以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態に係るトナーは、少なくとも結着樹脂を含むトナー母体粒子を含む。当該トナー母体粒子は、結着樹脂によって主に構成され、必要に応じて着色剤、離型剤、電制御剤、界面活性剤などの種々の添加剤を含有する粒子である。まず、結着樹脂について説明する。
[結着樹脂]
上記結着樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性樹脂とを含む。本明細書において「結着樹脂が結晶性樹脂を含む」とは、結着樹脂が結晶性樹脂そのものを含む態様であってもよいし、後述のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂における結晶性ポリエステル重合セグメントのように、他の樹脂中に含まれるセグメントを含む態様であってもよい。また本明細書において、「結着樹脂が非結晶性樹脂を含む」とは、結着樹脂が、非結晶性樹脂そのものを含む態様であってもよいし、後述のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂における非結晶性樹脂セグメントのように、他の樹脂中に含まれるセグメントを含む態様であってもよい。
(結晶性樹脂)
上記結晶性樹脂は、トナーの示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、DSCにおいて、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。このような結晶性樹脂の含有量としては、トナーに対して3〜30質量%の範囲内であることが好ましい。これにより、結着樹脂のシャープメルト性を向上させて、トナーの低温定着性を向上させるという効果を得つつ、結晶性樹脂を含有させることによる耐熱性の低下を抑制することができる。
上記結晶性樹脂としては、結晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリアミド樹脂、結晶性ポリウレタン樹脂、結晶性ポリアセタール樹脂、結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂、結晶性ポリブチレンテレフタレート樹脂、結晶性ポリフェニレンサルファイド樹脂、結晶性ポリエーテルエーテルケトン樹脂、結晶性ポリテトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。なかでも、結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。熱定着時に結晶性ポリエステル樹脂が融解して非結晶性樹脂の可塑化剤として働くために低温定着性を向上させることができるからである。当該結晶性ポリエステル樹脂は、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとの脱水縮合反応による公知の合成法により得ることができる。上記結晶性ポリエステル樹脂は、一種でもそれ以上の種類を用いてもよい。
上記多価カルボン酸の例には、コハク酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;それらの酸無水物;およびそれらの炭素数1〜3のアルキルエステル;が含まれる。上記多価カルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。
上記多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,7−へプタンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;および、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上のアルコール;が含まれる。上記多価アルコールは、脂肪族ジオールであることが好ましい。
上記結晶性ポリエステル樹脂は、スチレン−アクリル樹脂により変性されたハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(以下、単に「ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂」ともいう)であることが好ましい。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、スチレン−アクリル樹脂部分が非結晶性樹脂との相溶性が高く、トナー母体粒子中に結晶性ポリエステル樹脂を均一に分散させることができるからである。また、トナー母体粒子が後述のコア・シェル構造を有し、シェル層がハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含有する場合、スチレン−アクリル樹脂部分が非結晶性樹脂を含有するコア粒子の表面に凝集しやすく、コア粒子の表面全体を被覆しやすくなるからである。
本発明において「結晶性ポリエステル樹脂がスチレン−アクリル樹脂により変性された」とは、結晶性ポリエステル樹脂のセグメントとスチレン−アクリル樹脂のセグメントが化学結合していることをいう。結晶性ポリエステル樹脂のセグメントとは、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂のうち、結晶性ポエリステル樹脂に由来する樹脂部分、すなわち結晶性ポリエステル樹脂と化学構造が同じ分子鎖をいう。スチレン−アクリル樹脂のセグメントとは、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂のうち、スチレン−アクリル樹脂に由来する樹脂部分、すなわちスチレン−アクリル樹脂と化学構造が同じ分子鎖をいう。
上記スチレン−アクリル樹脂は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸系単量体の重合体である。
上記スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、3,4−ジクロロスチレン、これらの誘導体等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記(メタ)アクリル酸系単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、6−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記スチレン系単量体および(メタ)アクリル酸系単量体に加えて、他の単量体を使用することもできる。使用できる他の単量体としては、例えばマレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等が挙げられる。
上記スチレン−アクリル樹脂は、上述した単量体の重合に過酸化物、過硫化物、アゾ化合物などの通常用いられる任意の重合開始剤を添加し、塊状重合、溶液重合、乳化重合法、ミニエマルション法、懸濁重合法、分散重合法などの公知の重合手法により重合することにより得ることができる。重合時、分子量を調整することを目的として、アルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステルなどの通常用いられる連鎖移動剤を用いることができる。
上記ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中のスチレン−アクリル樹脂のセグメントの含有量は、トナー粒子の可塑性を制御しやすいことから、1〜30質量%の範囲内にあることが好ましい。
上記ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、それぞれ個別に用意した結晶性ポリエステル樹脂とスチレン−アクリル樹脂とを反応させて化学結合させることにより得ることができる。
結合を容易にする観点からは、結晶性ポリエステル樹脂かスチレン−アクリル樹脂に、結晶性ポリエステル樹脂とスチレン−アクリル樹脂の両方と反応可能な置換基を組み込むことが好ましい。例えば、スチレン−アクリル樹脂の生成時、原料であるスチレン系単量体および(メタ)アクリル酸系単量体とともに、結晶性ポリエステル樹脂が有するカルボキシ基COOH又はヒドロキシ基OHと反応可能な置換基と、スチレン-アクリル樹脂と反応可能な置換基とを有する化合物を添加する。これにより、結晶性ポリエステル樹脂中のカルボキシ基COOH又はヒドロキシ基OHと反応可能な置換基を有するスチレン−アクリル樹脂を得ることができる。
また、上記ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、あらかじめ用意した結晶性ポリエステル樹脂の存在下でスチレン−アクリル樹脂を生成する重合反応を行うか、あらかじめ用意したスチレン−アクリル樹脂の存在下で結晶性ポリエステル樹脂を生成する重合反応を行うことによっても得ることができる。いずれの場合も重合反応時に、上述したような非結晶性ポリエステル樹脂およびスチレン−アクリル樹脂の両方と反応可能な置換基を有する化合物を添加すればよい。
上記ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは2000〜10000の範囲内にあることが、定着性の観点からより好ましい。
本実施形態に係る結晶性樹脂の融点Tmは、十分な低温定着性と耐熱保管性を得る観点から、50〜90℃の範囲内にあることが好ましく、60〜80℃の範囲内にあることが好ましい。
上記結晶性樹脂の融点Tmは、DSCにより測定することができる。具体的には、結晶性樹脂の試料をアルミニウム製パンKITNO.B0143013に封入し、熱分析装置 Diamond DSC(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットして、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させる。1回目と2回目の加熱時には、10℃/minの昇温速度で室温(25℃)から150℃まで昇温して150℃を5分間保持し、冷却時には、10℃/minの降温速度で150℃から0℃まで降温して0℃の温度を5分間保持する。2回目の加熱時に得られる吸熱曲線における吸熱ピークのピークトップの温度を融点(Tm)として測定する。
上記結着樹脂中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量は5〜50質量%であることが好ましい。結着樹脂中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量が5質量%未満であると、後述の外添剤であるポリオルガノシルセスキオキサン微粒子をトナー母体粒子に保持する効果が得られない虞がある。一方、結着樹脂中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量が50質量%を超えると、トナーの着色力および定着性能が低下する虞がある。
本実施形態に係る結晶性樹脂の重量平均分子量Mwは、5000〜50000の範囲内にあり、数平均分子量は2000〜10000の範囲内にあることが、低温定着性および光沢度安定性の観点から好ましい。
上記重量平均分子量および数平均分子量は、以下のようにゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した分子量分布から求めることができる。
試料を濃度1mg/mLとなるようにテトラヒドロフラン(THF)中に添加し、室温において超音波分散機を用いて5分間分散処理した後、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して、試料液を調製する。GPC装置HLC−8120GPC(東ソー社製)およびカラムTSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ−m3連(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフランを流速0.2mL/minで流す。キャリア溶媒とともに、調製した試料液10μLをGPC装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて試料を検出し、単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて、試料の分子量分布を算出する。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いる。
(非結晶性樹脂)
非結晶性樹脂とは、DSCにより得られる吸熱曲線において、ガラス転移点Tgを有するが、融点すなわち昇温時の前述の明確な吸熱ピークがない非結晶性を示す樹脂をいう。
上記非結晶性樹脂は、上記結晶性樹脂とともに結着樹脂として用いられ、上記トナー母体粒子を構成する。上記非結晶性樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。上記非結晶性樹脂はビニル系樹脂であってよく、あるいは、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂、および、その一部が変性された変性ポリエステル樹脂であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。上記非結晶性樹脂も、例えば公知の合成法によって入手可能である。上記非結晶性樹脂は、ビニル系樹脂であることが、低温安定性および高温保管性を高める観点から好ましい。
(非結晶性ビニル樹脂)
上記非結晶性ビニル樹脂としては、ビニル化合物を重合した非結晶性ビニル樹脂であれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸エステル樹脂、スチレン−アクリル酸エステル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、熱定着時の可塑性などを考慮すると、スチレン−アクリル酸エステル樹脂(スチレン−アクリル樹脂)が好ましい。
上記非結晶性ビニル樹脂の重量平均分子量は、20000〜150000の範囲内にあり、数平均分子量は、5000〜20000の範囲内にあることが、定着性と耐ホットオフセット性の両立の観点から好ましい。重量平均分子量および数平均分子量は、上記結晶性樹脂の場合と同様に測定することができる。
上記非結晶性ビニル樹脂のガラス転移点は、定着性と耐熱保管性の両立の観点から、20〜70℃の範囲内にあることが好ましい。ガラス転移点は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418−82に規定された方法(DSC法)にしたがって測定することができる。測定には、DSC−7示差走査カロリメーター(パーキンエルマー社製)、TAC7/DX熱分析装置コントローラー(パーキンエルマー社製)などを用いることができる。
上記非結晶性ビニル樹脂は、単量体のみの重合体であってもよいし、当該単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。他の単量体としては、スチレン、スチレンの誘導体などのスチレン系単量体などを使用できる。
(非結晶性ポリエステル樹脂)
上記非結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られるポリエステル樹脂のうち、非結晶性を示すポリエステル樹脂である。コア・シェル構造のトナーを形成する場合、シェル層の材料として非結晶性ポリエステル樹脂を使用することもできる。
上記多価カルボン酸および多価アルコールとしては、上述した結晶性ポリエステル樹脂と同様の材料を使用することができる。
多価カルボン酸と多価アルコールの比率は、多価アルコールのヒドロキシ基OHと多価カルボン酸のカルボキシ基COOHとのモル当量比[OH]/[COOH]が、1.5/1〜1/1.5の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1.2/1〜1/1.2の範囲内である。
上記非結晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量は、2000〜10000の範囲内にあることが好ましい。数平均分子量は、上記非結晶性ビニル樹脂の場合と同様にして測定することができる。
上記非結晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点は、20〜70℃の範囲内にあることが好ましい。ガラス転移点は、上記非結晶性ビニル樹脂の場合と同様にして測定することができる。
上記非結晶性ポリエステル樹脂は、上述の結晶性ポリエステル樹脂と同様、スチレン−アクリル樹脂により変性されたハイブリッド非結晶性ポリエステル樹脂と同様(以下、単に「ハイブリッド非結晶性樹脂ともいう」)とすることができる。
上記非結晶性ポリエステル樹脂は、スチレン−アクリル樹脂部分が非結晶性ビニル樹脂との相溶性が高く、トナー母体粒子中に非結晶性ポリエステル樹脂を均一に分散させることができる。トナー母体粒子がコア・シェル構造を有し、シェル層が非結晶性ポリエステル樹脂を含有する場合は、非結晶性ビニル樹脂を含有するコア粒子の表面に凝集しやすく、表面全体を被覆しやすくなる。
本発明において「非結晶性ポリエステル樹脂がスチレン−アクリル樹脂により変性された」とは、非結晶性ポリエステル樹脂のセグメントとスチレン−アクリル樹脂のセグメントが化学結合していることをいう。非結晶性ポリエステル樹脂のセグメントとは、ハイブリッド樹脂のうち、非結晶性ポエリステル樹脂に由来する樹脂部分、すなわち非結晶性ポリエステル樹脂と化学構造が同じ分子鎖をいう。スチレン−アクリル樹脂のセグメントとは、ハイブリッド樹脂のうち、スチレン−アクリル樹脂に由来する樹脂部分、すなわちスチレン−アクリル樹脂と化学構造が同じ分子鎖をいう。上記スチレン−アクリル樹脂は、上述のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂と同様の材料を用いて同様に製造することができる。
上記ハイブリッド非結晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量は2000〜10000の範囲内にあることが、定着性の観点からより好ましい。
トナー母体粒子の結着樹脂中の非結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、1〜60質量%の範囲内にあることが好ましいいが、さらに定着性と帯電の環境安定性の観点から、5〜50質量%の範囲内、特に15〜30質量%の範囲内にあることが好ましい。同様の観点から、上記結着樹脂中の非結晶性樹脂の含有量は、40〜99質量%の範囲内にあることが好ましく、50〜95質量%の範囲内にあることがより好ましく、70〜85質量%の範囲内にあることがさらに好ましい。
[着色剤]
上記着色剤には、カラートナーの着色剤に用いられる公知の無機または有機着色剤が用いられる。当該着色剤の例には、カーボンブラック、磁性体、顔料および染料が含まれる。上記着色剤は一種でもそれ以上でもよい。
上記カーボンブラックの例には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックおよびランプブラックが含まれる。上記磁性体の例には、鉄やニッケル、コバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、および、フェライトやマグネタイトなどの強磁性金属の化合物、が含まれる。
上記顔料の例には、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同7、同15、同16、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同123、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同208、同209、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー3、同9、同14、同17、同35、同36、同65、同74、同83、同93、同94、同98、同110、同111、同138、同139、同153、同155、同180、同181、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4、同60、および、中心金属が亜鉛やチタン、マグネシウムなどであるフタロシアニン顔料、が含まれる。
上記染料の例には、C.I.ソルベントレッド1、同3、同14、同17、同18、同22、同23、同49、同51、同52、同58、同63、同87、同111、同122、同127、同128、同131、同145、同146、同149、同150、同151、同152、同153、同154、同155、同156、同157、同158、同176、同179、ピラゾロトリアゾールアゾ染料、ピラゾロトリアゾールアゾメチン染料、ピラゾロンアゾ染料、ピラゾロンアゾメチン染料、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93および同95が含まれる。
[離型剤]
上記離型剤(ワックス)の例には、炭化水素系ワックスおよびエステルワックスが含まれる。当該炭化水素系ワックスの例には、低分子量ポリエチレンワックス、低分子量ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックスおよびパラフィンワックスが含まれる。また、上記エステルワックスの例には、カルナウバワックス、ペンタエリスリトールベヘン酸エステル、ベヘン酸ベヘニルおよびクエン酸ベヘニルが含まれる。上記離型剤は1種でもそれ以上でもよい。
[帯電制御剤]
上記帯電制御剤の例には、ニグロシン系染料、ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、および、サリチル酸金属塩あるいはその金属錯体が含まれる。上記帯電制御剤は一種でもそれ以上でもよい。
[界面活性剤]
上記界面活性剤の例には、硫酸エステル塩系、スルホン酸塩系、リン酸エステル系などのアニオン系界面活性剤;アミン塩型、4級アンモニウム塩型などのカチオン系界面活性剤;ポリエチレングリコール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物系、多価アルコール系などの非イオン系界面活性剤が含まれる。上記界面活性剤は、一種でもそれ以上でもよい。
上記アニオン系界面活性剤の具体例には、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムが含まれる。上記カチオン系界面活性剤の具体例には、アルキルベンゼンジメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルアンモニウムクロライドが含まれる。非イオン系界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルが含まれる。
[トナー母体粒子の構造]
本実施形態に係るトナー母体粒子の構造は、上述したトナー母体粒子のみの単層構造であってもよいし、上述したトナー母体粒子をコア粒子として、当該コア粒子とその表面を被覆するシェル層とを備えるコア・シェル構造のような多層構造であってもよい。シェル層は、コア粒子の全表面を被覆していなくてもよく、部分的にコア粒子が露出していてもよい。コア・シェル構造の断面は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)などの公知の観察手段によって、確認することができる。
コア・シェル構造の場合は、コア粒子とシェル層でガラス転移点、融点、硬度などの特性を異ならせることができ、目的に応じたトナー母体粒子の設計が可能である。例えば、結着樹脂、着色剤、離型剤などを含有し、ガラス転移点が比較的低いコア粒子の表面に、ガラス転移点が比較的高い樹脂を凝集、融着させて、シェル層を形成することができる。シェル層としては、上述したように非結晶性ポリエステル樹脂を使用することができ、なかでもスチレン−アクリル樹脂により変性された非結晶性ポリエステル樹脂を好ましく使用することができる。
[外添剤]
本実施形態に係るトナーはまた、個数平均粒径が10nm以上100nm未満であるポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を含む外添剤を含む。外添剤は、トナーの帯電性、流動性、クリーニング性などを向上させるために添加される。
(ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子)
上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子は、有機基を有するシルセスキオキサンの微粒子である。具体的には、上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子は、主鎖骨格がSi−O結合からなるシロキサン系の化合物であって、組成式が[(RSiO1.5)n](Rは有機基)で表される化合物からなる微粒子である。
上記有機基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、ビニル基、アリール基などの炭化水素基;メルカプトプロピル基、メタクリロイルオキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−ウレイドプロピル基、N,N−ジメチルアミノ基などの置換炭化水素基が含まれる。これらの中でも、メチル基、プロピル基、フェニル基が好ましい。
また、上記ポリオルガノシルセスキオキサンは様々な骨格構造を取ることができる。例えば、上記ポリオルガノシルセスキオキサンは、ランダム型、完全カゴ型、部分開裂カゴ型、ハシゴ型などの骨格構造を取ることができる。
上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子は、個数平均粒径が10nm以上100nm未満である。個数平均粒径が10nm未満であると、キャリアとの混合ストレスにより微粒子が変形してしまう。また個数平均粒径100以上だと、キャリアとの混合ストレスによりトナー母体粒子から脱離してしまう。
上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の個数平均粒径は、15nm〜98nmの範囲であることがより好ましく、50nm〜95nmの範囲であることが特に好ましい。
上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の個数平均粒径は以下の手順により測定することができる。まず、走査型電子顕微鏡「JSM-7410」(日本電子社製)を用いて粒子の50000倍の写真を撮影し、粒子200個についてそれぞれ最大長(粒子の周上の任意の2点間のうち最大の長さ)を測定する。そして、最大長の合計値を粒子数で割り、個数平均の粒径とする。なお、粒子が凝集体として撮影される場合には、凝集体を形成する一次粒子の粒子径を測定する。ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の個数平均粒径は、後述のポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造工程における酸触媒の種類、シラノール形成性ケイ素化合物に対する使用割合、シラノール形成性ケイ素化合物と水との使用割合、加水分解反応および縮合反応の温度などを調節して制御することができる。また、製造したポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を分級し、あるいはポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の分級品を混合することによって、所望の個数平均粒径を有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を得ることができる。
また、上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子は、粒子径の変動係数であるCV値が30%以下であることが好ましい。CV値が30%以下であると、粒度分布がシャープであるため、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子のトナー母体粒子からの脱離がより一層防止される。
CV値は、個数基準の粒度分布における標準偏差および平均粒径の値を用いて下記式(CV)により算出される。
CV値(%)=((標準偏差)/(平均粒径))×100
CV値は、上述の個数平均粒径の調整方法によって粒子の粒径を揃えることによって調整することができる。
また、上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子は、平均円形度が0.950以上であることが好ましい。平均円形度が0.950以上であると、粒子の形状は真円に近いため、引っ掛かり部分がなく、粒子がキャリアへ移行し難い。一方、平均円形度が0.950未満であると、粒子の異形部分において引っ掛かりが起き、粒子がキャリアへ移行しやすくなる。
平均円形度は、下記式から求めた各粒子の円形度の合計値を、全粒子数で割った値である。下記式中、L0は、粒子投影像の周囲長を表し、L1は、粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長を表す。
円形度=L1/L0
平均円形度もまた、製造工程における酸触媒の種類、シラノール形成性ケイ素化合物に対する使用割合、シラノール形成性ケイ素化合物と水との使用割合、加水分解反応および縮合反応の温度などを調節して制御することによって調整することができる。
上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の添加量は、トナー粒子100質量%に対して0.05〜1.0質量%であることが好ましく、0.10〜0.5質量%であることがより好ましい。
(ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法)
上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子は、例えば、特開2006−89514号公報の明細書段落0014〜0024に記載されているように、加水分解によってシラノール基を形成するケイ素化合物(以下、「シラノール形成性ケイ素化合物」ともいう)を酸触媒の存在下で水と接触させて、加水分解反応および縮合反応させることにより製造することができる。
たとえば、(1)反応容器に水および酸触媒を仕込み、攪拌下でシラノール形成性ケイ素化合物を反応容器内に滴下して、反応系の温度を制御しながら加水分解反応および縮合反応を同時に行わせるか、(2)反応容器に予め水を仕込んでおき、攪拌下で酸触媒およびシラノール形成性ケイ素化合物を同時に滴下して、反応系の温度を制御しながら加水分解反応および縮合反応を同時に行わせて、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の水系分散液を調製する。次いで、当該水系分散液を水酸化ナトリウムなどのアルカリで中和し、スプレードライヤーなどの公知の乾燥装置で加熱乾燥して、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を製造することができる。加熱乾燥温度は、例えば、100〜250℃とすることができる。
上記酸触媒の使用割合は、上記シラノール形成性ケイ素化合物1モル当たり、0.002〜0.05モルであることが好ましく、0.004〜0.03モルであることが好ましい。
上記シラノール形成性ケイ素化合物と水との使用割合は、シラノール形成性ケイ素化合物/水=5/95〜16/84(質量比)であることが好ましく、より好ましくは7/93〜13/87(質量比)である。
加水分解反応および縮合反応時の温度は、好ましくは0〜30℃、より好ましくは10〜27℃、さらに好ましくは15〜25℃である。温度の制御は、反応系の加熱や冷却の他に、シラノール形成性ケイ素化合物に対する酸触媒の使用割合、シラノール形成性ケイ素化合物と水との使用割合、シラノール形成性ケイ素化合物および水の温度、反応装置などを適宜選択して行うことができる。
[その他の外添剤]
また、上記外添剤は、本発明の効果が奏される範囲において、上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の他に、無機微粒子、有機微粒子、滑材などを含んでもよい。
上記無機微粒子の例には、シリカ、二酸化チタン、アルミナ、チタン酸ストロンチウムなどの粒子が含まれる。必要に応じてこれらの無機微粒子は疎水化処理されていてもよい。例えば、これらの無機微粒子はヘキサメチルシラザンまたはn−オクチルシランなどの疎水性処理剤で処理されていてもよい。
上記有機微粒子の例には、数平均一次粒子径が10〜2000nm程度の球形の有機微粒子が含まれる。例えば、スチレンやメチルメタクリレートなどの単独重合体またはこれらの共重合体から構成される有機微粒子を使用することができる。
上記滑材は、クリーニング性や転写性をさらに向上させる目的で使用される。上記滑材の例には、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウムなどの塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、リノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩などの高級脂肪酸の金属塩が含まれる。
これらの外添剤は1種類でも2種以上を混合して用いてもよい。
上記外添剤の添加量は、トナー粒子100質量%に対して0.1〜10.0質量%であることが好ましい。
[トナー粒子の融点]
本実施形態に係るトナーの粒子は、融点(Tm)が60〜90℃の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは65〜80℃の範囲内である。融点が上記範囲内にあれば、十分な低温定着性および耐熱保管性を両立させることができる。また、トナーの良好な耐熱性(熱的強度)も維持することができ、十分な耐熱保管性を得ることができる。融点(Tm)は、上記結晶性ポリエステル樹脂と同様にして測定することができる。
[トナー粒子の粒径]
本実施形態に係るトナー粒子の体積基準のメジアン径は3〜8μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは5〜8μmの範囲内である。体積基準のメジアン径が上記範囲内にあれば、1200dpiレベルの高解像度のドットを正確に再現することができる。なお、体積基準のメジアン径は、製造時において使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、結着樹脂の組成などによって制御することができる。
体積基準のメジアン径は、マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフトSoftware V3.51を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定することができる。具体的には、試料(トナー)0.02gを、20mLの界面活性剤溶液(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加してなじませた後、1分間の超音波分散処理を行い、トナーの分散液を調製する。このトナーの分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。この濃度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmにし、測定範囲である2〜60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径を体積基準のメジアン径として求める。
[トナー粒子の平均円形度]
本実施形態に係るトナー粒子の平均円形度が、0.930〜1.000の範囲内であることが好ましく、0.950〜0.995の範囲内であることがより好ましい。平均円形度が上記範囲内にあれば、トナー粒子の破砕を抑えることができ、摩擦帯電付与部材の汚染を抑制してトナーの帯電性を安定させることができる。また、トナー画像が高画質となる。
トナー粒子の平均円形度は、次のようにして測定することができる。メジアン径を測定する場合と同様にして、トナー母体粒子の分散液を調製する。FPIA−3000(Sysmex社製)などによって、HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000〜10000個の適正濃度範囲でトナー母体粒子の分散液の撮影を行い、個々のトナー粒子の円形度を下記式(y)によって算出する。各トナー粒子の円形度を加算し、円形度の和を各トナー母体粒子の数で除することにより、平均円形度を算出する。HPF検出数が上記適正濃度範囲であれば、十分な再現性が得られる。なお、下記式中、L0は、粒子投影像の周囲長を表し、L1は、粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長を表す。
式(y)円形度=L1/L0
[トナー粒子の製造方法]
本実施形態に係るトナーを製造する方法は、トナー母体粒子を製造する工程(以下、「トナー母体粒子製造工程」ともいう)と、当該トナー母体粒子の表面に外添剤を添加する工程(以下、「外添剤添加工程」ともいう)とを含む。以下、各工程について説明する。
(トナー母体粒子製造工程)
本実施形態に係るトナー母体粒子を製造する方法は限定されず、混練粉砕法、懸濁重合法、乳化凝集法、溶解懸濁法、ポリエステル伸長法、分散重合法など公知の方法が挙げられる。これらの中でも、トナー母体粒子の粒径の均一性、形状の制御性、コア−シェル構造形成の容易性の観点からは、乳化凝集法を採用することが好ましい。以下、乳化凝集法について説明する。
(乳化凝集法)
乳化凝集法は、界面活性剤や分散安定剤によって分散された樹脂の微粒子(以下、「樹脂微粒子」ともいう)の分散液を、着色剤の微粒子などのトナー母体粒子構成成分の分散液と混合し、凝集剤を添加することによって所望のトナー母体粒子の粒径となるまで凝集させ、その後または凝集と同時に、樹脂微粒子間の融着を行い、形状制御を行うことにより、トナー母体粒子を形成する方法である。
ここで、樹脂微粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成とする複数層で形成された複合粒子とすることもできる。
樹脂微粒子は、例えば、乳化重合法、ミニエマルション重合法、転相乳化法などにより製造、またはいくつかの製法を組み合わせて製造することができる。樹脂微粒子に内添剤を含有させる場合には、ミニエマルション重合法を用いることが好ましい。
トナー母体粒子中に内添剤を含有させる場合、樹脂微粒子が着色剤、離型剤、界面活性剤などの内添剤を含有したものとしてもよく、また、別途内添剤のみよりなる内添剤微粒子の分散液を調製し、当該内添剤微粒子を、樹脂微粒子を凝集させる際に、共に凝集させてもよい。
また、乳化凝集法によってはコア−シェル構造を有するトナー母体粒子を得ることもできる。具体的には、コア−シェル構造を有するトナー粒子は、先ず、コア粒子用の結着樹脂微粒子と着色剤とを凝集・融着させてコア粒子を作製し、次いで、コア粒子の分散液中にシェル部用の結着樹脂微粒子を添加して、コア粒子表面にシェル部用の結着樹脂微粒子を凝集、融着させてコア粒子表面を被覆するシェル部を形成することにより得ることができる。
乳化凝集法によりトナー母体粒子を製造する場合、本実施形態によるトナー母体粒子の製造方法は、水系媒体に結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性樹脂とを分散させ、分散液を調製する工程と、前記分散液中で結晶性ポリエステル樹脂と、前記非結晶性樹脂とを凝集および融着させる工程とを含む。
より好ましい実施形態によるトナーの製造方法は、水系媒体に結晶性ポリエステル樹脂の微粒子と非結晶性樹脂の微粒子とを水系媒体に分散させて分散液を調製する工程(以下、「分散液調製工程」とも称する)(a)と、得られた結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液および非結晶性樹脂微粒子分散液を混合し、上記樹脂微粒子を凝集・融着させてトナー母体粒子を製造する工程(以下、「凝集・融着工程」とも称する)(b)とを含む。
以下、各工程(a)〜(b)、ならびに、これらの工程以外に任意で行われる各工程(c)および(d)について詳述する。
(a)分散液調製工程
工程(a)は、結晶性ポリエステル樹脂の微粒子と非結晶性樹脂の微粒子とを水系媒体に分散させる工程を含み、また、必要に応じて、着色剤分散液調製工程や離型剤微粒子分散液調製工程などを含む。
結晶性ポリエステル樹脂の微粒子と非結晶性樹脂の微粒子とを水系媒体に分散させる工程は、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液を調製する工程と、非結晶性樹脂微粒子分散液を調製する工程とを先に行い、これらの分散液を混合することによって行われると好ましい。
以下、各分散液を調製する工程を説明する。
(a−1)結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液を調製する工程
結晶性ポリエステル樹脂(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂)微粒子分散液調製工程は、トナー母体粒子を構成する結晶性ポリエステル樹脂を合成し、この結晶性ポリエステル樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散させて結晶性ポリエステル樹脂微粒子の分散液を調製する工程である。
結晶性ポリエステル樹脂の製造方法は上記記載したとおりである。特に結晶性ポリエステル樹脂としてハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を用いる場合は、結晶性ポリエステル樹脂ユニットおよび非結晶性樹脂ユニットの含有比率を、上記の好ましい範囲とするとよい。
結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液は、例えば溶剤を用いることなく、水系媒体中において分散処理を行う方法、あるいは結晶性ポリエステル樹脂を酢酸エチルなどの溶剤に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水系媒体中に乳化分散させた後、脱溶剤処理を行う方法などが挙げられる。これらのうち、工程の簡素化という観点からは、前者の方法が好ましい。
本発明において、「水系媒体」とは、少なくとも水が50質量%以上含有されたものをいい、水以外の成分としては、水に溶解する有機溶剤を挙げることができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブ、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶剤であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶剤を使用することが好ましい。好ましくは、水系媒体として水のみを使用する。
結晶性ポリエステル樹脂はカルボキシル基を含む場合がある。よって、当該カルボキシル基をイオン解離させて、水相に安定に乳化させて乳化を円滑に進めるためにアンモニア、水酸化ナトリウムなどを添加してもよい。
さらに、水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
分散安定剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、リン酸三カルシウムなどのように酸やアルカリに可溶性のものを使用することが好ましく、または環境面の視点からは、酵素により分解可能なものを使用することが好ましい。
界面活性剤としては、公知のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができる。
また、分散安定性の向上のための樹脂微粒子としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、ポリスチレン−アクリロニトリル樹脂微粒子などが挙げられる。
上記分散処理は、分散機などの機械的エネルギーを利用して行うことができる。分散機の例には、ホモジナイザー、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波分散機、高圧衝撃式分散機アルティマイザーが含まれる。
このように準備された結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液における結晶性ポリエステル樹脂微粒子(油滴)の粒径は、体積基準のメジアン径で、60〜1000nmとされることが好ましく、さらに好ましくは80〜500nmである。なお、この体積平均粒径は、実施例に記載の方法で測定する。なお、この油滴の体積平均粒径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさなどによりコントロールすることができる。
また、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液における結晶性ポリエステル樹脂微粒子の含有量は、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子のトナー母体粒子からの脱離を抑制する観点から、得られる結着樹脂中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量が5〜50質量%となるように調整されることが好ましい。
(a−2)非結晶性樹脂微粒子分散液調製工程
非結晶性樹脂微粒子分散液調製工程は、トナー母体粒子を構成する非結晶性樹脂を合成し、この非結晶性樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散させて非結晶性樹脂微粒子の分散液を調製する工程である。
非結晶性樹脂の製造方法は上記記載したとおりである。非結晶性樹脂を水系媒体中に分散させる方法としては、非結晶性樹脂を得るための単量体から非結晶性樹脂微粒子を形成し、当該非結晶性樹脂微粒子の水系分散液を調製する方法(I)や、非結晶性樹脂を有機溶媒(溶剤)中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を、転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒(溶剤)を除去する方法(II)が挙げられる。これらのうち、工程の簡素化という観点からは、方法(I)が好ましい。よって、以下では、方法(I)について説明する。
本方法においては、まず、非結晶性樹脂を得るための単量体を重合開始剤と共に水系媒体中に添加して重合し、基礎粒子を得る。当該水系媒体は上記(a−1)で説明した通りであり、この水系媒体中には、分散安定性を向上させる目的で、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
次に、当該樹脂微粒子が分散している分散液中に、非結晶性樹脂を得るためのラジカル重合性単量体および重合開始剤を添加し、上記ベース粒子にラジカル重合性単量体をシード重合する手法を用いることが好ましい。
このとき、重合開始剤としては、水溶性重合開始剤を用いることができる。水溶性重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性ラジカル重合開始剤を好適に用いることができる。
また、非結晶性樹脂微粒子を得るためのシード重合反応系には、非結晶性樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン;n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート、ステアリル−3−メルカプトプロピオネートなどのメルカプトプロピオン酸;およびスチレンダイマーなどを用いることができる。これらは一種単独であるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
なお、方法(I)では、非結晶性樹脂を得るための単量体から非結晶性樹脂微粒子を形成する際に、前記単量体とともに離型剤を分散させることにより、非結晶性樹脂微粒子中に離型剤を含有させてもよい。また、上記シード重合反応をさらに行い、多段階の重合反応により非結晶性樹脂微粒子の分散液を調製してもよい。
以上、シード重合法を例示して説明したが、非結晶性樹脂の種類に応じて、乳化重合法、分散重合法を採用してもよい。
上記方法によって準備された非結晶性樹脂微粒子分散液における非結晶性樹脂微粒子(油滴)の粒径は、体積基準のメジアン径で、60〜1000nmとされることが好ましく、さらに好ましくは80〜500nmである。なお、この体積平均粒径は、実施例に記載の方法で測定する。なお、この油滴の体積平均粒径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさによりコントロールすることができる。
また、非結晶性樹脂微粒子分散液における非結晶性樹脂微粒子の含有量は、5〜50質量%の範囲とすることが好ましく、より好ましくは10〜40質量%の範囲である。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
(a−3)着色剤分散液調製工程/離型剤微粒子分散液調製工程
着色剤分散液調製工程は、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて着色剤微粒子の分散液を調製する工程である。また、離型剤微粒子分散液調製工程は、トナー母体粒子として離型剤を含有するものを所望する場合に必要に応じて行う工程であって、離型剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて離型剤微粒子の分散液を調製する工程である。
当該水系媒体は上記(a−1)で説明した通りであり、この水系媒体中には、分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
着色剤/離型剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、このような分散機としては、特に限定されるものではなく、上記(a−1)において説明したものを用いることができる。
着色剤分散液における着色剤の含有量は、10〜50質量%の範囲とすることが好ましく、15〜40質量%の範囲とすることがより好ましい。このような範囲であると、色再現性確保の効果がある。また、離型剤微粒子分散液における離型剤微粒子の含有量は、10〜50質量%の範囲とすることが好ましく、15〜40質量%の範囲とすることがより好ましい。このような範囲であると、ホットオフセット防止および分離性確保の効果が得られる。
(b)凝集・融着工程
この凝集・融着工程は、水系媒体中で前述の結晶性ポリエステル樹脂微粒子および非結晶性樹脂微粒子と、必要に応じて着色剤粒子および/または離型剤微粒子とを凝集させ、凝集させると同時にこれら粒子を融着させて結着樹脂を得る工程である。
この工程では、結晶性ポリエステル樹脂微粒子および非結晶性樹脂微粒子と、必要に応じて着色剤粒子および/または離型剤微粒子とを混合し、水系媒体中にこれら粒子を分散させる。
次に、アルカリ金属塩や第2族元素を含む塩などを凝集剤として添加した後、結晶性ポリエステル樹脂微粒子および非結晶性樹脂微粒子のガラス転移温度以上の温度で加熱して凝集を進行させ、同時に樹脂粒子同士を融着させる。
具体的には、前述の手順で作製した、結晶性ポリエステル樹脂の分散液および非結晶性樹脂の分散液と、必要に応じて着色剤粒子分散液および/または離型剤微粒子分散液とを混合し、塩化マグネシウムなどの凝集剤を添加することにより、結晶性ポリエステル樹脂微粒子および非結晶性樹脂微粒子と、必要に応じて着色剤粒子および/または離型剤微粒子とを凝集させると同時に粒子同士が融着して結着樹脂が形成される。そして、凝集した粒子の大きさが目標の大きさになった時に、食塩水などの塩を添加して凝集を停止させる。
本工程で用いられる凝集剤は、特に制限されるものではないが、金属塩から選択される凝集剤が好適に使用される。凝集剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。
凝集工程においては、凝集用分散液の温度を一定時間、好ましくは体積基準のメジアン径が4.5〜7.0μmになるまで保持することにより、融着を継続させることが肝要である。また、熟成中の粒子の平均円形度を測定し、好ましくは0.950〜1.000になるまで第1の熟成工程を行うことが好ましい。
これにより、粒子の成長(結晶性ポリエステル樹脂微粒子、非結晶性樹脂微粒子、および必要に応じて着色剤粒子/離型剤微粒子の凝集)と、融着(粒子間の界面の消失)とを効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナー母体粒子の耐久性を向上することができる。
(c)冷却工程
冷却工程は、上記トナー母体粒子の分散液を冷却処理する工程である。冷却処理における冷却速度は、制限されないが、0.2〜20℃/分が好ましい。冷却処理方法は限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法を例示することができる。
(d)濾過・洗浄・乾燥工程
濾過工程では、トナー母体粒子の分散液からトナー母体粒子を濾別する。濾過処理方法としては、遠心分離法、ヌッチェなどを使用して行う減圧濾過法、フィルタープレスなどを使用して行う濾過法などがあり、限定されるものではない。
次いで、洗浄工程で洗浄することにより濾別されたトナー母体粒子(ケーキ状の集合物)から界面活性剤や凝集剤などの付着物を除去する。洗浄処理は、濾液の電気伝導度が、例えば5〜20μS/cmレベルになるまで水洗処理を行う。
乾燥工程では、洗浄処理されたトナー母体粒子に乾燥処理が施される。この乾燥工程で使用される乾燥機としては、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機等公知の乾燥機が挙げられ、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機などを使用することも可能である。乾燥処理されたトナー母体粒子に含有される水分量は、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下である。
また、乾燥処理されたトナー母体粒子同士が弱い粒子間引力で凝集している場合には、解砕処理を行ってもよい。解砕処理装置としては、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル、フードプロセッサーなどの機械式の解砕装置を使用することができる。
[外添剤添加工程]
外添剤添加工程は、トナー母体粒子の表面に上述の外添剤を添加する工程である。外添剤添加工程は乾燥工程の前に行うこともできるが、上記乾燥工程を経たトナー母体粒子に対して行うことが好ましい。
外添剤の添加は、例えば、タービュラーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、V型混合機などの公知の種々の混合装置を使用して、トナー母体粒子と外添剤とを混合することにより行うことができる。
[現像剤]
以上のように製造されたトナー粒子は、例えば磁性体を含有させて一成分磁性トナーとして使用する場合;いわゆるキャリアと混合して二成分現像剤としてのトナーとして使用する場合、非磁性トナーを単独で使用する場合などが考えられるが、二成分現像剤として使用されることが好ましい。
二成分現像剤を構成するキャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子を用いることが好ましい。上記キャリアの体積平均粒径は15〜100μmが好ましく、25〜60μmがより好ましい。
上記キャリアは、樹脂により被覆されていることが好ましい。被覆用の樹脂としては、限定されないが、オレフィン樹脂、シクロヘキシルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂、フッ素樹脂などを用いることができる。これらの中でも、シクロヘキシルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体が好ましい。シクロヘキシル基を有するシクロヘキシルメタクリレートは、構造上摩耗しにくく、かつ、良好な帯電性能を有するため、トナー母体粒子からのポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の脱離が抑制され、その結果、印刷過程の画像安定性が向上するからである。
シクロヘキシルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体におけるシクロヘキシルメタクリレート/メチルメタクリレート比(質量)は、トナー母体粒子からのポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の脱離を抑制する観点から、4/6〜6/4が好ましく、5/5が特に好ましい。
また、上記キャリアは、樹脂中に磁性粒子を分散させたいわゆる樹脂分散型キャリアとすることもできる。上記樹脂分散型キャリアを構成するための樹脂は、限定されず、公知の樹脂を使用することができ、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。
以上の説明したとおり、本実施形態に係るトナーは、少なくとも結着樹脂を含むトナー母体粒子と、外添剤とを含み、当該結着樹脂は、非結晶性樹脂および結晶性樹脂を含み、当該外添剤は、個数平均粒径が10nm以上100nm未満であるポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を含む。
上記トナーの特徴の一つは、外添剤であるポリオルガノシルセスキオキサン微粒子のトナー母体粒子からの脱離が抑制されることであり、その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
まず、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の粒径が小さいことにより、当該微粒子の表面積が大きくなりトナー母体粒子に対する静電的な付着力が向上すると推察される。次に、トナー母体粒子表面で結晶性樹脂のドメインが非結晶性樹脂に微分散した海島構造をとるためトナー母体粒子の表面に局所的な強電界部位が表れ、強電界により、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子が静電的にさらにトナー母体粒子から脱離しにくい状態になると推察される。
上記非結晶性樹脂がスチレン−アクリル樹脂であり、かつ、上記結晶性樹脂が結晶性ポリエステル樹脂であることは、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子のトナー母体粒子からの脱離をさらに抑制する観点からより一層効果的である。
上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の粒子径の変動係数であるCV値が30%以下であり、かつ、上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の平均円形度が0.950以上であることも、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子のトナー母体粒子からの脱離をさらに抑制する観点からより一層効果的である。
上記トナーが、シクロヘキシルメタクリレートを含む樹脂で被覆されたキャリア粒子をさらに含むことも、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子のトナー母体粒子からの脱離をさらに抑制する観点からより一層効果的である。
以下、本発明を実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
[結晶性ポリエステル樹脂の合成およびその水系分散液の調製]
(結晶性ポリエステル樹脂の合成)
両反応性モノマーを含む、下記の付加重合系樹脂(スチレン−アクリル樹脂:StAc)ユニットの原料モノマーおよびラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン(ST) 55質量部
n−ブチルアクリレート(BA) 14質量部
アクリル酸(AA) 6質量部
重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 11質量部
また、下記の重縮合系樹脂(結晶性ポリエステル樹脂:CPEs)ユニットの原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
セバシン酸 302質量部
1,12−ドデカンジオール 123質量部
次いで、撹拌下で付加重合系樹脂(StAc)の原料モノマーを90分かけて滴下し、60分間熟成を行ったのち、減圧下(8kPa)にて未反応の付加重合モノマーを除去した。なお、このとき除去されたモノマー量は、上記の樹脂の原料モノマー量に対してごく微量であった。
その後、エステル化触媒としてTi(OBu)4を0.8質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次に200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることにより結晶性ポリエステル樹脂(CPEs)を得た。結晶性ポリエステル樹脂は、その全量に対してCPEs以外の樹脂(StAc)ユニットを15質量%含み、また、StAcにCPEsがグラフト化した形態の樹脂であった。また、結晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量は5000、重量平均分子量は16000、融点(Tm)は65℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液の調製)
上記で得られた結晶性ポリエステル樹脂30質量部を溶融させて溶融状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)に対して毎分100質量部の移送速度で移送した。また、この溶融状態の結晶性ポリエステル樹脂の移送と同時に、当該乳化分散機に対して、濃度0.37質量%の希アンモニア水(水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水70質量部をイオン交換水で希釈したもの)を、熱交換機で100℃に加熱しながら毎分0.1リットルの移送速度で移送した。そして、この乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cm2の条件で運転することにより、体積基準のメジアン径が200nm、固形分量が30質量部の結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液を調製した。
[非結晶性ポリエステル樹脂の合成およびその水系分散液の調製]
(非結晶性ポリエステル樹脂の合成)
窒素導入装置、脱水管、攪拌装置および熱電対を取り付けた反応容器へ、
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 500質量部
テレフタル酸 154質量部
フマル酸 45質量部
オクチル酸スズ 2質量部
を投入し、温度230℃で8時間の重縮合反応を行い、さらに、8kPaで1時間重縮合反応を継続しその後、室温まで冷却した。このようにして非結晶性ポリエステル樹脂(APEs樹脂)を製造した。
(非結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液の調製)
上記により得られた非結晶性ポリエステル樹脂100質量部を、酢酸エチル400質量部に溶解させ、次いで、5.0質量%の水酸化ナトリウム水溶液25質量部を添加して、樹脂溶液を形成した。この樹脂溶液を、撹拌装置を有する容器へ投入し、樹脂溶液を撹拌しながら、0.26質量%のラウリル硫酸ナトリウム水溶液638質量部を30分かけて滴下混合した。上記ラウリル硫酸ナトリウム水溶液を滴下途中、反応容器内の液が白濁した。さらに、上記ラウリル硫酸ナトリウム水溶液を全量滴下後、樹脂溶液粒子を均一に分散させた乳化液が形成された。当該乳化液中の樹脂溶液粒子をレーザ回折式粒度分布測定装置「LA−750」(堀場製作所社製)にて測定したところ、体積平均粒径は135nmであった。次に、上記乳化液を40℃に加熱し、ダイヤフラム式真空ポンプ「V−700」(BUCHI社製)を使用して、15kPa(150mbar)に減圧下で90分間撹拌する事で、酢酸エチルを蒸留除去し、「非結晶性ポリエステル樹脂分散液」を作製した。
[スチレン−アクリル樹脂粒子分散液の調製]
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させたものを添加し、再度液温80℃とし、
スチレン(ST) 480質量部
n−ブチルアクリレート(BA) 250質量部
メタクリル酸(MAA) 68質量部
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下した。その後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、スチレン−アクリル樹脂(St/Ac樹脂)粒子分散液を作製した。
[離型剤粒子分散液の調製]
攪拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器へ、イオン交換水1100質量部とラウリル硫酸ナトリウム2質量部とを投入して界面活性剤水溶液を作製して90℃に加温した。加温後、下記単量体混合液を添加し、循環経路を有する機械式分散装置「クレアミックス(登録商標)(エム・テクニック株式会社製)」を用いて4時間混合分散処理して、分散粒子径350nmの乳化粒子を含有する分散液を調製した。単量体混合液は、下記化合物を含有するものであり、パラフィンワックスは下記単量体とn−オクチルメルカプタンを溶解させた後に添加し、85℃に加温して溶解させている。
スチレン 94質量部
n−ブチルアクリレート 60質量部
メタクリル酸 11質量部
n−オクチルメルカプタン 5質量部
パラフィンワックス(融点73℃) 51質量部
上記乳化粒子分散液中に、過硫酸カリウム(KPS)2.5質量部をイオン交換水110質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を90℃で2時間加熱、撹拌することにより重合反応を行い、離型剤粒子分散液を調製した。
[着色剤分散液の調製]
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に溶解した溶液を攪拌しながら、カーボンブラック「モーガルL」(キャボット社製)420質量部を徐々に添加した。次いで、攪拌装置「クレアミックス(登録商標)」(エム・テクニック株式会社製)を用いて分散処理を行うことにより、「着色剤粒子分散液」(色:ブラック)を調製した
[ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の合成]
(合成例1:ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子(P−1)の合成)
反応容器に水672gおよび酸触媒としてドデシルベンゼンスルホン酸6g(0.018モル)を仕込み、攪拌しながら、シラノール形成性ケイ素化合物としてメチルトリメトキシシラン90g(0.66モル)を10分間かけて滴下し、加水分解反応および縮合反応を同時に行った。滴下中、発熱による反応系の温度上昇を20〜25℃に制御するため、反応液を適宜冷却した。メチルトリメトキシシランの滴下終了後、さらに反応液の温度を20〜25℃に制御しながら、攪拌を続けて、メチルトリメトキシシラン滴下開始から24時間後に、5%水酸化ナトリウム水溶液14.7gを投入して触媒を中和し、加水分解反応および縮合反応を終了させて、水性懸濁液を得た。
この水性懸濁液をスプレードライヤーで乾燥処理して、白色粉体42gを得た。元素分析、NMR分析、ICP発光分光分析を行ったところ、この白色粉体はケイ素含有量41%、炭素含有量18%の球状ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子であった。また、走査型電子顕微鏡によって任意の100個の球状ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の測定したところ、粒子径の平均値は12nm、粒子径のCV値は55.2%、平均円形度は0.902であった。これをポリオルガノシルセスキオキサン微粒子(P−1)とした。
(合成例2〜10:ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子(P−2)〜(P−8)、(HP−1)〜(HP−2)の合成)
シラノール形成性ケイ素化合物、酸触媒の種類、酸触媒の使用量、シラノール形成性ケイ素化合物の水に対する重量比、および、加水分解および縮合反応時の温度を下記表1のように変更した以外は、上記合成例1と同様にしてポリオルガノシルセスキオキサン微粒子(P−2)〜(P−8)、(HP−1)〜(HP−2)を合成した。これらのポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の種類および物性(粒径、CV値、平均円形度)も下記表1に示す。
なお、下記表1中、「A−1」はメチルトリメトキシシランを表し、「B−1」はドデシルベンゼンスルホン酸を表し、「A−2」はプロピルトリメトキシシランを表し、「B−2」はジノニルベンゼンスルホン酸を表し、「A−3」はフェニルトリメトキシシランを表し、「B−3」は酸性硫酸ドデシルを表し、「B−4」はリン酸モノデシル二水素を表す。また、下記表1中、「POSQ」はポリオルガノシルセスキオキサンを表し、「SSC」はシラノール形成性ケイ素化合物を表し、「反応温度」は、加水分解反応および縮合反応時の温度を表す。さらに、下記表1中、「PSQ−Me」はポリメチルシルセスキオキサンを表し、「PSQ−Pro」はポリプロピルシルセスキオキサンを表し、「PSQ−Phe」はポリフェニルシルセスキオキサンを表す。
[トナー母体粒子の製造]
(製造例1:トナー母体粒子(T−1)の製造)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器に、イオン交換水2000質量部、上記非結晶性ポリエステル樹脂分散液320質量部(固形分換算)、上記結晶性ポリエステル樹脂分散液80質量部(固形分換算)、上記離型剤粒子分散液80質量部(固形分換算)、および、上記着色剤粒子分散液40質量部(固形分換算)を投入した。
さらに、ポリオキシエチレン−2−ドデシルエーテル硫酸ナトリウム3質量部をイオン交換水120質量部に溶解した溶液を上記反応容器に添加し、液温を30℃にした後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを10に調整した。
次いで、塩化マグネシウム6水和物35質量部をイオン交換水35質量部に溶解した水溶液を、攪拌状態の下で30℃にて10分間かけて上記反応容器に添加し、添加後3分間保持してから昇温を開始した。昇温は60分かけて90℃まで行い、90℃に保持した状態で塩化ナトリウム150質量部をイオン交換水600質量部に溶解した水溶液を添加して粒子の成長を停止させた。さらに、熟成処理として液温を90℃にして加熱攪拌を行って粒子の融着を進行させた。
この状態で「FPIA−3000(シスメックス株式会社製)」による測定で平均円形度が0.965になるまで粒子の融着を進行させた。さらに、この状態で「マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)」を用いて反応容器内で成長する凝集粒子の粒径を測定したところ、体積基準メジアン径は6.6μmであった。
上記の工程を経て作製した「トナー母体粒子分散液」を、バスケット型遠心分離機「MARKIII 型式番号60×40(松本機械工業株式会社製)」で固液分離し、トナー母体粒子のウェットケーキを形成した。このウェットケーキを、前記バスケット型遠心分離機で、ろ液の電気伝導度が5μS/cmになるまで45℃のイオン交換水で洗浄処理した。その後、「フラッシュジェットドライヤ(株式会社セイシン企業製、ジェット気流乾燥機)」を用い、設定温度70℃で一次乾燥を行い、その後所定の2次乾燥処理を行った。このようにして、体積基準メジアン径が6.3μmのトナー母体粒子(T−1)を作製した。
(製造例2〜9:トナー母体粒子(T−2)〜(T−6)、(HT−1)の製造)
結着樹脂中の結晶性ポリエステル樹脂および非結晶性樹脂の種類および添加量が下記表2のとおりとなるように各分散液の種類および添加量をそれぞれ変更した以外は上記トナー母体粒子(T−1)と同様にして、トナー母体粒子(T−2)〜(T−6)、(HT−1)製造した。
表2において、質量部は固形分換算量であり、下記表2中、「A−PEs」は非結晶性ポリエステル樹脂を表し、「C−PEs」は結晶性ポリエステル樹脂を表し、「St/Ac」はスチレン−アクリル樹脂を表し、「A/C」は、結晶性樹脂に対する非結晶性樹脂の質量比を表す。
[実施例1:トナー粒子1の製造]
上記トナー母体粒子(T−1)100質量部に、ヘキサメチルシラザン処理したシリカ(平均一次粒径12nm)1.0質量部、n−オクチルシラン処理した二酸化チタン(平均一次粒径20nm)0.3質量部、および、0.02質量部の上記ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子P−1を添加し、ヘンシェルミキサー(株式会社三井三池製作所製)により混合して、トナー粒子1を製造した。
[実施例2〜14:トナー粒子2〜14の製造]
トナー母体粒子の種類、ならびに、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の種類およびトナーへの添加量を表3のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にしてトナー粒子2〜14をそれぞれ製造した。
(比較例1〜3:トナー粒子15〜17の製造)
トナー母体粒子の種類、ならびに、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の種類およびトナーへの添加量を表3のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にしてトナー粒子15〜17をそれぞれ製造した。
[トナーの製造]
上記実施例および比較例において製造したトナー粒子1〜17に対して、下記表3のとおりスチレン/メチルメタクリレート樹脂(スチレン/メチルメタクリレート=4/6(質量比))またはシクロヘキシルメタクリレート/メチルメタクリレート樹脂(シクロヘキシルメタクリレート/メチルメタクリレート=5/5(質量比))で被覆された体積平均粒径40μmのフェライトキャリアを、トナー粒子濃度が6質量%となるように添加して混合することにより、二成分現像剤であるトナー1〜17とした。
表3にトナーの構成および物性を示す。表3中、「添加量」は、トナー粒子へのPOSQ微粒子の添加量を表し、「St/MMA」はスチレン/メチルメタクリレート樹脂を表し、「CHMA/MMA」は、シクロヘキシルメタクリレート/メチルメタクリレート樹脂を表す。
[画像品質の評価]
上記の実施例および比較例で得られたトナー(二成分現像剤)について、画像評価機として市販のデジタルカラープリンター「bizhub(登録商標)C554」(コニカミノルタ株式会社製)を用いて、画像品質の評価を行った。具体的には、本画像評価機に上記の実施例および比較例で得られた二成分現像剤を投入し、20℃/50%RHの環境下で10万枚の印刷を行い、初期状態および10万枚印刷後の画像部について画像濃度、カブリ濃度および機内汚染の評価を評価した。
(画像濃度)
初期および10万枚印刷後のベタ画像部の画像濃度を、反射濃度計「RD−918」(マクベス社製)を用いて測定した。ベタ画像部の濃度が0.80以上であれば実用上問題なく合格であり、1.20以上であればさらに良好である。結果を表4に示す。
(カブリ濃度)
初期および10万枚印刷後のカブリ濃度を、反射濃度計「RD−918」(マクベス社製)を用いて測定した。なお、カブリ濃度は、印字されていない印刷用紙(白紙)の濃度を20箇所測定し、その平均値を白紙濃度とし、次に、無地画像が印刷された印刷用紙の白地部分の濃度を同様に20箇所測定し、その平均値から白紙濃度を引いた値である。カブリ濃度が0.010未満であれば実用上問題なく合格であり、0.005未満であればさらに良好である。結果を表4に示す。
[機内汚染の評価]
機内汚染の指標として、画像形成装置内のトナーの飛散量を下記の通り測定した。
まず、上記の評価装置での10万枚印刷終了後、一旦機内を清掃する。その後、印字率が5%の文字画像をA4判の上質紙に10000枚プリントし、加えて、10%の文字画像で10000枚、さらにその後、20%の文字画像で10000枚、計30000枚プリントを実施する。トナー飛散量は、そこでの画像形成装置本体およびカートリッジ、トナーフィルターに飛散したトナーの総量とする。30000枚印字後、カートリッジの上蓋など現像部位周辺に飛散したトナーを吸引してその重量を測定し、トナーフィルターに付着したトナーの重量を測定し、これらの和をトナー飛散量(g)とした。トナー飛散量1g以下を合格とした。結果を下記表4に示す。
表4の結果から、結着樹脂が結晶性樹脂および非結晶性ポリエステル樹脂を含み、かつ、外添剤が、個数平均粒径が10nm以上100nm未満であるポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を含む実施例1〜14のトナーでは、10万枚プリント後でも画像濃度の低下およびカブリの発生が少なく、また、機内汚染が少ないことがわかる。
特に、結晶性樹脂が結晶性ポリエステル樹脂であり非結晶性樹脂がスチレン−アクリル樹脂であると共に、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子のCV値が30%以下であり、かつ、平均円形度が0.950以上である実施例6〜14では、画像濃度の低下およびカブリの発生が少なく、機内汚染も少ないことがわかる。これは、(1)スチレン−アクリル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂を使用したためトナー母体粒子の表面の電界がより強くなり、その結果、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子がトナー母体粒子により強固に接着したことと、(2)CV値が30%以下であるためポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の粒度分布がシャープであり、また、平均円形度が0.950以上でありポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の形状が真円に近いため、キャリアへのポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の移行が減少したこと、によると考えられる。
さらに、キャリア粒子がシクロヘキシルメタクリレートを含む樹脂で被覆された実施例12〜14ではカブリの発生が顕著に抑制されていることがわかる。これは、キャリア粒子が、摩耗しにくく、かつ、良好な帯電性能を有するシクロヘキシルメタクリレートを含むため、トナー母体粒子からのポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の脱離がより抑制されたためと考えられる。
これに対して、外添剤が、個数平均粒径が10nm以上100nm未満であるポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を含むが、結着樹脂が非結晶性ポリエステル樹脂のみからなる比較例1では、10万枚印刷後の画像濃度の低下およびカブリの発生が大きく、機内汚染の程度が大きい。これは、結晶性樹脂のドメイン構造と非結晶性樹脂とからなる海島構造が存在しないため、トナー母体粒子の表面に局所的な強電界部位が表れず、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子がトナー母体粒子に接着できなかったためと考えられる。
また、結着樹脂が結晶性樹脂および非結晶性樹脂を含むが、外添剤が、個数平均粒径が10nm未満であるポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を含む比較例2では、10万枚印刷後の画像濃度の低下およびカブリの発生が大きく、また、機内汚染の程度が大きいことがわかる。これは、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子が小さすぎるため、キャリアとの混合中に粒子が変形したためと考えられる。
また、結着樹脂が結晶性樹脂および非結晶性樹脂を含むが、外添剤が、個数平均粒径が100nm超であるポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を含む比較例3でも、10万枚印刷後の画像濃度の低下およびカブリの発生が大きく、機内汚染の程度も大きいことがわかる。これは、粒径が大きすぎるため、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子がトナー母体粒子から脱離してしまったため、と考えられる。