JP2008222889A - ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】
経済的かつ簡単な方法で得られた純度の高いポリアリーレンスルフィドを用いた、機靭性及び耐衝撃性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の提供。
【解決手段】
(A)ポリアリーレンスルフィド100重量部に対し、(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体1〜70重量部を必須成分として含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)ポリアリーレンスルフィドが重量平均分子量が10,000以上であって、かつ、加熱した際の重量減少が著しく少ないことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、靭性および耐衝撃性に特に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関する。
近年、有機硫黄化合物、特に脂肪族硫黄化合物、芳香族硫黄化合物(チオール、チオケトン、チオエーテル、チオ酸等)の特異な物性が注目され、医薬、農薬、工業薬品などに多用されている。また、硫黄を結合手とする芳香族高分子化合物(ポリアリーレンスルフィド、以下PASと称す場合もある)も多数製造されている。このようなポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略す場合もある)に代表されるPASは優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、難燃性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有する樹脂であり、射出成形、押出成形により各種成形部品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であり、各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品など耐熱性、耐薬品性の要求される分野に幅広く用いられている。
しかしながらPASはその耐熱性の高さ故に、溶融成形加工温度や使用温度が高く、揮発成分が発生しやすいという問題を有している。この揮発性成分の発生は溶融成形加工において金型の汚れや表面性の悪化などを引き起こし、成形加工性を悪化させる主要因であり、さらに靭性や耐衝撃性の向上のためにエポキシ基含有オレフィン系共重合体を含む各種強化剤を配合した場合に十分な効果が得られにくい原因の一つであった。また、PAS樹脂組成物においても、これを加熱した際の揮発性成分の発生は使用環境の汚染を引き起こすため、PAS樹脂組成物に用いるPASの揮発性成分量の低減が強く望まれていた。
PASの具体的な製造方法として、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのポリハロ芳香族化合物とを反応させる方法が提案されており、この方法はPASの工業的製造方法として幅広く利用されている。しかしながら、この方法では低分子量で溶融粘度の低いPASしか得られず、また、このPASは低分子量成分を多く含み、重量平均分子量と数平均分子量の比で表される分散度が非常に大きく、分子量分布の広いものである。そのため、成形加工用途に用いた場合、十分な機械特性が発現せず、また加熱した際のガス成分が多い、溶剤と接した際の溶出成分量が多い等の問題が生じていた。さらに、この製造方法では塩化ナトリウム等の副生塩が多量に生成するため、重合反応後には副生塩の除去工程が必要であるが公知の処理では副生塩の完全な除去が難しく、市販の汎用的なPPS品中にはアルカリ金属含有量で1000〜3000ppm程度が含有されている。このように生成ポリマー中にアルカリ金属塩が残存していると、電気特性等の物性低下を招くといった問題が生ずる。従って、このようなポリアリーレンスルフィドを原料として用いた成形品を電気・電子部品の分野に適用しようとすると、ポリアリーレンスルフィド中のアルカリ金属による電気特性の低下が大きな障害となり、改善が望まれていた。
上記製造方法によるPASの課題である溶融粘度の低さを改善するためには、例えば空気中のような酸化性雰囲気下で気相酸化処理することで架橋構造を形成し高分子量化する工程が必要であり、プロセスがさらに煩雑になるとともに生産性の低下を招いていたのみならず、この方法により得られるPAS樹脂は極めて靭性や衝撃強度の低いものであるという問題があった(例えば、特許文献1参照)。
前記PASの問題点の一つ、即ち、PASが低分子量成分を多く含み分子量分布が広い点を改善する方法として、不純物を含有するPASの混合物をPASが溶融相をなす最低温度よりも高い状態で、PASを含むポリマー溶融相と溶媒を主とする溶媒相に相分離せしめることで不純物を熱抽出に付すことにより精製する方法、または冷却後に顆粒状ポリマーを析出させて回収する方法が提案されている。これら方法では熱抽出効果により不純物が抽出されるため、PASの金属含量の低減、及び分子量分布が狭くなることが期待されるがその効果は不十分であり、また、高価な有機溶剤を使用する方法のためプロセスが煩雑であった。また、この方法ではPASの含む低分子量成分量は確かに低減するが、その効果は不十分であり、特にPASを加熱した際の重量減少率が大きく、ガス成分が多いため成形加工性の悪化を引き起こすことが多く、さらにエポキシ基含有オレフィン系共重合体を含む各種強化剤を配合してもなお靭性や耐衝撃性が不十分であるという問題があった(例えば特許文献2及び3)。
また、狭い分子量分布を有するPASの製造方法として、環状アリーレンスルフィドオリゴマーをイオン性の開環重合触媒下で、加熱開環重合する方法が開示されている。この方法では前記特許文献2及び3とは異なり、煩雑な有機溶剤洗浄操作を行わずに狭い分子量分布を有するPASを得ることが期待でき、また、低分子量成分の少ないPASを得ることが期待できる。しかしながらこの方法ではPASの合成においてチオフェノールのナトリウム塩等、硫黄のアルカリ金属塩を開環重合触媒として用いるため、得られるPASにアルカリ金属が多量に残留するという問題があった。またこの方法において開環重合触媒の使用量を低減することでPASへのアルカリ金属残留量を低減しようとした場合、得られるPASの分子量が不十分となる問題があった。さらに、この方法により得られるPASを加熱した際の重量減少率については何ら開示はないが、該方法で用いる開始剤はPASと比較して分子量が低いため、該方法で得られるPASを加熱した際の重量減少が大きく、ガス発生量が多く、これは成形加工性や機械強度の低下を招く要因となっていた。(例えば特許文献4及び5)。
前記方法で得られるPASの問題点、すなわちPASへのアルカリ金属残留量を低減する方法として、加熱により硫黄ラジカルを発生する重合開始剤の存在下で環状の芳香族チオエーテルオリゴマーを開環重合するPASの製造方法が開示されている。この方法では重合開始剤に非イオン性化合物を用いるため、得られるPASのアルカリ金属含有量が低減されると思われる。しかしながら、該方法で得られるポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度は85℃と低く、これは分子量が低く、該ポリフェニレンスルフィドが低分子量成分を多量に含むためと思われる。さらに、該方法では得られるポリフェニレンスルフィドを加熱した際の重量減少率については何ら開示が無いが、該方法で用いる重合開始剤はポリフェニレンスルフィドと比較して分子量が低く、また熱安定性も劣るため、この方法で得られるポリフェニレンスルフィドを加熱した際には多量のガスが発生し、成形加工性が劣る懸念があった(例えば特許文献6)。
また、モノマー源として環状PPSと線状PPSの混合物を加熱するPPSの重合方法も知られている(非特許文献1)。この方法はPPSの安易な重合法であるが、得られるPPSの重合度は低く実用に適さないPPSであった。該文献では加熱温度を高くすることで重合度の向上が見られることが開示されているが、それでもなお実用に適した分子量には到達しておらず、また、この場合は架橋構造の生成が回避できず、熱的特性の劣るPPSしか得られないことが指摘されており、より実用に適した品質の高いPPSの重合方法が望まれていた。
一方、PASを加熱した際の重量減少率を減ずる方法として、PASを熱処理する方法について従来から多くの提案がなされており、たとえばポリフェニレンスルフィドを酸素雰囲気下、融点未満で熱処理する方法や、ポリフェニレンスルフィドを不活性ガス雰囲気下、融点未満で熱処理する方法などが開示されている(たとえば特許文献7及び8)。これらの方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、確かに熱処理を施さないPASと比較して加熱した際の重量減少率が低減する傾向にあるが、それでもなお加熱した際の重量減少率は満足できる水準ではなかった。さらにこの方法で得られるポリフェニレンスルフィドは低分子量成分を多く含み、重量平均分子量と数平均分子量の比で表される分散度が非常に大きく、分子量分布の広いポリマーであって、かつアルカリ金属含有量もはなはだ多い純度の低い物であるという問題も解決されていなかった。
PASを熱処理する別の方法としてはベント口を有する押出機を用いてPAS樹脂の溶融押出をする際にベント口を窒素でパージしつつ、ベント口を減圧に保ちながら溶融押出を行うことで得られるPAS樹脂ペレットが開示されている(たとえば特許文献9)。この方法では熱処理をPASの融点以上の減圧条件下で行っているため、熱処理中のデガス効果に優れ、この方法で得られるPASは加熱した際の重量減少率が低減できることが期待できるが、その水準はいまだなお満足できるものではなかった。さらに、この方法によるPASペレットも前記のポリフェニレンスルフィドと類似の分子量分布特性及びアルカリ金属含有量特性を有し、純度が十分に高いとは言い難いものであった。
一方、PAS樹脂の靭性を改良する方法として、これまで各種の軟質樹脂等を溶融ブレンドする方法が検討されてきた。例えば、α−オレフィン−グリシジルメタクリレート共重合体を添加する方法(たとえば特許文献10)、一定以上の溶融粘度を有し、かつ特定の末端基を有するPPS樹脂とα−オレフィン/α,β−不飽和酸のグリシジルエステルからなるオレフィン系共重合体を添加する方法(たとえば特許文献11、12)、α−オレフィン(10〜50重量%)とα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル(50〜90重量%)及びこれらの合計量70〜99.5重量%に対し、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル0.5〜30重量%からなる共重合体を添加する方法(たとえば特許文献13、14など)等が開示されているが、高度な靱性、耐衝撃性を得る上でまだ十分とは言えない。
さらに、特定のPPS樹脂にエポキシ基含有オレフィン系共重合体およびエポキシ基、酸無水物基を含有しないエラストマーを配合する方法(たとえば特許文献15)、PPS樹脂に特定の分子量分布を有するエチレン・α−オレフィン系共重合体およびエポキシ基、酸無水物基などの官能基含有オレフィン系共重合体を配合する方法(たとえば特許文献16)、及び特定のPPS樹脂に特定のオレフィン系共重合体を微分散させることによりアイゾット衝撃強度700J/m以上の高度な耐衝撃性を達成する方法(例えば、特許文献17参照)等もすでに提案されているが、近年益々PPS樹脂材料の用途が拡大するに伴い、従来以上に高度な靭性、耐衝撃性を有し、更に経済性の要求が厳しくなっていることから、これら従来提案されている樹脂組成物の材料でも十分とは言えず、より高度な靭性、耐衝撃性と、更には経済的にも有利な材料の開発が求められていた。
特公昭45−3368号公報(第7〜13頁) 特公平1−25493号公報 (第23頁) 特公平4−55445号公報 (第3〜4頁) 特許第3216228号明細書 (第7〜10頁) 特許第3141459号明細書(第5〜6頁) 米国特許第5869599号明細書(第27〜28頁) 米国特許第3793256号明細書(第2頁) 特開平3−41152号公報 (特許請求の範囲) 特開2000−246733号公報 (第4頁) 特開昭61−21156号公報(特許請求の範囲) 特開平4−159364号公報(特許請求の範囲) 特開平4−159365号公報(特許請求の範囲) 特開平6−179791号公報(請求項1) 特開平6−299071号公報(請求項1) 特開平1−306467号公報(第1頁左欄第1〜5行目) 特開2000−198923号公報(請求項1) 特開2002−226706号公報(請求項1) Polymer,vol.37,no.14,1996年(第3111〜3116頁)
本発明は、前述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。したがって、本発明の目的は、経済的かつ簡単な方法で得られたポリアリーレンスルフィドを用いてなり、しかも靭性及び耐衝撃性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供することにある。
上記課題に対し、本発明は、以下のとおりである。
1.(A)ポリアリーレンスルフィド100重量部に対し、(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体1〜70重量部を配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)ポリアリーレンスルフィドが重量平均分子量が10,000以上であって、かかつ、加熱した際の重量減少が下記式を満たすことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.18(%)
(ここで△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である)
2.(A)ポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であることを特徴とする1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
3.(A)ポリアリーレンスルフィドのアルカリ金属含量が50ppm未満であることを特徴とする1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
4.(A)ポリアリーレンスルフィドを加熱した際の発生ガス成分中のラクトン型化合物がポリアリーレンスルフィド重量基準で500ppm以下であることを特徴とする1から3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
5.(A)ポリアリーレンスルフィドを加熱した際の発生ガス成分中のアニリン型化合物がポリアリーレンスルフィド重量基準で300ppm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
かつ
6.(A)ポリアリーレンスルフィド100重量部に対し、さらに(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体を1〜70重量部配合してなる1から5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
7.(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体が、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られるエチレン・α−オレフィン系共重合体であることを特徴とする6に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
8.(A)ポリアリーレンスルフィドがポリフェニレンスルフィドであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
9.ポリフェニレンスルフィドが、下記一般式(I)で表される環式ポリフェニレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かかつ重量平均分子量が10,000未満のポリフェニレンスルフィドプレポリマーを加熱して重量平均分子量10,000以上の高重合度体に転化させることにより得られたポリフェニレンスルフィドであることを特徴とする8に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
Figure 2008222889
(ここで、mは4〜20の整数、mは4〜20の混合物でもよい。)
本発明によれば、経済的かつ簡単な方法で得られたポリアリーレンスルフィドを用いてなり、しかも靭性及び耐衝撃性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得ることができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明で用いる(A)ポリアリーレンスルフィドおよびその製造方法について説明する。
(A)ポリアリーレンスルフィド
本発明におけるPASとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(a)〜式(k)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(a)が特に好ましい。
Figure 2008222889
(R1,R2は水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(l)〜式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
Figure 2008222889
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
Figure 2008222889
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。
本発明のPASの分子量は、重量平均分子量で10,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは18,000以上である。重量平均分子量が10,000未満では加工時の成形性が低く、また成形品の機械強度や耐薬品性等の特性が低くなる。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000未満を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000未満、更に好ましくは200,000未満であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
本発明におけるPASの分子量分布の広がり、即ち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度は2.5以下が好ましく、2.3以下がより好ましく、2.1以下が更に好ましく、2.0以下がよりいっそう好ましい。分散度が2.5を越える場合はPASに含まれる低分子成分の量が多くなる傾向が強く、このことはPASを成形加工用途に用いた場合の機械特性低下、加熱した際のガス発生量の増大及び溶剤と接した際の溶出成分量の増大等の要因になる傾向にある。なお、前記重量平均分子量及び数平均分子量は示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めた値である。
また、本発明のPASの溶融粘度に特に制限はないが、通常、溶融粘度が5〜10,000Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)の範囲が好ましい範囲として例示でき、この範囲の溶融粘度を有するPASは成形加工性に優れる傾向にある。
本発明で用いるPASは従来のものに比べ高純度であることが特徴であり、不純物であるアルカリ金属含量は50ppm未満が望ましい。好ましいアルカリ金属含量としては30ppm以下、更に好ましくは10ppm以下である。アルカリ金属含有量が50ppm以上では、例えば高度な電気絶縁特性が要求される用途における信頼性が低下するなど、PASの用途に制限が生じる可能性が増大する。ここで本発明におけるPASのアルカリ金属含有量とは、例えばPASを電気炉等を用いて焼成した残渣である灰分中のアルカリ金属量から算出される値であり、前記灰分を例えばイオンクロマト法や原子吸光法により分析することで定量することができる。
なお、アルカリ金属とは周期律表第IA属のリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムのことを指すが、本発明のPASはナトリウム以外のアルカリ金属が含まないことが好ましい。ナトリウム以外のアルカリ金属を含む場合、PASの電気特性や熱的特性に悪影響を及ぼす傾向にある。またPASが各種溶剤と接した際の溶出金属量が増大する要因になる可能性があり、特にPASがリチウムを含む場合にこの傾向が強くなる。ところで、各種金属種の中でも、アルカリ金属以外の金属種、たとえばアルカリ土類金属や遷移金属と比較して、アルカリ金属はPASの電気特性、熱的特性及び金属溶出量への影響が強い傾向にある。よって、各種金属種の中でも、特にアルカリ金属含有量を前記範囲にすることでPASの品質を向上する事ができると推測している。
本発明で用いるPASの大きな特徴は、加熱した際の重量減少が下記式(1)を満たすことである。
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.18(%)・・・(1)
ここで△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
本発明で用いるPASは△Wrが0.18%以下であり、0.12%以下であることが好ましく、0.10%以下であることが更に好ましく、0.085%以下であることがよりいっそう好ましい。△Wrが前記範囲を超える場合は、たとえばPASを成形加工する際に発生ガス量が多いといった問題が発生しやすくなる傾向があり、また成形品の機械強度が低下する傾向があるため好ましくなく、また、押出成形時の口金やダイス、また射出成型時の金型への付着物が多くなり生産性が悪化する傾向もあるため好ましくない。本発明者らの知る限りでは公知のPASの△Wrは0.18%を越えるが、本発明の好ましい製造法によって得られるPASは分子量分布や不純物含有量が公知のPASと異なりきわめて高純度であるがために△Wrの値が著しく低下するものと推測している。
△Wrは一般的な熱重量分析によって求めることが可能であるが、この分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101.3kPa近傍の大気圧条件のことである。測定の雰囲気が前記以外では、測定中にPASの酸化等が起こったり、実際にPASの成形加工で用いられる雰囲気と大きく異なるなど、PASの実使用に即した測定になり得ない可能性が生じる。
また、△Wrの測定においては50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。好ましくは50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリフェニレンスルフィドに代表されるPASを実使用する際に頻用される温度領域であり、また、固体状態のPASを溶融させ、その後任意の形状に成形する際に頻用される温度領域でもある。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のPASからのガス発生量や成形加工の際の口金や金型などへの付着成分量などに関連する。従って、このような温度範囲における重量減少率が少ないPASの方が品質の高い優れたPASであるといえる。△Wrの測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
なお、一般に熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂を加熱した際の重量減少量は温度が高くなるほど大きくなる傾向があり、この傾向はPASにも当てはまることが知られている。このような傾向をふまえた上で、本発明者らは本発明のPAS及び公知のPASの加熱時の重量減少量の温度依存性を詳細に分析した結果、前記した熱重量分析条件に従ってPASの重量減少率を求める場合、重量減少率と温度Tにはおおむね下記式(2)及び(3)の関係が成り立つことを見いだした。
△Wr1=△Wt1−(1.0×10−3×T1) …(2)
△Wr2=△Wt2+(1.0×10−3×T2) …(3)
式(2)において△Wt1は常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃を越える任意の温度T1まで昇温(昇温速度20℃/分)した際に得られる熱重量分析値において、100℃到達時点の試料重量(W)を基準とした任意の温度T1における試料重量(Wt1)との差から下記式(1)’によって得られる重量減少率(%)である。
△Wt1=(W−Wt1)/W×100 (%)・・・(1)’
本発明で用いるPASの重量減少率△Wrは前記したように熱重量分析を行った分析値における330℃時点の試料重量を基準としているが、式(2)の関係を用いることで330℃を越える温度における試料重量を基準とした重量減少率△Wt1から△Wrの値を見積もることが可能である。
式(3)において△Wt2は常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から270℃以上330℃未満の任意の温度T2まで昇温(昇温速度20℃/分)した際に得られる熱重量分析値において、100℃到達時点の試料重量(W)を基準とした任意の温度T2における試料重量(Wt2)との差から下記式(1)’’によって得られる重量減少率(%)である。
△Wt2=(W−Wt2)/W×100 (%) ・・・(1)’’
本発明で用いるPASの重量減少率△Wrは前記したように熱重量分析を行った分析値における330℃時点の試料重量を基準としているが、式(3)の関係を用いることで270℃以上330℃未満の温度領域における試料重量を基準とした重量減少率△Wt2から△Wrの値を見積もることが可能である。なお、熱重量分析における測定温度上限が270℃未満の場合、PASが溶融しない、または、溶融しても流動性が低い傾向にあるため、このような測定温度範囲は実使用に適した温度範囲とはいえず、PAS品質の評価基準として用いるとの観点で測定温度範囲に前記範囲を用いることが望ましい。
本発明で用いるPASの加熱時の重量減少率が前記式(1)を満足するようなきわめて優れた熱重量特性を発現する理由は現時点定かではないが、本発明で用いるPASはPAS成分以外の不純物成分の含有量が少ないことが奏功し、公知のPASでは到達し得なかった著しく少ない重量減少率を発現するものと推測している。
この様に前記式(1)の特徴を有するPASは、後述するように環式ポリアリーレンスルフィドを含むポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱して高重合度体に転化させることによって製造することが好ましい。高重合度体への転化に関しては後で詳述するが、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを高重合度体へ転化せしめる操作に処した後に得られるPASに含有される環式PASの重量分率が40%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは15%以下であるPASは前述の△Wrの値が特に小さくなるため好ましい。この値が前記範囲を超える場合には△Wrの値が大きくなる傾向にあり、この原因は現時点定かではないがPASの含有する環式PASが加熱時に一部揮散するためと推察している。
なお、本発明で用いるPASの特徴である、加熱した際の重量減少が前記式(1)を満たす場合、PASの重量平均分子量の範囲及び分散度の範囲および/またはアルカリ金属含有量は必ずしも前記した範囲内である必要はなく、前述したように環式PASを一定量含んでいるPASなどでも前記式(1)の熱重量特性を満たすことが可能である。ただし、重量平均分子量の範囲及び分散度の範囲が前記範囲内である場合、および/またはPASのアルカリ金属含有量が前記した範囲内である場合には、加熱した際の重量減少が特に少なくなる傾向にあり望ましい。
上述の様に本発明で用いるPASは昇温した際の加熱減量△Wrが少ないという優れた特徴を有するが、任意のある一定温度でPASを保持した際の加熱減量も少ないという優れた特徴を有する傾向がある。
また、本発明で用いるPASは、加熱した際のラクトン型化合物および/またはアニリン型化合物の発生量が著しく少ないことを特徴とするものであることが好ましい。ここでラクトン型化合物とは、例えばβ−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ペンタノラクトン、β−ヘキサノラクトン、β−ヘプタノラクトン、β−オクタノラクトン、β−ノナラクトン、β−デカラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ペンタノラクトン、γ−ヘキサノラクトン、γ−ヘプタノラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−デカラクトン、δ−ペンタノラクトン、δ−ヘキサノラクトン、δ−ヘプタノラクトン、δ−オクタノラクトン、δ−ノナラクトン、δ−デカラクトンなどが例示でき、また、アニリン型化合物とは、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N−エチルアニリン、N−メチル−N−エチルアニリン、4−クロロ−アニリン、4−クロロ−N−メチルアニリン、4−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、4−クロロ−N−エチルアニリン、4−クロロ−N−メチル−N−エチルアニリン、3−クロロ−アニリン、3−クロロ−N−メチルアニリン、3−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、3−クロロ−N−エチルアニリン、3−クロロ−N−メチル−N−エチルアニリンなどが例示できる。
PASを加熱した際のラクトン型化合物及び/またはアニリン型化合物の発生は、成形加工時の樹脂の発泡や金型汚れ等の要因となり成形加工性を悪化させることのみならず周辺環境の汚染の要因にもなるため、できるだけ少なくすることが望まれており、加熱を行う前のPAS重量基準でラクトン型化合物の発生量が好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm、更に好ましくは100ppm以下、よりいっそう好ましくは50ppm以下が望ましい。同様にアニリン型化合物の発生量は好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm、更に好ましくは50ppm以下、よりいっそう好ましくは30ppm以下が望ましい。なお、PASを加熱した際のラクトン型化合物及び/またはアニリン型化合物の発生量を評価する方法としては非酸化性雰囲気下320℃で60分処理した際の発生ガスをガスクロマトグラフィーを用いて成分分割して定量する方法で求める。
本発明では、以下に述べる方法で得られたPASを使用することで、このような特性を満たすことができ、靱性と耐衝撃性に優れたPAS組成物を得ることができる。本発明のPASの加熱時にこれら化合物の発生量が少ない理由は現時点定かでは無いが、本発明で用いるPASの好ましい製造方法で用いるポリアリーレンスルフィドプレポリマーが環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%含む純度の高いものであることが、加熱した際にラクトン型化合物及び/またはアニリン型化合物を発生する不純物の含有量が少ないことに寄与していると推測している。
(A−1)ポリアリーレンスルフィドの製造方法
本発明の上記PASの製造方法としては、環式ポリフェニレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かつ重量平均分子量が10,000未満のポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱して重量平均分子量10,000以上の高重合度体に転化させることによって製造することが例示でき、この方法によれば容易に前述した特性を有する本発明で用いるPASを得ることができる。
<環式ポリフェニレンスルフィド>
本発明で用いるPASの好ましい製造方法における環式ポリフェニレンスルフィドとは下記一般式(I)で表される、m=4〜20の整数で表される環式ポリフェニレンスルフィド(以下、環式PPSと略すこともある)を使用することができ、mは4〜20の混合物でもよい。
Figure 2008222889
また、環式ポリフェニレンスルフィドは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式ポリフェニレンスルフィドの混合物のいずれでも良いが、異なる繰り返し数を有する環式ポリフェニレンスルフィドの混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式ポリフェニレンスルフィドの混合物の使用は後述する高重合度体への転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
(A−2)ポリアリーレンスルフィドプレポリマー
本発明で用いるPASの好ましい製造方法では、前記したごとき環式ポリフェニレンスルフィドを含むポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱して高重合度体に転化させることを特徴とするが、ここで用いるポリアリーレンスルフィドプレポリマーは環式ポリフェニレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含むものであり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90%以上含むものが好ましい。また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる環式ポリフェニレンスルフィドの上限値には特に制限は無いが98重量%以下が好ましい範囲として例示できる。通常、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリフェニレンスルフィドの重量比率が高いほど、加熱後に得られるPASの重合度および溶融粘度が高くなる傾向にある。すなわち、本発明のPASの製造法においてはポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリフェニレンスルフィドの存在比率を調整することで、得られるPASの重合度および溶融粘度を容易に調整することが可能である。また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリフェニレンスルフィドの重量比率が前記した上限値を超えると、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの溶融解温度が高くなる傾向にあるため、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリフェニレンスルフィドの重量比率を前記範囲にすることは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを高重合度体へ転化する際の温度をより低くできるため好ましい。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリフェニレンスルフィド以外の成分は線状のポリアリーレンスルフィドオリゴマーであることが特に好ましい。ここで線状のポリアリーレンスルフィドオリゴマーとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。Arとしては前記した式(a)〜式(k)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(a)が特に好ましい。線状のポリアリーレンスルフィドオリゴマーはこれら繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記した式(l)〜式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。また、線状のポリアリーレンスルフィドオリゴマーは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドスルホンオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドケトンオリゴマー、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい線状のポリアリーレンスルフィドオリゴマーとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有する線状のポリフェニレンスルフィドオリゴマーが挙げられる。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが含有する線状ポリアリーレンスルフィド量は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが含有する環式ポリフェニレンスルフィドよりも少ないことが特に好ましい。即ちポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の環式ポリフェニレンスルフィドと線状ポリアリーレンスルフィドの重量比(環式ポリフェニレンスルフィド/線状ポリアリーレンスルフィド)は1以上であることが好ましく、2.3以上がより好ましく、4以上が更に好ましく、9以上がよりいっそう好ましく、このようなポリアリーレンスルフィドプレポリマーを用いることで重量平均分子量が10,000以上のポリアリーレンスルフィドを容易に得ることが可能である。従って、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の環式ポリフェニレンスルフィドと線状ポリアリーレンスルフィドの重量比の値が大きいほど、本発明のPASの好ましい製造方法により得られるPASの重量平均分子量は大きくなる傾向にあり、よってこの重量比に特に上限は無いが、該重量比が100を越えるポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得るためには、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の線状PAS含有量を著しく低減する必要があり、これには多大の労力を要する。本発明のPASの好ましい製造方法によれば該重量比が100以下のポリアリーレンスルフィドプレポリマーを用いても十分な高分子量PASを容易に得ることが可能である。
本発明で用いるPASの好ましい製造に用いるポリアリーレンスルフィドプレポリマーの分子量の上限値は、重量平均分子量で10,000未満であり、5,000以下が好ましく、3,000以下が更に好ましく、一方、下限値は重量平均分子量で300以上が好ましく、400以上が好ましく、500以上が更に好ましい。
本発明で用いるPASは高純度であることが特徴であり、製造に用いられるポリアリーレンスルフィドプレポリマーも高純度であることが好ましい。したがって不純物であるアルカリ金属含量は50ppm未満が好ましく、30ppm以下が更に好ましく、10ppm以下がよりいっそう好ましい。本発明で用いるPASの製造に際し、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱して高重合度体に転化する方法を用いる場合、得られるPASのアルカリ金属含有量は、通常、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーのアルカリ金属含有量に依存するため、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーのアルカリ金属含有量が前記範囲を超えると、得られるPASのアルカリ金属含有量が本発明のPASのアルカリ金属含有量の範囲を超える恐れが生じる。ここでポリアリーレンスルフィドプレポリマーのアルカリ金属含有量とは、例えばポリアリーレンスルフィドプレポリマーを電気炉等を用いて焼成した残渣である灰分中のアルカリ金属から算出される値であり、前記灰分を例えばイオンクロマト法や原子吸光法により分析することで定量することができる。
なお、アルカリ金属とは周期律表第IA属の、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムのことを指すが、本発明のポリアリーレンスルフィドプレポリマーはナトリウム以外のアルカリ金属を含まないことが好ましい。
また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーには加熱による高重合度体への転化に際して、転化を促進する各種触媒成分を使用することも可能である。このような触媒成分としてはイオン性化合物やラジカル発生能を有する化合物が例示できる。イオン性化合物としてはたとえばチオフェノールのナトリウム塩等、硫黄のアルカリ金属塩が例示でき、また、ラジカル発生能を有する化合物としてはたとえば加熱により硫黄ラジカルを発生する化合物を例示でき、より具体的にはジスルフィド結合を含有する化合物が例示できる。但し、このような場合でもポリアリーレンスルフィドプレポリマーのアルカリ金属含有量、アルカリ金属種、含有ハロゲン種は前記した条件に準じることが望ましく、また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱して高重合度体に転化させる反応を、反応系内のアルカリ金属量が好ましくは50ppm未満、より好ましくは30ppm以下更に好ましくは10ppm以下であって、なおかつ、反応系内の全イオウ重量に対するジスルフィド重量が1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満、更に好ましくは0.1重量%未満として行うことが好ましく、これにより本発明のPASを得ることが容易となる。なお、各種触媒成分を使用する場合、触媒成分は通常はPASに取り込まれ、得られるPASは触媒成分を含有するものになることが多い。特に触媒成分としてアルカリ金属及び/または他の金属成分を含有するイオン性の化合物を用いた場合、これに含まれる金属成分の大部分は得られるPAS中に残存する傾向が強い。また、各種触媒成分を使用して得られたポリアリーレンスルフィドは、前記したPASを加熱した際の重量減少が増大する傾向にある。従って、より純度の高いPASを所望する場合および/または加熱した際の重量減少の少ないPASを所望する場合には、触媒成分の使用をできるだけ少なくする、好ましくは使用しないことが望まれる。
(A−3)ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの製造方法
前記ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法としては例えば以下の方法が挙げられる。
(1)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合することで、80meshふるい(目開き0.125mm)で分離される顆粒状PAS樹脂、重合で生成したPAS成分であって前記顆粒状PAS樹脂以外のPAS成分(ポリアリーレンスルフィドオリゴマーと称する)、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、ここに含まれるポリアリーレンスルフィドオリゴマーを分離回収し、これを精製操作に処すことでポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法。
(2)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合して、重合終了後に公知の方法によって有機極性溶媒の除去を行い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、これを公知の方法で精製することで得られるポリアリーレンスルフィドプレポリマーを含むポリアリーレンスルフィド樹脂を得て、これを実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂は溶解しないがポリアリーレンスルフィドプレポリマーは溶解する溶剤を用いて抽出してポリアリーレンスルフィドプレポリマーを回収する方法。
(A−4)ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの高重合度体への転化
前記した本発明のPASは、前記ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱して高重合度体に転化させる方法によって製造することが好ましい。この加熱の温度は前記ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが溶融解する温度であることが好ましく、このような温度条件であれば特に制限は無い。加熱温度がポリアリーレンスルフィドプレポリマーの溶融解温度未満ではPASを得るのに長時間が必要となる傾向がある。なお、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが溶融解する温度は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えばポリアリーレンスルフィドプレポリマーを示差走査型熱量計で分析することで溶融解温度を把握することが可能である。但し、温度が高すぎるとポリアリーレンスルフィドプレポリマー間、加熱により生成したPAS間、及びPASとポリアリーレンスルフィドプレポリマー間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるPASの特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。加熱温度としては180〜400℃が例示でき、好ましくは200〜380℃、より好ましくは250〜360℃である。
前記加熱を行う時間は使用するポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリアリーレンスルフィドの含有率やm数、及び分子量などの各種特性、また、加熱の温度等の条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間としては0.05〜100時間が例示でき、0.1〜20時間が好ましく、0.1〜10時間がより好ましい。0.05時間未満ではポリアリーレンスルフィドプレポリマーのPASへの転化が不十分になりやすく、100時間を超えると好ましくない副反応による得られるPASの特性への悪影響が顕在化する可能性が高くなる傾向にあるのみならず、経済的にも不利益を生じる場合がある。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱による高重合度体への転化は、通常溶媒の非存在下で行うが、溶媒の存在下で行うことも可能である。溶媒としては、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱による高重合度体への転化の阻害や生成したPASの分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがあげられる。また、二酸化炭素、窒素、水等の無機化合物を超臨界流体状態として溶媒に用いることも可能である。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
前記、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱による高重合度体への転化は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行っても良いし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限無く行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱による高重合度体への転化の際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。また、減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これによりポリアリーレンスルフィドプレポリマー間、加熱により生成したPAS間、及びPASとポリアリーレンスルフィドプレポリマー間などで架橋反応や分解反応等の好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とはポリアリーレンスルフィドプレポリマーが接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下が更に好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示できる。減圧条件が好ましい上限を越える場合は、架橋反応など好ましくない副反応が起こりやすくなる傾向にあり、一方好ましい下限未満では、反応温度によってはポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる分子量の低い環式ポリアリーレンスルフィドが揮散しやすくなる傾向にある。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上記(A)ポリアリーレンスルフィド100重量部に対し、(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体1〜70重量部を配合してなるものである。
次に、本発明で用いられる(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体について説明する。
(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体
本発明で用いる(B)エポキシ基含有オレフィン共重合体としては、オレフィン系共重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体が挙げられる。また、主鎖中に二重結合を有するオレフィン系重合体の二重結合部分をエポキシ化した共重合体も使用することができる。
オレフィン系共重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入するための官能基含有成分の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、及びシトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
これらエポキシ基含有成分を導入する方法には特に制限なく、上述の如きα−オレフィンなどとともに共重合せしめたり、オレフィン共重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。
エポキシ基を含有する単量体成分の導入量は、エポキシ基含有オレフィン系共重合体の原料となる単量体全体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが適当である。
本発明で特に有用な(B)エポキシ基含有オレフィン共重合体としては、α−オレフィンとα、β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合成分とするオレフィン系共重合体が好ましく挙げられる。上記α−オレフィンとしては、エチレンが好ましく挙げられる。また、これら共重合体には、さらにアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル、スチレン、アクリロニトリル等を共重合することも可能である。
また、かかるオレフィン共重合体は、ランダム、交互、ブロック、グラフトのいずれの共重合様式でも良い。
本発明においては、特にα−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合してなるオレフィン共重合体の使用が好ましく、中でも、α−オレフィン60〜99重量%と、α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル1〜40重量%とを共重合してなるオレフィン共重合体が特に好ましい。
上記α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルとしては、
Figure 2008222889
(ただし、式中のRは水素原子または炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐鎖状低級アルキル基を示す)で示される化合物であり、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル及びエタクリル酸グリシジルなどが挙げられるが、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。
α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−ポリスチレン、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−アクリロニトリルースチレン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−PMMA、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、及びエチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体等が挙げられる。中でも、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、及びエチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が好ましく用いられる。
かかる(B)エポキシ基含有オレフィン共重合体の配合量としては、PAS樹脂100重量部に対し、(B)エポキシ基含有オレフィン共重合体1〜70重量部の範囲が選択され、3〜50重量部の範囲がより好ましく、5〜25重量部の範囲が更に好ましい。(B)エポキシ基含有オレフィン共重合体の配合量が70重量部を越えると溶融流動性に著しく劣り、1重量部未満では優れた靱性向上効果が発現し難い傾向にある。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上記(A)ポリアリーレンスルフィド100重量部に対し、上記(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体とともに、さらに(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体を1〜70重量部含有することができる。
次に、本発明で用いられる(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体について説明する。
(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体
本発明で特に有用な(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体としては、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンを共重合して得られるエチレン・α−オレフィン系共重合体が挙げられる。上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとして、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセン及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも炭素数6から12であるα−オレフィンを用いた共重合体が機械強度の向上、改質効果の一層の向上が見られるためより好ましい。
(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体のその他の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、ポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリイソプレン、ブテン−イソプレン共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、及び上記α−オレフィンと上記α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルからなるオレフィン系共重合体などが例示できる。また、これらのオレフィン系共重合体にマレイン酸無水物、琥珀酸無水物、フマル酸無水物などの酸無水物、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニルなどのカルボン酸及びそのNa、Zn、K、Ca、Mgなどの塩が共重合されたオレフィン系共重合体なども用いることもできる。
或いは少なくとも50重量%のエチレンと、1〜35重量%の酸含有不飽和モノカルボン酸と、0〜49重量%のアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、ビニルエーテル、一酸化炭素、及び二酸化硫黄の少なくとも1つから選択される部分とを含み、かつさらに、共重合体において金属イオンにより酸基が0〜100%中和された重合体なども挙げられる。より具体的には、かかるエチレン共重合体は、少なくとも60重量%のエチレンと、5〜15重量%のアクリル酸またはメタクリル酸と、0〜25重量%のアクリル酸メチル、アクリル酸イソ−ブチル、及びアクリル酸n−メチルの少なくとも1つから選択される部分とを含み、かつさらに、リチウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、及びカルシウムから選択される金属イオンにより酸基が0〜70%、好ましくは30〜70%中和されたものである。
ここで用いられる適切な好ましいエチレン共重合体には、エチレン/アクリル酸、エチレン/メタクリル酸(E/MAA)、エチレン/アクリル酸/アクリル酸n−ブチル、エチレン/メタクリル酸/アクリル酸n−ブチル、エチレン/メタクリル酸/アクリル酸イソ−ブチル、エチレン/アクリル酸/アクリル酸イソ−ブチル、エチレン/メタクリル酸/メタクリル酸n−ブチル、エチレン/アクリル酸/メタクリル酸メチル、エチレン/アクリル酸/エチルビニルエーテル、エチレン/アクリル酸/ブチルビニルエーテル、エチレン/アクリル酸/アクリル酸メチル、エチレン/メタクリル酸/アクリル酸エチル、エチレン/メタクリル酸/メタクリル酸メチル、エチレン/アクリル酸/メタクリル酸n−ブチル、エチレン/メタクリル酸/エチルビニルエーテル、及びエチレン/アクリル酸/ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
かかる本発明で用いる(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体のメルトフローレート(以下MFRと略す。:ASTMD 1238、190℃、2160g荷重)は、0.01〜70g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜60g/10分である。MFRが0.01g/10分未満の場合は流動性が悪く、70g/10分を超える場合は成形品の形状によっては衝撃強度が低くなる場合もあるので注意が必要である。
本発明で用いる(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体の密度は、800〜870kg/m3が好ましい。密度が870kg/m3を越えると低温靭性が発現し難く、800kg/m3未満ではハンドリング性が低下する傾向となる。
かかる(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体の配合量としては、PAS樹脂100重量部に対し、(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体1〜70重量部の範囲が好ましく選択され、3〜60重量部の範囲がより好ましく、10〜40重量部の範囲が更に好ましい。(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体の配合量が少なすぎると靱性及び耐衝撃性の改良効果が得にくく、逆に多すぎるとPAS樹脂本来の熱安定性、バリア性、耐溶剤性が損なわれるばかりでなく、溶融混練時の増粘が大きくなり過ぎる傾向となる。
本発明のPAS樹脂組成物は、さらに以下に説明するような酸化防止剤あるいはその他の配合剤、添加剤を配合することが可能である。
[酸化防止剤]
本発明においては、高い耐熱性及び熱安定性を保持するために、樹脂成分の合計100重量部に対して、フェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の酸化防止剤を含有せしめることが好ましい。かかる酸化防止剤の配合量は、耐熱改良効果の点からは0.01重量部以上、特に0.02重量部以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下、特に1重量部以下であることが好ましい。また、フェノール系及びリン系酸化防止剤を併用して使用することは、特に耐熱性及び熱安定性保持効果が大きく好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−t−ブチル−(5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、及び1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。
中でも、エステル型高分子ヒンダードフェノールタイプが好ましく、具体的には、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、及び3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが好ましく用いられる。
次に、リン系酸化防止剤としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、及び3,5−ジーブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。
中でも、PAS樹脂のコンパウンド中に酸化防止剤の揮発や分解を少なくするために、酸化防止剤の融点が高いものが好ましく、具体的にはビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、及びビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトなどが好ましく用いられる。
本発明においては、PAS樹脂組成物の難燃性を改良するために難燃剤を配合しても良い。難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水和金属系難燃剤、及びブロム系難燃剤、塩素系難燃剤 、燐系難燃剤 、三酸化アンチモン等の無機系難燃剤等が挙げられるが、これらの中でも燐系難燃剤が好ましい。
燐系難燃剤としては、燐原子を有する化合物であれば特に制限されず、赤燐、有機燐化合物、例えば、燐酸エステル、ホスホン酸とその誘導体(塩も含む)、ホスフィン酸とその誘導体(塩も含む)、ホスフィン、ホスフィンオキサイド、ビホスフィン、ホスホニウム塩、ホスファゼン、ホスファフェナントレン誘導体、及び無機系燐酸塩等が挙げられる。
かかる難燃剤成分の含有量は、樹脂組成物全体の50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下の範囲が選択される。
本発明においては、PAS樹脂組成物の耐摩耗性を向上させる観点から、ポリテトラフルオロエテレン、エチレン−テトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、シリコーンオイル等を添加しても良い。かかる添加剤の添加量は通常樹脂組成物全体の0.1〜10重量%の範囲が選択される。
さらに、本発明のPAS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、オレフィン系樹脂以外の樹脂を添加することが可能である。例えば、柔軟性の高い熱可塑性樹脂を少量添加することにより、柔軟性及び耐衝撃性を更に改良することが可能である。但し、この量が組成物全体50重量%を超えるとPAS樹脂本来の特徴が損なわれる傾向があるため、50重量%いかが好ましく、特に30重量%以下の添加が好ましく使用される。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及び四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、機械的強度、靱性、低バリ性などの向上を目的に、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランを添加してもよい。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、及びγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
かかるシラン化合物の好適な添加量は、ポリアリーレンスルフィド100重量部に対し、0.05〜5重量部の範囲が選択される。
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。イソシアネート系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、及びその他、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の20重量%を越えるとPAS樹脂本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、更に好ましくは1重量%以下の添加がよい。
本発明の方法により得られるPAS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、機械的強度や剛性などの向上を目的に、繊維状フィラーおよび/または非繊維状フィラーを配合することも可能である。なお、本発明における繊維状フィラーとは、長さ/直径比が20以上のものと定義する。
本発明で用い得る繊維状フィラーとしては、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、金属繊維、カーボンナノチューブ、及び鉱物繊維などが挙げられる。一方、非繊維状フィラーとしては、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、タルク、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、ガラス粉などの珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、グラファイト、カーボンブラック、フラーレン、及びシリカなどが挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これら充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、及びエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。
本発明のPAS樹脂組成物は、通常溶融混練によって得られる。溶融混練機は、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に供給して、PAS樹脂の融解ピーク温度+5〜100℃の加工温度の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。この際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法などのいずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
本発明のPAS樹脂組成物の用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)、コンパクトディスク、デジタルビデオディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、燃料タンク、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナー等の自動車・車両関連部品、その他各種用途が例示できる。
以下、本発明の方法を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、物性の測定法は以下の通りである。
<分子量測定>
ポリアリーレンスルフィドスルフィド及びポリアリーレンスルフィドスルフィドプレポリマーの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (サンプル濃度:約0.2重量%)。
<アルカリ金属含有量の定量>
ポリアリーレンスルフィドスルフィド及びポリアリーレンスルフィドスルフィドプレポリマーの含有するアルカリ金属含有量の定量は下記により行った。
(a) 試料を石英るつぼに秤とり、電気炉を用いて灰化した。
(b) 灰化物を濃硝酸で溶解した後、希硝酸で定容とした。
(c) 得られた定容液をICP重量分析法(装置;Agilent製4500)及びICP発光分光分析法(装置;PerkinElmer製Optima4300DV)に処した。
<PASの加熱時重量減少率の測定>
ポリアリーレンスルフィドの加熱時重量減少率は熱重量分析機を用いて下記条件で行った。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
装置:パーキンエルマー社製 TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:約10mg
測定条件:
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から400℃まで昇温。この際の昇温速度20℃/分
重量減少率△Wrは(b)の昇温において、100℃時の試料重量を基準として、330℃到達時の試料重量から前述の式(1)を用いて算出した。
なお、以下の実施例中においては、100℃時の試料重量を基準とした昇温時300℃における重量減少率を△Wr300,100℃時の試料重量を基準とした昇温時320℃における重量減少率を△Wr320,100℃時の試料重量を基準とした昇温時340℃における重量減少率を△Wr340で表し、参考として示した。
<PASの加熱時発生ガス成分の分析>
PASを加熱した際に発生する成分の定量は以下の方法により行った。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
(a) 加熱時発生ガスの捕集
約10mgのPASを窒素気流下(50ml/分)の320℃で60分間加熱し、発生したガス成分を大気捕集用加熱脱離用チューブcarbotrap400に捕集した。
(b) ガス成分の分析
上記チューブに捕集したガス成分を熱脱着装置TDU(Supelco社製)を用いて室温から280℃まで5分間で昇温することで熱脱離させた。熱脱離した成分をガスクロマトグラフィーを用いて成分分割して、ガス中のγブチロラクトン及び4−クロロ−N−メチルアニリンの定量を行った。
<アイゾット衝撃強度>
成形によりノッチを付け、ASTM−D256に従ってノッチ付アイゾット衝撃強度を測定した。
<引張伸び>
ASTM1号ダンベル試験片を用い、ASTM D638準じ、引張速度10mm/minの条件で破断伸びを測定した。
[参考例1]
<PAS混合物含有スラリーの調製>
撹拌機付きのステンレス製反応器1に48%水硫化ナトリウム水溶液1169kg(10kmol)、48%水酸化ナトリウム水溶液841kg(10.1kmol)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を1983kg(20kmol)、50%酢酸ナトリウム水溶液322kg(1.96kmol)を仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水1200kgおよびNMP26kgを留出した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次いで、約200℃まで冷却した後、内容物を別の攪拌機付きのステンレス製反応器2に移送した。反応器1にNMP932kgを仕込み内部を洗浄し、洗浄液を反応器2に移した。次に、p−ジクロロベンゼン1477kg(10.0kmol)を反応器2に加え、窒素ガス下に密封し、撹拌しながら200℃まで昇温した。次いで200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、この温度で140分保持した。水353kg(19.6kmol)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、約80℃まで急冷し、スラリー(A)を得た。
このスラリー(A)を2623kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。80℃に加熱したスラリー(B)をふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂を、濾液成分としてスラリー(C)を得た。
[参考例2]
<PAS混合物1の調製>
参考例1で得られたスラリー(C)1000kgをステンレス製反応器に仕込み、反応器内を窒素で置換してから、撹拌しながら減圧下100〜150℃で約1.5時間処理して大部分の溶媒を除去した。
次いでイオン交換水1200kg(スラリー(C)の1.2倍量)を加えた後、約70℃で30分撹拌してスラリー化した。このスラリーを濾過して白色の固形物を得た。得られた固形物にイオン交換水1200kgを加えて70℃で30分撹拌して再度スラリー化し、同様に濾過後、窒素雰囲気下120℃で乾燥したのち、80℃で減圧乾燥を行い、乾燥固形物を11.6kg得た。
この固形物の赤外分光分析における吸収スペクトルより、この固形物はフェニレンスルフィド単位からなるポリフェニレンスルフィド混合物であることがわかった。このポリフェニレンスルフィド混合物のGPC測定を行い、クロマトグラムを解析した結果、分子量5000以下の成分の重量分率は39%、分子量2500以下の成分の重量分率は32%であった。
[参考例3]
<PAS混合物2の調製>
参考例1で得られたスラリー(C)1000kgにイオン交換水4000kgを加え、70℃で30分撹拌した。その後静置し、透明な上澄み液をデカンテーションして除去し、固形物を含むスラリーを約300kg得た。これにイオン交換水1200kgを加え、70℃で30分撹拌後このスラリーを濾過して白色の固形物を得た。得られた固形物にイオン交換水1200kgを加えて70℃で30分撹拌して再度スラリー化し、同様に濾過後、窒素雰囲気下120℃で乾燥したのち、80℃で減圧乾燥を行い、乾燥固形物を11.2kg得た。
この固形物の赤外分光分析における吸収スペクトルより、この固形物はフェニレンスルフィド単位からなるポリフェニレンスルフィド混合物であることがわかった。このポリフェニレンスルフィド混合物のGPC測定を行い、クロマトグラムを解析した結果、分子量5000以下の成分の重量分率は40%、分子量2500以下の成分の重量分率は33%であった。
[参考例4]
参考例2の方法で得られたPAS混合物1を10kg分取し、溶剤としてクロロホルム150kgを用いて、常圧還流下で1時間攪拌することでポリフェニレンスルフィド混合物1と溶剤を接触させた。ついで熱時濾過により固液分離を行い抽出液を得た。ここで分離した固形物にクロロホルム150kgを加え、常圧還流下で1時間攪拌した後、同様に熱時濾過により固液分離を行い、抽出液を得て、先に得た抽出液と混合した。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。
この抽出液スラリーを減圧下で処理する事で、抽出液重量が約40kgになるまでクロロホルムの一部を留去してスラリーを得た。次いでこのスラリー状混合液をメタノール600kgに撹拌しながら滴下した。これにより生じた沈殿物を濾過して固形分を回収し、次いで80℃で減圧乾燥することで白色粉末3.0kgを得た。白色粉末の収率は、用いたポリフェニレンスルフィド混合物1に対して30%であった。
この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィー(装置;島津製作所製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環式ポリフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドの重量分率は約94%であることがわかった。また、この混合物のGPC測定を行った結果、重量平均分子量は900であった。
[参考例5]
参考例3の方法で得られたPAS混合物2を10kg用いて、メタノールのかわりにアセトンを用いた以外は参考例4と同様に行い白色粉末2.9kgを得た。白色粉末の収率は、用いたポリフェニレンスルフィド混合物2に対して29%であった。
この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環式ポリフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドの重量分率は約96%であることがわかった。また、この混合物のGPC測定を行った結果、重量平均分子量は1000であった。
[参考例6]
ここでは本発明のPAS樹脂組成物に用いるPASの好ましい製造法について述べる。
参考例4で得られた環式ポリフェニレンスルフィド混合物を攪拌機付5リットルオートクレーブに仕込み、窒素で置換した後、真空ポンプにて約2kPaに系内を減圧しながら約1時間かけて320℃まで昇温した。この間、内温が約250℃になるまでは10rpmで攪拌し、250℃以上では50rpmで攪拌を行った。320℃到達後、減圧しながら320℃で60分間攪拌を継続した。その後、オートクレーブ上部から窒素を導入することで反応器内部を加圧し、内容物を吐出口よりガット状に取り出し、ガットをペレタイズしてペレットを得た。
得られたペレットは若干黒みを帯びた樹脂であった。この生成物は赤外分光分析による吸収スペクトルよりポリフェニレンスルフィド構造を有することがわかった。また、1−クロロナフタレンに210℃で全溶であった。GPC測定の結果、得られたPPSの重量平均分子量は55400、分散度は2.20であることがわかった。また、得られた生成物の元素分析を行った結果、Na含有量は7ppmでこれ以外のアルカリ金属は検出されなかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果△Wrは0.042%であった。また、△Wr300(%)=0.025,△Wr320(%)=0.034,△Wr340(%)=0.049であった。
さらに、ここで得られたPPSについて加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、ラクトン型化合物及びアニリン型化合物は検出限界以下であった。
[参考例7]
ここでは本発明のPAS樹脂組成物に用いるPASの好ましい製造法を、参考例6とは異なる原料を用いて行った例について述べる。
参考例5で得られた環式ポリフェニレンスルフィド混合物を用いて参考例6と同様にペレットを得た。
得られたペレットは若干茶色みを帯びた樹脂であった。この生成物は赤外分光分析による吸収スペクトルよりポリフェニレンスルフィド構造を有することがわかった。また、1−クロロナフタレンに210℃で全溶であった。GPC測定の結果、得られたPPSの重量平均分子量は79100、分散度は1.93であることがわかった。また、得られた生成物の元素分析を行った結果、Na含有量は6ppmでこれ以外のアルカリ金属は検出されなかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果△Wrは0.036%であった。また、△Wr300(%)=0.012,△Wr320(%)=0.028,△Wr340(%)=0.037であった。
さらに、ここで得られたPPSについて加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、ラクトン型化合物及びアニリン型化合物は検出限界以下であった。
[参考例8]
<顆粒状PASの調製>
ここでは従来技術による顆粒状PASの調製について示す。
参考例1で得られたスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂100kgにNMP約250kgを加えて85℃で30分間洗浄し、ふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別した。得られた固形物を500kgのイオン交換水で希釈して、70℃で30分撹拌後、80メッシュふるいで濾過して固形物を回収する操作を合計5回繰り返した。このようにして得られた固形物を、窒素雰囲気下130℃で乾燥し、顆粒状ポリフェニレンスルフィドを得た。
得られた顆粒状PPS樹脂は1−クロロナフタレンに210℃で全溶であり、GPC測定を行った結果、重量平均分子量は48600であり、分散度は2.66であった。また、得られた生成物の元素分析を行った結果、Na含有量は1020ppmでこれ以外のアルカリ金属は検出されなかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果△Wrは0.23%であった。また、△Wr300(%)=0.18,△Wr320(%)=0.21,△Wr340(%)=0.25であった。さらに、ここでで得られたPPSについて加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、加熱前のPPSの重量に対してγブチロラクトンが618ppm、4−クロロ−N−メチルアニリンが416ppm検出された。
[参考例9]
<粉粒状PASの調製>
ここでは従来技術による粉粒状PASの調製について示す。
撹拌機付きステンレス製反応容器に、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.96kg(71.0モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を11.44kg(116モル)、酢酸ナトリウム1.72kg(21.0モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水14.8kgおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン10.3kg(70.3モル)、NMP9.00kg(91.0モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で274℃まで昇温し、この温度で50分保持した。その後室温近傍まで急冷した。
内容物を取り出し、その一部を分取して粉砕することで流動性の低いスラリー(D)を得た。このスラリー1.0kgにイオン交換水1.9kgを加えて70℃で30分間攪拌した後、濾過して固形物を得た。得られた固形物に同様にイオン交換水を加え、70℃で30分間攪拌した後、吸引濾過する操作をさらに3回繰り返して固形物を回収した。得られた固形物を窒素雰囲気下130℃で熱風乾燥してポリフェニレンスルフィド混合物3を得た。
得られたリフェニレンスルフィド混合物は1−クロロナフタレンに210℃で全溶であり、GPC測定を行った結果、重量平均分子量44900であり、分散度は4.54であった。また、得られた生成物の元素分析を行った結果、Na含有量は1800ppmでこれ以外のアルカリ金属は検出されなかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果△Wrは0.33%であった。また、△Wr300(%)=0.23,△Wr320(%)=0.31,△Wr340(%)=0.35であった。さらに、ここで得られたPPSについて加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、加熱前のPPSの重量に対してγブチロラクトンが1480ppm、4−クロロ−N−メチルアニリンが482ppm検出された。
[実施例1〜4]
表1に示す各成分を表1に示す割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機で、シリンダー温度を290℃に設定し、200rpmのスクリュー回転数にて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。大気下110℃で8時間乾燥したペレットを用いて、射出成形(東芝機械社製IS100FA、シリンダー温度300℃、金型温度130℃により試験片を作成した。各サンプルの強度、伸度を測定した結果は表1に示した通りであった。
[比較例1〜2]
参考例8および9で得られたPPS樹脂を使用した以外は、実施例1と同様のペレタイズ、評価を行った。結果は表1に示した通りであった。実施例に示した、本発明のPAS樹脂組成物は従来技術によるPAS樹脂組成物と比べて、強度、靭性が著しく優れることが明らかである。
Figure 2008222889

Claims (9)

  1. (A)ポリアリーレンスルフィド100重量部に対し、(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体1〜70重量部を配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)ポリアリーレンスルフィドが重量平均分子量が10,000以上であって、かつ、加熱した際の重量減少が下記式を満たすことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
    △Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.18(%)
    (ここで△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である)
  2. (A)ポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  3. (A)ポリアリーレンスルフィドのアルカリ金属含量が50ppm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  4. (A)ポリアリーレンスルフィドを加熱した際の発生ガス成分中のラクトン型化合物がポリアリーレンスルフィド重量基準で500ppm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  5. (A)ポリアリーレンスルフィドを加熱した際の発生ガス成分中のアニリン型化合物がポリアリーレンスルフィド重量基準で300ppm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  6. (A)ポリアリーレンスルフィド100重量部に対し、さらに(C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体を1〜70重量部配合してなる請求項1から5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  7. (C)エポキシ基を含有しないオレフィン系共重合体が、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られるエチレン・α−オレフィン系共重合体であることを特徴とする請求項6に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  8. (A)ポリアリーレンスルフィドがポリフェニレンスルフィドであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  9. ポリフェニレンスルフィドが、下記一般式(I)で表される環式ポリフェニレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かかつ重量平均分子量が10,000未満のポリフェニレンスルフィドプレポリマーを加熱して重量平均分子量10,000以上の高重合度体に転化させることにより得られたポリフェニレンスルフィドであることを特徴とする請求項8に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
    Figure 2008222889
    (ここで、mは4〜20の整数、mは4〜20の混合物でもよい。)
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