以下、図面を参照しつつ本発明の2サイクルエンジンに係る実施形態について詳細に説明する。
図1は本発明の2サイクルエンジンに係る実施形態のシリンダブロックの断面図、図2は図1中のII-II断面図、図3は図2中のIII-III断面図である。
図1〜3に示すように、エンジン(2サイクルエンジン)100は、掃気方法としてシニューレ方式を採用した2サイクルエンジンであり、例えば刈払機や背負動力散布機等に装備される。エンジン100では、シリンダブロック1に対して、燃焼室2、吸気孔3、排気孔4、一対の吸気側掃気孔5a,5b及び一対の排気側掃気孔6a,6bが形成されている。
燃焼室2は、略円形状の内面を呈し、シリンダブロック1内を軸線A方向に沿って延在している。図1,2に示すように、燃焼室2は、その下死点側(図において下側)が開放されており、不図示のクランク室と連通されている。燃焼室2の上死点側の端部には窪み21が形成されており、窪み21の内部には不図示の点火プラグ等の放電電極が配置される。なお、窪み21には、シリンダブロック1の外部と連通し点火プラグが取り付けられる点火プラグ取付孔22が設けられている。
吸気孔3及び排気孔4は、図1〜図3に示すように、それぞれ燃焼室2と連通されており、軸線A方向において、排気孔4が吸気孔3よりもやや上死点側に配置されている。吸気孔3及び排気孔4は、燃焼室2の径方向において互いに対向するように、燃焼室2の周方向に互いに略180°ずらされて配置されている。径方向において吸気孔3と排気孔4とを結ぶ線は、仮想線Cとされている。
吸気側掃気孔5a,5bは、掃気工程において、燃料を含有する新気ガス(作動ガス)を燃焼室2に導入するためのものであり、シリンダブロック1の側壁内部を軸線A方向に沿って延在している。吸気側掃気孔5a,5bの上死点側の端部は、軸線A方向において、排気孔4と略同様な位置で燃焼室2にそれぞれ連通しており、図3に示すように、それぞれ吸気側掃気開口部51a,51bとされている。この吸気側掃気開口部51a,51bは、仮想線Cを対称軸として略線対称に配置されており、燃焼室2に導入する新気ガスが吸気孔3寄りに向かうように、仮想線Cに対して鋭角をなすように設けられている。吸気側掃気孔5a,5bは、その下死点側の端部が上述のクランク室と連通されている。
図1,2に戻り、排気側掃気孔6a,6bは、掃気工程において、作動ガスよりも燃料の含有率が低い燃焼後の排気ガスであるEGRガス(非作動ガス)を燃焼室2に導入するためのものであり、シリンダブロック1の側壁内部を軸線A方向に沿って延在している。排気側掃気孔6a,6bの上死点側の端部は、軸線A方向において、排気孔4と略同様な位置で燃焼室2にそれぞれ連通しており、それぞれ排気側掃気開口部61a,61bとされている。ここで、図1に示すように、一方の排気側掃気開口部61aの上死点側の端縁は、他方の排気側掃気開口部61bの上死点側の端縁よりも、距離dだけ上死点側の位置に形成されている。
図3に示すように、排気側掃気開口部61a,61bは、仮想線Cを軸として非対称に設けられており、燃焼室2に導入するEGRガスが吸気孔3寄りに向かうように、仮想線Cに対して鋭角をなすように設けられている。より具体的には、一方の排気側掃気開口部61aの吸気孔3側の内壁62aと、他方の排気側掃気開口部61bの吸気孔3側の内壁62bとは、ここでは、仮想線Cを対称軸として略線対称に設けられ、それぞれ仮想線Cと鋭角をなしている。一方、一方の排気側掃気開口部61aの排気孔4側の内壁63aと、他方の排気側掃気開口部61bの排気孔4側の内壁63bとは、ここでは、仮想線Cを軸として、非対称に設けられている。詳述すると、一方の内壁63aと仮想線Cとがなす角度αと、他方の内壁63bと仮想線Cとがなす角度βとは、ともに鋭角とされており、角度αは角度βよりも小さくされている。このような構成により、一方の排気側掃気孔6aからのEGRガスの衝突角は、他方の排気側掃気孔6bからのEGRガスの衝突角よりも小さくなるようにされている。なお、衝突角とは、一対の掃気孔からそれぞれ燃焼室に導入されるガスが互いに衝突する際に、吸気孔及び排気孔を結ぶ仮想線(仮想線C)と、各掃気孔からのガス流とが、互いになす角のことをいう。
一方の排気側掃気開口部61aでは、吸気孔3側の内壁62aと、排気孔4側の内壁63aとは、互いに略平行に設けられている。一方、他方の排気側掃気開口部61bでは、吸気孔3側の内壁62bと、排気孔4側の内壁63bとは、燃焼室2に近づくほど離れていくように設けられている。すなわち、一方の排気側掃気開口部61aは、他方の排気側掃気開口部61bよりも、小さくされている。これにより、一方の排気側掃気開口部61aからのガス流は、他方の排気側掃気開口部61bからのガス流に比して、勢いを維持した状態で燃焼室2に導入されることとなり、その流速が大きくされている。
図4は、図3のシリンダブロックをピストンと共に示す断面図であり、ピストン7が上死点近傍に位置する状態での断面図である。図4に示すように、ピストン7において、燃焼室2と摺接する摺接面71には、円周方向に沿った一対の溝部72a,72bが設けられている。この溝部72a,72bは、ピストン7が上死点近傍に位置する際に、排気孔4と各排気側掃気孔6a,6bとを連通させるためのものであり、仮想線Cを対称軸として略線対称に配置され、排気孔4と各排気側掃気開口部61a,61bとに跨るように形成されている。
次に、エンジン100の動作について説明する。
図5は図1の2サイクルエンジンにおける掃気工程のフローを示す断面図であり、図5(a)は排気孔が燃焼室と連通した状態を示す断面図、図5(b)は一方の排気側掃気孔が燃焼室と連通した状態を示す断面図、図5(c)は全ての掃気孔が燃焼室と連通した状態を示す断面図、図5(d)はピストンが下死点に位置する状態を示す断面図である。
エンジン100では、まず、上死点近傍において、ピストン7の溝部72a,72bにより、排気孔4と各排気側掃気孔6a,6bとが連通され、排気孔4から溝部72a,72bを介してEGRガスが排気側掃気孔6a,6bにそれぞれ充填される。
続いて、図5(a)に示すように、ピストン7が上死点から下死点に向かって移動していくと、排気孔4が燃焼室2と連通され、燃焼室2の燃焼済みのガスが排気孔4から排気される。
続いて、図5(b)に示すように、ピストン7がさらに下死点側に移動すると、他の掃気孔に比して上死点側まで開口された一方の排気側掃気孔6aが燃焼室2と連通され(図1参照)、排気側掃気孔6aに充填されていたEGRガスが燃焼室2に導入される。
続いて、図5(c)に示すように、ピストン7がさらに下死点側に移動すると、他方の排気側掃気孔6bが燃焼室2と連通されて排気側掃気孔6bに充填されていたEGRガスが燃焼室2に導入されると共に、吸気側掃気孔5a,5bがそれぞれ燃焼室2と連通されて新気ガスが燃焼室2に導入される。
続いて、図5(d)に示すように、ピストン7が下死点まで移動すると、掃気ガス(EGRガス、新気ガス)の燃焼室2への導入が終了する。この際、上述のように、一方の排気側掃気孔6aは他方の排気側掃気孔6bに比して早く燃焼室2と連通されるため、一方の排気側掃気孔6aからのEGRガスは、他方の排気側掃気孔6bからのEGRガスに比して、その流量が大きくなる。また、上述しように、一方の排気側掃気孔6aからのEGRガスは、他方の排気側掃気孔6bからのEGRガスに比して、勢いを維持した状態で燃焼室2に導入されるため、その流速が大きくなる。さらに、衝突角の小さい一方の排気側掃気孔6aから燃焼室2に導入されたEGRガスは、衝突角の大きい他方の排気側掃気孔6bから燃焼室2に導入されたEGRガスに比して、燃焼室2の内壁の周方向に沿った流れを起こしやすくなる。
図6は図5に続くフローを示す断面図であり、図6(a)は各掃気ガスが衝突する状態を示す断面図、図6(b)は作動ガスによる反転渦及び非作動ガスによるスワールが生成される状態を示す断面図、図6(c)は非作動ガス層が吹き抜ける状態を示す断面図、図6(d)は排気孔が閉じられた状態を示す断面図である。
図6(a)に示すように、各掃気ガスが仮想線C付近に達すると、吸気側掃気孔5a,5bからの新気ガスが互いに衝突すると共に、排気側掃気孔6a,6bからのEGRガスが互いに衝突する。
続いて、図6(b)に示すように、仮想線Cを対象軸として略線対称な吸気側掃気孔5a,5bから導入されて衝突した新気ガスは、その流量及び流速が略同様であるためそれぞれ反転し、互いに逆向きに回転する二つの渦(反転渦)が発生する。このようにして、新気ガスによる反転渦状の新気ガス層が生成される。
一方、仮想線Cを軸として非対称な排気側掃気孔6a,6bから導入されて衝突したEGRガスは、上述したように、一方の排気側掃気孔6aからのEGRガスが他方の排気側掃気孔6bからのEGRガスに比してその流量及び流速が大きく且つ燃焼室2の内壁の周方向に沿った流れとなっているため、一方の排気側掃気孔6aからのEGRガスが他方の排気側掃気孔6bからのEGRガスに勝り、これらのEGRガスが合流して一つの渦(水平方向回転渦、スワール)が発生する。このようにして、EGRガスによるスワール状のEGRガス層が生成される。
このように、エンジン100では、吸気側掃気孔5a,5bからの新気ガスにより反転渦状の新気ガス層が生成される一方、排気側掃気孔6a,6bからのEGRガスにより反転渦とは異なる流れのスワール状のEGRガス層が生成されるため、新気ガス層とEGRガス層とが混じり合い難くなる。また、排気孔(4)側にスワール状のEGRガス層が生成されるため、このスワール状のEGRガス層がバリアとなって、吸気側掃気孔5a,5bからの新気ガスが排気孔4から抜け出すことが好適に抑制される。
続いて、図6(c)に示すように、新気ガス層が拡大するに伴って、EGRガス層が排気孔4から好適に吹き抜ける。
続いて、図6(d)に示すように、下死点から上死点に移動するピストン7により、排気孔4が燃焼室2に対して閉じられる。この際、EGRガス層の大部分は排気孔4から好適に吹き抜けており、一方、燃焼室2に留まった新気ガス層には上述のようにEGRガスはほとんど混じっていないため、燃焼室2には新気ガス層が好適に残されることとなる。そして、新気ガス層が好適に残された状態で次の燃焼行程が実施される。
以上、本実施形態に係るエンジン100では、一対の吸気側掃気孔5a,5bにより、反転渦状の作動ガス層が形成されると共に、一対の吸気側掃気孔5a,5bよりも排気孔4側に形成された一対の排気側掃気孔6a,6bにより、スワール状の非作動ガス層が形成される。従って、排気孔4側に形成される非作動ガス層により、作動ガスが排気孔4から抜け出すことが抑制され、吹き抜けを好適に抑制できる。
ここで、一対の吸気側掃気孔5a,5b及び一対の排気側掃気孔6a,6bが仮想線Cに対してそれぞれ略線対称に設けられている従来の2サイクルエンジンにおいては、新気ガスの吹き抜けを減らすために、EGRガスの量を増やすことが考えられる。しかし、EGRガスの量を単に増やすだけでは、新気ガスとEGRガスとが混じり合い、ピストン7により排気孔4が閉じられた後に燃焼室2にEGRガスが残ってしまい、吸気効率(排気孔が閉じられた状態において燃焼室に導入されている燃料の重量と、エンジンに供給される燃料の重量との割合)の低下を招くおそれがある。また、このように排気孔4が閉じられた後にEGRガスが燃焼室2に残った状態で次の燃焼行程が実施されると、吸気比(エンジンに供給される燃料の重量と、行程容積分の空気の重量との割合)の低下に起因するエンジン出力の低下を招くおそれがある。
これに対し、本実施形態に係るエンジン100では、上述のように、吸気側掃気孔5a,5bからの新気ガスによる反転渦状の新気ガス層と、排気側掃気孔6a,6bからのEGRガスによるスワール状のEGRガス層とが異なる流れとなっているため、新気ガス層とEGRガス層とが混じり合い難く、ピストン7により排気孔4が閉じられた後に燃焼室2にEGRガスが残ることが抑制される。従って、吸気孔率の低下やエンジン出力の低下を抑制することができる。また、エンジン100では、このように新気ガス層とEGRガス層とが混じり合い難いため、新気ガスがEGRガスと混じり合ってEGRガスと共に排気孔4から抜け出すことが抑制され、吹き抜けをさらに好適に抑制できる。
また、エンジン100では、一対の排気側掃気孔6a,6bのうち一方の排気側掃気孔6aが他方の排気側掃気孔6bよりも非作動ガスの衝突角が小さくされていることにより、一方の排気側掃気孔6aからのEGRガスが他方の排気側掃気孔6bからのEGRガスに比して燃焼室2の内壁に沿った流れとなり、これにより、スワール状のEGRガス層が形成される。このような簡易な構成により、スワールを好適に発生させることができる。
また、エンジン100では、燃焼室2の軸線A方向において、一方の排気側掃気孔6aの上死点側の端縁が他方の排気側掃気孔6bの上死点側の端縁よりも上死点側の位置に形成されていることにより、一方の排気側掃気孔6aからのEGRガスが他方の排気側掃気孔6bからのEGRガスに比してその流量が大きくなり、これにより、スワール状のEGRガス層が形成される。このような簡易な構成でも、スワールを好適に発生させることができる。
また、エンジン100では、一方の排気側掃気開口部61aが他方の排気側掃気開口部61bよりも小さくされていることにより、一方の排気側掃気孔6aからのEGRガスが他方の排気側掃気孔6bからのEGRガスに比してその流速が大きくなり、これにより、スワール状のEGRガス層が形成される。このような簡易な構成でも、スワールを好適に発生させることができる。
次に、本実施形態に係るエンジン100の効果を確認するための実験の結果について説明する。
図7は燃料流量(エンジンに供給される燃料の流量)及びTHCの関係を示すグラフ、図8は燃料流量及び出力の関係を示すグラフである。図7及び図8中の実線は、本実施形態に係るエンジン100のように、排気側掃気孔6a,6bが仮想線Cを軸として非対称に設けられている2サイクルエンジンの結果を示している。また、図7及び図8中の破線は、従来の2サイクルエンジンのように、排気側掃気孔6a,6bが仮想線Cを対称軸として対称に設けられている2サイクルエンジンの結果を示している。
図7に示すように、本実施形態に係るエンジン100では、従来の2サイクルエンジンに比して、THCを好適に低減できる。
また、図8に示すように、本実施形態に係るエンジン100では、従来の2サイクルエンジンに比して、エンジンの出力を好適に増加できる。
以上、本発明の2サイクルエンジンに係る実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態では、排気側掃気孔6a,6bは、上死点近傍において、ピストン7の溝部72a,72bにより排気孔4と連通されることでEGRガスが充填され、掃気工程において、EGRガスを燃焼室2に導入するように構成されているが、このような構成に限られない。例えば、シリンダブロック1に対して外部の大気空間と連通する空気通路を設け、排気側掃気孔6a,6bは、上死点近傍において、溝部72a,72bにより空気通路と連通されることで空気が充填され、掃気工程において、空気を含有し新気ガスよりも燃料の含有率が低いガスを燃焼室2に導入するように構成されていてもよい。
また、上記実施形態では、一方の排気側掃気孔6aは、他方の排気側掃気孔6bよりも、EGRガスの流量及び流速の双方が大きくされているが、少なくともいずれか一方が大きくされていればよい。また、必ずしも、一方の排気側掃気孔6aが、他方の排気側掃気孔6bよりも、EGRガスの衝突角が小さくされている必要はない。要は、一方の排気側掃気孔6aからのEGRガスが、他方の排気側掃気孔6bからのEGRガスに勝り、スワールが発生すればよい。
また、排気側掃気孔6a,6bの衝突角α,βの値は、ガスの流速や燃焼室2の径(シリンダボア径)等に基づいて、適宜変更が可能である。