本発明の一形態は、高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜の一方の側に順次配置された、カソード触媒層ならびにカソード微細多孔質層およびカソードガス拡散層基材を有するカソードガス拡散層と、前記高分子電解質膜の他方の側に順次配置された、アノード触媒層ならびにアノード微細多孔質層およびアノードガス拡散層基材を有するアノードガス拡散層と、を、有する電解質膜−電極接合体であって、前記アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数が前記カソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数より0.05[−]以上小さいことを特徴とする、電解質膜−電極接合体(以下、単に「本発明のMEA」とも称する)である。アノード側に相対ガス拡散係数の小さい微細多孔質層を設けることにより、水/水蒸気がアノード微細多孔質層を透過することを抑制・防止する。このため、ドライ(低湿度)条件であっても、水がGDL、セパレータを介して排出することを抑制・防止し、プロトン伝導性を維持するのに十分な量の水を固体高分子電解質膜や触媒層に確保できる。ゆえに、ドライ条件において問題となるドライアウトを抑制して、発電性能の低下を抑制・防止できる。また、カソード側に相対ガス拡散係数の大きい微細多孔質層を設けることにより、カソードで生成した水は、カソード側のGDL、セパレータを介して排出される。ゆえに、湿潤条件であってもMEA内からの水を排出させて(カソードフラッディングを悪化させずに)、フラッディング耐性を向上させることができる。本発明のMEAは、ドライアウト耐性及びフラッディング耐性双方に優れるため、このようなMEAを有する燃料電池は、湿度の変動にかかわらず優れた発電性能を示すことが可能である。
以下、添付した図面を参照して本発明を適用した実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
まず、本形態のアノードガス拡散層が適用され得る固体高分子形燃料電池の基本的な構成を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソード微細多孔質層5c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
ここで、アノードガス拡散層4aは、アノード微細多孔質層5a及びアノードガス拡散層基材6aを有する。アノード微細多孔質層5aは、アノード触媒層3aと接するように配置される。また、カソード微細多孔質層5cも、同様にして、カソード微細多孔質層5c及びカソードガス拡散層基材6cを有する。カソード微細多孔質層5cは、カソード触媒層3cと接するように配置される。
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ8aおよびカソードセパレータ8c)により挟持されている。図1において、セパレータ(8a、8c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(8a、8c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(8a、8c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(8a、8c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(8a、8c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ8aのガス流路9aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ8cのガス流路9cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレータ(8a、8c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路11とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
なお、図1に示す実施形態においては、セパレータ(8a、8c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
本発明のアノードガス拡散層4aは、図2に示されるように、アノード微細多孔質層5aとアノードガス拡散層基材6aとの間にアノード中間層(MPL)7aをさらに有していてもよい。同様にして、カソード微細多孔質層5cは、図2に示されるように、カソード微細多孔質層5cとカソードガス拡散層基材6cとの間にカソード中間層(MPL)7cをさらに有していてもよい。図2は、本発明の第二の実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成中間層(MPL)を示す概略図である。このように、微細多孔質層とガス拡散層基材との間に中間層(MPL)を配置することによって、各ガス拡散層の相対ガス拡散係数を所望の値に調節しやすくなる。本実施形態に係るアノードガス拡散層4a及びカソード微細多孔質層5cは、アノード中間層(MPL)7a及びカソード中間層(MPL)7cをさらに有する以外は、第一の実施形態のアノードガス拡散層4a及びカソード微細多孔質層5cと、それぞれ、同様である。
なお、図2では、アノード及びカソード双方の側に、中間層(MPL)を配置する必要はない。このため、図2に示す実施形態から、アノード中間層(MPL)7aを配置しない実施形態、およびカソード中間層(MPL)7cを配置しない実施形態もまた、本発明に包含される。
以下、本形態の各部材について詳説する。なお、下記では、アノードおよびカソードで同一部材を適用できる場合には、アノード及びカソードの呼称なしで一括して記載する。例えば、アノード触媒層及びカソード触媒層は、「触媒層」として一括して記載される。しかし、アノード及びカソードで同一の部材である必要はなく、異なるものであってもよい。
(アノード微細多孔質層)
上述したように、アノードガス拡散層4aは、アノード微細多孔質層5a及びアノードガス拡散層基材6aを有し、必要であれば、アノード微細多孔質層5aとアノードガス拡散層基材6aとの間に、アノード中間層(MPL)7aをさらに有する。
このうち、アノード微細多孔質層5aの相対ガス拡散係数は、カソード微細多孔質層5cの相対ガス拡散係数より0.05[−]以上小さい。ここで、上記差が0.05[−]未満である場合には、乾燥条件におけるアノードにおけるドライアウトおよび湿潤条件におけるカソードでのフラッディングの抑制・防止を両立することが困難になる。好ましくは、アノード及びカソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数の差[=(カソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)−(アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)]は、0.05[−]以上であり、0.07[−]以上がより好ましい。このような差があれば、アノード側での乾燥条件でのドライアウトおよび湿潤条件でのフラッディング双方を同時により効果的に抑制・防止でいる。ここで、上記差の上限は、特に限定されない。ここで、アノード及びカソード側の微細多孔質層の相対ガス拡散係数の差を上記したように制御する方法は特に制限されない。好ましくは、下記に詳述するように、カソード微細多孔質層5cに扁平状導電性材料を、カソード微細多孔質層5cに粒状導電性材料を、それぞれ、使用することによって達成できる。
本明細書において、アノード及びカソード側の「微細多孔質層の相対ガス拡散係数」は、下記方法によって測定される。ここで、「相対ガス拡散係数」とは、下記式1に示されるように、大気中のガス拡散係数DbulkでMPL内でのガス拡散係数Deffを割った値である。
ここで、Dreは、相対ガス拡散係数[−]であり;Deffは、有効ガス拡散係数[m2/s]であり;Dbulkは、バルクでのガス拡散係数[m2/s]であり;εは、空孔率[−]であり;τは、屈曲度[−]である。
アノード微細多孔質層5aの相対ガス拡散係数は、上記したように、カソード微細多孔質層5cの相対ガス拡散係数より0.05[−]以上小さければ特に制限されない。ドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)を考慮すると、アノード微細多孔質層5aの相対ガス拡散係数は、0.05〜0.2[−]であることが好ましく、0.1〜0.2[−]であることがより好ましい。このような範囲であれば、アノード側では、水/水蒸気がアノード微細多孔質層を透過することをより効果的に抑制・防止する。このため、ドライ(低湿度)条件であっても、水がGDL、セパレータを介して排出することを抑制・防止し、プロトン伝導性を維持するのに十分な量の水を固体高分子電解質膜や触媒層に確保できる。ゆえに、ドライ条件において問題となるドライアウトを抑制して、発電性能の低下を抑制・防止できる。一方、カソード側では、生成した水がGDL、セパレータを介して十分排出する。このため、湿潤条件であってもMEA内からの水を排出させて(カソードフラッディングを悪化させずに)、フラッディング耐性を向上させることができる。したがって、本発明のMEAは、ドライアウト耐性及びフラッディング耐性双方をより両立できる。ここで、アノード微細多孔質層5aの相対ガス拡散係数を上記したように制御する方法は特に制限されない。好ましくは、下記に詳述するように、アノード微細多孔質層5aに扁平状導電性材料を使用することによって達成できる。
アノード微細多孔質層5aの厚さは、ドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)を発揮できる程度であれば制限されない。好ましくは、アノード微細多孔質層5aの厚さは、10〜100μmであり、20〜90μmであることがより好ましく、20〜80μmであることがさらにより好ましい。このような厚さにすることで、アノード微細多孔質層5aは十分なドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)を発揮できる。また、スタック組み付け時の面方向の圧縮力に対する曲げ応力を緩和し、アノード微細多孔質層の塑性変形を抑制・防止できる。ゆえに、固体高分子電解質膜及び触媒層の保水性を十分保つことが可能となる。
アノード微細多孔質層5aの屈曲度は、塑性変形を抑制・防止できる程度であれば制限されない。好ましくは、アノード微細多孔質層5aの屈曲度は、2.5〜10であり、3〜6であることがより好ましい。このような屈曲度にすることで、アノード微細多孔質層における水蒸気の輸送抵抗を効果的に向上できる。ゆえに、乾燥条件において、高分子電解質膜とアノード触媒層のドライアウトを効果的に抑制・防止できる。また、スタック組み付け時の面方向の圧縮力に対する曲げ応力を緩和し、アノード微細多孔質層の塑性変形を抑制・防止できる。ゆえに、固体高分子電解質膜及び触媒層の保水性を十分保つことが可能となる。本明細書において、「微細多孔質層の屈曲度(τ)」は、上記式1に示されように、空孔率(ε)/相対ガス拡散係数(Dre)により求めることができる。また、「空孔率(ε)」は、水銀圧入法により測定されうる。
アノード微細多孔質層5aの空隙率は、ドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)を発揮できる程度であれば制限されない。好ましくは、アノード微細多孔質層5aの空隙率は、40〜80%であり、50〜75%であることがより好ましい。このような空隙率にすることで、アノード微細多孔質層5aは十分なドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)を発揮できる。本明細書において、「微細多孔質層の空隙率」は、水銀圧入法により測定されうる。
アノード微細多孔質層5aの水蒸気有効拡散係数(300K)は、ドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)を発揮できる程度であれば制限されない。好ましくは、アノード微細多孔質層5aの水蒸気有効拡散係数(300K)は、1.5×10−6〜6.0×10−6[m2/s]であり、3.0×10−6〜5.0×10−6[m2/s]であることがより好ましい。このような水蒸気有効拡散係数(300K)であれば、アノード微細多孔質層5aは、アノード微細多孔質層における水蒸気の輸送抵抗を効果的に向上できる。ゆえに、乾燥条件において、高分子電解質膜とアノード触媒層のドライアウトを効果的に抑制・防止できる。本明細書において、「微細多孔質層の水蒸気有効拡散係数(300K)」は、下記方法によって測定される。
<微細多孔質層の水蒸気有効拡散係数(300K)の測定>
ガス拡散係数は、特開2007−278826号公報(特に段落「0027」〜「0031」)に記載の酸素拡散係数測定装置を用いて以下のようにして測定される。すなわち、アノードガス拡散層(多孔体P)を十分な量の水に含浸させた後、酸素センサーの多孔体ホルダーに保持する。次に、アノードガス拡散層を保持した酸素センサーを電子天秤に載置して、計量する。そして、この電子天秤に載置された状態の酸素センサーは、内部の温度および湿度を調整可能な密閉容器に収容されている。また、この密閉容器の外部には、アノードガス拡散層の酸素拡散係数を算出するための演算装置が設置されており、この演算装置には電子天秤で計量した結果が出力されるようになっている。
そして、多孔体ホルダーに保持されたアノードガス拡散層に含まれる水の重量の経時変化を電子天秤で測定し、測定結果を演算装置に出力する。また、この演算装置には、受信器が接続されている。これにより、酸素センサーに接続された送信器から送信した信号は、受信器で受信されて演算装置に入力される。
ここで、密閉容器内の空気中に含まれる酸素が、アノードガス拡散層を透過して電解ケースに収容された陰極に到達すると、この酸素は、式(1):O2+2H2O+4e−→4OH−により、電子を取り込み、水酸化物イオン(OH−)に還元される。一方、酸素センサーの陽極では、以下の(2)〜(4)式に示す一連の酸化反応が起きる。
したがって、酸素センサーから、アノードガス拡散層を透過した酸素の量に比例する電流が出力される。この酸素センサーからの出力は、送信器及び受信器で送受信されて演算装置に出力される。そして、演算装置では、酸素センサーからの出力に基づいて、アノードガス拡散層を透過した酸素量を求め、この酸素量からアノードガス拡散層の酸素拡散係数を算出することができる。
ここで求められた酸素拡散係数を用いて、相対ガス拡散係数(Dre)を算出する。また、ここで得られた相対ガス拡散係数(Dre)に、バルクでの水蒸気拡散係数(Dbulk)2.57×10−5[m2/s](@300K)をかけた値が、水蒸気有効拡散係数(300K)となる。
アノード微細多孔質層5aは、ドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)を発揮できるものであればいずれの材料で形成されてもよいが、好ましくは扁平状導電性材料を含むことが好ましい。これにより、アノード微細多孔質層の屈曲度、水蒸気輸送抵抗を向上できる。ここで、アノード微細多孔質層5aが扁平状導電性材料を含む場合の形態は、特に制限されないが、例えば、図3に示される形態が挙げられる。図3は、本発明の好ましい実施形態に係るアノード微細多孔質層の基本構成を示す概略断面図である。
図3Aに示す実施形態では、アノード微細多孔質層5aが、扁平状導電性材料21及び必要であればバインダ(図示せず)から構成される。この場合には、扁平状導電性材料21がアノード微細多孔質層5aの面方向に沿った状態でほぼ平行に配向して、アノード微細多孔質層5aの厚さ/面方向の水蒸気の拡散・排出を抑制・防止し、面方向の導電性を確保する。これにより、水蒸気がアノード側から排出することを抑制・防止し、プロトン伝導性を維持するのに十分な固体高分子電解質膜及び触媒層の保水性を維持することができる。ゆえに、ドライ条件において問題となるドライアウトを抑制して、発電性能の低下を抑制・防止できる。
図3Bに示す実施形態では、アノード微細多孔質層5aが、扁平状導電性材料21、粒状導電性材料22及び必要であればバインダ(図示せず)から構成される。この場合には、扁平状導電性材料21がアノード微細多孔質層5aの面方向に沿った状態でほぼ平行に配向して、アノード微細多孔質層5aの厚さ/面方向の水蒸気の拡散・排出を抑制・防止し、面方向の導電性を確保する。これにより、水蒸気がアノード側から排出することを抑制・防止し、プロトン伝導性を維持するのに十分な固体高分子電解質膜及び触媒層の保水性を維持できる。また、粒状導電性材料22が導電パス材として扁平状導電性材料21間に介在する。これにより、アノード微細多孔質層5aの厚さ方向の抵抗を低減して導電性を向上することができる。同時に、粒状導電性材料22は厚さ及び面方向のガス透過性を向上させるスペーサー材としても機能しうる。このため、ガス(燃料ガス)をセパレータ側から良好に透過させることができる。ゆえに、ドライ条件において問題となるドライアウトを抑制して、発電性能の低下を抑制・防止すると共に、導電性を向上することができる。
図3Cに示す実施形態では、アノード微細多孔質層5aが、大きさが異なる扁平状導電性材料21,21’及び必要であればバインダ(図示せず)から構成される。この場合には、扁平状導電性材料21,21’がアノード微細多孔質層5aの面方向に沿った状態でほぼ平行に配向して、アノード微細多孔質層5aの厚さ/面方向の水蒸気の拡散・排出を抑制・防止し、面方向の導電性を確保する。これにより、水蒸気がアノード側から排出することを抑制・防止し、プロトン伝導性を維持するのに十分な固体高分子電解質膜及び触媒層の保水性を維持できる。また、大きさの小さな扁平状導電性材料21’が導電パス材として扁平状導電性材料21間に介在する。これにより、アノード微細多孔質層5aの厚さ方向の抵抗を低減して導電性を向上することができる。同時に、大きさの小さな扁平状導電性材料21’は厚さ及び面方向のガス透過性を向上させるスペーサー材としても機能しうる。このため、ガス(燃料ガス及び酸化剤ガス)をセパレータ側から良好に透過させることができる。ゆえに、ドライ条件において問題となるドライアウトを抑制して、発電性能の低下を抑制・防止すると共に、導電性を向上することができる。
図3Dに示す実施形態では、アノード微細多孔質層5aが、扁平状導電性材料21、大きさが異なる粒状導電性材料22,22’、及び必要であればバインダ(図示せず)から構成される。この場合には、扁平状導電性材料21がアノード微細多孔質層5aの面方向に沿った状態でほぼ平行に配向して、アノード微細多孔質層5aの厚さ/面方向の水蒸気の拡散・排出を抑制・防止し、面方向の導電性を確保する。これにより、水蒸気がアノード側から排出することを抑制・防止し、プロトン伝導性を維持するのに十分な固体高分子電解質膜及び触媒層の保水性を維持できる。また、粒状導電性材料22,22’が導電パス材として扁平状導電性材料21間に介在する。これにより、アノード微細多孔質層5aの厚さ方向の抵抗を低減して導電性を向上することができる。上記に加えて、大きさの大きな粒状導電性材料22’が厚さ及び面方向のガス透過性を向上させるスペーサー材としても機能しうる。このため、ガス(燃料ガス)をセパレータ側から良好に透過させることができる。これにより、低湿度条件下であっても、固体高分子電解質膜及び触媒層は十分量の水を確保することができる。ゆえに、ドライ条件において問題となるドライアウトを抑制して、発電性能の低下を抑制・防止すると共に、導電性を向上することができる。
図3Eに示す実施形態では、アノード微細多孔質層5aが、大きさが異なる扁平状導電性材料21,21’、大きさの大きい粒状導電性材料22’及び必要であればバインダ(図示せず)から構成される。この場合には、扁平状導電性材料21,21’がアノード微細多孔質層5aの面方向に沿った状態でほぼ平行に配向して、アノード微細多孔質層5aの厚さ/面方向の水蒸気の拡散・排出を抑制・防止し、面方向の導電性を確保する。これにより、水蒸気がアノード側から排出することを抑制・防止し、プロトン伝導性を維持するのに十分な固体高分子電解質膜及び触媒層の保水性を維持できる。また、大きさの小さな扁平状導電性材料21’及び大きさの大きい粒状導電性材料22’が導電パス材として扁平状導電性材料21間に介在する。これにより、アノード微細多孔質層5aの厚さ方向の抵抗を低減して導電性を向上することができる。上記に加えて、大きさの小さな扁平状導電性材料21’及び大きさの小さい粒状導電性材料22が厚さ及び面方向のガス透過性を向上させるスペーサー材としても機能しうる。このため、ガス(燃料ガス)をセパレータ側から良好に透過させることができる。これにより、低湿度条件下であっても、固体高分子電解質膜及び触媒層は十分量の水を確保することができる。ゆえに、ドライ条件において問題となるドライアウトを抑制して、発電性能の低下を抑制・防止すると共に、導電性を向上することができる。
なお、上記図3に示されるアノード微細多孔質層の構造(扁平状導電性材料及び粒状導電性材料の組み合わせ例)は、代表例に過ぎず、これらに限定されない。例えば、図3Bに示したアノード微細多孔質層に、大きさの小さい扁平状導電性材料21’を組み合わせたり、さらに大きさの大きい粒状導電性材料22’を追加したりしてもよい。
上記のうち、ドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)、導電性などを考慮すると、図3B〜3Eの形態が好ましい。
本形態において、扁平状導電性材料は、アノード微細多孔質層の厚さ方向及び面方向のドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)の向上および面方向の抵抗低減(導電性向上)に寄与する。ここで、扁平状導電性材料の大きさは、アノード微細多孔質層5aの厚さ/面方向の水蒸気の拡散・排出を抑制・防止できれば、特に制限されない。具体的には、扁平状導電性材料の厚さが、0.05〜1μmであることが好ましく、0.05〜0.3μmであることがより好ましい。また、扁平状導電性材料のアスペクト比が、3を超えることが好ましく、10〜1000であることがより好ましく、10〜1000であることが特に好ましい。すなわち、アノード微細多孔質層は、厚さが0.05〜1μmでありかつアスペクト比が10〜1000である扁平状導電性材料を含むことが好ましい。このような形状の扁平状導電性材料であれば、扁平状導電性材料をアノード微細多孔質層の面方向に沿って配向して配置して、厚さ/面方向の水蒸気の拡散・排出を抑制・防止でき、輸送抵抗を向上できる。ゆえに、乾燥条件において、高分子電解質膜とアノード触媒層のドライアウトを効果的に抑制・防止できる。同時に、アノード微細多孔質層の面方向の導電性をも確保でき、また、アノード微細多孔質層の屈曲度を向上できる。本明細書において、扁平状導電性材料(および以下に規定される鱗片状黒鉛;以下同様)の厚さは、図4Aに示されるように、扁平状導電性材料を真横から見た場合の厚さ(図中の「H(μm)」)を意味する。なお、扁平状導電性材料の厚さが一定でない場合には、最大厚さを意図する。同様にして、扁平状導電性材料の平面直径は、図4Bに示されるように、扁平状導電性材料(鱗片状黒鉛)を真上から見た場合の平面直径(図中の「D(μm)」)を意味し、扁平状導電性材料(鱗片状黒鉛)の平面直径が一定でない場合には、最大平面直径を意図する。なお、扁平状導電性材料の平面直径は、公知の方法で測定できるが、本明細書では、レーザー回折・散乱法により測定される値を意味する。扁平状導電性材料の平面直径は、特に制限されないが、5〜50μmであることが好ましい。このような大きさであれば、アノード微細多孔質層の厚さに影響を及ぼすことなく、アノード微細多孔質層の厚さ方向及び面方向のドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)を向上し、また、面方向の抵抗を低減できる(導電性を向上できる)。
また、本明細書において、扁平状導電性材料のアスペクト比は、上記で求められた扁平状導電性材料の厚さ(H)に対する上記で求められた扁平状導電性材料の平面直径(D)の割合(D/H)として規定される。
ここで、図3C、図3Eに示されるように、大きさの異なる扁平状導電性材料21,21’を使用する場合には、大きさの大きな扁平状導電性材料21および大きさの小さな扁平状導電性材料21’の大きさは、特に制限されず、上記したような厚さ及びアスペクト比を有することが好ましい。好ましい実施形態によると、大きさの大きな扁平状導電性材料21の厚さ及びアスペクト比は、上記扁平状導電性材料で記載したのと同様である。一方、大きさの小さな扁平状導電性材料21’の厚さは、0.05〜1μmであることが好ましく、0.05〜0.5μmであることがより好ましい。また、大きさの小さな扁平状導電性材料21’のアスペクト比は、1〜100であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。また、大きさの小さな扁平状導電性材料21’の平面直径は、特に制限されないが、0.01〜30μmであることが好ましい。このような形状であれば、上記図3C、図3Eで記載される効果をより効果的に発揮することができる。
また、本形態において、扁平状導電性材料は、アノード微細多孔質層5aの厚さ/面方向の水蒸気の拡散・排出を抑制・防止できれば、特に制限されない。具体的には、鱗片状黒鉛であることが好ましい。鱗片状黒鉛は、結晶性が高く、アスペクト比(平面直径D/厚さH)の大きなうろこ状の形状を有する。このような鱗片状黒鉛であれば、扁平状導電性材料をアノード微細多孔質層の面方向に沿って配向して配置して、厚さ/面方向の水蒸気の拡散・排出を抑制・防止できる。同時に、アノード微細多孔質層の面方向の導電性をも確保でき、また、アノード微細多孔質層の屈曲度を向上できる。上記に加えて、鱗片状黒鉛は、安価で高い導電性を有する上、効果的に発電性能を向上させることができる。すなわち、扁平状導電性材料は、厚さが0.05〜1μmでありかつアスペクト比が10〜1000である鱗片状黒鉛であることが特に好ましい。
扁平状導電性材料が鱗片状黒鉛等のカーボンブラックである場合のカーボンブラックの比表面積(BET比表面積)は、特に制限されないが、好ましくは2000m2/g以下であり、より好ましくは15〜1000m2/gである。このような比表面積のカーボンブラックを扁平状導電性材料として使用することによって、アノード微細多孔質層5aの厚さ/面方向のドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)をさらに向上することができる。
扁平状導電性材料の配合量は、適度なドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)、導電性を達成できれば特に制限されない。具体的には、扁平状導電性材料の配合量(固形分量)は、アノード微細多孔質層を構成する全成分に対して、10〜95重量%であることが好ましく、15〜85重量%であることがより好ましく、40〜70重量%であることがさらにより好ましい。なお、上記扁平状導電性材料の配合量は、扁平状導電性材料として大きさの異なる扁平状導電性材料21,21’を使用した場合には、これらの扁平状導電性材料の合計配合量とする。このような量であれば、十分量の扁平状導電性材料をアノード微細多孔質層の面方向に沿って配置して、厚さ/面方向の水蒸気の拡散・排出を抑制・防止できる。また、アノード微細多孔質層の面方向の導電性をも確保でき、また、アノード微細多孔質層の屈曲度を向上できる。
本形態では、アノード微細多孔質層5aは、扁平状導電性材料に加えて、粒状導電性材料を含みうる。この際、粒状導電性材料としては、特に制限されないが、例えば、オイルファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、小径の鱗片状黒鉛、炭素繊維などが挙げられる。また、粒状導電性材料は、自ら調製してもよいし、市販の導電性材料(炭素材料)を用いてもよい。市販の導電性材料(炭素材料)としては、バルカン(登録商標)、ケッチェンブラック(登録商標)、ブラックパール(登録商標)などが挙げられる。また、カーボンブラックは、黒鉛化処理が施されていてもよい。この際、上記粒状導電性材料は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。このうち、図3Dに示されるように、大きさの異なる粒状導電性材料22,22’を使用する場合の、大きさの大きな粒状導電性材料22は、カーボンブラックが好ましく、アセチレンブラック、ケッチェンブラックがより好ましい。また、大きさの小さな粒状導電性材料22’は、黒鉛化処理されたカーボンブラックが好ましい。
また、粒状導電性材料の大きさもまた特に制限されない。例えば、図3Dに示されるように、大きさの異なる粒状導電性材料22,22’を使用する場合の、大きさの大きな粒状導電性材料22は、平均粒径(平均一次粒径、直径)が、10nm以上5μm未満であることが好ましく、0.05〜20μmであることがより好ましい。また、大きさの小さな粒状導電性材料22’の大きさは、平均粒径が、1〜10μmであることが好ましく、0.05〜5μmであることがより好ましい。この際、粒状導電性材料の大きさは、公知の方法によって測定できるが、本明細書では、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「粒径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。なお、本明細書において、「粒状導電性材料」とは、アスペクト比(平面直径D/厚さH)が1〜3程度のものをいう。
粒状導電性材料がカーボンブラックである場合のカーボンブラックの比表面積(BET比表面積)は、特に制限されないが、好ましくは2000m2/g以上であり、より好ましくは15〜1000m2/gである。このような比表面積のカーボンブラックを粒状導電性材料として使用することによって、アノード微細多孔質層5aの厚さ方向の抵抗を低減して導電性をさらに向上することができる。
粒状導電性材料の配合量は、適度なガス透過性向上、導電性向上を達成できれば特に制限されない。具体的には、大きさの小さな粒状導電性材料の配合量(固形分量)は、アノード微細多孔質層を構成する全成分に対して、1〜35重量%であることが好ましい。なお、上記粒状導電性材料の配合量は、粒状導電性材料として大きさの異なる扁平状導電性材料22,22’を使用した場合には、これらの粒状導電性材料の合計配合量とする。このような量で配合された粒状導電性材料は、導電パス材として扁平状導電性材料間に介在して、アノード微細多孔質層の厚さ方向の抵抗を低減して導電性を向上することができる。また、厚さ及び面方向のガス透過性を向上させるスペーサー材としても機能し、良好なガス透過性を達成しうる。特に、粒状導電性材料としてアセチレンブラックを使用する場合には、アセチレンブラックの配合量は、アノード微細多孔質層を構成する全成分に対して、5〜40重量%であることがより好ましい。このような量であれば、十分な接触点及び接触面積を稼いで導電性を向上することができる。また、厚さ及び面方向のガス透過性を向上させるスペーサー材としても機能し、良好なガス透過性を達成できる。また、粒状導電性材料としてケッチェンブラックを用いる際には、ケッチェンブラックの配合量は、アノード微細多孔質層を構成する全成分に対して、1〜20重量%であることが好ましく、3〜15重量%であることがより好ましく、3〜5重量%であることがさらにより好ましい。このような量であれば、十分な接触点及び接触面積を稼いで導電性を向上することができる。また、厚さ及び面方向のガス透過性を向上させるスペーサー材としても機能し、良好なガス透過性を達成できる。
また、上記において、必要であれば使用できるバインダとしては、特に制限されず、公知のバインダが使用できる。好ましくは、扁平状導電性材料、粒状導電性材料等の導電性同士を結着して、アノード微細多孔質層の強度を確保する機能を有するものであって、撥水剤としての機能を兼ね備えていることが望ましい。このようなバインダとしては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等が挙げられる。また、バインダの配合量(固形分量)は、上記したような効果を奏する量であれば特に制限されないが、アノード微細多孔質層を構成する全成分に対して、5〜40重量%であることが好ましい。このような量であれば、導電性同士を結着して、アノード微細多孔質層の十分な強度を確保でき、また、適度な撥水性を発揮できる。
本形態のアノードガス拡散層は、アノード微細多孔質層5aがアノードガス拡散層基材6a(またはアノードガス拡散層基材6aに配置されたアノード中間層(MPL)7a)上に配置される構造を有する。このような構造を有することにより、本発明のMEAは、ドライアウト耐性とフラッディング耐性とを両立でき、アノード側でドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)を効果的に発揮できる。ここで、アノードガス拡散層のドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)は、ドライアウト耐性を十分発揮できる程度であれば特に制限されないが、水蒸気有効拡散係数(300K)が、2×10−6〜6.0×10−6[m2/s]であることが好ましく、3.0×10−6〜6.0×10−6[m2/s]であることがより好ましい。上記したようなガス拡散係数を有するアノードガス拡散層は、アノード側でドライアウト耐性(水蒸気拡散抵抗性)に優れる。
アノード微細多孔質層の形成方法は特に制限されない。以下に、本発明に係るアノード微細多孔質層の形成方法の好ましい実施形態を説明するが、本発明は下記形態に限定されない。
まず、扁平状導電性材料、および必要に応じて粒状導電性材料、バインダ、界面活性剤、増粘剤を含むインクを調製する。次に、このインクを攪拌、脱泡処理した後、耐熱性保持シート上に塗布し、乾燥、焼成を行って、アノード微細多孔質層を耐熱性保持シート上に形成する。ここで、耐熱性保持シートとしては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート等の、ポリエステルシート、ポリイミドシート、ポリプロピレンシート、ポリエチレンシート、ポリスルホンシート、ポリテトラフルオロエチレンシートなどの公知のシートが使用できる。これらのうち、ポリイミドシートを好適に用いることができる。また、耐熱性保持シートの厚さは、特に制限されないが、10〜100μm程度であることが好ましい。または、耐熱性保持シートの代わりに、ガス拡散層基材または中間層が予め形成されたガス拡散層基材(MPL付GDL)を使用してもよい。
上記方法において、乾燥条件は、特に制限されないが、例えば、80〜120℃で1〜60分間の条件が好ましい。また、焼成条件もまた特に制限されないが、例えば、120〜350℃で5〜60分間の条件が好ましい。
次に、アノード微細多孔質層を耐熱性保持シートから剥がし、例えば、ホットプレスなどによって、微細多孔質層または微細多孔質層が予め形成されたガス拡散層基材上に積層することによって、アノードガス拡散層を得ることができる。または、上記方法において、微細多孔質層または微細多孔質層が予め形成されたガス拡散層基材を耐熱性保持シートとして使用して、インクを、直接、上記微細多孔質層または微細多孔質層が予め形成されたガス拡散層基材の微細多孔質層側に塗布し、乾燥、焼成を行って、アノード微細多孔質層を耐熱性保持シート上に形成して、アノードガス拡散層を得てもよい。上記方法において、乾燥・焼成条件は、特に制限されないが、上記と同様の条件が好ましく適用される。
(カソード微細多孔質層)
上述したように、カソード微細多孔質層5cは、カソード微細多孔質層5c及びカソードガス拡散層基材6cを有し、必要であれば、カソード微細多孔質層5cとカソードガス拡散層基材6cとの間に、カソード中間層(MPL)7cをさらに有する。
カソード微細多孔質層5cの相対ガス拡散係数は、上記したように、アノード微細多孔質層5aの相対ガス拡散係数より0.05[−]以上大きければ特に制限されない。フラッディング耐性を考慮すると、カソード微細多孔質層5cの相対ガス拡散係数は、0.1〜0.8[−]であることが好ましく、0.2〜0.5[−]であることがより好ましい。このような範囲であれば、カソードで生成した水はカソード微細多孔質層5cを良好に通過して、GDL、セパレータを介して排出される。ゆえに、湿潤条件であってもMEA内からの水を排出させて(カソードフラッディングを悪化させずに)、フラッディング耐性を向上させることができる。一方、アノード側では、アノード微細多孔質層5aが、水/水蒸気がアノード微細多孔質層を透過することをより効果的に抑制・防止する。このため、ドライ(低湿度)条件であっても、水がGDL、セパレータを介して排出することを抑制・防止し、プロトン伝導性を維持するのに十分な量の水を固体高分子電解質膜や触媒層に確保できる。ゆえに、ドライ条件において問題となるドライアウトを抑制して、発電性能の低下を抑制・防止できる。したがって、本発明のMEAは、ドライアウト耐性及びフラッディング耐性双方をより両立できる。ここで、カソード微細多孔質層5cの相対ガス拡散係数を上記したように制御する方法は特に制限されない。好ましくは、下記に詳述するように、カソード微細多孔質層5cに粒状導電性材料を使用することによって達成できる。
カソード微細多孔質層5cの厚さは、カソードで生成した水を効率よく排出して、フラッディング耐性を発揮できる程度であれば制限されない。好ましくは、カソード微細多孔質層5cの厚さは、10〜100μmであり、20〜80μmであることがより好ましい。このような厚さにすることで、カソードで生成した水は、カソード側のGDL、セパレータを介して排出される。ゆえに、湿潤条件であってもMEA内からの水を排出させて(カソードフラッディングを悪化させずに)、フラッディング耐性を向上させることができる。
カソード微細多孔質層5cの屈曲度は、塑性変形を抑制・防止できる程度であれば制限されない。好ましくは、カソード微細多孔質層5cの屈曲度は、1〜15であり、1.5〜10であることがより好ましく、1.8〜8であることがより好ましく、3〜6であることがさらにより好ましい。このような屈曲度にすることで、スタック組み付け時の面方向の圧縮力に対する曲げ応力を緩和し、カソード微細多孔質層の塑性変形を抑制・防止できる。
カソード微細多孔質層5cの空隙率は、フラッディング耐性を発揮できる程度であれば制限されない。好ましくは、カソード微細多孔質層5cの空隙率は、40〜80%であり、50〜75%であることがより好ましい。このような空隙率にすることで、カソードで生成した水は、カソード側のGDL、セパレータを介して効率よく排出される。ゆえに、湿潤条件であってもMEA内からの水を排出させて(カソードフラッディングを悪化させずに)、フラッディング耐性をより向上させることができる。
カソード微細多孔質層5cの水蒸気有効拡散係数(300K)は、フラッディング耐性を発揮できる程度であれば制限されない。好ましくは、カソード微細多孔質層5cの水蒸気有効拡散係数(300K)は、1.5×10−6〜6.0×10−5[m2/s]であり、5.0×10−6〜5.0×10−5[m2/s]であることがより好ましく、1.0×10−5〜3.0×10−5[m2/s]であることがさらにより好ましい。このような水蒸気有効拡散係数(300K)であれば、カソードで生成した水は、カソード側のGDL、セパレータを介して効率よく排出される。ゆえに、湿潤条件であってもMEA内からの水を排出させて(カソードフラッディングを悪化させずに)、フラッディング耐性をより向上させることができる。
カソード微細多孔質層5cは、フラッディング耐性を発揮できるものであればいずれの材料で形成されてもよいが、粒状導電性材料、より好ましくはカーボン粒子を含むことが好ましい。これにより、カソードで生成した水は粒子間の空隙を通過して、系外に排出されうる。ここで、カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛(粒状黒鉛を含む)、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。かようなカーボン粒子は、市販品を用いることができ、キャボット社製バルカンXC−72、バルカンP、ブラックパールズ880、ブラックパールズ1100、ブラックパールズ1300、ブラックパールズ2000、リーガル400、ライオン社製ケッチェンブラックEC、三菱化学社製#3150、#3250などのオイルファーネスブラック;電気化学工業社製デンカブラックなどのアセチレンブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素などであってもよい。また、耐食性などを向上させるために、前記カーボン粒子に黒鉛化処理などの加工を行ってもよい。この際、上記材料は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
また、カーボン粒子の粒径は、フラッディング耐性を発揮できる程度であれば制限されない。好ましくは、カーボン粒子の平均粒径(平均一次粒径、直径)が、10nm以上5μm未満であることが好ましく、10〜500nmであることがより好ましい。カーボン粒子の大きさは、公知の方法によって測定できるが、本明細書では、特に言及のない限り、上記粒状導電性材料の平均粒径と同様の定義である。
カーボン粒子の比表面積(BET比表面積)は、特に制限されないが、好ましくは10〜2000m2/g以上であり、より好ましくは20〜1000m2/gである。このような比表面積のカーボン粒子をカソード微細多孔質層に使用することによって、カソード微細多孔質層5cの厚さ方向の抵抗を低減して導電性をさらに向上することができる。
カーボン粒子の配合量は、適度なガス透過性向上、導電性向上を達成できれば特に制限されない。具体的には、カーボン粒子の配合量(固形分量)は、カソード微細多孔質層を構成する全成分に対して、40〜90重量%であることが好ましく、50〜85重量%であることがより好ましい。このような量で配合されたカーボン粒子は、導電パス材として十分な導電性をカソード微細多孔質層に付与し、カソード微細多孔質層の厚さ方向の抵抗を低減して導電性を向上することができる。また、水/水蒸気および酸化剤ガスが良好にカーボン粒子間を通過して、厚さ及び面方向のガス透過性を向上し、良好なガス透過性を達成しうる。特に、カーボン粒子としてアセチレンブラックを使用する場合には、アセチレンブラックの配合量は、カソード微細多孔質層を構成する全成分に対して、50〜85重量%であることがより好ましい。このような量であれば、十分な接触点及び接触面積を稼いで導電性を向上することができる。また、水/水蒸気および酸化剤ガスが良好にカーボン粒子間を通過して、厚さ及び面方向のガス透過性を向上し、良好なガス透過性を達成できる。また、カーボン粒子としてケッチェンブラックを用いる際には、ケッチェンブラックの配合量は、カソード微細多孔質層を構成する全成分に対して、50〜85重量%であることがより好ましい。このような量であれば、十分な接触点及び接触面積を稼いで導電性を向上することができる。また、水/水蒸気および酸化剤ガスが良好にカーボン粒子間を通過して、厚さ及び面方向のガス透過性を向上し、良好なガス透過性を達成できる。
また、上記において、必要であれば使用できるバインダとしては、特に制限されず、公知のバインダが使用できる。好ましくは、上記カソード微細多孔質層での例示と同様のものが使用できる。また、バインダの配合量(固形分量)は、上記したような効果を奏する量であれば特に制限されないが、カソード微細多孔質層を構成する全成分に対して、10〜60重量%であることが好ましい。このような量であれば、導電性同士を結着して、カソード微細多孔質層の十分な強度を確保でき、また、適度な撥水性を発揮できる。
本形態のカソードガス拡散層は、カソード微細多孔質層5cがカソードガス拡散層基材6c(またはカソードガス拡散層基材6cに配置されたカソード中間層(MPL)7c)上に配置される構造を有する。このような構造を有することにより、本発明のMEAは、ドライアウト耐性とフラッディング耐性とを両立でき、カソード側でフラッディング耐性を効果的に発揮できる。ここで、カソードガス拡散層のフラッディング耐性は、カソードで生成した水を十分排出できる程度であれば特に制限されないが、水蒸気有効拡散係数(300K)が、1.5×10−6〜6.0×10−5[m2/s]であり、5.0×10−6〜5.0×10−5[m2/s]であることがより好ましく、1.0×10−5〜3.0×10−5[m2/s]であることがさらにより好ましい。上記したようなガス拡散係数を有するカソードガス拡散層は、カソードでフラッディング耐性に優れる。
カソード微細多孔質層の形成方法は特に制限されない。以下に、本発明に係るカソード微細多孔質層の形成方法の好ましい実施形態を説明するが、本発明は下記形態に限定されない。
まず、カーボン粒子、バインダ、界面活性剤、増粘剤を含むインクを調製する。次に、このインクを攪拌、脱泡処理した後、耐熱性保持シート上に塗布し、乾燥、焼成を行って、カソード微細多孔質層を耐熱性保持シート上に形成する。ここで、耐熱性保持シートは、特に制限されず、上記アノード微細多孔質層の形成方法の例示と同様である。また、耐熱性保持シートの厚さは、特に制限されないが、10〜100μm程度であることが好ましい。または、耐熱性保持シートの代わりに、ガス拡散層基材または中間層が予め形成されたガス拡散層基材(MPL付GDL)を使用してもよい。
上記方法において、乾燥条件は、特に制限されないが、例えば、60〜150℃で1〜60分間の条件が好ましい。また、焼成条件もまた特に制限されないが、例えば、120〜350℃で5〜60分間の条件が好ましい。
次に、カソード微細多孔質層を耐熱性保持シートから剥がし、例えば、ホットプレスなどによって、微細多孔質層または微細多孔質層が予め形成されたガス拡散層基材上に積層することによって、アノードガス拡散層を得ることができる。または、上記方法において、微細多孔質層または微細多孔質層が予め形成されたガス拡散層基材を耐熱性保持シートとして使用して、インクを、直接、上記微細多孔質層または微細多孔質層が予め形成されたガス拡散層基材の微細多孔質層側に塗布し、乾燥、焼成を行って、カソード微細多孔質層を耐熱性保持シート上に形成して、アノードガス拡散層を得てもよい。上記方法において、乾燥・焼成条件は、特に制限されないが、上記と同様の条件が好ましく適用される。
(ガス拡散層基材)
アノードおよびカソードガス拡散層に使用されうるガス拡散層基材としては、特に限定されず公知のものが同様にして使用できる。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等の炭素繊維で形成された炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料;ならびに金属製メッシュ、エキスパンドメタル、エッチングプレートを基材とするものなどが挙げられる。前記基材の厚さは、特に制限されず所望の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。このような厚さであれば、十分な機械的強度ならびにガスや水などの透過性が確保できる。また、ガス拡散層基材は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐことを目的として、撥水剤を含んでもよい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。ここで、撥水処理方法は特に制限されず、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、ガス拡散層基材を撥水剤の分散液に浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔体にカーボン粒子を含浸させて焼結させたシート体を用いることができる。シート体とすることによって、製造工程が簡易になり、また、燃料電池の各部材を積層する際の取り扱い及び組み立てが容易になる。また、MEAの排水特性、セパレータの表面性状によっては、ガス拡散層基材の撥水処理を行わない、または、親水処理を行ってもよい。
また、ガス拡散層基材と微細多孔質層とを組み合わせたものを使用してもよい。この際、ガス拡散層基材上に微細多孔質層を形成する方法は特に制限されない。例えば、カーボン粒子、撥水剤等を、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒などの溶媒中に分散させることによりスラリーを調製する。次に、このスラリーをガス拡散層基材上に塗布し乾燥、もしくは、前記スラリーを一度乾燥させ粉砕することで粉体にし、これを前記ガス拡散層上に塗布する方法などを用いればよい。その後、マッフル炉や焼成炉を用いて250〜400℃程度で熱処理を施すのが好ましい。または、ガス拡散層基材上に微細多孔質層が予め形成された市販品を使用してもよい。
(中間層(MPL))
上述したように、アノードおよび/またはカソードガス拡散層は、必要であれば、中間層(MPL)を有していてもよい。ここで、中間層(MPL)は、特に制限されないが、中間層(MPL)ガス拡散係数が大きいことが好ましい。このような中間層(MPL)を用いることにより、ガス透過性をさらに向上して、ドライ条件と湿潤条件における発電性能をより効果的に両立することができる。このような中間層(MPL)としては、特に制限されないが、必要であれば撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなりうる。ここで、カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛(粒状黒鉛を含む)、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。かようなカーボン粒子は、市販品を用いることができ、キャボット社製バルカンXC−72、バルカンP、ブラックパールズ880、ブラックパールズ1100、ブラックパールズ1300、ブラックパールズ2000、リーガル400、ライオン社製ケッチェンブラックEC、三菱化学社製#3150、#3250などのオイルファーネスブラック;電気化学工業社製デンカブラックなどのアセチレンブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素などであってもよい。また、耐食性などを向上させるために、前記カーボン粒子に黒鉛化処理などの加工を行ってもよい。この際、上記材料は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
前記カーボン粒子の粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、ガス拡散係数を向上し、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。なお、導電性担体の粒子の形状は特に限定されず、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状など任意の構造をとりうる。本明細書中、「導電性担体粒子の粒子径」は、導電性担体粒子の平均二次粒子径である。ここで、導電性担体粒子の平均二次粒子径の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
中間層(MPL)は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂等が挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。中間層(MPL)における、カーボン粒子と撥水剤との混合比は、カーボン粒子が多過ぎると期待するほど撥水性が得られない恐れがあり、撥水剤が多過ぎると十分な電子伝導性が得られない恐れがある。これらを考慮して、中間層(MPL)におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、重量比で、90:10〜40:60程度とするのがよい。前記中間層(MPL)の厚さは、得られるアノードガス拡散層を考慮して適宜決定すればよい。
また、中間層(MPL)では、カーボン粒子がバインダにより結着されていてもよい。ここで用いられうるバインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。なお、上述した撥水剤とバインダとは一部重複する。したがって、好ましくは、撥水性を有するバインダを使用する。中でも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられ、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。撥水性を有するバインダを用いることにより、中間層(MPL)内の細孔(カーボン粒子間)に撥水性が付与され、水の排出性を向上させることができる。なお、これらのバインダは1種類単独で用いてもよいし、または2種類以上併用してもよい。また、これら以外の高分子が用いられてもよい。
中間層(MPL)におけるバインダの含有量は、中間層(MPL)内の空隙構造が所望の特性となるように適宜調整すればよい。具体的には、バインダの含有量は、中間層(MPL)の全重量に対して好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは12〜40重量%の範囲であるのが好ましい。バインダの配合割合が5重量%以上であれば粒子同士を良好に結合でき、60重量%以下であれば中間層(MPL)の電気抵抗の上昇を防止しうる。
中間層(MPL)の厚さは、特に制限されず、アノードガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよい。中間層(MPL)の厚さは、好ましく3〜500μmであり、より好ましくは5〜300μmであり、さらに好ましくは10〜150μmであり、特に好ましくは20〜100μmである。かような範囲にあれば、機械的強度とガスおよび水などの透過性とのバランスが適切に制御できる。
(固体高分子電解質膜)
固体高分子電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜2は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。これらの炭化水素系高分子電解質膜は、原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の利点がある。
なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
固体高分子電解質膜の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
(触媒層)
触媒層(アノード触媒層3a、カソード触媒層3c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層3aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層3cでは酸素の還元反応が進行する。
触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体(導電性担体)、および電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
アノード触媒層に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒成分およびカソード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。例えば、触媒成分の形状は、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1〜10nm、さらに好ましくは1〜5nm、特に好ましくは2〜4nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡(TEM)より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
上述した触媒成分は導電性担体に担持された電極触媒として触媒インクに含まれる。
導電性担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。前記導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、本発明において「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
前記導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gとするのがよい。前記比表面積が上記したような範囲であれば、導電性担体への触媒成分および高分子電解質が十分分散して十分な発電性能が得られ、また、触媒成分および高分子電解質を十分有効利用できる。
また、前記導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
前記導電性担体に触媒成分が担持された電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%とするのがよい。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
触媒層には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、上述した電解質層を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層に添加されうる。
当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。なお、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質の具体的な説明は上記固体高分子電解質膜における説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましい。特に、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
また、導電性担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。または、電極触媒は、市販品を用いてもよい。
本発明の方法では、上記したような電極触媒、高分子電解質及び溶剤からなる触媒インクを、高分子電解質膜表面に塗布することによって、触媒層が形成される。この際、溶剤としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶剤が同様にして使用できる。具体的には、水、シクロヘキサノールやエタノールや2−プロパノール等の低級アルコールが使用できる。また、溶剤の使用量もまた、特に制限されず公知と同様の量が使用できる。触媒インクにおいて、電極触媒は、所望の作用、即ち、水素の酸化反応(アノード側)及び酸素の還元反応(カソード側)を触媒する作用を十分発揮できる量であればいずれの量で、使用されてもよい。電極触媒が、触媒インク中、5〜30重量%、より好ましくは9〜20重量%となるような量で存在することが好ましい。
本発明の触媒インクは、増粘剤を含んでもよい。増粘剤の使用は、触媒インクが転写用台紙上にうまく塗布できない場合などに有効である。この際使用できる増粘剤は、特に制限されず、公知の増粘剤が使用できるが、例えば、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などが挙げられる。これらのうち、プロピレングリコール(PG)が好ましく使用される。これは、プロピレングリコール(PG)を使用することにより、触媒インクの沸点が高まり溶媒蒸発速度が小さくなる。このため、例えば、転写法で電解質膜に触媒層を形成する際に、触媒インク中にPGを添加することにより、塗布された触媒インク中の溶媒蒸発速度が抑制され、前記乾燥過程後の触媒層にひび割れ(クラック)が生じることを抑制・防止できる。このようにひび割れの少ない触媒層を膜に転写することで、膜への機械的応力集中が緩和され、その結果、MEAの耐久性が向上することができる。増粘剤を使用する際の、増粘剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されないが、触媒インクの全重量に対して、好ましくは5〜20重量%である。
本発明の触媒インクは、電極触媒、電解質及び溶剤、ならびに必要であれば撥水性高分子および/または増粘剤、が適宜混合されたものであればその調製方法は特に制限されない。例えば、電解質を極性溶媒に添加し、この混合液を加熱・攪拌して、電解質を極性溶媒に溶解した後、これに電極触媒を添加することによって、触媒インクが調製できる。または、電解質を、溶剤中に一旦分散/懸濁された後、上記分散/懸濁液を電極触媒と混合して、触媒インクを調製してもよい。また、電解質が予め上記他の溶媒中に調製されている市販の電解質溶液(例えば、デュポン製のNafion溶液:1−プロパノール中に5wt%の濃度でNafionが分散/懸濁したもの)をそのまま上記方法に使用してもよい。
上記したような触媒インクを、高分子電解質膜上にまたはガス拡散層上に、塗布して、各触媒層が形成される。この際、高分子電解質膜上へのカソード/アノード触媒層の形成条件は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できる。例えば、触媒インクを高分子電解質膜上に、乾燥後の厚みが所望の厚みになるように、塗布し、真空乾燥機内にてまたは減圧下で、25〜150℃、より好ましくは60〜120℃で、5〜30分間、より好ましくは10〜20分間、乾燥する。なお、上記工程において、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。
また、単位触媒塗布面積当たりの触媒含有量(mg/cm2)は、特に制限されないが、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能などを考慮すると、0.01〜1.0mg/cm2である。ただし、触媒が白金または白金含有合金を含む場合、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量が0.2mg/cm2以下であることが好ましい。白金(Pt)や白金合金に代表される高価な貴金属触媒の使用は燃料電池の高価格要因となっている。したがって、高価な白金の使用量(白金含有量)を上記範囲まで低減し、コストを削減することが好ましい。下限値は発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01mg/cm2以上である。より好ましくは、当該白金含有量は0.05〜0.20mg/cm2である。なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、インクの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量を調整することができる。
触媒層の厚みは触媒層(乾燥後)の厚みは、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは1〜5μmである。なお、上記厚みは、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかし、カソード触媒層及びアノード触媒層の厚みは、同じであってもあるいは異なってもよい。
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法が使用できる。また、アノードガス拡散層のアノード微細多孔質層側におよびカソードガス拡散層(カソード微細多孔質層を有する場合にはカソード微細多孔質層)にそれぞれアノード触媒層及びカソード触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極を2枚作製し、電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法なども使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、電解質膜や触媒層内の電解質の種類(パーフルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
(セパレータ)
セパレータは、固体高分子型燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質型燃料電池(PEFC)を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
上述したPEFCや膜電極接合体は、ドライアウト耐性とフラッディング耐性とを両立できるガス拡散層を用いている。したがって、当該PEFCや膜電極接合体は湿度の変動による影響を受けにくい優れた発電性能を発揮する。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
(実施例1)
鱗片状黒鉛(平面直径(D):15μm、厚さ(H):0.1μm、アスペクト比(D/H):150、比表面積:6m2/g)、ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製、一次粒径:34nm、比表面積:1270m2/g)、PTFEを、それぞれ66.5wt%、3.5wt%、30wt%の割合で含むインク(界面活性剤、増粘剤も含む)を調製した。このインクを、微細多孔質層(厚さ:45μm)が予め形成され、10wt%PTFEにより撥水処理を行ったカーボンペーパー(三菱レイヨン(株)製、厚さ:160μm)上に塗布した。塗布後、80℃で30分間乾燥し、さらに330℃で30分間焼成を行い、厚さ60μmの鱗片状黒鉛層(アノード微細多孔質層)を有するアノードガス拡散層1(仕様A)を得た。この際、アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数は、0.15[−]であった。また、アノード微細多孔質層の屈曲度および水蒸気有効拡散係数(300K)は、それぞれ、4.55および3.8×10−6[m2/s]であった。
また、アセチレンブラック(電気化学工業社製、一次粒径:40nm、比表面積37m2/g)、PTFEを、それぞれ、70.0wt%、30.0wt%の割合で含むインク(界面活性剤、増粘剤も含む)を調製した。このインクを、微細多孔質層(厚さ:45μm)が予め形成され、10wt%PTFEにより撥水処理を行ったカーボンペーパー(三菱レイヨン(株)製、厚さ:160μm)上に塗布した。塗布後、80℃で30分間乾燥し、さらに330℃で30分間焼成を行い、厚さ60μmのカソード微細多孔質層を有するカソードガス拡散層1(仕様B)を得た。この際、カソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数は、0.40[−]であった。このため、アノード及びカソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数の差[=(カソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)−(アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)]は、0.25[−]であった。また、カソード微細多孔質層の屈曲度および水蒸気有効拡散係数(300K)は、それぞれ、1.8および1.0×10−5[m2/s]であった。
パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー系電解質膜(厚さ:15μm)上に、白金担持カーボン(担持量:アノード0.05mg/cm2、カソード0.35mg/cm2)、パ−フルオロスルホン酸系電解溶液からなる触媒層を形成して、膜電極接合体を形成した。この膜電極接合体を、上記アノードガス拡散層1およびカソードガス拡散層1で挟み込み、MEA1(仕様A及び仕様Bの組み合わせ)を得た。
(実施例2)
鱗片状黒鉛(平面直径(D):15μm、厚さ(H):0.1μm、アスペクト比(D/H):150、比表面積:6m2/g)、アセチレンブラック(電気化学工業社製、一次粒径:40nm、比表面積37m2/g)、PTFEを、それぞれ61.3wt%、8.8wt%、30wt%の割合で含むインク(界面活性剤、増粘剤も含む)を調製した。このインクを、10wt%PTFEにより撥水処理を行ったカーボンペーパー(三菱レイヨン(株)製、厚さ:160μm)上に塗布した。塗布後、80℃で30分間乾燥し、さらに330℃で30分間焼成を行い、厚さ60μmの鱗片状黒鉛層(アノード微細多孔質層)を有するアノードガス拡散層2(仕様C)を得た。この際、アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数は、0.16[−]であった。また、アノード微細多孔質層の屈曲度および水蒸気有効拡散係数(300K)は、それぞれ、4.1および4.0×10−6[m2/s]であった。
また、実施例1と同様にして、カソードガス拡散層1(仕様B)を得た。この際、アノード及びカソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数の差[=(カソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)−(アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)]は、0.24[−]であった。
上記実施例1において、上記で得られたアノードガス拡散層2及びカソードガス拡散層1を代わりに使用する以外は、上記実施例1と同様の操作を行い、MEA2(仕様C及び仕様Bの組み合わせ)を得た。
(実施例3)
鱗片状黒鉛(平面直径(D):15μm、厚さ(H):0.1μm、アスペクト比(D/H):150、比表面積:6m2/g)、ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製、一次粒径:34nm、比表面積:1270m2/g)、PTFEを、それぞれ40wt%、30wt%、30wt%の割合で含むインク(界面活性剤、増粘剤も含む)を調製した。このインクを、微細多孔質層(厚さ:45μm)が予め形成され、10wt%PTFEにより撥水処理を行ったカーボンペーパー(三菱レイヨン(株)製、厚さ:160μm)上に塗布した。塗布後、80℃で30分間乾燥し、さらに330℃で30分間焼成を行い、厚さ90μmの鱗片状黒鉛層(アノード微細多孔質層)を有するアノードガス拡散層3(仕様D)を得た。この際、アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数は、0.13[−]であった。また、アノード微細多孔質層の屈曲度および水蒸気有効拡散係数(300K)は、それぞれ、5.20および3.4×10−6[m2/s]であった。
また、実施例1と同様にして、カソードガス拡散層1(仕様B)を得た。この際、アノード及びカソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数の差[=(カソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)−(アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)]は、0.27[−]であった。
上記実施例1において、上記で得られたアノードガス拡散層3及びカソードガス拡散層1を代わりに使用する以外は、上記実施例1と同様の操作を行い、MEA3(仕様D及び仕様Bの組み合わせ)を得た。
(実施例4)
実施例1と同様にして、アノードガス拡散層1(仕様A)を得た。
また、アセチレンブラック(電気化学工業社製、一次粒径:40nm、比表面積37m2/g)、PTFEを、それぞれ、50.0wt%、50.0wt%の割合で含むインク(界面活性剤、増粘剤も含む)を調製した。このインクを、微細多孔質層(厚さ:45μm)が予め形成され、10wt%PTFEにより撥水処理を行ったカーボンペーパー(三菱レイヨン(株)製、厚さ:160μm)上に塗布した。塗布後、80℃で30分間乾燥し、さらに330℃で30分間焼成を行い、厚さ60μmのカソード微細多孔質層を有するカソードガス拡散層2(仕様E)を得た。この際、カソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数は、0.25[−]であった。このため、アノード及びカソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数の差[=(カソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)−(アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)]は、0.10[−]であった。また、カソード微細多孔質層の屈曲度および水蒸気有効拡散係数(300K)は、それぞれ、2.16および6.4×10−6[m2/s]であった。
上記実施例1において、上記で得られたアノードガス拡散層1及びカソードガス拡散層2を代わりに使用する以外は、上記実施例1と同様の操作を行い、MEA4(仕様A及び仕様Eの組み合わせ)を得た。
(比較例1)
上記実施例1において、カソードガス拡散層1(仕様B)の代わりに、アノードガス拡散層1(仕様A)を使用する以外は、上記実施例1と同様の操作を行い、MEA5(仕様A及び仕様Aの組み合わせ)を得た。なお、アノード及びカソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数の差[=(カソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)−(アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)]は、0[−]であった。
(比較例2)
上記実施例2において、カソードガス拡散層1(仕様B)の代わりに、アノードガス拡散層2(仕様C)を使用する以外は、上記実施例2と同様の操作を行い、MEA6(仕様C及び仕様Cの組み合わせ)を得た。なお、アノード及びカソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数の差[=(カソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)−(アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)]は、0[−]であった。
(比較例3)
上記実施例1において、アノードガス拡散層1(仕様A)の代わりに、カソードガス拡散層1(仕様B)を使用し、かつカソードガス拡散層1(仕様B)の代わりに、アノードガス拡散層1(仕様A)を使用する以外は、上記実施例1と同様の操作を行い、MEA7を得た。なお、アノード及びカソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数の差[=(カソード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)−(アノード微細多孔質層の相対ガス拡散係数)]は、−0.25[−]であった。
(ガス拡散層の厚さ方向電気抵抗の測定)
測定に当たっては、各ガス拡散層(面積0.95cm2)の両面を金箔で挟み、荷重(1MPa)をかけた状態で通電して、電気抵抗を測定し、1cm2当たりの電気抵抗(mΩ/1cm2)を算出した。電流値は1Aで、5MPaまでを1サイクルとし、2サイクル目の1MPaにおける値を比較した。
(セル発電評価結果)
上記実施例1〜4及び比較例1〜4のMEA1〜7(アクティブエリアが5cm×2cm)の両面にガス流路付きガスセパレータを各々配置し、さらに金メッキしたステンレス製集電板により挟持して、評価用小型単セルを作製した。この小型単セルを用い、H2/Air、80℃、200kPa_aの条件で発電評価を行い、発電評価結果を図5(実施例1のMEA1、比較例1〜3のMEA5〜7)および図6(実施例2〜4のMEA2〜4、比較例1のMEA5)に示す。図5及び図6において、発電評価結果は、相対湿度が、アノード及びカソードが、それぞれ、20%RH、40%RH(乾燥条件)、70%RH、90%RH(湿潤条件)における電流密度2A/cm2の場合のセル電圧の相対値(実施例1のそれぞれの値を1.0とした際)として表す。
図5に示されるように、実施例1のMEA1では、20%RH以外の条件において、比較例1〜3のMEA5〜7と比較して、発電性能を示すセル電圧が高い結果となった。また、図6に示されるように、実施例2〜4のMEA2〜4では、いずれの条件においても、比較例1のMEA5と比較して、発電性能を示すセル電圧が高い結果となった。