JP2020169228A - ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物および成形品 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明では、ポリフェニレンサルファイド樹脂が本来有する優れた機械的強度を大きく損なうことなく、耐トラッキング性、靭性、さらにコンパウンド時の生産安定性にも優れたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物とその成形品を提供する。【解決手段】(A)直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体を15〜80重量部、(C)非繊維状無機充填材を20〜200重量部、および(D)繊維状充填材を10〜150重量部配合してなることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、ポリフェニレンサルファイド樹脂が本来有する優れた機械的強度を大きく損なうことなく、耐トラッキング性、靭性、コンパウンド時の生産安定性にも優れたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物に関するものであり、電気・電子部品、あるいは自動車電装部品などの電気部品用途として有用に適用されるほか、種々の広い分野に適用される。
ポリフェニレンサルファイド(以下PPSと略す)樹脂は、耐熱性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性および機械的強度や寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックであり、射出成形や押出成形などの各種成形法により、各種成形品や繊維、フィルムなどに成形可能であるため、電気・電子部品、機械部品および自動車部品など広範な分野において実用に供されている。
しかしながら、絶縁体表面へ高電圧を印加した際に生じるトラッキング破壊に関して、PPS樹脂は、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂等の他のエンジニアリングプラスチックに比較して劣る欠点を有している。
そのため、上記に示したPPS樹脂が有する良好な耐熱性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性および機械的強度や寸法安定性等の特性にも関わらず、比較的高い電圧に晒される環境下においては、その使用が制限されているのが実状であり、PPS樹脂組成物の耐トラッキング性の向上が望まれてきた。
トラッキング破壊とは、汚損した絶縁体表面に対して電圧を印加した際に、炭化導電路の形成に伴い短絡電流が流れる現象である。特に高電圧印加における炭化導電路の形成は、表面の部分的な分解が引き金となり、急速に導電路形成に至るため、物性を安定的に制御することが難しい。
また、近年、従来のSi素子よりパワーデバイスの損失が少ないSiC素子を使用した次世代パワー半導体では、高出力化、高温化、部品の小型化、低インダクタンス化などの観点から、より優れた耐トラッキング性、および機械物性に優れたPPS樹脂組成物のニーズが高まってきている。
そのため、これまでにもPPS樹脂の耐トラッキング性を改良する試みがいくつか検討されており、PPS樹脂の配合量を減らし、無機充填材の配合量を増やすことや、他のポリマーおよび添加剤を加えるといった出願が行われている。
例えば、特許文献1ではPPS樹脂に水酸化マグネシウムとポリアミド樹脂を添加することで耐トラッキング性を向上させる出願がなされている。また、特許文献2および特許文献3ではPPS樹脂に水酸化マグネシウムとエチレンビニルアルコール系重合体/ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物を添加した組成物について開示されている。
また、特許文献4では、炭酸カルシウム、タルクなどの無機充填材/エチレンビニルアルコール系重合体/ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物を添加した組成物について開示されている。
特許第5273321号 特開2015−28112号公報 特開2014−210848号公報 特開2016−23263号公報
しかしながら、特許文献1では、PPS樹脂組成物の耐トラッキング性、および機械強度の向上効果について開示されているが、一方で、靭性について具体的な記述は無い。特許文献2および特許文献3でも、PPS樹脂組成物の耐トラッキング性、および機械強度、靭性の向上効果について開示されているが、コンパウンド時の生産安定性に関する記述は無い。特許文献4では、大容量パワー半導体に適しているという記述があるにもかかわらず、耐トラッキング性ついて具体的な記述は無い。
そこで、本発明では、PPS樹脂が本来有する優れた機械物性などの諸性質を大きく損なうことなく、耐トラッキング性、靭性、さらにコンパウンド時の生産安定性にも優れたPPS樹脂組成物を得ることを課題とする。
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、下記を提供するものである。
(1)(A)直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体を15〜80重量部、(C)非繊維状無機充填材を20〜200重量部、および(D)繊維状充填材を10〜150重量部配合してなることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(2)前記(A)直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対し、更に(E)下記構造式で表されるポリアミド樹脂を15〜80重量部配合してなることを特徴とする前記(1)記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
Figure 2020169228
(構造式中のaは5以上の自然数であり、bは7以上の自然数である。)
(3)前記(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂の重量平均分子量Mwが、60000以上であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(4)前記(E)ポリアミド樹脂がISO 307(2007)に準拠して測定した粘度数が150ml/g以上であることを特徴とする前記(2)または(3)に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(5)前記(A)直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、前記(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の配合量と前記(E)ポリアミド樹脂の配合量との合計量が40〜120重量部であることを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(6)前記(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の配合量と前記(E)ポリアミド樹脂の配合量との合計量の内、(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の比率が50重量%以上であることを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(7)前記(C)非繊維状無機充填材が水酸化マグネシウムを含むことを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(8)ISO527−1,−2(2012)に準拠した引張伸びが1%以上であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる成形品。
(10)前記成形品が、パワー半導体用途であることを特徴とする前記(9)記載の成形品。
(11)前記成形品が、IEC60112(2003)に準拠した方法にて測定した耐トラッキング性が600V以上を有することを特徴とする前記(9)または(10)記載の成形品。
(12)前記(9)〜(11)のいずれかに記載の成形品およびSiC素子を含む部品で構成されるパワー半導体。
本発明は、ポリフェニレンサルファイド樹脂が本来有する優れた機械的強度を大きく損なうことなく、耐トラッキング性、靭性、さらにコンパウンド時の生産安定性にも優れたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物とその成形品を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明で用いられる(A)直鎖型PPS樹脂は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
Figure 2020169228
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を80モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の20モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
Figure 2020169228
PPS樹脂の融点は230℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、270℃以上であることが更に好ましい。
以下に、本発明で用いるPPS樹脂の製造方法を述べる。まず、使用するポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からスルフィド化剤を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からスルフィド化剤を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いることが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選択される。
[分子量調節剤]
生成するPPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
[重合助剤]
比較的高重合度のPPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるPPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩および/または水が好ましく用いられる。有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
これら重合助剤を用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜0.7モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
また水を重合助剤として用いることは、流動性と高靭性が高度にバランスした樹脂組成物を得る上で有効な手段の一つである。その場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.5モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することがより好ましい。
次に、前工程、重合反応工程、回収工程を、順を追って具体的に説明する。
[前工程]
スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充することが好ましい。
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜245℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.5〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂粉粒体を製造することが好ましい。
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜215℃、好ましくは100〜215℃の温度範囲で、有機極性溶媒にスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を加える。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
かかる混合物を通常200℃〜290℃未満の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
一般に、最終的には250〜290℃未満の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜245℃で一定時間反応させた後、270〜290℃未満に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜245℃での反応時間としては、通常0.25〜20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選択される。
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
[回収工程]
重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。
PPS樹脂の最も好ましい回収方法は、急冷条件下に行うことであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉粒体状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選択される。
フラッシュ法は、溶媒回収と同時に固形物を回収することができ、また回収時間も比較的短くできることから、経済性に優れた回収方法である。この回収方法では、固化過程でNaに代表されるイオン性化合物や有機系低重合度物(オリゴマー)がポリマー中に取り込まれやすい傾向がある。
但し、本発明に用いられるPPS樹脂の回収法は、フラッシュ法に限定されるものではない。本発明の要件を満たす方法であれば、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法(クエンチ法)を用いても構わない。特に、優れた靱性を発現する上では、徐冷して粒子状のポリマーを回収するクエンチ法がより好ましい。
[後処理工程]
本発明のPPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
酸処理を行う場合は次のとおりである。PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、PH4の水溶液を80〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のPHは4以上、例えばPH4〜8程度となってもよい。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
熱水処理を行う場合は次のとおりである。PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満ではPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
また、処理の雰囲気は、末端基の分解が好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えたPPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
アルカリ金属、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合工程前、重合工程中、重合工程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でももっとも容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属導入の際のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
本発明においては、靱性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、酸処理もしくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が好ましい。
本発明で用いられるPPS樹脂は、550℃で灰化させたときの灰分率が0.3重量%以下であることが好ましい。灰分率が0.3重量%を上回ることは、PPS樹脂の金属含有量が多いことを意味する。金属含有量が多いと電気絶縁性が劣るだけでなく、溶融流動性の低下、耐湿熱性の低下の原因になるため好ましくない。
本発明で用いられるPPS樹脂の重量平均分子量Mwは60000以上の範囲が選択され、Mwの上限は特に限定しないが、流動性が悪化する観点から、100000以下が好ましく例示できる。Mwが60000未満では、靭性の発現効果が減退するため好ましくない。
本発明の樹脂組成物は、PPS樹脂100重量部に対して、(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体を15〜80重量部配合することが必須である。より好ましくは配合量が20〜75重量部である。アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の配合量が80重量部を超えると、PPS樹脂が有する優れた機械的強度、低ガスの特性が損なわれるため好ましくなく、アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体が15重量部未満では、靭性発現効果が減退するため好ましくない。アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体は、末端にアミノ基を有し、ハードブロックにスチレン、ソフトブロックにエチレン及びブチレンの構造を有する化合物であり、具体的には、例えば(商品名)タフテック(登録商標)MP10(旭化成株式会社製:アミノ基変性)等の市販品を挙げることができる。
次に本発明で用いられる(C)非繊維状無機充填材は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、フラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などを用いることができ、これらは中空であってもよく、さらにはこれらの非繊維状無機充填材は2種類以上を併用することも可能である。また、これらの非繊維状無機充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。
かかる非繊維状無機充填材の配合量は、PPS樹脂100重量部に対し20〜200重量部の範囲が必須であり、好ましくは50〜170重量部の範囲、より好ましくは80〜130重量部の範囲である。配合量が20重量部に満たないと耐トラッキング性向上効果が不十分であり好ましくなく、配合量が200重量部を超えると樹脂組成物の機械的強度、流動性などへの悪影響が大きくなるため好ましくない。
かかる非繊維状充填材の中でも特に好ましいものは、水酸化マグネシウムであり、水酸化マグネシウムとしては、化学式Mg(OH)で示される無機物を80重量%以上含む比較的純度の高い水酸化マグネシウムが挙げられる。耐トラッキング性、機械的強度、および溶融粘度の点から、好ましくはMg(OH)で示される無機物を80重量%以上含有し、CaO含量5重量%以下、および塩素含量1重量%以下であり、より好ましくはMg(OH)を95重量%以上含有し、かつCaO含量1重量%以下、および塩素含量0.5重量%以下であり、更に好ましくはMg(OH)を98重量%以上含有し、かつ、CaO含量0.1重量%以下、および塩素含量0.1重量%以下の高純度水酸化マグネシウムが適している。
本発明で使用される水酸化マグネシウムの形状は、分散性などの観点から粒子状、フレーク状が最も好適である。また比表面積は15m/g以下、更には10m/g以下であることが好ましい。比表面積が15m/g以下とすることで水酸化マグネシウムの分散性が良好で耐トラッキング性向上効果、機械的強度の向上効果が得られ好ましい。水酸化マグネシウムの形状が粒子状、フレーク状の場合、その平均一次粒径は0.3〜5μm、好ましくは0.3〜3μmの範囲のものが耐トラッキング性向上効果、機械的強度、溶融粘性のバランス上適している。
また、この水酸化マグネシウムを、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシランなどのビニルシラン化合物、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのメタクリロキシシラン化合物、ステアリン酸、オレイン酸、モンタン酸、ステアリルアルコールなどの長鎖脂肪酸または長鎖脂肪族アルコールで表面処理して使用することが好ましい。特にエポキシシラン化合物、アミノシラン化合物、イソシアナトシラン化合物で表面処理した水酸化マグネシウムは、樹脂組成物あるいは成形体中での凝集抑制の点、および耐トラッキング性や機械的強度の点で好適である。
次に本発明において、PPS樹脂100重量部に対して(D)繊維状充填材を10〜150重量部を配合することが必須である。中でも材料の剛性向上効果を得る上では、(D)繊維状充填材は、ガラス繊維および炭素繊維から選択される少なくとも1種であることが好ましく、さらに材料コストの観点からガラス繊維であることがより好ましい。好ましくは30〜130重量部の範囲、より好ましくは50〜100重量部の範囲である。配合量が10重量部に満たないと機械的強度が不十分であり好ましくなく、配合量が150重量部を超えると溶融流動性への悪影響が大きくなるため好ましくない。
次に本発明で用いられる(E)ポリアミド樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体である。
Figure 2020169228
ここで構造式中のaは5以上の自然数であり、エチレン基の繰り返し単位数を示し、bは7以上の自然数であり、エチレン基の繰り返し単位数を示す。このように比較的長鎖の脂肪族構造を有するポリアミド樹脂は、耐トラッキング試験時の炭化導電経路が形成されにくく、電気特性の向上に有利となる。ここでaの自然数としては、5以上が必須であるが、6以上がより好ましい。また、bの自然数としては、7以上が必須であるが、8以上がより好ましい。中でもaが6でbが8のポリアミド610、aが6でbが10のポリアミド612が好ましいポリアミド樹脂として例示できる。aおよびbの上限は、流動性が悪化する観点から、aは10以下が好ましく、bは14以下が好ましい。nはポリアミド樹脂の構造単位の繰り返し数をあらわし、通常100以上10万以下である。後述する、本発明において好ましいとされる、粘度数が150ml/g以上のポリアミド樹脂の場合は、nは、70以上350以下が好ましい。
また、本発明の(E)ポリアミド樹脂としては、粘度数が150ml/g以上であることが好ましい。粘度数はポリアミド樹脂の重量平均分子量と相関があり、粘度数が高い方がポリアミド樹脂の重量平均分子量が高いことを意味している。ポリアミド樹脂の重量平均分子量が高い方が、PPS樹脂の加工温度において、分解発生ガスが少なく、金型汚れが抑制できるため好ましい。より好ましい粘度数としては、155ml/g以上であり、160ml/g以上が更に好ましい。粘度数の上限は特に限定しないが、流動性が悪化する観点から、200ml/g以下が好ましく例示できる。
なお、ポリアミド樹脂の粘度数は、96%濃硫酸の溶媒条件下で、ISO 307(2007)に準拠して測定する。
また、本発明の(E)ポリアミド樹脂としては、アミノ末端基量が3.30×10−5mol/g以下が好ましく、3.10×10−5mol/g以下がより好ましい。この理由としてはアミノ末端基量が少ない方が、PPS樹脂の加工温度において、分解発生ガスが少なく、金型汚れが抑制できるため好ましい。なお、アミノ末端基量の下限値は、特に限定されないが、1.00×10−5mol/g以上が好ましい。なお、アミノ末端基量はポリアミド樹脂をフェノール/エタノール混合溶媒(83.5:16.5、体積比)に溶解後、0.02N塩酸水溶液を用いて滴定することにより求める。
本発明におけるポリアミド樹脂としては、23℃、水中浸漬下での24時間経過時の吸水率が0.5重量%以下であることが好ましく、0.3重量%以下であることがより好ましい。この理由としては、吸水した際のPPS樹脂組成物が、優れた耐トラッキング性や機械的強度、寸法安定性、湿熱安定性を維持するためには、特に添加するポリアミド樹脂の吸水率を制御することが好ましいためである。
なお、ここでいう吸水率とは、ポリアミド樹脂を、ASTM−D570に従い、23℃、水中24時間浸漬処理し、処理前後のポリアミド樹脂の重量差を処理前のポリアミド樹脂の重量で除してパーセント表示した値である。
本発明におけるポリアミド樹脂の配合量は、PPS樹脂100重量部に対して、ポリアミド樹脂15〜80重量部の範囲が選択され、より好ましくはポリアミド樹脂が20〜50重量部である。ポリアミド樹脂の配合量が80重量部以下とすることで、PPS樹脂が有する優れた耐熱性や難燃性、寸法安定性、耐加水分解性、低吸水性等の特性を損なわないため好ましい。ポリアミド樹脂が15重量部以上では、耐トラッキング性発現効果が得られるため好ましい。
次に本発明において、PPS樹脂100重量部に対する、(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の配合量と(E)ポリアミド樹脂の配合量との合計量は40〜120重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは60〜90重量部である。合計量が120重量部以下とすることで、PPS樹脂が有する優れた機械的強度、低ガスの特性を損なわないため好ましく、合計量が40重量部以上では、靭性、耐トラッキング性の発現効果が得られるため好ましい。
次に本発明において、PPS樹脂100重量部に対して、(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の配合量と(E)ポリアミド樹脂の配合量との合計量の内、(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の比率が50重量%以上の範囲が好ましい。比率の上限は特に限定しないが、機械的強度、低ガスの特性が損なわれる観点から、70重量%以下が好ましく例示できる。比率が50重量%以上では、靭性の発現効果が得られるため好ましい。
更に、本発明で用いるPPS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、機械的強度、靱性などの向上を目的に、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するシラン化合物を添加してもよい。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。なかでもエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基を有するアルコキシシランが優れたウェルド強度を得る上で特に好適である。かかるシラン化合物の好適な添加量は、PPS樹脂100重量部に対し、0.05〜3重量部の範囲が選択される。
本発明で用いるPPS樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、更に(A)PPS樹脂および(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体以外の他の樹脂をブレンドして用いてもよい。かかるブレンド可能な樹脂には特に制限はないが、その具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、エポキシ基含有ポリオレフィン共重合体などが挙げられる。
なお、本発明のPPS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば前記以外の酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダートフェノール系、ヒドロキノン系、
リン系、ホスファイト系、アミン系、硫黄系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、ステアラート、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、燐酸エステル、メラミンシアヌレート、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、熱安定剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウムなどの滑剤、ビスフェノールA型などのビスフェノールエポキシ樹脂、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などの強度向上材、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤および発泡剤などの通常の添加剤を添加することができ、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダートフェノール系、ヒドロキノン系、リン系、ホスファイト系、アミン系、硫黄系およびこれらの置換体等)を用いることが好ましい。
より好ましくはリン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤が用いられる。
その具体例としては、上記リン系、ホスファイト系酸化防止剤として例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンフォスフォナイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ジフェニルイソデシルフォスファイト、フェニルジイソデシルフォスファイト、4,4−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)フォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルフォスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フォスファイト、トリス(ノニル・フェニル)フォスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジフォスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレンなどあるいはこれらの混合物が例示できる。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えばトリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルスルホン酸エチルカルシウム、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクチル化ジフェニルアミン、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ベンゼンプロパン酸,3−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−5−メチル−2,4,8,10−テトラオキサピロ[5.5]ウンデカン−3,9−ジイルビス(2,2−ジメチル−2,1−エタンジイル)エステル、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−sec−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、d−α−トコフェロール、3、9−ビス(2−(3−(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニールオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなど、あるいはこれらの混合物を例示できる。
アミン系酸化防止剤としては、例えばコハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−[3−(3.5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなど、あるいはこれらの混合物が例示できる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば4,4’−チオビス (6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、ジアルキル(C12−18 ) 3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)など、あるいはこれらの混合物が例示できる。
本発明のPPS樹脂組成物の製造方法としては、前記成分を二軸押出機に供給してPPS樹脂の融解ピーク温度+5〜100℃の温度で溶融混練する方法を代表例として挙げることができる。この際、(C)非繊維状無機充填材の分散をより細かくするには、せん断力を比較的強くすることが好ましい。具体的には、二軸押出機を使用し、その二軸押出機がニーディング部を2箇所以上有することが好ましく、ニーディング部が3箇所以上あることがより好ましい。二軸押出機のL/D(L:スクリュー長さ、D:スクリュー直径)としては、20以上が望ましく、30以上がより好ましい。この際の周速度としては、15〜50m/分の範囲が選択され、20〜40m/分がより好ましく選択される。二軸押出機のL/Dが20未満の場合には、混練部分が不足となるため、水酸化マグネシウムの分散性が低下し、PPS樹脂組成物の機械的強度、耐トラッキング性の低下を招くおそれがある。また、ニーディング部が1箇所の場合、あるいは周速度が15m/分未満の場合も、剪断力の低下に伴い(C)非繊維状無機充填材の分散性が低下するため、所望の物性を得ることができない。一方、周速度が50m/分を超える場合には、二軸押出機への負荷が大きくなるため生産性上好ましくない。
混練時の樹脂温度は、上述の通りPPS樹脂の融解ピーク温度+5〜100℃の範囲が選択され、+10〜70℃の範囲がより好ましく、具体的には350℃以下であることが好ましく、340℃以下であることがより好ましい。混練温度がPPS樹脂の融解ピーク+5℃よりも低い場合には、部分的に融解しないPPS樹脂の存在により、組成物の粘度が大幅に上昇し、二軸押出機への負荷が大きくなるため生産性上好ましくない。一方、混練温度がPPS樹脂の融解ピーク+100℃を超える場合には、混練する金属水酸化物の分解が生じるため好ましくない。
上記の通り、金属水酸化物の分散をより細かくするには、せん断力を比較的強くする必要がある一方で、強いせん断力は同時に大きな発熱を生じるため、樹脂温度が上昇し、(C)非繊維状無機充填材として水酸化マグネシウムを用いた場合には、その分解が生じる。そのため、二軸押出機による溶融混練において、吐出部のPPS樹脂組成物の樹脂温度と押出機のシリンダー温度との温度差は、0℃以上50℃以下であることが好ましく、0℃以上40℃以下であることがより好ましく、さらに0℃以上30℃以下であることが好ましい。樹脂温度とシリンダー温度の温度差が50℃を超える場合には、せん断発熱の制御ができておらず、結果として混練する金属水酸化物の分解が生じるため好ましくない。ここで、樹脂温度は混錬後の吐出部のPPS樹脂組成物の温度であるため、樹脂温度の方がシリンダー温度よりも高い温度となる。
このような混練時に発生するせん断発熱を抑制する方法として、スクリューフライトの山部分を削った切り欠き型ミキシングスクリューを組み込んだスクリューアレンジを用いて溶融混練する方法を示すことができる。切り欠き型ミキシングスクリューは樹脂充填率を高くすることが可能である。ニーディング部を通過する溶融樹脂は、押出機シリンダー温度の影響を受けやすい。そのため、混練時のせん断により発熱した溶融樹脂は切り欠き型ミキシングスクリュー部分を通過することで効率的に冷却され、樹脂温度を低下させることが可能となり、その結果、発熱による水酸化マグネシウムの分解を抑制することができる。
切り欠き型ミキシングスクリューとしては、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率向上、混練性向上の観点から、スクリュー直径をDとするとスクリューピッチの長さが0.1D〜0.3D、かつ切り欠き数が1ピッチあたり10〜15個である切り欠き型ミキシングスクリューであることが好ましい。ここでスクリューピッチの長さとは、スクリューが360度回転したときの、スクリューの山部分間のスクリュー長さを示す。
原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後に上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合して上記の方法により溶融混練し、更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは二軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。ただし、いずれの場合であっても、水酸化マグネシウムの一次粒子同士の凝集を防ぐ観点から、L/Dが20以上の二軸の押出機にて、ニーディング部を2箇所以上経る工程、およびその際の周速度が15〜50m/分に設定することが好適である。また、少量を添加するような添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
本発明のPPS樹脂組成物は、PPS樹脂が本来有する耐熱性、難燃性、機械強度を損なうことなく、優れた耐トラッキング性、靭性を有するものである。かかる特性を発現させるためには、PPS樹脂組成物の相構造において、(C)非繊維状無機充填材として水酸化マグネシウムを用い、かつその水酸化マグネシウムが平均二次粒子径5μm以下で分散していることが望ましい。水酸化マグネシウムの平均二次粒子径は4μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。平均二次粒子径の下限は、用いる一次粒子の粒子径程度であるが、一次粒子の生産性を考慮すると0.1μm以上であることが好ましい。一方、平均二次粒子径が5μmを超える範囲においては、機械的強度の低下や耐電圧特性の低下につながるため望ましくない。比較的大きな凝集体は、引張試験や曲げ試験での破断点の起点となるのみならず、粗大分散することにより、水酸化マグネシウムの疎密度合いの差が大きくなるため、耐トラッキング性の低下につながると考えられる。また吸水率の観点からも分散性の向上が好ましい。
なお、ここでいう平均二次粒子径は、PPS樹脂の融解ピーク温度+20〜40℃の成形温度でASTM1号ダンベル試験片を成形し、室温にてその中心部から0.1μm以下の薄片をダンベル試験片の断面積方向に切削し、日立製作所製H−7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50〜60万倍)にて、1000倍に拡大して観察した際の任意の100個の水酸化マグネシウム成分について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値をその分散粒子径とし、100個の粒子の平均値を求めた数平均分散粒子径である。
このようにして得られるPPS樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に射出成形用途に適している。
本発明で用いるPPS樹脂組成物は、ISO527−1,−2(2012)に準拠した引張伸びが1%以上を有するものであることが好ましい。より靭性に優れることは、製品の耐衝撃性や勘合特性が優れるため、製品組立時に起こりうる割れを防止することに寄与することができる。引張伸びを1%以上発現するためには、エラストマーを多量に配合することで可能であるが、ガス発生量が多くなる欠点がある。本発明では直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体を15〜80重量部配合することで引張伸びが1%以上で、ガス発生量の少ないPPS樹脂組成物を得ることができる。
本発明で用いるPPS樹脂組成物は、IEC60112(2003)に準拠した耐トラッキング試験において、トラッキング破壊が生じない最大電圧が600V以上であることが好ましい。より高電圧に耐え得ることは、沿面距離の短縮が可能となり、最終製品の小型化に寄与することができる。600V以上の耐トラッキング性能を発現するためには、水酸化マグネシウムを多量に配合することで可能であるが、機械的強度が損なう欠点がある。本発明では直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、下記構造式で表されるポリアミド樹脂を15〜80重量部配合することで600V以上の耐トラッキング性能を有し、機械的強度に優れたPPS樹脂組成物を得ることができる。
Figure 2020169228
(構造式中のaは5以上の自然数であり、bは7以上の自然数である。)
本発明で用いるPPS樹脂組成物は、機械的強度、耐トラッキング性、靭性に優れていることから、電気・電子部品に適用できる。特にパワー半導体への適用が好ましく、更には従来のSi素子よりパワーデバイスの損失が少ないSiC素子を使用した次世代パワー半導体への適用が好ましい。
その他本発明で用いられるPPS樹脂組成物からなる成形品の適用可能な用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、民生および車載用コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品への適用も可能である。その他、オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品;顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナーなどの自動車・車両関連部品など各種用途が例示できる。
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
[製造したPPS樹脂の評価方法]
(1)重量平均分子量Mw
PPS樹脂の分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
[参考例1]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
次にp−ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS(PPS−1)は、重量平均分子量Mwが60,000であった。
[参考例2]
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム0.513kg(6.25モル)、及びイオン交換水3.82kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水8.09kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
その後200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン10.34kg(70.32モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.67kg(148.4モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
内容物を約35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPS(PPS−2)を得た。
得られたPPSは、重量平均分子量Mwが42000であった。
[参考例3]
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.91kg(69.80モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.10モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
その後200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン10.45kg(71.07モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが7になるよう酢酸を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPS(PPS−3)を得た。
(A)PPS樹脂
PPS−1:参考例1に記載の方法で重合したPPS樹脂
PPS−2:参考例2に記載の方法で重合したPPS樹脂
PPS−3:参考例3に記載の方法で重合したPPS樹脂を、酸素濃度11%、220℃、12時間で熱酸化処理を行った。得られたPPSは、重量平均分子量Mwが61000であった。
(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体
B−1:アミノ基変性スチレン・ブタジエン共重合物の水素添加物(旭化成株式会社製 タフテックMP10)
(B’)(B)成分に該当しないエラストマー
B’−2:無水マレイン酸変性スチレン・ブタジエン共重合物の水素添加物(旭化成株式会社製 タフテックM1943)
B’−3:エチレン・グリシジルメタクリレート・アクリル酸メチル共重合体(住友化学社製 ボンドファーストBF−E)
(C)非繊維状無機充填材
C−1:表面処理水酸化マグネシウム(神島化学工業社製 マグシーズV−6)
C−2:重質炭酸カルシウム(株式会社カルファイン製 KSS−1000)
C−3:タルク(林化成株式会社製 タルカンパウダーPK−S)
(D)繊維状充填材
D−1:チョップドストランド(日本電気硝子株式会社製 T−760H)
(E)ポリアミド樹脂
E−1:ポリアミド610(東レ株式会社製 CM2021)、粘度数:165ml/g
E−2:ポリアミド610(東レ株式会社製 CM2001)、粘度数:130ml/g。
〔測定評価方法〕
本実施例および比較例における測定評価方法は以下の通りである。
(引張強度、引張伸びの測定)
ISO527−1,−2(2012)に準じて測定を行った。具体的には次のように測定を行った。樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度310℃、金型温度145℃に設定した住友重機械工業社製射出成形機(SE50DUZ−C160)に供給し、充填時間0.8sで充填、充填圧力の75%の保圧にて射出成形を行い、ISO 20753に規定されるタイプA1試験片を得た。この試験片を、23℃、相対湿度50%の条件で16時間状態調節を行った後、23℃、相対湿度50%の雰囲気下、つかみ具間距離:114mm、試験速度:5mm/sの条件で測定を行った。
(耐トラッキング性の測定)
樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度320℃、金型温度130℃に設定した住友重機械工業社製射出成形機(SE50DUZ−C160)に供給し、射出速度100mm/sec、射出時間10sec、冷却時間15secの条件で成形し、角板(80mm×80mm×3.0mmt)を得た。この試験片を用い、IEC60112(2003)に準拠し、トラッキング破壊が生じない最大電圧を求めた。電解液には0.1%塩化アンモニウム水溶液を用いた。
(発生ガス量(加熱減量)の測定)
樹脂組成物ペレットを、320℃で2時間、空気雰囲気下で加熱処理し、処理前後の重量差を測定した。
(PPS樹脂組成物の製造)
シリンダー温度を320℃、スクリュー回転数を375rpmに設定した、26mm直径の中間添加口を有する2軸押出機(東芝機械(株)製TEM−26SS)を用いて、PPS樹脂(A)100重量部及び(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体または(B’)(B)成分に該当しないエラストマー、(C)非繊維状充填剤、ならびに(E)ポリアミド樹脂を表1に示す重量比で原料供給口から添加して溶融状態とし、(D)繊維状充填剤を表1に示す重量比で中間添加口から供給し、吐出量20kg/時間で溶融混練してペレットを得た。ペレットが採取できた場合は〇、採取不可能な場合は×と判定した。また、このペレットを用いて上記の特性を評価した。その結果を表1に示す。
Figure 2020169228
〔実施例1〜8〕
表1に示す実施例1〜8は、アミノ基変性スチレン・ブタジエン共重合物の水素添加物を用いることで、引張伸びが1%以上を有し、引張特性が優れていることがわかる。
〔実施例1〜3〕
表1に示す実施例1〜3より、使用する非繊維状無機充填剤は、水酸化マグネシウム、タルク、炭酸カルシウムの順で耐トラッキング性が優れていることがわかる。
〔実施例1、4〕
表1に示す実施例1と4より、重量平均分子量Mwが高い直鎖型PPSを使用した方が、より優れた引張伸びの特性を発現していることがわかる。
〔実施例1、5〕
表1に示す実施例1と5より、粘度数の高いポリアミド610を使用した方が、より発生ガス量が少ないことがわかる。
〔実施例1、6〕
表1に示す実施例1と6より、アミノ基変性スチレン・ブタジエン共重合物の水素添加物とポリアミドの合計の内、アミノ基変性スチレン・ブタジエン共重合物の水素添加物の比率の高い方が、より優れた引張伸びの特性を発現していることがわかる。
〔実施例1、7〕
表1に示す実施例1と7より、アミノ基変性スチレン・ブタジエン共重合物の水素添加物とポリアミドの配合比率がほぼ同等の場合、アミノ基変性スチレン・ブタジエン共重合物の水素添加物とポリアミドの合計量の多い方が、より優れた引張伸びの特性を発現していることがわかる。
〔比較例1〕
表1に示す比較例1はエチレン・グリシジルメタクリレート・アクリル酸メチル共重合体を使用することで、PPS樹脂組成物の製造時にガス発生量が多く、真空ベント部から樹脂が溢れ出し、ペレット採取することが不可能であった。
〔比較例2〕
表1に示す比較例2は重量平均分子量Mwが高くても、架橋型PPSを使用すると、引張伸びが劣っていることがわかる。
〔比較例3〕
表1に示す比較例3は無水マレイン酸変性スチレン・ブタジエン共重合物の水素添加物を使用すると、引張伸びが劣っていることがわかる。
〔比較例4〕
表1に示す比較例4は、エラストマーを配合せずポリアミドの配合だけでは、引張伸びが劣っていることがわかる。

Claims (12)

  1. (A)直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体を15〜80重量部、(C)非繊維状無機充填材を20〜200重量部、および(D)繊維状充填材を10〜150重量部配合してなることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
  2. 前記(A)直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対し、更に(E)下記構造式で表されるポリアミド樹脂を15〜80重量部配合してなることを特徴とする請求項1記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
    Figure 2020169228
    (構造式中のaは5以上の自然数であり、bは7以上の自然数である。)
  3. 前記(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂の重量平均分子量Mwが、60000以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
  4. 前記(E)ポリアミド樹脂がISO 307(2007)に準拠して測定した粘度数が150ml/g以上であることを特徴とする請求項2または3に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
  5. 前記(A)直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、前記(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の配合量と前記(E)ポリアミド樹脂の配合量との合計量が40〜120重量部であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
  6. 前記(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の配合量と前記(E)ポリアミド樹脂の配合量との合計量の内、(B)アミノ基で変性されたビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の比率が50重量%以上であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
  7. 前記(C)非繊維状無機充填材が水酸化マグネシウムを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
  8. ISO527−1,−2(2012)に準拠した引張伸びが1%以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる成形品。
  10. 前記成形品が、パワー半導体用途であることを特徴とする請求項9記載の成形品。
  11. 前記成形品が、IEC60112(2003)に準拠した方法にて測定した耐トラッキング性が600V以上を有することを特徴とする請求項9または10記載の成形品。
  12. 請求項9〜11のいずれかに記載の成形品およびSiC素子を含む部品で構成されるパワー半導体。
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