以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す車両Vは、全輪駆動式の四輪車両であり、その前部には、動力源としての内燃機関(以下「エンジン」という)3と、エンジン3の動力を変速するための有段式の第1変速機4が設けられている。このエンジン3は、ガソリンエンジンであり、そのクランク軸(図示せず)が第1変速機4の入力軸(図示せず)に連結されている。また、第1変速機4は、有段式の自動変速機であり、その出力軸(図示せず)が、フロントデフFDを介して、車両Vの前側の左右の出力軸SFL、SFRに連結されている。これらの左右の出力軸SFL、SFRは、互いに同軸状に配置されるとともに、車両Vの左右の前輪WFL、WFRにそれぞれ連結されている。
エンジン3の動力は、第1変速機4の入力軸に伝達され、変速された状態で第1変速機4の出力軸に出力され、さらにフロントデフFDおよび左右の出力軸SFL、SFRを介して、左右の前輪WFL、WFRに伝達される。これにより、左右の前輪WFL、WFRが駆動される。
第1実施形態による動力装置は、車両Vの後ろ側の左右の出力軸SRL、SRRを駆動するためのものであり、これらの左右の出力軸SRL、SRRは、互いに同軸状に配置されるとともに、車両Vの左右の後輪WRL、WRRにそれぞれ連結されている。動力装置は、車両Vの後部に配置された配分装置DS15を備えており、図2に示すように、配分装置DS15は、差動装置GSG、第1回転電機11および第2回転電機12などで構成されている。この差動装置GSGは、第1および第2回転電機11、12と左右の出力軸SRL、SRRとの間で動力を伝達するためのものであり、シングルプラネタリタイプの第1遊星歯車機構と、リングギヤを省略したシングルプラネタリタイプの第2遊星歯車機構を互いに組み合わせ、キャリアを共通化するとともに、両遊星歯車機構のピニオンギヤを互いに噛み合わせたものである。
具体的には、差動装置GSGは、キャリア部材91、第1サンギヤS1、第1ピニオンギヤP1、第1リングギヤR1、第2サンギヤS2、および第2ピニオンギヤP2を有している。これらの第1サンギヤS1、第1ピニオンギヤP1、第1リングギヤR1およびキャリア部材91によって、上記の第1遊星歯車機構が構成されており、第2サンギヤS2、第2ピニオンギヤP2およびキャリア部材91によって、上記の第2遊星歯車機構が構成されている。差動装置GSGは、左右の出力軸SRL、SRRと同軸状に配置されており、左後輪WRLと右後輪WRRの間に位置している。また、第1遊星歯車機構は右後輪WRR側に、第2遊星歯車機構は左後輪WRL側に、それぞれ配置されている。
キャリア部材91は、円板状の第1基部91aと、ドーナツ板状の第2基部91bと、両基部91a、91bに一体に設けられた4つの第1支軸91cおよび第2支軸91d(いずれも2つのみ図示)で構成されている。また、キャリア部材91は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、その内側には、左出力軸SRL、後述する第1回転軸14および第3回転軸16が相対的に回転自在に配置されている。
上記の第1基部91aは、左出力軸SRLに同軸状に取り付けられている。第2基部91bは、左右の出力軸SRL、SRRと同軸状に、かつ第1基部91aよりも左後輪WRL側に、配置されており、その軸線方向において第1基部91aに対向している。第1および第2支軸91c、91dは、第1および第2基部91a、91bの間に設けられており、左右の出力軸SRL、SRRの軸線方向に延びている。また、第1および第2支軸91c、91dは、第1基部91aの周方向に、交互に且つ互いに等間隔に配置されている。
また、前記第1サンギヤS1、第1ピニオンギヤP1および第1リングギヤR1は、径方向に内側からこの順で並んでいる。第1サンギヤS1は、中空の第1回転軸14の一端部に一体に取り付けられている。第1回転軸14は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、第1回転軸14の他端部には、第1回転電機11の後述する第1ロータ11bが一体に取り付けられている。これにより、第1サンギヤS1は、第1ロータ11bと一体に回転自在である。また、第1回転軸14の内側には、左出力軸SRLが相対的に回転自在に配置されている。
第1ピニオンギヤP1の数は、キャリア部材91の前述した第1支軸91cと同じ値4(2つのみ図示)である。各第1ピニオンギヤP1は、第1支軸91cに、軸受け(図示せず)を介して回転自在に支持されており、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1の双方に噛み合っている。なお、第1ピニオンギヤP1および第1支軸91cの数は値4に限らず、任意である。また、第1リングギヤR1は、中空の第2回転軸15およびフランジを介して右出力軸SRRに連結されており、右出力軸SRRと一体に回転自在である。
前記第2サンギヤS2および第2ピニオンギヤP2は、径方向に内側からこの順で並んでおり、これらの歯車組は、上述した第1サンギヤS1、第1ピニオンギヤP1および第1リングギヤR1から成る歯車組と左後輪WRLとの間に配置されている。第2サンギヤS2は、中空の第3回転軸16の一端部に一体に取り付けられている。第3回転軸16は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、第3回転軸16の他端部には、第2回転電機12の後述する第2ロータ12bが一体に取り付けられている。これにより、第2サンギヤS2は、第2ロータ12bと一体に回転自在である。また、第3回転軸16の内側には、前述した第1回転軸14が相対的に回転自在に配置されている。
第2ピニオンギヤP2の数は、キャリア部材91の前述した第2支軸91dと同じ値4(2つのみ図示)である。各第2ピニオンギヤP2は、第2支軸91dに、軸受け(図示せず)を介して回転自在に支持されており、第2サンギヤS2に噛み合っている。また、図3に示すように、第2ピニオンギヤP2は、第2サンギヤS2の周方向において、第1ピニオンギヤP1と部分的に重なるように配置されており、第1ピニオンギヤP1に噛み合っている。なお、第2ピニオンギヤP2および第2支軸91dの数は値4に限らず、任意である。図3では、便宜上、第1サンギヤS1、第2サンギヤS2および第1リングギヤR1を省略している。
さらに、第1ピニオンギヤP1と第2ピニオンギヤP2は、互いに同じ径および同じ歯数を有するとともに、互いに同じ歯形および同じ歯幅を有している。以上のように、第1および第2ピニオンギヤP1、P2の径、歯数、歯形および歯幅の各々は、互いに同じになっており、すなわち両ギヤP1、P2の諸元は互いに同一に設定されている。
前記第1回転電機11は、ACモータであり、複数の鉄芯やコイルなどで構成された第1ステータ11aと、複数の磁石などで構成された第1ロータ11bを有している。第1回転電機11は、左右の出力軸SRL、SRRと同軸状に配置されており、差動装置GSGと左後輪WRLの間に位置している。この第1ステータ11aは、不動のケースCAに固定されている。第1ロータ11bは、第1ステータ11aに対向するように配置されており、前述したように第1サンギヤS1と一体に回転自在である。第1回転電機11では、第1ステータ11aに電力が供給されると、供給された電力は、動力に変換され、第1ロータ11bに出力される。また、第1ロータ11bに動力が入力されると、この動力は、電力に変換され(発電)、第1ステータ11aに出力される。
また、第1ステータ11aは、第1パワードライブユニット(以下「第1PDU」という)21を介して、充電・放電可能なバッテリ23に電気的に接続されており、バッテリ23との間で電気エネルギを授受可能である。この第1PDU21は、インバータなどの電気回路で構成されている。図4に示すように、第1PDU21には、後述するECU2が電気的に接続されている。このECU2は、第1PDU21を制御することによって、第1ステータ11aに供給する電力と、第1ステータ11aで発電する電力と、第1ロータ11bの回転数を制御する。
前記第2回転電機12は、第1回転電機11と同様、ACモータであり、第2ステータ12aおよび第2ロータ12bを有している。また、第2回転電機12は、左右の出力軸SRL、SRRと同軸状に配置されており、第1回転電機11と差動装置GSGの間に位置している。これらの第2ステータ12aおよび第2ロータ12bはそれぞれ、第1ステータ11aおよび第1ロータ11bと同様に構成されている。また、第2ロータ12bは、前述したように第2サンギヤS2と一体に回転自在である。さらに、第2回転電機12は、第1回転電機11と同様、第2ステータ12aに供給された電力を動力に変換し、第2ロータ12bに出力可能であり、第2ロータ12bに入力された動力を電力に変換し、第2ステータ12aに出力可能である。
また、第2ステータ12aは、第2パワードライブユニット(以下「第2PDU」という)22を介してバッテリ23に電気的に接続されており、バッテリ23との間で電気エネルギを授受可能である。この第2PDU22は、第1PDU21と同様、インバータなどの電気回路で構成されており、第2PDU22には、ECU2が電気的に接続されている。ECU2は、第2PDU22を制御することによって、第2ステータ12aに供給する電力と、第2ステータ12aで発電する電力と、第2ロータ12bの回転数を制御する。
以下、第1ステータ11a(第2ステータ12a)に供給された電力を動力に変換し、第1ロータ11b(第2ロータ12b)から出力することを適宜「力行」という。また、第1ロータ11b(第2ロータ12b)に入力された動力を用いて第1ステータ11a(第2ステータ12a)で発電し、該動力を電力に変換することを適宜「回生」という。
以上の構成の動力装置では、差動装置GSGが前述したように構成されているため、第1サンギヤS1、キャリア部材91、第1リングギヤR1および第2サンギヤS2は、互いの間で動力を伝達可能であるとともに、それらの回転数が互いに共線関係にある。ここで、共線関係とは、共線図においてそれぞれの回転数が単一の直線上に並ぶ関係のことである。
また、キャリア部材91を固定した状態で、第1サンギヤS1を回転させたときには、第1リングギヤR1および第2サンギヤS2が、第1サンギヤS1の回転方向と逆方向に回転する。この場合、各ギヤの歯数の関係から、第2サンギヤS2の回転数は第1リングギヤR1よりも高くなる。以上から、回転数の関係を表す共線図において、第1サンギヤS1、キャリア部材91、第1リングギヤR1および第2サンギヤS2は、この順で並ぶ。
また、第1サンギヤS1および第1ロータ11bは、第1回転軸14を介して互いに連結されているので、第1サンギヤS1の回転数および第1ロータ11bの回転数は、互いに等しい。さらに、キャリア部材91が左出力軸SRLに取り付けられているので、キャリア部材91の回転数および左出力軸SRLの回転数は、互いに等しい。また、第1リングギヤR1は、第2回転軸15およびフランジを介して右出力軸SRRに連結されているので、第1リングギヤR1の回転数および右出力軸SRRの回転数は、互いに等しい。さらに、第2サンギヤS2および第2ロータ12bは、第3回転軸16を介して互いに連結されているので、第2サンギヤS2の回転数および第2ロータ12bの回転数は、互いに等しい。
以上から、動力装置における各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図5に示す共線図のように表される。同図および後述する他の共線図では、値0を示す横線から縦線上の白丸までの距離が、各回転要素の回転数に相当する。図5から明らかなように、左右の出力軸SRL、SRRは、互いに差回転が可能である。
また、図5におけるαAおよびβAはそれぞれ、第1レバー比および第2レバー比(トルク比・速度比)であり、次式(1)および(2)で表される。
αA=ZR1/ZS1 ……(1)
βA=(ZR1−ZS2)/ZS2 ……(2)
ZR1は第1リングギヤR1の歯数であり、ZS1は第1サンギヤS1の歯数、ZS2は第2サンギヤS2の歯数である。
これらの第1リングギヤR1の歯数ZR1、第1サンギヤS1の歯数ZS1および第2サンギヤS2の歯数ZS2は、左右の後輪WRL、WRRの差回転が可能な範囲内で第1および第2ロータ11b、12bの一方が逆転しないことを条件として、第1および第2レバー比αA、βAが比較的大きな値になるように、設定されている。また、第1リングギヤR1の歯数ZR1、第1サンギヤS1の歯数ZS1および第2サンギヤS2の歯数ZS2は、第1および第2レバー比αA、βAが互いに同じ値になるように、すなわち、上記式(1)および(2)から、ZR1/ZS1=(ZR1−ZS2)/ZS2が成立するように、設定されている。
また、上記式(1)および(2)から明らかなように、第1および第2ピニオンギヤP1、P2の歯数は、第1および第2レバー比αA、βAの設定に影響を及ぼさないので、上述した第1および第2レバー比αA、βAを互いに同じ値にするための各ギヤの歯数の設定を阻害することなく、第1および第2ピニオンギヤP1、P2の歯数を前述したように互いに同じ値に設定することができる。
また、図4に示すように、ECU2には、操舵角センサ31から車両Vのハンドル(図示せず)の操舵角θを表す検出信号が、車速センサ32から車両Vの車速VPを表す検出信号が、アクセル開度センサ33から車両Vのアクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、入力される。ECU2にはさらに、電流電圧センサ34から、バッテリ23に入出力される電流・電圧値を表す検出信号が入力される。ECU2は、電流電圧センサ34からの検出信号に基づいて、バッテリ23の充電状態を算出する。
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、上述した各種のセンサ31〜34からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、第1および第2回転電機11、12を制御する。これにより、配分装置DS15の各種の動作が行われる。以下、車両Vの直進時および左右の旋回時における配分装置DS15の動作について説明する。
・直進時
車両Vの直進時で、かつ定速走行中または加速走行中には、第1および第2回転電機11、12の双方で力行を行うとともに、バッテリ23から第1および第2ステータ11a、12aに供給される電力を制御する。図5は、この場合における各種の回転要素の間の回転数の関係およびトルクの釣り合い関係を示している。
図5において、TM1およびTM2はそれぞれ、第1および第2回転電機11、12での力行に伴って第1および第2ロータ11b、12bに発生した出力トルク(以下、それぞれ「第1モータ出力トルク」「第2モータ出力トルク」という)である。また、RLM1およびRRM1はそれぞれ、第1回転電機11での力行に伴って左出力軸SRLおよび右出力軸SRRに作用する反力トルクであり、RLM2およびRRM2はそれぞれ、第2回転電機12での力行に伴って左出力軸SRLおよび右出力軸SRRに作用する反力トルクである。
また、左出力軸SRLに伝達されるトルク(以下「左出力軸伝達トルク」という)は、RLM1−RLM2(RLM1>RLM2)で表されるともに、右出力軸SRRに伝達されるトルク(以下「右出力軸伝達トルク」という)は、RRM2−RRM1(RRM2>RRM1)で表され、左右の出力軸SRL、SRRが、左右の後輪WRL、WRRとともに正転方向に駆動される。この場合、左右の出力軸伝達トルクが互いに同じ要求トルクになるように、第1および第2ステータ11a、12aに供給する電力が制御される。この要求トルクは、検出されたアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。
また、上記の左出力軸伝達トルクのうちのRLM1−RLM2は、TM1×(αA+1)−TM2×βAで表され、右出力軸伝達トルクのうちのRRM2−RRM1は、TM2×(βA+1)−TM1×αAで表される。これらの式から明らかなように、第1レバー比αAは、第1モータ出力トルクTM1に対する、第1回転電機11から差動装置GSGを介して左右の出力軸SRL、SRRに伝達されるトルクの比を表す。また、第2レバー比βAは、第2モータ出力トルクTM2に対する、第2回転電機12から差動装置GSGを介して左右の出力軸SRL、SRRに伝達されるトルクの比を表す。これに対して、前述したように第1および第2レバー比αA、βAが互いに同じ値に設定されているので、第1および第2モータ出力トルクTM1、TM2を互いに同じ大きさに制御するだけで、第1および第2回転電機11、12から左右の出力軸SRL、SRRに分配されるトルクを、互いに同じ大きさに精度良くかつ容易に制御することができる。
さらに、上述した第1および第2回転電機11、12の力行を実行するための実行条件は、例えば、第1および第2回転電機11、12によるエンジン3のアシスト中(以下「モータアシスト中」という)、または、エンジン3を用いずに第1および第2回転電機11、12のみによる車両Vの駆動中(以下「EV走行中」という)であり、かつ、算出されたバッテリ23の充電状態が下限値よりも大きいという条件である。この場合、バッテリ23の充電状態が下限値よりも大きいということは、バッテリ23が放電可能であることを表している。
さらに、車両Vの直進時で、かつ減速走行中(エンジン3のフューエルカット運転中)には、車両Vの慣性エネルギを用いて第1および第2回転電機11、12の双方で回生を行い、回生した電力をバッテリ23に充電するとともに、該回生電力を制御する。図6は、この場合における各種の回転要素の間の回転数の関係およびトルクの釣り合い関係を示している。同図において、TG1およびTG2はそれぞれ、第1および第2回転電機11、12での回生に伴って第1および第2ロータ11b、12bに発生した制動トルク(以下、それぞれ「第1モータ制動トルク」「第2モータ制動トルク」という)である。また、RLG1およびRRG1はそれぞれ、第1回転電機11での回生に伴って左出力軸SRLおよび右出力軸SRRに作用する反力トルクであり、RLG2およびRRG2はそれぞれ、第2回転電機12での回生に伴って左出力軸SRLおよび右出力軸SRRに作用する反力トルクである。
この場合、左出力軸伝達トルクは、−RLG1+RLG2(RLG1>RLG2)で表されるとともに、右出力軸伝達トルクは、−RRG2+RRG1(RRG2>RRG1)で表され、左右の出力軸SRL、SRRに制動トルクが作用し、車両Vが減速される。また、左右の出力軸SRL、SRRに作用する制動トルクが互いに同じになるように、第1および第2回転電機11、12で回生する電力が制御される。
また、上記の左出力軸伝達トルクのうちの−RLG1+RLG2は、−TG1×(αA+1)+TG2×βAで表され、右出力軸伝達トルクのうちの−RRG2+RRG1は、−TG2×(βA+1)+TG1×αAで表される。前述したように第1および第2レバー比αA、βAが互いに同じ値に設定されており、それにより、第1回転電機11から左右の出力軸SRL、SRRに伝達されるトルクのトルク比と、第2回転電機12から左右の出力軸SRL、SRRに伝達されるトルクのトルク比が互いに同じ値に設定されている。したがって、第1および第2モータ制動トルクTG1、TG2を互いに同じ大きさに制御するだけで、第1および第2回転電機11、12から左右の出力軸SRL、SRRに分配される制動トルクを、互いに同じ大きさに精度良くかつ容易に制御することができる。
さらに、上述した第1および第2回転電機11、12の回生を実行するための実行条件は、例えば、バッテリ23の充電状態が上限値よりも小さいという条件である。この場合、バッテリ23の充電状態が上限値よりも小さいということは、バッテリ23が充電可能であることを表している。
・右旋回時
車両Vの前進中の右旋回時において、車両Vを右旋回させる時計回り方向のヨーモーメント(以下「右ヨーモーメント」という)を増大させるときには、右ヨーモーメント増大用のトルク分配制御が実行され、このトルク分配制御として、第1〜第4トルク分配制御が用意されている。以下、これらの右ヨーモーメント増大用の第1〜第4トルク分配制御について順に説明する。この第1トルク分配制御中には、第1および第2回転電機11、12の双方で力行を行うとともに、第1モータ出力トルクTM1が第2モータ出力トルクTM2よりも大きくなるように、第1および第2ステータ11a、12aに供給される電力を制御する。
これにより、前述した図5に示すトルクの釣り合い関係から明らかなように、左出力軸伝達トルクが右出力軸伝達トルクよりも大きくなる結果、車両Vの右ヨーモーメントが増大する。この場合、第1および第2ステータ11a、12aに供給する電力は、検出された操舵角θや車速VP、アクセル開度APに応じて制御される。なお、右ヨーモーメント増大用の第1トルク分配制御を実行するための実行条件は、例えば、モータアシスト中(第1および第2回転電機11、12によるエンジン3のアシスト中)またはEV走行中(第1および第2回転電機11、12のみでの車両Vの駆動中)であり、かつバッテリ23の充電状態が下限値よりも大きいという条件である。
次に、右ヨーモーメント増大用の第2トルク分配制御について説明する。この第2トルク分配制御中には、第1および第2回転電機11、12の双方で回生を行うとともに、両回転電機11、12で回生した電力をバッテリ23に充電する。この場合、第2モータ制動トルクTG2が第1モータ制動トルクTG1よりも大きくなるように、第1および第2回転電機11、12で回生される電力を制御する。
これにより、前述した図6に示すトルクの釣り合い関係から明らかなように、右出力軸SRRに作用する制動トルクが左出力軸SRLのそれよりも大きくなる結果、車両Vの右ヨーモーメントが増大する。この場合、第1および第2回転電機11、12で回生する電力は、操舵角θや車速VPなどに応じて制御される。なお、右ヨーモーメント増大用の第2トルク分配制御を実行するための実行条件は、例えば、車両Vの減速走行中であり、かつバッテリ23の充電状態が上限値よりも小さいという条件である。
次に、右ヨーモーメント増大用の第3トルク分配制御について説明する。この第3トルク分配制御中には、第1回転電機11で力行を行うとともに、第2回転電機12で回生を行う。図7は、この場合における各種の回転要素の間の回転数の関係およびトルクの釣り合い関係を示している。図5を用いて前述したように、図7におけるTM1は、第1モータ出力トルクであり、RLM1およびRRM1はそれぞれ、第1回転電機11での力行に伴って左出力軸SRLおよび右出力軸SRRに作用する反力トルクである。また、図6を用いて前述したように、図7におけるTG2は、第2モータ制動トルクであり、RLG2およびRRG2はそれぞれ、第2回転電機12での回生に伴って左出力軸SRLおよび右出力軸SRRに作用する反力トルクである。
この場合、左出力軸伝達トルクは、RLM1+RLG2で表されるとともに、右出力軸伝達トルクは、−(RRM1+RRG2)で表される。このように、左出力軸SRLに駆動トルクが作用するとともに、右出力軸SRRに制動トルクが作用する結果、車両Vの右ヨーモーメントが増大する。この場合にも、操舵角θや車速VP、アクセル開度APに応じて、第1ステータ11aに供給する電力および第2回転電機12で回生する電力が制御される。
また、上記の左出力軸伝達トルクのうちのRLM1+RLG2は、TM1×(αA+1)+TG2×βAで表され、右出力軸伝達トルクのうちの−(RRM2+RRM1)は、−{TG2×(βA+1)+TM1×αA}で表される。第1および第2レバー比αA、βAが互いに同じ値に設定されているので、第1モータ出力トルクTM1および第2モータ制動トルクTG2を介して、第1および第2回転電機11、12から左右の出力軸SRL、SRRに分配されるトルクを、精度良くかつ容易に制御することができる。
なお、右ヨーモーメント増大用の第3トルク分配制御を実行するための実行条件は、例えば、次の第1増大条件または第2増大条件である。
第1増大条件:エンジン3による車両Vの駆動中であり、かつバッテリ23の充電状態が上限値以上であること。
第2増大条件:エンジン3による車両Vの駆動中であり、充電状態が上限値よりも小さく、かつ第2回転電機12に要求される制動トルクが所定の第1上限トルク以上であること。
この場合、第1増大条件の成立時であり、バッテリ23の充電状態が上限値以上のときには、バッテリ23を充電できないので、第2回転電機12で回生した電力がすべて、バッテリ23に充電されずに、第1ステータ11aに供給される。一方、第2増大条件の成立時には、第2回転電機12で回生した電力の一部がバッテリ23に充電されるとともに、残りが第1ステータ11aに供給される。この場合、要求される制動トルクに対する第2モータ制動トルクTG2の不足分を補うように、第1モータ出力トルクTM1が制御される。
次に、右ヨーモーメント増大用の第4トルク分配制御について説明する。この第4トルク分配制御中には、第1回転電機11に対してゼロトルク制御を実行するとともに、第2回転電機12で回生を行い、第2回転電機12で回生した電力をバッテリ23に充電する。このゼロトルク制御は、第1回転電機11で回生が行われることによる引きずり損失が発生するのを回避するためのものである。この場合、第2モータ制動トルクTG2のみが発生するので、図7から明らかなように、左出力軸伝達トルクはRLG2で表されるとともに、右出力軸伝達トルクは−RRG2で表される。このように、左出力軸SRLに駆動トルクが作用するとともに、右出力軸SRRに制動トルクが作用する結果、車両Vの右ヨーモーメントが増大する。換言すれば、右出力軸SRRのトルクの一部が、第2モータ制動トルクTG2を反力として、左出力軸SRLに伝達される。この場合にも、操舵角θや車速VP、アクセル開度APに応じて、第2回転電機12で回生する電力が制御される。
なお、右ヨーモーメント増大用の第4トルク分配制御を実行するための実行条件は、例えば、エンジン3による車両Vの駆動中であり、バッテリ23の充電状態が上限値よりも小さく、かつ第2回転電機12に要求される制動トルクが前記第1上限トルクよりも小さいという条件である。
なお、右ヨーモーメントを増大させるために、第2回転電機12に対してゼロトルク制御を実行するとともに、第1回転電機11で力行を行ってもよい。この場合、第1モータ出力トルクTM1のみが発生するので、図7から明らかなように、左出力軸伝達トルクはRLM1で表されるとともに、右出力軸伝達トルクは−RRM1で表される。このように、左出力軸SRLに駆動トルクが作用するとともに、右出力軸SRRに制動トルクが作用する結果、車両Vの右ヨーモーメントが増大する。換言すれば、右出力軸SRRのトルクの一部が、第1モータ力行トルクTM1を反力として、左出力軸SRLに伝達される。この場合にも、操舵角θや車速VP、アクセル開度APに応じて、第1ステータ11aに供給される電力が制御される。
また、車両Vの右旋回時において、車両Vの右ヨーモーメントを低減するときには、右ヨーモーメント低減用のトルク分配制御が実行され、この右ヨーモーメント低減用のトルク分配制御として、第1〜第4トルク分配制御が用意されている。以下、これらの右ヨーモーメント低減用の第1〜第4トルク分配制御について順に説明する。この第1トルク分配制御中には、第1および第2回転電機11、12の双方で力行を行うとともに、第2モータ出力トルクTM2が第1モータ出力トルクTM1よりも大きくなるように、第1および第2ステータ11a、12aに供給される電力を制御する。
これにより、前述した図5に示すトルクの釣り合い関係から明らかなように、右出力軸伝達トルクが左出力軸伝達トルクよりも大きくなる結果、車両Vの右ヨーモーメントが低減される。この場合、第1および第2ステータ11a、12aに供給する電力は、操舵角θや車速VP、アクセル開度APに応じて制御される。なお、右ヨーモーメント低減用の第1トルク分配制御を実行するための実行条件は、例えば、モータアシスト中またはEV走行中であり、かつバッテリ23の充電状態が下限値よりも大きいという条件である。
次に、右ヨーモーメント低減用の第2トルク分配制御について説明する。この第2トルク分配制御中には、第1および第2回転電機11、12の双方で回生を行うとともに、両回転電機11、12で回生した電力をバッテリ23に充電する。この場合、第1モータ制動トルクTG1が第2モータ制動トルクTG2よりも大きくなるように、第1および第2回転電機11、12で回生される電力を制御する。
これにより、前述した図6に示すトルクの釣り合い関係から明らかなように、左出力軸SRLに作用する制動トルクが右出力軸SRRに作用する制動トルクよりも大きくなる結果、車両Vの右ヨーモーメントが低減される。この場合、第1および第2回転電機11、12で回生する電力は、操舵角θや車速VPに応じて制御される。なお、右ヨーモーメント低減用の第2トルク分配制御を実行するための実行条件は、例えば、車両Vの減速走行中であり、かつバッテリ23の充電状態が上限値よりも小さいという条件である。
次に、右ヨーモーメント低減用の第3トルク分配制御について説明する。この第3トルク分配制御中には、第1回転電機11で回生を行うとともに、第2回転電機12で力行を行う。図8は、この場合における各種の回転要素の間の回転数の関係およびトルクの釣り合い関係を示している。図6を用いて前述したように、図8におけるTG1は、第1モータ制動トルクであり、RLG1およびRRG1はそれぞれ、第1回転電機11での回生に伴って左出力軸SRLおよび右出力軸SRRに作用する反力トルクである。また、図5を用いて前述したように、図8におけるTM2は、第2モータ出力トルクであり、RLM2およびRRM2はそれぞれ、第2回転電機12での力行に伴って左出力軸SRLおよび右出力軸SRRに作用する反力トルクである。
この場合、左出力軸伝達トルクは、−(RLG1+RLM2)で表されるとともに、右出力軸伝達トルクは、RRM2+RRG1で表される。このように、左出力軸SRLに制動トルクが作用するとともに、右出力軸SRRに駆動トルクが作用する結果、車両Vの右ヨーモーメントが低減される。この場合にも、操舵角θや車速VPに応じて、第1回転電機11で回生する電力および第2ステータ12aに供給する電力が制御される。
また、上記の左出力軸伝達トルクのうちの−(RLG1+RLM2)は、−{TG1×(αA+1)+TM2×βA}で表され、右出力軸伝達トルクのうちのRRM2+RRG1は、TM2×(βA+1)+TG1×αAで表される。第1および第2レバー比αA、βAが互いに同じ値に設定されているので、第1モータ制動トルクTG1および第2モータ出力トルクTM2を介して、第1および第2回転電機11、12から左右の出力軸SRL、SRRに分配されるトルクを、精度良くかつ容易に制御することができる。
なお、右ヨーモーメント低減用の第3トルク分配制御を実行するための実行条件は、例えば、次の第1低減条件または第2低減条件である。
第1低減条件:車両Vの減速走行中(エンジン3のフューエルカット運転中)であり、かつバッテリ23の充電状態が上限値以上であること。
第2低減条件:車両Vの減速走行中であり、充電状態が上限値よりも小さく、かつ第1回転電機11に要求される制動トルクが所定の第2上限トルク以上であること。
この場合、第1低減条件の成立時で、バッテリ23の充電状態が上限値以上のときには、バッテリ23を充電できないので、第1回転電機11で回生した電力がすべて、バッテリ23に充電されずに、第2ステータ12aに供給される。一方、第2低減条件の成立時には、第1回転電機11で回生した電力の一部がバッテリ23に充電されるとともに、残りが第2ステータ12aに供給される。この場合、要求される制動トルクに対する第1モータ制動トルクTG1の不足分を補うように、第2モータ出力トルクTM2が制御される。
次に、右ヨーモーメント低減用の第4トルク分配制御について説明する。この第4トルク分配制御中には、第2回転電機12に対してゼロトルク制御を実行するとともに、第1回転電機11で回生を行い、第1回転電機11で回生した電力をバッテリ23に充電する。この場合、第1モータ制動トルクTG1のみが発生するので、図8から明らかなように、左出力軸伝達トルクは−RLG1で表されるとともに、右出力軸伝達トルクはRRG1で表される。このように、左出力軸SRLに制動トルクが作用するとともに、右出力軸SRRに駆動トルクが作用する結果、車両Vの右ヨーモーメントが低減される。この場合にも、操舵角θや車速VPに応じて、第1回転電機11で回生する電力が制御される。
なお、右ヨーモーメント低減用の第4トルク分配制御を実行するための実行条件は、例えば、車両Vの減速走行中であり、バッテリ23の充電状態が上限値よりも小さく、かつ第1回転電機11に要求される制動トルクが前記第2上限トルクよりも小さいという条件である。
なお、右ヨーモーメントを低減するために、第1回転電機11に対してゼロトルク制御を実行するとともに、第2回転電機12で力行を行ってもよい。この場合、第2モータ出力トルクTM2のみが発生するので、図8から明らかなように、左出力軸伝達トルクは−RLM2で表されるとともに、右出力軸伝達トルクはRRM2で表される。このように、左出力軸SRLに制動トルクが作用するとともに、右出力軸SRRに駆動トルクが作用する結果、車両Vの右ヨーモーメントが低減される。この場合にも、操舵角θや車速VP、アクセル開度APに応じて、第2ステータ12aに供給される電力が制御される。
なお、車両Vの前進中の左旋回時、車両Vを左旋回させる反時計回り方向のヨーモーメント(以下「左ヨーモーメント」という)を増大させるときには、左旋回時の左ヨーモーメント増大用の第1〜第4トルク分配制御が実行され、左ヨーモーメントを低減するときには、左旋回時の左ヨーモーメント低減用の第1〜第4トルク分配制御が実行される。これらの左旋回時の左ヨーモーメント増大用および低減用の第1〜第4トルク分配制御はそれぞれ、前述した右旋回時の右ヨーモーメント増大用および低減用の第1〜第4トルク分配制御とほぼ同様にして実行されるので、その詳細な説明については省略する。
また、第1実施形態は、請求項1〜3に係る発明(以下「第1発明」という)に対応するものであり、第1実施形態における各種の要素と、第1発明における各種の要素との対応関係は次のとおりである。すなわち、第1実施形態における車両Vが、第1発明における輸送機関に相当し、第1実施形態における左右の出力軸SRL、SRRが、第1発明における2つの被駆動部の一方および他方にそれぞれ相当するとともに、第1実施形態における第1および第2回転電機11、12が、第1発明における第1および第2エネルギ入出力装置にそれぞれ相当する。
また、第1実施形態における第1支軸91c、第1および第2基部91a、91bが、第1発明における第1キャリアに相当し、第1実施形態における第2支軸91d、第1および第2基部91a、91bが、第1発明における第2キャリアに相当するとともに、第1実施形態におけるキャリア部材91が、第1発明における互いに連結された第1および第2キャリアに相当する。さらに、第1実施形態における第1および第2ピニオンギヤP1、P2が、第1発明における第1および第2プラネタリギヤにそれぞれ相当する。
以上のように、第1実施形態によれば、差動装置GSGが、シングルプラネタリタイプの第1遊星歯車機構と、第2遊星歯車機構を有しており、第2遊星歯車機構は、第2サンギヤS2と、第2サンギヤに噛み合う第2ピニオンギヤP2と、第2ピニオンギヤP2を回転自在に支持するキャリア部材91を有している。また、これらの第1および第2遊星歯車機構のキャリア部材91が一体に設けられるとともに、第1および第2ピニオンギヤP1、P2が互いに噛み合っている。これにより、第1回転要素としての第1サンギヤS1と、第2回転要素としてのキャリア部材91と、第3回転要素としての第1リングギヤR1と、第4回転要素としての第2サンギヤS2とから成る4つの回転要素が構成されている。また、これらの第1〜第4回転要素の回転数は、共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係にある。
以上のように、前述した従来の場合と異なり、第1キャリアおよび第2サンギヤを連結する第1回転軸と第1リングギヤおよび第2キャリアを連結する第2回転軸とを用いることなく、第1および第2遊星歯車機構のキャリア部材91を一体に設けるとともに、第1および第2ピニオンギヤP1、P2を互いに噛み合わせるだけで、回転数が互いに共線関係にある4つの回転要素を簡易に構成できるとともに、動力装置全体の小型化および製造コストの削減を図ることができる。さらに、前述した従来の動力装置と異なり、第2リングギヤが不要であるので、その分、動力装置全体のさらなる小型化および製造コストのさらなる削減を図ることができる。
また、第1サンギヤS1が第1回転電機11に、キャリア部材91が左出力軸SRRに、第1リングギヤR1が右出力軸SRRに、第2サンギヤS2が第2回転電機12に、それぞれ機械的に連結されているので、第1および第2回転電機11、12から出力された回転エネルギを、差動装置GSGを介して左右の出力軸SRL、SRRに伝達し、両出力軸SRL、SRRを適切に駆動することができる。この場合、上述したように第1〜第4回転要素の回転数が互いに共線関係にあるので、第1および第2回転電機11、12における回転エネルギの入出力を制御することによって、左右の出力軸SRL、SRRに分配される回転エネルギ(トルク)を適切に制御することができる。
さらに、第1リングギヤR1の歯数ZR1、第1サンギヤS1の歯数ZS1および第2サンギヤS2の歯数ZS2は、第1および第2レバー比αA、βAが互いに同じ値になるように設定されている。これにより、前述した直進時の動作から明らかなように、第1および第2モータ出力トルクTM1、TM2(第1および第2モータ制動トルクTG1、TG2)を互いに同じ大きさに制御するだけで、車両Vの直進性を高めることができる。同じ理由により、第1および第2回転電機11、12を用いた左右の出力軸SRL、SRRへのトルクの分配制御を、精度良くかつ容易に行うことができ、したがって、車両Vの旋回性を高めることができる。
また、第1および第2ピニオンギヤP1、P2の径、歯数、歯形および歯幅の各々は、互いに同じになっており、すなわち両ギヤP1、P2の諸元は互いに同一に設定されている。したがって、第1および第2ピニオンギヤP1、P2を製造するための金型やカッタなどを共通化できるので、その生産性を向上させることができる。
さらに、一般的な第1および第2回転電機11、12を用いるので、格別の装置を用いることなく、動力装置を容易かつより安価に構成することができる。また、前述したように左右の出力軸SRL、SRRへのトルクの分配を制御する場合において、第1および第2回転電機11、12により動力を電力に変換することができる。このため、変換した電力を車両V用の補機に供給することによって、補機の電源を充電するための発電機(いずれも図示せず)の作動負荷および作動頻度を低下させることができる。
次に、図9を参照しながら、本発明の第2実施形態による動力装置について説明する。この動力装置の配分装置DS16は、第1実施形態と比較して、差動装置GSHの構成が主に異なっている。図9において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図9に示す差動装置GSHは、第1実施形態による差動装置GSGと異なり、第1サンギヤS1が省略されたシングルプラネタリタイプの第1遊星歯車機構とダブルプラネタリタイプの第2遊星歯車機構を組み合わせ、キャリアを共通化するとともに、両遊星歯車機構のピニオンギヤを互いに噛み合わせたものである。差動装置GSHでは、上記の第1遊星歯車機構が、第1ピニオンギヤP1、第1リングギヤR1およびキャリア部材91によって構成されており、第2遊星歯車機構が、第2サンギヤS2、第2ピニオンギヤP2、ピニオンギヤPA、第2リングギヤR2Aおよびキャリア部材91によって構成されている。第1遊星歯車機構は左後輪WRL側に、第2遊星歯車機構は右後輪WRR側に、それぞれ配置されている。
キャリア部材91の第1基部91fは、第1実施形態と異なり、円板状ではなく、ドーナツ板状に形成されており、左出力軸SRLに取り付けられていない。第2基部91bは、第1実施形態と異なり、第1基部91fよりも右後輪WRR側に配置されており、第1回転電機11の第1ロータ11bに一体に取り付けられている。これにより、キャリア部材91は、第1ロータ11bと一体に回転自在である。また、これらの第1基部91fと第2基部91bに、第1および第2支軸91c、91dが第1実施形態と同様にして設けられている。
さらに、キャリア部材91には、前述した第1および第2支軸91c、91dに加え、第2基部91bに一体に設けられた4つの第3支軸91e(2つのみ図示)が設けられている。第3支軸91eは、第2基部91bの径方向の外端部に位置しており、左右の出力軸SRL、SRRの軸線方向に、左後輪WRL側に延びている。また、4つの第3支軸91eは、周方向に互いに等間隔に位置している。キャリア部材91の内側には、第3回転軸16および右出力軸SRRが相対的に回転自在に配置されている。
差動装置GSHの第1リングギヤR1は、第1実施形態と同様、第2回転軸15およびフランジを介して、右出力軸SRRに連結されている。右出力軸SRRは、第1実施形態と異なり、第3回転軸16の内側に相対的に回転自在に配置されている。
また、差動装置GSHの第2サンギヤS2、第2ピニオンギヤP2、ピニオンギヤPAおよび第2リングギヤR2Aは、径方向に内側からこの順で並んでいる。第2サンギヤS2は、第1実施形態と同様、第3回転軸16を介して第2ロータ12bに連結されている。第2ピニオンギヤP2は、第1実施形態と同様、第1ピニオンギヤP1に噛み合っている。また、ピニオンギヤPAの数は、第3支軸91eと同じ値4である。各ピニオンギヤPAは、第3支軸91eに、軸受け(図示せず)を介して回転自在に支持されており、第2ピニオンギヤP2および第2リングギヤR2Aの双方に噛み合っている。なお、ピニオンギヤPAおよび第3支軸91eの数は値4に限らず、任意である。
第2リングギヤR2Aは、中空の第4回転軸17およびフランジを介して左出力軸SRLに連結されており、左出力軸SRLと一体に回転自在である。第2リングギヤR2Aの歯数は、第1リングギヤR1の歯数よりも大きな値に設定されている。第4回転軸17の内側には、第2回転軸15が相対的に回転自在に配置されている。また、第1回転電機11は、差動装置GSHと右後輪WRRの間に位置しており、第2回転電機12は、第1回転電機11と右後輪WRRの間に位置している。
以上の構成の動力装置では、差動装置GSHが前述したように構成されているため、キャリア部材91、第2リングギヤR2A、第1リングギヤR1および第2サンギヤS2は、互いの間で動力を伝達可能であるとともに、それらの回転数が互いに共線関係にある。ここで、共線関係とは、共線図においてそれぞれの回転数が単一の直線上に並ぶ関係のことである。
また、キャリア部材91を固定した状態で、第2サンギヤS2を回転させたときには、第2リングギヤR2Aおよび第1リングギヤR1がいずれも、第2サンギヤS2の回転方向と同方向に回転する。この場合、各ギヤの歯数の関係から、第2サンギヤS2の回転数は、第1リングギヤR1よりも高くなり、第1リングギヤR1の回転数は、第2リングギヤR2Aよりも高くなる。以上から、回転数の関係を表す共線図において、キャリア部材91、第2リングギヤR2A、第1リングギヤR1および第2サンギヤS2は、この順で並ぶ。
また、キャリア部材91が第1ロータ11bに取り付けられているので、キャリア部材91の回転数および第1ロータ11bの回転数は、互いに等しい。さらに、第2リングギヤR2Aは、第4回転軸17およびフランジを介して左出力軸SRLに連結されているので、第2リングギヤR2Aの回転数および左出力軸SRLの回転数は、互いに等しい。また、第1リングギヤR1は、第2回転軸15およびフランジを介して右出力軸SRRに連結されているので、第1リングギヤR1の回転数および右出力軸SRRの回転数は、互いに等しい。さらに、第2サンギヤS2および第2ロータ12bは、第3回転軸16を介して互いに連結されているので、第2サンギヤS2の回転数および第2ロータ12bの回転数は、互いに等しい。
以上から、動力装置における各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図10に示す共線図のように表される。図10における各種のパラメータは、第1実施形態で説明したとおりである。図10から明らかなように、左右の出力軸SRL、SRRは、互いに差回転が可能である。また、この図10と、第1実施形態における各種の回転要素の間の回転数の関係およびトルクの釣り合い関係を示す図5〜図8との比較から明らかなように、第1実施形態と同様、第1および第2モータ出力トルクTM1、TM2ならびに第1および第2モータ制動トルクTG1、TG2を制御することによって、左右の出力軸SRL、SRRに分配されるトルクを制御することができる。
また、図10におけるαFおよびβFはそれぞれ、第1および第2レバー比(トルク比・速度比)であり、次式(3)および(4)で表される。
αF=ZR1/(ZR2A−ZR1) ……(3)
βF={ZR2A(ZR1−ZS2)}/{ZS2(ZR2A−ZR1)} ……(4)
第1実施形態で述べたように、ZR1は第1リングギヤR1の歯数、ZS2は第2サンギヤS2の歯数であり、ZR2Aは、第2リングギヤR2Aの歯数である。
これらの第1リングギヤR1の歯数ZR1、第2サンギヤS2の歯数ZS1および第2リングギヤR2Aの歯数ZR2Aは、左右の後輪WRL、WRRの差回転が可能な範囲内で第1および第2ロータ11b、12bの一方が逆転しないことを条件として、第1および第2レバー比αF、βFが比較的大きな値になるように、設定されている。また、第1リングギヤR1の歯数ZR1、第2サンギヤS2の歯数ZS1および第2リングギヤR2Aの歯数ZR2Aは、第1および第2レバー比αF、βFが互いに同じ値になるように、すなわち、上記式(3)および(4)から、ZR1/(ZR2A−ZR1)={ZR2A(ZR1−ZS2)}/{ZS2(ZR2A−ZR1)}が成立するように、設定されている。
また、上記式(3)および(4)から明らかなように、第1および第2ピニオンギヤP1、P2の歯数は、第1および第2レバー比αF、βFの設定に影響を及ぼさないので、上述した第1および第2レバー比αF、βFを互いに同じ値にするための各ギヤの歯数の設定を阻害することなく、第1実施形態と同様に第1および第2ピニオンギヤP1、P2の歯数を互いに同じ値に設定することができる。
なお、第2実施形態では、第2リングギヤR2Aの歯数を第1リングギヤR1の歯数よりも大きな値に設定しているが、これとは逆に、第1リングギヤR1の歯数を第2リングギヤR2Aの歯数よりも大きな値に設定してもよい。その場合には、図10に示す共線図において、第2リングギヤR2Aと第1リングギヤR1の位置関係が左右逆になり、4つの回転要素は、キャリア部材91、第1リングギヤR1、第2リングギヤR2Aおよび第2サンギヤS2の順で並ぶ。
また、第2実施形態は、請求項4に係る発明(以下「第2発明」という)に対応するものであり、第2実施形態における各種の要素と、第2発明における各種の要素との対応関係は次のとおりである。すなわち、第2実施形態における左右の出力軸SRL、SRRが、第2発明における2つの被駆動部の一方および他方にそれぞれ相当するとともに、第2実施形態における第1および第2回転電機11、12が、第2発明における第1および第2エネルギ入出力装置にそれぞれ相当する。
また、第2実施形態における第1支軸91c、第1および第2基部91f、91bが、第2発明における第1キャリアに相当し、第2実施形態における第2支軸91d、第3支軸91e、第1および第2基部91a、91bが、第2発明における第2キャリアに相当するとともに、第2実施形態におけるキャリア部材91が、第2発明における互いに連結された第1および第2キャリアに相当する。さらに、第2実施形態における第2サンギヤS2が、第2発明におけるサンギヤに相当するとともに、第2実施形態における第1ピニオンギヤP1、第2ピニオンギヤP2およびピニオンギヤPAが、第2発明における第1、第2および第3プラネタリギヤにそれぞれ相当する。
以上のように、第2実施形態によれば、差動装置GSHが、第1遊星歯車機構と、いわゆるダブルプラネタリタイプの第2遊星歯車機構を有しており、第1遊星歯車機構が、第1リングギヤR1と、該第1リングギヤR1に噛み合う第1ピニオンギヤP1と、第1ピニオンギヤP1を回転自在に支持するキャリア部材91を有している。また、これらの第1および第2遊星歯車機構のキャリア部材91が一体に設けられるとともに、第1および第2ピニオンギヤP1、P2が互いに噛み合っている。これにより、第1回転要素としてのキャリア部材91と、第2回転要素としての第2リングギヤR2Aと、第3回転要素としての第1リングギヤR1と、第4回転要素としての第2サンギヤS2とから成る4つの回転要素が構成されている。これらの第1〜第4回転要素の回転数は、共線図において単一の直線上に並ぶ共線関係にある。
以上のように、前述した従来の場合と異なり、第1キャリアおよび第2サンギヤを連結する第1回転軸と第1リングギヤおよび第2キャリアを連結する第2回転軸とを用いることなく、キャリア部材91を一体に設けるとともに、第1および第2プラネタリギヤP1、P2を互いに噛み合わせるだけで、回転数が互いに共線関係にある4つの回転要素を簡易に構成できるとともに、動力装置全体の小型化および製造コストの削減を図ることができる。
また、キャリア部材91が第1回転電機11に、第2リングギヤR2Aが左出力軸SRLに、第1リングギヤR1が右出力軸SRRに、第2サンギヤS2が第2回転電機12に、それぞれ機械的に連結されているので、第1および第2回転電機11、12から出力された回転エネルギを、差動装置GSHを介して左右の出力軸SRL、SRRに伝達し、両出力軸SRL、SRRを適切に駆動することができる。この場合、上述したように第1〜第4回転要素の回転数が互いに共線関係にあるので、第1および第2回転電機11、12における回転エネルギの入出力を制御することによって、2つの被駆動部に分配される回転エネルギ(トルク)を適切に制御することができる。
さらに、第1リングギヤR1の歯数ZR1、第2サンギヤS2の歯数ZS1および第2リングギヤR2Aの歯数ZR2Aは、第1および第2レバー比αF、βFが互いに同じ値になるように設定されている。これにより、第1実施形態と同様、第1および第2モータ出力トルクTM1、TM2(第1および第2モータ制動トルクTG1、TG2)を互いに同じ大きさに制御するだけで、車両の直進性を高めることができる。同じ理由により、第1および第2回転電機11、12を用いた左右の出力軸SRL、SRRへのトルクの分配制御を、精度良くかつ容易に行うことができ、したがって、車両の旋回性を高めることができる。その他、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、本発明は、説明した第1および第2実施形態(以下、総称する場合「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1実施形態では、キャリア部材91および第1リングギヤR1を、左出力軸SRLおよび右出力軸SRRにそれぞれ連結しているが、これとは逆に、右出力軸SRRおよび左出力軸SRLにそれぞれ連結してもよい。同様に、第2実施形態では、第2リングギヤR2Aおよび第1リングギヤR1を、左出力軸SRLおよび右出力軸SRRにそれぞれ連結しているが、これとは逆に、右出力軸SRRおよび左出力軸SRLにそれぞれ連結してもよい。
また、実施形態では、本発明による動力装置を、後ろ側の左右の出力軸SRL、SRRを駆動するように構成しているが、前側の左右の出力軸SFL、SFRを駆動するように構成してもよく、あるいは、全輪駆動式の車両において、前輪および後輪に連結された前後の出力軸を駆動するように構成してもよい。この場合、左右の出力軸SFL、SFRと前後の出力軸に対する、第1実施形態のキャリア部材91および第1リングギヤの連結関係と、第2実施形態の第2リングギヤR2Aおよび第1リングギヤR1の連結関係は、特許請求の範囲に記載された構成の範囲内で任意である。
さらに、実施形態では、本発明における第1および第2エネルギ入出力装置は、第1および第2回転電機11、12であるが、回転エネルギを入出力可能な他の装置、例えば、油圧モータなどでもよい。また、実施形態では、第1および第2回転電機11、12として、ACモータを用いているが、回転エネルギと電気エネルギの間でエネルギを変換可能な他の装置、例えばDCモータを用いてもよい。
さらに、実施形態では、バッテリ23が第1および第2回転電機11、12に共用されているが、バッテリを別個に設けてもよい。また、実施形態では、第1および第2回転電機11、12で回生した電力を、バッテリ23に充電しているが、キャパシタに充電してもよい。あるいは、第1および第2回転電機11、12とは異なる他の回転電機と、この他の回転電機に連結されたフライホイールとを用い、第1および第2回転電機11、12で回生した電力を他の回転電機で動力に変換するとともに、変換された動力を、運動エネルギとしてフライホイールに蓄積してもよい。あるいは、第1および第2回転電機11、12で回生した電力を、他の回転電機やアクチュエータに直接、供給してもよい。あるいは、第1および第2回転電機11、12に代えて、上述したように回転エネルギを圧力エネルギに変換可能な油圧モータを用いるとともに、この油圧モータで変換された圧力エネルギをアキュームレータに蓄積してもよい。
また、実施形態は、本発明による動力装置を、車両Vに適用した例であるが、本発明はこれに限らず、船舶や航空機などに適用してもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。