以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂
本発明で用いられる(a)PPS樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また(a)PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形性の点で有利となる。
本発明で用いられる(a)PPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、より優れた引張破断伸度を得る意味からその溶融粘度は高い方が好ましい。例えば80Pa・s(310℃、剪断速度1000/s)を越える範囲が好ましく、100Pa・s以上がさらに好ましく、150Pa・s以上がさらに好ましい。上限については溶融流動性保持の点から600Pa・s以下であることが好ましい。
なお、本発明における溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機製キャピログラフを用いて測定した値である。
以下に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造の(a)PPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではない。
まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ-p-キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度の(a)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選ばれる。
[分子量調節剤]
生成する(a)PPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
[重合助剤]
比較的高重合度の(a)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られる(a)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
次に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、勿論この方法に限定されるものではない。
[前工程]
(a)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(a)PPS樹脂を製造する。
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選ばれる。
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(A)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)−PHA過剰量(モル)〕
(B)上記(A)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕
[回収工程]
(a)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用しても良い。
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いても良い。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm2以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選ばれる。
[後処理工程]
(a)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
酸処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、(a)PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のような(a)PPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、PH4の水溶液を80〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のPHは4以上例えばPH4〜8程度となっても良い。酸処理を施された(a)PPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
熱水処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満では(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
熱水洗浄による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量の(a)PPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。(a)PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、(a)PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
また、処理の雰囲気は、末端基の分解が好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えた(a)PPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、(a)PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒で(a)PPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
アルカリ金属、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合行程前、重合行程中、重合行程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でももっとも容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属導入の際のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
本発明においては、低温での引張破断伸度に極めて優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、酸処理もしくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が好ましい。
その他、(a)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5〜100時間が好ましく、1〜50時間がより好ましく、2〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
但し、本発明の(a)PPS樹脂は、優れた低温下での引張伸度を発現する観点から、熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPS樹脂であることが好ましい。その一方で、熱酸化架橋処理を施したPPS樹脂は、クリープ歪みを小さく抑制する観点からは好適であり、適宜、直線状のPPS樹脂と混合して使用することも可能である。また、本発明では、溶融粘度の異なる複数の(a)PPS樹脂を混合して使用しても良い。
本発明の(a)PPS樹脂は、(b)官能基を含有するオレフィン系樹脂や(d)官能基を含有する化合物との反応を促進し、低温での靱性を向上する観点から、また、水素結合等の分子間相互作用により分子鎖の滑りを防止してクリープ歪みを小さく抑制する観点から、カルボキシル基およびその誘導体基を含むことも好ましい態様として挙げられる。(a)PPS樹脂中に、カルボキシル基およびその誘導体基を導入する方法としては、カルボキシル基およびその誘導体基を含むポリハロゲン化芳香族化合物を共重合する方法や、カルボキシル基およびその誘導体基を含む化合物、例えば無水マレイン酸、ソルビン酸などを添加して、(a)PPS樹脂と溶融混練しながら反応せしめることにより導入する方法などを例示できる。
(b)エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系共重合体
本発明で用いられる(b)エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系共重合体は、オレフィン重合体もしくはオレフィン共重合体にエポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体である。
オレフィン重合体もしくは共重合体の例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンなどのα−オレフィン単独または2種以上を重合して得られる重合体、α−オレフィンとアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα、β−不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステルとの共重合体などが挙げられる。
エポキシ基を導入するための官能基含有成分の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
カルボキシル基およびその塩、酸無水物基を導入するための官能基含有成分の例としては、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物などの酸無水物基を含有する単量体などが挙げられる。
これらのエポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基含有成分を導入する方法は特に制限はなく、重合時に共重合せしめたり、オレフィン重合体もしくはオレフィン共重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。
エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基を含有する単量体成分の導入量は、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系共重合体全体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが好ましい。
本発明で特に有用なエポキシ基を含有するオレフィン系共重合体としては、α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン共重合体が好ましく挙げられる。上記α−オレフィンとしては、エチレンが好ましく挙げられる。また、これら共重合体にはさらに、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル等を共重合することも可能である。
本発明においては、α−オレフィン80〜99重量%とα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル1〜20重量%を必須共重合成分とするオレフィン共重合体が好ましく、α−オレフィン90〜99重量%とα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル1〜10重量%を必須共重合成分とするオレフィン共重合体が特に好ましい。
上記α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルは、
(Rは水素原子または低級アルキル基を示す)で示される化合物であり、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルおよびエタクリル酸グリシジルなどが挙げられるが、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。中でも、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体から選ばれた共重合体が好ましく用いられる。
本発明で特に有用なカルボキシル基、酸無水物基を含有するオレフィン系共重合体としては、炭素数6〜12のα−オレフィンを用いたエチレン・α−オレフィン共重合体に、カルボキシル基、酸無水物基が導入されたものが好ましく、中でもエチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体にカルボキシル基、酸無水物基が導入されたものがより好ましい。
本発明の(b)エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系共重合体は、ASTM−D1238に従って190℃、2160g荷重で測定したメルトフローレート(以下MFRと略す)が、0.01〜70g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜60g/10分である。MFRが0.01g/10分未満の場合は、樹脂組成物の流動性が低くなり、好ましくない。MFRが70g/10分を超える場合は、成形品の形状によっては、その衝撃強度が低くなる場合もあり好ましくない。
本発明の(b)エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系共重合体の密度は850〜990kg/m3が好ましい。密度が990kg/m3を越えると靭性が低下する傾向を示し、好ましくない。密度が850kg/m3未満ではハンドリング性が低下するため好ましくない。
(c)エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られる官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体
本発明の(c)エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られる官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体は、エチレンおよび炭素数3〜20を有する少なくとも1種のα−オレフィンを構成成分とする共重合体である。上記の炭素数3〜20のα−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも炭素数4から12であるα−オレフィンを用いた共重合体、とりわけエチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体が、低温下における引張伸度の更なる向上、改質効果の一層の向上が認められるためより好ましい。
本発明の(c)エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られる官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体は、ASTM−D1238に従って190℃、2160g荷重で測定したメルトフローレート(以下MFRと略す)が、0.01〜50g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜40g/10分である。MFRが0.01g/10分未満の場合は、樹脂組成物の流動性が低くなり、好ましくない。MFRが50g/10分を超える場合は、成形品の形状によっては、その衝撃強度が低くなる場合もあり好ましくない。
本発明の(c)エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られる官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体の密度は800〜920kg/m3が好ましい。密度が920kg/m3を越えると低温耐衝撃性が発現し難く、好ましくない。密度が800kg/m3未満ではハンドリング性が低下するため好ましくない。
(d)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される少なくとも1種の官能基を含有する化合物
本発明の(d)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される少なくとも1種の官能基を含有する化合物の内、エポキシ基を有する化合物(但し、オレフィン系樹脂を除く)としては、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5,−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビスフェノール類のグリシジルエーテル、ビスフェノールの替わりにハロゲン化ビスフェノールを用いたもの、ブタンジオールのジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系化合物等々のグリシジルエポキシ樹脂、エポキシ化大豆油等の線状エポキシ化合物、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の環状系の非グリシジルエポキシ樹脂などが挙げられる。
また、その他ノボラック型エポキシ樹脂も挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂はエポキシ基を2個以上有し、通常ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて得られるものである。また、ノボラック型フェノール樹脂はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる。原料のフェノール類としては特に制限はないがフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、レゾルシノール、p−ターシャリーブチルフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールSおよびこれらの縮合物が挙げられる。
前記したエポキシ基を有する化合物(但し、オレフィン系樹脂を除く)のより好適な例としては、一分子中にエポキシ基を4個以上有する化合物が挙げられ、更に具体的には、一分子中に8個以上のエポキシ基を有するエポキシクレゾールノボラック樹脂(例えば、日本化薬(株)製EOCN−104Sなど)や、一分子中に4個のエポキシ基を有する特殊多官能エポキシ樹脂(例えば、ジャパンエポキシレジン(株)製“エピコート”1031Sなど)が、より優れた低温靱性を発現する上で好ましい他、熱処理を施しても結晶化度の変化が起こりにくく、低温での引張伸度が高い値で保持される点で好ましい。さらに、これら一分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物は、(a)PPS樹脂や(b)官能基を含有するオレフィン系樹脂と反応することにより、分子間の滑りが抑制され、クリープ歪みを小さく抑制できる点でも好ましく用いられる。
その他、エポキシ基を有する化合物としては、一分子中にエポキシ基を1個以上有し、アルコキシ基を2個あるいは3個有するシラン化合物が挙げられる。例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが例示できる。これらエポキシ基を有するシラン化合物もまた、より優れた低温靱性を発現する上で好ましい他、熱処理を施しても結晶化度の変化が起こりにくく、低温での引張伸度が高位で保持される点で好ましい。また、エポキシ基を有するシラン化合物は、(a)PPS樹脂や(b)官能基を含有するオレフィン系樹脂とシランカップリング反応を介して反応することにより、分子間の滑りを防止することができ、クリープ歪みを小さく抑制できる点でも好ましく用いられる。
本発明の(d)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される少なくとも1種の官能基を含有する化合物の内、アミノ基を有する化合物としては、一分子中にアミノ基を1個以上有し、アルコキシ基を2個あるいは3個有するシラン化合物が挙げられる。例えば、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが例示できる。
本発明の(d)エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される少なくとも1種の官能基を含有する化合物の内、イソシアネート基を有する化合物としては、一分子中にイソシアネート基を1個以上有し、アルコキシ基を2個あるいは3個有するシラン化合物を挙げることができる。例えば、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシランなどが挙げられる。
以上の中でも安定して優れた低温靱性を発現する上で、エポキシシクロヘキシル基またはイソシアネート基を有するアルコキシシラン化合物が好ましく、さらにイソシアネート基を含有するアルコキシシラン化合物であることがより好ましい。
(e)ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂から選択される少なくとも1種の非晶性樹脂
本発明で用いられるポリエーテルイミド樹脂とは、脂肪族、脂環族または芳香族系のエーテル単位と環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリマーである。溶融成形性を有するポリマーで有れば特に限定されない。また、本発明の効果を阻害しない範囲で有れば、ポリエーテルイミドの主鎖に環状イミド、エーテル結合以外の構造単位、例えば、エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されていても良い。
具体的なポリエーテルイミドとしては、下記一般式で示されるポリマーが好ましく使用される。
ただし、上記式中R1は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、R2は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、2〜20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、および2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基である。上記R1およびR2としては、例えば、下記式群から選ばれた基が好ましく使用される。
本発明では、溶融成形性やコストの観点から、下記式で示される構造単位を有する、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物が好ましく使用される。このポリエーテルイミドは、“ウルテム”(登録商標)の商品名で、SABICイノベーティブプラスチックス社より入手可能であり、「Ultem(登録商標)1000」、「Ultem(登録商標)1010」、「Ultem(登録商標)1040」、「Ultem(登録商標)5000」、「Ultem(登録商標)6000」および「Ultem(登録商標)XH6050」シリーズや「Extem(登録商標) XH」および「Extem(登録商標) UH」の商品名で知られているものである。
ポリエーテルイミド樹脂の分子量には特に制限はないが、GPC−MALLSで測定した重量平均分子量で、好ましくは3万〜12万、より好ましくは4万〜11万、とりわけ好ましくは5万〜10万の範囲のPEI樹脂を用いることが、PPS樹脂中への高度な微分散が可能となり、より優れた靱性、特に低温でも優れた靱性を発現すること、および高温クリープ特性が大幅に向上することから好ましい。重量平均分子量が3万未満のPEI樹脂では、得られる成形品の強度が低下するとともに、PPS樹脂中への高度な微分散の達成が困難である。また、重量平均分子量が12万を超えるPEI樹脂では、流体配管部材などの成形品を射出成形により製造する場合に、流動加工性の面で劣る傾向にある。
なお、ここで言う重量平均分子量とは、PEI樹脂をジメチルホルムアミドに溶解させ、ジメチルホルムアミドを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて、重量平均分子量(絶対分子量)を測定した値を示す。
本発明で用いられるポリエーテルスルホン樹脂とは、芳香族基がスルホン基およびエーテル基により結合された骨格を有するものを総称する。例えば、下記一般式(1)〜(3)からなる群より選ばれる少なくとも一種の繰り返し単位からなるポリエーテルスルホンが挙げられる。
式(1)中、Ar1およびAr2は同一または異なる炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。式(2)中、Ar3〜Ar6は同一または異なる炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、Xは炭素数1〜15の二価の炭化水素基である。式(3)中、Ar7〜Ar9は同一または異なる炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。
ここで、式(1)において好適なAr1およびAr2としては炭素数6〜12のアリーレン基であり、炭素数6〜10のアリーレン基がより好適である。具体的には、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ジメチル−p−フェニレン基、テトラメチル−p−フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基などが挙げられる。Ar1およびAr2がともにp−フェニレン基である場合が、製造面からも有利であり特に好適に用いられる。
式(2)において、好適なAr3〜Ar6としては炭素数6〜12のアリーレン基であり、炭素数6〜10のアリーレン基がより好適である。具体的には、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ジメチル−p−フェニレン基、テトラメチル−p−フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基などが挙げられる。特に好適な例としてAr3〜Ar6はいずれもp−フェニレン基が挙げられる。また、Xは炭素数1〜15の二価の炭化水素基であり、炭素数1〜15の二価の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基およびアラアルキレン基から選ばれた基が好ましい。好適には炭素数1〜10の二価の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基およびアラアルキレン基から選ばれた基である。具体的にはメチレン基、1,1−エチレン基、2,2−プロピレン基、2,2−ブチレン基、4−メチル−2,2−ペンチレン基などの脂肪族炭化水素基、1,1−シクロヘキシレン基、3,3,5−トリメチル−1,1−シクロヘキシレン基などの脂環式炭化水素基、1−フェニル−1,1−エチレン基、ジフェニルメチレン基などのアラアルキレン基が例示できる。これらの中で2,2−プロピレン基がより好適に用いられる。式(2)において、特に好ましくはAr3〜Ar6がいずれもp−フェニレン基であり、かつXが2,2−プロピレン基である。
式(3)において、好適なAr7、Ar8としては炭素数6〜12のアリーレン基であり、炭素数6〜10のアリーレン基がより好適である。具体的には、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ジメチル−p−フェニレン基、テトラメチル−p−フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基などが挙げられる。これらの中でAr7およびAr8は共にp−フェニレン基がさらに好適に用いられる。また、好適なAr9としては炭素数6〜12のアリーレン基であり、炭素数6〜10のアリーレン基がより好適である。具体的には、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基などが挙げられる。これらの中でp−フェニレン基またはビフェニリレン基がさらにより好適である。式(3)において特に好ましくはAr7、Ar8およびAr9がいずれもp−フェニレン基である。
上記のポリエーテルスルホンは公知の方法で重合できる。例えばアルカリ金属炭酸塩の存在下、非プロトン性極性溶媒中で水酸基およびハロゲン基を末端に有するモノマーを重縮合することにより得ることができる。例えば、このポリエーテルスルホンは、“レーデル(登録商標)”の商標でソルベイアドバンストポリマーズ社から、“ウルトラゾーン(登録商標)”の商標でビーエーエスエフ社から、“スミカエクセル(登録商標)”の商標で住友化学社から市販されているものを用いることができる。
本発明で用いられるポリフェニレンエーテル樹脂とは、下記構造式(R1は炭素数1〜3の低級アルキル基、R2、R3は水素原子または炭素数1〜3の低級アルキル基である)で示される構造単位を主鎖に含む重合体であり、ホモポリマー、コポリマーまたはグラフとポリマーのいずれを用いても良い。かかるポリフェニレンエーテル樹脂は、フェノール化合物の1種または2種以上と酸化カップリング触媒を用い、酸素または酸素含有ガスの存在下で酸化重合して得ることができる。
具体的には、ポリ(2、6−ジメチル−1、4−フェニレン)エーテル、ポリ(2、6−ジエチル−1、4−フェニレン)エーテル、ポリ(2、6−ジプロピル−1、4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1、4−フェニレン)エーテル、などが挙げられ、中でもポリ(2、6−ジメチル−1、4−フェニレン)エーテル、2、6−ジメチルフェノールと2、3、6−トリメチルフェノールの共重合体などが好ましく用いられる。
これら非晶性樹脂の中でも、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂が、高温でのクリープ特性を小さく抑制できる点で好ましい。
本発明における(a)PPS樹脂と(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体の配合割合は、(a)PPS樹脂100重量部に対して、(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体が0.1〜10重量部である必要があり、1〜7重量部がより好ましく、2〜5重量部が更に好ましい。(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体の配合割合が0.1重量部未満では、靱性に乏しく、低温での引張伸度が発現しないため、好ましくない。一方、10重量部超では、低温での靱性には優れるものの、高温でのクリープ歪みが大きくなるため好ましくない。
なお、(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体が官能基を含有しない場合、(a)PPS樹脂と反応することができないために、オレフィン系共重合体が系中に微分散化しにくくなり、仮に所定量を配合したとしても、十分な低温靱性が発現しなくなってしまう。また、(a)PPS樹脂がオレフィン系共重合体と反応できないことによって、熱処理を施した際に、結晶化度の上昇が起こり易くなり、低温での引張伸度が低下してしまうなどの欠点も生じる。
本発明における(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体の配合割合は、(a)PPS樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、1〜7重量部がより好ましく、2〜5重量部が更に好ましい。(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体に加えて、(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体を配合することにより、低温での引張伸度の更なる向上が期待できるが、10重量部超では、高温でのクリープ歪みが大きくなり、寸法変化が起こりやすくなるため好ましくない。一方、0.1重量部未満では靱性に乏しく、低温での引張伸度が発現しないため、好ましくない。
本発明における(d)官能基を含有する化合物の配合割合は、(a)PPS樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部であることが好ましく、0.2〜3重量部がより好ましく、0.3〜2重量部が更に好ましい。(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体に加えて、(d)官能基を含有する化合物を配合することにより、低温での引張伸度の更なる向上が期待できる一方、クリープ歪みの悪化はそれ程起こらない利点がある。これは、(d)官能基を含有する化合物が(a)PPS樹脂、(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体と反応することにより、(a)PPS樹脂の分子鎖が滑りにくくなったためと推察される。また、(d)官能基を含有する化合物を配合することにより、後述する(e)非晶性樹脂の分散粒径が微細化するほか、成形品を熱処理した際の結晶化度の上昇が抑制されるため、優れた低温靱性とクリープ特性の高度な両立が図れる様になる。(d)官能基を含有する化合物の配合量が0.1重量部未満では、十分な高靱性化効果が得られず、5重量部を超える範囲では、組成物の溶融粘度が極度に増加するため、成形加工を行う上で不利となることから好ましくない。
本発明における(e)非晶性樹脂の配合割合は、(a)PPS樹脂100重量部に対して、1〜30重量部が好ましく、2〜20重量部がより好ましく、3〜15重量部がさらに好ましい範囲として例示できる。(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体に加えて、(e)非晶性樹脂を配合することにより、低温での引張伸度の更なる向上が期待できると共に、クリープ歪みは大幅に低減される利点がある。これは、(e)非晶性樹脂が(a)PPS樹脂と相互作用することにより、(a)PPS樹脂の分子鎖が滑りにくくなったためと推察される。また、同様の作用で(a)PPS樹脂の分子鎖が拘束される結果、成形品を熱処理した際の結晶化度の上昇が抑制されるため、熱処理を施しても、靱性が低下し難くなる利点もある。(e)非晶性樹脂の配合量が1重量部未満では、十分な高靱性化効果およびクリープ歪み低減効果が得られず、30重量部を超える範囲では、組成物の溶融粘度が極度に増加するため、成形加工を行う上で不利となる他、材料コストが上昇することから好ましくない。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品は、軽度に熱処理を施されることにより、優れた低温靱性が発現しながら、高温での引張クリープ歪みが小さく抑制されたものである。かかる特性を発現するためには、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品を、昇温速度2℃/分、振幅±0.8℃、周期60秒の条件にて温度変調DSCを測定した際のノンリバースヒートフロー曲線において、ポリフェニレンスルフィド樹脂のガラス転移温度を超え、220℃以下の範囲に吸熱ピークを有すると共に、該吸熱ピークの熱量ΔHがポリフェニレンスルフィド樹脂を基準として0.01J/g以上3.00J/g以下である必要がある。
(a)PPS樹脂は、冷結晶化温度以下、冷結晶化温度以上で熱処理しても結晶化が進行し、その履歴は、DSC(示差走査熱量計)測定において室温から昇温した際の吸熱ピークとして現れる。しかし、通常のDSCの場合、この吸熱ピークがガラス転移の近傍に存在する場合などには、差し引きのシグナルしか観察されなくなり、ベースラインが歪曲するなどして、精度良く吸熱ピークを観察することは困難である。
一方、温度変調DSCは、温度を小規模に上下させながら、平均的に昇温あるいは冷却する手法であり、可逆、不可逆の成分にピークを分離することが可能である。一般的に可逆成分(リバースヒートフロー)にはガラス転移シグナルが現れ、不可逆成分(ノンリバースヒートフロー)にはエンタルピー緩和も含めた熱履歴のピークが現れて両者が分離されることから、吸熱ピークを高精度に観察することが可能である。従って、本発明では、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品の熱履歴を正確に定義する目的から、温度変調DSCを測定した際のノンリバースヒートフロー曲線を観察する必要がある。
温度変調DSCの測定条件は種々選択され得るが、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品について、精度良くまた再現性良く吸熱ピークを測定する観点から、昇温速度2℃/分、振幅±0.8℃、周期60秒とすることが重要である。測定は、室温からスタートして約260℃程度まで昇温することが好ましい。
前述の通り、温度変調DSCを測定した際のノンリバースヒートフロー曲線において観察される吸熱ピークの温度は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品を加熱処理した温度を反映するものであるが、その温度範囲はポリフェニレンスルフィド樹脂のガラス転移温度を超え、220℃以下の範囲であることが重要である。ノンリバースヒートフロー曲線において観察される吸熱ピークの好ましい温度範囲は100℃〜210℃であり、より好ましい温度範囲は120℃を超え200℃以下であり、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の冷結晶化ピーク温度以上190℃以下がさらに好ましく、140℃以上180℃以下が最も好ましい温度範囲として例示できる。吸熱ピーク温度がガラス転移温度以下の場合、非晶部分の安定化(エンタルピー緩和)が主に起こることから、引張クリープ歪みの改善はごく僅かに留まるため好ましくない。一方、吸熱ピーク温度が220℃を超える場合、引張クリープ歪みは大幅に改善されるが、酸化架橋に伴う着色や結晶化の進行に伴う著しい収縮によって成形品の寸法が大きく変化してしまうことから、製品設計が難しくなるばかりか、低温での靱性が低下してしまうために好ましくない。
なお、ここで言うポリフェニレンスルフィド樹脂のガラス転移温度とは、本発明の成形品について、340℃で4分間溶融プレスした後、23℃の水中に急冷した非晶フィルムを試料として、昇温速度2℃/分、振幅±0.8℃、周期60秒の条件で室温から200℃まで温度変調DSCを測定した際のリバースヒートフロー曲線において観察されるいわゆる階段状の変位であり、ポリフェニレンスルフィド中の非晶成分の比熱がガラス状態から液体状態まで変化する全変化量の1/2の温度として定義される。ポリフェニレンスルフィド樹脂のガラス転移温度は、共重合成分がある場合、その化学構造と組成によって変化するが、ホモポリマーの場合は、概ね85℃〜95℃の範囲が一般的である。
また、ここで言うポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の冷結晶化ピーク温度とは、本発明の成形品について、340℃で4分間溶融プレスした後、23℃の水中に急冷した非晶フィルムを試料として、昇温速度2℃/分、振幅±0.8℃、周期60秒の条件で室温から200℃まで温度変調DSCを測定した際のノンリバースヒートフロー曲線において観察される発熱ピーク温度として定義される。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の冷結晶化温度は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を重合した後の後処理行程によって変化する場合があるが、概ね120℃以上140℃未満の範囲が一般的である。
温度変調DSCを測定した際のノンリバースヒートフロー曲線において観察される吸熱ピークの熱量ΔHは、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品について、加熱処理した程度を反映するものであるが、その範囲は0.01J/g以上3.00J/g以下であることが重要である。ノンリバースヒートフロー曲線において観察される吸熱ピークの熱量ΔHのより好ましい範囲は0.05J/g以上2.00J/g以下であり、更に好ましくは0.20J/g以上1.50J/g以下が例示できる。ΔHが0.01J/g未満の場合、熱処理が不十分なことから引張クリープ歪みの改善はごく僅かな程度に留まるため好ましくない。ΔHが3.00J/gを超える場合、熱処理の程度が大きすぎるため、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品の結晶化度が過度に上昇してしまい、低温での靱性が大幅に低下してしまうのみならず、成形品の収縮に伴う寸法変化が著しくなり、製品設計が難しくなる問題点を生じる。
加熱処理する時間については、加熱する温度によって種々選択できるが、5分〜90時間の範囲が好ましく、10分〜50時間の範囲が好ましく、30分から20時間の範囲が更に好ましい。加熱処理する時間があまりにも短時間過ぎると、加熱する温度が比較的高くても十分なクリープ歪み低減効果は得られなくなることから注意が必要である。
以上の様に、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品を、適切な温度範囲で軽度に熱処理することにより、優れた低温での靱性が発現しながら、高温での引張クリープ歪みが小さく抑制されるのは、恐らく(a)PPS樹脂の結晶サイズや結晶構造、結晶化度が大きく変化すること無しに、不完全な結晶構造がより完全な結晶配置に進むためと考えられる。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品は、ポリフェニレンフィド樹脂の結晶化度が35%を超え45%以下であることが好ましい。結晶化度が35%未満の場合、結晶化が不十分であり、高温環境下で使用している内に結晶化度の上昇が起こり易く、寸法変化や低温での靱性が低下してしまうために好ましくない。結晶化度が45%を超える場合、成形品を比較的高い温度で長時間加熱処理する必要が生じてしまうため、経済的に不利であるし、結晶化度の上昇に伴って寸法変化が起こりやすくなると同時に、低温での引張伸度が低下するために好ましくない。
なお、ここで言うポリフェニレンスルフィド樹脂の結晶化度は、広角X線回折法により回折角(2θ)が5°から40°までの回折ピーク強度を測定し、ここからベース散乱を除去した後に、非晶部分のピークとそれ以外の結晶部分のピークを分離し、以下の計算式に従って求めることができる。
結晶ピークの面積/(結晶ピークの面積+非晶ピークの面積)×100(%)
その他、ポリフェニレンスルフィドの結晶化度は、成形品をDSC測定した際の融解熱から冷結晶化の発熱量の差を結晶化度100%の融解熱量で割り返した百分率でも求められるが、ベースラインの設定を適切に行えば、ほぼ前述した広角X線回折法による結晶化度と同等の値が得られる。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品は、(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体の数平均分散粒子径が1000nm以下であることが好ましく、500nm以下がより好ましく、さらには200nm以下であることが好ましい。(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体の数平均分散粒子が微分散化することにより、比較的少量の配合でも高い低温靱性を付与することが可能となる。このことは、更に(c)官能基を含有しないエチレン/α―オレフィン共重合体を含む場合も同様である。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品は、(e)非晶性樹脂を含む場合、その数平均分散粒子径は1000nm以下であることが好ましく、500nm以下がより好ましく、さらには200nm以下であることが好ましい。(e)非晶性樹脂の数平均分散粒子が微分散化することにより、低温での靱性が向上すると共に、相反する特性である引張クリープ歪みが大幅に抑制される。
なお、ここでいう数平均分散粒子径は、(a)PPS樹脂の融解ピーク温度+20℃の成形温度でASTM1号ダンベル試験片を成形し、その中心部から−20℃にて0.1μm以下の薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、日立製作所製H−7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50〜60万倍)にて、1万〜2万倍に拡大して観察した際の任意の100個の、(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体もしくは(e)非晶性樹脂について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値をその分散粒子径とし、その後それらの平均値を求めた数平均分散粒子径である。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品は、優れた低温靱性が発現しながら、高温でのクリープ歪みが小さく抑制されたものである。かかる特性を発現するためには、熱処理を施したASTM1号ダンベル成形品を−20℃下、引張速度10mm/分の条件で引張試験を行った際の引張伸度が、10%以上であることが好ましく、14%以上であることがより好ましく、17%以上であることが更に好ましい。また、熱処理を施したASTM1号ダンベル成形品を80℃下、20MPa荷重、100時間の条件で引張クリープ試験を行った際の引張クリープ歪みが、2.0%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが更に好ましい。
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法
本発明の成形品を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法としては、単軸、二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に原料を供給して、(a)PPS樹脂の融解ピーク温度+5〜100℃の加工温度で溶融混練する方法などを代表例として挙げることができる。この際、二軸の押出機を使用し、せん断力を比較的強くすることが好ましい。具体的には、L/D(L:スクリュー長さ、D:スクリュー直径)が20以上、好ましくは30以上であり、ニーディング部を2箇所以上、好ましくは3箇所以上、更に好ましくは5カ所以上有する二軸押出機を使用し、スクリュー回転数を150〜1000回転/分、好ましくは300〜1000回転/分として、混合時の樹脂温度が(a)PPS樹脂の融解ピーク温度+10〜70℃となるように混練する方法などを好ましく用いることができる。L/Dの上限については特に制限しないが、60以下が経済性の観点から好ましい。また、ニーディング部箇所の上限についても特に制限しないが、生産性の観点から10箇所以下であることが好ましい。
原料の混合順序については特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、これと更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
本発明の成形品を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、柔軟で低温での引張破断伸度に優れるものである。かかる特性を発現するためには、(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体および/または(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体の分散粒子を微分散化させることが好ましく、より好適な溶融混練方法についてさらに詳述すると、全ての原材料を配合し上記の方法により溶融混練してペレット化した後、さらに1回以上溶融混練する方法などが挙げられる。また、(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体および/または(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体の熱劣化を抑制するため、これら以外の原材料を配合後、2軸の押出機により溶融混練中に、サイドフィーダーを用いて(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体および/または(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体を混合する方法なども好適である。
本発明の成形品を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、(d)官能基を含有する化合物を含む場合、(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体および/または(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体の分散粒子をさらに微分散化させる観点から、(a)PPS樹脂と(d)官能基を含有する化合物を予め溶融混練後、(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体および/または(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体とさらに溶融混練することが好ましい手法として例示できる。この場合、(a)PPS樹脂と(d)官能基を含有する化合物を予め溶融混練してペレット化した後、(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体および/または(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体と混合してさらに溶融混練しても良いし、(a)PPS樹脂と(d)官能基を含有する化合物を予め溶融混練中に、サイドフィーダーを用いて(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体および/または(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体と混合しても良い。
本発明の成形品を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、(e)非晶性樹脂を含む場合、(e)非晶性樹脂を微分散化させる観点から、(a)PPS樹脂と(e)非晶性樹脂と(d)官能基を含有する化合物とを溶融混練してから、(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体と更に溶融混練することが好ましい手法として例示できる。また、一部の(a)PPS樹脂と(e)非晶性樹脂と(d)官能基を有する化合物とを溶融混練して高濃度マスターを調製した後、残りの(a)PPS樹脂と(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体とを共に溶融混練して、(e)非晶性樹脂を所望の濃度に調節することも好ましい方法として挙げられる。更に、(a)PPS樹脂と(d)官能基を含有する化合物とを予め溶融混練して反応を促進した後、(e)非晶性樹脂と(b)官能基を含有するオレフィン系共重合体とを溶融混練することも好ましい方法として例示できる。その他、(e)非晶性樹脂を溶融混練あるいは共通溶媒などに溶解して分子レベルで均一に(a)PPS樹脂と相溶させた後、スピノーダル分解により、(e)非晶性樹脂の分散構造を微細化する方法も例示できるが、簡便性、経済性の観点からは、分子相溶を経ない反応型非相溶系ポリマーアロイの範疇で溶融混練することにより製造する方法が好ましい。
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の成形
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形など、各種手法により成形されたものであるが、中でも射出成形が好ましい成形方法として例示できる。射出成形の際の金型温度は、成形品の結晶化度が35%を超え45%以下になる様にすることが好ましく、130℃〜150℃が好ましい範囲として例示できる。金型温度が130℃よりも低くなると、結晶化が不十分となり、熱処理を施している内に結晶化度の上昇が起こり易く、これに伴う寸法変化や低温での靱性低下が生じてしまうために好ましくない。結晶化度が45%を超える場合、結晶化を促進するために成形金型温度を150℃よりも高く設定する必要があり、エネルギー的にもサイクル的にも、また安全上も問題があるので好ましくない。また、過度に結晶化度を高めることにより、低温での靱性が低下してしまい、耐凍結割れ性が損なわれるため好ましくない。
成形品の熱処理
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品は、柔軟で低温での引張伸度に優れると共に、高温での引張クリープ歪みが小さく抑制されたものである。かかる特性を発現するためには、溶融成形した成形品について、昇温速度2℃/分、振幅±0.8℃、周期60秒の条件にて温度変調DSCを測定した際のノンリバースヒートフロー曲線において、ポリフェニレンスルフィド樹脂のガラス転移温度を超え、220℃以下の範囲に吸熱ピークを有すると共に、該吸熱ピークの熱量ΔHがポリフェニレンスルフィド樹脂を基準として0.01J/g以上3.00J/g以下となるように熱処理することが必要である。熱処理の温度は、前記温度変調DSCにおける吸熱ピーク温度が所定の要件を満たしていれば良く、特に限定されるものではないが、100℃〜200℃の温度範囲が好ましく、より好ましくは120℃〜190℃の温度範囲であり、140℃〜180℃の温度範囲がさらに好ましい。また、熱処理の時間についても、前記温度変調DSCにおける吸熱ピークと熱量ΔHが所定の要件を満たせば良く、特に限定されるものではないが、5分〜90時間の範囲が好ましく、10分〜50時間の範囲が好ましく、30分から20時間の範囲が更に好ましい。
なお、熱処理する前の成形品の結晶化度は35%を超え45%以下であることが、高温でのクリープ歪みを小さく抑制すると共に、優れた低温靱性を両立する観点から好ましい。熱処理前の成形品の結晶化度が35%以下である場合、軽度な熱処理であっても、収縮を伴う大幅な結晶化度の上昇が起こるため、製品設計が難しくなるばかりか、歪みが生じることによって低温での引張伸度が劇的に低下してしまう点から好ましくない。熱処理前の成形品の結晶化度が45%を超える場合、結晶化を促進するために成形金型温度を150℃よりも高く設定する必要があり、エネルギー的にもサイクル的にも、また安全上も問題があるので好ましくない。
また、熱処理前と熱処理後の成形品の結晶化度がそれ程変化しない条件で熱処理することも好ましい方法としてあげられる。熱処理前と熱処理後の成形品の結晶化度の差は、5%以内が好ましく、3%以内が好ましく、2%以内が更に好ましい範囲として例示できる。
熱処理の方法については、成形品を加熱することができれば特に限定されるものでは無いが、成形品を所定温度でむら無く加熱する観点から、温度調節機能のついたオーブン、乾燥機が好ましく使用される。簡便さの観点から、加熱は空気中で行って構わないが、PPS樹脂の酸化架橋を抑制する観点から、窒素気流下で行うことが好ましく、真空中で行うことが更に好ましい。但し、特に本発明で必要な、昇温速度2℃/分、振幅±0.8℃、周期60秒の条件にて温度変調DSCを測定した際のノンリバースヒートフロー曲線において、ポリフェニレンスルフィド樹脂のガラス転移温度を超え、220℃以下の範囲に吸熱ピークを有すると共に、該吸熱ピークの熱量ΔHがポリフェニレンスルフィド樹脂を基準として0.01J/g以上3.00J/g以下となる条件で処理する限りは、空気中で加熱することも当然可能であり、簡便さの観点からはむしろ好ましい方法として例示できる。
無機フィラー
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品には、必須成分ではないが、本発明の効果を損なわない範囲で無機フィラーが配合されていても問題ない。かかる無機フィラーの具体例としてはガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、銅、ニッケル、亜鉛、コバルト、鉄、マンガンなどの金属粉末または合金、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、なかでもガラス繊維、シリカ、炭酸カルシウムが好ましく、さらに炭酸カルシウムやシリカが、防食材、滑材の効果の点から特に好ましい。またこれらの無機フィラーは中空であってもよく、さらに2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも炭酸カルシウムやシリカ、カーボンブラックが、防食材、滑材、導電性付与の効果の点から好ましい。
かかる無機フィラーの配合量は、(a)PPS樹脂100重量部に対して、10重量部以下の範囲が好ましく、5重量部以下の範囲がより好ましく、3重量部以下がさらに好ましい。無機フィラーの配合量が10重量部を超える場合、成形品の剛性、特に低温での弾性率が上昇してしまうことから、凍結時の破壊、破損を招くために好ましくない。
その他の添加物
さらに、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品には本発明の効果を損なわない範囲において、その他の樹脂を添加配合しても良い。その具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、などが挙げられる。
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、(3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)などの様なフェノール系酸化防止剤、(ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト)などのようなリン系酸化防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の20重量%を越えると本発明の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、更に好ましくは1重量%以下の添加がよい。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した成形品は、低温での靱性に優れると共に、高温での引張クリープ歪みが小さく抑制される特徴から、各種用途として有用である。例えば、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車などの一次電池または二次電池用のガスケット等々を例示できる。
中でも、凍結時にも破壊が起こり難く(耐凍結割れ性)、高温・高圧での連続使用にも寸法変化が生じ難い性能(耐シール性)が必要とされる流体配管用の部材として有用である。なお、ここで言う流体とは、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、プロパンガス、冷水、温水、水蒸気、沸騰水、有機溶媒、冷媒、熱媒、酸性液体、アルカリ性液体、溶融ポリマー、ポリマー液体などが挙げられる。また、流体配管部材としては、パイプ、ライニング、各種継ぎ手、弁類、ガスケットなどが挙げられる。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例において、材料特性については次の方法により評価した。
[試験片の射出成形]
住友重機械製射出成形機SE75−DUZを用い、樹脂温度320℃、金型温度150℃とする条件にて、ASTM1号ダンベル試験片および長さ60mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmのアイゾット衝撃試験片を成形した。
[流体配管部材の射出成形]
住友重機械製射出成形機SE75−DUZを用い、樹脂温度320℃、金型温度150℃とする条件にて、外形36mm、内径30mm、長さ50mmの円筒形状をした流体配管部材を成形した。
[成形品の熱処理]
前記の通り得られた射出成形品について、ADVANTEC製送風定温乾燥機FC−410を用い、所定の温度、時間条件にて熱処理を行った後、室温にて放冷した。
[温度変調DSC]
流体配管部材について、TAインスツルメント製Q200を用い、昇温速度2℃/分、振幅±0.8℃、周期60秒の条件にて、室温から260℃まで昇温し、ノンリバースヒートフロー曲線における吸熱ピーク温度および熱量ΔHを測定した。
[結晶化度]
ASTM1号ダンベル試験片について、リガク製RINT2000/PCを用い、広角X線回折法により回折角(2θ)が5°から40°までの回折ピーク強度を測定した。ベース散乱を除去した後、非晶部分のピークとそれ以外の結晶部分のピークを分離し、以下の計算式に従って結晶化度(%)を求めた。
結晶ピークの面積/(結晶ピークの面積+非晶ピークの面積)×100(%)
[冷結晶化温度]
ASTM1号ダンベル試験片について、340℃で4分間溶融プレスした後、23℃の水中に急冷し非晶フィルムを調製した。次いで、これを試料として、昇温速度2℃/分、振幅±0.8℃、周期60秒の条件にて、室温から200℃まで温度変調DSCを測定した際のノンリバースヒートフロー曲線において観察される発熱ピークを冷結晶化温度として見積もった。
[−20℃引張伸度]
ASTM1号ダンベル試験片について、インストロン製5581型引張試験機を用い、雰囲気温度−20℃、引張速度10mm/分、試験間距離100mmの条件にて引張試験を行った。
[凍結試験]
流体配管部材を水中に投入し、気泡が残らない様に水を充満させた後、両端を密栓した。−20℃に冷却した恒温槽中で2時間冷却した後、1時間室温で放置し、流体配管部材の割れ、ひびの発生状況を目視観察した。耐凍結割れ性能を以下の基準に従い評価した。
優 :5検体試験を実施し、いずれもひび、割れが認められない。
良 :5検体試験を実施した内、ひび、割れの生じた数が1検体。
可 :5検体試験を実施した内、ひび、割れの生じた数が2検体。
不可:5検体試験を実施した内、ひび、割れの生じた数が3検体以上。
[80℃引張クリープ試験]
ASTM1号ダンベル試験片について、(株)オリエンテック製6本掛けクリープ試験機CP6−L−10KNを用い、雰囲気温度80℃、荷重20MPa、試験間距離100mmの条件にて引張クリープ試験を行った。100時間経過時の変位量について、以下の計算式によりクリープ歪み(%)を算出した。
(変位量(mm)−初期歪み量(mm))/100(mm)×100(%)
[着色]
アイゾット衝撃試験片について、着色の程度を目視観察した。
[成形片寸法]
アイゾット衝撃試験片について、ミツトヨ製ABSデジマチックキャリパを用い、長さ方向の寸法を測定した。
[分散粒径]
ASTM1号ダンベル試験片の中央部を樹脂の流れ方向に対して直角方向に切断し、その断面の中心部から、−20℃で0.1μm以下の薄片を切削し、日立製作所製H−7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50〜60万倍)にて、1万倍に拡大して観察した際の任意の100個の、(e)非晶性樹脂の分散部分について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値をその分散粒子径とし、その後それらの平均値である数平均分散粒子径を求めた。
[参考例1](a)PPS樹脂の重合(PPS−1)
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
次にp−ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS−1は、溶融粘度が200Pa・s(310℃、剪断速度1000/s)であった。
[参考例2](b)官能基を含有するオレフィン系共重合体
b−1:エチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体(住友化学製“ボンドファースト”E)
b−2:無水マレイン酸で変性されたエチレン・1−ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”MH5020)
[参考例3](c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体
c−1:エチレン・1−ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”TX610)
[参考例4](d)官能基を含有する化合物
d−1:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本火薬製EOCN−104S)
d−2:3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製KBE−9007)
[参考例5](e)非晶性樹脂
e−1:ポリエーテルイミド樹脂(サビックイノベーティブプラスチックス製“ウルテム1000”)
e−2:ポリエーテルスルホン樹脂(住友化学製“住化エクセル”4100G)
e−3:ポリフェニレンエーテル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス製YPX−100F)
[実施例1、9〜13]
表1に示す(a)PPS樹脂と(b)官能基含有オレフィン系共重合体を、表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。
得られた成形品について、表1に示す温度、時間条件にて熱処理を行った後、温度変調DSC、結晶化度、冷結晶化温度、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性、80℃引張クリープ歪み、着色、成形品寸法を評価した。
[実施例2]
表1に示す(a)PPS樹脂と(b)官能基含有オレフィン系共重合体と(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体を、表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。
得られた成形品について、表1に示す温度、時間条件にて熱処理を行った後、温度変調DSC、結晶化度、冷結晶化温度、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性、80℃引張クリープ歪み、着色、成形品寸法を評価した。
[実施例3]
表1に示す(a)PPS樹脂と(b)官能基含有オレフィン系共重合体と(d)官能基を含有する化合物を、表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。
得られた成形品について、表1に示す温度、時間条件にて熱処理を行った後、温度変調DSC、結晶化度、冷結晶化温度、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性、80℃引張クリープ歪み、着色、成形品寸法を評価した。
[実施例4〜6]
表1に示す(a)PPS樹脂と(d)官能基を含有する化合物と(e)非晶性樹脂を、表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。
次いで、このペレットと(b)官能基含有オレフィン系共重合体を、表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。
得られた成形品について、表1に示す温度、時間条件にて熱処理を行った後、温度変調DSC、結晶化度、冷結晶化温度、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性、80℃引張クリープ歪み、着色、成形品寸法、(e)非晶性樹脂の数平均分散粒径を評価した。
[実施例7]
表1に示す(a)PPS樹脂と(d)官能基を含有する化合物と(e)非晶性樹脂を、表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。
次いで、このペレットと(b)官能基含有オレフィン系共重合体と(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体を、表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。
得られた成形品について、表1に示す温度、時間条件にて熱処理を行った後、温度変調DSC、結晶化度、冷結晶化温度、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性、80℃引張クリープ歪み、着色、成形品寸法、(e)非晶性樹脂の数平均分散粒径を評価した。
[実施例8]
表1に示す(a)PPS樹脂と(b)官能基含有オレフィン系共重合体と(d)官能基を含有する化合物と(e)非晶性樹脂を、表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45.5、ニーディング部5箇所)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で1晩乾燥してから、射出成形に供した。
得られた成形品について、表1に示す温度、時間条件にて熱処理を行った後、温度変調DSC、結晶化度、冷結晶化温度、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性、80℃引張クリープ歪み、着色、成形品寸法、(e)非晶性樹脂の数平均分散粒径を評価した。
[比較例1]
得られた成形品について、熱処理を行わない以外は、実施例1と同様にコンパウンド、射出成形、材料特性評価を行った。
[比較例2]
射出成形における金型温度を80℃とし、熱処理を行わない以外は、実施例1と同様にコンパウンド、材料特性評価を行った。
[比較例3〜7]
得られた成形品について、熱処理を行わない以外は、それぞれ実施例2〜6と同様にコンパウンド、射出成形、材料特性評価を行った。
[比較例8〜9]
成形品の熱処理温度をそれぞれ80℃、220℃とした以外は、実施例1と同様にコンパウンド、射出成形、熱処理、材料特性評価を行った。
[比較例10]
射出成形における金型温度を80℃とし、成形品を200℃で1時間熱処理を行った以外は、実施例1と同様にコンパウンド、材料特性評価を行った。
[比較例11]
射出成形における金型温度を170℃とし、成形品の結晶化度が45%になる条件で射出成形を行い、180℃で100時間熱処理した以外は、実施例1と同様にコンパウンド、材料特性評価を行った。
[比較例12]
(b)官能基含有オレフィン系共重合体を(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体とする以外は実施例1と同様にコンパウンド、射出成形、熱処理、材料特性評価を行った。
[比較例13]
(b)官能基含有オレフィン系共重合体の量を11重量部とした以外は、実施例1と同様にコンパウンド、射出成形、熱処理、材料特性評価を行った。
上記実施例1〜13と比較例1〜13の結果を比較して説明する。
適切な熱処理を施した実施例1は、熱処理を施さない比較例1と同等の−20℃引張伸度、耐凍結割れ性を有しながら、80℃引張クリープ歪みは大幅に改善された。
実施例2、3では、(b)官能基含有オレフィン系共重合体に加えて、それぞれ(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体、(d)官能基を含有する化合物を併用することにより、実施例1に比較して、−20℃引張伸度は向上し、耐凍結割れ性も優れる結果であった。また、適切な熱処理を施しているため、伸度向上に伴う80℃引張クリープ歪みの悪化は極めて軽微であった。
一方、対応する比較例3、4では、適切な熱処理を施さないために80℃引張クリープ歪みは大きくなる結果であった。
実施例4〜6では、(e)非晶性樹脂を配合することにより、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性が向上すると共に、80℃引張クリープ歪みは、さらに小さく低減される結果であった。
一方、対応する比較例5〜7では、適切な熱処理を施さないために、80℃引張クリープ歪みは比較的大きかった。
実施例8では、(e)非晶性樹脂の分散粒径が実施例4に比較して大き目であるため、やや80℃引張クリープ歪みは大きくなった。
実施例9、1、12、13では熱処理温度を種々変更した。処理温度が高くなるに連れて、80℃引張クリープ歪みは小さく抑制される結果であった。
実施例1、10、11では熱処理時間を種々変更した。140℃の場合、処理時間が長くなるにつれて、80℃引張クリープ歪みは小さく抑制される結果であった。
実施例7では、(c)官能基を含有しないエチレン/α−オレフィン共重合体、(e)非晶性樹脂を配合し、熱処理時間を比較的長く採用することで、高い−20℃引張伸度が発現しつつ、80℃引張クリープ歪みは非常に小さく抑制される結果であった。
比較例8では、熱処理を施しているものの、温度が低すぎるため、ノンリバースヒートフローにおける吸熱ピークが認められず、80℃引張クリープ歪みは、比較例1に比較して殆ど改善されなかった。
比較例9では、ノンリバースヒートフローにおける吸熱ピークが220℃を超えており、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性が低下した。また、成形片の寸法が対応する実施例1に比較して小さく収縮してしまう結果であった。
比較例2では成形品の結晶化度が低いために、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性は対応する実施例1に比較して向上したが、その反面、80℃引張クリープ歪みは大幅に悪化した。
結晶化度の低い比較例2の成形品を熱処理した比較例10では、80℃引張クリープ歪みが改善したものの、ノンリバースヒートフローにおける吸熱ピークのΔHが大きく、成形片の寸法も小さく収縮しており、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性は著しく低いものであった。この様に、熱処理する前の成形片の結晶化度が低い場合、短時間の熱処理であっても、大幅に結晶化度の上昇が起こり、結果として高温でのクリープ特性と低温での靱性を高位にバランス化することが難しくなる。
比較例11では、熱処理前の成形片の結晶化度がかなり高く、これを更に結晶化度が一定程度上昇するまで熱処理しているために、長い熱処理時間が必要になると同時に、ノンリバースヒートフローにおける吸熱ピークのΔHが大きくなった。これにより、成形片の寸法が小さく収縮すると共に、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性は著しく低いものであった。
比較例12では、(b)官能基含有オレフィン系共重合体を含まないために、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性は低く、80℃引張クリープ歪みの低減効果も小さかった。
比較例13では、(b)官能基含有オレフィン系共重合体の配合量が多いために、−20℃引張伸度、耐凍結割れ性には優れるものの、熱処理しても80℃引張クリープ歪みは高いものであった。