本発明は、溶媒に可溶性な撥水性樹脂で被覆されてなる部材を有する燃料電池である。上述したように、撥水処理の際、従来のPTFEなどのディスパージョンによる塗布では、フッ素樹脂が溶媒に溶解していないため薄く均一に塗布対象物に塗布することが困難であった。このため、所望の撥水性を得ようとするとフッ素樹脂のディスパージョンの塗布量が多くなっていた。その結果、電池抵抗が増大するといった問題があった。
また、撥水処理に従来のPTFEなどのディスパージョンを用いた場合、高湿条件下で電池を発電させた場合に、電池の発電性能が低下する場合があった。高湿条件下で発電性能が低下する原因としては、PTFEなどのディスパージョンでは、撥水性を得るためには一定以上量の塗布量が必要となり、このため、部材の空孔を埋めてしまうことが原因であると本発明者らは考えた。
したがって、部材に撥水剤を均一に塗布することができれば、撥水剤の塗布量を減らすことができ、電池抵抗を低減可能であるとともに、部材の空孔容量を維持できるため、高湿条件下であっても、撥水性が維持され、電池性能が維持できるのではないかと考えた。本発明では、上記思想の元に、撥水処理の際に溶媒に可溶性な撥水性樹脂を用いるという解決手段に到達したものである。本発明の構成によれば、所望の撥水性能を得るための撥水剤の塗布量が少量で済むため、電池抵抗の低い燃料電池が得られ、また、高湿条件下での発電性能が向上する。
また、従来の撥水処理では、フッ素樹脂が溶媒に溶解していないので、塗布対象物に物理的にフッ素樹脂ディスパージョンを付着させた後、250℃以上の高温熱処理により樹脂を被膜化する必要があった。このような高温熱処理を追加的に必要とする方法では、大量生産の際に生産効率が低下する。本発明においては、撥水成分が溶媒に可溶性であるため、部材に撥水剤樹脂含有液を塗布・乾燥するだけで撥水コーティングが可能となり、高温の熱処理が不要となる。このため、燃料電池を製造する際の生産効率性が向上する。
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の燃料電池の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
[燃料電池]
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。
図1は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部(ガスケット)が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのアノードガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのカソードガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
なお、図1に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
[溶媒に可溶性な撥水性樹脂で被覆されてなる部材]
溶媒に可溶性な撥水性樹脂(以下、可溶性撥水性樹脂とも称する)としては、特に限定されるものではなく、フルオロ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられるが、低温で撥水性の付与が可能であることから、フルオロ(メタ)アクリレート系樹脂が好ましい。
本発明でいう「溶媒に可溶性」とは、25℃において、適宜の有機溶媒100重量部に0.05重量部以上溶解し得ることをいう。溶媒としては特に限定されず、撥水性樹脂によって適宜選択されるが、ハイドロフルオロエーテル、N−メチルピロリドン、アルコール類、水などが好ましく、ハイドロフルオロエーテルがより好ましい。ハイドロフルオロエーテルとしては、メチルノナフルオロエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、ペンタフルオロエチルメチルエーテル、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、ヘプタフルオロプロピルメチルエーテル、ヘプタフルオロイソプロピルメチルエーテルなどが挙げられる。
可溶性撥水性樹脂の重量平均分子量は、1000〜1000,000であることが好ましく、5,000〜100,000であることがより好ましい。重量平均分子量はガスクロマトグラフィーにより測定された値を採用する。
フルオロ(メタ)アクリレート系樹脂とは、(パー)フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合単位を含むものである。ここで、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを指す。フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとは、フルオロアルキル基が(メタ)アクリル酸エステルのアルコール残基部分に存在する化合物をいう。
フルオロアルキル基は、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基である。フルオロアルキル基の炭素数は1〜20が好ましく、特に6〜16が好ましい。またフルオロアルキル基は直鎖構造または分岐構造であり、直鎖構造が好ましい。フルオロアルキル基は、フッ素原子以外のハロゲン原子を含んでいてもよい。フッ素原子以外のハロゲン原子としては塩素原子が好ましい。
フルオロアルキル基の末端部分の構造としては、−CF2CF3、−CF(CF3)2、−CF2H、−CFH2、−CF2Cl等が挙げられ、撥水性の観点から−CF2CF3が好ましい。また、フルオロアルキル基中の炭素−炭素結合間には、エーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子が挿入されていてもよい。
さらにフルオロアルキル基は、アルキル基の水素原子の全てがフッ素原子に置換された基、すなわち、パーフルオロアルキル基を有することが好ましく、パーフルオロアルキル基を少なくとも末端部分に有することが好ましい。
フルオロアルキル基の具体例を以下に挙げる。なお、以下の例においては、同一分子式を有する構造の異なる基である構造異性の基を含む。CF3−、C4F9−(F(CF2)4−、(CF3)2CFCF2−、(CF3)3C−等)、C5F11−(F(CF2)5−、(CF3)3CCF2−等)、C6F13−(F(CF2)6−等)、C7F15−、C8H17−、C9F19−、C10F21−、Cl(CF2)s−(sは2〜16の整数)、H(CF2)t−(tは1〜16の整数)、(CF3)2CF(CF2)y−(yは1〜14の整数)等。
フルオロアルキル基が、炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子、またはチオエーテル性硫黄原子が挿入された基である場合の具体例を、以下に挙げる。F(CF2)5OCF(CF3)−、F(CF(CF3)CF2O)rCF(CF3)CF2CF2−、F(CF(CF3)CF2O)zCF(CF3)−、F(CF(CF3)CF2O)uCF2CF2−、F(CF2CF2CF2O)vCF2CF2−、F(CF2CF2O)wCF2CF2−(rは1〜6の整数、zは1〜5の整数、uは2〜6の整数、vは1〜6の整数、wは1〜9の整数)等。
フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、下記式(2)で表される化合物が好ましい。ただし、式(2)においてRfはフルオロアルキル基、Qは2価の有機基、R1は水素原子またはメチル基を示す。
式(2)におけるQとしては、−(CR2R3)p−(CH2)q−、−(CH2)pCONR3(CH2)q−、−(CH2)pOCONH(CH2)q−、−(CH2)pSO2NR4(CH2)q−、−(CH2)pNHCONH(CH2)q−、−(CH2)pCH(OH)−(CH2)q−等が好ましい。ただし、R1〜R4はそれぞれ独立して水素原子またはアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜8のアルキル基)を示す。また、pおよびqは0以上の整数を示し、p+qは1〜22の整数である。これらのうち、−(CH2)p+q−、−(CH2)pCONH(CH2)q−、−(CH2)pSO2NR2(CH2)q−であり、かつ、qが2以上の整数であってかつp+qが2〜6である場合が好ましい。特に、p+qが2〜6である場合の−(CH2)p+q−、すなわち、ジメチレン基〜ヘキサメチレン基が好ましい。Qと結合するRfの炭素原子には、フッ素原子が結合しているのが好ましい。
フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、下記の化合物が挙げられる。ただし、R1は水素原子またはメチル基を示す。F(CF2)5CH2OCOCR1=CH2、F(CF2)6CH2CH2OCOCR1=CH2、H(CF2)6CH2OCOCR1=CH2、H(CF2)8CH2OCOCR1=CH2、H(CF2)10CH2OCOCR1=CH2、H(CF2)8CH2CH2OCOCR1=CH2、F(CF2)8CH2CH2CH2OCOCR1=CH2、F(CF2)10CH2CH2OCOCR1=CH2、F(CF2)12CH2CH2OCOCR1=CH2、(CF3)2CF(CF2)4CH2CH2OCOCR1=CH2、(CF3)2CF(CF2)6CH2CH2OCOCR1=CH2、(CF3)2CF(CF2)8CH2CH2OCOCR1=CH2、F(CF2)8SO2N(C3H7)CH2CH2OCOCR1=CH2、F(CF2)8(CH2)4OCOCR1=CH2、F(CF2)8SO2N(CH3)CH2CH2OCOCR1=CH2、F(CF2)8SO2N(C2H5)CH2CH2OCOCR1=CH2、F(CF2)8CONHCH2CH2OCOCR1=CH2、(CF3)2CF(CF2)5(CH2)3OCOCR1=CH2、(CF3)2CF(CF2)5CH2CH(OCOCH3)−OCOCR1=CH2、(CF3)2CF(CF2)5CH2CH(OH)CH2−OCOCR1=CH2、(CF3)2CF(CF2)7CH2CH(OH)CH2−OCOCR1=CH2、F(CF2)9CH2CH2OCOCR1=CH2、F(CF2)9CONHCH2CH2OCOCR1=CH2。
溶媒に可溶な特性を得るためには、フルオロ(メタ)アクリレート系樹脂中、単量体成分として、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを80重量%以上含むことが好ましい。
フルオロ(メタ)アクリレート系樹脂は、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを2種以上含んでもよい。フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを2種以上含む場合には、炭素数の異なるフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。
また、フルオロ(メタ)アクリレート系樹脂は、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合単位以外の重合単位を含んでもよい。他の重合単位としては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、クロロプレン等のオレフィン類、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン等のスチレン類、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ハロゲン化アルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アリルグリシジルエーテル等のアリルエーテル類、酢酸ビニル等のカルボン酸ビニル類、酢酸アリル等のカルボン酸アリル類、エチルビニルケトン等のビニルアルキルケトン類、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜26の直鎖または分岐のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピル(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレートモノメチルエーテル、ポリオキシアルキレンジ(メタ)アクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、ポリジメチルシロキサン基を有する(メタ)アクリレート、ブロックされたイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート、第4アンモニウム塩の基を有する(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類、トリアリルシアヌレート、N−ビニルカルバゾール、マレイミド、N−アルキルマレイミド、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル等がある。
フルオロ(メタ)アクリレート系樹脂は市販品を用いてもよく、市販品としては、オプトエース WP−100シリーズ(ダイキン工業社製)などが挙げられる。
可溶性撥水性樹脂の被覆対象である部材としては、燃料電池に用いられる部材であれば、特に限定されず、ガス拡散層、触媒層、セパレータなどが挙げられる。撥水処理が特に必要であることから、カソードもしくはアノードガス拡散層またはカソードもしくはアノード触媒層であることが好ましく、カソードもしくはアノードガス拡散層であることがより好ましい。触媒層およびガス拡散層については、下記に詳述する。被覆対象である部材は1つでも複数でもよい。
なお、ここでいう、ガス拡散層には、後述する微細多孔質層(Micro Porous Layer:MPL)を含む形態も含まれる。すなわち、可溶性撥水性樹脂で被覆されてなるガス拡散層とは、可溶性撥水性樹脂で被覆されてなるガス拡散基材または可溶性撥水性樹脂で被覆されてなるMPLの少なくとも一方を指す。
また、被覆とは部材表面の一部が可溶性撥水性樹脂で被覆されていれば足りる。
[可溶性撥水性樹脂で被覆されてなる部材の製造方法(部材への可溶性撥水性樹脂の被覆方法、部材への撥水剤処理方法)]
好適な一実施形態は、可溶性撥水性樹脂を溶媒に溶解させて撥水性樹脂含有溶液を作製する工程(A)、基材に該撥水性樹脂含有溶液を接触させる工程(B)および、工程(B)の後に、基材を乾燥して溶媒に可溶性な撥水性樹脂で被覆されてなる部材を得る工程(C)を有する、燃料電池用部材の製造方法または燃料電池用部材への撥水処理方法である。
工程(A)において、撥水性樹脂を溶解させる際に用いられる溶媒としては、可溶性撥水性樹脂が溶解する溶媒であれば、特に限定されず樹脂によって適宜選択されるが、ハイドロフルオロエーテル、N−メチルピロリドン、アルコール類、水などの溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は1種または2種以上用いることができる。撥水性樹脂含有溶液における撥水性樹脂の濃度は、好ましくは0.05〜10重量%であり、より好ましくは0.1〜5重量%である。なお、溶媒可溶性である限り、撥水性樹脂は1種単独であっても2種以上混合して用いてもよい。
工程(B)において、基材とは、撥水性樹脂で被覆される前の燃料電池の各部材を指す。基材への撥水性樹脂含有溶液の接触方法は特に限定されず、基材(例えば、微細多孔質層の形成用インク等のインク)と撥水性樹脂含有溶液とを混合する方法、基材(例えば、ガス拡散層基材)へ撥水性樹脂含有溶液を塗布する方法などが挙げられる。
基材がガス拡散層基材の場合、用いられる基材は、後述のガス拡散層の欄で記載した基材を用いることができる。工程(B)において、ガス拡散層基材に撥水性樹脂含有溶液を接触させる方法は特に限定されないが、塗布が好ましい。塗布法としては特に限定されないが、ディッピング(浸漬)、滴下、ドクターブレード、スピンコート、刷毛塗り、スプレー塗布、ロールコーター、エアーナイフコート、カーテンコート、ワイヤーバーコート、グラビアコート、またはスクリーンプリントなどが挙げられる。操作が簡便であり、かつ多孔質内部にまで均一に撥水性を付与できることから、ディッピング(浸漬)を用いることが好ましい。この際の浸漬時間は特に限定されないが、10秒〜5分であることが好ましい。
撥水性樹脂の塗布量としては、特に限定されるものではないが、基材がガス拡散層基材である場合には、被覆厚さ0.1〜10μmとするのが好ましく、0.5〜2μmとすることがより好ましい。
また、可溶性撥水性樹脂で被覆されてなる部材が微細多孔質層である場合には、工程(B)における基材としては、後述の微細多孔質層欄に記載するように微細多孔質層を基材上に形成する際のインク(以下、単にMPL形成用インクとも称する)であってもよいし、ガス拡散層基材に微細多孔質層を形成したものであってもよい。MPL形成用インクに用いられる溶媒は、特に限定されるものではないが、カーボン粒子の分散性や撥水性樹脂含有溶液における溶媒種との相和性などを考慮して適宜選択される。具体的には、水、アルコールおよびこれらの混合溶媒などの有機溶媒が挙げられる。工程(B)において、MPL形成用インクに撥水性樹脂含有溶液を接触させる方法は特に限定されないが、インクに撥水性樹脂含有溶液を混合させる形態が好ましい。インクと撥水性樹脂含有溶液との混合量は、微細多孔質層の多孔質表面上に撥水性を付与するためのカーボン粒子への被覆量を考慮してカーボン粒子:撥水性樹脂=1:0.005〜0.2(重量比)となるように混合することが好ましい。工程(B)において、ガス拡散層基材に微細多孔質層を形成したものに撥水性樹脂含有溶液を接触させる方法は上記ガス拡散層基材への接触方法が同様に用いられる。
また、可溶性撥水性樹脂に被覆されてなる部材が触媒層である場合には、工程(B)における基材としては、触媒が担持された担体、高分子電解質および溶媒を含む触媒層インク、または該インクを基材上に塗布・乾燥し得られる触媒層前駆体が好適に挙げられる。工程(B)において、触媒層インクに撥水性樹脂含有溶液を接触させる方法は特に限定されないが、インクに撥水性樹脂含有溶液を混合させる形態が好ましい。インクと撥水性樹脂含有溶液との混合量は、担体:撥水性樹脂=1:0.005〜0.2(重量比)となるように混合することが好ましい。また、工程(B)において、触媒層前駆体に撥水性樹脂含有溶液を接触させる方法は特に限定されないが、塗布が好ましい。塗布法としては特に限定されないが、ディッピング(浸漬)、滴下、ドクターブレード、スピンコート、刷毛塗り、スプレー塗布、ロールコーター、エアーナイフコート、カーテンコート、ワイヤーバーコート、グラビアコート、またはスクリーンプリントなどが挙げられる。操作が簡便であり、かつ多孔質内部にまで均一に撥水性を付与できることから、ディッピング(浸漬)を用いることが好ましい。
基材を乾燥する工程(C)における乾燥温度としては、撥水成分が溶媒に溶解しているため、溶媒を乾燥させることができる温度であれば特に制限されないが、20〜100℃であることが好ましく、25〜80℃であることが好ましい。このように低温の乾燥処理で撥水処理を付与することができるため、高温加熱処理を必要とするPTFEなどでの撥水処理と比べて飛躍的に生産性が向上する。また、量産を考慮すると、乾燥時間は、好ましくは10秒〜5分であり、より好ましくは10秒〜1分である。
以下、本発明の燃料電池を構成する部材について簡単に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。なお、各部材について可溶性撥水性樹脂で被覆される形態については上述したので、下記部材の説明は、被覆されうる部材自体の説明である。
[ガス拡散層]
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層(4a、4c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等の炭素繊維で形成された炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料;ならびに金網、発泡金属、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチングプレート、精密プレス加工プレート、金属メッシュ、金属細線焼結体、金属不織布などが挙げられる。
ガス拡散層の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの従来公知の撥水剤を用いてもよいが、本発明では、該撥水剤として溶媒溶解性撥水樹脂を用いることが好ましい。
ガス拡散層は、その他の添加剤を有していてもよい。添加剤としては、導電性カーボン、分散剤、分散助剤などが挙げられる。
[微細多孔質層]
撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなる微細多孔質層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
微細多孔質層(MPL)は、ガス拡散係数が大きいことが好ましい。このような微細多孔質層(MPL)を用いることにより、ガス透過性をさらに向上して、ドライ条件と湿潤条件における発電性能をより効果的に両立することができる。このような微細多孔質層(MPL)としては、特に制限されないが、必要であれば撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなりうる。撥水剤としては、上記ガス拡散層の欄に記載した公知の撥水剤を用いてもよいが、本発明では、該撥水剤として溶媒溶解性の撥水剤を用いることが好ましい。
カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛(粒状黒鉛を含む)、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。かようなカーボン粒子は、市販品を用いることができ、キャボット社製バルカンXC−72、バルカンP、ブラックパールズ880、ブラックパールズ1100、ブラックパールズ1300、ブラックパールズ2000、リーガル400、ライオン社製ケッチェンブラックEC、三菱化学社製#3150、#3250などのオイルファーネスブラック;電気化学工業社製デンカブラックなどのアセチレンブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素などであってもよい。また、耐食性などを向上させるために、前記カーボン粒子に黒鉛化処理などの加工を行ってもよい。この際、上記材料は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
カーボン粒子の粒径は、0.5〜25μm程度とするのがよい。これにより、ガス拡散係数が向上し、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。なお、カーボン粒子の形状は特に限定されず、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状など任意の構造をとりうる。本明細書中、「カーボン粒子の粒子径」は、導電性担体粒子の平均二次粒子径である。ここで、カーボン粒子の平均二次粒子径の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
また、微細多孔質層(MPL)では、カーボン粒子がバインダにより結着されていてもよい。ここで用いられうるバインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。好ましくは、撥水性を有するバインダを使用する。中でも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられ、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。撥水性を有するバインダを用いることにより、微細多孔質層(MPL)内の細孔(カーボン粒子間)に撥水性が付与され、水の排出性を向上させることができる。なお、これらのバインダは1種類単独で用いてもよいし、または2種類以上併用してもよい。また、これら以外の高分子が用いられてもよい。
微細多孔質層(MPL)におけるバインダの含有量は、微細多孔質層(MPL)内の空隙構造が所望の特性となるように適宜調整すればよい。具体的には、バインダの含有量は、微細多孔質層(MPL)の全重量に対して好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは12〜40重量%の範囲であるのが好ましい。バインダの配合割合が5重量%以上であれば粒子同士を良好に結合でき、60重量%以下であれば微細多孔質層(MPL)の電気抵抗の上昇を防止しうる。
微細多孔質層(MPL)の厚さは、特に制限されず、アノードガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよい。微細多孔質層(MPL)の厚さは、好ましく3〜500μmであり、より好ましくは5〜300μmであり、さらに好ましくは10〜150μmであり、特に好ましくは20〜100μmである。かような範囲にあれば、機械的強度とガスおよび水などの透過性とのバランスが適切に制御できる。
ガス拡散層基材上に微細多孔質層を形成する方法は特に制限されない。例えば、カーボン粒子、撥水剤等を、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒などの溶媒中に分散させることによりスラリーを調製する。次に、このスラリーをガス拡散層基材上に塗布し乾燥、もしくは、前記スラリーを一度乾燥させ粉砕することで粉体にし、これをガス拡散層基材上に塗布する方法などを用いればよい。その後、マッフル炉や焼成炉を用いて250〜400℃程度で熱処理を施すのが好ましい。または、ガス拡散層基材上に微細多孔質層が予め形成された市販品を使用してもよい。本発明においては、上述のように微細多孔質層が溶媒溶解性の撥水剤で被覆されてなることが好適な一実施形態である。この場合、高温処理による撥水剤の被膜化は不要であるため、熱処理温度としては20〜100℃であることが好ましく、25〜80℃であることがより好ましい。
[触媒層]
触媒層(アノード触媒層3a、カソード触媒層3c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層3aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層3cでは酸素の還元反応が進行する。
触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体(導電性担体)、および電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
アノード触媒層に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒成分およびカソード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。例えば、触媒成分の形状は、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1〜10nm、さらに好ましくは1〜5nm、特に好ましくは2〜4nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡(TEM)より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
上述した触媒成分は好適には導電性担体に担持された電極触媒として触媒層に含まれる。
導電性担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gとするのがよい。比表面積が上記したような範囲であれば、導電性担体への触媒成分および高分子電解質が十分分散して十分な発電性能が得られ、また、触媒成分および高分子電解質を十分有効利用できる。
また、導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
導電性担体に触媒成分が担持された電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%とするのがよい。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
触媒層には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、下記電解質層を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層に添加されうる。
当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。なお、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質の具体的な説明は下記固体高分子電解質膜における説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましい。特に、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
触媒層中の高分子電解質量の含有量は特に限定されるものではないが、電極触媒中のカーボンに対する高分子電解質量の比が0.3〜1.2であることが好ましい。
また、導電性担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。または、電極触媒は、市販品を用いてもよい。
触媒層の形成方法は特に限定されないが、好適には、上記したような電極触媒、高分子電解質および溶剤からなる触媒インクを、高分子電解質膜表面に塗布することによって、触媒層を形成する方法が挙げられる。この際、溶剤としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶剤が同様にして使用できる。具体的には、水、シクロヘキサノール、エタノール、1-プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールが使用できる。また、溶剤の使用量もまた、特に制限されず公知と同様の量が使用できる。触媒インクにおいて、電極触媒は、所望の作用、即ち、水素の酸化反応(アノード側)および酸素の還元反応(カソード側)を触媒する作用を十分発揮できる量であればいずれの量で、使用されてもよい。電極触媒が、触媒インク中、5〜30重量%、より好ましくは9〜20重量%となるような量で存在することが好ましい。
触媒インクは、増粘剤を含んでもよい。増粘剤の使用は、触媒インクが転写用台紙上にうまく塗布できない場合などに有効である。この際使用できる増粘剤は、特に制限されず、公知の増粘剤が使用できるが、例えば、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などが挙げられる。これらのうち、プロピレングリコール(PG)が好ましく使用される。これは、プロピレングリコール(PG)を使用することにより、触媒インクの沸点が高まり溶媒蒸発速度が小さくなる。このため、例えば、転写法で電解質膜に触媒層を形成する際に、触媒インク中にPGを添加することにより、塗布された触媒インク中の溶媒蒸発速度が抑制され、前記乾燥過程後の触媒層にひび割れ(クラック)が生じることを抑制・防止できる。このようにひび割れの少ない触媒層を膜に転写することで、膜への機械的応力集中が緩和され、その結果、MEAの耐久性が向上することができる。増粘剤を使用する際の、増粘剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されないが、触媒インクの全重量に対して、好ましくは5〜20重量%である。
触媒インクは、電極触媒、電解質および溶剤、ならびに必要であれば撥水性高分子および/または増粘剤、が適宜混合されたものであればその調製方法は特に制限されない。例えば、電解質を極性溶媒に添加し、この混合液を加熱・攪拌して、電解質を極性溶媒に溶解した後、これに電極触媒を添加することによって、触媒インクが調製できる。または、電解質を、溶剤中に一旦分散/懸濁された後、上記分散/懸濁液を電極触媒と混合して、触媒インクを調製してもよい。また、電解質が予め上記他の溶媒中に調製されている市販の電解質溶液(例えば、デュポン製のNafion溶液:1−プロパノール中に5wt%の濃度でNafionが分散/懸濁したもの)をそのまま上記方法に使用してもよい。
上記したような触媒インクを、高分子電解質膜上にまたはガス拡散層上に、塗布して、各触媒層が形成される。この際、高分子電解質膜上へのカソード/アノード触媒層の形成条件は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できる。例えば、触媒インクを高分子電解質膜上に、乾燥後の厚みが所望の厚みになるように、塗布し、真空乾燥機内にてまたは減圧下で、25〜150℃、より好ましくは60〜120℃で、5〜30分間、より好ましくは10〜20分間、乾燥する。なお、上記工程において、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。
また、単位触媒塗布面積当たりの触媒含有量(mg/cm2)は、特に制限されないが、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能などを考慮すると、0.01〜1.0mg/cm2である。ただし、触媒が白金または白金含有合金を含む場合、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量が0.5mg/cm2以下であることが好ましい。白金(Pt)や白金合金に代表される高価な貴金属触媒の使用は燃料電池の高価格要因となっている。したがって、高価な白金の使用量(白金含有量)を上記範囲まで低減し、コストを削減することが好ましい。下限値は発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01mg/cm2以上である。なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、インクの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量を調整することができる。
触媒層の厚みは触媒層(乾燥後)の厚みは、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは1〜10μmである。なお、上記厚みは、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。カソード触媒層およびアノード触媒層の厚みは、同じであってもあるいは異なってもよい。
[固体高分子電解質膜]
固体高分子電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜2は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES
)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。これらの炭化水素系高分子電解質膜は、原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の利点がある。
なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
固体高分子電解質膜の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜100μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
[膜電極接合体の製造方法]
膜電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、固体高分子電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層の微多孔質層側(微多孔質層を含まない場合には、基材層の片面に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
[セパレータ]
セパレータは、固体高分子型燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質型燃料電池(PEFC)を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。また、燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
上述したPEFCや膜電極接合体は、ドライアウト耐性とフラッディング耐性とを両立できる部材を用いている。したがって、当該PEFCや膜電極接合体は湿度の変動による影響を受けにくい優れた発電性能を発揮する。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行われる。
(接触角試験)
撥水性の相違を比較するために、親水性の金メッキ板を用いて各撥水剤の撥水性を試験した。
オプトエース WP-100シリーズ(ダイキン工業社製、フルオロアルキル基含有メタクリル酸エステル重合体のハイドロフルオロエーテル溶液、固形分0.2重量%)(図2(A)、(C)中、PFA_0.2%)、およびオプトエース WP-100シリーズ(ダイキン工業社製、フルオロアルキル基含有メタクリル酸エステル重合体のハイドロフルオロエーテル溶液、固形分2重量%)(図2(B)中、PFA_2%)、PVDFのNMPに溶解させた溶液(固形分0.2重量%(図2(A)中、PVDF_0.2%)、固形分2重量%(図2(B)中、PVDF_2%))の4つの溶液を準備した。
4つの溶液をそれぞれ金板上に塗布乾燥させた(被覆膜厚10μm)。
塗膜上に水を滴下し、その接触角を接触角計を用いて測定した。
図2(A)に金板のみ、PVDFのNMP溶液(固形分0.2重量%、PVDF_0.2%)、フルオロアルキル基含有メタクリル酸エステル重合体のハイドロフルオロエーテル溶液(固形分0.2重量%、PFA_0.2%)の結果を示す。図2(B)に金板のみ、PVDFのNMP溶液(固形分2重量%、PVDF_2%)、フルオロアルキル基含有メタクリル酸エステル重合体のハイドロフルオロエーテル溶液(固形分2重量%、PFA_2%)の結果を示す(右上の数字が接触角)。
また、同様にPTFEディスパージョン液(ダイキン工業社製、D210Cディスパージョン液、固形分60wt%)を純水と混合し、PTFE溶液濃度10重量%の溶液(図2(C)中、PTFE_10%)を作製した。
カーボンペーパー(東レ製、TGP−H−060)上に2つの溶液を塗布乾燥させた(被覆膜厚1μm)。
図2(C)にカーボンペーパーのみ、フルオロアルキル基含有メタクリル酸エステル重合体のハイドロフルオロエーテル溶液(固形分0.2重量%、PFA_0.2%)、PTFEディスパージョン液(固形分10重量%、PTFE_10%)の結果を示す(右上の数字が接触角)。
この結果から、フルオロ(メタ)アクリレート系樹脂を含有する溶液は固形分濃度が低いにもかかわらず、PTFEディスパージョン液と同程度の撥水性を有していることがわかった。また、フルオロ(メタ)アクリレート系樹脂を含有する溶液を用いた撥水処理はPVDFによる撥水処理よりも撥水性が高いことがわかった。
実施例1
(ガス拡散層基材の撥水処理)
オプトエース WP-100シリーズ(ダイキン工業社製、フルオロアルキル基含有メタクリル酸エステル重合体のハイドロフルオロエーテル溶液、固形分2重量%)(撥水性樹脂含有溶液)を、ガス拡散層基材(カーボンペーパー(東レ製、TGP−H−060)、厚さ200μm)に1分間浸漬した。このようにして撥水処理されたガス拡散層基材を室温にて1分乾燥させて、撥水処理されたガス拡散層基材を得た。
(MPLシート作製)
鱗片状黒鉛(平均粒径15μm、比表面積6m2/g)61.25重量部、アセチレンブラック(一次粒径40nm、比表面積37m2/g)8.75重量部、PTFE30重量部、界面活性剤であるエマルゲン709を0.1重量部、増粘剤であるシックナー型番SNシックナーA801(サンノプコ株式会社)を0.5重量部の割合で含むMPLインク(溶媒:水)を耐熱性保持シート(ポリイミドフィルム、50μm)上に塗付し、80℃で乾燥、330℃で焼成を行った後、保持シートからMPLを剥がし、厚さ60μmのMPLシートを得た。
上記で得られたガス拡散層基材およびMPLシートをホットプレス(80℃、2MPa、3分)で接合し、ガス拡散層を得た。
(触媒層の作製)
電極触媒としてケッチェンブラックにPtを50重量%担持した白金担持カーボンと水およびNPA(1−プロパノール)とをサンドグラインダー(アイメックス社製)の容器に投入して粉砕した。更に、プロトン伝導性を有するイオン伝導体としてのプロトン交換型アイオノマー(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)D2020)を電極触媒に対するアイオノマーの割合が重量比で0.9となるように添加して混合した。
得られた混合物をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の片面にスプレー塗布し、80℃で15分間乾燥して、カソード触媒層(乾燥膜厚10μm)を形成した。白金使用量は0.35mg/cm2であった。同様の手法でアノード触媒層を形成した(乾燥膜厚1.5μm)。白金使用量は0.05mg/cm2であった。
(燃料電池の作製)
電解質膜(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人Dupont社製、テオネックス、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置し、電解質膜の露出部(作用面積:25cm2(5.0cm×5.0cm))にアノード触媒層およびカソード触媒層を形成したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を配置し、0.8MPaの圧力を加えて、電解質膜と各触媒層を密着させて、150℃で、10分間加熱し、電解質膜と各触媒層を接合して、膜触媒層接合体を得た。
このようにして作製された膜触媒層接合体に、アクティブエリア(2cm×5cm)と同サイズに切り抜いた上記ガス拡散層を各触媒層に重なるように配置して、発電セルを組み立てた。
実施例2
オプトエース WP-100シリーズ(ダイキン工業社製、フルオロアルキル基含有メタクリル酸エステル重合体のハイドロフルオロエーテル溶液、固形分0.2重量%)を撥水性樹脂含有溶液として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ガス拡散層基材および燃料電池セルを作製した。
比較例1
ガス拡散層基材の撥水処理を下記のように行ったこと以外は実施例1と同様にしてガス拡散層および燃料電池セルを作製した。
PTFEディスパージョン液(ダイキン工業社製、D210Cディスパージョン液、固形分60wt%)を純水と混合し、固形分濃度8重量%のPTFE液を作製した。カーボンペーパー(東レ社製、TGP−H−060)をPTFE液に30秒間浸し、溶液から取り出した。その後、吸水紙(日本製紙パピリア社製、オークトル400)で30秒間溶液を吸着させた。その後80℃で15分乾燥、330℃で30分焼成を行って撥水処理されたガス拡散層基材を得た。
(電気抵抗試験)
実施例1、実施例2および比較例1で作製したガス拡散層を0.95cm2に切り出し、両面を金箔で挟み、荷重をかけた状態で通電して電気抵抗を測定した。電流値は1Aで、5MPaまでを1サイクルとし、2サイクル目の1MPaにおける値を測定した。結果を図3に示す。図3中、未処理とは撥水処理を行っていないガス拡散層基材、室温とあるのは、上記記載のとおり、撥水処理されたガス拡散層基材室温で乾燥したもの、110℃ 10minとあるのは、撥水処理されたガス拡散層基材を110℃で10分間熱処理したものである。
結果を図3に示す。
図3の結果より、0.2重量%および2重量%のフルオロ(メタ)アクリレート系樹脂含有液で被覆した燃料電池の電気抵抗は、10重量%PTFEのディスパージョン液で被覆した燃料電池の電気抵抗よりも低いものであった。
(発電試験)
上記実施例1および比較例1で作製された発電セルについて、低加湿条件および高加湿条件において、各電流密度(Current density)に対するセル電圧(Cell voltage)と抵抗(Resistivity)を測定した。低加湿条件および高加湿条件の各条件は以下のとおりである。
図4Aに低加湿条件での結果を、図4Bに高加湿条件での結果を示す。
図4Aから、低加湿条件下では実施例1および比較例1の電池は同等の性能を示した。高加湿条件では、実施例1の電池の方が比較例1の電池よりも電池性能が向上していた。
以上の結果より、実施例の燃料電池は、電池抵抗が低く、また、高加湿条件下での発電性能に優れるものであった。