JP2019108537A - ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれを用いた中空成形品 - Google Patents
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Abstract
【課題】弾性率が低く柔軟で、高靭性が発現するとともに、耐熱老化性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれを用いた中空成形品を得ることができる。【解決手段】(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、(C)エポキシ基を含有するエラストマーを配合してなる樹脂組成物であって、その樹脂組成物の融点が225℃以上265℃以下であり、その樹脂組成物からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を、(B)アミノ基含有化合物および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成し、樹脂組成物の引張弾性率(シリンダー温度300℃、金型温度150℃にて射出成形して得たASTM1号ダンベル試験片を、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張試験した弾性率)が1.0MPa以上1000MPa以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。【選択図】なし
Description
本発明は、高柔軟かつ高靭性でありながら、耐熱老化性、耐薬品性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれを用いた中空成形品に関するものである。
近年、自動車部品としてエンジンルーム内のダクト類を樹脂化し、軽量化による燃費向上を図る方法が普及してきており、現在、主としてポリアミド系材料が使用されている。
一方、環境低負荷の観点から、NOx発生量を抑制すると同時に、ポンピングロス低減による燃費向上を目的として、内燃機関から発生する排気ガスを吸気ダクトへ還流する排気ガス再循環機構を取り入れた自動車が普及している。この場合、吸気ダクト内が通常の機構よりも強い酸に曝されると共に、ダクト内が高温、高圧環境となり、従来の樹脂製ダクトでは耐久性が十分でなく、靱性、強度が低下してしまう。その結果、ダクトの割れや破裂が起こる課題があり、より耐熱性、耐熱老化性、耐薬品性、靭性に優れた材料が検討されていた。
また、特に近年は、エンジンルーム内の小スペース化やレイアウトの最適化の観点から、ダクト類に従来以上の組付性が求められており、成形品設計の自由度が高いブロー成形と、高柔軟な樹脂を組み合わせてダクト類を設計することが重要となってきている。
このような背景の下、自動車のダクトや配管に用いる樹脂にはこれまで以上の耐熱性や耐薬品性に加えて、高柔軟性とブロー成形性を高度に満足することが求められている。
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気絶縁性、耐湿熱性など、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、電気・電子部品、通信機器部品、自動車部品などに幅広く利用されている。一方で、PPS樹脂を上記コンセプトの基、ダクトや配管に適用するためには、PPS樹脂は、柔軟性・靭性と、ブロー成形性に劣る課題がある。
PPS樹脂は堅くて脆いため、PPS樹脂にエラストマーを配合して柔軟性、靭性を改良する検討がこれまで多数報告されている。しかし、多くの場合、エラストマーの配合量は少量であるため、一定の柔軟性しか得られず、成形品を自由に折り曲げて使用するなどの柔軟材料としての用途への展開には限界があった。また、高い柔軟性を付与するために、エラストマー配合量を増量したとしても、エラストマー相が連続相、ポリフェニレンスルフィド相が分散相となる相構造を形成してしまうため、エラストマーに起因する特性が強く発現し、PPS樹脂本来の優れた耐熱性や耐薬品性が犠牲になる他、高温熱処理後の機械特性が著しく低下する等の新たな課題が生じてしまう。
また、PPS樹脂は、成形加工時の溶融流動性が大きいことから、ブロー成形では、パリソンのドローダウンが大きく、偏肉の少ない成形品を得ることが困難であり、かつPPS樹脂は融点が高いため、空気を吹き込み成形する際、パリソンの内層側は高温で酸素に曝されてしまう結果、耐熱性の低いエラストマー成分は熱酸化分解を受けやすくなる。したがって、ブロー成形では、射出成形に比べて、成形品の特性低下や、外観不良といった課題が生じてしまう傾向がある。
このようなPPS樹脂組成物の柔軟性・靭性における課題に対して、例えば、ポリアミド樹脂層と、ポリアミド樹脂と密着強度の高いPPS樹脂層からなり、耐薬品性とチューブとしての柔軟性に優れる多層チューブが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
また、靭性、耐薬品性、表面平滑性に優れ、中空成形品に好適な材料として、例えば、PPS樹脂とポリアミド樹脂及び/または飽和ポリエステル樹脂とのエラストマーからなる樹脂組成物が検討されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、靭性、耐衝撃性、耐薬品性に優れる材料として、例えば、PPS樹脂とポリアミド樹脂とエラストマーからなり、PPS樹脂が連続相、ポリアミド樹脂が分散相を形成し、かつポリアミド樹脂の分散相中に、酸変性エチレン/αオレフィン共重合体エラストマーが分散した樹脂組成物が検討されている(例えば、特許文献3参照)。
また、PPSのブロー成形性における課題に対して、例えば、特定のカルボキシル基量と溶融粘度を有するポリアリーレンスルフィド樹脂とエポキシ基を有するポリオレフィンからなる樹脂組成物からなり、ドローダウン性を改良したブロー中空成形品用材料が検討されている(例えば、特許文献4参照)。
しかしながら、特許文献1に記載された多層チューブは、柔軟なポリアミドを外層に配することで、チューブとしての柔軟性は得られるものの、ポリアミド層と密着強度の高いPPS樹脂層はPPS樹脂とポリアミド樹脂との共連続構造をとるため、150℃以上の高温で長時間処理した際や、酸性条件下で長時間処理した際に、熱老化が進行し易く、靱性、柔軟性、強度が大幅に低下してしまう課題があった。
特許文献2に記載された樹脂組成物は、靭性、耐衝撃性に優れるものの、エラストマーの配合量が少ないため、柔軟性に劣る課題があった。
さらに、特許文献3に記載された樹脂組成物は、靭性、耐衝撃性に優れ、一定の柔軟性を有するものの、エラストマー配合量が少ないため、十分な柔軟性を有しているとは言いがたく、また、150℃以上の高温で長時間処理した際の熱劣化や、酸性条件下で長時間処理した際に酸による劣化が進行し易く、靱性、柔軟性、強度が大幅に低下してしまう課題があった。
特許文献4に記載されたブロー中空成形用樹脂組成物は、ブロー成形性に優れるものの、エラストマー配合量が少ないため、十分な柔軟性を有しているとは言いがたい。
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリフェニレンスルフィド樹脂とアミノ基含有化合物とエポキシ基を含有するエラストマーからなる樹脂組成物において、引張弾性率(シリンダー温度300℃、金型温度150℃にて射出成形して得たASTM1号ダンベル試験片を、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張試験した弾性率)を1.0MPa以上1000MPa以下の範囲としながら、ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を、アミノ基含有化合物およびエポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成する相構造を構築するとともに、樹脂組成物の融点を225℃以上265℃以下とすることにより、従来技術では困難であったPPSの優れた耐熱性、耐薬品性、耐熱老化性に加えて、高い柔軟性、靭性、かつブロー成形性を満足することを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
1.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーを配合してなる樹脂組成物であって、その樹脂組成物の融点が225℃以上265℃以下であり、その樹脂組成物からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を、(B)アミノ基含有化合物および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成し、樹脂組成物の引張弾性率(シリンダー温度300℃、金型温度150℃にて射出成形して得たASTM1号ダンベル試験片を、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張試験した弾性率)が1.0MPa以上1000MPa以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
2.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂を構成する構造単位としてパラフェニレンスルフィド単位およびメタフェニレンスルフィド単位を含むポリフェニレンスルフィド共重合体である1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
3.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(B)アミノ基含有化合物0.01〜200重量部、および(C)エポキシ基を含有するエラストマー1〜200重量部を配合してなる1項または2項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
4.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計を100重量%としたとき、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量が20重量%を超え、70重量%以下である1項〜3項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
5.(B)アミノ基含有化合物がポリアミド樹脂である1項〜4項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
6.前記分散相において、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相内に(B)アミノ基含有化合物が二次分散相を形成している1項〜5項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
7.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、内燃機関の排気凝縮水に触れる吸気ダクト用のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物である1項〜6項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
8.1項〜7項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
9.前記成形品が中空成形品である8項に記載の成形品。
10.前記中空成形品が内燃機関の排気凝縮水に触れるダクトである9項に記載の成形品。
11.前記ダクトが吸気ダクトである10項に記載の成形品。
12.前記吸気ダクトが、過給機エンジン用の吸気ダクトである11項に記載の成形品。
13.前記過給機エンジン用の吸気ダクトが、ターボチャージャーまたはスーパーチャージャーからインタークーラーの間を繋ぐダクトである12項に記載の成形品。
14.1項〜7項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物をブロー成形する、成形品の製造方法。
15.前記ブロー成形において、不活性ガスを用いてパリソンをブローアップする14項に記載の成形品の製造方法。
1.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーを配合してなる樹脂組成物であって、その樹脂組成物の融点が225℃以上265℃以下であり、その樹脂組成物からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を、(B)アミノ基含有化合物および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成し、樹脂組成物の引張弾性率(シリンダー温度300℃、金型温度150℃にて射出成形して得たASTM1号ダンベル試験片を、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張試験した弾性率)が1.0MPa以上1000MPa以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
2.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂を構成する構造単位としてパラフェニレンスルフィド単位およびメタフェニレンスルフィド単位を含むポリフェニレンスルフィド共重合体である1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
3.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(B)アミノ基含有化合物0.01〜200重量部、および(C)エポキシ基を含有するエラストマー1〜200重量部を配合してなる1項または2項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
4.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計を100重量%としたとき、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量が20重量%を超え、70重量%以下である1項〜3項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
5.(B)アミノ基含有化合物がポリアミド樹脂である1項〜4項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
6.前記分散相において、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相内に(B)アミノ基含有化合物が二次分散相を形成している1項〜5項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
7.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、内燃機関の排気凝縮水に触れる吸気ダクト用のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物である1項〜6項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
8.1項〜7項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
9.前記成形品が中空成形品である8項に記載の成形品。
10.前記中空成形品が内燃機関の排気凝縮水に触れるダクトである9項に記載の成形品。
11.前記ダクトが吸気ダクトである10項に記載の成形品。
12.前記吸気ダクトが、過給機エンジン用の吸気ダクトである11項に記載の成形品。
13.前記過給機エンジン用の吸気ダクトが、ターボチャージャーまたはスーパーチャージャーからインタークーラーの間を繋ぐダクトである12項に記載の成形品。
14.1項〜7項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物をブロー成形する、成形品の製造方法。
15.前記ブロー成形において、不活性ガスを用いてパリソンをブローアップする14項に記載の成形品の製造方法。
本発明によれば、弾性率が非常に低く柔軟で高い靭性を発現しながら、耐熱老化性、耐薬品性が飛躍的に向上し、かつブロー成形性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が得られる。これら特性は、はめ合わせや、折り曲げて使用するチューブ、ホース類、とりわけ高温、振動下で使用される自動車エンジン周りのダクト、ホースなどの用途の成形品に好適である。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に用いられる(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と略すことがある)とは、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体である。
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また(A)PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
特に、その繰り返し単位として、メタフェニレンスルフィド単位を含むPPS共重合体は、PPS本来の耐薬品性を維持しつつ、融点が低下するため、低温で成形加工が可能となり、特に酸素に曝されるブロー成形においてはPPS樹脂組成物中に配合されるPPS樹脂以外の成分の熱酸化劣化を抑制できる点で好ましい。また、PPS樹脂を構成するメタフェニレンスルフィド単位とパラフェニレンスルフィド単位の合計量に対し、メタフェニレンスルフィド単位は5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましい。またその上限としては、15モル%以下が好ましい。メタフェニレンスルフィド単位を5モル%以上とすることで、融点を低下させることができ、15モル%以下とすることで、PPS樹脂本来の耐熱老化性や耐薬品性を維持することができる。
本発明で用いられる(A)PPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、より優れた靱性を得る意味からその溶融粘度は高い方が好ましい。例えば30Pa・sを超える範囲が好ましく、50Pa・s以上がより好ましく、100Pa・s以上がさらに好ましい。上限については溶融流動性保持の点から600Pa・s以下であることが好ましい。
なお、本発明における溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機製キャピログラフを用いて測定した値である。
以下に、本発明に用いる(A)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造の(A)PPS樹脂が得られれば下記製造方法に限定されるものではない。
まず、製造方法において使用するジハロ芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
[ジハロ芳香族化合物]
ジハロ芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのジハロ芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。
ジハロ芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのジハロ芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。
また、異なる2種以上のジハロ芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であり、特にメタジハロ芳香族化合物との共重合体であれば、PPS本来の耐薬品性を維持しつつ、融点が低下するため、低温で成形加工が可能となり、特に酸素に曝されるブロー成形においては、PPS樹脂組成物中に配合されるPPS樹脂以外の成分の熱酸化劣化を抑制できる点で好ましく、m−ジクロロベンゼンが特に好ましい。
ジハロ芳香族化合物の添加量は、加工に適した粘度の(A)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
また、成形加工性と耐熱性、耐薬品性を両立させる観点から、メタジハロ芳香族化合物の添加量は、仕込みジハロ芳香族化合物の全量に対して、5.0モル%以上、15モル%以下が好ましい。
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができる。アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選ばれる。
[分子量調節剤]
生成する(A)PPS樹脂に反応性の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
生成する(A)PPS樹脂に反応性の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
[重合助剤]
比較的高重合度の(A)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られる(A)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
比較的高重合度の(A)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られる(A)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われる。そのため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1モル〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2モル〜0.5モルの範囲がより好ましい。
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6モル〜10モルの範囲が好ましく、1モル〜5モルの範囲がより好ましい。
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ジハロ芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を抑制するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
重合反応系を安定化し、副反応を抑制するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02モル〜0.2モル、好ましくは0.03モル〜0.1モル、より好ましくは0.04モル〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益があったり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
次に、本発明に用いる(A)PPS樹脂の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、勿論この方法に限定されるものではない。
[前工程]
(A)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ジハロ芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
(A)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ジハロ芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温〜100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロ芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(A)PPS樹脂を製造する。
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロ芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(A)PPS樹脂を製造する。
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100℃〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とジハロ芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
かかる混合物を通常200℃以上290℃未満の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01℃/分〜5℃/分の速度が選択され、0.1℃/分〜3℃/分の範囲がより好ましい。
一般に、最終的には250℃以上290℃未満の温度まで昇温し、その温度で通常0.25時間〜50時間、好ましくは0.5時間〜20時間反応させる。
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270℃以上290℃未満に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間〜20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25時間〜10時間の範囲が選ばれる。
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のジハロ芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達していることが有効である。
なお、ジハロ芳香族化合物(ここではDHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。DHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ジハロ芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)−DHA過剰量(モル)〕
(b)上記(a)以外の場合
転化率=〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)〕
(a)ジハロ芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)−DHA過剰量(モル)〕
(b)上記(a)以外の場合
転化率=〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)〕
[回収工程]
(A)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用してもよい。
(A)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用してもよい。
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いてもよい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1℃/分〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用してもよい。
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm2以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選ばれる。
[後処理工程]
(A)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
(A)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
酸処理を行う場合は次のとおりである。(A)PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、(A)PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のような(A)PPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に(A)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の水溶液を80℃〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上、例えばpH4〜8程度となってもよい。酸処理を施された(A)PPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理による(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
熱水処理を行う場合は次のとおりである。(A)PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満では(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
熱水洗浄による(A)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量の(A)PPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。(A)PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、(A)PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
また、処理の雰囲気は、末端基の分解が好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えた(A)PPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。(A)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、(A)PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、二塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中に(A)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒で(A)PPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
アルカリ金属処理、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、または前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合工程前、重合工程中、または重合工程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、または最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でも最も容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS樹脂中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属を導入する際のアルカリ金属イオン濃度、アルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
本発明においては、靱性、耐熱老化性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、酸処理もしくはアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩で処理する方法が好ましく、特にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が更に好ましい。
その他、(A)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160℃〜260℃が好ましく、170℃〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5時間〜100時間が好ましく、1時間〜50時間がより好ましく、2時間〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130℃〜250℃が好ましく、160℃〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5時間〜50時間が好ましく、1時間〜20時間がより好ましく、1時間〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
但し、本発明の(A)PPS樹脂は、優れた靱性を発現する観点から、熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPS樹脂であるか、軽度に酸化架橋処理した半架橋状のPPS樹脂であることが好ましい。その一方で、熱酸化架橋処理を施したPPS樹脂は、クリープ歪みを小さく抑制する観点からは好適であり、適宜、直線状のPPS樹脂と混合して使用することも可能である。また、本発明では、溶融粘度の異なる複数の(A)PPS樹脂を混合して使用してもよい。
本発明に用いる(B)アミノ基含有化合物とは、アミノ基を含有する化合物であればよく、例として、多価アミン化合物やアミノ基を含有する樹脂等が挙げられ、成形品のブリードアウト抑制の観点から、アミノ基を含有する樹脂であることが好ましい。アミノ基を含有する樹脂とは、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルイミドシロキサン共重合体、ポリイミド樹脂もしくはそれらの併用が挙げられ、柔軟性の観点から、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミドシロキサン共重合体がより好ましく、(A)ポリフェニレンスルフィドとの相溶性や、コスト面の観点から、ポリアミド樹脂(以下、PA樹脂と略すことがある)が特に好ましい。ポリアミド樹脂とは、アミノ酸、ラクタムまたはジアミンとジカルボン酸とを主たる構成成分とするポリアミドである。その主要構成成分の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−アミノカプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン、2−メチルペンタメチレンジアミンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ダイマー酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
本発明において、有用なポリアミド樹脂としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。
中でもより柔軟性を得る観点から、アミド基1個当たりの炭素数が10〜16の範囲である構造単位からなるポリアミド樹脂が好適であり、かかるポリアミド樹脂としては、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)などが例示できる。
これらポリアミド樹脂の重合度にはとくに制限がなく、98%濃硫酸溶液(ポリマー1g、濃硫酸100ml)、25℃で測定した相対粘度が、1.5〜7.0の範囲が好ましい。特に2.0以上が好ましく、さらには2.5以上が好ましい。上限値は、6.5以下が好ましく、更には5.5以下が好ましい。あるいは、メタクレゾール中(ポリマー濃度0.5重量%)、25℃で測定した相対粘度が1.0〜7.0の範囲であるポリアミド樹脂が好ましく特に1.5〜5.0の範囲が好ましい。
かかる(B)アミノ基含有化合物の配合量は、(B)アミノ基含有化合物が、低分子化合物である場合は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、0.01〜200重量部の範囲が好ましく、0.01〜100重量部の範囲がより好ましい。(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対する、(B)アミノ基含有化合物の配合量を0.01重量部以上とすることで耐薬品性、耐熱老化性に優れ、200重量部以下とすることで、(B)アミノ基含有化合物のブリードアウトの発生を抑制することができる。また、(B)アミノ基含有化合物が、アミノ基を含有する樹脂である場合は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、0.01〜200重量部の範囲が好ましい。1重量部以上がより好ましく、10重量部以上がさらに好ましく、15重量部以上がいっそう好ましく、20重量部以上が特に好ましい。配合量の上限値としては、100重量部以下がより好ましく、80重量部以下が更に好ましく、60重量部以下がいっそう好ましい。(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対する、(B)アミノ基含有化合物の配合量が0.01重量部未満では靭性、柔軟性に乏しく、200重量部を超える範囲では、耐薬品性、耐熱老化性が著しく劣るため好ましくない。
本発明に用いる(C)エポキシ基を含有するエラストマーとしては、具体的にエポキシ基を含有するポリオレフィン系共重合体を例示することができる。エポキシ基を含有するポリオレフィン系重合体としては、側鎖にグリシジルエステル、グリシジルエーテル、グリシジルジアミンなどを有するオレフィン系共重合体や、二重結合を有するオレフィン系共重合体の二重結合部分を、エポキシ酸化したものなどが挙げられ、中でもエポキシ基を有するモノマーが共重合されたオレフィン系共重合体が好適であり、特にα−オレフィンおよびα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするオレフィン系共重合体が好適に用いられる。
かかるα−オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、デセン−1、オクテン−1などが挙げられ、中でもエチレンが好ましく用いられる。またこれらは2種以上を同時に使用することもできる。
一方、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとは、一般式
(ここでRは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基)で示される化合物であり、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどが挙げられ、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく用いられる。
かかるα−オレフィンおよびα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするオレフィン系共重合体は、上記α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとのランダム、ブロック、グラフト共重合体いずれの共重合様式であってもよい。
α−オレフィンおよびα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするオレフィン系共重合体におけるα,β−不飽和酸のグリシジルエステルの共重合量は、目的とする効果への影響、重合性、ゲル化、耐熱性、流動性、強度への影響などの観点から、0.5〜40重量%、特に3〜30重量%が好ましい。本発明においてエポキシ基含有オレフィン系共重合体として、α−オレフィン(1)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)に加え、更に下記一般式で示される単量体(3)を必須成分とするエポキシ基含有オレフィン系共重合体もまた好適に用いられる。
(ここで、R1 は水素または炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは−COOR2基、−CN基あるいは芳香族基から選ばれた基、またR2は炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
かかるオレフィン系共重合体に用いられるα−オレフィン(1)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)の詳細は上記エポキシ基含有ポリオレフィン系重合体と同様である。
一方単量体(3)の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル、アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、芳香環がアルキル基で置換されたスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、などが挙げられ、これらは2種以上を同時に使用することもできる。
かかるオレフィン系共重合体は、α−オレフィン(1)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)と単量体(3)のランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、およびそれらの共重合体が共重合された共重合体のいずれの共重合様式であってもよく、例えばα−オレフィン(1)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)のランダム共重合体に対し単量体(3)がグラフト共重合したような、2種以上の共重合様式が組み合わされた共重合体であってもよい。
オレフィン系共重合体の共重合割合は、目的とする効果への影響、重合性、ゲル化、耐熱性、流動性、強度への影響などの観点から、α−オレフィン(1)/α,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)=60重量%〜99重量%/40重量%〜1重量%の範囲が好ましく選択される。また単量体(3)の共重合割合は、α−オレフィン(1)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル(2)の合計量95重量%〜40重量%に対し、単量体(3)5重量%〜60重量%の範囲が好ましく選択される。
上記(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量は、優れた靱性、柔軟性を発現させる観点から、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、1〜200重量部の範囲が好ましく、より好ましくは10重量部を超え、さらに好ましくは15重量部を超え、いっそう好ましくは20重量部を超え、特に30重量部を超える量が好ましい。配合量の上限値は150重量部以下が好ましく、更に好ましくは140重量部以下、いっそう好ましくは130重量部以下、特に好ましくは120重量部以下の範囲が選択される。(C)エポキシ基を含有するエラストマーが1重量部以上の場合、靭性、柔軟性に優れ、200重量部以下とすることで、増粘を抑制し、ゲル化物の形成を抑制できるため、靱性の低下が発生せず好ましい。
本発明では、前記した(C)エポキシ基を含有するエラストマーと共に(D)官能基を含有しないエラストマーを配合することにより、より優れた靱性、柔軟性を得ることができる。(D)官能基を含有しないエラストマーの具体例としては、ポリオレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、などが挙げられる。
ポリオレフィン系エラストマーの具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、ポリブテン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などのオレフィン系共重合体が挙げられる。
ジエン系エラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリイソプレン、ブテン−イソプレン共重合体、およびSBS、SIS、SEBS、SEPSなどが挙げられる。
中でもエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体が特に好ましい。
また、かかる(D)官能基を含有しないエラストマーは2種以上を併用して用いてもよい。
上記(D)官能基を含有しないエラストマーの配合量は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの合計が1〜200重量部の範囲であることが好ましい。配合量の下限値は、より好ましくは10重量部を超え、さらに好ましくは15重量部を超え、殊更に好ましくは20重量部を超え、特に30重量部を超えることが好ましく、上限値は150重量部以下、更に好ましくは140重量部以下、殊更に好ましくは130重量部以下、特に好ましくは120重量部以下である。(D)官能基を含有しないエラストマーの配合量が、(C)官能基を含有するエラストマーとの合計にして200重量部を超える場合、(D)官能基を含有しないエラストマーが粗大分散してしまう結果、優れた靱性が発現し難くなる。
さらに本発明では、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの重量部、または(C)エポキシ基を含有するエラストマーの重量部と(D)官能基を含有しないエラストマーの重量部との合計を、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、および(D)官能基を含有しないエラストマーの重量部の合計に対して、特定の範囲とすることで、飛躍的に柔軟性を向上させることができる。具体的には、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、および(D)官能基を含有しないエラストマーの重量部の合計を100重量%としたとき、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの重量部、または(C)エポキシ基を含有するエラストマーの重量部と(D)官能基を含有しないエラストマーの重量部との合計の上限は、70重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましく、成形性の観点から、55重量%以下であることが更に好ましく、50重量%以下であることが特に好ましい。また、その下限は柔軟性を得る観点から、20重量%を超えることが好ましく、30重量%を超えることがより好ましい。(C)エポキシ基を含有するエラストマー、または(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(D)官能基を含有しないエラストマーとの合計がこのような範囲をとることで、飛躍的な柔軟性と成形性を両立させることが可能となる傾向にある。この際に、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(D)官能基を含有しないエラストマーの配合比を特定の範囲とすることで、優れた柔軟性を維持しつつ靭性を向上させることができる。この指標として、エポキシ基含有エラストマー比を用いる。ただし、エポキシ基含有エラストマー比は、(A)PPS樹脂100重量部に対する(C)エポキシ基を含有するエラストマーの重量部/((A)PPS樹脂100重量部に対する(C)エポキシ基を含有するエラストマーの重量部+(A)PPS樹脂100重量部に対する(D)官能基を含有しないエラストマーの重量部)で求められる値と定義する。エポキシ基含有エラストマー比としては、0.5以上1.0以下が好ましく、0.7以上1.0以下がより好ましい。エポキシ基含有エラストマー比がこのような範囲にある場合、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が十分に反応し、(C)エポキシ基を含有するエラストマーおよび(D)官能基を含有しないエラストマーの分散性が向上することで、優れた靭性が発現するとともに、(B)アミノ基含有化合物と(C)エポキシ基を含有するエラストマーが十分に反応し、高粘度化することで、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成しやすくなる結果、優れた耐熱性、耐薬品性が発現する傾向にある。
本発明では、その特性を損なわない範囲で必要に応じて、前記(A)、(B)、(C)、および(D)以外のその他の成分を配合しても構わない。具体的には、添加剤、その他の熱可塑性樹脂、充填剤などである。
添加剤としては、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の靱性、機械強度を更に向上する観点から、エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる一種以上の官能基を有する化合物を、相溶化剤として添加することが好ましい。但し、ここで言う相溶化剤には、前記した(B)アミノ基含有化合物、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーを含まない。
このような添加剤として、具体的には、エポキシ基含有化合物としてはビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5,−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビスフェノール類のグリシジルエーテル、ビスフェノールの代わりにハロゲン化ビスフェノールを用いたもの、ブタンジオールのジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系化合物等々のグリシジルエポキシ樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、エポキシ化大豆油等の線状エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の環状系のジグリシジルエポキシ樹脂などが挙げられる。
また、その他にノボラック型エポキシ樹脂も挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂はエポキシ基を2個以上有し、通常ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて得られるものである。また、ノボラック型フェノール樹脂はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる。原料のフェノール類としては特に制限はないがフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、レゾルシノール、p−ターシャリーブチルフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールSおよびこれらの縮合物が挙げられる。
さらにエポキシ基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物などが例示できる。
アミノ基含有化合物としてはアミノ基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
イソシアネート基を1個以上含む化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,5−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートなどのイソシアネート化合物やγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物を例示することができる。
中でも安定した高い靱性向上効果を得る上で、イソシアネート基を1個以上含む化合物またはエポキシ基を2個以上含む化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましく、さらにイソシアネート基を1個以上含む化合物であることがより好ましい。
上記添加剤の配合量は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、0.1〜30重量部添加することが好ましく、0.2〜5重量部添加することがより好ましい。
また、(C)エポキシ基を含有するエラストマーおよび(D)官能基を含有しないエラストマーの長期耐熱性を向上させるために、酸化防止剤を含有することができる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤や、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられ、これらを2種以上配合してもよい。酸化防止剤の配合量は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、および(D)官能基を含有しないエラストマーの合計を100重量%としたとき、0.1〜10重量%添加することが好ましい。その下限値としては、長期耐熱性のみならず、ブロー成形時に成形品内面が高温の空気に曝されることで生じる熱劣化や外観不良を抑制する観点から、0.5重量%以上が好ましく、0.8重量%以上が好ましい。また、その上限値としては、ブリードアウトの観点から、5重量%以下が好ましく、3重量%以下が特に好ましい。
その他の添加剤としては、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。
また、(B)アミノ基含有化合物としてポリアミド樹脂を用いる場合には、長期耐熱性を向上させるために、銅化合物を好ましく含有することができる。銅化合物としては、例えば、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどとの錯化合物などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。なかでも1価の銅化合物、とりわけ1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第1銅、ヨウ化第1銅などが好ましい。銅化合物の含有量は、通常(B)アミノ基含有化合物として用いたポリアミド樹脂100重量部に対して0.01重量部以上であることが好ましく、さらに0.015重量部以上であることが好ましい。含有量が多すぎると溶融成形時に金属銅の遊離が起こり、着色により製品の価値を減ずることになるため、添加量の上限値は、2重量部以下であることが好ましく、さらに1重量部以下であることが好ましい。
さらに、銅化合物とともにハロゲン化アルカリ化合物を配合してもよい。ハロゲン化アルカリ化合物としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができる。これらを2種以上配合してもよい。ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
その他の熱可塑性樹脂としては、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体などが挙げられる。
また、充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、これらの無機フィラーは中空であってもよく、さらに2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも炭酸カルシウムやシリカ、カーボンブラックが、防食材、滑材、導電性付与の効果の点から好ましい。
上記したその他成分の添加量は何れも組成物全体の20重量%を超えると本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下の添加がよい。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、引張弾性率(シリンダー温度300℃、金型温度150℃にて射出成形して得たASTM1号ダンベル試験片を、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張試験した弾性率)が1.0MPa以上1000MPa以下であることが必要である。優れた振動吸収を得る観点から、900MPa以下が好ましく、より優れた振動吸収を得る観点から、800MPa以下がより好ましく、特に優れた振動吸収を得る観点から、700MPa以下が特に好ましい。さらに、優れた成形品の組み付け性を得る観点から、600MPa以下が好ましく、特に優れた成形品の組み付け性を得る観点から、500MPa以下が殊更好ましい。高い柔軟性を得る観点で、引張弾性率が低いほど好ましいが、成形品の形状保持の観点から、10MPa以上が好ましく、より優れた成形品の形状保持の観点から、30MPa以上が好ましく、特に優れた成形品の形状保持の観点から、50MPa以上が特に好ましい。引張弾性率が1.0MPaを下回る場合、例えば成形品を高温環境下で使用する場合の変形が大きく、形状保持が困難となるため好ましくない。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度は、ブロー成形時のドローダウンを抑制する観点から、200Pa・sを超える範囲が好ましく、300Pa・s以上がより好ましい。また、優れた耐熱老化性を得る観点から500Pa・s以上が更に好ましく、650Pa・s以上が特に好ましい。上限については溶融流動性保持の点から2000Pa・s以下であることが好ましい。溶融粘度が200Pa・sを下回る場合は、ブロー成形が困難となるほか、耐熱老化性が低下してしまうため好ましくない。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度は、例えば、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの高粘度種を選択することで、増加させることが可能である。また、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとして、高官能基量種を選択し、(B)アミノ基含有化合物との反応を促進することによっても増加させることが可能である。
なお、本発明における樹脂組成物の溶融粘度は、300℃、剪断速度1216/sの条件下、東洋精機製キャピログラフを用いて測定した値である。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物では、その成形品を透過型電子顕微鏡により観察した相分離構造において、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(B)アミノ基含有化合物および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成する必要がある。このように、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の引張弾性率が、1.0MPa以上1000MPa以下の範囲であり、かつ、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂を連続相とすることで、高柔軟、高靭性であるのみならず、これまでに無い優れた耐熱老化性が発現するとともに、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂に由来する優れた耐薬品性などを両立することが可能となる。ここで、「(B)アミノ基含有化合物および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが、分散相を形成する」とは、一つの分散相中に(B)アミノ基含有化合物と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとを共に含む分散相を形成することを表している。一つの分散相中に(B)成分と(C)成分とを共に含んでいれば、それ以外の成分が含まれていてもよく、例えば(B)成分と(C)成分とが反応した反応物が含まれていてもよいし、(A)成分が一部含まれていてもよい。また、(B)成分と(C)成分とを共に含む分散相が存在すれば、(B)成分のみの分散相が存在していてもよいし、(C)成分のみの分散相が存在していてもよい。更に、分散相の中は(B)成分と(C)成分の共連続構造であってもよい。また、(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成し、その中に(B)アミノ基含有化合物が二次分散相を形成している構造や、(B)アミノ基含有化合物の分散相の中に(C)エポキシ基を含有するエラストマーが二次分散相を形成する構造であってもよい。より優れた耐熱老化性を得る観点から、一つの分散相中に(B)アミノ基含有化合物と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとを共に含む分散相の構造が、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相内に(B)アミノ基含有化合物が二次分散相を形成していることが好ましい。
このような相構造を形成するためには、(B)アミノ基含有化合物と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとを十分に反応させて高粘度化させる必要がある。この反応を経ることで、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中の、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度に対して、(B)アミノ基含有化合物と(C)エポキシ基を含有するエラストマーが反応した成分の溶融粘度が大きくなることで、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量分率が少ない場合でも、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂を連続相とすることが可能となる。(C)エポキシ基を含有するエラストマーの代わりに、酸無水物基、カルボキシル基およびその塩などを含有するエラストマーを用いると、上記高粘度化が十分に進行しないため、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成することが難しくなる。その結果、耐熱性、耐薬品性、耐熱老化性を損ねてしまうため、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、酸無水物基、カルボキシル基およびその塩などの官能基を含有するエラストマーを含まないことが最も好ましく、含まれるとしても(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、10重量部以下であることが好ましく、5重量部以下であることがより好ましい。また、このような相構造を形成させるための方法として、例えば、樹脂組成物を製造する際に、後述する切り欠き部を有する撹拌スクリューを使用した押出機を用いて溶融混練することなどが挙げられる。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の(B)アミノ基含有化合物からなる分散相の数平均分散粒子径は、優れた靱性と耐熱老化性を発現する上で、2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることがより好ましく、1000nm以下であることが特に好ましい。(B)アミノ基含有化合物からなる分散相の数平均分散粒子径の下限は10nmである。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の(C)エポキシ基を含有するエラストマーからなる分散相の数平均分散粒子径は、優れた靱性と柔軟性を発現する上で、1000nm以下であることが好ましい。(C)エポキシ基を含有するエラストマーからなる分散相の数平均分散粒子径の下限は5nmである。
また、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、前述の通り、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとともに(D)官能基を含有しないエラストマーを配合することができる。この場合、(D)官能基を含有しないエラストマーもまた分散相を形成する。この分散相の数平均分散粒子径は、優れた靱性と柔軟性を発現する上で、2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることがより好ましい。(D)官能基を含有しないエラストマーからなる分散相の数平均分散粒子径の下限は10nmである。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、(C)エポキシ基を含有するエラストマーからなる分散相に(B)アミノ基含有化合物が二次分散相として分散する相構造をとることが好ましく、二次分散相の数平均分散粒子径は、優れた靱性、柔軟性、耐熱老化性、耐薬品性を発現する上で、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることが特に好ましい。(C)エポキシ基を含有するエラストマーからなる分散相中の(B)アミノ基含有化合物の二次分散相の数平均分散粒子径の下限は5nmである。
かくのごとき相構造を形成した本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、高柔軟、高靭性を有するのみならず、優れた耐熱老化性が発現するものであり、引張弾性率を1.0MPa以上1000MPa以下の範囲としながらも、大気下170℃×700hr耐久処理後の引張特性において、引張伸度保持率を40%以上有することができるので好ましい。引張伸度保持率は、50%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましく、70%以上がいっそう好ましい。なお、引張伸度保持率とは、170℃×700hr耐久処理前の引張伸度に対する170℃×700hr耐久処理後の引張伸度のことである。
また、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は耐酸性に優れる特徴を有しており、例えば、内燃機関の排気凝縮水に触れるダクトとして好適に用いられ、排気凝縮水を模した液体(pH3、Cl−:〜300ppm、NO2 −:〜400ppm、NO3 −:〜400pp、SO3 −:〜300ppm、SO4 2−:〜1300ppm、HCHO:〜400ppm、HCOOH:〜400ppm、CH3COOH:〜2000ppm)中にポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を80℃×12hrの条件で完全浸漬し、150℃×12hrで乾燥するサイクルを5回繰り返す処理を行った後の引張伸度保持率が80%以上を有することができるので好ましい。引張伸度保持率は90%以上がより好ましい範囲として例示できる。なお、当該引張伸度保持率とは、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を上記のとおり排気凝縮水を模した液体に浸漬処理する前の引張伸度に対する、浸漬処理後の引張伸度のことである。
なお、これらの相分離構造は、例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレット、ブロー成形品、射出成形品などから、ウルトラミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、その超薄切片について、四酸化ルテニウム等で染色を行ったサンプルと、無染色のサンプルを、透過型電子顕微鏡にて5000〜10000倍の倍率にて、任意の異なる分散相を10個選び、それぞれの分散相について長径および短径を求め、それらの平均値の数平均値として算出することができる。分散粒子を構成する成分の同定としては、無染色時の相のコントラスト差と、四酸化ルテニウム等で染色を行った際の相のコントラスト差を比較することで決定することができる。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の融点は、優れた成形加工性を得る観点から265℃以下である必要があり、260℃以下が好ましく、250℃以下が更に好ましく、240℃以下が特に好ましい。融点を上記範囲とすることで、低温で成形加工が可能となり、特に酸素に曝されるブロー成形においてはポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中に配合されるPPS樹脂以外の成分の熱酸化劣化を抑制できる点で好ましい。一方、PPS樹脂本来の耐熱老化性や、耐薬品性を得るためには、融点は225℃以上である必要があり、230℃以上が好ましい。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の融点は、例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂を、その繰り返し単位としてメタフェニレンスルフィド単位を含むPPS共重合体とすることで、結晶性を低下させて、融点を低下させることが可能である。なお、ここでのポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の融点とは、示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した後、100℃で1分保持し、20℃/分の速度で340℃まで昇温した際に検出される最も高い温度の融解ピークの値と定義する。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法については、特に制限は無く、単軸、二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に原料を供給し、樹脂温度が(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の融解ピーク温度+5℃〜100℃になるように溶融混練する方法などを代表例として挙げることができるが、中でも二軸押出機による溶融混練が好ましい。
二軸押出機の、スクリュー長さL(mm)とスクリュー直径D(mm)の比(L/D)としては、10以上が望ましく、20以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。二軸押出機のL/Dの上限は通常は60である。L/Dが10未満の場合は、混練が不足し、前述した所望の相構造が得られ難くなる傾向がある。
この際、原料の混合順序は特に制限がなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、これと更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、押出機により溶融混練する途中からサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。
また(B)アミノ基含有化合物と、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの過剰反応による押出ガットのゲル化やそれに伴う靭性の低下を抑制することが好ましく、これを達成するためのスクリューの構成として、切り欠き部を有する撹拌スクリューを使用することが好ましい。ここで「切り欠き」とは、スクリューフライトの山部分を一部削ってできたものをいう。切り欠き部を有する撹拌スクリューは樹脂充填率を高くすることが可能である。溶融樹脂は、撹拌スクリューを連結させたニーディング部を通過する際に、押出機シリンダー温度の影響を受けやすい。切り欠き部を有する撹拌スクリューを使用することで、混練時のせん断により発熱した溶融樹脂が効率的に冷却されるので、混練時の樹脂温度を低下させることが可能となる。また、切り欠き部を有する撹拌スクリューは、従来の樹脂をすりつぶす手法とは異なり、撹拌・掻き混ぜを主体とする混練を行うことができるため、発熱による樹脂の分解を抑制するだけでなく、前述した所望の樹脂相分離構造を得ることが可能となる。
切り欠き部を有する撹拌スクリューとしては、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率向上、混練性向上の観点から、スクリュー直径をD(mm)とするとスクリューピッチの長さは0.1D〜0.3Dの範囲であり、かつ切り欠き数が1ピッチあたり10〜15個である切り欠き部を有する撹拌スクリューであることが好ましい。ここで「スクリューピッチの長さ」とは、スクリューが360度回転したときの、スクリューの山部分間のスクリュー長さをいう。
切り欠き部を有する撹拌型スクリューについては、スクリューの全長L(mm)の3%以上になるように導入することが好ましく、更には5%以上になるように導入することがより好ましい。その上限としては20%以下が好ましく15%以下がより好ましい。
また(B)アミノ基含有化合物と、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの過剰反応による押出ガットのゲル化やそれに伴う靭性の低下を抑制することが好ましく、押出機のシリンダー温度を(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点よりも低い温度に低下させて溶融混練する方法が好ましく例示できる。このように押出機のシリンダー温度を(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点よりも低い温度に低下させることにより、(B)アミノ基含有化合物と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの過剰反応を抑制するとともに、溶融混練時の溶融粘度を増加させることができ、上述した切り欠き部を有する撹拌型スクリューによる撹拌をより強く効率的に行うことができる。その結果、(B)アミノ基含有化合物と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応を効率よく行うことができ、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を、(B)アミノ基含有化合物、(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成する相構造を得られやすくなる。
具体的には、押出機のシリンダー温度は、用いる(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点によるため一概には言えないが、230℃以上285℃以下が好ましい範囲として例示できる。また、押出機のシリンダーブロックの内、30〜80%が上記温度範囲であることが好ましく、50〜80%が上記温度範囲であることがより好ましい。更に、上述した切り欠き部を有する撹拌型スクリューによる冷却および撹拌を効率的に行う観点から、切り欠き部を有する撹拌型スクリューが組み込まれている箇所に対応するシリンダーブロックを上記温度範囲とすることが特に好ましい。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、汎用のポリフェニレンスルフィド樹脂と比較して低温で成形加工が可能であり、PPS樹脂組成物中に配合されるPPS樹脂以外の成分の熱劣化を抑制することが可能であるため、成形加工性に優れる。成形方法としては、例えば押出成形、射出成形、中空成形、カレンダ成形、圧縮成形、真空成形、発泡成形、ブロー成形、回転成形等が挙げられる。特に、本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、溶融粘度が比較的高いことから、成形時のドローダウンを抑制し、偏肉の少ない成形品を得ることができ、また、樹脂が熱酸化分解を受けやすいようなブロー成形が特に好ましい。ブロー成形としては、押出ブロー成形や射出ブロー成形が挙げられ、ダイレクトブロー成形、エクスチェンジブロー成形などの多層ブロー成形、サクションブロー成形などの多次元ブロー成形、インジェクションブロー成形、射出延伸ブロー成形などが挙げられる。また、ブロー成形時の、パリソンのブローアップに用いるエアーとしては、空気を用いることが可能であり、また、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中に配合されるPPS樹脂以外の成分の熱酸化劣化を抑制できる観点では、窒素、ヘリウム等の不活性ガスを用いることが好ましく、コスト面から窒素が特に好ましい。他には、不活性ガスを用いて急速にパリソンを冷却する観点から、ドライアイスのような炭酸ガスを用いることも好ましく例示できる。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を用いた、ブロー成形や押出成形から得られる中空成形品は、その内面の表面粗さRa(算術平均粗さ)が、25μm以下であることが好ましく、20μm以下がより好ましい。表面平滑性や光沢といった良好な外観を得るために、15μm以下がさらに好ましく、10μm以下が特に好ましく、5μm以下が最も好ましい。内面の表面粗さRa(算術平均粗さ)が25μmを超える場合は、外観不良が顕著となるばかりか、内面の脱落などの恐れがあるため、好ましくない。
また、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、非常に柔軟で靭性に極めて優れると共に、耐熱老化性に優れる特徴から、比較的成形加工温度が高く、溶融滞留時間の長い押出成形用途としても特に有用である。押出成形により得られる成形品としては、丸棒、角棒、シート、フィルム、チューブ、パイプなどが挙げられ、更に具体的な用途としては、給湯器モーター、エアコンモーター、駆動モーター用などの電気絶縁材料、フィルムコンデンサー、スピーカー振動板、記録用の磁気テープ、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、工程・離型フィルム、保護フィルム、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、リチウムイオン電池内の絶縁ワッシャー、熱水や冷却水、化学薬品用のチューブ、自動車用の燃料チューブ、熱水配管、化学プラントなどの薬品配管、超純水や超高純度溶媒用の配管、自動車配管、自動車冷却配管、フロンや超臨界二酸化炭素冷媒用の配管パイプ、研磨装置用のワークピース保持リングなどが例示できる。その他、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体、家電用の耐熱電線ケーブル、自動車内の配線に使用されるフラットケーブル等のワイヤーハーネスやコントロールワイヤー、通信、伝送用、高周波用、オーディオ用、計測用などの信号用トランスまたは車載用トランスの巻線の被覆成形体などが例示できる。
射出成形やブロー成形により得られる成形品の用途としては、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、自動車冷却配管、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、ターボダクト、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車などの一次電池または二次電池用のガスケット等々を例示できる。
中でも、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体や、高温環境下に晒される自動車の燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、とりわけターボダクトとして有用である。
特に、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、靱性、柔軟性、耐久性さらに耐酸性に優れる特徴を活かして、内燃機関の排気凝縮水に触れるダクトとして好適に用いられる。なお、ここで言う排気凝縮水とは、自動車を始めとする内燃機関の排気ガスが冷却され凝縮した、アンモニア、硫酸、塩素、硝酸、酢酸、炭酸などに由来する腐食性の強いイオンを含んだ水のことである。内燃機関の排気凝縮水に触れるダクトとしてより具体的には、自然吸気エンジンの吸気ダクト、過給気エンジンの吸気ダクト、中でもエアクリーナーからターボチャージャーおよび/またはスーパーチャージャー間の吸気ダクト、ターボチャージャーおよび/またはスーパーチャージャーからインタークーラー間の吸気ダクト、インタークーラーから内燃機関までの間の吸気ダクトとして使用できる。特に、本発明の樹脂組成物からなる成形品は、ポリアミド樹脂に比較して優れた耐久性と耐酸性を兼ね備えることから、ターボチャージャーおよび/またはスーパーチャージャーからインタークーラー間の吸気ダクトとして有用である。
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでは無い。各実施例および比較例における基礎評価は、次の方法により行った。
(1)射出成形
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットについて、住友重機械製射出成形機SE75−DUZを用い、シリンダー温度を300℃とし、金型温度150℃とする条件にて、ASTM1号ダンベル試験片を射出成形した。
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットについて、住友重機械製射出成形機SE75−DUZを用い、シリンダー温度を300℃とし、金型温度150℃とする条件にて、ASTM1号ダンベル試験片を射出成形した。
(2)初期の23℃引張特性
前記、射出成形したASTM1号ダンベルについて、23℃条件下、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張特性を評価した。
前記、射出成形したASTM1号ダンベルについて、23℃条件下、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張特性を評価した。
(3)170℃×700hr耐久処理後の23℃引張特性
前記、射出成形したASTM1号ダンベルについて、170℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて700hr処理した後、室温で24hr放冷した。
前記、射出成形したASTM1号ダンベルについて、170℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて700hr処理した後、室温で24hr放冷した。
次いで、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、23℃条件下、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張特性を評価した。
(4)排気凝縮水浸漬処理後の23℃引張特性
前記、射出成形したASTM1号ダンベルについて、排気凝縮水を模した液体(pH3、Cl−:〜300ppm、NO2 −:〜400ppm、NO3 −:〜400pp、SO3 −:〜300ppm、SO4 2−:〜1300ppm、HCHO:〜400ppm、HCOOH:〜400ppm、CH3COOH:〜2000ppm)中に80℃×12hrの条件で完全浸漬し、150℃×12hrで乾燥するサイクルを5回繰り返した。
前記、射出成形したASTM1号ダンベルについて、排気凝縮水を模した液体(pH3、Cl−:〜300ppm、NO2 −:〜400ppm、NO3 −:〜400pp、SO3 −:〜300ppm、SO4 2−:〜1300ppm、HCHO:〜400ppm、HCOOH:〜400ppm、CH3COOH:〜2000ppm)中に80℃×12hrの条件で完全浸漬し、150℃×12hrで乾燥するサイクルを5回繰り返した。
次いで、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、23℃条件下、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張特性を評価した。
(5)分散相および分散相内の二次分散相の数平均分散粒子径
前記、射出成形したASTM1号ダンベル試験片の中央部を樹脂の流れ方向に対して直角方向に切断し、その断面の中心部から、−20℃で0.1μm以下の薄片をウルトラミクロトームにより切削した。その後、四酸化ルテニウムにより染色したサンプルと無染色のサンプルを調製した。これらを日立製作所製H−7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50〜60万倍)にて、任意の異なる10箇所を1000〜10000倍に拡大して写真撮影を行った。Scion Corporation製画像解析ソフト「Scion Image」を用いて、電子顕微鏡写真中に存在する各成分の分散粒子について、任意の異なる分散粒子を10個選び、それぞれの分散相について長径および短径を求め、それらの平均値を算出しこれを数平均分散粒子径とした。なお、分散粒子の成分の同定は、無染色時の相のコントラスト差と、四酸化ルテニウム染色時の相のコントラスト差を比較することで決定した。
前記、射出成形したASTM1号ダンベル試験片の中央部を樹脂の流れ方向に対して直角方向に切断し、その断面の中心部から、−20℃で0.1μm以下の薄片をウルトラミクロトームにより切削した。その後、四酸化ルテニウムにより染色したサンプルと無染色のサンプルを調製した。これらを日立製作所製H−7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50〜60万倍)にて、任意の異なる10箇所を1000〜10000倍に拡大して写真撮影を行った。Scion Corporation製画像解析ソフト「Scion Image」を用いて、電子顕微鏡写真中に存在する各成分の分散粒子について、任意の異なる分散粒子を10個選び、それぞれの分散相について長径および短径を求め、それらの平均値を算出しこれを数平均分散粒子径とした。なお、分散粒子の成分の同定は、無染色時の相のコントラスト差と、四酸化ルテニウム染色時の相のコントラスト差を比較することで決定した。
(6)溶融粘度測定
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットについて、試験温度300℃、剪断速度1216/s、キャピラリー長10mm、キャピラリー径1mmの条件下、東洋精機製キャピログラフを用いて測定した。
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットについて、試験温度300℃、剪断速度1216/s、キャピラリー長10mm、キャピラリー径1mmの条件下、東洋精機製キャピログラフを用いて測定した。
(7)融点測定
各実施例および比較例により得られたペレットについて示差走査熱量計(TAインスツルメント社製Q200)により、20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した後、100℃で1分保持し、20℃/分の速度で340℃まで昇温した際に検出される最も高い温度の融解ピーク温度をPPS樹脂組成物の融点とした。
各実施例および比較例により得られたペレットについて示差走査熱量計(TAインスツルメント社製Q200)により、20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した後、100℃で1分保持し、20℃/分の速度で340℃まで昇温した際に検出される最も高い温度の融解ピーク温度をPPS樹脂組成物の融点とした。
(8)圧力繰り返し試験
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを、ダイレクトブロー成形機に供し、シリンダー温度を表1および2に示す温度(ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の融点+20℃)とし、金型温度120℃の条件にて、肉厚3mm、φ80mm、長さ400mmの中空成形体を成形した。これを170℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて700hr処理した後、室温で24hr放冷した。圧縮空気を導入して内圧が0kPaから200kPaになるように加圧する操作を1000回繰り返し、圧力漏れが発生した回数に応じて、以下の通り評価した。
Excellent:1000回繰り返しても圧力漏れなし
Good:500回以上〜1000回未満
Bad:500回未満
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを、ダイレクトブロー成形機に供し、シリンダー温度を表1および2に示す温度(ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の融点+20℃)とし、金型温度120℃の条件にて、肉厚3mm、φ80mm、長さ400mmの中空成形体を成形した。これを170℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて700hr処理した後、室温で24hr放冷した。圧縮空気を導入して内圧が0kPaから200kPaになるように加圧する操作を1000回繰り返し、圧力漏れが発生した回数に応じて、以下の通り評価した。
Excellent:1000回繰り返しても圧力漏れなし
Good:500回以上〜1000回未満
Bad:500回未満
(9)ブロー成形品内面の外観
前記(8)項においてブロー成形した中空成形体について、その内層の表面を目視により観察し、表面状態を以下の通り評価した。
◎:表面に荒れは認められず、表面平滑性に優れ、さらに光沢を有する
○:表面に荒れは認められず、表面平滑性に優れる
×:表面に荒れが認められる
前記(8)項においてブロー成形した中空成形体について、その内層の表面を目視により観察し、表面状態を以下の通り評価した。
◎:表面に荒れは認められず、表面平滑性に優れ、さらに光沢を有する
○:表面に荒れは認められず、表面平滑性に優れる
×:表面に荒れが認められる
さらに、切り出した内面について、東京精密製表面粗さ形状測定機を用いて、評価長さ20mm、評価速度0.6mm/sの条件で、Ra(算術平均粗さ)を測定した。
各実施例および比較例に用いた原材料について、以下の参考例に示す。
[参考例1](A)PPS樹脂:A−0
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.96kg(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)1.14kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム2.58kg(31.50モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.96kg(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)1.14kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム2.58kg(31.50モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
次にp−ジクロロベンゼン10.24kg(69.63モル)、NMP9.01kg(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1.26kg(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
内容物を取り出し、26.3kgのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31.9kgのNMPで洗浄、濾別した。これを、56kgのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70kgで洗浄、濾別した。70kgのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。このような方法で製造されたPPS樹脂をA−0とした。
[参考例2](A)PPS樹脂:A−1
重合時に使用するp−ジクロロベンゼンの量を9.73kg(66.15モル)とし、m−ジクロロベンゼン0.51kg(3.48モル)を加えたこと以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行なった。このような方法で製造されたPPS樹脂をA−1とした。
重合時に使用するp−ジクロロベンゼンの量を9.73kg(66.15モル)とし、m−ジクロロベンゼン0.51kg(3.48モル)を加えたこと以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行なった。このような方法で製造されたPPS樹脂をA−1とした。
[参考例2](A)PPS樹脂:A−2
重合時に使用するp−ジクロロベンゼンの量を9.22kg(62.67モル)とし、m−ジクロロベンゼン1.02kg(6.96モル)を加えたこと以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行なった。このような方法で製造されたPPS樹脂をA−2とした。
重合時に使用するp−ジクロロベンゼンの量を9.22kg(62.67モル)とし、m−ジクロロベンゼン1.02kg(6.96モル)を加えたこと以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行なった。このような方法で製造されたPPS樹脂をA−2とした。
[参考例3](A)PPS樹脂:A−3
重合時に使用するp−ジクロロベンゼンの量を8.71kg(59.19モル)とし、m−ジクロロベンゼン1.53kg(10.44モル)を加えたこと以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行なった。このような方法で製造されたPPS樹脂をA−3とした。
重合時に使用するp−ジクロロベンゼンの量を8.71kg(59.19モル)とし、m−ジクロロベンゼン1.53kg(10.44モル)を加えたこと以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行なった。このような方法で製造されたPPS樹脂をA−3とした。
[参考例4](A)PPS樹脂:A−4
重合時に使用するp−ジクロロベンゼンの量を8.20kg(55.71モル)とし、m−ジクロロベンゼン2.04kg(13.92モル)を加えたこと以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行なった。このような方法で製造されたPPS樹脂をA−4とした。
重合時に使用するp−ジクロロベンゼンの量を8.20kg(55.71モル)とし、m−ジクロロベンゼン2.04kg(13.92モル)を加えたこと以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行なった。このような方法で製造されたPPS樹脂をA−4とした。
[参考例5](B)アミノ基含有化合物:B−1
市販のナイロン12(アルケマ製“リルサン”AESNO TL)を用いた。
市販のナイロン12(アルケマ製“リルサン”AESNO TL)を用いた。
[参考例6](B)アミノ基含有化合物:B−2
市販のナイロン610(東レ製“アミラン” CM2021)を用いた。
市販のナイロン610(東レ製“アミラン” CM2021)を用いた。
[参考例7](C)官能基を含有するエラストマー:C−1
市販のエチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学製“ボンドファースト”7M)を用いた。
市販のエチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学製“ボンドファースト”7M)を用いた。
[参考例8](C’)エポキシ基以外の官能基を含有するエラストマー:C’−1
市販の無水マレイン酸変性エチレン・1−ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”MH5020)を用いた。
市販の無水マレイン酸変性エチレン・1−ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”MH5020)を用いた。
[参考例9](D)官能基を含有しないエラストマー:D−1
市販のエチレン・1−ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”TX−610)を用いた。
市販のエチレン・1−ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”TX−610)を用いた。
[実施例1〜6、比較例1〜3、6]
表1および2に示す各原料を、表1および2に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い(混練方法:a)、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。130℃で一晩乾燥したペレットを前述した方法で射出成形し、試験片を得、各種物性評価を行った。また、130℃で一晩乾燥したペレットを前述した方法でダイレクトブロー成形し、中空成形品の内層の外観を観察した後、圧力繰り返し試験を行った。
表1および2に示す各原料を、表1および2に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い(混練方法:a)、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。130℃で一晩乾燥したペレットを前述した方法で射出成形し、試験片を得、各種物性評価を行った。また、130℃で一晩乾燥したペレットを前述した方法でダイレクトブロー成形し、中空成形品の内層の外観を観察した後、圧力繰り返し試験を行った。
[比較例4](特許文献2記載の方法)
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A−0)100重量部に対して、官能基を含有するエラストマー(C−1)を6重量部、官能基を含有しないエラストマー(D−1)を20重量部混合し、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い(混練方法:a)、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。このように製造された変性ポリフェニレンスルフィド樹脂をA’−1とする。
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A−0)100重量部に対して、官能基を含有するエラストマー(C−1)を6重量部、官能基を含有しないエラストマー(D−1)を20重量部混合し、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い(混練方法:a)、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。このように製造された変性ポリフェニレンスルフィド樹脂をA’−1とする。
次に、変性ポリフェニレンスルフィド樹脂(A’−1)126重量部に対して、ポリアミド樹脂(B−1)を50重量部、その他の官能基を含有するエラストマー(C’−1)を24重量部混合し、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い(混練方法:a)、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。なお、最終的に得られた樹脂組成物は、表1に示す各原料を表1に示す配合量で配合したものである。130℃で一晩乾燥したペレットを前述した方法で射出成形し、各種物性評価を行った。また、130℃で一晩乾燥したペレットを前述した方法でダイレクトブロー成形し、中空成形品の内層の外観を観察した後、圧力繰り返し試験を行った。
[比較例5](特許文献3記載の方法)
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A−0)100重量部に対して、官能基を含有するエラストマー(C−1)を18重量部、官能基を含有しないエラストマー(D−1)を22重量部混合し、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い(混練方法:a)、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。このように製造された変性ポリフェニレンスルフィド樹脂をA’−2とする。
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A−0)100重量部に対して、官能基を含有するエラストマー(C−1)を18重量部、官能基を含有しないエラストマー(D−1)を22重量部混合し、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い(混練方法:a)、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。このように製造された変性ポリフェニレンスルフィド樹脂をA’−2とする。
次に、ポリアミド樹脂(B−1)44重量部に対して、その他の官能基を含有するエラストマー(C’−1)を37重量部混合し、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い(混練方法:a)、シリンダー温度250℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。このように製造された変性ポリアミド樹脂をB’−1とする。
そして、変性ポリフェニレンスルフィド樹脂(A’−2)と、変性ポリアミド樹脂(B’−1)とを、最終的に得られる樹脂組成物が表1に示した組成となるようにドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い(混練方法:a)、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。なお、最終的に得られた樹脂組成物は、表1に示す各原料を表1に示す配合量で配合したものである。130℃で一晩乾燥したペレットを前述した方法で射出成形し、各種物性評価を行った。また、130℃で一晩乾燥したペレットを前述した方法でダイレクトブロー成形し、中空成形品の内層の外観を観察した後、圧力繰り返し試験を行った。
上記表1の実施例と比較例の結果を比較して説明する。
実施例1に示すとおり、(B)アミノ基含有化合物、(C)エポキシ基を含有するエラストマーを溶融混練することで、引張弾性率が1000MPa以下と柔軟でありながら、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成しているため、170℃×700h処理後も、引張伸度が比較的高く保持されており、優れた耐熱老化性を示すと同時に、排気凝縮水の浸漬後も高い引張伸度を保持している。また、圧力繰り返し試験にて、650回目のサイクルで圧力漏れが認められた。さらに、280℃でブロー成形を行なったため、中空成形品内層の熱酸化劣化が抑制された結果、良好な外観を示した。
実施例2〜4に示すとおり、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、(D)官能基を含有しないエラストマーの合計を100重量%とした時、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(D)官能基を含有しないエラストマー成分の合計を35〜45重量%と、実施例1と比較して増加させたことで、飛躍的な引張弾性率の低下が認められた。また、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成しているため、実施例1と同様に、耐熱老化性や耐薬品性も良好であった。その結果、圧力繰り返し試験にて、1000回のサイクル試験実施後も圧力漏れが認められなかった。さらに、280℃でブロー成形を行なったため、中空成形品内層の熱酸化劣化が抑制された結果、良好な外観を示した。
比較例1では、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成しているものの、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量が少ないため、引張弾性率は1000MPaを越え、柔軟性は不十分であった。その結果、圧力繰り返し試験にて、300回目のサイクルで圧力漏れが認められた。
比較例2では、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量が多いため、引張弾性率が低く柔軟であるものの、エラストマーが連続相を形成するため、170℃×700h後の引張伸度は著しく低下した。その結果、圧力繰り返し試験にて、わずか10回目のサイクルで圧力漏れが認められた。また、300℃でブロー成形を行なうと、連続相を形成するエラストマーが顕著に熱酸化分解を起こした結果、中空成形品内層の外観は非常に荒れていた。
比較例3では、実施例2と同様、柔軟性や、耐熱老化性、耐薬品性に優れるため、圧力繰り返し試験にて、1000回のサイクル試験実施後も圧力漏れが認められなかった。その一方で、300℃でブロー成形を行なったため、中空成形品内層の熱酸化劣化が進行した結果、外観には荒れが認められた。
比較例4および5では、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(C’−1)無水マレイン酸変性エラストマーと(D)官能基を含有しないエラストマーを併用して溶融混練を行ったため、(B)ポリアミドと(C’−1)無水マレイン酸変性エラストマーが優先的に反応した結果、増粘効果が得られず、(A)ポリフェニレンスルフィドと(B)ポリアミドの共連続相が形成した。結果、初期物性は比較的良好であったものの、170℃×700h処理後の引張伸度は著しく低下し、圧力繰り返し試験にて、それぞれ、350回、440回目のサイクルで圧力漏れが認められた。また、排気凝縮水浸漬後の引張伸度低下も認められた。また、耐熱酸化分解性の低いポリアミドが共連続構造として表面に露出しているため、300℃でブロー成形を行なうと、ポリアミドが顕著に熱酸化分解を起こした結果、中空成形品内層の外観は非常に荒れていた。
次に、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の融点をスクリーニングした結果を示す。
実施例5〜6では、実施例2と同様、柔軟性や、耐熱老化性、耐薬品性に優れるため、圧力繰り返し試験にて、1000回のサイクル試験実施後も圧力漏れが認められなかった。また、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の融点がそれぞれ245℃、230℃であり、ブロー成形の加工温度を265℃、250℃とすることが可能となった結果、中空成形品内層の熱酸化劣化が抑制され、内層の外観は非常に優れていた。
比較例6では、230℃でブロー成形を行うことで、中空成形品内層の熱酸化劣化の抑制が可能となり、内層の外観は非常に優れていた。一方で、ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点が209℃となることで、ポリフェニレンスルフィド樹脂が本来有する耐熱老化性や、耐薬品性が低下した結果、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成しているにもかかわらず、170℃×700h処理後や、排気凝縮水浸漬後に引張伸度が著しく低下した。その結果、圧力繰り返し試験にて、100回目のサイクルで圧力漏れが認められた。
Claims (15)
- (A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーを配合してなる樹脂組成物であって、その樹脂組成物の融点が225℃以上265℃以下であり、その樹脂組成物からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を、(B)アミノ基含有化合物および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成し、樹脂組成物の引張弾性率(シリンダー温度300℃、金型温度150℃にて射出成形して得たASTM1号ダンベル試験片を、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張試験した弾性率)が1.0MPa以上1000MPa以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
- (A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂を構成する構造単位としてパラフェニレンスルフィド単位およびメタフェニレンスルフィド単位を含むポリフェニレンスルフィド共重合体である請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
- (A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(B)アミノ基含有化合物0.01〜200重量部、および(C)エポキシ基を含有するエラストマー1〜200重量部を配合してなる請求項1または2にいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
- (A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有化合物、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計を100重量%としたとき、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量が20重量%を超え、70重量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
- (B)アミノ基含有化合物がポリアミド樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
- 前記分散相において、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相内に(B)アミノ基含有化合物が二次分散相を形成している請求項1〜5のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
- 前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、内燃機関の排気凝縮水に触れる吸気ダクト用のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物である請求項1〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
- 前記成形品が中空成形品である請求項8に記載の成形品。
- 前記中空成形品が内燃機関の排気凝縮水に触れるダクトである請求項9に記載の成形品。
- 前記ダクトが吸気ダクトである請求項10に記載の成形品。
- 前記吸気ダクトが、過給機エンジン用の吸気ダクトである請求項11に記載の成形品。
- 前記過給機エンジン用の吸気ダクトが、ターボチャージャーまたはスーパーチャージャーからインタークーラーの間を繋ぐダクトである請求項12に記載の成形品。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物をブロー成形する、成形品の製造方法。
- 前記ブロー成形において、不活性ガスを用いてパリソンをブローアップする請求項14に記載の成形品の製造方法。
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