JP2014125675A - ナノ結晶軟磁性合金及びこれを用いた磁性部品 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 Fe100-x-y-zCux-dAgdBySizここで、x、d、y、zは原子%で、1.2≦x≦1.6、0.005≦d<0.1、10≦y≦20、0<z≦10、10≦y+z≦24により表される合金薄帯を巻き取ったもので、平均結晶粒径60nm以下の微細結晶粒が非晶質母相中に体積分率で30%以上分散した組織からなり、80A/mでの磁束密度B80と800A/mでの磁束密度B800との比B80/B800が0.92以上であり、且つ残留磁束密度BrとB80との比Br/B80が0.9未満であるナノ結晶軟磁性合金である。
【選択図】 図10
Description
T以下と低いので、ハイパワー用に使用すると部品が大きくなり、また熱的に不安定であるため経時変化により損失が増加する。Fe基非晶質軟磁性合金は飽和磁束密度が1.5T程度とまだ低く、また保磁力も十分低いとは言えない。
また、このナノ結晶軟磁性合金は、飽和磁束密度が1.7T以上、保磁力が6.5A/m以下、且つ1.5T、50Hzでの鉄損が0.27W/Kg以下を得ることができる。
また、本発明の磁性部品は、上記ナノ結晶軟磁性合金を用いてなることを特徴とする。
FeとAgの混合熱は大きな正の値となるため液相でもほとんど混合しない状態にある。従って、Fe-Cu-B-Si系ナノ結晶合金においてCuと同様に初期微結晶粒の核を形成するクラスタリングの作用があると言え、Cuの他にAgを添加することにより初期微結晶粒の析出が促進されることが考えられる。特許文献1によればAgを含む各種元素をFeの5原子%以下の割合で置換することにより微結晶粒の生成を促進できるとあり、0.5原子%含ませた例が実施例に記載されている。但し、Agを用いた例は開示されていない。そこで本発明者らは、Agを0.5原子%だけ含ませた当該合金の作製を試みた。しかしその結果は、クラスタリングの促進作用よりも液相に混合しないことによる脆化の作用が強く量産は困難であることが分かった。ただ、本発明者らは、CuとAgのバランスをとればCuを介してFeの液相にAgが溶け込むとの感触を得てさらに検討を進めた。その結果、Cuの他に極微量のAgを添加し、いわばCuの一部をAgで置換することにより、AgによるCuクラスタリングの促進の相乗作用がみられ、なお且つピン止め現象の抑制作用があることを知見し本発明に想到した。
また、極微量のAgにより、いわゆるピン止めサイトの生成が抑制され、磁壁の移動速度を低減し、渦電流損失を抑えると共にヒステリシス損失も減少し、結果、鉄損を低減できる。
[1]合金組成
本発明の合金組成は、一般式:Fe100-x-y-zCux-dAgdBySizここで、x、d、y、zは原子%で、0.8≦x≦1.6、0.005≦d<0.1、10≦y≦20、0<z≦10、10≦y+z≦24により表される組成を有する。勿論、上記組成は不可避的不純物を含んでも良い。1.7T以上の飽和磁束密度Bsを有するためには、bcc-Feの微細結晶(ナノ結晶)を有する組織となる必要があり、そのためにはFe含有量が高いことが必要である。具体的には、Fe含有量は75原子%以上が必要であり、好ましくは77原子%以上、より好ましくは78原子%以上である。
Cu単体では1.0原子%以下であると初期微結晶粒の析出量が少なく、3原子%を超えると軟磁気特性が悪化する傾向にある。しかし、本発明では、Cuと共にAgを複合添加することでCu量を減らすことができる。よって、CuとAgの総量xは0.8≦x≦1.6としている。
なお、Siの他にP、S、C、Al、Ge、Ga及びBeをzの範囲内で用いることができる。これらの元素の含有により磁歪及び磁気特性を調整できる。
(1)
合金溶湯
合金溶湯は、Fe100-x-y-zCux-dAgdBySizここで、x、d、y、zは原子%で、0.8≦x≦1.6、0.005≦d<0.1、10≦y≦20、0<z≦10、10≦y+z≦24により表される組成を有する。
溶湯の急冷
合金溶湯の急冷は単ロール法により行うことができる。溶湯温度は合金の融点より50〜300℃高いのが好ましく、例えば初期微結晶粒が析出した厚さ数十μmの薄帯を製造する場合、約1300〜1400℃の溶湯をノズルから冷却ロール上に噴出させるのが好ましい。単ロール法における雰囲気は、合金が活性な金属を含まない場合は大気又は不活性ガス(Ar、窒素等)であり、活性な金属を含む場合は不活性ガス(Ar、He、窒素等)又は真空である。表面に酸化皮膜を形成するためには、溶湯の急冷を酸素含有雰囲気(例えば大気)中で行うのが好ましい。
m/sが最も好ましい。
ロールの材質は、高熱伝導率の純銅、又はCu-Be、Cu-Cr、Cu-Zr、Cu-Zr-Cr等の銅合金が適している。大量生産の場合、又は厚い及び/又は広幅の薄帯を製造する場合、ロールは水冷式が好ましい。ロールの水冷は体積分率に影響するので、ロールの冷却能力(冷却速度と言っても良い)を鋳造当初から終了まで維持することが有効である。量産ラインにおいては、ロールの冷却能力は冷却水の温度に相関しており、冷却水を所定の温度以上に保つのが効果的である。
ロール上の薄帯位置
初期微結晶粒の体積分率はロールの冷却能力(ロール材質や冷却水路構造、冷却水量等)が一要因となり、製造装置毎に適宜定量化することが好ましい。
また、所定の体積分率を得るためには、ロール幅に対して適切な薄帯幅を設定することが好ましい。ロール幅に対して薄帯幅が50%を超えるような広幅の薄帯では、ロール全体の温度上昇が顕著となるので好ましくない。また、逆にロール幅に対し極端に小さい薄帯幅は急冷バランスが崩れるので避けるべきである。
ギャップ調整
単ロール法を用いた薄帯の鋳造では、板厚、断面形状、表面起伏などの制御をパドル制御で行うことができる。パドルの制御には、ノズルとロール間の距離(=ギャップ)を制御したり、出湯圧力、溶湯の自重を調節する方法が有効である。ただし圧力に関する出湯圧力の制御と溶湯の自重制御は、溶湯の残量、溶湯温度などのパラメータにより変化するため定量化が困難である。一方、ギャップ制御はロールとノズル間距離をモニタリングし、常にフィードバックをかけることで比較的簡単に制御できる。従って、ギャップ制御により合金薄帯の板厚、断面形状、表面起伏等を調整するのが好ましい。一般に、ギャップが広いほど湯流れが良く、薄帯を厚くしたりパドルの崩壊を防いだりするのに有効である。しかし、ギャップが広すぎると薄帯は中央部が厚く端部が薄い断面形状を呈し、板厚差による冷却速度の差によって初期微結晶粒の析出量に差が生じる。生産上はほぼギャップを300μm以下、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下で適宜調整し、断面形状を矩形に近づけることが有効である。尚、ギャップ間隔を狭くすると、板厚差は抑制できるが、パドルが崩壊し易くなるという問題が生じるので注意が必要である。生産性の観点からギャップの下限は100μmにすることが良い。
剥離温度
薄帯とロールとの間にノズルから不活性ガス(窒素等)を吹き付けることにより、薄帯をロールから剥離する。薄帯の剥離温度(冷却時間に相関する)も初期微結晶粒の体積分率に影響する。薄帯の剥離温度は不活性ガスを吹き付けるノズルの位置(剥離位置)を変えることにより調整でき、一般に170〜350℃であり、好ましくは200〜340℃であり、より好ましくは250〜330℃である。剥離温度が170℃未満であると、急冷し過ぎて合金組織がほぼ非晶質となる。一方、剥離温度が350℃超であると、結晶化が進み過ぎ脆くなりすぎる。適正な冷却速度であると、薄帯の表面域は急冷によりCu量が減って初期微結晶粒が生成されないが、内部では冷却速度が比較的遅いために初期微結晶粒が多く析出する。
(1) 組織
初期微結晶合金は、平均粒径が30 nm以下の超微細な初期微結晶粒が非晶質母相中に0を超え、30体積%以下の割合で分散した組織を有する。初期微結晶粒の平均粒径が30 nm超であると、熱処理後の微結晶粒が粗大化し、軟磁気特性が劣化する。初期微結晶粒の平均粒径の下限は測定限界から0.5 nm程度であるが、1 nmが好ましく、2 nm以上がより好ましい。優れた軟磁気特性を得るためには、初期微結晶粒の平均粒径は5〜25 nmが好ましく、5〜20
nmがより好ましい。ただ、Ni含有組成では、初期微結晶粒の平均粒径は5〜15 nm程度が好ましい。初期微結晶合金における初期微結晶粒の体積分率は0を超えるものであるが、30体積%を超えると平均粒径も30 nm超となる傾向があり、薄帯は十分な靭性を有さず、後工程でのハンドリングが難しくなる。一方、初期微結晶粒がないと(完全に非晶質であると)、熱処理により粗大結晶粒ができ易い。初期微結晶粒の体積分率は5〜30%が好ましく、10〜25%がより好ましい。
初期微結晶粒間の平均距離(重心間の平均距離)が50 nm以下であると、微結晶粒の磁気異方性が平均化され、実効結晶磁気異方性が低下するので好ましい。平均距離が50 nmを超えると、磁気異方性の平均化の効果が薄れ、実効結晶磁気異方性が高くなり、軟磁気特性が悪化する。
(a) 高温高速熱処理
本発明の初期微結晶合金の薄帯に施す熱処理の態様には、薄帯を100℃/分以上の昇温速度で最高温度(保持温度)まで加熱し、最高温度に1時間以下保持する高温高速熱処理がある。最高温度までの平均昇温速度は100℃/分以上が好ましい。300℃以上の高温域での昇温速度は磁気特性に大きな影響を与えるため、300℃以上での平均昇温速度は100℃/分以上が好ましい。但し、Agを含むことにより、粗大結晶粒相が減り、角形性が緩み磁化反転が起きやすくなるので、昇温速度を低減することもできる。熱処理の最高温度は(TX2−50)℃以上(TX2は化合物の析出温度である。)とするのが好ましく、具体的には430℃超えが好ましい。430℃未満であると、微結晶粒の析出及び成長が不十分である。最高温度の上限は500℃(TX2)以下であるのが好ましい。最高温度の保持時間が1時間超でも微結晶化はあまり変わらず、生産性が低い。保持時間は好ましくは30分以下であり、より好ましくは20分以下であり、最も好ましくは15分以下である。本合金にとって比較的高温での熱処理でも、短時間であれば結晶粒成長を抑制するとともに化合物の生成を抑えることができ、保磁力が低下し、低磁場での磁束密度が向上し、ヒステリシス損失が減少する。
他の熱処理の態様として、薄帯を約350℃以上〜430℃以下の最高温度に1時間以上保持する低温低速熱処理がある。好ましくは410〜430℃である。量産性の観点から、保持時間は24時間以下が好ましく、4時間以下がより好ましい。保磁力の増加を抑制するため、平均昇温速度は0.1〜200℃/分が好ましく、0.1〜100℃/分がより好ましい。この熱処理により角形性の高いナノ結晶軟磁性合金を得ることもできる。
熱処理雰囲気
熱処理雰囲気は空気でもよいが、Si,Fe,B及びCuを表面側に拡散させることにより所望の層構成を有する酸化皮膜を形成するために、熱処理雰囲気の酸素濃度は6〜18%が好ましく、8〜15%がより好ましく、9〜13%が最も好ましい。熱処理雰囲気は窒素、Ar、ヘリウム等の不活性ガスと酸素との混合ガスが好ましい。熱処理雰囲気の露点は−30℃以下が好ましく、−60℃以下がより好ましい。
磁場中熱処理
磁場中熱処理により合金薄帯に良好な誘導磁気異方性を付与するために、熱処理温度が200℃以上である間(20分以上が好ましい)、昇温中、最高温度の保持中及び冷却中のいずれでも、軟磁性合金を飽和させるのに十分な強さの磁場を印加するのが好ましい。磁場強度は薄帯の形状に応じて異なるが、薄帯の幅方向(環状磁心の場合、高さ方向)及び長手方向(環状磁心の場合、円周方向)のいずれに印加する場合でも8 kA/m以上が好ましい。磁場は直流磁場、交流磁場、パルス磁場のいずれでも良い。磁場中熱処理により高角形比又は低角形比の直流ヒステリシスループを有する合金薄帯が得られる。磁場を印加しない熱処理の場合、合金薄帯は中程度の角形比の直流ヒステリシスループを有する。
表面処理
上記合金薄帯に、必要に応じてSiO2、MgO、Al2O3等の酸化物被膜を形成しても良い。表面処理を熱処理工程中に行うと酸化物の結合強度が上がる。必要に応じてこの薄帯からなる磁心に樹脂を含浸させても良い。
熱処理後は、平均粒径60 nm以下の体心立方(bcc)構造の微結晶粒が30%以上の体積分率で非晶質母相中に分散した組織を有する。微結晶粒の平均粒径が60 nmを超えると軟磁気特性が低下する。微結晶粒の体積分率が30%未満では、非晶質の割合が多すぎ、飽和磁束密度が低い。熱処理後の微結晶粒の平均粒径は40
nm以下が好ましく、30 nm以下がより好ましい。微結晶粒の平均粒径の下限は一般に12 nmであり、好ましくは15 nmであり、より好ましくは18 nmである。また熱処理後の微結晶粒の体積分率は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。60 nm以下の平均粒径及び30%以上の体積分率で、Fe基非晶質合金より磁歪が低く軟磁性に優れた合金薄帯が得られる。同組成のFe基非晶質合金薄帯は磁気体積効果により比較的大きな磁歪を有するが、bcc-Feを主体とする微結晶粒が分散したナノ結晶軟磁性合金は磁気体積効果により生じる磁歪がはるかに小さく、ノイズ低減効果が大きい。
上記ナノ結晶軟磁性合金を用いた磁性部品は、飽和磁束密度が高いので、磁気飽和が問題となるハイパワーの用途に好適であり、例えばアノードリアクトル等の大電流用リアクトル、アクティブフィルタ用チョークコイル、平滑用チョークコイル、レーザ電源や加速器等に用いられるパルスパワー磁性部品、トランス、通信用パルストランス、モータ又は発電機の磁心、ヨーク材、電流センサ、磁気センサ、アンテナ磁心、電磁波吸収シート等が挙げられる。また、合金薄帯を複数積層して積層体となし、これらの積層体をさらに積層して一旦積層構造としたのち、ステップラップやオーバラップ状に巻いた変圧器用の鉄心としても適用できる。
ノズルから吹き付ける窒素ガスにより冷却ロールから剥離するときの合金薄帯の温度を放射温度計(アピステ社製、型式:FSV-7000E)により測定し、剥離温度とした。
微結晶粒の平均粒径及び体積分率の測定
微結晶粒(初期微結晶粒も同じ)の平均粒径は、各試料の透過型電子顕微鏡(TEM)写真等から任意に選択したn個(30個以上)の微結晶粒の長径DL及び短径DSを測定し、Σ(DL+DS)/2nの式に従って平均することにより求めた。また各試料のTEM写真等に長さLtの任意の直線を引き、各直線が微結晶粒と交差する部分の長さの合計Lcを求め、各直線に沿った結晶粒の割合LL=Lc/Ltを計算した。この操作を5回繰り返し、LLを平均することにより微結晶粒の体積分率を求めた。ここで、体積分率VL=Vc/Vt(Vcは微結晶粒の体積の総和であり、Vtは試料の体積である。)は、VL≒Lc3/Lt3=LL 3と近似的に扱った。また、数密度(2次元的に観察したもの)については、各試料のTEM写真等から目視で確認できる単位面積当たりの微結晶粒の数を求めた。
120mm単板試料を直流磁化自動記録装置(メトロン技研社製)により、B-H曲線を求め、80 A/mにおける磁束密度
B80 、800 A/mにおける磁束密度
B800 、8000 A/m における磁束密度 B8000(ほぼ飽和磁束密度Bsと同じ)及び残留磁束密度Brを測定し、B80/B800、Br/B80を求めた。尚、ここでB800 をとったのは、本発明に係る合金ではこのB800領域の飽和性が悪くなる傾向にある。そこでB80/B800の比が1 に近いほど、この領域の飽和性が良いことを示す指標になるからである。
鉄損については、120mm単板試料を交流磁気特性評価装置(東英工業製)により、1.5 T、50 Hz における鉄損P、皮相電力S(励磁VA)の測定を行った。
表1に示す組成についてCu量に対しAg量を変えたナノ結晶軟磁性合金の薄帯を下記により製造した。
各組成(原子%)を有する合金溶湯(1300℃)を銅合金製の冷却ロール(幅:168mm、周速:27m/s、冷却水の入口温度:約60℃、出口温度:約70℃)を用いて、大気中で超急冷し、250℃の薄帯温度でロールから剥離し、幅25mm、厚さ約12〜25μm、長さ約10000mの初期微結晶合金の薄帯を作製した。尚、厚さが異なるのはCu量が多いほど薄くして薄帯の冷却速度がほぼ同じになるように調整したためである。ただ、Ag量が0.1原子%の薄帯は、靭性が低く破断するため巻取りは困難であった。よって床に出しのまま製造した。
Ag量が0.1原子%未満の場合は、巻取りが行え最後まで製造ができた。出湯直後で巻取り前段階の薄帯は、曲げ半径0.5mmまで或いは密着するまで破断することなく180度曲げが可能であった。尚、任意箇所で初期微結晶粒の平均粒径と体積分率を測定した結果、各薄帯とも非晶質母相中に平均粒径30nm以下の初期微結晶粒が30%未満の割合で分散した組織を有することが確認された。
また、Agが0.05原子%の実施例(No.6)と、Ag無しの比較例(No.5、7)については、熱処理前と熱処理後のロール面の組織観察(TEM)写真を示す。図2〜図4は熱処理前で、図2は実施例(No.6)、図3は比較例(No.7)、図4は比較例(No.5)である。また、図5〜図7は熱処理後を示し、図5は実施例(No.6)であり(A)は全体像、(B)は表面近傍の拡大像である。図6は比較例(No.7)、図7は比較例(No.5)を示している。(A)、(B)については図5と同様である。
測定結果を表1に示す。尚、*を付したものが実施例である。
また、Agの有無によるB-H曲線を併記したものを図8〜図11に示す。図8はCuとAgの総量が1.25原子%の場合で、Ag無しの比較例(No.1)を点線で、Ag量が0.01原子%の実施例(No.2)を実線で示している。図9は同じく0.05原子%の実施例(No.3)、図10はCuとAgの総量が1.30原子%の場合で、Ag無しの比較例(No.5)を点線で、Ag量が0.05原子%の実施例(No6)を実線で示し、図11はCuとAgの総量が1.40原子%の場合で、Ag無しの比較例(No.7)を点線で、Ag量が0.05原子%の実施例(No.8)を実線で示している。
一方、Ag量が0.1原子%では、軟磁気特性自体は悪くないものの生産性の面で問題がある。即ち、比較例(No9)のように板厚をかなり薄くしても初期微結晶粒の析出が多くCuクラスタリングの助長効果が高く現れてくる。これは生産性の面からみると不安定であり、実際、薄帯は靭性が低く破断してしまい巻き取ることができなかった。Ag量が0.1原子%以上では、Ag単相の析出物も現れると考えられるので量産には適さない。
次に、Cu量が1.30原子%の場合もAg量が0.05原子%でも保磁力は5.5 A/mまで減少し、B80は1.62Tとなった。また、Ag量を0.02原子%、0.03原子%とした場合も同様に保磁力は6.0A/m以下、B80は1.65T以上となっている。また、皮相電力Sは、Ag入りの場合は概ね0.5VA/Kg以下に収まっている。尚、Cu量が1.4〜1.6原子%の場合についても、Ag量が0.05原子%だけでも保磁力は減少し、磁束密度B80は上昇することが確認された。
以上のことからAg量は0.1原子%未満であることが良く、0.01〜0.05原子%が好ましく微量でも効果が高い。このことからAg量の下限は、0.005原子%でも同様の効果が得られると考えている。
以上より本発明のナノ結晶軟磁性合金は、1.7T以上の飽和磁束密度を維持し、且つ6.5A/m以下の保磁力と、1.5T、50Hzでの鉄損を0.26W/Kg以下にすることができている。
表3に示す組成について実施例1と同様にナノ結晶軟磁性合金の薄帯を製造した。但し、熱処理を下記の高温高速の熱処理とした。即ち、それぞれの薄帯から採取した120mm単板試料を熱処理炉に投入し、300℃から保持温度までの昇温速度を変えて保持温度450℃で5分間保持する熱処理を施した。
尚、熱処理前の薄帯について、任意箇所で初期微結晶粒の平均粒径と体積分率を測定した結果、各薄帯とも非晶質母相中に平均粒径30nm以下の初期微結晶粒が30%未満の割合で分散した組織を有することが確認された。
表3、表4の結果より、Cu量とAg量の総量xが少ない場合でもAgを少量添加するだけで粗大結晶粒相の領域は少なくなり、平均結晶粒径が小さく深さによるバラツキもほとんど見られなくなっている。その結果、軟磁気特性も満足するものであった。一方、Agが無いものでは、製造過程での冷却能力の影響をそのまま受けて初期微結晶粒の析出が減り、表層から母相に渡り粗大結晶粒相が形成されたものと考えられる。
また、同じ昇温速度でもAgが微量にあるだけで保磁力は急激に低減し、磁束密度B80、B800、B8000と共に向上している。Br/B80も0.8以下となりピン止角が取れて、結果的に鉄損の低減効果が表れている。特に実施例(No.17)では昇温速度を遅くしても高速の場合と同等の結果が得られていることから熱処理設備などの制約の緩和が期待できる。逆にAgが無い場合の軟磁気特性は全てにおいて満足できるものではない。特に保磁力やBr/B80が非常に高く鉄損の測定は不可である。
Claims (4)
- Fe100-x-y-zCux-dAgdBySizここで、x、d、y、zは原子%で、0.8≦x≦1.6、0.005≦d<0.1、10≦y≦20、0<z≦10、10≦y+z≦24により表される合金薄帯を巻き取ったもので、平均結晶粒径60nm以下の微細結晶粒が非晶質母相中に体積分率で30%以上分散した組織からなり、80A/mでの磁束密度B80と800A/mでの磁束密度B800との比B80/B800が0.92以上であり、且つ残留磁束密度BrとB80との比Br/B80が0.9未満であることを特徴とするナノ結晶軟磁性合金。
- 飽和磁束密度が1.7T以上、保磁力が6.5A/m以下、且つ1.5T、50Hzでの鉄損が0.27W/Kg以下であることを特徴とする請求項1に記載のナノ結晶軟磁性合金。
- 平均結晶粒径30nm以下の初期微結晶粒が非晶質母相中に体積分率で30%未満の割合で分散した組織からなる初期微結晶合金を熱処理することにより得られることを特徴とする請求項1又は2に記載のナノ結晶軟磁性合金。
- 請求項1〜3の何れかに記載のナノ結晶軟磁性合金を用いた磁性部品。
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