JP2014223635A - 耐摩耗鋼鋳片の製造方法およびその鋳片から得られる耐摩耗鋼材 - Google Patents

耐摩耗鋼鋳片の製造方法およびその鋳片から得られる耐摩耗鋼材 Download PDF

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Abstract

【課題】Tiを含有する耐摩耗鋼の溶鋼を連続鋳造することによって、表面性状の良好な鋳片を製造できる耐摩鋼鋳片の製造方法、およびその鋳片から得られる耐摩耗鋼材を提供する。【解決手段】溶鋼を連続鋳造機で鋳造し、連続鋳造機の出側での鋳片の表面温度を500℃以上とし、連続鋳造機から排出された後の500℃以下300℃以上の温度範囲における冷却速度を0.11℃/分以下として鋳片を緩冷却し、鋳片の表面温度が200℃以上300℃未満において手入れ用スカーファーの移動速度を10m/分以上30m/分未満として鋳片表面の溶削手入れを行なう。【選択図】なし

Description

本発明は、産業機械,土木機械,運搬機器等に使用される耐摩耗鋼材、およびその耐摩耗鋼材を得るために熱間圧延を施す素材となる鋳片の製造方法に関するものである。
土や砂等による摩擦を受ける土木機械や運搬機器、あるいは金属部品による摩擦を受ける産業機械を構成する部材には、摩耗を軽減して寿命を延長する観点から、耐摩耗性に優れた鋼材つまり耐摩耗鋼材が広く使用されている。耐摩耗鋼材は、硬度を高めることによって耐摩耗性を向上するものであり、CrやMo等の合金元素を大量に添加し、さらに焼入れ等の熱処理を施して、硬度を高めた鋼材が実用化されている。
たとえば特許文献1には、Cを0.10〜0.19%含有し、さらに適正量のSi、Mnを含有して炭素等量Ceqを0.35〜0.44とした素材を熱間圧延し、その熱間圧延から直接、または冷却して900〜950℃に再加熱した後に、焼入れを行ない、さらに引き続き300〜500℃で焼戻しを行なうことによって、表面硬さを300Hv(ビッカース硬さ)以上とする耐摩耗鋼板の製造方法が提案されている。
また特許文献2には、Cを0.10〜0.20%含有し、さらに適正量のSi、Mn、P、S、N、Al、Oを含有し、あるいはさらにCu、Ni、Cr、Mo、Bのうちの1種以上を含有する素材を熱間圧延し、その熱間圧延から直接、または放冷して再加熱した後に焼入れを行なうことによって、表面硬さを340HB(ブリネル硬さ)以上とする耐摩耗鋼板の製造方法が提案されている。
特許文献3には、Cを0.07〜0.17%含有し、さらに適正量のSi、Mn、V、B、Alを含有し、あるいはさらにCu、Ni、Cr、Moのうちの1種以上を含有する素材を熱間圧延し、その熱間圧延から直接、または一旦空冷して再加熱した後に焼入れを行なうことによって、表面硬さを321HB以上とする耐摩耗鋼板の製造方法が提案されている。
特許文献1〜3に開示された技術は、合金元素を多量に添加し、固溶硬化,変態硬化,析出硬化等の現象を活用し、硬度を高めることによって、耐摩耗性を向上させている。しかしながら、多量の合金元素を含有し、固溶硬化,変態硬化,析出硬化等によって硬化した鋼板は溶接性および加工性が著しく低下する。
これに対して特許文献4には、Cを0.10〜0.45%、Tiを0.10〜1.0%含有し、さらに適正量のSi、Mn、P、S、N、Alを含有し、あるいはさらにCu、Ni、Cr、Mo、Bのうちの1種以上を含有する溶鋼を連続鋳造して、0.5μm以上の大きさを有するTiCを主体とする析出物を1mm2あたり400個以上析出させた耐摩耗鋼が提案されている。
特許文献4に開示された技術は、連続鋳造の凝固の際に、硬度が高いTiCを主体とする粗大な析出物を生成させ、その析出物によって耐摩耗性を向上させるので、耐摩耗鋼のマトリックスの硬度を高める必要はない。そのため、加工性や溶接性に優れた耐摩耗鋼を得ることが可能である。しかし、Tiを含有する溶鋼の連続鋳造では、一般の炭素鋼に比較して、鋳片の割れやノロカミ等の表面欠陥が発生し易いという問題がある。
特開昭62-142726号公報 特開昭63-169359号公報 特開平1-142023号公報 特開平6-256896号公報
本発明は、Tiを含有する耐摩耗鋼の溶鋼を連続鋳造することによって、表面性状の良好な鋳片を製造できる耐摩鋼鋳片の製造方法、およびその鋳片から得られる耐摩耗鋼材を提供することを目的とする。
発明者は、Tiを含有する耐摩耗鋼鋳片の表面性状を改善するために、連続鋳造にて表面欠陥が発生する原因について調査し、以下のような知見を得た。
高濃度のTiを含有する溶鋼の連続鋳造では、溶鋼中のTiがモールドパウダー中のSiO2を還元してTiO2を生成する。その結果、モールドパウダーの特性はSiO2の減少に伴って変化し、安定した連続鋳造を維持することが困難になる。モールドパウダー中のSiO2が減少すると、モールドパウダーの溶融状態における粘度が上昇して、モールドパウダーの消費量が減少する。つまり、連続鋳造鋳型と凝固シェルとの隙間に、溶融したモールドパウダーが流れ込み難くなり、耐摩耗鋼鋳片の表面に割れが発生するばかりでなく、連続鋳造鋳型と凝固シェルが焼き付いて、拘束性ブレークアウトが発生し易くなる。
また、モールドパウダーの特性が変化することによって、凝固シェルと溶融したモールドパウダーとの界面張力や濡れ角等の物性値が変化し、その結果、モールドパウダーが耐摩耗鋼鋳片に付着して凝固し、ノロカミと呼ばれる表面欠陥が発生し易くなる。
また連続鋳造の操業では、連続鋳造鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズルの閉塞を防止するために、浸漬ノズル内に不活性ガス(たとえばArガス等)を吹き込んでいるが、モールドパウダーの溶融状態における粘度が上昇することによって、不活性ガスがパウダー溶融層へ離脱し難くなり、耐摩耗鋼鋳片の内部に捕捉される気泡が増加するので、耐摩耗鋼鋳片の表面にフクレが発生し易くなる。
これらの表面欠陥は、いずれも溶鋼中のTiがモールドパウダー中のSiO2と反応してTiO2を生成することが原因となって発生するものである。これらの表面欠陥を除去するために、スラブ表面の溶削手入れが行なわれている。その一方で、高濃度のTiを含有する鋼は、他の鋼に比べて500℃未満の比較的高温でも脆化しやすく、スラブの低温時には割れが発生しやすいという欠点がある。そのため、スラブ表面の割れや介在物などの表面欠陥を除去するために、酸素と火炎によりスラブの表面を溶削して表面手入れを行なう際に、その前の冷却時にスラブ表層側と内部側で温度勾配が大きくなると、スラブ表面と内側の温度差により熱応力が発生し、スラブ表面に割れが発生する場合がある。
また、連続鋳造機内で水、または気体と水によって冷却されるスラブは、スラブ表面と内部で温度勾配が大きくなる場合があるが、このような場合にも、スラブの表面温度が低下して弾性率が増大すると、温度勾配により熱応力が増大し、高濃度のTiを含有する鋼はスラブの表面温度が500℃未満の脆化しやすい温度域になると割れが発生しやすいという欠点があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、Tiを含有する耐摩耗鋼を連続鋳造するにあたり、表面性状の良好な鋳片を鋳造することのできる、耐摩耗鋼の連続鋳造方法を提供するとともに、この連続鋳造方法によって製造される耐摩耗鋼を提供することである。
すなわち本発明は、C:0.05〜0.35質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Mn:0.1〜2.0質量%、B:0.0003〜0.0030質量%、Al:0.002〜0.1質量%、Ti:0.1〜1.0質量%を含み、さらにCu:0.1〜1.0質量%、Ni:0.1〜2.0質量%、Cr:0.1〜1.0質量%、Mo:0.05〜1.0質量%、W:0.05〜1.0質量%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる溶鋼を連続鋳造機で鋳造し、連続鋳造機の出側での鋳片の表面温度を500℃以上とし、連続鋳造機から排出された後の500℃以下300℃以上の温度域における冷却速度を0.11℃/分以下として鋳片を緩冷却し、鋳片の表面温度が200℃以上300℃未満において手入れ用スカーファーの移動速度を10m/分以上かつ30m/分未満として鋳片の表面の溶削手入れを行なう耐摩耗鋼鋳片の製造方法である。
本発明の耐摩耗鋼鋳片の製造方法においては、溶鋼が、さらにNb:0.005〜1.0質量%、V:0.005〜1.0質量%のうちから選ばれた1種または2種を含有することが好ましい。
また本発明は、上記した製造方法で製造した耐摩耗鋼鋳片に、熱間圧延を施して得た耐摩耗鋼材である。
本発明によれば、表面性状の良好な耐摩鋼鋳片、および耐摩耗鋼材を製造できるので、産業上格段の効果を奏する。
本発明で得られる耐摩耗鋼は、曲げ加工性および溶接性に優れており、連続鋳造によって高い硬度を有するTi炭化物を主体とする粗大な析出物(0.5μm以上)を鋳片に生成させ、その後に鋳片の熱間圧延を行なってもTi炭化物を可能な限り固溶させずに残留させることによって、耐摩耗性を向上するものである。ここでTi炭化物は、TiC単体、あるいはTiCとTiN、TiSとの複合化合物を指す。
まず、本発明を適用する耐摩耗鋼の成分について説明する。
C:0.05〜0.35質量%
Cは、耐摩耗鋼のマトリックスの硬度を高めて、耐摩耗性を向上するとともに、硬質な第2相(以下、硬質相という)としてのTi炭化物を生成して、耐摩耗性をさらに向上する作用を有する元素である。C含有量が0.05質量%未満では、このような効果が得られない。一方、0.35質量%を超えると、硬質相としてのTi炭化物が粗大になりので、曲げ加工の際にそのTi炭化物を起点として割れが発生し易くなる。したがって、Cは0.05〜0.35質量%の範囲内とする。好ましくは0.15〜0.30質量%である。
Si:0.05〜1.0質量%
Siは、耐摩耗鋼を溶製する工程で脱酸剤として有効であり、かつ耐摩耗鋼に固溶して固溶硬化によってマトリックスの硬度を高める作用を有する元素である。Si含有量が0.05質量%未満では、このような効果が得られない。一方、1.0質量%を超えると、耐摩耗鋼の延性,靭性が低下するばかりでなく、介在物が増加する等の問題を生じる。したがって、Siは0.05〜1.0質量%の範囲内とする。好ましくは0.05〜0.40質量%である。
Mn:0.1〜2.0質量%
Mnは、耐摩耗鋼に固溶して固溶硬化によってマトリックスの硬度を高める作用を有する元素である。Mn含有量が0.1質量%未満では、このような効果が得られない。一方、2.0質量%を超えると、耐摩耗鋼の溶接性が低下する。したがって、Mnは0.1〜2.0質量%の範囲内とする。好ましくは0.1〜1.60質量%である。
B:0.0003〜0.0030質量%
Bは、粒界に偏析することによって粒界を強化し、耐摩耗鋼の靭性を向上する作用を有する元素である。B含有量が0.0003質量%未満では、このような効果が得られない。一方、0.0030質量%を超えると、耐摩耗鋼の溶接性が低下する。したがって、Bは0.0003〜0.0030質量%の範囲内とする。好ましくは0.0003〜0.0015質量%である。
Al:0.002〜0.1質量%
Alは、耐摩耗鋼を溶製する工程で脱酸剤として有効な元素である。Al含有量が0.002質量%未満では、このような効果が得られない。一方、0.1質量%を超えると、耐摩耗鋼の清浄性が低下する。したがって、Alは0.002〜0.1質量%の範囲内とする。
Ti:0.1〜1.0質量%
Tiは、硬質相としてのTi炭化物を生成して、耐摩耗性を向上する作用を有する元素である。Ti含有量が0.1質量%未満では、このような効果が得られない。一方、1.0質量%を超えると、硬質相としてのTi炭化物が粗大になるので、曲げ加工の際にそのTi炭化物を起点として割れが発生し易くなる。さらに、Ti添加量が増加することから、耐摩耗鋼の製造コストの上昇を招くとともに、モールドパウダー中のSiO2と反応してモールドパウダーの特性を変化させる原因になる。したがって、Tiは0.1〜1.0質量%の範囲内とする。好ましくは0.1〜0.5質量%である。
Cu:0.1〜1.0質量%
Cuは、鋼中に固溶して鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、このような効果を得るためには0.1質量%以上の含有を必要とする。一方、1.0質量%を超える含有は、熱間加工性を低下させる。このため、含有する場合には、Cuは0.1〜1.0質量%の範囲に規定した。なお、好ましくは0.1〜0.5質量%である。
Ni:0.1〜2.0質量%
Niは、鋼中に固溶して鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、このような効果は0.1質量%以上の含有で顕著となる。一方、2.0質量%を超える含有は、材料コストを著しく上昇させる。このため、含有す場合には、Niは0.1〜2.0質量%の範囲に規定した。なお、好ましくは0.1〜1.0質量%である。
Cr:0.1〜1.0質量%
Crは、耐摩耗鋼の焼入れ性を向上させる作用を有する元素である。Cr含有量が0.1質量%未満では、このような効果が得られない。一方、1.0質量%を超えると、耐摩耗鋼の溶接性が低下する。したがって、Crは0.1〜1.0質量%の範囲内とする。好ましくは0.1〜0.4質量%である。
Mo:0.05〜1.0質量%
Moは、耐摩耗鋼の焼入れ性を向上させる作用を有する元素である。Mo含有量が0.05質量%未満では、このような効果が得られない。一方、1.0質量%を超えると、耐摩耗鋼の溶接性が低下する。したがって、Moは0.05〜1.0質量%の範囲内とする。好ましくは0.05〜0.4質量%である。
W:0.05〜1.0質量%
Wは、焼入れ性を向上させる元素であり、このような効果を得るためには0.05質量%以上の含有を必要とする。一方、1.0質量%を超える含有は、溶接性を低下させる。そのため、含有する場合にはWは0.05〜1.0質量%の範囲に規定した。なお、好ましくは0.05〜0.40質量%である。
本発明に係る耐摩耗鋳片の製造方法では、これらの焼入れ性を向上させる元素として、Cu:0.1〜1.0質量%、Ni:0.1〜2.0質量%、Cr:0.1〜1.0質量%、Mo:0.05〜1.0質量%、W:0.05〜1.0質量%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する溶鋼を連続鋳造するようにする。なお、MoやWは、硬質相であるTiCに固溶するため、硬質相量を増加させる効果も有する。
上記した成分が基本成分であるが、本発明では、必要に応じて、Nb:0.005〜1.0質量%、V:0.005〜1.0質量%のうちから選ばれた1種または2種を選択元素として含有することができる。Nb、Vは、いずれも硬質な第2相(硬質相)を形成し、耐摩耗性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて1種または2種を含有できる。
Nb:0.005〜1.0質量%
Nbは、Tiと複合して含有することにより、Ti、Nbの複合炭化物((NbTi)C)を形成し、硬質な第2相として基地相中に分散し、耐摩耗性に有効に寄与する元素である。このような耐摩耗性向上効果を得るためには、0.005質量%以上の含有を必要とする。一方、1.0質量%を超える含有は、硬質な第2相(炭化物)が粗大化し、曲げ加工時に硬質な第2相(炭化物)を起点として割れが発生する。このため、含有する場合には、Nbは0.005〜1.0質量%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
V:0.005〜1.0質量%
Vは、Nbと同様に、Tiと複合して含有することにより、Ti、Vの複合炭化物((VTi)C)を形成し、硬質な第2相として基地相中に分散し、耐摩耗性向上に有効に寄与する元素である。このような耐摩耗性向上効果を得るためには、0.005質量%以上の含有を必要とする。一方、1.0質量%を超える含有は、硬質な第2相(炭化物)が粗大化し、曲げ加工時に硬質な第2相(炭化物)を起点として割れが発生する。このため、含有する場合には、Vは0.005〜1.0質量%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
本発明の耐摩耗鋼の製造方法に係る耐摩耗鋼の上記した以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。
本発明では、耐摩耗鋼の各成分を上記した範囲に調整する技術は、特に限定しない。たとえば、転炉による吹錬や真空脱ガス等の従来から知られている精錬技術が使用できる。
次に、耐摩耗鋼の連続鋳造について説明する。
連続鋳造では、連続鋳造機の出側で鋳片の表面温度が500℃以上となるように、鋳造条件(たとえば鋳込み速度,二次冷却水量等)を設定する。特に本明細書に記載の耐摩耗鋼では、連続鋳造機の出側で鋳片の表面温度が500℃未満になるまで冷却すると、鋳片の表層部と中心部の温度差に起因する熱応力による割れが発生し易くなる。鋳片の表面温度が500℃以上であれば、弾性率が低いために大きな熱応力が発生せず、割れには至らない。高濃度のTiを含有する鋼は、他の一般的な鋼に比べて延性−脆性遷移温度が高いため、500℃未満で延性が大きく低下する特徴がある。一方、表面温度の上限値については特に規定する必要はなく、鋳片の内部まで凝固が完了していれば問題はないが、スラブあるいはブルームの連続鋳造では、通常の製造条件では1000℃程度以下となる。したがって、連続鋳造機の出側における鋳片の表面温度は500〜1000℃が好ましい。
次に、連続鋳造機から排出された鋳片の冷却および手入れについて説明する。
ガスカッター等で切断された後に連続鋳造機から排出された鋳片は、雰囲気への熱放散によって冷却される。鋳片の表面温度が500℃以下の温度域において、その冷却速度が0.11℃/分を超えると、冷却中に熱応力が発生して、鋳片に割れが発生し易くなる。鋳片の表面温度が300℃以下では、冷却中に発生する熱応力と強度の関係から、鋳片を放冷しても割れは発生しない。したがって、連続鋳造機から排出された鋳片の500℃以下300℃以上の温度範囲における冷却速度は0.11℃/分以下とする。冷却速度が小さい場合には、発生する熱応力が小さくなるため、冷却速度の下限を設定する必要はない。鋳片の保温などの工夫をした上で、不可避的に冷却される速度以上で問題ない。ただし、冷却速度が小さいほど緩冷却に要する時間が長くなるため、500℃以下300℃以上の温度範囲における冷却速度を0.11℃/分以下とした上で、短期間で緩冷却を行なうことが好ましい。ここで鋳片の冷却速度とは、鋳片の表面温度の低下速度を意味し、その500℃〜300℃の温度範囲における最大値が0.11℃/分を超えないように調整することが好ましい。
鋳片の冷却速度の調整は、鋳片を保温カバーで覆う、あるいは熱片スラブで鋳片を挟んで保温する等の方法で行なう。
本発明の耐摩耗鋼の製造方法に係る耐摩耗鋼では、その組成条件から、鋳片の表面近傍に捕捉された気泡に起因する欠陥や、モールドパウダーの変質に起因する鋳片の表面欠陥の発生頻度が高いため、鋳片表面の手入れを実施する。
手入れは、耐摩耗鋼の研磨や研削が困難であることから、スカーファーを用いて溶削を行なうことが好ましい。その際、溶削直前の鋳片の表面温度が200℃未満では、スカーファーによる溶削後の冷却時に表面近傍で発生する引張応力が大きくなり、割れが発生し易くなる。また、スカーファー溶削直前の表面温度が300℃以上では、溶削前の鋳片の冷却速度が500℃以下300℃以上の温度範囲において大きくなると、熱応力による割れが発生する場合がある。したがって、溶削手入れ直前における鋳片の表面温度は200℃以上300℃未満が好ましい。また、鋳片の搬送設備などの耐熱上の制約条件によっては、鋳片温度が300℃以上といった高温であると対応できない場合もある。
また、手入れで使用するスカーファーの移動速度が10m/分未満では、鋳片への入熱量が大きくなり、鋳片表面下の深部まで温度が上昇するため、スカーファーが通過した後の放冷時に鋳片表面下の温度勾配が増大するので、熱応力(表面の引張応力)による割れが発生し易くなる。一方、30m/分以上では、溶削量が小さ過ぎて欠陥部の除去が困難である。したがって、スカーファーの移動速度は10〜30m/分未満が好ましい。
垂直曲げ型連続鋳造機(機長26m)を用いて、表1に示す成分の耐摩耗鋼の連続鋳造を行ない、厚み250mm,幅1500〜1900mmの鋳片を製造した。鋳込み速度は0.6〜1.0m/分とした。
Figure 2014223635
得られた鋳片の一部は長辺面および短辺面(合計4面)を手入れせず、それぞれ面積1.95m2の領域を顕微鏡で観察して、0.5mm以上の気泡の個数を調査した。そして、気泡の密度が200個/m2未満を良好(○)、200個/m2以上を不良(×)として評価した。その結果を表2に示す。なお、気泡の密度が200個/m2以上となると、熱間圧延を施すことによって、表面性状が著しく悪化することから、評価の閾値として200個/m2を採用した。
この気泡の調査に使用した鋳片と連続する同じ製造条件の鋳片を保温カバーで覆って、保温カバー内に設置した熱電対による温度測定値が所定の値になるまで緩冷却し、さらに溶削手入れ(深さ約4mm)を施した後に、熱間圧延を行なって厚鋼板を製造した。その厚鋼板を目視で観察して、深さ0.2mm以上の表面欠陥の面積を調査した。そして、表面欠陥の面積(cm2)が調査した部位の面積(m2)に対して25 cm2/m2未満を良好(○)、25 cm2/m2以上を不良(×)として評価した。その結果を表2に示す。
なお、緩冷却直前における鋳片の表面温度、緩冷却直後における鋳片の表面温度、500℃〜300℃の温度範囲における鋳片の最大冷却速度、溶削手入れ直前における鋳片の表面温度、およびスカーファーの移動速度は表2に示す通りである。
Figure 2014223635
連続鋳造後の鋳片の緩冷却を開始した温度が500℃よりも低かった比較例1の場合、鋳片の緩冷却の冷却速度が0.11℃/分よりも大きかった比較例2の場合、および鋳片の緩冷却を終了した温度が300℃よりも高かった比較例3の場合では、いずれも厚鋼板製品での表面欠陥が発生しており、溶削手入れ前の温度履歴によっては、溶削によって完全には除去できない程度の大きな割れが発生する場合があることが分かる。
また、溶削手入れ前の鋳片の表面温度が200℃未満に低下した比較例4の場合、および溶削手入れ用スカーファーの移動速度が10m/分未満だった比較例5の場合にも、厚鋼板製品での表面欠陥が発生しており、溶削手入れ時の熱的条件によっては、溶削後の冷却過程においても割れが発生する問題があることが分かる。さらに、溶削手入れ用スカーファーの移動速度が30m/分以上だった比較例6の場合には、鋳片表層の気泡等の欠陥を除去しきれないことから、厚鋼板製品での表面欠陥が発生することが分かる。
表2から明らかなように、発明例は全て良好であり、本発明によって表面性状の優れた耐摩耗鋼鋳片および耐摩耗鋼材を製造できることが確かめられた。

Claims (3)

  1. C:0.05〜0.35質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Mn:0.1〜2.0質量%、B:0.0003〜0.0030質量%、Al:0.002〜0.1質量%、Ti:0.1〜1.0質量%を含み、
    さらにCu:0.1〜1.0質量%、Ni:0.1〜2.0質量%、Cr:0.1〜1.0質量%、Mo:0.05〜1.0質量%、W:0.05〜1.0質量%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる溶鋼を連続鋳造機で鋳造し、該連続鋳造機の出側での鋳片の表面温度を500℃以上とし、前記連続鋳造機から排出された後の500℃以下300℃以上の温度範囲における冷却速度を0.11℃/分以下として前記鋳片を緩冷却し、前記鋳片の表面温度が200℃以上300℃未満において手入れ用スカーファーの移動速度を10m/分以上かつ30m/分未満として前記鋳片の表面の溶削手入れを行なうことを特徴とする耐摩耗鋼鋳片の製造方法。
  2. 前記溶鋼が、さらにNb:0.005〜1.0質量%、V:0.005〜1.0質量%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗鋼鋳片の製造方法。
  3. 請求項1または2の製造方法で製造した耐摩耗鋼鋳片に、熱間圧延を施したものであることを特徴とする耐摩耗鋼材。
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JPH09164464A (ja) * 1995-12-15 1997-06-24 Nkk Corp 軸受鋼の連鋳片の置き割れ防止方法
JP2005052867A (ja) * 2003-08-05 2005-03-03 Jfe Steel Kk 溶削装置
JP2012223806A (ja) * 2011-04-21 2012-11-15 Jfe Steel Corp 耐摩耗鋼の連続鋳造方法

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