ガラス
本発明に係るガラスは、ガラス成分として、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3から選択される少なくともいずれか1種の酸化物(以下、単に「高屈折率成分」ということがある)を含むガラスであって、前記TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の合計含有量が20モル%以上であり、下記式(1)に示すβOHの値が、下記式(2)で表される関係を満足することを特徴とする。
βOH=−[ln(B/A)]/t ・・・(1)
βOH≧0.4891×ln(1/HR)+2.48 ・・・(2)
ここで、上記式(1)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、上記式(1)および(2)中、lnは自然対数である。βOHの単位はmm−1である。
なお、「外部透過率」とは、ガラスに入射する入射光の強度Iinに対するガラスを透過した透過光の強度Ioutの比(Iout/Iin)、すなわち、ガラスの表面における表面反射も考慮した透過率であり、後述する「内部透過率」とは、ガラスの表面における表面反射が無い場合の透過率(すなわちガラスを構成するガラス材料自体の透過率)である。それぞれの透過率は、分光光度計を用いて、透過スペクトルを測定することにより得られる。
また、上記式(2)中、HRは、前記ガラス中の、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の各成分の含有量の合計量(モル%)を表す。高屈折率ガラスを得るため、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の合計含有量が20モル%以上、すなわち、HRの値は、20以上とする。好ましくは、HRの下限は25、より好ましくは30、さらに好ましくは35である。また、HRの上限は、好ましくは85、より好ましくは80、さらに好ましくは75である。
また、本実施形態に係るガラスは、上記式(1)に示すβOHの値が、好ましくは下記式(3)で表される関係を満足し、より好ましくは下記式(4)で表される関係を満足し、さらに好ましくは下記式(5)で表される関係を満足する。
βOH≧0.4891×ln(1/HR)+2.50・・・(3)
βOH≧0.4891×ln(1/HR)+2.53・・・(4)
βOH≧0.4891×ln(1/HR)+2.58・・・(5)
また、βOHの上限は、ガラスの種類や製造条件によって異なり、調整できる限り、特に制限されるものではない。βOHを高めていくと、熔融ガラスからの揮発物量が増加する傾向にあるため、熔融ガラスからの揮発を抑制する上から、好ましくはβOHが10mm−1以下、より好ましくは8mm−1以下、さらに好ましくは6mm−1以下、一層好ましくは5mm−1以下、より一層好ましくは4mm−1以下、さらに一層好ましくは3mm−1以下、なお一層好ましくは2mm−1以下とすることができる。
上記式(1)で表されるβOHは、水酸基に起因する吸光度を意味する。そのため、βOHを評価することにより、ガラス中に含まれる水(および/または水酸化物イオン、以下、単に「水」という。)の濃度を評価することができる。すなわち、βOHが高いガラスは、ガラス中に含まれる水の濃度が高いことを意味している。
本実施形態に係るガラスは、βOHの値が、上記式(2)で表される関係を満足する。すなわち、本実施形態に係るガラスは、ガラス中の水の濃度が一定の値より高くなるように制御されている。
ガラスのβOHを高める方法は、特に限定されるものではないが、好ましくは熔融工程において、熔融ガラス中の水分量を高める操作が挙げられる。ここで、熔融ガラス中の水分量を高める操作としては、例えば、熔融雰囲気に水蒸気を付加する処理や、熔融物内に水蒸気を含むガスをバブリングする処理等が挙げられる。
通常、これらの方法によれば、ガラス中に水を導入することができ、βOHを高めることができるが、その向上率はガラス組成によって異なる。これは、ガラス組成によってガラス中への水の取り込み易さが異なるためである。
水を取り込みやすいガラス組成の場合、上記のようなβOHを高める処理を行うことで、ガラスのβOHを大幅に向上させることができる。しかし、水を取り込みにくいガラス組成の場合、同じ条件の処理を行っても、水を取り込みやすい組成のガラスと同程度までガラスのβOHの値を高めることは難しく、得られるガラスのβOHは低くなる。
また、水を取り込みやすいガラス組成の場合、通常の製造方法により作製されたガラスであっても、熔融雰囲気(大気雰囲気)中の水分を積極的に取り込むため、水を取り込みにくいガラス組成に比べて、βOHの値が高くなる。
このように、ガラス中への水の取り込み易さは、ガラス組成によって違いがある。そこで、本発明では、組成による水の取り込み易さの違いに基づいて、上記式(2)を規定し、ガラス組成に応じてβOHの下限を定めた。
ここで、上記式(2)中、HRは、前記ガラス100モル%中の、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の各成分の含有量の合計量(モル%)を表している。
上述のように、ガラス組成によっては、水を取り込みやすくβOHを高めやすいガラスとそうでないガラスとがある。本発明者らは、鋭意研究した結果、ガラス組成におけるTiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の各成分の割合が高くなるほど、水を取り込みにくくなる傾向にあることを見出し、上記式(2)を特定した。
このような上記式(2)は、ガラスが、その製造工程においてβOHを高める処理を受けたか、否かを区別している。すなわち、ガラスの製造工程において、特にβOHを高める処理を受けていないガラス(従来の製造方法により作製されたガラス)は、上記式(2)で表される関係を満たさない。
ところで、ガラス成分としてTi、Nb、W、Bi等の高屈折率成分を多量に含有しているガラスは、通常、ガラスの熔融過程でこれらの高屈折率成分が還元され、可視光域の短波長側の光を吸収するため、得られたガラスにおいて着色が増加する問題がある。
このようなガラスの着色(以下、還元色ということがある。)は、酸化性雰囲気下でガラスを再加熱処理することで低減される。これは、還元状態のTi、Nb、W、Bi等の各イオンが、酸化性雰囲気下で再加熱処理されて、酸化されることで、各イオンの可視光吸収が弱まるためであると考えられる。
特に、短時間で着色を低減するには、熱処理時のTi、Nb、W、Bi等の酸化速度を速くする必要があり、そのためには、熱処理時に、速やかにガラス中を移動して、電荷を受け渡し、Ti、Nb、W、Bi等を酸化できるイオンが、ガラス中に存在する必要がある。このようなイオンとしてはH+が適していると考えられる。
ここで、本実施形態に係るガラスは、上記式(2)を満たす。すなわち、ガラス中に十分に水分が導入されており、水に由来するH+がガラス中に多量に存在するといえる。その結果、再加熱処理によって、H+がガラス中を速やかに移動して、電荷を受け渡し、Ti、Nb、W、Bi等の各イオンを効率的に酸化することができる。これにより、本実施形態に係るガラスでは、短時間の熱処理で劇的に着色を低減することができ、再加熱処理後のガラスは、優れた透過率を有する。
なお、赤外光は、濃く着色したガラスであっても透過するため、βOHはガラスの着色の有無(還元色の有無)によらず評価できる。また、通常、再加熱処理はガラスの軟化点よりも低い温度で行われるため、その前後でガラスのβOHの値は実質的に変化せず、再加熱処理の前後何れで測定してもよい。したがって、ガラスのβOHは、再加熱処理(着色の低減する処理)を経た透明なガラス、および再加熱処理を経ていない濃く着色しているガラスの何れで測定してもよい。
本実施形態のガラスは、上記式(2)を満足する限り、特に限定されず、再加熱処理(還元色を低減する処理)を経ていてもよいし、この処理を経ていなくてもよい。
また、本実施形態に係るガラスは、ガラスの熔融容器材料や熔融器具材料として使用される白金等の貴金属の溶け込み量が少ない。すなわち、本実施形態に係るガラスは、貴金属を含む場合であっても、その貴金属の含有量が極めて少ない。
貴金属イオンに起因するガラスの着色の低減、透過率の改善、ソラリゼーションの低減、貴金属異物の低減などの観点から、好ましくは、ガラス中に含まれる貴金属の含有量は、4ppm以下である。ガラス中に含まれる貴金属の含有量の上限値は低いほど好ましく、3ppm、2.7ppm、2.5ppm、2.2ppm、2.0ppm、1.8ppm、1.6ppm、1.4ppm、1.2ppm、1.1ppm、1.0ppm、0.9ppmの順に上限値が低いほどより一層好ましい。貴金属の含有量の下限は、特に制限されないが不可避的に0.001ppm程度は含まれる。
貴金属としては、Pt、Au、Rh、Ir等の金属単体、Pt合金、Au合金、Rh合金、Ir合金などの合金を例示することができる。熔融容器材料や熔融器具材料としては、貴金属の中でも耐熱性、耐蝕性に優れるPtまたはPt合金が好ましい。したがって、PtまたはPt合金製の熔融容器、熔融器具を用いて作製したガラスについては、ガラス中に含まれるPtの含有量が4ppm以下であることが好ましい。Ptの含有量のより好ましい上限については、ガラス中に含まれる貴金属の含有量のより好ましい上限と同じである。また、Ptの含有量の下限は、特に制限されないが、不可避的に0.001ppm程度は含まれる。
以下の説明では、熔融容器が白金(Pt)の場合を例にとるが、白金以外の貴金属等の金属材料からなる熔融容器等を用いる場合についても同様である。
本実施形態に係るガラスは、その製造工程において、熔融ガラス中の水分量を高める操作が行われている。そのため、熔融雰囲気中の酸素分圧が低減され、熔融容器(坩堝等)等の材料である白金等の貴金属材料の酸化が防止される。その結果、熔融雰囲気中の酸素が白金材料等と反応して生成する二酸化白金や白金イオン(Pt4+)が、熔融物(ガラス)中に溶け込むことを有効に防止でき、得られるガラスにおいて、Ptの溶け込み量が低減される。
通常、熔融ガラス中に溶け込んだ貴金属イオンは可視光を吸収するため、ガラスの着色が増加する問題がある。しかし、本実施形態に係るガラスは、上述のようにPtの含有量が十分に低減されているため、Ptイオンに由来する着色が少なく、透過率に優れる。
また、本実施形態に係るガラスは、清澄性に優れている。ガラスの製造工程(特に熔融工程)において、熔融ガラス中の水分量を高める操作を行うことにより、熔融ガラス中の溶存ガス量を高めることができると考えられる。その結果、本実施形態に係るガラスでは、優れた清澄性により、その製造過程において、清澄工程に要する時間を短縮でき、生産性が向上する。
本実施形態に係るガラスは、光学ガラスとして好適に用いることができる。
通常、高屈折率の光学ガラスは、ガラス成分としてTi、Nb、W、Bi等の高屈折率成分を多量に含有しているため、上述のようにガラスの着色(還元色)の低減が求められる。
本実施形態の光学ガラスは、上記のような高屈折率成分を多量に含有した場合であっても、再加熱処理によって、効率よく還元色を抜くことができる。また、本実施形態の光学ガラスは、Ptの含有量が劇的に低減されているため、Ptに由来する着色も少ない。このような本実施形態に係る光学ガラスは、高屈折率でありながら、優れた透過率を有する。
ガラスの製造方法
次に、本実施形態に係るガラスとして、光学ガラスの製造方法を例に、図1を参照しながら製造方法の一例を説明する。
本実施形態に係る光学ガラスの製造方法は、好ましくは、
調合材料を熔融してカレット1を得るラフメルト工程P1と、前記カレット1を再熔融してガラス2を得るリメルト工程P2と、を有し、
前記ラフメルト工程および前記リメルト工程のうち少なくともいずれか一方において、熔融ガラス中の水分量を高める操作を行うことを特徴とする。
ここで、熔融ガラス中の水分量を高める操作は、特に限定されるものではないが、例えば、熔融雰囲気に水蒸気を付加する処理および熔融物内に水蒸気を含むガスをバブリングする処理の少なくともいずれか一方であることが好ましい。
以下では、図1に従い、ラフメルト工程P1およびリメルト工程P2の両方で熔融雰囲気に水蒸気を付加する処理を行う例を示すが、ラフメルト工程P1およびリメルト工程P2のいずれか一方では、熔融雰囲気に水蒸気を付加する処理を行わなくてもよい。
ただし、熔融ガラス中の水分量を高める操作は何も行わずに、熔融状態でガラスを保持すると、熔融ガラス中の水分量は次第に減少する。そのため、熔融ガラスを固化して得られるガラスのβOHを高めるためには、ガラス製造工程の後半、すなわち、リメルト工程P2において熔融ガラス中の水分量を高める操作を行うことが好ましく、特にリメルト工程P2の後半、すなわち、熔融ガラスを均質化する工程において熔融ガラス中の水分量を高める操作を行うことがより好ましい。
さらに、熔融ガラス中の水分量を高める操作として、熔融雰囲気に水蒸気を付加する処理と共に、またはこの処理に換えて、ラフメルト工程P1およびリメルト工程P2の何れか一方または両方で、熔融物内に水蒸気を含むガスをバブリングする処理を行ってもよい。
[ラフメルト工程P1]
ラフメルト工程は、調合材料を熔融してカレット1を得る工程である。
本実施形態に係るラフメルト工程は、好ましくは、原料を調合してバッチ原料を準備する工程s1と、前記バッチ原料を加熱、熔融する工程s2と、熔融物を急冷し、カレット1を得る工程s3と、を有する。
(バッチ原料を準備する工程s1)
まず、所望の特性の光学ガラスが得られるように、ガラス成分に対応する原材料を秤量し、十分混合して調合材料(バッチ原料)得る。
混合方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、ボールミルや乾式ミキサーを用いて行う混合が挙げられる。
ガラス成分に対応する原料としては、ガラス組成に応じて適宜選択して用いることができるが、例えば、酸化物原料、炭酸塩原料、硝酸塩原料、リン酸原料、リン酸塩原料などが挙げられる。
(バッチ原料を加熱、熔融する工程s2)
次に、調合材料をラフメルト容器の中に入れて加熱、熔融する。
ラフメルトに用いる容器や器具は、製造しようとするガラスの組成等に応じて適宜選択することができ、例えば、貴金属製(例えば白金製、白金合金製)や石英製の容器や器具を用いることができる。
例えば、P2O5と、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3から選択される少なくとも1種の酸化物とを含むガラス、すなわち、高屈折率成分を含有するリン酸塩ガラスの場合、製造工程において、バッチ原料を加熱、熔融する際に、著しい侵蝕性を示す熔解生成物が生成する。このような熔融生成物は、白金等の耐蝕性に優れた材料をも侵蝕する傾向がある。そのため、白金等の貴金属材料は、上記熔融生成物により侵蝕され、熔融物中に溶け込み、異物として生成したり、ガラスの着色を増大させたりする問題がある。
これに対し、石英などの耐火物は、上記熔融生成物により侵蝕されるが、侵蝕されて熔融物中に混入してもガラス組成物の一部となるため、貴金属材料のような問題は少ない。したがって、高屈折率成分を含有するリン酸塩ガラスを製造する場合には、ラフメルトに用いる容器や器具は、石英製など、耐火物製の容器や器具が好適である。
他方、B2O3と、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3から選択される少なくとも1種の酸化物を含むガラス、すなわち、高屈折率成分を含有するホウ酸塩ガラスを製造する場合には、上記リン酸塩ガラスのような熔融生成物が貴金属材料をも侵蝕するという問題は少ない。したがって、上記のような高屈折率成分を含有するホウ酸塩ガラスを製造する場合には、ラフメルトに用いる容器や器具は、ガラスの製造過程で侵蝕され難い白金製や白金合金製等の貴金属製の容器や器具を用いるのが好適である。なお、ホウ酸塩ガラスの場合、石英などの耐火物容器は著しく侵蝕される傾向にある。
ラフメルト時のバッチ原料の熔解温度(粗熔解温度)は、800〜1400℃の範囲とすることが好ましい。ただし、溶存ガスの溶解度は熔融物の温度上昇とともに減少するため、清澄効果をより高める上で、ラフメルト工程における熔融物の温度は、リメルト工程におけるカレットの熔融温度(再熔解温度)と同じ、もしくはカレットの熔融温度未満であることが好ましく、特にリメルト工程における清澄温度よりも低くすることが好ましい。
また、ラフメルト工程における熔解時間は、坩堝の容量、バッチ原料の坩堝への投入量を考慮して適宜調整することができ、例えば、熔解時間を0.1〜20時間の範囲としてもよい。
ラフメルト工程における熔融雰囲気は、特に限定されるものではないが、最終的に得られるガラスのβOHを高める上で、熔融雰囲気に水蒸気を付加することが好ましい。
熔融雰囲気に水蒸気を付加することにより、最終的に得られる光学ガラスのβOHの値と高屈折率成分の含有量とが、所定の関係を満足するよう制御できると共に、ガラスの製造工程において、白金製容器や白金合金製容器を用いて熔融を行う場合であっても、ガラスへのPt等の溶け込みを有効に防止でき、かつ清澄性を改善するのに十分な溶存ガスをガラスに供給できる。
熔融雰囲気に水蒸気を付加する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熔融装置に設けた開口部から連結パイプを坩堝内へ挿入し、必要に応じてこのパイプを通して水蒸気を坩堝内の空間へと供給する方法等が挙げられる。
ラフメルト工程における熔融は、熔融物の均質化を目的として、バブリングを伴うこともできる。ラフメルト時のバブリングは、調合材料が熔融した後は継続してもよい。また、熔融物の均質化のため、バブリング以外の方法により、熔融物を攪拌してもよい。
なお、ラフメルト工程は、中間原料であるカレットを作製する工程であるため、熔融物の均質化は必須ではない。均質化の方法は、ラフメルト工程の形態に応じて適宜、公知の方法を選択すればよい。
また、バブリングに用いるガスは、必ずしも限定されるものではなく、公知のガスを用いることができ、市販のものや、生成したものを用いることができる。
最終的に得られる光学ガラスのβOHの値と高屈折率成分の含有量とが、所定の関係を満足するよう制御できると共に、ガラスの製造工程において、白金製容器や白金合金製容器を用いて熔融を行う場合であっても、ガラスへのPt等の溶け込みを有効に防止でき、かつ清澄性を改善するのに十分な溶存ガスをガラスに供給できる等の観点から、バブリングに用いるガスは、水蒸気を含むガスが好ましい。
このような水蒸気を含むガス中の水蒸気の含有量は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは30体積%以上、一層好ましくは40体積%以上、より一層好ましくは50体積%以上、さらに一層好ましくは60体積%以上、なお一層好ましくは70体積%以上、特に好ましくは80体積%以上、さらに特に好ましくは90体積%以上である。水蒸気の含有量は、高いほど好ましく、特に上記範囲とすることで、最終的に得られる光学ガラスのβOHの値と高屈折率成分の含有量とが、所定の関係を満足するよう制御できる。
(カレットを作製する工程s3)
次に、熔融物を急冷し、カレットを作製する。
熔融物の急冷方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができ、例えば、熔融物を水の中に滴下して冷却、固化してカレットを作製する方法や、熔融物を耐熱板上に流し出し、熔融物を冷却、固化し、固形物を粉砕してカレットを作製する方法等が挙げられる。
カレットはガラスからなるが、均質なガラスである必要はない。また、カレットは気泡を含むものであってもよい。さらに、バッチ原料の未熔解物を含むものであってもよい。カレットの組成、光学特性(例えば、屈折率、アッベ数など)は、カレットを再熔融して均質で泡を含まないガラスを作り、このガラスの組成、光学特性をそれぞれカレットの組成、光学特性とする。
カレットの大きさは、保管や移送、その他後の工程での取り扱いやすさを考慮して、適宜調整することができる。例えば、熔融物を水中に滴下する方法で作製する場合には、滴下量を調整することで、大きさを調整できる。また、熔融物を金属板上に流しだす方法で作製する場合には、得られたガラスを適当な大きさに砕くことで調整できる。
なお、分離化を防止する観点から、ラフメルト容器から熔融物を流出する間もバブリングを継続してもよい。さらにカレット中の溶存ガス量を高めると共に得られるガラスのβOHを高める観点から、バブリングは、水蒸気を含むガスにより行うことがより好ましい。
(カレットの屈折率測定s4)
熔融物の流出と並行し、ラフメルト容器から熔融物を一部掬い取って成形し、屈折率測定用のガラス試料とする。そして、このガラス試料の屈折率を測定し、得られた屈折率をカレットの屈折率とする。
カレットの屈折率測定は、必ずしも必須の工程ではないが、当該工程を経ることで、光学ガラスの特性制御を精度よく行える点で、当該工程を経ることが好ましい。
[リメルト工程P2]
ラフメルト工程は、カレット1を再熔融して光学ガラス2を得る工程である。
本実施形態に係るリメルト工程は、好ましくは、前記カレット1を調合する工程s5と、前記カレット1を加熱、再熔融する工程s6と、熔融ガラスの清澄を行う工程s7と、熔融ガラスの均質化を行う工程s8と、熔融物を成形する工程s9と、徐冷する工程s10とを、有する。
(カレット1を調合する工程s5)
カレットは、好ましくは事前に屈折率測定が行われており、屈折率の測定値が所望の値と等しい場合、カレットをそのまま調合カレットとする。一方、屈折率の測定値が所望の値からずれている場合、所望の値より高い屈折率を有するカレットと所望の値より低い屈折率を有するカレットを混合して、調合カレットとする。
本実施形態においてカレットは、好ましくは、上記式(2)を満足し、溶存ガス量が高く清澄作用に優れたカレットであることが望ましい。すなわち、熔融工程(ラフメルト工程)において、熔融雰囲気に水蒸気を付加して作製されたカレットであることが好ましい。このようなカレットを用いることにより、例えば、リメルト工程における熔融雰囲気に、水蒸気付加を行わない場合であっても、ガラスのβOHの値と高屈折率成分の含有量とが、所定の関係を満足するよう制御することができ、Pt等の溶け込み量を低減でき、清澄工程においても優れた清澄性を発揮することができる。
(カレット1を加熱、再熔融する工程s6)
次に、調合カレットを、リメルト容器の中に入れて加熱、熔融する。
リメルトに用いる容器や器具は、製造しようとするガラスの組成等に応じて適宜選択することができ、例えば、貴金属製(例えば白金製、白金合金製)や石英製の容器や器具を用いることができる。中でも、熔解時における熔解生成物に対して優れた耐蝕性を有し、優れた耐熱性も備える点で、白金製、白金合金製の容器や器具が好ましい。
リメルト工程を行う装置としては、調合カレットの熔解、清澄、均質化を一つの坩堝中で行う再熔融装置のほか、複数の槽を備え、各槽内で熔解、清澄、均質化を行う再熔融装置を用いることもできる。
この装置は、調合カレットを熔解する熔解槽、熔解によって得られる熔融ガラスを清澄する清澄槽、清澄後に熔融ガラスを均質化するとともに成形に適した粘度に調整する作業槽、熔解槽から清澄槽へ熔融ガラスを流す連結パイプ、清澄槽から作業槽へ熔融ガラスを流す連結パイプ、作業槽内の熔融ガラスを流出するガラス流出パイプなどを備える。この装置で一つの容器内に仕切りを設けて熔解槽と清澄槽とに分けることもできる。
上記装置は、いずれも公知のものを使用すればよい。
リメルト工程における調合カレットの熔解温度(再熔解温度)は、800〜1500℃の範囲にすることが好ましい。ただし、清澄効果をより高める上から、この再熔解温度を清澄温度よりも低くすることが好ましい。リメルト工程における熔解時間は坩堝の容量、調合カレットの坩堝への投入量を考慮して適宜調整することができ、例えば、再熔融時の熔解時間を2〜20時間の範囲としてもよい。
リメルト工程における熔融雰囲気は、特に限定されるものではないが、最終的に得られるガラスのβOHを高める観点から、熔融雰囲気に水蒸気を付加することが好ましい。
熔融雰囲気に水蒸気を付加することにより、最終的に得られる光学ガラスのβOHの値と高屈折率成分の含有量とが、所定の関係を満足するよう制御できると共に、ガラスの製造工程において、ガラスへのPtの溶け込みを有効に防止でき、かつ清澄性を改善するのに十分な溶存ガスをガラスに供給できる。
特に、ラフメルト工程およびリメルト工程の両工程において、熔融雰囲気に水蒸気を付加することにより、カレット段階で高めたβOHの値を維持しつつ、さらにβOHを高めることができ、再加熱処理による着色の低減効果を高めることができる。また、全工程を通して雰囲気中に水蒸気が付加されることにより、酸素が白金等の貴金属材料からなる熔融容器と反応することを有効に防止でき、ガラス中へのPt等の溶け込み量を低減でき、透過率の劣化を効果的に防ぐことができる。さらに、カレット段階で補った溶存ガスを清澄工程の直前まで維持できると共に、溶存ガス量をさらに高めることができ、清澄性の改善効果が高まる。
熔融雰囲気に水蒸気を付加する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熔融装置に設けた開口部から連結パイプを坩堝内へ挿入し、必要に応じてこのパイプを通して水蒸気を坩堝内の空間へと供給する方法等が挙げられる。
坩堝内の空間に供給する水蒸気を含むガスの流量は、特に限定されず、試験的に作製したガラスのβOHの測定結果をもとに調整することができる。例えば、略密閉された熔融容器内に水蒸気を供給する場合は、比較的少量の水蒸気を供給すれば、所望のβOHを有するガラスを得ることができる。一方、蓋をしない坩堝をガラス熔融炉内に配置してガラスを熔融する場合は、ガラス熔融炉内の体積が坩堝内の体積に比べて大きくなるため、βOHを所望の値にするには、ガラス熔融炉内に比較的多量の水蒸気を供給することになる。このような実験結果に基づいて、水蒸気の供給量、すなわち、ガスの流量を次の生産にフィードバックすることで、所望のβOHを有するガラスを生産できる。なお、以下、ガスの流量、水蒸気の流量、雰囲気付加流量、水蒸気の供給量は、25℃、1気圧に換算した値である。
リメルト工程における熔融は、熔融物の均質化を目的として、バブリングを伴うことが望ましい。リメルト時のバブリングは、調合カレットが熔融した後は継続することが好ましい。
なお、バブリングを行わない場合には、その他の攪拌方法にて、熔融物を攪拌、均質化することが好ましい。その他の攪拌方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば攪拌棒により攪拌することができる。
また、バブリングに用いるガスは、必ずしも限定されるものではなく、公知のガスを用いることができ、市販のものや、生成したものを用いることができる。
最終的に得られる光学ガラスのβOHの値と高屈折率成分の含有量とが、所定の関係を満足するよう制御できると共に、ガラスの製造工程において、ガラスへのPtの溶け込みを有効に防止でき、かつ清澄性を改善するのに十分な溶存ガスをガラスに供給できる等の観点から、バブリングに用いるガスは、水蒸気を含むガスが好ましい。
熔融物中に吹き込む水蒸気を含むガスの流量は、特に限定されず、試験的に作製したガラスのβOHの測定結果をもとに調整することができる。例えば、試験的に作製したガラスのβOHを測定し、測定結果が所望の値よりも小さい場合は、ガスの流量を増加させ、逆に測定結果が所望のβOH値より大きい場合は、ガスの流量を減少させる調整を行う。このように試験的にガラスのβOHを求め、測定結果からガスの流量を調整すればよい。このように、試験的に作製したガラスのβOHの測定値に基づいて、水蒸気の供給量、すなわち、ガスの流量を次の生産にフィードバックすることで、所望のβOHを有するガラスを生産できる。
このような水蒸気を含むガス中の水蒸気の含有量は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは30体積%以上、一層好ましくは40体積%以上、より一層好ましくは50体積%以上、さらに一層好ましくは60体積%以上、なお一層好ましくは70体積%以上、特に好ましくは80体積%以上、さらに特に好ましくは90体積%以上である。水蒸気の含有量は、高いほど好ましく、特に上記範囲とすることで、最終的に得られる光学ガラスのβOHの値と高屈折率成分の含有量とが、所定の関係を満足するよう制御できる。
(熔融ガラスの清澄工程s7)
カレットが完全に熔融し、均質な熔融ガラスが得られたら、バブリングを行っている場合は、バブリングを停止し、熔融ガラスの温度を上昇させ、清澄を行う。
清澄温度、すなわち、清澄工程における熔融ガラスの温度は900〜1500℃の範囲にすることが好ましい。ただし、清澄効果をより高める上から、清澄温度をラフメルトおよびリメルト工程の熔解温度よりも高くすることが好ましい。清澄時間はガラス中に残存する泡の量が所要の量以下になるように、また、ガラスの着色が所望の値以下になるように定めればよい。清澄時間を長くすることは泡切れ効果を高める上では有効であるが、熔融ガラスを長時間、白金あるいは白金合金製の坩堝内に高温で保持することになるため、白金が熔融ガラス中に溶け込みガラスの着色が増大したり、ガラス中に白金異物が混入するという問題が生じやすくなる。
したがって、十分な泡切れ効果が得られる範囲で清澄時間を短くし、ガラスの着色を抑制することが好ましい。例えば、清澄時間を1〜10時間の範囲としてもよい。
(熔融ガラスの均質化工程s8)
清澄により熔融ガラス中の泡を熔融ガラス外へ排除した後、熔融ガラスの温度を低下させ、熔融ガラスを攪拌して均質化を行う。
均質化は清澄温度よりも低い温度に熔融ガラスを降温して行う。均質化工程では熔融ガラスを攪拌して均質化する。均質化工程は熔融ガラスを均質化するだけでなく、熔融ガラスを成形に適した粘度になるよう粘度を調整する工程でもある。均質化時間はガラスの均質度、例えば成形したガラスの脈理の有無を観察し、脈理が少なくなるあるいは無くなるように、そして、熔融ガラスが成形に適した粘度になるように、適宜調整すればよい。
(成形工程s9)
清澄・均質化した熔融ガラスをリメルト容器底部に取り付けたガラス流出パイプより流出し、鋳型中に流し込んでガラスを成形する。
ガラス流出パイプの温度は、流れる熔融ガラスが失透しない温度域であって、成形に適した粘度になるように調整、維持する。
原料の熔解、清澄、均質化を一つの坩堝中で行う方式では、ガラス流出パイプの一部を内部のガラスが固化するように冷却してパイプを閉鎖して熔解、清澄、均質化の各工程を行う。その後、パイプの冷却箇所を加熱してガラスを熔解し、パイプを開放して熔融ガラスを流出する。ガラス流出パイプの温度制御は公知の方法で行えばよい。
熔融ガラスの成形は、公知の方法で行えばよい。例えば熔融ガラスを鋳型に流し込み、成形する。あるいは熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離してプレス成形する。あるいは熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離して風圧を加えて浮上状態で成形する。
(徐冷工程s10)
次に、成形したガラスを徐冷し、再加熱処理を行い、着色と歪を除去するとともに、屈折率を微調整して目的とする光学ガラスを得る。
成形ガラスの徐冷は、公知の方法で行えばよい。例えば、成形ガラスを、ガラス転移温度付近の温度で保持した後、所定の降温速度で徐冷することができる。降温速度は、ガラス組成によっても異なるが、例えば0.1〜100℃/時とすることができる。
再加熱処理は、酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。これにより、光学ガラスの着色を小さくすることができる。
このようにして得たガラスは、熔融容器などの製造器具に由来するPtなどの貴金属の含有量が極めて少ない。したがって、ソラリゼーションと呼ばれる紫外線照射によるガラスの着色が少ない。その結果、上記ガラスを使用した光学素子は、透過率の経年変化が少ない。また、紫外線硬化型接着剤を用いて光学素子を固定するとき、光学素子に紫外線を照射しても、透過率が低下しないという効果も得ることができる。
酸化性雰囲気に用いるガスとしては、酸素を含むガスであればよく、酸素濃度は、たとえば、空気と同程度前後かそれ以上であればよい。このような酸化性雰囲気ガスとしては、たとえば、酸素、空気、およびこれらの混合ガスなどを使用すればよい。また、熱処理温度は、ガラスの軟化点よりも低く、ガラス転移温度Tgよりも100℃低い温度(Tg−100℃)以上の温度が好ましい。
なお、ガラスの着色を所定のレベルまで低減する際、熱処理温度が高ければ、熱処理時間を短縮することができる。また、酸化性雰囲気中の酸素分圧を高めても熱処理時間を短縮することができる。このように熱処理時間は、熱処理温度や酸化性雰囲気中の酸素分圧により変わるが、ガラスの着色が所望のレベルになるように設定すればよい。熱処理時間は、典型的には、0.1時間〜100時間であることが好ましい。
ガラス組成について
以下、特記しない限り、ガラス成分の含有量、合計含有量、添加剤の含有量は、酸化物換算のモル%で表示する。
本実施形態に係るガラスは、ガラス成分として、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3から選択される少なくともいずれか1種の酸化物(以下、「高屈折率成分」ということがある)を含有する。好ましくは、ガラス中に含まれるTiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の合計含有量は、20%以上であり、より好ましくは25%以上であり、さらに好ましくは30%以上、一層好ましくは35%以上である。TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の合計含有量が85%を超えると耐失透性が悪化傾向を示すため、耐失透性を維持する観点から、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の合計含有量は85%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、75%以下であることがさらに好ましい。
ガラス中のTiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の含有量を高める観点から、本実施形態のガラスが、P2O5含有ガラスであることが好ましい。P2O5含有ガラス中では、加熱処理時のH+の移動速度が速く、他の組成系に比べると短時間の加熱処理で着色を低減することができる。
このようなガラスとしては、モル%表示において、P2O5の含有量がSiO2の含有量よりも大きくかつB2O3の含有量よりも多いガラスや、P2O5の含有量がSiO2とB2O3の合計含有量よりも多いガラスを挙げることができる。
本実施態様は、実施例に例示する組成に加え、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の含有量が上記範囲にある公知の組成を含むガラス組成に適用することができる。
次に、本実施態様における好ましいガラス組成について説明する。
P2O5は、ガラスネットワーク形成成分であり、ガラスの熱的安定性を維持する働きがある。P2O5の含有量が7%未満であると、熱的安定性が低下傾向を示すため、P2O5の含有量を7%以上にすることが好ましい。P2O5の含有量が40%より大きいと、屈折率が低下する。したがって、P2O5の含有量を7〜40%の範囲にすることが好ましい。P2O5の含有量のより好ましい下限は10%、さらに好ましい下限は12%、一層好ましい下限は15%、より一層好ましい下限は18%である。P2O5の含有量のより好ましい上限は35%、さらに好ましい上限は33%、一層好ましい上限は30%、より一層好ましい上限は28%である。
SiO2は、P2O5系組成のガラスには溶けにくく、多量に導入すると溶け残りが生じてガラスの均質性が悪化する傾向を示す。そのため、SiO2の含有量は、P2O5の含有量(M)よりも少ないことが好ましい。SiO2の含有量を上記M(P2O5の含有量[%])との関係を表すと、より好ましいSiO2の含有量の範囲は0%〜0.8×M[%]であり、さらに好ましい範囲は0%〜0.5×M[%]、一層好ましい範囲は0%〜0.3×M[%]、より一層好ましい範囲は0%〜0.15×M[%]である。
B2O3は、少量を含有させることにより耐失透性を改善する働きをする。B2O3の含有量を上記M(P2O5の含有量[%])との関係を表すと、好ましいB2O3の含有量の範囲は0%以上、M[%]未満であり、より好ましい範囲は0%〜0.9×M[%]、さらに好ましい範囲は0%〜0.7×M[%]、一層好ましい範囲は0%〜0.6×M[%]、より一層好ましい範囲は0%〜0.5×M[%]、さらに一層好ましい範囲は0%〜0.4×M[%]、なお一層好ましい範囲は0%〜0.35×M[%]である。
TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3は屈折率を高めるとともに、分散を高める働きをし、化学的耐久性を改善する働きをする成分である。しかし、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の含有量がそれぞれ多くなると耐失透性が悪化する傾向を示す。
耐失透性を維持する観点から、TiO2の含有量の好ましい上限は40%、より好ましい上限は35%、さらに好ましい上限は33%、一層好ましい上限は30%である。TiO2の導入効果を得る上から、TiO2の含有量の好ましい下限は1%、より好ましい下限は3%である。TiO2の含有量を0%にすることもできる。
耐失透性を維持する観点から、Nb2O5の含有量の好ましい上限は45%、より好ましい上限は40%、さらに好ましい上限は35%である。Nb2O5の導入効果を得る上から、Nb2O5の含有量の好ましい下限は5%、より好ましい下限は8%、さらに好ましい下限は11%である。Nb2O5の含有量を0%にすることもできる。
WO3の含有量の好ましい範囲は0〜30%である。上記WO3の導入効果を得る観点から、WO3の含有量の好ましい下限は1%、より好ましい下限は3%、さらに好ましい下限は5%である。一方、耐失透性を維持する上で、WO3の含有量の好ましい上限は27%、より好ましい上限は24%、さらに好ましい上限は20%、一層好ましい上限は18%である。WO3の含有量を0%にすることもできる。
Bi2O3の含有量の好ましい範囲は0〜35%である。上記Bi2O3の導入効果を得る上で、Bi2O3の含有量の好ましい下限は1%、より好ましい下限は3%、さらに好ましい下限は5%である。一方、耐失透性を維持する観点から、Bi2O3の含有量の好ましい上限は30%、より好ましい上限は28%、さらに好ましい上限は24%である。Bi2O3の含有量を0%にすることもできる。
BaO、SrO、CaO、MgO、ZnO等の二価金属成分は、ガラスの熔融性を改善し、ガラスの着色を低減する働きをする。また、適量であれば耐失透性を改善する働きをする。しかし、過剰量の含有により屈折率が低下し、耐失透性が悪化する傾向を示すため、BaO、SrO、CaO、MgOおよびZnOの合計含有量が0〜40%であることが好ましく、0〜32%であることがより好ましい。BaO、SrO、CaO、MgOおよびZnOの合計含有量の好ましい上限は30%、より好ましい上限は27%、さらに好ましい上限は25%である。BaO、SrO、CaO、MgOおよびZnOの合計含有量の好ましい下限は0.1%、より好ましい下限は0.5%、さらに好ましい下限は1%である。
これら2価金属成分のうち、BaOは高屈折率を維持する上で有効な成分であることから、BaOの含有量を0〜40%の範囲にすることが好ましく、0〜32%の範囲にすることがより好ましい。BaOの含有量の好ましい上限は30%、より好ましい上限は27%、さらに好ましい上限は25%である。BaOの含有量の好ましい下限は0.1%、より好ましい下限は0.5%、さらに好ましい下限は1%である。BaOの含有量を0%にすることもできる。
Li2O、Na2O、K2O等のアルカリ金属酸化物はガラスの熔融性を改善し、ガラスの着色を低減する働きをする。またガラス転移温度、軟化温度を低下させ、ガラスの加熱処理温度を低下させる働きもする。しかし、過剰量の含有により屈折率が低下し、耐失透性が悪化する傾向を示すため、Li2O、Na2OおよびK2Oの合計含有量が0〜40%であることが好ましく、0〜35%であることがより好ましく、0〜32%であることがさらに好ましく、0〜30%であることが一層好ましい。Li2O、Na2OおよびK2Oの含有量をそれぞれ0%にすることもできる。特に、アルカリ金属酸化物としてLi2Oを用いる場合、高屈折率ガラスを得る観点から、その含有量は製造されるガラス中において0%を超え10%未満であることがより好ましく、0%を超え9%以下であることがさらに好ましく、0%を超え8%以下であることが特に好ましい。
Al2O3は少量であれば耐失透性を改善する働きをするが、過剰量の含有により屈折率が低下する。したがって、Al2O3の含有量の好ましい範囲は0〜12%、より好ましい範囲は0〜7%、さらに好ましい範囲は0〜3%である。
ZrO2は屈折率を高める働きをし、少量であれば耐失透性を改善する働きをする。しかし、過剰量の含有により、耐失透性や熔融性が悪化傾向を示すため、ZrO2の含有量の好ましい範囲は0〜16%、より好ましい範囲は0〜12%、さらに好ましい範囲は0〜7%、一層好ましい範囲は0〜3%である。
GeO2は耐失透性を維持しつつ、屈折率を高める働きをする。また、GeO2は屈折率を高める働きを有するが、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3と異なり、ガラスの着色を増大させない。しかし、他の成分と比較して非常に高価な成分であるため、ガラスの製造コストを低減する上からGeO2の含有量は少ないほどよい。したがって、高屈折率ガラス製品を広く普及するためには、GeO2の含有量を削減しつつ、透過率の優れた高屈折率ガラスを提供することが望まれる。本実施態様によれば、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の合計含有量を20%以上とすることにより、多量のGeO2を使用しなくても、透過率の優れた高屈折率ガラスを提供することができる。
このような観点から、GeO2の含有量の好ましい範囲は0〜10%、より好ましい範囲は0〜5%、さらに好ましい範囲は0〜3%、一層好ましい範囲は0〜2%、より一層好ましい範囲は0〜1%、さらに一層好ましい範囲は0〜0.5%であり、GeO2を含有しなくてもよい。なお、製造コストを考慮しなければ、有効量で好適に用いることができる。
TeO2は耐失透性を維持しつつ、屈折率を高める働きをする。しかし、環境への負荷を軽減する上からTeO2の含有量の好ましい範囲は0〜10%、より好ましい範囲は0〜5%、さらに好ましい範囲は0〜3%、一層好ましい範囲は0〜2%、より一層好ましい範囲は0〜1%、さらに一層好ましい範囲は0〜0.5%であり、TeO2を含有しなくてもよい。
Sb2O3は酸化作用を有し、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の還元を抑制する働きをする。しかし、Sb2O3自体が可視域に吸収を有し、その酸化作用により貴金属製の熔融容器を酸化して貴金属イオンの熔融ガラスへの溶け込みを助長する。したがって、Sb2O3の含有量の好ましい範囲は0ppm以上1000ppm未満である。上記観点から、Sb2O3の含有量の上限は、900ppm、800ppm、700ppm、600ppm、500ppm、400ppm、300ppm、200ppm、100ppmの順に少ない値ほど一層好ましい。Sb2O3を含有させなくてもよい。
上記成分以外の成分を多量に含有させると、ガラスの耐失透性が悪化し、液相温度が上昇する傾向を示す。そのため、ガラス熔融温度を高めなければならず、貴金属製熔融容器の侵蝕が増大し、ガラスに溶け込む貴金属の量が増加する。また、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の還元色も増大する。
こうした貴金属量の増加を抑制し、ガラスの着色を抑制する上から、P2O5、SiO2、B2O3、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Li2O、Na2O、K2O、Al2O3、ZrO2、GeO2、TeO2およびSb2O3の合計含有量を90%以上とすることが好ましく、92%以上とすることがより好ましく、95%以上とすることがさらに好ましく、96%以上とすることが一層好ましく、97%以上とすることがより一層好ましく、98%以上とすることがさらに一層好ましく、99%超とすることがなお一層好ましい。なお、上記合計含有量を100%としてもよい。
Ta2O5、Y2O3、La2O3、Gd2O3、Yb2O3、In2O3、Ga2O3、SnO2、CeO2、Fなども少量であれば含有させることができる。Ta2O5、Y2O3、La2O3、Gd2O3、Yb2O3、In2O3、Ga2O3およびFの合計含有量を0〜10%とすることが好ましく、0〜7%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましく、0〜3%とすることが一層好ましく、0〜1%とすることがより一層好ましく、0〜0.5%とすることがさらに一層好ましい。
Fは、熔融ガラスの揮発性を高め、均質なガラスを得る上からも、安定した光学特性を有するガラスを得る上からも、多量に含有させるべき成分ではない。Fの含有量の好ましい範囲は0〜3%、より好ましい範囲は0〜1%、さらに好ましい範囲は0〜0.5%であり、実質的にFを含まないことが一層好ましい。
環境への負荷を低減する上から、Pb、As、Cd、U、Th、Tlを実質的に含有しないことが好ましい。
ガラスの着色を低減する上から、Cu、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、V、Mo、Nd、Eu、Er、Tb、Ho、Prなどの可視域に吸収を有する成分、添加剤を実質的に含有しないことが好ましい。
しかしながら、本実施形態に係るガラスにおいて、不可避的不純物の含有を排除するものではない。
なお、ガラス原料としては、ガラス成分に応じて、酸化物、リン酸、リン酸塩(ポリリン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩など)、ホウ酸、無水ホウ酸、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物など、公知のガラス原料を使用することができる。
光学素子の製造
上記の光学ガラスを使用して光学素子を作るには、公知の方法を適用すればよい。例えば、熔融ガラスを成形してプレス成形用ガラス素材を作製する。次に、このガラス素材を再加熱、プレス成形して光学素子ブランクを作製する。さらに光学素子ブランクの研磨を含む工程により加工して光学素子を作製する。
あるいは、熔融ガラスを成形してプレス成形用ガラス素材を作製し、このガラス素材を加熱、精密プレス成形して光学素子を作製する。
上記の各工程において、熔融ガラスを成形してガラス成形体を作製し、ガラス成形体を加工してプレス成形用ガラス素材を作製してもよい。
あるいは、熔融ガラスを成形してガラス成形体を作製し、この成形体を加工して光学素子を作製する。
作製した光学素子の光学機能面には使用目的に応じて、反射防止膜、全反射膜などをコーティングしてもよい。
光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マクロレンズ、レンズアレイなどの各種レンズ、プリズム、回折格子などを例示することができる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
例えば、本実施形態では、ラフメルトーリメルト方式によるガラスの作製を説明してきたが、バッチ原料を加熱、熔融し、成形してガラスを得る方法(バッチダイレクトメルト方式)等、公知の方法を適宜採用することができる。
また、本実施形態では、ガラスのβOHを高める方法として、熔融雰囲気に水蒸気を付加する方法を主として説明してきたが、熔融物に水蒸気を含むガスをバブリングする方法やガラス原料として水分を含む化合物を用いる方法等も挙げられる。これらの方法は適宜組み合わせて用いることもできる。
なお、ガラス原料として水分を含む化合物(例えば、正リン酸やホウ酸)を用いて熔融ガラス中の水分量を増やす方法の場合、熔融ガラスから水分が散逸し、この方法単独では、ガラスのβOHを充分高めることは難しい。そのため、ガラス原料として水分を含む化合物を用いる方法は、上記の他の方法との併用が好ましい。
また、本実施形態に係るガラスは、光学素子用の材料として好適であるため、非晶質性(アモルファス)のガラスであることが好ましい。ガラス製の光学素子を作製する方法には、例えば、ガラス材料を加熱、軟化させて成形する方法がある。ガラス質の中に結晶相が分散した結晶化ガラスは、上記成形方法には不向きである。また、結晶化ガラス中の結晶相が光を散乱し、光学素子としての性能を低下させることもある。非晶質性ガラスには、このような問題はない。
また、本実施形態は光学ガラスを例示しているが、還元成分による着色が問題となるガラス製品であれば、光学素子によらず、種々のガラス製品の製造に好適に用いることができる。このようなガラス製品としては、例えば光学窓材、太陽電池用ガラス、カバーガラス等が挙げられる。
また、本実施形態では、光学ガラスの製造方法の一例として、主として坩堝を用いて原材料を熔融する方法を例示しているが、熔融容器としては、両端が開口した石英製のチューブ等を用いてもよい。
具体的には、ガラス熔解炉内に、石英製等のチューブを傾斜状態で固定する。ガラス熔解炉の底部には、チューブの低位置側の開口端の下方に相当する位置に開口部を設けておく。チューブの高位置側の開口端からチューブ内に原材料(バッチ原料、またはカレット)を導入し、チューブ内で熔解(または熔融)して熔融物とする。熔融物はチューブ中をゆっくりと流動し、チューブの低位置側の開口側から次々に流出する。
例えば、ラフメルト工程で上記チューブ等を用いる場合には、流出物は炉底の開口部を通過し、予めガラス熔解炉の底部の開口部下方に配置した水槽中の水へと、次々に滴下され、カレットになる。
上記の方法では、石英製等のチューブを用いて原材料を熔融したが、チューブの替わりに、石英製等の坩堝を用いてもよい。まず石英製等の坩堝の中に原材料を入れて加熱、熔融し、熔融物とし、次いで、熔融物を水中にキャストしたり、冷却した耐熱板上に流し出したりしてカレットを作製してもよい。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
[バッチ原料の調製]
まず、所望の特性を備えた光学ガラスを作製するにあたり、ガラスの原材料として、リン酸、メタリン酸バリウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化ビスマス、ホウ酸、炭酸バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび酸化ケイ素をそれぞれ準備した。次に、最終的に得られる光学ガラスのガラス組成が、表1に示す酸化物組成I〜VIIIとなるように、上記原材料を適宜選択、秤量し、十分混合してバッチ原料I〜VIIIを作製した。
[カレットおよび調合カレットの作製(ラフメルト工程)]
調合されたバッチ原料I〜VIIIを、各光学ガラスのガラス原料とした。このガラス原料を石英製坩堝に投入し、大気雰囲気中で900〜1350℃で熔解して熔融物を得た。このようにして得られた熔融物を水中に滴下してカレットを得た。
水中から取り出したカレットを乾燥させ、カレットの一部を屈折率測定用にサンプリングし、白金製坩堝に入れて熔解し、得られたガラス融液を清澄、均質化した後、鋳型に鋳込んで成形し、ガラス転移温度付近の温度で保持した後、−30℃/時の降温速度で冷却した。このようにして得た屈折率測定用試料の屈折率ndを日本光学硝子工業会規格で定められた屈折率測定法により測定した。
次に、測定した屈折率ndに応じて、所望の屈折率となるようにカレットを調合し、光学ガラス製造用の調合カレットを得た。
[光学ガラスの作製(リメルト工程)]
次に、調合カレットを白金製坩堝(熔融容器)に投入し、800〜1350℃の範囲内で白金製坩堝内の調合カレットを加熱、熔融し、熔融ガラスとした(熔融工程)。
その後、坩堝の温度を清澄温度(900〜1450℃の範囲)にまで昇温し、清澄した(清澄工程)。続けて、坩堝の温度を均質化温度にまで降温し、攪拌器具で攪拌して均質化した(均質化工程)。
なお、熔融炉内の容積(坩堝を収納する耐火物製の炉内の空間の体積)、および熔融炉内での熔融物の滞在時間(白金熔融容器にカレットを投入してから、熔融容器から熔融ガラスを流出するまでの時間)は、表2に示す。
また、熔融工程、清澄工程、均質化工程の実施に際しては、必要に応じて熔融ガラス中の水分量を高める操作を行った。
具体的には、熔融炉外から白金製パイプを、炉内に配置した白金製坩堝内に挿入し、この白金製パイプを通して、水蒸気(H2O 100体積%)を白金製坩堝内の空間へと供給した。このように、熔融雰囲気への水蒸気の付加は、大気に水蒸気を付加することにより行った。供給した水蒸気の流量は、表2に示す。
また、必要に応じて、坩堝の下部に設置した管から、熔融物中に水蒸気(H2O 100体積%)をバブリングした。このように、熔融物内への水蒸気バブリングは、大気雰囲気中の熔融物、または、大気に水蒸気を付加した熔融雰囲気中の熔融物に対して水蒸気バブリングすることにより行った。供給した水蒸気の流量は、表2に示す。
なお、表2中に示す、水蒸気の流量は常温、常圧での流量に換算した値であり、単位はリットル/分である。
また、坩堝内に水蒸気を供給しない場合は、白金製の蓋はせずに、熔融容器を開放した状態で、熔解工程から清澄工程を経て均質化工程に至るまで、全て大気雰囲気下で行った。
このようにして均質化した熔融ガラスを、大気雰囲気中で、坩堝底部に取り付けた白金製のガラス流出パイプより流出し(流出工程)、流出パイプの下方に配置した鋳型に流し込むことで、長尺のガラスブロック(幅150mm×厚10mm)を成形した(成形工程)。
その後、上記ガラスブロックを、大気雰囲気中で、+100℃/時の速度で昇温し、それぞれのガラス転移温度付近で1.5〜8時間保持し、−10℃/時の速度で降温して(アニール工程)、歪を除去した光学ガラスサンプルを得た。
[光学ガラスの評価]
得られた光学ガラスサンプル(試料11〜試料84)の各種物性は、以下のように測定、評価した。
[1]ガラス組成
光学ガラスサンプルを適量採取し、これを酸およびアルカリ処理し、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)、イオンクロマトグラフフィー法を用いて、各成分の含有量を定量することで測定し、酸化物組成I〜VIIIと一致していることを確認した。
[2]屈折率nd、アッベ数νdおよびガラス転移温度Tg
光学ガラスサンプルを作製する際の、均質化工程を経た熔融ガラスを、鋳型に鋳込んで成形し、ガラス転移温度付近の温度で保持した後、−10℃/時の降温速度で冷却し、測定用試料を作製した。得られた測定用試料について、日本光学硝子工業会規格で定められた屈折率測定法により、屈折率nd、ng、nF、ncを測定した。さらに、これら屈折率の測定値より、アッベ数νdを算出した。
次に、光学ガラスサンプルを加工して、円柱形状の測定用試料(直径5mm、高さ20mm)を作製した。得られた測定用試料について、熱機械分析装置(TMA)を用い、昇温速度+10℃/分の条件で、ガラス転移温度Tgを測定した。
なお、これらの特性値は、ガラス組成に起因する為、同じバッチ原料をガラス原料としている光学ガラスサンプルでは、実質的に同じ値となることが確認された。結果を表3に示す。
[3]βOH
光学ガラスサンプルを加工して、両面が互いに平行かつ平坦に光学研磨された厚さ1mmの板状ガラス試料を準備した。この板状ガラス試料の研磨面に垂直方向から光を入射して、波長2500nmにおける外部透過率Aおよび波長2900nmにおける外部透過率Bを、分光光度計を用いてそれぞれ測定し、下記式(1)により、βOHを算出した。
βOH=−[ln(B/A)]/t ・・・(1)
上記式(1)中、lnは自然対数であり、厚さtは上記2つの平面の間隔に相当する。また、外部透過率は、ガラス試料表面における反射損失も含み、ガラス試料に入射する入射光の強度に対する透過光の強度の比(透過光強度/入射光強度)である。また、βOHの値は、高いほど、ガラス中に水が多く含まれていることを意味する。結果を表6および図2に示す。
図2に示すのは、各光学ガラスサンプルのβOHを、ガラス組成ごとにプロットしたグラフである。図2において、実線は、下記式(2)の規定に基づいて実施例と比較例とを隔てる境界線を表している。
βOH≧0.4891×ln(1/HR)+2.48 ・・・(2)
なお、各組成の実施例と比較例とを隔てる境の値(本発明の効果が期待されるβOHの下限値)は、上記式(2)により算出できる。すなわち、表1に示す上記組成比より、HR(ガラス中の、TiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の各成分の含有量の合計量(モル%))を算出し、上記式(2)を導入する。各酸化物組成に基づいて算出された値を、表6に示す。なおβOHの単位はmm−1である。
[4]T450(H)
光学ガラスサンプルを、大気雰囲気中で、+100℃/時の速度で昇温し、所定の保持温度で100時間保持して、−30℃/時の速度で降温して、熱処理した。なお、保持温度は、組成に応じて異なるため、それぞれの光学ガラスサンプルの酸化物組成に応じて、表4に示す温度とした。
熱処理後の光学ガラスサンプルを加工して、両面が互いに平行かつ平坦に光学研磨された厚さ10mmの板状ガラス試料を準備した。このようにして得られた板状ガラス試料について、分光光度計を用いて450nmにおける外部透過率T450(H)を求めた。T450(H)の値が大きいほど、透過率に優れ、ガラスの着色は低減されていることを意味する。結果を表6に示す。
[5]Pt含有量
光学ガラスサンプルを適量採取し、これをアルカリ融解して、Ptを分離する処理した後、ICP−MS法によりガラス中のPt量を定量した。結果を表6に示す。
[6]着色度λ80およびλ70
まず、光学ガラスサンプルを、T450(H)の場合と同様の条件で熱処理した。
熱処理後の光学ガラスサンプルを加工して、両面が互いに平行かつ平坦に光学研磨された厚さ10mm±0.1mmの板状ガラス試料を準備した。この板状ガラス試料の研磨面に垂直方向から光を入射して、波長280nm〜700nmの範囲で表面反射損失を含む分光透過率を、分光光度計を用いて測定し、分光透過率(外部透過率)が80%および70%になる波長を、それぞれ着色度λ80およびλ70とした。λ80およびλ70の値は、いずれも小さいほど、ガラスの着色が少ないことを意味する。結果を表6に示す。なお、λ80により評価した試料については、表6に示す結果に下線を付した。
[7]T450(L)
光学ガラスサンプルを作製する際の、均質化工程を経た熔融ガラスを、0.5〜0.7cc採取し、浮上成形用の鋳型(熔融ガラスを受ける凹部が多孔質体で形成され、多孔質体を通して凹部表面からガスが噴出する構造になっている鋳型)の凹部に流し込み、凹部からガスを噴出し、凹部上の熔融ガラス塊に上向きの風圧を加え、ガラス塊を浮上状態で成形した。
その後、上記ガラス塊を、+100℃/時の速度で昇温し、所定の保持温度および保持時間で保持し、−30℃/時の速度で降温して、熱処理後の球状光学ガラスサンプルを得た。なお、保持温度および保持時間は、組成に応じて異なるため、それぞれの光学ガラスサンプルの酸化物組成に応じて、表5に示す温度および時間とした。
得られた球状光学ガラスサンプルを加工して、両面が互いに平行かつ平坦に光学研磨された厚さ5mmの板状ガラス試料を準備した。このようにして得られた板状ガラス試料について、分光光度計を用いて450nmにおける外部透過率T450(L)を求めた。T450(L)の値は、大きいほど透過率に優れ、短時間の熱処理でもガラスの着色が低減されていることを意味する。
[8]泡切れ
光学ガラスサンプルを作製する際の、清澄工程を開始する前の熔融ガラス(ガラス融液)を40cc採取し、大気中で別の白金坩堝で一定時間清澄し、ガラス融液を白金坩堝中で冷却し、固化させた。この過程で、ガラス中に含まれる泡の数をカウントできる程度に着色を低減した。次に固化したガラスを白金坩堝から取り出した。
このようにして得られた測定用サンプルについて、光学顕微鏡(倍率20〜100倍)を用いてガラス内部を拡大観察(100倍)し、ガラス中に含まれる泡の数をカウントした。清澄時間の異なる測定用サンプルのそれぞれについて同様の観察を行い、ガラス中に残留する泡数が100個/kg以下になる測定用試料の清澄時間を、泡切れの時間として評価した。泡切れ時間は、短いほど清澄性に優れている。結果を表6に示す。
表6および図2に示すように、光学ガラスサンプルのβOHが上記式(2)を満足する本発明のガラスの場合には、熱処理による透過率の改善効果が非常に大きく、熔融容器に由来するPtの溶け込み量も大幅に低減されているため、優れた透過率を発揮することが確認された(試料13〜試料16、試料24〜試料26、試料33〜試料35、試料43〜試料46、試料53〜試料56、試料63〜試料66、試料72、試料73、および試料82〜試料84)。
一方、ガラスのβOHが上記式(2)を満足しない場合には、本発明の比較例に相当し、熱処理による透過率の改善効果が小さく、熔融容器に由来するPtの溶け込み量も多いため、透過率が低いことが確認された(試料11、試料12、試料21〜試料23、試料31、試料32、試料41、試料42、試料51、試料52、試料61、試料62、試料71、および試料81)。
また、本発明のガラスの場合には、本発明の比較例に相当するガラスの場合と比較して短時間の熱処理で十分な透過率の向上効果が得られると共に、泡切れに要する時間も短いことが確認された。すなわち、本発明のガラスの場合には、清澄工程および熱処理工程に要する時間を格段に短縮することができ、光学ガラスの製造において、生産コストを低減させると共に、生産性を向上させることができる。
(実施例2)
ガラス原料として、バッチ原料Vに酸化アンチモン(Sb2O3)を添加した以外は、実施例1の試料51〜試料56と同様の条件で光学ガラスサンプルを作製した(試料51a〜試料56a)。酸化アンチモンの添加量を表7に示す。なお、単位は、バッチ原料100質量%に対するppmである。
[光学ガラスの評価]
得られた光学ガラスサンプル(試料51a〜試料56a)の各種物性は、実施例1の場合と同様の条件により測定、評価した。
その結果、屈折率nd、アッベ数νdおよびガラス転移温度Tgは、実施例1の酸化物組成Vに示す値と実質的に同じであった。その他の結果を表7に示す。
表7に示されるように、ガラス中の酸化アンチモンの有無によっては、ガラスのβOHの値は実質的に変化しないことが確認された(試料51〜試料56および試料51a〜試料56a)。
また、酸化アンチモン添加したバッチ原料を用いた場合であっても、本発明に係る光学ガラスサンプルでは、熱処理後において優れた透過率が確認され、ガラス中のPtの溶け込み量を低減されていることが確認された(試料53a〜試料56a)。
(実施例3)
実施例1および2で作製した光学ガラスサンプル(ガラスブロック)を分割し、必要に応じて、さらに加工を施し、各光学ガラスに対応するプレス成形用ガラス素材を得た。
このようにして得たプレス成形用ガラス素材を、大気中で加熱、軟化してプレス成形し、レンズ形状に近似する光学素子ブランクを作製した。
次に、得られた光学素子ブランクを、大気中でアニールし、さらに研削、研磨等の加工を行い、実施例1および2の各試料に対応したレンズ、プリズム等のガラス製光学素子を作製した。
なお、アニール時の降温速度は、光学素子の屈折率が所望の値になるように設定した。
また、ガラスのプレス成形方法、レンズブランクのアニール方法、研削方法、研磨方法には、いずれも公知の方法を用いた。
本発明に係る光学ガラスサンプル(試料13〜試料16、試料24〜試料26、試料33〜試料35、試料43〜試料46、試料53〜試料56、試料63〜試料66、試料72、試料73、試料82〜試料84および試料53a〜試料56a)を用いて作製された光学素子は、熔融ガラスの成形から光学素子ブランクの加工までの間に、大気等の酸化性雰囲気中で熱処理されることにより、着色が大幅に低減されていることが確認された。
一方、本発明の比較例に相当する光学ガラスサンプルガラス(試料11、試料12、試料21〜試料23、試料31、試料32、試料41、試料42、試料51、試料52、試料61、試料62、試料71、試料81、試料51aおよび試料52a)を用いて作製された光学素子は、熔融ガラスの成形から光学素子ブランクの加工までの間に、大気等の酸化性雰囲気中での熱処理を経ていても、着色が残り、着色の低減効果が低いことが確認された。
以下、本実施態様について総括する。
本実施態様において好ましいガラスは、ガラス中に含まれるTiO2、Nb2O5、WO3およびBi2O3の合計含有量25モル%以上のガラスであり、30モル%以上のガラスがより好ましく、35モル%以上のガラスがさらに好ましい。
本実施態様において好ましいガラスは、モル%表示におけるP2O5の含有量がSiO2の含有量よりも大きいガラスである。
本実施態様において好ましいガラスは、モル%表示におけるP2O5の含有量がB2O3の含有量よりも大きいガラスである。
本実施態様において好ましいガラスは、モル%表示におけるP2O5の含有量がSiO2とB2O3の合計含有量よりも多いガラスである。
本実施態様において好ましいガラスは、P2O5の含有量が10モル%以上のガラスである。
本実施態様において好ましいガラスは、P2O5の含有量が40モル%以下のガラスである。
本実施態様において好ましいガラスは、GeO2の含有量が0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜3モル%、一層好ましくは0〜2モル%、より一層好ましくは0〜1モル%、さらに一層好ましくは0〜0.5モル%である。
本実施態様において好ましいガラスは、TeO2の含有量が0〜10モル%であり、より好ましくは0〜5モル%であり、さらに好ましくは0〜3モル%であり、一層好ましくは0〜2モル%であり、より一層好ましくは0〜1モル%であり、さらに一層好ましくは0〜0.5モル%である。
本実施態様において好ましいガラスは、Sb2O3の含有量が0ppm以上1000ppm未満であり、さらに好ましいガラスはSb2O3の含有量が900ppm以下であり、一層好ましいガラスはSb2O3の含有量が800ppm以下であり、より一層好ましくガラスはSb2O3の含有量が700ppm以下であり、さらに一層好ましいガラスはSb2O3の含有量が600ppm以下、なお一層好ましいガラスはSb2O3の含有量が500ppm以下であり、以下、400ppm、300ppm、200ppm、100ppmの順に少ない値ほど一層好ましい。Sb2O3を含有させなくてもよい。
本実施態様における好ましいガラスは、P2O5、SiO2、B2O3、TiO2、Nb2O5、WO3、Bi2O3、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Li2O、Na2O、K2O、Al2O3、ZrO2、GeO2、TeO2およびSb2O3の合計含有量が90モル%以上であり、より好ましくは92モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上であり、一層好ましくは96モル%以上であり、より一層好ましくは97モル%以上であり、さらに一層好ましくは98モル%以上であり、なお一層好ましくは99モル%超である。
環境への負荷を低減する上から、Pb、As、Cd、U、Th、Tlを実質的に含有しないことが好ましい。
本実施態様における好ましいガラスは、Cu、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、V、Mo、Nd、Eu、Er、Tb、Ho、Prを実質的に含有しないガラスである。
本実施態様における好ましいガラスは、貴金属を含み、貴金属の含有量が4ppm以下である。ガラス中に含まれる貴金属の含有量のより好ましい上限量は、3ppm、2.7ppm、2.5ppm、2.2ppm、2.0ppm、1.8ppm、1.6ppm、1.4ppm、1.2ppm、1.1ppm、1.0ppm、0.9ppmの順に上限値が低いほど一層好ましい。
本実施態様における好ましいガラスは、Ptを含み、Ptの含有量が4ppm以下である。ガラス中に含まれるPtの含有量のより好ましい上限量は、3ppm、2.7ppm、2.5ppm、2.2ppm、2.0ppm、1.8ppm、1.6ppm、1.4ppm、1.2ppm、1.1ppm、1.0ppm、0.9ppmの順に上限値が低いほど一層好ましい。
本実施態様における好ましいガラスは、屈折率ndが1.75以上であり、より好ましくは1.80以上、さらに好ましくは1.85以上、一層好ましくは1.90以上である。
本実施態様における好ましいガラスは、光学ガラスである。