JP2017043772A - 変性ポリフェニレンスルフィド樹脂および樹脂組成物 - Google Patents

変性ポリフェニレンスルフィド樹脂および樹脂組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】機械的強度、耐薬品性、電気絶縁性を損なうことなく、乾熱処理後も優れた引張破断伸度が発現する変性ポリフェニレンスルフィド樹脂を得ることを課題とする。【解決手段】ナトリウムを200ppm以上含む変性ポリフェニレンスルフィド樹脂であって、示差走査熱量計にて、室温から340℃まで20℃/分で昇温して1分間保持した後、340℃から100℃まで20℃/分で降温した際に検出される降温結晶化ピーク温度が170℃未満であると共に、さらに100℃から340℃まで20℃/分で昇温した際に昇温結晶化ピーク温度が検出されることを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は200℃という比較的高い温度で乾熱処理した後にも優れた引張破断伸度が発現すると共に、乾熱処理前後の引張破断伸度の保持率が飛躍的に向上した変性ポリフェニレンスルフィド樹脂および樹脂組成物、その製造方法に関するものである。
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPSと略すことがある)は、優れた耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有している。このため、電気・電子部品、通信機器部品、自動車材料等に幅広く使用されているものの、靭性が低く、また高温熱処理を施すと脆く劣化するなどの問題点が指摘されている。特に近年、自動車の高出力化、軽量化、低コスト化に伴い高温熱処理後も靭性を保つPPS樹脂材料が求められているため、PPS樹脂に柔軟なエラストマーを配合して靭性を付与する改良方法が多数報告されているものの、エラストマーの耐熱性が低いことに起因して高温熱処理後の靱性は大幅に低下してしまう課題があった。
そこで、エラストマーを配合するのでは無く、PPS樹脂を変性する試みがいくつか報告されている。例えば、特許文献1には、カルボキシル基変性PPSにノボラック型エポキシ樹脂を加えた変性PPS樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、カルボキシル基変性PPSにエポキシシランカップリング剤を加えた変性PPS樹脂組成物が開示されている。特許文献3には、カルボキシル基変性PPS樹脂にエポキシシランカップリング剤や官能基含有熱可塑性エラストマーを加えた変性PPS樹脂組成物が開示されている。
特開2001−278951号公報 特開2001−279097号公報 特開2008−247955号公報
上記の特許文献1〜3に記載された変性PPS樹脂では、耐熱老化性を十分に向上することはできないという課題があった。
本発明はポリフェニレンスルフィド樹脂が本来有する機械的強度、耐薬品性、電気絶縁性を損なうことなく、成形品としたときに乾熱処理後の引張破断伸度に優れると共に、乾熱処理前後の引張破断伸度保持率が飛躍的に向上したポリフェニレンスルフィド樹脂を提供することを課題とするものである。
そこで本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ナトリウムを200ppm以上含むポリフェニレンスルフィド樹脂を特定のエポキシ化合物で変性することで、降温結晶化ピーク温度を特定温度以下に低下させると共に、昇温結晶化ピーク温度が検出される変性PPS樹脂を得ることができ、このような変性PPS樹脂は、機械的強度、耐薬品性、電気絶縁性、成形加工性を損なうことなく、乾熱処理後の引張破断伸度に優れると共に、乾熱処理前後の破断伸度保持率が飛躍的に向上することを見出した。さらに、本発明の変性PPS樹脂は、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂などを配合した樹脂組成物とすることで、さらに乾熱処理後の引張破断伸度に優れると共に、乾熱処理前後の破断伸度保持率に優れる成形品を得ることができる。
即ち、本発明は以下の通りである。
1.ナトリウムを200ppm以上含む変性ポリフェニレンスルフィド樹脂であって、示差走査熱量計にて、室温から340℃まで20℃/分で昇温して1分間保持した後、340℃から100℃まで20℃/分で降温した際に検出される降温結晶化ピーク温度が170℃未満であると共に、さらに100℃から340℃まで20℃/分で昇温した際に昇温結晶化ピーク温度が検出されることを特徴とする変性ポリフェニレンスルフィド樹脂。
2.前記変性ポリフェニレンスルフィド樹脂が、パラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位を含む変性ポリフェニレンスルフィド樹脂であって、メタフェニレンスルフィド単位をパラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位の全量に対して1〜20モル%含むことを特徴とする1に記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂。
3.前記昇温結晶化ピーク温度が、135℃以上155℃以下であることを特徴とする1に記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂。
4.変性ポリフェニレンスルフィド樹脂が、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表されるエポキシ化合物で変性されたものである1〜3のいずれかに記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂。
(ここで一般式(1)および(2)の、Rは炭素数1〜8のアルキル基を表し、kは1〜20の値を表し、lは1〜20の値を表す。一般式(3)の、Xは一般式(a)、(b)または(c)で表される二価の有機基を表し、mは0より大きく10以下の値を表す。一般式(3)、(a)および(b)の、R〜Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。)
5.非ニュートン指数が0.9以上1.4以下かつ、ナトリウムを200ppm以上含むポリフェニレンスルフィド樹脂と、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表されるエポキシ化合物とを、溶融混練することを特徴とする変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
(ここで一般式(1)および(2)の、Rは炭素数1〜8のアルキル基を表し、kは1〜20の値を表し、lは1〜20の値を表す。一般式(3)の、Xは一般式(a)、(b)または(c)で表される二価の有機基を表し、mは0より大きく10以下の値を表す。一般式(3)、(a)および(b)の、R〜Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。)
6.得られる変性ポリフェニレンスルフィド樹脂が、示差走査熱量計にて、室温から340℃まで20℃/分で昇温して1分間保持した後、340℃から100℃まで20℃/分で降温した際の降温結晶化ピーク温度が170℃未満であることを特徴とする5に記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
7.得られる変性ポリフェニレンスルフィド樹脂が、示差走査熱量計にて、室温から340℃まで20℃/分で昇温して1分間保持した後、340℃から100℃まで20℃/分で降温し、さらに100℃から340℃まで20℃/分で昇温した際に昇温結晶化ピーク温度が検出されることを特徴とする5または6に記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
8.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂が、パラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位を含み、メタフェニレンスルフィド単位をパラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位の全量に対して1〜20モル%含むポリフェニレンスルフィド樹脂である5〜7のいずれかに記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
9.得られる変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の、前記昇温結晶化ピーク温度が、135℃以上155℃以下であることを特徴とする7に記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
10.1〜4のいずれかに記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂1〜30重量部を配合してなることを特徴とする変性ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
11.1〜4のいずれかに記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂または10に記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
本発明によれば、優れた機械的強度、耐薬品性、電気絶縁性、成形加工性を損なうことなく、乾熱処理後の引張破断伸度に優れると共に、乾熱処理前後の破断伸度保持率が飛躍的に向上した変性ポリフェニレンスルフィド樹脂が得られる。これら特性は、高温環境下で長期間使用される自動車のエンジン周辺部材に特に有効である。また、射出成形品に限定されず、フィルムや繊維といった降温結晶化ピーク温度の低いことが成形加工上好適とされる押出成形品にも有効である。
さらに、本発明の変性PPS樹脂にポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂などを配合した樹脂組成物は、さらに乾熱処理後の引張破断伸度に優れると共に、乾熱処理前後の破断伸度保持率に優れる成形品を与えることができる。
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂
本発明で変性PPSの原料として用いられるPPS樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体である。
耐熱性の観点から、PPS樹脂は上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
パラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位を含むPPS樹脂の場合は、パラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形性の点で有利となる。
本発明で用いられるPPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、より優れた引張破断伸度を得る意味からその溶融粘度は高い方が好ましい。例えば30Pa・s(300℃、剪断速度1000/s)を越える範囲が好ましく、50Pa・s以上がさらに好ましく、100Pa・s以上がさらに好ましい。上限については溶融流動性保持の点から600Pa・s以下であることが好ましい。
なお、本発明における溶融粘度は、300℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機製キャピログラフを用いて測定した値である。
以下に、本発明に用いるPPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造のPPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではない。
まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ-p-キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
パラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位を含むPPS樹脂を製造する場合は、p−ジクロロベンゼンとm−ジクロロベンゼンを組み合わせて使用することができる。この場合のp−ジクロロベンゼンとm−ジクロロベンゼンのモル割合は、99:1〜80:20の範囲が好ましく、98:2〜85:15の範囲がより好ましく、95:5〜88:12の範囲がさらに好ましい。m−ジクロロベンゼンの単位のモル割合が20を超えると、PPSの耐薬品性が損なわれるので好ましくない。
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられる。これらの重合溶媒はいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選ばれる。
[分子量調節剤]
生成するPPS樹脂の末端を形成させるため、あるいは重合反応や分子量を調節するためなどにより、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
[重合助剤]
比較的に高重合度のPPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるPPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩からなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価である。一方、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、より少量のアルカリ金属カルボン酸塩と水で高分子量化が可能となる。
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよい。重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に他の添加物と同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられる。重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
次に、本発明の実施形態に用いるPPS樹脂の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、勿論この方法に限定されるものではない。
[前工程]
PPS樹脂の製造方法において、通常、スルフィド化剤は水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂を製造する。
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下において、常温〜240℃、好ましくは100〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
この混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
一般的に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選ばれる。
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記する)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(A)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)−PHA過剰量(モル)〕
(B)上記(A)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕
[回収工程]
PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用しても良い。
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いても良い。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つである。この回収方法のうち、好ましい方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法である。ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には、常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選ばれる。
[後処理工程]
PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
酸処理を行う場合は次のとおりである。PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられる。なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられる。一方、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
酸処理の方法は、例えば、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめる方法があり、必要により撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の酢酸水溶液を80〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上となってもよく、例えばpH4〜8程度となっても良い。酸処理を施されたPPS樹脂から残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわないために、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
熱水処理を行う場合は次のとおりである。PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満ではPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無い。所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法や、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)が選ばれる。
また、末端基の分解が好ましくないので、これを回避するため、処理の雰囲気は不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、残留している成分を除去するため、この熱水処理操作を終えたPPS樹脂は、温水で数回洗浄するのが好ましい。
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はない。例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがPPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒として挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
有機溶媒による洗浄の方法としては、例えば、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめる方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。後処理工程は、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄のいずれかを施すことが好ましく、2種以上の処理を併用することが、不純物除去の観点から好ましい。
アルカリ金属、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合行程前、重合行程中、重合行程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でももっとも容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属導入の際のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
本発明においては、乾熱処理後も優れた引張破断伸度が発現する変性PPS樹脂を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、さらに熱水洗浄するかもしくはナトリウム金属塩で処理する方法が好ましい。
本発明においては、降温結晶化ピーク温度が低く、昇温結晶化ピークが現れる変性PPS樹脂を得る観点から、変性前のPPS樹脂がナトリウムを200ppm以上含むことが好ましく、300ppm以上含むことがより好ましく、400ppm以上含むことがさらに好ましい。変性前のPPS樹脂に含まれるナトリウム濃度が200ppm未満であると、降温結晶化ピーク温度が低く、昇温結晶化ピークが現れる変性PPS樹脂を得ることが困難であり好ましくない。ナトリウム量の上限は特に限定されないが、電気絶縁性や耐湿熱性の観点からは3000ppm以下であることが好ましい。本発明では、ナトリウム以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等を含んでも良い。また、ナトリウム含有量の異なる複数のPPS樹脂を混合して使用しても良いが、混合後のPPS樹脂のナトリウム濃度が200ppm以上であることが好ましい。なお、ここでいう変性前のPPS樹脂のナトリウム含有量は、PPS樹脂5gを500℃の電気炉で灰化した後、0.1規定塩酸水溶液、0.1%塩化ランタン水溶液で希釈した水溶液を試料とし、島津製作所製原子吸光分光光度計AA−6300を用いた原子吸光法により得た値である。
[熱酸化架橋処理]
その他、本発明における変性前のPPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱や過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5〜100時間が好ましく、1〜50時間がより好ましく、2〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機もしくは回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよい。効率よく、より均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのが好ましい。
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機もしくは回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよい。効率よく、より均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
本発明においては、変性したPPS樹脂の降温結晶化ピーク温度が低く、昇温結晶化ピークが検出されるためには、熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPS樹脂であるか、軽度に酸化架橋処理した半架橋状のPPS樹脂を原料として変性PPS樹脂を製造することが好ましい。より具体的には、非ニュートン指数が0.9以上1.4以下であることが好ましく、0.95以上1.35以下であることがより好ましく、0.98以上1.33以下であることがさらに好ましい。非ニュートン指数が1.4を超え、高度に熱酸化架橋を施した架橋状のPPSは、仮に前記したエポキシ化合物で変性したとしても、昇温結晶化ピークが検出されないため、結果として乾熱処理後に引張破断伸度が低下し易く好ましくない。なお、本発明では、直線状のPPS樹脂と酸化架橋処理した半架橋状のPPS樹脂を混合して使用することも可能である。また、本発明では、溶融粘度の異なる複数のPPS樹脂を混合して使用しても良い。なお、ここでいう非ニュートン指数とは、東洋精機社製キャピログラフ1B(長さ10mm、直径1mmのキャピラリー)を用いて、300℃の条件下、せん断応力、せん断速度を測定し下記式にて得られた値である。nが1であればニュートン流体であり、nが1を超えると非ニュートン流体であることを示す。一般にPPS樹脂を熱酸化架橋することで、nは増大する。
SR=k・SS
SR:せん断速度
SS:せん断応力
K:定数
n:非ニュートン指数。
(b)エポキシ化合物
本発明では、PPS樹脂をエポキシ化合物を用いて変性する。ここで、得られる変性PPS樹脂が、降温結晶化ピーク温度が低く、昇温結晶化ピークが現れる変性PPS樹脂とするためには、以下一般式(1)〜(3)のいずれかで示される化合物を用いる。
(ここで一般式(1)および(2)の、Rは炭素数1〜8のアルキル基を表し、kは1〜20の値を表し、lは1〜20の値を表す。一般式(3)の、Xは一般式(a)、(b)または(c)で表される二価の有機基を表し、mは0より大きく10以下の値を表す。一般式(3)、(a)および(b)の、R〜Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。)
好ましいエポキシ化合物のうち、上記一般式(1)、(2)で表されるエポキシ化合物としては、ナガセケムテックス社製の脂肪族エポキシ化合物などを用いることができる。上記一般式(3)で表されるエポキシ化合物としては、好ましくはR〜Rが水素であるエポキシ化合物であり、日本化薬(株)XD−1000、NC−7700、NC−3000などを用いることができる。
変性PPS樹脂を得るには、上記エポキシ化合物のうち異なる複数のエポキシ化合物を混合して使用しても良いし、上記エポキシ化合物のいずれかと上記以外のエポキシ化合物とを混合しても良い。
(c)変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法
本発明の変性PPS樹脂の製造方法としては、非ニュートン指数が0.9以上1.4以下であり、ナトリウムを200ppm以上含むPPS樹脂と、前記のエポキシ化合物を溶融混練する方法が採用できる。溶液状態での製造等も使用できるが、簡便さの観点から、溶融状態での製造が好ましく使用できる。溶融状態での製造については、押出機による溶融混練や、ニーダーによる溶融混練等が使用できるが、生産性の観点から、連続的に製造可能な押出機による溶融混練が好ましく使用できる。押出機による溶融混練については、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機、二軸単軸複合押出機等の押出機を1台以上で使用できるが、混練性、反応性、生産性向上の点から、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機が好ましく使用でき、二軸押出機による溶融混練が最も好ましい。
本発明の変性PPS樹脂を製造するより具体的な方法としては、必ずしもこの限りでは無いが、(a)PPS樹脂、前記(b)エポキシ化合物を、二軸の押出機に供給して、(a)PPS樹脂の融点+5〜100℃の加工温度で溶融混練する方法を代表例として挙げることができる。(a)PPS樹脂と前記(b)エポキシ化合物を溶融混練により反応させるためには、せん断力を比較的強くする必要があることから、二軸押出機のスクリューアレンジ構成において、ニーディング部が1箇所以上配置されることが好ましい。ニーディング部箇所の上限としては、1箇所あたりのニーディング部の長さとニーディング部の間隔によって変化し得るが、10箇所以下が好ましく、8箇所以下がより好ましい。また、押出機のスクリュー全長に対するニーディング部の合計の長さの割合が、3〜60%の範囲が好ましく、より好ましくは5〜50%の範囲が好ましい。
二軸押出機のスクリュー長さLとスクリュー直径Dの比であるL/Dは、10以上が望ましく、15以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。二軸押出機のL/Dの上限は通常60である。この際の周速度としては、15〜50m/分の範囲が選択され、20〜40m/分がより好ましく選択される。二軸押出機のL/Dが10未満の場合には、混練部分が不足するため、(a)PPS樹脂と前記(b)エポキシ化合物を十分に反応させることができず、乾熱処理後も優れた引張破断伸度が発現する変性PPS樹脂を得る観点から好ましくない。
スクリュー回転数については、(a)PPS樹脂と前記(b)エポキシ化合物を十分に反応させる観点から、100rpm以上が好ましく、125rpm以上がより好ましい。スクリュー回転数の上限については、特に制限されないが、押出機への負荷軽減の観点から1500rpm以下であることが好ましい。
本発明では、このような方法であらかじめ変性PPS樹脂を製造し、後述する他の成分を配合し変性PPS樹脂組成物を製造することも可能であるし、他の成分を配合する際に原料となるPPS樹脂、前記(b)エポキシ化合物、他の成分を配合し、変性PPS樹脂の製造と、他の成分の配合を同時に行うことも可能である。このとき、原料の混合順序については特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、これと更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。
前記(b)エポキシ化合物は、(a)PPS樹脂100重量部に対し、0.1〜30重量部配合することが好ましく、0.3〜10重量部配合することがより好ましく、0.5〜5重量部配合することがさらに好ましい。前記(b)エポキシ化合物の配合量が0.1重量部未満であると、前記(b)エポキシ化合物と反応できる(a)PPS樹脂が不十分であり、昇温結晶化ピークが検出されないため、結果として乾熱処理後に引張破断伸度が低下し易く好ましくない。30重量部を超えるとPPS本来の機械特性等を損なうとともに、溶融粘度が増大して成形加工面の観点からも好ましくない。
(d)変性ポリフェニレンスルフィド樹脂
上記のようにして得られた変性PPS樹脂は、ナトリウム含有量が200ppm以上であり、降温結晶化ピーク温度が170℃未満であり、昇温結晶化ピーク温度が検出されるという特徴を有する。
本発明の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂は、降温結晶化ピーク温度が低く、昇温結晶化ピークが検出される変性PPS樹脂を得る観点から、ナトリウムを200ppm以上含むことが必要であり、300ppm以上含むことが好ましく、400ppm以上含むことがより好ましい。変性後のPPS樹脂に含まれるナトリウム濃度が200ppm未満であると、乾熱処理後の引張伸度が低下し易く好ましくない。ナトリウム量の上限は特に限定されないが、電気絶縁性や耐湿熱性の観点からは3000ppm以下であることが好ましい。本発明では、ナトリウム以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等を含んでも良い。
なお、ここでいう変性PPS樹脂のナトリウム含有量は、変性PPS樹脂5gを500℃の電気炉で灰化した後、0.1規定塩酸水溶液、0.1%塩化ランタン水溶液で希釈した水溶液を試料とし、島津製作所製原子吸光分光光度計AA−6300を用いた原子吸光法により得た値である。
また、本発明の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂は、示差走査熱量計により、窒素気流下、室温から340℃まで20℃/分で昇温して1分間保持した後、340℃から100℃まで20℃/分で降温した際に検出される降温結晶化ピーク温度(Tmc)が170℃未満であり、165℃以下であることがより好ましい。降温結晶化ピーク温度が170℃以上であると、結晶核の形成速度が速いため、成形品としたときに、乾熱処理後の引張伸度が低下し易くなるため好ましくない。降温結晶化ピーク温度の下限については特に制限は無いが、成形加工性の観点から100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。
なお、降温結晶化ピークにおいて観測される発熱量である降温結晶化ピーク熱量(ΔHmc)は35J/g以下が好ましく、30J/g以下がより好ましい。35J/gを上回る場合、最終的に到達する結晶化度が高くなるため好ましくない。降温結晶化ピーク熱量の下限について特に制限はないが、寸法変化を抑制する観点から2J/gを上回ることが好ましく、5J/gを上回ることがより好ましい。ただし、パラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位を含むPPS樹脂を使用した変性PPS樹脂は寸法安定性が高く、降温結晶化熱量が2J/g未満となる場合があるが成形加工上問題とならない。
さらに本発明の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂は、示差走査熱量計により、窒素気流下、室温から340℃まで20℃/分で昇温して1分間保持し、340℃から100℃まで20℃/分で降温した後、さらに100℃から340℃まで20℃/分で昇温した際に昇温結晶化ピーク温度(Tcc)が検出される。通常のPPS樹脂は、昇温結晶化ピーク温度(Tcc)が検出されないが、本発明の変性PPS樹脂は、球晶の成長速度がおそく、昇温結晶化ピーク温度(Tcc)が検出されるという特徴がある。そのため、乾熱処理後の引張伸度が低下しないという効果が発現するものと考えられる。
なお、昇温結晶化ピークにおいて観測される発熱量である昇温結晶化ピーク熱量(ΔHcc)は1J/g以上が好ましく、2J/g以上がより好ましく、10J/g以上がさらに好ましい。1J/g未満の場合、十分な耐熱老化性向上の効果が得られず、昇温結晶化ピークとはみなさない。
また、本発明の変性PPS樹脂の降温結晶化ピーク、昇温結晶化ピークは、後述する組成物中とした状態で測定することも可能である。
優れた引張破断伸度や引張破断伸度の保持率を実現するためには、昇温結晶化ピーク温度は160℃以下であることが好ましく、155℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。下限については特に制限はないが120℃以上が好ましく、135℃以上がより好ましく、140℃以上が最も好ましい。昇温結晶化ピーク温度が120℃以下であると昇温結晶化速度が速く、乾熱処理後の引張破断伸度の低下を招く恐れがあるので好ましくない。反対に昇温結晶化ピーク温度が160℃を上回る場合、結晶化速度が遅すぎ、寸法変化など成形加工性に劣るため好ましくない。
パラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位を含む変性PPS樹脂は寸法安定性が高く、昇温結晶化ピークが160℃を上回る場合であっても180℃以下であれば、成形加工上問題とならない。
本発明の変性PPS樹脂は、PPS樹脂が本来有する優れた機械的強度、耐薬品性、電気絶縁性、成形加工性を損なうこと無く、乾熱処理後の引張破断伸度に優れると共に、乾熱処理前後の引張伸度の保持率が飛躍的に向上したものである。
ここでいう乾熱処理後の引張破断伸度とは、空気中200℃にて500時間処理した後のASTM4号ダンベル試験片について、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、支点間距離64mm、引張速度10mm/min、雰囲気温度23℃、相対湿度50%条件下、ASTM−D638に従って測定した引張破断伸度である。この乾熱処理後の引張破断伸度は8%以上であることが好ましく、12%以上であることがより好ましく、16%以上であることがさらに好ましい態様として例示できる。引張破断伸度が8%未満になると、降伏点強度に達すること無く脆性的に破壊する傾向が強く、実用上の問題が生じる。
また、ここでいう乾熱処理前後の引張破断伸度の保持率(以下、伸度保持率と略すことがある)とは以下の式で表される量である。伸度保持率が高い程、熱処理による引張破断伸度の低下が起こりにくいことを表す。
伸度保持率(%)={空気中200℃にて500時間処理した後の引張破断伸度(%)/乾熱処理前の引張破断伸度(%)}×100
この伸度保持率は、10%超であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、40%以上であることが最も好ましい態様として例示できる。
(e)変性PPS樹脂組成物
本発明の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂は、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、官能基を含有しないフッ素系樹脂、エチレン/ブテン共重合体などのエポキシ基を含有しないオレフィン系重合体、共重合体などを配合して樹脂組成物として用いることができる。
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物はいずれも組成物全体の20重量%を越えると本発明のPPS樹脂本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、更に好ましくは1重量%以下の添加がよい。
特に、本発明の変性PPS樹脂の特性を活かした組成物とするために、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂を配合した組成物とすることが好ましい。
(f)ポリエーテルイミド樹脂
本発明で用いられるポリエーテルイミド樹脂とは、脂肪族、脂環族または芳香族系のエーテル単位と環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリマーである。溶融成形性を有するポリマーで有れば特に限定されない。また、本発明の効果を阻害しない範囲で有れば、ポリエーテルイミドの主鎖に環状イミド、エーテル結合以外の構造単位、例えば、エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されていても良い。
具体的なポリエーテルイミドとしては、下記一般式で示されるポリマーが好ましく使用される。
(但し、上記式中Rは、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、Rは、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、2〜20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、および2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基である。)上記R1、R2としては、例えば、下記式群に示される芳香族残基を有するものが好ましく使用される。
本発明では、溶融成形性やコストの観点から、下記式で示される構造単位を有する、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物が好ましく使用される。このポリエーテルイミドは、“ウルテム”の商標でsabicイノベーティブプラスチックス社から市販されている。
本発明で用いられるポリエーテルイミド樹脂としては、上記した中でもポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体が好ましく用いられる。ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体は、ポリエーテルイミドの繰り返し単位と、ポリシロキサンの繰り返し単位とからなる通常公知の共重合体が挙げられる。好ましくは、以下構造式(I)で示される繰り返し単位および以下構造式(II)で示される繰り返し単位からなる。
なお、上記構造式(I)、(II)中のTは、−O−または−O−Z−O−であり、2価の結合手は、3,3’−、3,4’−、4,3’−、4,4’−位にあり、Zは以下構造式(化11)で示される2価の基からなる群および以下構造式で示される2価の基からなる群より選択される。
ここで、Xは、C1−5のアルキレン基またはそのハロゲン化誘導体、−CO−、−SO−、−O−、−S−からなる群から選択される。
上記構造式(I)、(II)中のRは、6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基およびそのハロゲン化誘導体、2〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、3〜20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基ならびに以下構造式で示される基からなる群より選択される2価の有機基である。ここで、QはC1−5のアルキレン基またはそのハロゲン化誘導体、−CO−、−SO−、−O−、−S−からなる群より選択される。
上記構造式(II)中のmおよびnはそれぞれ1〜10の整数であり、gは1〜40の整数である。
また、特に好ましくは、上記構造式(I)、(II)の構造にさらに以下構造式で示される繰り返し単位を含有する。
なお、上記構造式中のMは、以下構造式で示される群より選択され(式中のBは−S−または−CO−)、
R’は上記で定義したRと同様であるか、以下構造式で示される2価の基である(式中のmおよびnはそれぞれ1〜10の整数であり、gは1〜40の整数である)。
上記したポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体の製造方法としては、以下構造式で示される芳香族ビス(エーテル無水物)と、
以下構造式で示される有機ジアミンとからポリエーテルイミドを製造する公知の方法において、
上記構造式の有機ジアミンの一部または全てを以下構造式で示されるアミン末端オルガノシロキサンで置き換えることにより製造される。
なお、上記構造式中のT、R、n、m、gは上記で定義したものと同様である。
本発明で使用するポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体のいずれでも良いが、中でもブロック共重合体が柔軟で優れた靱性を発現する上で好ましい。ポリ(エーテルイミド−シロキサン)ブロック共重合体としては、以下構造式に代表される化学構造が例示できる。
ここで、上記構造式中のaは1〜10000の整数、nは1〜50の整数、mは2〜40の整数、Rは4価の芳香族基であって以下構造式から選択される。
上記式中のTは、C1−5のアルキレン基またはそのハロゲン化誘導体、−CO−、−SO−、−O−、−S−、および−O−Z−O−の2価の基から選択される。なお、Zは前記と同様である。
は前記したRと同様である。
およびRはそれぞれ独自にC1−8のアルキル基、そのハロゲン置換またはニトリル置換誘導体およびC6−13のアリール基から選択される。
上記したポリ(エーテルイミド−シロキサン)ブロック共重合体の製造方法としては、以下構造式
の水酸基末端ポリイミドオリゴマーを以下構造式
のシロキサンオリゴマーとエーテル化条件下で反応させる公知の方法が例示できる。
但し、n、m、R〜Rは、前記の定義の通りである。また、上記構造式(化21)中のxは、上記構造式(化20)の水酸基末端ポリエーテルイミドオリゴマー中の水酸基との反応により置換されてエーテル結合を形成することの出来るハロゲン、ジアルキルアミノ基、アシル基、アルコキシ基、水素原子である。
その他、ポリ(エーテルイミド−シロキサン)ブロック共重合体の製造方法としては、芳香族ビス(エーテル無水物)と、有機ジアミンとからポリエーテルイミドを製造する公知の方法において、反応剤を逐次的に添加することによっても勿論合成可能である。
本発明で使用するポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体のガラス転移温度について、特に制限はないが、耐熱性と柔軟性の観点から、140℃以上220℃以下で有ることが好ましく、150℃以上210℃以下であることがより好ましく、160℃以上200℃以下で有ることがさらに好ましい。
ポリエーテルイミド樹脂は、(a)変性PPS樹脂に含まれるPPS樹脂100重量部に対し、1〜30重量部配合することが好ましく、3〜20重量部配合することがより好ましく、5〜15重量部配合することがさらに好ましい。30重量部以下とすることでPPS本来の耐薬品性等を損なうことがなく、成形加工面の観点からも好ましい。
(g)フッ素樹脂
本発明で用いられるフッ素樹脂は、特に限定されるものでは無いが、反応性官能基を導入されたものが好ましく例示できる。反応性官能基は特に制限されないが、具体的にはビニル基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、アルデヒド基、カルボニルジオキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、水酸基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、加水分解性シリル基などを例示できるが、中でもエポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、水酸基が好ましく、更にはカルボキシル基、酸無水物基がより好ましい。これら反応性官能基が2種以上含まれていても良い。
フッ素樹脂に反応性官能基を導入する方法としては、フッ素樹脂に相溶し、前記官能基を含有する化合物または樹脂を配合する方法や、フッ素樹脂を重合する際に、前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する重合性モノマーと共重合する方法、フッ素樹脂を重合する際に、前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する開始剤を用いる方法、フッ素樹脂と前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する重合性モノマーとをラジカル発生剤の存在下に反応させる方法、フッ素樹脂を酸化、熱分解などの手法により変性する方法などが挙げられるが、中でも共重合によりフッ素樹脂の主鎖または側鎖に官能基を導入する方法、フッ素樹脂と官能基を含有する重合性モノマーとをラジカル発生剤の存在下に反応させる方法が、品質、コスト、導入量制御の観点から好ましい。
前記官能基を含有する重合性モノマーは、特に限定されるものではないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ハイミック酸、これらの酸無水物、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エチルアクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
反応性官能基を含有するフッ素樹脂中に含まれる官能基の量は、PPS樹脂との反応が十分に進行する観点から、反応性官能基を含有するフッ素樹脂1gに対して、0.01モル%以上が好ましく、0.05モル%以上がより好ましく、0.1モル%以上で有ることが更に好ましい。官能基量の上限については、フッ素樹脂本来の特性が損なわれなければ特に限定されることはなく、流動性の悪化なども考慮すると、10モル%以下が好ましい範囲として例示できる。
本発明で用いられるフッ素樹脂の構造は、特に限定されるものでは無いが、少なくとも1種のフルオロオレフィンから構成されることが望ましい。例えば、テトラフルオロエチレンまたはクロロトリフルオロエチレンなどの単独重合体や、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、フッ化ビニルとの共重合体、更にはエチレン、プロピレン、ブテン、アルキルビニルエーテル類などのフッ素を含まない非フッ素エチレン性単量体との共重合体も例示できる。更に具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロピレン共重合体(EFEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などが挙げられるが、中でも、耐熱性が高く、溶融成形加工が容易である観点から、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が好ましく、ETFEが更に好ましい。
本発明で用いられるフッ素樹脂の溶融粘度は、特に限定されるものでは無いが、PPS樹脂との粘度差を小さくして混和性を高める観点から、融点+100℃の温度で測定した場合に100Pa・s以上10000Pa・s以下で有ることが好ましい。
本発明で用いられるフッ素樹脂の融点は、特に限定されるものでは無いが、130℃以上330℃以下であることが好ましく、耐熱性の観点からは、150℃以上310℃以下がより好ましく、180℃以上300℃以下であることが更に好ましく、200℃以上280℃以下であることが更に好ましく、210℃以上260℃以下であることがより好ましい。なお、本発明では、反応性官能基を含有するフッ素樹脂と共に反応性官能基を含有しないフッ素樹脂を併用することも可能である。
フッ素樹脂は、(a)変性PPS樹脂に含まれるPPS樹脂100重量部に対し、1〜30重量部配合することが好ましく、3〜20重量部配合することがより好ましく、5〜15重量部配合することがさらに好ましい。30重量部を超えるとPPS本来の機械特性等を損なうとともに成形加工面の観点からも好ましくない。
(h)変性ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法
本発明の変性PPS樹脂組成物の製造方法としては、溶融状態での製造や溶液状態での製造等が使用できるが、簡便さの観点から、溶融状態での製造が好ましく使用できる。溶融状態での製造については、押出機による溶融混練や、ニーダーによる溶融混練等が使用できるが、生産性の観点から、連続的に製造可能な押出機による溶融混練が好ましく使用できる。押出機による溶融混練については、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機、二軸単軸複合押出機等の押出機を1台以上で使用できるが、混練性、反応性、生産性向上の点から、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機が好ましく使用でき、二軸押出機による溶融混練が最も好ましい。
本発明の変性PPS樹脂組成物を製造するより具体的な方法としては、変性PPS樹脂の製造方法の項でも述べたとおり、あらかじめ変性PPS樹脂を製造し、他の配合成分を配合する方法、変性PPS樹脂の原料となるPPS樹脂、前記エポキシ化合物、および他の配合物を配合する方法があげられるが、樹脂組成物を効率よく製造するという観点で、(a)PPS樹脂、前記(b)エポキシ化合物、(c)ポリエーテルイミド樹脂を、あるいは、(a)PPS樹脂、前記(b)エポキシ化合物、(d)フッ素樹脂を、二軸の押出機に供給して、(a)PPS樹脂の融点+5〜100℃の加工温度で溶融混練する方法を代表例として挙げることができる。(a)PPS樹脂と前記(b)エポキシ化合物を溶融混練により反応させるためには、せん断力を比較的強くする必要があることから、二軸押出機のスクリューアレンジ構成において、ニーディング部が1箇所以上配置されることが好ましい。ニーディング部箇所の上限としては、1箇所あたりのニーディング部の長さとニーディング部の間隔によって変化し得るが、10箇所以下が好ましく、8箇所以下がより好ましい。また、押出機のスクリュー全長に対するニーディング部の合計の長さの割合が、3〜60%の範囲が好ましく、より好ましくは5〜50%の範囲が好ましい。
二軸押出機のスクリュー長さLとスクリュー直径Dの比であるL/Dは、10以上が望ましく、15以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。二軸押出機のL/Dの上限は通常60である。この際の周速度としては、15〜50m/分の範囲が選択され、20〜40m/分がより好ましく選択される。二軸押出機のL/Dが10未満の場合には、混練部分が不足するため、(a)PPS樹脂と前記(b)エポキシ化合物を十分に反応させることができず、乾熱処理後も優れた引張破断伸度が発現する変性PPS樹脂組成物を得る観点から好ましくない。
スクリュー回転数については、(a)PPS樹脂と前記(b)エポキシ化合物を十分に反応させる観点から、100rpm以上が好ましく、125rpm以上がより好ましい。スクリュー回転数の上限については、特に制限されないが、押出機への負荷軽減の観点から1500rpm以下であることが好ましい。原料の混合順序については特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、これと更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。
中でも、(a)PPS樹脂と前記(b)エポキシ化合物を溶融混練中に、サイドフィーダーを用いて(c)ポリエーテルイミド樹脂、または(d)フッ素樹脂と混合する方法は、(a)PPS樹脂と前記(b)エポキシ化合物の反応が優先的にかつ十分に進むため、乾熱処理後も優れた引張破断伸度が発現する変性PPS樹脂組成物を得る観点から有利である。
また、(a)PPS樹脂と、前記(b)エポキシ化合物とを十分に反応させるだけでなく、(a)PPS樹脂と、(c)ポリエーテルイミド樹脂、または(d)フッ素樹脂とを十分に反応させ、伸度の保持率を一層向上させるためには、一部の(a)PPS樹脂と前記(b)エポキシ化合物とを予め溶融混練しマスターバッチを製造し、他方で、残りの(a)PPS樹脂と(c)ポリエーテルイミド樹脂、または(d)フッ素樹脂とを溶融混練してマスターバッチを製造した後に、両マスターバッチを溶融混練する手法が好ましく例示できる。この予め溶融混練してマスターバッチを製造する場合、前記(b)エポキシ化合物は、一部の(a)PPS樹脂100重量部に対し、0.1〜30重量部配合することが好ましく、0.3〜10重量部配合することがより好ましく、0.5〜5重量部配合することがさらに好ましい。また、もう一方のマスターバッチを製造する場合、(c)ポリエーテルイミド樹脂、または(d)フッ素樹脂は、残りの(a)PPS樹脂100重量部に対し、1〜30重量部配合することが好ましく、3〜20重量部配合することがより好ましく、5〜15重量部配合することがさらに好ましい。一部の(a)PPS樹脂と、残りの(a)PPS樹脂の重量割合は、特に制限はないが、1:9〜7:3の範囲が好ましく、1:9〜5:5の範囲がより好ましく、2:8〜4:6の範囲がさらに好ましい態様として例示できる。
その他、少量添加剤成分としてエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有するシランカップリング剤を、(c)ポリエーテルイミド樹脂、または(d)フッ素樹脂の相溶性向上の為に添加することも好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定はされないが、KBE9007、KBM303、KBE907が好ましく用いられる。これらのシランカップリング剤は、信越シリコーン社から市販されている。
(i)ポリエーテルイミド樹脂またはフッ素樹脂を配合した変性PPS樹脂組成物の特徴
本発明においては、乾熱処理後も優れた引張破断伸度が発現する変性PPS樹脂を得る観点から、ポリエーテルイミド樹脂、またはフッ素樹脂を変性PPS樹脂に配合することが特に好ましい。ポリエーテルイミド樹脂、またはフッ素樹脂の配合は、変性PPS樹脂の靭性をさらに向上させると共に、長期耐熱性も強化することが可能である。降温結晶化ピーク温度が低く、昇温結晶化ピークが検出される変性PPS樹脂組成物を得る観点から、変性後のPPS樹脂組成物がナトリウムを200ppm以上含むことが好ましく、300ppm以上含むことがより好ましく、400ppm以上含むことが更に好ましい。ナトリウム濃度が200ppm未満であると、乾熱処理後の引張伸度が低下し易く好ましくない。ナトリウム量の上限は特に限定されないが、電気絶縁性や耐湿熱性の観点からは3000ppm以下であることが好ましい。本発明では、ナトリウム以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等を含んでも良い。また、ナトリウム含有量の異なる複数のPPS樹脂が混合されていても良い。
なお、ここでいう変性PPS樹脂組成物のナトリウム含有量は、変性PPS樹脂組成物5gを500℃の電気炉で灰化した後、0.1規定塩酸水溶液、0.1%塩化ランタン水溶液で希釈した水溶液を試料とし、島津製作所製原子吸光分光光度計AA−6300を用いた原子吸光法により得た値である。
本発明の変性PPS樹脂組成物は、PPS樹脂が本来有する優れた機械的強度、耐薬品性、電気絶縁性、成形加工性を損なうこと無く、乾熱処理後の引張破断伸度に優れると共に、乾熱処理前後の引張伸度の保持率が飛躍的に向上したものである。
ここでいう乾熱処理後の引張破断伸度とは、空気中200℃にて500時間処理した後のASTM4号ダンベル試験片について、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、支点間距離64mm、引張速度10mm/min、雰囲気温度23℃、相対湿度50%条件下、ASTM−D638に従って測定した引張破断伸度である。この乾熱処理後の引張破断伸度は8%以上であることが好ましく、12%以上であることがより好ましく、16%以上であることがさらに好ましい態様として例示できる。引張破断伸度が8%未満になると、降伏点強度に達すること無く脆性的に破壊する傾向が強く、実用上の問題が生じる。
また、ここでいう乾熱処理前後の引張破断伸度の保持率(以下、伸度保持率と略すことがある)とは以下の式で表される量である。伸度保持率が高い程、熱処理による引張破断伸度の低下が起こりにくいことを表す。
伸度保持率(%)={空気中200℃にて500時間処理した後の引張破断伸度(%)/乾熱処理前の引張破断伸度(%)}×100
この伸度保持率は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい態様として例示できる。
(j)変性PPS樹脂または変性PPS樹脂組成物の用途
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形など、各種成形手法により成形可能であるが、中でも射出成形用途として有用である。また、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、引張破断伸度に極めて優れると共に、耐熱老化性に優れる特徴から、比較的成形加工温度が高く、溶融滞留時間の長い押出成形用途としても有用である。更に、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、メルトテンションや伸張粘度などの特性にも優れる特徴から、吹込(ブロー)成形用途としても有用である。具体的には、押出ブロー、射出ブロー、シートブローの他、三次元ブローやサクションブローなどの多次元ブローなどが挙げられる。また、種々特性を複合的に付与する観点から、二種二層、三種三層、二種五層などの多層ブローとして設計する事も好適である。
射出成形により得られる成形品の用途としては、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、ターボダクト、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車などの一次電池または二次電池用のガスケット等々を例示できる。
押出成形により得られる成形品としては、丸棒、角棒、シート、フィルム、チューブ、パイプなどが挙げられ、更に具体的な用途としては、給湯器モーター、エアコンモーター、駆動モーター用などの電気絶縁材料、フィルムコンデンサー、スピーカー振動板、記録用の磁気テープ、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、工程・離型フィルム、保護フィルム、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、リチウムイオン電池内の絶縁ワッシャー、熱水や冷却水、化学薬品用のチューブ、自動車用の燃料チューブ、熱水配管、化学プラントなどの薬品配管、超純水や超高純度溶媒用の配管、自動車配管、フロンや超臨界二酸化炭素冷媒用の配管パイプ、研磨装置用のワークピース保持リングなどが例示できる。その他、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体、家電用の耐熱電線ケーブル、自動車内の配線に使用されるフラットケーブル等のワイヤーハーネスやコントロールワイヤー、通信、伝送用、高周波用、オーディオ用、計測用などの信号用トランスまたは車載用トランスの巻線の被覆成形体などが例示できる。
吹込(ブロー)成形により得られる成形品の用途としては、自動車用の燃料タンク、オイルタンク、レゾネーター、インタークーラー、インテークマニホールド、ターボダクト、吸排気ダクト、ラジエターパイプ、ラジエターヘッダー、エクスパンジョンタンク、オイル循環パイプなどが例示できる。
中でも、高温環境下に晒される自動車の燃料関係・排気系・吸気系各種パイプやダクト、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーター周辺部材、とりわけ電線被覆成形体として有用である。これら各種成形品は、熱板溶着、レーザー溶着、誘導加熱溶着、高周波溶着、スピン溶着、振動溶着、超音波溶着、射出溶着などの二次加工に供する事も勿論可能である。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
以下の実施例において、材料特性については次の方法により評価した。
[DSC]
Perkin Elmer社製示差走査熱量計DSC7を用い、窒素気流下、昇温速度20℃/分の条件にて50℃から340℃まで昇温し、1分間保持した後、降温速度20℃/分の条件で340℃から100℃まで降温して、降温結晶化ピーク温度(Tmc)、降温結晶化ピーク熱量(ΔHmc)を測定した。
更に昇温速度20℃/分の条件にて100℃から340℃まで昇温して昇温結晶化ピーク温度(Tcc)を測定した。
[メルトフローレート(MFR)]
東洋精機社製メルトインデクサ(長さ8.00mm、穴直径2.095mmのオリフィス)を用い、温度315.5℃、荷重5000gの条件下、ASTMD−1238−70に従って、PPS樹脂のメルトフローレートを測定した。
[非ニュートン指数]
東洋精機社製キャピログラフ1B(長さ10mm、直径1mmのキャピラリー)を用いて、300℃の条件下、せん断応力、せん断速度を測定し下記式にて非ニュートン指数を算出した。
SR=k・SS
SR:せん断速度
SS:せん断応力
K:定数
n:非ニュートン指数
[ナトリウム含有量]
変性前後のPPS樹脂または変性PPS樹脂組成物5gを500℃の電気炉で灰化した後、0.1規定塩酸水溶液、0.1%塩化ランタン水溶液で希釈した水溶液を試料とし、島津製作所製原子吸光分光光度計AA−6300を用いた原子吸光法によりナトリウム含有量を測定した。
[射出成形]
住友重機械製射出成形機SE75−DUZを用い、樹脂温度300℃、金型温度60℃とする条件にて、ASTM4号ダンベル試験片を成形した。得られた成形品を熱風乾燥機中150℃×30分の条件でアニール処理を行った。
[乾熱処理]
前記、射出成形により得られたASTM4号ダンベル試験片を200℃に設定したギヤオーブンに入れ、500時間処理してから室温で24時間以上放冷した。
[引張試験]
前記得られた乾熱処理前後のASTM4号ダンベル試験片について、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、支点間距離64mm、引張速度10mm/min、雰囲気温度23℃、相対湿度50%条件下、ASTM−D638に従って引張破断伸度を測定した。
[引張破断伸度の保持率]
乾熱処理前後の引張破断伸度から、引張破断伸度の保持率(以下、伸度保持率という)を決定した。ここで、伸度保持率とは以下の式で表される量である。伸度保持率が高い程、熱処理による伸度の低下が起こりにくいことを表す。
伸度保持率(%)={空気中200℃にて500時間処理した後の引張破断伸度(%)/乾熱処理前の引張破断伸度(%)}×100
[参考例1]PPS樹脂の調整(PPS−1)
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.63モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11434.50g(147.00モル)、酢酸ナトリウム2583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
その後160℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から238℃まで昇温し、238℃で95分反応した。その後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、250℃まで1.3℃/分の速度で15分かけて冷却しながら水1260g(70モル)を圧入した。その後200℃まで1.0℃/分で冷却した後、室温近くまで急冷した。内容物を取り出し、35リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物を80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別し、得られた固形物を同様に35リットルのNMPで洗浄、濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。最終的に得られたPPS−1は、MFRが70g/10分、ナトリウム含有量が420ppm、非ニュートン指数が1.33であった。
[参考例2]PPS樹脂の調製(PPS−2)
参考例1と同様の前工程・重合反応工程・回収工程にて得た反応物に対して、35リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物を80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別し、得られた固形物を同様に35リットルのNMPで洗浄、濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。次いで、得られた固形物に0.05重量%酢酸水溶液70000gを加え、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾別してから、更に70000gのイオン交換水を加え、同様の条件にて撹拌洗浄、濾別した。この含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥してPPS−2を得た。最終的に得られたPPS−2は、MFRが100g/10分、ナトリウム含有量が50ppm、非ニュートン指数が1.32であった。
[参考例3]PPS樹脂の調製(PPS−3)
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2908.30g(69.80モル)、NMP11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム1890.00g(23.10モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
その後160℃まで冷却し、p−DCB10447.30g(71.07モル)、NMP9367.80g(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。得られたケークを80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPSは、非ニュートン指数が1.05、MFRが700g/10分であった。
上述で得られたPPSを、MFRが140g/10分となるまで酸素気流下、200℃で熱処理した。最終的に得られたPPS−3は、ナトリウム含有量が450ppm、非ニュートン指数が1.46であった。
[参考例4]PPS樹脂の調製(PPS−4)
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.63モル)、NMP11450g(115.5モル)、酢酸ナトリウム1610.00g(19.6モル)、及びイオン交換水5500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9820gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.01モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たり1.4モルであった。
その後160℃まで冷却し、p−DCB10330g(70.2モル)、NMP9370g(94.5モル)、1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)44g(0.24モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、撹拌しながら200℃から235℃までで昇温し、235℃で120分重合したのち255℃まで昇温し、イオン交換水を1000g(56.0モル)圧入した後に255℃で300分重合反応を行った。その後、200℃まで1.0℃/分で冷却した後、室温近くまで急冷した。内容物を取り出し、35リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物を80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別し、得られた固形物を同様に35リットルのNMPで洗浄、濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。最終的に得られたPPS−4は、非ニュートン指数が1.39、MFRが80g/10分、ナトリウム量200ppmであった。
[参考例5]PPS樹脂の調整(PPS−5)
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2980.80g(70.54モル)、NMP11455.29g(115.71モル)、酢酸ナトリウム2233.64g(27.3モル)、及びイオン交換水5500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9820gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.01モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たり1.12モルであった。
その後160℃まで冷却し、p−DCB9422.56g(65,00モル)、NMP9175.32g(92.68モル)、m−ジクロロベンゼン1008.42g(6.86モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、撹拌しながら200℃から270℃までで昇温し、270℃で30分重合したのち、イオン交換水を1000g(56.0モル)圧入した後に270℃で170分重合反応を行った。その後、イオン交換水を1449g(80.5モル)圧入した後200℃まで1.0℃/分で冷却した後、室温近くまで急冷した。内容物を取り出し、35リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物を80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別し、得られた固形物を同様に35リットルのNMPで洗浄、濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。最終的に得られたPPS−5は、非ニュートン指数が1.19、MFRが170g/10分、ナトリウム量450ppmであった。
[参考例6]エポキシ化合物
エポキシ化合物−1:前記一般式(1)において、Rは炭素数2の直鎖アルキル基、k=5であるエポキシ化合物、ナガセケムテックス社製“EX145”
エポキシ化合物−2:前記一般式(2)において、Rは炭素数2の直鎖アルキル基、l=9であるエポキシ化合物、ナガセケムテックス社製“EX830”
エポキシ化合物−3:前記一般式(3)において、Xは化1の(c)で表される基、R−Rは水素である、エポキシ化合物、日本化薬社製“XD1000”
エポキシ化合物−4:前記一般式(3)において、Xは化1の(b)で表される基、R−Rは水素である、エポキシ化合物、日本化薬社製“NC7700”
エポキシ化合物−5:前記一般式(3)において、Xは化1の(a)で表される基、R−Rは水素である、エポキシ化合物、日本化薬社製“NC3000”
エポキシ化合物―6:下式で表されるエポキシ化合物(三菱化学社製“jER1009”)
[参考例7]ポリエーテルイミド樹脂
ポリエーテルイミド樹脂−1:sabicイノベーティブプラスチックス社製“Siltem1500”。
[参考例8]フッ素樹脂
フッ素樹脂−1:旭硝子社製“AH2000”。
[参考例9]相溶化剤
相溶化剤−1:3−イソシアネートプルピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製“KBE9007”)。
[実施例1〜5、8、9、比較例3〜6]
PPS樹脂、エポキシ化合物を表1または表2に示す割合でドライブレンドした後、スクリュー長さL、スクリュー直径Dの比であるL/Dが23、L/Dに対するニーディングスクリューの割合7%、押出温度300℃、スクリュー回転数150rpmに設定した2軸押出機(池貝工業社製PCM−30)を使用して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で一晩乾燥し、ナトリウム含有量、結晶化ピーク温度、熱量を評価した。その後乾燥ペレットを射出成形に供し、得られた成形品について乾熱処理前後の引張伸度、伸度保持率を評価した。
[実施例6]
PPS樹脂、エポキシ化合物に加えて、ポリエーテルイミド樹脂、相溶化剤を表1に示す割合でドライブレンドする以外は、実施例1と同様に溶融混練、ペレット化、各種特性評価を行った。結果は表1に示す通りであった。
[実施例7]
PPS樹脂、エポキシ化合物に加えて、フッ素樹脂、相溶化剤を表1に示す割合でドライブレンドする以外は、実施例1と同様に溶融混練、ペレット化、各種特性評価を行った。結果は表1に示す通りであった。
[比較例1〜2、8]
PPS樹脂のみを使用する以外は、実施例1と同様に溶融混練、ペレット化、各種特性評価を行った。結果は表2に示す通りであった。
[比較例7]
エポキシ化合物、相溶化剤を使用しないこと以外は、実施例6と同様に溶融混練、ペレット化、各種特性評価を行った。結果は表2に示す通りであった。
上記実施例と比較例の結果を比較して説明する。
実施例1〜7はナトリウムを200ppm以上含むPPSと特定のエポキシ化合物を溶融混練することにより、降温結晶化ピーク温度が170℃未満になると共に、昇温結晶化ピーク温度が検出された結果、乾熱処理前後の伸度保持率が高く、飛躍的に優れた耐熱老化性を示した。
特に、実施例1〜2では昇温結晶化ピーク温度が135℃以上155℃以下となることにより、乾熱処理後の引張破断伸度が高くなると共に、伸度保持率も飛躍的に向上した。
さらに、実施例6〜7ではポリエーテルイミド樹脂、またはフッ素樹脂を配合することにより、乾熱処理後の引張破断伸度および伸度保持率が益々向上した。
また、実施例8〜9ではナトリウムを200ppm以上含むことに加え、メタフェニレンスルフィド単位をパラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位の全量に対して1〜20モル%含むPPS樹脂と特定のエポキシ化合物を溶融混練することにより、乾熱処理後の引張破断伸度および伸度保持率が向上した。
一方、比較例1〜2、7〜8の様に、エポキシ化合物を配合しない場合、PPS樹脂の重合条件によっては降温結晶化温度が170℃未満になる場合もあるが、昇温結晶化ピーク温度が検出されることはなく、乾熱処理後の引張破断伸度は極めて低く、伸度保持率も同様に低いものであった。
また、比較例3〜4の様に、ナトリウムを50ppmだけ含むPPS樹脂を配合した場合、降温結晶化ピーク温度が200℃以上となり、昇温結晶化ピーク温度が検出されることはなかった。このため、実施例1〜5と比較して、乾熱処理後の引張破断伸度は極めて低く、伸度保持率も同様に低いものであった。
比較例6の様に、ビスフェノールA型エポキシ化合物を配合した場合、昇温結晶化ピーク温度が検出されない結果、乾熱処理後の引張破断伸度は極めて低く、伸度保持率も同様に低いものであった。
比較例5では、変性前PPSが200ppm以上のナトリウムを含有するものの、酸化架橋処理しているために、特定構造のエポキシ化合物と溶融混練しても、降温結晶化ピーク温度は170℃未満を下回ることはなく、昇温結晶化ピーク温度も検出されなかった。結果として、乾熱処理後の引張伸度は極めて低く、伸度保持率も同様に低いものであった。

Claims (11)

  1. ナトリウムを200ppm以上含む変性ポリフェニレンスルフィド樹脂であって、示差走査熱量計にて、室温から340℃まで20℃/分で昇温して1分間保持した後、340℃から100℃まで20℃/分で降温した際に検出される降温結晶化ピーク温度が170℃未満であると共に、さらに100℃から340℃まで20℃/分で昇温した際に昇温結晶化ピーク温度が検出されることを特徴とする変性ポリフェニレンスルフィド樹脂。
  2. 前記変性ポリフェニレンスルフィド樹脂が、パラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位を含む変性ポリフェニレンスルフィド樹脂であって、メタフェニレンスルフィド単位をパラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位の全量に対して1〜20モル%含むことを特徴とする請求項1に記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂。
  3. 前記昇温結晶化ピーク温度が、135℃以上155℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂。
  4. 変性ポリフェニレンスルフィド樹脂が、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表されるエポキシ化合物で変性されたものである請求項1〜3のいずれかに記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂。
    (ここで一般式(1)および(2)の、Rは炭素数1〜8のアルキル基を表し、kは1〜20の値を表し、lは1〜20の値を表す。一般式(3)の、Xは一般式(a)、(b)または(c)で表される二価の有機基を表し、mは0より大きく10以下の値を表す。一般式(3)、(a)および(b)の、R〜Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。)
  5. 非ニュートン指数が0.9以上1.4以下かつ、ナトリウムを200ppm以上含むポリフェニレンスルフィド樹脂と、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表されるエポキシ化合物とを、溶融混練することを特徴とする変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
    (ここで一般式(1)および(2)の、Rは炭素数1〜8のアルキル基を表し、kは1〜20の値を表し、lは1〜20の値を表す。一般式(3)の、Xは一般式(a)、(b)または(c)で表される二価の有機基を表し、mは0より大きく10以下の値を表す。一般式(3)、(a)および(b)の、R〜Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。)
  6. 得られる変性ポリフェニレンスルフィド樹脂が、示差走査熱量計にて、室温から340℃まで20℃/分で昇温して1分間保持した後、340℃から100℃まで20℃/分で降温した際の降温結晶化ピーク温度が170℃未満であることを特徴とする請求項5記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
  7. 得られる変性ポリフェニレンスルフィド樹脂が、示差走査熱量計にて、室温から340℃まで20℃/分で昇温して1分間保持した後、340℃から100℃まで20℃/分で降温し、さらに100℃から340℃まで20℃/分で昇温した際に昇温結晶化ピーク温度が検出されることを特徴とする請求項5または6に記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
  8. 前記ポリフェニレンスルフィド樹脂が、パラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位を含み、メタフェニレンスルフィド単位をパラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位の全量に対して1〜20モル%含むポリフェニレンスルフィド樹脂である請求項5〜7のいずれかに記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
  9. 得られる変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の、前記昇温結晶化ピーク温度が、135℃以上155℃以下であることを特徴とする請求項7に記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
  10. 請求項1〜4のいずれかに記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂1〜30重量部を配合してなることを特徴とする変性ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  11. 請求項1〜4のいずれかに記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂または請求項10に記載の変性ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
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