JP2015065910A - 光学活性含窒素環状アルコール化合物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、光学純度の高い特定の光学活性含窒素環状アルコール化合物を効率良く製造できる方法を提供することを目的とする。【解決手段】本発明に係る光学活性含窒素環状アルコール化合物の製造方法は、3−ヒドロキシピペリジン化合物のエナンチオマー混合物を原料として用い、酵素を用いてこれに含まれるR体エナンチオマーを選択的に酸化することを特徴とする。【選択図】なし
Description
本発明は、光学純度の高い光学活性含窒素環状アルコール化合物を効率良く製造できる方法に関するものである。
光学活性含窒素環状アルコール化合物は、医薬品や農薬の出発原料や合成中間体として有用な化合物である。
例えば、光学活性(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物の製造方法としては、プロキラルな3−ピペリドン化合物を、酵素源を用いて(S)−3−ヒドロキシピペリジンへ不斉還元する方法(特許文献1,非特許文献1)、光学活性な酸性化合物を用いて造塩晶析により光学分割する方法(特許文献2〜4)、光学活性なグルタミン酸から誘導する方法(非特許文献2)などがある。しかしながら、3−ピペリドン化合物が高価である上に水中で不安定であるため、酵素不斉還元法は効率的・経済的な方法ではなかった。また、光学分割法は最大50%の収率でしか得られず、光学活性なグルタミン酸から誘導する方法は多段階の反応が必要であり、非効率的であった。
これまで、酵素源を用いてラセミ体3−ヒドロキシピペリジン化合物を基質特異的に酸化した反応の報告例はない。また、酵素を用いて3−ピペリドン化合物を(R)−3−ヒドロキシピペリジンへ不斉還元した報告例もない。
Org.Lett.,11(6),1245−1248(2009)
J.Org.Chem.,50(6),896−899(1985)
上述したように、光学活性含窒素環状アルコール化合物は合成中間体などとして有用であり、様々な製造方法が知られていたが、従来の製造方法は決して効率的なものではなかった。
そこで本発明は、光学純度の高い特定の光学活性含窒素環状アルコール化合物を効率良く製造できる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、出発原料化合物として3−ヒドロキシピペリジン化合物のエナンチオマー混合物を用い、酵素を用いてこれに含まれるR体エナンチオマーの水酸基を選択的に酸化することにより、特定の光学活性含窒素環状アルコール化合物を効率的に製造できることを見出して、本発明を完成するに至った。
本発明に係る下記式(I)で表される光学活性含窒素環状アルコール化合物の製造方法は、
下記式(II)で表されるエナンチオマー混合物に、
R体のエナンチオマーに対する基質特異性を有する酸化酵素源を作用させて、R体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化することにより下記式(III)で表される3−ピペリドン化合物にする一方で、
上記光学活性含窒素環状アルコール化合物(I)をそのまま維持する工程を含むことを特徴とする。
上記本発明方法においては、さらに、S体立体選択性を有する還元酵素源を作用させて上記3−ピペリドン化合物(III)を立体選択的に還元することにより(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物(I)にする工程を実施することが好ましい。かかる工程により、光学活性含窒素環状アルコール化合物(I)の製造効率をより一層高めることができる。
本発明に係る製造方法においては、上記R体基質特異性酸化酵素源と上記S体立体選択性還元酵素源の共存下、上記R体エナンチオマーの基質特異的酸化工程と上記3−ピペリドン化合物(III)の立体選択的還元工程を同時に行うことが好ましい。かかる態様により、製造効率がより一層高まる。
上記R体基質特異性酸化酵素源としては、デボシア(Devosia)属細菌、ブレヴンディモナス(Brevundimonas)属細菌、レイフソニア(Leifsonia)属細菌、アクロモバクター(Achromobacter)属細菌、クリプトコッカス(Cryptococcus)属細菌、グルコノバクター(Gluconobacter)属細菌、オークロバクトラム(Ochrobactrum)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌からなる群より選択される微生物に由来する酵素源が好ましい。また、上記R体基質特異性酸化酵素源として、NAD+またはNADP+を補酵素とするものを用いるのも好ましい態様である。
上記R体エナンチオマーの基質特異的酸化工程においては、上記R体基質特異性酸化酵素源により還元された還元型の上記補酵素をNADHオキシダーゼによりNAD+またはNADP+に酸化することが好ましい。かかる態様により、酵素反応の進行を促進することができる。
また、上記R体基質特異性酸化酵素源としてPQQを補酵素とするものを用いるのも好ましい態様である。
PQQを補酵素とする上記R体基質特異性酸化酵素源としては、さらに、下記(a1)〜(a3)から選択される酵素源を挙げることができる。
(a1) 配列番号2のアミノ酸配列を有するR体基質特異性酸化酵素源;
(a2) 配列番号2のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠損、置換および/または付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、上記エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有するR体基質特異性酸化酵素源;
(a3) 配列番号2のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つ、上記エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有するR体基質特異性酸化酵素源。
(a2) 配列番号2のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠損、置換および/または付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、上記エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有するR体基質特異性酸化酵素源;
(a3) 配列番号2のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つ、上記エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有するR体基質特異性酸化酵素源。
PQQを補酵素とするR体基質特異性酸化酵素源を用いる場合には、人工受容体を共存させることが好ましい。かかる態様により、酵素反応の進行を促進することができる。
上記S体立体選択性還元酵素源としては、セルロモナス(Cellulomonas)属細菌、パエニバシラス(Paenibacillus)属細菌、キャンディダ(Candida)属細菌、ロドトルーラ(Rhodotorula)属細菌、オガタエア(Ogataea)属細菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属細菌からなる群より選択される微生物に由来する酵素源を挙げることができる。また、上記S体立体選択性還元酵素源としてNADPHを補酵素とするものを用いるのも好ましい態様である。
上記3−ピペリドン化合物(III)の立体選択的還元工程においては、上記S体立体選択性還元酵素源により酸化された酸化型の上記補酵素をグルコース脱水素酵素によりNADPHに還元することが好ましい。かかる態様により、酵素反応の進行を促進することができる。
本発明に係る化合物のRとしては、(C1-6アルコキシ)カルボニル基、(C1-6ハロゲン化アルコキシ)カルボニル基、(置換基を有していてもよいC6-12アリール)メチルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいC1-6アルカノイル基、(置換基を有していてもよいC6-12アリール)カルボニル基、(置換基を有していてもよいC6-12アリール)1-3メチル基からなる群より選択される保護基を挙げることができる。
光学純度の高い含窒素環状アルコール化合物は合成中間体などとして有用であるが、従来の製造方法は、収率が低いなど効率の面で十分ではなかった。それに対して本発明方法によれば、光学純度の高い含窒素環状アルコール化合物を効率的に製造することができる。従って本発明は、特に有用な化合物である光学活性(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物を効率的に製造可能な技術として、産業上非常に優れている。
以下、本発明方法を実施の順番に従って詳述する。
(1) R体の基質特異的酸化工程
本工程では、エナンチオマー混合物(II)にR体基質特異性を有する酸化酵素源を作用させて、下記反応式のとおり、S体のエナンチオマーはそのまま維持するのに対して、R体のエナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化することにより3−ピペリドン化合物(III)にする。
本工程では、エナンチオマー混合物(II)にR体基質特異性を有する酸化酵素源を作用させて、下記反応式のとおり、S体のエナンチオマーはそのまま維持するのに対して、R体のエナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化することにより3−ピペリドン化合物(III)にする。
上記式中、Rはアミノ基の保護基を示し、目的化合物である(S)−3−ヒドロキシピペリジン(I)の利用条件などに応じて適切なものを選択すればよい。例えば、(C1-6アルコキシ)カルボニル基、(C1-6ハロゲン化アルコキシ)カルボニル基、(置換基を有していてもよいC6-12アリール)メチルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいC1-6アルカノイル基、(置換基を有していてもよいC6-12アリール)カルボニル基、(置換基を有していてもよいC6-12アリール)1-3メチル基からなる群より選択されるものを挙げることができる。
(C1-6アルコキシ)カルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基を挙げることができる。
(C1-6ハロゲン化アルコキシ)カルボニル基としては、例えば、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、1,1−ジメチル−2−ハロエトキシカルボニル基、1,1−ジメチル−2,2−ジブロモエトキシカルボニル基、1,1−ジメチル−2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基を挙げることができる。
本発明において、C6-12アリールが有していてもよい置換基としては、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、C1-6アルキルスルフィニル基からなる群より選択される1以上を挙げることができる。また、置換基の数は適宜選択すればよいが、例えば、1以上、5以下とすることができ、1以上、3以下が好ましく、1とすることが特に好ましい。当該置換基数が2以上である場合、置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
(置換基を有していてもよいC6-12アリール)メチルオキシカルボニル基としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基、p−ニトロベンジルオキシカルボニル基、p−ブロモベンジルオキシカルボニル基、p−クロロベンジルオキシカルボニル基、2,4−ジクロロベンジルオキシカルボニル基、4−メチルスルフィニルベンジルオキシカルボニル基を挙げることができる。
置換基を有していてもよいC1-6アルカノイル基の置換基としては、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子からなる群より選択される1以上を挙げることができる。また、置換基の数は適宜選択すればよいが、例えば、1以上、5以下とすることができ、1以上、3以下が好ましく、1とすることが特に好ましい。置換基を有していてもよいC1-6アルカノイル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロパノイル基、t−ブチロイル基、メトキシアセチル基、フルオロアセチル基、ジフルオロアセチル基、トリフルオロアセチル基、クロロアセチル基、トリクロロアセチル基、3−メチル−3−ニトロブチロイル基を挙げることができる。
(置換基を有していてもよいC6-12アリール)カルボニル基としては、例えば、ベンゾイル基、o−ニトロベンゾイル基を挙げることができる。
(置換基を有していてもよいC6-12アリール)1-3メチル基において、置換基を有していてもよいC6-12アリールの数が2または3である場合、当該C6-12アリールは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、メチル基には、さらにメチル基が置換していてもよいものとする。(置換基を有していてもよいC6-12アリール)1-3メチル基としては、例えば、ベンジル基、α−メチルベンジル基。p−ニトロベンジル基、p−メトキシベンジル基、ベンズヒドリル基、トリチル基を挙げることができる。
本発明方法においては、出発原料化合物として、エナンチオマー混合物(II)を用いる。本発明において「エナンチオマー混合物(II)」とは、その光学純度が目的とする用途において要求される水準に満たない3−ヒドロキシピペリジン化合物のR体とS体との混合物を意味する。ラセミ体は言うまでもなく、例えば、90%e.e.のS体が要求される場合には、高光学純度のR体も含め、S体が90%e.e.に満たない3−ヒドロキシピペリジン化合物のRS混合物は、全てエナンチオマー混合物(II)の範疇に含まれるものとする。通常は、ラセミ体が安価で入手容易であることから、ラセミ体を用いる場合に、本発明の効果が最大限に発揮される。
本発明方法の出発原料化合物であるエナンチオマー混合物(II)は、市販のものがあればそれを購入すればよいし、市販のものがない場合であっても、その構造は比較的シンプルであることから、当業者であれば容易に合成することができる。例えば、ラセミ体の3−ヒドロキシピペリジンまたはその塩は市販されているので、Theodora W.Greeneら,「PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS Second Edition」JOHN WILEY&SONS,INC.(1991)を参照し、当該市販製品のアミノ基を所望の保護基で保護することによりエナンチオマー混合物(II)を合成すればよい。
本工程で使用するR体基質特異性酵素源としては、エナンチオマー混合物(II)に含まれる(R)−3−ヒドロキシピペリジン化合物を特異的に基質とし、その水酸基を酸化して3−ピペリドン化合物(III)にする作用を有するものであれば特に制限されない。
本発明において「酵素源」は、目的とする酵素活性を有する限りにおいては、酵素活性を有するポリペプチドそのものだけでなく、当該ポリペプチドを生成する微生物そのもの、当該微生物がポリペプチドを体外に分泌する場合にはその培養液、または当該微生物の菌体処理物であってもよい。また、当該微生物由来の酸化活性を有するポリペプチドをコードするDNAが導入された形質転換体も含むものとする。
上記微生物の菌体処理物は特に限定されず、例えば、アセトンや五酸化二リンによる脱水処理またはデシケーターや扇風機を利用した乾燥によって得られる乾燥菌体、界面活性剤処理物、溶菌酵素処理物、固定化菌体または菌体を破砕した無細胞抽出標品などを挙げることができる。さらには、培養物より酸化反応を触媒するポリペプチドを精製し、これを使用してもよい。
酵素源は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、上記微生物は周知の方法で固定化して用いてもよい。
3−ヒドロキシピペリジン化合物のエナンチオマー混合物(II)のうちR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する能力を有する微生物は、例えば、以下に記載の方法によって得ることができる。
例えば、グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを試験管に入れて殺菌後、無菌的に微生物を接種し、30℃で2〜3日間振とう培養する。
培養した微生物の菌体を遠心分離により集め、グルコース2〜10%を含んだリン酸緩衝液1〜5mLに懸濁し、あらかじめエナンチオマー混合物(II)を2.5〜25mg入れた試験管に加えて、30℃で2〜3日間振とうする。この際、遠心分離により得た菌体をデシケーター中またはアセトンにより乾燥したものを用いることもできる。さらに、これら微生物もしくはその処理物とエナンチオマー混合物(II)を反応させる際に、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、「NAD+」という)および/または酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下、「NADP+」という)および/または人工電子受容体を添加してもよい。また、NADHを添加する場合はNADHオキシダーゼを添加してもよい。また、反応系に有機溶媒を共存させてもかまわない。変換反応の後、適当な有機溶媒で抽出を行い、残存した3−ヒドロキシピペリジン化合物の光学純度を測定することにより、(R)−3−ヒドロキシピペリジン化合物に対する基質特異性を判断することができる。また、(R)−3−ヒドロキシピペリジン化合物を基質特異的に酸化できる微生物を選択できた場合には、その培地などからR体基質特異性を有する酸化酵素を単離精製してもよい。
また、(R)−3−ヒドロキシピペリジン化合物の水酸基を基質特異的に酸化し、3−ピペリドン化合物(III)を生成する能力を有する酵素源としては、NAD+もしくはNADP+特異的なポリペプチド、および/またはNAD+もしくはNADP+非特異的なポリペプチドが使用できる。
本発明において、「酸化酵素源がNAD+(またはNADP+)に特異的である」とは、NAD+(またはNADP+)を補酵素とした場合に、他方を補酵素とした場合よりも高い活性を示す、即ち特異性を示すことを意味する。特異性を示す補酵素を用いた際の活性と他方の補酵素を用いた際の活性の比率は、通常100/50以上、好ましくは100/10以上、さらに好ましくは100/2以上である。
本発明において、「還元酵素源がNADPH(またはNADH)に特異的である」とは、上記と同様の意味を表し、特異性を示す補酵素を用いた際の活性と他方の補酵素を用いた際の活性の比率も、上記と同様である。
NAD+特異的もしくはNADP+特異的なR体基質特異性酸化酵素としては、国際生化学・分子生物学連合の酵素分類法によりEC 1.1.1に分類される酸化還元酵素がある。
上記EC 1.1.1に分類される酸化還元酵素としては、具体的には、デボシア(Devosia)属、ブレブンディモナス(Brevundimonas)属、レイフソニア(Leifsonia)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、オークロバクトラム(Ochrobactrum)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属等の微生物に由来するものが挙げられる。好ましくは、国際特許公報WO2004/027055の配列表の配列番号1としてそのアミノ酸配列が開示されているデボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)属由来の酸化酵素(以下、「RDR」という)、国際特許公報WO2007/114217の配列表の配列番号2としてそのアミノ酸配列が開示されているブレブンディモナス・ディミヌタ(Brevundimonas diminuta)属由来の酸化酵素(以下、「RBD」という)、および後記の参考例2に示す国立生物工学情報センター(NCBI)のプロテインデーターベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/)に登録されているレイフソニア(Leifsonia)属由来の3−hydroxybutyrate dehydrogenaseと推定されるポリペプチド(ACCESSION No. WP_018191686.1、以下、「RLS」という)が挙げられる。
これらポリペプチドをコードするDNAは、微生物の染色体DNAからPCR法などにより増幅することが可能である。なお、本明細書において記述されているPCR法、DNAの単離、ベクターの調製、形質転換等の遺伝子操作は、特に明記しない限り、Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience)等の成書に記載されている方法により実施できる。
また、ポリペプチドをコードするDNAを化学合成してもよい。例えば、上記のレイフソニア(Leifsonia)属由来の3−hydroxybutyrate dehydrogenaseと推定されるポリペプチド(ACCESSION No.WP_018191686.1)をコードする塩基配列からなるDNAもしくは配列表の配列番号1で示される塩基配列からなるDNAを化学合成し、ベクターに導入すればよい。
また、本発明に利用するR体基質特異性酸化酵素源(例えば、RDR)は、エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有している限りにおいては、そのアミノ酸配列(例えば、国際特許公報WO2004/027055の配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列)において1若しくは複数個(例えば、40個以下、好ましくは20個以下、より好ましくは15個以下、さらに好ましくは10個以下、さらに好ましくは5個以下、4個以下、3個以下、または2個以下)のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列を有するものであってもよい。
さらに、本発明に利用する酸化酵素源(例えば、RDR)は、エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有している限りにおいては、そのアミノ酸配列(例えば、国際特許公報WO2004/027055の配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列)に対して85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するものであってもよい。「配列同一性」は、エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有している限り特に限定されない。即ち、85%以上であれば特に限定されないが、90%以上が好ましく、より一層好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上である。なお、アミノ酸配列の同一性は、当業者であれば配列の直接の比較によって解析することが可能であり、具体的には、市販の配列解析ソフトウェア等を用いて解析することができる。
上記微生物および後記微生物は、通常、入手または購入が容易な保存株から得ることができる。例えば、以下のカルチャーコレクションより入手可能である。
・独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC)(〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)
・独立行政法人理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室(JCM)(〒351−0198 埼玉県和光市広沢2−1)
・German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(DSMZ)(Marschroder Weg 1b,D−38124 Brunswick,Germany)
・独立行政法人理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室(JCM)(〒351−0198 埼玉県和光市広沢2−1)
・German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(DSMZ)(Marschroder Weg 1b,D−38124 Brunswick,Germany)
NAD+非特異的もしくはNADP+非特異的なR体基質特異性酸化酵素を産生する微生物としては、例えば、デボシア(Devosia)属(実施例7〜19参照)、グルコノバクター(Gluconobacter)属(実施例20と実施例21参照)の微生物を挙げることができる。
また、目的の酸化酵素活性を有する限り、本工程に利用するR体基質特異性酸化酵素源のアミノ酸配列に付加的なアミノ酸配列を結合してもよい。たとえば、ヒスチジンタグやHAタグのようなタグ配列を付加することができる。あるいは、他のタンパク質との融合タンパク質とすることもできる。また、目的の酸化酵素活性を有する限り、ペプチド断片であってもよい。
本発明においては、目的のポリペプチドをコードするDNAを含む形質転換体を使用すると、より効率的に(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物(I)を製造することができる。
上記の形質転換体に用いるベクターとしては、適当な宿主生物内で本発明に利用する還元酵素をコードする遺伝子を発現できるものであれば、特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクターなどが挙げられ、さらに、他の宿主株との間での遺伝子交換が可能なシャトルベクターも使用できる。
このようなベクターは、例えば大腸菌の場合では、通常、lacUV5プロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、lppプロモーター、tufBプロモーター、recAプロモーター、pLプロモーター等の制御因子を含み、本発明のDNAと作動可能に連結された発現単位を含む発現ベクターとして好適に使用できる。例えば、pSTV28(タカラバイオ社製)、pUCNT(国際特許公報WO94/03613)などが挙げられる。
なお、「制御因子」とは、機能的プロモーター、及び、任意の関連する転写要素(例えばエンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位など)を有する塩基配列をいう。
また、「作動可能に連結」とは、遺伝子の発現を調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の調節エレメントと遺伝子が、宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。なお、制御因子のタイプ及び種類が宿主に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
各種生物において利用可能なベクター、プロモーターなどについては、「微生物学基礎講座8遺伝子工学」共立出版(1987)などに詳細に記述されている。
各ポリペプチドを発現させるために用いる宿主生物は、各ポリペプチドをコードするDNAを含むポリペプチド発現ベクターにより形質転換され、DNAを導入したポリペプチドを発現することができる生物であれば、特に制限するものではない。利用可能な微生物としては、例えば、エシェリヒア(Escherichia)属、バシラス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、及びラクトバシラス(Lactobacillus)属など宿主ベクター系の開発されている細菌、ロドコッカス(Rhodococcus)属及びストレプトマイセス(Streptomyces)属など宿主ベクター系の開発されている放線菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クライベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ピキア(Pichia)属、及びキャンディダ(Candida)属などの宿主ベクター系の開発されている酵母、ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、及びトリコデルマ(Trichoderma)属などの宿主ベクター系の開発されているカビ、などが挙げられる。また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、特に蚕を用いた昆虫(Nature,315,592−594(1985))や菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系が開発されており、好適に利用できる。これらのうち、導入及び発現効率から細菌が好ましく、大腸菌(エシェリヒア・コリ(Escherichia coli))が特に好ましい。
本発明に利用する還元酵素をコードするDNAを含むベクターは、公知の方法により宿主微生物に導入することができる。例えば、宿主微生物として大腸菌を用いる場合は、市販のエシェリヒア・コリ(Escherichia coli HB101(以下、E. coli HB101)コンピテントセル(タカラバイオ株式会社製)を用いることにより、当該ベクターを宿主細胞に導入することができる。
3−ヒドロキシピペリジン誘導体のエナンチオマー混合物のうち(R)−3−ヒドロキシピペリジン誘導体の水酸基を選択的に酸化するポリペプチドをコードするDNAを含むベクターとしては、国際特許公報WO2004/027055の実施例4に記載のpNTDRが挙げられる。また、該酸化酵素をコードするDNAを含む形質転換体の例としては、ベクターpNTDRでE.coli HB101を形質転換して得られる、E.coli HB101(pNTDR)が挙げられる。
また、本発明においては、目的とする還元活性を有するポリペプチドをコードするDNA、および、補酵素再生能を有するポリペプチドをコードするDNAの両者を含む形質転換体を用いることにより、より効率的に本発明の光学活性化合物を製造することができる。例えば、3−ヒドロキシピペリジン誘導体のエナンチオマー混合物のうち(R)−3−ヒドロキシピペリジン誘導体の水酸基を選択的に酸化するポリペプチドをコードするDNA、および、酸化型補酵素を再生する能力を有するポリペプチドをコードするDNAの両者を含む形質転換体は、3−ヒドロキシピペリジン誘導体のエナンチオマー混合物のうち(R)−3−ヒドロキシピペリジン誘導体の水酸基を選択的に酸化するポリペプチドをコードするDNA、および、酸化型補酵素を再生する能力を有するポリペプチドをコードするDNAの両者を同一のベクターに組み込み、これを宿主細胞に導入することにより得られるほか、これら2種のDNAを不和合性グループの異なる2種のベクターにそれぞれ組み込み、それら2種のベクターを同一の宿主細胞に導入することによっても得られる。
エナンチオマー混合物(II)とR体基質特異性酸化酵素源を作用させる反応の条件は、適宜調整すればよい。例えば、水系溶媒にエナンチオマー混合物(II)を加え、さらにR体基質特異性酸化酵素源をその形態などに応じて適量加えた上で、R体基質特異性酸化酵素源の至適温度前後で反応させればよい。エナンチオマー混合物(II)は水溶性のものが多いが、完全に溶解しない場合にはメタノールやエタノールなどの水混和性有機溶媒を加えてもよい。但し、有機溶媒は酵素活性を貶める可能性があるので、その量はできるだけ少なくするか、或いは完全に溶解するまで水の量を多くすることが好ましい。また、反応液のpHをR体基質特異性酸化酵素源の至適pHに合わせるため、水系溶媒を至適pHに応じた緩衝液にすることもできる。反応時間は、エナンチオマー混合物(II)に含まれる(R)−3−ヒドロキシピペリジン化合物が十分に酸化されるまでとすればよく、具体的には、予備実験により決定したり、反応液中に(R)−3−ヒドロキシピペリジン化合物が測定されなくなるまでとすることができる。
より具体的には、通常、エナンチオマー混合物(II)の濃度は0.1質量%以上、100質量%以下程度、好ましくは1質量%以上、60質量%以下であり、補酵素NAD(P)+はエナンチオマー混合物(II)に対して0.0001モル%以上、100モル%以下程度、好ましくは0.0001モル%以上、0.1モル%以下、反応温度は10℃以上、60℃以下程度、好ましくは20℃以上、50℃以下であり、反応のpHは4以上、9以下程度、好ましくは5以上、8以下であり、反応時間は1時間以上、120時間以下程度、好ましくは1時間以上、72時間以下で行うことができる。
基質であるエナンチオマー混合物(II)は一括、または連続的に添加して行うことができる。反応はバッチ方式または連続方式で行うことができる。また、酸化型補酵素の再生のための酵素を用いる場合は、反応を空気または比較的純粋な酸素存在下、好気条件にて行うことが好ましい。また、酸素の反応液への溶解を促進するため、反応は振盪あるいは攪拌条件下で行われることが好ましい。さらに大気圧以上の加圧下で反応することにより、反応液への酸素の溶解度が向上し、反応がより効率的に進む場合もある。
使用するR体基質特異性酸化酵素源がNAD+またはNADP+を補酵素とするものである場合、即ちR体基質特異性酸化酵素源がNAD+特異的またはNADP+特異的である場合には、上記酸化反応によって還元された還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、「NADH」という)もしくは還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下、「NADPH」という)をそれぞれNAD+もしくはNADP+に変換する能力を有している酸化還元酵素を併用することが好ましい。
R体の基質特異的酸化に伴って還元された還元型補酵素を酸化型補酵素に再生するため、酸化還元酵素を併用してもよい。かかる酵素としては、NADHオキシダーゼ、NADPHデヒドロゲナーゼ、アミノ酸デヒドロゲナーゼが挙げられ、その中でも、NADHオキシダーゼは、補酵素再生反応ための基質として酸素が利用できること、その多くがNADHに特異的であり、また触媒される反応が不可逆的であるなど点において好ましい。なお、NADHオキシダーゼには水を生成する水生成型NADHオキシダーゼと、過酸化水素を生成する過酸化水素生成型NADHオキシダーゼの2種が知られている。過酸化水素は酵素などに悪影響を与えることが知られており、過酸化水素生成型NADHオキシダーゼを用いる場合は、反応系にカタラーゼを添加することにより過酸化水素を分解し、その悪影響を低減・除去することが好ましい。過酸化水素の生成自体を避けられることから、水生成型NADHオキシダーゼを用いるのがより好ましい。
上記水生成型NADHオキシダーゼの起源となる生物としては特に限定されず、微生物であってもよいし、高等生物であってもよいが、細菌、カビ、酵母などの微生物が好適であり、好ましくは細菌が挙げられる。例えば、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトバシルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ロイコノストック(Leuconostock)属、エンテロコッカス(Entrococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、メタノコッカス(Methanococcus)属、セルプリナ(Serpulina)属、マイコプラズマ(Mycoplasma)属、またはジアルディア(Giardia)属に属する微生物が挙げられ、好ましくはストレプトコッカス(Streptococcus)属微生物、さらに好ましくはストレプトコッカス・ミュータンス、特に好ましくはストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)NCIB11723が挙げられる。ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)NCIB11723由来の水生成型NADHオキシダーゼは、そのアミノ酸配列およびそれをコードするDNAの塩基配列はすでに報告されている(特開平8−196281号公報)。最も好ましくは、国際特許公報WO2011/090054に記載の安定性の向上したNADHオキシダーゼ変異体である。
NAD+またはNADP+を補酵素とするR体基質特異性酸化酵素源を用いる場合には、R体の基質特異的酸化に伴って還元された酸化型補酵素を再生するための上記酵素を反応液に共存させればよい。その添加量は、例えばR体基質特異性酸化酵素源の量などに応じて適宜調整することができる。また、その場合の反応条件は、R体基質特異性酸化酵素源と上記酵素の両方が活性を発揮できる範囲で適宜調整すればよい。
NAD+またはNADP+を補酵素としないR体基質特異性酸化酵素源、即ちNAD+非特異的またはNADP+非特異的なR体基質特異性酸化酵素源は、電子受容体としてNAD+またはNADP+を利用しない酵素であり、国際生化学・分子生物学連合の酵素分類法によりEC 1.1.2、EC 1.1.3、EC 1.1.4、EC 1.1.5、EC 1.1.98、EC 1.1.99のいずれかに分類される酸化還元酵素である。好ましくは、補酵素としてピロロキノリンキノン(PQQ)を利用する酵素である。さらに好ましくは、下記(a1)〜(a3)から選択される酵素源(以下、「ADH−DS」という)である:
(a1) 配列番号2のアミノ酸配列を有するR体基質特異性酸化酵素源;
(a2) 配列番号2のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠損、置換および/または付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、上記エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有するR体基質特異性酸化酵素源;
(a3) 配列番号2のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つ、上記エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有するR体基質特異性酸化酵素源。
(a1) 配列番号2のアミノ酸配列を有するR体基質特異性酸化酵素源;
(a2) 配列番号2のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠損、置換および/または付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、上記エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有するR体基質特異性酸化酵素源;
(a3) 配列番号2のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つ、上記エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有するR体基質特異性酸化酵素源。
なお、上記変異の数や配列同一性などの定義や好適値は、R体基質特異性酸化酵素RDRなどと同様である。
ADH−DSは電子受容体として人工電子受容体を利用できるため、反応中に人工電子受容体を添加することで、効率的に本発明の光学活性化合物を製造することができる。人工電子受容体としては、ADH−DSの酸化反応を促進する限り特に限定はされないが、好ましくはフェナジンメチルスルファート(PMS)、1−メトキシフェナジンメチルスルファート、フェリシアン化カリウム、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール(DCPIP)、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、フェロセン、1,4−ナフトキノン、メナジオン、2−メチル−1,4−ナフトキノン(ビタミンK3)、1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,6−ジメチル−1,4−ベンゾキノンである。
ADH−DSと人工電子受容体を用いて3−ヒドロキシピペリジン化合物のエナンチオマー混合物(II)のうち(R)−3−ヒドロキシピペリジン化合物の水酸基を基質特異的に酸化した場合、反応の進行に伴い、酸化型の人工電子受容体が還元されて還元型人工電子受容体となる。還元型人工電子受容体が酸素によって酸化される酸化型に再生される人工電子受容体(例えば、PMS)は3−ヒドロキシピペリジン化合物に対する使用当量(例えば、0.02当量)が少なくすみ、経済的である。
また、人工電子受容体再生用酵素を添加することで還元型人工電子受容体を酸化型に再生することもできる。また、人工電子受容体と人工電子受容体再生用酵素の添加によりADH−DSの反応性を向上させることもできるため好適である(実施例15〜17参照)。人工電子受容体再生用酵素を用いて、酸化型に変換できる還元型人工電子受容体としては特に限定されないが、好ましくは、フェロシアン化カリウム(フェリシアン化カリウムの還元体)、ヒドロキノン(ベンゾキノンの還元体)、還元型DCPIPがある。また、人工電子受容体再生用酵素としては、ラッカーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼがある。これらの酵素の起源となる生物は特に限定されず、微生物であってもよいし、高等生物であってもよいが、細菌、カビ、酵母などの微生物が好適である。また、市販されている酵素を使用することもできる。好ましくは、ラッカーゼM120(天野エンザイム株式会社製)やpolyphenol oxidase(タカラバイオ株式会社製)、BO amano III(天野エンザイム株式会社製)である。
なお、R体基質特異性酸化酵素の遺伝子と、この酵素が依存する補酵素を還元型から酸化型に再生する能力を有する酵素(例えばNADHオキシダーゼ)の遺伝子を同一宿主細胞内に導入した組換え微生物の培養物またはその処理物等を用いて、上記と同様の反応を行えば、別途に補酵素の再生に必要な酵素源を調製する必要がないため、より低コストで(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物(I)を製造することができる。
上記反応により、3−ヒドロキシピペリジン化合物のエナンチオマー混合物(II)のうち、R体エナンチオマー((R)−3−ヒドロキシピペリジン化合物)の水酸基が基質特異的に酸化され、3−ピペリドン化合物(III)と(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物(I)が得られる。得られる(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物(I)は、その光学純度が目的とする用途において要求される水準を満足する(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物を意味し、必ずしも光学純度が99.9%e.e.以上である必要はない。例えば、医薬中間体では、目的とするエナンチオマーの光学純度が90%e.e.以上、好ましくは95%e.e.以上、より好ましくは98%e.e.以上が目安であるが、以降の工程における光学純度向上の可否などの要因によって、要求される水準が変動することは言うまでもない。
本発明における「R体のエナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する」とは、例えば、下記評価方法Aで得られた(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物(I)の光学純度が50%e.e.以上であればよく、好ましくは90%e.e.以上、より好ましくは95%e.e.以上である。最も好ましくは96、97、98、99%e.e.以上である。また、下記評価方法Bの場合では、測定したR体に対する酸化活性とS体に対する酸化活性の比率は通常100/50以上、好ましくは100/10以上、さらに好ましくは100/1以上である。
[(R)−3−ヒドロキシピペリジン化合物の水酸基を基質特異的に酸化する能力の評価方法A]
0.2%ラセミ体1−ブトキシカルボニル−3―ヒドロキシピペリジン(以下、「ブトキシカルボニル」は「Boc」と略記する)を含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7)に、酸化酵素源を加え、必要に応じて、適当な濃度のNAD+、NADHオキシダーゼ、人工電子受容体を加え、20〜30℃で反応させる。反応後、酢酸エチルなどの有機溶媒で抽出操作を行う。抽出液の溶媒を留去後、3,5−ジニトロ塩化ベンゾイルで残存した1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを誘導体化し、例えば下記条件の高速液体クロマトグラフィーで分析することにより、残存した1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を確認する。
0.2%ラセミ体1−ブトキシカルボニル−3―ヒドロキシピペリジン(以下、「ブトキシカルボニル」は「Boc」と略記する)を含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7)に、酸化酵素源を加え、必要に応じて、適当な濃度のNAD+、NADHオキシダーゼ、人工電子受容体を加え、20〜30℃で反応させる。反応後、酢酸エチルなどの有機溶媒で抽出操作を行う。抽出液の溶媒を留去後、3,5−ジニトロ塩化ベンゾイルで残存した1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを誘導体化し、例えば下記条件の高速液体クロマトグラフィーで分析することにより、残存した1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を確認する。
[高速液体クロマトグラフィーによる分析条件]
カラム:Chiralpak AD−H(250mm,内径4.6μm,株式会社ダイセル製)
カラム温度:30℃
検出波長:245nm
移動相:n−ヘキサン/エタノール=7/3
保持時間:(R)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの誘導体−12.3分
(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの誘導体−14.9分
なお、(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度は、下記式より求めることができる。
カラム:Chiralpak AD−H(250mm,内径4.6μm,株式会社ダイセル製)
カラム温度:30℃
検出波長:245nm
移動相:n−ヘキサン/エタノール=7/3
保持時間:(R)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの誘導体−12.3分
(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの誘導体−14.9分
なお、(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度は、下記式より求めることができる。
S体の光学純度(%e.e.)={(S体のピーク面積)−(R体のピーク面積)}÷{(S体のピーク面積)+(R体のピーク面積)}×100
[(R)−3−ヒドロキシピペリジン化合物の水酸基を基質特異的に酸化する能力の評価方法B]
(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンまたは(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン10mg、NAD+5mgを含む0.1Mトリス緩衝液(pH8)に酸化酵素源を加えて20〜30℃で反応させる。反応後、酢酸エチルなどの有機溶媒で抽出し、有機層を希釈して下記ガスクロマトグラフィーで分析することにより1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率を算出できる。
(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンまたは(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン10mg、NAD+5mgを含む0.1Mトリス緩衝液(pH8)に酸化酵素源を加えて20〜30℃で反応させる。反応後、酢酸エチルなどの有機溶媒で抽出し、有機層を希釈して下記ガスクロマトグラフィーで分析することにより1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率を算出できる。
[ガスクロマトグラフィーの分析条件]
カラム:Rtx−5 amine キャピラリーカラム(30m,内径0.25mm,Restek Corporation製)
検出器:水素炎イオン化検出器
注入部温度:250℃
カラム温度:125℃
検出器温度:250℃
キャリアーガス:ヘリウム 圧力140KPa
検出時間:1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン − 26.7分
1−Boc−3−ピペリジノン − 27.6分
なお、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は下記式より求めることができる。
カラム:Rtx−5 amine キャピラリーカラム(30m,内径0.25mm,Restek Corporation製)
検出器:水素炎イオン化検出器
注入部温度:250℃
カラム温度:125℃
検出器温度:250℃
キャリアーガス:ヘリウム 圧力140KPa
検出時間:1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン − 26.7分
1−Boc−3−ピペリジノン − 27.6分
なお、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は下記式より求めることができる。
変換率(%)=(1−Boc−3−ピペリジノンのピーク面積)÷{(1−Boc−3−ピペリジノンのピーク面積)+(1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン)}×100
(2) 3−ピペリドン化合物の立体選択的還元工程
本工程では、上記工程(1)で生成した3−ヒドロキシピペリジン化合物にS体立体選択性を有する還元酵素源を作用させることにより、下記のとおり立体選択的に還元して、さらに(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物を得る。
本工程では、上記工程(1)で生成した3−ヒドロキシピペリジン化合物にS体立体選択性を有する還元酵素源を作用させることにより、下記のとおり立体選択的に還元して、さらに(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物を得る。
上記工程(1)の基質特異的酸化反応と本工程(2)の立体選択的還元反応は、別々に二段階で実施してもよい。しかし、R体基質特異性酸化酵素源とS体立体選択的還元酵素源の共存下で酸化反応と還元反応を同時に実施すれば、さらに効率的に(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物(I)を製造することができる。
使用するS体立体選択的還元酵素源としては、3−ピペリドン化合物(III)の3位のカルボニル基を立体選択的に還元し、(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物(I)を生成する能力を有するものであればいずれを用いてもよい。好ましくは国際生化学・分子生物学連合の酵素分類法によりEC 1.1.1に分類されるNAD+もしくはNADP+特異的な酵素である。さらに好ましくは、セルロモナス(Cellulomonas)属、パエニバシラス(Paenibacillus)属、キャンディダ(Candida)属、ロドトルーラ(Rhodotorula)属、オガタエア(Ogataea)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属由来のものである。
本発明において、前記基質特異的酸化反応と立体選択的還元反応を同時に実施する場合(以下、「デラセミ化反応」という)、R体基質特異性酸化酵素源とS体立体選択的還元酵素源の補酵素依存性は異なる方がよい。即ち、R体基質特異性酸化酵素源がNAD+特異的である場合には、酸化型補酵素再生系の酵素はNADH特異的であり、還元型補酵素再生系の酵素はNADP+特異的であることが好ましく、同様に、R体基質特異性酸化酵素源がNADP+特異的である場合には、酸化型補酵素再生系の酵素はNADPH特異的であり、還元型補酵素再生系の酵素はNAD+特異的であることが好ましい。特に好ましくは、酸化酵素源がNAD+特異的であり、還元酵素源がNADPH特異的である。
還元型補酵素を再生する能力を有する酵素としては、グルコース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、グルコース6−リン酸脱水素酵素が挙げられ、好ましくはグルコース脱水素酵素、より好ましくはNADP+特異的グルコース脱水素酵素が挙げられる。
上記グルコース脱水素酵素の起源となる生物としては特に限定されず、微生物であっても良いし、高等生物であってもよいが、細菌、カビ、酵母などの微生物が好適であり、好ましくは細菌が挙げられる。例えば、バチルス(Bacillus)属微生物、好ましくはバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)が挙げられる。
上記NADP+特異的グルコース脱水素酵素の起源となる生物としては特に限定されず、微生物であってもよいし、高等生物であってもよいが、細菌、カビ、酵母などの微生物が好適である。例えば、クリプトコッカス(Cryptococcus)属(特開2006−262767公報)、グルコノバクター(Gluconobacter)属(J.Bacteriol.,184,672−678,(2002))、サッカロミセス属(Saccharomyces)属(Methods Enzymol., 89,159−163,(1982))、ラクトバシラス(Lactobacillus)属、ぺディオコッカス(Pediococcus)属(国際特許公報WO2009/041415)由来のグルコース脱水素酵素やクリプトコッカス(Cryptococcus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属由来のグルコース−6−リン酸脱水素酵素が知られている(Arch. Biochem. Biophys.,228,113−119(1984))。
さらに好ましくは、乳酸菌由来の酵素であり、最も好ましくは国際特許公報WO2009/41415に記載のラクトバシラス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバシラス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ぺディオコッカス・パーブラス(Pediococcus parvulus)由来のグルコース脱水素酵素である。
S体立体選択性還元酵素の遺伝子と、この酵素が依存する補酵素を酸化型から還元型に再生する能力を有する酵素(例えばグルコース脱水素酵素)の遺伝子を同一宿主細胞内に導入した組換え微生物の培養物またはその処理物等を用いて上記と同様の反応を行えば、別途に補酵素の再生に必要な酵素源を調製する必要がないため、より低コストで光学活性含窒素環状アルコールを製造することができる。
また、上記工程(1)の酸化反応系(R体エナンチオマーの酸化反応と酸化型補酵素再生系)、本工程(2)の還元反応系(3−ピペリドン化合物(III)の還元反応と還元型補酵素再生系)に関与する酵素をそれぞれ同一宿主細胞内で発現させれば、酸化反応系および/または還元反応系はそれぞれ宿主細胞膜で分離されることになり、その結果、酸化型補酵素再生系と還元型補酵素再生系の共役による不具合が起こらない、または起こりにくくなり、その結果、補酵素再生系に関与する酵素の補酵素に対する特異性が低い場合も、反応が良好に進行する場合がある。
さらに、上記工程(1)の酸化反応系(R体エナンチオマーの酸化反応と酸化型補酵素再生系)、本工程(2)の還元反応系(3−ピペリドン化合物(III)の還元反応と還元型補酵素再生系)に使用するすべての酵素遺伝子を同一宿主微生物内に導入した形質転換体の培養物またはその処理物等を用いて反応を行うことは、製造プロセスの効率化において好ましい。
酵素源として用いる微生物の為の培養培地は、その微生物が増殖し得るものである限り特に限定されない。例えば、炭素源として、グルコース、シュークロース等の糖質、エタノール、グリセロール等のアルコール類、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸及びそのエステル類、菜種油、大豆油等の油類、窒素源として、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、ペプトン、カザミノ酸、コーンスティープリカー、ふすま、酵母エキスなど、無機塩類として、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、燐酸1水素カリウム、燐酸2水素カリウムなど、他の栄養源として、麦芽エキス、肉エキス等を含有する通常の液体培地が使用することができる。培養は好気的に行い、通常、培養時間は1〜5日間程度、培地のpHが3〜9、培養温度は10〜50℃で行うことができる。
S体立体選択性還元酵素源や3−ピペリドン化合物(III)の濃度などは適宜選択できるが、通常、3−ピペリドン化合物(III)の濃度は0.1質量%以上、100質量%程度、好ましくは11質量%以上、60質量%以下であり、補酵素NAD(P)Hは3−ピペリドン化合物(III)に対して0.0001モル%以上、100モル%以下程度、好ましくは0.0001モル%以上、0.1モル%以下である。反応温度は10℃以上、60℃以下、好ましくは20℃以上、50℃以下であり、反応pHは4以上、9以下程度、好ましくは5以上、8以下であり、反応時間は1時間以上、120時間以下程度、好ましくは1時間以上、72時間以下で行うことができる。
その他、本工程(2)の詳細な実施条件は、酵素源を変更すること以外、上記工程(1)と同様にすることができる。
本工程(2)で生じた光学活性(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物(I)は、常法により単離精製することができる。例えば、微生物等を用いた場合には必要に応じ遠心分離、濾過等の処理を施して菌体等の懸濁物を除去し、次いで酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒で抽出し、有機溶媒を減圧下に除去し、そして再結晶化、またはクロマトグラフィー等の処理を行う事により、単離精製することができる。なお、得られた(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物(I)の光学純度は、上記の[(R)−3−ヒドロキシピペリジン化合物の水酸基を基質特異的に酸化する能力の評価方法A]と同様の方法で測定することができる。
以下、実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例において用いた組換えDNA技術に関する詳細な操作方法などは、次の成書に記載されている:
Molecular Cloning 2nd Edition(Joseph Sambrook,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))、Current Protocols in Molecular Biology(Frederick M.Ausubel,Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience(1989))。
Molecular Cloning 2nd Edition(Joseph Sambrook,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))、Current Protocols in Molecular Biology(Frederick M.Ausubel,Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience(1989))。
参考例1:1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンおよび1−Boc−3−ピペリジノンの安定性評価
0.1M 2−モルホリノエタンスルホン酸・一水和物(MES)緩衝液(pH6.5)1mLに、1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンまたは1−Boc−3−ピペリジンを各10mgを加え、攪拌しながら30℃または50℃で25時間加熱した。25時間後、酢酸エチルで抽出し、有機層を希釈して下記条件のガスクロマトグラフィーで分析し、各化合物の残存率を算出した。結果を表1に示す。1−Boc−3−ピペリジノンに比べて1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンは緩衝液中での安定性が高かった。即ち、不安定な1−Boc−3−ピペリジノンに比べると1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンは水溶液中で実施する酵素反応の基質に適している。
0.1M 2−モルホリノエタンスルホン酸・一水和物(MES)緩衝液(pH6.5)1mLに、1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンまたは1−Boc−3−ピペリジンを各10mgを加え、攪拌しながら30℃または50℃で25時間加熱した。25時間後、酢酸エチルで抽出し、有機層を希釈して下記条件のガスクロマトグラフィーで分析し、各化合物の残存率を算出した。結果を表1に示す。1−Boc−3−ピペリジノンに比べて1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンは緩衝液中での安定性が高かった。即ち、不安定な1−Boc−3−ピペリジノンに比べると1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンは水溶液中で実施する酵素反応の基質に適している。
[ガスクロマトグラフィーの分析条件]
カラム:Rtx−5 amine キャピラリーカラム(30m,内径0.25mm,Restek Corporation製)
検出器:水素炎イオン化検出器
注入部温度:250℃
カラム温度:125℃
検出器温度:250℃
キャリアーガス:ヘリウム,流量140KPa
検出時間:1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン − 26.7分
1−Boc−3−ピペリジノン − 27.6分
カラム:Rtx−5 amine キャピラリーカラム(30m,内径0.25mm,Restek Corporation製)
検出器:水素炎イオン化検出器
注入部温度:250℃
カラム温度:125℃
検出器温度:250℃
キャリアーガス:ヘリウム,流量140KPa
検出時間:1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン − 26.7分
1−Boc−3−ピペリジノン − 27.6分
実施例1:デボシア・リボフラビナ由来酵素RDRを用いた1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの酸化反応
トリプトン16g、酵母エキス10g、NaCl 5g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH=7)5mLを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌した。これらの液体培地に、デボシア・リボフラビナ由来酵素RDRを生産するE.coli HB101(pNTDR)(国際特許公報WO2004/027055の実施例4参照)、ストレプトコッカス・ミュータンス由来のNADHオキシダーゼ変異体を生産するE.coli HB101(pNTNX−L042M)(国際特許公報WO2011/090054の実施例3参照)を無菌的にそれぞれ一白金耳接種して、37℃で24時間振とう培養した。
トリプトン16g、酵母エキス10g、NaCl 5g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH=7)5mLを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌した。これらの液体培地に、デボシア・リボフラビナ由来酵素RDRを生産するE.coli HB101(pNTDR)(国際特許公報WO2004/027055の実施例4参照)、ストレプトコッカス・ミュータンス由来のNADHオキシダーゼ変異体を生産するE.coli HB101(pNTNX−L042M)(国際特許公報WO2011/090054の実施例3参照)を無菌的にそれぞれ一白金耳接種して、37℃で24時間振とう培養した。
培養後、遠心分離により菌体を濃縮し、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施した。E.coli HB101(pNTDR)の菌体破砕液0.1mL、E.coli HB101(pNTNX−L042M)の濃縮菌体破砕液0.1mL、(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンまたは(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン10mg、NAD+ 5mg、0.1Mトリス緩衝液(pH8)0.8mLを加えて、30℃で21時間反応させた。また、対照実験として、E.coli HB101(pNTDR)を添加せずE.coli HB101(pNTNX−L042M)のみでも同様に反応させた。
反応終了後、2倍量の酢酸エチルで抽出し、有機層を希釈して下記条件のガスクロマトグラフィーで分析した。1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率を算出した。
E.coli HB101(pNTDR)を添加した反応では(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は45.1%であった。一方、(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は0%であった。また、E.coli HB101(pNTDR)を添加しないE.coli HB101(pNTNX−L042M)のみの反応では(R)体、(S)体いずれの1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンを基質とした場合も1−Boc−3−ピペリジノンの生成は確認できなかった。デボシア・リボフラビナ由来酵素RDRは(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンを選択的に酸化した。
[ガスクロマトグラフィーの分析条件]
カラム:Rtx−5 amine キャピラリーカラム(30m,内径0.25mm,Restek Corporation製)
検出器:水素炎イオン化検出器
注入部温度:250℃
カラム温度:125℃
検出器温度:250℃
キャリアーガス:ヘリウム,圧力140KPa
検出時間:1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン − 26.7分
1−Boc−3−ピペリジノン − 27.6分
なお、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は下記式より求めることができる。
カラム:Rtx−5 amine キャピラリーカラム(30m,内径0.25mm,Restek Corporation製)
検出器:水素炎イオン化検出器
注入部温度:250℃
カラム温度:125℃
検出器温度:250℃
キャリアーガス:ヘリウム,圧力140KPa
検出時間:1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン − 26.7分
1−Boc−3−ピペリジノン − 27.6分
なお、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は下記式より求めることができる。
変換率(%)=(1−Boc−3−ピペリジノンのピーク面積)÷{(1−Boc−3−ピペリジノンのピーク面積)+(1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン)}×100
実施例2:ブレブンディモナス・ディミヌタ酵素RBDを用いた1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの酸化反応
実施例1のE.coli HB101(pNTDR)の代わりにブレブンディモナス・ディミヌタ由来酵素RBDを生産するE.coli HB101(pNBD)(国際特許公報WO2007/114217の実施例8参照)を用いて、実施例1と同様に反応および分析を行った。その結果、(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は85.8%であった。一方、(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は1.3%であった。(R)体からカルボニル化合物への反応変換率と(S)体からカルボニル化合物への反応変換率の比率は67/1であった。ブレブンディモナス・ディミヌタ由来酵素RBDは(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンを選択的に酸化した。
実施例1のE.coli HB101(pNTDR)の代わりにブレブンディモナス・ディミヌタ由来酵素RBDを生産するE.coli HB101(pNBD)(国際特許公報WO2007/114217の実施例8参照)を用いて、実施例1と同様に反応および分析を行った。その結果、(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は85.8%であった。一方、(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は1.3%であった。(R)体からカルボニル化合物への反応変換率と(S)体からカルボニル化合物への反応変換率の比率は67/1であった。ブレブンディモナス・ディミヌタ由来酵素RBDは(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンを選択的に酸化した。
参考例2:レイフソニア・スピーシーズ由来酵素RLSを生産する形質転換体の作製
国立生物工学情報センター(NCBI)のプロテインデーターベースに登録されているレイフソニア・スピーシーズ(Leifsonia sp.)109株由来の3−hydroxybutyrate dehydrogenaseと推定されるポリペプチド(ACCESSION No.WP_018191686.1、以下、「RLS」)をコードするDNAの5‘末端にNdeIサイト、3’末端にKpnIサイトを付加した人工合成遺伝子(配列番号1,Eurogentec S.A.製)をプラスミドpUCNT(国際特許公報WO94/03613)のNdeI−KpnIの間に導入した。このプラスミドpNTLSでE.coli HB101を形質転換し、導入したDNAがコードするRLSを生産する形質転換体E.coli HB101(pNTLS)を作製した。
国立生物工学情報センター(NCBI)のプロテインデーターベースに登録されているレイフソニア・スピーシーズ(Leifsonia sp.)109株由来の3−hydroxybutyrate dehydrogenaseと推定されるポリペプチド(ACCESSION No.WP_018191686.1、以下、「RLS」)をコードするDNAの5‘末端にNdeIサイト、3’末端にKpnIサイトを付加した人工合成遺伝子(配列番号1,Eurogentec S.A.製)をプラスミドpUCNT(国際特許公報WO94/03613)のNdeI−KpnIの間に導入した。このプラスミドpNTLSでE.coli HB101を形質転換し、導入したDNAがコードするRLSを生産する形質転換体E.coli HB101(pNTLS)を作製した。
実施例3:レイフソニア・スピーシーズ由来酵素RLSを用いた1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの酸化反応
実施例1のE.coli HB101(pNTDR)の代わりに参考例2で作製したE.coli HB101(pNTLS)を用いて、実施例1と同様に反応および分析を行った。その結果、(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は13.4%であった。一方、(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は0%であった。レイフソニア・スピーシーズ由来酵素RLSは(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンを選択的に酸化した。
実施例1のE.coli HB101(pNTDR)の代わりに参考例2で作製したE.coli HB101(pNTLS)を用いて、実施例1と同様に反応および分析を行った。その結果、(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は13.4%であった。一方、(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率は0%であった。レイフソニア・スピーシーズ由来酵素RLSは(R)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンを選択的に酸化した。
実施例4:ブレブンディモナス・ディミヌタ由来酵素RBDを用いたデラセミ化反応による(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの製造
実施例1と同様の方法で、ブレブンディモナス・ディミヌタ由来酵素RBDを生産するE.coli HB101(pNBD)(国際特許公報WO2007/114217の実施例8参照)、ストレプトコッカス・ミュータンス由来のNADHオキシダーゼ変異体を生産するE.coli HB101(pNTNX−L042M)(国際特許公報WO2011/090054の実施例3参照)、ロドトルーラ・グルチニス由来の還元酵素RRGを生産するE.coli HB101(pNTRG)(国際特許公報WO2003/093477の実施例7参照)、ラクトバシラス・ペントサス由来のグルコース脱水素酵素GLP2を生産するE.coli HB101(pNGLP2)(国際特許公報WO2009/041415の実施例5参照)の4種類の組換え大腸菌の濃縮菌体破砕液を調製した。4種類の組換え大腸菌の濃縮菌体破砕液 各0.1mLずつに、ラセミ体1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン100μg、NAD+ 5mg、NADP+ 0.5mg、グルコース10mg、0.1Mトリス緩衝液(pH8)0.6mLを加えて、30℃で24時間反応させた。反応終了後、実施例1と同様にして1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率を算出した。また、抽出液の溶媒を留去後、3,5−ジニトロ塩化ベンゾイルで、残存した1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを誘導体化し、下記条件の高速液体クロマトグラフィーで分析することにより、残存した1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。
実施例1と同様の方法で、ブレブンディモナス・ディミヌタ由来酵素RBDを生産するE.coli HB101(pNBD)(国際特許公報WO2007/114217の実施例8参照)、ストレプトコッカス・ミュータンス由来のNADHオキシダーゼ変異体を生産するE.coli HB101(pNTNX−L042M)(国際特許公報WO2011/090054の実施例3参照)、ロドトルーラ・グルチニス由来の還元酵素RRGを生産するE.coli HB101(pNTRG)(国際特許公報WO2003/093477の実施例7参照)、ラクトバシラス・ペントサス由来のグルコース脱水素酵素GLP2を生産するE.coli HB101(pNGLP2)(国際特許公報WO2009/041415の実施例5参照)の4種類の組換え大腸菌の濃縮菌体破砕液を調製した。4種類の組換え大腸菌の濃縮菌体破砕液 各0.1mLずつに、ラセミ体1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン100μg、NAD+ 5mg、NADP+ 0.5mg、グルコース10mg、0.1Mトリス緩衝液(pH8)0.6mLを加えて、30℃で24時間反応させた。反応終了後、実施例1と同様にして1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3−ピペリジノンへの変換率を算出した。また、抽出液の溶媒を留去後、3,5−ジニトロ塩化ベンゾイルで、残存した1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを誘導体化し、下記条件の高速液体クロマトグラフィーで分析することにより、残存した1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。
その結果、得られた(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度は95.4%e.e.であった。また、1−Boc−3−ピペリジノンの生成は認められず、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの収率は97%であった。前記4種類の酵素を生産する組換え大腸菌を用いたデラセミ化反応により(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンが製造できた。
[高速液体クロマトグラフィーによる分析条件]
カラム:Chiralpak AD−H(250mm,内径4.6μm,株式会社ダイセル製)
カラム温度:30℃
検出波長:245nm
移動相:n−ヘキサン/エタノール=7/3
保持時間:(R)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの誘導体−12.3分
(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの誘導体−14.9分
なお、(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度は下記式より求めることができる。
カラム:Chiralpak AD−H(250mm,内径4.6μm,株式会社ダイセル製)
カラム温度:30℃
検出波長:245nm
移動相:n−ヘキサン/エタノール=7/3
保持時間:(R)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの誘導体−12.3分
(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの誘導体−14.9分
なお、(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度は下記式より求めることができる。
(S)体の光学純度(%e.e.)={((S)体のピーク面積)−((R)体のピーク面積)}÷{((S)体のピーク面積)+((R)体のピーク面積)}×100
参考例3:サッカロマイセス・セレビジエ由来酵素YPR1を生産する形質転換体の作製
国立生物工学情報センター(NCBI)のプロテインデーターベースに登録されているサッカロマイセス・セレビジエ S288C(ATCC26108)株由来のAldo/keto reductase(ACCESSION No.NP_010656.1,YPR1)を生産する形質転換体を作製した。サッカロマイセス・セレビジエ S288C(ATCC26108)株の染色体DNAを鋳型として、プライマー1:5’−GGAGTCCATATGCCTGCTACGTTAAAGAAT−3’(配列表の配列番号3)と、プライマー2:5’−TATATACTGCAGTCATCATTGGAAAATTGG−3’(配列表の配列番号4)を用いて、サッカロマイセス・セレビジエ由来のYPR1をコードするDNAの開始コドン部分にNdeI部位を付加し、かつ終始コドンの直後に新たな終始コドンとPstI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCNT(国際特許公報WO94/03613)のNdeI−PstI間に導入した。このプラスミドpNTYPR1でE.coli HB101を形質転換し、YPR1を生産する形質転換体E.coli HB101(pNTYPR1)を作製した。
国立生物工学情報センター(NCBI)のプロテインデーターベースに登録されているサッカロマイセス・セレビジエ S288C(ATCC26108)株由来のAldo/keto reductase(ACCESSION No.NP_010656.1,YPR1)を生産する形質転換体を作製した。サッカロマイセス・セレビジエ S288C(ATCC26108)株の染色体DNAを鋳型として、プライマー1:5’−GGAGTCCATATGCCTGCTACGTTAAAGAAT−3’(配列表の配列番号3)と、プライマー2:5’−TATATACTGCAGTCATCATTGGAAAATTGG−3’(配列表の配列番号4)を用いて、サッカロマイセス・セレビジエ由来のYPR1をコードするDNAの開始コドン部分にNdeI部位を付加し、かつ終始コドンの直後に新たな終始コドンとPstI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCNT(国際特許公報WO94/03613)のNdeI−PstI間に導入した。このプラスミドpNTYPR1でE.coli HB101を形質転換し、YPR1を生産する形質転換体E.coli HB101(pNTYPR1)を作製した。
実施例5:ブレブンディモナス・ディミヌタ由来酵素RBDを用いたデラセミ化反応による(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの製造
実施例4のロドトルーラ・グルチニス由来の還元酵素RRGを生産するE.coli HB101(pNTRG)の代わりに参考例3のE.coli HB101(pNTYPR1)を用いて、実施例4と同様にデラセミ化反応を実施した。
実施例4のロドトルーラ・グルチニス由来の還元酵素RRGを生産するE.coli HB101(pNTRG)の代わりに参考例3のE.coli HB101(pNTYPR1)を用いて、実施例4と同様にデラセミ化反応を実施した。
その結果、得られた(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度は95.5%e.e.であった。1−Boc−3−ピペリジノンの生成は認められず、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの収率は93%であった。
実施例6:デボシア・リボフラビナ由来酵素RDRを用いたデラセミ化反応による(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの製造
実施例1と同様の方法で、デボシア・リボフラビナ由来酵素RDRを生産するE.coli HB101(pNTDR)(国際特許公報WO2004/027055の実施例4参照)、ストレプトコッカス・ミュータンス由来のNADHオキシダーゼ変異体を生産するE.coli HB101(pNTNX−L042M)(国際特許公報WO2011/090054の実施例3参照)、ロドトルーラ・グルチニス由来の還元酵素RRGを生産するE.coli HB101(pNTRG)(国際特許公報WO2003/093477の実施例7参照)、ラクトバシラス・ペントサス由来のグルコース脱水素酵素GLP2を生産するE.coli HB101(pNGLP2)(国際特許公報WO2009/041415の実施例5参照)の4種類の組換え大腸菌の濃縮菌体破砕液を調製した。4種類の組換え大腸菌の濃縮菌体破砕液 各0.1mLずつに、ラセミ体1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン100μg、NAD+ 5mg、NADP+ 0.5mg、グルコース10mg、0.1Mトリス緩衝液(pH8)0.6mLを加えて、20℃で96時間反応させた。反応終了後、実施例4と同様にして1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン及び1−Boc−3−ピペリジノンを分析した。
実施例1と同様の方法で、デボシア・リボフラビナ由来酵素RDRを生産するE.coli HB101(pNTDR)(国際特許公報WO2004/027055の実施例4参照)、ストレプトコッカス・ミュータンス由来のNADHオキシダーゼ変異体を生産するE.coli HB101(pNTNX−L042M)(国際特許公報WO2011/090054の実施例3参照)、ロドトルーラ・グルチニス由来の還元酵素RRGを生産するE.coli HB101(pNTRG)(国際特許公報WO2003/093477の実施例7参照)、ラクトバシラス・ペントサス由来のグルコース脱水素酵素GLP2を生産するE.coli HB101(pNGLP2)(国際特許公報WO2009/041415の実施例5参照)の4種類の組換え大腸菌の濃縮菌体破砕液を調製した。4種類の組換え大腸菌の濃縮菌体破砕液 各0.1mLずつに、ラセミ体1−Boc−3−ヒドロキシピペリジン100μg、NAD+ 5mg、NADP+ 0.5mg、グルコース10mg、0.1Mトリス緩衝液(pH8)0.6mLを加えて、20℃で96時間反応させた。反応終了後、実施例4と同様にして1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン及び1−Boc−3−ピペリジノンを分析した。
その結果、得られた(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度は75.0%e.e.であった。1−Boc−3−ピペリジノンの生成は認められず、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの収率は100%であった。前記4種類の酵素を生産する組換え大腸菌を用いたデラセミ化反応により(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンが製造できた。
実施例7:デボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSの精製
以下の方法に従って、発明者らが自然界より単離した土壌単離菌デボシア・スピーシーズKNK7−467株より、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンのエナンチオマー混合物のうち(R)体を選択的に酸化するポリペプチドを分離し、単一に精製した。特に断りのない限り、精製操作は4℃で行った。また、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンに対する酸化活性は、後述の「1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンに対する酸化活性の評価方法」に記載の方法で実施した。
以下の方法に従って、発明者らが自然界より単離した土壌単離菌デボシア・スピーシーズKNK7−467株より、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンのエナンチオマー混合物のうち(R)体を選択的に酸化するポリペプチドを分離し、単一に精製した。特に断りのない限り、精製操作は4℃で行った。また、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンに対する酸化活性は、後述の「1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンに対する酸化活性の評価方法」に記載の方法で実施した。
[1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンに対する酸化活性の評価方法]
25mM ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン、0.5mM PMS、5μM PQQ・2Na、5mM 塩化カルシウムを含む0.1M 2−モルホリノエタンスルホン酸・一水和物(MES)緩衝液(pH6.5)に酸化酵素源を加え、30℃で1時間反応した。反応終了後、実施例1と同様にして分析し、下記式よりポリペプチドの酸化活性を数値化した。酸化活性1Uは、1分間に1μmolの1−Boc−3―ピペリジノンを生成する酵素量とした。
25mM ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン、0.5mM PMS、5μM PQQ・2Na、5mM 塩化カルシウムを含む0.1M 2−モルホリノエタンスルホン酸・一水和物(MES)緩衝液(pH6.5)に酸化酵素源を加え、30℃で1時間反応した。反応終了後、実施例1と同様にして分析し、下記式よりポリペプチドの酸化活性を数値化した。酸化活性1Uは、1分間に1μmolの1−Boc−3―ピペリジノンを生成する酵素量とした。
1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンに対する還元活性(U)=(1−Boc−3―ピペリジノンのエリア面積)÷[(1−Boc−3―ピペリジノンのエリア面積)+(1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンのエリア面積)]×(反応に用いた1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン量(μmol))÷反応時間(分)。
[微生物の培養]
5L容ミニジャーファーメンターに、肉エキス10g、ペプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム3g、アデカノールLG−109(株式会社ADEKA製)0.1g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)3000mLを調製し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。この培地に、予め同培地にて前培養しておいたデボシア・スピーシーズKNK7−467株の培養液を30mL接種し、30℃、0.3vvm、450rpmで攪拌しながら54時間培養を行った。
5L容ミニジャーファーメンターに、肉エキス10g、ペプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム3g、アデカノールLG−109(株式会社ADEKA製)0.1g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)3000mLを調製し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。この培地に、予め同培地にて前培養しておいたデボシア・スピーシーズKNK7−467株の培養液を30mL接種し、30℃、0.3vvm、450rpmで攪拌しながら54時間培養を行った。
[無細胞抽出液の調製]
上記の培養液から遠心分離により菌体を集め、10mMトリス緩衝液(pH7)を用いて菌体を洗浄した。この菌体を、同緩衝液に懸濁し、SONIFIER250(日本エマソン株式会社製)を用いて超音波破砕した後、遠心分離(4000×g,5分)にて菌体残渣を除き、無細胞抽出液を得た。
上記の培養液から遠心分離により菌体を集め、10mMトリス緩衝液(pH7)を用いて菌体を洗浄した。この菌体を、同緩衝液に懸濁し、SONIFIER250(日本エマソン株式会社製)を用いて超音波破砕した後、遠心分離(4000×g,5分)にて菌体残渣を除き、無細胞抽出液を得た。
[硫安分画]
上記で得た無細胞抽出液に、終濃度20%になるように硫酸アンモニウムを添加し1時間攪拌後、遠心分離により沈殿を除去した。この上清に終濃度40%になるように硫酸アンモニウムを添加し、1時間攪拌後、遠心分離により沈殿を取得した。さらに、終濃度60%になるように硫酸アンモニウムを添加し1時間攪拌後、遠心分離により沈殿を得た。この沈殿を10mMトリス緩衝液(pH7)に溶解した。
上記で得た無細胞抽出液に、終濃度20%になるように硫酸アンモニウムを添加し1時間攪拌後、遠心分離により沈殿を除去した。この上清に終濃度40%になるように硫酸アンモニウムを添加し、1時間攪拌後、遠心分離により沈殿を取得した。さらに、終濃度60%になるように硫酸アンモニウムを添加し1時間攪拌後、遠心分離により沈殿を得た。この沈殿を10mMトリス緩衝液(pH7)に溶解した。
[Phenyl TOYOPEARL 650Mカラムクロマトグラフィー]
硫安分画の活性画分を、1M 硫酸アンモニウムを含む10mMトリス緩衝液(pH7)で希釈し、予め同緩衝液で平衡化したPhenyl TOYOPEARL 650Mカラムクロマトグラフィー(東ソー株式会社製)カラム(110mL)に供し、同一緩衝液でカラムを洗浄した後、硫酸アンモニウムのリニアグラジエント(1Mから0Mまで)により活性画分を溶出させた。
硫安分画の活性画分を、1M 硫酸アンモニウムを含む10mMトリス緩衝液(pH7)で希釈し、予め同緩衝液で平衡化したPhenyl TOYOPEARL 650Mカラムクロマトグラフィー(東ソー株式会社製)カラム(110mL)に供し、同一緩衝液でカラムを洗浄した後、硫酸アンモニウムのリニアグラジエント(1Mから0Mまで)により活性画分を溶出させた。
[DEAE−TOYOPEARLカラムクロマトグラフィー]
疎水クロマトグラフィーの活性画分を、10mMトリス緩衝液(pH7)で予め平衡化したDEAE−TOYOPEARL 650M(東ソー株式会社製)カラム(150mL)に供し、同一緩衝液でカラムを洗浄した後、NaClのリニアグラジエント(0Mから0.5Mまで)により活性画分を溶出させ、電気泳動的に単一なポリペプチドの精製標品を得た。本酵素は1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンのエナンチオマー混合物のうち(R)体を選択的に酸化する活性を有していた。
疎水クロマトグラフィーの活性画分を、10mMトリス緩衝液(pH7)で予め平衡化したDEAE−TOYOPEARL 650M(東ソー株式会社製)カラム(150mL)に供し、同一緩衝液でカラムを洗浄した後、NaClのリニアグラジエント(0Mから0.5Mまで)により活性画分を溶出させ、電気泳動的に単一なポリペプチドの精製標品を得た。本酵素は1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンのエナンチオマー混合物のうち(R)体を選択的に酸化する活性を有していた。
実施例8:デボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSの基質特異性評価
50mM 基質(表1参照)、1mM PMS、5μM PQQ・2Na、5mM 塩化カルシウム、0.1mM DCPIPを含む0.1M 2−モルホリノエタンスルホン酸・一水和物(MES)緩衝液(pH6.5)に実施例7で得た精製酵素を加え、30℃で10分間反応した。その間、600nmの吸光度の変化から還元されたDCPIP量を定量し、酵素活性を算出した。酸化活性1Uは、1分間に1μmolのDCPIPを還元する酵素量とした。各基質に対する酸化活性を表2に示す。なお、活性は1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンに対する活性を100%としたときの相対活性(%)で示した。ADH−DSは1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンだけでなく、3−ヒドロキシピペリジンや1−ベンジル−3−ヒドロキシピペリジンに対する酸化活性もあった。
50mM 基質(表1参照)、1mM PMS、5μM PQQ・2Na、5mM 塩化カルシウム、0.1mM DCPIPを含む0.1M 2−モルホリノエタンスルホン酸・一水和物(MES)緩衝液(pH6.5)に実施例7で得た精製酵素を加え、30℃で10分間反応した。その間、600nmの吸光度の変化から還元されたDCPIP量を定量し、酵素活性を算出した。酸化活性1Uは、1分間に1μmolのDCPIPを還元する酵素量とした。各基質に対する酸化活性を表2に示す。なお、活性は1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンに対する活性を100%としたときの相対活性(%)で示した。ADH−DSは1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンだけでなく、3−ヒドロキシピペリジンや1−ベンジル−3−ヒドロキシピペリジンに対する酸化活性もあった。
実施例9:デボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSをコードするDNAの取得
[精製酵素の内部アミノ酸配列の決定]
実施例7で得られた精製デボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを8M尿素存在下で変性した後、アクロモバクター由来のリシルエンドペプチダーゼ(和光純薬工業株式会社製)または、スタフィロコッカス由来のV8プロテアーゼ(和光純薬工業株式会社製)で消化し、得られたペプチド断片のアミノ酸配列をPPSQ−33A型プロテインシーケンサー(株式会社島津製作所製)により決定した。その結果、以下、3つのペプチド断片のアミノ酸配列が決定できた。これらの3つのペプチドはシュードグルコノバクター由来のPQQ依存型アルコール脱水素酵素ADH−PS(J.Biosci.Bioeng.92,524−531.(2001))のアミノ酸配列と高い配列同一性を示した。以下、本精製酵素をADH−DSと呼ぶ。
[精製酵素の内部アミノ酸配列の決定]
実施例7で得られた精製デボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを8M尿素存在下で変性した後、アクロモバクター由来のリシルエンドペプチダーゼ(和光純薬工業株式会社製)または、スタフィロコッカス由来のV8プロテアーゼ(和光純薬工業株式会社製)で消化し、得られたペプチド断片のアミノ酸配列をPPSQ−33A型プロテインシーケンサー(株式会社島津製作所製)により決定した。その結果、以下、3つのペプチド断片のアミノ酸配列が決定できた。これらの3つのペプチドはシュードグルコノバクター由来のPQQ依存型アルコール脱水素酵素ADH−PS(J.Biosci.Bioeng.92,524−531.(2001))のアミノ酸配列と高い配列同一性を示した。以下、本精製酵素をADH−DSと呼ぶ。
ペプチド断片1:ENFQPVTADDLAGKNPAN(100%)(配列表の配列番号5)
ペプチド断片2:NPANWPILRGNYQGWGYSP(100%)(配列表の配列番号6)
ペプチド断片3:WTTRLPGSVSGYTTSYSI(88%)(配列表の配列番号7)
なお、上記括弧内はADH−PSのアミノ酸配列との配列同一性を示している。
ペプチド断片2:NPANWPILRGNYQGWGYSP(100%)(配列表の配列番号6)
ペプチド断片3:WTTRLPGSVSGYTTSYSI(88%)(配列表の配列番号7)
なお、上記括弧内はADH−PSのアミノ酸配列との配列同一性を示している。
[ADH−DSをコードするDNAの増幅]
公知酵素ADH−PSをコードするDNA及びその周辺領域の配列を元に、下記5種類のPCRプライマーを設計した。フォワードプライマーとして、プライマー3(ADH−PS遺伝子の開始コドンの約200bp上流付近1):5’−GAATTCCGGCACTTTTCGATGTCCAGCCTG−3’(配列表の配列番号8)、プライマー4(ADH−PS遺伝子の開始コドンの約100bp上流付近2):5’−CTGCGGACGTGGCTGGAATTACCAATGTTC−3’(配列表の配列番号9)、プライマー5(ADH−PS遺伝子の開始コドン付近):5’−GGAGTCCATATGAGATTTGAGTATTTGCGG−3’(配列表の配列番号10)、リバースプライマーとして、プライマー6(ADH−PS遺伝子の終止コドンの約70bp下流付近):5’−GAGCGCCGCAAGGGCTTTGATGTTCATGGG−3’(配列表の配列番号11)、プライマー7(ADH−PS遺伝子の終止コドン付近):5’−TATATAGAATTCTTACTTCTTCTCGGGAAG−3’(配列表の配列番号12)を作製した。各フォワードプライマー、リバースプライマーのいずれの組み合わせでも、デボシア・スピーシーズKNK7−467株の染色体DNAを鋳型として、DNA断片の増幅が確認できた。このDNA断片を、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)およびApplied Biosystems 3130xlジェネティックアナライザ(ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)を用いてダイレクトシーケンスを行い、その塩基配列を解析した。その結果判明したADH−DSおよびその周辺領域の塩基配列を配列表の配列番号13に示す。また、判明した塩基配列から予測されるADH−DSのアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。アミノ酸配列を決定した精製酵素のペプチド断片(配列表の配列番号5〜7)はすべて配列番号2に含まれることから、本ポリペプチドが精製酵素と同一であると判断した。
公知酵素ADH−PSをコードするDNA及びその周辺領域の配列を元に、下記5種類のPCRプライマーを設計した。フォワードプライマーとして、プライマー3(ADH−PS遺伝子の開始コドンの約200bp上流付近1):5’−GAATTCCGGCACTTTTCGATGTCCAGCCTG−3’(配列表の配列番号8)、プライマー4(ADH−PS遺伝子の開始コドンの約100bp上流付近2):5’−CTGCGGACGTGGCTGGAATTACCAATGTTC−3’(配列表の配列番号9)、プライマー5(ADH−PS遺伝子の開始コドン付近):5’−GGAGTCCATATGAGATTTGAGTATTTGCGG−3’(配列表の配列番号10)、リバースプライマーとして、プライマー6(ADH−PS遺伝子の終止コドンの約70bp下流付近):5’−GAGCGCCGCAAGGGCTTTGATGTTCATGGG−3’(配列表の配列番号11)、プライマー7(ADH−PS遺伝子の終止コドン付近):5’−TATATAGAATTCTTACTTCTTCTCGGGAAG−3’(配列表の配列番号12)を作製した。各フォワードプライマー、リバースプライマーのいずれの組み合わせでも、デボシア・スピーシーズKNK7−467株の染色体DNAを鋳型として、DNA断片の増幅が確認できた。このDNA断片を、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)およびApplied Biosystems 3130xlジェネティックアナライザ(ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)を用いてダイレクトシーケンスを行い、その塩基配列を解析した。その結果判明したADH−DSおよびその周辺領域の塩基配列を配列表の配列番号13に示す。また、判明した塩基配列から予測されるADH−DSのアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。アミノ酸配列を決定した精製酵素のペプチド断片(配列表の配列番号5〜7)はすべて配列番号2に含まれることから、本ポリペプチドが精製酵素と同一であると判断した。
実施例10:組換えベクターpNTADH−DSの構築
デボシア・スピーシーズKNK7−467株の染色体DNAを鋳型として、プライマー5:5’−GGAGTCCATATGAGATTTGAGTATTTGCGG−3’(配列表の配列番号10)と、プライマー8:5’−TATATAGAATTCTTACTTCGTCTCGGGAAG−3’(配列表の配列番号14)を用いて、デボシア・スピーシーズ由来の酸化酵素ADH−DSをコードするDNAの開始コドン部分にNdeI部位を付加し、かつ終始コドンの直後にEcoRI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCNT(国際特許公報WO94/03613)に導入した。
デボシア・スピーシーズKNK7−467株の染色体DNAを鋳型として、プライマー5:5’−GGAGTCCATATGAGATTTGAGTATTTGCGG−3’(配列表の配列番号10)と、プライマー8:5’−TATATAGAATTCTTACTTCGTCTCGGGAAG−3’(配列表の配列番号14)を用いて、デボシア・スピーシーズ由来の酸化酵素ADH−DSをコードするDNAの開始コドン部分にNdeI部位を付加し、かつ終始コドンの直後にEcoRI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCNT(国際特許公報WO94/03613)に導入した。
実施例11:デボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを生産する組換え大腸菌の作製
実施例10で作製したプラスミドpNTADH−DSでE.coli HB101を形質転換し、ADH−DSを生産する形質転換体E.coli HB101(pNTADH−DS)を作製した。
実施例10で作製したプラスミドpNTADH−DSでE.coli HB101を形質転換し、ADH−DSを生産する形質転換体E.coli HB101(pNTADH−DS)を作製した。
実施例12:デボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを生産する組換え大腸菌の1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの酸化活性の測定
実施例1と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)および対照としてADH−DSを生産しないE.coli HB101(pUCNT)(国際特許公報WO94/03613に記載のpUCNTでE.coli HB101を形質転換した形質転換体)を培養した。培養後、遠心分離により菌体を濃縮し、超音波ホモジナイザーにより菌体を破砕し、これを菌体破砕液とした。実施例7と同様にして1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンに対する酸化活性を測定した。その結果、E.coli HB101(pNTADH−DS)の培養液は3140U/mLの酸化活性を示した。一方、E.coli HB101(pUCNT)の培養液には酸化活性を確認できなかった。E.coli HB101(pNTADH−DS)がADH−DSを生産していることを確認できた。
実施例1と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)および対照としてADH−DSを生産しないE.coli HB101(pUCNT)(国際特許公報WO94/03613に記載のpUCNTでE.coli HB101を形質転換した形質転換体)を培養した。培養後、遠心分離により菌体を濃縮し、超音波ホモジナイザーにより菌体を破砕し、これを菌体破砕液とした。実施例7と同様にして1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンに対する酸化活性を測定した。その結果、E.coli HB101(pNTADH−DS)の培養液は3140U/mLの酸化活性を示した。一方、E.coli HB101(pUCNT)の培養液には酸化活性を確認できなかった。E.coli HB101(pNTADH−DS)がADH−DSを生産していることを確認できた。
実施例13:デボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを生産する組換え大腸菌を用いた(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの製造
実施例12と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)の菌体破砕液を調製した。50mM ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン、1mM PMS、5μM PQQ・2Na、5mM 塩化カルシウムを含む0.1M 2−モルホリノエタンスルホン酸・一水和物(MES)緩衝液(pH6.5)に上記菌体破砕液を加え、30℃で1時間反応した。反応終了後、実施例4と同様にして分析し、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率および残存する1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。その結果、1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率は49.4%、残存する1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンは(S)体であり、その光学純度は97.6%e.e.であった。E.coli HB101(pNTADH−DS)を用いて、(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを製造できた。
実施例12と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)の菌体破砕液を調製した。50mM ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン、1mM PMS、5μM PQQ・2Na、5mM 塩化カルシウムを含む0.1M 2−モルホリノエタンスルホン酸・一水和物(MES)緩衝液(pH6.5)に上記菌体破砕液を加え、30℃で1時間反応した。反応終了後、実施例4と同様にして分析し、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率および残存する1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。その結果、1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率は49.4%、残存する1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンは(S)体であり、その光学純度は97.6%e.e.であった。E.coli HB101(pNTADH−DS)を用いて、(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを製造できた。
実施例14:デボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを生産する組換え大腸菌の人工電子受容体に対する特異性の評価
実施例12と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)の菌体破砕液を調製した。表2に示す人工電子受容体(各5mM)、50mM ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン、5μM PQQ・2Na、5mM 塩化カルシウムを含む0.1M MES緩衝液(pH6.5)に上記菌体破砕液を加え、30℃で1時間反応した。反応終了後、実施例1と同様にして分析し、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率を算出した。結果を表3に示す。ADH−DSは各種人工電子受容体存在下で反応が進行した。
実施例12と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)の菌体破砕液を調製した。表2に示す人工電子受容体(各5mM)、50mM ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン、5μM PQQ・2Na、5mM 塩化カルシウムを含む0.1M MES緩衝液(pH6.5)に上記菌体破砕液を加え、30℃で1時間反応した。反応終了後、実施例1と同様にして分析し、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率を算出した。結果を表3に示す。ADH−DSは各種人工電子受容体存在下で反応が進行した。
実施例15:フェリシアン化カリウムとデボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを用いた酸化反応における人工電子受容体再生用酵素の反応促進効果の評価
実施例12と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)の菌体破砕液を調製した。表4に示す各0.1%の市販の人工電子受容体再生用酵素(対照として酸化酵素未添加の反応も実施した)、50mM ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン、25mM フェリシアン化カリウム、5μM PQQ・2Na、5mM 塩化カルシウムを含む0.1M MES緩衝液(pH6.5)に上記菌体破砕液を加え、30℃で1時間反応した。反応終了後、実施例4と同様にして分析し、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率を算出した。結果を表4に示す。人工電子受容体再生用酵素の添加により、酸化酵素ADH−DSによる1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの酸化反応が促進された。
実施例12と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)の菌体破砕液を調製した。表4に示す各0.1%の市販の人工電子受容体再生用酵素(対照として酸化酵素未添加の反応も実施した)、50mM ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン、25mM フェリシアン化カリウム、5μM PQQ・2Na、5mM 塩化カルシウムを含む0.1M MES緩衝液(pH6.5)に上記菌体破砕液を加え、30℃で1時間反応した。反応終了後、実施例4と同様にして分析し、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率を算出した。結果を表4に示す。人工電子受容体再生用酵素の添加により、酸化酵素ADH−DSによる1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの酸化反応が促進された。
実施例16:1,4−ベンゾキノンとデボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを用いた酸化反応における人工電子受容体再生用酵素の反応促進効果の評価
実施例15の25mMフェリシアン化カリウムの代わりに5mM 1,4−ベンゾキノンを用いて同様の反応を実施した。結果を表5に示す。市販の人工電子受容体再生用酵素の添加により、酸化酵素ADH−DSによる1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの酸化反応が促進された。
実施例15の25mMフェリシアン化カリウムの代わりに5mM 1,4−ベンゾキノンを用いて同様の反応を実施した。結果を表5に示す。市販の人工電子受容体再生用酵素の添加により、酸化酵素ADH−DSによる1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの酸化反応が促進された。
実施例17:DCPIPとデボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを用いた酸化反応における人工電子受容体再生用酵素の反応促進効果の評価
実施例15の25mMフェリシアン化カリウムの代わりに25mM DCPIPを用いて同様の反応を実施した。結果を表6に示す。市販の人工電子受容体再生用酵素の添加により、酸化酵素ADH−DSによる1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの酸化反応が促進された。
実施例15の25mMフェリシアン化カリウムの代わりに25mM DCPIPを用いて同様の反応を実施した。結果を表6に示す。市販の人工電子受容体再生用酵素の添加により、酸化酵素ADH−DSによる1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの酸化反応が促進された。
実施例18:フェリシアン化カリウムとデボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを用いた酸化反応による(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの製造
実施例12と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)の菌体破砕液を調製した。MES緩衝液(終濃度0.1M,pH6.5)で希釈した菌体破砕液20mLにフェリシアン化カリウム 1.64g、ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン 2.00g、ラッカーゼM120 0.10g、5mM PQQ・2Na溶液 0.02g、塩化カルシウム 11mg、トルエン2mLを添加し、30℃で攪拌した。反応中は30% NaOH水溶液にてpH6.5を維持した。反応2時間でフェリシアン化カリウム 1.64gを追加した。反応28時間後、実施例4と同様にして分析し、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率および残存する1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。さらに、反応液からトルエン抽出により、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンおよび1−Boc−3―ピペリジノンを抽出し、溶媒を留去した。濃縮物中の1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンおよび1−Boc−3―ピペリジノンの含量を実施例1の分析条件と同様の方法で定量し、回収率を算出した。その結果、反応終了時の変換率51%、残存する(S)1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度98.9%e.e.、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンおよび1−Boc−3―ピペリジノンの回収率の合計値は86%であった。
実施例12と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)の菌体破砕液を調製した。MES緩衝液(終濃度0.1M,pH6.5)で希釈した菌体破砕液20mLにフェリシアン化カリウム 1.64g、ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン 2.00g、ラッカーゼM120 0.10g、5mM PQQ・2Na溶液 0.02g、塩化カルシウム 11mg、トルエン2mLを添加し、30℃で攪拌した。反応中は30% NaOH水溶液にてpH6.5を維持した。反応2時間でフェリシアン化カリウム 1.64gを追加した。反応28時間後、実施例4と同様にして分析し、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率および残存する1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。さらに、反応液からトルエン抽出により、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンおよび1−Boc−3―ピペリジノンを抽出し、溶媒を留去した。濃縮物中の1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンおよび1−Boc−3―ピペリジノンの含量を実施例1の分析条件と同様の方法で定量し、回収率を算出した。その結果、反応終了時の変換率51%、残存する(S)1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度98.9%e.e.、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンおよび1−Boc−3―ピペリジノンの回収率の合計値は86%であった。
実施例19:デボシア・スピーシーズ由来酸化酵素ADH−DSとロドトルーラ・グルチニス由来の還元酵素RRGを用いた(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの製造
実施例12と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)、ロドトルーラ・グルチニス由来の還元酵素RRGを生産するE.coli HB101(pNTRG)(国際特許公報WO2003/093477の実施例7参照)およびラクトバシラス・ペントサス由来のグルコース脱水素酵素GLP2を生産するE.coli HB101(pNGLP2)(国際特許公報WO2009/041415の実施例5参照)の菌体破砕液を調製した。MES緩衝液(終濃度0.1M,pH6.5)で希釈したE.coli HB101(pNTADH−DS)の菌体破砕液20mLにフェリシアン化カリウム 0.20g、ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン 0.20g、5mM PQQ・2Na溶液 0.02g、塩化カルシウム 11mgを添加し、30℃で攪拌した。反応中は30% NaOH水溶液にてpH6.5を維持した。反応2時間でフェリシアン化カリウム 0.20gを追加した。反応4時間目、実施例4と同様にして分析したところ、変換率54%、(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度は97.5%e.eであった。この反応液にE.coli HB101(pNTRG)およびE.coli HB101(pNGLP2)の菌体破砕液各1mL、グルコース0.18g、NADP+2mgを加え、30℃で4時間攪拌した。反応中は30% NaOH水溶液にてpH6.5を維持した。その結果、反応終了時の1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの収率は98%、(S)1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度95.7%e.e.となった。さらに、反応液からトルエン抽出により、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンおよび1−Boc−3―ピペリジノンを抽出し、溶媒を留去した。得られた濃縮物中の1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを定量したところ、収率84%であった。ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを酵素的酸化反応、還元反応を経て(S)体へ変換できた。
実施例12と同様の方法でデボシア・スピーシーズ由来酵素ADH−DSを生産するE.coli HB101(pNTADH−DS)、ロドトルーラ・グルチニス由来の還元酵素RRGを生産するE.coli HB101(pNTRG)(国際特許公報WO2003/093477の実施例7参照)およびラクトバシラス・ペントサス由来のグルコース脱水素酵素GLP2を生産するE.coli HB101(pNGLP2)(国際特許公報WO2009/041415の実施例5参照)の菌体破砕液を調製した。MES緩衝液(終濃度0.1M,pH6.5)で希釈したE.coli HB101(pNTADH−DS)の菌体破砕液20mLにフェリシアン化カリウム 0.20g、ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン 0.20g、5mM PQQ・2Na溶液 0.02g、塩化カルシウム 11mgを添加し、30℃で攪拌した。反応中は30% NaOH水溶液にてpH6.5を維持した。反応2時間でフェリシアン化カリウム 0.20gを追加した。反応4時間目、実施例4と同様にして分析したところ、変換率54%、(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度は97.5%e.eであった。この反応液にE.coli HB101(pNTRG)およびE.coli HB101(pNGLP2)の菌体破砕液各1mL、グルコース0.18g、NADP+2mgを加え、30℃で4時間攪拌した。反応中は30% NaOH水溶液にてpH6.5を維持した。その結果、反応終了時の1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの収率は98%、(S)1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度95.7%e.e.となった。さらに、反応液からトルエン抽出により、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンおよび1−Boc−3―ピペリジノンを抽出し、溶媒を留去した。得られた濃縮物中の1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを定量したところ、収率84%であった。ラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを酵素的酸化反応、還元反応を経て(S)体へ変換できた。
実施例20:酢酸菌を用いた酸化反応による(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの製造
ポリペプトン10g、酵母エキス10g、グリセロール10g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mLを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表7に示す酢酸菌を無菌的にそれぞれ一白金耳接種して、30℃で72時間振とう培養した。培養後、遠心分離により菌体を濃縮し、0.1M リン酸緩衝液(pH7)に菌体を懸濁した。この菌体懸濁液1mLにラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン2mgを加え、30℃で24時間反応した。反応後、実施例4と同様に分析し、変換率と残存する1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。結果を表7に示す。いずれの菌株の反応液も(R)体に比べ(S)体が多く残存しており、(R)体選択的な酸化反応が進行していた。
ポリペプトン10g、酵母エキス10g、グリセロール10g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mLを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に表7に示す酢酸菌を無菌的にそれぞれ一白金耳接種して、30℃で72時間振とう培養した。培養後、遠心分離により菌体を濃縮し、0.1M リン酸緩衝液(pH7)に菌体を懸濁した。この菌体懸濁液1mLにラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン2mgを加え、30℃で24時間反応した。反応後、実施例4と同様に分析し、変換率と残存する1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。結果を表7に示す。いずれの菌株の反応液も(R)体に比べ(S)体が多く残存しており、(R)体選択的な酸化反応が進行していた。
実施例21:酢酸菌を用いた酸化反応による(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの製造
グルコノバクター・タイランディカスNBRC3254株を実施例20と同様にして培養し、菌体懸濁液を調製した。この懸濁液を超音波破砕し、これを菌体破砕液とした。この菌体破砕液1mLにラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン10mgを加え、後述の(1)〜(3)の添加物を加え、30℃で18時間反応した。反応後、実施例4と同様に分析し、変換率と残存する1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。添加物:(1)添加物なし、(2)NAD+ 0.5mgおよび実施例1と同様に調製したNADHオキシダーゼ変異体を生産するE.coli HB101(pNTNX−L042M)の濃縮菌体破砕液0.1mL、(3)5mM PQQ水溶液 1μL、塩化カルシウム0.5mg。その結果、変換率はそれぞれ(1)15%、(2)12%、(3)23%であった。また、(3)の光学純度は(S)体28.4%e.e.であった。本結果から、グルコノバクター・タイランディカスNBRC3254株が有する(R)体選択的な1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン酸化酵素はNAD依存型ではなく、PQQ依存型酵素と考えられた。
グルコノバクター・タイランディカスNBRC3254株を実施例20と同様にして培養し、菌体懸濁液を調製した。この懸濁液を超音波破砕し、これを菌体破砕液とした。この菌体破砕液1mLにラセミ体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン10mgを加え、後述の(1)〜(3)の添加物を加え、30℃で18時間反応した。反応後、実施例4と同様に分析し、変換率と残存する1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。添加物:(1)添加物なし、(2)NAD+ 0.5mgおよび実施例1と同様に調製したNADHオキシダーゼ変異体を生産するE.coli HB101(pNTNX−L042M)の濃縮菌体破砕液0.1mL、(3)5mM PQQ水溶液 1μL、塩化カルシウム0.5mg。その結果、変換率はそれぞれ(1)15%、(2)12%、(3)23%であった。また、(3)の光学純度は(S)体28.4%e.e.であった。本結果から、グルコノバクター・タイランディカスNBRC3254株が有する(R)体選択的な1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン酸化酵素はNAD依存型ではなく、PQQ依存型酵素と考えられた。
実施例22:微生物を用いた酸化反応による(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの製造
肉エキス10g、ペプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム3g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mLを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。この液体培地に表8のNo.1〜5に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、30℃で72時間振とう培養した。また、肉エキス1g、グルコース10g、酵母エキス1g、NZアミン2g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mLを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。この液体培地に表8のNo.4に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、28℃で72時間振とう培養した。また、グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mLを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。この液体培地に表8のNo.6〜7に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、28℃で72時間振とう培養した。培養後、遠心分離により菌体を濃縮し、0.1M リン酸緩衝液(pH7)に菌体を懸濁した。この菌体懸濁液1mLに(R)体または(S)体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン各2mgを加え、30℃で24時間反応した。反応後、実施例4と同様に分析し、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率を算出した。結果を表8に示す。表8に示した微生物はいずれも(S)体に比べ(R)体の変換率が高く、(R)体を選択的に酸化した。
肉エキス10g、ペプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム3g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mLを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。この液体培地に表8のNo.1〜5に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、30℃で72時間振とう培養した。また、肉エキス1g、グルコース10g、酵母エキス1g、NZアミン2g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mLを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。この液体培地に表8のNo.4に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、28℃で72時間振とう培養した。また、グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mLを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。この液体培地に表8のNo.6〜7に示す微生物を無菌的に一白金耳接種して、28℃で72時間振とう培養した。培養後、遠心分離により菌体を濃縮し、0.1M リン酸緩衝液(pH7)に菌体を懸濁した。この菌体懸濁液1mLに(R)体または(S)体1−Boc−3―ヒドロキシピペリジン各2mgを加え、30℃で24時間反応した。反応後、実施例4と同様に分析し、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンから1−Boc−3―ピペリジノンへの変換率を算出した。結果を表8に示す。表8に示した微生物はいずれも(S)体に比べ(R)体の変換率が高く、(R)体を選択的に酸化した。
実施例23:還元酵素を用いた(S)−1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンの製造
実施例1と同様の方法で、セルロモナス・スピーシーズ由来酵素RCGを生産するE.coli HB101(pTSCS)(国際特許公報国際特許公報WO2005/123921の実施例5参照)、オガタエア・ミニュータ由来酵素ROM4を生産するE.coli HB101(pNTOM4)(国際特許公報WO2006/013801の実施例6参照)、パエニバシラス・アルベイ由来酵素RBAを生産するE.coli HB101(pNTBA)(国際特許公報WO2007/099764の実施例4参照)、キャンディダ・マルトーサ由来酵素RMAを生産するE.coli HB101(pNCM)(国際特許公報WO2008/066018の実施例8参照)の4種類の組換え大腸菌の濃縮菌体破砕液を調製した。各濃縮菌体破砕液0.1mL、1−Boc−3−ピペリジノン10mg、NAD+ 0.5mg、NADP+ 0.5mg、グルコース20mg、グルコース脱水素酵素GLUCDH“Amano”2(天野エンザイム株式会社製)1mg、0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)0.9mLを加えて、30℃で24時間反応させた。反応終了後、実施例1と同様にして分析し、1−Boc−3−ピペリジノンから1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンへの変換率を算出した。また、実施例4と同様にして、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。結果を表9に示す。いずれの酵素も(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを生成した。これらの酵素は本発明の本工程(2)の還元反応系(3−ピペリドン化合物(III)の還元反応)に利用できる。
実施例1と同様の方法で、セルロモナス・スピーシーズ由来酵素RCGを生産するE.coli HB101(pTSCS)(国際特許公報国際特許公報WO2005/123921の実施例5参照)、オガタエア・ミニュータ由来酵素ROM4を生産するE.coli HB101(pNTOM4)(国際特許公報WO2006/013801の実施例6参照)、パエニバシラス・アルベイ由来酵素RBAを生産するE.coli HB101(pNTBA)(国際特許公報WO2007/099764の実施例4参照)、キャンディダ・マルトーサ由来酵素RMAを生産するE.coli HB101(pNCM)(国際特許公報WO2008/066018の実施例8参照)の4種類の組換え大腸菌の濃縮菌体破砕液を調製した。各濃縮菌体破砕液0.1mL、1−Boc−3−ピペリジノン10mg、NAD+ 0.5mg、NADP+ 0.5mg、グルコース20mg、グルコース脱水素酵素GLUCDH“Amano”2(天野エンザイム株式会社製)1mg、0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)0.9mLを加えて、30℃で24時間反応させた。反応終了後、実施例1と同様にして分析し、1−Boc−3−ピペリジノンから1−Boc−3−ヒドロキシピペリジンへの変換率を算出した。また、実施例4と同様にして、1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンの光学純度を算出した。結果を表9に示す。いずれの酵素も(S)−1−Boc−3―ヒドロキシピペリジンを生成した。これらの酵素は本発明の本工程(2)の還元反応系(3−ピペリドン化合物(III)の還元反応)に利用できる。
Claims (13)
- 下記式(I)で表される光学活性含窒素環状アルコール化合物を製造するための方法であって、
[式中、Rはアミノ基の保護基を示す]
下記式(II)で表されるエナンチオマー混合物に、
[式中、Rは上記と同義を示す]
R体のエナンチオマーに対する基質特異性を有する酸化酵素源を作用させて、R体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化することにより下記式(III)で表される3−ピペリドン化合物にする一方で、
[式中、Rは上記と同義を示す]
上記光学活性含窒素環状アルコール化合物(I)をそのまま維持する工程を含むことを特徴とする製造方法。 - さらに、S体立体選択性を有する還元酵素源を作用させて上記3−ピペリドン化合物(III)を立体選択的に還元することにより(S)−3−ヒドロキシピペリジン化合物(I)にする工程を含む請求項1に記載の製造方法。
[式中、Rは上記と同義を示す] - 上記R体基質特異性酸化酵素源と上記S体立体選択性還元酵素源の共存下、上記R体エナンチオマーの基質特異的酸化工程と上記3−ピペリドン化合物(III)の立体選択的還元工程を同時に行う請求項1または2に記載の製造方法。
- 上記R体基質特異性酸化酵素源として、デボシア(Devosia)属細菌、ブレヴンディモナス(Brevundimonas)属細菌、レイフソニア(Leifsonia)属細菌、アクロモバクター(Achromobacter)属細菌、クリプトコッカス(Cryptococcus)属細菌、グルコノバクター(Gluconobacter)属細菌、オークロバクトラム(Ochrobactrum)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌からなる群より選択される微生物に由来する酵素源を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
- 上記R体基質特異性酸化酵素源がNAD+またはNADP+を補酵素とするものである請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
- 上記R体エナンチオマーの基質特異的酸化工程において、上記R体基質特異性酸化酵素源により還元された還元型の上記補酵素をNADHオキシダーゼによりNAD+またはNADP+に酸化する請求項5に記載の製造方法。
- 上記R体基質特異性酸化酵素源がPQQを補酵素とするものである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
- 上記R体基質特異性酸化酵素源が、下記(a1)〜(a3)から選択される酵素源である請求項7に記載の製造方法。
(a1) 配列番号2のアミノ酸配列を有するR体基質特異性酸化酵素源;
(a2) 配列番号2のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠損、置換および/または付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、上記エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有するR体基質特異性酸化酵素源;
(a3) 配列番号2のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つ、上記エナンチオマー混合物(II)中のR体エナンチオマーの水酸基を基質特異的に酸化する活性を有するR体基質特異性酸化酵素源。 - 人工受容体を共存させる請求項7または8に記載の製造方法。
- 上記S体立体選択性還元酵素源として、セルロモナス(Cellulomonas)属細菌、パエニバシラス(Paenibacillus)属細菌、キャンディダ(Candida)属細菌、ロドトルーラ(Rhodotorula)属細菌、オガタエア(Ogataea)属細菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属細菌からなる群より選択される微生物に由来する酵素源を用いる請求項2〜9のいずれかに記載の製造方法。
- 上記S体立体選択性還元酵素源がNADPHを補酵素とするものである請求項2〜10のいずれかに記載の製造方法。
- 上記3−ピペリドン化合物(III)の立体選択的還元工程において、上記S体立体選択性還元酵素源により酸化された酸化型の上記補酵素をグルコース脱水素酵素によりNADPHに還元する請求項11に記載の製造方法。
- Rが、(C1-6アルコキシ)カルボニル基、(C1-6ハロゲン化アルコキシ)カルボニル基、(置換基を有していてもよいC6-12アリール)メチルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいC1-6アルカノイル基、(置換基を有していてもよいC6-12アリール)カルボニル基、(置換基を有していてもよいC6-12アリール)1-3メチル基からなる群より選択される保護基である請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
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