JP2014127083A - 車両動力プラントの制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】制約を充足しつつ良好な過渡応答特性を達成する。
【解決手段】本発明のプラント制御装置は、プラントの制御量の出力値を目標値に近づけるようにフィードバック制御によってプラントの制御入力を決定するフィードバックコントローラ(FBC)と、プラントとFBCとを含む閉ループシステムのモデルを用いてプラントの特定状態量の将来の予測値を計算し、予測値と特定状態量に課せられた制約とに基づいてFBCに与えられる目標値を修正するリファレンスガバナ(RG)と、を備える。RGは、最急降下法を用いた繰り返し計算によって修正目標値候補を変数とする評価関数の最適値を探索し修正目標値として決定する。最適値探索では、評価関数の勾配∇に比例する更新量ψ∇で修正目標値候補を更新する。この際、勾配∇が第1の閾値よりも小さい場合に勾配∇の変化量の大きさに応じて比例係数ψを増減させる。
【選択図】図3
【解決手段】本発明のプラント制御装置は、プラントの制御量の出力値を目標値に近づけるようにフィードバック制御によってプラントの制御入力を決定するフィードバックコントローラ(FBC)と、プラントとFBCとを含む閉ループシステムのモデルを用いてプラントの特定状態量の将来の予測値を計算し、予測値と特定状態量に課せられた制約とに基づいてFBCに与えられる目標値を修正するリファレンスガバナ(RG)と、を備える。RGは、最急降下法を用いた繰り返し計算によって修正目標値候補を変数とする評価関数の最適値を探索し修正目標値として決定する。最適値探索では、評価関数の勾配∇に比例する更新量ψ∇で修正目標値候補を更新する。この際、勾配∇が第1の閾値よりも小さい場合に勾配∇の変化量の大きさに応じて比例係数ψを増減させる。
【選択図】図3
Description
本発明は、車両動力プラントの制御装置に関し、詳しくは、車両動力プラントの状態量に課せられる制約が充足されるようにリファレンスガバナを用いてプラントの制御量の目標値を修正する制御装置に関する。
一般的なプラント制御装置は、プラントの制御量に関して目標値が与えられた場合、同制御量の出力値を目標値に追従させるようにフィードバック制御によってプラントの制御入力を決定するように構成されている。ただし、実際のプラントの制御においては、プラントの状態量に関してハード上或いは制御上の様々な制約が存在している場合が多い。それらの制約が充足されない場合、ハードの破損や制御性能の低下が生じるおそれがある。制約の充足性は、目標値に対する出力値の追従性と同じく、プラントの制御において求められる重要な性能の1つである。
リファレンスガバナは上記要求を満たすための1つの有効な手段である。リファレンスガバナは制御対象であるプラントとフィードバックコントローラとを含む閉ループシステム(フィードバック制御システム)をモデル化した予測モデルを備え、制約が課せられている状態量の将来値を予測モデルによって予測する。そして、状態量の予測値とそれに課せられた制約とに基づいてプラントの制御量の目標値を修正する。
リファレンスガバナの設計において重要とされるのが、修正目標値の計算に使用する評価関数の内容である。制約の充足性のみを考慮するのであれば様々な評価関数を採ることができる。しかし、どのような評価関数を用いて修正目標値を決定したかにより、制御量の目標値に対する出力値の追従特性は大きく変わり、また、制御量の目標値の変化に対する出力値の過渡応答特性も大きく変わってくる。特に、自動車用の内燃機関のように運転条件に応じて応答特性が変動するプラントの場合には、制御量の目標値の変化に対する出力値の過渡応答特性は運転条件によって大きく変動する。制約を充足しつつ良好な過渡応答特性を達成できるようにすることは、プラント制御装置、特に、運転条件に応じて応答特性が変化するプラントを制御対象とするプラント制御装置にとっての重要な課題である。
リファレンスガバナをプラントの制御に適用した先行技術の例としては、下記の特許文献1に開示された先行技術を挙げることができる。この先行技術は多段圧延装置における圧延材の張力制御に関するものである。特許文献1に開示された先行技術では、圧延材の張力の時間変化を規定した目標軌道データがリファレンスガバナによって予め演算され、圧延材の張力実績値と目標軌道データとの偏差に基づいて圧延材の張力が制御される。
しかしながら、上記先行技術は運転条件に応じて応答特性が変化するプラントを制御対象とするものではない。エンジン、ハイブリッドシステム或いは燃料電池システムといった車両に搭載される車載動力プラントでは、車両の運転状態や運転条件によって刻々と目標値が変化することから、制約を満たすためにはオンライン計算による目標値の整形が必要となる。この際、このような運転条件に応じて応答特性が変化する車載動力プラントへの適用を可能にするためには、オンライン探索ができ且つ実時間実装が可能な最適解探索手法が選択されなければならない。このため、上記先行技術を車載動力プラントに適用したとしても、制約を充足しつつ良好な過渡応答特性を達成するという課題は達成することはできない。
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたもので、リファレンスガバナを用いて車載動力プラントの制御量の目標値を修正するにあたり、制約を充足しつつ良好な過渡応答特性を達成することを目的とする。
第1の発明は、上記の目的を達成するため、車載動力プラント制御装置であって、
車載動力プラントの制御量の出力値を目標値に近づけるようにフィードバック制御によって前記車載動力プラントの制御入力を決定するフィードバックコントローラと、
前記プラントと前記フィードバックコントローラとを含む閉ループシステムのモデルを用いて前記車載動力プラントの特定状態量の将来の予測値を計算し、前記予測値と前記特定状態量に課せられた制約とに基づいて前記フィードバックコントローラに与えられる前記目標値を修正するリファレンスガバナとを備え、
前記リファレンスガバナは、最急降下法を用いた繰り返し計算によって、所定の修正目標値候補を変数とする評価関数の最適値を探索し、前記評価関数を最適化する修正目標値候補を修正目標値として決定する手段を含み、
前記リファレンスガバナは、前記評価関数の勾配に比例係数を乗じて算出される更新量で前記修正目標値候補を更新し、前記勾配が第1の閾値よりも小さい場合に前記勾配の変化量の大きさに応じて前記比例係数を増減させることを特徴としている。
車載動力プラントの制御量の出力値を目標値に近づけるようにフィードバック制御によって前記車載動力プラントの制御入力を決定するフィードバックコントローラと、
前記プラントと前記フィードバックコントローラとを含む閉ループシステムのモデルを用いて前記車載動力プラントの特定状態量の将来の予測値を計算し、前記予測値と前記特定状態量に課せられた制約とに基づいて前記フィードバックコントローラに与えられる前記目標値を修正するリファレンスガバナとを備え、
前記リファレンスガバナは、最急降下法を用いた繰り返し計算によって、所定の修正目標値候補を変数とする評価関数の最適値を探索し、前記評価関数を最適化する修正目標値候補を修正目標値として決定する手段を含み、
前記リファレンスガバナは、前記評価関数の勾配に比例係数を乗じて算出される更新量で前記修正目標値候補を更新し、前記勾配が第1の閾値よりも小さい場合に前記勾配の変化量の大きさに応じて前記比例係数を増減させることを特徴としている。
第2の発明は、第1の発明において、
前記リファレンスガバナは、前記勾配が前記第1閾値よりも小さく且つ前記勾配の変化量が第2閾値よりも大きい場合には、当該変化量が前記第2閾値よりも小さい場合に比して前記比例係数を大きな値に設定することを特徴としている。
前記リファレンスガバナは、前記勾配が前記第1閾値よりも小さく且つ前記勾配の変化量が第2閾値よりも大きい場合には、当該変化量が前記第2閾値よりも小さい場合に比して前記比例係数を大きな値に設定することを特徴としている。
第3の発明は、第2の発明において、
前記リファレンスガバナは、前記勾配が前記第1閾値よりも小さく且つ前記勾配の変化量が前記第2閾値よりも大きい場合には、前記勾配に比例して前記比例係数を増減させることを特徴としている。
前記リファレンスガバナは、前記勾配が前記第1閾値よりも小さく且つ前記勾配の変化量が前記第2閾値よりも大きい場合には、前記勾配に比例して前記比例係数を増減させることを特徴としている。
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記リファレンスガバナは、前記修正目標値候補を変数とする目的関数と前記予測値が前記制約に抵触する場合に前記目的関数にペナルティを加えるペナルティ関数とで表される評価関数の最適値を探索することを特徴としている。
前記リファレンスガバナは、前記修正目標値候補を変数とする目的関数と前記予測値が前記制約に抵触する場合に前記目的関数にペナルティを加えるペナルティ関数とで表される評価関数の最適値を探索することを特徴としている。
第5の発明は、第1乃至第4の何れか1つの発明において、
前記プラントはディーゼルエンジンの後処理システムであり、
前記後処理システムは、前記ディーゼルエンジンの排気系に設けられたディーゼル微粒子除去装置と、前記ディーゼル微粒子除去装置の上流側の排気系に設けられた燃料添加弁と、を備え、
前記制御入力は前記燃料添加弁による燃料添加量であり、前記制御量は前記ディーゼル微粒子除去装置の温度であることを特徴としている。
前記プラントはディーゼルエンジンの後処理システムであり、
前記後処理システムは、前記ディーゼルエンジンの排気系に設けられたディーゼル微粒子除去装置と、前記ディーゼル微粒子除去装置の上流側の排気系に設けられた燃料添加弁と、を備え、
前記制御入力は前記燃料添加弁による燃料添加量であり、前記制御量は前記ディーゼル微粒子除去装置の温度であることを特徴としている。
第1の発明によれば、リファレンスガバナは最急降下法を用いた繰り返し計算によって、修正目標値候補を変数とする評価関数の最適値を探索する。この最適値探索では、評価関数の勾配に比例係数を乗じて算出される更新量で修正目標値候補が更新される。この際、勾配が第1閾値よりも小さい場合において当該勾配の変化量の大きさに応じて比例係数が増減される。最適解近傍の勾配変化量と局所停留解近傍の勾配変化量とは、異なる特性を有している。本発明によれば、勾配の変化量に応じて比例係数を増減させることにより、修正目標値候補が局所停留解近傍に陥ることを回避して最適解探索の効率を向上させることができる。これにより、プラントの状態量に課された制約を充足しつつ良好な応答特性を達成することができる。
第2の発明によれば、評価関数の最適解探索において、評価関数の勾配が第1閾値よりも小さく且つ勾配の変化量が第2閾値よりも大きい場合に、当該変化量が第2閾値よりも小さい場合に比して比例係数が大きな値に設定される。最適解近傍の勾配変化量は局所停留解近傍の勾配変化量に比して小さい。このため、本発明によれば、勾配変化量が大きい局所停留解近傍において更新量を大きく設定することができるので、修正目標値候補が局所停留解近傍に陥ることを有効に回避して最適解探索の効率を向上させることができる。
第3の発明によれば、評価関数の最適解探索において、評価関数の勾配が第1閾値よりも小さく且つ勾配の変化量が第2閾値よりも大きい場合に、勾配に比例して比例係数が増減される。このため、本発明によれば、局所停留解近傍において勾配が大きいほど更新量を大きく設定することができるので、修正目標値候補が局所停留解近傍に陥ることを有効に回避して最適解探索の効率を向上させることができる。
第4の発明によれば、修正目標値候補を変数とする目的関数とペナルティ関数とで表される評価関数の最適解探索において、勾配の変化量に応じて比例係数が増減される。ペナルティ関数は、制約が課せられた状態量の予測値が制約に抵触する場合に目的関数にペナルティを加えるように構成される。目的関数はオリジナルの目標値と修正目標値候補との距離が小さいほど小さな値を取るように構成される。この評価関数によれば、プラントの状態量に課せられた制約を充足しつつ良好な過渡応答特性を達成することができる。
第5の発明によれば、ディーゼルエンジンの後処理システムは、排気系に設けられたディーゼル微粒子除去装置(DPF)と、DPFの上流側の排気系に設けられた燃料添加弁と、を備え、当該後処理システムが制御対象のプラントとして用いられる。このため、本発明によれば、DPFの温度制約を満たしつつDPFの温度を目標値に近づけることができる。
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について図を参照して説明する。
以下、本発明の実施の形態1について図を参照して説明する。
本実施の形態に係るプラント制御装置は、車載動力プラントであるディーゼルエンジンの後処理システムの制御装置である。ディーゼルエンジンの後処理システムは運転条件に応じて特性が変化するプラントであり、本発明に係るプラント制御装置の制御対象として特に好適なプラントの1つである。
制御対象であるディーゼルエンジンの後処理システムは、ディーゼル酸化触媒(Diesel Oxidation Catalyst:DOC)とディーゼル微粒子除去装置(Diesel Particulate Filter:DPF)とを備えている。また、後処理システムは、その温度制御のためのアクチュエータとして、シリンダヘッドの排気ポートに燃料添加弁を備えている。燃料が燃料添加弁から触媒に導入された場合、化学反応が起きることで触媒温度は上昇する。許容できる上限温度はDOCとDPFの両方に存在し、それらは後処理システムの温度制御における制約となっている。本実施例では、DOCとDPFのそれぞれについて温度モデルが用意され、それらを用いて後述するリファレンスガバナによる将来予測が行われる。
図1は本実施の形態に係るプラント制御装置の目標値追従制御構造を示す図である。本プラント制御装置は、目標値マップ(MAP)、リファレンスガバナ(RG)、及び、フィードバックコントローラ(FBC)を備える。本プラント制御装置の制御対象であるプラントには、フィードバックコントローラからの制御入力uと外生入力dとが入力される。これらの入力によってプラントの状態量xと制御出力(制御量の出力値)yとが決まる。プラントの状態量xと制御出力yとは詳しくは次の式(1)で表すことができる。式(1)はプラントをモデル化したモデル式である。このモデル式においてf及びgはモデル式の関数である。各記号の添字kは離散時間ステップを表している。
フィードバックコントローラは、プラントの制御出力yをリファレンスガバナから与えられる修正目標値wに近づけるように、フィードバック制御によってプラントの制御入力uを決定する。フィードバックコントローラは、次の式(2)で表される比例積分フィードバックコントローラである。式(2)においてKpは比例ゲインであり、eは誤差である。また、Kiは積分ゲインであり、vは誤差積分値である。なお、ここで紹介する比例積分フィードバックコントローラは本発明で用いることのできるフィードバックコントローラの一例に過ぎない。所望するシステムの応答特性によっては、比例積分微分コントローラを用いることも可能である。
フィードバックコントローラとプラントとは、図1に破線枠で示すように閉ループシステムを構成する。リファレンスガバナは、この閉ループシステムをモデル化した予測モデルを備えている。予測モデルは式(1)に示すプラントモデルと式(2)に示すフィードバックコントローラとが結合されたモデルである。リファレンスガバナには、目標値マップにて外生入力dに基づき決定された制御量の目標値rが入力される。また、リファレンスガバナには、プラントの状態量xとフィードバックコントローラの状態量である誤差積分値vと外生入力dとが入力される。
リファレンスガバナは、予測モデルを用いてプラントの制御出力yの予測値y^を計算する。本実施の形態において制御出力yはプラントの状態量の1つであり、制御出力yには制約が課せられている。制御出力yがその上限値y-以下であることが制御出力yに課せられた制約である。制御出力予測値y^の計算には、プラント状態量x、誤差積分値v及び外生入力dに加えて修正目標値wが用いられる。リファレンスガバナは、制御出力予測値y^と制御出力上限値y-とに基づき、以下に説明する評価関数を用いて修正目標値wを計算する。
本実施の形態に係るプラント制御装置では、プラントに不確かさがある場合であっても制約を充足しつつ良好な過渡応答特性を達成することのできる評価関数を採用した。次の式(3)で表される評価関数J(w)が本実施の形態に係るプラント制御装置で採用した評価関数である。
式(3)に示す評価関数J(w)の右辺第1項は修正目標値候補wを変数とする目的関数である。この目標関数はオリジナルの目標値rと修正目標値候補wとの距離が小さいほど小さな値を取るように構成されている。評価関数J(w)の右辺第2項はペナルティ関数である。ペナルティ関数は制御出力予測値y^が制約に抵触する場合に目的関数にペナルティを加えるように構成されている。ペナルティ関数には、ペナルティに重みを付けるための重み定数ρと、制御出力上限値y-からのマージンをとって制約領域を広げるためのオフセット定数δとが設定されている。このペナルティ関数によれば、制御出力予測値y^が制約である制御出力上限値y-とオフセット定数δとの差分以上の場合、制御出力予測値y^と制約との差分に重み定数ρを乗じた値が目的関数に加えられる。本実施の形態に係るプラント制御装置では、式(3)に示す評価関数J(w)を最小にする修正目標値候補wが時刻kにおける修正目標値wkとして用いられる。なお、式(3)に示す評価関数J(w)は制約無し最適化問題として解くことができる。式(3)に表される評価関数J(w)によればプラントに不確かさが有る場合であっても良好な過渡応答特性を得られる。
ここで、リファレンスガバナを用いた目標値追従制御構造を実際のプラントに適用する場合には、評価関数J(w)をオンラインで最適化できるようにすることが望ましい。ただし、評価関数J(w)のオンライン最適化のためには、以下の項目を計算する必要がある。
(i) 修正目標値候補wに対する予測モデルを用いた予測列y^(k+i|k),i=1,2,..., Nhの計算
(ii) 評価関数J(w)の算出
(iii) 評価関数J(w)の最小値探索
(i) 修正目標値候補wに対する予測モデルを用いた予測列y^(k+i|k),i=1,2,..., Nhの計算
(ii) 評価関数J(w)の算出
(iii) 評価関数J(w)の最小値探索
項目(i)に関しては、各時刻kにおける状態x(k)を初期値とした閉ループシステムの繰り返し計算を行うことで実現することができる。項目(ii)に関しても、項目(i)で得られる状態や出力の将来予測があれば達成することができる。項目(iii)に関しては、運転条件に応じて特性が大きく変化するプラントへの適用を可能にするためには、オンライン探索ができ、かつ実時間実装が可能な最小値探索手法が選択されなければならない。本実施の形態に係るプラント制御装置では、評価関数J(w)の最小値探索の手法として最急降下法が採用されている。
図2は一般的な最急降下法を用いた最小値探索の手法を説明するための図である。この図に示すように、評価関数J(w)のオンライン最適化に最急降下法を適用するにあたり、評価関数J(w)の勾配▽は次の式(4)で近似計算される。式(4)におけるwcandは修正目標値候補であり、Δrefは所定の微小値である。式(4)で計算される勾配▽は修正目標値候補wcandの付近の勾配を表している。このような近似式を用いることで微分や偏微分による勾配の直接計算を不要にすることができる。
図2に示すψは評価関数の勾配▽に比例して修正目標値候補wcandを探索するための比例係数である。勾配▽に比例係数ψを乗じて得られる値ψ▽が現在の修正目標値候補から次回の修正目標値候補までの探索移動量(更新量)とされる。勾配▽の大きさは修正目標値候補wcandが最適値に近づくにつれてゼロに近づいていく。その過程において、修正目標値候補wcandが最適値を通り越すたびに勾配▽の符号は反転する。図2に示す探索手法では、今回の勾配▽の符号が前回の勾配▽prevの符号から反転するごとに比例係数ψの値は半分にされる。つまり、勾配▽の符号が反転するごとに修正目標値候補wcandの探索移動量を減らすことが行われる。このような処理を行うことで、最適修正目標値の近傍での探索の反復繰り返しを減らし、探索のハンチングを防ぎつつ、演算の収束を速めることができる。
しかしながら、上述した探索手法では、評価関数J(w)の勾配▽の符号が反転したら最適値を跨いだと期待して反復繰り返し量を半減させているが、局所停留解を跨いだ可能性も拭いきれない。このため、上記探索手法では反復繰り返し量を半減させたとしても、効率的な最適解への収束が成される理論的保証はなく、最適解探索の収束性が遅くなる可能性がある。
そこで、本実施の形態に係るプラント制御装置では、評価関数J(w)の2階微分を利用した最急降下法による最適解探索が採用されている。図3は、本実施の形態に係るプラント制御装置において実行される最小値探索手法を説明するための図である。この図に示すように、評価関数に最適解と局所停留解とが存在する場合、初期値によっては局所停留解に収束する可能性がある。ここで、最適解および局所停留解の近傍において評価関数の凹凸(勾配▽の変化度合)を比較すると、最適解近傍では評価関数の凹凸が緩やかなのに対して、局所停留解近傍ではその凹凸が急なものになっている。本実施の形態に係るプラント制御装置では、この凹凸の度合いに応じて最適解近傍と局所停留解近傍とを区別して、比例係数ψを増減させる。具体的には、評価関数の勾配▽が小さく且つ凹凸が小さい範囲、つまり、評価関数J(w)の1階微分J(w)'が所定の定数αよりも小さく且つ評価関数J(w)の2階微分J(w)''が所定の定数β1よりも小さい範囲は、最適解近傍と判断することができるので、比例係数ψを所定の定数ψ1に設定した上で上述した一般的な最急降下法による最小値探索を行う。なお、評価関数J(w)の1階微分J(w)'および2階微分J(w)''は次式(5)により演算することができる。
これに対して、評価関数の勾配▽が小さく且つ凹凸が急な範囲、つまり、1階微分J(w)'が所定の定数αよりも小さく且つ2階微分J(w)''が所定の定数β2よりも大きい範囲は、局所停留解近傍と判断することができるので、比例係数ψを最適解近傍の場合の比例係数ψ1よりも大きな値ψ2に設定する。これにより、局所停留解近傍において探索移動量(更新量)を大きくすることができるので、局所停留解に陥る可能性を回避して最適解への収束性を高めることができる。尚、このような比例係数ψ2の設定方法としては、例えば、係る範囲においてψ2=K▽(Kは正の定数,ψ2>ψ1)と設定することができる。これにより、勾配▽の大きさに比例して検索移動量を大きくすることができるので、局所停留解に陥る可能性を有効に回避することが可能となる。
このように、本実施の形態のプラント制御装置によれば、評価関数の形状を利用することにより局所停留点への収束を避けて最適解の探索の効率を向上させることができるので、結果として良好な過渡応答特性を得ることができる。
その他.
本発明は上述の実施の形態1に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
本発明は上述の実施の形態1に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施例では、実施の形態に係るプラント制御装置に上式(3)で表される評価関数を採用した例について説明した。しかし、実施の形態1に係るプラント制御装置は、他の評価関数を採用した場合の最適解探索にも適用することができる。
次式(6)に示す評価関数J(w)は、上述した最適解探索を適用可能な他の評価関数の一例である。式(6)に示す評価関数J(w)の右辺第1項は修正目標値候補wを変数とする第1の目的関数である。この第1の目的関数はオリジナルの目標値rと修正目標値候補wとの距離が小さいほど小さな値をとるように構成されている。評価関数J(w)の右辺第2項は修正目標値候補wを変数とする第2の目的関数である。この第2の目的関数は修正目標値候補wと前回の修正目標値wk-1 (時刻k-1における修正目標値)との距離が小さいほど、すなわち修正目標値wの変動が小さいほど、小さな値をとるように構成されている。また、第2の目的関数には、修正目標値wの変動性に重みをつけるための重み定数ρが設定されている。
式(6)に示す第1の目的関数は、制約条件を満たす範囲内でオリジナルの目標値rにより近い修正目標値wを選択することを意味している。また、第2の目的関数は、その重みρを大きくすることにより、制約条件を満たす範囲内でより変動の少ない修正目標値を選択することを意味している。従って、上式(6)に示す評価関数によれば、過渡的な制約抵触を回避しながらオリジナルの目標値rに追従させることと、より振動の少ない修正目標値wを選択することとのバランスを取った修正目標値wを選択することが可能となり、結果として良好な過渡応答特性を得ることができる。
また、次式(7)に示す評価関数J(w)は、上述した最適解探索を適用可能な評価関数の他の例である。式(7)に示す評価関数J(w)の右辺第1項は修正目標値候補wを変数とする第1の目的関数である。この第1の目的関数はオリジナルの目標値rと修正目標値候補wとの距離が小さいほど小さな値をとるように構成されている。評価関数J(w)の右辺第2項は制御出力予測値y^を変数とする第2の目的関数である。この第2の目的関数はオリジナルの目標値rと制御出力予測値y^との距離が小さいほど、すなわち制御出力予測値y^がオリジナルの目標値rに追従するほど、小さな値をとるように構成されている。また、第2の目的関数には、制御出力予測値y^の追従性に重みをつけるための重み定数ρが設定されている。本実施の形態に係るプラント制御装置では、式(7)に示す評価関数J(w)を最小にする修正目標値候補wが時刻kにおける修正目標値wkとして用いられる。
式(7)に示す第1の目的関数は、オリジナルの目標値rから大きく乖離しない修正目標値wを選択することを意味している。また、第2の目的関数は、出力予測値y^がオリジナルの目標値rにより追従するように修正目標値wを選択することを意味している。したがって、上式(6)に示す評価関数J(w)によれば、オリジナルの目標値rを達成することと制約を充足することとの二律背反のバランスを取った修正目標値wを選択することが可能となる。
上式(6)及び(7)に示す評価関数J(w)は、何れも各時刻kにおいて制御出力yの制約を充足する修正目標値候補wの中から評価関数J(w)を最小にするものを選択する制約付き最適化問題として解くことができる。具体的には、式中で記述されるように、有限の予測ホライズンにわたって、上記制約が充足される範囲内で第1の目標関数と第2の目標関数の和が最小になる修正目標値候補w、つまり、評価関数J(w)を最小にする修正目標値候補wが探索される。この際、実施の形態1において説明した最適解探索手法を採用することにより、局所停留解に陥ることを回避して最適解への収束性を有効に高めることが可能となる。
また、上述の実施例では、実施の形態に係るプラント制御装置をディーゼルエンジンの後処理システムに適用した。しかし、実施の形態1に係るプラント制御装置は、図3の(a)−(i)に示すように、制御対象プラントをディーゼルエンジン本体(DE)とすることができる。
制御対象プラントがディーゼルエンジン本体である場合、図4の(a)に示すように、制御入力を可変ノズル開度(VN開度)とし、制御出力を過給圧とすることができる。つまり、本発明はディーゼルエンジンの過給圧制御に適用することができる。この場合、図4の(b)に示すように、制御入力は可変ノズル開度とディーゼルスロットル開度(D開度)とにすることもできる。
また、図4の(c)に示すように、制御入力をEGR弁開度とし、制御出力をEGR率とすることができる。つまり、本発明はディーゼルエンジンのEGR制御に適用することができる。この場合、図4の(d)に示すように、制御入力はEGR弁開度とディーゼルスロットル開度とにすることもできる。
さらに、図4の(e)に示すように、制御入力を可変ノズル開度とEGR弁開度とディーゼルスロットル開度とし、制御出力を過給圧とEGR率とすることができる。つまり、本発明はディーゼルエンジンにおける過給圧とEGR率の協調制御に適用することができる。
制御対象のディーゼルエンジンが低圧EGRシステムと高圧EGRシステムとを有する場合には、図4の(f)及び(g)に示すように、制御入力を低圧EGRシステムのEGR弁開度(LPL−EGR弁開度)と高圧EGRシステムのEGR弁開度(HPL−EGR弁開度)とにすることができる。また、図4の(h)及び(i)に示すように、制御出力を低圧EGRシステムのEGR量(LPL−EGR量)と高圧EGRシステムのEGR量(HPL−EGR量)とにすることができる。
さらに、本発明に係るプラント制御装置が適用されるプラントはディーゼルエンジンのみに限定されない。例えば、ガソリンエンジンやハイブリッドシステム等の他の車載動力プラントの他、燃料電池システムにも適用することができる。さらに、リファレンスガバナとフィードバックコントローラを用いて制御を行うことができるプラントであれば、定置型プラントも含めて広い範囲のプラントに適用することができる。
Claims (5)
- 車載動力プラントの制御量の出力値を目標値に近づけるようにフィードバック制御によって前記車載動力プラントの制御入力を決定するフィードバックコントローラと、
前記プラントと前記フィードバックコントローラとを含む閉ループシステムのモデルを用いて前記車載動力プラントの特定状態量の将来の予測値を計算し、前記予測値と前記特定状態量に課せられた制約とに基づいて前記フィードバックコントローラに与えられる前記目標値を修正するリファレンスガバナとを備え、
前記リファレンスガバナは、最急降下法を用いた繰り返し計算によって、所定の修正目標値候補を変数とする評価関数の最適値を探索し、前記評価関数を最適化する修正目標値候補を修正目標値として決定する手段を含み、
前記リファレンスガバナは、前記評価関数の勾配に比例係数を乗じて算出される更新量で前記修正目標値候補を更新し、前記勾配が第1の閾値よりも小さい場合に前記勾配の変化量の大きさに応じて前記比例係数を増減させることを特徴とする車載動力プラントの制御装置。 - 前記リファレンスガバナは、前記勾配が前記第1閾値よりも小さく且つ前記勾配の変化量が第2閾値よりも大きい場合には、当該変化量が前記第2閾値よりも小さい場合に比して前記比例係数を大きな値に設定することを特徴とする請求項1に記載の車載動力プラントの制御装置。
- 前記リファレンスガバナは、前記勾配が前記第1閾値よりも小さく且つ前記勾配の変化量が前記第2閾値よりも大きい場合には、前記勾配に比例して前記比例係数を増減させることを特徴とする請求項2に記載の車載動力プラントの制御装置。
- 前記リファレンスガバナは、前記修正目標値候補を変数とする目的関数と前記予測値が前記制約に抵触する場合に前記目的関数にペナルティを加えるペナルティ関数とで表される評価関数の最適値を探索することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車載動力プラントの制御装置。
- 前記プラントはディーゼルエンジンの後処理システムであり、
前記後処理システムは、前記ディーゼルエンジンの排気系に設けられたディーゼル微粒子除去装置と、前記ディーゼル微粒子除去装置の上流側の排気系に設けられた燃料添加弁と、を備え、
前記制御入力は前記燃料添加弁による燃料添加量であり、前記制御量は前記ディーゼル微粒子除去装置の温度であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車載動力プラントの制御装置。
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