図1から図10を参照して、実施の形態における内燃機関について説明する。本実施の形態においては、車両に配置されている内燃機関を例に取り上げて説明する。
図1は、本実施の形態における内燃機関の概略図である。本実施の形態における内燃機関は、火花点火式である。内燃機関は、機関本体1を備える。機関本体1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド4とを含む。シリンダブロック2の内部には、ピストン3が配置されている。
燃焼室5は、それぞれの気筒ごとに形成されている。燃焼室5には、機関吸気通路および機関排気通路が接続されている。シリンダヘッド4には、吸気ポート7および排気ポート9が形成されている。吸気弁6は吸気ポート7の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関吸気通路を開閉可能に形成されている。排気弁8は、排気ポート9の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関排気通路を開閉可能に形成されている。シリンダヘッド4には、点火プラグ10が固定されている。
本実施の形態における内燃機関は、燃焼室5に燃料を供給するための燃料噴射弁11を備える。本実施の形態における燃料噴射弁11は、吸気ポート7に燃料を噴射するように配置されている。燃料噴射弁11は、この形態に限られず、燃焼室5に燃料を供給できるように配置されていれば構わない。たとえば、燃料噴射弁は、燃焼室に直接的に燃料を噴射するように配置されていても構わない。
シリンダブロック2は、穴部2aを有する。穴部2aの表面には、シリンダライナ15が固定されている。本実施の形態におけるシリンダライナ15は、円筒状に形成されている。ピストン3のピストンリング3aは、シリンダライナ15に対して摺動する。ピストン3は、コネクティングロッド58を介して、クランクシャフト59に支持されている。ピストン3は上死点と下死点との間で往復運動する。ピストン3の往復運動により、クランクシャフト59が回転する。
本実施の形態における内燃機関は、クランクシャフト59を支持する支持構造物を備える。本実施の形態における支持構造物は、シリンダブロック2と、クランクケース79と、オイルパン60とを含む。クランクケース79の内部には、クランクシャフト59が配置されている。また、クランクシャフト59は、クランクケース79に支持されている。オイルパン60は、クランクケース79に固定されている。オイルパン60の内部には、機関本体1に含まれる部材を潤滑するオイル61が貯留されている。
本実施の形態における内燃機関は、電子制御ユニット31を備える。本実施の形態における電子制御ユニット31は、デジタルコンピュータを含み、制御装置として機能する。機関吸気通路に配置されているエアフローメータ、クランクシャフト59の周りに配置されているクランク角センサ、または所定の位置に配置されている温度センサ等の各種センサの出力信号は、電子制御ユニット31に入力される。
電子制御ユニット31は、それぞれの対応する駆動回路を介して燃料噴射弁11および点火プラグ10に接続されている。本実施の形態における電子制御ユニット31は、燃料噴射制御や点火制御を行うように形成されている。機関吸気通路に配置されているスロットル弁を駆動するステップモータ、燃料ポンプ等の内燃機関に含まれる機器は、電子制御ユニット31により制御されている。
吸気弁6は、吸気カム51が回転することにより開閉するように形成されている。本実施の形態における内燃機関は、可変動弁機構を備える。可変動弁機構は、吸気弁6の開閉時期を変更する可変バルブタイミング装置53を含む。本実施の形態における可変バルブタイミング装置53は、吸気カム51の回転軸に接続されている。また、可変バルブタイミング装置53は、電子制御ユニット31により制御されている。
本実施の形態における可変バルブタイミング装置は、吸気弁6が開き始めてから閉じ終わるまでの作動角がほぼ一定で、作動角の中心の位相を変更可能に形成されている。可変バルブタイミング装置としては、この形態に限られず、作動角が可変に形成されていても構わない。また、吸気弁の閉弁時期を変更可能に形成されている任意の可変バルブタイミング装置を採用することができる。
本実施の形態における内燃機関は、可変圧縮比機構を備える。本実施の形態においては、ピストンが圧縮上死点に位置したときにシリンダヘッド4の凹部4aおよびピストン3の冠面に囲まれる空間を燃焼室と称する。内燃機関の圧縮比は、燃焼室の容積等に依存して定まる。本実施の形態における可変圧縮比機構は、燃焼室の容積を変更することにより圧縮比を変更するように形成されている。燃焼室における実際の圧縮比である実圧縮比は、(実圧縮比)=(燃焼室の容積+吸気弁が閉じている期間にピストンが移動する容積)/(燃焼室の容積)で示される。
図2は、本実施の形態における内燃機関の可変圧縮比機構の分解斜視図である。図3は、内燃機関の燃焼室の部分の第1の概略断面図である。図3は、可変圧縮比機構により高圧縮比になったときの概略図である。本実施の形態における内燃機関は、シリンダブロック2を含む支持構造物と、支持構造物の上側に配置されているシリンダヘッド4とが互いに相対移動する。本実施の形態におけるシリンダブロック2は、可変圧縮比機構を介してシリンダヘッド4を支持している。
図2および図3を参照して、シリンダヘッド4の両側の側壁の下方には複数個の突出部80が形成されている。突出部80には、断面形状が円形のカム挿入孔81が形成されている。シリンダブロック2の上壁には、複数個の突出部82が形成されている。突出部82には、断面形状が円形のカム挿入孔83が形成されている。シリンダブロック2の突出部82は、シリンダヘッド4の突出部80同士の間に嵌合する。
本実施の形態における可変圧縮比機構は、シリンダヘッド4の支持軸としての一対のカムシャフト84,85を含む。カムシャフト84,85は、それぞれのカム挿入孔83内に回転可能に挿入される円形カム88を含む。円形カム88は各カムシャフト84,85の回転軸線と同軸状に配置されている。一方で、それぞれの円形カム88の両側には、カムシャフト84,85の回転軸線に対して偏心して配置された偏心軸87が延びている。この偏心軸87上には、別の円形カム86が偏心して回転可能に取付けられている。これらの円形カム86は円形カム88の両側に配置されている。円形カム86は対応するカム挿入孔81内に回転可能に挿入されている。
可変圧縮比機構は、モータ89を含む。モータ89の回転軸90には、螺旋方向が互いに逆向きの2つのウォーム91,92が取付けられている。それぞれのカムシャフト84,85の端部には、ウォームホイール93,94が固定されている。ウォームホイール93,94は、ウォーム91,92と噛み合うように配置されている。モータ89が回転軸90を回転させることにより、カムシャフト84,85を、互いに反対方向に回転させることができる。モータ89は、対応する駆動回路を介して電子制御ユニット31に接続されている。モータ89は、電子制御ユニット31に制御されている。すなわち、本実施の形態における可変圧縮比機構は、電子制御ユニット31に制御されている。
図3を参照して、それぞれのカムシャフト84,85上に配置された円形カム88を、矢印97に示すように互いに反対方向に回転させると、偏心軸87が円形カム88の上端に向けて移動する。円形カム86は、カム挿入孔81内において、矢印96に示すように円形カム88と反対方向に回転する。
図4に、本実施の形態における内燃機関の燃焼室の部分の第2の概略断面図を示す。図4は、可変圧縮比機構により低圧縮比になったときの概略図である。図4に示されるように偏心軸87が円形カム88の上端まで移動すると、円形カム88の中心軸が偏心軸87よりも下方に移動する。図3および図4を参照して、シリンダブロック2とシリンダヘッド4との相対位置は、円形カム86の中心軸と円形カム88の中心軸との距離によって定まる。円形カム86の中心軸と円形カム88の中心軸との距離が大きくなるほどシリンダヘッド4がシリンダブロック2から離れる向きに移動する。矢印98に示すようにシリンダヘッド4がシリンダブロック2から離れるほど、ピストン3が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が大きくなる。
このように、本実施の形態における可変圧縮比機構は、シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4が相対的に移動することにより、燃焼室5の容積が可変に形成されている。シリンダブロック2に対するシリンダヘッド4の相対的な位置は、相対位置センサ95にて検出される。相対位置センサ95の出力信号は、電子制御ユニット31に入力される。また、シリンダヘッド4は、弾性部材によりシリンダブロック2から離れる向きに付勢されている。
本発明においては、下死点から上死点までのピストンの行程容積と燃焼室の容積のみから定まる圧縮比を機械圧縮比と称する。機械圧縮比は、(機械圧縮比)=(燃焼室の容積+下死点から上死点までのピストンの行程容積)/(燃焼室の容積)で示される。図3ではピストン3が圧縮上死点に到達しており、燃焼室5の容積が小さくなっている。吸入空気量が一定の場合には圧縮比が高くなる。この状態は、機械圧縮比が高い状態である。これに対して、図4ではピストン3が圧縮上死点に到達しており、燃焼室5の容積が大きくなっている。吸入空気量が一定の場合には圧縮比が低くなる。この状態は、機械圧縮比が低い状態である。
本実施の形態における内燃機関は、運転期間中に圧縮比を変更することができる。たとえば、内燃機関の運転状態に応じて機械圧縮比を設定し、設定した機械圧縮比に基づいてシリンダブロック2に対するシリンダヘッド4の相対位置を変更することができる。
一方で、実際の圧縮比である実圧縮比は、機械圧縮比を変更する他にも、吸気弁の閉弁時期を変更することにより変化させることができる。本実施の形態の内燃機関のように、吸気弁の閉弁時期を変更可能な可変動弁機構を備える場合には、可変動弁機構と可変圧縮比機構とを作動させることにより実圧縮比を変更することができる。
本実施の形態における可変圧縮比機構は、偏心軸を含むカムシャフトを回転させることにより、シリンダブロックに対してシリンダヘッドを相対的に移動させているが、この形態に限られず、シリンダブロックに対してシリンダヘッドを相対的に移動させる任意の可変圧縮比機構を採用することができる。
図1から図4を参照して、本実施の形態におけるシリンダライナ15は、シリンダヘッド4に向かう側に突出部15aを有する。本実施の形態における突出部15aは、シリンダブロック2の穴部2aから突出するように形成されている。シリンダヘッド4には、燃焼室5の壁面を構成する凹部4aが形成されている。本実施の形態における凹部4aは、シリンダライナ15の突出部15aに嵌合する。
図3および図4を参照して、機械圧縮比を変更すると、シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4が相対的に移動する。本実施の形態においては、シリンダヘッド4の凹部4aが、シリンダライナ15の突出部15aに対して摺動する。シリンダヘッド4とシリンダライナ15とが接触する部分には、シール部材25が配置されている。シリンダライナ15がシリンダヘッド4の凹部4aの内部まで延びるように形成されていることにより、シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4が相対的に移動しても燃焼室5が密閉された状態が維持される。更に、燃焼室5の容積を可変にすることができる。
本実施の形態の内燃機関の可変圧縮比機構は、シリンダブロック2が車両本体に固定されて不動部を構成している。ピストン3の移動により生じるスラスト力がシリンダブロック2に作用するが、シリンダブロック2が不動部であるために、ピストンの移動に起因する振動を抑制することができる。
ところで、内燃機関は、一般的に機関負荷が低いほど熱効率が悪くなる。従って、内燃機関の運転時における熱効率を向上させるためには、負荷が低いときの熱効率を向上させることが好ましい。本実施の形態における可変圧縮比機構にて圧縮比を高くすることにより熱効率を向上させることができる。特に、圧縮比を高くすると、ピストンが上死点から下死点に向かうときの膨張比が大きくなるために熱効率が向上する。ところが、可変圧縮比機構により圧縮比を上昇させると、所定の圧縮比でノッキング等の異常燃焼が発現する。
本実施の形態における内燃機関は、可変動弁機構としての可変バルブタイミング装置を備え、吸気弁の開閉時期が可変に形成されている。吸気弁を閉じる時期を遅くすることにより、燃焼室に流入する空気量を少なくすることができる。すなわち、吸気弁を閉じる時期を遅くすることにより、燃焼室において混合気が圧縮される時の実圧縮比を小さくすることができる。
図5は、本実施の形態における内燃機関の運転制御全般を概略的に説明するグラフである。図5では、負荷に対する機械圧縮比および吸気弁を閉じる時期を示している。なお、本実施の形態の内燃機関では、排気浄化装置の三元触媒によって排気ガスに含まれる未燃炭化水素、一酸化炭素、および窒素酸化物を同時に浄化できるように、燃焼時の空燃比が理論空燃比に制御されている。
本実施の形態における内燃機関は、高負荷のときには可変圧縮比機構により機械圧縮比が低くなるように制御している。すなわち、ピストンが圧縮上死点に到達したときの燃焼室の容積が大きくなるように制御して、異常燃焼の発生を抑制することができる。また、高負荷の時には可変動弁機構により吸気弁を閉じる時期を早くして、燃焼室に吸入される吸入空気量を多くしている。本実施の形態における内燃機関は、高負荷の時には、スロットル弁が全開に保持されている。このためにポンピング損失をほぼ零にすることができる。
内燃機関は、矢印100に示すように負荷が小さくなると、吸入空気量を減少させるために可変動弁機構により吸気弁の閉弁時期が遅く制御される。吸気弁の閉弁時期を遅く変更する領域では、可変圧縮比機構により機械圧縮比が増大される。この制御により、燃焼室における実圧縮比をほぼ一定に保つことができる。機械圧縮比が高くなって異常燃焼が発生することを制御できる。また、中負荷の領域においても、スロットル弁は全開の状態に保持されており、ポンピング損失をほぼ零にすることができる。更に、本実施の形態の内燃機関は、吸気弁を閉じる時期を遅くしても、膨張比は大きくなったままであるために、熱効率の向上を図ることができる。本実施の形態における内燃機関は、燃焼室における実際の圧縮比を異常燃焼の発現する圧縮比未満に維持しながら、低負荷においては膨張比を大きくして熱効率を向上させることができる。
なお、本実施の形態における内燃機関では、負荷が更に低くなって、やや低負荷寄りの負荷L1に到達すると、可変圧縮比機構の構造上の圧縮比変更の限界となる限界機械圧縮比に到達する。このため、負荷L1よりも低い領域では、機械圧縮比が限界機械圧縮比に保持される。
また、図5に示す実施例では、負荷L1まで低下すると、吸気弁の閉弁時期が燃焼室に供給される吸入空気量を制御できる限界閉弁時期になる。このために、負荷L1よりも負荷の低い領域では吸気弁の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。本実施の形態の内燃機関においては、負荷L1よりも低い領域ではスロットル弁によって燃焼室に吸入される吸入空気量が制御される。すなわち、負荷L1よりも低い領域では、負荷が低くなるほどスロットル弁の開度は小さくなるように制御することができる。このように、本実施の形態における内燃機関は、可変圧縮比機構と可変動弁機構とを組み合わせて用いることにより熱効率の向上を図ることができる。
図6に、本実施の形態におけるシリンダブロックの概略平面図を示す。図1および図6を参照して、シリンダヘッド4は弾性部材によりシリンダブロック2から離れる向きに付勢されている。シリンダブロック2の頂面には穴部21が形成されている。穴部21の内部には、弾性部材としてのコイルスプリング22が配置されている。シリンダヘッド4は、常に付勢されているために、機械圧縮比を変更していない期間中および機械圧縮比を変更している期間中に振動が発生することを抑制できる。なお、弾性部材としては、コイルスプリング22に限られず、シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4を付勢する任意の部材を採用することができる。また、弾性部材は、シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4を付勢することができる任意の位置に配置することができる。
図1、図2および図6を参照して、本実施の形態におけるシリンダブロック2は、シリンダヘッド4に対向する面に形成されている凹部23を有する。本実施の形態の形態における凹部23は、複数のシリンダライナ15を取り囲むように形成されている。すなわち、凹部23はシリンダライナ15を内部に含むように形成されている。シリンダヘッド4は、シリンダブロック2と対向する面に凸部24を有する。凸部24は、突出部80の底面からシリンダブロック2に向かって飛び出すように形成されている。シリンダヘッド4の凸部24は、シリンダブロック2の凹部23と嵌合するように形成されている。
図7に、本実施の形態における内燃機関の第1の冷却装置を説明する概略図を示す。本実施の形態の内燃機関は、冷却水によりシリンダブロック2を冷却する冷却装置を備える。シリンダブロック2は、シリンダブロック2の内部に形成された冷却水が流通するシリンダブロック冷却流路を含む。本実施の形態の冷却水としては、機関冷却水が用いられている。
シリンダヘッド4の凸部24とシリンダブロック2の凹部23との間には、機械圧縮比が変化しても空間が形成されている。すなわち、シリンダライナ15の突出部15a、シリンダブロック2の凹部23、およびシリンダヘッド4の凸部24に囲まれる空間が形成されている。本実施の形態の内燃機関では、この空間に冷却水を流通させることによりシリンダライナ15を冷却する。すなわち、シリンダライナ15、シリンダブロック2およびシリンダヘッド4により囲まれる空間は、冷却水が流通する流路を構成する。本発明では、シリンダライナ15を冷却する冷却水が流れる流路をシリンダライナ冷却流路45と称する。このように、本実施の形態におけるシリンダブロック冷却流路は、シリンダライナ冷却流路45を含む。
シリンダライナ冷却流路45は、シリンダライナ15の周方向の外面を取り囲んでいる。シール部材25は、燃焼室5への冷却水の漏出を抑制する。また、シリンダヘッド4の凸部24とシリンダブロック2の凹部23との接触面においても冷却水が漏水しないようにシール部材が配置されている。
本実施の形態の冷却装置は、シリンダライナ冷却流路45に冷却水を供給するためのポンプ41を含む。ポンプ41は、シリンダヘッド4の内部に形成されているシリンダヘッド冷却流路44に接続されている。シリンダヘッド冷却流路44は、燃焼室5の壁面の近傍、吸気弁の近傍および排気弁の近傍などを冷却水が流通するように形成されている。
シリンダヘッド冷却流路44は、シリンダライナ冷却流路45に接続されている。または、シリンダヘッド冷却流路44とシリンダライナ冷却流路45との間の流路には、開閉弁V1が配置されている。開閉弁V1は、流路を遮断したり開放したりする。開閉弁V1は、電子制御ユニット31により制御されている。また、本実施の形態における冷却装置は、冷却水を冷却する為のラジエータ42を含む。ラジエータ42の出口には、冷却水が高温になると開放し、冷却水が低温になると閉止するサーモスタット43が配置されている。
ポンプ41を駆動することにより、冷却水は、矢印101に示すように、シリンダヘッド冷却流路44に流入する。シリンダヘッド冷却流路44から流出した冷却水は、矢印102に示すように、シリンダライナ冷却流路45に流入する。
シリンダライナ冷却流路45においては、冷却水がシリンダライナ15の外面に接触して、シリンダライナ15を冷却する。本実施の形態においては、シリンダライナ15の突出部15aを冷却する。シリンダライナ冷却流路45から流出する冷却水は、矢印103,104に示すようにポンプ41に戻る。
冷却水が低温の場合には、サーモスタット43が閉止する。この場合には、ラジエータ42の冷却水の流通が遮断される。冷却水の温度が上昇して、予め定められた温度よりも高くなった場合には、サーモスタット43が開放される。この場合には、冷却水は、矢印105に示すように、ラジエータ42を流通して冷却水が冷却される。
本実施の形態の冷却装置は、シリンダヘッド冷却流路44の出口からポンプ41の入口に接続されている戻り流路を有する。シリンダライナ冷却流路45に供給するための冷却水が過剰である場合には、冷却水は、矢印106に示すように、戻り流路を通ってポンプ41の入口に戻される。
このように、本実施の形態の冷却装置は、シリンダライナ冷却流路45を有し、シリンダライナ冷却流路45に冷却水を流通させることによりシリンダライナ15を冷却している。この構成により、シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4が相対移動する可変圧縮比機構においても、シリンダブロック2の燃焼室5の近傍に冷却流路を構成することができる。特に、ピストン3が圧縮上死点近傍に位置するときに生じる混合気の燃焼により高温になるシリンダライナ15の上部を効果的に冷却することができる。本実施の形態では、シリンダライナ15の突出部15aを効果的に冷却することができる。
ところで、本実施の形態の内燃機関では、シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4が相対的に移動するために、シリンダライナ冷却流路45の流路断面積が変化する。すなわち、シリンダヘッド4の凸部24の頂面とシリンダブロック2の凹部23の底面との距離が変化する。機械圧縮比が高くなる場合には、シリンダヘッド4が矢印99に示す向きに移動し、シリンダライナ冷却流路45の流路断面積が小さくなる。一方で、機械圧縮比が低くなる場合には、シリンダヘッド4が矢印98に示す向きに移動し、シリンダライナ冷却流路45の流路断面積が大きくなる。
機械圧縮比が高くなる場合には、シリンダライナ冷却流路45の流路断面積が小さくなるが、この場合に、シリンダライナ冷却流路45に貯留する冷却水量が変化しないと、シリンダヘッド4の移動を阻害する。本実施の形態の内燃機関では、シリンダライナ冷却流路45に貯留する冷却水量を機械圧縮比に応じて変化させる制御を行う。
内燃機関の運転時に機械圧縮比を変更しない運転状態では、開閉弁V1を開放し、ポンプ41を駆動する。冷却水は、シリンダヘッド冷却流路44 、シリンダライナ冷却流路45を流通し、再びポンプ41に戻る。この冷却水の循環により、シリンダヘッド4およびシリンダブロック2を冷却することができる。
次に、機械圧縮比を低下させる場合には、矢印98に示す向きに、シリンダヘッド4を移動させる。この時はシリンダライナ冷却流路45の流路断面積が大きくなる。開閉弁V1は開いた状態に維持する。シリンダライナ冷却流路45の流路断面積の増加に伴って、シリンダライナ冷却流路45に貯留する冷却水量が増加する。シリンダライナ冷却流路45は、冷却水で充填される。
次に、機械圧縮比を上昇させる場合には、矢印99に示す向きに、シリンダヘッド4を移動させる。シリンダヘッド4は、シリンダブロック2に近づく向きに移動する。この場合には、開閉弁V1を閉止する制御を行う。開閉弁V1を閉止することにより、シリンダライナ冷却流路45の冷却水の流入が遮断される。さらに、シリンダライナ冷却流路45に貯留している冷却水は、矢印103に示すように、ポンプ41により吸引される。シリンダライナ冷却流路45に貯留する冷却水の量が減少し、冷却水の水位が低下する。このために、シリンダヘッド4の凸部24が下降するときの移動の阻害が回避される。シリンダヘッド4をシリンダブロック2に近づける向きに移動させることができる。
このときに、ポンプ41から流出した冷却水は、シリンダヘッド冷却流路44を流通した後に、矢印106に示すように、戻り流路を通ってポンプ41に戻される。機械圧縮比を上昇する期間中にもシリンダヘッド冷却流路44に冷却水を供給することができる。機械圧縮比が、所望の機械圧縮比まで上昇した場合には、再び開閉弁V1を開いてシリンダライナ冷却流路45に冷却水を流通させることができる。
図8に、本実施の形態における第1の冷却装置を備える内燃機関の運転制御のフローチャートを示す。図8は、暖機運転等を除く内燃機関の通常運転における制御のフローチャートである。内燃機関の通常運転において、機械圧縮比を維持している場合には、開閉弁V1は開いた状態である。
ステップ121においては、内燃機関の運転状態に基づいて機械圧縮比を変更するか否かを判断する。ステップ121において、機械圧縮比を変更しない場合には、この制御を終了する。ステップ121において、機械圧縮比を変更する場合には、ステップ122に移行する。
ステップ122においては、機械圧縮比を上昇させるか否かを判別する。ステップ122において、機械圧縮比を低下させる場合にはステップ123に移行する。この場合には、シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4が離れる向きに移動するために、開閉弁V1を開いた状態に維持してステップ123に移行する。
ステップ123においては、機械圧縮比を低下させる。すなわち、シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4を離れる向きに移動させる。ステップ122において、機械圧縮比を上昇させる場合には、ステップ124に移行する。
ステップ124においては、開閉弁V1を閉止する。シリンダライナ冷却流路45に貯留する冷却水量が減少する。
次に、ステップ125においては、機械圧縮比を上昇させる。シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4が近づく向きに移動する。シリンダライナ冷却流路45の流路断面積が小さくなるが、シリンダライナ冷却流路45に貯留する冷却水の量も減少するために、シリンダヘッド4は冷却水に移動を阻害されることなく移動する。機械圧縮比の上昇が終了した後にステップ126に移行する。
ステップ126においては、開閉弁V1を開放する。冷却水は、再びシリンダライナ冷却流路45に供給される。シリンダライナ冷却流路45に冷却水が流通し、シリンダライナ15を引き続き冷却することができる。
このように、本実施の形態の内燃機関においては、シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4が相対的に移動する時にも相対移動を阻害することなく、シリンダブロック2を継続的に冷却することができる。
上記の運転制御においては、開閉弁V1を閉止した直後に機械圧縮比の上昇を開始しているが、この形態に限られず、開閉弁V1の閉止後の予め定められた時間の経過後に、機械圧縮比の上昇を開始しても構わない。すなわち、シリンダライナ冷却流路45における水位が充分に下降した後に機械圧縮比の上昇を開始しても構わない。
図5を参照して、本実施の形態の内燃機関は、負荷が大きくなるほど機械圧縮比を低下させる運転領域を有する。本実施の形態においては、負荷L1よりも大きな運転領域において、負荷が大きくなるほど機械圧縮比を低下させる制御を行っている。内燃機関の負荷が高くなると吸入空気量が多くなり、燃焼室5における発熱量も大きくなる。このために、高負荷では高い冷却能力が要求される。
本実施の形態の内燃機関は、高負荷になると機械圧縮比が低くなるように制御される。シリンダヘッド4は、シリンダブロック2に対して離れた位置に制御される。この場合に、シリンダライナ冷却流路45の流路断面積が大きくなる。高負荷になった場合には、冷却水とシリンダライナ15との接触面積が大きくなり、冷却性能を向上させることができる。更に、シリンダライナ冷却流路45の流路面積が大きくなるためにシリンダライナ冷却流路45における圧力損失が小さくなり、シリンダライナ冷却流路45を流通する冷却水の流量を増大することができる。この様に、高負荷において高い冷却能力を発揮することができる。すなわち、本実施の形態の内燃機関は、負荷に対応した冷却能力を発揮することができる。
また、内燃機関の始動時などに、機関本体1が予め定められた温度未満の低温の状態である場合には、開閉弁V1を閉じる制御を行うことができる。たとえば、機関本体1の暖機を行う場合に、冷却水の温度が予め定められた温度未満の場合には、開閉弁V1を閉止することにより、シリンダライナ冷却流路45への冷却水の供給を停止することができて、暖機を促進することができる。
図9に、本実施の形態における内燃機関の第2の冷却装置の概略図を示す。第2の冷却装置は、本実施の形態における第1の冷却装置の構成に加えて、シリンダライナ冷却流路45からポンプ41に向かう流路に開閉弁V2が配置されている。第2の冷却装置においては、シリンダライナ冷却流路45の入口側の流路と出口側の流路とのそれぞれの流路に開閉弁V1,V2が接続されている。開閉弁V1は第1の開閉弁を構成し、開閉弁V2が第2の開閉弁を構成する。開閉弁V1,V2は、電子制御ユニット31により制御されている。
内燃機関の運転期間中にシリンダヘッド4を付勢するコイルスプリング22が破損した場合や、偏心軸87を駆動する機構が故障した場合などには、シリンダヘッド4の自重により、シリンダヘッド4がシリンダブロック2に近づく側に短時間に移動する虞がある。シリンダブロック2に対してシリンダヘッド4が短時間の間に近づくと機械圧縮比が急激に上昇する。この時の機械圧縮比の変化速度に可変動弁機構の動作速度が追いつかずに、ピストン3と吸気弁6または排気弁8が干渉する虞がある。すなわち、ピストン3と吸気弁6または排気弁8とのスタンプが生じる虞がある。または、機械圧縮比が急激に上昇することにより、燃焼室5において異常燃焼が発生する虞がある。
本実施の形態の第2の冷却装置を備える内燃機関は、可変圧縮比機構の異常を検出する異常検出装置を備える。異常検出装置が可変圧縮比機構の異常を検出した場合には、機械圧縮比の変更を禁止し、開閉弁V1および開閉弁V2を閉止する制御を行う。開閉弁V2を閉止することにより、シリンダライナ冷却流路45からの冷却水の流出が遮断される。開閉弁V1および開閉弁V2の両弁を閉じることにより、シリンダライナ冷却流路45が密閉された状態になる。通常の運転時にはシリンダライナ冷却流路45に冷却水が充填されているために、シリンダブロック2に向かってシリンダヘッド4が近づく移動を阻止することができる。すなわち、機械圧縮比の急激な上昇を抑制することができる。この結果、ピストン3と吸気弁6または排気弁8とのスタンプや、異常燃焼の発生を回避することができる。
図10に、本実施の形態の第2の冷却装置を備える内燃機関の運転制御のフローチャートを示す。ステップ121においては、内燃機関の運転状態に基づいて機械圧縮比を変更するか否かを判別する。ステップ121において、機械圧縮比を変更しない場合にはこの制御を終了する。ステップ121において、機械圧縮比を変更する場合には、ステップ128に移行する。
ステップ128においては、可変圧縮比機構が正常の状態か否かを判別する。可変圧縮比機構が正常か否かの判別は、任意の制御により行うことができる。たとえば、可変圧縮比機構を駆動している期間中に判別して、その結果を記憶しておくことができる。図3および図4を参照して、本実施の形態の内燃機関は、シリンダブロック2に対するシリンダヘッド4の相対位置を検出する相対位置センサ95を備える。可変圧縮比機構のモータ89を駆動する指示信号と、相対位置センサ95から出力される実際の相対位置との偏差に基づいて、可変圧縮比機構の異常を判別することができる。たとえば、モータ89を駆動する指示信号に対する実際の相対位置の偏差が大きい場合には、可変圧縮比機構の異常と判断することができる。ステップ128において、可変圧縮比機構が正常でない場合、すなわち可変圧縮比機構が異常の場合には、ステップ129に移行する。
ステップ129においては、開閉弁V1および開閉弁V2を閉止する制御を行う。シリンダライナ冷却流路45が密閉されるために機械圧縮比の上昇が抑制される。
次に、ステップ130では、異常通知ランプを点灯する。異常通知ランプを点灯することにより、異常の発生を運転者に通知する。たとえば、運転席のインストルメントパネルに配置されている内燃機関の異常ランプを点灯させることができる。運転者は、内燃機関が異常であることを知り、修理等を依頼することができる。
ステップ128において、可変圧縮比機構が正常である場合には、ステップ122に移行する。ステップ122からステップ126は、本実施の形態の第1の冷却装置を備える内燃機関の運転制御と同様である(図8参照)。
上記の第2の冷却装置を備える内燃機関の運転制御においては、機械圧縮比を変更する直前に可変圧縮比機構が正常か否かを判別しているが、この形態に限られず、機械圧縮比を変更している期間中に可変圧縮比機構が正常か否かを判別し、可変圧縮比機構が異常の場合には、開閉弁V1および開閉弁V2を閉じる制御を行っても構わない。
本実施の形態におけるシリンダライナ冷却流路45は、シリンダライナ15の突出部15aを冷却するように形成されている。すなわち、シリンダライナ15の上部を冷却するように形成されているが、この形態に限られず、シリンダライナ冷却流路45は、シリンダライナ15に沿って下側に延びて、シリンダライナ15をより大きな範囲で冷却するように形成されていても構わない。
また、本実施の形態のシリンダライナ冷却流路45は、複数のシリンダライナ15を取り囲むようにシリンダブロック2に形成された大きな凹部23により形成されているが、この形態に限られず、それぞれのシリンダライナに対して個別にシリンダライナ冷却流路が形成されていても構わない。
上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。また、上述のそれぞれの制御においては、機能および作用が変更されない範囲において適宜ステップの順序を変更することができる。
上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される変更が含まれている。