[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について、図1ないし図16を参照して説明する。
図1および図2は、例えばプリンタのキャリッジに取り付けて使用するシェアモード型のインクジェットヘッド1を開示している。インクジェットヘッド1は、基板2、天板枠3、天板4およびノズルプレート5を備えている。
基板2としては、例えばアルミナ(Al2O3)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)およびチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O3)等を用いることができる。
図2に示すように、基板2は、表面2aおよび端面2bを有する矩形状である。アクチュエータとしての圧電体7が基板2の表面2aに埋め込まれている。図3に示すように、圧電体7は、二枚の圧電部材8,9を厚み方向に重ねて接着したものであり、基板2の長手方向に延びている。圧電体7は、表面7aおよび端面7bを有している。
圧電体7の表面7aは、基板2の表面2aと同一の面上に位置されているとともに、基板2の外に露出されている。同様に、圧電体7の端面7bは、基板2の端面2bと同一の面上に位置されているとともに、基板2の外に露出されている。圧電部材8,9は、その分極方向が圧電部材8,9の厚み方向に互いに逆向きとなっている。
圧電部材8,9としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)等を用いることができ、本実施形態では、圧電定数の高いPZTを用いている。さらに、基板2と圧電部材8,9との間の膨張係数の差異および誘電率を考慮して、基板2の材料として圧電部材8,9よりも誘電率が低いPZTを使用している。
図2ないし図4に示すように、複数の長溝11および複数の隔壁12が圧電体7に形成されている。長溝11は、圧電体7の表面7aおよび端面7bに開口されているとともに、圧電体7の長手方向に間隔を存して一列に並んでいる。本実施形態によると、長溝11は、深さが300μm、幅が80μmであり、169μmのピッチで互いに平行に配列されている。
この結果、本実施形態の基板2では、長溝11の深さと幅との比(深さ/幅)で定まるアスペクト比が3.75となっている。すなわち、長溝11の深さが深く、幅が狭くなると、アスペクト比が高くなる。アスペクト比および長溝11の間隔は、インクジェットヘッド1に要求される解像度やインクの吐出量に応じて所定の値に決定される。
さらに、圧電体7の隔壁12は、隣り合う長溝11の間に介在されて、長溝11を互いに分離している。
図2に示すように、各長溝11は、その長手方向に沿う一端部から基板2に向けて延長された延長部13を有している。延長部13は、基板2の表面2aに開口されているとともに、圧電体7から遠ざかるに従い深さ寸法が次第に減少している。そのため、長溝11の延長部13の先端は、基板2の表面2aに連続している。
天板枠3は、基板2の表面2aに接着等の手段により固定されている。天板枠3は、前枠部14を有している。前枠部14は、圧電体7の上に重ねられて長溝11の配列方向に沿って延びているとともに、基板2の表面2aの方向から長溝11の開口端を閉塞している。さらに、前枠部14は、端面14aを有している。端面14aは、基板2の端面2bおよび圧電体7の端面7bと同一の面上に位置されている。
天板4は、天板枠3の上に重ねられるとともに、接着等の手段により天板枠3に固定されている。天板4、天板枠3および基板2の表面2aで囲まれた空間は、共通圧力室15を構成している。天板4は、共通圧力室15にインクを供給する複数のインク供給口16を有している。
本実施形態によると、基板2の表面2aに達する長溝11の延長部13は、共通圧力室15に露出している。そのため、各長溝11は、延長部13を介して共通圧力室15に連通されている。
図1、図2および図4に示すように、ノズルプレート5は、基板2の端面2b、圧電体7の端面7bおよび前枠部14の端面14aに接着剤18を介して接着されている。ノズルプレート5は、例えば厚さが50μmのポリイミドフィルムで構成され、圧電体7の端面7bの方向から長溝11の開口端を閉塞している。
長溝11の内面、天板枠3の前枠部14およびノズルプレート5で囲まれた空間は、複数の圧力室19を構成している。圧力室19は、圧電体7の長手方向に間隔を存して一列に並んでいるとともに、共通圧力室15に通じている。
図2および図3に示すように、ノズルプレート5は、複数のノズル21を有している。ノズル21は、ノズルプレート5を厚み方向に貫通するミクロン単位の微小な孔である。
ノズル21は、ノズルプレート5に例えばエキシマレーザ装置を用いたレーザ加工を施すことにより形成されている。ノズル21は、個々に圧力室19に連通するように所定の間隔を存して一列に並んでいるとともに、印字すべき記録媒体と向かい合うようになっている。
本実施形態では、図4に示すようにエキシマレーザ装置から出力されるレーザ光の焦点Fの位置を、ノズルプレート5の外側にずれた位置に設定している。これにより、レーザ光は、ノズルプレート5を貫通する際に、圧力室19の方向に進むに従い連続的に拡開する。
この結果、レーザ加工されるノズル21は、圧力室19の方向に進むに従い口径が逐次増大するテーパ状に形成されている。本実施形態のノズル21は、圧力室19に開口する上流端の口径が50μmであり、圧力室19とは反対側に開口する吐出端の口径が30μmとなっている。さらに、ノズル21は、圧力室19に対して長溝11の深さ方向に沿う中央部よりも天板枠3の方向にずれている。
図4に示すように、圧電体7の端面7bとノズルプレート5との間に充填された接着剤18は、その一部が余剰部分20となって圧力室19内に食み出している。接着剤18の余剰部分20は、ノズルプレート5の圧力室19に臨む面に付着した状態で硬化されているとともに、圧力室19内でノズル21の開口端と隣り合っている。
さらに、接着剤18の余剰部分20にカット部22が形成されている。カット部22は、ノズル21を形成するためのレーザ光が余剰部分20を通過した後に残った箇所であり、ノズル21の内面に連続するように傾斜している。
すなわち、図4に二点鎖線で示すように、例えば余剰部分20の端部20aがノズル21の圧力室19への開口端に張り出していた場合、端部20aはノズルプレート5を貫通するレーザ光により除去される。よって、ノズル21の上流端の一部が接着剤18によって塞がれることはない。
圧力室19を規定する長溝11は、圧電体7に例えばダイヤモンドカッタを用いた切削加工を施すことで形成されている。そのため、図3および図4に示すように、圧力室19を規定する長溝11の内面は、数多くのミクロン単位の凹凸23を有している。加えて、PZT製の圧電体7は脆いために、圧電体7に切削加工を施す過程において、長溝11の内面が部分的に欠落することがあり得る。この結果、切削加工された長溝11の内面は、平滑度が失われた粗面となっている。
圧力室19を規定する長溝11の内面に夫々電極25が形成されている。隣り合う長溝11の電極25は、電気的に独立するように互いに切り離されている。図5に示すように、電極25は、銅めっき層26とニッケルめっき層27とで構成されている。銅めっき層26は、第1の金属層の一例であり、ニッケルめっき層27は、第2の金属層の一例である。銅めっき層26は、電極25の下地を構成している。
本実施形態では、銅めっき層26が無電解銅めっき層28aと電解銅めっき層28bとを有する二層構造となっている。無電解銅めっき層28aは、基板2の表面2aおよび長溝11の内面に無電解銅めっきを施すことにより構成され、長溝11毎に所定の電極パターンを形成している。電解銅めっき層28bは、基板2の表面2aおよび長溝11の内面に電解銅めっきを施すことにより構成され、無電解銅めっき層28aの上に積層されている。
さらに、ニッケルめっき層27は、銅めっき層26の上に電解ニッケルめっきを施すことにより構成されている。ニッケルめっき層27は、銅めっき層26の上に積層されて、銅めっき層27を被覆している。
銅めっき層26は、長溝11の内面の凹凸23を吸収する機能を有している。そのため、銅めっき層26の存在により長溝11の内面が平らとなるとともに、銅めっき層26を被覆するニッケルめっき層27の表面も平らとなる。
よって、長溝11の内面から離れた電極25の表面25aが平坦化されて、この表面25aの上から尖った凸部が排除されている。電極25の表面25aの平均的な表面粗さは、0.6μm以下とすることが望ましい。
図2に示すように、電極25は、導体パターン30を有している。導体パターン30は、共通圧力室15を経由して基板2の表面2aに導かれている。導体パターン30は、天板枠3の外に引き出されているとともに、テープキャリパッケージ31に電気的に接続されている。テープキャリパッケージ31は、インクジェットヘッド1を駆動するための駆動回路32を実装している。
駆動回路32は、インクジェットヘッド1の電極25に駆動パルス(駆動電圧)を印加する。これにより、圧力室19を間に挟んで隣り合う電極25の間に電位差が生じ、これら電極25に対応する隔壁12に電界が生じる。この結果、圧力室19を間に挟んで隣り合う隔壁12がシェアモード変形により圧力室19の容積を大きくする方向に湾曲する。
この後、電極25に印加する駆動パルスの極性を反転させると、隔壁12が初期の形状に復帰する。隔壁12が復帰することで、共通圧力室15から圧力室19に供給されたインクが加圧される。加圧されたインクの一部は、インク滴となってノズル21から記録媒体に向けて吐出される。
図3ないし図5に示すように、電極25は、電極保護層33で覆われている。電極保護層33は、絶縁膜34および保護膜35を有する二層構造となっている。絶縁膜34は、第1の無機膜の一例であって、例えば二酸化シリコン(SiO2)のような無機絶縁材料で構成されている。絶縁膜34は、電極25の平坦化された表面25aの上に積層されている。絶縁膜34の膜厚は、1.0μm以上とすることが望ましい。
保護膜35は、第2の無機膜の一例であって、例えば酸化ハフニウム(HfO2)のような無機絶縁材料で構成されている。保護膜35は、絶縁膜34の表面に積層されて絶縁膜34を覆っている。そのため、保護膜35は、圧力室19内に露出されて、圧力室19に供給されるインクに浸かるようになっている。保護膜35の膜厚は、50nm以上とすることが望ましい。
第1の実施形態のインクジェットヘッド1によると、ノズル21を形成するレーザ光は、図4に示すようにノズルプレート5を貫通して圧力室19に入射する。レーザ光は、圧力室19の方向に進むに従い拡開するので、レーザ光の一部が電極25を覆う保護膜35の上に照射される。
保護膜35および絶縁膜34は、共に無機絶縁材料で構成されているので、レーザ光が照射されてもダメージを受け難い。このため、圧力室19に供給されるインクと電極25との間を電気的に絶縁された状態に維持することができる。よって、たとえインクが導電性を有していても、インクに電流が流れることによる電極25の腐食やインクの電気分解を防止することができる。
一方、無機絶縁材料で構成された絶縁膜34および保護膜35は、これら絶縁膜34および保護膜35が積層される電極25の表面粗さの影響を受け易い。すなわち、電極25の表面粗さが粗くなっていると、ピンホールの発生を完全に無くすことが困難となる。
しかるに、第1の実施形態では、電極25の下地が銅めっき層26で構成され、銅めっき層26は、長溝11の内面に生じたミクロン単位の凹凸23を吸収して平滑化を維持する機能を有している。そのため、電極25の表面25aは、ピンホールの発生要因となる尖った凸部が排除された平坦な面となり、電極25の表面25aに積層された絶縁膜34および保護膜35にピンホールが発生し難くなる。
さらに、たとえ電極25の表面25aに積層された絶縁膜34にピンホールが生じたとしても、絶縁膜34の上に積層された保護膜35で絶縁膜34のピンホールを塞ぐことができる。
この結果、基板2に接着されたノズルプレート5にレーザ光を照射してノズル21を形成する構成でありながら、インクと電極25との間の電気的な絶縁を維持して、電極25の腐食やインクの電気分解を回避できる。よって、印字品質が良好で、しかも耐久性に優れたインクジェットヘッド1を得ることができる。
本発明者は、電極25の表面25aの平均的な表面粗さを0.6μm以下としたインクジェットヘッド1において、絶縁膜34を構成する数種類の無機絶縁材料を用意し、夫々の無機絶縁材料の膜厚を1.0μm〜5.0μmの範囲内で変化させた時に絶縁膜34にピンホールがあるか否かを調べた。
その結果、絶縁膜34の膜厚が1.0μm〜5.0μmの範囲内にある限り、ピンホールの存在が認められなかった。このため、ピンホールの発生を皆無とするためには、無機絶縁材料で構成された絶縁膜34の膜厚は、1μm以上、より好ましくは3μm以上とするとよい。
次に、第1の実施形態のインクジェットヘッド1を製造する手順について、図6ないし図16を加えて説明する。
まず、二枚の圧電部材8,9を互いに接着し、分極方向が逆向きとなる圧電体7を形成する。この後、図6に示すように、基板2の二倍の大きさを有する基板構成体41を準備し、この基板構成体41の表面の中央部に形成された凹部42に圧電体7を埋め込んで接着する。基板構成体41としては、圧電体7よりも誘電率が低いPZTを使用する。
この後、円盤状のダイヤモンドカッタを用いて圧電体7に切削加工を施すことで、圧電体7に図8および図9に示すような複数の長溝11を形成する。長溝11は、圧電体7の長手方向に169μのピッチで一列に並んでいる。本実施形態では、ダイヤモンドカッタの歯幅が80μmであり、それ故、長溝11の幅も80μmとなっている。長溝11の深さは、圧電体7の厚み方向に沿うダイヤモンドカッタの送り量によって決定され、本実施形態では300μmである。長溝11の内面は、ダイヤモンドカッタを用いた切削加工により、数多くのミクロン単位の凹凸23を有する粗面となっている。
図7に示すように、圧電体7に長溝11を形成する際に、基板構成体41の表面がダイヤモンドカッタによって溝状に削り取られる。この削り取られた部分は、溝深さが次第に減少する延長部13として機能する。
この後、延長部13を含む長溝11の内面および基板構成体41の表面に無電解銅めっきを施すことで、無電解銅めっき層28aを形成する。引き続いて、無電解銅めっき層28aに電解銅めっきを施すことで、無電解銅めっき層28aの上に電解銅めっき層28bを形成する。これにより、長溝11の内面に下地となる銅めっき層26が形成される。
さらに、銅めっき層26の表層となる電解銅めっき層28bに電解ニッケルめっきを施すことで、銅めっき層26の上にニッケルめっき層27を形成する。これにより、長溝11の内面に二層構造の電極25および導体パターン30が形成される。
銅めっき層26は、凹凸23を有する長溝11の内面を均している。これにより、銅めっき層26を被覆するニッケルめっき層27の表面が平らとなる。よって、長溝11の内面から離れた電極25の表面25aが平坦化されて、電極25の表面25aの平均的な表面粗さが0.6μm以下となる。
この後、長溝11を隔てる隔壁12の上面に形成された電極25を研磨することによって除去する。
次に、図10に示すように、長溝11内の電極25の上に絶縁膜34を形成する。絶縁膜34としては、無機絶縁材料の一例である二酸化シリコンを使用している。絶縁膜34は、例えばPE−CVD法(Plasma-enhanced chemical vapor deposition)により形成し、絶縁膜34の膜厚は、1.0μm以上とする。
絶縁膜34を構成する無機絶縁材料としては、二酸化シリコンに限らず、例えばAl2O3、SiN、ZnO、MgO、ZrO2、Ta2O5、Cr2O3、TiO2、Y2O3、YBCO、ムライト(Al2O3・SiO2)、SrTiO3、Si3N4、ZrN、AlN、Fe3O4等を用いることができる。
絶縁膜34を形成する方法としては、PE−CVD法の他に、例えばMBE法(分子線エピタキシー法)、AP−CVD法(大気圧化学気相成長法)、ALD法(原子層体積法)あるいは塗布法等を用いることができる。言い換えると、真空中又は大気中において、ニッケルめっき層27の上でSiO2を含む前記無機絶縁材料を化学反応又は凝縮させることにより、ニッケルめっき層27の上に前記無機絶縁材料を堆積させることが可能であれば、どの方法を用いてもよい。
絶縁膜34を形成するに当っては、基板構成体41の表面に導かれた導体パターン30の一部にマスキングを施すことにより、導体パターン30のうちテープキャリアパッケージ31が接続される部分に絶縁膜34が形成されないようにする。
引き続いて、図11および図12に示すように、絶縁膜34の上に保護膜35を形成する。保護膜35としては、無機絶縁材料の一例である酸化ハフニウム(HfO2)を使用している。保護膜35は、例えばALD法(Atomic-Layer-deposition)により形成し、保護膜35の膜厚は50nm以上とする。
保護膜35を構成する無機絶縁材料としては、酸化ハフニウムに限らず、例えばAl2O3、SiO2等を用いることができる。
保護膜35を形成する方法としては、ALD法の他に、AP−CVD法(大気圧化学気相成長法)等を用いることができる。言い換えると、真空中又は大気中において、絶縁膜34の上で酸化ハフニウムを含む前記無機絶縁材料を化学反応又は凝縮させることにより、絶縁膜34の上に前記無機絶縁材料を堆積させることが可能であれば、どの方法を用いてもよい。
さらに、保護膜35を形成するに当っては、基板構成体41の表面に導かれた導体パターン30の一部にマスキングを施すことにより、導体パターン30のうちテープキャリアパッケージ31が接続される部分に保護膜35が形成されないようにする。
この後、図13に示すように、基板構成体41の表面に天板枠構成体43を接着等の手段により固定する。天板枠構成体43は、枠部44と中央部45とを有している。枠部44は、基板構成体41の表面の外周部に重ねられている。中央部45は、枠部44で取り囲まれているとともに、長溝11が形成された圧電体7の上に積層されている。そのため、天板枠構成体43の中央部45は、長溝11の開口端を基板構成体41の表面の方向から閉塞している。
この後、図14に示すように、天板枠構成体43が接着された基板構成体41に、例えばダイヤモンドカッタを用いた切削加工を施すことにより、基板構成体41を天板枠構成体43と一緒に二つに分断する。この分断により、基板2と天板枠3とが一体となった一対のヘッドブロック46a,46bが形成される。各ヘッドブロック46a,46bでは、基板2の端面2b、圧電体7の端面7bおよび天板枠3の前枠部14の端面14aが各ヘッドブロック46a,46b分断端に位置するとともに、互いに同一の面上に位置するように連続している。
この後、図15に一方のヘッドブロック46aを代表して示すように、基板2の端面2b、圧電体7の端面7bおよび天板枠3の前枠部14の端面14aの間に跨るように、ノズル形成前のノズルプレート5を接着する。これにより、基板2の長溝11と天板枠3の前枠部14との間に複数の圧力室19が形成される。
圧電体7の端面7bとノズルプレート5との間に充填された接着剤18は、その余剰部分20が圧力室19に食み出す。食み出した接着剤18の余剰部分20は、ノズルプレート5の圧力室19に臨む面に薄い膜となって残る。
この後、図4および図16に示すように、ノズルプレート5に例えばエキシマレーザ装置を用いたレーザ加工を施すことにより、ノズルプレート5に複数のノズル21を形成する。具体的には、ノズルプレート5に圧力室19とは反対側からレーザ光を照射し、ポリイミドフィルム製のノズルプレート5を化学的に分解することでノズル21を形成する。
図4に示すように、レーザ光の焦点Fは、ノズルプレート5の外に位置するので、レーザ光は圧力室19の方向に進むに従い拡開する。そのため、ノズル21は、圧力室19の方向に進むに従い口径が連続的に増大するようなテーパ状に形成される。
レーザ光は、ノズルプレート5を厚み方向に貫通した後、圧力室19に入射する。そのため、圧力室19に露出された保護膜35は、ノズル21の近傍でレーザ光の照射を受ける。
この場合、保護膜35は、無機絶縁材料で構成されているので、レーザ光が照射されてもダメージを受け難い。このため、保護膜35のうちレーザ光が照射された領域に孔が開くことはない。
接着剤18の余剰部分20の端部20aが圧力室19内でノズル21を形成すべき領域に張り出していた場合、余剰部分20の端部20aは、レーザ光が圧力室19に入射した時点で、レーザ光により除去される。
この結果、接着剤18の余剰部分20がノズル21を塞ぐことはない。よって、接着剤18の余剰部分20がノズル21から吐出されるインクの流れに悪影響を及ぼすことはなく、印字品質を良好に維持できる。
[第2の実施形態]
図17および図18は、第2の実施形態を開示している。
第2の実施形態は、電極および電極保護層の構成が第1の実施形態と相違している。それ以外のインクジェットヘッドの基本的な構成は、第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
図18に示すように、電極50は、ニッケルめっき層51と金めっき層52とで構成されている。ニッケルめっき層51は、第1の金属層の一例であり、金めっき層52は、第2の金属層の一例である。ニッケルめっき層51は、電極50の下地を構成している。
ニッケルめっき層51は、長溝11の内面に積層されて、長溝11毎に所定の電極パターンを形成している。金めっき層52は、ニッケルめっき層51の上に積層されて、ニッケルめっき層51を覆っている。
ニッケルめっき層51および金めっき層52は、第1の実施形態の銅めっき層26と比較した場合に、長溝11の内面を平らにする機能が低くなっている。そのため、電極50の表面50aは、長溝11の内面に生じた凹凸23の影響を受けて平滑化が失われている。
電極50は、電極保護層53で覆われている。電極保護層53は、平滑化膜54、絶縁膜55および保護膜56を有する三層構造となっている。平滑化膜54は、第1の無機膜の一例であって、例えばシラグシタールのような無機絶縁材料で構成されている。平滑化膜54は、電極50の表面50aに生じた凹凸を吸収し得る膜厚を有している。
このため、平滑化膜54の電極50から離れた表面54aが平坦化されて、表面54aの上から尖った凸部が排除されている。平滑化膜54の表面54aの平均的な表面粗さは、0.6μm以下とすることが望ましい。
絶縁膜55は、第2の無機膜の一例であって、例えば二酸化シリコン(SiO2)のような無機絶縁材料で構成されている。絶縁膜55は、平滑化膜54の表面54aの上に積層されている。絶縁膜55の膜厚は、1.0μm以上とすることが望ましい。
保護膜56は、第3の無機膜の一例であって、例えば酸化ハフニウム(HfO2)のような無機絶縁材料で構成されている。保護膜56は、絶縁膜55の表面に積層されて絶縁膜55を覆っている。そのため、保護膜56は、圧力室19内に露出されて、圧力室19に供給されるインクに浸かるようになっている。保護膜56の膜厚は、50nm以上とすることが望ましい。
第2の実施形態では、電極50および電極保護層53を形成する手順が第1の実施形態と相違しており、それ以外のインクジェットヘッド1を製造する手順は、第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態では、電極50および電極保護層53を形成する手順についてのみ説明する。
圧電体7に長溝11を形成した後、長溝11の内面および基板構成体41の表面に無電解ニッケルめっきを施すことで、ニッケルめっき層51を形成する。引き続いて、ニッケルめっき層51に電解金めっきを施すことで、ニッケルめっき層51に金めっき層52を形成する。これにより、長溝11の内面に図18に示すような二層構造の電極50が形成される。
この後、長溝11を隔てる隔壁12の上面に形成された電極50を研磨することによって除去する。
引き続いて、長溝11の電極50の上に平滑化膜54を形成する。平滑化膜54としては、無機絶縁材料の一例であるシラグシタールを使用している。平滑化膜54は、例えば液状のシラグシタールを電極50の表面50aに塗布した後、常温で硬化させることにより形成される。
具体的には、平滑化膜54は、電極50から離れた表面54aの平均的な表面粗さが0.6μm以下となるような膜厚で電極50の表面50aに塗布される。平滑化膜54の膜厚は、使用する無機絶縁材料の種類によって異なったものとなる。
このような平滑化膜54の存在により、電極50の表面50aに生じた凹凸が吸収されて、平滑化膜54の表面54aが平坦化される。
平滑化膜54を構成する材料としては、例えばナノシリカ等を有機溶剤で溶かした溶液を用いることができる。平滑化膜54を形成する方法は、塗布法に限らず、例えばゾルーゲル法、スプレー法あるいは電着法等を用いることができる。言い換えると、長溝11の内側に形成された電極50に溶液を付着させて硬化させることができる方法であれば、どのような方法を用いてもよい。
この後、平滑化膜54の上に絶縁膜55を形成する。絶縁膜55としては、無機絶縁材料の一例である二酸化シリコンを使用している。絶縁膜55は、例えばPE−CVD法(Plasma-enhanced chemical vapor deposition)により形成し、絶縁膜55の膜厚は、1.0μm以上とする。
絶縁膜55を構成する無機絶縁材料としては、二酸化シリコンに限らず、例えばAl2O3、SiN、ZnO、MgO、ZrO2、Ta2O5、Cr2O3、TiO2、Y2O3、YBCO、ムライト(Al2O3・SiO2)、SrTiO3、Si3N4、ZrN、AlN、Fe3O4等を用いることができる。
絶縁膜55を形成する方法としては、PE−CVD法の他に、例えばMBE法(分子線エピタキシー法)、AP−CVD法(大気圧化学気相成長法)、ALD法(原子層体積法)あるいは塗布法等を用いることができる。言い換えると、真空中又は大気中において、平滑化膜54の上でSiO2を含む前記無機絶縁材料を化学反応又は凝縮させることにより、平滑化膜54の上に前記無機絶縁材料を堆積させることが可能であれば、どの方法を用いてもよい。
絶縁膜55を形成するに当っては、基板構成体41の表面に導かれた導体パターン30の一部にマスキングを施すことにより、導体パターン30のうちテープキャリアパッケージ31が接続される部分に絶縁膜55が形成されないようにする。
この後、絶縁膜55の上に保護膜56を形成する。保護膜56としては、無機絶縁材料の一例である酸化ハフニウム(HfO2)を使用している。保護膜56は、例えばALD法(Atomic-Layer-deposition)により形成し、保護膜56の膜厚は50nm以上とする。
保護膜56を構成する無機絶縁材料としては、酸化ハフニウムに限らず、例えばAl2O3、SiO2等を用いることができる。
保護膜56を形成する方法としては、ALD法の他に、AP−CVD法(大気圧化学気相成長法)等を用いることができる。言い換えると、真空中又は大気中において、絶縁膜55の上で酸化ハフニウムを含む前記無機絶縁材料を化学反応又は凝縮させることにより、絶縁膜55の上に前記無機絶縁材料を堆積させることが可能であれば、どの方法を用いてもよい。
さらに、保護膜56を形成するに当っては、基板構成体41の表面に導かれた導体パターン30の一部にマスキングを施すことにより、導体パターン30のうちテープキャリアパッケージ31が接続される部分に保護膜35が形成されないようにする。
このような第2の実施形態によると、電極50の表面50aに塗布された平滑化膜54は、電極50の表面50aに生じた凹凸を吸収する。このため、平滑化膜54の電極50から離れた表面54aは、ピンホールの発生要因となる尖った凸部が排除された平坦な面となる。よって、平滑化膜54の上に積層された絶縁膜55および保護膜56にピンホールが発生し難くなる。
さらに、たとえ絶縁膜55にピンホールが生じたとしても、絶縁膜55の上に積層された保護膜56で絶縁膜55に生じたピンホールを塞ぐことができる。
この結果、三層の電極保護層53を用いてインクと電極50との間の電気的な絶縁を維持することができ、電極50の腐食やインクの電気分解を回避できる。よって、第1の実施形態と同様に、印字品質が良好で、しかも耐久性に優れたインクジェットヘッド1を得ることができる。
[第3の実施形態]
図19は、第3の実施形態を開示している。
第3の実施形態は、第1の実施形態の電極と第2の実施形態の電極保護層とを組み合せたものであって、インクジェットヘッドの基本的な構成は、第1の実施形態と同様である。そのため、第3の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
図19に示すように、長溝11の内面の電極60は、第1の金属層としての銅めっき層61と、第2の金属層としてのニッケルめっき層62とで構成されている。銅めっき層61は、電極60の下地を構成するものであり、無電解銅めっき層63aと電解銅めっき層63bとを有する二層構造となっている。
無電解銅めっき層63aは、長溝11の内面に積層されて、長溝11毎に所定の電極パターンを形成している。電解銅めっき層63bは、無電解銅めっき層63aの上に積層されて、無電解銅めっき層63aを覆っている。さらに、ニッケルめっき層62は、銅めっき層61の上に積層されて、銅めっき層61を被覆している。
銅めっき層61は、長溝11の内面の凹凸23を吸収する機能を有している。そのため、銅めっき層61の存在により長溝11の内面が平らとなるとともに、銅めっき層61を被覆するニッケルめっき層62の表面も平らとなる。
よって、長溝11の内面から離れた電極60の表面60aが平坦化されて、この表面60aの上から尖った凸部が排除されている。電極60の表面60aの平均的な表面粗さは、0.6μm以下とすることが望ましい。
電極60は、電極保護層65で覆われている。電極保護層65は、平滑化膜66、絶縁膜67および保護膜68を有する三層構造となっている。平滑化膜66は、例えばシラグシタールのような無機絶縁材料で構成されている。平滑化膜66は、電極60の表面60aに生じた凹凸を吸収し得る膜厚を有している。
このため、平滑化膜66の電極60から離れた表面66aは平坦化されており、この表面66aの上から尖った凸部が排除されている。平滑化膜66の表面66aの平均的な表面粗さは、0.6μm以下とすることが望ましい。
絶縁膜67は、例えば二酸化シリコン(SiO2)のような無機絶縁材料で構成されている。絶縁膜67は、平滑化膜66の表面66aの上に積層されている。絶縁膜67の膜厚は、1.0μm以上とすることが望ましい。
保護膜68は、例えば酸化ハフニウム(HfO2)のような無機絶縁材料で構成されている。保護膜68は、絶縁膜67の表面に積層されて絶縁膜67を覆っている。そのため、保護膜68は、圧力室19内に露出されて、圧力室19に供給されるインクに浸かるようになっている。保護膜68の膜厚は、50nm以上とすることが望ましい。
第3の実施形態では、電極60の表面60aに電極保護層65を形成する手順が第1の実施形態と相違しており、それ以外のインクジェットヘッド1を製造する手順は、第1の実施形態と同様である。そのため、第3の実施形態では、電極保護層65を形成する手順についてのみ説明する。
長溝11の内面に第1の実施形態と同様の手順で電極60を形成した後、最初に電極60の上に平滑化膜66を形成する。平滑化膜66としては、無機絶縁材料の一例であるシラグシタールを使用している。本実施形態では、例えばシラグシタールの溶液をディップ法によって電極60の表面60aに付着させることで、電極60の表面60aに平滑化膜66を形成している。平滑化膜66は、電極60から離れた表面66aの平均的な表面粗さが0.6μm以下となるような膜厚で電極60の表面60aに形成される。
このような平滑化膜66の存在により、電極60の表面60aに生じた凹凸が吸収されて、平滑化膜66の表面66aが平坦化される。
引き続き、平滑化膜66の上に絶縁膜67を形成する。絶縁膜67としては、無機絶縁材料の一例である二酸化シリコンを使用している。絶縁膜67は、例えばPE−CVD法(Plasma-enhanced chemical vapor deposition)により形成し、絶縁膜67の膜厚は、1.0μm以上とする。
絶縁膜67を構成する無機絶縁材料としては、二酸化シリコンに限らず、例えばAl2O3、SiN、ZnO、MgO、ZrO2、Ta2O5、Cr2O3、TiO2、Y2O3、YBCO、ムライト(Al2O3・SiO2)、SrTiO3、Si3N4、ZrN、AlN、Fe3O4等を用いることができる。
絶縁膜67を形成する方法としては、PE−CVD法の他に、例えばMBE法(分子線エピタキシー法)、AP−CVD法(大気圧化学気相成長法)、ALD法(原子層体積法)あるいは塗布法等を用いることができる。言い換えると、真空中又は大気中において、平滑化膜66の上でSiO2を含む前記無機絶縁材料を化学反応又は凝縮させることにより、平滑化膜66の上に前記無機絶縁材料を堆積させることが可能であれば、どの方法を用いてもよい。
絶縁膜67を形成するに当っては、基板構成体41の表面に導かれた導体パターン30の一部にマスキングを施すことにより、導体パターン30のうちテープキャリアパッケージ31が接続される部分に絶縁膜67が形成されないようにする。
最後に、絶縁膜67の上に保護膜68を形成する。保護膜68としては、無機絶縁材料の一例である酸化ハフニウム(HfO2)を使用している。保護膜68は、例えばALD法(Atomic-Layer-deposition)により形成し、保護膜68の膜厚は50nm以上とする。
保護膜68を形成する方法としては、ALD法の他に、AP−CVD法(大気圧化学気相成長法)等を用いることができる。言い換えると、真空中又は大気中において、絶縁膜67の上で酸化ハフニウムのような無機絶縁材料を化学反応又は凝縮させることにより、絶縁膜67の上に無機絶縁材料を堆積させることが可能であれば、どの方法を用いてもよい。
さらに、保護膜68を形成するに当っては、基板構成体41の表面に導かれた導体パターン30の一部にマスキングを施すことにより、導体パターン30のうちテープキャリアパッケージ31が接続される部分に保護膜68が形成されないようにする。
このような第3の実施形態によると、電極60の下地となる銅めっき層61は、長溝11の内面に生じたミクロン単位の凹凸23を吸収して平滑化を維持する機能を有している。そのため、電極60の表面60aは、ピンホールの発生要因となる尖った凸部が排除された平坦な面となる。
加えて、電極60の表面60aと絶縁膜67との間に平滑化膜66が介在され、平滑化膜66の電極60から離れた表面66aは、ピンホールの発生要因となる尖った凸部が排除された平坦な面となっている。
したがって、平坦化が強化された電極60の表面60aの上にさらに平滑化膜66が存在するので、電極60を保護する絶縁膜67および保護膜68にピンホールがより発生し難くなる。
この結果、三層の電極保護層65を用いてインクと電極60との間の電気的な絶縁を維持することができ、電極60の腐食やインクの電気分解を回避できる。よって、第1の実施形態と同様に、印字品質が良好で、しかも耐久性に優れたインクジェットヘッド1を得ることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。