以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
<実施の形態1>
図1に、実施の形態1のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法のフローチャートを示す。実施の形態1のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法は、モノW酸イオンを含む溶液に硫酸を加える第1工程と、硫酸を加えた後の溶液をWO4型陰イオン交換樹脂に接触させる第2工程と、WO4型陰イオン交換樹脂から流出した流出液を回収する第3工程と、陰イオン交換樹脂にアンモニウムイオンを含む水溶液を接触させる第4工程と、を含むことを特徴としている。実施の形態1の製造方法は、このような第1工程〜第4工程を少なくとも含む限り、他の任意の工程を含むことができる。
実施の形態1のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法は、まず、ステップS1aに示すように、モノW酸イオンを含む溶液に硫酸を加える第1工程が行なわれる。第1工程においては、モノW酸イオンを含む溶液に硫酸を加えることによってpHを下げて硫酸の追加によって生成したポリW酸イオン(以下、「ポリW酸イオン(H2SO4)」と言うこともある。)を含む溶液を製造することができる。
タングステン酸アルカリ金属塩水溶液などのモノW酸イオンを含む溶液のpHはたとえばpH8.5以上13以下であり、これに硫酸を加えることによってpHを3.5以上8以下となる領域に下げた場合、特に7以下となる領域に下げた場合にはモノW酸イオンに替わってポリW酸イオンが安定して存在する。したがって、第1工程においては、モノW酸イオンを含む溶液に硫酸を加えることによって、溶液のpHを3.5以上8以下に下げることが好ましく、特に7以下に下げることがより好ましい。これにより、溶液中のモノW酸イオンをポリW酸イオンに変化させることができる。
ここで、タングステン酸アルカリ金属塩水溶液とは、タングステン酸アルカリ金属塩の水溶液であって、少なくともアルカリ金属イオンとタングステン酸イオン(WO4 2-)とを主成分として含む限り、他の任意のイオンや化合物を含んでいても差し支えない。タングステン酸アルカリ金属塩としては、たとえばタングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム等を挙げることができる。よって、タングステン酸アルカリ金属塩水溶液を形成する上記アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)等を挙げることができる。なお、上記金属の種類は、ナトリウムやカリウムのみに限られるものではない。
「ポリW酸イオン」は、タングステン(W)を複数含むイオンを意味し、たとえばHW6O21 5-、H2W12O40 6-、W12O41 10-等を挙げることができる。そして、ポリW酸イオンの中でも硫酸を加えることによってpHを下げて生成させたポリW酸イオンを本明細書ではポリW酸イオン(H2SO4)と言う。
次に、ステップS2aに示すように、硫酸を加えた後の溶液をWO4型陰イオン交換樹脂に接触させる第2工程が行なわれる。第2工程においては、ポリW酸イオン(H2SO4)を含む溶液をWO4型陰イオン交換樹脂に接触させることができるため、ポリW酸イオン(H2SO4)をWO4型陰イオン交換樹脂に吸着させることができる。
すなわち、この第2工程により、陰イオン交換樹脂において、モノW酸イオンとポリW酸イオン(H2SO4)とのイオン交換が行なわれて、陰イオン交換樹脂にポリW酸イオン(H2SO4)が吸着され、モノW酸イオンは陰イオン交換樹脂から流出することになる。
なお、WO4型陰イオン交換樹脂は、モノW酸イオン(WO4 2-)が吸着した陰イオン交換樹脂のことである。
次に、ステップS3aに示すように、WO4型陰イオン交換樹脂から流出した流出液を回収する第3工程が行なわれる。第3工程においては、第2工程においてWO4型陰イオン交換樹脂から流出したモノW酸イオンを含む流出液を回収することができる。第3工程において回収されたモノW酸イオンを含む流出液を第1工程におけるモノW酸イオンを含む溶液として用いる、若しくはその溶液に加える工程を行なうことが好ましい。この場合にはタングステンをより高効率で回収することができる傾向にある。この第3工程から第1工程へのループの回数は0回であってもよく、1回以上であってもよい。
次に、ステップS4aに示すように、陰イオン交換樹脂にアンモニウムイオンを含む水溶液を接触させる第4工程が行なわれる。第4工程においては、ポリW酸イオン(H2SO4)が吸着された陰イオン交換樹脂にアンモニウムイオンを含む水溶液を接触させることによってポリW酸イオン(H2SO4)を分解してモノW酸イオンを陰イオン交換樹脂から溶離することができる。
以上の第4工程において、溶離したモノW酸イオンとアンモニウムイオンを含む水溶液とが反応することによってタングステン酸アンモニウム水溶液が得られる。なお、アンモニウムイオンを含む水溶液としては、たとえばアンモニア水(NH4OH)を好適に用いることができる。
図2に、実施の形態1のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法の概念図を示す。まず、吸着の工程においては、モノW酸イオン(WO4 2-)を含む溶液に硫酸を加えることによってpHを下げてポリW酸イオン(H2SO4)(図2においては、「W12O41H2SO4(H2SO4)」と表記。)を生成させる。そして、ポリW酸イオン(H2SO4)を含む溶液をWO4型陰イオン交換樹脂に接触させることによって陰イオン交換樹脂に吸着するイオンをWO4 2−からW12O41 10-(H2SO4)に交換する。なお、図2中の「10R」は、陰イオン交換樹脂の吸着サイトを構成している樹脂を示している。
次に、溶離の工程においては、ポリW酸イオン(H2SO4)が吸着した陰イオン交換樹脂にアンモニウムイオンを含む水溶液(図2においては、「NH4OH」と表記。)を接触させることによって、ポリW酸イオン(H2SO4)を分解してWO4 2-を溶離させ、タングステン酸アンモニウム((NH4)2WO4)水溶液が得られる。
実施の形態1において、たとえば硫酸の代わりに塩酸を用いてpHを下げた場合には、非常に高濃度のアンモニア水(たとえば濃度が8mol/L以上のアンモニアを含むアンモニア水)を用いる必要がある。これは、ポリW酸イオンが陰イオン交換樹脂から溶離し、アンモニウムイオン(NH4+)と反応して(NH4)10W12O41の結晶が析出するためである。この結晶の析出を抑えるためにアンモニア水のpHを非常に高く保つ必要があり、その結果として高濃度のアンモニア水が必要となる。
このような沈殿の生成を低濃度のアンモニア水で抑制することができるか否かについて検討したところ、陰イオン交換樹脂に吸着されているポリW酸イオンの形態を変更することに着目した。その結果、塩酸の代わりに硫酸を加えて、モノW酸イオン(WO4 2-)を含む溶液のpHを下げた場合には塩酸を加えたときと比べて非常に低濃度のアンモニア水で溶離させた場合にも(NH4)10W12O41の結晶の析出を発生させることなくタングステン酸アンモニウム水溶液の製造が可能であることが判明した。これは、溶離後の水溶液中に存在するイオン種が塩酸を用いた場合と比べて水溶液中で安定であるためと考えられる。
このような実施の形態1の方法によれば、より低濃度のアンモニア水を用いて(NH4)10W12O41の沈殿の発生を抑えることができるため、タングステンを高い回収率で回収しながらタングステン酸アンモニウム水溶液を製造することができる。
<実施の形態2>
図3に、実施の形態2のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法のフローチャートを示す。実施の形態2のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法は、モノW酸イオンおよびバナジン酸イオン(VO3 -;以下「モノV酸イオン」と言うこともある。)を含む溶液のpHを低減する第5工程と、pHが低減された溶液を陰イオン交換樹脂に接触させる第6工程と、陰イオン交換樹脂から流出した流出液を回収する第7工程と、陰イオン交換樹脂からモノV酸イオンを溶離する第8工程と、陰イオン交換樹脂に残存するモノW酸イオンを溶離する第9工程と、を含むことを特徴としている。実施の形態2の製造方法は、このような第5工程〜第9工程を少なくとも含む限り、他の任意の工程を含むことができる。
実施の形態2のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法においては、まず、ステップS5aに示すように、モノW酸イオンおよびモノV酸イオンを含む溶液のpHを低減する第5工程が行なわれる。第5工程においては、モノW酸イオンおよびモノV酸イオンを含む溶液のpHが下げられることにより、タングステンとバナジウムの複合ポリ酸イオン(たとえばW3V3O19 5-等のWとVとOとを含むイオン;以下「W−V複合ポリ酸イオン」と言うこともある。)を生成することができる。
ここで、モノW酸イオンおよびモノV酸イオンを含む溶液のpHは9以下に下げられることが好ましい。モノW酸イオンおよびモノV酸イオンを含む溶液のpHを9以下に下げた場合には、溶液中にW−V複合ポリ酸イオンを生成させて安定して存在させることができる。W−V複合ポリ酸イオンとしては、たとえば、W3V3O19 5-、W5VO19 4-、W12VO4 3-、W11V2O4 3-等が挙げられるが、W−V複合ポリ酸イオンは多種にわたるため、これらに限定されるものではない。また、バナジウムを効率良く分離するためには、溶液のpHを8付近(7以上9以下)に調整することがさらに好ましい。
タングステンカーバイド(WC)等を主要構成成分として含む超硬合金には一般に炭化バナジウム(VC)が0.1質量%以上0.5%以下含まれているものがある。そのような超硬合金を硝酸ナトリウムなどの溶融塩に溶解させた後に水に溶解させることによって得られるタングステン酸ナトリウム水溶液を第5工程における溶液(モノW酸イオンおよびモノV酸イオンを含む溶液)の一例として挙げることができる。また、バナジウムを効率的に除去する観点からは、モノW酸イオンおよびモノV酸イオンを含む溶液中の酸化タングステン濃度(WO3濃度)は20g/L以上150g/L以下であることが好ましく、バナジウム濃度(V濃度)は15mg/L以上1000mg/L以下であることが好ましい。
モノW酸イオンおよびモノV酸イオンを含む溶液のpHを下げるためのpH調整剤としては、陰イオン交換樹脂へのイオン交換順位を考慮すると、硫酸(H2SO4)を用いることが好ましいが、硫酸以外にも、たとえば、塩酸(HCl)または硝酸(HNO3)などを用いることもできる。
次に、ステップS6aに示すように、pHが低減された溶液を陰イオン交換樹脂に接触させる第6工程が行なわれる。第6工程においては、pHの低下により溶液中に生成したW−V複合ポリ酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させることができる。すなわち、ここで、第6工程は、たとえば、W−V複合ポリ酸イオンを含む溶液を陰イオン交換樹脂に通液させる、若しくは陰イオン交換樹脂をW−V複合ポリ酸イオンを含む溶液に浸漬させることにより行なうことができる。
たとえば溶液のpHが3.5以上8以下である場合には、たとえば図4に示すように、W−V複合ポリ酸イオンはポリW酸イオンよりも陰イオン交換樹脂に対するイオン交換順位が高くなる。そのため、第6工程においては、たとえば、タングステン酸ナトリウム水溶液などの溶液中に含まれるW−V複合ポリ酸イオンを陰イオン交換樹脂に選択的に吸着させることができる。これにより、タングステン酸ナトリウム水溶液などの溶液中からバナジウムを分離することができる。なお、溶液のpHが3.5以上8以下である場合には、溶液中のAlおよびSiの不純物は、それぞれ、Al(OH)3およびSiO2の沈殿を形成するため、第6工程の前に溶液のろ過を行なうことによって、これらの沈殿を除去しておくことが高純度のタングステン酸ナトリウム水溶液を製造する観点からは好ましい。
陰イオン交換樹脂としては、たとえば、強塩基性陰イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂、mehyl−amino−glucitol樹脂などの溶液中の陰イオンを交換および/または吸着することができる樹脂全般が利用可能である。なかでも、陰イオン交換樹脂としては、4級アンモニウム塩を含む強塩基性陰イオン交換樹脂が適しており、W−V複合ポリ酸イオンが大きいために細孔径が大きく設計されたポーラス型の陰イオン交換樹脂が特に効率良くバナジウムを除去することができる点で好ましい。
次に、ステップS7aに示すように、陰イオン交換樹脂から流出した流出液を回収する第7工程が行なわれる。
第7工程において回収される流出液中のタングステン(W)の含有量に対するバナジウムの含有量の比(V/W比;V質量/W質量)は1×10-4以下であることが好ましい。V/W比が1×10-4以下である場合には、より高純度のタングステン酸アンモニウム水溶液が得られる傾向にある。
次に、ステップS8aに示すように、陰イオン交換樹脂からモノV酸イオンを溶離する第8工程が行なわれる。
第8工程においては、たとえば、陰イオン交換樹脂に吸着されたW3V3O19 5-等のW−V複合ポリ酸イオンをたとえばpH9以上の塩基性溶液に接触させることによってモノV酸イオンに分解することにより、陰イオン交換樹脂からモノV酸イオンを選択的に溶離させることができる。この際、W−V複合ポリ酸イオンが分解して生成したモノW酸イオンは、モノV酸イオンと比較して、陰イオン交換樹脂に対するイオン交換順位が高いため、陰イオン交換樹脂に選択的に吸着される。
pH9以上の塩基性溶液としては、たとえば、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、水酸化カリウム(KOH)水溶液およびアンモニア水(NH4OH)の群から選択された少なくとも1種を含む溶液のpHを9以上に調整したものなどを用いることができる。なお、アンモニア水は、アンモニウムイオンを含む水溶液であることは明らかである。
次に、ステップS9aに示すように、陰イオン交換樹脂に残存するモノW酸イオンを溶離する第9工程が行なわれる。これにより、陰イオン交換樹脂からモノW酸イオンを含む流出液が得られる。
第9工程においては、モノW酸イオンが残存する陰イオン交換樹脂に、たとえば、塩化物イオン(Cl-)、硫酸イオン(SO4 2-)および硝酸イオン(NO3 -)からなる群から選択された少なくとも1種を含む溶液を接触させることにより、陰イオン交換樹脂からモノW酸イオンを溶離させて、モノW酸イオンを含む溶液を得ることができる。
第9工程に用いられる上記の溶液としては、たとえば、塩化ナトリウム(NaCl)水溶液、塩化カリウム(KCl)水溶液および塩化アンモニウム(NH4Cl)水溶液の群から選択された少なくとも1種を含む水溶液を用いることができる。
第9工程は陰イオン交換樹脂の再生処理を兼ねているため、第9工程を経ることによって繰り返し陰イオン交換樹脂を利用することができる。また、第8工程において分離されたバナジウムおよび第9工程おいて分離されたタングステンはそれぞれ再度、資源として活用できる。たとえば、第9工程を経て得られたモノW酸イオンを含む流出液を、実施の形態1の第1工程におけるモノW酸イオンを含む溶液として用いることによって、実施の形態1の製造方法によって得られるタングステン酸アンモニウム水溶液をより高純度のものとすることができる。
<実施の形態3>
図5(a)〜(e)に、実施の形態3のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法を図解する模式図を示す。実施の形態3においては、陰イオン交換樹脂を2本使ってモリブデン(Mo)を除去している点に特徴がある。
まず、図5(a)に示すように、第1の陰イオン交換樹脂1と、第2の陰イオン交換樹脂2と、を連結して1本の陰イオン交換樹脂とする。ここで、第1の陰イオン交換樹脂1と、第2の陰イオン交換樹脂2との連結は、第1の陰イオン交換樹脂1を上流側とし、第2の陰イオン交換樹脂2を下流側として、第1の陰イオン交換樹脂1から第2の陰イオン交換樹脂2に通液するように行なわれる。なお、第1の陰イオン交換樹脂1および第2の陰イオン交換樹脂2としてはそれぞれ、たとえば、上記で説明した陰イオン交換樹脂を適宜用いることができるが、実施の形態3においては、第1の陰イオン交換樹脂1および第2の陰イオン交換樹脂2としてそれぞれCl型陰イオン交換樹脂を用いる場合について説明する。
次に、図5(b)に示すように、ポリW酸イオンと、モリブデンを含むポリW酸イオン(たとえばWxMoyOz α-等のWとMoとOとを含むイオン;以下「Mo含有ポリ酸イオン」と言うこともある。)とを含むポリ酸溶液(図6においては「W,Mo含有溶液」と表記。)を第1の陰イオン交換樹脂1から第2の陰イオン交換樹脂2に通液させる。これにより、上流側の第1の陰イオン交換樹脂1の吸着サイトはポリW酸イオンで占められ、第2の陰イオン交換樹脂2の下流側にMo含有ポリ酸イオンおよび塩化物イオン(Cl-)を押し出すことができる。
これは、たとえば溶液のpHが3.5以上8以下のように溶液中においてポリW酸イオンが安定して存在するpH領域においては、たとえば図4に示すように、ポリW酸イオンは、Mo含有ポリ酸イオンおよび塩化物イオン(Cl-)のそれぞれよりも陰イオン交換樹脂に対するイオン交換順位が高くなり、陰イオン交換樹脂の上流側に吸着する傾向にあるためである。したがって、陰イオン交換樹脂に通液させるポリ酸溶液のpHは3.5以上8以下であることが好ましく、6以上7以下であることがより好ましい。なお、第2の陰イオン交換樹脂2から流出した溶液は回収される。また、ポリ酸溶液(W,Mo含有溶液)は、たとえば、モノW酸イオンおよびモノMo酸イオン(MoO4 2-)を含むタングステン酸アルカリ金属塩水溶液などの溶液に硫酸または塩酸などの酸を加えてpHを下げることによって製造することができるが、硫酸を用いることが好ましい。
次に、図5(c)に示すように、第1の陰イオン交換樹脂1と第2の陰イオン交換樹脂2との連結を解除することによって、第1の陰イオン交換樹脂1と第2の陰イオン交換樹脂2とを分離する。そして、分離後の第1の陰イオン交換樹脂1にアンモニウムイオンを含む水溶液である溶離液を通液させる。そして、第1の陰イオン交換樹脂1からタングステン酸アンモニウム((NH4)2WO4)水溶液を流出させる。
ここで、第1の陰イオン交換樹脂1には不純物であるMoが吸着されていないため、第1の陰イオン交換樹脂1からは高純度のタングステン酸アンモニウム水溶液を得ることができる。
また、上記の溶離後の第1の陰イオン交換樹脂1に残存するモノW酸イオンは、溶離液中の塩化アンモニウム水溶液と下記のイオン交換反応を行なうため、図5(d)に示すように、第1の陰イオン交換樹脂1には塩化物イオン(Cl-)が吸着することになる。なお、下記の反応式において、Rは陰イオン交換樹脂の吸着サイトを示している。
R2−WO4+2NH4Cl→(NH4)2WO4+2R−Cl
また、上記においては、溶離液として、アンモニウムイオンを含む水溶液を用いて1段階でモノW酸イオンを溶離させた場合について説明したが、第1段階目の溶離液としてアンモニウムイオンを含む水溶液を通液させた後に、第2段階目の溶離液としてアンモニア水に加えて、塩化物イオン、硝酸イオンおよび硫酸イオンからなる群から選択された少なくとも1種を含む溶液を通液させる2段階溶離を用いることが好ましい。この場合には、タングステンの回収率をより高くすることができる。
このような2段階溶離としては、第1段階目の溶離液として塩基性のアンモニア水(NH4OH)を通液させた後に、第2段階目の溶離液として塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液(NH4Cl+NH4OH)を通液させる2段階溶離を用いることが好ましい。この場合には第1段階目のアンモニア水の通液により陰イオン交換樹脂に吸着されているポリW酸イオンをモノW酸イオンに分解してある程度の量のモノW酸イオンを回収することができる。そして、その後の第2段階目の塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液の通液により、陰イオン交換樹脂に残存しているモノW酸イオンを回収するとともに陰イオン交換樹脂に塩化物イオンを吸着させて陰イオン交換樹脂を再生することができる。再生した陰イオン交換樹脂は上記の第1の陰イオン交換樹脂1および第2の陰イオン交換樹脂2として再利用することが可能である。また、上記の2段階溶離を用いた場合には、溶離時の結晶の析出を抑制することができ、モノW酸イオンの回収量を増やすこともできる。なお、2段階目の溶離液としては、塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液(NH4Cl+NH4OH)以外にも、硫酸アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液((NH4)2SO4+NH4OH)、または硝酸アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液(NH4NO3+NH4OH)などを用いてもよい。
その後、図5(e)に示すように、第1の陰イオン交換樹脂1と第2の陰イオン交換樹脂2とを再度連結して1本の再連結陰イオン交換樹脂を形成する。ここで、第1の陰イオン交換樹脂1と第2の陰イオン交換樹脂2との連結は、第2の陰イオン交換樹脂2を上流側とし、第1の陰イオン交換樹脂1を下流側として、第2の陰イオン交換樹脂2から第1の陰イオン交換樹脂1に通液するように行なわれる。そして、図5(b)と同様に、W,Mo含有溶液を第2の陰イオン交換樹脂2から第1の陰イオン交換樹脂1に通液させる。これにより、図5(e)に示すように、第2の陰イオン交換樹脂2の下流側の端にまで押し出されて吸着しているMoは第1の陰イオン交換樹脂1の外部に押し出されて分離される。なお、第1の陰イオン交換樹脂1から流出した溶液は回収される。
その後、第1の陰イオン交換樹脂1と第2の陰イオン交換樹脂2との連結を解除することによって、第1の陰イオン交換樹脂1と第2の陰イオン交換樹脂2とを分離する。そして、上記と同様にして、分離後の第2の陰イオン交換樹脂2にアンモニウムイオンを含む水溶液である溶離液を通液させる。これにより、第2の陰イオン交換樹脂2から溶離したモノW酸イオンとアンモニウムイオンを含む溶離液中のアンモニウムイオンとが反応して第2の陰イオン交換樹脂2からタングステン酸アンモニウム((NH4)2WO4)水溶液が流出する。ここでも上記と同様の2段階溶離を用いてもよいことは言うまでもない。
このように、実施の形態3においては、(i)陰イオン交換樹脂の連結、(ii)W,Mo含有溶液の通液、(iii)陰イオン交換樹脂の分離、および(iv)モノW酸イオンの溶離の工程を繰り返し行なうことにより、Moを不純物として含むW,Mo含有溶液から、Moが分離された高純度のタングステン酸アンモニウム水溶液を製造することができる。
また、実施の形態3の方法を実施形態1および/または実施の形態2の方法と組み合わせて用いることによって、Mo、V、SiおよびAl等の不純物が除去されたさらに高純度のタングステン酸アンモニウム水溶液を製造することができる。
実施の形態3においては、第1の陰イオン交換樹脂1と第2の陰イオン交換樹脂2の2本を連結する場合について説明したが、陰イオン交換樹脂の連結本数は2本に限定されないことは言うまでもない。また、実施形態3においては、説明の便宜のため、「陰イオン交換樹脂」を連結した場合について説明しているが、「陰イオン交換樹脂」がカラムに充填された「イオン交換樹脂塔」を連結してもよい。
<実施の形態4>
図6(a)〜(e)に、実施の形態4のタングステン酸アンモニウム水溶液の製造方法を図解する模式図を示す。実施の形態4においては、ポリW酸イオンを含む溶液および溶離液を複数本連結した陰イオン交換樹脂に通液させてタングステン酸アンモニウム水溶液を回収した後に、上流側の陰イオン交換樹脂を下流側に付け替えて同様の操作を行なうことを特徴としている。
まず、図6(a)に示すように、第1の陰イオン交換樹脂1と、第2の陰イオン交換樹脂2と、第3の陰イオン交換樹脂3とを連結して1本の陰イオン交換樹脂とする。ここで、第1の陰イオン交換樹脂1、第2の陰イオン交換樹脂2および第3の陰イオン交換樹脂3の連結は、第1の陰イオン交換樹脂1を上流側とし、第3の陰イオン交換樹脂3を下流側として、第1の陰イオン交換樹脂1と第3の陰イオン交換樹脂3との間に第2の陰イオン交換樹脂2が配置されるように行なわれる。なお、第1の陰イオン交換樹脂1、第2の陰イオン交換樹脂2および第3の陰イオン交換樹脂3としてはそれぞれ、たとえば、上記で説明した陰イオン交換樹脂を適宜用いることができるが、実施の形態4においては、第1の陰イオン交換樹脂1、第2の陰イオン交換樹脂2および第3の陰イオン交換樹脂3としてそれぞれCl型陰イオン交換樹脂を用いる場合について説明する。
次に、図6(b)に示すように、ポリW酸イオンおよびMo含有ポリ酸イオンを含む溶液(図6においても「W,Mo含有溶液」と表記)を第1の陰イオン交換樹脂1側から通液させる。これにより、上流側の第1の陰イオン交換樹脂1の吸着サイトがポリW酸イオンで占められ、第1の陰イオン交換樹脂1からMo含有ポリ酸イオンおよび塩化物イオンをそれぞれ第1の陰イオン交換樹脂1の外部に押し出すことができる。また、ポリ酸溶液(W,Mo含有溶液)は、たとえば、モノW酸イオンおよびモノMo酸イオンを含むタングステン酸アルカリ金属塩水溶液などの溶液に塩酸または硫酸などの酸を加えてpHを下げることによって製造することができる。なお、第3の陰イオン交換樹脂3から流出した溶液は回収される。
次に、図6(c)に示すように、第1の陰イオン交換樹脂1、第2の陰イオン交換樹脂2および第3の陰イオン交換樹脂3の連結を解除して、第1の陰イオン交換樹脂1と、第2の陰イオン交換樹脂2と、第3の陰イオン交換樹脂3とを分離する。そして、分離後の第1の陰イオン交換樹脂1にアンモニウムイオンを含む水溶液である溶離液(ここでは、塩基性の塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液(NH4Cl+NH4OH))を通液させる。これにより、ポリW酸イオンよりもモノW酸イオンが安定して存在し得るpH環境が提供されるとともに、ポリW酸イオンがモノW酸イオンに分解されると同時にモノW酸イオンを第1の陰イオン交換樹脂1から溶離することを可能としている。そして、第1の陰イオン交換樹脂1から溶離したモノW酸イオンとアンモニウムイオンを含む溶離液中のアンモニウムイオンとが反応して第1の陰イオン交換樹脂1からタングステン酸アンモニウム((NH4)2WO4)水溶液が流出する。
ここで、第1の陰イオン交換樹脂1には不純物であるMoが吸着されていないため、第1の陰イオン交換樹脂1からは高純度のタングステン酸アンモニウム水溶液を得ることができる。
また、上記の溶離後の第1の陰イオン交換樹脂1に残存するモノW酸イオンは、溶離液中の塩化アンモニウム水溶液と下記のイオン交換反応を行なうため、図7(d)に示すように、第1の陰イオン交換樹脂1には塩化物イオン(Cl-)が吸着することになる。なお、下記の反応式において、Rは陰イオン交換樹脂の吸着サイトを示している。
R2−WO4+2NH4Cl→(NH4)2WO4+2R−Cl
また、上記においては、溶離液として、アンモニウムイオンを含む水溶液を用いて1段階でモノW酸イオンを溶離させた場合について説明したが、第1段階目の溶離液としてアンモニウムイオンを含む水溶液を通液させた後に、第2段階目の溶離液として塩化物イオン、硝酸イオンおよび硫酸イオンからなる群から選択された少なくとも1種を含む溶液を通液させる2段階溶離を用いることが好ましい。この場合には、タングステンの回収率をより高くすることができる。
このような2段階溶離としては、第1段階目の溶離液として塩基性のアンモニア水(NH4OH)を通液させた後に、第2段階目の溶離液として塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液(NH4Cl+NH4OH)を通液させる2段階溶離を用いることが好ましい。この場合には第1段階目のアンモニア水の通液により陰イオン交換樹脂に吸着されているポリW酸イオンをモノW酸イオンに分解してある程度の量のモノW酸イオンを回収することができる。そして、その後の第2段階目の塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液の通液により、陰イオン交換樹脂に残存しているモノW酸イオンを回収するとともに陰イオン交換樹脂に塩化物イオンを吸着させて陰イオン交換樹脂を再生することができる。また、上記の2段階溶離を用いた場合には、溶離時の結晶の析出を抑制することができ、モノW酸イオンの回収量を増やすこともできる。なお、2段階目の溶離液としては、塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液(NH4Cl+NH4OH)以外にも、硫酸アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液((NH4)2SO4+NH4OH)、または硝酸アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液(NH4NO3+NH4OH)などを用いてもよい。
次に、図6(d)に示すように、吸着サイトが塩化物イオンで占められてCl型陰イオン交換樹脂として再生された第1の陰イオン交換樹脂1は下流側に移動させられる。
そして、図6(e)に示すように、第1の陰イオン交換樹脂1と第2の陰イオン交換樹脂2と第3の陰イオン交換樹脂3とを再度連結して1本の再連結陰イオン交換樹脂が形成される。ここで、第1の陰イオン交換樹脂1と第2の陰イオン交換樹脂2と第3の陰イオン交換樹脂3との再連結は、第2の陰イオン交換樹脂2を上流側とし、第1の陰イオン交換樹脂1を下流側として、第2の陰イオン交換樹脂2と第1の陰イオン交換樹脂1との間に第3の陰イオン交換樹脂3が配置されるようにして行なわれる。
そして、W,Mo含有溶液を第2の陰イオン交換樹脂2側から通液させる。これにより、図6(e)に示すように、第1の陰イオン交換樹脂1の下流側の端にまで押し出されて吸着しているMoは第1の陰イオン交換樹脂1の外部に押し出されて分離され、回収される。
その後、図6(e)に示す工程後においては、以下の工程が行なわれる。すなわち、図6(e)に示す工程後に、第1の陰イオン交換樹脂1と、第2の陰イオン交換樹脂2と、第3の陰イオン交換樹脂3とを分離し、吸着サイトがポリW酸イオンで占められた第2の陰イオン交換樹脂2にアンモニウムイオンを含む水溶液からなる溶離液(たとえば(NH4Cl+NH4OH))を通液させる。これにより、第2の陰イオン交換樹脂2からタングステン酸アンモニウム水溶液を流出させるともに、第2の陰イオン交換樹脂2をCl型陰イオン交換樹脂として再生する。ここでも上記と同様の2段階溶離を用いてもよいことは言うまでもない。
そして、今度は、再生後の第2の陰イオン交換樹脂2を下流側に配置して、第3の陰イオン交換樹脂3、第1の陰イオン交換樹脂1および第2の陰イオン交換樹脂2の順に再度連結し、W,Mo含有溶液を第3の陰イオン交換樹脂3側から通液させる。これにより、第3の陰イオン交換樹脂3の吸着サイトをポリW酸イオンで占める。
その後、第1の陰イオン交換樹脂1と、第2の陰イオン交換樹脂2と、第3の陰イオン交換樹脂3とを分離し、吸着サイトがポリW酸イオンで占められた第3の陰イオン交換樹脂3に溶離液(たとえば(NH4Cl+NH4OH))を通液させることによって、第3の陰イオン交換樹脂3からタングステン酸アンモニウム水溶液を流出させるともに、第3の陰イオン交換樹脂3をCl型陰イオン交換樹脂として再生する。ここでも上記と同様の2段階溶離を用いてもよいことは言うまでもない。
今度は、再生後の第3の陰イオン交換樹脂3を下流側に配置して、第1の陰イオン交換樹脂1、第2の陰イオン交換樹脂2および第3の陰イオン交換樹脂3の順に連結し、W,Mo含有溶液を第1の陰イオン交換樹脂1側から通液させる。
以上のように、タングステン酸アンモニウム水溶液の回収後にCl型陰イオン交換樹脂として再生された陰イオン交換樹脂を順番に下流側に付け替えていくことによって、メリーゴーランドのように陰イオン交換樹脂を使い回すことで、Moを除去しながら高純度のタングステン酸アンモニウム水溶液を製造することができる。
実施の形態4においては、第1の陰イオン交換樹脂1と第2の陰イオン交換樹脂2と第3の陰イオン交換樹脂との3本を連結する場合について説明したが、陰イオン交換樹脂の連結本数は3本に限定されないことは言うまでもない。
また、実施の形態4における上記以外の説明は実施の形態3と同様であるため、その説明については省略する。
<実施例1>
(1)H2SO4系におけるポリ酸イオンの吸着
まず、pHが9以上のタングステン酸ナトリウム水溶液(サンプル1)を用意し、サンプル1に塩酸を加えることによりpHを6に調整したポリタングステン酸ナトリウム水溶液(サンプル2)およびサンプル1に硫酸を加えることによりpHを6に調整したポリタングステン酸ナトリウム水溶液(サンプル3)をそれぞれ調製した。また、サンプル2およびサンプル3については、pH調整後のポリタングステン酸ナトリウム水溶液のWO3濃度(以下、特に断りがない限り、「WO3濃度」のことを「W濃度」という。)が70g/L(ポリタングステン酸ナトリウム水溶液1リットル当たりWO3を70g含む。)となるようにその濃度を調整した。
次に、上記で調製したサンプル1〜3について、それぞれ、Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂をガラスカラムに充填した樹脂充填塔(内径26mmのガラスカラムに当該陰イオン交換樹脂を350mL充填したもの)に通液した。ここで、通液時の空間速度は3.9hr-1に調整した。
以上の条件で通液させたときのサンプル1〜3の陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合と、陰イオン交換樹脂の飽和度との関係を図7に示す。なお、図7において、縦軸が陰イオン交換樹脂から流出した液の飽和度(%)を示し、横軸が陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対するサンプル1〜3の通液量の割合(すなわち、横軸の増加にしたがって時間が経過することを示す。以下同じ。)を示している。また、飽和度(%)は、サンプル1〜3の各水溶液中のW濃度の初期濃度C0を100としたときの流出液中に含まれるW濃度Cを表している。
図7に示すように、硫酸を用いてpHが調製されたサンプル3は、サンプル1およびサンプル2と比較して貫流点および吸着容量が大幅に増加しており、飽和吸着量で比較すると、サンプル1の約4倍、サンプル2の約1.5〜2倍となっていた。
図7に示す結果から、サンプル3においては、サンプル2とは異なるイオン種が形成されていることが考えられる。陰イオン交換樹脂に対する吸着容量を考慮すると、サンプル3のイオン種はW3SyOz 2-等であると推測される。
(2)H2SO4系におけるポリ酸イオンの溶離
(a)1段階溶離
上記で調製したサンプル3をCl型強塩基性陰イオン交換樹脂をガラスカラムに充填した樹脂充填塔(内径26mmのガラスカラムに当該陰イオン交換樹脂を350mL充填したもの)に通液した。この通液は、空間速度SV(SVは流速を表わす単位で、体積流速を樹脂体積で割った値;以下同じ。)を6hr-1として行ない、飽和吸着するまで行なった。なお、樹脂充填塔を通過した流出液のW濃度がサンプル3中のW濃度と同程度となった場合に飽和吸着とした。
次に、2mol/Lのアンモニア濃度のアンモニア水を上記の飽和吸着後の陰イオン交換樹脂に接触させることによりモノW酸イオンを溶離させた。
そして、樹脂充填塔から流出した流出液中のW濃度(g/L)をICP発光分光分析法により算出した。その結果を図8に示す。図8は、サンプル3の陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合と、流出液中のW濃度との関係を示している。なお、図8の縦軸が流出液中のW濃度(g/L)を示しており、横軸がサンプル3の陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合を示している。
図8に示すように、W濃度はサンプル3の通液量の増加に伴って良好な曲線を描くように変化しており、塩酸を用いてpH調整した場合には2mol/Lのアンモニア水では沈殿を生成したが、硫酸を用いてpH調整した場合は低濃度(2mol/L)のアンモニア水を用いた場合でも(NH4)10W12O41の沈殿を生じさせることなくモノW酸イオンの溶離が可能であることが確認された。これは、硫酸を用いてpH調整して形成されたイオン種が塩酸を用いてpH調整して形成されたイオン種と比べて、流出液中で安定であることを示している。
(b)2段階溶離
ポリW酸イオンを循環吸着させて飽和度をほぼ100%としたCl型強塩基性陰イオン交換樹脂を充填した樹脂充填塔に、(i)アンモニア水(アンモニア濃度:2mol/L)および(ii)塩化アンモニウム水溶液(塩化アンモニウム濃度:2.7mol/L)とアンモニア水(アンモニア濃度:2mol/L)との混合水溶液とをこの順序でそれぞれ空間速度SV=3hr-1(LV=51cm/hr)の条件で通液させて2段階溶離を行なった。
そして、樹脂充填塔から流出した流出液中のW濃度(g/L)をICP発光分光分析法により算出するとともに、その算出結果から溶離率(%)(陰イオン交換樹脂に吸着されたポリW酸イオンが溶離した割合)を算出した。その結果を図9に示す。図9は、樹脂充填塔を通過した液体の陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合と、流出液中のW濃度および溶離率との関係を示している。なお、図9において、縦軸が流出液中のW濃度(g/L)および溶離率(%)をそれぞれ示しており、横軸が樹脂充填塔を通過した液体の陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合を示している。また、図9中の破線が流出液中のW濃度(g/L)の変化を示しており、実線が溶離率(%)の変化を示している。
図9に示すように、上記の2段階溶離後の溶離率は100%程度となっており、飽和度がほぼ100%であった陰イオン交換樹脂に吸着したポリW酸イオンをほぼ完全に溶離できたことが確認された。この結果は、第1段階目の溶離において、アンモニア濃度が2mol/L程度の低濃度のアンモニア水を用いた場合でも、ポリW酸イオンがモノW酸イオンに完全に分解できていることを示している。
(c)アンモニア水による溶離のみを用いた吸着・溶離サイクル
まず、pHが9以上であってW濃度が100g/Lであるタングステン酸ナトリウム水溶液に硫酸を加えてpHを6.5に調整した。
次に、上記のようにpHを調整した水溶液をSO4型強塩基性陰イオン交換樹脂をガラスカラムに充填した樹脂充填塔(内径26mmのガラスカラムに当該陰イオン交換樹脂を450mL充填したもの)に通液した。ここで、通液時の空間速度SVは6hr-1に調整した。
図10に、以上の条件で通液させたときの当該水溶液の陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合と、陰イオン交換樹脂から流出した水溶液中に含まれるW濃度(g/L)およびモノマー換算吸着率(%)との関係を示す。図10において、縦軸がW濃度(g/L)およびモノマー換算吸着率(%)をそれぞれ示し、横軸が水溶液の陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合を示している。なお、図10において、W濃度(g/L)は陰イオン交換樹脂から流出した水溶液中に含まれるW濃度(g/L)のことであり、モノマー換算吸着率(%)は陰イオン交換樹脂の吸着可能なサイトにモノW酸イオンがすべて吸着したと仮定したときのタングステン原子の個数に対する実際に吸着しているタングステン原子の個数の割合(%)を示している。モノマー換算吸着率(%)は、樹脂に吸着したタングステン量と、同体積のイオン交換容量から算出したモノW酸イオンの交換容量との商を算出することにより求めることができる。
図10に示す結果から、硫酸によって当該水溶液のpHを6.5に調整することによって非常に高効率にタングステンの吸着が可能であることがわかる。しかしながら、貫流点までの通液量ではモノマー換算吸着率で160%程度であり、陰イオン交換樹脂のイオン交換可能量を十分に活かすことができない。この傾向は、当該水溶液中の酸化タングステン濃度(W濃度)が上昇するとさらに顕著になる。そのため、通液による吸着において、高濃度のタングステン酸ナトリウム水溶液を用いてさらに効率的にタングステンを吸着させることを目的として、樹脂充填塔から流出した水溶液に硫酸を加えてpHを6.5に調整して、再度、樹脂充填塔に通液させる循環吸着について検討した。
図11に、W濃度が130g/Lのタングステン酸ナトリウム水溶液を用いたこと以外は上記と同様にして循環吸着を行なったときの、循環時間(min)と、陰イオン交換樹脂に実際に吸着したW濃度(g/L)およびモノマー換算吸着率(%)との関係を示す。なお、図11において、縦軸がW濃度(g/L)およびモノマー換算吸着率(%)をそれぞれ示し、横軸が循環時間(min)を示している。また、図11におけるW濃度(g/L)は循環溶液中のW濃度(g/L)を示している。
図11に示す結果から、循環吸着によれば、水溶液中のタングステンのロスを少なくして陰イオン交換樹脂にタングステンを吸着できることがわかる。また、循環吸着によれば、水溶液中のW濃度を上昇させても、陰イオン交換樹脂へのタングステンの吸着量やタングステンのロスに大きな変化が起こらない。そのため、切削工具等の超硬合金を硝酸ナトリウム等の溶融塩に溶解させた後に水で溶解して作製されるタングステン酸ナトリウム水溶液の作製のための水の使用量を低減することができる。これは、ポリ酸Wイオンの陰イオン交換樹脂におけるイオン交換順位が水溶液中に共存する硫酸イオンと比較して高いため、一度吸着したポリ酸Wイオンが硫酸イオンによってイオン交換されることが少なく、結果的に吸着するタングステン量が増大するためと考えられる。
また、W濃度が120g/Lのタングステン酸ナトリウム水溶液を硫酸によりpHを6.5に調整した水溶液をWO4型の陰イオン交換樹脂が充填された樹脂充填塔に空間速度SV=3hr-1の条件で循環吸着を行なうことなく通液を行なった。そして、当該水溶液の陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合と、陰イオン交換樹脂に実際に吸着したW濃度(g/L)およびモノマー換算吸着率(%)との関係について調査した。その結果を図12に示す。なお、図12において、縦軸がW濃度(g/L)およびモノマー換算吸着率(%)をそれぞれ示し、横軸が水溶液の陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合を示している。また、図12におけるW濃度(g/L)は陰イオン交換樹脂から流出した水溶液中に含まれるW濃度(g/L)である。
図12に示すように、通液量の増大とともに、陰イオン交換樹脂におけるポリW酸イオンの吸着量が増大していくことが確認された。この場合には、陰イオン交換樹脂に吸着していたモノW酸イオンが陰イオン交換樹脂から溶離するために多量のタングステンのロスが生じると考えられる。
これに対して、循環吸着は、樹脂充填塔から流出した水溶液を樹脂充填塔に再度通液することになるため、樹脂充填塔から溶離されるイオン種はモノW酸イオンであってもよい。すなわち、樹脂充填塔に充填される陰イオン交換樹脂の初期のイオン型がCl型やSO4型ではなく、WO4型の場合においてもタングステンのロスを低減することができる。
また、たとえば図9に示すように、硫酸を用いてpHを調整したときのモノW酸イオンの約2/3の量は、第1段階目のアンモニア水によるポリW酸イオンの分解により溶離される。この第1段階目のアンモニア水による溶離後に陰イオン交換樹脂に吸着しているのはモノW酸イオンである。したがって、WO4型の陰イオン交換樹脂にポリW酸イオンを循環吸着させることによって吸着および溶離のサイクルが成立すると考えられる。本サイクルにおいて用いられる溶離液としては、アンモニア水のみを用いることができるため、高価な塩化アンモニウム水溶液を用いる必要がなくなることから、溶離液の薬剤コストの大幅な低減が可能となる。
図13に、W濃度が120g/Lのタングステン酸ナトリウム水溶液を硫酸によりpHを6.5に調整した水溶液をWO4型の陰イオン交換樹脂が充填された樹脂充填塔に空間速度SV=6hr-1の条件で循環吸着させたときの、循環時間(min)と、陰イオン交換樹脂に実際に吸着したW濃度(g/L)およびモノマー換算吸着率(%)との関係を示す。図13において、縦軸がW濃度(g/L)およびモノマー換算吸着率(%)をそれぞれ示し、横軸が循環時間(min)を示している。また、図13におけるW濃度(g/L)は循環溶液中のW濃度(g/L)を示している。また、陰イオン交換樹脂としてWO4型の陰イオン交換樹脂を用いてスタートさせている。
図13に示すように、WO4型の陰イオン交換樹脂を用いた循環吸着においても、図11に示すSO4型の陰イオン交換樹脂を用いた循環吸着と同様の挙動を示すことが確認された。
図14に、ポリW酸イオンを吸着させた陰イオン交換樹脂を充填した樹脂充填塔にアンモニア濃度が2mol/Lであるアンモニア水を空間速度SV=6hr-1の条件で通液させたときの、陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合と、樹脂充填塔から流出した流出液中のW濃度(g/L)との関係を示す。
図14に示すように、W濃度は通液量の増加に伴って良好な曲線を描くように変化しており、陰イオン交換樹脂への実質的な吸着・溶離量はモノW酸イオンの場合と比較して140%程度であった。
上記の実験結果は、タングステン酸ナトリウム水溶液に硫酸を加えてそのpHを3.5以上8以下とした場合、特に6以上7以下とした場合にも同様の結果を示すものと考えられる。
<実施例2>
(1)タングステンナトリウム水溶液からバナジウムを分離する方法の具体例
バナジウムが含まれる超硬合金スクラップ由来のW濃度が35g/Lであって、バナジウムが110mg/L程度含まれているpH12のタングステン酸ナトリウム水溶液を準備した。
このタングステン酸ナトリウム水溶液に10Nの塩酸を加えてpHを8に調整することによって、W−V複合ポリ酸イオンを生成した。
上記のpH8に調整された水溶液を50mlのポーラス型強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl型のダイヤイオンPA308(三菱化学製))に対してSV=20hr-1(12ml/min)の流速で上方向より室温で通液させ、陰イオン交換樹脂から流出した流出液中のW濃度およびバナジウム(V)濃度をICP発光分光分析法により測定した。そして、測定結果から流出液中のそれぞれの飽和度(上記のpH8に調整された水溶液中のW濃度およびV濃度のそれぞれの初期濃度C0を100としたときの流出液中に含まれるW濃度およびV濃度のそれぞれの濃度C)を算出した。その結果を図15に示す。なお、図15の縦軸が飽和度(C/C0)を示しており、横軸が当該水溶液の陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合を示している。
図15に示すように、図15の横軸の通液量/樹脂体積が0〜50までの範囲がバナジウムが除去されて純化されたタングステン酸ナトリウム水溶液の部分であって、その純化されたタングステン酸ナトリウム水溶液の回収量は約4Lであった。また、上記の水溶液の通液開始後0.3L〜2.5Lまでの2.2Lの範囲においては、流出液のW濃度が通液前の水溶液のW濃度と同濃度であり、流出液のW濃度(ここでは「WO3濃度」ではなく「W濃度」)に対するV濃度の比(V/W比)は、3.2×10-5以下であった。
次に、表1に示すW濃度(g/L)およびV濃度(mg/L)のタングステン酸ナトリウム水溶液を酸によってそれぞれ表1に示すpH値に調整し、その後、当該水溶液を空間速度SV=20hr-1の条件で、約50mlのポーラス型強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl型のダイヤイオンPA308(三菱化学製))の樹脂体積の20倍量に相当する量を通液させた。そして、ポーラス型強塩基性陰イオン交換樹脂を通過した流出液中のW濃度およびV濃度をそれぞれICP発光分光分析法(ICP−AES)により測定し、その測定結果から流出液中のW濃度(ここでは「WO3濃度」ではなく「W濃度」)に対するV濃度の比(V/W比)を算出した。その結果を表1に示す。
なお、タングステン酸ナトリウム水溶液の調製およびpHの調整は、以下の(i)〜(iii)の手順で行なった。
(i)タングステン酸ナトリウムを水に溶解させてタングステン酸ナトリウム水溶液を調製する。
(ii)ICP−AESによりタングステン酸ナトリウム水溶液(WO4 2-およびVO3-含有溶液)のW濃度(g/L)およびV濃度(mg/L)を測定する。
(iii)pHを調整してpHメーターによりpHを確認して、タングステン酸ナトリウム水溶液(WO4 2-およびW3V3O19 5-含有溶液)を得る。
表1のサンプル4〜9および15〜17のV/W比を比較すれば明らかなように、流出液のV/W比を低減する観点からは、タングステン酸ナトリウム水溶液のpHは7以上9以下であることが好ましく、8.2以下の範囲内に調整されることがより好ましい。これは、サンプル15および16においてはpHが8.5以上となっているため、W−V複合ポリ酸イオンの分解が起こり、十分にVを除去することができないことによるものと考えられる。また、サンプル17においては、pHが6.0まで低下しているが、流出液のV/W比が高くなっている。これは、タングステン酸ナトリウム水溶液のpHが6.0まで低下した場合には、ポリW酸イオンの形成が起こることが原因であると考えられる。ポリW酸イオンのイオン交換順位は、モノW酸イオンと比較して高く、このイオン種が水溶液中に含まれるために樹脂に吸着したW−V複合ポリ酸イオンがポリW酸イオンによって押し出され、漏出するためと考えられる。
また、表1のサンプル10〜12および18〜19のV/W比を比較すれば明らかなように、通液前のタングステン酸ナトリウム水溶液のW濃度(g/L)が20g/L以上150g/L以下の場合には流出液のV/W比が低くなっている。これは、水溶液に高濃度のタングステンが含まれている場合、pH8.0の条件においてもポリW酸イオンが生成することが原因であると推測される。ポリW酸イオンのイオン交換順位は、モノW酸イオンと比較して高く、このイオン種が水溶液中に含まれるために樹脂に吸着したW−V複合ポリ酸イオンが漏出するためと考えられる。
また、表1のサンプル13に示すように通液前のタングステン酸ナトリウム水溶液のV濃度が1000(mg/L)と非常に高濃度であった場合、およびサンプル14に示すように通液前のタングステン酸ナトリウム水溶液のW濃度が15(mg/L)と非常に低濃度であった場合でも、通液前のタングステン酸ナトリウム水溶液のW濃度(g/L)が20g/L以上150g/L以下の範囲内にあれば効率的にVを除去できることがわかる。
図16に、W−V複合ポリ酸イオンを吸着した陰イオン交換樹脂にNaOH水溶液を通液した後に、NaCl水溶液を通液する2段階溶離を行なったときの、陰イオン交換樹脂から流出した流出液のW濃度(g/L)およびV濃度(mg/L)のそれぞれの変化を示す。図16の縦軸がW濃度(g/L)およびV濃度(mg/L)を示し、横軸が陰イオン交換樹脂の樹脂体積に対する通液量の割合を示している。なお、吸着条件および溶離条件は以下に示すとおりである。
<吸着条件>
水溶液:タングステン酸ナトリウム水溶液のpHを8に調整した水溶液
陰イオン交換樹脂:ポーラス型強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl型のダイヤイオンPA308(三菱化学製))
SV(1時間あたりに陰イオン交換樹脂を通過する水溶液/樹脂体積):20hr-1
樹脂体積:30ml
通液量:3L
水溶液中のW濃度:35g/L(152mmol/L)
水溶液中のV濃度:200mg/L(4mmol/L)
<溶離条件>
(a)第1段階目
NaOH水溶液中のNaOH濃度:1mol/L
NaOH水溶液の通液量:900mL
NaOH水溶液のSV:2hr-1
(b)第2段階目
NaCl水溶液中のNaCl濃度:2.5mol/L
NaCl水溶液の通液量:900mL
NaCl水溶液のSV:2hr-1
上記の吸着に用いた水溶液中に含まれるW(WO3)とVのモル比は約150:4であるのに対して、流出液中に含まれるW(WO3)とVは完全に分離されている。したがって、NaOH水溶液によって溶離するVを含む水溶液およびNaCl水溶液によって溶離するW(WO3)を含む水溶液については、それぞれ、VおよびWが再利用可能な高純度水溶液とすることができる。
陰イオン交換樹脂に吸着したW−V複合ポリ酸イオンは、たとえばpH8.5以上に調整した塩基性溶液中において再びモノW酸イオンとモノV酸イオンに分解する。そのため、W−V複合ポリ酸イオンを吸着した陰イオン交換樹脂を塩基性溶液に浸す、あるいは通液させることによってW−V複合ポリ酸イオンを分解し、陰イオン交換樹脂に吸着したWおよびVを溶離することができる。さらに、陰イオン交換樹脂に残存するVの溶離のため、OH-に代表されるアニオン種を含む、例えばNaOH、KOHまたはNH4OHなどの水溶液を陰イオン交換樹脂に通液させることでほぼ100%のVの溶離が可能となる。
一方、WはOH-によって陰イオン交換樹脂から溶離されることはなく、陰イオン交換樹脂上に留まる。この陰イオン交換樹脂に対してCl-に代表されるアニオン種を含む、例えばNaCl、KClまたはNH4Clなどの水溶液を陰イオン交換樹脂に通液させることでほぼ100%のWの溶離が可能となり、WとVが高度に分離された水溶液を得ることができる。そのため、上記のようにして除去したVは、資源として再び利用することが可能である。
(2)陰イオン交換樹脂の選定
陰イオン交換樹脂には強塩基性陰イオン交換樹脂が適している。これは、W3V3O19 5-の強塩基性陰イオン交換樹脂に対するイオン交換順位がWO4 2-と比べて非常に高い性質を利用してWとVとを分離しているためである。
なお、陰イオン交換樹脂へのVの吸着は、陰イオン交換樹脂が充填された樹脂充填塔にVを含むタングステン酸ナトリウム水溶液を通液させることで水溶液と陰イオン交換樹脂とを接触させることにより行なわれることが好ましい。しかしながら、それ以外にも、例えばVを含むタングステン酸ナトリウム水溶液を満たした容器中に塩基性陰イオン交換樹脂を浸漬させることによっても行なってもよい。
上記の陰イオン交換樹脂には、水溶液中に存在するW3V3O19 5-に代表されるW−V複合ポリ酸イオンが選択的に吸着される。これにより、陰イオン交換樹脂を通過させて得られる流出液のV/W(ここでは「WO3」ではなく「W」)比をたとえば1.0×10-4以下とすることができる。
上記のようにしてVが分離された後のタングステン酸ナトリウム水溶液をタングステン酸アンモニウム水溶液に変換した後、濃縮して高純度のパラタングステン酸アンモニウム結晶とし、各種のタングステン材料の原料として用いることができる。
(3)陰イオン交換樹脂との接触
陰イオン交換樹脂の必要体積は、陰イオン交換樹脂の種類およびタングステン酸ナトリウム水溶液中のV濃度によって異なるが、たとえば、タングステン酸ナトリウム水溶液中のV濃度が100mg/L(2mmol/L)であり、陰イオン交換樹脂の交換容量が1meq/mlである場合には、10mlの陰イオン交換樹脂を用いて約3000mlのタングステン酸ナトリウム水溶液を処理することができる。これは、陰イオン交換樹脂のW3V3O19 5-に対するイオン交換容量が10mlあたり6mmolとなるためである。そのため、処理対象とする溶液量の1/60程度の体積の陰イオン交換樹脂に対して水溶液を通液させることでVの選択除去を完了することができる。陰イオン交換樹脂に対する通液方向は上下どちらでも大きな変化はなく、通液速度についても処理効率に大きな影響は与えない。
<実施例3>
図17に示すように、W濃度が116g/Lであって、Mo濃度が356ppm(Mo質量/W質量(ここでは「WO3」の質量ではなく「W」の質量))であるpH6.5のタングステン酸ナトリウム水溶液(試料溶液)をCl型強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂(商品名:IRA900J、ローム・アンフド・ハース社製)を1mの高さのガラスカラムに充填したイオン交換樹脂塔21に空間速度SV=2hr-1で通液させた。そして、イオン交換樹脂塔21から流出した流出液中のMo濃度(mg/L)をICP−AESにより測定し、その測定結果からMoの除去率(%)を算出した。その結果を図18に示す。なお、図18の縦軸が流出液中のMo濃度(mg/L)およびMoの除去率(%)を示し、横軸が樹脂体積に対する通液量の割合を示している。
図18に示すように、実施例3においては、陰イオン交換樹脂に通液するのみで、Moの除去が可能となることが確認された。なお、試料溶液のpHが6.5である場合には試料溶液中にはポリW酸イオンおよびMo含有ポリ酸イオンが生じているものと考えられる。また、上記の結果から、試料溶液のpHが少なくとも3.5以上8以下の範囲内、特に6以上7以下の場合に試料溶液中にはポリW酸イオンおよびMo含有ポリ酸イオンが生じているものと考えられる。
<実施例4>
図19に示すように、W濃度が120g/Lであって、Mo濃度が300ppm(Mo質量/W質量(ここでは「WO3」の質量ではなく「W」の質量))であるpH6.5のタングステン酸ナトリウム水溶液(試料溶液)をCl型強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl型強塩基性陰イオン交換樹脂(商品名:IRA900J、ローム・アンフド・ハース社製)を1mの高さのガラスカラムに充填したイオン交換樹脂塔31,32を2本連結したものに空間速度SV=2hr-1で通液させた。
そして、2本目のイオン交換樹脂塔32から流出した流出液中のMo濃度を測定し、図18のデータと組み合わせることによって、1本目のイオン交換樹脂塔31におけるMo飽和度(C/C0)、2本目のイオン交換樹脂塔32におけるMo飽和度(C/C0)ならびに1本目および2本目のイオン交換樹脂塔31,32の総合におけるW飽和度(C/C0)をそれぞれ算出した。その結果を図20〜図21に示す。なお、飽和度は、試料溶液中のMo濃度またはW濃度(C0)に対するイオン交換樹脂塔31,32から流出される流出液中のMo濃度またはW濃度(C)の割合を示している。
なお、図20は、1本目のイオン交換樹脂塔31および2本目のイオン交換樹脂塔31におけるMo飽和度(C/C0)と、樹脂体積に対する通液量の割合との関係を示している。図20の縦軸がMo飽和度(C/C0)を示し、横軸が樹脂体積に対する通液量の割合を示している。また、図20の縦軸のMo飽和度(C/C0)は1を超えており、流出液中に含まれるMo濃度が試料溶液のMo濃度よりも高くなっていることから試料溶液からMoの除去が行われていることを表わしている。
また、図21は、1本目のイオン交換樹脂塔31におけるMo飽和度(C/C0)および1本目および2本目のイオン交換樹脂塔31,32の総合におけるW飽和度(C/C0)と、樹脂体積に対する通液量の割合との関係を示している。図21の縦軸がMo飽和度(C/C0)およびW飽和度(C/C0)を示し、横軸が樹脂体積に対する通液量の割合を示している。また、図21の縦軸のW飽和度(C/C0)は2本目のイオン交換樹脂塔32からWが流出してWのロスが発生していることを表わしている。なお、図21の縦軸のMo飽和度(C/C0)は図20の縦軸のMo飽和度(C/C0)と同じである。
また、実施例4における上記のSVおよび通液量(通液量/樹脂体積)はそれぞれ1本のイオン交換樹脂塔における樹脂体積(550ml)として計算している。
そして、実施例4における実験後に、1本目のイオン交換樹脂塔31と、2本目のイオン交換樹脂塔32との連結を切り離し、1本目のイオン交換樹脂塔31のみに塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液を通液させて溶離処理を行なった。その結果、ポリW酸イオンはモノマー換算(陰イオン交換樹脂の吸着可能なサイトにモノW酸イオンがすべて吸着したと仮定したときのタングステン原子の個数に対する実際に吸着しているタングステン原子の個数の割合)で317%吸着しており、Moは25ppm(Mo質量/W質量(ここでは「WO3」の質量ではなく「W」の質量))程度の量が吸着していることが確認された。
また、上記で切り離された2本目のイオン交換樹脂塔32のみに塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液を通液させて溶離処理を行なったところ、ポリW酸イオンはモノマー換算で223%吸着しており、Moは231ppm(Mo質量/W質量(ここでは「WO3」の質量ではなく「W」の質量))程度の量が吸着していることが確認された。
以上の結果から、pH6.5のタングステン酸ナトリウム水溶液においては、ポリW酸イオンと、Mo含有ポリ酸イオンが含有されていると考えられるが、Mo含有ポリ酸イオンはポリW酸イオンと比較して陰イオン交換樹脂に対するイオン交換順位が低いために、試料溶液の通液を継続すると、次第にイオン交換樹脂交換塔の下流側に押し出されていくことが確認された。また、上記の結果から、試料溶液のpHが少なくとも3.5以上8以下の範囲内、特に6以上7以下の場合にも上記と同様の結果が得られるものと考えられる。
<実施例5>
試料溶液の通液速度を空間速度SV=1hr-1としたこと以外は、実施例4と同様にしてMo飽和度(C/C0)およびW飽和度(C/C0)と、樹脂体積に対する通液量の割合との関係を調査した。その結果を図22に示す。図22のMo飽和度(C/C0)およびW飽和度(C/C0)を示し、横軸が樹脂体積に対する通液量の割合を示している。また、実施例5における上記のSVおよび通液量(通液量/樹脂体積)もそれぞれ1本のイオン交換樹脂塔における樹脂体積(550ml)として計算している。また、図22には、イオン交換樹脂塔からの流出液の導電率(mS/cm)の変化も示している。
そして、上記の通液後のイオン交換樹脂塔に塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液を通液させて溶離処理を行ない、イオン交換樹脂塔から流出した流出液のMo濃度およびW濃度をICP−AESにより測定したところ、流出液中のMo濃度は23ppm(Mo質量/W質量(ここでは「WO3」の質量ではなく「W」の質量))であった。これは、実施例5におけるMoの除去率(1本目のイオン交換樹脂塔31に残存しているMo濃度/試料溶液のMo濃度;以下同じ。)が約92%であることを示している。そして、当該流出液中のW濃度からWのロス(2本目のイオン交換樹脂塔32から流出したW質量(ここでは「WO3」の質量ではなく「W」の質量)/イオン交換樹脂塔に導入された全W質量(ここでは「WO3」の質量ではなく「W」の質量);以下同じ。)は約3%であることが確認された。また、上記の結果から、試料溶液のpHが少なくとも3.5以上8以下の範囲内、特に6以上7以下の場合にも上記と同様の結果が得られるものと考えられる。
<実施例6>
実施例5からさらにWのロスを低減するために、樹脂体積の3.6倍量の試料溶液のみを通液させたこと以外は実施例6と同様にして試料溶液を通液させた。
そして、上記の通液後のイオン交換樹脂塔に塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水との混合水溶液を通液させて溶離処理を行ない、イオン交換樹脂塔から流出した流出液のMo濃度およびW濃度をICP−AESにより測定したところ、流出液中のMo濃度は60ppm(Mo質量/W質量(ここでは「WO3」の質量ではなく「W」の質量))であった。これは、実施例6におけるMoの除去率が約78%であることを示している。そして、当該流出液中のW濃度からWのロスは約1%であることが確認された。
以上の実施例5および実施例6に示した結果から、陰イオン交換樹脂がカラムに充填されたイオン交換樹脂塔を2本用いてポリW酸イオンを含むタングステン酸ナトリウム水溶液からMoの除去を行なうためには、Moの除去率90%以上を達成するためにはWのロスが約3%であり、Moの除去率を約80%程度とするためにはWのロスは約1%であることが確認された。また、上記の結果から、試料溶液のpHが少なくとも3.5以上8以下の範囲内、特に6以上7以下の場合にも上記と同様の結果が得られるものと考えられる。
<実施例7>
VおよびMoの除去において、タングステン酸ナトリウム水溶液のpHを変えたときの効果を確認した。試験は、表2に示すW濃度(g/L)およびV濃度(mg/L)のタングステン酸ナトリウム水溶液を硫酸によってそれぞれ表2に示すpH値に調整し、その後、当該水溶液を空間速度SV=20hr-1の条件で、約50mLのポーラス型強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl型のダイヤイオンPA308(三菱化学製))の樹脂体積の20倍量に相当する量を通液させた。そして、ポーラス型強塩基性陰イオン交換樹脂を通過した流出液中のW濃度およびV濃度をそれぞれICP発光分光分析法(ICP−AES)により測定し、その測定結果から流出液中のW濃度(ここでは「WO3濃度」ではなく「W濃度」)に対するV濃度の比(V/W比)を算出した。その結果を表2に示す。
表2のサンプル21〜29の結果からわかるように、タングステン酸ナトリウム水溶液のpHを3.5〜9.0の範囲内に調整することで、十分にVおよび/またはMoを除去することができることがわかる。また、サンプル30のように、水溶液のpHが非常に低くなると、WおよびMoがH2WO4、H2MoO4として沈殿する可能性があり、WとMoとの分離が困難となる。サンプル27ではMoの除去率が低下しているが、これはポリW酸イオンの形成が不十分であったためと考えられる。なお、サンプル28、29、31、32においては、Moの除去率がマイナスになっている。これは水溶液のpHが高くなり、WとMoとが共にモノ酸に変化したことでWとMoとのイオン交換順位が逆転し、図5(c)に示す第1の陰イオン交換樹脂1にMoが濃縮されたためと考えられる。
以上の結果より、タングステン酸ナトリウム水溶液のpHを3.5以上9以下とすることで、VまたはMoの除去の効果があることがわかる。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることもできる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。