JP2021155694A - ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれを用いた中空成形品 - Google Patents

ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれを用いた中空成形品 Download PDF

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悠司 山中
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武志 東原
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Abstract

【課題】高強度および高靭性を有し、耐熱老化性と優れたブロー成形性を両立したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれを用いた中空成形品を得ることができる。【解決手段】(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(B)強化用繊維を1〜200重量部、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体1〜200重量部、(D)有機シラン化合物を0.01〜10重量部、および(E)リンのオキソ酸金属塩0.01〜5重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、射出成形して得られるISO(1A)ダンベル試験片をISO178に従い測定した曲げ強度が100MPa以上、300MPa以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、高強度および高靭性を有し、耐熱老化性とブロー成形性を両立したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれを用いた中空成形品に関するものである。
自動車の燃費向上を図る方法として、エンジンルーム内のダクトや配管類の樹脂化による軽量化が普及しており、現在、主としてポリアミド系材料が使用されている。
近年、エンジンルーム狭小化等に伴う使用環境温度の上昇や、排気ガス再循環機構による酸の暴露に伴い、樹脂材料はより過酷な環境での使用を想定する必要が生じたため、優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気特性を有するエンジニアリングプラスチックとしてポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)が着目されている。
一方で、PPS樹脂は溶融粘度が低いため、ダクトや配管類の好適な成形方法であるブロー成形においてはパリソンのドローダウンが生じ、偏肉の少ない成形品を得ることが難しい。また靱性不足も実使用における課題となる。このためPPS樹脂にエポキシ基を含有するオレフィン系共重合体を配合して溶融粘度を高めると共に靱性を改良する設計が主流である(例えば、特許文献1)。
しかし、近年ブロー成形技術の発展(例えば、サクションブロー成形)に伴い、成形品の細径化や薄肉化等の設計自由度が向上したため、樹脂材料の更なる高強度化や高靱性化、特に耐熱老化性が求められる場合がある。そのため、有機シラン化合物を添加する検討(例えば、特許文献2)や、繊維強化材の検討(例えば、特許文献3)により、PPS樹脂のブロー成形性と材料特性を改良する検討がこれまで多数報告されている。
特開平3−236930号公報 特開2011−256387号公報 特開2016−183316号公報
しかしながら、特許文献2および特許文献3に記載されたPPS樹脂組成物は、いずれもエポキシ基を含有するオレフィン系共重合体を配合しているため、ドローダウンを抑制可能な高い溶融粘度を維持したまま、強度向上を図り繊維強化材の配合量を増加させると、急激な剪断粘度の増加と剪断発熱により、耐熱性が低いエポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の顕著な劣化を招き、機械特性低下、成形時のガス発生、特に耐熱老化性の低下が生じる等の課題があった。
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリフェニレンスルフィド樹脂、繊維強化材、エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体、および有機シランカップリング剤からなる組成物において、リンのオキソ酸金属塩が複数の好適な作用を奏することでエポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の熱劣化を抑制し、ブロー成形性と機械特性や耐熱老化性を両立できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
1.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(B)強化用繊維を1〜200重量部、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体を1〜200重量部、(D)有機シラン化合物を0.01〜10重量部、および(E)リンのオキソ酸金属を塩0.01〜5重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、射出成形して得られるISO(1A)ダンベル試験片をISO178に従い測定した曲げ強度が100MPa以上、300MPa以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
2.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)強化用繊維、および(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の合計を100重量%としたとき、(B)強化用繊維の配合量が15重量%以上、50重量%以下である1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
3.温度300℃、剪断速度122/sで測定した溶融粘度が1000Pa・s以上、3000Pa・s以下である、1項〜2項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
4.樹脂組成物のペレットを空気下で320℃2時間処理した際の重量減少率(%)が0.3%以上、3.0%以下である1項〜3項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
5.前記(D)有機シラン化合物が、エポキシ基、またはイソシアネート基を有するアルコキシシラン化合物である1項〜4項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
6.前記(E)リンのオキソ酸金属塩がホスフィン酸金属塩である、1項〜5項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
7.1項〜6項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
8.前記成形品が中空成形品である7項に記載の成形品。
9.1項〜6項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物をブロー成形する、成形品の製造方法。
本発明によれば、優れた材料強度、靱性および耐熱老化性を有し、かつブロー成形性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が得られる。これらの特性を有するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、高温、振動下で使用される自動車エンジン周りのダクト類や薄肉化した配管等の成形品に好適である。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に用いられる(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と略すことがある)とは、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体である。
Figure 2021155694
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また(A)PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
Figure 2021155694
本発明で用いられる(A)PPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、より優れた靱性を得る意味からその溶融粘度は高い方が好ましい。例えば30Pa・sを超える範囲が好ましく、50Pa・s以上がより好ましく、100Pa・s以上がさらに好ましい。上限については剪断発熱によるエポキシを含有するオレフィン系共重合体の熱劣化抑制の観点から600Pa・s以下であることが好ましい。
なお、本発明における溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機製キャピログラフを用いて測定した値である。
以下に、本発明に用いる(A)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造の(A)PPS樹脂が得られれば下記製造方法に限定されるものではない。
まず、製造方法において使用するジハロ芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
[ジハロ芳香族化合物]
ジハロ芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのジハロ芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。
ジハロ芳香族化合物の添加量は、加工に適した粘度の(A)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができる。アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選ばれる。
[分子量調節剤]
生成する(A)PPS樹脂に反応性の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
[重合助剤]
比較的高重合度の(A)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られる(A)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われる。そのため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1モル〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2モル〜0.5モルの範囲がより好ましい。
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6モル〜10モルの範囲が好ましく、1モル〜5モルの範囲がより好ましい。
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ジハロ芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を抑制するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02モル〜0.2モル、好ましくは0.03モル〜0.1モル、より好ましくは0.04モル〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益があり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
次に、本発明に用いる(A)PPS樹脂の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、勿論この方法に限定されるものではない。
[前工程]
(A)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ジハロ芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温〜100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロ芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(A)PPS樹脂を製造する。
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100℃〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とジハロ芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
かかる混合物を通常200℃以上290℃未満の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01℃/分〜5℃/分の速度が選択され、0.1℃/分〜3℃/分の範囲がより好ましい。
一般に、最終的には250℃以上290℃未満の温度まで昇温し、その温度で通常0.25時間〜50時間、好ましくは0.5時間〜20時間反応させる。
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270℃以上290℃未満に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間〜20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25時間〜10時間の範囲が選ばれる。
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のジハロ芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達していることが有効である。
なお、ジハロ芳香族化合物(ここではDHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。DHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ジハロ芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)−DHA過剰量(モル)〕
(b)上記(a)以外の場合
転化率=〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)〕。
[回収工程]
(A)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用してもよい。
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いてもよい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全工程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1℃/分〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用してもよい。
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選ばれる。
[後処理工程]
(A)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
酸処理を行う場合は次のとおりである。(A)PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、(A)PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のような(A)PPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に(A)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の水溶液を80℃〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上、例えばpH4〜8程度となってもよい。酸処理を施された(A)PPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理による(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
熱水処理を行う場合は次のとおりである。(A)PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満では(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
熱水洗浄による(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量の(A)PPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。(A)PPS樹脂と水との割合は、水が多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、(A)PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
また、処理の雰囲気は、末端基の分解が好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えた(A)PPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。(A)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、(A)PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、二塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中に(A)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒で(A)PPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
アルカリ金属処理、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、または前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合工程前、重合工程中、または重合工程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、または最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でも最も容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS樹脂中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属を導入する際のアルカリ金属イオン濃度、アルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
本発明においては、靱性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、酸処理もしくはアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩で処理する方法が好ましく、特にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が更に好ましい。
その他、(A)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160℃〜260℃が好ましく、170℃〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5時間〜100時間が好ましく、1時間〜50時間がより好ましく、2時間〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130℃〜250℃が好ましく、160℃〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5時間〜50時間が好ましく、1時間〜20時間がより好ましく、1時間〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でも、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
但し、本発明の(A)PPS樹脂は、優れた靱性を発現する観点から、熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPS樹脂であるか、軽度に酸化架橋処理した半架橋状のPPS樹脂であることが好ましい。その一方で、熱酸化架橋処理を施したPPS樹脂は、クリープ歪みを小さく抑制する観点からは好適であり、適宜、直線状のPPS樹脂と混合して使用することも可能である。また、本発明では、溶融粘度の異なる複数の(A)PPS樹脂を混合して使用してもよい。
本発明に用いる(B)強化用繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが挙げられ、樹脂組成物の機械強度向上効果とコスト面のバランスからガラス繊維が好ましい。
上記(B)強化用繊維の表面をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理することも、(B)強化用繊維の集束性や樹脂配合時の分散性およびガラス繊維と樹脂間の密着性向上の観点から好ましい。
上記(B)強化用繊維の形状は、用いる繊維種によって異なるため一概には規定できないが、繊維径が1〜50μmが好ましく、3〜30μmが更に好ましく、5〜20μmがより好ましい。その長さは30μm〜10mmが好ましく、50μm〜5mmがより好ましい。繊維断面径と繊維長さを上記範囲内とすることで、樹脂組成物の機械強度向上効果を得ることができ、好ましい。
上記(B)強化用繊維の配合量は、強度向上効果を得る観点から、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、1〜200重量部の範囲が必要であり、10重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましく、50重量部以上が特に好ましい。配合量の上限値は150重量部以下が好ましく、120重量部以下がより好ましい。(B)強化用繊維の配合量が1重量部未満の場合、優れた機械強度が得られず、200重量部を超える場合、溶融粘度が著しく増加し、成形性や靱性の低下を招くため好ましくない。
本発明に用いる(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体としては、側鎖にグリシジルエステル、グリシジルエーテル、グリシジルジアミンなどを有するオレフィン系共重合体や、二重結合を有するオレフィン系共重合体の二重結合部分を、エポキシ酸化したものなどが挙げられ、中でもエポキシ基を有するモノマーが共重合されたオレフィン系共重合体が好適であり、特にα−オレフィンおよびα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするオレフィン系共重合体が好適に用いられる。
かかるα−オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、デセン−1、オクテン−1などが挙げられ、中でもエチレンが好ましく用いられる。またこれらは2種以上を同時に使用することもできる。
一方、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとは、一般式
Figure 2021155694
(ここでRは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で示される化合物であり、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどが挙げられ、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく用いられる。
かかるα−オレフィンおよびα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするオレフィン系共重合体は、上記α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとのランダム、ブロック、グラフト共重合体のいずれの共重合様式であってもよい。
α−オレフィンおよびα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするオレフィン系共重合体におけるα,β−不飽和酸のグリシジルエステルの共重合量は、目的とする効果への影響、重合性、ゲル化、耐熱性、流動性、強度への影響などの観点から、0.5〜40重量%が好ましい。その下限値としては、十分な溶融粘度と靭性改善効果を得る観点から、1.0重量%以上が好ましく、更に、3.0重量%以上が好ましく、特に5.0%重量以上が好ましい。また、その上限値は過剰反応とそれに伴うせん断発熱を抑制する観点から20重量%以下が好ましく、15重量%以下が更に好ましく、10重量%以下が特に好ましい。
本発明においてエポキシ基を含有するオレフィン系共重合体として、α−オレフィン(1)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)に加え、更に下記一般式で示される単量体(3)を必須成分とするエポキシ基を含有するオレフィン系共重合体もまた好適に用いられる。
Figure 2021155694
(ここで、Rは水素または炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは−COOR基、−CN基あるいは芳香族基から選ばれた基、またRは炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
かかるオレフィン系共重合体に用いられるα−オレフィン(1)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)の詳細は上記の(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体におけるものと同様である。
一方、単量体(3)の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル、アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、芳香環がアルキル基で置換されたスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、などが挙げられ、これらは2種以上を同時に使用することもできる。
かかるエポキシ基を含有するオレフィン系共重合体は、α−オレフィン(1)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)と単量体(3)のランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、およびそれらの共重合体が共重合された共重合体のいずれの共重合様式であってもよく、例えばα−オレフィン(1)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)のランダム共重合体に対し単量体(3)がグラフト共重合したような、2種以上の共重合様式が組み合わされた共重合体であってもよい。
エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の共重合割合は、目的とする効果への影響、重合性、ゲル化、耐熱性、流動性、強度への影響などの観点から、α−オレフィン(1)/α,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)=60重量%〜99重量%/40重量%〜1重量%の範囲が好ましく選択される。また単量体(3)の共重合割合は、α−オレフィン(1)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)の合計量95重量%〜40重量%に対し、単量体(3)5重量%〜60重量%の範囲が好ましく選択される。また、これら共重合割合が異なるエポキシ基を含有するオレフィン系共重合体を併用してポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度や靭性の調整を行うことも可能である。
上記(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の配合量は、α−オレフィンおよびα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするオレフィン系共重合体におけるα,β−不飽和酸のグリシジルエステルの共重合量によるため、一概には規定できないが、優れた靱性を発現させると共に、ブロー成形に適した溶融粘度を得る観点から、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、1〜200重量部の範囲が必要であり、5重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましい。配合量の上限値は150重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましく、70重量部以下が特に好ましい。(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体が1重量部未満の場合、優れた靭性、ブロー成形性が得られず、200重量部を超える場合、溶融粘度が著しく増加し、ゲル化物形成や靱性低下を招くため好ましくない。
本発明では、前記した(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体と共に、未変性オレフィン系共重合体を併用することで優れた靭性を得ることもできる。
未変性オレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、ポリブテン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体や、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリイソプレン、ブテン−イソプレン共重合体、およびSBS、SIS、SEBS、SEPSなどが挙げられる。中でも(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体との相溶性の観点からエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体が、特に好ましい。
上記未変性オレフィン系共重合体の配合量は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体と未変性オレフィン系共重合体の合計が1〜200重量部の範囲であることが好ましい。配合量の下限値は、5重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましい。配合量の上限値は(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体と未変性オレフィン系共重合体の合計が150重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましく、70重量部以下が特に好ましい。(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体と未変性オレフィン系共重合体の合計が1重量部以上とすることで、靭性、ブロー成形性が得られ、200重量部以下とする場合、未変性オレフィン系共重合体の粗大分散を抑制する結果、靱性を維持できる。
(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)強化用繊維、および(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の合計を100重量%としたとき、十分な機械強度を得る観点から(B)強化用繊維の配合量が15重量%以上であることが好ましく、薄肉化した成形品で実用強度を得る観点から20重量%以上がより好ましく、パリソンの剛性を高めてドローダウンを抑制し、肉厚の均一性を得る観点から25重量%以上が特に好ましく、30重量%以上が殊更に好ましい。15重量%以上とすることで、十分な機械強度が得られる。また、その上限値としては70重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましく、優れた成形品の外観を得る観点から50重量%以下が特に好ましく、40重量%以下が最も好ましい。70重量%以下とすることで、(B)強化用繊維の顕著な絡み合いを起因とした溶融粘度の増大による剪断発熱を抑制しポリマーの熱分解を抑制できる。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物においては、優れた靱性と溶融粘度を調整して優れたブロー成形性を得る観点から(D)有機シラン化合物を配合することが必須である。上記効果は(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体と同様であるが、機械強度の低下を伴わない点において優位である。(D)有機シラン化合物としては、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基およびアルコキシ基から選択される少なくとも一つの官能基を有することが好ましい。中でも、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)強化用繊維、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体との反応性の観点から、エポキシ基、またはイソシアネート基を有するアルコキシシラン化合物が好ましい。具体例としては、イソシアネート変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ウレイド変性シリコーン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシメチル−3−ピペラジノプロピルシラン、3−ピペラジノプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトメチルジメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシランなどを好ましく例示することができる。中でも、反応性や取扱上の観点から、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランおよび2−(3,4―エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランが好ましい。また、(D)有機シラン化合物は、それぞれ単独または2種以上の混合物の形で用いることができる。
上記(D)有機シラン化合物の配合量は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して0.01〜10重量部であることが必須であり、0.1〜5重量部であることが好ましく、0.3〜3重量部であることがより好ましい。(D)有機シラン化合物の配合量が10重量部を超えると、溶融粘度が著しく増加し、ゲル化物形成や靱性低下を招くため好ましくなく、0.01重量部未満であると、十分なブロー成形性が得られないので、好ましくない。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物においては、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の熱劣化を抑制し、成形時のガス発生の抑制や優れた機械強度、靱性、耐熱老化性を得る観点から(E)リンのオキソ酸金属塩を配合することが必須である。
(E)リンのオキソ酸金属塩は、公知である還元作用により(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の熱酸化を抑制することが可能である。加えて、本発明者らは、(E)リンのオキソ酸金属塩が、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)強化用繊維、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体、および(D)有機シラン化合物からなる樹脂組成物において、同等の溶融粘度を維持しながら、溶融混練中の剪断発熱を抑制する作用を奏することを新たに見出した。この作用によりブロー成形が可能な高い溶融粘度を維持したまま、(B)強化用繊維の配合量を増やしても、剪断発熱、および(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の熱劣化を抑制することが可能となり、成形時のガス発生を抑制できる他、優れた機械強度、靱性、特に耐熱老化性を有するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得ることができる。本作用の発現メカニズムは判然としないが、(B)強化用繊維の反応性を制御していると推定される。
上記(E)リンのオキソ酸金属塩としては、亜リン酸、リン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、二リン酸および三リン酸から選ばれた酸の金属塩が好ましく、ホスフィン酸の金属塩がより好ましい。具体的には、ホスフィン酸カリウム、ホスフィン酸ナトリウム、ホスフィン酸カルシウム、ホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ホスフィン酸亜鉛、ホスフィン酸マグネシウムなどが挙げられる。これらの中でもリン濃度や取扱い上の観点からホスフィン酸金属塩が好ましく、ホスフィン酸ナトリウムがさらに好ましい。
これらの(E)リンのオキソ酸金属塩は、それぞれ単独または2種以上の混合物の形として用いることができる。
上記(E)リンのオキソ酸金属塩の配合量は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して0.01〜5重量部であることが必須であり、0.05重量部以上が好ましく、0.1重量部以上であることがより好ましい。配合量の上限値は3重量部以下が好ましく、1重量部以下がより好ましい。(E)リンのオキソ酸金属塩の配合量が5重量部を超えると、多量のガス発生の原因となり、0.01重量部未満であると、十分な剪断発熱抑制効果が得られない。
本発明では、その特性を損なわない範囲で必要に応じて、添加剤、その他の熱可塑性樹脂、充填材等を配合してもよい。
添加剤としては、フェノール系酸化防止剤や、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。
上記添加剤の配合量は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、0.1〜10重量部添加することが好ましく、0.2〜5重量部添加することがより好ましい。
その他の熱可塑性樹脂としては、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体などが挙げられる。
また、充填材としては、フラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、これらの無機フィラーは中空であってもよく、さらに2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも炭酸カルシウムやシリカ、カーボンブラックが、防食材、滑材、導電性付与の効果の点から好ましい。
上記したその他成分の添加量は、何れも組成物全体の20重量%を超えると本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、好ましくは5重量%以下の添加がよい。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度は、ブロー成形時のドローダウンを抑制する観点から、1000Pa・s以上が好ましく、1300Pa・s以上がより好ましい。また、ブロー成形品の肉厚を均一に得る観点から1500Pa・s以上が特に好ましい。上限については溶融流動性保持の点から3000Pa・s以下であることが好ましく、2500Pa・s以下がより好ましい。溶融粘度を1000Pa・s以上とすることで、ドローダウンが生じ、肉厚の均一性が失われるなどの成形不良を抑制できる。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度は、例えば、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の高粘度種を選択する他、(B)強化用繊維、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体、(D)有機シラン化合物の配合量を増やすことでも、増加させることが可能である。なお、本発明における樹脂組成物の溶融粘度は、300℃、剪断速度122/sの条件下、東洋精機製キャピログラフを用いて測定した値である。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の重量減少率は、成形品へのボイド混入抑制の観点から、3.0重量%以下が好ましく、2.5重量%以下がより好ましく、ボイド混入による薄肉成形品の強度低下を抑制する観点から2.0重量%以下が特に好ましく、1.5重量%以下が最も好ましい。なお、本発明における樹脂組成物の重量減少率は、樹脂組成物のペレットを空気中で320℃2時間処理した際の、乾燥処理前の重量に対する乾燥処理前後における重量変化の比である。すなわち、重量減少率は樹脂組成物からの発生ガス量を表す指標でもある。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の重量減少率を3.0重量%以下とする方法は、そのような樹脂組成物が得られる限り特に限定されないが、例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融混練中の剪断発熱を抑制して樹脂温度を低下させる他、酸化防止剤を添加することで、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の熱劣化を抑制する方法が挙げられる。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形して得られるISOダンベル試験片(1A)をISO178に従い測定した曲げ強度が100MPa以上、300MPa以下である必要がある。より薄肉した成形品での実用強度を得る観点から150MPa以上が好ましく、200MPa以上がより好ましい。曲げ強度が300MPaを超える場合、ブロー成形性との両立が困難になり、好ましくない。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の曲げ強度は、(B)強化用繊維の配合量を増やすことで増加させることが可能である。さらに、高温環境下での耐久性を得る観点から上記、ISOダンベル試験片(1A)を180℃で500時間処理した後も上記の100MPa以上、300MPa以下の曲げ強度を有することが好ましい。180℃で500時間熱処理した後の曲げ強度の低下を抑制するためには、例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融混練中の剪断発熱を抑制して樹脂温度を低下させる他、酸化防止剤を添加することで、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の熱劣化を抑制することが好ましい。さらに、自動車のエンジンやモーターの冷却に用いられるエチレングリコールを主成分とした冷却液が触れる環境下での耐久性を得る観点から、上記のISOダンベル試験片(1A)を、LLC(トヨタ自動車社製トヨタスーパーロングライフクーラント(品番08889−01005))とイオン交換水とを重量比1:1で混合した液中150℃で500時間処理した後も上記の100MPa以上、300MPa以下の曲げ強度を有することが好ましい。LLC中150℃で500時間熱処理した後の曲げ強度の低下を抑制するためには、例えば、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)強化用繊維との間で形成する化学結合をより耐加水分解性の高い結合とすることが好ましい。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形して得られるISOダンベル試験片(1A)をISO527−1、−2に従い測定した引張破断伸度が3.0%以上、20.0%以下であることが好ましい。より薄肉した成形品での実用靱性を得る観点から3.5%以上が好ましく、4.0%以上がより好ましく、4.5%以上が特に好ましい。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の引張破断伸度は、(C)エポキシ基を含有するオレフィン共重合体や(D)有機シラン化合物の配合量を増やすことで増加させることが可能である。さらに、高温環境下での耐久性を得る観点から上記、ISOダンベル試験片(1A)を180℃で500時間処理した後も上記の3.0%以上、20.0%以下の引張破断伸度を有することが好ましい。180℃で500時間熱処理した後の引張破断伸度の低下を抑制するためには、例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融混練中の剪断発熱を抑制して樹脂温度を低下させる他、酸化防止剤を添加することで、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の熱劣化を抑制することが好ましい。さらに、自動車のエンジンやモーターの冷却に用いられるエチレングリコールを主成分とした冷却液が触れる環境下での耐久性を得る観点から、上記ISO(1A)ダンベル試験片をLLC(トヨタ自動車社製トヨタスーパーロングライフクーラント(品番08889−01005))とイオン交換水とを重量比1:1で混合した液中150℃で500時間処理した後も上記の3.0%以上、20.0%以下の引張破断伸度を有することが好ましい。LLC中150℃で500時間熱処理した後の引張破断伸度の低下を抑制するためには、例えば、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂と(B)強化用繊維との間で形成する化学結合をより耐加水分解性の高い結合とすることが好ましい。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法については、特に制限は無く、単軸、二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に原料を供給し、樹脂温度が(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の融解ピーク温度+5℃〜100℃になるように溶融混練する方法などを代表例として挙げることができるが、中でも二軸押出機による溶融混練が好ましい。
二軸押出機の、スクリュー長さL(mm)とスクリュー直径D(mm)の比(L/D)としては、10以上が望ましく、20以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。二軸押出機のL/Dの上限は通常は60である。L/Dが10未満の場合は、混練が不足し、十分な溶融粘度や靭性を得ることが難しくなる傾向がある。
この際、原料の混合順序は特に制限がなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、これと更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、押出機により溶融混練する途中からサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。十分な材料強度を得る観点から(B)強化用繊維はサイドフィーダーを用いて混合することが好ましい。
また(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)強化用繊維、(C)エポキシ基を含有するオレフィン共重合体、(D)有機シラン化合物の過剰反応による押出ガットのゲル化やそれに伴う靭性の低下を抑制することが好ましく、これを達成するためのスクリューの構成として、切り欠き部を有する撹拌スクリューを使用することが好ましい。ここで「切り欠き」とは、スクリューフライトの山部分を一部削ってできたものをいう。切り欠き部を有する撹拌スクリューは樹脂充填率を高くすることが可能である。溶融樹脂は、撹拌スクリューを連結させたニーディング部を通過する際に、押出機シリンダー温度の影響を受けやすい。切り欠き部を有する撹拌スクリューを使用することで、混練時のせん断により発熱した溶融樹脂が効率的に冷却されるので、混練時の樹脂温度を低下させることが可能となる。また、切り欠き部を有する撹拌スクリューは、従来の樹脂をすりつぶす手法とは異なり、撹拌・掻き混ぜを主体とする混練を行うことができるため、発熱による樹脂の熱劣化をより抑制可能となる。
切り欠き部を有する撹拌スクリューとしては、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率向上、混練性向上の観点から、スクリュー直径をD(mm)とするとスクリューピッチの長さは0.1D〜0.3Dの範囲であり、かつ切り欠き数が1ピッチあたり10〜15個である切り欠き部を有する撹拌スクリューであることが好ましい。ここで「スクリューピッチの長さ」とは、スクリューが360度回転したときの、スクリューの山部分間のスクリュー長さをいう。
切り欠き部を有する撹拌型スクリューについては、スクリューの全長L(mm)の3%以上になるように導入することが好ましく、更には5%以上になるように導入することがより好ましい。その上限としては20%以下が好ましく15%以下がより好ましい。
押出機のシリンダー温度は、用いる(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点によるため一概には言えないが、280℃以上320℃以下が好ましい範囲として例示できる。
溶融混練時の樹脂温度は、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の熱劣化を抑制する観点から、350℃以下が好ましく、340℃以下がより好ましく、330℃以下が特に好ましい。本発明における溶融混練時の樹脂温度は、押出機ダイヘッドに具備した温度計により測定した温度である。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、様々な成形方法に適用可能であり、例えば押出成形、射出成形、中空成形、カレンダ成形、圧縮成形、真空成形、発泡成形、ブロー成形、回転成形等が挙げられる。特に、本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、成形時のドローダウン等を抑制し、偏肉の少ない成形品を得ることができることから、ブロー成形用途として有用である。ブロー成形としては、押出ブロー成形や射出ブロー成形が挙げられ、ダイレクトブロー、エクスチェンジブローなどの多層ブロー、サクションブローなどの多次元ブロー、インジェクションブロー、射出延伸ブローなどが挙げられる。また、ブロー成形時の、パリソンのブローアップに用いるエアーとしては、空気を用いることが可能であり、熱酸化劣化を抑制できる観点では、窒素、ヘリウム等の不活性ガスを用いることが好ましく、コスト面で窒素が特に好ましい。
押出成形やブロー成形により得られる成形品の用途としては、丸棒、角棒、シート、フィルム、チューブ、パイプなどが挙げられ、更に具体的な用途としては、給湯器モーター、エアコンモーター、駆動モーター用などの電気絶縁材料、フィルムコンデンサー、スピーカー振動板、記録用の磁気テープ、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、工程・離型フィルム、保護フィルム、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、リチウムイオン電池内の絶縁ワッシャー、熱水や冷却水、化学薬品用のチューブ、自動車用の燃料チューブ、熱水配管、化学プラントなどの薬品配管、超純水や超高純度溶媒用の配管、自動車配管、自動車冷却配管、フロンや超臨界二酸化炭素冷媒用の配管パイプ、研磨装置用のワークピース保持リングなどが例示できる。その他、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体、家電用の耐熱電線ケーブル、自動車内の配線に使用されるフラットケーブル等のワイヤーハーネスやコントロールワイヤー、通信、伝送用、高周波用、オーディオ用、計測用などの信号用トランスまたは車載用トランスの巻線の被覆成形体などが例示できる。中でも、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、耐熱老化性、耐薬品性に優れる特徴を生かして、ハイブリッド自動車や電気自動車、ターボ機構を具備した自動車等、高温環境下に晒される自動車の燃料関係・排気系・吸気系、冷却系の各種パイプやダクトとして有用である。
また、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、高強度、高靭性、耐熱老化性に優れる特徴を生かして、成形品の強度を保ったまま薄肉化する設計が可能であり、成形品の軽量化や細経化への適用が可能である。
射出成形により得られる成形品の用途としては、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、多極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品;顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、自動車冷却配管、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、ターボダクト、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車などの一次電池または二次電池用のガスケット等々を例示できる。
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでは無い。各実施例および比較例における基礎評価は、次の方法により行った。
(1)溶融粘度測定
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットについて、試験温度300℃、剪断速度122/s、キャピラリー長10mm、キャピラリー径1mmの条件下、東洋精機製キャピログラフを用いて測定した。
(2)発生ガス量測定
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットをアルミカップに10g秤量し、320℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて2時間処理し、室温で放冷した。次いで、重量を測定し、乾燥処理前の重量に対する乾燥処理前後における重量変化の比である重量減少率(%)を発生ガス量とした。
(3)射出成形
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットについて、住友重機械製射出成形機SE75−DUZを用い、シリンダー温度310℃、金型温度140℃として、ISO(1A)ダンベル試験片を射出成形した。
(4)初期機械特性
(3)に記載の条件で射出成形したISO(1A)ダンベル試験片について、23℃条件下、オートグラフAG−Xplus20kN試験機を用い、ISO527−1,−2に従い、支点間距離114mm、引張速度5mm/minの条件で引張特性を評価した。
次いで、ISO178に従い、支点間距離64mm、速度2mm/minの条件で曲げ特性を評価した。
(5)180℃×500hr熱処理後の機械特性
(3)に記載の条件で射出成形したISO(1A)ダンベル試験片を180℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて500hr処理した後、室温で24hr放冷した。
次いで、(4)に記載の方法と同様の方法で引張特性と曲げ特性を評価した。
(6)150℃×500hrLLC処理後の機械特性
(3)に記載の条件で射出成形したISO(1A)ダンベル試験片をLLC(トヨタ自動車社製トヨタスーパーロングライフクーラント(品番08889−01005))とイオン交換水とを重量比1:1で混合した液で満たしたオートクレーブ内に浸漬させて、150℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて500hr処理した後、室温で24hr放冷した。
次いで、(4)に記載の方法と同様の方法で引張特性と曲げ特性を評価した。
(7)ブロー成形
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを、ブロー成形機に供し、シリンダー温度320℃にて、肉厚3mm、φ40mm、長さ200mmの中空成形体と、肉厚1mm、φ40mm、長さ200mmの薄肉中空成形体を成形した。
(8)肉厚均一性評価
前記、ブロー成形した中空成形体と薄肉中空成形体について、成形品上部(上端から30mm)および下部(下端から30mm)の円周上の任意の5箇所の厚みを測定し、下記式から肉厚均一性を求めた。
肉厚均一性=((下部の5箇所の平均厚み−上部の5箇所の平均厚み)/(上部の5箇所の平均厚み))×100(%)
(9)圧力繰り返し試験
前記、ブロー成形した中空成形体と薄肉中空成形体について、圧縮空気を導入して内圧が0MPaから1MPaになるように加圧する操作を1000回繰り返し、圧力漏れが発生した回数に応じて、以下の通り評価した。
◎:1000回繰り返しても圧力漏れなし
○:300回以上〜1000回未満
×:300回未満
各実施例および比較例に用いた原材料について、以下に示す。
[参考例1](A)ポリフェニレンスルフィド樹脂
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.1モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.77kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
その後200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン10.42kg(70.86モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.40kg(133モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
内容物を約35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
[その他の原料]
(B)強化用繊維:ガラス繊維(日本電気硝子社製T−747H)、3mm長、平均繊維径10.5μm
(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体:エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学製“ボンドファースト”E)。グリシジルメタクリレート共重合量:12wt%
未変性オレフィン系共重合体:エチレン・1−ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”A4085)
ポリアミド:相対粘度3.0のナイロン66(東レ製“アミラン”)
(D)有機シラン化合物−1:2−(3,4―エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越シリコーン製:KBM303)
(D)有機シラン化合物−2:3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン製:KBE9007N)
(E)リンのオキソ酸金属塩:和光純薬工業製:ホスフィン酸ナトリウム一水和物
フェノール系酸化防止剤:3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1―ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA製“アデカスタブ”AO80)
リン系酸化防止剤:3,9−ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA製“アデカスタブ”PEP36)
[実施例1〜4、比較例1〜6]
各原料を表1に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部2箇所)を用い、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。
次いで130℃で一晩乾燥したペレットを射出成形し、得られた試験片について、各種物性評価を行った。次いで130℃で一晩乾燥したペレットを上記した方法でダイレクトブロー成形を行い、肉厚3mmの中空成形品と肉厚1mmの薄肉中空成形品を得た。その後中空成形品の圧力繰り返し試験を行った。
Figure 2021155694
上記表1の実施例と比較例の結果を比較して説明する。
実施例1〜4に示す通り、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)強化用繊維、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体、(D)有機シラン化合物、および(E)リンのオキソ酸金属塩を溶融混錬した結果、ドローダウンを抑制可能な高い溶融粘度を維持したまま、発生ガス量が少なく、かつ優れた初期機械特性を示すとともに、180℃で500hr処理後の機械特性に優れた耐熱老化性を示した。
特に実施例2〜4では(B)強化用繊維を多く配合したため、優れた曲げ強度が得られ、その結果、肉厚1mmの薄肉中空成形品の圧力繰り返し試験においても、圧力漏れが認められなかった。
比較例1は実施例1に比して溶融粘度が低く、肉厚1mmの薄肉中空成形品のブロー成形時にドローダウンが認められ、肉厚が不均一で圧力繰り返し試験を行うに値しない薄肉中空成形品が得られた。比較例2は、実施例1に比して(E)リンのオキソ酸金属塩を添加しなかったため、反応押出の制御が不十分となり溶融混練中の樹脂温度が顕著に増加した。そのため、発生ガス量の増加や、初期機械特性の低下、180℃500hr処理後の引張破断伸度や曲げ強度の顕著な低下が認められた。その結果、薄肉中空成形品は得られたものの、成形品にボイドが多く、圧力繰り返し試験にて、300サイクル未満で圧力漏れが認められた。
比較例3は実施例2に比して溶融粘度が低いため、肉厚3mmの中空成形品のブロー成形時でさえドローダウンが認められ、肉厚が不均一で圧力繰り返し試験を行うに値しない中空成形品が得られた。比較例4では、(E)リンのオキソ酸金属塩を添加しなかったため、反応押出の制御が不十分となり溶融混練中の樹脂温度が顕著に増加した。そのため、発生ガス量の増加や、初期機械特性の低下、180℃500hr処理後の引張破断伸度や曲げ強度の顕著な低下が認められた。その結果、薄肉中空成形品は得られたものの、成形品にボイドが多く、圧力繰り返し試験にて、300サイクル未満で圧力漏れが認められた。
比較例5では、実施例2に比して、(E)リンのオキソ酸金属塩の代わりにフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を添加したが、反応押出の制御は不十分であったため、比較例4と同様の挙動を示し、その結果、薄肉中空成形品は得られたものの、成形品にボイドが多く、圧力繰り返し試験にて、300サイクル未満で圧力漏れが認められた。
比較例6では、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の代わりにポリアミドを溶融混錬したため、溶融粘度の低下が認められた。その結果、肉厚3mmの中空成形品のブロー成形時でさえドローダウンが認められ、肉厚が不均一で圧力繰り返し試験を行うに値しない中空成形品が得られた。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物をブロー成形に適用するためには、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体が必須であることがわかる。

Claims (9)

  1. (A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(B)強化用繊維を1〜200重量部、(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体を1〜200重量部、(D)有機シラン化合物を0.01〜10重量部、および(E)リンのオキソ酸金属塩を0.01〜5重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、射出成形して得られるISO(1A)ダンベル試験片をISO178に従い測定した曲げ強度が100MPa以上、300MPa以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  2. (A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)強化用繊維、および(C)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体の合計を100重量%としたとき、(B)強化用繊維の配合量が15重量%以上、50重量%以下である請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  3. 温度300℃、剪断速度122/sで測定した溶融粘度が1000Pa・s以上、3000Pa・s以下である、請求項1〜2のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  4. 樹脂組成物のペレットを空気中で320℃2時間処理した際の重量減少率(%)が0.3%以上、3.0%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  5. 前記(D)有機シラン化合物が、エポキシ基、またはイソシアネート基を有するアルコキシシラン化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  6. 前記(E)リンのオキソ酸金属塩がホスフィン酸金属塩である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
  8. 前記成形品が中空成形品である請求項7に記載の成形品。
  9. 請求項1〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物をブロー成形する、成形品の製造方法。
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