以下、本発明にかかる運転支援装置及び運転支援方法を具体化した一実施の形態について図1〜図12を参照して説明する。
図1に示すように、本実施の形態の運転支援装置及び運転支援方法が適用される車両は、当該車両の状態に関する情報を取得する車両状態取得部100を有している。また、車両は、支援対象とされる車両の周辺に存在する人物や車両等の移動体の情報を取得する移動体情報取得部110を有している。
車両状態取得部100は、例えば、アクセルセンサ101、ブレーキセンサ102、加速度センサ103、ジャイロセンサ104、及び車速センサ105等によって構成されている。各センサ101〜105は、当該センサ101〜105の検出結果に基づき運転支援を行う運転支援部120に電気的に接続されている。
アクセルセンサ101は、ドライバによるアクセルペダルの操作によって変化するアクセルの踏込み量を検出し、この検出したアクセルの踏込み量に応じた信号を運転支援部120に出力する。ブレーキセンサ102は、ドライバによるブレーキペダルの操作の有無を検出し、この検出した操作の有無に応じた信号を運転支援部120に出力する。加速度センサ103は、車両の加速度を検出し、この検出した加速度に応じた信号を運転支援部120に出力する。ジャイロセンサ104は、車両進行方向を検出し、この検出した進行方向に応じた信号を運転支援部120に出力する。車速センサ105は、車両の速度である車速を検出し、この検出した車速に応じた信号を運転支援部120に出力する。
移動体情報取得部110は、車両に搭載されて該車両の周辺環境を撮像する車載カメラ111、自車両の周辺に存在する物体を検知するミリ波レーダ112、無線通信機能を有する通信機113を備えている。
車載カメラ111は、ルームミラーの裏側に設置された光学式のCCDカメラなどにより車両前方の所定範囲を撮像する。車載カメラ111は、撮像した撮像画像に基づく画像信号を運転支援部120に出力する。
ミリ波レーダ112は、例えば、自車両の周辺に存在する物体と該車両との距離を測定する距離測定機能や、物体と自車両との相対速度を測定する速度測定機能を有している。ミリ波レーダ112は、自車両の周辺に存在する物体を検出すると、検出結果を示す信号を運転支援部120に出力する。
通信機113は、例えば、自車両の周辺に存在する他車両との車車間通信を通じて、他車両の走行速度や緯度経度を示す情報を取得する。通信機113は、取得した情報を運転支援部120に出力する。また、通信機113は、道路に設けられる光ビーコンアンテナとの路車間通信を行う。通信機113は、光ビーコンアンテナとの路車間通信を通じて、インフラ情報信号を取得する。通信機113は、インフラ情報信号を受信すると、受信したインフラ情報信号を、運転支援部120に出力する。なお、インフラ情報信号には、例えば、交差点までの距離や交差点に設けられた信号機の信号サイクルや道路線形、及び光ビーコンアンテナが設けられている道路の道路状況(交差点形状、曲率、勾配、車線数を含む)が含まれる。また、インフラ情報信号には、道路に付随した付随情報や、地上設備等により検出された交差点周辺の他車両などの移動体の情報も含まれる。
移動体位置算出部130は、移動体情報取得部110から入力された情報に基づき、検知された移動体の位置を算出する。移動体位置算出部130は、例えば、車載カメラ111から入力された画像信号が示す撮像画像を解析することにより、自車両の周辺に存在する移動体と該移動体の位置とを特定する。また、移動体位置算出部130は、例えば、ミリ波レーダ112から入力された信号から、自車両の周辺に存在する移動体から自車両までの距離、及び該移動体の移動速度を求める。また、移動体位置算出部130は、例えば、ミリ波レーダ112から入力された信号に基づき、自車両の周辺に存在する移動体の移動方向を特定する。さらに、移動体位置算出部130は、通信機113からインフラ情報が入力されると、このインフラ情報に基づき、自車両の周辺に存在する移動体から自車両までの距離、移動体の移動速度、及び移動体の移動方向を特定する。移動体位置算出部130は、特定結果を示す信号を運転支援部120に出力する。
なお、こうした移動体の特定は、例えば、車載カメラ111の撮像結果、ミリ波レーダ112から入力される信号、及び通信機113から入力されるインフラ情報のいずれか一つに基づいて行われる。
運転支援部120は、自車両とその周辺に存在する移動体とが交差する交差地点に自車両及び移動体が到達するまでの時間を予測する衝突時間予測部121を有している。運転支援部120には、各種情報をドライバに伝達するHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)140、及び介入制御を行う介入制御装置141が接続されている。
衝突時間予測部121は、自車両が移動体と交差する交差地点に到達する第1の時間TTC(Time To Collision)を算出するTTC算出部121aを有している。本実施の形態の第1の時間TTCは、自車両が現在の進路及び走行速度を維持して走行したときに移動体と衝突するまでの時間に相当する。
TTC算出部121aは、自車両の走行速度を「V」、移動体の自車両に対する相対位置を「x」、及び移動体の速度を「vx」とするとき、以下の式(1)に基づき第1の時間TTCを算出する。
TTC=x/(V−vx) …(1)
なお、TTC算出部121aは、自車両の走行速度「V」を、車速センサ105等の検出結果に基づき求める。また、TTC算出部121aは、移動体の位置「x」及び移動体の速度「vx」を、移動体情報取得部110から入力された信号に基づいて求める。
また、衝突時間予測部121は、交差地点に移動体が到達する第2の時間TTV(Time To Vehicle)を算出するTTV算出部121bを有している。本実施の形態の第2の時間TTVは、移動体が現在の進路及び走行速度を維持して移動したときに自車両と衝突するまでの時間に相当する。
TTV算出部121bは、移動体の自車両に対する相対位置を「y」、及び移動体の速度を「vy」とするとき、以下の式(2)に基づき第2の時間TTVを算出する。
TTV=y/(vy) …(2)
なお、TTV算出部121bは、移動体の自車両に対する相対位置「y」、及び移動体の速度「vy」を、移動体情報取得部110から入力された信号に基づいて求める。
なお、図2に例示するように、信号機SGが設置された交差点SCに支援対象となる車両Crと歩行者Tgとが互いに交差する方向から向かっていたとする。ここでの例では、車両Crと歩行者Tgとの交差地点Poに車両Crが到達する時間が、上記第1の時間TTCに該当する。また、歩行者Tgが交差地点Poに到達する時間が、上記第2の時間TTVに該当する。つまり、交差地点Poは、予想される車両Crの移動軌跡と移動体の予想される移動体の移動軌跡との交点である。
また、図1に示すように、本実施の形態の運転支援部120は、第1の時間TTCと第2の時間TTVとの相対的な位置関係を示すマップが記憶されているマップ記憶部123を有している。
マップ記憶部123には、図3に示すように、縦軸が第1の時間TTC[s]、及び横軸が第2の時間TTV[s]が規定されたマップMが記録されている。マップMにおいて、原点「0」は、図2における車両Crと歩行者Tgとの交差地点Poに対応する。マップMにおいて、第1の時間TTCもしくは第2の時間TTVが大きくなると、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が原点から離れる。そして、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が原点から離れるほど、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの算出時点における車両Crと歩行者Tgとが互いに交差地点Poから離れた場所に位置することとなる。
また、本実施の形態のマップMには、支援対象となる車両Crと歩行者Tgや他車両等の移動体との衝突を回避するための衝突回避支援が発動されない非支援領域A1が設定されている。また、マップMには、衝突回避支援が発動される支援領域A2が設定されている。非支援領域A1及び支援領域A2は、例えば、実験データ等に基づいて規定されたエリアである。なお、非支援領域A1及び支援領域A2は、ドライバのアクセル特性やブレーキ特性等の運転特性の学習結果に基づき設定されることも可能である。
本実施の形態では、上記算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTVのマップM上における相対位置が、非支援領域A1に位置するときには衝突回避支援の発動条件が不成立となる。逆に、上記算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTVのマップM上における相対位置が、支援領域A2に位置するときには衝突回避支援の発動条件が成立する。
支援領域A2は、y=fx(TTC,TTV)の関数に囲まれた領域である。支援領域A2と非支援領域A1との境界を形成する2つの直線S1及びS2は、第1の時間TTCと第2の時間TTVとの差分(TTC−TTV)により設定されている。なお、直線S1が第1の時間TTCの縦軸に交わるときの時間T1には、例えば1〜3秒に相当する時間が設定されている。同様に、直線S2が第2の時間TTVの横軸に交わるときの時間T2にも、例えば1〜3秒に相当する時間が設定されている。
図2に示すように、支援領域A2は、運転支援の緊急度に応じてHMIエリアA21、介入制御エリアA22、及び緊急介入制御エリアA23に分割されている。
HMIエリアA21は、支援領域A2のうち、第1の時間TTCと第2の時間TTVとの原点0から最も離れた位置に規定されている。HMIエリアA21は、ドライバに対して移動体の存在や車両Crと移動体との異常接近を警告する運転支援が行われるエリアである。なお、このHMIエリアA21に規定された運転支援は、上記算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTVが当該HMIエリアA21に位置するときに行われる。
介入制御エリアA22は、制動などの介入制御が行われるエリアであり、HMIエリアA21よりも原点0寄りに位置する。緊急介入制御エリアA23は、移動体と車両Crとの衝突を回避するために急制動等の緊急介入が行われるエリアであり、原点0からの所定範囲に位置する。緊急介入制御エリアA23は、支援領域A2の中で最も原点0寄りに位置し、車両Crと移動体との交差地点Poに最も近い位置に規定されている。
非支援領域A1は、支援領域A2以外の部分であり、車両Crと移動体との衝突を回避するための運転支援を必要としないエリアである。例えば、図3において非支援領域A1内に位置するポイントPa1(TTV,TTC)は、第1の時間TTC<<第2の時間TTVとなっている。第1の時間TTC<<第2の時間TTVが成立するときには、車両Crが交差地点Poを通過してから一定以上の時間が経過した後に、移動体が交差地点Poに到達することとなる。逆に、非支援領域A1内に位置するポイントPa2(TTV,TTC)は、第1の時間TTC>>第2の時間TTVとなっている。第1の時間TTC>>第2の時間TTVが成立するときには、移動体が交差地点Poを通過してから一定以上の時間が経過した後に、車両Crが交差地点Poに到達することとなる。よって、非支援領域A1では、車両Cr及び移動体が交差地点Poに到達するタイミングが一定時間以上異なり、車両Crと移動体との距離が一定以上離れているために、運転支援が不要となる。
図1に示すように、運転支援部120を構成する支援発動部122は、衝突回避支援の発動条件の成否を判定する。支援発動部122は、上記算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTV並びにマップMに基づき、発動条件の成否を判定する。支援発動部122は、上記算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTVが、支援領域A2を構成するHMIエリアA21、介入制御エリアA22、及び緊急介入制御エリアA23のいずれかに位置するとき、衝突回避支援の発動条件が成立したと判定する。
支援発動部122は、第1の時間TTC及び第2の時間TTVが算出されると、これら第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交差する交点が、マップM上の何れのエリアに位置するかを特定する。
ここで、図4に例示するように、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交差する位置(交点)が点P1であるとき、点P1は非支援領域A1に位置する。よって、支援発動部122は、衝突回避支援の発動条件が不成立であると判定する。一方、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交差する位置が点P2であるとき、点P2は支援領域A2に位置する。よって、支援発動部122は、衝突回避支援の発動条件が成立したと判定する。
なお、本実施の形態では、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交差する交点によって第1の時間TTC及び第2の時間TTVの相対関係が示される。
図1に示すように、支援発動部122は、発動条件が成立すると、上記算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTVが交差する点が位置するエリア(HMIエリアA21、介入制御エリアA22、及び緊急介入制御エリアA23)を示す信号を、衝突回避支援を実行する支援制御部124に出力する。また、支援発動部122は、発動条件が成立すると、例えば、上記算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTV、並びに交差地点の緯度経度等を示す信号を、支援制御部124に出力する。
支援制御部124は、支援発動部122から各種信号が入力されると、HMIエリアA21、介入制御エリアA22、及び緊急介入制御エリアA23に応じた運転支援を選択する。支援制御部124は、上記算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交差する点がHMIエリアA21に位置するとき、HMI140による警告を発動させるための警告指示信号を生成する。そして、支援制御部124は、生成した警告指示信号をHMIエリアA21に出力する。警告指示信号には、例えば、車両Crとの衝突が予測される移動体の位置、移動体までの距離、及び衝突までの予測時間等が含まれる。
また、支援制御部124は、上記算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交差する点が介入制御エリアA22もしくは緊急介入制御エリアA23に位置するとき、介入制御装置141による介入制御を実行させるための介入制御情報を生成する。そして、支援制御部124は、生成した介入制御情報を介入制御装置141に出力する。介入制御情報には、例えば、非支援領域A1内に位置していた第1の時間TTCを該非支援領域A1の範囲外とし得るブレーキの減速量等を示す制御量が含まれる。なお、介入制御情報が示す制御量は、緊急介入制御エリアA23における制御量の方が介入制御エリアA22における制御量よりも大きくなる。
HMI140は、例えば、音声装置、ヘッド・アップ・ディスプレイ、ナビゲーションシステムのモニタ、及びメータパネル等によって構成されている。HMI140は、支援制御部124から警告指示信号が入力されると、例えば、進行方向前方に人物や車両が存在することをドライバに警告したり、ヘッド・アップ・ディスプレイ等に警告文を表示したりする。
介入制御装置141は、例えば、車両Crのブレーキアクチュエータを制御するブレーキ制御装置、エンジンを制御するエンジン制御装置、ステアリングアクチュエータを制御するステアリング制御装置等の各種制御装置等によって構成されている。介入制御装置141は、支援制御部124から介入制御情報が入力されると、介入制御情報に基づきブレーキ制御装置等を制御する。これにより、車両Crの走行速度が低下することにより第1の時間TTCと第2の時間TTVとの相対位置が変化し、車両Crが交差地点に到達する以前に移動体が交差地点を通過することとなる。すなわち、車両Crと移動体との異常接近が抑止される。
また、本実施の形態の運転支援装置及び運転支援方法は、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの記録に基づきその推移を予測し、予測した結果に応じて運転支援の発動を抑制する支援抑制部150を有している。
本実施の形態の支援抑制部150は、衝突時間予測部121が算出した第1の時間TTC及び第2の時間TTVが記録される履歴記録部151を有している。また、支援抑制部150は、支援対象となる車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移を、履歴記録部151に記録される第1の時間TTC及び第2の時間TTVに基づいて予測する推移予測部152を有している。さらに、支援抑制部150は、推移予測部152の予測結果に基づき運転支援の抑制の要否を判定する予測判定部153を有している。
履歴記録部151には、衝突時間予測部121が算出した第1の時間TTC及び第2の時間TTVが随時記録される。これにより、履歴記録部151には、或る移動体が検出され、この移動体と支援対象となる車両との交差地点に該車両が向かう過程における第1の時間TTC及び第2の時間TTVの軌跡が記録される。また、履歴記録部151には、支援対象となる車両の他、複数の車両から取得された第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移が記録されている。
推移予測部152は、支援対象となる車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移を、履歴記録部151に記録されている第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移に基づいて予測する。推移予測部152は、予測した推移を示す情報を予測判定部153に出力する。
本実施の形態の推移予測部152は、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移を、支援対象とする車両が移動体に向かうときの当該車両及び当該移動体に基づく第1の時間及び第2の時間の軌跡を用いて予測する。
また、本実施の形態の推移予測部152は、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移を、履歴記録部151に記録されている複数の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの統計分布を用いて予測する。
予測判定部153は、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの予測結果が入力されると、この予測結果に基づき、運転支援の発動を抑制する必要があるか否かを判定する。
本実施の形態の予測判定部153は、例えば、支援対象となる車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が、或る時点において支援領域A2に属していたとしても、その後に支援領域A2を脱して非支援領域A1に属することが予測されたときには、運転支援の発動を抑制する必要があると判定する。すなわち、予測判定部153は、支援対象となる車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移が、支援領域A2を跨いで非支援領域A1に至ることが予測されたときには、運転支援の発動を抑制する必要があると判定する。
一方、予測判定部153は、例えば、支援対象となる車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が、或る時点において支援領域A2に属し、その後も継続して支援領域A2に属することが予測されるときには、運転支援の発動を抑制する必要がないと判定する。
予測判定部153は、運転支援の発動の抑制が必要であると判定すると、運転支援の発動を抑制するための抑制指令を支援制御部124に出力する。支援制御部124は、予測判定部153から抑制指令が入力されると、たとえ運転支援の発動条件が成立していたとしても、運転支援の発動を停止する。また、支援制御部124は、運転支援が既に発動中であるとき、発動中の運転支援を中止する。
以下、図5〜図9を参照して、本実施の形態の運転支援装置及び運転支援方法による第1の時間TTC及び第2の時間TTVの予測態様を詳述する。
まず、図5及び図6を参照して、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの軌跡を用いた線形予測もしくは二次曲線予測による予測態様を詳述する。
図5に実線で示す各推移Lr1〜Lr3は、例えば、支援対象となる車両と歩行者や他車両等の移動体とが異なる方向から交差地点に向かっているときの第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点の軌跡を示している。各推移Lr1〜Lr3は、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が、支援対象となる車両及び移動体が交差地点に接近するにつれて原点0に接近することを示している。
なお、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点の推移Lr1は、支援対象となる車両及び移動体が共に速度を維持しながら交差地点に接近しているため、当該推移Lr1の始点から終端Pr1に至るまでの間、一直線上に伸びている。
なお、各推移Lr1〜Lr3の終端Pr1〜Pr3はそれぞれ、或る時点における第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点を示したものである。
ここで、本実施の形態では、推移Lr1において、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が支援領域A2に接する終端Pr1に到達すると、支援発動部122は、運転支援「要」と判定する。
また、推移予測部152は、推移Lr1に基づき、線形予測もしくは二次曲線予測を行う。この結果、終端Pr1以降の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点の推移が、破線で示す推移Lrfを辿ることになると予測される。
そして、予測判定部153は、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移である推移Lrfが、終端Pr1以降も支援領域A2に属するとして、運転支援の発動を抑制する必要がないと判定する。この結果、支援制御部124が、HMI140や介入制御装置141を通じて、支援対象となる車両と移動体との衝突を回避するための衝突回避支援を行う。
一方、図5に示す推移Lr2では、当該推移Lr2の終端Pr2の手前で支援対象となる車両の走行速度が相対的に低下している。この結果、終端Pr2以降の将来の第1の時間及び第2の時間の推移Lr2は、破線で推移Lf2として示すように、マップMの左方向に逸れる推移をなす。このため、推移Lf2は、支援領域A2に一旦属すものの、支援領域A2を脱し、非支援領域A1に属することとなる。すなわち、支援対象となる車両と移動体とが共通する交差地点に同じタイミングで到着することが推定されたものの、当該車両の減速や移動体の加速等により当該車両の走行速度が相対的に低下したことにより、当該車両と移動体とが交差地点に到着するタイミングがずれることとなる。このため、支援対象となる車両と移動体との接近が自ずと回避されることとなる。
そこで、本実施の形態の予測判定部153は、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移である推移Lf2が、終端Pr2以降は支援領域A2に属さないことになるとして、運転支援の発動を抑制する必要があると判定する。この結果、制御指令が予測判定部153から支援制御部124に出力され、支援制御部124による運転支援の発動が抑制される。
また一方、図5に示す推移Lr3は、当該推移Lr3の終端Pr3の手前で移動体の移動速度が相対的に低下している。この結果、終端Pr3以降の将来の第1の時間及び第2の時間の推移Lr3は、破線で推移Lf3として示すように、マップMの下方向に逸れる推移をなす。このため、推移Lf3も、支援領域A2に一旦属すものの、支援領域A2を脱し、非支援領域A1に属することとなる。すなわち、支援対象となる車両と移動体とが共通する交差地点に同じタイミングで到着することが推定されたものの、当該車両の加速や移動体の減速等により移動体の移動速度が相対的に低下したことにより、当該車両と移動体とが交差地点に到着するタイミングがずれることとなる。このため、支援対象となる車両と移動体との接近が自ずと回避されることとなる。
そこで、本実施の形態の予測判定部153は、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移である推移Lf3が、終端Pr3以降は支援領域A2に属さないことになるとして、運転支援の発動を抑制する必要があると判定する。この結果、制御指令が予測判定部153から支援制御部124に出力され、支援制御部124による運転支援の発動が抑制される。
一方、図6に示す例では、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点の軌跡を示す推移Lr4は、終端Pr4に至るまで非支援領域A1に属している。また、線形予測もしくは二次曲線予測による予測結果を推移Lf4として示すように、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移は、支援領域A2に一旦属したのちに、該支援領域A2を脱して非支援領域A1に再び属することとなる。
しかし、図6に示す例では、予測結果の推移Lf4が、緊急度が最大とされた緊急介入制御エリアA23を跨いで支援領域A2から非支援領域A1に至っている。
そこで、本実施の形態の予測判定部153は、予測結果の推移Lf4が緊急介入制御エリアA23に一時的に属する、換言すれば、支援対象と移動体とが一時的に異常接近するとして、運転支援の発動を抑制する必要がないと判定する。この結果、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が推移Lf4の終端Pr4に到達し、支援領域A2に属することになると、衝突回避支援が行われることとなる。
次に、図7〜図9を参照して第1の時間TTC及び第2の時間TTVの統計分布に基づく予測態様を詳述する。
図7に、履歴記録部151に記録されている複数種の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの履歴の一例を示すように、まず第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点の推移が類似する推移群Lg1は、非支援領域A1と支援領域A2との境界である領域Pg1以降も、支援領域A2に継続して属している。
一方、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点の推移が類似する各推移群Lg2〜Lg4は、非支援領域A1と支援領域A2との境界である領域Pg2〜Pg4以降、支援領域A2を跨いで非支援領域A1に再び属することとなる。なお、推移群Lg4は、緊急介入制御エリアA23を跨いで非支援領域A1に再び属することとなっている。
ここで、図8に推移Lr1として示すように、支援対象とする車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点の軌跡が推移群Lg1に類似するときには、推移予測部152は、推移群Lg1の統計分布に基づき、支援対象とする車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の交点も推移群Lg1に沿った推移L1fをなすと予測する。
すなわち、推移予測部152は、領域Pg1にて支援領域A2に属した第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が、領域Pg1以降も継続して支援領域A2に属することになると予測する。
そこで、予測判定部153は、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移Lrfが、終端Pr1以降も支援領域A2に属する確率が高いとして、運転支援の発動を抑制する必要がないと判定する。この結果、支援制御部124がHMI140や介入制御装置141を通じて、支援対象となる車両と移動体との衝突を回避するための衝突回避支援を行う。
一方、図9に推移Lr2として示すように、支援対象とする車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点の軌跡が推移群Lg2に類似するときには、推移予測部152は、推移群Lg2の統計分布に基づき、支援対象とする車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の交点も推移群Lg2に沿った推移をなすと予測する。すなわち、推移予測部152は、領域Pg2にて支援領域A2に属した第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点は、領域Pg2以降、支援領域A2を一旦跨いで非支援領域A1に再び属することになると予測する。
そこで、本実施の形態の予測判定部153は、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移Lf2が、終端Pr2以降は支援領域A2に属さないことになる確率が高いとして、運転支援の発動を抑制する必要があると判定する。この結果、制御指令が予測判定部153から支援制御部124に出力され、支援制御部124による運転支援が抑制される。
なお、統計分布に基づく予測の結果、先の図6に例示したように、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点の推移が緊急介入制御エリアA23を跨いで非支援領域A1に至ることが予測されたときにも、支援制御部124による運転支援が抑制されないこととなる。
次に、図10〜図12を参照して、本実施の形態の運転支援装置及び運転支援方法の作用を説明する。
図10に示すように、まずステップS100において、車両の周辺に存在する歩行者や他車両等の移動体が検知されると、この移動体の位置、移動方向、及び移動速度、すなわち速度ベクトルが検出される。
次いで、車両の位置、移動方向、及び移動速度が検出されると、第1の時間TTC及び第2の時間TTVが算出される(ステップS101、S102)。そして、算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTVが上記マップM上に適用され、第1の時間TTC及び第2の時間TTVが交差する位置、すなわち第1の時間TTC及び第2の時間TTVの相対関係が特定される(ステップS103)。
第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が特定されると、この位置が支援領域A2に属するか否かが判断される(ステップS104)。第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が支援領域A2の範囲内に属するとき(ステップS104:YES)、運転支援の発動の抑制の要否が判定される発動抑制判定処理が実行される(ステップS105:判定ステップ)。
発動抑制判定処理を通じて抑制「要」であると判定されると(ステップS106:YES)、ステップS100で検出された移動体との衝突を回避するための運転支援が行われることなく本処理が終了される。すなわち、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が支援領域A2に属することになったとしても、属する期間が一時的なものであるとして運転支援の発動が抑制される(抑制ステップ)。
一方、ステップS105の発動抑制判定処理を通じて抑制「否」であると判定されると(ステップS106:NO)、移動体との衝突を回避するための運転支援が実行される(ステップS107:運転支援ステップ)。
また一方、ステップS104にて、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が支援領域A2に属さないとき、換言すれば、当該交差する位置が非支援領域A1に属するとき、運転支援の発動条件が不成立であるとして本処理が終了される。
そして、新たな移動体が検出されると、この移動体の位置、移動方向、及び移動速度に基づき第2の時間TTVが算出される。新たな移動体に基づく第2の時間TTVが算出されると、この第2の時間TTVと第1の時間TTCとの交差する位置が支援領域A2に属するか否か、及び抑制条件が成立するか否かが判定される(ステップS100〜S107)。そして、この判定結果に応じて、運転支援の発動、もしくは運転支援の発動の抑制が行われることとなる。
次に、図11を参照して、図10のステップS107における運転支援処理を詳述する。
図11に示すように、まず、本処理の実行時には第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が支援領域A2に属していることから、HMI140を作動させるためのHMI作動フラグが「1」に設定される(ステップS200)。
次いで、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が、支援領域A2のうちの介入制御エリアA22に属しているか否かが判断される(ステップS201)。第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が介入制御エリアA22に属しているとき(ステップS201:YES)、介入制御の制御量が例えばマップMに基づき算出される(ステップS202)。そして、算出された制御量に基づき介入制御装置141による介入制御とHMI140による警告とが実行される(ステップS203)。これにより、移動体に向かう車両Crの制動と車両Crのドライバに対する警告とが行われる。なお、車両Crのドライバに対する警告としては、減速案内等が行われる。
一方、ステップS201にて第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が支援領域A2のうちの介入制御エリアA22に属していないと判断されたとき、当該交点が緊急介入制御エリアA23に属するか否かが判断される(ステップS204)。
第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が緊急介入制御エリアA23に属しているとき(ステップS204:YES)、車両Crと移動体との緊急回避のための制御量である衝突回避制御量が算出される(ステップS205)。そして、算出された衝突回避制御量に基づき介入制御装置141による緊急介入制御とHMI140による警告とが実行される(ステップS206)。これにより、移動体に向かう車両Crの緊急制動と車両Crのドライバに対する警告とが行われる。なお、車両Crのドライバに対する警告としては、急減速の案内や衝突を回避するためのステアリング操作の案内等が行われる。また、通常、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が緊急介入制御エリアA23に至るまでに当該交点がHMIエリアA21や介入制御エリアA22に属することとなる。このため、通常は、緊急制動が発動する以前に、HMI140による減速案内や介入制御装置141による制動が行われることで、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が緊急介入制御エリアA23に属することが回避されることとなる。
また一方、ステップS204にて第1の時間TTC及び第2の時間TTVの交点が緊急介入制御エリアA23に属していないと判断されたときには(ステップS204:NO)、当該交点がHMIエリアA21に属していることとなる。よって、このときには、HMI制御のみが実行され、減速案内や移動体の存在を報知する案内等が行われる(ステップS205)。
次に、図12を参照して、図10のステップS105における発動抑制判定処理を詳述する。
図12に示すように、本処理ではまず、ステップS300にて、履歴記録部151に記録されている過去の第1の時間TTC及び第2の時間TTVに基づき将来の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移が予測される。なお、線形予測もしくは二次曲線予測に際しては、過去の第1の時間TTC及び第2の時間TTVとして、支援対象とする車両が移動体に向かうときの当該車両及び当該移動体に基づく第1の時間TTC及び第2の時間TTVの軌跡が用いられる。すなわち、線形予測もしくは二次曲線予測に際しては、支援対象となる車両の周辺の移動体が検知されてから支援対象となる車両が予測の開始される地点に到達するまでの間に算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTVの軌跡が用いられる。また、統計分布に基づく予測に際しては、履歴記録部151に記録されている第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移うち、支援対象となる車両の周辺の移動体が検知されてから支援対象となる車両が予測の開始される地点に到達するまでの間に算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTVに類似する推移が用いられる。
そして、支援対象となる車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が支援領域A2を跨いで非支援領域A1に至ることが予測されるとき(ステップS301:YES)、将来の推移が緊急介入制御エリアA23を跨ぐか否かが判断される(ステップS302)。すなわち、支援対象となる車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が、支援領域A2のうちのHMIエリアA21もしくは介入制御エリアA22を跨いで非支援領域A1に至るか否かが判断される。
この結果、支援対象となる車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が、支援領域A2のうちの緊急介入制御エリアA23を跨ぐことなく非支援領域A1に至ると判断されると(ステップS302:YES)、運転支援の発動を抑制する必要があると判定される(ステップS303)。
一方、支援対象となる車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が、支援領域A2のうちの緊急介入制御エリアA23を跨いで非支援領域A1に至ると判断されると(ステップS302:NO)、運転支援の発動を抑制する必要がないと判定される(ステップS304)。この結果、HMI140や介入制御装置141を通じた運転支援が支援制御部124により行われる。
また一方、ステップS301にて、支援対象となる車両の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が支援領域A2に継続して属することが予測されるときには(ステップS301:NO)、運転支援の発動を抑制する必要がないと判定される(ステップS304)。すなわち、支援対象となる車両及び移動体の相対速度が維持され、それら車両と移動体とが衝突する可能性が高く、衝突回避支援を行う必要が高いと判断される。この結果、HMI140や介入制御装置141を通じた運転支援が支援制御部124により行われることとなる。
以上説明したように、本実施の形態にかかる運転支援装置及び運転支援方法によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)運転支援部120が、当該運転支援部120が搭載される車両と移動体とが交差する交差地点に自車両が到達する第1の時間TTCと、交差地点に移動体が到達する第2の時間TTVとの相対関係に基づき衝突回避支援を行った。これにより、急ブレーキや急制動等を要求せずとも、緩やかな減速で車両と移動体との異常な接近が抑止され、円滑な運転支援が行われることとなる。また、運転支援部120が、第1の時間TTC及び第2の時間TTVを記録し、該記録した第1の時間TTC及び第2の時間TTVに基づき衝突回避支援の発動を抑制した。このため、衝突回避支援の発動を抑制する必要がないと判定されたときにのみ、衝突回避支援が発動される。つまり、将来的にも衝突回避支援の必要性が高いと判定されるときに限って衝突回避支援が行われる。一方、記録された第1の時間TTC及び第2の時間TTVに基づき、衝突回避支援の必要性が低いと推定される状況下では、衝突回避支援の発動が抑制される。つまり、衝突回避支援の必要性が低下した状況下でその発動が抑制されることとなる。これにより、運転支援の的確な発動を通じて運転支援の適正化が図られることとなる。
(2)運転支援部120が、支援対象とする車両における第1の時間TTC及び第2の時間TTVが支援条件を満たすときに衝突回避支援を行った。また、支援抑制部150が、記録した第1の時間TTC及び第2の時間TTVから求まる将来の第1の時間TTC及び第2の時間TTVが、一旦成立した支援条件を不成立とさせることが予測されるとき、衝突回避支援の発動を抑制した。このため、衝突回避支援の発動の抑制の要否と衝突回避支援の発動の要否とが、同一の判断基準である支援条件に基づき判断される。これにより、衝突回避支援の発動の抑制の要否が、衝突回避支援の発動の要否と統一性をもって判断され、衝突回避支援の発動の抑制の判定にかかる精度が高められることとなる。
(3)運転支援部120が、運転支援を行う支援領域A2と運転支援を行わない非支援領域A1とが第1の時間TTCと第2の時間TTVとの相対関係に対して規定されたマップMが記録されたマップ記憶部123を備えた。このため、支援対象とされる車両とその周辺に存在する移動体とに基づく第1の時間TTC及び第2の時間TTVが、マップMのうちの支援領域A2及び非支援領域A1のいずれに属するかに基づき衝突回避支援の発動の要否が判定される。これにより、衝突回避支援の発動の要否が容易に行われることとなる。また、支援抑制部150が、記録した第1の時間TTC及び第2の時間TTVに基づき、支援対象とする車両における第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移が支援領域A2を跨いで非支援領域A1に至ることが予測されるとき、衝突回避支援の発動を抑制した。このため、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの予測結果がマップの支援領域A2を一旦跨いで非支援領域A1に至るに否かに基づき衝突回避支援の発動の要否が判定されることとなり、衝突回避支援の発動の抑制の要否がより容易に判定されることとなる。よって、衝突回避支援の発動の抑制がより円滑に行われることとなる。
(4)マップMの支援領域A2が、緊急度に応じてHMIエリアA21、介入制御エリアA22、及び緊急介入制御エリアA23に分割された。また、運転支援部120が、支援対象とする車両の第1の時間TTCと第2の時間TTVとの相対関係がHMIエリアA21、介入制御エリアA22、及び緊急介入制御エリアA23のいずれに属するかに基づいて各別の運転支援が行われた。これにより、分割された領域の別に緊急度に応じた運転支援が設定されることで、支援対象となる車両と移動体との相対的な位置関係に応じたレベルの運転支援が行われることとなる。また、これによりレベル毎の運転支援の発動が適正に行われることとなる。
(5)支援抑制部150は、支援対象とする車両の第1の時間TTCと第2の時間TTVとの相対関係の推移が、支援領域A2のうち緊急度が最大とされた緊急介入制御エリアA23を跨ぐことなく、支援領域A2から非支援領域A1に至ることが予測されることを条件として、衝突回避支援の発動を抑制した。このため、衝突回避支援の不必要な発動が抑制されつつも、その発動を優先すべき状況下では衝突回避支援が行われる。これにより、運転支援にかかるフエールセーフが的確に高められることとなる。
(6)支援抑制部150が、支援対象とする車両が移動体との交差地点に向かうときの当該車両及び当該移動体に基づく第1の時間TTC及び第2の時間TTVの軌跡を記録した。そして、支援抑制部150は、該記録した軌跡に基づき第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移を予測し、該予測した推移に基づいて衝突回避支援の発動を抑制した。このため、支援対象とする実際の車両における第1の時間TTC及び第2の時間TTVの直前の軌跡に基づく予測が行われることとなる。これにより、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの予測精度が高められることとなる。
(7)支援抑制部150が、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移の予測を、線形予測もしくは二次曲線予測に基づき行った。これにより、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの軌跡に基づく将来の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの予測精度が好適に高められることとなる。
(8)支援抑制部150が、複数種の車両操作に基づく第1の時間TTC及び第2の時間TTVを複数記録した。そして、支援抑制部150は、該記録した複数の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの統計分布に基づき第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移を予測し、該予測した推移に基づいて衝突回避支援の発動を抑制した。このため、過去の統計を踏まえ、確率的に第1の時間及び第2の時間の推移が予測される。これにより、想定し得る推移のパターンの中でも再現される確率の最も高いとされる推移が予測結果として求められる。よって、この予測結果に基づき衝突回避支援の発動が抑制されることで、実際の状況に沿った蓋然性の極めて高い衝突回避支援の発動の許可及び抑制が実現されることとなる。
なお、上記実施の形態は、以下のような形態をもって実施することもできる。
・或る対象物に対して衝突回避支援の発動の抑制「要」と判定されたとき、この対象物に対する衝突回避支援が発動されないこととした。これに限らず、衝突回避支援の発動の抑制「要」の判定後に再算出された第1の時間TTC及び第2の時間TTVが支援領域A2に属することになったときには、一旦、衝突回避支援の発動の抑制「要」と判定された対象物に対しても衝突回避支援が行われてもよい。
・履歴記録部151には、支援対象となる車両の他、複数の車両から取得された第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移が記録された。これに限らず、履歴記録部151には、支援対象となる車両のみから取得された複数の第1の時間TTC及び第2の時間TTVが記録されてもよい。そして、この支援対象となる車両のみから取得された複数の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの統計分布に基づいて、将来の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移が予測されてもよい。これによれば、支援対象となる車両のドライバの癖や該車両の特性が反映される第1の時間TTC及び第2の時間TTVの統計分布に基づき、将来の第1の時間TTC及び第2の時間TTVが予測される。よって、将来の第1の時間TTC及び第2の時間TTVが、さらに高精度に予測されることとなる。
・第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が、線形予測もしくは二次曲線予測により予測された。さらに、線形予測及び二次曲線予測の双方により第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が予測されてもよい。これによれば、例えば、線形予測及び二次曲線予測の各予測結果がいずれも、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が支援領域A2を一時的に跨いで非支援領域A1に至るか否かが判断される。そして、線形予測及び二次曲線予測の各予測結果のいずれもが、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が支援領域A2を一時的に跨いで非支援領域A1に至ることを条件として、運転支援の発動の抑制が必要であると判定される。これにより、運転支援の発動の抑制がより慎重に行われることとなり、運転支援にかかるフエールセーフが高められることとなる。また、この他、線形予測や二次曲線予測に限らず、支援対象となる車両における第1の時間TTC及び第2の時間TTVの軌跡に基づき将来の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移を予測可能な演算手法であれば、将来の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移の算出に用いることが可能である。
・第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が、支援対象とする車両が移動体に向かうときの当該車両及び当該移動体に基づく第1の時間及び第2の時間の軌跡、もしくは、履歴記録部151に記録されている複数の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの統計分布を用いて予測された。さらに、支援対象とする車両が移動体に向かうときの当該車両及び当該移動体に基づく第1の時間及び第2の時間の軌跡、及び履歴記録部151に記録されている複数の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの統計分布を用いて第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が予測されてもよい。これによれば、例えば、支援対象とする車両が移動体に向かうときの当該車両及び当該移動体に基づく第1の時間及び第2の時間の軌跡の予測結果と、履歴記録部151に記録されている複数の第1の時間TTC及び第2の時間TTVの統計分布に基づく予測結果とが、運転支援の発動の抑制の要否判定に用いられる。すなわち、当該軌跡の予測結果及び当該統計分布に基づく予測結果のいずれもが、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が支援領域A2を一時的に跨いで非支援領域A1に至ることを条件として、運転支援の発動の抑制が必要であると判定される。これにより、運転支援の発動の抑制がより慎重に行われることとなり、運転支援にかかるフエールセーフが高められることとなる。
・上記実施の形態では、車両状態取得部100が、アクセルセンサ101、ブレーキセンサ102、加速度センサ103、ジャイロセンサ104、及び車速センサ105等によって構成された。これに限らず、車両状態取得部100は、アクセルセンサ101、ブレーキセンサ102、加速度センサ103、ジャイロセンサ104、及び車速センサ105の少なくとも1つによって構成されてもよい。そして、少なくも一つのセンサの検出結果に基づく演算を通じて、第1の時間TTCが算出されてもよい。また、支援対象となる車両の緯度経度を検出するGPSによって車両状態取得部100が構成されてもよい。これによれば、GPSにより検出される車両の緯度経度に基づき、車両の走行速度が算出され、第1の時間TTCが算出されることとなる。この他、車両状態取得部100は、第1の時間TTCの算出に用いることのできる情報を取得可能なものであればよい。
・上記実施の形態では、移動体情報取得部110が、車載カメラ111、ミリ波レーダ112、及び通信機113によって構成された。これに限らず、移動体情報取得部110は、車載カメラ111、ミリ波レーダ112、及び通信機113の少なくとも1つによって構成されてもよい。この他、第2の時間TTVの算出に用いることのできる移動体の情報を取得可能なものであれば、移動体情報取得部110を構成することが可能である。
・上記実施の形態では、図11のステップS203、S206として示したように、介入制御もしくは緊急介入制御が行われるとき、HMI140によるHMI制御も共に行われた。これに限らず、図11に対応する図として図13に示すように、介入制御の実行条件が満たされたとき、介入制御のみが行われてもよい(ステップS203A)。また、緊急介入制御の実行条件が満たされたとき、緊急介入制御のみが行われてもよい(ステップS206A)。
・第1の時間TTC及び第2の時間TTVの統計分布として、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの経時的な推移の履歴が用いられた。これに限らず、先の図7に対応する図として、図14に例示するように、例えば、領域α1の時点における第1の時間TTC及び第2の時間TTVの統計分布が用いられてもよい。これによれば、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移が支援領域A2に直線的に向かうときの領域α1の時点における確率分布を図15に示すように、支援領域A2に直線的に向かう確率は、領域Pg1で最も高くなる。逆に、領域Pg2及びPg3ではいずれも、支援領域A2に直線的に向かう確率が低下する。よって、支援対象となる車両の領域α1の時点における第1の時間TTC及び第2の時間TTVが領域Pg1付近に存在するときには、該車両の将来の第1の時間TTC及び第2の時間TTVは、介入制御エリアA22、緊急介入制御エリアA23に向かって直進すると予測できる。このため、支援対象となる車両の領域α1の時点における第1の時間TTC及び第2の時間TTVが領域Pg1付近に位置するときには、衝突回避支援の必要性が高いとしてその発動が抑制されない。また、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの推移が支援領域A2を跨いで(迂回して)非支援領域A1に向かうときの領域α1の時点における確率分布を図16に示すように、支援領域A2を脱して非支援領域A1に向かう確率は、領域Pg2もしくは領域Pg3で最も高くなる。逆に、領域Pg1では、支援領域A2を脱して非支援領域A1に向かう確率が低下する。よって、支援対象となる車両の領域α1の時点における第1の時間TTC及び第2の時間TTVが領域Pg2付近もしくは領域Pg3付近に存在するときには、該車両の将来の第1の時間TTC及び第2の時間TTVは、支援領域A2に一旦属しても、非支援領域A1に属することになると予測できる。このため、支援対象となる車両の領域α1の時点における第1の時間TTC及び第2の時間TTVが領域Pg2付近もしくは領域Pg3付近に位置するときには、衝突回避支援の必要性が低いとしてその発動が抑制される。このように、図14〜図16に示す手法によれば、支援対象となる車両の或る時点における第1の時間TTC及び第2の時間TTVに基づき、衝突回避支援の発動の抑制の要否が判定可能となる。よって、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの予測、並びに、衝突回避支援の発動の抑制の要否の判定が、より簡易に行われることとなる。また、これによれば、或る時点における第1の時間TTC及び第2の時間TTVの記録結果さえ事前に取得すればよく、予測に用いられるデータ量の大幅な低減が図られることとなる。
・第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が支援領域A2を経由して非支援領域A1に至るとき、当該推移が緊急介入制御エリアA23を跨ぐか否かが判断された。そして、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が緊急介入制御エリアA23を跨ぐことなく非支援領域A1に至るとことを条件として、運転支援の発動が抑制された。これに限らず、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が、介入制御エリアA22及び緊急介入制御エリアA23のいずれをも跨ぐことなく非支援領域A1に至るとことを条件として、運転支援の発動が抑制されてもよい。逆に、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの将来の推移が支援領域A2を経由して非支援領域A1に至るときには、一律に運転支援の発動が抑制されてもよい。
・上記運転支援態様の選択に用いられるマップMの支援領域A2が、HMIエリアA21、介入制御エリアA22、及び緊急介入制御エリアA23の3つに分割された。さらに、支援領域A2が4つ以上に分割され、分割された領域毎に運転支援態様が設定されてもよい。また、支援領域A2が、2つもしくは1つの領域によって規定され、規定された領域に各種の運転支援態様が設定されてもよい。なお、分割される支援領域A2がHMIエリアA21のみによって構成されるときには、上記介入制御装置141が割愛される構成となる。逆に、分割される支援領域A2が介入制御エリアA22もしくは緊急介入制御エリアA23のみによって構成されるときには、上記HMI140が割愛される構成となる。また、支援領域A2に設定される運転支援の態様は任意であり、適宜変更されることが可能である。
・支援対象となる車両の移動軌跡と移動体の移動軌跡とが交差する一例として、各移動軌跡が直交するときが想定された。そして、この各移動軌跡を示す第1の時間TTC及び第2の時間TTVに基づき衝突回避支援が行われた。これに限らず、衝突回避支援に用いられる各移動軌跡は、同じ地点で交差する軌跡であればよく、それらの交差するときの角度は、90°未満の角度であっても、90°を超える角度であってもよい。
・上記マップ記憶部123に記憶されたマップMに基づいて衝突回避支援が行われた。これに限らず、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの相対関係に基づき衝突回避支援が行われるものであればよく、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの各値が規定された値に該当するか否かに基づき、衝突回避支援の発動条件の成否が判定されてもよい。
・支援抑制部150は、同一の移動体に対して一旦成立した支援条件が事後的に不成立となるか否かを、第1の時間及び第2の時間の履歴に基づいて判定した。そして、支援抑制部150は、同一の移動体に対して一旦成立した支援条件が事後的に不成立となることと判定したとき、衝突回避支援の発動を抑制した。これに限らず、支援抑制部150は、記録した第1の時間及び第2の時間に基づき衝突回避支援の発動を抑制するか否かの判定を行えばよい。すなわち、支援抑制部150は、例えば、記録した第1の時間及び第2の時間の大半が、支援対象となる車両と移動体との衝突が自ずと回避されているときは、衝突回避支援の発動を抑制することもできる。
・上記実施の形態では、運転支援部120及び支援抑制部150が車両に搭載された。これに限らず、運転支援部120及び支援抑制部150は、例えば、スマートフォン等の多機能電話機器にインストールされるアプリケーションプログラムによって構成されてもよい。これによれば、多機能電話機器は、当該多機能電話機器に保有される地図情報や、インターネットワーク等を介して取得可能な交通情報等に基づいて、抑制条件の成否を判定する。これにより、ナビゲーションシステムを備えない車両においても運転支援とその適正化が図られることとなる。また、多機能電話機器は、汎用性が高いことから、より多くの場面での運転支援とその適正化が図られることともなる。なお、多機能電話機器は一般に、GPSを有していたり、地図情報を保有していることが多い。このため、GPSが取得する緯度経度情報や地図情報に基づけば、支援対象となる車両の位置が特定されたり、支援対象となる車両の走行環境が特定されたりすることが可能である。そして、この特定可能な車両の位置や走行環境に基づけば、第1の時間TTC及び第2の時間TTVの算出も可能となる。また、多機能電話機器は、多くのユーザが所有している。よって、運転支援部120及び支援抑制部150が当該多機能電話機器に設けられることで、適正な運転支援がより多くの場面で実現されることとなる。