JP2015011054A - 静電荷像現像用トナー - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた低温定着性が得られながらも、長期間にわたって高い耐熱保管性を有し、また、光沢ムラの発生が抑制された画像を形成することのできる静電荷像現像用トナーを提供すること。【解決手段】トナー粒子よりなる静電荷像現像用トナーにおいて、前記トナー粒子が、ビニル樹脂よりなるマトリクス相中に、結晶性ポリエステル樹脂Aによる第1ドメイン相と、結晶性ポリエステル樹脂Bによる第2ドメイン相とが各々分散されてなるドメイン−マトリクス構造を有し、前記第1ドメイン相の平均径が400〜900nmであり、前記第2ドメイン相の平均径が10〜200nmであり、前記結晶性ポリエステル樹脂Aおよび前記結晶性ポリエステル樹脂Bの融点がいずれも95℃以下であることを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、電子写真方式の画像形成に用いられる静電荷像現像用トナーに関する。
電子写真方式の画像形成装置において、より一層の省エネルギー化を図るために、より低い温度で熱定着される静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)が必要とされている。
一般に、トナーの低温定着性は、耐熱保管性に対してトレードオフの関係にあり、その両立を課題としている。近年、このトレードオフの関係を脱却して低温定着化を推進するために有効な技術手段として、シャープメルト性を有する結晶性ポリエステル樹脂をトナー粒子中に導入する方法が注目されている。
特に、結晶性ポリエステル樹脂の導入効果を高める最も理想的な形態は、トナー保管時などの熱定着前においては、トナー粒子中の結晶性ポリエステル樹脂がメイン樹脂と相溶せず、熱定着時において初めて結晶性ポリエステル樹脂がメイン樹脂と相溶する形態である。熱定着時に結晶性ポリエステル樹脂とメイン樹脂とを相溶させることにより、メイン樹脂が可塑化されるため、極めて高い低温定着効果が得られる。
しかしながら、一般には、メイン樹脂と相溶性の高い結晶性ポリエステル樹脂をトナー粒子中に導入した場合、トナー製造時において、メイン樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが相溶してしまい、得られるトナーは耐熱保管性を有さないものとなる。
特許文献1には、結晶性ポリエステル樹脂をビニル樹脂に対して非相溶の状態でトナー粒子中に導入することにより、低温定着性と耐熱保管性との両立を図ることが可能であると記載されている。
しかしながら、熱定着時に結晶性ポリエステル樹脂とビニル樹脂とを相溶化させる手段については言及されておらず、より一層の低温定着化を図るには十分とはいえない。また、熱定着後の画像において、結晶性ポリエステル樹脂の多くが非相溶状態のドメイン相として存在する場合には、ドメイン相の大きさのバラツキにより、形成される画像に光沢ムラが発生するという問題がある。
上記のように、熱定着前(例えばトナー保管時)と熱定着時とにおいて樹脂の相溶状態に差を設けることは難しく、トレードオフの関係を脱却する新たな技術手段が要求されている。
新たな技術手段として、熱定着時に結晶性ポリエステル樹脂のメイン樹脂への相溶を促進させるような第3成分を添加することが考えられる。
特許文献2には、ビニル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂よりなる結着樹脂中に、ステアリル酸ステアリル・モノステアリン酸グリセリンエステルなどの反応性官能基を含む相溶促進剤を添加することが提案されている。
しかしながら、この技術は、熱定着前(例えばトナー保管時)と熱定着時とにおいて樹脂の相溶状態に差を設けることを目的としたものではない。また、結晶性ポリエステル樹脂と相溶しやすい低分子系の材料を添加することは、当該低分子系の材料のマイグレーション(分子移動)に伴って、熱定着前(例えばトナー保管時)に徐々に相溶化を進行させてしまうことにつながる。従って、短期的には耐熱保管性を確保することができるが、長期的な耐熱保管性を得ることは難しい。
特許文献3には、非晶性ポリエステル樹脂およびビニル樹脂よりなる結着樹脂中に、これらの樹脂のハイブリッド樹脂を相溶促進剤として添加することが提案されている。
しかしながら、非晶性の高分子材料を相溶促進剤として選択した場合には、高分子材料自身も定着温度領域で一定の粘度を有しているため、樹脂同士が相溶するまでに時間を要し、短時間で相溶促進剤の効果を発揮するには不十分である。
特許文献4には、結晶性ポリエステル樹脂を2種類併用したトナーが開示されている。
しかしながら、この技術は、高弾性の結晶性ポリエステル樹脂を第3成分として導入することで、他方の結晶性ポリエステル樹脂に対する核剤として機能することを意図したものであり、熱定着時の相溶化、可塑化を促進させることを意図したものではない。
特開2011−197659号公報 特開2006−276074号公報 特開平6−194876号公報 特開2010−151996号公報
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、優れた低温定着性が得られながらも、長期間にわたって高い耐熱保管性を有し、また、光沢ムラの発生が抑制された画像を形成することのできる静電荷像現像用トナーを提供することにある。
本発明の静電荷像現像用トナーは、トナー粒子よりなる静電荷像現像用トナーにおいて、
前記トナー粒子が、ビニル樹脂よりなるマトリクス相中に、結晶性ポリエステル樹脂Aによる第1ドメイン相と、結晶性ポリエステル樹脂Bによる第2ドメイン相とが各々分散されてなるドメイン−マトリクス構造を有し、
前記第1ドメイン相の平均径が400〜900nmであり、
前記第2ドメイン相の平均径が10〜200nmであり、
前記結晶性ポリエステル樹脂Aおよび前記結晶性ポリエステル樹脂Bの融点がいずれも95℃以下であることを特徴とする。
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記ビニル樹脂のカルボキシ基濃度が0.4〜0.8mmol/gであり、
前記結晶性ポリエステル樹脂Aのエステル基濃度が4.6〜5.5mmol/gであり、かつ、
前記結晶性ポリエステル樹脂Bのエステル基濃度が6.4〜7.7mmol/gであることが好ましい。
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記結晶性ポリエステル樹脂Bのエステル基濃度と前記結晶性ポリエステル樹脂Aのエステル基濃度との差が1.0〜3.0mmol/gであることが好ましい。
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記トナー粒子を構成する全樹脂における前記結晶性ポリエステル樹脂Bの含有割合が2〜5質量%であり、
前記結晶性ポリエステル樹脂Aに対する前記結晶性ポリエステル樹脂Bの含有割合が10〜25質量%であることが好ましい。
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記結晶性ポリエステル樹脂Bの融点が65℃以上であることが好ましい。
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記トナー粒子が、前記マトリクス相中に、離型剤による第3ドメイン相が分散されてなるものであることが好ましい。
本発明の静電荷像現像用トナーによれば、トナー粒子が、ビニル樹脂よりなるマトリクス相中に、特定範囲の融点を有し、異なるエステル基濃度よりなる2種類の結晶性ポリエステル樹脂によるドメイン相が各々分散されてなるドメイン−マトリクス構造を有することにより、優れた低温定着性が得られながらも、長期間にわたって高い耐熱保管性を有し、また、光沢ムラの発生が抑制された画像を形成することができる。
本発明に係るトナー粒子断面のTEM画像において観察されるドメイン相のドメイン径の個数分布と、この個数分布におけるピークにつき正規分布を仮定してフィッティングした曲線との一例を示すグラフである。
以下、本発明について詳細に説明する。
〔トナー〕
本発明のトナーは、少なくとも結着樹脂を含有するトナー粒子よりなり、当該トナー粒子は、所望に応じて、着色剤、磁性粉、離型剤、荷電制御剤などの内添剤を含有するものとすることができる。また、当該トナー粒子に対して、流動化剤やクリーニング助剤などの外添剤を添加するものとすることもできる。
本発明のトナーに係るトナー粒子は、マトリクス相中にドメイン相が分散されてなるドメイン−マトリクス構造を有する。具体的には、ビニル樹脂によるマトリクス相中に、結晶性ポリエステル樹脂Aによる第1ドメイン相と、結晶性ポリエステル樹脂Bによる第2ドメイン相とがそれぞれ単独で形成されている。
本発明のトナーにおいて、結晶性ポリエステル樹脂Aによる第1ドメイン相の平均径は400〜900nmであり、好ましくは550〜700nmである。
第1ドメイン相の平均径が上記範囲であることにより、熱定着前(例えばトナー保管時)においては、結晶性ポリエステル樹脂Aがビニル樹脂に対して相溶化しにくいため、耐熱保管性を確保することができる。また、熱定着時においては、平均径の小さい第2ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Bが先行してビニル樹脂と相溶し、これに起因して結晶性ポリエステル樹脂Aも結晶性ポリエステル樹脂Bを介してビニル樹脂と相溶するため、優れた低温定着性が得られる。
第1ドメイン相の平均径が過大である場合においては、平均径の小さい第2ドメイン相の存在があっても、熱定着時に結晶性ポリエステル樹脂Aがビニル樹脂に対して相溶化しにくいものとなるため、優れた低温定着性が得られないおそれがある。一方、第1ドメイン相の平均径が過小である場合においては、熱定着前(例えばトナー保管時)において結晶性ポリエステル樹脂Aがビニル樹脂に対して相溶化しやすいものとなるため、高い耐熱保管性が得られないおそれがある。
また、結晶性ポリエステル樹脂Bによる第2ドメイン相の平均径は、10〜200nmであり、好ましくは20〜120nmである。
第2ドメイン相の平均径が上記範囲であることにより、熱定着前(例えばトナー保管時)における耐熱保管性を阻害することなく熱定着時に結晶性ポリエステル樹脂Bがビニル樹脂と即座に相溶するため、結晶性ポリエステル樹脂Bが結晶性ポリエステル樹脂Aやビニル樹脂の相溶促進剤として機能し、優れた低温定着性が得られる。
第2ドメイン相の平均径が過大である場合においては、熱定着時に結晶性ポリエステル樹脂Bが先行してビニル樹脂に対して相溶化しにくいものとなるため、優れた低温定着性が得られないおそれがある。一方、第2ドメイン相の平均径が過小である場合においては、熱定着前(トナー保管時)においても結晶性ポリエステル樹Bがビニル樹脂に対して相溶化しやすいものとなるため、高い耐熱保管性が得られないおそれがある。
本発明において、ドメイン相の平均径は、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察画像により以下のように算出される値である。
TEM画像上の200個のドメイン相に対して、ドメイン径を測定する。ここで、ドメイン径とは、水平フェレ径と垂直フェレ径の平均値として定義されるものである。次に、公知の方法にてドメイン径の個数分布を算出する。個数分布は、小径領域と大径領域に一つずつピークを有するものとなる。この個数分布に対し、2つのピークにつきそれぞれ正規分布を仮定してフィッティングし、フィッティング曲線のピークトップ値を、各ドメイン相の平均径と定義する。
具体的には、図1に示すように、曲線(a)は、TEM画像におけるドメイン相のドメイン径の個数分布を示し、曲線(b)は、当該個数分布のピークのうち、大径領域に係るピークの正規分布を仮定してフィッティングした曲線であり、曲線(c)は、当該個数分布のピークのうち、小径領域に係るピークの正規分布を仮定してフィッティングした曲線である。これらの曲線(b),(c)のピークトップ値が各ドメイン相の平均径とされる。
なお、ドメイン相のドメイン径は、樹脂のエステル基濃度を調整することによって制御することができる。具体的には、マトリクス相を構成するビニル樹脂のカルボキシ基濃度と、ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度との関係によって互いの樹脂に対する相溶性が決定され、この相溶性の程度により、トナー製造時においてドメイン相として相分離して形成される大きさが制御される。
ここで、ドメイン−マトリクス構造とは、連続したマトリクス相中に、閉じた界面(相と相との境界)を有するドメイン相が存在している構造のものをいう。
この構造は、酸化ルテニウム(VIII)または酸化オスミウム(VIII)にて染色したトナー粒子断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により、定法により測定して観察することができる。また、ウルトラミクロトームで切片を切り出す場合においては、切片の厚さは100nmに設定する。
本発明のトナーにおいては、トナー粒子中に、特定範囲の融点を有する結晶性ポリエステル樹脂が含有されていることにより、基本的に高い低温定着性が得られる。また、本発明のトナーにおいては、平均径が大きい第1ドメイン相と平均径が小さい第2ドメイン相とが単独でそれぞれ含有されていることにより、熱定着時に、特定範囲の融点より十分に高い温度となることにより、結晶性ポリエステル樹脂Aおよび結晶性ポリエステル樹脂Bの粘度が大きく低下し、熱定着前(例えばトナー製造時やトナー保管時)には相溶しなかった結晶性ポリエステル樹脂Aと結晶性ポリエステル樹脂Bとが急激に相溶することとなる。また、平均径の小さい第2ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Bがビニル樹脂と即座に相溶し、その結果、結晶性ポリエステル樹脂Aも結晶性ポリエステル樹脂Bを介してビニル樹脂と相溶することとなる。すなわち、平均径の小さい第2ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Bは、平均径の大きい第1ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Aやビニル樹脂の相溶促進剤として機能することとなる。従って、ビニル樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂Aおよび結晶性ポリエステル樹脂Bの両方から可塑化されることとなるため、優れた低温定着性が得られる。以上のことから、本発明のトナーにおいて、平均径が大きい第1ドメイン相と平均径が小さい第2ドメイン相とが単独でそれぞれ含有されていることにより、熱定着前と熱定着時とにおいて樹脂の相溶状態に差を設けることが可能となる。
また、結晶性ポリエステル樹脂がビニル樹脂によるマトリクス相中にドメイン相として、すなわち非相溶の状態で含有されていることにより、耐熱保管性が得られる。なお、ドメイン相はその大きさが小さければメイン樹脂となるビニル樹脂に対して相溶性が高くなる傾向にあるが、平均径が大きい第1ドメイン相による結晶性ポリエステル樹脂Aの含有割合が高い場合には、平均径が小さい第2ドメイン相による結晶性ポリエステル樹脂Bのビニル樹脂に対する相溶化は耐熱保管性を阻害することはない。そして、相溶促進剤としての結晶性ポリエステル樹脂Bは、低分子系材料に比べて、マイグレーションによる相溶進行が起きにくいため、長期間にわたって高い耐熱保管性を確保することができる。
さらに、熱定着後の画像においては、結晶性ポリエステル樹脂とビニル樹脂との相溶化が進んでいるため、結晶性ポリエステル樹脂が大きなドメイン相として存在することはすくなく、ドメイン相の大きさのバラツキによる光沢ムラの発生は抑制される。
〔結着樹脂〕
本発明に係るトナー粒子を構成する結着樹脂は、マトリクス相に係るビニル樹脂、並びに、ドメイン相に係る結晶性ポリエステル樹脂Aおよび結晶性ポリエステル樹脂Bにより構成され、他の樹脂が含有されていてもよい。
(ビニル樹脂)
マトリクス相を構成するビニル樹脂は、ビニル基を有する単量体(以下、「ビニル単量体」ともいう。)を用いて形成される非晶性樹脂である。
ビニル樹脂としては、具体的には、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合体樹脂などが挙げられる。
ビニル単量体としては、下記のものなどを用いることができる。ビニル単量体としては、1種単独で、または2種以上を組み合せて使用することができる。
(1)スチレン系単量体
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンおよびこれらの誘導体など。
(2)(メタ)アクリル酸エステル系単量体
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの誘導体など。
(3)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど。
(4)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど。
(5)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど。
(6)N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなど。
(7)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
また、ビニル単量体としては、例えば、カルボキシ基、スルフォン酸基、リン酸基などのイオン性解離基を有する単量体を用いることが好ましい。具体的には、以下のものがある。
カルボキシ基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。また、スルフォン酸基を有する単量体としては、スチレンスルフォン酸、アリルスルフォコハク酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルフォン酸などが挙げられる。さらに、リン酸基を有する単量体としてはアシドホスホオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
なお、本発明においては、ビニル単量体として、イオン性解離基を有する単量体を用いる場合、全ビニル単量体におけるイオン性解離基を有する単量体の割合は、2〜7質量%であることが好ましい。イオン性解離基を有する単量体の割合が過多である場合は、トナー粒子の表面への水分の吸着量が増えることによって、トナーブリスターの発生や帯電量環境差の拡大が生じるおそれがある。
さらに、ビニル単量体として、多官能性ビニル類を使用し、ビニル樹脂を、架橋構造を有するものとすることもできる。多官能性ビニル類としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
ビニル樹脂のカルボキシ基濃度は、0.4〜0.8mmol/gであることが好ましく、より好ましくは0.5〜0.7mmol/gである。
ビニル樹脂のカルボキシ基濃度が上記範囲であることにより、後述する結晶性ポリエステル樹脂Aおよび結晶性ポリエステル樹脂Bのエステル基濃度との関係において、ビニル樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂Aとは相溶しにくく、結晶性ポリエステル樹脂Bとは相溶しやすいものとなる。従って、トナー製造時には、ビニル樹脂によるマトリクス相中に、結晶性ポリエステル樹脂Aによる第1ドメイン相は大きい状態で形成され、結晶性ポリエステル樹脂Bによる第2ドメイン相は小さい状態で形成される。そして、熱定着時においては、ビニル樹脂は、まず、平均径の小さい第2ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Bと相溶することによって可塑化され、平均径の大きい第1ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Aも結晶性ポリエステル樹脂Bを介して相溶することによって可塑化されるので、極めて優れた低温定着性が得られる。また、ビニル樹脂が結晶性ポリエステル樹脂Aと相溶しにくいものであることから、熱定着前(例えばトナー保管時など)において、結晶性ポリエステル樹脂Aがビニル樹脂に対し可塑化を進行させることがないので、耐熱保管性を確保することができる。さらに、熱定着後においては結晶性ポリエステル樹脂Aとビニル樹脂との相溶化が進んでいるため、熱定着後の画像に結晶性ポリエステル樹脂Aが大きなドメイン相として存在することは少なく、ドメイン相の大きさのバラツキによる光沢ムラの発生は抑制される。
ビニル樹脂のカルボキシ基濃度が過大である場合においては、ビニル樹脂が結晶性ポリエステル樹脂Aと相溶しやすいものとなり、高い耐熱保管性が得られないおそれがある。一方、ビニル樹脂のカルボキシ基濃度が過小である場合においては、ビニル樹脂が結晶性ポリエステル樹脂Bと相溶しにくいものとなり、結晶性ポリエステル樹脂Bが相溶促進剤として機能せず、優れた低温定着性が得られないおそれがある。また、熱定着時にビニル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂との相溶化が進まないため、結晶性ポリエステル樹脂が熱定着後に再結晶化し、形成される画像に光沢ムラが発生するおそれがある。
ここで、カルボキシ基濃度は、ビニル樹脂中のカルボキシ基の割合であり、水に対する親和性の程度を示し、値が大きい程、水に対する親和性が高いことを示すものである。
本発明において、カルボキシ基濃度は下記式(1)により算出される値である。
式(1):カルボキシ基濃度=[カルボキシ基のモル数/(ビニル樹脂を形成する単量体の分子量×モル分率)の総和]×1000
ビニル樹脂のカルボキシ基濃度は、カルボキシ基を有する単量体の導入比率によって制御することができる。
ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)は、35〜65℃であることが好ましく、より好ましくは40〜55℃である。
ビニル樹脂のガラス転移点が上記範囲であることにより、十分な低温定着性および耐熱保管性が確実に両立して得られる。
ビニル樹脂のガラス転移点が過小である場合には、トナーの耐熱性(熱的強度)が低下し、これにより十分な耐熱保管性および耐ホットオフセット性が得られないおそれがある。一方、ビニル樹脂のガラス転移点が過大である場合には、十分な低温定着性が得られないおそがある。
ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)は、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定される値である。
測定手順としては、測定試料(ビニル樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。測定条件としては、測定温度0℃〜200℃、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分で、Heat−cool−Heatの温度制御で行い、その2nd.Heatにおけるデータをもとに解析を行い、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移点とする。
ビニル樹脂の軟化点(Tsp)は、80〜120℃であることが好ましく、より好ましくは85〜110℃である。
本発明において、ビニル樹脂の軟化点(Tsp)は、以下のようにして測定される値である。
まず、20℃±1℃、50%±5%RHの環境下において、測定試料(ビニル樹脂)1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所製)によって3820kg/cm2の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作成し、次いで、この成型サンプルを、24℃±5℃、50%±20%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetが軟化点とされる。
ビニル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、重量平均分子量(Mw)で5,000〜50,000であり、より好ましくは20,000〜40,000である。
ビニル樹脂の重量平均分子量が上記範囲であることにより、低温定着性を確保することができる。
ビニル樹脂の重量平均分子量が過大である場合においては、熱定着時にビニル樹脂の弾性が十分に低下しないため、結晶性ポリエステル樹脂との相溶化の進行が進みにくくなり、十分な低温定着性の効果が得られないおそれがある。一方、ビニル樹脂の重量平均分子量が過小である場合においては、熱定着時にビニル樹脂の弾性が低くなりすぎるため、溶融したトナーが画像支持体から定着部材に移着するホットオフセット現象が生じ、画像荒れや分離不良を生じるおそれがある。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量は、以下のようにして測定される値である。
具体的には、装置「HLC−8120GPC」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料(樹脂)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出される。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いた。
ビニル樹脂の含有割合は、結着樹脂中80〜100質量%であることが好ましい。
ビニル樹脂の含有割合が上記範囲であることにより、結晶性ポリエステル樹脂Aおよび結晶性ポリエステル樹脂Bとの相溶性を所望の状態に制御し、耐熱保管性を低下させることなく低温定着効果が得ることができる。
(結晶性ポリエステル樹脂A)
第1ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Aは、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
多価カルボン酸とは、1分子中にカルボキシ基を2個以上含有する化合物である。
具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n−ドデシルコハク酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;およびこれらカルボン酸化合物の無水物、あるいは炭素数1〜3のアルキルエステルなどが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
多価アルコールとは、1分子中に水酸基を2個以上含有する化合物である。
具体的には、例えば、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,7−へプタンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールなどが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
結晶性ポリエステル樹脂Aのエステル基濃度は、4.6〜5.5mmol/gであることが好ましく、より好ましくは4.8〜5.2mmol/gである。
結晶性ポリエステル樹脂Aのエステル基濃度が上記範囲であることにより、ビニル樹脂のカルボキシ基濃度との関係で、結晶性ポリエステル樹脂Aがビニル樹脂と相溶しにくいものとなり、高い耐熱保管性が得られる。また、後述するポリエステル樹脂Bのエステル基濃度との関係において、熱定着前においては結晶性ポリエステル樹脂Aが結晶性ポリエステル樹脂Bと相溶しにくく、熱定着時においては相溶しやすいものとなる。従って、高い耐熱保管性と優れた低温定着性が得られる。
ここで、エステル基濃度は、結晶性ポリエステル樹脂中のエステル基(エステル結合)の割合であり、水に対する親和性の程度を示し、値が大きい程、水に対する親和性が高いことを示すものである。
本発明において、エステル基濃度は下記式(2)により算出される値である。
式(2):エステル基濃度=[結晶性ポリエステル樹脂を形成する多価カルボン酸および多価アルコールに含まれるエステル基となりうる部分のモル数の平均/((多価カルボン酸および多価アルコールの分子量の合計)−(脱水重縮合して分離した水の分子量×エステル基のモル数))]×1000
結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度は、モノマー種によって制御することができる。
結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度の算出例を以下に示す。
下記式(a)で表わされる多価カルボン酸と下記式(b)で表わされる多価アルコールとにより得られる結晶性ポリエステル樹脂は下記式(c)で表わされる。
式(a):HOOC−R1 −COOH
式(b):HO−R2 −OH
式(c):−(−OCO−R1 −COO−R2 −)
『結晶性ポリエステル樹脂を形成する多価カルボン酸および多価アルコールに含まれるエステル基となりうる部分のモル数の平均』とは、結晶性ポリエステル樹脂を形成する多価カルボン酸のカルボキシ基のモル数および多価アルコールのヒドロキシル基のモル数の平均であり、具体的には、式(a)の多価カルボン酸のカルボキシ基のモル数「2」と、式(b)の多価アルコールのヒドロキシル基のモル数「2」との平均「2」である。
また、式(a)の多価カルボン酸の分子量をm1、式(b)の多価アルコールの分子量をm2、式(c)の結晶性ポリエステル樹脂の分子量をm3とすると、『(多価カルボン酸および多価アルコールの分子量の合計)−(脱水重縮合して分離した水の分子量×エステル基のモル数)』は、(m1+m2)−(18×エステル基のモル数の平均「2」)となり、従って、式(c)の結晶性ポリエステル樹脂の分子量「m3」となる。
以上より、式(c)で表わされる結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度は、「2/m3」となる。
また、多価カルボン酸を2種以上、または多価アルコールを2種以上併用する場合には、それぞれの多価カルボン酸のカルボキシ基と分子量の平均および多価アルコールのヒドロキシル基と分子量の平均からなる。
結晶性ポリエステル樹脂Aの融点(Tm)は、95℃以下とされ、好ましくは65〜90℃である。
結晶性ポリエステル樹脂Aの融点が上記範囲であることにより、十分な低温定着性が得られる。
結晶性ポリエステル樹脂Aの融点が過度に低い場合においては、高温環境下で保管した場合において、結晶性ポリエステル樹脂Aがビニル樹脂に対して相溶化しやすく、耐熱保管性が十分に確保できないおそれがある。一方、結晶性ポリエステル樹脂Aの融点が過度に高い場合においては、十分な低温定着性が得られないおそれがある。
なお、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、樹脂組成によって制御することができる。
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、以下のようにして測定される値である。
結晶性ポリエステルの融点は、吸熱ピークのピークトップの温度を示し、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて示差走査熱量分析によってDSC測定される。
具体的には、測定試料(結晶性ポリエステル樹脂)1.0mgを、アルミニウム製パン(KITNO.B0143013)に封入し、これを「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットし、測定温度0〜200℃で、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分の測定条件で、加熱−冷却−加熱の温度制御を行い、その2度目の加熱におけるデータをもとに解析される。
結晶性ポリエステル樹脂Aのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、数平均分子量(Mn)で1,500〜12,000であることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、測定試料として結晶性ポリエステル樹脂を用いたことの他は上記と同様にして測定される値である。
結晶性ポリエステル樹脂Aの含有割合は、結着樹脂中10〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは12〜20質量%である。
結晶性ポリエステル樹脂Aの含有割合が上記範囲であることにより、低温定着性が確実に得られる。
結晶性ポリエステル樹脂Aの含有割合が過小である場合においては、十分な低温定着効果が得られないおそれがある。一方、結晶性ポリエステル樹脂Aの含有割合が過大である場合においては、熱定着時において、結晶性ポリエステル樹脂Aがビニル樹脂に十分に相溶せず、熱定着後の画像においても結晶性ポリエステル樹脂Aが大きなドメイン相として存在しやすくなるため、光沢ムラを生じるおそれがある。
〔結晶性ポリエステル樹脂B〕
第2ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Bは、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
本発明のトナーにおいて、第2ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Bは、結晶性ポリエステル樹脂Aおよびビニル樹脂に対する相溶促進剤として機能する。
多価カルボン酸および多価アルコールとしては、上述した結晶性ポリエステル樹脂Aにおいて例示した多価カルボン酸および多価アルコールと同様のものが挙げられる。
結晶性ポリエステル樹脂Bは、結晶性ポリエステル樹脂Aとエステル基濃度が異なるものであることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂Bのエステル基濃度は、6.4〜7.7mmol/gであることが好ましく、より好ましくは6.5〜7.2mmol/gである。
結晶性ポリエステル樹脂Bのエステル基濃度が上記範囲であることにより、ビニル樹脂のカルボキシ基濃度との関係で、結晶性ポリエステル樹脂Bがビニル樹脂と相溶しやすいものとなり、相溶促進剤として機能し、優れた低温定着性が得られる。また、ポリエステル樹脂Aのエステル基濃度との関係において、熱定着前においては結晶性ポリエステル樹脂Bが結晶性ポリエステル樹脂Aと相溶しにくく、熱定着時においては相溶しやすいものとなる。従って、高い耐熱保管性と優れた低温定着性が得られる。
また、結晶性ポリエステル樹脂Bのエステル基濃度B1と結晶性ポリエステル樹脂Aのエステル基濃度A1との差(B1−A1)は、1.0〜3.0mmol/gであることが好ましい。
エステル基濃度の差(B1−A1)が上記範囲であることにより、結晶性ポリエステル樹脂Aと結晶性ポリエステル樹脂Bとが熱定着前(トナー製造時やトナー保管時)には非相溶の関係であり、熱定着時には相溶する関係となるので、高い耐熱保管性および優れた低温定着性が得られる。
エステル基濃度の差(B1−A1)が過小である場合においては、結晶性ポリエステル樹脂Aと結晶性ポリエステル樹脂Bとが熱定着前においても相溶するものとなり、高い耐熱保管性が得られないおそれがある。一方、上記エステル基濃度の差(B1−A1)が過大である場合においては、結晶性ポリエステル樹脂Aと結晶性ポリエステル樹脂Bとが熱定着時において相溶が進行しにくいものとなり、優れた低温定着性が得られないおそれがある。
結晶性ポリエステル樹脂Bの融点(Tm)は、95℃以下とされ、好ましくは65〜80℃である。
結晶性ポリエステル樹脂Bの融点が上記範囲であることにより、十分な低温定着性が得られる。
結晶性ポリエステル樹脂Bの融点が過度に低い場合においては、結晶性ポリエステル樹脂Aと結晶性ポリエステル樹脂Bとが熱定着前においても相溶し、高い耐熱保管性が得られないおそれがある。一方、結晶性ポリエステル樹脂Bの融点が過度に高い場合においては、十分な低温定着性が得られないおそれがある。
結晶性ポリエステル樹脂Bのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、数平均分子量(Mn)で1,500〜10,000であることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂Bの含有割合は、結着樹脂中2〜5質量%であることが好ましい。また、結晶性ポリエステル樹脂Aに対する結晶性ポリエステル樹脂Bの含有割合が10〜25質量%であることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂Bの含有割合が上記範囲であることにより、相溶促進剤としての機能が発揮され、優れた低温定着性が得られながらも、耐熱保管性を阻害することがない。
結晶性ポリエステル樹脂Bの含有割合が過小である場合においては、相溶促進剤としての機能が十分に発揮されず、優れた低温定着性が得られないおそれがある。一方、結晶性ポリエステル樹脂Bの含有割合が過大である場合においては、熱定着前にビニル樹脂と相溶化が過度に進行し、高い耐熱保管性が得られないおそれがある。
〔着色剤〕
本発明のトナーにおいて、トナー粒子が着色剤を含有するものとして構成される場合においては、着色剤は、ドメイン相およびマトリクス相のいずれに含有されていてもよいが、マトリクス相に含有されていることが好ましい。
着色剤としては、公知の種々の顔料や染料を用いることができる。
カーボンブラックとしては、例えばチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが挙げられ、黒色酸化鉄としては、例えばマグネタイト、ヘマタイト、三酸化チタン鉄などが挙げられる。
染料としては、例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などが挙げられる。
顔料としては、例えばC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同150、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同156、同158、同180、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同60などが挙げられる。
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤の含有割合は、トナー粒子中1〜10質量%とされることが好ましく、より好ましくは2〜8質量%である。着色剤の含有量が過少である場合は、得られるトナーに所望の着色力が得られないおそれがあり、一方、着色剤の含有量が過多である場合は、着色剤の遊離やキャリアなどへの付着が発生し、帯電性に影響を与える場合がある。
〔離型剤〕
本発明のトナーにおいて、トナー粒子が離型剤を含有するものとして構成される場合においては、離型剤は、ドメイン相およびマトリクス相のいずれに含有されていてもよいが、マトリクス相に含有されていることが好ましい。離型剤は、マトリクス相中に第3ドメイン相として分散されている場合において、当該離型剤による第3ドメイン相の平均径は、0.1〜1.0μmであることが好ましい。
離型剤としては、公知の種々のワックスを用いることができる。
ワックスとしては、特に低分子量ポリプロピレン、ポリエチレン、または酸化型のポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系ワックス、およびベヘン酸ベヘネートなどのエステル系ワックスを好適に用いることができる。
具体的には、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス;マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス;パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス;ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス;カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘネート、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス;エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。
これらのうちでも、低温定着時の離型性の観点から、融点の低いもの、具体的には、融点が40〜90℃のものを用いることが好ましい。
離型剤の含有割合は、トナー粒子中5〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは8〜18質量%である。トナー粒子における離型剤の含有割合が上記の範囲にあることにより、分離性および定着性が確実に両立して得られる。
〔荷電制御剤〕
本発明のトナーにおいて、トナー粒子が荷電制御剤を含有するものとして構成される場合においては、荷電制御剤は、ドメイン相およびマトリクス相のいずれに含有されていてもよいが、マトリクス相に含有されていることが好ましい。
荷電制御剤として、公知の種々の化合物を用いることができる。
荷電制御剤の含有割合は、トナー粒子中0.01〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%である。
〔外添剤〕
本発明のトナーにおいては、トナー粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、当該トナー粒子に、いわゆる流動化剤、クリーニング助剤などの外添剤を添加してもよい。
外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
これらの外添剤の添加割合は、その合計の添加量がトナー粒子100質量部に対して好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜3質量部とされる。
〔トナーのガラス転移点〕
本発明のトナーは、ガラス転移点(Tg)が30〜60℃であることが好ましく、より好ましくは35〜55℃である。
本発明のトナーのガラス転移点が上記の範囲にあることにより、十分な低温定着性および耐熱保管性が確実に両立して得られる。トナーのガラス転移点が過小である場合には、トナーの耐熱性(熱的強度)が低下し、これにより十分な耐熱保管性および耐ホットオフセット性が得られないおそれがある。また、トナーのガラス転移点が過大である場合には、十分な低温定着性が得られないおそがある。
トナーのガラス転移点は、測定試料としてトナーを用いたことの他は上記と同様にして測定される値である。
〔トナーの粒径〕
本発明のトナーにおいては、平均粒径が、例えば体積基準のメジアン径で3〜8μmであることが好ましく、より好ましくは5〜8μmである。この平均粒径は、製造時において使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、結着樹脂の組成などによって制御することができる。
体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像を忠実に再現することなどができる。
トナーの体積基準のメジアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出される値である。
具体的には、測定試料(トナー)0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmにし、測定範囲である2〜60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径とされる。
〔トナーの平均円形度〕
本発明のトナーにおいては、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、帯電特性の安定性、低温定着性の観点から、平均円形度が0.930〜1.000であることが好ましく、0.950〜0.995であることがより好ましい。
平均円形度が上記の範囲であることにより、個々のトナー粒子が破砕しにくくなって摩擦帯電付与部材の汚染が抑制されてトナーの帯電性が安定し、また、形成される画像において画質が高いものとなる。
トナーの平均円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定した値である。
具体的には、測定試料(トナー)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式(y)に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出した値である。HPF検出数が上記の範囲であれば、再現性が得られる。
式(y):円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
〔現像剤〕
本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる分散型キャリアなど用いてもよい。
キャリアの体積基準のメジアン径としては20〜100μmであることが好ましく、さらに好ましくは25〜80μmとされる。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
本発明においては、ビニル樹脂のカルボキシ基濃度、結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度を確認するためには、トナー粒子中に含まれるビニル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂を抽出する必要がある。トナー粒子中からの樹脂の抽出は、具体的には、以下のようにして抽出することができる。
まず、トナーをメチルエチルケトン(MEK)に常温(20℃以上25℃以下)で溶解させる。ここで、トナー粒子中の非晶性の樹脂(ビニル樹脂)は、常温ではMEK中に溶解することとなる。従って、MEK可溶分中には非晶性の樹脂が含まれることとなるため、溶解後、遠心分離により分離した上澄み液から非晶性の樹脂が得られる。一方、遠心分離後の固形分を65℃で60分間加熱してテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、これを60℃においてガラスろ過器でろ過することにより、ろ液から結晶性ポリエステル樹脂Aおよび結晶性ポリエステル樹脂Bを共に含む結晶性ポリエステル樹脂混合体(サンプルR1)が得られる。なお、当該操作でろ過中に温度が下がると結晶性ポリエステル樹脂が析出してしまうため、保温した状態で操作する。
一方、当該操作において、55℃で保温し、わずかに結晶性ポリエステル樹脂を析出させた場合には、析出物として結晶性ポリエステル樹脂Aを主成分とし、結晶性ポリエステル樹脂Bをほとんど含まない結晶性ポリエステル樹脂析出物(サンプルR2)が得られる。
ビニル樹脂のカルボキシ基濃度は、例えば重クロロホルムを用いた12C−NMR(核磁気共鳴)測定によって確認することができる。具体的には、各モノマー由来の炭素原子のピークを帰属し、モノマー種、組成比を特定しカルボキシ基濃度を算出する。
また、結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度は、加水分解を行い、P−GC/MSにて測定を行い、酸、アルコールそれぞれのモノマー種を特定し、エステル基濃度を算出することにより確認することができる。
なお、上記測定において、サンプルR1,R2それぞれに対して測定を行うことにより、サンプルR1では明瞭に観測されるがサンプルR2ではほとんど観測されないモノマー種が、結晶性ポリエステル樹脂B由来のモノマー種となる。
〔トナーの製造方法〕
本発明のトナーの製造方法としては、特に限定されないが、水系媒体中で作製される湿式の製造方法、例えば乳化凝集法などが好ましい。
乳化凝集法による本発明のトナーの製造方法は、水系媒体中に結着樹脂の微粒子(以下、「結着樹脂微粒子」ともいう。)が分散されてなる水系分散液と、着色剤の微粒子(以下、「着色剤微粒子」ともいう。)が分散されてなる水系分散液とを混合し、結着樹脂微粒子および着色剤微粒子を凝集・熱融着させることによりトナー粒子を形成しトナーを作製する方法である。
本発明のトナーの製造方法の一例を具体的に示すと、
(a)水系媒体中にビニル樹脂による微粒子(以下、「ビニル樹脂微粒子」ともいう。)が分散されてなる水系分散液を調製する工程、
(b)水系媒体中に着色剤微粒子が分散されてなる水系分散液を調製する工程、
(c)水系媒体中に結晶性ポリエステル樹脂Aによる微粒子(以下、「結晶性ポリエステル樹脂微粒子A」ともいう。)が分散されてなる水系分散液を調製する工程、
(d)水系媒体中に結晶性ポリエステル樹脂Bによる微粒子(以下、「結晶性ポリエステル樹脂微粒子B」ともいう。)が分散されてなる水系分散液を調製する工程、
(e)水系媒体中において、ビニル樹脂微粒子、結晶性ポリエステル樹脂微粒子A、結晶性ポリエステル樹脂微粒子Bおよび着色剤微粒子を凝集、融着させてトナー粒子を形成する工程、
(f)熱エネルギーにより熟成させてトナー粒子形状を制御する工程、
(g)トナー粒子の分散液を冷却する工程、
(h)水系媒体からトナー粒子を濾別し、当該トナー粒子から界面活性剤などを除去する工程、
(i)洗浄されたトナー粒子を乾燥する工程、
などの工程からなり、必要に応じて、
(j)乾燥されたトナー粒子に外添剤を添加する工程
を加えることができる。
ここに、「水系分散液」とは、水系媒体中に、分散体(微粒子)が分散されてなるものであり、水系媒体とは、主成分(50質量%以上)が水からなるものをいう。水以外の成分としては、水に溶解する有機溶媒を挙げることができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶媒であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶媒が特に好ましい。
(a)ビニル樹脂微粒子の水系分散液の調製工程
この工程においては、ビニル樹脂によるビニル樹脂微粒子の水系分散液が調製される。
ビニル樹脂微粒子の水系分散液は、ビニル樹脂を得るためのビニル単量体を使用してミニエマルション重合法によって調製することができる。すなわち、例えば界面活性剤を含有した水系媒体中にビニル単量体を添加し、機械的エネルギーを加えて液滴を形成させ、次いで、水溶性のラジカル重合開始剤からのラジカルにより当該液滴中において重合反応を進行させる。なお、前記液滴中に油溶性の重合開始剤が含有されていてもよい。これにより、ビニル樹脂によるビニル樹脂微粒子の水系分散液を調製することができる。
ビニル樹脂によるビニル樹脂微粒子は、組成の異なるビニル樹脂よりなる2層以上の多層構造を有するものであってもよく、このような構成のビニル樹脂微粒子は、例えば2層構造を有するものは、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)によって樹脂微粒子の分散液を調整し、この分散液に重合開始剤とビニル単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する手法によって得ることができる。
〔界面活性剤〕
この工程において使用される界面活性剤としては、従来公知の種々のアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などを用いることができる。
〔重合開始剤〕
この工程において使用される重合開始剤は、従来公知の種々のものを用いることができる。重合開始剤の具体例としては、例えば過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど)が好ましく用いられる。その他、アゾ系化合物(4,4’−アゾビス4−シアノ吉草酸およびその塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩など)、パーオキシド化合物、アゾビスイソブチロニトリルなどを用いてもよい。
〔連鎖移動剤〕
この工程においては、ビニル樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えば2−クロロエタノール、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタンおよびスチレンダイマーなどを挙げることができる。
本発明に係るトナー粒子中には、必要に応じて例えば離型剤や荷電制御剤などの他の内添剤が含有されていてもよく、このような内添剤は、例えば、この工程において、予め、ビニル樹脂を形成するためのビニル単量体の溶液に溶解または分散させておくことによってトナー粒子中に導入することができる。
また、このような内添剤は、別途内添剤のみよりなる内添剤微粒子の分散液を調製し、トナー粒子形成工程において、他の微粒子と共に内添剤微粒子を凝集させることにより、トナー粒子中に導入することもできるが、この工程において予め導入しておく方法を採用することが好ましい。
ビニル樹脂微粒子の平均粒径は、体積基準のメジアン径で100〜250nmの範囲にあることが好ましい。
ビニル樹脂微粒子の体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて測定される値である。
(b)着色剤微粒子の水系分散液の調製工程
この工程は、トナー粒子として着色剤を含有するものを所望する場合に必要に応じて行う工程であって、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて着色剤微粒子の水系分散液を調製する工程である。
着色剤微粒子の水系分散液は、界面活性剤を臨界ミセル濃度(CMC)以上に添加した水系媒体中に着色剤を分散させることにより得られる。
着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、使用する分散機としては、特に限定されないが、好ましくは超音波分散機、機械的ホモジナイザー、マントンゴーリンや圧力式ホモジナイザーなどの加圧分散機、サンドグラインダー、ゲッツマンミルやダイヤモンドファインミルなどの媒体型分散機が挙げられる。
着色剤微粒子は、分散した状態で体積基準のメジアン径が10〜300nmとされることが好ましく、さらに好ましくは100〜200nm、特に好ましくは100〜150nmである。
着色剤微粒子の体積基準のメジアン径は、電気泳動光散乱光度計「ELS−800」(大塚電子社製)を用いて測定される値である。
(c)結晶性ポリエステル樹脂微粒子Aの水系分散液の調製工程
この工程においては、結晶性ポリエステル樹脂Aによる結晶性ポリエステル樹脂微粒子Aの水系分散液が調製される。
結晶性ポリエステル樹脂微粒子Aの水系分散液は、まず、結晶性ポリエステル樹脂Aを合成し、この結晶性ポリエステル樹脂Aを水系媒体中に微粒子状に分散させることによって調製することができる。
結晶性ポリエステル樹脂Aを水系媒体中に分散させる方法としては、当該結晶性ポリエステル樹脂Aを有機溶媒中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を、転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒を除去する方法が挙げられる。
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50〜2,000質量部であることが好ましく、100〜1,000質量部であることがより好ましい。
水系媒体中には、油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤などが添加されていてもよい。界面活性剤としては、上記の工程に挙げたものと同様のものを挙げることができる。
油相液の調製に使用される有機溶媒としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。有機溶媒の使用量は、結晶性ポリエステル樹脂100質量部に対して、通常1〜300質量部、好ましくは1〜100質量部、さらに好ましくは25〜70質量部である。
油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、乳化分散を行うための分散機としては、特に限定されるものではなく、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波分散機などが挙げられ、具体的には例えばTK式ホモミキサー(特殊機化工業社製)などを挙げることができる。
油滴の分散径は60〜1000nmとされることが好ましく、さらに好ましくは80〜500nmである。
油滴の分散径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−750」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した体積基準のメジアン径である。この油滴の分散径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさにより制御することができる。
結晶性ポリエステル樹脂微粒子Aの平均粒径は、体積基準のメジアン径で80〜230nmの範囲にあることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂微粒子Aの体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて測定される値である。
(d)結晶性ポリエステル樹脂微粒子Bの水系分散液の調製工程
この工程においては、結晶性ポリエステル樹脂Bによる結晶性ポリエステル樹脂微粒子Bの水系分散液が調製される。
結晶性ポリエステル樹脂微粒子Bの水系分散液は、上記結晶性ポリエステル樹脂Aの結晶性ポリエステル樹脂微粒子Aの水系分散液を得る方法と同様の方法を採用することができる。
結晶性ポリエステル樹脂微粒子Bの平均粒径は、体積基準のメジアン径で80〜230nmの範囲にあることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂微粒子Bの体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて測定される値である。
(e)トナー粒子の形成工程
この工程においては、ビニル樹脂微粒子、結晶性ポリエステル樹脂微粒子A、結晶性ポリエステル樹脂微粒子Bおよび必要に応じて着色剤微粒子を凝集させて、さらに加熱によって融着させてトナー粒子を形成する。
具体的には、水系媒体中に上記の微粒子が分散されてなる水系分散液中に、臨界凝集濃度以上の凝集剤を添加し、加熱することによって凝集、融着させる。
融着温度は、例えば70〜95℃とされる。
水系での製造方法においては、融着温度が上記範囲とされることにより、結晶性ポリエステル樹脂Bの融点の好適範囲(65〜95℃)をはるかに超えて加熱されることがないので、製造時において結晶性ポリエステル樹脂Bとビニル樹脂との過度な相溶を抑制することができる。
この工程において、結晶性ポリエステル樹脂微粒子Aおよび結晶性ポリエステル樹脂微粒子Bはそれぞれ単独でまたは複数個が融着してドメイン相を形成する。また、ビニル樹脂のカルボキシ基濃度と結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度との関係により、結晶性ポリエステル樹脂Aによる結晶性ポリエステル樹脂微粒子Aはビニル樹脂に対して相溶しにくいので、径が大きい状態でドメイン相が形成され、結晶性ポリエステル樹脂Bによる結晶性ポリエステル樹脂微粒子Bはビニル樹脂に対して相溶しやすいので、径が小さい状態でドメイン相が形成される。
〔凝集剤〕
この工程において使用される凝集剤としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩などの金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどの一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
(f)熟成工程
この工程は、必要に応じて行われるものであって、当該熟成工程においては、トナー粒子形成工程によって得られたトナー粒子を熱エネルギーにより所望の形状になるまで熟成させる。
熟成処理は、具体的には、トナー粒子が分散された系を加熱撹拌することにより、トナー粒子の形状を所望の円形度になるまで、加熱温度、撹拌速度、加熱時間などにより調整することにより、行われる。
(g)冷却工程
この工程は、トナー粒子の分散液を冷却処理する工程である。冷却処理の条件としては、1〜20℃/minの冷却速度で冷却することが好ましい。
冷却処理の具体的な方法としては特に限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法などを例示することができる。
(h)濾過・洗浄工程
この工程は、冷却されたトナー粒子の分散液から当該トナー粒子を固液分離し、固液分離によって得られたトナーケーキ(ウェット状態にあるトナー粒子をケーキ状に凝集させた集合物)から界面活性剤や凝集剤などの付着物を除去して洗浄する工程である。
固液分離には、特に限定されずに、遠心分離法、ヌッチェなどを使用して行う減圧濾過法、フィルタープレスなどを使用して行う濾過法などを用いることができる。また、洗浄においては、濾液の電気伝導度が10μS/cmになるまで水洗浄することが好ましい。
(i)乾燥工程
この工程は、洗浄処理されたトナーケーキを乾燥する工程であり、一般的に行われる公知のトナー粒子の製造方法における乾燥工程に従って行うことができる。
具体的には、トナーケーキの乾燥に使用される乾燥機としては、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機などを挙げることができ、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機などを使用することが好ましい。
乾燥されたトナー粒子の水分は、5質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは2質量%以下とされる。なお、乾燥されたトナー粒子同士が弱い粒子間引力で凝集している場合には、その凝集体を解砕処理してもよい。ここに、解砕処理装置としては、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル、フードプロセッサーなどの機械式の解砕装置を使用することができる。
(j)外添剤の添加工程
この工程は、トナー粒子に対して外添剤を添加する場合に必要に応じて行う工程である。
上記のトナー粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、当該トナー粒子に、いわゆる流動化剤、クリーニング助剤などの外添剤を添加した状態で使用してもよい。
外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
これらの外添剤の添加量は、その合計の添加量がトナー粒子100質量部に対して好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜3質量部とされる。
外添剤の混合装置としては、ヘンシェルミキサー、コーヒーミルなどの機械式の混合装置を使用することができる。
本発明のトナーにおいては、トナー粒子中に、特定範囲の融点を有する結晶性ポリエステル樹脂が含有されていることにより、基本的に高い低温定着性が得られる。また、本発明のトナーにおいては、平均径が大きい第1ドメイン相と平均径が小さい第2ドメイン相とが単独でそれぞれ含有されていることにより、熱定着時に、特定範囲の融点より十分に高い温度となることにより、結晶性ポリエステル樹脂Aおよび結晶性ポリエステル樹脂Bの粘度が大きく低下し、熱定着前(例えばトナー製造時やトナー保管時)には相溶しなかった結晶性ポリエステル樹脂Aと結晶性ポリエステル樹脂Bとが急激に相溶することとなる。また、平均径の小さい第2ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Bがビニル樹脂と即座に相溶し、その結果、結晶性ポリエステル樹脂Aも結晶性ポリエステル樹脂Bを介してビニル樹脂と相溶することとなる。すなわち、平均径の小さい第2ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Bは、平均径の大きい第1ドメイン相を構成する結晶性ポリエステル樹脂Aやビニル樹脂の相溶促進剤として機能することとなる。従って、ビニル樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂Aおよび結晶性ポリエステル樹脂Bの両方から可塑化されることとなるため、優れた低温定着性が得られる。以上のことから、本発明のトナーにおいて、平均径が大きい第1ドメイン相と平均径が小さい第2ドメイン相とが単独でそれぞれ含有されていることにより、熱定着前と熱定着時とにおいて樹脂の相溶状態に差を設けることが可能となる。
また、結晶性ポリエステル樹脂がビニル樹脂によるマトリクス相中にドメイン相として、すなわち非相溶の状態で含有されていることにより、耐熱保管性が得られる。なお、ドメイン相はその大きさが小さければメイン樹脂となるビニル樹脂に対して相溶性が高くなる傾向にあるが、平均径が大きい第1ドメイン相による結晶性ポリエステル樹脂Aの含有割合が高い場合には、平均径が小さい第2ドメイン相による結晶性ポリエステル樹脂Bのビニル樹脂に対する相溶化は耐熱保管性を阻害することはない。そして、相溶促進剤としての結晶性ポリエステル樹脂Bは、低分子系材料に比べて、マイグレーションによる相溶進行が起きにくいため、長期間にわたって高い耐熱保管性を確保することができる。
さらに、熱定着後の画像においては、結晶性ポリエステル樹脂とビニル樹脂との相溶化が進んでいるため、結晶性ポリエステル樹脂が大きなドメイン相として存在することはすくなく、ドメイン相の大きさのバラツキによる光沢ムラの発生は抑制される。
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明の実施の形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
ビニル樹脂微粒子、着色剤微粒子および結晶性ポリエステル樹脂微粒子の体積基準のメジアン径の測定、並びにビニル樹脂微粒子および結晶性ポリエステル樹脂の分子量の測定は、それぞれ上述の通りに行った。
また、ビニル樹脂微粒子のガラス転移点の測定、結晶性ポリエステル樹脂の融点の測定は、それぞれ上述の通りに行った。
さらに、ドメイン相の平均径の測定は、それぞれ上述の通りに行った。
さらにまた、各樹脂のカルボキシ基濃度またはエステル基濃度は、それぞれ上述の通りに算出した。
〔トナーの製造例1〕
(1)ビニル樹脂微粒子の水系分散液〔1〕の調製
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた1Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシル硫酸ナトリウム1.5質量部、イオン交換水560質量部を仕込み、窒素気流下300rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム1.9質量部をイオン交換水37質量部に溶解させたものを添加し、再度液温80℃とし、下記単量体混合液を1時間かけて滴下後、90℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液〔1a〕を調製した。
スチレン 113質量部
n−ブチルアクリレート 32質量部
メタクリル酸 13.6質量部
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7.4質量部をイオン交換水970質量部に溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱後、樹脂微粒子の分散液〔1a〕を285質量部と、下記単量体混合液を90℃にて溶解させた溶液を添加し、循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック(株)製)により、1時間混合分散させ、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。
スチレン 284質量部
n−ブチルアクリレート 92質量部
メタクリル酸 15.7質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 4.2質量部
「HNP−0190」(日本精鑞社製) 120質量部
次いで、この分散液に、過硫酸カリウム6.6質量部をイオン交換水126質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を84℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液〔1b〕を調製した。
(第3段重合)
さらに、過硫酸カリウム12質量部をイオン交換水290質量部に溶解させた溶液を添加し、82℃の温度条件下に、
スチレン 390質量部
n−ブチルアクリレート 180質量部
メタクリル酸 30質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 8.6質量部
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、ビニル樹脂によるビニル樹脂微粒子の水系分散液〔1〕を調製した。
得られたビニル樹脂微粒子の水系分散液〔1〕について、ビニル樹脂微粒子の平均粒径は、体積基準のメジアン径で220nmであり、ガラス転移点(Tg)は50℃、重量平均分子量(Mw)は31,000であった。
(2)着色剤微粒子の水系分散液〔Bk〕の調製
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した。この溶液を撹拌しながら、カーボンブラック(リーガル330R:キャボット社製)420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック(株)製)を用いて分散処理することにより、着色剤微粒子の水系分散液〔Bk〕を調製した。
得られた水系分散液〔Bk〕について、着色剤微粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径)は110nmであった。
(3)結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔A1〕の調製
(3−1)結晶性ポリエステル樹脂の合成
1,12−ドデカンジオール(分子量:202.33)2008質量部、デカン二酸(分子量:202.25)3438質量部を三口フラスコに入れ、触媒としてジブチル錫オキサイド4質量部、ハイドロキノン2質量部を加えて、窒素ガス雰囲気下160℃で5時間反応させた。さらに8.3kPaにて所望の融点の樹脂が得られるまで反応させて結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕を得た。
結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕の融点(Tm)は、86℃、数平均分子量(Mn)は7,500であった。
(3−2)結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液の調製
結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕30質量部を溶融させて溶融状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)に対して毎分100質量部の移送速度で移送した。また、この溶融状態の結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕の移送と同時に、当該乳化分散機に対して、水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水70質量部をイオン交換水で希釈した、濃度0.37質量%の希アンモニア水を、熱交換機で100℃に加熱しながら毎分0.1リットルの移送速度で移送した。そして、この乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cm2 の条件で運転することにより、体積基準のメジアン径が200nm、固形分量が30質量部の結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔A1〕を調製した。
(4)結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔B1〕の調製
(4−1)結晶性ポリエステル樹脂の合成
1,12−ドデカンジオール(分子量:202.33)2008質量部、ブタン二酸(分子量:118.09)3438質量部を三口フラスコに入れ、触媒としてジブチル錫オキサイド4質量部、ハイドロキノン2質量部を加えて、窒素ガス雰囲気下160℃で5時間反応させた。さらに8.3kPaにて所望の融点の樹脂が得られるまで反応させて結晶性ポリエステル樹脂〔B1〕を得た。
結晶性ポリエステル樹脂〔B1〕の融点(Tm)は、78℃、数平均分子量(Mn)は5,800であった。
(4−2)結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液の調製
結晶性ポリエステル樹脂〔B1〕30質量部を溶融させて溶融状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)に対して毎分100質量部の移送速度で移送した。また、この溶融状態の結晶性ポリエステル樹脂〔B1〕の移送と同時に、当該乳化分散機に対して、水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水70質量部をイオン交換水で希釈した、濃度0.37質量%の希アンモニア水を、熱交換機で100℃に加熱しながら毎分0.1リットルの移送速度で移送した。そして、この乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cm2 の条件で運転することにより、体積基準のメジアン径が200nm、固形分量が30質量部の結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔B1〕を調製した。
(5)トナー粒子の形成
撹拌装置、温度センサーおよび冷却管を備えたステンレス製反応器に、ビニル樹脂微粒子の水系分散液〔1〕364質量部、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔B1〕19質量部、イオン交換水347質量部と、着色剤微粒子の水系分散液〔Bk〕70質量部(固形分換算)とを仕込み、液温を25℃に調整した後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10に調整した。
次いで、撹拌速度300rpmでの撹拌下、塩化マグネシウム・6水和物17質量部をイオン交換水17質量部に溶解させた水溶液を10分間かけて添加し、その後、系の温度を80℃にまで昇温させた。昇温完了後に、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔A1〕94質量部を20分間かけて滴下した。
滴下完了後、撹拌速度100rpmでの撹拌下で、粒度分布測定装置「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)を用いて粒径を測定し、体積基準のメジアン径が6.6μmに到達した時点で撹拌速度300rpmへと上昇させ、塩化ナトリウム33質量部をイオン交換水130質量部に溶解させた塩化ナトリウム水溶液を添加した。
さらに加熱撹拌を続けて、フロー式粒子像解析装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)による測定で円形度が0.946に達した時点で、内温を25℃まで冷却し、トナー粒子を得た。
このようにして得られたトナー粒子の分散液をバスケット型遠心分離機「MARK III 型式番号60×40」(松本機械(株)製)を用いて固液分離し、ウェットケーキを形成した。このウェットケーキを、前記バスケット型遠心分離機で濾液の電気伝導度が15μS/cmになるまで洗浄と固液分離を繰り返し、その後、「フラッシュジェットドライヤー」(セイシン企業社製)を用い、温度40℃および湿度20%RHの気流を吹き付けることによって水分量が0.5質量%となるまで乾燥処理した。
乾燥処理したトナー粒子に対して、疎水性シリカ粒子1質量%と疎水性酸化チタン1.2質量%を添加し、を添加し、ヘンシェルミキサーを用い、回転翼の周速24m/sの条件で20分間かけて混合し、さらに400メッシュの篩を通過させることによって外添剤を添加し、トナー〔1〕を得た。
得られたトナー〔1〕につき、酸化ルテニウム(VIII)にて染色したトナー粒子断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により、定法により測定して観察したところ、マトリクス相中に、当該マトリクス相より明るい色でドメイン相が確認された。TEM画像上の200個のドメイン相に対して、ドメイン径を測定し、ドメイン径の個数分布を算出した。個数分布は、小径領域と大径領域に一つずつピークを有するものとなり、この個数分布に対し、2つのピークにつきそれぞれ正規分布を仮定してフィッティングした。フィッティング曲線のピークトップ値のうち、大きい値を結晶性ポリエステル樹脂A由来の第1ドメイン相の平均径とし、小さい値を結晶性ポリエステル樹脂B由来の第2ドメイン相の平均径とした。結晶性ポリエステル樹脂A由来の第1ドメイン相の平均径は600nm、結晶性ポリエステル樹脂B由来の第2ドメイン相の平均径は100nmであった。なお、無染色の状態でトナー粒子断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により、定法により測定して観察したところ、マトリクス相中にドメイン相が確認され、当該ドメイン相は離型剤由来の第3ドメイン相と推測した。この離型剤由来の第3ドメイン相の平均径は1.1μmであった。
なお、トナー〔1〕において、外添剤の添加によっては、トナー粒子の形状および粒径は変化しなかった。
〔トナーの製造例2〜24〕
トナーの製造例1において、各水系分散液の種類を表1に従って変更し、また、各樹脂の含有割合が表1に示す通りになるように変更したことの他は同様にして、トナー〔2〕〜〔24〕を得た。
表1において、ビニル樹脂微粒子の水系分散液〔2〕〜〔6〕は、トナーの製造例1における(1)ビニル樹脂微粒子の水系分散液〔1〕の調製において、単量体の処方を表2に従って変更して得られたものである。
また、表1において、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔A2〕〜〔A6〕は、トナーの製造例1における(3−1)結晶性ポリエステル樹脂の合成において、単量体の処方を表3に従って変更して得られたものである。
さらに、表1において、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液〔B2〕〜〔B7〕は、トナーの製造例1における(4−1)結晶性ポリエステル樹脂の合成において、単量体の処方を表4に従って変更して得られたものである。
なお、表1の第2ドメイン相欄における水系分散液〔X〕については、下記調製例によって作製されたものである。
〔非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔X〕の調製〕
窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに、
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 285.7質量部
テレフタル酸 66.9質量部
フマル酸 47.4質量部
エステル化触媒(オクチル酸スズ) 1.43質量部を入れ、230℃で8時間縮重合反応させ、さらに、8kPaで1時間反応させ、160℃まで冷却した後、
アクリル酸 20質量部
スチレン 240質量部
ブチルアクリレート 60質量部
重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 16質量部
の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下し、滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を継続させた後、200℃に昇温し、10kPaで1時間保持した後、
スチレン、ブチルアクリレートを除去することにより、非晶性樹脂〔x〕を得た。
得られた非晶性樹脂〔x〕100質量部を、「ランデルミル 形式:RM」(徳寿工作所社製)で粉砕し、予め作製した0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US−150T」(日本精機製作所製)を用いてV−LEVEL、300μAで30分間超音波分散し、体積基準のメジアン径が180nmである非晶性樹脂微粒子の水系分散液〔X〕を作製した。
Figure 2015011054
Figure 2015011054
Figure 2015011054
Figure 2015011054
〔現像剤の製造例1〜24〕
トナー〔1〕〜〔24〕の各々に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積基準のメジアン径が60μmのフェライトキャリアを、トナー濃度が6質量%となるように添加し、V型混合機によって混合することにより、現像剤〔1〕〜〔24〕を製造した。
〔実施例1〜12、比較例1〜12〕
(1)低温定着性(アンダーオフセット性)の評価
アンダーオフセットとは、定着機を通過する際に与えられた熱によるトナー層の溶融が不十分であるために画像支持体などの転写材からトナー像が剥離してしまう画像欠陥をいう。
アンダーオフセット性の評価は、市販のカラー複合機「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタ社製)の現像装置に、上記で作製した現像剤を順次装填して評価を行った。なお、定着温度、トナー付着量、システム速度を自由に設定できるように改造した。評価紙として「NPI128g/m2 」(日本製紙社製)を用い、トナー付着量8g/m2 のベタ画像を定着速度300mm/secで定着上ベルトの温度を110〜200℃、定着下ローラの温度を100℃に設定し5℃毎の水準で定着させた時に、アンダーオフセットが発生しない定着上ベルトの定着下限温度を評価し、低温定着性の指標とした。このときの定着下限温度を評価した。定着下限温度が130℃以下である場合を合格とした。結果を表5に示す。
(2)耐熱保管性の評価
トナー0.5gを内径21mmの10mlガラス瓶に取り蓋を閉めて、タップデンサー「KYT−2000」(セイシン企業社製)で室温にて600回振とうした後、蓋を取った状態で温度57.5℃、湿度35%RHの環境下に2時間放置した。次いで、トナーを48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物を解砕しないように注意しながらのせて、「パウダーテスター」(ホソカワミクロン社製)にセットし、押さえバー、ノブナットで固定し、送り幅1mmの振動強度に調整し、10秒間振動を加えた後、篩上の残存したトナー量の比率(質量%)を測定した。下記式(A)で表されるトナー凝集率により、耐熱保管性を評価した。トナー凝集率が15%以下である場合を合格とした。結果を表5に示す。
式(A)トナー凝集率(%)=篩上の残存トナー質量(g)/0.5(g)×100
(3)光沢ムラの評価
前述の低温定着性評価試験と同様の方法において、定着上ベルトの温度をアンダーオフセットの発生した温度よりも20℃高い温度水準して得られた定着画像を用い、光沢均一性を評価した。光沢均一性は、目視およびルーペを用いた観察にて光沢ムラの有無を観察し、下記評価基準により評価した。ランク3以上を合格とした。結果を表5に示す。
−評価基準−
5:顕微鏡にて、100倍の倍率で観察しても光沢のムラが全く検知できない。
4:20倍のルーペで拡大して観察しても、光沢のムラがまったく検知できない。
3:20倍のルーペで拡大するとわずかに光沢ムラが検知できるが、目視では全く検知できず、画像品質に問題がないレベル。
2:目視観察でわずかに光沢ムラが検知できる。
1:目視で光沢ムラを明瞭に検知できる。
(4)長期保管性
トナー0.5gを内径21mmの10mlガラス瓶に取り蓋を閉めて、タップデンサー「KYT−2000」(セイシン企業社製)で室温にて600回振とうした後、蓋を取った状態で温度50℃、湿度85%RHの環境下に24時間放置した。次いで、トナーを48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物を解砕しないように注意しながらのせて、「パウダーテスター」(ホソカワミクロン社製)にセットし、押さえバー、ノブナットで固定し、送り幅1mmの振動強度に調整し、10秒間振動を加えた後、篩上の残存したトナー量の比率(質量%)を測定した。上記式(A)で表されるトナー凝集率により、長期保管性を評価した。トナー凝集率が15%以下である場合を合格とした。結果を表5に示す。
Figure 2015011054

Claims (6)

  1. トナー粒子よりなる静電荷像現像用トナーにおいて、
    前記トナー粒子が、ビニル樹脂よりなるマトリクス相中に、結晶性ポリエステル樹脂Aによる第1ドメイン相と、結晶性ポリエステル樹脂Bによる第2ドメイン相とが各々分散されてなるドメイン−マトリクス構造を有し、
    前記第1ドメイン相の平均径が400〜900nmであり、
    前記第2ドメイン相の平均径が10〜200nmであり、
    前記結晶性ポリエステル樹脂Aおよび前記結晶性ポリエステル樹脂Bの融点がいずれも95℃以下であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
  2. 前記ビニル樹脂のカルボキシ基濃度が0.4〜0.8mmol/gであり、
    前記結晶性ポリエステル樹脂Aのエステル基濃度が4.6〜5.5mmol/gであり、かつ、
    前記結晶性ポリエステル樹脂Bのエステル基濃度が6.4〜7.7mmol/gであることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
  3. 前記結晶性ポリエステル樹脂Bのエステル基濃度と前記結晶性ポリエステル樹脂Aのエステル基濃度との差が1.0〜3.0mmol/gであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
  4. 前記トナー粒子を構成する全樹脂における前記結晶性ポリエステル樹脂Bの含有割合が2〜5質量%であり、
    前記結晶性ポリエステル樹脂Aに対する前記結晶性ポリエステル樹脂Bの含有割合が10〜25質量%であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
  5. 前記結晶性ポリエステル樹脂Bの融点が65℃以上であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
  6. 前記トナー粒子が、前記マトリクス相中に、離型剤による第3ドメイン相が分散されてなるものであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
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