以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置について説明する。図1に示すように、第1実施形態の動力伝達装置1は、車両Vの駆動系に適用されたものである。なお、以下の説明では、図1中の左側を「左」、右側を「右」という。この車両Vは、前輪駆動タイプの四輪車両であり、エンジン3、自動変速機4、動力伝達装置1、左右の駆動軸5,5、駆動輪である左右の前輪6,6及び従動輪である左右の後輪(図示せず)を備えている。
この車両Vでは、エンジン3の動力は、自動変速機4で変速された後、動力伝達装置1及び左右の駆動軸5,5を介して、左右の前輪6,6(第1及び第2被駆動部)にそれぞれ伝達される。自動変速機4は、出力軸4aと、この出力軸4a上に一体に設けられた出力ギヤ4bなどを有しており、エンジン3からの動力を変速して出力ギヤ4bから出力する。
また、動力伝達装置1は、自動変速機4から入力された動力を分配して左右の駆動軸5,5に伝達するものであり、主差動機構10、左右の副差動機構20,30、左右の電気モータ41,42(第1及び第2回転機)及びECU2(図2参照)などを備えている。これらの主差動機構10、左右の副差動機構20,30及び左右の電気モータ41,42は、互いに同心に配置されている。
この主差動機構10は、デフケース11、入力ギヤ12、ピニオン軸13、一対のピニオンギヤ14,14及び左右一対のサイドギヤ15,15などを備えている。この入力ギヤ12は、リングギヤ状のもので、デフケース11の外周面に一体に形成されており、自動変速機4の出力ギヤ4bと常に噛み合っている。なお、本実施形態では、主差動機構10が第1差動機構に、入力ギヤ12が第3回転要素に、左右のサイドギヤ15が第1及び第2回転要素にそれぞれ相当する。
また、ピニオン軸13は、その両端部がデフケース11の内壁面に固定されている。一対のピニオンギヤ14,14は、ピニオン軸13上に回転自在に設けられているとともに、左右のサイドギヤ15,15に常に噛み合っている。さらに、左右のサイドギヤ15,15には、左右の駆動軸5,5の先端部がそれぞれ同心に固定されている。
また、左副差動機構20は、ダブルピニオンタイプの遊星歯車機構で構成されており、左サンギヤ21、左キャリア22、左ピニオンギヤ23及び左リングギヤ24などを備えている。なお、本実施形態では、左副差動機構20が第2差動機構に、左サンギヤ21が第4回転要素に、左キャリア22が第5回転要素に、左リングギヤ24が第6回転要素にそれぞれ相当する。
左サンギヤ21は、デフケース11から右方に同心に延びる中空軸11aに接続されており、それにより、デフケース11及び入力ギヤ12と一体かつ同心に回転するようになっている。また、左キャリア22は、左電気モータ41のロータに同心に固定されており、ロータと一体に回転する。
さらに、この左キャリア22には、一対の左ピニオンギヤ23,23を1組として複数組の左ピニオンギヤ23が設けられている。各組における一対の左ピニオンギヤ23,23は、互いに常に噛み合っているとともに、一方の左ピニオンギヤ23が左リングギヤ24に、他方の左ピニオンギヤ23が左サンギヤ21に常に噛み合った状態で回転可能に配置されている。
一方、左リングギヤ24は、内歯車タイプのものであり、右副差動機構30の後述する右リングギヤ34と一体に構成されている。それにより、2つのリングギヤ24,34は互いに一体に回転するようになっている。
この左副差動機構20の場合、そのサイズ及び左リングギヤ24と左サンギヤ21との歯数比が、右副差動機構30と同一に構成されている。具体的には、左リングギヤ24と左サンギヤ21との歯数比は、値λ(>1)に設定されている。なお、以下の説明では、遊星歯車機構タイプの各差動機構におけるリングギヤとサンギヤとの歯数比を単に「歯数比」という。
また、右副差動機構30は、左副差動機構20の左側に近接して配置されており、左副差動機構20と同様のダブルピニオンタイプの遊星歯車機構で構成されている。右副差動機構30は、右サンギヤ31、右キャリア32、右ピニオンギヤ33及び右リングギヤ34などを備えており、上述したように、そのサイズ及び歯数比が左副差動機構20と同一に構成されている。なお、本実施形態では、右副差動機構30が第3差動機構に、右サンギヤ31が第7回転要素に、右キャリア32が第8回転要素に、右リングギヤ34が第9回転要素にそれぞれ相当する。
この右サンギヤ31は、右駆動軸5上に同心に接続されており、それにより、右駆動軸5と一体かつ同心に回転するようになっている。また、右キャリア32は、右電気モータ42のロータに同心に固定されており、ロータと一体に回転する。
さらに、この右キャリア32には、一対の右ピニオンギヤ33,33を1組として複数組の右ピニオンギヤ33が設けられている。各組における一対の右ピニオンギヤ33,33は、互いに常に噛み合っているとともに、一方の右ピニオンギヤ33が右リングギヤ34に、他方の右ピニオンギヤ33が右サンギヤ31に常に噛み合った状態で回転可能に配置されている。また、右リングギヤ34は、内歯車タイプのものであり、前述したように、左副差動機構20の左リングギヤ24と一体に構成されている。
一方、前述したECU2(制御装置)には、図2に示すように、アクセル開度センサ101、4つの車輪速度センサ102(1つのみ図示)及びヨーレートセンサ103が電気的に接続されている。
また、アクセル開度センサ101は、車両Vの図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。さらに、4つの車輪速度センサ102の各々は、対応する車輪の回転速度を検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、これらの車輪速センサ102の検出信号に基づいて、4つの車輪速度NW1〜4や車速VPなどを算出する。また、ヨーレートセンサ103は、車両Vのヨーレートγを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。
一方、左電気モータ41は、DCモータタイプのものであり、左PDU2aに電気的に接続されている。この左PDU2aは、インバータなどの電気回路によって構成されており、ECU2及びバッテリ2cに電気的に接続されている。
また、右電気モータ42も、左電気モータ41と同様に、DCモータタイプのものであり、右PDU2bに電気的に接続されている。この右PDU2bも、左PDU2aと同様に、インバータなどの電気回路によって構成されており、ECU2及びバッテリ2cに電気的に接続されている。
ECU2は、アクセル開度AP、4つの車輪速度NW1〜4、車速VP及びヨーレートγなどに応じて、左右のPDU2a,2bを介して、左電気モータ41とバッテリ2cの間、及び右電気モータ42とバッテリ2cの間における電気エネルギの授受状態を制御する。それにより、後述するように、自動変速機4から主差動機構10に入力された動力の、左右の前輪6,6への伝達状態が制御される。
次に、以上のように構成された第1実施形態の動力伝達装置1の動作について説明する。まず、車両Vの直進走行中、主差動機構10における3つの回転要素の速度、すなわち入力ギヤ12及び左右のサイドギヤ15,15の回転速度は、図3(a)に示すように、互いに同じ直線上に位置する、いわゆる共線関係が成立するものとなる。
同図において、白丸で示すポイントは、3つの回転要素の速度を、車両Vが前進する方向の回転速度を正回転として表したものである。また、TINは、自動変速機4から入力ギヤ12に入力された入力トルクを、RINL,RINRは、入力トルクTINに起因して、左右のサイドギヤ15,15に作用する反力トルクをそれぞれ表している。この場合、左右のサイドギヤ15,15は同じ歯数で構成されているので、3つの回転要素におけるトルクの関係は、−RINL=−RINR=TIN/2となる。すなわち、入力トルクTINは、2等分されて左右の駆動軸5,5に伝達される。
また、左副差動機構20の場合、車両Vの直進走行中、3つの回転要素の速度、すなわち左サンギヤ21、左キャリア22及び左リングギヤ24の回転速度は、互いに同じ直線上に位置する状態、いわゆる共線関係が成立する状態となり、例えば、図3(b)に示す状態となる。この左副差動機構20の場合、前述したように、歯数比が値λに設定されているので、図3(b)に示す共線関係において、左サンギヤ21及び左キャリア22の間の距離と、左リングギヤ24及び左キャリア22の間の距離との比がλ:1になる。
また、右副差動機構30の場合も、左副差動機構20と同様に、車両Vの直進走行中、3つの回転要素の速度、すなわち右サンギヤ31、右キャリア32及び右リングギヤ34の回転速度は、互いに同じ直線上に位置する状態、いわゆる共線関係が成立する状態となり、例えば、図3(c)に示す状態となる。この右副差動機構30の場合、前述したように、歯数比が左副差動機構20と同じ値λに設定されているので、図3(c)に示す共線関係において、右サンギヤ31及び右キャリア32の間の距離と、右リングギヤ34及び右キャリア32の間の距離との比がλ:1になる。
さらに、以上の3つの差動機構10,20,30においては、前述した構成により、主差動機構10の入力ギヤ12と左副差動機構20の左サンギヤ21とが一体に回転し、主差動機構10の右サイドギヤ15と右副差動機構30の右サンギヤ31とが一体に回転し、左副差動機構20の左リングギヤ24と右副差動機構30の右リングギヤ34とが一体に回転するので、以上の図3(a)〜(c)の共線関係をまとめて表すと、図4に示すものとなる。
この図4に示す共線関係が成立している状態で、2つの電気モータ41,42のゼロトルク制御(すなわち、2つの電気モータ41,42とバッテリ2cとの間で電力の授受が行われないようにする制御)を実行した場合、2つの電気モータ41,42のロータが空回りし、同図に示す共線関係を維持した状態で、3つの差動機構10,20,30が動作する。
また、図4に示すような共線関係が成立している状態で、2つの電気モータ41,42を互いに同じ発生トルクで力行制御した場合の動作について、図5を参照しながら説明する。なお、この図5では、理解の容易化のために、前述した3つのトルクTIN,RINL,RINRの図示は省略されている。
同図において、左電気モータ41の発生トルクである左発生トルクをTMLとし、右電気モータ42の発生トルクである右発生トルクをTMR(=TML)とした場合、左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ21及び左リングギヤ24に反力トルクRMLS,RMLRが作用し、右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ31及び右リングギヤ34に反力トルクRMRS,RMRRが作用することになる。
この場合、左リングギヤ24及び右リングギヤ34は他の部材に連結されておらず、自由に回転可能に構成されている関係上、左右のリングギヤ24,34に作用する反力トルクRMLR,RMRRや、左右のサンギヤ21,31に作用する反力トルクRMLS,RMRSはいずれも、極めて小さい値となる。そのため、左右のサンギヤ21,31の回転速度が変化せず、リングギヤ24,34の回転速度が上昇するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も上昇することになる。すなわち、各回転要素の共線関係が図5に実線で示す状態から破線で示す状態に変化する。
一方、以上とは逆に、2つの電気モータ41,42を同じ回生電力が得られるように、回生制御した場合には、トルクの作用方向が逆になることで、左右のサンギヤ21,31の回転速度が変化せず、リングギヤ24,34の回転速度が低下するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も低下することになる。以上のように、この動力伝達装置1では、車両Vの直進走行中、2つの電気モータ41,42を同時に力行制御/回生制御することによって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。さらに、車両Vの停車中においても、以上と同じ手法によって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。
次に、車両Vが左旋回走行中のときの動作について説明する。車両Vの左旋回走行中、3つの差動機構10,20,30における各回転要素の速度の関係と、主差動機構10における各回転要素のトルクの関係は、例えば図6に示すものとなる。この図6に示す状態において、2つの電気モータ41,42のゼロトルク制御を実行した場合、前述したように、2つの電気モータ41,42のロータが空回りし、同図に示す共線関係を維持した状態で、3つの差動機構10,20,30が動作する。
また、図6に示す共線関係が成立している状態で、2つの電気モータ41,42を互いに同じ発生トルクで力行制御した場合には、前述した理由により、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇させることができる。さらに、2つの電気モータ41,42を同じ回生電力が得られるように、回生制御した場合には、前述した理由により、2つの電気モータ41,42の回転速度を低下させることができる。
一方、車両Vの左旋回走行中、図6に示す共線関係が成立している状態で、2つの電気モータ41,42の一方を力行制御し、他方を回生制御した場合には、以下に述べるように、車両Vにヨーモーメントを発生させることができる。車両Vの左旋回走行中、例えば、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御した場合、3つの差動機構10,20,30の各回転要素に作用するトルクは図7に示すようになる。同図において、TMRcは、左電気モータ41の発生トルクである左発生トルクTMLを、右電気モータ42における回生電力に換算した右換算トルクを表している。すなわち、右換算トルクTMRcは、左発生トルクTMLと絶対値が等しい値に設定されている。
同図に示すように、左副差動機構20では、左キャリア22に作用する左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ21及び左リングギヤ24に反力トルクRMLS,RMLRが作用し、右副差動機構30では、右キャリア32に作用する右換算トルクTMRcに起因して、右サンギヤ31及び右リングギヤ34に反力トルクRMRS,RMRRが作用することになる。前述したように、左右の副差動機構20,30の歯数比は互いに同じ値λに設定されているので、左リングギヤ24の反力トルクRMLRと右リングギヤ34の反力トルクRMRRは、互いに同じ値で逆方向に作用し、釣り合うことになる。その結果、左サンギヤ21及び右リングギヤ31は、その回転速度を維持することになる。
また、左副差動機構20の左サンギヤ21は、主差動機構10の入力ギヤ12と一体に回転するように構成されているので、主差動機構10の入力ギヤ12に作用するトルクは、TIN−RMLSとなり、主差動機構10の左サイドギヤ15に作用する反力トルクRINLは、RINL=(TIN−RMLS)/2となる。すなわち、左サイドギヤ15に作用するトルクが、値RMLS/2分、低下することになる。
さらに、右副差動機構30の右サンギヤ31は、主差動機構10の右サイドギヤ15と一体に回転するように構成されているので、主差動機構10の右サイドギヤ15に作用する反力トルクは、RMRS+RINRとなる。ここで、RINR=(TIN−RMLS)/2、RMRS=RMLSが成立するので、値RMRS+RINRを整理すると、下式(1)に示すようになる。
RMRS+RINR=RMLS+(TIN−RMLS)/2
=(TIN+RMLS)/2 ……(1)
上式(1)を参照すると明らかなように、右サイドギヤ15に作用するトルクが、値RMLS/2分、上昇することになる。以上のように、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御することによって、左サイドギヤ15に作用するトルクを値RMLS/2分、低下させるとともに、右サイドギヤ15に作用するトルクを値RMLS/2分、上昇させることができる。すなわち、左右のサイドギヤ15,15間で、値RMLS分のトルク差を生じさせることができ、それにより、車両Vの左旋回を促進するような左回りのヨーモーメントを発生させることができる。
一方、車両Vの左旋回走行中、以上とは逆に、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御した場合、3つの差動機構10,20,30の各回転要素に作用するトルクは図8に示すようになる。
同図において、TMLcは、右電気モータ42の発生トルクである右発生トルクTMRを、左電気モータ41における回生電力に換算した左換算トルクを表している。同図に示すように、左副差動機構20では、左キャリア22に作用する左換算トルクTMLcに起因して、左サンギヤ21及び左リングギヤ24に反力トルクRMLS,RMLRが作用し、右副差動機構30では、右キャリア32に作用する右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ31及び右リングギヤ34に反力トルクRMRS,RMRRが作用することになる。この場合、前述した理由により、左リングギヤ24の反力トルクRMLRと右リングギヤ34の反力トルクRMRRは、互いに同じ値で逆方向に作用し、釣り合う状態となるので、左サンギヤ21及び右リングギヤ31は、その回転速度を維持することになる。
また、左副差動機構20の左サンギヤ21は、主差動機構10の入力ギヤ12と一体に回転するように構成されているので、主差動機構10の入力ギヤ12に作用するトルクは、TIN+RMLSとなり、主差動機構10の左サイドギヤ15に作用する反力トルクRINLは、RINL=(TIN+RMLS)/2となる。すなわち、左サイドギヤ15に作用するトルクが、値RMLS/2分、上昇することになる。
さらに、右副差動機構30の右サンギヤ31は、主差動機構10の右サイドギヤ15と一体に回転するように構成されているので、主差動機構10の右サイドギヤ15に作用する反力トルクは、RINR−RMRSとなる。ここで、RINR=(TIN−RMLS)/2、RMRS=RMLSが成立するので、値RINR−RMRSを整理すると、下式(2)に示すようになる。
RINR−RMRS={(TIN+RMLS)/2}−RMLS
=(TIN−RMLS)/2 ……(2)
上式(2)を参照すると明らかなように、右サイドギヤ15に作用するトルクが、値RMLS/2分、低下することになる。以上のように、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御することによって、右サイドギヤ15に作用するトルクを値RMLS/2分、低下させると同時に、左サイドギヤ15に作用するトルクを値RMLS/2分、上昇させることができる。すなわち、左右のサイドギヤ15,15間で、値RMLS分のトルク差を生じさせることができ、それにより、車両Vの左旋回を抑制するような右回りのヨーモーメントを発生させることができる。
以上のように、この動力伝達装置1の場合、2つの電気モータ41,42の一方を力行制御し、他方を回生制御することによって、左右のサイドギヤ15,15間で、値RMLS分のトルク差を生じさせることができる。この場合、歯数比が値λであるので、左右のサイドギヤ15間でのトルク差RMLSは、RMLS=TML/(λ−1)となる。
なお、以上の図7,8では、車両Vが左旋回走行中のときに左回りまたは右回りのヨーモーメントを発生させる動作について説明したが、車両Vが右旋回中のときでも、以上と同じ原理により、左右の電気モータ41,42の一方を回生制御し、他方を力行制御することによって、左回りまたは右回りのヨーモーメントを発生させることが可能である。
さらに、必要性に応じて、車両Vが直進走行中のときや停車中のときであっても、以上と同じ原理により、左右の電気モータ41,42の一方を回生制御し、他方を力行制御することによって、左回りまたは右回りのヨーモーメントを発生させることも可能である。
以上のように構成された第1実施形態の動力伝達装置1によれば、左右の副差動機構20,30の各々における3つの回転体間において共線関係が成立する範囲内で、左右の駆動軸5,5の回転速度とは無関係に、左右の電気モータ41,42の回転速度を自由に設定することができるので、特許文献1の動力伝達装置と比べて、左右の電気モータ41,42を効率の良い回転域で使用することができ、運転効率を向上させることができるとともに、消費電力を低減することができる。さらに、左右の電気モータ41,42として、高速域で運転可能な小型のものを使用することもでき、動力伝達装置1を小型化することもできる。その結果、汎用性及び商品性を向上させることができる。
また、左右の副差動機構20,30において、共線関係にある3つの回転要素のうちの中央の回転要素(すなわち左右のリングギヤ24,34)同士が互いに一体に回転可能に構成されているので、共線関係にある3つの回転要素のうちの外側の回転要素同士を互いに一体に回転可能に構成した場合(後述する動力伝達装置1B,1Cの場合)と比べて、左右の電気モータ41,42の一方を力行制御し、他方を回生制御したときに、左右のサイドギヤ15,15間で発生するトルク差をより大きな値に設定することができる。その結果、左右の電気モータ41,42をさらに小型化することができ、動力伝達装置1をさらに小型化することができる。これに加えて、3つの差動機構10,20,30の回転軸線が同一直線上に配置されているので、動力伝達装置1の径方向のサイズを小型化することができ、汎用性及び商品性をより一層、向上させることができる。
さらに、左右の電気モータ41,42がそれぞれ、左右の副差動機構20,30における左右のキャリア22,32に連結されているので、これらを左右のサンギヤ21,31や左右のリングギヤ24,34に連結した場合と比べて、左右の電気モータ41,42と左右の副差動機構20,30との間での心合わせが容易になり、心合わせ用の機械要素を減らすことができる。
次に、図9を参照しながら、第2実施形態の動力伝達装置1Aについて説明する。同図に示すように、この動力伝達装置1Aは、第1実施形態の動力伝達装置1と比較すると、前述した左右の副差動機構20,30に代えて、左右の副差動機構50,60を備えている点のみが異なっており、それ以外は同一に構成されている。そのため、以下、第1実施形態の動力伝達装置1と異なる点についてのみ説明するとともに、第1実施形態の動力伝達装置1と同じ構成については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
この動力伝達装置1Aの場合、前述した左右の副差動機構20,30がダブルピニオンタイプの遊星歯車機構で構成されているのに対して、左右の副差動機構50,60はいずれも、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構で構成されている。この左副差動機構50は、主差動機構10の右側に配置されているとともに、左サンギヤ51、左キャリア52、左ピニオンギヤ53及び左リングギヤ54などを備えている。なお、本実施形態では、左副差動機構50が第2差動機構に、左サンギヤ51が第4回転要素に、左キャリア52が第6回転要素に、左リングギヤ54が第5回転要素にそれぞれ相当する。
この左サンギヤ51は、前述した中空軸11a上に、これと一体かつ同心に回転するように設けられている。また、左キャリア52は、右副差動機構60の後述する右キャリア62と一体かつ同心に回転するように、右キャリア62に直結されている。さらに、この左キャリア52には、4つの左ピニオンギヤ53(2つのみ図示)が設けられており、各左ピニオンギヤ53は、左サンギヤ51及び左リングギヤ54に常に噛み合った状態で回転可能に配置されている。
一方、左リングギヤ54は、内歯車タイプのものであり、左電気モータ41の回転中、左電気モータ41のロータと一体に回転するように、ロータに同心に固定されている。また、この左副差動機構50の場合、歯数比が前述した値λに設定されており、それにより、後述する図10に示す共線関係において、左サンギヤ51及び左キャリア52の間の距離と、左リングギヤ54及び左キャリア52の間の距離との比は、λ:1になる。
また、右副差動機構60は、左副差動機構50の左側に近接して配置されており、左サンギヤ61、左キャリア62、左ピニオンギヤ63及び左リングギヤ64などを備えている。この右副差動機構60では、そのサイズや歯数比が左副差動機構50と同一に構成されている。なお、本実施形態では、右副差動機構60が第3差動機構に、右サンギヤ61が第7回転要素に、右キャリア62が第9回転要素に、右リングギヤ64が第8回転要素にそれぞれ相当する。
この右サンギヤ61は、右駆動軸5と一体かつ同心に回転するように、右駆動軸5上に同心に設けられている。また、右キャリア62は、前述したように、左副差動機構50の左キャリア52と一体かつ同心に回転するように、左キャリア52に直結されている。さらに、この右キャリア62には、4つの右ピニオンギヤ63(2つのみ図示)が設けられており、各右ピニオンギヤ63は、右サンギヤ61及び右リングギヤ64に常に噛み合った状態で回転可能に配置されている。
また、右リングギヤ64は、内歯車タイプのものであり、右電気モータ42の回転中、右電気モータ42のロータと一体に回転するように、ロータに同心に固定されている。
以上のように構成された動力伝達装置1Aでは、車両Vの直進走行中、主差動機構10、左右の副差動機構50,60における各回転要素の速度関係は、例えば、図10に示すものとなる。この状態で、2つの電気モータ41,42を互いに同じ発生トルクTML,TMRで力行制御した場合、以下に述べるように、各回転要素の共線関係が変化する。なお、同図10においては、各回転要素に作用する各トルクは、左右のキャリア52,62に作用する反力トルクRMLC,RMRC以外は、便宜上、前述した図4,5と同一に表記されている。
同図に示すように、左電気モータ41が左発生トルクTMLを出力し、右電気モータ4が右発生トルクTMRを出力した場合、左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ51及び左キャリア52に反力トルクRMLS,RMLCが作用し、右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ61及び右キャリア62に反力トルクRMRS,RMRCが作用することになる。
この場合、左右のキャリア52,62は他の部材に連結されておらず、自由に回転可能に構成されている関係上、左右のキャリア52,62に作用する反力トルクRMLC,RMRCや、左右のサンギヤ51,61に作用する反力トルクRMLS,RMRSはいずれも、極めて小さい値となる。そのため、左右のサンギヤ51,61の回転速度が変化せず、左右のキャリア52,62の回転速度が上昇するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も上昇することになる。すなわち、各回転要素の共線関係が図10に実線で示す状態から破線で示す状態に変化する。
一方、以上とは逆に、2つの電気モータ41,42を同じ回生電力が得られるように、回生制御した場合には、トルクの作用方向が逆になることで、左右のサンギヤ51,61の回転速度が変化せず、左右のキャリア52,62の回転速度が低下するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も低下することになる。以上のように、この動力伝達装置1Aでは、車両Vの直進走行中、2つの電気モータ41,42を同時に力行制御/回生制御することによって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。さらに、車両Vの停車中においても、以上と同じ手法によって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。
次に、車両Vが左旋回走行中のときの動作について説明する。車両Vの左旋回走行中において、例えば、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御した場合、3つの差動機構10,50,60における各回転要素の速度の関係と、各回転要素に作用するトルクの関係は、図11に示すものとなる。
なお、同図における各回転要素に作用する各トルクは、左右のキャリア52,62に作用する反力トルクRMLC,RMRC以外は、便宜上、前述した図7と同一に表記されている。また、以下に述べる各種の共線図においても、同じ回転要素に作用するトルクについては、図4,5または図7と同じ符号を便宜上用いるとともに、左右の電気モータ41,42におけるトルクの値に関しては、TML=|TMLc|=TMR=|TMRc|が成立するものとする。
同図に示すように、左副差動機構20では、左キャリア22に作用する左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ51及び左キャリア52に反力トルクRMLS,RMLCが作用し、右副差動機構30では、右キャリア32に作用する右換算トルクTMRcに起因して、右サンギヤ61及び右キャリア62に反力トルクRMRS,RMRCが作用することになる。前述したように、左右の副差動機構20,30の歯数比は互いに同じ値λに設定されているので、左キャリア52の反力トルクRMLCと右キャリア62の反力トルクRMRCは、互いに同じ値で逆方向に作用し、釣り合うことになる。その結果、左サンギヤ51及び右リングギヤ61は、その回転速度を維持することになる。
また、左副差動機構20の左サンギヤ51は、主差動機構10の入力ギヤ12と一体に回転するように構成されているので、主差動機構10の入力ギヤ12に作用するトルクは、TIN−RMLSとなり、主差動機構10の左サイドギヤ15に作用する反力トルクRINLは、RINL=(TIN−RMLS)/2となる。すなわち、左サイドギヤ15に作用するトルクが、値RMLS/2分、低下することになる。
さらに、右副差動機構30の右サンギヤ61は、主差動機構10の右サイドギヤ15と一体に回転するように構成されているので、主差動機構10の右サイドギヤ15に作用する反力トルクは、RMRS+RINRとなる。ここで、RINR=(TIN−RMLS)/2、RMRS=RMLSが成立するので、値RMRS+RINRを整理すると、前述した式(1)に示すように、RMRS+RINR=(TIN+RMLS)/2となる。すなわち、右サイドギヤ15に作用するトルクが、値RMLS/2分、上昇することになる。
以上のように、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御することによって、左サイドギヤ15に作用するトルクを値RMLS/2分、低下させるとともに、右サイドギヤ15に作用するトルクを値RMLS/2分、上昇させることができる。すなわち、左右のサイドギヤ15,15間で、値RMLS分のトルク差を生じさせることができ、それにより、車両Vの左旋回を促進するような左回りのヨーモーメントを発生させることができる。なお、この動力伝達装置1Aの場合、歯数比が値λであるので、左右のサイドギヤ15間でのトルク差RMLSは、RMLS=TML/λとなる。
一方、車両Vの左旋回走行中、以上とは逆に、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御することによって、車両Vの左旋回を抑制するような右回りのヨーモーメントを発生させることができる。
以上のように構成された第2実施形態の動力伝達装置1Aによれば、第1実施形態の動力伝達装置1と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、左右の副差動機構50,60の各々における3つの回転体間において共線関係が成立する範囲内で、左右の駆動軸5,5の回転速度とは無関係に、左右の電気モータ41,42の回転速度を自由に設定することができるので、特許文献1の動力伝達装置と比べて、左右の電気モータ41,42を効率の良い回転域で使用することができ、運転効率を向上させることができるとともに、消費電力を低減することができる。さらに、左右の電気モータ41,42として、高速域で運転可能な小型のものを使用することもでき、動力伝達装置1Aを小型化することもできる。その結果、汎用性及び商品性を向上させることができる。
また、左右の副差動機構50,60において、共線関係にある3つの回転要素のうちの中央の回転要素(すなわち左右のリングギヤ54,64)同士が互いに一体に回転可能に構成されているので、共線関係にある3つの回転要素のうちの外側の回転要素同士を互いに一体に回転するように構成した場合(後述する動力伝達装置1B,1Cの場合)と比べて、左右の電気モータ41,42の一方を力行制御し、他方を回生制御したときに、左右のサイドギヤ15,15間で発生するトルク差をより大きな値に設定することができる。その結果、左右の電気モータ41,42をさらに小型化することができ、動力伝達装置1Aをさらに小型化することができる。これに加えて、3つの差動機構10,50,60の回転軸線が同一直線上に配置されているので、動力伝達装置1Aの径方向のサイズを小型化することができ、汎用性及び商品性をより一層、向上させることができる。
次に、図12を参照しながら、第3実施形態の動力伝達装置1Bについて説明する。同図に示すように、この動力伝達装置1Bは、前述した第2実施形態の動力伝達装置1Aと比較すると、前述した左右の副差動機構50,60に代えて、左右の副差動機構50B,60Bを備えている点のみが異なっており、それ以外は同一に構成されている。そのため、以下、第2実施形態の動力伝達装置1Aと異なる点についてのみ説明するとともに、第2実施形態の動力伝達装置1Aと同じ構成については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
これら左右の副差動機構50B,60Bは、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構であり、前述した左右の副差動機構50,60と比較すると、以下に述べるように、各回転要素の連結関係が異なっている点以外は、左右の副差動機構50,60と同一に構成されている。すなわち、左右の副差動機構50B,60Bの場合、両者のサイズや歯数比は、前述した左右の副差動機構50,60と同一になっている。
まず、左副差動機構50Bは、左サンギヤ51B、左キャリア52B、左ピニオンギヤ53B及び左リングギヤ54Bなどを備えている。なお、本実施形態では、左副差動機構50Bが第2差動機構に、左サンギヤ51Bが第4回転要素に、左キャリア52Bが第6回転要素に、左リングギヤ54Bが第5回転要素にそれぞれ相当する。この左サンギヤ51Bは、前述した中空軸11a上に、これと一体かつ同心に回転するように設けられている。
また、左キャリア52Bは、左電気モータ41の回転中、左電気モータ41のロータと一体に回転するように、ロータに同心に固定されている。さらに、左リングギヤ54Bは、内歯車タイプのものであり、右副差動機構60Bの後述する右リングギヤ64Bと一体かつ同心に回転するように構成されている。また、前述したように、この左副差動機構50Bの歯数比は値λに設定されており、それにより、後述する図13に示す共線関係において、左サンギヤ51B及び左キャリア52Bの間の距離と、左リングギヤ54B及び左キャリア52Bの間の距離との比は、λ:1になる。
一方、右副差動機構60Bは、左副差動機構50Bの左側に近接して配置されており、右サンギヤ61B、右キャリア62B、右ピニオンギヤ63B及び右リングギヤ64Bなどを備えている。なお、本実施形態では、右副差動機構60Bが第3差動機構に、右サンギヤ61Bが第7回転要素に、右キャリア62Bが第9回転要素に、右リングギヤ64Bが第8回転要素にそれぞれ相当する。この右サンギヤ61Bは、右駆動軸5と一体かつ同心に回転するように、右駆動軸5上に同心に設けられている。
さらに、右キャリア62Bは、右電気モータ42の回転中、右電気モータ42のロータと一体に回転するように、ロータに同心に固定されている。また、右リングギヤ64Bは、内歯車タイプのものであり、前述したように、左副差動機構50Bの左リングギヤ54Bと一体かつ同心に回転するように構成されている。また、この右副差動機構60Bの場合、前述したように、左リングギヤ64Bとサンギヤ61Bとの歯数比は、前述した値λに設定されている。
以上のように構成された動力伝達装置1Bでは、車両Vの直進走行中、主差動機構10、左右の副差動機構50B,60Bにおける各回転要素の速度関係は、例えば、図13に示すものとなる。この状態で、2つの電気モータ41,42を互いに同じ発生トルクで力行制御した場合、以下に述べるように、各回転要素の共線関係が変化する。
同図に示すように、左電気モータ41が左発生トルクTMLを出力し、右電気モータ4が右発生トルクTMRを出力した場合、左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ51B及び左リングギヤ54Bに反力トルクRMLS,RMLRが作用し、右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ61B及び右リングギヤ64Bに反力トルクRMRS,RMRRが作用することになる。
この場合、左右のリングギヤ54B,64Bは他の部材に連結されておらず、自由に回転可能に構成されている関係上、左右のリングギヤ54B,64Bに作用する反力トルクRMLR,RMRRや、左右のサンギヤ51B,61Bに作用する反力トルクRMLS,RMRSはいずれも、極めて小さい値となる。そのため、左右のサンギヤ51B,61Bの回転速度が変化せず、左右のリングギヤ54B,64Bの回転速度が上昇するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も上昇することになる。すなわち、各回転要素の共線関係が図13に実線で示す状態から破線で示す状態に変化する。
一方、以上とは逆に、2つの電気モータ41,42を同じ回生電力が得られるように、回生制御した場合には、トルクの作用方向が逆になることで、左右のサンギヤ51B,61Bの回転速度が変化せず、左右のリングギヤ54B,64Bの回転速度が低下するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も低下することになる。以上のように、この動力伝達装置1Bでは、車両Vの直進走行中、2つの電気モータ41,42を同時に力行制御/回生制御することによって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。さらに、車両Vの停車中においても、以上と同じ手法によって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。
次に、車両Vが左旋回走行中のときの動作について説明する。車両Vの左旋回走行中において、例えば、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御した場合、3つの差動機構10,50B,60Bにおける各回転要素の速度の関係と、各回転要素に作用するトルクの関係は、図14に示すものとなる。
同図に示すように、左副差動機構50Bでは、左キャリア52Bに作用する左換算トルクTMLcに起因して、左サンギヤ51B及び左リングギヤ54Bに反力トルクRMLS,RMLRが作用し、右副差動機構60Bでは、右キャリア32に作用する右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ61B及び右リングギヤ64Bに反力トルクRMRS,RMRRが作用することになる。なお、この右発生トルクTMRは、前述した左発生トルクTMLと同じ値に設定されている。
ここで、左右の副差動機構50B,60Bでは、前述したように、歯数比が互いに同じ値λに設定されているので、左リングギヤ54Bの反力トルクRMLRと右リングギヤ64Bの反力トルクRMRRは、互いに同じ値で逆方向に作用し、釣り合うことになる。その結果、左サンギヤ51B及び右リングギヤ61Bは、その回転速度を維持することになる。
また、左副差動機構50Bの左サンギヤ51Bは、主差動機構10の入力ギヤ12と一体に回転するように構成されているので、主差動機構10の入力ギヤ12に作用するトルクは、TIN−RMLSとなり、主差動機構10の左サイドギヤ15に作用する反力トルクRINLは、RINL=(TIN−RMLS)/2となる。すなわち、左サイドギヤ15に作用するトルクが、値RMLS/2分、低下することになる。
さらに、右副差動機構60Bの右サンギヤ61Bは、主差動機構10の右サイドギヤ15と一体に回転するように構成されているので、主差動機構10の右サイドギヤ15に作用する反力トルクは、RMRS+RINRとなる。ここで、RINR=(TIN−RMLS)/2、RMRS=RMLSが成立するので、値RMRS+RINRを整理すると、前述した式(1)に示すように、RMRS+RINR=(TIN+RMLS)/2となる。すなわち、右サイドギヤ15に作用するトルクが、値RMLS/2分、上昇することになる。
以上のように、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御することによって、左サイドギヤ15に作用するトルクを値RMLS/2分、低下させるとともに、右サイドギヤ15に作用するトルクを値RMLS/2分、上昇させることができる。すなわち、左右のサイドギヤ15,15間で、値RMLS分のトルク差を生じさせることができ、それにより、車両Vの左旋回を促進するような左回りのヨーモーメントを発生させることができる。なお、この動力伝達装置1Bの場合、歯数比が値λであるので、左右のサイドギヤ15間でのトルク差RMLSは、RMLS=RMRS=TMR/(λ+1)=TML/(λ+1)となる。
一方、車両Vの左旋回走行中、以上とは逆に、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御することによって、車両Vの左旋回を抑制するような右回りのヨーモーメントを発生させることができる。
以上のように構成された第3実施形態の動力伝達装置1Bによれば、第1,2実施形態の動力伝達装置1,1Aと同様に、左右の副差動機構50B,60Bの各々における3つの回転体間において共線関係が成立する範囲内で、左右の駆動軸5,5の回転速度とは無関係に、左右の電気モータ41,42の回転速度を自由に設定することができるので、特許文献1の動力伝達装置と比べて、左右の電気モータ41,42を効率の良い回転域で使用することができ、運転効率を向上させることができるとともに、消費電力を低減することができる。さらに、左右の電気モータ41,42として、高速域で運転可能な小型のものを使用することもでき、動力伝達装置1Bを小型化することもできる。その結果、汎用性及び商品性を向上させることができる。
また、3つの差動機構10,50B,60Bの回転軸線が同一直線上に配置されているので、動力伝達装置1Bの径方向のサイズを小型化することができ、汎用性及び商品性をより一層、向上させることができる。さらに、左右の電気モータ41,42がそれぞれ、左右の副差動機構50B,60Bにおける左右のキャリア52B,62Bに連結されているので、これらを左右のサンギヤ51B,61Bや左右のリングギヤ54B,64Bに連結した場合と比べて、左右の電気モータ41,42と左右の副差動機構50B,60Bとの間での心合わせが容易になり、心合わせ用の機械要素を減らすことができる。
次に、図15を参照しながら、第4実施形態の動力伝達装置1Cについて説明する。同図に示すように、この動力伝達装置1Cは、第1実施形態の動力伝達装置1と比較すると、前述した左右の副差動機構20,30に代えて、左右の副差動機構20C,30Cを備えている点のみが異なっており、それ以外は同一に構成されている。そのため、以下、第1実施形態の動力伝達装置1と異なる点についてのみ説明するとともに、第1実施形態の動力伝達装置1と同じ構成については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
この動力伝達装置1Cの左右の副差動機構20C,30Cは、ダブルピニオンタイプの遊星歯車機構であり、以下に述べるように、各回転要素の連結関係が異なっている点以外は、前述した左右の副差動機構20,30と同一に構成されている。すなわち、左右の副差動機構20C,30Cの場合、両者のサイズや歯数比は、前述した左右の副差動機構20,30と同一になっている。
この左副差動機構20Cは、左サンギヤ21C、左キャリア22C、左ピニオンギヤ23C及び左リングギヤ24Cなどを備えている。なお、本実施形態では、左副差動機構20Cが第2差動機構に、左サンギヤ21Cが第4回転要素に、左キャリア22Cが第5回転要素に、左リングギヤ24Cが第6回転要素にそれぞれ相当する。
この左サンギヤ21Cは、前述した中空軸11a上に、これと一体かつ同心に回転するように設けられている。また、左キャリア22Cは、右副差動機構30Cの後述する右キャリア32Cと一体かつ同心に回転するように、右キャリア32Cに直結されている。
一方、左リングギヤ24Cは、内歯車タイプのものであり、左電気モータ41の回転中、左電気モータ41のロータと一体に回転するように、ロータに同心に固定されている。また、前述したように、この左副差動機構20Cの歯数比は値λに設定されており、それにより、後述する図16に示す共線関係において、左サンギヤ21C及び左キャリア22Cの間の距離と、左リングギヤ24C及び左キャリア22Cの間の距離との比は、λ:1になる。
また、右副差動機構30Cは、左副差動機構20Cの左側に近接して配置されており、左サンギヤ31C、左キャリア32C、左ピニオンギヤ33C及び左リングギヤ34Cなどを備えている。この右副差動機構30Cは、そのサイズや歯数比が左副差動機構20Cと同一に構成されている。なお、本実施形態では、右副差動機構30Cが第3差動機構に、右サンギヤ31Cが第7回転要素に、右キャリア32Cが第8回転要素に、右リングギヤ34Cが第9回転要素にそれぞれ相当する。
この右サンギヤ31Cは、右駆動軸5と一体かつ同心に回転するように、右駆動軸5上に同心に設けられている。また、右キャリア32Cは、前述したように、左副差動機構20Cの左キャリア22Cと一体かつ同心に回転するように、左キャリア22Cに直結されている。
また、右リングギヤ34Cは、内歯車タイプのものであり、右電気モータ42の回転中、右電気モータ42のロータと一体に回転するように、ロータに同心に固定されている。
以上のように構成された動力伝達装置1Cでは、車両Vの直進走行中、主差動機構10、左右の副差動機構20C,30Cにおける各回転要素の速度関係は、例えば、図16に示すものとなる。この状態で、2つの電気モータ41,42を互いに同じ発生トルクTML,TMRで力行制御した場合、以下に述べるように、各回転要素の共線関係が変化する。
同図に示すように、左電気モータ41が左発生トルクTMLを出力し、右電気モータ4が右発生トルクTMRを出力した場合、左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ21C及び左キャリア22Cに反力トルクRMLS,RMLCが作用し、右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ31C及び右キャリア32Cに反力トルクRMRS,RMRCが作用することになる。
この場合、左右のキャリア22C,32Cは他の部材に連結されておらず、自由に回転可能に構成されている関係上、左右のキャリア22C,32Cに作用する反力トルクRMLC,RMRCや、左右のサンギヤ21C,31Cに作用する反力トルクRMLS,RMRSはいずれも、極めて小さい値となる。そのため、左右のサンギヤ21C,31Cの回転速度が変化せず、左右のキャリア22C,32Cの回転速度が上昇するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も上昇することになる。すなわち、各回転要素の共線関係が図16に実線で示す状態から破線で示す状態に変化する。
一方、以上とは逆に、2つの電気モータ41,42を互いに同じ回生電力が得られるように、回生制御した場合には、トルクの作用方向が逆になることで、左右のサンギヤ21C,31Cの回転速度が変化せず、左右のキャリア22C,32Cの回転速度が低下するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も低下することになる。以上のように、この動力伝達装置1Cでは、車両Vの直進走行中、2つの電気モータ41,42を同時に力行制御/回生制御することによって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。さらに、車両Vの停車中においても、以上と同じ手法によって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。
次に、車両Vが左旋回走行中のときの動作について説明する。車両Vの左旋回走行中において、例えば、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御した場合、3つの差動機構10,20C,30Cにおける各回転要素の速度の関係と、各回転要素に作用するトルクの関係は、図17に示すものとなる。
同図に示すように、左副差動機構20では、左リングギヤ24Cに作用する左換算トルクTMLcに起因して、左サンギヤ21C及び左キャリア22Cに反力トルクRMLS,RMLCが作用し、右副差動機構30では、右リングギヤ34Cに作用する右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ31C及び右キャリア32Cに反力トルクRMRS,RMRCが作用することになる。左右の副差動機構20C,30Cでは、前述したように、歯数比が互いに同じ値λに設定されているので、左キャリア22Cの反力トルクRMLCと右キャリア32Cの反力トルクRMRCは、互いに同じ値で逆方向に作用し、釣り合うことになる。その結果、左サンギヤ21C及び右リングギヤ31Cは、その回転速度を維持することになる。
また、左副差動機構20の左サンギヤ21Cは、主差動機構10の入力ギヤ12と一体に回転するように構成されているので、主差動機構10の入力ギヤ12に作用するトルクは、TIN−RMLSとなり、主差動機構10の左サイドギヤ15に作用する反力トルクRINLは、RINL=(TIN−RMLS)/2となる。すなわち、左サイドギヤ15に作用するトルクが、値RMLS/2分、低下することになる。
さらに、右副差動機構30の右サンギヤ31Cは、主差動機構10の右サイドギヤ15と一体に回転するように構成されているので、主差動機構10の右サイドギヤ15に作用する反力トルクは、RMRS+RINRとなる。ここで、RINR=(TIN−RMLS)/2、RMRS=RMLSが成立するので、値RMRS+RINRを整理すると、前述した式(1)に示すように、RMRS+RINR=(TIN+RMLS)/2となる。すなわち、右サイドギヤ15に作用するトルクが、値RMLS/2分、上昇することになる。
以上のように、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御することによって、左サイドギヤ15に作用するトルクを値RMLS/2分、低下させるとともに、右サイドギヤ15に作用するトルクを値RMLS/2分、上昇させることができる。すなわち、左右のサイドギヤ15,15間で、値RMLS分のトルク差を生じさせることができ、それにより、車両Vの左旋回を促進するような左回りのヨーモーメントを発生させることができる。なお、この動力伝達装置1Cの場合、歯数比が値λであるので、左右のサイドギヤ15間でのトルク差RMLSは、RMLS=TMR/λ=TML/λとなる。
一方、車両Vの左旋回走行中、以上とは逆に、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御することによって、車両Vの左旋回を抑制するような右回りのヨーモーメントを発生させることができる。
以上のように構成された第4実施形態の動力伝達装置1Cによれば、第1〜第3実施形態の動力伝達装置1,1A,1Bと同様に、左右の副差動機構20C,30Cの各々における3つの回転体間において共線関係が成立する範囲内で、左右の駆動軸5,5の回転速度とは無関係に、左右の電気モータ41,42の回転速度を自由に設定することができるので、特許文献1の動力伝達装置と比べて、左右の電気モータ41,42を効率の良い回転域で使用することができ、運転効率を向上させることができるとともに、消費電力を低減することができる。さらに、左右の電気モータ41,42として、高速域で運転可能な小型のものを使用することもでき、動力伝達装置1Cを小型化することもできる。その結果、汎用性及び商品性を向上させることができる。
また、3つの差動機構10,20C,30Cの回転軸線が同一直線上に配置されているので、動力伝達装置1Cの径方向のサイズを小型化することができ、汎用性及び商品性をより一層、向上させることができる。
なお、以上の第1〜第4実施形態の動力伝達装置1,1A〜1Cの場合、前述したように左右の電気モータ41、42を制御したときに発生するトルク差はそれぞれ、値TML/(λ−1)、値TML/λ、値TML/(λ+1)、値TML/λとなるとともに、λ>1であるので、第1実施形態の動力伝達装置1が発生するトルク差が最も大きいことが判る。したがって、同じトルク差を発生させる場合、以上の4つの動力伝達装置1,1A〜1Cにおいては、第1実施形態の動力伝達装置1が左右の電気モータ41,42を最も小型化できることになる。
また、以上の第1〜第4実施形態に係る動力伝達装置1,1A〜1Cは、左右の副差動機構のサンギヤをそれぞれ、主差動機構10の左右のサイドギヤに連結し、これと一体に回転するように構成した例であるが、これに代えて、左右の副差動機構のキャリアをそれぞれ、主差動機構10の左右のサイドギヤに連結し、これらと一体に回転するように構成してもよい。その場合には、左右の副差動機構のサンギヤ及びリングギヤの一方を、左右の電気モータ41,42にそれぞれ連結するとともに、他方を互いに一体に回転するように連結すればよい。
次に、図18を参照しながら、第5実施形態の動力伝達装置1Dについて説明する。同図に示すように、この動力伝達装置1Dの場合、前述した第1実施形態の動力伝達装置1と比較すると、前述した主差動機構10に代えて、主差動機構70を備えている点のみが異なっており、それ以外は同一に構成されている。そのため、以下、第1実施形態の動力伝達装置1と異なる点についてのみ説明するとともに、第1実施形態の動力伝達装置1と同じ構成については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
この動力伝達装置1Dにおける主差動機構70は、ダブルピニオンタイプの遊星歯車機構で構成されており、主サンギヤ71、主キャリア72、主ピニオンギヤ73、主リングギヤ74、デフケース75、入力ギヤ76及び中空軸77などを備えている。この主差動機構70では、主リングギヤ74に入力されたトルクが主サンギヤ71及び主キャリア72に分配される割合が1:1になるように、各ギヤの歯数が設定されている。
主サンギヤ71は、左駆動軸5の左端部に同心に固定されており、それにより、左駆動軸5と一体に回転するように構成されている。また、主キャリア72は、右駆動軸5の右端部に同心に固定されている。さらに、中空軸77は、主キャリア72と一体に形成され、主キャリア72から右方に同心に延びるとともに、その右端部には、左副差動機構20の前述した左サンギヤ21が同心に固定されている。それにより、右駆動軸5、主キャリア72、中空軸77及び左サンギヤ21は、互いに一体かつ同心に回転するように構成されている。
さらに、主キャリア72には、一対の主ピニオンギヤ73,73を1組として複数組の主ピニオンギヤ73が設けられている。各組における一対の主ピニオンギヤ73,73は、互いに常に噛み合っているとともに、一方の主ピニオンギヤ73が主リングギヤ74に、他方の主ピニオンギヤ73が主サンギヤ31に常に噛み合った状態で回転可能に配置されている。また、主リングギヤ74は、内歯車タイプのものであり、デフケース75の内周面に形成されている。さらに、入力ギヤ76は、デフケース75の外周面に形成されたリングギヤタイプのものであり、自動変速機4の前述した出力ギヤ4bと常に噛み合っている。
なお、本実施形態では、主差動機構70が第1差動機構に、主サンギヤ71が第1回転要素に、主キャリア72が第2回転要素に、入力ギヤ76が第3回転要素にそれぞれ相当する。また、左副差動機構20が第2差動機構に、左サンギヤ21が第4回転要素に、左キャリア22が第5回転要素に、左リングギヤ24が第6回転要素にそれぞれ相当する。さらに、右副差動機構30が第3差動機構に、右サンギヤ31が第7回転要素に、右キャリア32が第8回転要素に、右リングギヤ34が第9回転要素にそれぞれ相当する。
以上のように構成された動力伝達装置1Dでは、車両Vの直進走行中、主差動機構70、左右の副差動機構20,30における各回転要素の速度関係は、例えば、図19に示すものとなる。なお、同図において、中央の縦線上に上下に並んだ2つの白丸のポイントにおいて、上側のポイントが入力ギヤ76の速度を、下側のポイントが左右のリングギヤ24,34の速度をそれぞれ表している。
また、TINは、自動変速機4から入力ギヤ76に入力された入力トルクを、RINS,RINCは、入力トルクTINに起因して、主サンギヤ71及び主キャリア72に作用する反力トルクを表している。この主差動機構70の場合、前述したように、主リングギヤ74に入力されたトルクが主サンギヤ71及び主キャリア72に分配される割合が1:1に設定されているので、3つの回転要素におけるトルクの関係は、−RINS=−RINC=TIN/2となる。
図19に示す共線関係が成立している状態で、2つの電気モータ41,42を互いに同じ発生トルクで力行制御した場合、以下に述べるように、各回転要素の共線関係が変化する。すなわち、同図に示すように、左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ21及び左リングギヤ24に反力トルクRMLS,RMLRが作用し、右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ31及び右リングギヤ34に反力トルクRMRS,RMRRが作用することになる。
この場合、前述したように、左リングギヤ24及び右リングギヤ34は他の部材に連結されておらず、自由に回転可能に構成されている関係上、左右のリングギヤ24,34に作用する反力トルクRMLR,RMRRや、左右のサンギヤ21,31に作用する反力トルクRMLS,RMRSはいずれも、極めて小さい値となる。そのため、左右のサンギヤ21,31の回転速度が変化せず、リングギヤ24,34の回転速度が上昇するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も上昇することになる。すなわち、各回転要素の共線関係が図19に実線で示す状態から破線で示す状態に変化する。
一方、以上とは逆に、2つの電気モータ41,42を同じ回生電力が得られるように、回生制御した場合には、トルクの作用方向が逆になることで、左右のサンギヤ21,31の回転速度が変化せず、リングギヤ24,34の回転速度が低下するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も低下することになる。以上のように、この動力伝達装置1Dでは、車両Vの直進走行中、2つの電気モータ41,42を同時に力行制御/回生制御することによって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。さらに、車両Vの停車中においても、以上と同じ手法によって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。
次に、車両Vが左旋回走行中のときの動作について説明する。車両Vの左旋回走行中、3つの差動機構70,20,30における各回転要素の速度の関係と、主差動機構10における各回転要素のトルクの関係は、例えば図20に示すものとなる。この図20に示す状態において、2つの電気モータ41,42のゼロトルク制御を実行した場合、前述したように、2つの電気モータ41,42のロータが空回りし、同図に示す共線関係を維持した状態で、3つの差動機構70,20,30が動作する。
また、図20に示す共線関係が成立している状態で、2つの電気モータ41,42を互いに同じ発生トルクで力行制御した場合には、前述した理由により、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇させることができる。さらに、2つの電気モータ41,42を同じ回生電力が得られるように、回生制御した場合には、前述した理由により、2つの電気モータ41,42の回転速度を低下させることができる。
一方、車両Vの左旋回走行中、図20に示す共線関係が成立している状態で、2つの電気モータ41,42の一方を力行制御し、他方を回生制御した場合には、以下に述べるように、車両Vにヨーモーメントを発生させることができる。車両Vの左旋回走行中、例えば、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御した場合、3つの差動機構70,20,30の各回転要素に作用するトルクは図20に示すようになる。
同図に示すように、左副差動機構20では、左キャリア22に作用する左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ21及び左リングギヤ24に反力トルクRMLS,RMLRが作用し、右副差動機構30では、右キャリア32に作用する右換算トルクTMRcに起因して、右サンギヤ31及び右リングギヤ34に反力トルクRMRS,RMRRが作用することになる。左右の副差動機構20,30の場合、前述したように、歯数比が互いに同じ値λに設定されているので、左リングギヤ24の反力トルクRMLRと右リングギヤ34の反力トルクRMRRは、互いに同じ値で逆方向に作用し、釣り合うことになる。その結果、左サンギヤ21及び右リングギヤ31は、その回転速度を維持することになる。
また、左副差動機構20の左サンギヤ21は、主差動機構70の主キャリア72と一体に回転するように構成されているので、主差動機構70の主キャリア72に作用するトルクは、RINC−RMLSとなる。すなわち、主キャリア72に作用するトルクが、値RMLS分、低下することになる。
さらに、右副差動機構30の右サンギヤ31は、主差動機構70の主サンギヤ71と一体に回転するように構成されているので、主差動機構70の主サンギヤ71に作用する反力トルクは、RINS+RINRとなる。ここで、RINC=RINS,RMRS=RMLSが成立するので、値RMRS+RINR=RINC+RMLSとなる。
以上のように、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御することによって、主キャリア72に作用するトルクを値RMLS分、低下させるとともに、主サンギヤ71に作用するトルクを値RMLS分、上昇させることができる。言い換えれば、主サンギヤ71と主キャリア72との間で、値2・RMLS分のトルク差を発生させることができ、それにより、車両Vの左旋回を促進するような左回りのヨーモーメントを発生させることができる。この場合、歯数比が値λであり、RMLS=TMR/(λ−1)=TML(λ−1)が成立するので、主サンギヤ71と主キャリア72との間でのトルク差2・RMLSは、2・RMLS=2・TML/(λ−1)となる。
一方、車両Vの左旋回走行中、以上とは逆に、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御した場合、主キャリア72に作用するトルクを上昇させるとともに、主サンギヤ71に作用するトルクを低下させることができ、それにより、車両Vの左旋回を抑制するような右回りのヨーモーメントを発生させることができる。
以上のように、第5実施形態の動力伝達装置1Dによれば、第1実施形態の動力伝達装置1と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、左右の副差動機構20,30の各々における3つの回転体間において共線関係が成立する範囲内で、左右の駆動軸5,5の回転速度とは無関係に、左右の電気モータ41,42の回転速度を自由に設定することができるので、特許文献1の動力伝達装置と比べて、左右の電気モータ41,42を効率の良い回転域で使用することができ、運転効率を向上させることができるとともに、消費電力を低減することができる。さらに、左右の電気モータ41,42として、高速域で運転可能な小型のものを使用することもでき、動力伝達装置1Dを小型化することもできる。その結果、汎用性及び商品性を向上させることができる。
また、左右の副差動機構20,30において、共線関係にある3つの回転要素のうちの中央の回転要素(すなわち左右のリングギヤ24,34)同士が互いに一体に回転可能に構成されているので、共線関係にある3つの回転要素のうちの外側の回転要素同士を互いに一体に回転するように構成した場合(例えば、後述する動力伝達装置1F,1Gの場合)と比べて、左右の電気モータ41,42の一方を力行制御し、他方を回生制御したときに、主サンギヤ71と主キャリア72との間で発生するトルク差をより大きな値に設定することができる。
さらに、左右の副差動機構20,30における外側の回転要素(すなわち左のサンギヤ21,31)をそれぞれ、主差動機構70における外側の2つの回転要素(すなわち主サンギヤ71及び主キャリア72)に連結したので、第1実施形態の動力伝達装置1のような、左右の副差動機構20,30における外側の回転要素をそれぞれ、主差動機構10の外側の回転要素と中央要素に連結した場合と比べて、より大きなトルク差を得ることができる。具体的には、主サンギヤ71と主キャリア72との間で、値2・TML/(λ−1)のトルク差を得ることができ、第1実施形態の動力伝達装置1と比べて、2倍のトルク差を得ることができる。
これに加えて、3つの差動機構70,20,30の回転軸線が同一直線上に配置されているので、動力伝達装置1Dの径方向のサイズを小型化することができる。以上により、汎用性及び商品性をより一層、向上させることができる。さらに、左右の電気モータ41,42がそれぞれ、左右の副差動機構20,30における左右のキャリア22,32に連結されているので、これらを左右のサンギヤ21,31や左右のリングギヤ24,34に連結した場合と比べて、左右の電気モータ41,42と左右の副差動機構20,30との間での心合わせが容易になり、心合わせ用の機械要素を減らすことができる。
次に、図21を参照しながら、第6実施形態の動力伝達装置1Eについて説明する。同図に示すように、この動力伝達装置1Eの場合、前述した第5実施形態の動力伝達装置1Dと比較すると、前述した左右の副差動機構20,30に代えて、前述した左右の副差動機構50,60(図9参照)を備えている点のみが異なっており、それ以外は同一に構成されている。そのため、以下、第5実施形態の動力伝達装置1Dと異なる点についてのみ説明するとともに、第5実施形態の動力伝達装置1Dと同じ構成については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
また、図21と前述した図9を比較すると明らかなように、本実施形態の左右の副差動機構50,60の場合、左副差動機構50の左サンギヤ51が主差動機構70の中空軸77の右端部に、これと一体かつ同心に固定されている点以外は、前述した動力伝達装置1Aにおける左右の副差動機構50,60と同一に構成されているので、ここでは、その説明を省略する。
なお、本実施形態では、主差動機構70が第1差動機構に、主サンギヤ71が第1回転要素に、主キャリア72が第2回転要素に、入力ギヤ76が第3回転要素にそれぞれ相当する。また、左副差動機構50が第2差動機構に、左サンギヤ51が第4回転要素に、左キャリア52が第6回転要素に、左リングギヤ54が第5回転要素にそれぞれ相当する。さらに、右副差動機構60が第3差動機構に、右サンギヤ61が第7回転要素に、右キャリア62が第9回転要素に、右リングギヤ64が第8回転要素にそれぞれ相当する。
以上のように構成された動力伝達装置1Eでは、車両Vの直進走行中、主差動機構70、左右の副差動機構50,60における各回転要素の速度関係は、例えば、図22に示すものとなる。なお、同図において、中央の縦線上に上下に並んだ2つの白丸のポイントにおいて、上側のポイントが入力ギヤ76の速度を、下側のポイントが左右のキャリア52,52の速度をそれぞれ表している。
図22に示す共線関係が成立している状態で、2つの電気モータ41,42を互いに同じ発生トルクTML,TMRで力行制御した場合、左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ51及び左キャリア52に反力トルクRMLS,RMLCが作用し、右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ61及び右キャリア62に反力トルクRMRS,RMRCが作用することになる。
この場合、前述したように、左キャリア52及び右キャリア62は他の部材に連結されておらず、自由に回転可能に構成されている関係上、左右のキャリア52,62に作用する反力トルクRMLC,RMRCや、左右のサンギヤ51,31に作用する反力トルクRMLS,RMRSはいずれも、極めて小さい値となる。そのため、左右のサンギヤ51,31の回転速度が変化せず、キャリア52,62の回転速度が上昇するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も上昇することになる。すなわち、各回転要素の共線関係が図22に実線で示す状態から破線で示す状態に変化する。
一方、以上とは逆に、2つの電気モータ41,42を同じ回生電力が得られるように、回生制御した場合には、トルクの作用方向が逆になることで、左右のサンギヤ51,61の回転速度が変化せず、左右のキャリア52,62の回転速度が低下するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も低下することになる。以上のように、この動力伝達装置1では、車両Vの直進走行中、2つの電気モータ41,42を同時に力行制御/回生制御することによって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。さらに、車両Vの停車中においても、以上と同じ手法によって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。
次に、車両Vが左旋回走行中のときの動作について説明する。車両Vの左旋回走行中、3つの差動機構70,50,60における各回転要素の速度の関係は、例えば図23に示すものとなる。この状態で、例えば、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御した場合、3つの差動機構70,50,60の各回転要素に作用するトルクは図23に示すようになる。すなわち、左副差動機構50では、左キャリア52に作用する左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ51及び左キャリア52に反力トルクRMLS,RMLCが作用し、右副差動機構60では、右キャリア62に作用する右換算トルクTMRcに起因して、右サンギヤ61及び右キャリア62に反力トルクRMRS,RMRCが作用することになる。
これらの左右の副差動機構50,60の場合、前述したように、歯数比が互いに同じ値λに設定されているので、左キャリア52の反力トルクRMLCと右キャリア62の反力トルクRMRCは、互いに同じ値で逆方向に作用し、釣り合うことになる。その結果、左サンギヤ51及び右リングギヤ61は、その回転速度を維持することになる。
また、左副差動機構50の左サンギヤ51は、主差動機構70の主キャリア72と一体に回転するように構成されているので、主差動機構70の主キャリア72に作用するトルクは、RINC−RMLSとなる。すなわち、主キャリア72に作用するトルクが、値RMLS分、低下することになる。
さらに、右副差動機構60の右サンギヤ61は、主差動機構70の主サンギヤ71と一体に回転するように構成されているので、主差動機構70の主サンギヤ71に作用する反力トルクは、RINS+RINRとなる。ここで、RINC=RINS,RMRS=RMLSが成立するので、値RMRS+RINR=RINC+RMLSとなる。
以上のように、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御することによって、主キャリア72に作用するトルクを値RMLS分、低下させるとともに、主サンギヤ71に作用するトルクを値RMLS分、上昇させることができる。すなわち、主サンギヤ71と主キャリア72との間で、値2・RMLS分のトルク差を発生させることができ、それにより、車両Vの左旋回を促進するような左回りのヨーモーメントを発生させることができる。この場合、歯数比が値λであり、RMLS=TMR/λが成立するので、主サンギヤ71と主キャリア72との間でのトルク差2・RMLSは、2・RMLS=2・TMR/λとなる。
一方、車両Vの左旋回走行中、以上とは逆に、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御した場合、主キャリア72に作用するトルクを上昇させるとともに、主サンギヤ71に作用するトルクを低下させることができ、それにより、車両Vの左旋回を促進するような左回りのヨーモーメントを発生させることができる。
以上のように、第6実施形態の動力伝達装置1Eによれば、第2実施形態の動力伝達装置1Aと同様の作用効果を得ることができる。すなわち、左右の副差動機構50,60の各々における3つの回転体間において共線関係が成立する範囲内で、左右の駆動軸5,5の回転速度とは無関係に、左右の電気モータ41,42の回転速度を自由に設定することができるので、特許文献1の動力伝達装置と比べて、左右の電気モータ41,42を効率の良い回転域で使用することができ、運転効率を向上させることができるとともに、消費電力を低減することができる。さらに、左右の電気モータ41,42として、高速域で運転可能な小型のものを使用することもでき、動力伝達装置1Eを小型化することもできる。その結果、汎用性及び商品性を向上させることができる。
また、左右の副差動機構50,60において、共線関係にある3つの回転要素のうちの中央の回転要素(すなわち左右のキャリア54,64)同士が互いに一体に回転可能に構成されているので、共線関係にある3つの回転要素のうちの外側の回転要素同士を互いに一体に回転するように構成した場合(例えば、後述する動力伝達装置1F,1Gの場合)と比べて、左右の電気モータ41,42の一方を力行制御し、他方を回生制御したときに、主サンギヤ71と主キャリア72との間で発生するトルク差をより大きな値に設定することができる。その結果、左右の電気モータ41,42をさらに小型化することができ、動力伝達装置1Eをさらに小型化することができる。
さらに、左右の副差動機構50,60における外側の回転要素(すなわち左右のサンギヤ51,61)を、主差動機構70における外側の2つの回転要素(すなわち主サンギヤ71及び主キャリア72)にそれぞれ連結したので、第2実施形態の動力伝達装置1Aのような、左右の副差動機構50,60における外側の回転要素を、主差動機構10の外側の回転要素と中央要素に連結した場合と比べて、より大きなトルク差を得ることができる。具体的には、主サンギヤ71と主キャリア72との間で、値2・TML/λのトルク差が得られるので、第2実施形態の動力伝達装置1Aと比べて、2倍のトルク差を得ることができる。
これに加えて、3つの差動機構70,50,60の回転軸線が同一直線上に配置されているので、動力伝達装置1Eの径方向のサイズを小型化することができる。以上により、汎用性及び商品性をより一層、向上させることができる。
次に、図24を参照しながら、第7実施形態の動力伝達装置1Fについて説明する。同図に示すように、この動力伝達装置1Fの場合、前述した第6実施形態の動力伝達装置1Eと比較すると、左右の副差動機構50,60に代えて、前述した左右の副差動機構50B,60B(図12参照)を備えている点のみが異なっており、それ以外は同一に構成されている。そのため、以下、第6実施形態の動力伝達装置1Eと異なる点についてのみ説明するとともに、第6実施形態の動力伝達装置1Eと同じ構成については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
また、図24と前述した図12を比較すると明らかなように、本実施形態の左右の副差動機構50B,60Bの場合、左副差動機構50Bの左サンギヤ51Bが主差動機構70の中空軸77の右端部に、これと一体かつ同心に固定されている点以外は、図12に示す左右の副差動機構50B,60Bと同一に構成されているので、ここでは、その説明を省略する。
なお、本実施形態では、主差動機構70が第1差動機構に、主サンギヤ71が第1回転要素に、主キャリア72が第2回転要素に、入力ギヤ76が第3回転要素にそれぞれ相当する。また、左副差動機構50Bが第2差動機構に、左サンギヤ51Bが第4回転要素に、左キャリア52Bが第6回転要素に、左リングギヤ54Bが第5回転要素にそれぞれ相当する。さらに、右副差動機構60Bが第3差動機構に、右サンギヤ61Bが第7回転要素に、右キャリア62Bが第9回転要素に、右リングギヤ64Bが第8回転要素にそれぞれ相当する。
以上のように構成された動力伝達装置1Fでは、車両Vの直進走行中、主差動機構70、左右の副差動機構50B,60Bにおける各回転要素の速度関係は、例えば、図25に示すものとなる。なお、同図において、中央の縦線上に上下に並んだ2つの白丸のポイントにおいて、上側のポイントが入力ギヤ76の速度を、下側のポイントが左右のリングギヤ54B,64Bの速度をそれぞれ表している。
図25に示す共線関係が成立している状態で、2つの電気モータ41,42を互いに同じ発生トルクTML,TMRで力行制御した場合、左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ51B及び左リングギヤ54Bに反力トルクRMLS,RMLRが作用し、右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ61B及び右リングギヤ64Bに反力トルクRMRS,RMRRが作用することになる。
この場合、左右のリングギヤ54B,64Bは他の部材に連結されておらず、自由に回転可能に構成されている関係上、左右のリングギヤ54B,64Bに作用する反力トルクRMLR,RMRRや、左右のサンギヤ51B,61Bに作用する反力トルクRMLS,RMRSはいずれも、極めて小さい値となる。そのため、左右のサンギヤ51B,61Bの回転速度が変化せず、左右のリングギヤ54B,64Bの回転速度が上昇するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も上昇することになる。すなわち、各回転要素の共線関係が図25に実線で示す状態から破線で示す状態に変化する。
一方、以上とは逆に、2つの電気モータ41,42を同じ回生電力が得られるように、回生制御した場合には、トルクの作用方向が逆になることで、左右のサンギヤ51B,61Bの回転速度が変化せず、左右のリングギヤ54B,64Bの回転速度が低下するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も低下することになる。以上のように、この動力伝達装置1Fでは、車両Vの直進走行中、2つの電気モータ41,42を同時に力行制御/回生制御することによって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。さらに、車両Vの停車中においても、以上と同じ手法によって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。
次に、車両Vが左旋回走行中のときの動作について説明する。車両Vの左旋回走行中において、例えば、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御した場合、3つの差動機構10,50B,60Bにおける各回転要素の速度の関係と、各回転要素に作用するトルクの関係は、図26に示すものとなる。
同図に示すように、左副差動機構50Bでは、左キャリア52Bに作用する左換算トルクTMLcに起因して、左サンギヤ51B及び左リングギヤ54Bに反力トルクRMLS,RMLRが作用し、右副差動機構60Bでは、右キャリア62Bに作用する右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ61B及び右リングギヤ64Bに反力トルクRMRS,RMRRが作用することになる。
ここで、前述したように、左右の副差動機構50B,60Bの歯数比は互いに同じ値λに設定されているので、左リングギヤ54Bの反力トルクRMLRと右リングギヤ64Bの反力トルクRMRRは、互いに同じ値で逆方向に作用し、釣り合うことになる。その結果、左右のリングギヤ54B,64Bは、その回転速度を維持することになる。
また、左副差動機構50Bの左サンギヤ51Bは、主差動機構70の主キャリア72と一体に回転するように構成されているので、主差動機構70の主キャリア72に作用するトルクは、RINC−RMLSとなる。すなわち、主キャリア72に作用するトルクが、値RMLS分、低下することになる。
さらに、右副差動機構60Bの右サンギヤ61Bは、主差動機構70の主サンギヤ71と一体に回転するように構成されているので、主差動機構70の主サンギヤ71に作用する反力トルクは、RINS+RINRとなる。ここで、RINC=RINS,RMRS=RMLSが成立するので、値RMRS+RINRは、RMRS+RINR=RINC+RMLSとなる。
以上のように、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御することによって、主キャリア72に作用するトルクを値RMLS分、低下させるとともに、主サンギヤ71に作用するトルクを値RMLS分、上昇させることができる。すなわち、主サンギヤ71と主キャリア72との間で、値2・RMLS分のトルク差を発生させることができ、それにより、車両Vの左旋回を促進するような左回りのヨーモーメントを発生させることができる。なお、この場合、RMLS=RMRS=TMR/(λ+1)=TML/(λ+1)となるので、トルク差2・RMLSは、2・RMLS=2・TMR/(λ+1)となる。
一方、車両Vの左旋回走行中、以上とは逆に、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御した場合、主キャリア72に作用するトルクを上昇させるとともに、主サンギヤ71に作用するトルクを低下させることができ、それにより、車両Vの左旋回を抑制するような右回りのヨーモーメントを発生させることができる。
以上のように、第7実施形態の動力伝達装置1Fによれば、第3実施形態の動力伝達装置1Bと同様の作用効果を得ることができる。すなわち、左右の副差動機構50B,60Bの各々における3つの回転体間において共線関係が成立する範囲内で、左右の駆動軸5,5の回転速度とは無関係に、左右の電気モータ41,42の回転速度を自由に設定することができるので、特許文献1の動力伝達装置と比べて、左右の電気モータ41,42を効率の良い回転域で使用することができ、運転効率を向上させることができるとともに、消費電力を低減することができる。さらに、左右の電気モータ41,42として、高速域で運転可能な小型のものを使用することもでき、動力伝達装置1Fを小型化することもできる。その結果、汎用性及び商品性を向上させることができる。
さらに、左右の副差動機構50B,60Bにおける外側の回転要素(すなわち左右のサンギヤ51B,61B)を、主差動機構70における外側の2つの回転要素(すなわち主サンギヤ71及び主キャリア72)にそれぞれ連結したので、第3実施形態の動力伝達装置1Bのような、左右の副差動機構50,60における外側の回転要素を、主差動機構10の外側の回転要素と中央要素にそれぞれ連結した場合と比べて、より大きなトルク差を得ることができる。具体的には、主サンギヤ71と主キャリア72との間で、値2・TML/λのトルク差が得られるので、第3実施形態の動力伝達装置1Bと比べて、2倍のトルク差を得ることができる。
また、3つの差動機構70,50B,60Bの回転軸線が同一直線上に配置されているので、動力伝達装置1Fの径方向のサイズを小型化することができる。以上により、汎用性及び商品性をより一層、向上させることができる。さらに、左右の電気モータ41,42がそれぞれ、左右の副差動機構50B,60Bにおける左右のキャリア52B,62Bに連結されているので、これらを左右のサンギヤ51B,61Bや左右のリングギヤ54B,64Bに連結した場合と比べて、左右の電気モータ41,42と左右の副差動機構50B,60Bとの間での心合わせが容易になり、心合わせ用の機械要素を減らすことができる。
次に、図27を参照しながら、第8実施形態の動力伝達装置1Gについて説明する。同図に示すように、この動力伝達装置1Gの場合、前述した第5実施形態の動力伝達装置1Dと比較すると、前述した左右の副差動機構20,30に代えて、前述した左右の副差動機構20C,30C(図15参照)を備えている点のみが異なっており、それ以外は同一に構成されている。そのため、以下、第5実施形態の動力伝達装置1Dと異なる点についてのみ説明するとともに、第5実施形態の動力伝達装置1Dと同じ構成については、同じ符号を付し、その説明は省略する。
また、図27と前述した図15を比較すると明らかなように、本実施形態の左右の副差動機構20C,30Cの場合、左副差動機構20Cの左サンギヤ21Cが主差動機構70の中空軸77の右端部に、これと一体かつ同心に固定されている点以外は、図15に示す左右の副差動機構20C,30Cと同一に構成されているので、ここでは、その説明を省略する。
なお、本実施形態では、主差動機構70が第1差動機構に、主サンギヤ71が第1回転要素に、主キャリア72が第2回転要素に、入力ギヤ76が第3回転要素にそれぞれ相当する。また、左副差動機構20Cが第2差動機構に、左サンギヤ21Cが第4回転要素に、左キャリア22Cが第5回転要素に、左リングギヤ24Cが第6回転要素にそれぞれ相当する。さらに、右副差動機構30Cが第3差動機構に、右サンギヤ31Cが第7回転要素に、右キャリア32Cが第8回転要素に、右リングギヤ34Cが第9回転要素にそれぞれ相当する。
以上のように構成された動力伝達装置1Gでは、車両Vの直進走行中、主差動機構70、左右の副差動機構20C,30Cにおける各回転要素の速度関係は、例えば、図28に示すものとなる。なお、同図において、中央の縦線上に上下に並んだ2つの白丸のポイントにおいて、上側のポイントが入力ギヤ76の速度を、下側のポイントが左右のキャリア22C,32Cの速度をそれぞれ表している。
図28に示す共線関係が成立している状態で、2つの電気モータ41,42を互いに同じ発生トルクTML,TMRで力行制御した場合、左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ21C及び左キャリア22Cに反力トルクRMLS,RMLCが作用し、右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ31C及び右キャリア32Cに反力トルクRMRS,RMRCが作用することになる。
この場合、左右のキャリア22C,32Cは他の部材に連結されておらず、自由に回転可能に構成されている関係上、左右のキャリア22C,32Cに作用する反力トルクRMLC,RMRCや、左右のサンギヤ21C,31Cに作用する反力トルクRMLS,RMRSはいずれも、極めて小さい値となる。そのため、左右のサンギヤ21C,31Cの回転速度が変化せず、左右のキャリア22C,32Cの回転速度が上昇するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も上昇することになる。すなわち、各回転要素の共線関係が図28に実線で示す状態から破線で示す状態に変化する。
一方、以上とは逆に、2つの電気モータ41,42を同じ回生電力が得られるように、回生制御した場合には、トルクの作用方向が逆になることで、左右のサンギヤ21C,31Cの回転速度が変化せず、左右のキャリア22C,32Cの回転速度が低下するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度も低下することになる。以上のように、この動力伝達装置1Gでは、車両Vの直進走行中、2つの電気モータ41,42を同時に力行制御/回生制御することによって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。さらに、車両Vの停車中においても、以上と同じ手法によって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。
次に、車両Vが左旋回走行中のときの動作について説明する。車両Vの左旋回走行中において、例えば、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御した場合、3つの差動機構10,20C,30Cにおける各回転要素の速度の関係と、各回転要素に作用するトルクの関係は、図29に示すものとなる。すなわち、左副差動機構20Cでは、左リングギヤ24Cに作用する左換算トルクTMLcに起因して、左サンギヤ21C及び左キャリア22Cに反力トルクRMLS,RMLCが作用し、右副差動機構30Cでは、右リングギヤ34Cに作用する右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ31C及び右キャリア32Cに反力トルクRMRS,RMRCが作用することになる。
ここで、左右の副差動機構20C,30Cでは、前述したように、歯数比が互いに同じ値λに設定されているので、左キャリア22Cの反力トルクRMLCと右キャリア32Cの反力トルクRMRCは、互いに同じ値で逆方向に作用し、釣り合うことになる。その結果、左右のキャリア22C,32Cは、その回転速度を維持することになる。
また、左副差動機構20Cの左サンギヤ21Cは、主差動機構70の主キャリア72と一体に回転するように構成されているので、主差動機構70の主キャリア72に作用するトルクは、RINC−RMLSとなる。すなわち、主キャリア72に作用するトルクが、値RMLS分、低下することになる。
さらに、右副差動機構30Cの右サンギヤ31Cは、主差動機構70の主サンギヤ71と一体に回転するように構成されているので、主差動機構70の主サンギヤ71に作用する反力トルクは、RINS+RINRとなる。ここで、RINC=RINS,RMRS=RMLSが成立するので、値RMRS+RINRは、RMRS+RINR=RINC+RMLSとなる。
すなわち、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御することによって、主キャリア72に作用するトルクを値RMLS分、低下させるとともに、主サンギヤ71に作用するトルクを値RMLS分、上昇させることができる。すなわち、主サンギヤ71と主キャリア72との間で、値2・RMLS分のトルク差を発生させることができ、それにより、車両Vの左旋回を促進するような左回りのヨーモーメントを発生させることができる。なお、この場合、RMLS=RMRS=TMR/λ=TML/λとなるので、トルク差2・RMLSは、2・RMLS=2・TML/λとなる。
一方、車両Vの左旋回走行中、以上とは逆に、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御した場合、主キャリア72に作用するトルクを上昇させるとともに、主サンギヤ71に作用するトルクを低下させることができ、それにより、車両Vの左旋回を抑制するような右回りのヨーモーメントを発生させることができる。
以上のように、第8実施形態の動力伝達装置1Gによれば、第4実施形態の動力伝達装置1Cと同様の作用効果を得ることができる。すなわち、左右の副差動機構20C,30Cの各々における3つの回転体間において共線関係が成立する範囲内で、左右の駆動軸5,5の回転速度とは無関係に、左右の電気モータ41,42の回転速度を自由に設定することができるので、特許文献1の動力伝達装置と比べて、左右の電気モータ41,42を効率の良い回転域で使用することができ、運転効率を向上させることができるとともに、消費電力を低減することができる。さらに、左右の電気モータ41,42として、高速域で運転可能な小型のものを使用することもでき、動力伝達装置1Gを小型化することもできる。その結果、汎用性及び商品性を向上させることができる。
また、左右の副差動機構20C,30Cにおける外側の回転要素(すなわち左右のサンギヤ21C,31C)を、主差動機構70における外側の2つの回転要素(すなわち主サンギヤ71及び主キャリア72)にそれぞれ連結したので、第4実施形態の動力伝達装置1Cのような、左右の副差動機構20,30における外側の回転要素を、主差動機構10の外側の回転要素と中央要素にそれぞれ連結した場合と比べて、より大きなトルク差を得ることができる。具体的には、主サンギヤ71と主キャリア72との間で、値2・TML/λのトルク差が得られるので、第4実施形態の動力伝達装置1Cと比べて、2倍のトルク差を得ることができる。
さらに、3つの差動機構70,20C,30Cの回転軸線が同一直線上に配置されているので、動力伝達装置1Gの径方向のサイズを小型化することができる。以上により、汎用性及び商品性をより一層、向上させることができる。
なお、以上の第5〜第8実施形態の動力伝達装置1D〜1Gの場合、前述したように左右の電気モータ41、42を制御したときに発生するトルク差はそれぞれ、値2・TML/(λ−1)、値2・TML/λ、値2・TML/(λ+1)及び値2・TML/λとなるとともに、λ>1であるので、第5実施形態の動力伝達装置1Dが発生するトルク差が最も大きいことが判る。したがって、同じトルク差を発生させる場合、以上の4つの動力伝達装置1D〜1Gにおいては、第5実施形態の動力伝達装置1Dが左右の電気モータ41,42を最も小型化できることになる。
次に、図30を参照しながら、第9実施形態の動力伝達装置1Hについて説明する。同図に示すように、この動力伝達装置1Hの場合、前述した第6実施形態の動力伝達装置1Eと比較すると、前述した左右の副差動機構50,60に代えて、前述した左右の副差動機構50H,60Hを備えている点のみが異なっており、それ以外は同一に構成されている。そのため、以下、第6実施形態の動力伝達装置1Eと異なる点についてのみ説明するとともに、第6実施形態の動力伝達装置1Eと同じ構成については、同じ符号を付し、その説明は省略する。
これら左右の副差動機構50H,60Hは、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構であり、前述した左右の副差動機構50,60と比較すると、以下に述べるように、各回転要素の連結関係が異なっている点以外は、左右の副差動機構50,60と同一に構成されている。すなわち、左右の副差動機構50H,60Hの歯数比は前述した値λに設定されている。
まず、左副差動機構50Hは、左サンギヤ51H、左キャリア52H、左ピニオンギヤ53H及び左リングギヤ54Hなどを備えており、左サンギヤ51Hは、後述する右副差動機構60Hの右サンギヤ61Hと一体かつ同心に回転するように直結されている。また、左キャリア52Hは、主差動機構70の中空軸77に一体かつ同心に固定されている。さらに、左リングギヤ54Hは、左電気モータ41の回転中、左電気モータ41のロータと一体に回転するように、ロータに同心に固定されている。
一方、右副差動機構60Hは、右サンギヤ61H、右キャリア62H、右ピニオンギヤ63H及び右リングギヤ64Hなどを備えている。この右サンギヤ61Hは、前述したように、左サンギヤ51Hと一体かつ同心に回転するように直結されている。さらに、右キャリア62Hは、右駆動軸5に同心に固定されており、それにより、主差動機構70の主サンギヤ71と互いに一体に回転する。また、右リングギヤ64Hは、右電気モータ42の回転中、右電気モータ42のロータと一体に回転するように、ロータに同心に固定されている。
なお、本実施形態では、主差動機構70が第1差動機構に、主サンギヤ71が第1回転要素に、主キャリア72が第2回転要素に、入力ギヤ76が第3回転要素にそれぞれ相当する。また、左副差動機構50Hが第2差動機構に、左サンギヤ51Hが第4回転要素に、左キャリア52Hが第6回転要素に、左リングギヤ54Hが第5回転要素にそれぞれ相当する。さらに、右副差動機構60Hが第3差動機構に、右サンギヤ61Hが第7回転要素に、右キャリア62Hが第9回転要素に、右リングギヤ64Hが第8回転要素にそれぞれ相当する。
以上のように構成された動力伝達装置1Hでは、車両Vの直進走行中、主差動機構70、左右の副差動機構50H,60Hにおける各回転要素の速度関係は、例えば、図31に示すものとなる。なお、同図において、中央の縦線上に上下に並んだ2つの白丸のポイントにおいて、上側のポイントが入力ギヤ76の速度を、下側のポイントが左右のサンギヤ51H,61Hの速度をそれぞれ表している。
図31に示す共線関係が成立している状態で、2つの電気モータ41,42を互いに同じ発生トルクTML,TMRで力行制御した場合、左発生トルクTMLに起因して、左サンギヤ51H及び左キャリア52Hに反力トルクRMLS,RMLCが作用し、右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ61H及び右キャリア62Hに反力トルクRMRS,RMRCが作用することになる。
この場合、左右のサンギヤ51H,61Hは他の部材に連結されておらず、自由に回転可能に構成されている関係上、左右のサンギヤ51H,61Hに作用する反力トルクRMLS,RMRSや、左右のキャリア52H,62Hに作用する反力トルクRMLC,RMRCはいずれも、極めて小さい値となる。そのため、左右のキャリア52H,62Hの回転速度が変化せず、左右のサンギヤ51H,61Hの回転速度が低下するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度は上昇することになる。すなわち、各回転要素の共線関係が図31に実線で示す状態から破線で示す状態に変化する。
一方、以上とは逆に、2つの電気モータ41,42を同じ回生電力が得られるように、回生制御した場合には、トルクの作用方向が逆になることで、左右のキャリア52H,62Hの回転速度が変化せず、左右のサンギヤ51H,61Hの回転速度が上昇するとともに、2つの電気モータ41,42の回転速度が低下することになる。以上のように、この動力伝達装置1Hでは、車両Vの直進走行中、2つの電気モータ41,42を同時に力行制御/回生制御することによって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。さらに、車両Vの停車中においても、以上と同じ手法によって、2つの電気モータ41,42の回転速度を上昇/低下させることができる。
次に、車両Vが左旋回走行中のときの動作について説明する。車両Vの左旋回走行中ににおいて、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御した場合、3つの差動機構70,50H,60Hにおける各回転要素の速度の関係と、各回転要素に作用するトルクの関係は、例えば、図32に示すものとなる。すなわち、左副差動機構50Hでは、左リングギヤ54Hに作用する左換算トルクTMLcに起因して、左サンギヤ51H及び左キャリア52Hに反力トルクRMLS,RMLCが作用し、右副差動機構60Hでは、右リングギヤ64Hに作用する右発生トルクTMRに起因して、右サンギヤ61H及び右キャリア62Hに反力トルクRMRS,RMRCが作用することになる。
ここで、前述したように、左右の副差動機構50H,60Hの歯数比は互いに同じ値λに設定されているので、左キャリア52Hの反力トルクRMLCと右キャリア62Hの反力トルクRMRCは、互いに同じ値で逆方向に作用し、釣り合うことになる。その結果、左右のサンギヤ51H,61Hは、その回転速度を維持することになる。
また、左副差動機構50Hの左キャリア52Hは、主差動機構70の主キャリア72と一体に回転するように構成されているので、主差動機構70の主キャリア72に作用するトルクは、RINC−RMLCとなる。すなわち、主キャリア72に作用するトルクが、値RMLC分、低下することになる。
さらに、右副差動機構60Hの右キャリア62Hは、主差動機構70の主サンギヤ71と一体に回転するように構成されているので、主差動機構70の主サンギヤ71に作用する反力トルクは、RINS+RMRCとなる。ここで、RINS=RINC,RMLC=RMRCが成立するので、値RINS+RMRCは、RINS+RMRC=RINC+RMLCとなる。
以上のように、左電気モータ41を回生制御し、右電気モータ42を力行制御することによって、主キャリア72に作用するトルクを値RMLC分、低下させるとともに、主サンギヤ71に作用するトルクを値RMLC分、上昇させることができる。すなわち、主サンギヤ71と主キャリア72との間で、値2・RMLC分のトルク差を発生させることができ、それにより、車両Vの左旋回を促進するような左回りのヨーモーメントを発生させることができる。なお、この場合、RMLC=RMRC=TMR・(λ+1)/λ=TML・(λ+1)/λとなるので、トルク差2・RMLCは、2・RMLC=2・TML・(λ+1)/λとなる。
一方、車両Vの左旋回走行中、以上とは逆に、左電気モータ41を力行制御し、右電気モータ42を回生制御した場合、主キャリア72に作用するトルクを上昇させるとともに、主サンギヤ71に作用するトルクを低下させることができ、それにより、車両Vの左旋回を抑制するような右回りのヨーモーメントを発生させることができる。
以上のように、第9実施形態の動力伝達装置1Hによれば、前述した各実施形態の動力伝達装置1,1A〜1Gと同様に、左右の副差動機構50H,60Hの各々における3つの回転体間において共線関係が成立する範囲内で、左右の駆動軸5,5の回転速度とは無関係に、左右の電気モータ41,42の回転速度を自由に設定することができるので、特許文献1の動力伝達装置と比べて、左右の電気モータ41,42を効率の良い回転域で使用することができ、運転効率を向上させることができるとともに、消費電力を低減することができる。さらに、左右の電気モータ41,42として、高速域で運転可能な小型のものを使用することもでき、動力伝達装置1Hを小型化することもできる。その結果、汎用性及び商品性を向上させることができる。また、3つの差動機構70,50H,60Hの回転軸線が同一直線上に配置されているので、動力伝達装置1Hの径方向のサイズを小型化することができる。
さらに、この第9実施形態の動力伝達装置1Hの場合、左右の電気モータ41、42を前述したように制御したときに発生するトルク差が値2・TML・(λ+1)/λであるのに対して、前述した第1〜第8実施形態の動力伝達装置1,1A〜1Gの場合、トルク差はそれぞれ、値TML/(λ−1)、値TML/λ、値TML/(λ+1)、値TML/λ、値2・TML/(λ−1)、値2・TML/λ、値2・TML/(λ+1)及び値2・TML/λである。この場合、λ>1であるので、第9実施形態の動力伝達装置1Hが発生するトルク差が最も大きいことが判る。したがって、同じトルク差を発生させる場合、以上の9つの動力伝達装置1,1A〜1Hにおいては、第9実施形態の動力伝達装置1Hが左右の電気モータ41,42を最も小型化できることになる。
なお、以上の第9実施形態の動力伝達装置1Hは、左右の副差動機構50H,60Hのサンギヤ51H,61Hを互いに直結した例であるが、これに代えて、左右のリングギヤ54H,64Hを互いに直結してもよい。その場合には、左右の電気モータ41,42のロータをそれぞれ、サンギヤ51H,61Hに連結すればよい。
また、第9実施形態の動力伝達装置1Hは、左右の副差動機構50H,60Hとして、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構を用いた例であるが、これに代えて、ダブルピニオンタイプの遊星歯車機構を用いてもよい。その場合には、左右の副差動機構のキャリアを左右の電気モータ41,42に連結し、左右のサンギヤ同士または左右のリングギヤ同士を直結するとともに、左右のリングギヤまたは左右のサンギヤを主差動機構70の中空軸77(または主キャリア72)及び主サンギヤ71(または右駆動軸5)にそれぞれ連結すればよい。
さらに、以上の第1〜第9実施形態の各々は、本発明の動力伝達装置を前輪駆動タイプの四輪車両Vに適用した例であるが、本発明の動力伝達装置は、これに限らず、他の車両や他の産業機器にも適用可能である。例えば、本発明の動力伝達装置を、全輪駆動タイプの四輪車両における、後輪側の駆動系に適用してもよく、雪上車及び戦車などの無限軌道車両に適用してもよい。
また、各実施形態は、第1差動機構として、リングギヤ及び2つのサイドギヤを組み合わせたタイプの主差動機構10や、遊星歯車機構タイプの主差動機構70を用いた例であるが、本発明の第1差動機構はこれらに限らず、互いに共線関係を維持しながら回転可能な3つの回転体を有するものであればよい。例えば、3つの回転体としての3つのローラや3つのねじなどを有するものを用いてもよい。
さらに、各実施形態は、第2差動機構として、遊星歯車機構20,20C,50,50B,50Hを用いた例であるが、本発明の第2差動機構はこれらに限らず、互いに共線関係を維持しながら回転可能な3つの回転体を有するものであればよい。例えば、第2差動機構として、複数のローラとキャリアなどを組み合わせた3つの回転体を有するものを用いてもよい。
これに加えて、各実施形態は、第3差動機構として、遊星歯車機構30,30C,60,60B,60Hを用いた例であるが、本発明の第3差動機構はこれらに限らず、互いに共線関係を維持しながら回転可能な3つの回転体を有するものであればよい。例えば、第3差動機構として、複数のローラとキャリアなどを組み合わせた3つの回転体を有するものを用いてもよい。
また、各実施形態は、第2及び第3差動機構として、歯数比を互いに同じ値λに設定した2つの遊星歯車機構をそれぞれ用いた例であるが、本発明の第2及び第3差動機構はこれらに限らず、第2及び第3差動機構として、互い異なる歯数比の2つの差動機構を用いてもよい。
さらに、各実施形態は、左右の電気モータ41,42を制御する制御装置として、ECU2を用いた例であるが、制御装置はこれに限らず、左右の電気モータ41,42を制御可能なものであればよい。例えば、ECU2に代えて、マイクロコンピュータと電気回路などを組み合わせたものを用いてもよい。