JP2013227615A - ピニオンシャフト - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ピニオンシャフト5は、動体と摺動する表面に、浸炭窒化処理と波焼入れと焼戻しとが施され硬化されてなる表層部が形成されており、その表面硬さHvは650以上900以下とされ、表層部の残留オーステナイト量は20体積%以上50体積%以下であり、平均残留オーステナイト量は10体積%以下であり、両端部を高周波にて600℃〜A1変態点未満で焼戻しによる軟化処理を施し、その硬さがHv150〜350である。
【選択図】図2
Description
ピニオンシャフトの端部をキャリアに固定する場合の手段の一つとして、ピニオンシャフトの端部をキャリアに挿通したうえで、当該ピニオンシャフトの端部を加締めることが知られている。
まず、ピニオンシャフトに浸炭窒化処理を施した後、焼入れを行う。次に、第一焼戻しを行う。この第一焼戻しの処理温度が300℃以上である場合は調質(高温焼戻し)であり、300℃未満である場合は低温焼戻しである。次に、転走面となる部分のみに高周波焼入れを施し、最後に第二焼戻し(低温焼戻し)を施す。
このようにして、ピニオンシャフトに硬化層(ローラ転送面)と非硬化部(加締め部)を確保している。
前記転動体と摺動する表面に、浸炭窒化処理と波焼入れと焼戻しとが施され硬化されてなる表層部が形成され、
両端部に、高周波の焼戻しによる軟化処理が施されていることを特徴とする。
図1に示す遊星歯車機構は、自動車用オートマチックトランスミッション等の遊星歯車機構に好適に使用されるものであり、図示しない軸が挿通されたサンギア1と、該サンギア1と同心に配されたリングギア2と、サンギア1およびリングギア2に噛み合いサンギア1の周りを公転する1個以上(図1においては3個)のピニオンギア3と、サンギア1およびリングギア2と同心に配されピニオンギア3を回転自在に支持するキャリア4と、を備えている。
ピニオンシャフト5には、浸炭窒化焼入れ、焼戻しが施されているので、その外周面には硬化された表層部が形成されていて、表面硬さHvが650以上900以下とされている。よって、外周面のうちニードルローラと摺動する部分(転動面)も、硬化された表層部(焼入れ硬化部5aが形成されている。さらに、ピニオンシャフト5の両端部は高周波焼戻しが施されて、非硬化部5bとなっている。この高周波焼戻しでは、高周波にて600℃〜A1変態点未満で焼戻しによる軟化処理を施すことによって、ピニオンシャフト5の両端部の硬さがHv150〜350とされている。
また、材料成形性がよく、かつ、使用条件が過酷な環境下でも熱変形曲がりが小さく、さらに加工コストを抑えることができる。
〔炭素の含有量について〕
炭素(C)は、基地に固溶して焼入れ、焼戻し後の硬さを向上させて強度を向上させるとともに、鉄、クロム、モリブデン、バナジウム等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成し耐摩耗性を高める作用を有する元素である。
耐転動疲労性に必要な硬さを得るために行う浸炭窒化処理の時間が長くなるとコストアップを招くことから、処理時間の短縮のために、炭素の含有量は0.1重量%以上である必要がある。ただし、0.5重量%超過であると、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成されやすくなり、転動疲労寿命や強度が低下する場合がある。また、炭素量が0.5重量%超過であると鍛造性、冷間加工性、被削性が低下して、加工コストの上昇を招く場合がある。さらに、炭素量が0.5重量%超過であると、芯部の残留オーステナイトが多くなり、熱変形曲がりが大になって、転動疲労寿命が低下するとともに、棒材成型性が悪く、特に軸径φ15mm以下は塑性加工困難で成型時に割れやクラックが発生する。
クロム(Cr)は、基地に固溶して焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性、耐食性,および転動疲労寿命を高める作用を有する元素である。また、炭素,窒素等の侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。さらに、合金鋼中に微細に分布する炭化物が、より高硬度の(Fe,Cr)3C、(Fe,Cr)7C3、(Fe,Cr)23C6等の炭化物からなるために、耐摩耗性を高める作用も有している。さらに、残留オーステナイトが熱により分解しにくくなり、結果として塑性変形し難い。
モリブデン(Mo)は、クロムと同様に基地に固溶して焼入れ性,焼戻し軟化抵抗性,耐食性,および転動寿命を高める作用を有する元素である。また、クロムと同様に炭素,窒素等の侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。さらに、合金鋼中に微細に分布する炭化物が、より高硬度のモリブデンの炭化物等からなるために、耐摩耗性を高める作用も有している。
マンガン(Mn)は、製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.1重量%以上添加する必要がある。また、クロムと同様に基地に固溶してMs点を降下させて、多量の残留オーステナイトを確保したり、焼入れ性を高める作用を有している。ただし、多量に添加すると、冷間加工性、被削性が低下するだけでなく、マルテンサイト変態開始温度が低下して、浸炭窒化後に多量の残留オーステナイトが残存し十分な硬さが得られない場合がある。このため、マンガン(Mn)の添加量は1.5重量%以下にする必要がある。
ケイ素(Si)は、マンガンと同様に製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.1重量%以上添加する必要がある。また、クロム,マンガンと同様に焼入れ性を向上させるとともに、基地のマルテンサイト化や残留オーステナイトの安定化を促進し、軸受寿命の向上に有効な元素である。さらに、焼戻し軟化抵抗性を高める作用も有している。ただし、多量に添加すると、鍛造性、冷間加工性、被削性および浸炭処理性が低下する場合がある。このため、ケイ素(Si)の添加量は1.5重量%以下にする必要がある。
最後に、ピニオンシャフトの両端部に、高周波にて600℃〜A1変態点未満で焼戻しによる軟化処理を施した。
合金鋼製の線材を旋削加工することにより得た円柱状部材に、820〜950℃で3〜5時間浸炭窒化処理を施した後に、150〜780℃,2時間の条件で焼戻し(高温焼戻し)を施す。浸炭窒化処理は、RXガス,エンリッチガス,アンモニアガスを含有する雰囲気下で行う。
次に、900〜950℃,1秒〜20秒の条件で高周波焼入れを施し、最後に150〜180℃,1.5時間の条件で焼戻し(低温焼戻し)を施す。
ピニオンシャフトを日本精工株式会社製のプラネタリニードル試験機に装着した。すなわち、ピニオンギアの中心穴にピニオンシャフトを挿通し、ピニオンシャフトの外周面とピニオンギアの内周面との間に、複数のニードルローラを転動自在に介装した。これにより、ピニオンギアはピニオンシャフトを軸として回転自在とされる。また、ニードルローラは、JIS鋼種SCM415製の保持器で保持されてケージアンドローラとされている。なお、保持器には浸炭窒化処理が施されている。
・基本動定格荷重C:15400N
・基本静定格荷重C0:16600N
・ラジアル荷重:6000N
・ピニオン自転数:8000rpm
・計算寿命L10=49時間
・潤滑油の種類:オートマチックトランスミッションフルード
・潤滑油量:10cc/min/ピニオン
・潤滑油の温度:100℃
比較例3は、平均残留オーステナイト量が多いため、耐摩耗性、耐転動疲労性、耐熱性が不十分となって、転動疲労寿命が短くなった。
比較例4は、表層部の残留オーステナイト量が少なく、表面疲労を緩和する応力集中軽減効果が不十分であり、さらに、表面硬さがHv650未満であるため、耐摩耗性、耐転動疲労性、耐熱性が不十分となって、転動疲労寿命が短くなった。また、表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が高いため、耐摩耗性の向上に対しては有利であるが、初析炭化物がネット状に発生して転動疲労寿命が低下した。
比較例6は、表層部の残留オーステナイト量が少なく、表面疲労を緩和する応力集中軽減効果が不十分であるため、転動疲労寿命が短くなった。
サーフコム形状測定機を用いて、前述の転動疲労寿命試験を終えた後のピニオンシャフトの曲がり量を測定した。測定値は、ピニオンシャフトの両端部を結ぶ線と該線から最も離れた部分との間の荷重負荷方向(ピニオンシャフトの軸方向に垂直な方向)の距離である。結果を表2に示す。
比較例3では、平均残留オーステナイト量が多いため、塑性曲がりが大きくなったと思われる。
比較例6では、表層部の残留オーステナイト量は少ないものの、浸炭窒化処理がされていないので、塑性曲がりが大きくなったと思われる。
加締め部の耐久性を確認するため、加締め割れ試験および加締め部疲労試験を行った。加締め割れ試験はピニオンシャフトをキャリアに固定するとき靭性不足により加締め部クラックや割れの発生有無を確認し、加締め部疲労試験はピニオンシャフトをキャリアに固定した状態で強度不足により加締め部破損の発生有無を確認した。
加締め割れ試験は、日本精工株式会社製の加締めプレス試験機にて、加締め荷重2.0t、加締めスピード45mm/secの同一条件で行った。結果を表2に示す。
ピニオンシャフト端面部硬さHv350以下の実施例および比較例において、加締め部破損は認められなかった。比較例1はピニオンシャフト端面部硬(加締め端部硬さ)がHv350より大きく、靭性不足により加締め部に亀裂が確認された。
ピニオンシャフト端面部硬さHv150以上の実施例および比較例において、加締め部破損は認められなかった。
比較例2はピニオンシャフト端面部硬(加締め端部硬さ)がHv150より低く、強度不足により加締め部が変形し加締め固定部から離脱した。
2 リングギア
3 ピニオンギア
4 キャリア
5 ピニオンシャフト
6 ニードルローラ
Claims (4)
- 相手部材である転動体に対して相対的に転動する合金鋼製のピニオンシャフトにおいて、
前記転動体と摺動する表面に、浸炭窒化処理と波焼入れと焼戻しとが施され硬化されてなる表層部が形成され、
両端部に、高周波の焼戻しによる軟化処理が施されていることを特徴とするピニオンシャフト。 - 前記表層部の残留オーステナイト量が0体積%以上50体積%以下であり、
平均残留オーステナイト量が10体積%以下であることを特徴とする請求項1に記載のピニオンシャフト。 - ピニオンシャフトが、炭素を0.1重量%以上0.5重量%以下、クロムを2重量%以上5重量%以下、モリブデンを0.1重量%以上1.5重量%以下、マンガンを0.1重量%以上1.5重量%以下、ケイ素を0.1重量%以上1.5重量%以下含有する合金鋼で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のピニオンシャフト。
- 浸炭窒化された転動体と摺動する表面の炭素濃度と窒素濃度の和が0.8重量%以上2.0重量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のピニオンシャフト。
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