金属キレート化合物が好ましく、酸類がさらに好ましい。また、塩基触媒であるアルカリ金属水酸化物、アミン類、塩基性アンモニウム塩類が好ましく、アルカリ金属水酸化物がさらに好ましい。なお、触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
触媒の使用量は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物中の全アルコキシシランのケイ素原子に対して、通常0.001mol倍以上、中でも0.003mol倍以上、特には0.005mol倍以上が好ましく、また、通常0.8mol倍以下、中でも0.7mol倍以下、特には0.6mol倍以下が好ましい。触媒の使用量を上記下限値以上にすることで加水分解反応が適度に進みやすくなり、また、製造後にシリカ多孔質膜中にシラノール基などの活性基が残存し難くなり、十分なシリカ多孔質膜の耐水性が得られる。また上記上限値以下とすることで反応制御が容易になり、製造中に触媒濃度が必要以上に高くなることで、シリカ多孔質膜の表面性が低下する可能性が減少する。
<pH>
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物は、造膜性の観点で、pHが2〜13.5であることが好ましい。組成物のpHはより好ましくは3〜13.0、さらに好ましくは3.5〜12.5、特に好ましくは4〜12.0である。pHをこの範囲にすることで、本発明のシリカ多孔質膜の製造時に後述の基材の表面改質を同時に行うことができ、より造膜性が向上する傾向になる。
<その他>
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物には、上述したアルコキシシラン、フッ素含有シラン、水、有機溶媒、触媒以外の成分を含有していても良い。また、当該成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(有機ポリマー)
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物は、鋳型材として有機ポリマーを含有していてもよく、有機ポリマーを含有する組成物を基材に塗布してシリカ系前駆体膜を形成した後、抽出工程で有機ポリマーの全部又は一部を除去することで、より高い空隙率を有するシリカ多孔質膜が得られる。
多孔質構造形成の観点から、用いる有機ポリマーの重量平均分子量は、通常500以上であり、1,000以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、5,000以上が特に好ましい。重量平均分子量を上記下限値以上とすることで、得られるシリカ多孔質膜の多孔度を高く維持することが容易になり、低屈折率なシリカ多孔質膜を安定して製造することができる。一方、有機ポリマーの重量平均分子量の上限に制限はないが、通常100,000以下、好ましくは70,000以下、より好ましくは40,000以下である。重量平均分子量をこの上限値以下にすることで造膜性をよくすることができる。
有機ポリマーの種類は本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリレート系高分子、ポリアンハイドライド系高分子、ポリエーテル系高分子、ポリカーボネート系高分子、ポリエステル系高分子等の有機高分子が挙げられる。
(メタ)アクリレート系高分子は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、それらの誘導体より構成される。具体例として、ジエチレングリコールアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、アクリルアミド、ビニルピリジン、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジエチレングリコールメタクリレート、ジプロピレングリコールメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、アミルアクリレート、2−メトキシプロピルアクリレート、2−エトキシプロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、アミルメタクリレート、2−メトキシプロピルメタクリレート、2−エトキシプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリアンハイドライド系高分子は、炭素数2以上の脂肪族ジカルボン酸から得られる。具体例として、ポリマロニックアンハイドライド、ポリスクシニックアンハイドライド、ポリオキサリックアンハイドライド、ポリグルタリックアンハイドライド等、それらのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエーテル系高分子は、炭素数2以上のポリアルキレングリコール化合物から構成される。具体例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリペンタメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロック共重合体等、それらのメチルエーテル、エチルエーテル;ポリエチレングリコールモノ−p−メチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノ−p−エチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノ−p−プロピルフェニルエーテル、それらのメチルエーテル、エチルエーテル;ポリエチレングリコールモノペンタン酸エステル、ポリエチレングリコールモノヘキサン酸エステル、ポリエチレングリコールモノヘプタン酸エステル、それらのメチルエーテル、エチルエーテル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリカーボネート系高分子は、炭素数2以上の脂肪族ポリカーボネートであり、具体例として、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、ポリペンタメチレンカーボネート、それらのメチルエーテル、エチルエーテルが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエステル系高分子は炭素数2以上の脂肪族鎖及びエステル結合からなる化合物で構成されている。具体例として、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンマロネート、ポリエチレンスクシネート、ポリエチレングリタレート、ポリプロピレンオキサレート、ポリプロピレンマロネート、ポリプロピレンスクシネート、ポリプロピレングリタレート、これらのメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物のポットライフ、製膜工程におけるシリカ系前駆体膜の安定性の観点から、有機ポリマーとしては、(メタ)アクリル系高分子、ポリエーテル系高分子が好ましく、ポリエーテル系高分子がより好ましい。中でも加水分解基含有シランとの親和性の観点から、ポリエーテル系高分子を構成する繰り返し単位のアルキレングリコール化合物の炭素数が2〜4のものが好ましく、2若しくは3のものがより好ましい。
さらにシリカ系前駆体膜の構造を製膜工程から加熱工程まで安定に維持するためには、有機ポリマーとしては、炭素数の異なるアルキレングリコール化合物を組み合わせた共重合体が好ましい。この際、アルキレングリコール化合物の合計に占める炭素数の少ない、つまり加水分解基含有シランのシラノール基との親和性の高いアルキレングリコール化合物の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常20重量%以上、好ましくは23重量%以上、より好ましくは25重量%以上であり、また、通常100重量%以下、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下である。上記の範囲に収めることで、加水分解基含有シランのゾル−ゲル反応中において形成される加水分解基含有シランの加水分解物や縮合物に対して、鋳型材としての有機ポリマーがさらに安定に存在することができる。
有機ポリマーを用いる場合、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物の有機ポリマーの含有量は、0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、1.2重量%以上がさらに好ましく、1.4重量%以上が特に好ましい。組成物中の有機ポリマーの含有量がこの下限以上であれば製膜工程における加水分解基含有シランのゾル−ゲル反応をより安定にすることができる。組成物中の有機ポリマーの含有量の上限に制限はないが、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下が特に好ましい。この上限値以下であると組成物の粘度を容易に適切なものとすることができ、造膜性が向上する。
(界面活性剤および/または表面改質剤)
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、界面活性剤および/または表面改質剤を含有してもよく、特に基材の大面積化においては、界面活性剤および/または表面改質剤を添加することで造膜性が著しく向上する場合がある。界面活性剤および/または表面改質剤としては公知の何れを用いることもでき、その種類、組み合わせ、比率には特に制限はなく、以下の2種以上の界面活性剤および/または表面改質剤を用いてもよい。
界面活性剤および/または表面改質剤の具体的な例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソブチレングリコールなどのノニオン系界面活性剤および/または表面改質剤、アニオン系界面活性剤および/または表面改質剤、カチオン系界面活性剤および/または表面改質剤、両性界面活性剤および/または表面改質剤、親油基がフッ化炭素基のフッ素系界面活性剤および/または表面改質剤、親油基がシロキサン鎖のシリコーン系界面活性剤および/または表面改質剤、親油基がアルキル基の界面活性剤および/または表面改質剤等が挙げられる。界面活性剤および/または表面改質剤は組成物の造膜性の点で、これらのうちの2種以上が選択されることが好ましく、中でもノニオン系界面活性剤および/または表面改質剤とフッ素系界面活性剤および/または表面改質剤(特にパーフルオロアルキル基を含有するもの)との組合せ、及びノニオン系界面活性剤および/または表面改質剤とシリコーン系界面活性剤および/または表面改質剤(特にシロキサン結合を含有するもの)との組合せから選択されることが好ましい。これらの界面活性剤および/または表面改質剤の親水基は、例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等が好ましい。またポリエーテル、ポリグリセリン等も好ましい。
フッ素系界面活性剤および/または表面改質剤として、例えば、ヘキサエチレングリコール(1,1,2,2,3,3−ヘキサフロロペンチル)エーテル、1,1,2,2−テトラフロロオクチル(1,1,2,2、−テトラフロロプロピル)エーテル、パーフロロドデシルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
また、シリコーン系界面活性剤および/または表面改質剤として、例えばSH21シリーズ、SH28シリーズ(東レ・ダウコーニング株式会社)、LS−430(楠本化成株式会社)などが挙げられる。
本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物中の界面活性剤および/または表面改質剤の含有量は、組成物中の全加水分解基含有シランのケイ素原子に対する界面活性剤および/または表面改質剤の割合として、得られるシリカ多孔質膜の表面性の観点から、通常0.001(mol/mol)以上、好ましくは0.002(mol/mol)以上、より好ましくは0.003(mol/mol)以上であり、また、通常0.05(mol/mol)以下、好ましくは0.04(mol/mol)以下、より好ましくは0.03(mol/mol)以下である。
<組成物の調合>
上述した組成物を構成する各成分を混合して、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物を調合する。この際、各成分の混合の順番に制限は無い。また、各成分は、全量を一回で混合しても良く、2回以上に分けて連続又は断続的に混合しても良い。
ただし、従来、制御困難とされているゾル−ゲル反応を制御して、組成物をより工業的に有利に調合するためには、以下の要領で混合することが好ましい。即ち、アルコキシシラン、水、溶媒、触媒、必要に応じてフッ素含有シランを混合し、その混合物(以下、「アルコキシシラン混合物」と称す場合がある。)を一定のゾル−ゲル反応(熟成)させることでアルコキシシランをある程度加水分解及び脱水重縮合させる。一方で、水、溶媒、触媒、必要に応じてフッ素含有シランを混合し、その混合物(以下、「触媒混合物」と称す場合がある。)を調合こともできる。そして、鋳型材として有機ポリマーを用いる場合は、アルコキシシラン混合物および/またはフッ素含有シラン混合物に有機ポリマーを混合して組成物を調合する。これにより、ゾル−ゲル反応条件下で、シランと鋳型材としての有機ポリマーとの親和性を維持することができる。なお、熟成は前記の混合物と有機ポリマーとを混合した後で行なってもよい。最後に、アルコキシシラン混合物に触媒混合物を混合することでpHを調節し、必要に応じてさらなる熟成を行い、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物を調合することもできる。
<熟成>
(アルコキシシラン混合物および/またはフッ素含有シラン混合物の熟成)
前記熟成の際、アルコキシシランおよび/またはフッ素含有シランの加水分解・脱水重縮合反応を進めるためには、加熱することが好ましい。加熱条件として、用いる溶媒の沸点を超えなければ、特に制限は無いが、通常5℃以上、中でも10℃以上、20℃以上とすることがさらに好ましく、25℃以上とすることが最も好ましい。加熱温度をこれらの値以上にすることで、十分にゾル−ゲル反応が進み、アルコキシシランおよび/またはフッ素含有シランの縮合体の成長が十分なために、形成される膜の強度が高くなる。また、十分にゾル−ゲル反応が進行するため、鋳型材として有機ポリマーを用いる場合、有機ポリマーとの親和性が容易に得られる。一方、加熱温度の上限は、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。加熱温度を上記上限値以下とすることにより、アルコキシシランおよび/またはフッ素含有シランの縮合反応が適度に進行し、縮合反応が進みすぎて縮合体が沈殿を形成して、アルコキシシラン混合物および/またはフッ素含有シラン混合物が不均一になる可能性を減少させることができる。また、シラン混合物中の鋳型材である有機ポリマーの分子運動が激しくなり、シランと有機ポリマーとの親和性が制御できなくなることも防止される。
また、加熱を伴う熟成時間に制限は無いが、通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上、また、通常200時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは80時間以下、さらに好ましくは60時間以下である。熟成時間を上記範囲内で適当に設定することで反応の均一性が高められ、かつ、生産性を向上させることができる。
さらに、アルコキシシラン混合物および/またはフッ素含有シラン混合物の熟成時の圧力条件に制限は無いが、通常は常圧で熟成を行なうことが好ましい。
また、上記熟成後、製膜工程前に用いる組成物は有機溶媒を更に混合して希釈することが好ましい。これにより、組成物内でのゾル−ゲル反応速度を低下させることができ、組成物のポットライフを長く維持することが可能となる。また、シリカ多孔質膜の製造における歩留まりの観点では、加熱を伴わない熟成を行うことが好ましい。加熱を伴わない熟成は、組成物の調製後に行ってもよい。組成物のポットライフの観点では、中和工程を行ったり、触媒除去工程を行ってもよい。
{製膜工程}
製膜工程では、上述の本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物を基材上に塗布、展開することで、シリカ系前駆体膜を製造する。
なお、製膜工程は一回で行なってもよいが、二回以上に分けて行なってもよい。例えば、後述する粗乾燥工程を介して、製膜工程を二回以上行なうようにすれば、積層構造を有するシリカ多孔質膜を形成することが可能である。これは、例えば屈折率が異なるシリカ多孔質膜を積層して形成したい場合などに有用である。
<基材>
シリカ系前駆体膜の形成に用いる基材は用途に応じて任意のものを用いることができる。中でも、汎用材料からなる透明基材(透光性基材)を用いることが好ましい。
基材の材料の例を挙げると、珪酸ガラス、高珪酸ガラス、珪酸アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、バリウムガラスなどの珪酸塩ガラス、硼珪酸ガラスやアルミナ珪酸ガラス、燐酸塩ガラスなどのガラス及びこれらの強化ガラス;ポリメチルメタクリレート、架橋アクリレート等のアクリル樹脂、ピスフェノールAポリカーボネート等の芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリシクロオレフィン等の非晶性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン等のスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン等のポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)等の合成樹脂またはそれらの片面および/または両面にハードコート処理および/または易接着処理が施されたものなどが挙げられる。
中でも寸法安定性の観点では、ガラス、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂が好ましく、価格の点で、ソーダ石灰ガラスが好ましい。さらに、耐衝撃性の観点から強化ガラスを使用することも好ましい。また、単結晶太陽電池や他結晶太陽電池などの近赤外光でも光電変換可能な太陽電池に使用されるカバーガラスについては、通常のソーダ石灰ガラスでは含有される2価の鉄イオンにより近赤外領域に吸収を持つため、鉄イオン含有量を低減することで光透過性を高め、さらに耐衝撃強度が優れた白板強化ガラスを用いることがより好ましくなる。
なお、これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
本発明に用いられる基材の寸法は任意である。ただし、透光性基材として板状の基板を用いる場合には、当該基板の厚さは、機械的強度及びガスバリア性の観点から、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましく、0.1mm以上がより好ましい。また、当該厚さは、軽量化及び光線透過率の観点から、80mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましく、30mm以下がより好ましく、10mm以下がより好ましく、3mm以下が特に好ましい。さらに透光性基材の大きさ(面積)としては、光学的な効果を得る観点から0.1m2以上が好ましく、0.5m2以上がより好ましく、1m2以上が特に好ましい。上限には特に制限はないが、通常100m2以下が好ましく、50m2以下がより好ましい。
特に、本発明のシリカ多孔質膜を光学機能層として使用する場合、シリカ多孔質膜は一定サイズ以上の基材上に形成されていることが好ましい。この下限値は用途により大きく異なり、基体がレンズのような比較的小さいものであれば、その光の入射する面の8割以上に設けられていることが好ましく、一方太陽電池のような比較的大きいサイズの基体に適用する場合には、基材の面積は0.0025m2以上が好ましく、0.05m2以上がより好ましく、0.1m2以上がさらに好ましく、1m2以上が最も好ましい。このように基体が使用される目的、構成により、かかるサイズを適切に選択することにより、その用途での特性の向上が期待できる。
また、基材のシリカ多孔質膜形成面の中心線平均粗さも任意である。ただし、形成するシリカ多孔質膜の製膜性の観点から、当該中心線平均粗さは10nm以下が好ましく、8nm以下がより好ましく、5nm以下が更に好ましく、3nm以下が特に好ましい。また、基材の表面粗さの最大高さRmaxについては、形成するシリカ多孔質膜の製膜性の観点から、100μm以下、特に10μm以下であることが好ましい。
この中心線平均粗さ及び表面粗さの最大高さRmaxは、JIS−B0601:1994に従った汎用の表面粗さ計(例えば、(株)東京精密社製サーフコム570A)により測定される。
<製膜方法>
本発明において、基材への本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物の製膜方法に特に制限はなく、例えば、スピンコーター、スプレーコーター、ダイコーター、バーコーター、テーブルコーター、アプリケーター、ドクターブレードコーターなどを用いて塗布する方法や、ディップコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。
ディップコート法においては、任意の速度で、基材を、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物に浸漬して引き上げればよい。この際の引き上げ速度に制限は無いが、通常0.01mm/秒以上、好ましくは0.05mm/秒以上、より好ましくは0.1mm/秒以上、また、通常100mm/秒以下、好ましくは80mm/秒以下、より好ましくは50mm/秒以下である。引き上げ速度をこの範囲にすることで、膜厚ムラを減らすことができる。一方、基材を組成物中に浸漬する速度に制限はないが、通常は、引き上げ速度と同程度の速度で基材を組成物中に浸漬することが好ましい。さらに、基材を組成物中に浸漬してから引き上げるまでの間、適当な時間浸漬を継続してもよい。この浸漬を継続する時間に制限は無いが、通常1秒以上、好ましくは3秒以上、より好ましくは5秒以上、また、通常48時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下である。上述の時間の範囲であれば、液面が安定した後に引き上げることとなり均一に塗布しやすく、かつ浸漬時間が長すぎて浸漬中に膜が形成されて平滑性が低くなる可能性も低い。
さらに、スピンコート法で、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物を塗布する場合、回転速度は、通常10回転/分以上、好ましくは50回転/分以上、より好ましくは100回転/分以上、また、通常30000回転/分以下、好ましくは10000回転/分以下、より好ましくは7000回転/分以下である。回転速度を上述の範囲にすることで均一な塗布と、十分なシラン類の加水分解等の反応が得られ、表面シラノールとの反応が十分に進行しやすい。
特に、製膜時のゾル−ゲル反応を組成物の組成に依らず、安定した状態でシリカ系前駆体膜とするためには、組成物の吐出部と基材との距離を制御し、さらに該組成物を流延することが好ましい。吐出部と基材からできる限られた空間の中で膜化することで、一定の環境下でゾル−ゲル反応を進めることができ、均質なシリカ系前駆体膜を形成できる。具体的には組成物の吐出部と基材との距離は100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、70μm以下がさらに好ましく、50μm以下が最も好ましい。この距離を100μm以下とすることにより、吐出部周辺と基材周辺でゾル−ゲル反応の進行を均一にでき、ウェット状態で膜中に対流が発生しにくいため、安定してシリカ多孔質膜を得ることができる。一方、この距離の下限としては0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましく、0.8μm以上が最も好ましい。この距離を0.1μm以上とすることにより、組成物の流延時のシェアを小さく抑え、ゾル−ゲル反応を安定に進ませることができる。
さらに、光学機能層として信頼性の高い膜厚制御を広範囲(大面積)で実現するためには、ダイコーター、バーコーター、テーブルコーター、アプリケーター、ドクターブレードコーターなどを用いる方法が好ましく、ダイコーターを用いる方法がより好ましい。
ダイコート法は、溶液供給点より本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物を一定流量で供給し、それをスリットを経てダイリップより吐出することにより基材表面上にシリカ系前駆体膜を形成させるものであり、この際、基材を一定速度で搬送させることにより、目的とするシリカ多孔質膜を形成することができる。
上記スリットの幅には特に制限はないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、また、通常、100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下である。スリットの幅が上記下限値以上であると、コンタミによる目詰まりの可能性を低減でき、上記上限値以下とすることで均一な膜を製膜しやすくなる。
また、ダイリップ(スリット)と基板との間隔(距離)であるGapには特に制限はないが、通常、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上、また、通常、100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下の範囲にすることにより、良質なシリカ系前駆体膜を得ることができる。
ダイリップからの吐出流量には特に制限はないが、通常1〜100cc/分、好ましくは1〜50cc/分、より好ましくは1〜20cc/分、さらに好ましくは2〜10cc/分、最も好ましくは3〜6cc/分である。吐出流量が上記下限値以上であると流延時のスリット速度精度の変動に対する余裕が大きく取れ、基材の大面積化が容易になる。一方、上記上限値以下とすることにより吐出した組成物に対流が生じることなく、安定なウェット膜を形成することができる。
塗工速度には特に制限はないが、通常5〜300mm/秒、好ましくは10〜200mm/秒、より好ましくは20〜100mm/秒、さらに好ましくは30〜80mm/秒、最も好ましくは40〜60mm/秒である。塗工速度が上記下限値以上であると製膜工程におけるシリカ系前駆体膜の流延条件に余裕ができ、安定した生産が可能である。また上記上限値以下とすることにより製膜工程においてシリカ系前駆体膜に加わるせん断応力が小さくなり、鋳型材である有機ポリマーとシリカ成分とで構成される構造を破壊する恐れがなくなる。
塗工停止時間には特に制限はないが、通常0.1〜3秒、好ましくは0.1〜2秒、より好ましくは0.2〜1秒、さらに好ましくは0.2〜0.8秒、最も好ましくは0.3〜0.6秒である。塗工停止時間を上記下限値以上とすることにより基材とシリカ系前駆体膜の界面状態が安定し、基材との密着性が向上し、また、膜表面のレベリングが安定して行われ、膜の外観が好ましいものになる。また、上記上限値以下とすることにより基材とシリカ系前駆体膜との界面でのゾル−ゲル反応が適度に進行し、流延時の局所的な欠陥を防ぐことができる。
塗工距離には特に制限はないが、通常0.05〜500m、好ましくは0.1〜300m、より好ましくは0.5〜100m、さらに好ましくは0.8〜50m、最も好ましくは1〜5mである。塗工距離が上記下限値以上であると製膜工程における流延初期の不安定な状態をシリカ系前駆体膜全体に及ぼす可能性がなく、上記上限値以下であると組成物中の局所的な不均一構造が生じにくく、得られるシリカ多孔質膜の表面性に影響を与えにくい。
ダイリップと基板支持台の水平出し精度は、通常±5μm以下、好ましくは±2μm以下、より好ましくは±1μm以下とすることで再現性よく塗布することができる。
使用し得るダイの形状としては、溶液等を横方向に均一に分配し得るものであれば特に制限はない。例としては、一般のフィルムキャスティング時に使用されるTダイ形状のもの、あるいはフィッシュテイルダイ形状のもの、あるいはコートハンガーダイ形状のもの等が挙げられる。さらには、ダイ横方向への分配をより均一にしやすくするために、ダイリップ間隔の調整機構を有するものであることが望ましい。
製膜時のウェット膜厚には特に制限はないが、通常、0.1〜100μmであり、0.5〜80μmが好ましく、1〜55μmがより好ましく、5〜40μmがさらに好ましく、10〜25μmが最も好ましい。これらの範囲に保つことで、製膜工程における組成物のゾル−ゲル反応の進行を制御することが容易となり、基材との濡れ性の影響を受けにくく、それに伴い膜のレベリング効果が安定して得られ、膜の外観が良化する。
例えば、ダイコートの場合、該ウェット膜厚は吐出液量と基板の移動速度で制御する機構が好ましく、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、また、通常60μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下の範囲にすることにより、塗布ムラの少ない均一なシリカ多孔質膜を得ることができる。
<製膜環境>
製膜工程を行う際の相対湿度には特に制限はないが、相対湿度を制御することによりさらに安定した連続コーティングが可能となる。
例えば、相対湿度が通常5%RH以上、好ましくは10%RH以上、より好ましくは15%RH以上、さらに好ましくは20%RH以上、また、通常85%RH以下、好ましくは80%RH以下、より好ましくは75%以下RHの環境下においてシリカ系前駆体膜の製膜を行なうようにすることが好ましい。
製膜工程を行なう際の温度に制限は無いが、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上、最も好ましくは25℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さら好ましくは60℃以下、最も好ましくは50℃以下である。シリカ系前駆体膜を製造する際の温度をこの範囲に保つことにより、ゾル−ゲル反応の進行速度が適度のものとなり、均質なシリカ系前駆体膜を得ることが容易になり、温度が高すぎて縮合反応が急速に起こることで、未加水分解のアルコキシシランが多く残存し、得られるシリカ多孔質膜の耐久性に影響を与える可能性も低くできる。
さらに、製膜工程を行う際のクリーン度には特に制限はないが、基材上に存在するコンタミを核とした膜欠陥や核周辺でのゾル−ゲル反応の進行を抑制する観点から、通常、塵埃径0.5μm以上の塵埃数3,000,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましく、5,000以下がさらに好ましい。
また、製膜工程における雰囲気に制限は無い。例えば、空気雰囲気中でシリカ系前駆体膜の製膜を行なっても良く、例えばアルゴン等の不活性雰囲気中でシリカ系前駆体膜の製膜を行なってもよい。
<前処理>
本発明のシリカ多孔質膜の製造方法では、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物を基材上に製膜するに先立って、組成物の濡れ性、製造されるシリカ系前駆体膜の密着性の観点から、基材に表面処理を施してもよい。そのような基材の表面処理の例を挙げると、シランカップリング処理、コロナ処理、UVオゾン処理、プラズマ処理などが挙げられる。このような表面処理は、1種のみを行なってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行なってもよい。
<後処理>
(粗乾燥)
本発明のシリカ多孔質膜の製造方法では、上述の製膜工程の後に、シリカ系前駆体膜中のアルコール類又は触媒を除去することを目的として、シリカ系前駆体膜を粗乾燥させる粗乾燥工程を行なってもよい。粗乾燥工程を行なうことで、シリカ系前駆体膜中のアルコール類や水や触媒が除去されることで、前駆体膜中に存在する有機ポリマー(鋳型材)とシリカ成分が安定した状態で構造を形成し、シリカ系前駆体膜の構造を安定化することができる。
粗乾燥工程における粗乾燥の手法は制限されない。例えば加熱乾燥、減圧乾燥、通風乾燥等が挙げられる。これらは1種を単独で実施してもよく、2種以上を組み合わせて実施してもよい。
粗乾燥の手段も任意である。例えば粗乾燥を加熱乾燥により行なう場合、加熱乾燥の手段の例として、ホットプレート、オーブン、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また通風加熱乾燥の手段としては、例えば送風乾燥オーブン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
粗乾燥時の温度は制限されないが、通常は室温以上であることが好ましい。特に加熱乾燥を行なう場合、その温度は通常20℃以上、好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上、最も好ましくは50℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下、最も好ましくは100℃以下の範囲が望ましい。なお、加熱乾燥時の温度は一定でもよいが、変動してもよい。
粗乾燥時の圧力も制限されないが、特に減圧乾燥を行なう場合、通常は常圧以下、好ましくは10kPa以下、より好ましくは1kPa以下がより好ましい。
粗乾燥時の湿度も制限されないが、シリカ系前駆体膜の吸湿を防ぐため、通常は60%RH程度以下とすることが望ましく、好ましくは常圧で30%RH以下、或いは真空状態(湿度0%RH)とすることが望ましい。
粗乾燥時の雰囲気も制限されず、大気雰囲気でも、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気でも、真空雰囲気でもよい。これらはシリカ系前駆体膜の特性等を考慮して選択すればよい。但し、通常はクリーンな雰囲気であることが好ましい。
粗乾燥時間も制限されず、シリカ系前駆体膜中のアルコール類や水や触媒が除去できれば任意であるが、粗乾燥時の温度・圧力・湿度等の条件や、本発明のシリカ多孔質膜の製造に用いる組成物中に含まれるアルコール類や溶媒の沸点、プロセス速度、シリカ系前駆体膜の特性等を考慮して決定することが好ましい。粗乾燥時間は、通常1秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは1時間以上、また、通常100時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは3時間以下の範囲が望ましい。
(酸・塩基処理)
上述した製膜工程の後に、シリカ系前駆体膜を酸又は塩基と接触させることもできる。この工程により、シリカ系前駆体膜のアルコキシシラン類の加水分解縮合反応を促進させ、シリカ系前駆体膜の構造体を維持して安定したシリカ多孔質膜を形成することができ、好ましい。
接触させる好ましい酸としては、塩化水素、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸などの気化しやすい酸類が挙げられる。これらの酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、好ましい塩基としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン,トリメチルアミン、アチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。これらの塩基についても1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
シリカ系前駆体膜を酸又は塩基と接触させる方法としては、酸又は塩基の液体又は溶液もしくは蒸気を用いる方法が挙げられる。また、後述する抽出工程で使用する有機溶媒に酸又は塩基を溶解して抽出工程と同時に接触させることもできる。
また、酸・塩基処理の際に加熱を行なってもよい。加熱温度は、通常室温以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは100℃以上で、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは120℃以下である。
酸・塩基処理を行なう時間は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常30秒以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、また、通常5時間以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。
酸・塩基処理を行なう際の圧力は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、減圧環境としてもよく、加熱を行う場合は、圧力を、通常0.2MPa以下、好ましくは0.15MPa以下、より好ましくは0.1MPa以下とする。一方、圧力の下限に制限は無いが、通常10−4MPa以上、好ましくは10−3MPa以上、より好ましくは10−2MPa以上である。圧力を適当な範囲に保つことでアルコキシシランのゾル−ゲル反応よりもアルコール類の揮発が進行し、吸湿性の高いシリカ多孔質膜となることを防ぎやすく、光学特性の環境依存性に影響が出にくい。
<抽出工程>
上述した製膜工程の後に、必要に応じて、シリカ系前駆体膜を溶媒と接触させることで、鋳型材である有機ポリマーの抽出工程を行なう。溶媒との接触により、鋳型材の有機ポリマーをアルコキシシランからなるシリカ成分により形成された構造から除去することで、より空隙率の高い多孔質構造を得ることができる。さらに得られたシリカ多孔質膜は低い屈折率を有するため、高い光学特性が実現される。
抽出に使用する溶媒としては、特に制限されないが、鋳型材である有機ポリマーと親和性の高い物質がよい。親和性の高い溶媒であれば、有機ポリマーを溶解しやすく、シリカ成分により形成された構造から有機ポリマーを除去しやすいためである。溶媒としては、極性溶媒が好ましく、中でも一価アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、アミド類の1種、又は2種以上の親水性溶媒が好ましい。2種類以上の親水性溶媒を組み合わせる際は、混合して用いても、それぞれの溶媒で単独に処理して組み合わせることもできる。さらには、同種の処理液を繰り返し作用させることもできる。
抽出方法は特に制限されない。例えばシリカ系前駆体膜を溶媒中に浸漬する、シリカ系前駆体膜表面を溶媒で洗浄する、シリカ系前駆体膜に溶媒を噴霧する、シリカ系前駆体膜に溶媒の蒸気を吹きつける、などの方法が挙げられる。また、シリカ系前駆体膜を溶媒に浸漬して、超音波を利用したり、溶媒を攪拌したりして、積極的に有機ポリマーを抽出することも可能である。
また、抽出の際に加熱を行ってもよい。この場合の加熱温度は通常200℃以下であればよい。好ましくは180℃以下、より好ましくは120℃以下である。また、通常室温以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上である。
以上のように、抽出処理を行なうことにより、基材上に空隙率の高いシリカ多孔質膜が形成された積層体を得ることができる。
<乾燥工程>
乾燥工程とは、抽出工程で抽出に使用した溶媒をシリカ系前駆体膜より除去する工程である。
この際、乾燥温度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下で、また通常室温以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上である。
また、乾燥工程における雰囲気は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、例えば、真空環境、不活性ガス環境であってもよい。
<加熱工程>
前述の製膜工程の後、本発明の組成物で形成されたシリカ系前駆体膜を加熱する加熱工程を行なう。加熱工程により、シリカ系前駆体膜中の本発明の組成物中の有機溶媒及び水が乾燥、除去されて、膜が硬化することにより、本発明のシリカ多孔質膜が形成される。
加熱処理の方式は特に制限されないが、例としては、加熱炉(ベーク炉)内に基材を配置して本発明の組成物よりなるシリカ系前駆体膜を加熱する炉内ベーク方式、プレート(ホットプレート)上に基材を搭載しそのプレートを介して本発明の組成物よりなるシリカ系前駆体膜を加熱するホットプレート方式、前記基材の上面側及び/又は下面側にヒーターを配置し、ヒーターから電磁波(例えば赤外線)を照射して、本発明の組成物よりなるシリカ系前駆体膜を加熱する方式、などが挙げられる。
加熱温度に制限は無く、本発明の組成物よりなるシリカ系前駆体膜を硬化できれば任意であるが、通常30℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、更に好ましくは50℃以上、最も好ましくは55℃以上、また、通常700℃以下、好ましくは650℃以下、より好ましくは600℃以下、最も好ましくは550℃以下である。加熱温度を上記下限値以上にすることにより、得られる膜(即ち、本発明のシリカ多孔質膜)の屈折率が下がらなかったり、着色したりする可能性を減らすことができる。一方、加熱温度を上記上限値以下とすることにより基材と本発明のシリカ多孔質膜との密着性が向上する。なお、加熱工程において、前記の加熱温度で連続的に加熱を行なってもよいが、断続的に加熱を行なうようにしてもよい。
加熱を行なう際、昇温速度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1℃/分以上、好ましくは10℃/分以上、また、通常500℃/分以下、好ましくは300℃/分以下で昇温する。昇温速度を上述の範囲にすることにより、必要以上に膜が緻密化し、膜歪みが大きくなって耐水性が低くなることを防ぎ、昇温速度が速すぎても膜歪みが大きくなって耐水性が低くなることや、また、シリカ多孔質膜及び基材のひび割れ、破損等を引き起こすことを減らせる。
加熱を行なう時間は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、また、通常5時間以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。加熱時間を上述の範囲にすることで十分にシリカ多孔質膜の硬化が進行し、またシリカ多孔質膜及び基材のひび割れや破損などを生じにくい。
加熱を行なう際の圧力は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、減圧環境とすることが好ましい。常圧以上の圧力では、アルコキシシランの反応よりも溶媒の気化が進行し、耐水性が低い膜になる可能性があるためである。この観点から、加熱工程では、圧力を、通常0.2MPa以下、好ましくは0.15MPa以下、より好ましくは0.1MPa以下とする。一方、圧力の下限に制限は無いが、通常10−4MPa以上、好ましくは10−3MPa以上、より好ましくは10−2MPa以上である。圧力を上述の範囲にすることにより溶媒が揮発する前にアルコキシシランの反応が十分に進み、耐水性の高い膜が得られる。
加熱を行なう際の雰囲気は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、中でも、乾燥ムラの生じにくい環境が好ましい。その中でも、大気雰囲気下で加熱を行なうことが好ましい。また、不活性ガス処理を行ない、不活性雰囲気下で加熱を行なうことも可能である。
以上のように、加熱処理を行なうことにより、本発明の組成物よりなるシリカ前駆体膜を硬化させて、方法2によるシリカ多孔質膜を得ることができる。また、方法1においては、得られたシリカ多孔質膜に対して、更に以下の表面処理を行う。
<表面処理>
方法2により得られた本発明のシリカ多孔質膜表面には、必要に応じて表面処理を施すことができる。方法1により得られたシリカ多孔質膜には、フッ素含有シランおよび/またはその重合体を含む表面処理用組成物を用いて、以下の表面処理を行う。この工程により、疎水性、親油性、防汚性、防曇性、防湿性、耐指紋性、帯電防止性、耐摩耗性のさらなる向上または付与が可能となる。また、方法1においては、シリカ多孔質膜を、前記(1)〜(3)を満たす本発明のシリカ多孔質膜とすることができる。
表面処理用組成物は、例えば、フッ素含有シランおよび/またはその重合体などのシラン類と、水と、有機溶媒、必要に応じて更に触媒を含む組成物を用いて製造される。
このとき、含有するフッ素含有シランを適宜重合し、5nm以下程度の大きさにすることや表面処理剤の粘度を調整することなどにより、既に形成されているシリカ多孔質膜内へ、フッ素原子が必要以上に浸透しないようにすることができる。
表面処理を行うには、まず、原料となる表面処理用組成物を調合し、これをシリカ多孔質膜の表面に塗布した後、加熱を行う。
通常、フッ素含有シランおよび/またはその重合体、水、有機溶媒、必要に応じて更に触媒を含む組成物をシリカ多孔質膜上に塗布してシリカ多孔質膜表面のシラノール基と反応させ、シランを表面に固定化する。
表面処理用組成物について、その配合成分、調合方法を以下に説明する。
表面処理の材料は特に制限されないが、例としては、フッ素含有シランおよび/またはその重合体などが挙げられる。これらの材料が、本発明のシリカ多孔質膜表面のシラノール基との脱水縮合反応によって表面に固定化されることで、吸湿の原因となるシラノール基を除去し、かつシランが有する官能基の種類に応じて、表面に特定の性質を付与することができる。また、塗布面の細孔径とフッ素含有シランの大きさ(分子量あるいは凝集によるサイズ)、乾燥速度などを調整することにより、塗布面への浸透を防ぎ、本発明のシリカ多孔質膜とすることができる。
(フッ素含有シランおよび/またはその重合体)
フッ素含有シランおよび/またはその重合体による表面処理を施すことで、シリカ多孔質膜表面の表面フッ素量を更に向上せしめ、疎水性、防汚性、防湿性、耐指紋性、耐摩耗性を向上させることができる。
フッ素含有シランおよび/またはその重合体の種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、トリフルオロシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエチルシラン、トリフルオロメチルトリメチルシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメチルクロロシラン、3−(3,3,3−トリフルオロプロピル)ヘプタエチルトリシロキサン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルシクロトリシロキサン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルシクロテトラシロキサン、(3−ヘプタフルオロイソプロピル)プロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロエチルトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリエトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、ノナフルオロヘキシルジメチルクロロシラン、ノナフルオロヘキシルメチルジクロロシラン、ノナフルオロヘキシルトリス(ジメチルアミノ)シラン、ノナフルオロヘキシルジメチル(ジメチルアミノ)シラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリメトキシシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリクロロシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)メチルジクロロシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)ジメチルクロロシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)シラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)シラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)メチルジクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)ジメチルクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)シラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)シラン、(パーフルオロデシル)エチルトリクロロシラン、ビス((トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)−ジメチルシロキシ)メチルクロロシラン、ビス((トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)−ジメチルシロキシ)メチルシラン、ビス((トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)−ジメチルシロキシ)テトラメチルジシロキサン、5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−トリデカフルオロ−2−(トリデカフルオロヘキシル)デシルトリクロロシラン、ヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン、ヘキサデカフルオロドデカ−11−エンー1−イルトリメトキシシラン、ヘキサデカフルオロドデカ−11−エンー1−イルトリクロロシラン、1,8−ビス(トリクロロシリルエチル)ヘキサデカフルオロオクタン、m−(トリフルオロメチル)フェニルトリメトキシシラン、p−トリフルオロメチルテトラフルオロフェニルトリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルジメチルクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルメチルジクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルフェニルトリクロロシランなどや、これらの重合体が挙げられる。
また、信越化学社製 KY−108、同KY−164などや上記化合物単体の重合体および/または複数種類の共重合体が挙げられる。
また、AGCセイミケミカル社製 エスエフコートA−18、同エスエフコートSFE−B002H、同エスエフコートSFE−DP02H、同KS11Aも使用できる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記のフッ素含有シランおよび/またはその重合体の中でも、十分な防汚性、耐摩耗性のためには、炭素数が6〜10の直鎖状のフルオロアルキル基を有するシランおよび/またはその重合体が好ましい。中でも、ノナフルオロヘキシルトリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−オクチル)トリエトキシシランやその重合体が好ましい。フッ素含有シランの炭素鎖を上述の範囲にすることでフルオロアルキル基による摩擦低減効果を十分発揮することができ、かつ立体障害により多孔質膜表面のシラノール基と脱水縮合反応できない可能性を低減することができる。
表面処理用組成物中には、本発明のシリカ多孔質膜の最表層フッ素量、第2表層フッ素量、最表層酸素量を満たすことができる範囲でアルコキシシランおよび/またはその重合体を含んでいてもよく、その場合、その含有量には特に制限はないが、通常0.001重量%以上、中でも0.005重量%以上が好ましく、0.01重量%以上がより好ましく、0.05重量%以上がさらに好ましい。また、通常10重量%以下、中でも5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。この範囲にすることで表面処理用組成物中のシラン濃度が高くなり、シラン同士の重縮合反応が必要以上に進行し、ゲル化や固形物が沈殿してしまう可能性を減らし、かつシラン濃度が低くなりすぎて、十分な表面処理効果を得られない可能性が低くなる。
(有機溶媒)
表面処理に用いる組成物は有機溶媒を含有する。有機溶媒としては、表面処理の構造形成を容易にし、シリカ多孔質膜との濡れ性向上の観点から、用いる有機溶媒の沸点は110℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましい。このようなものとして、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、t−ブタノール、2−プロパノールなどが好ましい。一方、加熱工程において多孔質構造の変形を抑制する観点から、有機溶媒の沸点は100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がより好ましい。このようなものとしては例えば、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノールが好ましい。
さらに上記の沸点が異なるアルコール類を混合して用いてもよく、その際、各工程における共沸を抑制するために、組み合わせるアルコール類の沸点の差は5℃以上であることが好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。また、全アルコール類に対する高沸点側のアルコール類の割合は、通常5重量%以上であり、好ましくは10重量%以上、より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは80重量%以上とする。なお、当該割合の上限は通常98重量%である。この上限以下にすることで、得られるシリカ多孔質膜の表面性を高くでき、下限以上とすることで混合の効果を十分に得ることができる。
本発明のシリカ多孔質膜の表面処理に用いる組成物には、上記アルコール類以外の有機溶媒を含有してもよい。例えば、シリカ多孔質膜との濡れ性や表面処理工程における造膜性をより向上させるために、アルコール類以外の有機溶媒を用いることができる。
好適な有機溶媒の例を挙げると、酢酸メチル、エチルアセテート、イソブチルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエーテル類又はエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−アセチルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−アセチルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルピロリジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジアセチルピペラジン等のアミド類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;テトラメチルウレア、N,N’−ジメチルイミダゾリジン等のウレア類;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
材料としてフッ素含有シランおよび/またはその重合体を含む場合は、アルコールの他に、フッ素系の溶媒を用いることも好ましい。フッ素含有シランおよび/またはその重合体のフルオロアルキル基は、アルコールやその他の溶媒に対する親和性が低いため、組成物が均一になりにくく、相分離を起こす可能性があるが、フッ素系の溶媒は、フルオロアルキル基と親和性が高いため、相分離を防ぎ、組成物を均一な液に保つことができる。
好適なフッ素系有機溶媒の例を挙げると、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、トリフルオロキシレン、1H,1H−トリフルオロエタノール、1H,1H−ペンタフルオロプロパノール、6−(パーフルオロエチル)ヘキサノール、1H,1H−ヘプタフルオロブタノール、2−(パーフルオロブチル)エタノール、3−(パーフルオロブチル)プロパノール、6−(パーフルオロブチル)ヘキサノール、2−パーフルオロプロポキシ−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノール、2−(パーフルオロヘキシル)エタノール、3−(パーフルオロヘキシル)プロパノール、6−(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール、2−(パーフルオロオクチル)エタノール、3−(パーフルオロオクチル)プロパノール、6−(パーフルオロオクチル)ヘキサノール、2−(パーフルオロデシル)エタノール、フロリナート(登録商標)(3M社:パーフルオロカーボン構造)などが挙げられる。
有機溶媒の使用量は、表面処理の効果を著しく損なわない限り任意であるが、表面処理用組成物中の含有量として、通常10重量%以上、中でも20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、40重量%以上がさらに好ましい。また、通常99.99重量%以下、中でも99.9重量%以下が好ましく、99重量%以下がより好ましい。有機溶媒の使用量が上記下限値以上であると表面処理用組成物中のシラン濃度が適当な範囲に保たれ、シラン同士の重縮合反応の進行を防ぐことができ、上記上限値以下とすることによりシラン濃度が低くなりすぎることなく、十分な表面処理効果が得られる。
(水)
表面処理用組成物中の水の含有量には特に制限はないが、表面処理用組成物中の全アルコキシシランのケイ素原子に対する水の割合は、通常1(mol/mol)以上、好ましくは2(mol/mol)以上、より好ましくは4(mol/mol)以上とする。また、通常500(mol/mol)以下、好ましくは350(mol/mol)以下とする。全アルコキシシランのケイ素原子に対する水の割合を前記の範囲に保つことによりシランの加水分解反応のコントロールが容易になる。なお、水の量は、カールフィッシャー法(電量滴定法)により算出できる。
(触媒)
表面処理用組成物は触媒を含有していてもよく、触媒としては、例えば上述したフッ素含有シランおよび/またはその重合体の加水分解及び脱水縮合反応を促進させる物質を任意に用いることができる。
その例を挙げると、フッ酸、燐酸、ホウ酸、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、ステアリン酸、リノレイン酸、安息香酸、フタル酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、ピルビン酸、マロン酸、アジピン酸、グルタル酸、サリチル酸、アコニット酸などの酸類;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物;アンモニア、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の塩基性アンモニウム塩類;ピリジン、ピロールなどの塩基性窒素含有複素環化合物類;アルミニウムのアセチルアセトン錯体などのルイス酸類;その他、グルタミン酸、アルギニン、リジンなどの酸性及び塩基性のアミノ酸類などが挙げられる。
また、触媒の例としては、金属キレート化合物も挙げられる。この金属キレート化合物の金属種としては、例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン等が挙げられる。金属キレート化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
アルミニウム錯体としては、例えば、ジ−エトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−イソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物等を挙げることができる。
チタン錯体としては、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等を挙げることができる。
上述したものの中でも、フッ素含有シランおよび/またはその重合体の加水分解及び脱水縮合反応をより容易に制御するためには、酸類若しくは金属キレート化合物が好ましく、酸類がさらに好ましい。なお、触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
触媒の使用量は表面処理の効果を著しく損なわない限り任意であるが、表面処理用組成物中のフッ素含有シランおよび/またはその重合体に含まれるケイ素原子数に対して、通常0.0001mol倍以上、中でも0.0003mol倍以上、特には0.0005mol倍以上が好ましく、また、通常0.5mol倍以下、中でも0.3mol倍以下、特には0.1mol倍以下が好ましい。触媒の使用量をこの範囲にすることにより、シランの加水分解反応が適度に進み、高い表面処理性能が得やすい。
(pH)
表面処理用組成物は、表面処理反応の迅速性の観点で、pHが2〜13.5であることが好ましい。組成物のpHはより好ましくは3〜13.0、さらに好ましくは3.5〜12.5、特に好ましくは4〜12.0である。この範囲にすることで、シリカ多孔質膜表面のシラノール基と表面処理組成物中のシランとの反応を速やかに進行させることができる。
(熟成)
調製された表面処理用組成物は、必要に応じて熟成を行ってもよい。表面処理用組成物の熟成の際、フッ素含有シランおよび/またはその重合体の加水分解・脱水重縮合反応を進めるためには、加熱することが好ましい。加熱条件として、用いる溶媒の沸点を超えなければ、特に制限は無いが、通常5℃以上、中でも10℃以上、20℃以上とすることがさらに好ましく、25℃以上とすることが最も好ましい。加熱温度をこれらの値以上にすることで、十分にゾル−ゲル反応が進み、フッ素含有シランおよび/またはその重合体の縮合体の成長が十分なために、形成される膜の強度が高くなる。一方、加熱温度の上限は、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。加熱温度をこれらの値より低くすることにより、フッ素含有シランおよび/またはその重合体の縮合反応が適度に進行し、縮合反応が進みすぎて縮合体が沈殿を形成して、表面処理用組成物が不均一になる可能性を減少させる。
また、加熱を伴う熟成時間に制限は無いが、通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上、また、通常200時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは80時間以下、さらに好ましくは60時間以下である。熟成時間を適当に設定することで反応の均一性が高められ、かつ、生産性を向上できる。
さらに、表面処理用組成物の熟成時の圧力条件に制限は無いが、通常は常圧で熟成を行なうことが好ましい。
また、上記熟成後、表面処理前に用いる表面処理用組成物には有機溶媒を更に混合して希釈することが好ましい。これにより、組成物内でのゾル−ゲル反応速度を低下させることができ、組成物のポットライフを長く維持することが可能となる。
(塗布工程)
シリカ多孔質膜への表面処理用組成物の塗布方法に特に制限はなく、例えば、スピンコーター、スプレーコーター、ダイコーター、バーコーター、テーブルコーター、アプリケーター、ドクターブレードコーターなどを用いて塗布する方法や、ディップコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。また、表面処理用組成物を染込ませた布で、シリカ多孔質膜を拭取ることで塗布する方法やヘラなどを用いて延ばす方法もある。
ディップコート法においては、任意の速度で、シリカ多孔質膜が形成された基材を、上記の表面処理用組成物に浸漬して引き上げればよい。この際の引き上げ速度に制限は無いが、通常0.01mm/秒以上、好ましくは0.05mm/秒以上、より好ましくは0.1mm/秒以上、また、通常100mm/秒以下、好ましくは80mm/秒以下、より好ましくは50mm/秒以下である。引き上げ速度をこの範囲にすることで、膜厚ムラを減らすことができる。一方、基材を表面処理用組成物中に浸漬する速度に制限はないが、通常は、引き上げ速度と同程度の速度で基材を組成物中に浸漬することが好ましい。さらに、基材を組成物中に浸漬してから引き上げるまでの間、適当な時間浸漬を継続してもよい。この浸漬を継続する時間に制限は無いが、通常1秒以上、好ましくは3秒以上、より好ましくは5秒以上、また、通常48時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下である。上述の時間の範囲であれば、液面が安定した後に引き上げることとなり均一に塗布しやすく、かつ浸漬時間が長すぎて浸漬中に膜が形成されて平滑性が低くなる可能性も低い。
さらに、スピンコート法で表面処理用組成物を塗布する場合、回転速度は、通常10回転/分以上、好ましくは50回転/分以上、より好ましくは100回転/分以上、また、通常30000回転/分以下、好ましくは10000回転/分以下、より好ましくは7000回転/分以下である。回転速度を上述の範囲にすることで均一な塗布と、十分なシラン類の加水分解等の反応が得られ、表面シラノールとの反応が十分に進行しやすい。
さらに、光学機能層として信頼性の高い膜厚制御を広範囲(大面積)で実現するためには、ダイコーター、バーコーター、テーブルコーター、アプリケーター、ドクターブレードコーターなどを用いる方法が好ましく、ダイコーターを用いる方法がより好ましい。
ダイコート法は、溶液供給点より表面処理用組成物を一定流量で供給し、それをスリットを経てダイリップより吐出させることによりシリカ多孔質膜表面上に表面処理用組成物を塗布させるものであり、この際、シリカ多孔質膜形成基材を一定速度で搬送させることにより、表面処理用組成物を均一に塗布することができる。
上記スリットの幅には特に制限はないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下である。スリットの幅を上記下限値以上とすることによりコンタミによる目詰まりを減らすことができ、上記上限値以下にすることにより、均一に表面処理用組成物を塗布しやすくなる。
また、ダイリップ(スリット)とシリカ多孔質膜との間隔(距離)であるGapには特に制限はないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下の範囲にすることにより、効果的な表面処理を行うことができる。
ダイリップからの吐出流量には特に制限はないが、通常1〜100cc/分、好ましくは1〜50cc/分、より好ましくは1〜20cc/分、さらに好ましくは2〜10cc/分、最も好ましくは3〜6cc/分である。吐出流量が上記下限値以上であると流延時のスリット速度精度の変動に対する余裕が大きく取れ、基材の大面積化が容易になる。一方、上記上限値以下とすることにより吐出した組成物に対流が生じることなく、安定なウェット膜を形成することができる。
塗工速度には特に制限はないが、通常5〜300mm/秒、好ましくは10〜200mm/秒、より好ましくは20〜100mm/秒、さらに好ましくは30〜80mm/秒、最も好ましくは40〜60mm/秒である。塗工速度が上記上限値及び下限値の範囲であると表面処理用組成物を均一に塗布しやすく好ましい。
塗工距離には特に制限はないが、通常0.05〜500m、好ましくは0.1〜300m、より好ましくは0.5〜100m、さらに好ましくは0.8〜50m、最も好ましくは1〜5mである。塗工距離が上記下限値以上であると塗布工程における流延初期の不安定な状態を処理面全体に及ぼす恐れがなく、上記上限値以下であると表面処理用組成物中の局所的な不均一構造が生じにくく表面処理の均一性が高くなる。
ダイリップとシリカ多孔質膜形成基材の支持台の水平出し精度は、通常±5μm以下、好ましくは±2μm以下、より好ましくは±1μm以下とすることで再現性よく塗布することができる。
使用し得るダイの形状としては、溶液等を横方向に均一に分配し得るものであれば特に制限はない。例としては、一般のフィルムキャスティング時に使用されるTダイ形状のもの、あるいはフィッシュテイルダイ形状のもの、あるいはコートハンガーダイ形状のもの等が挙げられる。さらには、ダイ横方向への分配をより均一にしやすくするために、ダイリップ間隔の調整機構を有するものであることが望ましい。
表面処理用組成物塗布時のウェット膜厚には特に制限はないが、通常、0.1〜100μmであり、0.3〜80μmが好ましく、0.5〜55μmがより好ましく、0.7〜40μmがさらに好ましく、1〜25μmが最も好ましい。これらの範囲に保つことで、高いレベリング効果と、表面処理の均一性が得られる。
例えば、ダイコートの場合、該ウェット膜厚は吐出液量とシリカ多孔質膜形成基材の移動速度で制御する機構が好ましく、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、また、通常60μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下の範囲にすることにより、よりムラの少ない均一表面処理を行うことができる。
表面処理用組成物の塗布工程を行う際の相対湿度には特に制限はないが、相対湿度を制御することによりさらに安定した連続表面処理が可能となる。
例えば、相対湿度が通常5%RH以上、好ましくは10%RH以上、より好ましくは15%RH以上、さらに好ましくは20%RH以上、また、通常85%RH以下、好ましくは80%RH以下、より好ましくは75%RH以下の環境下において表面処理用組成物の塗布工程を行なうようにすることが好ましい。
表面処理用組成物の塗布工程を行なう際の温度に制限は無いが、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上、最も好ましくは25℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さら好ましくは60℃以下、最も好ましくは50℃以下である。表面処理用組成物の塗布を行う際の温度を上記下限値以上に保つことにより、表面処理用組成物中のフッ素含有シランおよび/またはその重合体(以下、単に「シラン」と称す場合がある。)とシリカ多孔質膜表面のシラノール基との反応が十分に進み、十分な表面処理効果を得ることができる。一方、上記上限値以下とすることで、シランとシリカ多孔質膜表面のシラノール基との反応よりもシラン同士の脱水(重)縮合反応が支配的となり、表面処理が不十分となる可能性が減る。
さらに、表面処理用組成物の塗布工程を行う際のクリーン度には特に制限はないが、基材に形成されたシリカ多孔質膜上に存在するコンタミの付着による膜表面外観の阻害を抑制する観点から、通常、塵埃径0.5μm以上の塵埃数は、3,000,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましく、5,000以下がさらに好ましい。
また、表面処理用組成物の塗布工程における雰囲気に制限は無い。例えば、空気雰囲気中で表面処理を行なっても良く、例えばアルゴン等の不活性雰囲気中で行なってもよい。
(加熱工程)
前述の表面処理用組成物の塗布工程の後、表面処理用組成物が塗布されたシリカ多孔質膜を加熱する加熱工程を行なう。加熱工程により、表面処理用組成物中の有機溶媒及び水が乾燥、除去されて、シリカ多孔質膜表面のシラノール基と表面処理用組成物中のシランが脱水縮合反応することにより、表面処理が完遂する。
加熱処理の方式は特に制限されないが、例としては、加熱炉(ベーク炉)内で表面処理用組成物が塗布されたシリカ多孔質膜を加熱する炉内ベーク方式、プレート(ホットプレート)上にシリカ多孔質膜形成基材を搭載しそのプレートを介して表面処理用組成物が塗布されたシリカ多孔質膜を加熱するホットプレート方式、シリカ多孔質膜形成基材の上面側及び/又は下面側にヒーターを配置し、ヒーターから電磁波(例えば赤外線)を照射して、表面処理用組成物が塗布されたシリカ多孔質膜を加熱する方式、などが挙げられる。
加熱温度に制限は無く、シリカ多孔質膜表面のシラノール基と表面処理用組成物中のシランが脱水縮合反応が十分に進行し得るならば任意であるが、通常40℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは100℃以上、また、通常600℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは450℃以下である。加熱温度を上記下限値以上とすることにより、シリカ多孔質膜表面のシラノール基と表面処理用組成物中のシランとの脱水縮合反応が十分に進行する。一方、加熱温度を上記上限値以下とすることにより表面処理用組成物中のシランの有機基が分解反応を起こす可能性がなくなる。なお、加熱工程において、前記の加熱温度で連続的に加熱を行なってもよいが、断続的に加熱を行なうようにしてもよい。
加熱を行なう際、昇温速度は表面処理の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1℃/分以上、好ましくは10℃/分以上、また、通常500℃/分以下、好ましくは300℃/分以下で昇温する。昇温速度を上記下限値以上とすることで、生産性が向上すると同時にシリカ多孔質膜表面のシラノール基と表面処理用組成物中のシランとの脱水縮合反応の進行に伴ってシリカ多孔質膜が適度に緻密化し、膜歪みが大きくなることが防止され、耐水性が高くなる。一方、昇温速度を上記上限値以下とすることで、表面処理用組成物中のシランの蒸発を防ぎ、十分な表面処理を行える。
加熱を行なう時間は表面処理の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、また、通常5時間以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。加熱時間を上述の範囲にすることにより、シリカ多孔質膜表面のシラノール基と表面処理用組成物中のシランとの脱水縮合反応が十分に進み、かつシリカ多孔質膜及び基材のひび割れや破損などを引き起こす可能性も低減される。
加熱を行なう際の雰囲気は表面処理の効果を著しく損なわない限り任意であるが、中でも、乾燥ムラの生じにくい環境が好ましい。その中でも、大気雰囲気下で加熱を行なうことが好ましい。また、不活性ガス処理を行ない、不活性雰囲気下で加熱を行なうことも可能である。
以上のように、加熱処理を行なうことにより、表面処理用組成物中のシランとシリカ多孔質膜表面のシラノール基との脱水縮合反応が進行し、表面処理されたシリカ多孔質膜を得ることができる。
表面処理の回数は一度だけではなく複数回繰り返してもよい。また、ある表面処理を行った後、更に異なる表面処理を行ってもよい。
[積層体]
上述の製造方法で製造された本発明のシリカ多孔質膜は、直接又は他の層を介して、基材上に膜状に形成され、シリカ多孔質膜と基材との積層体となる。
このような本発明のシリカ多孔質膜は、他の層と組み合わせて用いることもできる。この場合、組み合わせる層は、用途に応じて適宜選択され、他の層と組み合わせることで、表面反射防止膜の他、紫外線反射膜、近赤外線反射膜、赤外線反射膜等、さらには、ディスプレイ等の発光デバイスに適用することで光取り出し膜(又は輝度向上膜)としても用いることができる。組み合わせる他の層の具体例として、高屈折率層、散乱層、金属層、偏光層、熱線遮断層、紫外線劣化防止層、親水性層、防汚性層、防曇層、防湿層、防曇層、光触媒層、耐腐食層、耐指紋性層、接着層、ハード層、ガスバリア層、導電性層、アンチグレア層、拡散層等が挙げられる。これらの層は、基材のいずれの面に形成されていてもよく、またシリカ多孔質膜上に積層されていてもよい。なお、これらの層は1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意の組合せで用いてもよい。また、特性に影響を及ぼさない限り、上記の各層間に他の層があっても構わない。
また、本発明のシリカ多孔質膜と基材との積層体には、例えば、他の光学機能層及び保護膜を備えさせても良い。他の光学機能層は、用いる用途により適宜選択することができる。また、これらの層は1層のみを備えさせてもよく、2以上の層を任意に組み合わせて備えさせるようにしても良い。
本発明のシリカ多孔質膜と基材との積層体は、低屈折率で耐摩耗性に優れた本発明のシリカ多孔質膜を備えるため、反射防止能、耐摩耗性に優れる。本発明のシリカ多孔質膜及び本発明のシリカ多孔質膜と基材との積層体は、レンズ、LCDやOLED等のディスプレイやタッチパネル、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池などのシリコン系太陽電池、CIS系太陽電池、CIGS系太陽電池、GaAs系太陽電池などの化合物太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、また多接合型太陽電池、HIT太陽電池、集光型太陽電池、太陽熱給湯器などの光デバイス、ショーウィンドウ等の建材や、インパネやフロントガラス等の自動車の内外装に用いられる低反射層、反射防止層、光制御層などの光学機能層、ホワイトボードなどのステーショナリー用品などに好適に用いることができる。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
以下において、製造されたシリカ多孔質膜の評価は次の方法で行った。
<最表層フッ素量、第2表層フッ素量、最表層酸素量>
前述した測定条件、解析方法でそれぞれXPS元素分析を行って、最表層フッ素量、第2表層フッ素量、最表層酸素量を求めた。XPSの測定は、測定深さ+10nm程度の範囲の分析を行っているため、表面から10nmの測定値は、表面の測定値を用いる。これは10nm以下の部分の影響を受けないようにするためである。一方、10−40nmの値は、本実施例では、10nmから、5nm刻みに40nmまで測定し、その平均値を用いて、10−40nmの各元素の割合とした。
<屈折率、膜厚算出>
分光膜厚計(大塚電子製FE−3000)により、ガラス基材上に形成されたシリカ多孔質膜の最小反射率を測定し、フレネルの式を用いて屈折率を算出した。また、算出した屈折率と最小反射率波長より膜厚を算出した。
<耐擦傷性試験>
ボンスター#0000のスチールウールを用いてシリカ多孔質膜表面に600g/2cm2の荷重をかけ、10往復させた。その後、蛍光灯下、目視にて傷の有無を確認し、下記評価基準で評価した。
(耐擦傷性の評価基準)
○:傷10本以下。
△:傷11本以上。
×:膜が面状に剥離している。
[実施例1]
<アルコシシシラン混合物>
バイアル瓶Aに、メチルトリエトキシシラン(MTES)、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)、メトキシシランオリゴマー(三菱化学(株)製MS51)、エタノール(EtOH)を0.348:0.0958:0.0742:15.3のmol比で混合し、攪拌した状態で0.0931重量%塩酸(HCl)水溶液を徐々に滴下し、得られた液をA液とした。
バイアル瓶Bに、0.112重量%水酸化ナトリウム水−エタノール溶液(水:エタノール=9.4:0.6モル比)を加え、撹拌することで得られた液をB液とした。
A液5.64gにB液18.0gを加え、得られた液をイソプロピルアルコール(IPA)6.58gで希釈し、アルコキシシラン混合物を得た。
<表面処理用組成物>
バイアル瓶Cに、(トリデカフルオロ−1H、1H、2H、2H−n−オクチル)トリエトキシシラン(FTES)、EtOH、水(H2O)、HClを、1.00:36.7:66.4:0.0689のmolで混合し、水浴中、60℃で4時間攪拌した後、室温で放冷することにより得られた液をIPA5.58gで希釈することで、表面処理用組成物を得た。
<シリカ多孔質膜の製造>
アルコキシシラン混合物を、0.45μmのフィルター(PVDF製)で濾過し、75mm角のガラス基材(中心線平均粗さ=0.01μm、表面粗さの最大高さRmax=0.13μm、厚さ1.0〜1.5mm)に対して、1.5mL滴下した。そして、相対湿度50RH%の環境下で、ミカサ製スピンコーターにて400回転/分で1分間回転させることで薄膜を作製した。
得られた薄膜形成基板を、ESPEC社製パーフェクトオーブンを用いて、圧力0.1MPaで、室温から150℃まで20℃/分、150℃から450℃まで7.5℃/分で昇温した後、450℃で2分間加熱し、その後オーブン内で100℃以下になるまで放冷し、シリカ多孔質膜を得た。
<シリカ多孔質膜の表面処理>
シリカ多孔質膜上に上記の表面処理組成物0.5mLを加え、ティッシュペーパーで膜全体に延ばすことで塗布した。その後、ESPEC社製パーフェクトオーブンを用いて、圧力0.1MPaで、150℃で30分間加熱し、表面処理シリカ多孔質膜を得た。得られた表面処理シリカ多孔質膜について、前述の評価を行い、結果を表1に示した。
[比較例1]
表面処理用組成物としてアピロス社製「Fusso de Coat(フルオロアルキル基含有シランとフッ素系溶剤の混合物)」を重合等を行うことなくそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様の手順でシリカ多孔質膜を製造し、同様に評価を行って、結果を表1に示した。
なお、実施例1で製造された表面処理シリカ多孔質膜も比較例1で製造された表面処理シリカ多孔質膜も、シリカ多孔質膜の製造にメチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランを用いたことで、シリカ骨格内にアルキル基(メチル基)を含むものである。
表1より、本発明のシリカ多孔質膜の要件を満たす実施例1のシリカ多孔質膜は、低屈折率で、耐摩耗性(耐擦傷性)に優れることが分かる。
これに対して、比較例1のシリカ多孔質膜は、含有するフッ素含有シランが重合されていないため、下地の細孔径に対する分子サイズの調整が不十分であるため、本発明のシリカ多孔質膜の要件を満たすシリカ多孔質膜を製造することができず、耐摩耗性(耐擦傷性)に劣るものであった。