JP2014172936A - 無機/有機複合化合物の製造方法 - Google Patents

無機/有機複合化合物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】無機酸化物とポリビニルアルコールを主成分とする有機ポリマーとの無機/有機複合化合物の製造において、従来法と異なり、原料液に含まれる不要塩が固体状であるために原料液の段階で簡単に分離、除去でき、成形体としてからの不要塩除去や中和操作の必要がない製造方法を提供する。
【解決手段】無機塩あるいは無機酸化物の塩2と、少なくともポリビニルアルコール3を含む有機高分子が、水を含む溶媒1中で共存する状態で、当該無機塩あるいは無機酸化物の塩を、プロトンを解離することのできる固体状の酸と、あるいは、水酸化物イオンを解離することのできる固体状のアルカリと、接触させて中和することによって、無機/有機複合化合物を製造する。
【選択図】図1

Description

本発明は、無機物と有機物とが化合した、無機/有機複合化合物の製造方法に係わる。
本発明者らは、これまでに新しいタイプの無機/有機複合化合物を提案している。
この無機/有機複合化合物は、ポリビニルアルコールを主成分とする有機高分子と無機酸化物が分子レベルで化合した複合化合物であって、無機酸化物の性質を反映して、低価格にもかかわらず化学的安定性や耐熱性に優れ、さまざまな分野に適用可能な工業材料である。
例えば、これらの無機/有機複合化合物は、プロトン(あるいは水酸化物イオン)伝導性固体電解質として使用することができ、燃料電池、各種電解装置、センサー、電池、エレクトロクロミックデバイス、除湿機などさまざまな用途に応用することができる。これら固体電解質として使用できる無機/有機複合化合物は、詳しくは珪酸化合物とポリビニルアルコールからなる無機/有機複合化合物(特許文献1参照)、タングステン酸化合物又はモリブデン酸化合物とポリビニルアルコールからなる無機/有機複合化合物(特許文献2参照)、錫酸化合物とポリビニルアルコールからなる無機/有機複合化合物(特許文献3参照)、ジルコン酸化合物とポリビニルアルコールからなる無機/有機複合化合物(特許文献4,5参照)などである。そして、これらの無機/有機複合化合物は、従来使用されているNafion(登録商標)などの固体電解質に比して低価格であるメリットがある。
これらの複合化合物から成る固体電解質は、無機酸化物の塩とポリビニルアルコールが共存する溶液中で無機酸化物の塩を酸あるいはアルカリで中和し、溶媒と不要塩を除去して成形体することによって得られる。この時、不要塩の除去は成形体を水(熱水)によって洗浄することによって行なわれる。
上記従来の製法において、無機酸化物の成分が珪酸化合物、タングステン酸化合物、モリブデン酸化合物、錫酸化合物の場合には、これらの塩とポリビニルアルコールの共存する溶液中でこれらの塩を酸で中和することによって行なわれる。一方、無機酸化物の成分がジルコン酸化合物の場合には、ジルコニウム塩あるいはオキシジルコニウム塩をポリビニルアルコール共存下、アルカリで中和することによって行なわれる。ただし、ジルコン酸化合物の場合、この中和過程において原料液がゲル化を起しやすい問題があるため、原料液の中和工程の前に溶媒を除去して成形してしまい、成形後にアルカリと接触させることによって中和を行なう方法も考案されている(特許文献6参照)。
また、本発明者らは、これら無機/有機複合化合物が、医薬品、香料、農薬、その他の化学品の合成反応に使用される触媒に適用できることを見出している。例えば、前記の固体電解質と同様の無機/有機複合化合物は不斉配位子を持つ立体選択性金属錯体触媒を多量に固定することができ、固定化触媒として使用することができる。固定化した状態でも立体選択性を維持しており、回収性に優れ、金属成分の流出が少なく、リサイクル性に優れる触媒を提供できる(特許文献7参照)。
さらに、これら無機/有機複合化合物中にパラジウムなどの金属ナノ粒子を多量に導入することが可能であり、そのようなタイプの触媒も開示されている(特許文献8参照)。このような金属ナノ粒子触媒も反応溶液中での金属ナノ粒子の離脱、凝集、成長などを抑えることができ、リサイクル性に優れる。
このように、ポリビニルアルコールを中心とした有機ポリマーと、無機酸化物が分子レベルで複合化した複合化合物は、有機ポリマーのように柔軟な物性を持ちながら無機酸化物の性質も反映して低価格にして化学的安定性や耐熱性に優れていたり、ナノレベルの無機酸化物の機能を有機ポリマーに付与できたりするなどの特徴を有しているためにさまざまな分野に応用できる工業材料である。
S.Yanoらは、タングステン酸とポリビニルアルコールの複合材料を得るために、あらかじめタングステン酸の塩をイオン交換樹脂で中和してタングステン酸を作製しておき、そのタングステン酸をポリビニルアルコールと混合する方法をとっている(非特許文献1参照)。この方法によると、中和後に生成する塩は固体状のイオン交換樹脂の形となっており、濾過などの方法により簡単に除去される。
特許第4832670号明細書 特許第3889605号明細書 特許第3856699号明細書 特許第3848882号明細書 特許第4081343号明細書 特開2008−243682号公報 国際特許公開第2011/121797号 国際特許公開第2012/176341号
S. Yano, K.. Kurita, K. Iwata, T. Furukawa, M. Kodomari, Polymer 44,(2003), p.3515-3522
前記の無機/有機複合化合物は、前記の通りポリビニルアルコール共存下で珪酸塩、タングステン酸塩、モリブデン酸塩、錫酸塩などを酸によって中和し、溶媒を除去して成形した後、成形体を洗浄して不要塩を除去することによって製造される。また、ポリビニルアルコール共存下でジルコニウム塩あるいはオキシジルコニウム塩をアルカリによって中和し、溶媒を除去して成形した後、成形体を洗浄して不要塩を除去することによって製造される。
これらの方法では、不要塩は中和反応の結果として必ず生成する。中和する酸あるいはアルカリが一般的な塩酸、硝酸、硫酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの水溶液である場合、生成した不要塩は原料液中に溶解した状態となり、原料液から除去するのは簡単ではない。従って、溶媒を除去して無機/有機複合化合物を成形体とした後に成形体から不要塩を取り除く操作を行なうのが従来の標準的製法である。
この不要塩を取り除く操作は、成形体を熱水で洗浄するなどの方法によって実行可能であるが、その操作は製造工程を複雑化し、また場合によっては洗浄操作を行えないケースもある。例えば、何か他の材料の表面上に原料液を塗布して無機/有機複合化合物の塗膜を形成しようとする場合、組み合わせる他の材料が熱水洗浄できない材料であるか、あるいは洗浄できない状況にある場合、使用できないことになってしまう。
また、従来の標準的な製法では、中和反応を十分に進行させるために過剰の酸あるいはアルカリを原料液の中に投与するのが理想的であるが、そうすると原料液に過剰の酸、あるいはアルカリが残留してしまい、場合によってはその状態のままでは使用できないケースもあり得る。例えば、その先の工程で共存する別の部材が、酸あるいはアルカリに弱い材料であるとすれば、その原料液を使用するのが難しくなる。その場合、原料液中の過剰な酸あるいはアルカリを適当な中和剤であらかじめ中和することも可能であるが、そうすると原料液中には不要塩がさらに増えることになる。
非特許文献1の方法は、元々前記の無機/有機複合化合物は中和することにより生成した発生期の活性なタングステン酸あるいはその他無機酸化物がポリビニルアルコールと化合できることを利用したものであり、無機酸化物が生まれる時にポリビニルアルコール分子がすぐ近傍に存在していなければ合成することができない。すなわち、タングステン酸の状態ではなく、それになる前のタングステン酸の塩をポリビニルアルコールと共存させておき、その状態で中和操作を行なわなければ、前記の無機/有機複合化合物と同様のものは合成できない。
非特許文献1の方法は、ポリビニルアルコールが共存している状態で中和操作を行なっておらず、中和後に生成したタングステン酸をポリビニルアルコールと混合しているため、混合する時にはタングステン酸は既に失活してしまっている。従って、この方法では、前記の無機/有機複合化合物と同様のものは得られない。
そこで本発明は、上記の無機/有機複合化合物が有している問題点を解決して、従来法と異なり、その原料液に含まれる不要塩が固体の形であり、原料液の段階で簡単に分離、除去でき、不要塩の溶存していない原料液から成形体を製造するために成形体としてからの不要塩除去の必要がなく、工程が簡単であることを特徴とする無機/有機複合化合物の製造方法を提供することを目的としている。
さらにまた、無機/有機複合化合物の無機酸化物成分がジルコン酸化合物である場合、原料液中和工程のゲル化を防止し、そのために中和操作を成形後に行う必要がないことを特徴とする無機/有機複合化合物の製造方法を提供することを目的としている。
本発明は、上述の目的を達成するために為されたもので、無機塩あるいは無機酸化物の塩と、少なくともポリビニルアルコールを含む有機高分子が、水を含む溶媒中で共存する状態で、当該無機塩あるいは無機酸化物の塩を、プロトンを解離することのできる固体状の酸と、あるいは、水酸化物イオンを解離することのできる固体状のアルカリと、接触させて中和することによって、無機/有機複合化合物を製造する。
本発明において、プロトンを解離することのできる固体状の酸として、例えば、スルホン酸基を固定したものが使用できる。
本発明において、水酸化物イオンを解離することのできる固体状のアルカリとして、例えば、四級アンモニウム基を固定したものが使用できる。
さらに具体的には、プロトンを解離することのできる固体状の酸、あるいは、水酸化物イオンを解離することのできる固体のアルカリとして、イオン交換樹脂を使用することができる。
本発明では、好ましくは、無機酸化物の塩が少なくとも珪酸塩、タングステン酸塩のいずれかを含み、無機/有機複合化合物が、少なくとも珪酸化合物、タングステン酸化合物のいずれかを含む無機酸化物と少なくともポリビニルアルコールを含む有機高分子とが化合した複合化合物である。あるいはまた、無機酸化物の塩が少なくともジルコニウム塩、オキシジルコニウム塩のいずれかを含み、無機/有機複合化合物が、少なくともジルコン酸化合物を含む無機酸化物と少なくともポリビニルアルコールを含む有機高分子とが化合した複合化合物である。
本発明により製造される無機/有機複合化合物は、固体電解質あるいは触媒として使用することができる。
上述の本発明によれば、無機塩あるいは無機酸化物の塩と、少なくともポリビニルアルコールを含む有機高分子が、水を含む溶媒中で共存する状態で、当該無機塩あるいは無機酸化物の塩を、プロトンを解離することのできる固体状の酸と、あるいは、水酸化物イオンを解離することのできる固体状のアルカリと、接触させて中和することによって、無機/有機複合化合物またはその原料液を製造する。これにより、従来法と異なり、その原料液に含まれる不要塩が固体の形であり、原料液の段階で簡単に分離、除去でき、成形体としてからの不要塩除去の必要がないため、無機/有機複合化合物の製造工程を簡単化することができる。
本発明の製造方法によって、無機/有機複合化合物を成形体の形にした後に洗浄操作によって不要な塩を取り除くことが困難である用途においても、適用することができるようになる。
また、本発明によれば、原料液に過剰の酸あるいはアルカリが存在しないため、酸あるいはアルカリに耐えられない他の部材と共存した状態で使用することも可能になる。
本発明に係る無機/有機複合化合物成形体の製造工程の第1実施形態を概略的に示すシステム図である。 本発明に係る無機/有機複合化合物成形体の製造工程の第2実施形態を概略的に示すシステム図である。
以下本発明にかかる無機/有機複合化合の製造方法の実施形態を説明する。本発明は、無機塩あるいは無機酸化物の塩と少なくともポリビニルアルコールを含む有機高分子が水を含む溶媒中で共存する状態で、当該無機酸化物の塩をプロトンあるいは水酸化物イオンを解離することのできる固体状の酸あるいはアルカリと接触させて中和することによって無機/有機複合化合物またはその原料液を製造することを基本とする。
次に、本発明にかかる無機/有機複合化合物成形体の製造工程を説明する。
図1は、複合化合物の製造工程の第1実施形態を概略的に示すシステム図である。
先ず、原料として、ステップ1で水を含む溶媒を、ステップ2で珪酸塩、タングステン酸塩などの無機酸化物の塩を、ステップ3でポリビニルアルコールを、それぞれ準備し、ステップ4でこれらの原料を混合して、水を含む溶媒中で無機酸化物の塩とポリビニルアルコールが共存する原料溶液を得る。
珪酸塩、タングステン酸塩などの無機酸化物の塩は、水に溶解するものであれば、どのような種類のものでもよく、酸素や金属イオンの比率、含水率も、どのようなものでもよい。
生産上の実際的な時間範囲の中で、原料溶液中の溶媒を飛ばして無機/有機複合化合物の成形体の製造を効率的に行えるようにするためには、原料溶液は、ポリビニルアルコール濃度にして、5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であることが望ましい。
次に、ステップ5で原料溶液中の珪酸塩、タングステン酸塩を、水その他の溶媒に溶けない固体状の酸に接触させることによって中和し、ステップ6で中和後の原料溶液を得る。この時点で、固体状の酸は中和作用によって塩の形に変化するが、なおも固体状で溶解しない。
中和後の原料液は、ステップ7でろ過等の操作により、この固体状の酸(塩)を原料液から分離する。この時点で原料液は不要な塩が取り除かれている。
その後、ステップ8で溶媒を除去し、ステップ9で複合化合物成形体を得る。
図2は、複合化合物の製造工程の第2実施形態を概略的に示すシステム図である。先ず、原料として、ステップ1で水を含む溶媒を、ステップ2でジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩を、ステップ3でポリビニルアルコールをそれぞれ準備し、ステップ4でこれらの原料を混合して、水を含む溶媒中でジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩とポリビニルアルコールが共存する原料溶液を得る。ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩は水に溶解するものであればどのような種類のものでもよく、酸素や金属イオンの比率、含水率もどのようなものでもよい。
次に、ステップ5で原料溶液中のジルコニウム塩又はオキシジルコニウムを、水その他の溶媒に溶けない固体状のアルカリに接触させることによって中和し、ステップ6で中和後の原料溶液を得る。この時点で固体状アルカリは中和作用によって塩の形に変化するが、なおも固体状で溶解しない。
中和後の原料液は、ステップ7でろ過等の操作により、この固体状のアルカリ(塩)を原料液から分離する。この時点で原料液は不要塩が取り除かれている。
その後、ステップ8で溶媒を除去し、ステップ9で複合化合物成形体を得る。
第1及び第2実施形態は、本発明の最小限の基本構成を示したものである。
例えば、ステップ4で作製した原料液に、あるいは、ステップ7の操作で得られる中和後の原料液に、適宜添加物を混入させることによって、複合化合物中にその添加物を導入することなどのバリエーションも可能である。
本発明における無機/有機複合化合物は、不可欠性分として珪酸化合物,タングステン酸化合物あるいはジルコン酸化合物を構成成分とする。
珪酸とは、SiOを基本単位とし、それがHOを含んでいる化合物であり、一般式SiO・xHOで表せるものであるが、本発明における珪酸化合物は、珪酸及びその誘導体、あるいは、珪酸を主体とした化合物全般のことを示す。
タングステン酸とは、WOを基本単位とし、それがHOを含んでいる化合物であり、一般式WO・xHOで表せるものであるが、本発明におけるタングステン酸化合物は、タングステン酸及びその誘導体、あるいは、タングステン酸を主体とした化合物全般のことを示す。
ジルコン酸とは、ZrOを基本単位とし、それがHOを含んでいる化合物であり、一般式ZrO・xHOで表せるものであるが、本発明におけるジルコン酸化合物とは、ジルコン酸及びその誘導体、あるいは、ジルコン酸を主体とした化合物全般のことを示す。
よって、珪酸、タングステン酸、ジルコン酸の特性が損なわれない範囲で、一部別の元素が置換されていてもよく、化学量論組成からのずれ、あるいは、添加物を加えることも、許容される。
例えば、珪酸、タングステン酸、ジルコン酸の塩や水酸化物も、SiO,WO,ZrOを基本単位としたものであり、塩や水酸化物を基本とした誘導体、あるいは、誘導体を主体とした化合物も、本発明における珪酸化合物、タングステン酸化合物、ジルコン酸化合物に含まれる。
本発明における固体電解質に含まれる複合化合物は、不可欠成分としてポリビニルアルコールを構成成分とする。
このポリビニルアルコールは、完全なものである必要がなく、本質的にポリビニルアルコールとして機能するものであれば、使用することができる。例えば、ヒドロキシル基の一部が他の基で置換されているもの、一部分に他のポリマーが共重合されているものも、ポリビニルアルコールとして機能することができる。
また、本発明の反応過程でポリビニルアルコールを経由すれば、同様な効果が得られるので、ポリビニルアルコールの原料となるポリ酢酸ビニルなどを出発原料とすることができる。
ポリビニルアルコールは、その機能が十分発現する範囲であれば、他のポリマー、あるいは、その他の有機添加物や無機添加物などを混合することもできる。
ポリビニルアルコールに添加する他のポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、メチルセルロース等の糖鎖系ポリマー、ポリ酢酸ビニル系ポリマー、ポリスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、エポキシ樹脂系ポリマーなどが挙げられる。
珪酸化合物、タングステン酸化合物又はジルコン酸化合物などの無機化合物と、ポリビニルアルコールとは、無機/有機複合化合物を形成している。即ち、複合化合物中において、ポリビニルアルコールとこれら無機化合物は分子レベルでお互いに絡み合い、ポリビニルアルコールの水酸基を介して両者は水素結合、脱水縮合によって強固に結びついている。
複合化合物は、化合物であって、ポリビニルアルコールと無機化合物との物理的な混合による混合物とは区別される。即ち、混合物と異なり、複合化合物においては各構成成分の化学的性質は複合化後は必ずしも保持されない。例えば、本発明の場合、複合化合物の構成成分であるポリビニルアルコールは、単独では水溶性(熱水溶解性)であるが、珪酸化合物、タングステン酸化合物又はジルコン酸化合物との複合化合物形成後は、熱水には基本的に溶解しない。このように、複合化後に化学的性質が変化していることにより、これらは、物理的な混合による混合物とは異なる複合化合物であると言うことができる。
複合化合物においては、ポリビニルアルコールに対する無機化合物の量が少なすぎると、十分な耐水性、耐熱性、耐酸化性、あるいは強度が、得られない。
一方、無機化合物が多すぎると、柔軟性が損なわれ、脆性の点で問題が生じる。
従って、複合化合物における無機化合物を、各基本単位であるSiO、WO、ZrOのみの質量に換算した場合に、その質量の総和のポリビニルアルコール質量に対する質量比が0.01〜1になるように、制御するのが好ましい。
また、珪酸化合物、タングステン酸化合物、及びジルコン酸化合物は、組み合わせて使用することができる。
また、本発明は、水の存在する溶媒中で進行するため、上記した各製造工程において、溶媒中に水が存在していればよく、純粋な水だけの溶媒である必要はない。ただし、珪酸塩、タングステン酸塩、ジルコニウム塩、オキシジルコニウム塩、あるいは、ポリビニルアルコールの溶解性から、水が最も好ましい溶媒である。よって、図1や図2のステップ1に示した、本発明の構成要素としての「水を含む溶媒」とは、水を含んで水と共存できる溶媒であればどのようなものであってもよい。
敷衍すれば、本発明の溶媒としては、反応に関与する最低限の水があれば、他の溶媒があっても起こり得るので、水とともに共存できる溶媒は数限りなくあり、これらが水とともに存在していてもよいのである。即ち、溶媒とは、溶質である珪酸塩、タングステン酸塩、ジルコニウム塩、オキシジルコニウム塩、及びポリビニルアルコール以外の、原料溶液中の全ての成分のことである。例えば、砂糖が溶けていれば、砂糖も溶媒の一員となるので、実質的に水と共存し得る液体(溶解している固体も含めて)と認められる、あらゆる物質が溶媒になり得る。
上記した各製造工程において、中和に用いる酸又はアルカリは、酸又はアルカリとして機能し、かつ水など原料液に含まれる溶媒中で、溶けることがなく固体状を維持しているものであれば、どのようなものでもよい。
酸としては、固体状の基体にスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基などを固定したものが使用でき、酸の強さの点からスルホン酸基が固定されたものが最も好ましい。
アルカリとしては、固体状の基体に四級アンモニウム基を固定したものが使用できる。
また、固体状の酸や固体状のアルカリとして、従来イオン交換樹脂として使用されているものを適用することができる。
そして、上記製造工程を経て製造された無機/有機複合化合物からなる成形体を、固体電解質として応用する際には、プロトン伝導性や水酸化物イオン伝導性を付与するために、スルホン酸基を導入したり、含窒素化合物を導入したりして使用する。
プロトンあるいは水酸化物イオン伝導性であることにより、従来の固体電解質と同様に、燃料電池、電解装置、センサー、電池、エレクトロクロミックデバイス、除湿機に応用することができる。
また、無機/有機複合化合物からなる成形体を、金属錯体固定化触媒、あるいは、金属ナノ粒子固定化触媒として使用する場合には、複合化合物に金属錯体触媒を固定化したり、金属ナノ粒子触媒を複合化合物内に生成させたりして使用する。
以下に、本発明に係る無機/有機複合化合物の製造方法の具体的な実施例を説明する。なお、これら実施例は、本発明に係る無機/有機複合化合物の製造方法の基本構成を例示したものにすぎず、本発明はこれら実施例の記載内容に限定されるものではない。
本発明に係る製造方法で無機/有機複合化合物を作製するため、重合度が3100〜3900でケン化度が86〜90%のポリビニルアルコール10重量%水溶液50gに、タングステン酸ナトリウム二水和物(NaWO・2HO)2.5gを加えて原料溶液とした。
さらに、この原料溶液に、水に浸された状態のプロトン化した(酸型化した)イオン交換樹脂(アンバーライト2000CT-NA)100ccを加え、撹拌しながらpH2となるまで中和した。
その後、この原料溶液をポリエステルのメッシュで濾過し、イオン交換樹脂を取り除いた。中和反応において起こることは、イオン交換樹脂のプロトンとタングステン酸ナトリウムのナトリウムが交換するだけであるから、イオン交換樹脂除去後には、この原料液中には中和で生成する塩は含まれない。
その後、マイクロメータを用いて台座とのギャップを調節できるブレードが装着されたコーティング装置(R K Print Coat Instruments Ltd.製 Kコントロールコータ202)を使用して、このコーティング装置の平滑な台座の上に敷いたポリエステルフィルム上に、原料溶液を流延した。このとき、台座は80℃になるように制御しながら加熱した。原料溶液を台座の上に流延した後、すぐにギャップを0.5mmに調節したブレードを一定速度で原料溶液上を掃引して一定の厚みにならした。そのまま80℃で加熱しながら放置することによって水分を飛ばし、流動性がほぼ消失した段階で、台座の温度を130℃まで引き上げ、その状態を保って1.5時間の加熱処理を行った。
その後、台座の上に生成した膜を剥離した。
得られた無機/有機複合化合物の膜を、60℃〜70℃の熱水中で30分浸漬し、熱水中での安定性を確認したが、膜が溶解することも、膜が劣化することもなかった。
複合化が十分に進行していなければ、この膜は水に溶解するか、水中で劣化してしまうはずであるので、この結果は、所望の無機/有機複合化合物が得られていることを示している。
本発明に係る製造方法で無機/有機複合化合物を作製するため、重合度が3100〜3900でケン化度が86〜90%のポリビニルアルコール10重量%水溶液50gに、タングステン酸ナトリウム二水和物(NaWO・2HO)1.5g及び珪酸ナトリウム1.0gを加えて原料溶液とした。
さらに、この原料溶液に、水に浸された状態のプロトン化した(酸型化した)イオン交換樹脂(アンバーライト2000CT-NA)100ccを加え、撹拌しながらpH2となるまで中和した。
その後、この原料溶液をポリエステルのメッシュで濾過し、イオン交換樹脂を取り除いた。中和反応において起こることは、イオン交換樹脂のプロトンとタングステン酸ナトリウム及び珪酸ナトリウムのナトリウムが交換するだけであるから、イオン交換樹脂除去後にはこの原料液中には中和で生成する塩は含まれない。
その後、マイクロメータを用いて台座とのギャップを調節できるブレードが装着されたコーティング装置(R K Print Coat Instruments Ltd.製 Kコントロールコータ202)を使用して、このコーティング装置の平滑な台座の上に敷いたポリエステルフィルム上に、原料溶液を流延した。このとき、台座は80℃になるように制御しながら加熱した。原料溶液を台座の上に流延した後、すぐにギャップを0.5mmに調節したブレードを一定速度で原料溶液上を掃引して一定の厚みにならした。そのまま80℃で加熱しながら放置することによって水分を飛ばし、流動性がほぼ消失した段階で、台座の温度を130℃まで引き上げ、その状態を保って1.5時間の加熱処理を行った。
その後、台座の上に生成した膜を剥離した。
得られた無機/有機複合化合物の膜を、60℃〜70℃の熱水中で30分浸漬し、熱水中での安定性を確認したが、膜が溶解することも、膜が劣化することもなかった。
複合化が十分に進行していなければ、この膜は水に溶解するか、水中で劣化してしまうはずであるので、この結果は、所望の無機/有機複合化合物が得られていることを示している。
本発明に係る製造方法で無機/有機複合化合物を作製するため、重合度が3100〜3900でケン化度が86〜90%のポリビニルアルコール10重量%水溶液50gに、四酢酸ジルコニウム(Zr(C)0.6gを加えて原料溶液とした。
さらに、この原料溶液に、水に浸された状態の水酸化物イオン型化した(アルカリ型化した)イオン交換樹脂(アンバーライトIRA−900)60ccを加え、撹拌しながらpH9となるまで中和した。イオン交換樹脂を用いた本中和工程においては、従来法で見られたようなゲル化は発生しなかった。
その後、この原料溶液をポリエステルのメッシュで濾過し、イオン交換樹脂を取り除いた。中和反応において起こることは、イオン交換樹脂の水酸化物イオンと四酢酸ジルコニウムの酢酸イオンが交換するだけであるから、イオン交換樹脂除去後には、この原料液中には中和で生成する塩は含まれない。
その後、マイクロメータを用いて台座とのギャップを調節できるブレードが装着されたコーティング装置(R K Print Coat Instruments Ltd.製 Kコントロールコータ202)を使用して、このコーティング装置の平滑な台座の上に敷いたポリエステルフィルム上に、原料溶液を流延した。このとき、台座は70℃になるように制御しながら加熱した。原料溶液を台座の上に流延した後、すぐにギャップを0.5mmに調節したブレードを一定速度で原料溶液上を掃引して一定の厚みにならした。そのまま70℃で加熱しながら放置することによって水分を飛ばし、流動性がほぼ消失した段階で、台座の温度を135℃まで引き上げ、その状態を保って1.5時間の加熱処理を行った。
その後、台座の上に生成した膜を剥離した。
得られた無機/有機複合化合物の膜を、60℃〜70℃の熱水中で30分浸漬し、熱水中での安定性を確認したが、膜が溶解することも、膜が劣化することもなかった。
複合化が十分に進行していなければ、この膜は水に溶解するか、水中で劣化してしまうはずであるので、この結果は、所望の無機/有機複合化合物が得られていることを示している。
上記実施例は、本発明の方法によって最も基本的な無機/有機複合化合物が作製可能であることを示したしたものであるが、本方法は原理的に前記特許文献に見られるような従来の中和法によって作製可能な、あらゆる無機/有機複合化合物を製造することができる。
以上記載した本発明によれば、固体電解質や触媒などとして使用される従来の無機/有機化合物が有している問題点を解決して、従来法と異なり、その原料液に含まれる不要塩が固体の形であり、原料液の段階で簡単に分離、除去でき、成形体としてからの不要塩除去や中和操作の必要がないために簡単な工程で無機/有機複合化合物を製造することができる。その結果、成形体としてから不要塩を除去したり中和したりする操作が行なえないような用途であっても無機/有機化合物を適用することが可能となる。また、本方法によると原料液に過剰の酸あるいはアルカリが存在しないため、酸あるいはアルカリに耐えられない他の部材と共存した状態で使用することも可能になる。
従って、本発明の無機/有機複合化合物の製造方法は、産業上の利用可能性を有する。

Claims (7)

  1. 無機塩あるいは無機酸化物の塩と、少なくともポリビニルアルコールを含む有機高分子が、水を含む溶媒中で共存する状態で、当該無機塩あるいは無機酸化物の塩を、プロトンを解離することのできる固体状の酸と、あるいは、水酸化物イオンを解離することのできる固体状のアルカリと、接触させて中和する工程を有して、無機/有機複合化合物を製造する
    無機/有機複合化合物の製造方法。
  2. 前記プロトンを解離することのできる固体状の酸が、スルホン酸基を固定した固体である請求項1に記載の無機/有機複合化合物の製造方法。
  3. 前記水酸化物イオンを解離することのできる固体状のアルカリが、四級アンモニウム基を固定した固体である請求項1に記載の無機/有機複合化合物の製造方法。
  4. 前記プロトンを解離することのできる固体状の酸、あるいは、前記水酸化物イオンを解離することのできる固体状のアルカリが、イオン交換樹脂である、請求項1に記載の無機/有機複合化合物の製造方法。
  5. 前記無機酸化物の塩が、少なくとも珪酸塩、タングステン酸塩のいずれかを含み、前記無機/有機複合化合物が、少なくとも珪酸化合物、タングステン酸化合物のいずれかを含む請求項1に記載の無機/有機複合化合物の製造方法。
  6. 前記無機酸化物の塩が、少なくともジルコニウム塩、オキシジルコニウム塩のいずれかを含み、前記無機/有機複合化合物が、少なくともジルコン酸化合物を含む請求項1に記載の無機/有機複合化合物の製造方法。
  7. 前記無機/有機複合化合物が、固体電解質、触媒のいずれかとして使用される請求項1に記載の無機/有機複合化合物の製造方法。
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