本実施形態に係る樹脂付き金属箔1(金属箔付き樹脂シート)は、金属箔2、第一の樹脂層3及び第二の樹脂層4を備える。第一の樹脂層3及び第二の樹脂層4は、プリント配線板に絶縁層を形成するために利用され、金属箔2は、プリント配線板に導体配線を形成するために利用される。
図1(a)及び図1(b)に、第一の実施形態に係る樹脂付き金属箔1を示す。本実施形態における樹脂付き金属箔1は、金属箔2、この金属箔2に積層している第一の樹脂層3、及びこの第一の樹脂層3に積層している第二の樹脂層4を備える。更に、本実施形態では、樹脂付き金属箔1は更にキャリア材5を備える。キャリア材5は、金属箔2の、第一の樹脂層3とは反対側の面に積層している。尚、樹脂付き金属箔1は、キャリア材5を備えなくてもよい。
金属箔2としては、特に制限されないが、銅箔が用いられることが好ましい。金属箔2の最小厚み(T1)は、1〜3μmである。金属箔2の、第一の樹脂層3に接する面は、粗面(マット面)であることが好ましい。この場合、金属箔2と第一の樹脂層3との密着性が向上し、このため金属箔2から形成される導体配線と、第一の樹脂層3から形成される絶縁層との密着性が向上する。金属箔2が粗面(マット面)を有する場合は、金属箔2の最小厚み(T1)は、金属箔2の厚みの値から、金属箔2のマット面の最大高さRz(JIS B0601:2001)の値を引いた値となる(図1(b)参照)。金属箔2の最小厚み(T1)が3μm以下であることで、樹脂付き金属箔1の薄型化が可能であり、更に樹脂付き金属箔1を用いて製造されるプリント配線板の薄型化が可能である。また、この金属箔2の最小厚み(T1)が1μm以上であることで、電解銅めっき等により均質な金属箔2を形成することが容易となる。また、金属箔2のマット面の最大高さRz(JIS B0601:2001)は、1〜3μmの範囲であることが好ましい。この最大高さRzが1μm以上であると金属箔2或いは導体配線と第一の樹脂層3との密着性が特に高くなる。また、この最大高さRzが3μm以下であると、樹脂付き金属箔1の薄型化が可能であり、更に樹脂付き金属箔1を用いて製造されるプリント配線板の薄型化が可能である。特にこの最大高さRzが2μmであることが好ましい。
第一の樹脂層3は、イミド骨格を有するポリイミド系樹脂を含有するポリイミド組成物から形成される。この第一の樹脂層3の最小厚み(T2)は、1〜5μmである。金属箔2のマット面上に第一の樹脂層3が積層する場合、第一の樹脂層3の厚みの値から、金属箔2のマット面の最大高さRzの値を引いた値が、第一の樹脂層3の最小厚み(T2)となる。この第一の樹脂層3の最小厚み(T2)が1μm以上であることで、第一の樹脂層3及び第二の樹脂層4から形成される絶縁層の良好な絶縁信頼性及び易屈曲性が確保される。また、この第一の樹脂層3の最小厚み(T2)が5μm以下であることで、樹脂付き金属箔1の薄型化が可能であり、更に樹脂付き金属箔1を用いて製造されるプリント配線板の薄型化が可能である。
また、第二の樹脂層4の厚み(T3)は、5〜25μmであることが好ましい。この厚み(T3)が5μm以上であることで、第二の樹脂層4が適宜のコア材に積層される場合にコア材上の導体配線間に第二の樹脂層4が充分に充填される。また、この厚み(T3)が25μm以下であることで、樹脂付き金属箔1を用いて製造されるプリント配線板の薄型化が可能である。
更に、金属箔2、第一の樹脂層3及び第二の樹脂層4の合計厚み(T4)が、35μm以下である。これにより、樹脂付き金属箔1を用いて製造されるプリント配線板の更なる薄型化が可能である。
更に、第一の樹脂層3を形成するために用いられるポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂のイミド閉環率は、80%以上であり、且つその重量平均分子量は30000以上である。また、第二の樹脂層4を形成するために用いられる熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、重量平均分子量30000以上の熱可塑性樹脂とを含有する。このため、第一の樹脂層3及び第二の樹脂層4の薄型化を達成しながら、この第一の樹脂層3及び第二の樹脂層4を容易に形成することができる。
このような樹脂付き金属箔1を、プリント配線板を製造するために用いることで、プリント配線板の薄型化と信頼性の確保が可能となり、且つその製造時の歩留まりを向上することができる。
また、本実施形態では、金属箔2にキャリア材5が積層していることで、金属箔2がキャリア材5によって支持されている。このため、金属箔2上に第一の樹脂層3及び第二の樹脂層4が更に容易に形成される。更に、キャリア材5によって樹脂付き金属箔1の剛性が確保され、このため樹脂付き金属箔1のハンドリング性が向上する。キャリア材5の材質は、特に制限されない。例えば金属箔2よりも厚みの大きい別の金属箔によってキャリア材5が構成されてもよい。キャリア材5を構成する金属箔としては、例えば銅箔等が用いられる。キャリア材5の厚みは、12〜35μmであることが好ましい。キャリア材5と金属箔2とは、適宜の手法によって接合される。
第一の樹脂層3、及びこれを形成するためのポリイミド組成物について、更に詳しく説明する。
ポリイミド組成物は、例えばポリイミド系樹脂と溶剤とを含有する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチルウレア、スルホラン、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等が挙げられる。また、これらの溶媒と共に、トルエン、キシレンなどの炭化水素系有機溶剤、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフランなどのエーテル系有機溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤が併用されてもよい。
ポリイミドのイミド閉環率は、上記の通り、80%以上(上限は100%)である。イミド閉環率が80%以上であるポリイミドは、イミド化がほぼ完結している。このため、第一の樹脂層3を形成するにあたって、金属箔2上にポリイミド組成物を塗布し、続いてこのポリイミド組成物から溶剤を揮発させるだけで、第一の樹脂層3が形成される。すなわち、金属箔2上にあるポリイミド組成物をイミド化反応を進行させるような必要がなく、このためイミド化反応のための高温加熱(例えば300℃以上での加熱)が必要なくなる。このため、金属箔2上のポリイミド組成物を、比較的低温、例えば200℃以下の温度で加熱するだけで、溶剤を揮発させて第一の樹脂層3を形成することができる。このため、第一の樹脂層3が形成されてからこれが冷却される際に、第一の樹脂層3の熱収縮が抑制され、このため、樹脂付き金属箔1に反りが生じにくくなる。これにより、良好な作業安定性が確保される。すなわち、樹脂付き金属箔1に反りが生じると、作業安定性が損なわれたり、導体配線の形成が困難となったりするが、本実施形態ではそのような事態が発生することが抑制される。また、樹脂付き金属箔1に反りが生じにくいと、樹脂付き金属箔1において層間剥離が生じにくくなる。例えばキャリア材5が用いられる場合には、キャリア材5と金属箔2との間に剥離が生じにくくなる。このため、樹脂付き金属箔1を製造する際の歩留まりが向上する。
尚、イミド閉環率は、例えば、赤外分光法により測定されるイミドカルボニルに基づくピーク強度と、イミド化前後で変化しないポリマー鎖中の構造(例えばベンゼン環)に基づくピーク強度との比から、算出される。
更に、ポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂の重量平均分子量は、30000以上である。このため、ポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂の濃度が低減しても、このポリイミド組成物に適度な粘度が付与され、それにより良好な塗布性及び成膜性が確保されうる。このため、第一の樹脂層3が容易に形成され、且つこの第一の樹脂層3の厚み精度が高くなる。また、このようにポリイミド組成物の良好な塗布性及び成膜性を確保されるため、金属箔2上でポリイミド組成物が塗布成膜される際、金属箔2が薄型であっても、この金属箔2にシワが生じにくくなる。これにより、最小厚み5μm以下の薄型の第一の樹脂層3が、容易に形成されうる。
ポリイミド系樹脂の重量平均分子量の上限は特に制限されない。但し、ポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂の良好な分散性を確保する観点からは、ポリイミド系樹脂の重量平均分子量は80000以下であることが好ましい。すなわち、ポリイミド系樹脂の重量平均分子量は30000〜80000の範囲であることが好ましい。
尚、ポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂の割合は80質量%以上であることが好ましい。また、ポリイミド組成物の25℃における、B型粘度計で測定される粘度は、300〜3000cpsであることが好ましい。このような条件において、ポリイミド組成物に適度な粘度を付与して良好な塗布性及び成膜性を確保することができる。
ポリイミド系樹脂の分子量は、例えばポリイミド系樹脂を合成する際の触媒量、反応時間、反応温度、合成溶媒濃度等を制御することで、調整される。これにより、ポリイミド系樹脂の重量平均分子量が30000以上に調整されうる。
このポリイミド組成物が金属箔2上に塗布成膜されることで、第一の樹脂層3が形成される。金属箔2上へポリイミド組成物を塗布する方法としては、コンマコート、ダイコート、ロールコート、グラビアコート等の、適宜の方法が採用されてよい。
ポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂について、更に詳しく説明する。ポリイミド系樹脂は、例えばポリイミド樹脂とポリアミドイミド樹脂とのうち、少なくとも一種を含有する。
ポリイミド樹脂は、適宜の方法で生成されうる。例えば、まずテトラカルボン酸二無水物とジアミン成分とが重縮合することでポリアミック酸が生成し、このポリアミック酸が溶剤(後述)中で環化反応によりイミド化することによって、ポリイミド樹脂が、生成する。この環化反応は、例えば60〜250℃、好ましくは100〜200℃の加熱条件下で進行する。加熱温度が60℃未満であると、反応速度が非常に遅くなるおそれがあり、逆に加熱温度が250℃を超えると、反応系の着色や副反応等が生じやすくなるおそれがある。また環化反応の時間は、例えば0.5〜50時間に設定されるが、これに限定されない。
ポリイミドを合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物は、溶剤への溶解性、耐熱性、接着性の観点から、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を含有することが好ましい。またポリイミドを合成するために用いられるジアミン成分は、同様の観点から、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンのうち少なくとも一方を含有することが好ましい。
ポリイミドを合成するために用いられ、或いはポリイミド組成物中に含有される溶剤は、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、及びメトキシプロパノール(MP)から選ばれる少なくとも一種を含有することができる。
ポリイミド系樹脂が、ポリアミドイミド樹脂を含有することが好ましい。この場合、第一の樹脂層3と第二の樹脂層4との密着性が特に高くなり、また第一の樹脂層3から形成される絶縁層に、非常に優れた易屈曲性及び耐熱性が付与される。ポリイミド系樹脂がポリアミドイミド樹脂のみを含有すれば、特に好ましい。
ポリアミドイミド樹脂を構成する構成単位(繰り返し単位)は、例えば下記構造式(1)に示される第一の構成単位と、下記構造式(2)に示される第二の構成単位とを含む。
更に、第一の構成単位と第二の構成単位の合計に対する第二の構成単位の割合は、5〜35モル%の範囲であることが好ましい。この第二の構成単位の割合が35モル%以下(すなわち第一の構成単位の割合が65モル%以上)であることで第一の樹脂層3から形成される絶縁層の耐熱性が向上する。またこの第二の構成単位の割合が5モル%以上(すなわち第一の構成単位の割合が95モル%以下)であることでポリアミドイミド樹脂の溶剤への溶解性が向上し、このため第一の樹脂層3が形成される際の成形不良が抑制される。この割合は更に10〜30モル%の範囲であることが好ましい。
ポリアミドイミド樹脂中の構成単位は、第一の構成単位と第二の構成単位のみであることが好ましいが、第一の構成単位と第二の構成単位以外の構成単位(第四の構成単位)を更に有してもよい。ポリアミドイミド樹脂中の全ての構成単位に対する第三の構成単位の割合は、20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であれば更に好ましい。
第四の構成単位は、例えば次の構造式(4)で示される構造を有する。
構造式(4)における“A”は芳香族残基である。“A”の構造としては、特に限定されないが、下記[化4]に示す構造を列挙することができる。
[化4]におけるR1及びR2は、水素、並びに炭素数1〜3のアルキル基及びアリル基から選択される。但し、第一の構成単位及び第二の構成単位と同じ構造は、第四の構成単位から除かれる。
ポリイミド組成物中のポリアミドイミド樹脂は、下記構造式(3)に示される第三の構成単位を有してもよい。
第三の構成単位を有するポリアミドイミド樹脂を含有するポリイミド組成物から第一の樹脂層3が形成されると、第一の樹脂層3の易屈曲性が非常に高くなると共に、その耐熱性も良好になる。特に、第三の構成単位は、第一の樹脂層3の易屈曲性の向上に大きく寄与する。このため、第一の樹脂層3から絶縁層が形成されると、この絶縁層の易屈曲性が大きく向上し、また耐熱性も向上する。また、ハロゲン系難燃剤を使用しなくても、第一の樹脂層3及び絶縁層が高い耐熱性を発揮するため、第一の樹脂層3又は絶縁層が燃焼しても、有毒ガスの発生や発煙などが抑制される。
特に、ポリアミドイミド樹脂が、第一の構成単位、第二の構成単位及び第三の構成単位を含むことが、好ましい。この場合、第一の樹脂層3及び第一の樹脂層3から形成される絶縁層に、非常に優れた易屈曲性及び耐熱性が付与される。
ポリアミドイミド樹脂が第一の構成単位、第二の構成単位及び第三の構成単位を有する場合、ポリアミドイミド樹脂が有する全ての構成単位に対する、第一の構成単位と第二の構成単位との合計の割合が、30〜70質量%であることが好ましい。また、ポリアミドイミド樹脂が有する全ての構成単位に対する、第三の構成単位の割合が、30〜70質量%であることが好ましい。この場合、第一の樹脂層3及び絶縁層の易屈曲性と耐熱性とが、特にバランス良く向上する。
また、ポリアミドイミド樹脂が第一の構成単位、第二の構成単位及び第三の構成単位を有する場合、ポリアミドイミド樹脂中での、第一の構成単位と第二の構成単位との合計に対する、第二の構成単位の割合が、5〜35モル%であることが好ましい。この第二の構成単位の割合が35モル%以下(すなわち第一の構成単位の割合が65モル%以上)であることで第一の樹脂層3から形成される絶縁層の耐熱性が更に向上する。またこの第二の構成単位の割合が5モル%以上(すなわち第一の構成単位の割合が95モル%以下)であることで、ポリアミドイミド樹脂の溶剤への溶解性が向上し、このため第一の樹脂層3が形成される際の成形不良が抑制される。この割合は更に10〜30モル%の範囲であることが好ましい。
また、ポリアミドイミド樹脂が第一の構成単位、第二の構成単位及び第三の構成単位を有する場合、ポリアミドイミド樹脂が有する全ての構成単位に対する、第一の構成単位、第二の構成単位及び第三の構成単位の合計の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であれば更に好ましい。ポリアミドイミド樹脂が、第一の構成単位、第二の構成単位及び第三の構成単位のみから構成されるならば、特に好ましい。
ポリアミドイミド樹脂の合成方法としては、イソシアネート法、アミン法(酸クロリド法、低温溶液重合法、室温溶液重合法等)などの適宜の手法が採用されてよく、このうちイソシアネート法が採用されることが好ましい。
イソシアネート法では、例えばトリメリット酸又はその誘導体(無水物、ハロゲン化物等)と、芳香族残基を導入するための芳香族ジイソシアネートとが、有機溶剤中に加えられ、更に必要に応じて触媒が加えられる。この条件下、好ましくは10〜200℃の温度で、1〜24時間反応が進行することで、ポリアミドイミド樹脂が合成される。この場合、環化反応によるイミド化を要することなく、イミド閉環されたポリアミドイミド樹脂が得られる。
芳香族残基を導入するための芳香族ジイソシアネートとしては、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメチルビフェニル及び2,4―ジイソシアン酸トリレンが使用される。この場合、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメチルビフェニルと2,4―ジイソシアン酸トリレンとのモル比が調整されることで、ポリアミドイミド樹脂中の構成単位(1)と構成単位(2)の割合が調整される。また、必要に応じて更に適宜の芳香族ジイソシアネートが使用されることで、ポリアミドイミド樹脂に第四の構成単位が導入される。
また、特にポリアミドイミド樹脂が第一の構成単位、第二の構成単位及び第三の構成単を有する場合、ジフェニルエーテル−4,4′−ジイソシアナート、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメチルビフェニル及び2,4−ジイソシアン酸トリレンとのモル比が調整されることで、ポリアミドイミド樹脂中の第一の構成単位、第二の構成単位及び第三の構成単の割合が調整される。
ポリアミドイミド樹脂の具体例の一つとして、東洋紡株式会社製の品番HR−16NNが、挙げられる。
有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチルウレア、スルホラン、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等が挙げられる。また、これらの溶媒と共に、トルエン、キシレンなどの炭化水素系有機溶剤、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフランなどのエーテル系有機溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤が併用されてもよい。
触媒としては、三級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などが挙げられる。
また、アミン法では、例えばトリメリット酸又はその誘導体(無水物、ハロゲン化物等)と、芳香族残基を導入するための芳香族ジアミンとが、有機溶剤中に加えられ、更に必要に応じて触媒が加えられる。この条件下、好ましくは0〜200℃の温度で、1〜24時間反応が進行することで、ポリアミドイミド樹脂が合成される。これにより、環化反応によるイミド化を要することなく、イミド閉環されたポリアミドイミド樹脂が得られる。
ポリイミド組成物は、更にビスマレイミドを含有してもよい。この場合、第一の樹脂層3から構成される絶縁層の耐熱性が更に向上する。ビスマレイミドとしては、特に制限されないが、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、及び1,6’−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサンから選択される、少なくとも一種が用いられることが好ましい。ポリイミド組成物中の、ポリアミドイミド樹脂とビスマレイミドとの合計量に対するビスマレイミドの割合は、3〜30質量%の範囲であることが好ましい。この割合が3質量%以上であることで第一の樹脂層3から構成される絶縁層の耐熱性が充分に向上し、またこの割合が30質量%以下であることで第一の樹脂層3から構成される絶縁層の良好な柔軟性が保たれる。この割合は更に3〜20質量%の範囲であることが好ましい。
また、ポリイミド組成物は、上記成分のほか、適宜の添加剤を含有してもよい。
第一の樹脂層3のガラス転移温度(Tg)は200℃以上であることが好ましく、250℃以上であれば更に好ましい。更に、このガラス転移温度(Tg)が300℃であることが好ましい。この場合、樹脂付き金属箔1を用いてプリント配線板を製造する際に第一の樹脂層3が加熱された場合の、第一の樹脂層3の軟化や変形が抑制される。
次に、第二の樹脂層4、及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物について、更に詳しく説明する。
第二の樹脂層4は、上記の通り、エポキシ樹脂と、重量平均分子量30000以上の熱可塑性樹脂とを含有する熱硬化性樹脂組成物から形成される。このため、熱硬化性樹脂組成物中の樹脂成分の濃度を低減しても、この熱硬化性樹脂組成物に適度な粘度を付与して良好な塗布性及び成膜性を確保することができる。このため、第二の樹脂層4が容易に形成され、且つこの第二の樹脂層4の厚み精度が高くなる。また、このように熱硬化性樹脂組成物の良好な塗布性及び成膜性を確保されるため、金属箔2上でポリイミド組成物及び熱硬化性樹脂組成物が順次塗布成膜される際、金属箔2が薄型であっても、この金属箔2にシワが生じにくくなる。これにより、厚み5〜25μmの薄型の第二の樹脂層4が、容易に形成されうる。
熱可塑性樹脂の重量平均分子量の上限は、特に制限されないが、熱硬化性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の良好な分散性を確保する観点からは、この重量平均分子量は300000以下であることが好ましい。すなわち、熱可塑性樹脂の重量平均分子量は30000〜300000の範囲であることが好ましい。
熱可塑性樹脂の割合は、特に制限されないが、熱硬化性樹脂に対して10〜70質量%の範囲であることが好ましい。
このような熱硬化性樹脂組成物が、例えば第一の樹脂層3上に塗布され、更に加熱乾燥されて半硬化(Bステージ化)することで、第二の樹脂層4が形成される。
熱硬化性樹脂組成物中の成分の詳細について、更に詳しく説明する。
熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂は、例えばグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、及び酸化型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種を含有する。グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂等が挙げられる。グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂等が含まれうる。グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、芳香族アミン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。酸化型エポキシ樹脂としては、脂環型エポキシ樹脂が挙げられる。ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノール骨格とビフェニル骨格を有するノボラック型エポキシ樹脂(ビフェニルノボラックエポキシ樹脂)、リン変性エポキシ樹脂(後述)等が挙げられる。尚、エポキシ樹脂はハロゲンを含有しないことが好ましい。
特に熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂は、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂を含むことが好ましい。この場合、プリント配線板の耐熱性、耐マイグレーション性、耐薬品性が向上する。ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂は、下記構造式(11)〜(13)で示される化合物のうちの少なくとも一種であることが好ましく、この場合、プリント配線板の耐熱性、耐マイグレーション性、耐薬品性が更に向上する。
熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて硬化剤を含有する。硬化剤は、例えばポリアミン、変性ポリアミン、酸無水物、ヒドラジン誘導体、及びポリフェノールから選ばれる少なくとも一種を含有する。ポリアミンとしては、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン等が挙げられる。このうち脂肪族ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、m−キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。脂環式ポリアミンとしては、イソフォロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、ラロミン等が挙げられる。芳香族ポリアミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルフォン等が挙げられる。酸無水物としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水トリメリット酸、無ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、脂肪族二塩基酸ポリ無水物等が挙げられる。ポリフェノール系の硬化剤としては、フェノールノボラック、キシレンノボラック、ビスAノボラック、トリフェニルメタンノボラック、ビフェニルノボラック、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック、テルペンフェノールノボラック等が挙げられる。硬化剤はアミノトリアジンノボラック樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等を含んでもよい。
特に硬化剤は、下記構造式(14)で表されるアミノトリアジンノボラック樹脂とジシアンジアミドとのうち、少なくとも一種を含有することが好ましい。この場合、第二の樹脂層4が長期間に亘って安定してBステージ状態に保たれるようになる(保存安定性が向上する)と共に、プリント配線板の難燃性及び耐薬品性が向上する。
熱硬化性樹脂組成物中の硬化剤の割合は、熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂、硬化剤及び熱可塑性樹脂の合計量に対して、10〜45質量%の範囲であることが好ましい。
熱硬化性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂は、特にカルボジイミド変性可溶性ポリアミドであることが好ましい。この場合、プリント配線板の易屈曲性、難燃性及び耐熱性が向上する。
カルボジイミド変性可溶性ポリアミドの分子量は、例えばカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを合成する際の触媒使用量量、反応時間、反応温度等を制御することにより、調整される。これにより、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドの重量平均分子量が30000以上に調整されうる。
カルボジイミド変性可溶性ポリアミドは、例えば可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とが、溶媒の存在下又は不存在下で、例えば50〜250℃の反応温度で反応することで、生成する。
可溶性ポリアミドは、アルコールと芳香族系の有機溶媒及びケトン系の有機溶媒のうちの少なくとも一方との混合物100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上が完全に溶解可能なポリアミドである。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。芳香族系の有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。ケトン系の有機溶媒としては、シクロヘキサノン、2−ブタノン、シクロペンタノン等が挙げられる。これらのアルコール、芳香族系溶媒及びケトン系溶媒の沸点は130℃以下であることが好ましい。
可溶性ポリアミドは、例えば可溶性ポリアミド以外のポリアミド(可溶化前のポリアミド)に可溶化のための処理が施されることで得られる。この可溶化のための処理の方法としては、例えば、可溶化前のポリアミドのアミド基中の水素原子をメトキシメチル基で一部置換する方法が挙げられる。この方法によってポリアミドにメトキシ基が導入されると、アミド基から水素結合能力が失われることで、ポリアミドの結晶性が阻害される。これにより、ポリアミドの溶媒への溶解性が、増大する。可溶化のための処理の方法として、可溶化される前のポリアミドの分子中にポリエーテルやポリエステルを導入して共重合体とする方法も挙げられる。可溶化前のポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等が挙げられる。
可溶性ポリアミドの具体例としては、デュポン株式会社製のZytel 61(商品名)、ゼネラルミルズ社製のVersalon(商品名)、東レ株式会社製のアミランCM4000(商品名)、東レ株式会社製のアミランCM8000(商品名)、富士化成工業株式会社製のPA−100(商品名)、ナガセケムテックス株式会社製のトレジン(商品名)等が挙げられる。
カルボジイミド化合物は、1分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物である。カルボジイミド化合物としてはモノカルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物等が挙げられる。カルボジイミド化合物は、例えば、触媒である有機リン系化合物又は有機金属化合物の存在下で、各種ポリイソシアネートが無溶媒又は不活性溶媒中で約70℃以上の温度で脱炭酸縮合反応することで合成される。
モノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド等が挙げられる。これらの中では、工業的に入手が容易であるという観点からは、ジシクロヘキシルカルボジイミド、あるいはジイソプロピルカルボジイミドが好ましい。
ポリカルボジイミド化合物は、種々の方法により製造される。例えばポリカルボジイミド化合物は、従来公知のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、J. Org. Chem. 28, 2069−2075 (1963)、Chemical Review 1981, Vol.81 No.4, p619-621を参照)により製造される。
カルボジイミド化合物は、1分子中に1個以上のカルボジイミド基を有するのであれば特に限定されないが、反応性や耐加水分解安定性の向上効果などの点から、4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド等の、分子中に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物が好ましい。特に脂肪族系又は脂環族系ポリカルボジイミド化合物が好ましい。ポリカルボジイミド化合物の重合度は2〜30の範囲であることが好ましく、2〜20の範囲であればより好ましい。この重合度が2以上であるとプリント配線板の耐熱性が更に向上する点で好ましく、重合度が20以下であると熱硬化性樹脂組成物中の成分間の相溶性が向上する点で好ましい。
ポリカルボジイミド化合物の製造のために使用されるポリイソシアネートとしては、有機ジイソシアネートが挙げられる。有機ジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物が挙げられる。具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルジイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、プリント配線板の可撓性や耐湿性を向上する観点からは、脂肪族系(脂環族を含む)有機ジイソシアネートが好ましく、特にイロホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートやこれらの混合物がより好ましい。
ポリカルボジイミド化合物の製造時には、ポリイソシアネートの重合反応時に反応系が冷却されるなどして重合反応が途中で停止されることでポリカルボジイミド化合物の重合度が適切に制御されうる。この場合、ポリカルボジイミド化合物の分子の末端はイソシアネート基となる。ポリカルボジイミド化合物の重合度が更に適切に制御されるためには、イソシアネート基と反応し得るモノイソシアネート化合物等の化合物(以下、末端封止剤という)がポリカルボジイミド化合物の分子の末端にあるイソシアネート基の全部又は一部と反応することで、ポリカルボジイミド化合物のイソシアネート基の全部又は一部が封止されてもよい。ポリカルボジイミド化合物の重合度が適切に制御されると、可溶性ポリアミドとポリカルボジイミド化合物との相溶性が向上すると共に第二の樹脂層4を備える部材の保存安定性が向上する。
末端封止剤として使用され得るモノイソシアネート化合物としては、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等が挙げられる。
モノイソシアネート化合物以外の末端封止剤が使用されてもよい。モノイソシアネート化合物以外の末端封止剤としては、イソシアネート基と反応し得る活性水素化合物が挙げられる。このような活性水素化合物としては、例えば、(i)脂肪族、芳香族又は脂環族の化合物であって、−OH基を有する、メタノール、エタノール、フェノール、シクロヘキサノール、N−メチルエタノールアミン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等の化合物;(ii)=NH基を有するジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の化合物;(iii)−NH2基を有するブチルアミン、シクロヘキシルアミン;(iv)−COOH基を有するコハク酸、安息香酸、シクロヘキサン酸等の化合物;(v)−SH基を有するエチルメルカプタン、アリルメルカプタン、チオフェノール等の化合物;(vi)エポキシ基を有する化合物;(vii)無水酢酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物等が挙げられる。
有機ジイソシアネートの脱炭酸縮合反応は、適当なカルボジイミド化触媒の存在下で進行しうる。カルボジイミド化触媒としては、有機リン系化合物、有機金属化合物(一般式M−(OR)nで表され、Mはチタン(Ti)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(ZR)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等の金属元素、Rは炭素数1〜20のアルキル基又はアリール基、nはMの価数を示す。)が好適である。
これらのカルボジイミド化触媒のうち、特に反応活性を向上する観点からは、有機リン系化合物のうちからフォスフォレンオキシド類が用いられること、並びに有機金属化合物のうちからチタン、ハフニウム、又はジルコニウムのアルコキシド類が用いられることが好ましい。フォスフォレンオキシド類の具体例としては、3−メチル−1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシド、3−メチル−1−エチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1,3−ジメチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−エチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−メチル−2−フォスフォレン−1−オキシド又はこれらの二重結合異性体が挙げられる。これらのフォスフォレンオキシド類のうち、工業的に入手が容易である点では、3−メチル−1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシドが用いられることが好ましい。
カルボジイミド変性可溶性ポリアミドは、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とが溶媒の存在下又は不存在下で反応することで生成する。この場合、可溶性ポリアミドが有するカルボキシル基やアミノ基等の反応性官能基と、これらと反応可能なカルボジイミド化合物のカルボジイミド基やイソシアネート基とが反応する。
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とを溶媒の存在下で反応させる方法としては、例えば、可溶性ポリアミド及びカルボジイミド化合物を溶媒中に加え、これにより得られる溶液を加熱しながら攪拌することで反応を進行させる方法が挙げられる。特にまず可溶性ポリアミドを溶媒に加え、これにより得られる溶液に更にカルボジイミド化合物を添加し、続いてこの溶液をリフラックス(還流)下で加熱攪拌することで反応を進行させることが好ましい。この反応後の溶液から溶媒を常圧下又は減圧下で除去すると、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドが得られる。
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とを溶媒の不存在下で反応させる方法としては、例えば、融点以上の温度に加熱されることで溶融した可溶性ポリアミドにカルボジイミド化合物を混合することで反応を進行させる方法や、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物を二軸押出機により溶融混練すること混合しながら反応を進行させる方法などが挙げられる。
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とが反応する際の、可溶性ポリアミド100質量部に対するカルボジイミド化合物の割合は0.5〜20質量部の範囲であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。この場合、プリント配線板の耐湿性及び耐熱性が十分に向上すると共に、プリント配線板の可塑性が高くなり過ぎたり耐衝撃性が損なわれたりしにくくなる。すなわち、カルボジイミド化合物の割合が0.5質量部以上であることでプリント配線板の耐湿性や耐熱性が十分に向上する。一方、この割合が20質量部以下であることで、プリント配線板の可塑性が高くなり過ぎたり耐衝撃性が損なわれたり、しにくくなる。
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物との反応時には、反応系に可溶性ポリアミドの変性を阻害する化合物が存在しないことが好ましく、特に反応系にはカルボジイミド化合物、可溶性ポリアミド及び必要に応じて用いられる溶媒のみが存在することが好ましい。可溶性ポリアミドの変性を阻害する化合物の具体例としては、エポキシ樹脂、アミン系樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
可溶性ポリアミドをカルボジイミド化合物との反応時間は、可溶性ポリアミドやカルボジイミド化合物の種類、反応方法、反応温度等に応じて適宜設定されるが、1〜500分間の範囲であることが好ましく、5〜200分間の範囲であれば更に好ましい。
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物との反応時の反応系の温度も、可溶性ポリアミドやカルボジイミド化合物の種類、反応方法、反応温度等に応じて適宜設定されるが、50〜250℃の範囲であることが好ましい。特に可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とが溶媒の存在下で反応する場合には、反応系の温度は50〜150℃の範囲であることが好ましく、70〜130℃の範囲であればより好ましい。一方、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とが溶媒の不存在下で反応する場合、反応系の温度は130〜250℃の範囲であることが好ましく、150〜220℃であればより好ましい。この反応系の温度が50℃以上であると、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物との反応が充分に速くなって可溶性ポリアミドの変性が速やかに生じるため、工業的な面からは好ましい。更に、この反応系の温度が250℃以下であると、樹脂の分解などによる生成物の劣化が生じにくくなる点で好ましい。
このように可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物が反応すると、可溶性ポリアミドが変性してカルボジイミド変性可溶性ポリアミドとなる。この反応が進行すると、それに伴ってカルボジイミド化合物が有するカルボジイミド基が減少する。このため、原料と生成物とがそれぞれ赤外分光法により測定されると、生成物について測定される赤外吸収スペクトル中ではカルボジイミド基に帰属されるピークが減少する。更に、原料と生成物と示差熱重量分析がおこなわれると、原料ではアミド樹脂に起因する吸収ピークやカルボジイミド樹脂に起因する吸収ピークなどの複数の吸収ピークが観測されるが、生成物では吸熱ピークは1つに集約される。これらにより、可溶性ポリアミドが変性されたことが確認される。
カルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有する組成物は、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とを含む組成物と比較して、保存安定性に優れている。すなわち、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とを含む組成物は、溶液化すると増粘し、更にゲル化しやすくなるのに対し、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有する組成物は増粘などの変化が生じにくいため、長期間の保管が可能となる。
熱硬化性樹脂組成物中のカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの含有量は、熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂、硬化剤、及びカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの含有量の合計量に対して20〜70質量%の範囲であることが好ましい。このカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの含有量が20質量%以上であるとプリント配線板の易屈曲性が特に向上し、この含有量が70質量%以下であるとプリント配線板の難燃性及び耐熱性が特に向上する。
熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じ、2−エチル−4−メチルイミダゾール等の硬化促進剤を含有してもよい。
熱硬化性樹脂組成物は更にフェノキシ樹脂を含有することが好ましい。この場合、プリント配線板の易屈曲性が更に向上する。フェノキシ樹脂には、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA/ビスフェノールF型共重合型フェノキシ樹脂、リン変性フェノキシ樹脂(後述)等が含まれうる。熱硬化性樹脂組成物中のフェノキシ樹脂の含有量は熱硬化性樹脂組成物全量に対して5〜30質量%の範囲であることが好ましい。
熱硬化性樹脂組成物は、リン変性エポキシ樹脂、リン変性フェノキシ樹脂、ホスファゼン等のリン系難燃剤のうちの少なくとも1種類を含有することも好ましい。この場合、プリント配線板の難燃性が更に向上する。熱硬化性樹脂組成物全量に対するリン変性エポキシ樹脂、リン変性フェノキシ樹脂及びリン系難燃剤の含有量の合計の割合は、10〜40質量%の範囲であることが好ましい。
リン変性エポキシ樹脂は、例えば、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキサイドと1,4−ナフトキノンとを反応させ、さらにクレゾールノボラック樹脂を反応させることで得られる。
リン変性フェノキシ樹脂の分子骨格の主体はフェノキシ樹脂からなり、且つこのリン変性フェノキシ樹脂1モル中にリン元素を例えば数個(1〜5個程度)含有している。
リン系難燃剤の例としては、ホスファゼン、モノマー型リン酸エステル、縮合型リン酸エステル、反応型リン系難燃剤、リン酸塩、ホスファゼン化合物等が挙げられる。モノマー型リン酸エステルの具体例としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシニルホスフェート、トリエチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシリルジフェニルホスフェート、クレジルビス(ジ−2,6−キシレニル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート等が挙げられる。縮合型リン酸エステルの具体例としては、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレジル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジ−2,6−キシレニル)ホスフェート等が挙げられる。反応型リン系難燃剤の具体例としては、ビスフェノールAビスフェニールホスフェート、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホォスフェナンスレン−10−オキシド、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノン等が挙げられる。リン酸塩の具体例としては、リン酸メラミン、リン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン、ピロリン酸ジメラミン、ポリリン酸メラミン、エチレンジアミンリン酸塩等が挙げられる。ホスファゼン化合物の具体例としては、ホスホニトリル酸フェニルエステル、シアノフェノール・フェノール混合置換シクロホスファゼン、ホスホニトリルクロリド・ハイドロキノン・フェノール縮合物等が挙げられる。
熱硬化性樹脂組成物はフィラーを含有しないことが好ましい。一般に水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどのフィラーが難燃剤として用いられることがあるが、このようなフィラーは使用されないことが好ましい。この場合、フレキシブルプリント配線板が屈曲されても第二の絶縁層10に細かなクラックが生じにくくなり、フレキシブルプリント配線板の外観の悪化が抑制される共に第二の絶縁層10による高い絶縁信頼性が維持される。
熱硬化性樹脂組成物は、上記のような成分が配合されることで調製される。更に熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、粘度調整のために有機溶剤を含有してもよい。
このようにして得られる熱硬化性樹脂組成物がカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有することで、この熱硬化性樹脂組成物の保存安定性、密着性、易屈曲性、及び充填性が高くなる。すなわち、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドは、可溶性ポリアミドが有するカルボキシル基やアミノ基等の反応性官能基と、これらと反応可能なカルボジイミド化合物のカルボジイミド基やイソシアネート基とが反応することで生成するため、低温下でエポキシ樹脂と反応しにくい。そのため、熱硬化性樹脂組成物の保存安定性が高くなると共に、この熱硬化性樹脂組成物から形成される第二の樹脂層4を備える樹脂付き金属箔1の保存安定性及びプレス成形性が高くなる。更に、熱硬化性樹脂組成物及び第二の樹脂層4の取り扱い性及び加工性(保存安定性やプレス成形性)と、プリント配線板の各種特性(密着性、易屈曲性、充填性など)が両立し得るようになる。
更に、熱硬化性樹脂組成物がカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有することで、第二の樹脂層4の絶縁性が向上すると共に、難燃性、耐熱性、耐薬品性が更に向上する。
上記のような組成を有する熱硬化性樹脂組成物からは、レジンフローの高い第二の樹脂層4が形成されうる。第二の樹脂層4のレジンフローは、熱硬化性樹脂組成物の塗膜が加熱・乾燥されることで第二の樹脂層4が形成される場合の、加熱温度や加熱速度が調整されることにより、容易に調整されうる。
第二の樹脂層4は、第一の樹脂層3上に熱硬化性樹脂組成物が塗布され、更にこの熱硬化性樹脂組成物が加熱・乾燥されて半硬化することで形成されうる。この場合、熱硬化性樹脂組成物の半硬化物からなる第二の樹脂層4が形成される。熱硬化性樹脂組成物の塗布方法としては、コンマコーター、ダイコーター、ロールコーター、グラビアコーター等の適宜の手法が採用されてよい。熱硬化性樹脂組成物の加熱・乾燥時の加熱条件は適宜設定されるが、加熱温度は130℃〜160℃の範囲、加熱時間は2〜10分間の範囲であることが好ましい。
第二の樹脂層4の、140℃における最低溶融粘度は、50〜2000Pa.sであることが好ましい。最低溶融粘度とは、硬化開始前における第二の樹脂層4の溶融粘度である。第二の樹脂層4がこのような粘度特性を有すると、樹脂付き金属箔1がコア材に積層されて加熱加圧成形される際に、第二の樹脂層4が適度な流動性を発揮する。これにより、溶融した第二の樹脂層4が、コア材の導体配線のライン間に充填されやすくなる。また、加熱加圧成形時の加熱温度を低減することが可能となる。このため、特に樹脂付き金属箔1がキャリア材5を備える場合には、金属箔2とキャリア材5との間の焼き付きが抑制され、金属箔2からキャリア材5が容易に剥離されるようになる。
第二の樹脂層4の、140℃における最低溶融粘度は、適宜の手法によって容易に調整される。例えば、熱硬化性樹脂組成物中の触媒量、硬化剤量等、熱硬化性樹脂組成物から第二の樹脂層4を形成する際の加熱温度、加熱時間等の条件を制御することによって、最低溶融粘度が調整される。
第二の実施形態に係るプリント配線板及びその製造方法を、図2及び図3を参照して説明する。本実施形態では、第一の実施形態に係る樹脂付き金属箔1を用いて、プリント配線板が製造される。
まず、図2(a)に示すように、第一の絶縁層6と、第一の絶縁層6の片面又は両面に積層されている金属箔7とを備えるフレキシブル積層板11が用意される。第一の絶縁層6は易屈曲性を有する。この第一の絶縁層6はポリイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等の種々の可撓性の高い絶縁性材料から形成される。第一の絶縁層6の厚みは適宜設定されるが、12〜50μmの範囲であることが好ましい。金属箔7の材質は特に制限されないが、その一例として銅箔が挙げられる。このフレキシブル積層板11は、例えば第一の絶縁層6に金属箔7が接着或いは熱融着されることで形成される。
図2(b)に示すように、フレキシブル積層板11の金属箔7にエッチング処理等の処理が施されることで、第一の導体配線8が形成される。更に第一の絶縁層6に開口が形成されると共にこの開口内にホールめっきが施されることでスルーホールが形成されてもよい。これにより、第一の絶縁層6と、この第一の絶縁層6上に積層している第一の導体配線8とから構成される、コア材9が得られる。第一の導体配線8は、第一の絶縁層6の厚み方向の片面上のみに形成されていてもよく、第一の絶縁層6の厚み方向の両面上の各々に形成されていてもよい。
図2(c)及び図2(d)に示すように、コア材9に、樹脂付き金属箔1が積層される。この場合、樹脂付き金属箔1が、コア材9の両面の各々に、第二の樹脂層4によって第一の導体配線8が覆われるように重ねられる。尚、樹脂付き金属箔1が、コア材9の片面のみに重ねられてもよい。続いて、樹脂付き金属箔1とコア材9とがこれらの積層する方向に加圧されると共に加熱される。これにより、まず第二の樹脂層4が軟化して第一の導体配線8のライン間に充填され、更に第一の絶縁層6にスルーホールが形成されている場合にはスルーホール内にも充填される。続いて第二の樹脂層4が熱硬化する。これにより、第一の樹脂層3と第二の樹脂層4の硬化物とからなる絶縁層(第二の絶縁層10)が形成される。続いて、樹脂付き金属箔1に由来する金属箔2からキャリア材5が剥離される。
この成形時の成形条件は、適宜設定されるが、特に加熱時の最高温度は160〜190℃の範囲であることが好ましい。この場合、金属箔2とキャリア材5との間の焼き付きが抑制され、加熱加圧成形後に金属箔2からキャリア材5が容易に剥離されるようになる。尚、加熱温度がこのような範囲であっても、上述の通り第二の樹脂層4の140℃における最低溶融粘度が50〜2000Pa.sであれば、溶融した第二の樹脂層4が第一の導体配線8のライン間に充分に充填され、絶縁層における未充填が生じにくくなる。更に、第一の樹脂層3及び第二の樹脂層4から形成される絶縁層、並びにこの絶縁層上に配置される金属箔2に、うねりが生じにくくなる。このため、エッチング処理等によって金属箔2から導体配線が形成される際の、加工精度が向上する。また、加圧条件も適宜設定されるが、例えば0.5〜5MPsの範囲に設定される。
また、コア材9に樹脂付き金属箔1が積層される際、第一の導体配線8の厚みT5(μm)と、コア材9における第一の導体配線8の占有率Bと、第二の樹脂層4の厚みT3(μm)とが、下記の関係を満たすことが、好ましい。尚、占有率Bとは、コア材9の第二の樹脂層4と重ねられる面における、第一の導体配線8が占める面積割合である。
T3=T5×(1−B)+x
xは、5以上15以下の数。
上記関係式において、xの値が正の数であることで、第二の樹脂層4がコア材9における第一の導体配線8間に、更に容易に充填される。また、xの値が5以上であることで、第二の樹脂層4から形成される絶縁層と第一の導体配線との密着性が特に高くなる。また、第一の樹脂層3及び第二の樹脂層4から形成される絶縁層、並びにこの絶縁層上に配置される金属箔2に、うねりが更に生じにくくなる。また、xの値が15以下であることで、樹脂付き金属箔1を用いて製造されるプリント配線板の薄型化が可能である。
コア材9と樹脂付き金属箔1とが上記手法により積層一体化すると、図2(d)に示されるような積層物14が、得られる。この積層物14は、第一の絶縁層6の厚み方向の両面上の各々に第一の導体配線8、第二の絶縁層10、金属箔2が順次積層している構造を有する。更に積層物14における二つの金属箔2の各々の上に、キャリア材5が積層している。尚、積層物14が、第一の絶縁層6の厚み方向の片面上のみに、第一の導体配線8、第二の絶縁層10、金属箔2、キャリア材5が、順次積層している構造を有してもよい。
続いて、図3(a)に示されるように、積層物14からキャリア材5が剥離される。
この積層物14には、必要に応じてスルーホールが形成される。この場合、まず図3(b)に示されるように、レーザ加工が施されることで、第二の絶縁層10に孔12が形成される。レーザ加工時には、最外層の金属箔2へ向けて、レーザが照射される。この場合、金属箔2には、エッチング等によりコンフォーマルマスクが形成されていなくてもよい。コンフォーマルマスクが形成されなくても、金属箔2の厚みが薄いことから、レーザによって金属箔2に容易に孔12があけられる。このように形成された孔12の内面にめっき処理(ホールめっき)が施される。これにより、図3(c)に示されるように、第二の絶縁層10にスルーホール27(ビアホール)が形成される。
また、積層物14における樹脂付き金属箔1に由来する最外層の金属箔2に対して、エッチング処理等の処理が施されることで、図3(d)に示されるように、導体配線(第二の導体配線25)が形成される。これにより、多層フレキシブルプリント配線板15が得られる。多層フレキシブルプリント配線板15は、第一の絶縁層6の厚み方向の両面上の各々に第一の導体配線8、第二の絶縁層10、第二の導体配線25が順次積層している構造を有する。
尚、上記例では絶縁層を一層のみ備える単層のコア材が使用されているが、複数の絶縁層を有する多層のコア材が使用されてもよい。また、コア材に対して本実施形態による複数の樹脂付き金属箔1を順次積層することで、多層フレキシブルプリント配線板を更に多層化することができる。このようにして、多層フレキシブルプリント配線板を製造することができる。
第三の実施形態に係るプリント配線板及びその製造方法を、図4を参照して説明する。本実施形態に係るプリント配線板は、複数のリジッド部23と、リジッド部23の間を接続するフレックス部22とを備える、フレックスリジッドプリント配線板24である。リジッド部23は、搭載される部品の重さに耐え、筐体に固定できる硬さと強度を持ったリジッドな部分である。またフレックス部22はコア材16における多層化されていない部分から構成され、折り曲げができる可撓性を持つフレキシブルな部分である。フレックスリジッドプリント配線板は、フレックス部22で折り曲げて筐体などに収容することによって、例えば携帯用電子機器など小型・軽量の機器に使用される。
このフレックスリジッドプリント配線板は、第二の実施形態に係る多層フレキシブルプリント配線板15を、コア材16として用いることで、製造される。
このコア材16が、フレックス部22となる部分を除いて多層化されることで、リジッド部23が形成される。多層化のための手法は特に制限されず、公知の手法が用いられうる。本実施形態では、多層化用の樹脂付き金属箔(金属箔付き樹脂シート)17を用いるビルドアップ法が採用される。
多層化用の樹脂付き金属箔17は、図4(a)に示すように、金属箔18と、この金属箔18の片面上に積層している樹脂層19とを備える。樹脂付き金属箔17は、例えば銅箔等の金属箔18のマット面にエポキシ樹脂組成物等の熱硬化性樹脂組成物が塗布され、この熱硬化性樹脂組成物が半硬化状態(Bステージ状態)となるまで加熱乾燥されることで樹脂層19が形成されることによって、作製される。金属箔18の厚みは6〜18μmの範囲であることが好ましく、樹脂層19の厚みは10〜100μmの範囲であることが好ましい。
図4(b)に示すように、コア材16におけるリジッド部23が形成される複数の領域の各々において、コア材16の両面の各々に樹脂付き金属箔17の樹脂層19が重ねられ、この状態で加熱加圧成形されると、樹脂層19がコア材16に接着すると共にこの樹脂層19が硬化して絶縁層(第三の絶縁層20)が形成される。この場合の成形条件は適宜設定されるが、例えば成形圧力は1〜3MPa範囲、成形温度は160〜200℃の範囲で設定される。
続いて、図4(c)に示すように、樹脂付き金属箔17に由来する金属箔18にエッチング処理等が施されることで、導体配線(第三の導体配線21)が形成される。これにより、リジッド部23が形成されると共に、隣合うリジッド部23の間にフレックス部22が形成される。このリジッド部23には、必要に応じて、スルーホール、ビアホール等が形成されてもよい。また、このリジッド部23がビルドアップ法等により更に多層化されてもよい。
上記各実施形態に示されるように樹脂付き金属箔1が用いられることでプリント配線板が製造される際、本実施形態による樹脂付き金属箔1には反りが発生しにくいため、良好な作業安定性が確保され、このためプリント配線板の生産性が向上する。またこのように樹脂付き金属箔1には反りが発生しにくいため、この樹脂付き金属箔1を用いて製造されるプリント配線板の寸法精度が向上する。
[ポリアミドイミドの合成]
実施例及び比較例で使用するポリアミドイミドを、次のようにして合成した。
無水トリメリット酸(ナカライテスク株式会社製)192g、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメチルビフェニル211g、2,4―ジイソシアン酸トリレン35g、ジアザビシクロウンデセン(サンアプロ株式会社製)1g、及び1−メチル−2−ピロリドン(三菱化学株式会社製)2482gを配合することでポリマー濃度を15質量%に調整し、得られた混合物を加熱することで1時間かけて100℃まで昇温させ、続いて混合物を100℃のまま6時間維持することで、反応を進行させた。
次いで、混合物に更にDMAC1460gを加えることでポリマー濃度を10質量%に調整し、続いて混合物を室温まで冷却した。これにより、ポリアミドイミドが溶解している樹脂溶液(ポリイミド組成物)を得た。この樹脂溶液は黄褐色透明の液体であり、このためポリアミドイミドが充分に溶解していることが確認される。また、ポリアミドイミドの重量平均分子量は、40000、イミド閉環率の測定結果は、95%以上であった。
また、反応温度を140℃に変更することで、重量平均分子量80000、イミド閉環率95%以上のポリアミドイミドが溶解しているポリイミド組成物を、調製した。また、反応温度を100℃、反応時間を3時間に変更することで、重量平均分子量20000、イミド閉環率95%以上のポリアミドイミドが溶解しているポリイミド組成物も、調製した。
[カルボジイミド変性可溶性ポリアミドの合成]
実施例及び比較例で使用するカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを、次のようにして合成した。
4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート590g、シクロヘキシルイソシアネート62.6g及びカルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)6.12gを配合し、得られた混合物を180℃で48時間加熱することで反応を進行させた。これによりカルボジイミド化合物(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド樹脂、重合度=10)を合成した。
次に、容量1リットルのセパラブルフラスコに、エステル共重合アミド樹脂(東レ株式会社製、商品名CM8000)50.0g、及びイソプロピルアルコールとトルエンとの混合溶媒(質量混合比4:6)450.0gを加え、これらを撹拌することにより溶解させた。こうして得られたセパラブルフラスコ内の溶液に、上記カルボジイミド化合物(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド樹脂)5.0gを加えた。続いて、このセパラブルフラスコを120℃のオイルバスに浸漬させ、セパラブルフラスコ内の溶液をリフラックス下、3時間加熱撹拌し、続いてこの溶液を減圧乾燥することで溶媒を除去した。これにより、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有する溶液を得た。
このカルボジイミド変性可溶性ポリアミドに対して赤外分光光度測定を行ったところ、2120cm-1にカルボジイミド基の存在を示す吸収ピークが認められた。さらにカルボジイミド変性可溶性ポリアミドに対して示差走査熱量測定を行ったところ、1つの吸熱ピークが観測された。また、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドのガラス転移温度(Tg)は120℃、5%重量減温度は320℃であり、溶液の粘度は860mPa・sであった。また、このカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの重量平均分子量は、90000であった。
[実施例1]
金属箔とキャリア材とを備える三井金属鉱業株式会社製のマイクロシンMT18Exを準備した。金属箔は銅箔であり、その最小厚みは2μm、そのマット面の最大高さRzは2μmである。また、キャリア材は、厚み18μmの銅箔である。
続いて、コンマコータ及びこれに接続された乾燥機を用い、表1に示されるポリアミドイミドが溶解しているポリイミド組成物を、金属箔のマット面上に塗布した。続いてこのポリイミド組成物を120℃で4分間加熱し、続いて乾燥機を用いて、最高温度260℃で10分間加熱、乾燥した。これにより、金属箔上に最小厚み2μmの第一の樹脂層を形成した。
また、エポキシ樹脂(ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、日本化薬株式会社製、品番NC−7000L)40質量%、硬化剤(アミノトリアジンノボラック樹脂、DIC株式会社製、品番LA−7052)10質量%、表1に示されるカルボジイミド変性可溶性ポリアミド40質量%、硬化促進剤(四国化成工業株式会社製、品番2E4MZ)0.1質量%、リン系難燃剤(大塚化学株式会社製、品番SPB−100)10質量%を、容器に入れて混合することによって、固形分30質量%の熱硬化性樹脂組成物を得た。この熱硬化性樹脂組成物の樹脂固形分全体に対するカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの割合は、40質量%である。
第一の樹脂層に何らの表面処理を施すことなく、コンマコーター及びこれに接続された乾燥機を用いて、第一の樹脂層上に上記熱硬化性樹脂組成物を塗布した。続いてこの熱硬化性樹脂組成物を150℃で3分間加熱乾燥した。これにより、厚み10μmのBステージ状態の第二の樹脂層を形成した。
これにより、キャリア材、金属箔、第一の樹脂層、及び第二の樹脂層を備える樹脂付き金属箔を得た。
[実施例2〜6]
実施例1において、樹脂付き金属箔を構成する要素の厚み、ポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂の種類、並びに熱硬化性樹脂組成物中のカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの種類及び割合を、表1に示すように変更した。それ以外は実施例1の場合と同じ方法及び条件で、樹脂付き金属箔を得た。
[比較例1]
実施例1において、キャリア材を使用しなかった。また、樹脂付き金属箔を構成する要素の厚み、ポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂の種類、並びに熱硬化性樹脂組成物中のカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの種類及び割合を、表1に示すように変更した。それ以外は実施例1の場合と同じ方法及び条件で、樹脂付き金属箔を得た。
[比較例2]
実施例1において、樹脂付き金属箔を構成する要素の厚み、ポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂の種類を、表1に示すように変更した。
尚、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドの種類は使用しなかった。また、ポリイミド系樹脂としては、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸(重量平均分子量80000)を使用した。
また、ポリイミド組成物を加熱乾燥する際の最高温度を、表1に示すように310℃変更した。
それ以外は、実施例1と同じ方法及び条件で、樹脂付き金属箔を得た。
[比較例3]
実施例1において、樹脂付き金属箔を構成する要素の厚み、ポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂の種類、並びに熱硬化性樹脂組成物中のカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの種類及び割合を、表1に示すように変更した。
尚、ポリイミド系樹脂としては、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸(重量平均分子量80000)を使用した。
それ以外は、実施例1と同じ方法及び条件で、樹脂付き金属箔を得た。
[比較例4]
実施例1において、樹脂付き金属箔を構成する要素の厚み、ポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂の種類を、表1に示すように変更した。尚、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドは使用しなかった。それ以外は実施例1の場合と同じ方法及び条件で、樹脂付き金属箔を得た。
[比較例5,6]
実施例1において、樹脂付き金属箔を構成する要素の厚み、ポリイミド組成物中のポリイミド系樹脂の種類、並びに熱硬化性樹脂組成物中のカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの種類及び割合を、表1に示すように変更した。それ以外は実施例1の場合と同じ方法及び条件で、樹脂付き金属箔を得た。
[評価試験]
(シワ評価)
各実施例及び比較例において、第一の樹脂層を形成した後、金属箔のシワの有無を目視で観察した。その結果、シワが認められない場合を「なし」、シワが認められる場合を「有り」と、評価した。その結果を、後掲の表に示す。
(キャリア材剥離評価)
各実施例及び比較例において、第一の樹脂層を形成した後、キャリア材と金属箔との間の剥離の有無を、目視により確認した。その結果、剥離が認めらない場合を「なし」、剥離が認められる場合を「有り」と、評価した。その結果を、後掲の表に示す。
(残留溶媒量評価)
各実施例及び比較例において、第一の樹脂層を形成した後、この第一の樹脂層中の溶媒の残留量を、GC−MS法を利用して測定した。第一の樹脂層全体に対する、残留する溶媒の割合を、導出した。その結果を、後掲の表に示す。
(厚みバラツキ評価)
樹脂付き金属箔における、第一の樹脂層及び第二の樹脂層の厚みのバラツキ幅を評価した。このとき、サブミクロン計測が可能なマイクロメータを用いて、樹脂付き金属箔の、任意の5個所の厚みを測定し、その結果の最大値と最小値との差を、バラツキ幅として評価した。その結果を、後掲の表に示す。
(半田耐熱性評価)
樹脂付き金属箔を、厚み25μmのポリイミドフィルムの両面の各々に重ね、これらを180℃で1時間加熱加圧成形することによって、サンプルを作製した。このサンプルを260℃の半田浴に60秒間浸漬し、続いてサンプルの外観を観察した。その結果、サンプルに膨れやはがれ等の外観異常が認められない場合を合格、外観異常が認められる場合を不合格と評価した。その結果を、後掲の表に示す。
(THB層間電気絶縁性評価)
各実施例及び比較例で得られた樹脂付き金属箔を用い、上記半田耐熱性評価の場合と同じ方法で、サンプルを得た。このサンプルに対し、高温高湿バイアス試験(THB)を実施した。試験条件は、温度85℃、湿度85%、印加電圧50Vとし、試験時間を1000時間とした。試験後の絶縁層の電気抵抗値の測定結果を、後掲の表に示す。
(耐折性)
厚み25μmのポリイミドフィルムと、このポリイミドフィルムの片面に積層されている厚み18μmの銅箔とを備える片面フレキシブル基板を用意した。この片面フレキシブル基板における銅箔をパターニングすることで導体配線を形成した。この片面フレキシブル基板の両両面の各々に、各実施例及び比較例で得られた樹脂付き金属箔を重ね、これらを180℃1時間加熱加圧成形することで、積層体を得た。この積層体の両面の各々に配置されている金属箔をエッチングにより除去し、これによりサンプルを得た。
このサンプルに対してMIT法による試験を実施した。測定条件は、R=0.38mm、荷重500g、時間当たりの折り曲げ回数を毎分175回とした。その結果、導体配線の導通がとれなくなるまでに要した折り曲げ回数により、耐折性を評価した。
[プリント配線板の製造]
各実施例で得られた樹脂付き金属箔を用い、次のようにしてプリント配線板を製造した。
まず、ポリイミド樹脂フィルムと、その両面の各々に積層されている銅箔とを備えるフレキシブル積層板を用意した。このフレキシブル積層板の両面の各銅箔にエッチング処理を施すことで、第一の導体配線を形成した。これにより、コア材を得た。コア材における第一の導体配線の厚み及び第一の導体配線の占有率は、後掲の表に示す通りである。
このコア材の両面に、樹脂付き金属箔を重ね、これらを180℃で1時間加熱加圧成形した。これにより、積層物を得た。この積層物からキャリア材を剥離し、更に、最外層の銅箔の上からレーザによる穴あけ加工を施してから、穴の内面に銅めっきを施すことで、スルーホールを形成した。続いて最外層の銅箔にエッチング処理を施すことで、第二の導体配線を形成した。これにより、多層フレキシブルプリント配線板を得た。
この多層フレキシブルプリント配線板を観察したところ、いずれの実施例においても、絶縁層のうねりは、認められなかった。また第二の導体配線は、精度良く形成された。