JP2014099431A - コンポジットptcサーミスタ部材 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱膨張性の母相に導電粒子が分散した無機PTCサーミスタ部材において、良好なPTC特性と高い通電耐久性を両立させる手段を提供する。
【解決手段】PTCサーミスタ部材を2種類に分け、中心部を構成する第1のPTCサーミスタ部材1と表面部を構成する第2のPTCサーミスタ部材2とした構造をとる。第2のPTCサーミスタ部材を構成する第2の導電粒子の平均粒径を第1のPTCサーミスタ部材を構成する導電粒子径よりも小さくして強度を高める方法、または第2のPTCサーミスタ部材の抵抗率を第1のPTCサーミスタ部材よりも高く設定して内外温度差を小さくする方法のいずれかによる。
【選択図】図1

Description

本発明は、材料の温度上昇に伴い電気抵抗値が上昇する無機コンポジットPTCサーミスタ材料を主な部材とし、熱応力に起因する通電時の劣化を低減する「緩衝PTC層」を設けることで良好で安定した電気特性を持つPTCヒーターや過電流保護素子等に好適に用いられる無機コンポジットPTCサーミスタ部材に関するものである。
PTC(positive temperature coefficient of resistance)材料は、特定温度において急激に電気抵抗値が増加する性質を有するため、例えばリチウムイオン電池の短絡電流抑制用、モーター過負荷電流防止用等の限流素子として利用される場合や、通電することで自発的に一定の温度を保持するヒーター材料として利用されている。
従来、PTC材料としては、キュリー点で電気的特性が変化するチタン酸バリウム系セラミックスが最もよく知られていたが、室温抵抗率が高いために通電損失が大きいこと、仕様によっては鉛を添加する必要があり地球環境面で課題があること、あるいは製造コストが高いことにより、他の物質についての「PTC特性」が探索されていた。
その結果、ポリマーを母材、導電性物質を添加剤とするコンポジット材料にチタン酸バリウム系セラミックスと同様の「PTC特性」が見いだされた。例えば、「特許文献5」特公昭62−50505号公報にあるように、絶縁体であるポリエチレン等の結晶性ポリマーに、カーボン等の導電性粒子を混合していくと、特定の混合比においてポリマーマトリックス中に導電パスが形成されるため、電気抵抗が急激に減少する混合比が存在する。
このような混合比で製造されたコンポジット材料では、導電性粒子よりもポリマーの熱膨張がはるかに大きいため、温度を上昇させていくと、結晶性ポリマーが溶解する際において急激に膨張する。従って、ポリマー中で導電パスを形成している導電性粒子同士が引き離されることにより、導電パスが切断されて電気抵抗が急激に上昇する「PTC特性」が発現するのである。
一方、ポリマー等の有機材料を母材とすると、耐熱性が低く150℃以上の高温に保持するヒーター用途では安定動作ができないこと、カーボンを導電粒子とするため比抵抗が1Ωcm程度以上のものしか得られないこと等の制約から、「特許文献1、2、3」にあるように、高熱膨張率を有する無機材料のクリストバライトまたはトリジマイトに導電性粒子を混合したコンポジット材料であって、耐熱性の改良と共に、前記ポリマーPTCサーミスタ部材に比べて1〜2桁程度低い室温抵抗率を備えた無機コンポジットPTCサーミスタ部材が特許文献1、2、3に提案されている。
特開平9−180906号公報 特開平10−261505号公報 特開平10−261506号公報 WO 2010/038770号公報 特公昭62−50505号公報
上記クリストバライト等の高熱膨張率を有する無機材料に導電性粒子を混合したコンポジット材料は、脆性材料であるクリストバライトまたはトリジマイトの低温型から高温型への結晶構造相転移に伴う大きな熱膨張を利用するものであることから、繰り返し通電や長時間通電を行うと、高熱膨張率の無機材料中にクラックが生じ、室温での電気抵抗値が徐々に増加するという通電動作に対する抵抗値の安定性(以下、「通電耐久性」という)改良の点と、室温時と動作温度以上の高温時の電気抵抗の比である「PTC特性」(以下、「PTC特性」という。)を大きく設定した場合に「通電耐久性」の低下傾向が出るという点で改良の余地があった。
この理由は次のように考えられる。この無機コンポジットPTCサーミスタ部材は、相転移温度で大きく熱膨張する母相の中に比較的熱膨張の小さい、典型的には20μm以上の平均粒子径の導電材料粒子が分散した構造を持っており、PTCサーミスタ素子に通電動作をさせる際に、繰り返し回数や通電時間の累積に伴いクラックの進展、あるいは新たなクラックの生成が生じ易い。このために室温での電気抵抗値が徐々に増加する原因となることが判明した。
また、「PTC特性」は、導電粒子が大きいほど、また母相の熱膨張が大きい程、大きくなり、PTCサーミスタ部材およびこれから構成されるPTCサーミスタ素子の電気的な特性としては好ましいことを本発明の過程で明らかとなったが、その場合には繰り返し通電や長時間通電に対する耐久性が悪くなる点で改良の余地があった。このように、電気的な「PTC特性」向上と、「通電耐久性」向上は相反する傾向になるということが改良すべき課題であった。
この課題を解決する方策を検討し、前記の無機コンポジットPTCサーミスタ部材の「通電耐久性」に影響する原因を明らかにし、その原因を緩和する熱応力を低減する「緩衝PTC層」を設けることで、「通電耐久性」と「PTC特性」の両立を図る方法を考案し、本発明を完成するに至った。
本発明者は、高熱膨張率を有する無機材料を母相とし導電性粒子を混合した無機PTCサーミスタ部材について、大電流を通電する場合での繰返し通電および長時間通電時の耐久性が低下する原因、および高い「PTC特性」を得るための要因、を検討した結果、通電中に生じるジュール熱によりPTC部材中心部において特に温度が上昇し、一方電極に結線されたリード線を通した熱伝導や表面からの輻射により表面は冷却されて中心部より温度が低くなることにより内部から表面に向かって温度勾配が生じることが大きな応力を生じてクラックを生じる原因であることを解明した。PTCサーミスタ部材は温度が上がると抵抗が上昇することから、この温度勾配は増幅されやすく、通電開始から限流動作が始まる初期段階で特に大きくなり、その後徐々に定常状態に至る。通電中に生じる温度勾配によって生じる熱膨張差によって表面には引っ張り方向の熱応力が生じ、これによって微細なクラックが生じやすくなることを明らかにした。
また前記導電粒子の粒径を大きくすること、母材の熱膨張を大きくすることで「PTC特性」は向上するが、「通電耐久性」は低下する傾向があるが、この原因もPTCサーミスタ部材内部の温度勾配に起因する熱応力と考えられる。そこで、本発明者はPTCサーミスタ部材全体の「通電耐久性」を向上させるために「緩衝PTC部材」を設け、大きな熱応力が生じる部分の強度を上げ、また「PTC特性」を発現する部分の温度勾配を小さくすることで、「通電耐久性」と「PTC特性」の両立を図る方法を考案し、本発明を完成するに至った。
第1の請求項は、昇温時に一定の温度で急激に膨張する第1の絶縁性の母相と、前記第1の母相全体に分散された第1の導電粒子を含む第1のPTCサーミスタ部材と、昇温時に一定の温度で急激に膨張する第2の絶縁性の母相と、前記第2の母相全体に分散された第2の導電粒子を含む第2のPTCサーミスタ部材とを含み、前記第2の導電粒子の平均粒径が、前記第1の導電粒子径よりも小さい第2のPTCサーミスタ部材が前記第1のPTCサーミスタ部材と表面電極層との間に少なくとも1層設けられたPTCサーミスタ部材である。第2のPTCサーミスタ部材を「緩衝PTC層」として構成する構造により、大きな引張応力が発生する表面側の「緩衝PTC層」の強度を向上させ、内部にあって熱応力が小さい第1のPTCサーミスタ部材においては第1の導電粒子の粒径を大きくする方法、および第1の母相の熱膨張を大きく設定する方法により高い「PTC特性」を持たせることで、PTCサーミスタ部材全体としては高い「PTC特性」を実現し、同時に「通電耐久性」の高い、応用範囲の広い無機PTCサーミスタ部材を提供することができる。
第2の請求項は、昇温時に一定の温度で急激に膨張する第1の絶縁性の母相と、前記第1の母相全体に分散された第1の導電粒子を含む第1のPTCサーミスタ部材と、昇温時に一定の温度で急激に膨張する第2の絶縁性の母相と、前記第2の母相全体に分散された第2の導電粒子を含む第2のPTCサーミスタ部材とを含み、第2のPTCサーミスタ部材の抵抗率が、前記第1のPTCサーミスタ部材の抵抗率よりも高い第2のPTCサーミスタ部材が前記第1のPTCサーミスタ部材と表面電極層との間に少なくとも1層設けられたPTCサーミスタ部材である。この手段では、第1のPTCサーミスタ部材よりも早く温度が上昇する第2のPTCサーミスタ部材を「緩衝PTC層」として表面に配置し、通電に伴う限流動作が始まる際の温度勾配を減らし、発生する熱応力を低減する構造を付与することにより「通電耐久性」を向上させ、内側にある第1のPTCサーミスタ部材の「PTC特性」を高く設計することができる。
第3の請求項は、PTCサーミスタ部材全体に含まれる窒素の量が0.04モル%以上である、請求項1または2のいずれかに記載のPTCサーミスタ部材である。焼成雰囲気ガスに窒素を混入することで焼成緻密化が促進され、「通電耐久性」が向上する。
第4の請求項は、前記、第1および第2の母相が、クリストバライト型二酸化珪素、トリジマイト型二酸化珪素、クリストバライト型リン酸アルミニウム、トリジマイト型リン酸アルミニウムの少なくとも1つを含む、請求項1ないし2のいずれかに記載のPTCサーミスタ部材である。これらの無機材料は130〜250℃の付近に相転移温度が有り、家電製品や車載用の過電流保護用途には相転移温度が200℃程度以下のものを、PTCヒーター用途などにはさらに高温の相転移温度のものを利用でき、好適である。また相転移温度前後での熱膨張が0.3〜1.3%程度と大きく、大きな「PTC特性」を示す点で、家電や車載用機器の過電流保護素子、車載用PTCヒーター用途に好適であり、望ましい。
第5の請求項は、第1および第2の導電粒子が、金属、金属ケイ化物、金属ホウ化物、金属炭化物、金属窒化物の内の少なくとも一つである。これらの導電材料は抵抗率が100μΩcm以下と、良好な電気伝導を示し、PTCサーミスタ部材中への導電粒子の混合割合を15〜30体積%と調整する方法や導電粒子の大きさを10〜60μmに調整する方法により、0.005〜1000Ωcmと広い範囲の抵抗率を実現可能であり、過電流保護用途からPTCヒーター用途と幅広い応用分野に適用できるPTCサーミスタ部材を実現する上で望ましい。第1及び第2の導電粒子材料は同じでも、異なっていても良く、抵抗率は導電粒子の体積分率または導電粒子の粒径で制御できる。
第6の請求項は、第1の導電粒子の平均粒子径が15μm以上である、請求項1ないし4のいずれかに記載のPTCサーミスタ部材である。導電粒子の粒径は15μm以上で大きいほうが、導電粒子間の接触数が少なくなり、母相が熱膨張した際に導電パスが切断される確率が増えるため、「PTC特性」が望ましい価である1000倍以上となり好ましい。
請求項1に記載の構造によれば、昇温時に一定の温度で急激に膨張する第1の母相と、前記第1の母相全体に分散された第1の導電粒子を含む第1のPTCサーミスタ部材と、昇温時に一定の温度で急激に膨張する第2の母相と、前記第2の母相全体に分散された第2の導電粒子を含む第2のPTCサーミスタ部材とを含み、前記第2の導電粒子の平均粒径が、前記第1の導電粒子径よりも小さい第2のPTCサーミスタ部材が前記第1のPTCサーミスタ部材と表面電極層との間に少なくとも1層設けられている。通電時には発生するジュール熱が表面から外部に逃げることから内部の温度が表面より高くなり、表面に引っ張り応力が生じる。第2のPTCサーミスタ部材を構成する第2の導電粒子の粒径を第1のPTCサーミスタ部材を構成する第1の導電粒子の粒径より小さくすることで、引張応力が発生する表面近傍にある第2のPTCサーミスタ部材の機械的強度を向上することで耐久性を向上させ、内部にあって熱応力が小さい第1のPTCサーミスタ部材には、導電粒子の粒径が比較的大きい第1のPTCサーミスタ部材とし、高い「PTC特性」を持たせることで、PTCサーミスタ部材全体としては高い「PTC特性」を実現し、同時に大電流の通電に対しても耐久性の高い、応用範囲の広い無機PTCサーミスタ部材を提供することができる。
請求項2の発明によれば、第1のPTCサーミスタ部材と、その室温抵抗率が第1のPTCサーミスタ部材よりも大きい第2のPTCサーミスタ部材が前記第1のPTCサーミスタ部材と表面電極層との間に少なくとも1層設けられている。通電時には内部にある第1のPTCサーミスタ部材よりも表面の第2のPTCサーミスタ部材の温度が早く上昇するため、通電に伴う限流動作が始まる際に中心部分のみが急激に温度上昇することが無く、内部と表面での温度差を減らし、発生する熱応力を低減する「緩衝PTC層」となり通電耐久性を向上させることができる。このとき第1の母相と第2の母相が急激に熱膨張する温度の差は小さいほうが好ましく、100℃以下であることが好ましく、さらには50℃以下であることが最も好ましい。
請求項3の発明によれば、焼成工程での雰囲気ガスに窒素を混入させることで焼成時の緻密化が促進され、その結果「通電耐久性」が向上する。この条件での焼成の結果、PTCサーミスタ部材全体に含まれる窒素の量が0.04モル%以上となるのである。
請求項4の発明によれば、第1および第2の母相が、クリストバライト型二酸化珪素、トリジマイト型二酸化珪素、クリストバライト型リン酸アルミニウム、トリジマイト型リン酸アルミニウムの少なくとも1つを含む材料である。これらの材料は130〜250℃の付近に相転移温度が有り、相転移温度前後での熱膨張が0.3〜1.3%程度と大きい、クリストバライト型二酸化珪素、トリジマイト型二酸化珪素、クリストバライト型リン酸アルミニウム、トリジマイト型リン酸アルミニウムの少なくとも1つを含む材料を用いることで、動作温度が家電製品や車載用の過電流保護用途やPTCヒーター用途に適した動作温度特性を実現し、好適である。また、熱膨張が大きい材料を用いることで、大きな「PTC特性」を実現でき、請求項1または2の発明と組み合わせることで、耐久性を兼ね備えることができる。
請求項5の発明によれば、導電粒子材料として低抵抗率の材料を選定し、PTCサーミスタ部材中への導電粒子の混合割合を15〜30体積%と調整する方法や導電粒子の大きさを10〜60μmに調整する方法により、0.005〜1000Ωcmと広い範囲の抵抗率を実現可能であり、その結果、対象となる用途を広げることができる。導電粒子の抵抗率が大きい場合には、1Ωcm以下の抵抗率を有するPTCサーミスタ部材を作ることが難しい。請求項1〜3のいずれかの発明と組み合わせて、大きな「PTC特性」を実現できることから、高い電圧用途にも適用できる。これは、使用可能電圧が、「初期抵抗」×「PTC特性(倍数)」の二分の1乗に比例することに起因するためである。
請求項6の発明は、前記、第1の導電粒子の平均粒子径が15μm以上である、請求項1ないし4のいずれかに記載のPTCサーミスタ部材である。導電粒子の粒径を15μm以上とすることで「PTC特性」を1000〜100万倍とすることが可能となり、請求項1〜4のいずれかの発明と組み合わせて、従来の技術よりも広い電圧に対応できる実用的なPTCサーミスタ部材を提供するものである。
本発明のPTC部材を用いた過電流抑制素子(限流デバイス)またはPTCヒーター素子を示す模式図である。 本発明のPTC部材における、第1と第2のPTC部材、および電極層の配置の例を示す模式図で、電極層の端面に控えを設けた例である。 本発明のPTC部材における、第1と第2のPTC部材、および電極層の配置の例を示す模式図で、電極層がPTC部材の一部に形成された例である。 本発明のPTC部材における、第1と第2のPTC部材、および電極層の配置の例を示す模式図で、電極層がPTC部材の片側に形成された例である。 本発明のPTC部材における、第1と第2のPTC部材、および電極層の配置の例を示す模式図で、PTC部材の面方向に電流が流れるように電極層を設けた例である。 本発明のPTC部材における、第1と第2のPTC部材、および電極層の配置の例を示す模式図で、PTC部材を多層構造として配置した例である。
まず、本発明を適用したPTCサーミスタ部材の実施形態について、図1、図2、図3、図4、図5、図6を参照しながら説明する。図1、図2、図3、図4では、第1のPTCサーミスタ部材は一定の温度で急激に熱膨張する第1の母相と、前記第1の母相全体に分散された第1の導電粒子からなり、第2のPTCサーミスタ部材が、第1のサーミスタ部材の両面に形成され、その表面に電極が形成されている。第2のPTCサーミスタ部材は一定の温度で急激に熱膨張する第2の母相と、その母相全体に分散された第2の導電粒子からなる材料である。図2、図3に示すように、第2のサーミスタ部材は、図1の様に第1のサーミスタ部材の表裏面の全てを覆っていても良いし、図3の様に、表裏面を部分的に覆っていても良い。また、図2の様に端部に覆わない領域を設けることで縁面の絶縁性を高めても良い。 第1と第2のサーミスタ部材の間、第2のサーミスタ部材と電極層の間に異なる特性のサーミスタ部材または導電層を入れても良い。特に大電流を扱う用途では電極層の近傍に銅、銀、あるいはこれらの合金からなる良電気伝導層をメッキ等の表面処理法、溶融金属のディッピング等の直接形成法で付けることによってサーミスタ部材内部の電流密度を均一にすることが望ましい。
図4では、前記第2のPTCサーミスタ部材が前記第1のPTCサーミスタ部材の片側の面に配置されており、電極およびこれに接続されるリード線も第1のPTCサーミスタ部材の片側に配置され、電流は第1のPTCサーミスタ部材を長さ方向に流れる。図5の実施形態では第1のPTCサーミスタ部材の両面にそれぞれ2カ所の電極とそれに接して第2のPTCサーミスタ部材が配置され、表裏の電極を電気的につないだ例である。
図6では、第1のサーミスタ部材を3層の積層構造とした例であり、各層の間には内部電極が形成されている。第2のサーミスタ部材は表面電極と第1のサーミスタ部材との間に設置されている。
第2のPTCサーミスタ部材は、昇温時に一定の温度で急激に膨張する第2の母相と、前記第2の母相全体に分散された第2の導電粒子から構成されたPTCサーミスタ部材とすることで、第1のPTCサーミスタ部材と焼結挙動が類似しており、焼成後の熱膨張特性が類似していることから、同時焼成が可能となり、製造工程数が少なく、第1と第2のPTCサーミスタ部材間の結合が強固になるため特に好ましい。第2のPTCサーミスタ部材に抵抗率が第1のPTCサーミスタ部材よりも高いポリマーPTC材料、チタン酸バリウム系セラミックスPTCサーミスタ部材を使用しても本発明の効果である通電時の耐久性向上やPTC効果の向上に一定の効果はあるが、異種の材料を接合することに起因して接合の信頼性や、製造工程の簡略さ、製造コスト面で本発明の構成が優れている。
第1の母相はクリストバライト型二酸化珪素、トリジマイト型二酸化珪素、クリストバライト型リン酸アルミニウム、トリジマイト型リン酸アルミニウムの少なくとも1つを含む材料であり、第1の導電粒子は、その室温抵抗率が第1のPTCサーミスタ部材よりも大きい第2のPTCサーミスタ部材が前記第1のPTCサーミスタ部材と表面電極層との間に少なくとも1層設けられたPTCサーミスタ部材である。この発明に用いるPTC材料、及びこのPTC材料を得るための製造方法の一例を説明する。
次に、本発明のPTCサーミスタ部材を構成する第1の絶縁性母相材料、第2の絶縁性母相材料の製造方法、および導電性粒子製造方法の例について説明する。
一定の温度で急激に膨張する第1の絶縁性母相材料としては、クリストバライト型二酸化珪素、トリジマイト型二酸化珪素、カーネギアイト(NaAlSiO)、クリストバライト型リン酸アルミニウム、トリジマイト型リン酸アルミニウム等が利用できる。この内、クリストバライト型二酸化珪素、トリジマイト型二酸化珪素、クリストバライト型リン酸アルミニウム、トリジマイト型リン酸アルミニウムは急激な熱膨張が起こる相転移温度が120℃から250℃の範囲に有り、PTCサーミスタ部材の母相として適している。其々の原料は工業原料として販売されているものはそのまま利用し、粒度が大きいものは湿式ポットミル粉砕などの方法で粒度を5μm程度以下に粉砕して利用する。クリストバライトはコート紙のコーティング材等として、クリストバライト型リン酸アルミニウムおよびトリジマイト型リン酸アルミニウムは鋼板の化成処理剤として広く工業的に生産されており、本発明の産業利用の上で好ましい。
クリストバライト型二酸化珪素およびトリジマイト型二酸化珪素は、出発原料に石英(SiO)粉末を用い、結晶系が安定な高い温度領域で仮焼することにより得られるが、結晶系を安定化させるアルカリ金属やアルカリ土類金属の存在下ではより低温の仮焼により得ることができる。本発明においては、石英を原料として用い、結晶系を安定化剤としてアルカリ金属やアルカリ土類金属を添加して、例えば成形後の焼成工程などの工程中に石英をクリストバライトまたはトリジマイトに変換して用いてもよい。
カーネギアイト(NaAlSiO)は例えば、炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化アルミニウム(Al)、石英(SiO)の各原料粉末を所定のモル比に混合して、850℃で脱炭酸を行った後に、900〜1350℃で仮焼することで粉末原料を得ることができる。これを湿式粉砕などで粒度を5μm程度以下に粉砕して利用する。
導電フィラーには、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス合金等の金属、金属珪化物、金属ホウ化物、金属炭化物、金属窒化物を用いることができる。特にシリコンを含む高融点化合物である、金属珪化物、高導電性SiC系材料では、母相であるSiOを骨格として持つ前期第1の母相材料との間での結合が強くなり、耐久性の点で用いることが好ましい。これらの導電材料は、工業原料として入手できるものは所定の粒度に篩分級し、新たに合成するものは粉砕後に分級して用いる。単体の電気抵抗率に応じてPTCサーミスタ部材中に添加する体積分率を10から40%程度の間で調整し、作成したPTCサーミスタ部材の電気抵抗率を0.005Ωcmから1000Ωcmと、導電材料の体積分率を調整することができる。用途に応じて適切な値とすることで、低抵抗材料は過電流抑制用途の限流素子等として、高抵抗側の材料では電気ヒーター用途等として用いることができる。
PTCサーミスタ部材の製造では、母相材料および導電フィラー原料を所定の比率で湿式または乾式で混合し、さらに成形用バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、あるいはセルロース系の材料等、および成型助剤として粘土粉末を乾式または湿式で混合する。さらに焼結助剤としてガラス粉末や、母相と反応して液相を形成する材料を加えても良い。粘土粉末は焼結助剤としても機能する。この混合物を乾式プレス成形あるいは成型用バインダーを加えた上で湿式押出成形して成形体を得る。当該成形体に対し、さらに等方加圧成形を行い密度の高い成形体を得てもよい。成形体の乾燥後に必要に応じて有機バインダーを300℃程度の温度で分解する脱バインダー工程を加えても良い。
焼成工程は水素ガス、窒素ガス、アルゴンガスなどの非酸化性ガス気流中で導電フィラー材料が酸化しない条件で行い、焼結体を得る。焼成条件は第1および第2の母相材料に依存して1000℃〜1500℃の温度範囲で常圧で行い緻密に焼結することができる。あるいは、同様に非酸化性ガス気流中で、所定の荷重をかけながら高温下で保持するホットプレスを施して高密度の焼結体を得る方法がある。
本発明においては、焼結したPTC材料の相対密度を95%以上に緻密化することが好ましい。第1および第2の母相材料の粒径を小さくし、第1および第2の母相材料に合わせた焼結助剤を選定し、焼成条件を設定することにより、相対密度を95%以上にすることができる。相対密度が95%以下では内在する欠陥やクラックが多く、通電動作の繰り返しによりこれらを基点に破壊が進行し、耐久性が損なわれる。
「PTC特性」を大きくする手段としては、母相の熱膨張率を大きくし、導電粒子の粒子径を大きくすることが有効である。母相材料である、クリストバライト型二酸化珪素、トリジマイト型二酸化珪素、カーネギアイト(NaAlSiO)、クリストバライト型リン酸アルミニウム、トリジマイト型リン酸アルミニウム等は、全て相転移点での熱膨張変化が0.3〜1.3%と無機材料としては非常に大きく、これらの本来の熱膨張を阻害しないようにすることが大きな熱膨張を実現するための手段となる。実用的な耐久性を得るために母相全体の熱膨張を下げる手段としては、Li、Na、K、Mg、Ca等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属イオンを添加する方法、第1の母相材料の粒径を小さくする方法、母相中に熱膨張の小さい無機材料を一定の体積分率混入する方法、焼成温度を高温にして第1の母相材料の結晶構造を一部多の相に変換する方法、等がある。逆に母相の熱膨張を大きく保つためには、アルカリ金属またはアルカリ土類金属イオン量を少なくする方法、第1の母相材料の粒径を大きくする方法、母相中の熱膨張の小さい無機材料の体積分率を少なくする方法、低温で焼成する方法、等がある。焼成を酸素分圧の低い水素気流中で行うことも、母相材料の熱膨張を上げることに導電粒子の粒径を大きくすることは、母相が膨張する際に導電粒子の連結ネットワークが切断される確率を上げることとなるので、そのまま「PTC特性」の向上につながる。
また、本発明で用いる材料は全て無機材料であり、融点あるいは分解温度が全て1000℃以上と高く、有機材料であるポリマーに比して耐熱性に優れ、長時間高温にさらされた場合でも構成材料の溶融等による変化がないため、PTCサーミスタ部材の母材として好適である。第1のPTCサーミスタ部材の原料を所定の割合で混合し、その後に高温での焼成を行いコンポジットPTCサーミスタ部材を作る方法により得られる。
導電フィラーの粒径は大きいほどPTC効果が大きくなるが、ヒーター材料、過電流保護用材料への用途には平均粒径が15μmから50μmのものを用いることが好ましい。導電フィラーの体積分率は15〜35vol%であることが好ましい。
以下、本発明の無機PTCサーミスタ部材の製造方法の例について説明する。本発明の無機PTCサーミスタ部材の製造方法は、例えば3つの工程からなり、第1の原料については以下のように調製する。第1の母材原料としてクリストバライトを用いる場合には、石英粉末を高温で仮焼するか、石英をアルカリ金属やアルカリ土類金属の存在下で仮焼して、クリストバライト粉末を合成し、湿式ポットミルで粉砕することにより平均粒径5μm以下の粉末を調製する。第2の原料については、例えば石英や酸化アルミニウムを用いる場合には、5μm以下の平均粒度をもつ工業材料をそのまま利用する事ができる。
導電フィラー原料としては、金属単体、金属珪化物、金属炭化物、金属ホウ化物、あるいは金属窒化物を粉砕後、分級して所望の粒径の粉末を調製する。
第1の工程は第1および第2の母材原料、導電フィラー原料を混合する混合工程であり、第1および第2の母材原料、導電フィラー原料を所定の割合で計量し、さらにバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、あるいはセルロース系の材料などを乾式または湿式混合する。
第2の工程は混合物を成形する成形工程であり、第1の工程で得られた混合物をプレス成形あるいは成型用バインダーを加えた上で湿式押出成形して成形体を得る。当該成形体に対し、さらに等方加圧成形を行い密度の高い成形体を得てもよい。
第3の工程は成形体を焼結する焼結工程であり、第2の工程で得られた成形体を水素ガス、窒素ガス、アルゴンガスなどの非酸化性ガス気流中で導電フィラー材料が酸化しない条件で焼結体を得る。あるいは、同様に非酸化性ガス気流中で、所定の荷重をかけながら高温下で保持するホットプレスを施して高密度の焼結体を得る方法がある。
前記第2のPTCサーミスタ部材の母相は、第1のPTCサーミスタ部材と同じとすることが好ましい。同じ母相材料を用いることで、焼結後の接合強度が高く、また熱膨張率も同等であるため界面での熱膨張差による応力が生じず、さらにPTC特性を有することから、温度の上昇に伴って、第1のPTCサーミスタ部材に追随して抵抗が上昇し、PTCサーミスタ部材全体の温度分布を一定に保つ効果があるためである。第2のPTCサーミスタ部材の製造方法は、前記の第1のPTCサーミスタ部材の製造方法と同様の方法で原料を準備・混合し、さらにポリビニルブチラール(PVB)および有機溶媒とともに混合して第2のPTCサーミスタ部材ペースト材を調製し、これを第1のPTCサーミスタ部材上に塗布し、乾燥後に第1のPTCサーミスタ部材と同時に焼成し形成する方法が利用できる。
前記の方法で、第1のPTCサーミスタ部材の上に第2のPTCサーミスタ部材を形成し、その上に電極層を形成する。良好な電極層としては、第1の母相と同じ一定の温度で急激に膨張する材料を母相にタングステン、モリブデン、ニッケルなどの高融点金属粒子、あるいはNi−Alなどの高融点金属間化合物粒子を第1のPTCサーミスタ部材中の導電粒子よりも多い体積分率で含んだ材料を第2のPTCサーミスタ部材上に形成する方法が好ましい。電極層中の母相が第1および第2のPTCサーミスタ部材と同じであることで接合強度が高く、導電層が金属であることから、その上にメッキやロウ付けが可能である。この電極層の製造方法は、前記の第1のPTCサーミスタ部材の製造方法と同様の方法で原料を準備・混合し、さらにポリビニルブチラール(PVB)および有機溶媒とともに混合して電極ペースト材を調製し、これを先に形成した第2のPTCサーミスタ部材上に塗布し、乾燥後に第1および第2のPTCサーミスタ部材と同時に焼成し形成する方法が利用でき、少ない工程数で電極形成が可能である。その他に、金属層をスパッタ・蒸着などにより形成する方法でも良い。
前記の方法で作成した、電極層が形成された第1および第2のPTCサーミスタ部材からなるPTCサーミスタ部材にはさらに電極層部分に金属メッキを施すことで、リード線などをハンダ付けできる。リード線を通した熱損失を減らし、電極近傍での温度勾配を小さくし、温度勾配による熱応力を低減するために、リード線の材質は熱伝導率が低く、電気抵抗率が低い材料が好ましい。モネル、白銅、りん青銅、ステンレス等の銅、鉄を含む合金材料が好ましい。
第2のPTCサーミスタ部材には従来のポリマーおよびカーボン粒子のコンポジット材料からなるPTCサーミスタ材料で構成し、第1のPTCサーミスタ部材の抵抗率よりも高くすることによってもPTCサーミスタ部材内部の温度分布が均一に近づくために、通電に対する耐久性が高く、PTC効果の大きいPTCサーミスタ部材ができる。作成方法は例えば「特許文献5」に記載されている方法を用いて電極付きの部材を作成し、これを別に作成した第1のPTCサーミスタ部材の上に、使用温度より高い融点を持つ金属で接合することで第1および第2のPTCサーミスタ部材からなる部材を形成できる。この場合はポリマーPTCサーミスタ部材の使用温度の制約が伴うこと、製造工程数が増えること等の課題がある。
第2のPTCサーミスタ部材には従来のチタン酸バリウムからなるセラミックスPTCサーミスタ材料で構成し、第1のPTCサーミスタ部材の抵抗率よりも高くすることによってもPTCサーミスタ部材内部の温度分布が均一に近づくために、通電に対する耐久性が高く、PTC効果の大きいPTCサーミスタ部材ができる。作成方法は例えば「特許文献4」に記載されている方法を用いて電極付きの部材を作成し、これを別に作成した第1のPTCサーミスタ部材の上に、使用温度より高い融点を持つ金属で接合することで第1および第2のPTCサーミスタ部材からなる部材を形成できる。この場合はチタン酸バリウムPTCサーミスタ部材の抵抗率が比較的高いことから、大電流を流す応用には使えないこと、PTCヒーターへの適用のためにはヒーターに求められる200℃程度以上の温度までキュリー点を高くするために鉛を添加したチタン酸バリウム磁器を用いる必要があり環境面での制約が伴うこと、製造工程数が増えること等の課題がある。
以下の実施例における「標準製法」は次のとおりである。使用する第1および第2の母相材料は、前記の発明の実施の形態において記述した方法によって準備、作成した。また導電粒子については工業原料として購入可能な材料を粒径を篩分け法で調整して使用した。母相材料および導電フィラー原料を所定の比率で乾式で混合し、さらに成形用バインダーとしてメチルセルロース粉末を2.0体積%加え、さらに成型助剤および焼結助剤として粘土粉末を1.0体積%加え、乾式で混合する。この混合物に純水を加えた上で湿式押出成形して成形体を得る。第2のPTCサーミスタ部材の製造方法は、前記の第1のPTCサーミスタ部材の製造方法と同様の方法で原料を準備・混合し、さらにポリビニルブチラール(PVB)および有機溶媒とともに混合して第2のPTCサーミスタ部材ペースト材を調製し、これを第1のPTCサーミスタ部材上に塗布し、乾燥後に第1のPTCサーミスタ部材と同時に焼成し形成する。第2のPTCサーミスタ部材の厚さは焼成後に0.2mmとなるように調整した。この上に、通電試験のために、前記成形体表面に、タングステンを主成分とする焼き付け型の電極材を塗布し、焼成後に低抵抗の電極層を形成するようにした。さらに成形体の乾燥後に320℃で脱バインダーを行い、その後、水素気流中で1400℃×2hrの雰囲気ガス中焼成(水素ガス中に5%の窒素ガスを混入)を行い、試験体を得た。以下の実施例、比較例では特に断らない限りはこの「標準製法」を用いる。
焼成雰囲気ガスには水素ガス中に2〜30%の範囲の窒素ガスを混入することにより母相の焼結を促進し、混入割合を増やすことにより母相の熱膨張を小さくし、相転移温度を下げる効果が有る。
導電粒子はいずれも低い抵抗率を示す材料として、金属(Ni)、金属珪化物(MoSi2、NbSi)、金属ホウ化物(TiB)、金属炭化物(TiC)での例を記載した。
試験体の評価は前記の「PTC特性」と繰返し通電に対する耐久性として試験前後の室温抵抗の変化率を評価指標とした。実用的な特性としては「PTC特性」が1000倍以上、繰返し通電への耐久性として15Vで500サイクル後の抵抗変化が10%以下を「望ましい特性範囲」として設定した。この2条件を満たしたものを実施例と分類し、いずれかを満たさないものを比較例と分類した。繰返し通電への耐久性は試験電圧に依存するため自動車用途に要求される15Vと、トラックなどで要求される24Vの2条件での評価を行った。なお、本発明は「望ましい特性範囲」に限定されるものではない。
過電流保護素子等としての耐久性として必要な通電のオンとオフの繰り返しに対するサイクル耐久性の評価方法は以下の通りである。まず通電開始からジュール熱により高抵抗状態となるまでの時間が2〜3秒となる設定電流値を予備試験で決める。
次に、前記の電圧・電流設定条件で通電60秒、電源オフ60秒の繰り返し試験を500回行い、その後冷却してRoを再度25℃で4端子法で測定した。試験前後での室温抵抗の変化率
「(Ro(試験後)―Ro(試験前))/Ro(試験前)」
を算出し、通電耐久性を評価した。
ヒーター素子等としての耐久性として必要な長時間通電に対する長時間耐久性の評価方法は以下の通りである。まず通電開始からジュール熱により高抵抗状態となるまでの時間が10秒程度となる設定電流値を予備試験で決める。
設定電流値と設定電圧条件で、試験を行い、500時間保持した。通電試験後の25℃での室温抵抗率を測定し、通電試験前と500時間通電後に、試験前後での室温抵抗の変化率
「(Ro(試験後)―Ro(試験前))/Ro(試験前)」
を算出し、通電耐久性を評価した。
以下、本発明の効果を明らかにするために行った実施例および比較例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜10、比較例1〜4 表1)
実施例1〜6では、請求項1〜5の全てを満たす条件とし、第1、第2のPTCサーミスタ部材の母相を同じクリストバライト型二酸化珪素とした。得られた試験体の特性値、
サイクル耐久性試験結果を表1に示す。導電粒子材質に珪化物、ホウ化物、炭化物、金属を選定し、導電粒子の平均粒径を15〜45μmと変えても、「PTC特性」は1000倍以上を示し、抵抗の急激な上昇を生じる動作温度は160℃であり、「通電耐久性」も24Vでも10%以下となり、「望ましい特性範囲」となっている。例えば、「PTC特性」かつ室温抵抗率が1Ω・cm以下であればモーターの過電流による焼損保護用途、USBインターフェースの突入電流保護、リチウムイオン電池の過電流保護用途などのPTC素子として十分利用できる。
実施例7、8は請求項2の条件を満たしておらず、その他の請求項の条件を全て満たす例であり、PTC特性と15Vでの通電耐久性は望ましい範囲にある。
実施例9、10は請求項1は満たさないが、請求項2〜5を満たす場合であり、15Vでの通電耐久性は望ましい範囲にある。
比較例1は第2のPTCサーミスタ部材を設けない場合、比較例2、3は請求項1、2の双方を満たさない場合で、いずれも「通電耐久性」が劣ることを示している。比較例4は請求項5を満たさない場合で、この場合には「PTC特性」が1000倍未満で望ましい特性範囲に無い。これらの実施例、比較例から請求項1、2、4、5、6の効果が明らかとなった。
(実施例11〜17、比較例5〜7 表2)
実施例11〜16では、請求項1〜5の全てを満たす条件とし、第1、第2のPTCサーミスタ部材の母相を同じトリジマイト型二酸化珪素とした。得られた試験体の特性値、
サイクル耐久性試験結果を表2に示す。導電粒子材質に珪化ニオブ、珪化モリブデン、炭化チタンを選定し、導電粒子の平均粒径を15〜45μmと変えても、「PTC特性」は1000倍以上を示し、抵抗の急激な上昇を生じる動作温度は160℃であり、「通電耐久性」も24Vでも10%以下となり、「望ましい特性範囲」となっている。
実施例15は請求項1の条件を満たしておらず、その他の請求項の条件を全て満たす例であり、PTC特性と15Vでの通電耐久性は望ましい範囲にある。実施例16は請求項2の条件を満たしておらず、その他の請求項の条件を全て満たす例であり、PTC特性と15Vでの通電耐久性は望ましい範囲にある。
比較例5は比較例1と同様に第2のPTCサーミスタ部材を設けない場合をトリジマイト型二酸化珪素を母相とする系で確認した例で、「通電耐久性」が劣る例である。比較例5、6は請求項1、2の双方を満たさない場合をトリジマイト型二酸化珪素を母相とする系で確認した例である。これらの実施例、比較例から請求項1、2、4、5の効果がトリジマイト型二酸化珪素を母相とする系でも明らかとなった。
以上の実施例および比較例より、第1のPTCサーミスタ部材と電極層の間に第2のPTCサーミスタ部材を設け、請求項1の発明である第2のPTCサーミスタ部材の導電粒子径が小さくすること、または請求項2の発明である第1のPTCサーミスタ部材よりも第2のPTCサーミスタ部材の抵抗率を高く設定することにより、良好な「通電耐久性」が得られることがわかる。特に、第1および第2の請求項の発明の条件双方を満たす場合には、高い電圧まで使用することができる良い「通電耐久性」が得られる。
以上の実施例ではいずれもPTCサーミスタ部材としての抵抗率が0.01〜0.1Ωcm程度となるように導電粒子の粒径を15〜45μm、導電粒子のPTCサーミスタ部材全体に対する体積分率を23体積%とした例であるが、体積分率を23%より小さくすることにより更に抵抗率の高いPTCサーミスタ部材を得ることができる。例えば、導電粒子として粒径が25μmのMoSiを用い、PTCサーミスタ部材全体に対する体積分率を変え、前記の標準製法で試験体を作成した例では、21体積%では0.2Ωcm、18体積%では1Ωcm、16体積%では100Ωcm程度のPTCサーミスタ部材が得られる。同様に、導電粒子として粒径が15μmのMoSiを用い、導電粒子の体積分率を15体積%とした例では1000Ωcm程度のPTCサーミスタ部材が得られる。
(実施例18)
第1、第2の母相材料をクリストバライト型リン酸アルミニウム、トリジマイト型リン酸アルミニウムとした場合では、熱膨張係数がクリストバライト型二酸化珪素、トリジマイト型二酸化珪素よりも小さいことを除き、焼結挙動は類似している。第1、第2の母相材料にクリストバライト型リン酸アルミニウムを用い、この母相の粒径を7μmと大きく設定し、その他の条件を実施例2と同じ組合せの導電粒子を用い、焼成条件を1300℃×3hrと低い温度に設定することで母相の熱膨張率を高く調整し、実施例1〜6と同等のPTC特性と通電耐久性が実現された。
(実施例19〜24、比較例8、9:表3)
実施例2と同じ試験体を用い、焼成雰囲気のみを変えた例を、実施例19〜21、比較例8、9として比較した。比較例8は水素のみ、実施例21はアルゴンと窒素の混合ガス、実施例19、20は水素と窒素の混合ガスである。窒素混入量が1%以下の比較例8、9では「通電耐久性」が10%以上と劣っている。窒素混入量を2%とし、導電粒子の材質を変えた試験体についての例を実施例22〜24に示す。いずれの例でも「通電耐久性」、「PTC特性」両方とも良好な範囲に有り、焼成ガスの条件が窒素ガスを2%以上混入する方法が必要な条件であることを示している。
これらの実施例および比較例での試験体中のケルダール法による窒素分析の結果、好ましい結果を示す実施例である窒素2%を混入した例では、試験体全体に対する窒素の含有量はモル比で0.04%以上であることが分かる。これらの実施例、比較例により請求項3の効果が明らかとなる。
本発明の範囲は、以上の実施例で示した第1および第2のPTCサーミスタ部材を構成する、無機材料、導電粒子についての材料の種類、材料の組合せ、粒径、製法については、各例で記載した内容に限定されるものではない。
本発明は、車載用電気機器、家電、情報機器などに内蔵される過電流抑制素子、PTCヒーター用素子として好適に利用できる。
1 第1のPTCサーミスタ部材
2 第2のPTCサーミスタ部材
3 電極
4 リード部材

Claims (6)

  1. 昇温時に一定の温度で急激に膨張する第1の絶縁性の母相と、前記第1の母相全体に分散された第1の導電粒子を含む第1のPTCサーミスタ部材と、昇温時に一定の温度で急激に膨張する第2の絶縁性の母相と、前記第2の母相全体に分散された第2の導電粒子を含む第2のPTCサーミスタ部材とを含み、前記第2の導電粒子の平均粒径が、前記第1の導電粒子径よりも小さい第2のPTCサーミスタ部材が前記第1のPTCサーミスタ部材と表面電極層との間に少なくとも1層設けられたPTCサーミスタ部材。
  2. 昇温時に一定の温度で急激に膨張する第1の絶縁性の母相と、前記第1の母相全体に分散された第1の導電粒子を含む第1のPTCサーミスタ部材と、昇温時に一定の温度で急激に膨張する第2の絶縁性の母相と、前記第2の母相全体に分散された第2の導電粒子を含む第2のPTCサーミスタ部材とを含み、第2のPTCサーミスタ部材の抵抗率が、前記第1のPTCサーミスタ部材の抵抗率よりも高い第2のPTCサーミスタ部材が前記第1のPTCサーミスタ部材と表面電極層との間に少なくとも1層設けられたPTCサーミスタ部材。
  3. PTCサーミスタ部材全体に含まれる窒素の量が0.04モル%以上である、請求項1または2のいずれかに記載のPTCサーミスタ部材。
  4. 前記、第1および第2の母相が、クリストバライト型二酸化珪素、トリジマイト型二酸化珪素、クリストバライト型リン酸アルミニウム、トリジマイト型リン酸アルミニウムの少なくとも1つを含む、請求項1〜3のいずれかに記載のPTCサーミスタ部材
  5. 前記、第1および第2の導電粒子が、金属、金属ケイ化物、金属ホウ化物、金属炭化物、金属窒化物の内の少なくとも一つである、請求項1〜4のいずれかに記載のPTCサーミスタ部材。
  6. 前記、第1の導電粒子の平均粒子径が15μm以上である、請求項1〜5のいずれかに記載のPTCサーミスタ部材。


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