JP5239663B2 - シリカ系多孔質膜の製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1には、シリカ系粒子を含む組成物を製膜することにより多孔質膜を得る方法が開示されている。また、特許文献2〜8には、アルコキシシランのゾル−ゲル反応に特定の有機物を共存させることで、シリカ/有機物−ハイブリッドを形成し、その後、有機物を除去することにより、均一、かつ規則的な空孔を有するシリカ多孔質体を得る方法が開示されている。これら文献には、該シリカ系多孔質膜の製膜方法として、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法等が記載されている。
該シリカ系組成物中に、該2種類以上の有機溶媒として、沸点100℃以上の有機溶媒と、100℃未満の有機溶媒とを含むことが好ましい(請求項3)。
また、該製膜工程で、5kPa以上300kPa以下の気体により該シリカ系組成物を霧状に噴出するノズルを用い、かつ該ノズルと該透光基材との距離が3cm以上80cm以下で該シリカ系組成物を噴出して、該シリカ系前駆体を製膜することが好ましい(請求項6)。
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法では、アルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるアルコキシシラン類群より選ばれる一種(以下、適宜「アルコキシシラン化合物」ともいう。)と、界面活性剤と、2種以上の有機溶媒と、水とを含むシリカ系組成物を霧状に噴出することにより、透光基材上にシリカ系前駆体を製膜する製膜工程、該シリカ系前駆体を粗乾燥する粗乾燥工程、及び該シリカ系前駆体を150℃以上の温度で加熱することでシリカ系多孔質膜とする加熱工程を含むことを特徴とする。
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法では、後述の所定の組成を有するシリカ系組成物を霧状に噴出することにより、透光基材上にシリカ系前駆体を製膜する。該シリカ系組成物を霧状に噴出することで、基材の形状や表面構造に依らず、均質なシリカ系前駆体を得ることが可能となり、光学用途に適したシリカ系多孔質膜を提供できる。
霧状に噴出された霧化粒子の形状は、得られる膜の外観に影響を与えることが多いが、アルコキシシラン化合物と水とを含む組成物の場合、加水分解反応や重縮合反応などのゾルーゲル反応を伴うため、外気に噴出される霧化粒子は若干の乾燥により影響を受けやすく、一般的にその形状を制御することは難しい。しかしながら、本発明の製造方法においては、2種類の溶媒を含む、後述するシリカ系組成物を用いることからこの乾燥時における霧化粒子の形状変化が緩和され、さらに界面活性剤による霧化粒子の形状を安定化することが可能であると考えられる。具体的には、部分的に加水分解反応をしたアルコキシシラン化合物は、2種類の溶媒とエステル交換反応することで、該ゾルーゲル反応速度が緩和され、さらにアルコキシシラン化合物と界面活性剤とが相互作用をすることで、シリカ系組成物の構造が安定化し、霧化粒子の構造を制御しやすくなると考えられる。
製膜工程を行なう際の温度に制限は無いが、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下、中でも好ましくは50℃以下、特に好ましくは40℃以下である。シリカ系前駆体を製膜する際の温度が低すぎると溶媒が気化しにくくなり、得られるシリカ系多孔質膜の表面平滑性が低下する可能性があり、高すぎるとアルコキシシラン化合物の硬化が急速に進み、膜歪みが大きくなる可能性がある。
本発明の製造方法では、上述の製膜工程の後に、シリカ系前駆体中の有機溶媒、水を除去することを目的として、シリカ系前駆体を粗乾燥させる粗乾燥工程を行なう。粗乾燥工程を行なうことで、シリカ系前駆体中の有機溶媒、水を除去すると同時に、前駆体中に存在する界面活性剤によりシリカ系前駆体の構造を安定化することができる。
粗乾燥の手段も任意である。例えば粗乾燥を加熱乾燥により行なう場合、加熱乾燥の手段の例として、ホットプレート、オーブン、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また通風加熱乾燥の手段としては、例えば送風乾燥オーブン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
粗乾燥時の雰囲気も制限されず、大気雰囲気でも、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気でも、真空雰囲気でもよい。これらはシリカ系前駆体の特性等を考慮して選択すればよい。但し、通常はクリーンな雰囲気であることが好ましい。
上述した粗乾燥工程の後に、シリカ系前駆体を150℃以上の温度で加熱することで、シリカ系多孔質膜とする加熱工程を行なう。150℃以上の温度での加熱により、粗乾燥工程において安定構造としたシリカ系前駆体中の僅かな水が乾燥、除去され、さらにアルコキシシラン化合物の重縮合反応が促進されることで膜として硬化する。これにより、形成されるシリカ系多孔質膜の耐久性の向上が図られると考えられる。また同時に、膜中の不要となった界面活性剤が除去されることで、除去された空隙が多孔質構造となり、シリカ系多孔質膜の低屈折率化が実現される。
冷却工程とは、加熱工程で高温となったシリカ系多孔質膜を冷却する工程である。この際、冷却速度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1℃/分以上、好ましくは0.5℃/分以上、より好ましくは0.8℃/分以上、更に好ましくは1℃/分以上、また、通常100℃/分以下、好ましくは50℃/分以下、より好ましくは30℃/分以下、更に好ましくは20℃/分以下である。冷却速度が遅すぎると製造コストが高くなる可能性があり、速すぎると局所的なクラックの原因となる可能性がある。
後処理工程で行なう具体的な操作に制限は無いが、例えば、得られたシリカ系多孔質膜をシリル化剤で処理することで、シリカ系多孔質膜の表面をより機能性に優れたものにできる。具体例を挙げると、シリル化剤で処理することにより、シリカ系多孔質膜に疎水性が付与され、膜表面や膜中の細孔が汚染されるのを防ぐことができる。
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法では、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した各工程の工程前、工程中及び工程後の任意の段階で、任意の工程を行なってもよい。
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法において用いるシリカ系組成物には、アルコキシシラン化合物と、界面活性剤と、2種以上の有機溶媒と、水とが含まれる。以下に詳細を述べる。
本発明で用いるアルコキシシラン化合物は特に制限はないが、以下の第1及び第2の化合物(群)のうちいずれか一方又は両方を含有することが好ましい。
〔第1の化合物(群)〕
テトラアルコキシシラン類群(即ち、テトラアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなる群)より選ばれる少なくとも一種と、他のアルコキシシラン類群(即ち、他のアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなる群)より選ばれる少なくとも一種との組み合わせ。
〔第2の化合物(群)〕
特定部分縮合物(即ち、テトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種と他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種との部分縮合物)。
テトラアルコキシシラン類の種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シランなどが挙げられる。また、テトラアルコキシシラン類群の例としては、前記のテトラアルコキシシラン類の加水分解物及び部分縮合物(オリゴマー等)なども挙げられる。
上記粗乾燥工程におけるシリカ系前駆体の安定性の観点では、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシラン並びにそれらのオリゴマーが好ましく、テトラエトキシシランがさらに好ましい。
なお、テトラアルコキシシラン類群に属する化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
他のアルコキシシラン類は、上述したテトラアルコキシシラン類に属さないアルコキシシランであれば、任意のものを使用できる。好適なものの例を挙げると、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類;ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,3,5−トリス(トリメトキシシリル)ベンゼン等の有機残基が2つ以上のトリアルコキシシリル基を結合したもの;3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3−カルボキシプロピルトリメトキシシラン等のケイ素原子に置換するアルキル基が反応性官能基を有するもの;などが挙げられる。また、他のアルコキシシラン類群の例としては、前記の他のアルコキシシラン類の加水分解物及び部分縮合物(オリゴマー等)なども挙げられる。
特定部分縮合物としては、上述したテトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種と他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種とが部分縮合した部分縮合物であれば、任意のものを用いることができる。好適な例を挙げると、テトラアルコキシシラン類の好適な例として例示したものと、他のアルコキシシラン類の好適な例として例示したものとが部分縮合した部分縮合物が挙げられる。
なお、特定部分縮合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに、特定部分縮合物は、特定部分縮合物のみで用いてもよいが、上述したテトラアルコキシシラン類及び他のアルコキシシラン類の一方又は両方と併用してもよい。
上述したテトラアルコキシシラン類及び他のテトラアルコキシシラン類の組み合わせの中でも、特に好ましい組み合わせとしては、テトラアルコキシシラン類としてのテトラエトキシシランと、他のアルコキシシラン類としての芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を有するモノアルキルアルコキシシラン又はジアルキルアルコキシシランとの組み合わせが挙げられる。この組み合わせによれば、霧状に噴出される際のシリカ系組成物の液滴の安定性が向上し、吐出条件の決定が容易になる。
本発明で用いるシリカ系組成物において、上述したアルコキシシラン化合物の含有比率は特に制限されない。しかしながら、形成されるシリカ系多孔質膜の耐水性の観点から、全アルコキシシラン化合物由来のケイ素原子に対するテトラアルコキシシラン類由来のケイ素原子の割合が、通常0.2(mol/mol)以上、好ましくは0.3(mol/mol)以上、より好ましくは0.4(mol/mol)以上であり、また、通常0.8(mol/mol)以下、好ましくは0.7(mol/mol)以下、より好ましくは0.6(mol/mol)以下である。前記の割合が低い場合、得られるシリカ系多孔質膜の疎水性は高くなるが、毛管力により多孔質構造内に拘束された水分が膜内から放出されず、膜劣化の要因になる可能性がある。一方、前記の割合が高い場合、シリカ系多孔質膜中の残存シラノール基が多くなり、やはり耐水性が低下する可能性がある。
本発明では、上記製膜工程におけるシリカ系組成物の吐出性、及びシリカ系前駆体の造膜性、さらには得られるシリカ系多孔質膜の低屈折率化の観点から、用いるシリカ系組成物に界面活性剤を含有する。界面活性剤とは、親油基(低極性)と親水基(高極性)とを備えた分子のことをいう。界面活性剤は、上記の定義に沿った化合物であれば公知の何れの界面活性剤を用いることもできる。例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。中でも、シリカ系組成物の吐出性及びシリカ系前駆体の造膜性の観点から、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤が好ましく、シリカ系多孔質膜の低屈折率化の観点から、ノニオン系界面活性剤が好ましい。さらにノニオン系界面活性剤の中でも分子量が高い方が好ましい。具体的には重量平均分子量は、通常2,000以上であり、3,000以上が好ましく、4,000以上がより好ましく、6,000以上が特に好ましい。
重量平均分子量が小さすぎると、得られるシリカ系多孔質膜の多孔度を高く維持することが困難となる可能性がある。なお、前記重量平均分子量の上限に制限はないが、通常100,000以下、好ましくは70,000以下、より好ましくは40,000以下である。重量平均分子量が大きすぎるとシリカ系組成物の吐出性が著しく低下する可能性がある。
なお、ノニオン系界面活性剤にエチレンオキサイド部位を有することより、アルコキシシラン化合物のゾル−ゲル反応中において形成されるアルコキシシラン化合物の加水分解物や縮合物に対して安定となる。
なお、上記ノニオン系界面活性剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
これらの界面活性剤の親水基は、例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等が好ましい。またポリエーテル、ポリグリセリン等も好ましい。
またシリコーン系界面活性剤として、例えばSH21シリーズ、SH28シリーズ(東レ・ダウコーニング株式会社)などが挙げられる。
本発明で用いるシリカ系組成物には2種以上の有機溶媒を含有する。これらの有機溶媒は、沸点が異なることが好ましく、シリカ系組成物が沸点の異なる溶媒を2種以上含むことで、粗乾燥する工程において均質な膜を形成することができる。
好適な有機溶媒の例を挙げると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール等の炭素数1〜4の一価アルコール、炭素数1〜4の二価アルコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールなどのアルコール類;酢酸メチル、エチルアセテート、イソブチルアセテート、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等の、前記アルコール類のエーテルまたはエステル化物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−アセチルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−アセチルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルピロリジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジアセチルピペラジン等のアミド類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;テトラメチルウレア、N,N’−ジメチルイミダゾリジン等のウレア類;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらの中でも、含有するアルコキシシラン化合物がより安定な条件下で加水分解を行なうためには、アルコール類が好ましく、1価アルコールがより好ましい。
また、シリカ系組成物の造膜性の観点で、前記高沸点溶媒よりもさらに沸点の高いエーテル化物やエステル化物を少量混合することも可能である。
シリカ系組成物は水を含有する。用いる水の純度は高いほうが好ましい。通常は、イオン交換及び蒸留のうち、いずれか一方または両方の処理を施した水を用いればよい。ただし、例えば光学用途積層体のような微小不純物を特に嫌う用途分野に、得られたシリカ系多孔質膜を用いる場合には、より純度の高いシリカ系多孔質膜が望ましいため、蒸留水をさらにイオン交換した超純水を用いることが好ましい。詳しくは、例えば0.01μm〜0.5μmの孔径を有するフィルターを通した水を用いればよい。
シリカ系組成物には触媒を含有していてもよく、例えば上述したアルコキシシラン化合物の加水分解および脱水縮合反応を促進させる物質を任意に用いることができる。
その例を挙げると、フッ酸、燐酸、ホウ酸、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、ステアリン酸、リノレイン酸、安息香酸、フタル酸、クエン酸、コハク酸などの酸類;アンモニア、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類;ピリジンなどの塩基類;アルミニウムのアセチルアセトン錯体などのルイス酸類;などが挙げられる。
また、触媒の例としては、金属キレート化合物も挙げられる。この金属キレート化合物の金属種としては、例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン等が挙げられる。金属キレート化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
なお、触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
本発明で用いるシリカ系組成物には、上述したアルコキシシラン化合物、有機溶媒、界面活性剤、水、触媒以外の成分を含有していても良い。また、当該成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
上述した組成物を構成する各成分を混合して、シリカ系組成物を調製する。この際、各成分の混合の順番に制限は無い。また、各成分は、全量を一回で混合しても良く、2回以上に分けて連続又は断続的に混合しても良い。
ただし、従来、制御困難とされているゾル−ゲル反応を制御して、シリカ系組成物をより工業的に調合するためには、以下の要領で混合することが好ましい。即ち、アルコキシシラン化合物、水及び溶媒を混合し、その混合物を熟成させることでアルコキシシラン化合物をある程度加水分解及び脱水重縮合させる。そして、その混合物に界面活性剤を混合してシリカ系組成物を調合する。これにより、ゾル−ゲル反応条件下で、アルコキシシラン化合物と界面活性剤との親和性を維持することができる。なお、熟成は前記の混合物と界面活性剤とを混合した後で行なってもよい。
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法に用いられる透光基材は用途に応じて任意のものを用いることができる。中でも、汎用材料からなる透光基材を用いることが好ましい。なお、透光基材とは、所定の波長の光の透過性が高い基材をいうこととし、該波長は、透光基材の用途に応じて適宜選択される。また、透光基材は性能に影響を及ぼさない限り、散乱やヘーズを有していてもよい。なお、該波長は、可視光の範囲に限定されないが、太陽電池用途においては、可視光線領域の高い透過性が好ましい。
またその膜厚は通常10nm以上、好ましくは40nm以上、より好ましくは80nm以上、さらに好ましくは100nm以上である。また通常500nm以下、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。10nmを下回るとシリカ系多孔質膜に欠陥ができ易くなる傾向があり、500nmを越えると透明性を損なう可能性がある。
ここで、上述したように、本発明により製造されるシリカ系多孔質膜は、太陽電池に適用可能であり、太陽電池用反射防止膜として好適に用いられ、透光基材としては太陽電池用カバーガラスを用いることができる。
太陽電池とは、光起電力効果を利用して、光エネルギーを電力に変換することのできる素子または装置であり、例として、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池などのシリコン系太陽電池、CIS系太陽電池、CIGS系太陽電池、GaAs系太陽電池などの化合物太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、また多接合型太陽電池、HIT太陽電池が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
また該太陽電池には、上記各構成以外に、熱線遮断層、紫外線劣化防止層、親水性層、防汚性層、防曇層、防湿層、粘着層、ハード層、導電性層、反射層、アンチグレア層、拡散層等(図示せず)をさらに組み合わせてもよい。また、特性に影響を及ぼさない限り、上記各構成間に他の層があっても構わない。
本発明により製造されるシリカ系多孔質膜は、光学フィルターにも適用可能である。本発明で言う光学フィルターとは、透光基材を通る光の反射、透過、屈折等の現象を制御するフィルターをいうが、これらに限定されるものではない。本発明の製造方法により得られるシリカ系多孔質膜は極めて屈折率が小さいため、これらの現象を制御しやすく、その効果が大きい。
光学フィルターの用途としては、特に制限はなく、上記太陽電池などの発電デバイス、有機エレクトロルミネッセンス、無機エレクトロルミネッセンス、LEDなどの発光デバイス等が挙げられる。中でも本発明では基材の大面積化が容易であることから、太陽電池などの発電デバイスへの適用が効果的である。
光学フィルターに用いられる他の層としては、光学フィルターの種類や用途に応じて適宜選択され、例えば高屈折率層、散乱層、金属層、熱線遮断層、紫外線劣化防止層、親水性層、防汚性層、防曇層、防湿層、接着層、ハード層、ガスバリア層、導電性層、アンチグレア層、拡散層等が挙げられる。これらの層は、透光基材のいずれの面に形成されていてもよく、またシリカ系多孔質膜上に積層されていてもよい。なお、これらの層は光学フィルター中に、1種単独で用いてもよく、また2種以上を任意の組合せで用いてもよい。
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法によれば、シリカ系多孔質膜を、基材の制約なしに容易に製造でき、さらに得られるシリカ系多孔質膜は低屈折率であるため、光学的な効果が非常に大きい。また該シリカ系多孔質膜は耐久性にも優れているため、特に太陽電池に対して好適である。
〔シリカ系組成物の調製〕
テトラエトキシシラン(以下、適宜「TEOS」とも示す。)20g、メチルトリエトキシシラン(以下、適宜「MTES」とも示す。)20g、エタノール(沸点78.3℃)9g、水14g、及び、0.3重量%の塩酸水溶液33gを混合し、63℃のウォーターバス中で30分、さらに室温で30分攪拌することで、混合物(A)を調製した。
混合物(A)に、ノニオン系界面活性剤として、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドトリブロックポリマー(BASF社製 PLURONIC P123(重量平均分子量5,650);以下適宜「P123」という)15g、エタノール(沸点78.3℃)12gを混合し、室温下で60分攪拌することで、混合物(B)を調製した。
この混合物(B)を1−ブタノール(沸点117.3℃)で25倍に、2段階に分け希釈することで、シリカ系組成物を得た。
このシリカ系組成物において、全アルコキシシラン化合物(テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシラン)由来のケイ素原子に対する、水の割合は13(mol/mol)であり、組成物中の界面活性剤は1.06重量%とした。
[製膜工程]
得られたシリカ系組成物を0.45μmのフィルターでろ過し、イソプロパノールで洗浄した10mm角のガラス基材(中心線平均粗さ=0.01μm、表面粗さの最大高さRmax=0.13μm)に対して、スプレー塗布した。
スプレーノズルとしては、二流体スプレーノズル(アトマックス社製AM25S)を使用した。霧化及び噴出用気体としては、圧力10kPaの窒素を用い、ノズル先端とガラス基材表面との距離は、9cmとした。組成物が入った容器とノズルとをつなぐ流路に、口径200μmのオリフィスを設け、容器に3kPaのエアー圧を印加することで、ノズルからの組成物の吐出量を調整した。スプレーノズルを速度200mm/s、ピッチ15mmでスキャンして、ガラス基材表面にシリカ系前駆体を形成した。
塗布終了後、塗布膜が形成されたガラス基材を、40℃のホットプレート上に5分間静置し乾燥を行うことで、シリカ系前駆体を粗乾燥した。
次に450℃に設定したホットプレート上に前記シリカ系前駆体を積層したガラス基材を置き、大気雰囲気下で2分間加熱することで、シリカ系多孔質膜を得た。
分光エリプソメーター(ホリバ・ジョバンイボン製UVISEL)により測定し、Tauc−Lorentz分散式で解析した結果、得られたシリカ系多孔質膜の波長550nmにおける屈折率は1.23であり、膜厚は105nmであった。
目視により、シリカ系多孔質膜の透明性、表面状態を評価した結果を表1に示す。本実施例1により形成されたシリカ系多孔質膜は、鏡面性を有する外観の良好なシリカ系多孔質膜であった。なお、透明性及び表面状態の評価は、下記の基準で行なった。
○=高い透明性、かつ鏡面性を有しており表面性も良好
△=透明性は高いが、鏡面性がなく表面性に劣る
×=透明性、表面性ともに劣る
得られたシリカ系多孔質膜を脱塩水を入れた容器に浸漬し、室温下で60分放置した後、シリカ系多孔質膜をエアブローし、外観評価及び屈折率測定を行った。結果を表1に示す。なお、耐久性の評価は、下記の基準で行なった。
○=高い透明性を維持しており、かつ屈折率の変化量が0.05以下である。
△=高い透明性を維持しているが、屈折率の変化量が0.05を超える。
×=透明性が損なわれている。
シリカ系組成物100gに対して第二の界面活性剤としてビックケミー・ジャパン社製BYY−333(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとポリエーテルの混合品)を1g加えた以外は実施例1と同様の操作を行なって、シリカ系多孔質膜を製造し、各評価を行なった。結果を表1に示す。
この組成物において、全アルコキシシラン化合物(テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシラン)由来のケイ素原子に対する、水の割合は12.9(mol/mol)であり、シリカ系組成物中の界面活性剤は1.07重量%とした。
基材として、太陽電池用カバーガラス(中心線平均粗さ=0.8μm、表面粗さの最大高さRmax=9μm)を用いたこと以外は実施例2と同様の操作を行なって、シリカ系多孔質膜を製造し、各評価を行なった。結果を表1に示す。
テトラエトキシシラン40g、エタノール(沸点78.3℃)9g、水13.9g、及び、0.3重量%の塩酸水溶液32.9gを混合し、63℃のウォーターバス中で30分、さらに室温で30分攪拌することで、混合物(A)を調製した。
この混合物(A)に、ノニオン系界面活性剤として、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドトリブロックポリマー(BASF社製 PLURONIC P123(重量平均分子量5,650);以下適宜「P123」という)15g、エタノール(沸点78.3℃)12gを混合し、室温下で60分攪拌することで、混合物(B)を調製した。
この混合物(B)を1−ブタノール(沸点117.3℃)で25倍に2段階に分けて希釈することで、シリカ系組成物を得た以外は実施例1と同様の操作を行なって、シリカ系多孔質膜を製造し、各評価を行なった。結果を表1に示す。
この組成物において、全アルコキシシラン化合物(テトラエトキシシラン)由来のケイ素原子に対する、水の割合は13(mol/mol)であり、組成物中の界面活性剤は1.06重量%とした。
比較例1で製造された混合物(B)をエタノール(沸点78.3℃)で25倍に2段階で希釈することで、シリカ系組成物を得たこと以外は実施例1と同様の操作を行なって、シリカ系多孔質膜を製造し、各評価を行なった。結果を表1に示す。
この組成物において、全アルコキシシラン化合物(テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシラン)由来のケイ素原子に対する、水の割合は13(mol/mol)であり、組成物中の界面活性剤は1.06重量%とした。
2 半導体層
4 中間層
5 透光基材
6 シリカ系多孔質膜
7 ガスバリア層
Claims (10)
- シリカ系多孔質膜の製造方法において、
アルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるアルコキシシラン類群より選ばれる一種と、
界面活性剤と、
2種以上の有機溶媒と、
水と
を含むシリカ系組成物を霧状に噴出することにより、透光基材上にシリカ系前駆体を製膜する製膜工程、
該シリカ系前駆体を粗乾燥する粗乾燥工程、
及び該シリカ系前駆体を150℃以上の温度で加熱することでシリカ系多孔質膜とする加熱工程を含み、
該シリカ系組成物中における、該アルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるアルコキシシラン類群より選ばれる一種が、
テトラアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるテトラアルコキシシラン類群より選ばれる一種と、及び該テトラアルコキシシラン類以外のアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるその他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種との組合せ、
並びに/又は、該テトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種及び他のアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも一種の部分縮合物を含有する
ことを特徴とするシリカ系多孔質膜の製造方法。 - 該シリカ系組成物中に該界面活性剤を2種以上を含んでおり、かつ該界面活性剤の含有量の総量が0.1重量%以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。 - 該シリカ系組成物中に、該2種類以上の有機溶媒として、沸点100℃以上の有機溶媒と、100℃未満の有機溶媒とを含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。 - 該シリカ系組成物中における、全アルコキシシラン化合物由来のケイ素原子に対する水の割合が10(mol/mol)以上である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。 - 該シリカ系組成物中の、該界面活性剤の少なくとも1つが重量平均分子量3000以上のノニオン系界面活性剤である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。 - 該製膜工程で、5kPa以上300kPa以下の気体により該シリカ系組成物を霧状に噴出するノズルを用い、かつ該ノズルと該透光基材との距離が3cm以上80cm以下で該シリカ系組成物を噴出して、該シリカ系前駆体を製膜する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。 - 該シリカ系多孔質膜が表面反射防止膜である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。 - 該シリカ系多孔質膜が光学フィルターである
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。 - 該表面反射防止膜が太陽電池用反射防止膜である
ことを特徴とする請求項7に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。 - 該透光基材が太陽電池用カバーガラスである
ことを特徴とする請求項9に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。
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