しかしながら、サポートリングは高圧には耐えられるが、その外径とシリンダの内径とのオーバーラップ部分がない、つまり、ピストン部の揺動運動時のピストン部・シリンダ間のスペースの変化に対応する部分がない。そして、サポートリングがピストン部の外周面から突出するはみ出し部分の寸法は、ピストン部が揺動する際の最小と最大のスペースの中間のスペースに対応する分とせざるを得ない。したがって、上記スペースが最大になるときには十分にリップリングの変形を防止することは難しいという問題があった。
本発明は上記問題点を解消し、リップリングを改善することによって、高圧にも対応することができるロッキングピストンを提供することをその課題とする。
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、コネクティングロッドの先端に一体に設けられてシリンダ内を揺動しながら摺動する皿状のピストン本体と、ピストン本体の上部に設けられるリング押えと、ピストン本体とリング押えとの間に設けられてシリンダ内面との間をシールする非金属製リップリングとを備えたロッキングピストンにおいて、上記リップリングは、ピストン本体とリング押えとの間に挟持されるドーナツ板状のベース部と、ベース部の外周端から起立形成されてピストン本体とシリンダ内面との間をシールするリップ部とから構成され、上記リップ部には、高圧領域でシール作用をする高圧領域用シール部と低圧領域でシール作用をする低圧領域用シール部とが設けられていることを特徴とする。
請求項2に係る高圧対応のロッキングピストンは、請求項1において、ベース部とリップ部の両外側面が接する外側コーナー部の曲率半径は、ベース部とリップ部の両内側面が接する内側コーナー部の曲率半径にリップリングの厚さを加えた寸法よりも小さく形成されていることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、上記リップリングの最外径はシリンダの内径よりも大きく、かつピストン本体の最大傾斜時に接するシリンダ内面の楕円の長径よりも大きく形成されていることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかにおいて、上記リップリングのベース部の下面は、上記内側コーナー部の曲面の少なくとも内側エンド部と垂直に交わる部位からシリンダ側にかけてピストン本体の上面と接面していることを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかにおいて、上記ロッキングピストンがシリンダに対して傾斜していない状態において、リップリングは、少なくともベース部の上面の延長が上記シリンダの内面と接する部位より下側から上端側にかけて上記シリンダと接面していることを特徴とする。
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれかにおいて、上記ロッキングピストンが最大に傾斜した時には、上記シリンダとのスペースが小さい上側において、上記リップリングは、上記内側コーナー部の外側エンド部と直角に交わる部位よりも下方の領域でシリンダと接触していることを特徴とする。
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれかにおいて、上記ロッキングピストンが最大に傾斜した時には、上記シリンダとのスペースが大きい側において上記リップリングのリップ部とリング押えとのスペースD1は、ピストン本体上部とシリンダ間のスペースD2以下とすることを特徴とする。
請求項8に係る発明は、請求項1〜7のいずれかにおいて、上記リップリングのリップ部とリップリングを押えるリング押えとの間に微小なスペースを形成し、少なくとも上記リング押えの外周面を上記シリンダの内径と略同じ大きさの直径を有する略球形の表面形状をなすように形成したことを特徴とする。
請求項9に係る発明は、請求項1〜8のいずれかにおいて、上記リップリングのベース部の上面は、上記内側コーナー部の曲面の内側エンド部より中心側に離れた部位でリング押えの下面と接触し始めるようにしたことを特徴とする。
請求項10に係る発明は、請求項1〜9のいずれかにおいて、上記リング押えとピストン本体とは、リップリングのベース部の内側で直接に当接していることを特徴とする。
請求項11に係る発明は、請求項1〜10のいずれかにおいて、上記リング押えとピストン本体とは、少なくとも使用状態の圧力が作用したときに、リップリングのベース部の内側で中間材を介して当接していることを特徴とする。
請求項12に係る発明は、請求項1〜11のいずれかにおいて、リング押えには、リップリングのベース部との接面部に押し当てる環状突起を形成したことを特徴とする。
請求項13に係る発明は、請求項1〜12のいずれかにおいて、上記ピストン本体の上面には、リップリングのベース部の中央開口部の開口縁部を押し上げる環状突起を形成したことを特徴とする。
請求項14に係る発明は、請求項1〜13のいずれかにおいて、上記コネクティングロッドは揺動方向に幅広に形成されているとともに、コネクティングロッドの幅方向と直交する方向には変形抑制部が形成され、この変形抑制部はピストン本体の下面に接合されていることを特徴とする。
請求項15に係る発明は、請求項1〜14のいずれかにおいて、上記ピストン本体とリング押えの少なくとも一方の外周面には、リップリングと同等以上の強度を有する非金属製の保護部材を設けたことを特徴とする。
請求項1に係る発明によれば、リップリングには、高圧領域でシール作用をする高圧領域用シール部と低圧領域でシール作用をする低圧領域用シール部とを設けたので、低圧状態のときは、高圧領域で作用する高圧領域用シール部は弾性変形しにくいが、低圧領域用シール部は低圧状態で弾性変形して十分なシール効果を確保することができる。したがって、高圧状態でもリップリングに対する背圧上昇が小さくなり、シリンダへの押し付け力が低減し、リップリングの摩耗を有効に防止することができる。
請求項2に係る発明によれば、ベース部とリップ部の両外側面が接する外側コーナー部の曲率半径は、ベース部とリップ部の両内側面が接する内側コーナー部の曲率半径にリップリングの厚さを加えた寸法よりも小さく形成されているから、ピストン本体とシリンダとリップリング間にできるスペースが小さくなる。したがって、コーナー部のボリュームが相対的に大きくなり、ピストン本体の上方からのシリンダの内圧が加わっても内圧による応力が小さくなるので、リップリングの変形を良好に抑制することができる。しかも、シリンダの内圧が上昇しても、リップ部が外側へ張る力は低いのでリップリングの摩耗量は低減する。
請求項3に係る発明によれば、リップリングの最外径はシリンダの内径よりも大きく、かつピストン本体の最大傾斜時に接するシリンダ内面の楕円の長径よりも大きく形成されているから、リップリングには、シリンダ内面に対してオーバーラップする部分が発生するので、シリンダとロッキングピストンとの間を確実にシールすることができる。
請求項4に係る発明によれば、リップリングのベース部の下面は、内側コーナー部の曲面の少なくとも内側エンド部と垂直に交わる部位からシリンダ側にかけてピストン本体の上面と接面しているから、ピストン本体とシリンダとリップリングとの間にできるスペースは小さくなるように抑制される。このため、請求項2に係る発明と同様な作用効果を得ることができる。
請求項5に係る発明によれば、ロッキングピストンがシリンダに対して傾斜していない状態において、外側コーナー部の外側エンド部は上記上面延長対応部位よりも下側に位置することになるので、コネクティングロッドのピストン本体とシリンダとリップリングとの間にできるスペースは小さくなるように抑制される。このため、請求項2に係る発明と同様な作用効果を得ることができる。
請求項6に係る発明によれば、最大傾斜時には、シリンダとのスペースが小さい上側において、リップリングは、内側コーナー部の外側エンド部と直角に交わる部位よりも下方の領域でシリンダと接触しているので、コネクティングロッドのピストン本体とリップリングとシリンダとの間のスペースは小さくなる。このため、請求項2に係る発明と同様な作用効果を得ることができる。また、最大傾斜時のオーバーラップ量が十分なので、外側に張る力はリップ部の弾性により補なわれてシール性を確保することができる。
請求項7に係る発明によれば、上記ロッキングピストンが最大に傾斜した時には、上記シリンダとのスペースが大きい側において上記リップリングのリップ部とリング押えとのスペースD1は、ピストン本体上部とシリンダ間のスペースD2以下としたから、最大に傾斜した時でもピストン本体またはリング押えがシリンダに直接当たることがない。また、リング押えの塑性変形量を抑えることができる。
請求項8に係る発明によれば、リップリングのリップ部とリング押えとの間に微小なスペースを形成し、少なくとも上記リング押えの外周面を上記シリンダの内径と略同じ大きさの直径を有する略球形の表面形状をなすように形成したから、ロッキングピストンの揺動運動に基づく慣性により発生した圧力上昇によって、リップリングやリング押えがシリンダに押し付けられて変形するのを効果的に抑制し、繰り返し応力を防ぎ、リップリングの疲労を防ぐことができる。
請求項9に係る発明によれば、リップリングのベース部の上面は、内側コーナー部の曲面の内側エンド部より中心側に離れた部位でリング押えの下面と接触し始めるようにしたから、内側エンド部と接触開始部位との間のストレート部はリング押えの下面には接触しない離反領域となり、応力が分散され、コーナー部に応力集中が起きにくい。
請求項10に係る発明によれば、リング押えとピストン本体とは、リップリングのベース部の内側で直接に当接しているから、リング押えとピストン本体との間の間隔は一定となるので、リップリングが過度の押圧力で挟みつけられて変形することがない。また、リング押えがピストン本体から浮かない。このため、固定用ボルトへの応力が緩和され、締め付けトルクの維持が可能となる。
請求項11に係る発明によれば、リング押えとピストン本体とは、少なくとも使用状態の圧力が作用したときに、リップリングのベース部の内側で中間材を介して当接しているから、請求項14の場合と同様の効果を得ることができる。
請求項12に係る発明によれば、リング押えには、リップリングのベース部との接面部に押し当てる環状突起を形成したので、リング押えの環状突起がリップリングのベース部との接面部に強く押し当てられることにより、環状突起が上記接面部に食い込む。このため、リップリングがピストン本体上で移動するのを防いでリップリングを確実に固定する。そして、ピストン部とシリンダとの間を良好にシールすることができる。
請求項13に係る発明によれば、ピストン本体の上面には、リップリングのベース部の中央開口部の開口縁部を押し上げる環状突起を形成したから、リップリングの開口縁部が環状突条により押し上げられ、ベース部とリング押えとの間のスペースをなくすことができ、シリンダの上室の内圧がピストン部の下部の下室に漏れることがない。
請求項14に係る発明によれば、コネクティングロッドが揺動方向に幅広に形成されていることにより、ピストン本体は揺動方向に変形しにくくなっている。しかも、コネクティングロッドには変形抑制部が形成されているので、コネクティングロッドはその揺動方向と直交する方向にも強化されているとともに、ピストン本体も、同方向に変形しにくくなっている。圧力によるピストン本体の変形は、揺動方向とこれに直交する方向とでは変形が大きく異なる。このために固定用ボルトには大きな応力が発生する。しかし、リブ状の変形抑制部によってこの応力を低減することができる。
請求項15に係る発明によれば、ピストン本体とリング押えの少なくとも一方の外周面には、リップリングと同等以上の強度を有する非金属製の保護部材が設けられている。したがって、リップリングがメンテナンス時間を過ぎても継続使用されるときは、リップリングが摩耗して金属製のピストン本体又はリング押えが直接にシリンダに接触して擦り合い、傷がついて圧縮効率が低下したり、故障したりする恐れがある。ところが、保護部材を設けることにより、ピストン本体又はリング押えが接触する前に保護部材が直接にシリンダと接触し、ピストン本体又はリング押えが直接にシリンダ内面に接触して擦ることがないから、シリンダを保護することができる。
なお、ライナーとピストンリングの外周面は、シリンダの内径と同じかそれよりもわずかに小さい程度の直径を有する略球形の表面形状をなすように形成されていてもよい。この球面形状により、ロッキングピストンの揺動運動に基づく慣性により発生した圧力上昇によって、ライナーやライナー押えがシリンダに押し付けられたときの押圧力によって変形するのを効果的に抑制することができ、また繰り返し応力を防ぎ、ライナーの疲労を防ぐことができる。
また、ピストンリングは連続したものではなく、一部が切断され、またピストンリングはライナー押えの外周に形成された収納溝に遊びをもって収納されている。このため、ピストンリングは収納溝内で径方向に伸縮することが可能となっている。したがって、ピストン本体に背圧を受けたときにピストンリングは外方に押し広げられるので、ピストン本体が傾いてもライナーによって線シールを維持することができる。また、強度的に十分な厚みがとれるので、寸法公差は大幅に緩和される。
図1は多段(二段)圧縮機を示す。この多段圧縮機は低圧用圧縮機Aと高圧用圧縮機Bとを連結したもので、上記各圧縮機A、Bのシリンダ1、2にはロッキングピストン3、4が揺動かつ摺動自在に収容されている。各ロッキングピストン3、4はコネクティングロッド5、6の先端(小端部)に皿状のピストン部7、8を一体的に設け、コネクティングロッド5、6の基部(大端部)の偏心位置に形成した軸受孔10、11には、装置本体の中心部に配置したクランクシャフト12が軸受けされている。クランクシャフト12は図示しない回転駆動装置に作動連結されている。
上記圧縮機A、Bは、クランクシャフト12の回転により低圧(一次圧)側の圧縮機Aのロッキングピストン3を往復動させて低圧側のシリンダ1内に取り込まれた大気を圧縮して高圧(二次圧)側の圧縮機Bのシリンダ2に送り込み、この圧縮空気を高圧側のピストン4を往復動させることによりさらに圧縮して高圧に昇圧させ、圧縮空気で作動する各種装置や工具に向けて送出させるものである。
ところで、高圧側の圧縮機のロッキングピストン4は、次のような構造的特徴を有している。
まず、高圧側のロッキングピストン4のピストン部8の外径は、低圧側のロッキングピストン3のピストン部7よりも小さく形成されている。高圧側のピストン部8に対する圧縮荷重が低圧側のピストン部7の圧縮荷重に比べて急激に大きくならないようにするためである。
上記各ロッキングピストン3、4のピストン部7、8の外周にはピストン3、4とシリンダ1、2との間をシールするリップリング13、14が取り付けられている。リップリング13、14は合成樹脂、合成ゴム等の具体的にはポリテトラフルオロエチレン又は変成ポリテトラフルオロエチレン、銅又は青銅合金粉末、球状炭素又は炭素繊維、二酸化モリブデンの成分構成からなる非金属材料から形成され、全周にわたって切れ目がなく連続した円環状の部材である。
高圧側の圧縮機のロッキングピストン4のリップリング14は、高圧領域でシリンダ2の内面に接してシール作用をする程度に弾性変形可能なシール部(リップ部)を有している。
そのため、上記リップリング14は、次のような構造的特徴を有している。
すなわち、上記リップリング14の外径のシリンダ2の内径に対するオーバーラップ量は、少なくとも低圧側のロッキングピストン3のリップリング13の外径のシリンダ1の内径に対するオーバーラップ量よりも小さくなるように形成されている。これは、リップリング14のオーバーラップ部分が大きいと、必然的に弾性も高く柔軟になるので、高圧の内圧を受けたときに変形しやすく、変形した部分からエア漏れが発生し、シール不良を起こすおそれがあるからである。したがって、高圧側のロッキングピストン4のリップリング14のオーバーラップ量を、少なくとも低圧側のそれよりも小さくすることにより、高圧を受けたときに弾性変形しにくくなるように設定されている。
さらに、高圧側のリップリング14の外周に形成されたリップ部15の高さ(リップ高さ)は、少なくとも低圧側のリップリング14のリップ高さよりも低くなるように形成されている。
これも、リップ高さが高いと、弾性も高くなり、高圧の作用を受けたときに変形しやすく、エア漏れによるシール不良を起こすおそれがあるからであり、またシリンダ2内にピストン部8を収納する作業を容易にするためである。
高圧側のリップリング14のリップ部15の高さは低圧側よりも低く形成されているので、弾性も低く、外側に張るための圧力が高くなるため、高圧の作用を受けても変形しにくいため、応力低減やエア漏れによるシール不良を起こすおそれが小さい。また、組付け時にリップリング14をシリンダ2内に収納する作業は困難ではない。作業時にリップ部15をシリンダ2内に収納できるように縮める力は、リップ部15を縮める荷重とリップ部15のシリンダ2の内面に接触する面積との関係より、低圧時と比較して±10%以内に設定するのがよい。
なお、高圧側のロッキングピストンのリップリング14には、図2(a)に示されるように、少なくとも上述のようなオーバーラップ量やリップ高さを備えていることが要求されるが、圧縮機の起動時等のように、高圧側のシリンダ2内の圧力が十分に上がらす、低圧状態になっているときは、高圧領域で作用するリップリング14のリップ部15は弾性変形しにくいので、条件によってはシール性を発揮できない可能性がある。そこで、図2(b)に示されるように、上記リップリング14のリップ部15には、高圧領域でシール作用をする小径の高圧領域用として下部シール部16と低圧領域でシール作用をする大径の低圧領域用として上部シール部17とを一体的に設けるようにするのが好ましい。下部シール部16は肉厚に形成されているのに対し、上部シール部17は肉薄で比較的弾性変形しやすくなっている。下部シール部16と上部シール部17との間には段部18が形成されている。
上記リップリング構成によれば、低圧状態のときは、高圧領域で作用するリップリング14の下部シール部16は、弾性変形しにくいが、上部シール部17は低圧状態で弾性変形して十分なシール効果を確保することができる。このように、低圧状態でもシール性を発揮することができるので、高圧状態でもリップリング14に対する背圧上昇が小さくなり、シリンダ2への押し付け力が低減し、リップリング14の摩耗を有効に防止することができる。
なお、下部シール部16と上部シール部17の配設構造は上述の形態に限定されない。例えば、同図(c)のように、上部シール部17と下部シール部16との間に段を設けず、上下のシール部16、17が連続する構造であってもよく、あるいは同図(d)のように、上部シール部17を外側に反るように形成して弾性変形しやすくなるように構成してもよく、あるいは同図(e)のように、上部シール部17を下部シール部16からそのまま延長した形状の構成にしてもよい。
また、下部シール部16の上部に連続的に上部シール部17を形成する構造ではなく、同図(f)のように、下部シール部16と上部シール部17とを別個に形成し、上部シール部17は下部シール部16よりも中心に近い内側から斜め上方に突出するように形成されている。上部シール部17の上端は下部シール部16の上方まで延出形成され、高さも上部シール部17の方が高い。したがって、上部シール部17の方が下部シール部16よりも弾性変形しやすく、低圧に対応できる。この場合、同図(g)のように、上部シール部16を高圧用、下部シール部17を低圧用として構成してもよい。
また、高圧に対応するためには、リップリング14の形状だけでなく、高圧側の圧縮機のロッキングピストン4の揺動角を低圧側の圧縮機のロッキングピストン3の揺動角より小さくなるように設定するようにしてもよい。揺動角αは、ロッキングピストン4のストロークL、つまりコネクティングロッド6の中心軸Pから揺動回転中心O1までの距離と、揺動回転中心O1からリップリング14によるシール部の中心O2までの距離とで決まる。揺動角αを小さくするためには、図3(a)に示されるように、ロッキングピスト4ンのストロークLを変えないで、揺動回転中心O1からシール部の中心O2までの距離によって示されるコネクティングロッド6の長さを長くするか、あるいは同図(b)に示されるように、コネクティングロッド6の長さを変えないで、ロッキングピストン4のストロークLを小さくするかによればよい。
なお、同図(c)は揺動角を小さくする前のロッキングピストン4の最大傾斜状態を示す参考図である。同図においてα0は揺動角、L0はストロークを示す。
次に、高圧に対応するロッキングピストンの構成について詳しく説明する。
図4は高圧側のロッキングピストンで、このロッキングピストン4は、コネクティングロッド6の先端に一体に設けられてシリンダ2内を揺動しながら摺動する皿状のピストン本体18と、ピストン本体18の上部に設けられてピストン本体18よりもやや小径のリング押え20と、ピストン本体18とリング押え20との間に設けられてシリンダ2内面との間をシールするリップリング14とを備えている。リップリング14は合成樹脂、合成ゴム等の非金属材料から形成されている。
ピストン本体18の上面には円形凹部21が形成され、これに対し、リング押え20は円形状で、中央下部には円形凸部22が突出形成されている。そして、ピストン本体18の円形凹部21の内側にリング押え20の円形凸部22が嵌合し、リング押え20は上方から挿通された固定用ボルト23によってピストン本体18の上面に固定されている。リップリング14は円環状に形成され、中央開口部24(図2(a)参照)がリング押え20の円形凸部22に嵌合した状態で、上部のリング押え20と下部のピストン本体18との間に挟まれて固定されている。
リップリング14は、ピストン本体18とリング押え20との間に挟持されるドーナツ板状のベース部25と、ベース部25の外周端から斜め上方に起立形成されてピストン本体18とシリンダ2内面との間をシールするリップ部15とから構成されている。また、ベース部25とリップ部15との間には断面が円弧状に湾曲したコーナー部26が形成されている。このコーナー部26は、図5に示されるように、ベース部25とリップ部15の両外側面が接する外側コーナー部27と、ベース部25とリップ部15の両内側面が接する内側コーナー部28とから構成されている。そして、外側コーナー部27の曲率半径r1と内側コーナー部28の曲率半径r2とリップリング14の厚さtとの間には次のような関係がある。
r1<r2+t
つまり、外側コーナー部27の曲率半径r1は、内側コーナー部28の曲率半径r2にリップリング14の厚さtを加えた寸法よりも小さく形成されている。つまり、コーナー部26の厚さは、リップリング14のベース部25とリップ部15の厚さよりも大きくなるように設定されている。外側コーナー部27の曲率半径はゼロでもよい。
また、図6(a)のように、コーナー部の形状が曲線ではなく直線の面取り形状で外側コーナー部27も面取りよりも内側コーナー部28の面取りが大きくなるように設定してもよい。あるいは同図(b)のようにコーナー部26の厚さがベース部25、リップ部15の厚さより大きくなるようにコーナー部の曲率を小さく設定(外側コーナー部27が小さい曲率、内側コーナー部28は曲率ゼロ)にしてもよい。
これにより、ピストン本体18の上方からの内圧による応力が小さくなり、内圧による変形を抑制することができ、コネクティングロッドのピストン本体18とシリンダ2とリップリング14間にできるスペースSが小さくなる。
また、リップリング14の最外径はシリンダ2の内径よりも大きい。さらにいえば、リップリング14は、ピストン本体18の最大傾斜時に接するシリンダ2の内面の楕円の長径よりも大きく形成されている。このように、リップリング14には、シリンダ2に対してオーバーラップする部分があるから、シリンダ2とロッキングピストン3との間を確実にシールすることができる。高圧を受けたときに弾性変形しにくくなるよう、低圧側のロッキングピストン3のリップリング14のオーバーラップ量よりも小さくなるように形成されている。
さらに、ロッキングピストン4がシリンダ2に対して傾斜していない図4及び図5の状態において、上記リップリング14のベース部25の下面30は、上記内側コーナー部28の曲面の少なくとも内側エンド部28aと垂直に交わる部位29aからシリンダ2側にかけての領域でピストン本体18の上面と接面している。
また、リップリング14は、少なくともベース部25の上面31の延長31aがシリンダ2の内面と接する部位29bから上端にかけてシリンダ2と接面している。なお、図5の外側コーナー部27は図4の外側コーナー部27よりも湾曲しているものとして示されている。
以上のように、外側コーナー部27の内側エンド部27aは少なくとも上記交わり部位29aよりも外側に位置することになり、同様に、外側コーナー部27の外側エンド部27bは少なくとも上記上面延長対応部位29bよりも下側に位置することになるので、コネクティングロッド3のピストン本体18とシリンダ2とリップリング14との間にできるスペースSは小さくなるように抑制される。
次に、図3(c)及び図7に示されるように、ロッキングピストンの最大傾斜時には、上側はリップリング14とシリンダ2とのスペースが小さくなるが、この状態のときは、内側コーナー部28の外側エンド部28bと直角に交わる部位29cよりも下方の領域でシリンダ2と接触するように構成されている。
上述の構成によれば、リップリング14がシリンダ2の内面とは、少なくともコーナー部を含む領域、つまりリップリング14のベース部25とリップ部15の厚さよりも大きいコーナー部を含む領域で接触することになる。このように、ロッキングピストン4が傾いたり、傾動による慣性が働いたりすることによって発生するシリンダ2への横方向への押し付け力を、上記領域つまりリップリング14のコーナー部側で受けることにより、リップ部15が過度に変形するのを良好に抑えることができ、全体の強度を確保することができる。また、シリンダ2の内圧が上昇しても、リップ部15が外側へ張る力は低いのでリップリング14の摩耗量が低減する。また、最大傾斜時のオーバーラップ量が十分に確保されるので、外側に張る力はリップ部15の弾性により補なわれてシール性を確保することができる。
ところで、図7に示されるように、最大傾斜時において、上記リップリング14のリップ部15とリング押え20とのスペースD1は、ピストン本体18上部とシリンダ2間のスペースD2以下となっている。したがって、最大に傾斜した時でもピストン本体18またはリング押え20がシリンダに直接当たることがない。また、リング押え20の塑性変形量を抑えることができる。
また、図5に示されるように、リップリング14のベース部25の上面31は、上記内側コーナー部28の曲面の内側エンド部28aより適宜間隔lだけ中心側に離れた部位でリング押え20の下面と接触している。内側エンド部28aと上記接触開始部位との間はストレート部32で、このストレート部32はリング押え20の下面には接触しない離反領域として構成されている。その理由は、上記内側エンド部28aでリング押え20に直接に接触させると、コーナー部26に応力が集中してしまうためである。コーナー部26のほかに離反領域lを設けることによって応力が分散され、応力集中が起きないようにすることができる。
ところで、リップリング14のリップ部15の内周面とリング押え20の外周面との間には微小な隙間Qが形成されている。リップ部15とリング押え20との間の隙間Qは、シリンダ2内に組みつけられた状態で、例えば直径41mmのリップリングの場合、1mm以下とするのが好ましい。1mmを越えると、リップリングの変形量が大きくなりシリンダ2との摺動抵抗、つまり繰り返し応力が大きく、リップリング14の摩耗量が増加する。
さらに、ロッキングピストン4はシリンダ2内で揺動運動をするので、少なくともリング押え20の外周面33は、リップリング14によるシール部の中心を中心とする略球形の表面形状をなすように形成されている。リング押え20の外周面を規定する球状面の大きさは、シリンダ2の内径と同じ大きさ又はそれよりもわずかに小さい程度の直径を有する球面形状となっている。なお、上記球面形状は、リング押え20だけでもよいが、リップリング14とピストン本体18を含めた外周面に形成してもよい。
表面形状を略球状にすることにより、ロッキングピストン4の揺動運動に基づく慣性により発生した圧力上昇によって、リップリング14やリング押え20がシリンダ2に押し付けられて変形するのを効果的に抑制し、繰り返し応力を防ぎ、リップリング14の疲労を防ぐことができる。
ところで、図4に示されるように、リング押え20の円形凸部22の下面とピストン本体18の円形凹部21の上面とは、リップリング14のベース部25の内側で直接に当接している。このため、リング押え20とピストン本体18との間の間隔は一定となる。この間隔はベース部25の厚さよりも小さいが、その押圧力は一定であり、ベース部25は過度の押圧力で挟みつけられて変形することがない。また、リング押え20がピストン本体18から浮かないので、ロッキングピストン4の揺動運動に基づく慣性により発生した圧力上昇によって、リップリング14やリング押え20がシリンダ2に押し付けられたときに発生する固定用ボルト23への応力が緩和され、締め付けトルクの維持が可能となる。
また、リング押え20とピストン本体18とは、直接に当接する形態に限定されない。使用状態の圧力が作用したときに、リップリング14のベース部25の内側で中間材(図示せず)を介して当接するように構成してもよい。中間材としては、金属板のようなものでよく、また時間経過により硬化する接着剤を使用してもよい。
さらに、リング押え20の下面には、図5に示されるように、リップリング14のベース部25との接面部に押し当てる環状突起34が形成されている。リング押え20が固定用ボルト23によりピストン本体18に締め付けられてリング押え20の環状突起34がリップリング14のベース部25との接面部に強く押し当てられることにより、環状突起34が上記接面部に食い込むので、リップリング14がピストン本体18上で移動するのを防いでリップリング14を確実に固定する。そして、ピストン部とシリンダ2との間を良好にシールすることができる。
なお、高圧側の圧縮機のロッキングピストン4は、低圧側の圧縮機のロッキングピストン4よりも突起高さを高くするのが好ましい。
また、ピストン本体18の上面には、その円形凹部21の外周縁部に、リップリング14のベース部25の中央部に形成された円形の中央開口部の開口縁部を押し上げる環状突条35が形成されている。
これにより、リップリング14の開口縁部が環状突条35により押し上げられるから、ベース部25とリング押え20との間のスペースをなくして確実にシールすることができ、シリンダ2の上室の内圧がピストン部8の下部の下室に漏れることがない。
次に、コネクティングロッドは、図3(c)等に示されるように、揺動方向に幅広に形成されているが、さらに、コネクティングロッド6の幅方向と直交する方向には、図4に示されるように、リブ状の変形抑制部36が形成され、この変形抑制部36はピストン本体18の下面に接合されている。コネクティングロッド6が揺動方向に幅広に形成されていることにより、ピストン本体18も揺動方向に変形しにくくなっている。しかも、コネクティングロッド6には変形抑制部36が形成されているので、コネクティングロッド6はその揺動方向と直交する方向にも強化されているとともに、ピストン本体18も、同方向に変形しにくくなっている。圧力によるピストン本体18の変形は、揺動方向とこれに直交する方向とでは変形が大きく異なる。このために固定用ボルト23には大きな応力が発生する。しかし、リブ状の変形抑制部36によってこの応力を低減することができる。
また、変形制御部36は、図8(a)(b)のように、コネクティングロッド6の揺動方向に幅広に形成されているが、大端部側を狭く、小端部側を広くするとともに、大端部側には幅方向に直交する方向に変形抑制部36を形成するように構成してもよい。また、図9(a)(b)に示すように、コネクティングロッド6と変形抑制部36を大端部から小端部まで同じ大きさの断面十字型に形成してもよい。
また、図10に示されるように、ピストン本体18とリング押え20の外周面には、リップリング14と同等以上の強度を有する非金属製の保護部材37a、37bを設けるようにしてもよい。リップリング14がメンテナンス時間を過ぎても継続使用される場合があるが、このような場合でも、リップリング14が摩耗して金属製のピストン本体18又はリング押え20が直接にシリンダ2に接触して擦り合い、傷がついて圧縮効率が低下したり、故障したりする恐れがある。ところが、リップリング14と同様の非金属材からなる保護部材37a、37bを設けることにより、ピストン本体18又はリング押え20が接触する前に保護部材37a、37bが直接にシリンダ2と接触し、ピストン本体18又はリング押え20が直接にシリンダ2内面に接触して擦ることがないから、シリンダ2を保護することができる。なお、保護部材は37a、37bの一方にのみ設ける構成でもよい。
図11は高圧対応のロッキングピストンの他の実施形態を示すもので、このロッキングピストン4は、基本的構成は前述の形態と同じであるが、コネクティングロッド6の先端に一体に設けられてシリンダ2内を揺動しながら摺動する皿状のピストン本体18aと、ピストン本体18の上部に設けられてピストン本体18aよりもやや小径のライナー押え20aと、ピストン本体18aとライナー押え20aとの間に設けられてシリンダ2の内面との間をシールするシール部を構成するライナー38と、上記ライナー押え20aの外周に設けられたピストンリング39とを備えている。ピストン本体18aとライナー押え20aとは、それぞれ前述のピストン本体18とリング押え20に相当する部材である。また、ライナー押え20aとピストン本体18aとの取付け態様は、前述の形態のリング押え20とピストン本体18と同じである。
ライナー38の外周面40は、シリンダ2の内径と同じかそれよりもわずかに小さい程度の直径を有する略球形の表面形状をなすように形成されている。この球面形状により、ロッキングピストン4の揺動運動に基づく慣性により発生した圧力上昇によって、ライナー38やライナー押え20aがシリンダ2に押し付けられたときの押圧力によって変形するのを効果的に抑制することができ、また繰り返し応力を防ぎ、ライナー38の疲労を防ぐことができる。
また、ピストンリング39は連続したものではなく、一部がカットされ、リング押え20の外周に形成された収納溝42に遊びをもって収納されている。このため、ピストンリング39は収納溝42内で径方向に伸縮することが可能となっている。したがって、ピストン本体18aとライナー押え20aが背圧を受けたときにピストンリング39は外方に押し広げられるので、ピストン本体18aとライナー押え20aが傾いてもライナー38によって線シールを維持することができる。また、強度的に十分な厚みがとれるので、寸法公差は大幅に緩和される。
ライナー38とピストンリング39も、保護部材37と同様の非金属材から構成されている。また、ピストンリング39の周面も略球面である。
なお、図12は上述の多段圧縮機を搭載したエアコンプレッサで、43はモータ、44は多段圧縮機である。低圧側の圧縮機47で圧縮された空気はエアホース45を介して高圧側の圧縮機46に供給され、この圧縮空気はさらに高圧側の圧縮機46で圧縮され、エアホース48を介してエアタンク49に貯留されるように構成されている。そして、上記エアコンプレッサの底部にはモータの制御部品を取り付けたプリント基板50が配置されている。プリント基板50の下部には制御機器52が配置され、また両側部は上方に折り曲げられている。この折り曲げ部51は基板全体の反りを防いで強度を確保するためとこの両側部内側を冷却ファン53による風が流れることによって放熱を促進させる機能を有する。なお、プリント基板50の下面には、図示しないが、ポッティング加工が施されている。