以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
(第1の実施形態)
本発明を適用した第1の実施形態について、図1〜図8を参照して説明する。
図1に示す車両用空調装置100は、例えば、走行用内燃機関であるエンジン30を備える車両に搭載されて、車両の室内を空調する。エンジン30は、車両に搭載された発熱機器である。車両用空調装置100が搭載される車両は、例えば、エンジン30に加えて走行用の電動モータを備えたハイブリッド車両であってもよい。また、車両は、例えば、エンジン30を備えず、走行用駆動源として電動モータのみを備える電動車両であってもかまわない。車両が電動モータを備える場合には、電動モータ、電動モータに給電する蓄電装置、電動モータを駆動制御する駆動回路部等も、車両に搭載された発熱機器となりうる。
図1に示すように、車両用空調装置100は、空調ダクト10、ブロワ14、冷凍サイクル装置1、冷却水回路31、および、図3に示した制御手段としてのエアコン電子制御装置50(以下、エアコンECU50という場合がある)等を備える。
空調ダクト10は、内部に車室内へ吹き出す空調空気を導く空気通路10aを形成する。空調ダクト10は、車室内の前方付近に設けられている。空調ダクト10の最も上流側には、内外気切替箱を構成する部分であり、車室内の空気(以下、内気ともいう)を取り入れる内気吸込口11、及び車室外の空気(以下、外気ともいう)を取り入れる外気吸込口12が形成されている。
内気吸込口11及び外気吸込口12の内側には、内外気切替ドア13が回動自在に設けられている。この内外気切替ドア13は、サーボモータ等のアクチュエータにより駆動されて、吸込口モードを内気循環モード、外気導入モード等に切り替えることが可能である。内外気切替ドア13は、内外気切替手段である。
空調ダクト10の最も下流側には、吹出口切替箱を構成する部分であり、デフロスタ開口部、フェイス開口部およびフット開口部が形成されている。デフロスタ開口部には、デフロスタダクトが接続されて、デフロスタダクトの最下流端には、車両のフロント窓ガラスの内面に向かって主に温風を吹き出すデフロスタ吹出口18が開口している。フェイス開口部には、フェイスダクトが接続されて、フェイスダクトの最下流端には、乗員の頭胸部に向かって主に冷風を吹き出すフェイス吹出口19が開口している。さらに、フット開口部には、フットダクトが接続されて、フットダクトの最下流端には、乗員の足元部に向かって主に温風を吹き出すフット吹出口20が開口している。
各吹出口18、19、20の内側には、それぞれの開口部を開閉するデフロスタドア21、フェイスドア22、フットドア23が回動自在に取り付けられている。これらのドア21、22、23は、サーボモータ等のアクチュエータによりそれぞれ駆動されて、吹出口モードをフェイスモード、バイレベルモード、フットモード、フットデフロスタモードまたはデフロスタモードのいずれに切り替えることが可能となっている。デフロスタドア21、フェイスドア22、およびフットドア23は、吹出モード切替手段である。
ブロワ14は、空調ダクト10内に空気流を発生させる送風手段を構成する。ブロワ14は、ブロワケース、ファン14b、モータ14aを備えており、モータ14aへの印加電圧に応じて、モータ14aの回転速度が決定される。モータ14aへの印加電圧がエアコンECU50からの制御信号に基づいて制御されることにより、室内用ブロワ14の送風量は制御される。
空調ダクト10内において、内外気切替箱とブロワ14との間には、空気通路10aを流れる空気中の異物を捕捉するフィルタ部材10bが配置されている。
冷凍サイクル装置1は、圧縮機2、凝縮器3、過冷却用熱交換器4、減圧装置5、および蒸発器6を、冷媒配管9で環状に接続して構成されている。圧縮機2は、吸入した冷媒を圧縮して吐出する。凝縮器3は、圧縮機2から吐出された冷媒を外気との熱交換により凝縮液化させる。過冷却用熱交換器4は、凝縮器3で凝縮された液相冷媒を更に冷却する。減圧装置5は、過冷却用熱交換器4で冷却された液相冷媒を減圧膨張させる。蒸発器6は、減圧装置5が減圧した冷媒を蒸発気化させる。
圧縮機2は、例えば、車両のエンジンルーム内に設けられ、エンジン30の駆動力もしくは内蔵された電動モータの駆動力により駆動される。凝縮器3は、例えば、車両のエンジンルーム前方等の車両が走行する際に生じる走行風を受け易い場所に設けられ、内部を流れる冷媒と室外ファンにより送風される外気および走行風とを熱交換する室外熱交換器である。
冷凍サイクル装置1には、凝縮器3と過冷却用熱交換器4との間に、例えば気液分離器を設けることができる。この気液分離器は、凝縮器3から流出した冷媒を気液分離して液相冷媒のみを下流に流すとともに、余剰冷媒を内部に貯留する。凝縮器3が凝縮部と過冷却部とを有する所謂サブクールコンデンサである場合には、気液分離器を凝縮器3の凝縮部と過冷却部との間に設けることができる。過冷却用熱交換器4は、本実施形態における補助熱交換器に相当する。
冷却水回路31は、エンジン30とヒータコア34とを繋ぐ熱媒体回路であり、例えば電動のウォータポンプ32によってエンジン30のウォータジャケットで暖められた冷却水を循環させる回路である。冷却水回路31には、図示を省略したラジエータ、サーモスタット等が、ヒータコア34と並列に接続している。
ヒータコア34は、エンジン30から受熱してエンジン30を冷却する熱媒体である冷却水が内部を流れる。ヒータコア34は、この冷却水を暖房用熱源として空調ダクト10内を流れる空気を加熱する。冷却水回路31には、ポンプ手段であるウォータポンプ32および流量調節弁装置33が設けられている。ウォータポンプ32および流量調節弁装置33の少なくともいずれかが、冷却水回路31の冷却水循環流量を調節する流量調節手段である。ウォータポンプ32が流量調節手段をなす場合には、流量調節弁装置33は配置しないことも可能である。
空調ダクト10内の空気通路10aにおいて、ブロワ14よりも空気流れ下流側には、上流側から下流側に進むにしたがい順に、蒸発器6、過冷却用熱交換器4、ヒータコア34が配置されている。
蒸発器6は、ブロワ14直後の通路全体を横断するように配置されている。蒸発器6は、ブロワ14から吹き出された空気全部が通過するようになっている。蒸発器6は、内部を流れる冷媒と空気通路10aを流れる空気との間で熱交換が行われて当該空気を冷却する空気冷却作用及び自身を通過する空気を除湿する空気除湿作用を行う室内熱交換器である。
蒸発器6の空気流れ下流側において、空気通路10aは分岐点10cで2つに分岐している。分岐点10cよりも空気流れ下流側では、空気通路10aは加熱用通路15と冷風バイパス通路16となっている。加熱用通路15には、過冷却用熱交換器4とヒータコア34とが互いに近接して並んで配置されている。過冷却用熱交換器4およびヒータコア34は、それぞれが加熱用通路の全体を横断するように配置されている。過冷却用熱交換器4およびヒータコア34は、コア面同士が平行となるように、並んで配置されている。
冷風バイパス通路16は、過冷却用熱交換器4およびヒータコア34をバイパスして空気を流通する通路である。加熱用通路15と冷風バイパス通路16の分岐点10cの近傍には、エアミックスドア17が配置されている。本例では、エアミックスドア17は、加熱用通路15の上流端開口の開度を調節するドア17aと、冷風バイパス通路16の上流端開口の開度を調節するドア17bとにより構成されている。
エアミックスドア17は、加熱用通路15を通過する空気と冷風バイパス通路16を通過する空気との風量割合を調節するドア手段である。エアミックスドア17は、例えばアクチュエータ等によりそのドア本体の位置を変化させて、空調ダクト10内の蒸発器6よりも下流の配風を調節して、車室内へ吹き出す空気の吹出温度を調整する温度調整手段である。
本例では、ドア手段をエアミックスドア17としているが、これに限定されるものではない。ドア手段は両通路15、16への配風をコントロールするものであればよい。例えば、主たる空調風温度調節をドア17aの開度調節と流量調節手段の冷却水循環流量調節とで行い、加熱用通路15からの温風に冷風を混合する必要がある場合には、ドア17bを開くものであってもよい。車室内への多量の冷風吹き出しが必要な場合等には、ドア17bを開制御して、主にフェイス吹出口19から冷風を吹き出すことができる。
加熱用通路15および冷風バイパス通路16の空気流れ下流側には、加熱用通路15からの温風と冷風バイパス通路16からの冷風とを混合可能な冷温風混合空間が形成されている。前述したデフロスタ開口部、フェイス開口部およびフット開口部は、この冷温風混合空間に臨むように形成されており、冷温風混合空間からの風が各開口部に流入可能となっている。
図2に示すように、過冷却用熱交換器4は、熱交換部であるコア部75、およびコア部75の上下に設けられた一対のヘッダタンク71、72を備えている。コア部75は、複数の冷媒チューブ73、および複数のアウタフィン74を備えている。ヘッダタンク71、72、冷媒チューブ73およびアウタフィン74は、例えば熱伝導性や耐腐食性等に優れるアルミニウム材もしくはアルミニウム合金材により形成されている。
薄肉の帯板材から波形に成形されたコルゲート形状のアウタフィン74と断面偏平状を成す冷媒チューブ73とは、図示左右方向に交互に並べられて相互に熱的に接合されている。図示左右方向の最外方のアウタフィン74の更に外方には補強部材としてのサイドプレートが設けられている。
各冷媒チューブ73の上下延在方向の端部は、ヘッダタンク71、72に設けられたチューブ孔に嵌合され、冷媒チューブ73、アウタフィン74、サイドプレート、およびヘッダタンク71、72が一体でろう付けされている。内部流体である冷媒は、冷媒チューブ73内を下方から上方へ向かって流通するときに、冷媒チューブ73の外部を図示紙面表裏方向に流通する空気と熱交換して、空気を加熱するようになっている。
次に、本実施形態の制御系の構成を図3に基づいて説明する。エアコンECU50には、車室内前面に設けられた操作パネル51上の温度設定スイッチ等の各スイッチからのスイッチ信号、および各センサからのセンサ信号が入力される。
ここで、各センサとは、図3に示したように、内気温センサ40、外気温センサ41、日射センサ42、エバ温度センサ43、水温センサ44、および過冷却温度センサ45等がある。内気温センサ40は、車室内の空気温度(以下内気温と言う場合がある)TRを検出する。外気温センサ41は、車室外の空気温度(以下外気温と言う場合がある)TAMを検出する。日射センサ42は、車室内に照射される日射量TSを検出する。エバ温度センサ43は、蒸発器6の外表面温度もしくは蒸発器6で冷却された空気温度TEを検出する。水温センサ44は、ヒータコア34に流入する冷却水の温度(冷却水温)TWを検出する。過冷却温度センサ45は、過冷却用熱交換器4の外表面温度もしくは過冷却用熱交換器4で加熱された空気温度TSCを検出する。
エアコンECU50の内部には、図示しないCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピータが設けられ、各センサ40〜45からのセンサ信号は、エアコンECU50内の図示しない入力回路によってA/D変換された後にマイクロコンピュータに入力されるように構成されている。
本実施形態における制御手段であるエアコンECU50は、操作パネル51の各スイッチからの入力信号および各センサ40〜45からの入力信号等に基づいて、後述する手順に従って、対象装置の作動制御を行うようになっている。対象装置としては、内外気切替ドア13、ブロワ14、エアミックスドア17、吹出モードドア21〜23、圧縮機2、減圧装置5、ウォータポンプ32、流量調整弁装置33等がある。なお、減圧装置5が、例えば冷媒温度感温式の膨張弁装置である場合には、エアコンECU50は減圧装置5の作動制御は行わない。また、流量調整手段を構成するウォータポンプ32および流量調整弁装置33については、少なくともいずれかの作動制御を行うものであればよい。ウォータポンプ32および流量調整弁装置33の少なくともいずれかと、エアコンECU50とからなる構成が、本実施形態における流量調整手段である。
次に、上記構成に基づき、本実施形態の車両用空調装置100の作動について説明する。
車両のイグニッションスイッチがONされてエアコンECU50に直流電源が供給されると、図4および図5のルーチンが起動される。図4に示すように、エアコンECU50は、まず、ステップ110にて各種設定を初期化する。次に、ステップ120にて操作パネル51の各スイッチからスイッチ信号を読み込むとともに、各センサ40〜45等からのセンサ信号を読み込む。そして、次に、ステップ130にて、予めROMに記憶された演算式に基づいて車室内に吹き出す空気の目標吹出温度TAOを算出する。目標吹出温度TAOは、例えば、内気温TR、外気温TAM、日射量TS、車室内設定温度TSETに基づいて算出される。
ステップ130において目標吹出温度TAOを算出したら、ステップ140にて、車室内への吹き出し温度をTAOとするために温風割合の増加が必要であるか否かを判断する。ステップ140において温風割合の増加が必要であると判断した場合には、ステップ150へ進み、ドア17aが加熱用通路15の上流端開口の開度を上昇するように作動制御する。
一方、ステップ140において温風割合の減少が必要であると判断した場合には、ステップ160へ進み、ドア17aが加熱用通路15の上流端開口の開度を低減するように作動制御する。なお、風量割合の変更が不要である場合には、ドアによる開度変更は行わない。ステップ150、160のいずれかを実行したらステップ120へリターンする。
エアコンECU50は、ドア17aを含むエアミックスドア17の制御を、エバ温度センサ43、水温センサ44、および過冷却温度センサ45からの入力情報に基づいて行う。
また、エアコンECU50は、図4に示した制御に合わせて、図5に示す制御も行う。図5に示すように、エアコンECU50は、ステップ130において目標吹出温度TAOを算出したら、ステップ240にて過冷却用熱交換器4からの吹き出し空気温度TSCを取得する。ステップ240で吹き出し空気温度TSCを取得したら、ステップ250にて、ヒータコア34による空気の加熱量の増加が必要であるか否かを判断する。
ステップ250において加熱量の増加が必要であると判断した場合には、ステップ260へ進み、流量調整弁装置33を開放方向に作動制御してヒータコア34を流通する冷却水流量を増加させる。ステップ260では、ウォータポンプ32の増速制御を行うものであってもよい。
一方、ステップ250において加熱量の低減が必要であると判断した場合には、ステップ270へ進み、流量調整弁装置33を閉塞方向に作動制御してヒータコア34を流通する冷却水流量を減少させる。ステップ270では、ウォータポンプ32の減速制御を行うものであってもよい。なお、加熱量の変更が不要である場合には、流量調整弁装置33やウォータポンプ32による冷却水流量の変更は行わない。ステップ260、270のいずれかを実行したらステップ120へリターンする。
エアコンECU50は、流量調整弁装置33やウォータポンプ32による冷却水流量の制御を、水温センサ44、および過冷却温度センサ45からの入力情報に基づいて行う。
図示は省略しているが、エアコンECU50は、予めROMに記憶された特性図(マップ)から、目標吹出温度TAO等に対応したブロワ14の風量、圧縮機2の回転数もしくはオンオフ切替状態、内外気の吸込口モードおよび吹出口モードも決定する。
なお、操作パネル51上においてブロワ風量、吸込口モードおよび吹出口モードが手動操作により設定されている場合には、その設定モードに決定する。また、操作パネル51上においてエアコンスイッチがオフ状態とされている場合には、圧縮機2の回転数制御もしくはオンオフ切替制御は行わず、圧縮機2を作動しない。
上記各ステップにて算出または決定した各制御状態が得られるように、内外気切替ドア13、ブロワ14、エアミックスドア17、吹出モードドア21〜23、圧縮機2、ウォータポンプ32、流量調整弁装置33等に制御信号を出力する。エアコンECU50は、実質的にはこれらの駆動手段もしくは駆動力伝達手段に制御信号を出力する。そして、ステップ120へリターンする。エアコンECU50は、上述した制御動作を所定周期で繰り返し実行する。
上述の構成および作動によれば、冷凍サイクル装置1は、凝縮器3から流出して蒸発器6へ流入する前の冷媒を熱交換によりエンタルピ変化させる補助熱交換器である過冷却用熱交換器4を備えている。この補助熱交換器は、空調ダクト10内における、蒸発器6よりも空気流れ下流側、かつ、ヒータコア34よりも空気流れ上流側の部位に配置されている。そして、補助熱交換器は、蒸発器6で冷却された後、ヒータコア34で加熱される前の空気との熱交換により、凝縮器3で凝縮された後、蒸発器6で蒸発される前の液相の冷媒をエンタルピ変化させる。
これによると、空調ダクト10内の空気流れに対して、補助熱交換器を蒸発器6とヒータコア34の間に配置することができる。すなわち、加熱用通路15や冷風バイパス通路16に対して並列に設けた通路に補助熱交換器を設ける必要がない。したがって、蒸発器6からヒータコア34へ流れる冷風を確実に補助熱交換器へ導くことができる。このようにして、補助熱交換器が熱交換能力を充分に発揮することができる。
また、加熱用通路15や冷風バイパス通路16に対して並列に通路を設け補助熱交換器を配置する場合に対し、並列通路の形成およびこの並列通路を開閉するドアを不要とすることができる。また、並列通路の開放や閉鎖により空調ダクト内の空気流れが大きく変化して温度調整性能が悪化することも防止することができる。
また、本実施形態では、蒸発器6よりも空気流れ下流側の空気通路は分岐点10cで分岐して、分岐点10cからそれぞれ空気流れ下流側に延びるように加熱用通路15と冷風バイパス通路16とが形成されている。そして、補助熱交換器は、加熱用通路15に配置されて、凝縮器3で凝縮された液相の冷媒を加熱用通路15を流れる空気との熱交換によりさらに冷却する過冷却用熱交換器4である。
これによると、蒸発器6で冷却され加熱用通路15をヒータコア34へ向かって流れる冷風を確実に過冷却用熱交換器4へ導くことができる。したがって、過冷却用熱交換器4が冷媒を過冷却する能力を確実に発揮することができる。
図6に冷凍サイクル装置1中の冷媒状態を示すように、圧縮機2による圧縮に伴いA点からB点へ圧力およびエンタルピを上昇した気相冷媒は、凝縮器3で放熱されて凝縮する。そして、凝縮器3から流出する冷媒がC点に示す状態であるとすると、過冷却用熱交換器4から流出した冷媒はD点に示す状態となる。すなわち、減圧装置5で減圧される前に、過冷却用熱交換器4で冷媒のエンタルピは大きく低下する。これにより、蒸発器6への流入冷媒と蒸発器6からの流出冷媒のエンタルピ差(図6のE点とA点との差)が大きく確保され、冷凍サイクル装置1の冷房能力および運転効率COPを大きく向上することができる。図6に一部を破線で示したサイクルは、過冷却用熱交換器4を備えていない比較例である。
凝縮器3の冷媒凝縮温度は、例えば外気温度に対して10〜20℃高く、外気温度が35℃のときには45〜55℃程度となる。凝縮器3が所謂サブクールコンデンサである場合には、凝縮器3出口冷媒は凝縮温度に対して約10℃ほど低下し、35〜45℃となる。モリエル線図上において凝縮温度を50℃、凝縮器3の過冷却部によるサブクールを10℃、蒸発器6側の温度を0℃として、過冷却用熱交換器4によって冷媒温度を10℃にまで低下させた場合には、本例の冷凍サイクル装置1の効率COPは5.99となる。これに対し、過冷却用熱交換器4を有しない冷凍サイクル装置の効率COPは4.43となる。このように、本例の冷凍サイクル装置1によれば、大幅な効率向上が達成される。なお、上記の結果は、冷媒をR1234yf、圧縮効率、体積効率を1とした場合の理論効率である。
図7に示すように、空調ダクト10内に取り入れられた空気は蒸発器6における冷媒と熱交換で冷却され温度低下する。このとき、露点以下に空気温度を下げることで空気に含まれる水分が凝縮し、絶対湿度が低下する。この除湿された空気をヒータコア34で加熱し適度な吹出し空気温度を作って車室内へ吹出すことで車室内の乗員の快適性を維持することができる。本実施形態では、空気を加熱する際に、凝縮器3から流出した冷媒が導かれる過冷却用熱交換器4において1次加熱が行われ、その後ヒーターコア34によって適切な温度まで2次加熱が行われる。
過冷却用熱交換器4を備えない車両用空調装置では、空気の加熱の全てをヒータコア34でエンジン排熱を使って行っている。これに対して、本実施形態の車両用空調装置100では、空気の加熱の一部を減圧前の冷媒の熱を用いて行うことで、車室内の快適性を維持しながら冷媒のエンタルピを低下させる。
図7に示すように、過冷却用熱交換器4を備えない車両用空調装置では、図中点線に示すように、ヒータコア34でのみ空気が加熱されるが、本例では過冷却用熱交換器4で事前に空気の加熱を行った後にヒータコア34で必要温度まで再加熱される。
図8は、本発明者らが行った本発明を適用した車両用空調装置の省動力効果の確認結果である。外気温が35℃であり冷房能力が2.5kWであるときに、過冷却用熱交換器4を備えない車両用空調装置の冷凍サイクルの消費動力が約0.82kWであるのに対して、過冷却用熱交換器4を備える本実施形態の一例では消費動力が0.6kWに大きく削減された。このように、本発明を適用することにより、およそ27%の省動力効果が発揮されることを確認している。なお、この確認実験は、比較的小型の車両を用い、蒸発器6の吸い込み空気温度を25℃、吸い込み空気湿度を50%、送風風量を250m3/h、外気の風速を2m/sの条件下で行った。
また、本実施形態の車両用空調装置100では、蒸発器6で冷却された空気を加熱することなく車室内へ吹き出すときには、ドア17aが加熱用通路15を閉塞して、過冷却用熱交換器4からの放熱を抑制する。これによると、蒸発器6で冷却された空気を加熱することなく車室内へ吹き出すときには、過冷却用熱交換器4やヒータコア34による空気の不要な加熱を防止することができる。
また、本実施形態では、ヒータコア34を流通する熱媒体である冷却水の流量を調節する流量調節手段を備えている。そして、流量調節手段は、過冷却用熱交換器4で加熱された空気がヒータコア34で更に加熱されて、車室内へ吹き出す空気の温度が目標吹出温度TAOとなるように、冷却水の流量を調節する。これによると、過冷却用熱交換器4で加熱された空気を、流量調節手段の熱媒体流量調節により、目標吹出温度TAOを得るために必要な温度にまで空気をヒータコア34で確実に昇温することができる。
また、流量調節手段は、エンジン30とヒータコア34とを繋ぐ冷却水回路31に設けられ、冷却水回路31に冷却水を循環させるウォータポンプ32、および、冷却水回路31の冷却水循環流量を調節する流量調整弁装置33の少なくともいずれかを含んでいる。これによると、ウォータポンプ32および流量調整弁装置33の少なくともいずれかを含む流量調節手段を用いることで、ヒータコア34を流通する冷却水流量を容易に調節することができる。したがって、過冷却用熱交換器4で加熱された空気を、目標吹出温度TAOを得るために必要な温度にまでヒータコア34で容易に昇温することができる。
また、本実施形態では、蒸発器6で冷却された空気を加熱して車室内へ吹き出すときには、ドア17aが加熱用通路15を開放する。これに加えて、過冷却用熱交換器4で加熱された空気がヒータコア34で更に加熱されて、車室内へ吹き出す空気の温度が目標吹出温度TAOとなるように、流量調節手段が冷却水の流量を調節する。
これによると、蒸発器6で冷却された空気を、ドア17aが開いた加熱用通路15に導入して過冷却用熱交換器4で加熱する。そして、過冷却用熱交換器4で加熱した空気を、流量調節手段の冷却水流量調節によって、目標吹出温度TAOを得るために必要な温度にまでヒータコア34で確実に昇温することができる。
なお、本実施形態の冷却水回路31は冷却水循環流量を調節する手段を備えていたが、これに限定されるものではない。冷却水循環流量の調節手段を備えず、エアミックスドア17の開度調節で吹出温度をコントロールするものであってもよい。
また、本実施形態では、過冷却用熱交換器4は、複数の冷媒チューブ73と、アウタフィン74と、一対のヘッダタンク71、72とを有している。そして、複数の冷媒チューブ73は、相互に間隔を空けて配列され、内部を冷媒が流通するようになっている。アウタフィン74は、複数の冷媒チューブ73の間に配置されて、冷媒チューブ73に熱的に接合されている。一対のヘッダタンク71、72は、複数の冷媒チューブ73の両端部のそれぞれにおいて、複数の冷媒チューブ73の内部同士を連通している。
これによると、過冷却用熱交換器4は、一対のヘッダタンク71、72間に配置される複数の冷媒チューブ73とアウタフィン74とからなるコア部75により、比較的効率よく熱交換を行うことができる。
また、複数の冷媒チューブ73は、上下方向に延びており、内部を下方から上方へ向かって冷媒が流通する。これによると、過冷却用熱交換器4で冷媒を過冷却するときには、冷媒チューブ73の下方よりも上方の方が温度が低くなる。したがって、空調ダクト10内から車室内へ吹き出す空気の温度を、下方のフット吹出口20からの吹出温度よりも上方のフェイス吹出口19からの吹出温度の方を低くすることが可能である。これにより、頭寒足熱タイプの車室内空調を行い易い。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について図9に基づいて説明する。
第2の実施形態は、前述の第1の実施形態と比較して、ヒータコアにおける再加熱量を、冷却水流量ではなくヒータコアを通過する風量で制御する点が異なる。なお、第1の実施形態と同様の部分については、同一の符号をつけ、その説明を省略する。第1の実施形態に係る図面と同一符号を付した構成部品、第2の実施形態において説明しない他の構成は、第1の実施形態と同様であり、また同様の作用効果を奏するものである。
図9に示すように、本実施形態では、空調ダクト10の加熱用通路15と冷風バイパス通路16とを仕切る仕切壁部に排出口60を設けている。排出口60は、加熱用通路15の過冷却用熱交換器4とヒータコア34との間で、加熱用通路15と冷風バイパス通路16とを連通するように設けられている。排出口60は、過冷却用熱交換器4よりも空気流れ下流側かつヒータコア34よりも空気流れ上流側から冷風バイパス通路16へ空気を排出可能な排出通路である。排出口60の形成部位には、排出口60の開度を調節する開度調節手段をなす排出ドア61が設けられている。
排出口60および排出ドア61は、過冷却用熱交換器4を通過した空気のうち、ヒータコア34を通過する空気の流量割合を調節する流量割合調節手段を構成している。排出ドア61は、過冷却用熱交換器4で加熱された空気が、ヒータコア34で再加熱されて、車室内へ吹き出す空気の温度が目標吹出温度TAOとなるように、排出口60の開度を調節してヒータコア34を通過する空気の流量割合を調節する。
上述の構成および作動によれば、第1の実施形態と同様に、冷凍サイクル装置1は、凝縮器3から流出して蒸発器6へ流入する前の冷媒を熱交換によりエンタルピ変化させる補助熱交換器である過冷却用熱交換器4を備えている。この補助熱交換器は、空調ダクト10内における、蒸発器6よりも空気流れ下流側、かつ、ヒータコア34よりも空気流れ上流側の部位に配されている。そして、補助熱交換器は、蒸発器6で冷却された後、ヒータコア34で加熱される前の空気との熱交換により、凝縮器3で凝縮された後、蒸発器6で蒸発される前の液相の冷媒をエンタルピ変化させる。
これによると、空調ダクト10内の空気流れに対して、補助熱交換器を蒸発器6とヒータコア34の間に配置することができる。すなわち、加熱用通路15や冷風バイパス通路16に対して並列に設けた通路に補助熱交換器を設ける必要がない。したがって、蒸発器6からヒータコア34へ流れる冷風を確実に補助熱交換器へ導くことができる。このようにして、補助熱交換器が熱交換能力を充分に発揮することができる。
また、加熱用通路15や冷風バイパス通路16に対して並列に通路を設け補助熱交換器を配置する場合に対し、並列通路の形成およびこの並列通路を開閉するドアを不要とすることができる。また、並列通路の開放や閉鎖により空調ダクト内の空気流れが大きく変化して温度調整性能が悪化することも防止することができる。
また、蒸発器6よりも空気流れ下流側の空気通路は分岐点10cで分岐して、分岐点10cからそれぞれ空気流れ下流側に延びるように加熱用通路15と冷風バイパス通路16とが形成されている。そして、補助熱交換器は、加熱用通路15に配置されて、凝縮器3で凝縮された液相の冷媒を加熱用通路15を流れる空気との熱交換によりさらに冷却する過冷却用熱交換器4である。
これによると、蒸発器6で冷却され加熱用通路15をヒータコア34へ向かって流れる冷風を確実に過冷却用熱交換器4へ導くことができる。したがって、過冷却用熱交換器4が冷媒を過冷却する能力を確実に発揮することができる。
また、蒸発器6で冷却された空気を加熱することなく車室内へ吹き出すときには、ドア17aが加熱用通路15を閉塞して、過冷却用熱交換器4からの放熱を抑制する。これによると、蒸発器6で冷却された空気を加熱することなく車室内へ吹き出すときには、過冷却用熱交換器4やヒータコア34による空気の不要な加熱を防止することができる。
また、本実施形態の車両用空調装置は、過冷却用熱交換器4を通過した空気のうち、ヒータコア34を通過する空気の流量割合を調節する流量割合調節手段を備えている。そして、流量割合調節手段は、過冷却用熱交換器4で加熱された空気が、ヒータコア34で更に加熱されて、車室内へ吹き出す空気の温度が目標吹出温度TAOとなるように、ヒータコア34を通過する空気の流量割合を調節する。
これによると、過冷却用熱交換器4で加熱された空気のうち、流量割合調節手段によってヒータコア34を通過する空気の流量割合を調節して、目標吹出温度TAOを得るために必要な温度にまでヒータコア34で空気を確実に昇温することができる。
すなわち、過冷却用熱交換器4で加熱された空気のうち、加熱用通路15を引き続き流れてヒータコア34で再加熱される空気の流量割合を、流量割合調節手段によって調節して、目標吹出温度TAOを得るために必要な温度にまでヒータコア34で空気を確実に昇温することができる。
また、流量割合調節手段は、加熱用通路15の過冷却用熱交換器4よりも空気流れ下流側かつヒータコア34よりも空気流れ上流側から冷風バイパス通路16へ空気を排出する排出口60と、排出口60の開度を調節する排出ドア61とを有している。
これによると、排出口60の開度を排出ドア61で調節することにより、過冷却用熱交換器4で加熱された空気のうち、ヒータコア34を通過する空気の流量割合を容易に調節することができる。
なお、上記した説明では、加熱用通路15の過冷却用熱交換器4よりも空気流れ下流側かつヒータコア34よりも空気流れ上流側から冷風バイパス通路16へ空気を排出する排出通路は排出口60であったが、これに限定されるものではない。例えば、過冷却用熱交換器4とヒータコア34との間から、加熱用通路15および冷風バイパス通路16と並列に延びる通路としてもかまわない。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について図10〜図12に基づいて説明する。
第3の実施形態は、前述の第1の実施形態と比較して、補助熱交換器の配設位置が異なる。なお、第1の実施形態と同様の部分については、同一の符号をつけ、その説明を省略する。第1の実施形態に係る図面と同一符号を付した構成部品、第3の実施形態において説明しない他の構成は、第1の実施形態と同様であり、また同様の作用効果を奏するものである。
図10に示すように、本実施形態では、補助熱交換器である過冷却用熱交換器104は、蒸発器6に近接して設けられ、空調ダクト10の空気通路10aにおいて分岐点10cよりも上流側に設けられている。過冷却用熱交換器104は、例えば蒸発器6と一体的に設けられ、蒸発器6の空気流れ下流側で空気通路10aの全域を横切るように配置されている。過冷却用熱交換器104と蒸発器6とは、コア面同士が平行となるように並んでいる。過冷却用熱交換器104と蒸発器6とは、例えば両熱交換器のヘッダタンク同士を接続することで一体化することが可能である。過冷却用熱交換器104と蒸発器6とは、別体であってもかまわない。なお、過冷却用熱交換器104は過冷却用熱交換器4と同様の構成を有している。
本実施形態の冷媒配管9には、過冷却用熱交換器104をバイパスして冷媒を流通可能な冷媒バイパス通路9aと、冷媒バイパス通路9aを開閉可能な電磁弁8とが設けられている。電磁弁8が冷媒バイパス通路9aを閉じると、冷媒は過冷却用熱交換器104内を流れ、電磁弁8が冷媒バイパス通路9aを開くと、過冷却用熱交換器104内の流通抵抗により冷媒は冷媒バイパス通路9aを流れる。電磁弁8は、冷媒流路を過冷却用熱交換器104と冷媒バイパス通路9aとで選択的に切り替える冷媒流路切替手段に相当する。冷媒流路切替手段は、例えば、冷媒配管9への冷媒バイパス通路9aの接続点に設けた三方弁としてもかまわない。
本実施形態の冷凍サイクル装置1は、蒸発器6で冷却された空気を加熱して車室内へ吹き出すときには、図11に示すように、電磁弁8で冷媒バイパス通路9aを閉じて冷媒を過冷却用熱交換器104に流通し、蒸発器6から流出した空気を加熱する。また、蒸発器6で冷却された空気を加熱することなく車室内へ吹き出すときには、図12に示すように、電磁弁8で冷媒バイパス通路9aを開いて冷媒を冷媒バイパス通路9aに流通する。これにより、過冷却用熱交換器104では冷媒と空気との熱交換が行われず、蒸発器6から流出した空気は過冷却用熱交換器4で加熱されることなく下流側に流れる。図11および図12では、冷媒が流通する経路を実線で、冷媒の流通が中止される経路を破線で示している。
本実施形態によれば、冷凍サイクル装置1は、凝縮器3から流出して蒸発器6へ流入する前の冷媒を熱交換によりエンタルピ変化させる補助熱交換器である過冷却用熱交換器104を備えている。この補助熱交換器は、空調ダクト10内における、蒸発器6よりも空気流れ下流側、かつ、ヒータコア34よりも空気流れ上流側の部位に配されている。そして、補助熱交換器は、蒸発器6で冷却された後、ヒータコア34で加熱される前の空気との熱交換により、凝縮器3で凝縮された後、蒸発器6で蒸発される前の液相の冷媒をエンタルピ変化させる。
これによると、空調ダクト10内の空気流れに対して、補助熱交換器を蒸発器6とヒータコア34の間に配置することができる。すなわち、加熱用通路15や冷風バイパス通路16に対して並列に設けた通路に補助熱交換器を設ける必要がない。したがって、蒸発器6からヒータコア34へ流れる冷風を確実に補助熱交換器へ導くことができる。このようにして、補助熱交換器が熱交換能力を充分に発揮することができる。
また、加熱用通路15や冷風バイパス通路16に対して並列に通路を設け補助熱交換器を配置する場合に対し、並列通路の形成およびこの並列通路を開閉するドアを不要とすることができる。また、並列通路の開放や閉鎖により空調ダクト内の空気流れが大きく変化して温度調整性能が悪化することも防止することができる。
また、本実施形態では、蒸発器6よりも空気流れ下流側の空気通路は分岐点10cで分岐して、分岐点10cからそれぞれ空気流れ下流側に延びるように加熱用通路15と冷風バイパス通路16とが形成されている。そして、補助熱交換器は、空調ダクト10内の分岐点10cよりも空気流れ上流側に配設されて、凝縮器3で凝縮された液相の冷媒を蒸発器6から流出した空気との熱交換によりさらに冷却する過冷却用熱交換器104である。
これによると、蒸発器6で冷却され加熱用通路15や冷風バイパス通路16へ流入する前の冷風を確実に過冷却用熱交換器104へ導くことができる。したがって、過冷却用熱交換器104の熱交換能力を確実に発揮することができる。
また、本実施形態の冷凍サイクル装置1は、凝縮器3から流出した冷媒を過冷却用熱交換器104をバイパスして減圧装置5へ送る冷媒バイパス通路9aと、冷媒の流路を過冷却用熱交換器104と冷媒バイパス通路9aとで選択的に切り替える電磁弁8とを有している。そして、蒸発器6で冷却された空気を加熱することなく車室内へ吹き出すときには、電磁弁8が冷媒バイパス通路9aを冷媒の流路とする。
これによると、蒸発器6で冷却され加熱用通路15や冷風バイパス通路16へ流入する前の冷風を確実に補助熱交換器104へ導いて、補助熱交換器104が冷媒を過冷却する能力を確実に発揮することができる。また、蒸発器6で冷却された空気を加熱することなく車室内へ吹き出すときには、電磁弁8で冷媒流路を冷媒バイパス通路9aに切り替えて、過冷却用熱交換器104による空気の加熱を抑止することができる。
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について図13、図14に基づいて説明する。
第4の実施形態は、前述の第3の実施形態と比較して、補助熱交換器で冷媒を冷却するモードと冷媒を蒸発するモードとを切り替える点が異なる。なお、第1、第3の実施形態と同様の部分については、同一の符号をつけ、その説明を省略する。第1、第3の実施形態に係る図面と同一符号を付した構成部品、第4の実施形態において説明しない他の構成は、第1、第3の実施形態と同様であり、また同様の作用効果を奏するものである。
図13に示すように、本実施形態の冷凍サイクル装置1は、冷媒バイパス通路9aを有していない。そして、本実施形態の冷凍サイクル装置1は、凝縮器3から流出した後、過冷却用熱交換器104へ流入する前の冷媒を減圧可能な第2減圧装置7を備えている。減圧装置5は、第1減圧装置と呼ぶことができる。以下、減圧装置5を第1減圧装置5と呼ぶ場合がある。
図13に示すように、本実施形態の冷凍サイクル装置1は、蒸発器6で冷却された空気を加熱して車室内へ吹き出すときには、第2減圧装置7を全開モードとして冷媒の減圧せずに流通させ、第1減圧装置5で冷媒を減圧する。第1減圧装置5は、蒸発器6から流出する冷媒が所定の過熱度を有するように開度制御する。
これにより、過冷却用熱交換器104では、液相冷媒の過冷却が行われ、過冷却用熱交換器104を通過する空気を加熱する第1モードが設定される。第1モードでは、補助熱交換器である過冷却用熱交換器104が過冷却用熱交換器として機能する。
図14に示すように、本実施形態の冷凍サイクル装置1は、蒸発器6で冷却された空気を加熱せずに車室内へ吹き出すときには、第1減圧装置5を全開モードとして冷媒の減圧せずに流通させ、第2減圧装置7で冷媒を減圧する。第2減圧装置7は、蒸発器6から流出する冷媒が所定の過熱度を有するように開度制御する。これにより、過冷却用熱交換器104では、液相冷媒の蒸発が行われ、過冷却用熱交換器104を通過する空気を冷却する。
これにより、過冷却用熱交換器104では、液相冷媒の蒸発が行われ、過冷却用熱交換器104を通過する空気を冷却する第2モードが設定される。第2モードでは、補助熱交換器である過冷却用熱交換器104が補助蒸発器として機能する。
過冷却用熱交換器104は、設定モードにより、文字通り過冷却用熱交換器として機能する場合と、補助蒸発器として機能する場合にとに選択的に切り替えられる。したがって、本実施形態では、過冷却用熱交換器104を補助熱交換器104と言い換えることもできる。以下、過冷却用熱交換器104を補助熱交換器104と呼ぶ場合がある。本実施形態において、第1減圧装置5および第2減圧装置7は、モード切替手段に相当する。
本実施形態によれば、冷凍サイクル装置1は、凝縮器3から流出して蒸発器6へ流入する前の冷媒を熱交換によりエンタルピ変化させる補助熱交換器104を備えている。この補助熱交換器104は、空調ダクト10内における、蒸発器6よりも空気流れ下流側、かつ、ヒータコア34よりも空気流れ上流側の部位に配されている。そして、補助熱交換器104は、蒸発器6で冷却された後、ヒータコア34で加熱される前の空気との熱交換により、凝縮器3で凝縮された後、蒸発器6で蒸発される前の液相の冷媒をエンタルピ変化させる。
これによると、空調ダクト10内の空気流れに対して、補助熱交換器104を蒸発器6とヒータコア34の間に配置することができる。すなわち、加熱用通路15や冷風バイパス通路16に対して並列に設けた通路に補助熱交換器を設ける必要がない。したがって、蒸発器6からヒータコア34へ流れる冷風を確実に補助熱交換器104へ導くことができる。このようにして、補助熱交換器104が熱交換能力を充分に発揮することができる。
また、加熱用通路15や冷風バイパス通路16に対して並列に通路を設け補助熱交換器を配置する場合に対し、並列通路の形成およびこの並列通路を開閉するドアを不要とすることができる。また、並列通路の開放や閉鎖により空調ダクト内の空気流れが大きく変化して温度調整性能が悪化することも防止することができる。
また、本実施形態では、蒸発器6よりも空気流れ下流側の空気通路は分岐点10cで分岐して、分岐点10cからそれぞれ空気流れ下流側に延びるように加熱用通路15と冷風バイパス通路16とが形成されている。そして、補助熱交換器104は、空調ダクト10内の分岐点10cよりも空気流れ上流側に配設されて、凝縮器3で凝縮された液相の冷媒を蒸発器6から流出した空気と熱交換する。
これによると、蒸発器6で冷却され加熱用通路15や冷風バイパス通路16へ流入する前の冷風を確実に補助熱交換器104へ導くことができる。したがって、補助熱交換器104の熱交換能力を確実に発揮することができる。
また、本実施形態の冷凍サイクル装置1は、冷媒循環モードを第1モードと第2モードとで選択的に切り替えるモード切替手段として第1、第2減圧装置5、7を備えている。第1モードでは、補助熱交換器104を、凝縮器3で凝縮された液相の冷媒を蒸発器6から流出した空気との熱交換によりさらに冷却する過冷却用熱交換器とする。第2モードでは、補助熱交換器104を、第2減圧装置7で減圧され蒸発器6へ流入する前の冷媒の一部を蒸発器6から流出した空気との熱交換により蒸発させる補助蒸発器とする。そして、蒸発器6で冷却された空気を加熱することなく車室内へ吹き出すときには、第1、第2減圧装置5、7で冷凍サイクル装置1を第2モードとする。
これによると、蒸発器6で冷却され加熱用通路15や冷風バイパス通路16へ流入する前の冷風を確実に補助熱交換器104へ導くことができる。そして、第1、第2減圧装置5、7が第1モードを設定したときには、補助熱交換器104を過冷却用熱交換器として機能させ、補助熱交換器104が冷媒を過冷却する能力を確実に発揮することができる。また、蒸発器6で冷却された空気を加熱することなく車室内へ吹き出すときには、第1、第2減圧装置5、7が第2モードを設定し、補助熱交換器104を補助蒸発器として機能させて、補助熱交換器104が冷媒を蒸発する能力を確実に発揮することができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
上記各実施形態では、過冷却用熱交換器4、104は、上下方向に延びる複数の冷媒チューブ73と、冷媒チューブ73に接合されたアウタフィン74と、複数の冷媒チューブ73の両端部に設けられたヘッダタンク71、72とを備えていた。そして、冷媒が複数の冷媒チューブ73内を下方から上方へ向かって流通するマルチフロータイプ(パラレルフロータイプ)となっていた。しかしながら、これに限定されるものではない。
例えば、図15に示すような補助熱交換器を用いてもかまわない。図15に示す補助熱交換器は、熱交換部であるコア部75、およびコア部75の図示左右に設けられた一対のヘッダタンク71、72を備えている。コア部75は、複数の冷媒チューブ73、および複数のアウタフィン74を備えている。
薄肉の帯板材から波形に成形されたコルゲート形状のアウタフィン74と断面偏平状を成す冷媒チューブ73とは、上下方向に交互に並べられて相互に熱的に接合されている。上下方向の最外方のアウタフィン74の更に外方には補強部材としてのサイドプレートが設けられている。
各冷媒チューブ73の図示左右延在方向の端部は、ヘッダタンク71、72に設けられたチューブ孔に嵌合され、冷媒チューブ73、アウタフィン74、サイドプレート、およびヘッダタンク71、72が一体でろう付けされている。ヘッダタンク71には、上下方向において内部空間を仕切る仕切壁71Aが設けられている。
ヘッダタンク71に仕切壁71Aを設けることにより、複数の冷媒チューブ73は、仕切壁71A形成部位を挟んで、図示下方の冷媒チューブ群73Aと図示上方の冷媒チューブ群73Bとを構成している。
ヘッダタンク71内の下部空間に流入した冷媒は、冷媒チューブ群73Aを図示左方から右方へ流れヘッダタンク72内へ流入する。ヘッダタンク72内へ流入した冷媒は、冷媒チューブ群73Bを図示右方から左方へ流れヘッダタンク71内の上部空間へ流入した後、タンク外へ流出する。
図15に示す補助熱交換器は、複数の冷媒チューブ73と、アウタフィン74と、一対のヘッダタンク71、72とを有している。そして、複数の冷媒チューブ73は、相互に間隔を空けて配列され、内部を冷媒が流通するようになっている。アウタフィン74は、複数の冷媒チューブ73の間に配置されて、冷媒チューブ73に熱的に接合されている。一対のヘッダタンク71、72は、複数の冷媒チューブ73の両端部のそれぞれにおいて、複数の冷媒チューブ73の内部同士を連通している。
これによると、本例の補助熱交換器は、一対のヘッダタンク71、72間に配置される複数の冷媒チューブ73とアウタフィン74とからなるコア部75により、比較的効率よく熱交換を行うことができる。
また、複数の冷媒チューブ73のそれぞれは水平方向に沿って延びるとともに、複数の冷媒チューブ73の配列面は上下方向に拡がっている。そして、一対のヘッダタンクは、一方のヘッダタンク71に、複数の冷媒チューブ73の配列方向において内部空間を仕切る仕切壁71Aを有している。仕切壁71Aを挟んで隣り合う冷媒チューブ73のチューブ群73A、73B同士では、内部を流通する冷媒の流通方向が逆になっている。そして、2つの冷媒チューブ群73A、73Bの内部を、下方から上方へ向かって順次冷媒が流通する。
これによると、補助熱交換器で冷媒を過冷却するときには、下方のチューブ群73Aよりも上方のチューブ群73Bの方が温度が低くなる。したがって、空調ダクト10から車室内へ吹き出す空気の温度を、下方のフット吹出口20からの吹出温度よりも上方のフェイス吹出口19からの吹出温度の方を低くすることが可能である。これにより、頭寒足熱タイプの車室内空調を行い易い。
上記した補助熱交換器では、ヘッダタンク71のみに仕切壁71Aを設けていたが、これに限定されるものではない。一対のヘッダタンクの少なくとも一方に、複数の冷媒チューブの配列方向において内部空間を仕切る仕切壁を設け、仕切壁を挟んで隣り合う冷媒チューブのチューブ群同士で、内部を流通する冷媒の流通方向が逆になっていればよい。すなわち、冷媒が同一方向に流れるチューブ群は3つ以上でもかまわず、3つ以上のチューブ群の内部を、下方から上方へ向かって順次冷媒が流通するものであればよい。
また、補助熱交換器は、複数の冷媒チューブの間にコルゲートフィンを設けたコルゲートフィンタイプに限定されるものではない。例えば、冷媒チューブとプレートタイプのアウタフィンとを有する熱交換器であってもかまわない。
また、上記各実施形態では、エアコンECU50は、ドア17aを含むエアミックスドア17の制御を、エバ温度センサ43、水温センサ44、および過冷却温度センサ45からの入力情報に基づいて行っていた。また、エアコンECU50は、流量調整弁装置33やウォータポンプ32による冷却水流量の制御を、水温センサ44、および過冷却温度センサ45からの入力情報に基づいて行っていた。しかしながら、ドア手段や熱媒体の流量調節手段の制御は、上記したセンサから入力情報に基づいて行うものに限定されるものではない。例えば、過冷却温度センサ45からの入力情報に代えて、過冷却用熱交換器の入口冷媒温度や、入口冷媒温度に関連する外気温度を用いて、ドア手段や熱媒体の流量調節手段の制御を行ってもかまわない。
また、上記各実施形態では、ドア手段を2枚のドア17a、17bで構成していたが、これに限定されるものではない。ドア手段は、1枚もしくは3枚以上のドアで構成するものであってもよい。
なお、上記した各実施形態の説明において、補助熱交換器、補助蒸発器と説明した構成があったが、ここで言う補助とは、他の熱交換器よりも少ない熱交換量を補うものに限定されるものではない。補助熱交換器や補助蒸発器が、他の熱交換器よりも多量の熱交換を行うものであってもかまわない。