JP2014070084A - ポリアミド酸組成物、ポリイミド組成物、積層体、回路基板、その使用方法、積層体の製造方法及び回路基板の製造方法 - Google Patents

ポリアミド酸組成物、ポリイミド組成物、積層体、回路基板、その使用方法、積層体の製造方法及び回路基板の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高温とオイル成分に繰り返し曝される使用環境でも、金属層と樹脂基材との接着力が低下しにくい積層体及び回路基板を提供する。
【解決手段】 ポリアミド酸組成物は、成分(A)重量平均分子量が10,000〜150,000の範囲内にあるポリアミド酸、及び(B)アクリル化合物、を含み、(A)成分100重量部に対して、(B)成分を0.1〜60重量部の範囲内で含有する。(A)成分は、重量1g当たりに存在するラジカル重合性の不飽和結合の量が3mmol以下であり、(B)成分は、[1分子中の(メタ)アクリロイル基の数/分子量]の値が0.001以上である。
【選択図】なし

Description

本発明は、フレキシブルプリント配線板等の製造に利用可能なポリアミド酸組成物、ポリイミド組成物、積層体、回路基板、その使用方法、積層体の製造方法及び回路基板の製造方法に関する。
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、携帯電話等の電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。
自動車においても軽量化を図る観点から、様々な部位、例えば自動車のエンジン周辺(具体的には、エンジン、吸気マニホールド、オルタネーター、ラジエーターなど)や、ギアボックス、トランスミッションなどにおいて、FPCの使用が増加している。
FPCの基材となる絶縁樹脂には、ポリイミドエステルやポリイミドが多く用いられているが、使用量としては耐熱性のあるポリイミドが圧倒的に多い。一方、導電材には、導電性に優れていることから一般に銅箔が用いられている。FPC材料として、例えば特許文献1では、カールの発生を抑えるため、導体と接するボトム層及び導体と反対側のトップ層の中間に線膨張係数が30×10−6(1/℃)以下の低熱膨脹性ポリイミド系の樹脂からなるベース層が配置され、ボトム層とトップ層がベース層よりも高熱膨脹性の熱可塑性ポリイミド系の樹脂からなるフレキシブルプリント配線用基板が提案されている。
また、例えば特許文献2では、湿度環境の変化に対して寸法変化が少ない積層体として、ポリイミド系の樹脂層の少なくとも1層が、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニルを20モル%以上含有するジアミノ化合物をテトラカルボン酸化合物と反応させて得られ、線湿度膨張係数が20×10−6/%RH以下である低湿度膨張性ポリイミド系の樹脂層を有するものが提案されている。
特開2005−259790号公報 国際公開WO2001/028767
自動車用FPCは、繰り返し高温環境に曝されることに加え、オイル(例えば、エンジンオイル、トランスミッション用オイルなど)に接触する機会が多いという特徴を有している。ところが、FPCは繰り返しオイルに曝される間に、樹脂基材と配線層との接着性が低下し、配線層が剥離しやすくなるという問題があった。従って、自動車用FPCに使用される銅張積層体(CCL)などの積層体には、一般的な電気・電子機器に必要とされる特性に加え、高温環境・オイル付着環境でも、金属層と樹脂基材との間で高い接着性を維持できることが求められる。
従って、本発明の目的は、高温とオイル成分に繰り返し曝される使用環境でも、金属層との接着力が低下しにくい樹脂素材を提供することである。
上記のとおり、FPCなどの回路基板が高温環境及びオイル付着環境に繰り返し置かれると、配線層と樹脂基材との接着力が低下する。この接着力低下の機構について調べたところ、オイル中に含まれている硫黄成分が原因であることが推定された。具体的には、オイル由来の硫黄化合物が、例えば銅配線とポリイミド基材との界面に浸入し、そこで銅と硫黄化合物が反応して脆弱な硫化銅層を形成する。この脆弱層内で凝集破壊が起こるため、銅とポリイミド基材間の接着力が低下する。このような機構で生じる接着力の低下(耐油性の低下)について、さらに検討を行ったところ、耐油性を低下させる主な劣化原因化合物は、オイル中に含まれる硫黄化合物の中でも、銅との反応性が非常に高いチオール化合物であると推定された。そこで、本発明では、チオール化合物と銅との反応を抑制するために、ポリイミド中に、チオール化合物に対してアクセプターとして機能するアクリル化合物を添加することによって、ポリイミド中を移動するチオール化合物をブロックし、耐オイル性を向上させ得ることを見出した。
すなわち、本発明のポリアミド酸組成物は、下記の成分(A)及び(B);
(A)重量平均分子量が10,000〜150,000の範囲内にあるポリアミド酸、及び
(B)アクリル化合物、
を含み、前記(A)成分100重量部に対して、前記(B)成分を0.1〜60重量部の範囲内で含有する。本発明のポリアミド酸組成物において、前記(A)成分は、重量1g当たりに存在するラジカル重合性の不飽和結合の量が3mmol以下であり、前記(B)成分は、[1分子中の(メタ)アクリロイル基の数/分子量]の値が0.001以上である。
本発明のポリアミド酸組成物において、前記(B)成分は、[1分子中の(メタ)アクリロイル基の数/分子量]の値が0.003以上であってもよい。
本発明のポリイミド組成物は、上記ポリアミド酸組成物を熱処理して、前記(A)成分をイミド化することにより得られるものである。
本発明の積層体は、金属層と、前記金属層上に形成された絶縁層と、を有する積層体であって、前記絶縁層が、上記ポリイミド組成物の樹脂層を含むものである。
本発明の積層体は、上記ポリイミド組成物の樹脂層が、前記金属層に接して積層されてなるものが好ましい。
本発明の回路基板は、絶縁層と、前記絶縁層上に形成された配線層と、を有する回路基板であって、前記絶縁層が、上記ポリイミド組成物の樹脂層を含むものである。
本発明の回路基板は、上記ポリイミド組成物の樹脂層が、前記配線層に接して積層されてなるものが好ましい。
本発明の回路基板の使用方法は、上記回路基板を、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用する。
本発明の積層体の製造方法は、基材と、前記基材上にポリイミド組成物の樹脂層を含む絶縁層が形成された積層体の製造方法であって、前記基材上に、上記ポリアミド酸組成物を含有する樹脂溶液を塗布し、塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を熱処理して、前記(A)成分をイミド化することにより、ポリイミド組成物の樹脂層を形成する工程と、を備えている。
本発明の回路基板の製造方法は、ポリイミド組成物の樹脂層を含む絶縁層と、前記絶縁層上に形成された配線層と、を有する回路基板の製造方法であって、金属箔上に、上記ポリアミド酸組成物を含有する樹脂溶液を塗布し、塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を熱処理して、前記(A)成分をイミド化することにより、ポリイミド組成物の樹脂層を形成する工程と、前記金属箔をパターニングして前記配線層を形成する工程と、を備えている。
本発明によれば、繰り返し高温環境及びオイル付着環境に置かれても、金属層と樹脂層との接着力が低下しない積層体を形成することができる。また、本発明のポリアミド酸組成物を用いることにより、回路基板等の電子部品の信頼性を向上させることができる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[ポリアミド酸組成物]
本実施の形態のポリアミド酸組成物は、下記の成分(A)及び(B);
(A)重量平均分子量が10,000〜150,000の範囲内にあるポリアミド酸、及び
(B)アクリル化合物、
を含有する。
<(A)成分;ポリアミド酸>
本実施の形態において、(A)成分のポリアミド酸は、ポリイミドの前駆体である。そこで、前駆体であるポリアミド酸と、イミド化後のポリイミドについてまとめて説明する。
本実施の形態において、ポリイミドとしては、例えば芳香族ポリイミド、脂肪族ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂を挙げることができる。
ポリイミドとして、例えば回路基板の基材として適用する場合には、低熱膨張性のポリイミドが好適に利用できる。具体的には、線熱膨張係数(CTE)が1×10−6 〜30×10−6(1/K)の範囲内、好ましくは1×10−6 〜25×10−6(1/K)の範囲内、より好ましくは15×10−6 〜25×10−6(1/K)の範囲内である低熱膨張性のポリイミドである。このようなポリイミドを回路基板の基材として適用すると、回路基板としての反りを抑制できるので有利である。しかし、上記線熱膨張係数を超えるポリイミドも使用可能であり、その場合には金属層との密着性を向上させることができる。
上記低熱膨張性のポリイミドとしては、一般式(1)で現される構造単位を有するポリイミドが好ましい。一般式(1)中、Arは式(2)又は式(3)で表される4価の芳香族基を示し、Arは式(4)又は式(5)で表される2価の芳香族基を示し、Rは独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、X及びYは独立に単結合又は炭素数1〜15の2価の炭化水素基、O、S、CO、SO、SO若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、nは独立に0〜4の整数を示し、qは構成単位の存在モル比を示し、0.1〜1.0の値である。
Figure 2014070084
上記構造単位は、単独重合体中に存在しても、共重合体の構造単位として存在してもよい。構造単位を複数有する共重合体である場合は、ブロック共重合体として存在しても、ランダム共重合体として存在してもよい。このような構造単位を有するポリイミドの中で、好適に利用できるポリイミドは、非熱可塑性のポリイミドである。
ポリイミドは、一般に、ジアミンと酸無水物とを反応させて製造されるので、ジアミンと酸無水物を説明することにより、ポリイミドの具体例が理解される。上記一般式(1)において、Arはジアミンの残基ということができ、Arは酸無水物の残基ということができるので、好ましいポリイミドをジアミンと酸無水物により説明する。しかし、非熱可塑性のポリイミドは、ここで説明するジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
酸無水物としては、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物が好ましく例示される。また、酸無水物として、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物等も好ましく例示される。さらに、酸無水物として、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物等も好ましく例示される。
その他の酸無水物としては、例えば1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等が挙げられる。
ジアミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド等が好ましく例示される。また、ジアミンとしては、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン等が好ましく例示される。
その他のジアミンとして、例えば2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4''-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等が挙げられる。
酸無水物およびジアミンは、それぞれ、その1種のみを使用することもできるし、あるいは2種以上を併用して使用することもできる。また、上記一般式(1)に含まれないその他の酸無水物又はジアミンを上記の酸無水物又はジアミンと共に使用することもでき、この場合、上記一般式(1)に含まれない酸無水物又はジアミンの使用割合は90モル%以下、好ましくは50モル%以下とすることがよい。酸無水物又はジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度(Tg)等を制御することができる。
ポリイミドとして、熱可塑性のポリイミドを用いることもできる。熱可塑性のポリイミドは、例えば回路基板の配線層と絶縁層との接着層として適用する場合に好適に利用できる。熱可塑性のポリイミドの前駆体に使用されるポリアミド酸としては、一般式(6)で表される構造単位を有するポリアミド酸が好ましい。一般式(6)において、Arは式(7)、式(8)又は式(9)で表される2価の芳香族基を示し、Arは式(10)又は式(11)で表される4価の芳香族基を示し、Rは独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、V及びWは独立に単結合又は炭素数1〜15の2価の炭化水素基、O、S、CO、SO若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、mは独立に0〜4の整数を示し、pは構成単位の存在モル比を示し、0.1〜1.0の値である。
Figure 2014070084
上記一般式(6)において、Arはジアミンの残基ということができ、Arは酸無水物の残基ということができるので、好ましい熱可塑性のポリイミドをジアミンと酸無水物により説明する。しかし、熱可塑性のポリイミドは、ここで説明するジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
熱可塑性のポリイミドの形成に好適に用いられるジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。その他、上記非熱可塑性のポリイミドの説明で挙げたジアミンを挙げることができる。
熱可塑性のポリイミドの形成に好適に用いられる酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物が挙げられる。その他、上記非熱可塑性のポリイミドの説明で挙げた酸無水物を挙げることができる。
熱可塑性のポリイミドの形成に好適に用いられるジアミンおよび酸無水物は、それぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。また、上記以外のジアミン及び酸無水物を併用することもできる。
熱可塑性のポリイミドの前駆体であるポリアミド酸において、式(6)で表される構造単位は、単独重合体中に存在しても、共重合体の構造単位として存在してもよい。構造単位を複数有する共重合体である場合は、ブロック共重合体として存在しても、ランダム共重合体として存在してもよい。式(6)で表される構造単位は複数であるが、1種であっても2種以上であってもよい。有利には、式(6)で表される構造単位を主成分とすることであり、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上含む前駆体であることがよい。
ポリイミドは、その前駆体であるポリアミド酸をイミド化(硬化)することによって形成することができる。低熱膨張性又は熱可塑性のポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の合成は、上記酸無水物とジアミンを溶媒中で反応させることにより行うことができる。使用する溶媒については、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、n−メチルピロリジノン、2−ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。ポリアミド酸の合成は、酸無水物とジアミンのモル比(酸無水物のモル数/ジアミンのモル数)を1より大きくすることが好ましい。酸無水物を過剰に仕込むことによって、ポリアミド酸がアミン末端を持たない構造とすることが可能になり、アクリル化合物との反応性を抑制することができる。
(A)成分のポリアミド酸は、ポリアミド酸溶液として使用される。通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、(A)成分のポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、アクリル化合物との混合も容易である。
また、(A)成分のポリアミド酸は、アクリル化合物との反応を抑制するため、その分子骨格中にラジカル重合性不飽和結合を含有しないか、その含有量が少ないものが好ましい。具体的には、ポリアミド酸は、重量1g当たりに存在するラジカル重合性不飽和結合の量が好ましくは3mmol以下、より好ましくは2.5mmol以下がよい。このように、ポリアミド酸中に含まれるラジカル重合性不飽和結合の量を低く抑えることによって、アクリル化合物がポリアミド酸と反応して消費されてしまうことを抑制できるため、アクリル化合物を硫黄化合物のトラップ手段として効果的に機能させることができる。ここで、ラジカル重合性不飽和結合を有する官能基としては、(メタ)アクリル基、ビニル基又はアリル基を末端又は側鎖に有する1価の有機基などである。
また、ポリアミド酸において、重量1g当たりに存在するラジカル重合性不飽和結合の量を3mmol/g以下に抑制するための酸無水物とジアミンの組み合わせは、特に限定されないが具体例を挙げると、好ましい酸無水物として例えば無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-、2,3,3’,4’-又は3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、好ましいジアミンとして2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを挙げることができる。
ポリアミド酸溶液としては、市販品も好適に使用可能であり、例えば宇部興産株式会社製の非熱可塑性ポリアミド酸ワニスであるU-ワニス-A(商品名)、同U-ワニス-S(商品名)、新日鐵化学株式会社製の熱可塑性ポリアミド酸ワニスSPI−200N(商品名)、同SPI−300N(商品名)、同SPI−1000G(商品名)、東レ株式会社製のトレニース#3000(商品名)等が挙げられる。
(A)成分のポリアミド酸は、求核剤として作用し得るアミン末端を少なくしてアクリル化合物との反応を抑制する観点から、重量平均分子量が10,000以上であることが好ましく、10,000〜150,000の範囲内が好ましい。また、重量平均分子量を10,000以上とすることによって、分子鎖の運動性を低下させ、アミン末端の求核性を低下させる効果も期待できる。
<(B)成分;アクリル化合物>
本実施の形態において、アクリル化合物には、メタアクリル化合物を含む。アクリル化合物としては、金属を硫化(酸化)させる硫黄含有基を持たないものが好ましい。より具体的には、例えばチオール基のように、金属に対して酸化剤として作用する(硫化する)官能基は含まないことが好ましい。ただし、主鎖中に−SO−のように存在する硫黄含有基は、酸化剤としての機能を持たないため使用しても差し支えない。
アクリル化合物としては、例えば、[1分子中の(メタ)アクリロイル基の数/分子量]の値が0.001以上、好ましくは、0.003以上であるアクリル化合物が好ましい。上記値が0.001未満では、発明の効果を発現させるために必要なアクリル添加量が大きくなり、ポリイミドが本来有している耐熱性等の特長が低下する可能性がある。このような観点から、アクリル化合物としては、分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する多官能のアクリル化合物が好ましい。
アクリル化合物の具体例としては、例えば、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、2−メトキシエトキシエチルアクリレート、2−エトキシエトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、グリシジルアクリレート、アリルアクリレート、エトキシアクリレート、メトキシアクリレート、N,N’−ジメチルアミノエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、ジシクロペンタジエニルアクリレート、ジシクロペンタジエンエトキシアクリレート等のモノアクリレートや、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール200ジアクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレート、ポリエチレングリコール600ジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ビス(アクリロキシエトキシ)ビスフェノールA、ビス(アクリロキシエトキシ)テトラブロモビスフェノールA、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート等の多官能アクリレートなどを用いることが可能である。上記例示のアクリル化合物の中でも、2官能以上のアクリル化合物が好ましく、例えば、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレートを挙げることができる。
アクリル化合物としては、市販品を好ましく利用できる。市販品としては、例えば、日本化薬株式会社製KAYARAD D−310、D−330、DPHA、DPCA−20、DPCA−30、DPCA−60、DPCA−120、DN−0075、DN−2475、SR−295、SR−355、SR−399E、SR−494、SR−9041、SR−368、SR−415、SR−444、SR−454、SR−492、SR−499、SR−502、SR−9020、SR−9035、SR−111、SR−212、SR−213、SR−230、SR−259、SR−268、SR−272、SR−344、SR−349、SR−601、SR−602、SR−610、SR−9003、PET−30、T−1420、GPO−303、TC−120S、HDDA、NPGDA、TPGDA、PEG400DA、MANDA、HX−220、HX−620、R−551、R−712、R−167、R−526、R−551、R−712、R−604、R−684、TMPTA、THE−330、TPA−320、TPA−330、KS−HDDA、KS−TPGDA、KS−TMPTA、東亞合成株式会社製アロニックスM−400、M−404、M−408、M−450、M−305、M−309、M−310、M−315、M−320、M−350、M−360、M−208、M−210、M−215、M−220、M−225、M−233、M−240、M−245、M−260、M−270、M−1100、M−1200、M−1210、M−1310、M−1600、M−221、M−203、TO−924、TO−1270、TO−1231、TO−595、TO−756、TO−1343、TO−902、TO−904、TO−905、TO−1330、共栄社化学株式会社製ライトアクリレート PE−4A、DPE−6A、DTMP−4A、大阪有機化学工業株式会社製PhSEA、ビスコート#802等を挙げることができる。
<配合比率>
本実施の形態のポリアミド酸組成物は、上記(A)成分のポリアミド酸100重量部に対し、(B)成分のアクリル化合物を0.1〜60重量部の範囲内で含有するものであり、1〜20重量部の範囲内がより好ましく、1〜10重量%の範囲内が最も好ましい。アクリル化合物の配合比率が、ポリアミド酸100重量部に対し0.1重量部未満では、硫黄化合物をトラップする効果が十分に得られない。アクリル化合物の配合比率が60重量部を超えると、アクリル化合物どうしの重合反応が生じやすくなり、オイル成分由来の硫黄化合物をトラップする効果が低下する場合がある。
<溶媒>
また、本実施の形態のポリアミド酸組成物は、さらに溶媒を含有することも可能である。溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
<ポリアミド酸組成物の調製>
ポリアミド酸組成物は、上記(A)成分のポリアミド酸と(B)成分のアクリル化合物を上記配合比率で仕込み、混合することによって調製される。ポリアミド酸組成物の調製にあたっては、必要によって溶媒を用いることが好ましい。
[ポリイミド組成物]
本実施の形態のポリイミド組成物は、ポリアミド酸組成物を熱処理して、(A)成分のポリアミド酸をイミド化することにより得られるものである。イミド化の方法は、特に制限されず、例えば、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間加熱するといった熱処理が好適に採用される。
本実施の形態のポリイミド組成物において、アクリル化合物は、ポリイミド中に非結合状態で存在するものと考えられる。ここで、「非結合状態」とは、アクリル化合物の官能基がポリイミドとの間で結合を形成しておらず、アクリル化合物が配合時の状態を維持していることを意味する。ただし、ポリアミド酸中に混合されたアクリル化合物の全量が、ポリイミド中で非結合状態を維持している必要はなく、ポリイミドとの間で結合を形成したアクリル化合物が存在してもよい。このような観点から、例えば(A)成分のポリアミド酸が、その分子骨格中にラジカル重合性不飽和結合を含有しない場合、アクリル化合物の量は、ポリアミド酸組成物の重量1g当たりに存在する(メタ)アクリロイル基の量として好ましくは0.096mmol以上、3.0mmol以下、より好ましくは0.15mmol以上2.5mmol以下とすることがよい。重量1g当たりに存在する(メタ)アクリロイル基の量が0.096mmol未満では、硫黄化合物をトラップする効果が十分に得られない場合があり、3.0mmolを超えると、ポリイミド組成物を樹脂層として用いた積層体や回路基板の耐油性が低下するおそれがある。
[積層体及び回路基板]
本実施の形態の積層体は、金属箔上に、上記ポリイミド組成物の樹脂層が積層されてなるものである。積層体の具体例としては、例えば銅張積層体(CCL)などの金属張積層体を挙げることができる。また、本実施の形態の回路基板は、絶縁層と、絶縁層上に形成された配線層と、を有する回路基板であって、絶縁層が、上記ポリイミド組成物の樹脂層を含むものである。本実施の形態の積層体及び回路基板において、ポリイミド組成物の樹脂層は、金属層(配線層を含む)に接した状態で積層して用いることが好ましい。
本実施の形態の積層体及び回路基板における金属箔や配線層の材質としては、特に制限はないが、例えば銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。
本実施の形態の積層体及び回路基板は、後記実施例に示したように、硫黄含有有機化合物を含有する150℃のオイル中に浸漬し、例えば250時間以上経過後も、金属層と樹脂層との間で高い接着力を維持することができる。本実施の形態において、アクリル化合物は、硫黄含有有機化合物を捕捉するトラップ手段として作用するものである。
[回路基板の使用方法]
本実施の形態の回路基板の使用方法は、上記回路基板を、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用する。ここで、硫黄含有有機化合物を含有するオイルとしては、例えばエンジンオイル、トランスミッションオイルなどを挙げることができる。また、硫黄含有有機化合物としては、例えば、ベンゾチアゾールなどのチオール化合物を挙げることができる。上記オイル中における本実施の形態の回路基板の使用温度は、例えば常温から200℃程度である。
[積層体及び回路基板の製造方法]
本実施の形態において、ポリイミドを使用する以外、回路基板を作成する方法は問われない。例えば、ポリイミドの樹脂層と金属層で構成される積層体を用意し、この金属層をエッチングして配線を形成する方法(サブトラクティブ法)でもよい。また、ポリイミドの樹脂層上にシード層を形成した後、レジストをパターン形成し、さらに金属をパターンメッキすることにより配線形成を行う方法(セミアディティブ法)でもよい。
サブトラクティブ法に用いる積層体は、例えばポリイミドによって構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えばメッキによって金属層を形成して積層体を調製してもよい。また、ポリイミドによって構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属箔を熱圧着などの方法でラミネートして積層体を形成してもよい。さらに、金属箔の上にポリアミド酸とアクリル化合物を含有する塗布液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、熱処理してイミド化することによってポリイミドの樹脂層を形成し積層体を調製してもよい。
以下、代表的にキャスト法とサブトラクティブ法との組み合わせの場合を例に挙げて本実施の形態の回路基板の製造方法について、具体的に説明する。
まず、積層体の製造は、
(1)金属箔などの基材上に、ポリアミド酸組成物を含有する樹脂溶液を塗布し、塗布膜を形成する工程と、
(2)塗布膜を熱処理して、(A)成分のポリアミド酸をイミド化することによりポリイミド組成物の樹脂層を形成する工程と、を含むことができる。
また、回路基板の製造は、上記(1)、(2)の工程に加え、さらに、
(3)積層体の金属箔をパターニングして配線層を形成する工程と、を含むことができる。
(1)金属箔などの基材上に、ポリアミド酸組成物を含有する樹脂溶液を塗布し、塗布膜を形成する工程:
基材としての金属箔は、カットシート状、ロール状のもの、又はエンドレスベルト状などの形状で使用できる。生産性を得るためには、ロール状又はエンドレスベルト状の形態とし、連続生産可能な形式とすることが効率的である。さらに、回路基板における配線パターン精度の改善効果をより大きく発現させる観点から、銅箔は長尺に形成されたロール状のものが好ましい。
塗布膜を形成する方法は、ポリアミド酸組成物の溶液を金属箔の上に直接塗布するか、又は金属箔に支持されたポリイミド層の上に塗布した後に乾燥することで形成できる。塗布する方法は特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
ポリイミド組成物の樹脂層は、単層でもよいし、複数層からなるものでもよい。ポリイミド層を複数層とする場合、異なる構成成分からなる前駆体の層の上に他の前駆体を順次塗布して形成することができる。前駆体の層が3層以上からなる場合、同一の構成の前駆体を2回以上使用してもよい。また、前駆体の層の厚み(乾燥後)は、3〜100μmの範囲内、好ましくは3〜50μmの範囲内にあることがよい。ポリアミド酸組成物の溶液を塗布する本実施の形態の方法では、塗布膜の厚みを自由に調節することが可能である。
ポリイミド組成物の樹脂層を複数層とする場合、金属層に接するポリイミド組成物の樹脂層が熱可塑性のポリイミドの樹脂層となるように前駆体の層を形成することが好ましい。熱可塑性のポリイミドを用いることで、金属層との密着性を向上させることができる。このような熱可塑性のポリイミドは、ガラス転移温度(Tg)が350℃以下であるものが好ましく、より好ましくは200〜320℃である。
また、単層又は複数層の前駆体の層を一旦イミド化して単層又は複数層のポリイミド層とした後に、更にその上に前駆体の層を形成することも可能である。
(2)塗布膜を熱処理して、(A)成分のポリアミド酸をイミド化することによりポリイミド組成物の樹脂層を形成する工程:
イミド化の方法は、特に制限されず、例えば、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間加熱するといった熱処理が好適に採用される。金属箔の酸化を抑制するため、低酸素雰囲気下での熱処理が好ましく、具体的には、窒素又は希ガスなどの不活性ガス雰囲気下、水素などの還元ガス雰囲気下、あるいは真空中で行うことが好ましい。熱処理により、塗布膜中のポリアミド酸がイミド化し、ポリイミドが形成される。この際、塗布膜中に含まれる上記(B)成分のアクリル化合物の大部分はポリアミド酸とは反応せず、非結合状態でポリイミド中に移行し、ポリイミド組成物を形成するものと考えられる。このようにして、ポリイミド組成物の樹脂層(単層又は複数層)と金属箔とを有する積層体を製造することができる。
(3)得られた積層体の金属箔をパターニングして配線層を形成する工程:
本工程では、金属箔を所定形状にエッチングすることによってパターン形成し、配線層に加工する。エッチングは、例えばフォトリソグラフィー技術などを利用する任意の方法で行うことができる。
なお、以上の説明では、本実施の形態の回路基板の製造方法の特徴的工程のみを説明した。すなわち、回路基板を製造する際に、通常行われる上記以外の工程、例えば前工程でのスルーホール加工や、後工程の端子メッキ、外形加工などの工程は、常法に従い行うことができる。
以上のように、本実施の形態のポリイミド組成物により、繰り返し高温環境及びオイル付着環境に置かれても、金属箔と樹脂層との接着力が低下しない積層体を形成することができる。また、本実施の形態のポリイミドを用いることにより、回路基板の信頼性を向上させることができる。本実施の形態の回路基板は、例えば、自動車のエンジン、吸気マニホールド、オルタネーター、ラジエーターや、ギアボックス、トランスミッションなどのオイルが付着しやすい高温環境で使用される機器において、FPC等の用途で好ましく利用できるが、オイルが付着しない環境で使用される機器に適用することも可能である。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
[接着強度の測定]
接着強度は、幅10mm、長さ100mmに切り出した評価サンプルを、引張試験機(東洋精機株式会社製、ストログラフ−M1)を用いて、180°方向に50mm/分の速度で、銅箔とポリイミド間を引き剥がす時の力を接着強度とした。
[硫黄濃度の測定]
硫黄濃度(以下、「S濃度」と記すことがある)は、評価サンプルの銅とポリイミド間を引き剥がした後の銅箔側の剥離面のエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)分析により、得た。
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。
BAPP:2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン
m−TB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
TPE−R:1,3’−ビスアミノフェノキシベンゼン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
合成例1〜2:
ポリアミド酸A、Bを合成するため、窒素気流下で、表1に示したジアミンを、200mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAcに溶解させた。次いで、表1に示したテトラカルボン酸二無水物を加えた。その後、溶液を室温で5時間攪拌を続けて重合反応を行い、一昼夜保持した。粘稠なポリアミド酸溶液が得られ、高重合度のポリアミド酸が生成されていることが確認された。得られたポリアミド酸A、Bの溶液(以下、ポリアミド酸溶液A、Bという)の固形分と溶液粘度を表1に示した。
Figure 2014070084
実施例1
合成例1で得られたポリアミド酸溶液Aの固形分100重量部に対し、アクリル化合物(日本化薬株式会社製、商品名;KAYARAD PET−30)を5重量部相当(アクリロイル基として0.56mmol/g)の0.63gを混合し、2時間室温にて攪拌させて、ポリアミド酸組成物1を調製した。銅箔上にポリアミド酸組成物1を硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した後、その上に合成例2で得られたポリアミド酸溶液Bを硬化後の厚みが21μmとなるように塗布し、125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、130℃、145℃、160℃、210℃、280℃、320℃、360℃で各1〜15分間段階的な熱処理を行って、銅箔上に3層のポリイミド層からなる配線基板用積層体1を作製した。銅箔上のポリイミド層の厚みは、銅箔側から順に2μm/21μm/2μmである。配線基板用積層体1を10cm×3cmにカットした後、銅箔が9cm×2cmとなるように銅箔をエッチングし、銅側に10cm×3cmのカバーレイ(新日鐵化学株式会社製、商品名;エスパネックスSPC)を熱圧着して評価サンプル1を作製した。評価サンプル1の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.3kN/mであった。なお、ポリアミド酸Aをイミド化して得られるポリイミドは熱可塑性であり、ポリアミド酸Bをイミド化して得られるポリイミドは非熱可塑性である。
次に評価サンプル1に対し、オーブンでマツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理を行った。熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)を測定したところ、0.82kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は0.4%であった。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、0.18kN/mであった。結果を表2に示す。
実施例2
ポリアミド酸溶液Aの固形分100重量部に対して、アクリル化合物を10重量部相当(アクリロイル基として1.17mmol/g)の1.25gを混合したこと以外、実施例1と同様の方法でポリアミド酸組成物2を得た後、配線基板用積層体2を得、評価サンプル2を得た。評価サンプル2の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.3kN/mであった。また、マツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)は0.56kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は5%であった。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、0.11kN/mであった。結果を表2に示す。
実施例3
ポリアミド酸溶液Aの固形分100重量部に対して、アクリル化合物を20重量部相当(アクリロイル基として2.34mmol/g)の2.50gを混合したこと以外、実施例1と同様の方法でポリアミド酸組成物3を得た後、配線基板用積層体3を得、評価サンプル3を得た。評価サンプル3の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.3kN/mであった。また、マツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)は0.5kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は5%であった。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、0kN/mであった。結果を表2に示す。
比較例1
銅箔上にポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した次に、その上に合成例1で得られたポリアミド酸溶液Bを硬化後の厚みが21μmとなるように塗布し、125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、130℃、145℃、160℃、210℃、280℃、320℃、360℃で各1〜15分間段階的な熱処理を行って、銅箔上に3層のポリイミド層からなる配線基板用積層体4を作成した。そして、実施例1と同様に配線基板用積層体4から評価サンプル4を得た。評価サンプル4の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.3kN/mであった。また、マツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)は0.12kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は7%であった。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、0kN/mであった。結果を表2に示す。
Figure 2014070084
本発明のポリアミド酸組成物を使用した実施例1〜3では、150℃のオイル中での長期耐油性試験の結果、オイル中に250時間浸漬した時点での接着強度2がアクリル化合物を添加しないサンプル(比較例1)と比較して、約4〜7倍の0.5〜0.82kN/mを示した。そして、実施例1〜3では、剥離面の銅箔側の硫黄成分量が0.4〜5%であり、比較例1の7%よりも低減できた。さらに、150℃のオイル中に1,000時間浸漬後の接着強度3は、比較例1が接着強度を失った(0kN/m)のに対し、アクリル化合物を5〜10重量部添加した実施例1、2では、0.11〜0.18kN/mの接着強度を保持し、アクリル化合物の添加による耐油性の向上が見られた。
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。例えば、上記実施の形態では、本発明のポリイミドの用途として、FPCなどの回路基板の基材を例に挙げたが、上記以外の用途、例えば回路基板の配線層を覆うカバーレイフィルム本体やカバーレイフィルム用の接着剤層、テープオートメーティッドボンディング(TAB)、チップサイズパッケージ(CSP)等における接着用樹脂などにも利用できる。

Claims (10)

  1. 下記の成分(A)及び(B);
    (A)重量平均分子量が10,000〜150,000の範囲内にあるポリアミド酸、及び
    (B)アクリル化合物、
    を含み、前記(A)成分100重量部に対して、前記(B)成分を0.1〜60重量部の範囲内で含有するポリアミド酸組成物であって、
    前記(A)成分は、重量1g当たりに存在するラジカル重合性の不飽和結合の量が3mmol以下であり、
    前記(B)成分は、[1分子中の(メタ)アクリロイル基の数/分子量]の値が0.001以上であるポリアミド酸組成物。
  2. 前記(B)成分は、[1分子中の(メタ)アクリロイル基の数/分子量]の値が0.003以上である請求項1に記載のポリアミド酸組成物。
  3. 請求項1に記載のポリアミド酸組成物を熱処理して、前記(A)成分をイミド化することにより得られるポリイミド組成物。
  4. 金属層と、前記金属層上に形成された絶縁層と、を有する積層体であって、
    前記絶縁層が、請求項3に記載のポリイミド組成物の樹脂層を含む積層体。
  5. 前記ポリイミド組成物の樹脂層が、前記金属層に接して積層してなる請求項4に記載の積層体。
  6. 絶縁層と、前記絶縁層上に形成された配線層と、を有する回路基板であって、
    前記絶縁層が、請求項3に記載のポリイミド組成物の樹脂層を含む回路基板。
  7. 前記ポリイミド組成物の樹脂層が、前記配線層に接して積層してなる請求項6に記載の回路基板。
  8. 請求項6又は7に記載の回路基板を、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用する回路基板の使用方法。
  9. 基材と、前記基材上にポリイミド組成物の樹脂層を含む絶縁層が形成された積層体の製造方法であって、
    前記基材上に、請求項1に記載のポリアミド酸組成物を含有する樹脂溶液を塗布し、塗布膜を形成する工程と、
    前記塗布膜を熱処理して、前記(A)成分をイミド化することにより、ポリイミド組成物の樹脂層を形成する工程と、
    を備える積層体の製造方法。
  10. ポリイミド組成物の樹脂層を含む絶縁層と、前記絶縁層上に形成された配線層と、を有する回路基板の製造方法であって、
    金属箔上に、請求項1に記載のポリアミド酸組成物を含有する樹脂溶液を塗布し、塗布膜を形成する工程と、
    前記塗布膜を熱処理して、前記(A)成分をイミド化することにより、ポリイミド組成物の樹脂層を形成する工程と、
    前記金属箔をパターニングして前記配線層を形成する工程と、
    を備える回路基板の製造方法。
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