JP2013170315A - 強靱超硬合金及び被覆超硬合金 - Google Patents

強靱超硬合金及び被覆超硬合金 Download PDF

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Abstract

【課題】 クロム(Cr)を微量含有させつつ、従来よりも抗折力や圧縮強度を高めるとともに疲労強度をも高めた強靱超硬合金を提供する。
【解決手段】 強靭超硬合金は、炭化タングステン(WC),コバルト(Co)及びクロム(Cr)を含有し、WCの平均粒度が1.5〜20.0μm、ビッカース硬度が650〜1650Hvであり、Coが4〜30質量%含有し、CrがCo含有量の2〜18質量%含有し、残部がWC及び不可避不純物よりなり、Cu‐Kα線を用いたCo相のfccの(111)面のX線回折像(2θ=44.3度)とhcpの(002)面のX線回折像(2θ=44.9度)が重なりあったX線回折像の半価巾が0.42度以下であり、Co相のfccの格子定数が3.560Å以上となっている。
【選択図】 図1

Description

本発明は、強靱超硬合金及び被覆超硬合金に関する。
従来、炭化タングステン(WC)粒子と結合金属としてのコバルト(Co)とを適切な割合で混合し焼結させた超硬合金が知られている。WC粒子とCoを混合し焼結させた超硬合金(Cemented Carbide)は、高硬度かつ高強度であることなどから、切削工具や金型などの超硬工具を製造するための材料として使用されている。
最近の冷間或いは熱間鍛造加工では超硬合金製金型に対し、ますます負荷も大きく且つ長寿命が要求されるようになっている。切削工具においても同様であり、被覆超硬合金(Coated Cemented Carbide)の開発もこの要求に沿ったものである。切削条件の高速化、高負荷化に伴い、被覆超硬合金の母材にも硬さ、耐塑性変形性、高強度に耐えるものが要求されてきている。これら超硬合金は切削工具や金型、鉱山工具や耐磨耗工具等幅広く使われている。
特許文献1には、超硬合金において、クロム(Cr)或いは炭化クロム(通常はCr)を添加することで、WCの成長抑制や耐食性の向上が見込めるとの記述がある。
特許文献2には、Crが結合相を固溶強化し、超硬合金製切断刃の耐摩耗性を向上させるとの記述がある。
特許文献3には、Coを含む鉄族金属(Fe、Co、Ni)の結合相中にWCを主体とする硬質相が分散された超硬合金を、加熱温度が1200〜1300℃まで加熱した後、直ちに急冷することによって、Coの格子状数が3.570Å以上となり、抗折力は変わらないが、衝撃強度を向上できるとの記述がある。
非特許文献1には、WC−Cr−15%Coの超硬合金においてCrが2質量%までの添加では、抗折力(Transverse-Rupture-Strength; TRS)がほとんど変わらないが、それ以上の添加量ではかなり低下するとの記述がある。
特公昭62−56224号公報 特許第3175077号公報 特許第4537501号公報
"WC−Cr3C2−15%Co超硬合金の組織と機械的性質", 鈴木寿,徳本啓,「粉体および粉末冶金」第31巻第2号 1984年2月 "熱間静水圧燒結したWC−12%Co合金の疲労"藤原由雄,植田文洋,正富宏明,鈴木寿,「粉体および粉末冶金」第27巻第6号 1980年8月
特許文献3では、WC−Co合金(Crを含まない)を加熱した後、直ちに急冷することによって、Co相の六方最密充填構造(hcp)を減少させるとともに、Coの格子状数が3.570Å以上となり、抗折力は変わらないが、衝撃強度を向上できるとしている。
しかし、そのような性能向上をさせるには冷却速度が1000℃/分以上の急冷が必要であると述べている。このような急冷は小さい製品や試験片或いはCo含有量が多く硬度が低い合金には適用可能であるが、一般に実用されている硬度が高い合金製品に適用しようとすると亀裂が発生するか、亀裂の発生が回避できたとしても内部応力の残留等によって信頼性が低下する危険がある。また、本願が対象としているクロム(Cr)は含有されておらず、当然ながら、Crを添加しCrを含有させた場合の超硬合金に対する影響やその効果については言及していない。
そして、従来の技術的な見解では、クロム(Cr)或いは炭化クロム(通常はCr)を添加することで、WCの粒成長抑制や耐食性の向上、特殊切断刃における耐摩耗性の向上が見込まれているが(特許文献1,2)、微量の添加では抗折力(TRS)がほとんど変わらないが、添加量を増加させると抗折力(TRS)が低下するとされている(非特許文献1)。
コバルト(Co)は420℃付近に変態点があり、その温度以上ではfccが安定状態であり、それ以下ではhcpが安定状態である。しかし、超硬合金ではWC等の炭化物相が多くてCo相が少なく薄いため、変態が抑制され、高温の焼結温度から温度が420℃以下や室温に冷却されてもfccが多く残存し、fccとhcpが混在しているのが通常である。fcc構造はhcp構造より延性に富むことから、硬いが延性に劣るWC等の炭化物を結合するCo相(結合相)にはfccのほうが適していると考えられる。また、前記超硬合金は多くの用途で疲労強度も要求されるが、非特許文献2によると疲労が進行するとfccがhcpに変態しhcp/fcc比が増大し遂には破壊に至るのではないかということが推定される。
このような実情に鑑みて、本発明の目的は、炭化タングステン(WC),コバルト(Co)及びクロム(Cr)を含有する超硬合金に関し、クロム(Cr)を微量含有させつつ、従来よりも抗折力や圧縮強度を高めるとともに疲労強度をも高めた強靱超硬合金並びに被覆超硬合金を提供することにある。
本発明の強靭超硬合金は、炭化タングステン(WC),コバルト(Co)及びクロム(Cr)を含有し、WCの平均粒度が1.5〜20.0μm、ビッカース硬度が650〜1650Hvであり、Coが4〜30質量%含有し、CrがCo含有量の2〜18質量%含有し、残部がWC及び不可避不純物よりなり、hcp構造のCoを少なくするために、CrをCo中に固溶させて、Cu‐Kα線を用いたCo相のfccの(111)面のX線回折像(2θ=44.3度)とhcpの(002)面のX線回折像(2θ=44.9度)が重なりあったX線回折像の半価巾を0.42度以下としたことを特徴とする。ここで、前記X線回折像は、Cu‐Kα線を用いた回折角度2θでのX線回折像である。
本発明では、CrをCo中に固溶させCo相(γ相とも呼称される)を強化させ、また靱性を向上させることにより超硬合金の強度を向上させるものである。Co相の強化と改質ではWC粒子間のCo層の厚みがある程度厚くないと、超硬合金の強度向上に寄与し難い。よって、Co質量%がある程度以上であるときに強度向上の効果が期待され、また、Co質量%が少ない場合はWC粒子が大きいときに強度向上の効果が期待されることから、それらの領域で超硬合金のCrの微量添加による効果を詳しく実験した。そして、Crを添加することによりCo相のfcc/hcp比を増大させ易くなることを発見するとともに、このCr添加効果を活用してfcc/hcp比を増大させた合金がその抗折力や圧縮強度等の強度が向上することを発見し、この合金を使用した耐衝撃工具、耐磨耗工具、切削工具において従来品に比較して大幅な性能向上を見出したものである。本発明に関する実験によれば、WCの平均粒度が1.5μm未満ではCo層の厚みが小さくなることに起因して改善はみられなかった。そこで、WCの平均粒度が1.5μm以上にて、Co質量%を変化させて抗折力、圧縮強度を調査した。Co質量%が4質量%以下或いはビッカース硬度が1650Hvを超える場合はやはりCo層の厚みが小さくなることから改善効果がなかった。また、ビッカース硬度が650Hvを下回る場合は超硬合金の実用性がほとんどない。
本発明では、CrのCo含有量に対する割合が、2〜18質量%に設定される。2質量%を下回る場合はCrの効果が現れず、18質量%より大きい場合はCrの結晶が出現し超硬合金の強度はかえって低下したからである。後述する実験結果によれば、本発明に係る超硬合金は、従来品よりも圧縮強度が大きくなるとともに、破壊靭性が大きくなることが判明しており、また、本発明に係る超硬合金は、従来品よりもビッカース硬度が大きくなるとともに、抗折力が大きくなることが判明している。
本発明は、前記WCの一部をTiC、TaC、NbC、HfC、ZrC、VC等の遷移金属の炭化物又はこれら遷移金属の炭窒化物、若しくはWを含むこれら遷移金属の複炭化物又はWを含むこれら遷移金属の複炭窒化物のうちいずれか1種以上で置き換えたことを特徴とする。
後述する本発明に関する実験によれば、抗折力の向上が認められ、切削時の耐摩耗性に改善がみられた。
本発明は、その合金表面に脱β層が形成されており、脱β層の厚みが1〜30μmであることを特徴とする。
この脱β層が形成された超硬合金は被覆超硬合金の母材として利用される。この母材は被覆超硬合金の強度や靱性を向上させ切削工具の長寿命化や信頼性向上に役立っている。しかし欠点として高硬度鋼の切削や一般鋼の高速度切削おいて刃先ダレ(高温での塑性変形)が起こり易いことからこれら切削分野での利用が制限されている。
本発明に係る脱β層が形成された超硬合金を母材とした被覆超硬合金を切削工具に使用すると前記刃先ダレを改善出来ることが判明した。ここで、脱β層とは、β相がない層のことであり、Co含有量がやや多くなり硬度がやや低くなるが強度や靭性に優れている層である。被覆材はセラミックであり硬くて脆いことから、この脱β層で被覆材の脆さを補い、切削工具の靭性を向上させる。その反面、高硬度鋼の切削においては、この脱β層が柔らかいが故に刃先ダレが生じ易く、特に高温時に刃先ダレが生じ易い。本発明によれば、この脱β層のCo中に,Crが固溶し高温での強度を向上させており、前記刃先ダレが改善される。この脱β層の効果が有効な範囲として本発明では脱β層の厚みを1〜30μmとしている。
本発明ではCoのfcc/hcp比を定量的にとらえる手段としてX線回折像を利用する方法を採用し、ターゲットとしてCuを用いている。測定対象となる合金の測定面は研削加工後に50μm研磨を行い鏡面に仕上げた。研削面の表面から10−30μmの深さにおいては通常研削による残留応力や歪によりCo相のfccの一部がhcpに代わりhcp/fcc比が大きくなることが知られている。この研削表面層の影響を避けるため、本特許では半価巾の測定や格子定数の測定では研削面を50μm以上研磨により除去し、鏡面に仕上げた面を測定した。Co相のfccの(111)面のX線回折像は2θが44.3度であり、hcpの(002)面のX線回折像は2θが44.9度である。通常はfccの(111)面のX線回折像のほうが回折強度が大きいが、hcpの(002)面のX線回折像が重なる場合には、この重なったX線回折像の半価巾はhcpが多いほど大きくなる。本明細書では、上記の重なったX線回折像を便宜上、fchp回折像と記述する。実験結果によれば、fchp回折像の半価巾が0.43度以上の合金の強度は、fchp回折像の半価巾が0.42度以下の合金と比べて、強度が劣っていた。
図1に示すCo相のX線回折像において、本発明の強靭超硬合金では、図1(a)と図1(c)に示すようにfchp回折像の半価巾が小さくなっており、fcc/hcp比が大きくなっていることが分かる。その一方で、従来例の超硬合金では、図1(b)と図1(d)に示すようにfchp回折像の半価巾が大きくなっており、fcc/hcp比が小さくなっていることが分かる。ここで、本明細書では、上記の測定法でfchp回折像の半価巾が0.42度以下のものを本発明における高性能強靭超硬合金としている。図1(a)と図1(b)に示す合金ではCoを20質量%含有しており、図1(c)と図1(d)に示す合金ではCoを9質量%含有している。
本発明によれば、fchp半価巾が0.42度以下においても、Crを添加しCr等(Wを含む)の固容元素を増加させることにより、強靱性や耐熱強度が向上する。そしてCo相へのその固容元素量の測定法としてfccの格子定数を測定している。Co相のfccの格子定数が大きいほど固容元素の含有量が増大し強度や耐熱性が向上する。本発明では、Co中でのCrやWの固溶量を増加させて、Co相のfccの格子定数を3.560Å以上としたことを特徴としている。Co相のfccの格子定数が3.550Å以下では、強度や耐熱性の向上効果は少ない。
これら本発明によれば、前記超硬合金の用途に応じて、硬さ、抗折強度、被加工材料との相性などを最適化した良好な加工性を有する切削工具や金型、鉱山工具や耐磨耗工具等となる。
本発明に係る超硬合金の製造方法は、粉末冶金法が適用される。例えば、WC、Co及びCrの各粉末を予め適量混合し、その混合粉末をプレス成型した後、真空中で適温に加熱し焼結させ焼結体とする。前記焼結体に熱間等方加圧焼結処理(HIP処理)を施してもよい。または、SinterHIP炉により焼結とHIP処理を同一炉で同時に行うこともできる。
本発明によれば、CrをCo中に固溶させCo相を強化させ靱性を向上させることにより超硬合金の強度が向上する。Co相の強化・改質ではWC粒子間のCo層の厚みがある程度厚くないと、超硬合金の強度向上に寄与し難いことから、Co質量%が4質量%以上とし、WCの平均粒度を1.5μm以上とした。但しCoが30質量%を超える割合の超硬合金やWCの平均粒度が20.0μmを超える大きさの超硬合金は工業的には実用的ではないことから、Co質量%の上限を30質量%とし、WCの平均粒度の上限を20.0μmとしている。
本発明によれば、既知の合金と同じ硬さでありながら強度向上が期待できるので種々の応用分野で高性能が期待でき、例えば、Co含有量が比較的多い超硬合金が使われる冷間鍛造用金型では、従来品と比較して約2倍の長寿命を発揮する。自動車部品業界や電子部品業界等では冷間鍛造金型が多く使用されており、これら部品の原価低減に貢献することとなる。本発明によれば、常温での強度向上のみならず高温での強度向上も期待でき、切削工具では、その耐摩耗性が向上する。
特に脱β層が形成された母材を用いた被覆超硬合金では脱β層の欠点である切削時の刃先ダレの防止に貢献することとなる。また、その他、鉱山工具等WC粒が大きいか、Co含有量が比較的多い超硬合金において、欠損の低減や耐摩耗性の向上が期待でき工具の長寿命化が実現する。
各種超硬合金におけるCo相のX線回折像であり、(a)と(c)が本発明を適用した実施形態の強靭超硬合金のCo相のX線回折像であり、(b)と(d)が従来例の超硬合金のCo相のX線回折像である。 本発明を適用した実施形態の強靭超硬合金の組織を光学式金属顕微鏡にて撮像した画像である。 従来の超硬合金の組織を光学式金属顕微鏡にて撮像した画像である。 クロスジョイントを例示する平面図である。 上記実施形態の強靭超硬合金からなるクロスジョイントの寿命試験後の状態を顕微鏡にて観察した画像である。 上記従来の超硬合金からなるクロスジョイントの寿命試験後の状態を顕微鏡にて観察した画像である。 ボルト・ナット用冷間鍛造金型を例示する断面図である。
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて以下に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明と実質同一又は均等の範囲内において、既知の変更を加えることが可能である。
(実施形態1)
冷間或いは熱間鍛造加工金型や工具等の耐摩耗用工具、或いは鉱山工具用途としては、その平均粒度が1.5〜20.0μmのWC粉が使用され、Co粉末が7〜25質量%配合される。CrはCoに対する重量比で2〜18%配合する。Crの添加は、Cr粉末を使用するのが良い。Cr粉末も使用出来る。ただし、Cr粉末はその表面が酸化しておりCo%が小さい超硬合金ではその炭素調整が難しくなることがあるので注意する必要がある。高価であるがCrNを使用することも出来る。
これらWC粉、Co粉末、Cr粉末をそれぞれ秤量して有機溶媒(アルコール、アセトン、ヘキサン等)とともにボールミル或いはアトライターにいれて湿式混合する。その後、有機溶媒を蒸発除去し混合した粉末を乾燥させる。スプレードライヤでこれら粉末を乾燥し同時に造粒を行うことで、量産性を高められる。
プレスし易くするための潤滑材(パラフィン、ポリエチレングリコール、樟脳等)を前記粉末混合物に混ぜて、製品の形状に見合った金型に前記粉末混合物を入れて、プレスする。その後、温度が1280℃から1500℃の範囲で真空中で焼結する。焼結は組成・用途に応じて、真空焼結、真空焼結後HIP処理、焼結とHIP処理を同一炉で行うSinterHIP等がある。焼結条件は組成、形状、用途に応じて最適の条件が選ばれる。そして、焼結後に放電加工、研削加工、研磨加工の順に加工が施されて金型等の工具を完成させる。
fchp半価巾を0.42度以下に制御する方法の一つとしては、1200℃以上1500℃以下に加熱された加熱温度から、50℃以上200℃以下の冷却温度までの冷却速度が10℃/分以上であることが望ましい。ここで、上記加熱温度には、焼結温度としての1280℃以上1500℃以下の温度が含まれる。fchp半価巾を制御する方法は上記以外にもあると考えられるが未検討である。
Co相のfcc格子定数を3.560Å以上とし且つfchp回折像の半価巾を0.42度以下にする実用的方法として、超硬合金をその加熱温度又は焼結温度が1200℃以上1500℃以下の温度から800℃以下500℃以上の温度までを1次冷却として急冷し、被熱処理品の温度が均一になるように1次冷却の冷却温度範囲内で一定時間保持し、その1次冷却温度から200℃以下の温度までを2次冷却として急冷する2段階冷却法を見出した。ここで、1次冷却の冷却速度は25℃/分以上とすることが好ましく、2次冷却の冷却速度は5℃/分以上とすることが好ましい。さらに、1次冷却の冷却速度は30℃/分以上とすることが好ましく、2次冷却の冷却速度は10℃/分以上とすることが望ましい。
その一方で、超硬合金をその温度が1200℃以上1500℃以下の範囲から50℃以上200℃以下の範囲まで連続して急速冷却しても、上記2段階冷却法と相当の半価巾と格子定数が得られる。しかし上記2段階冷却のほうが、製品に対する残留応力が軽減されること等を考えるとより汎用性に富んでいるといえる。そして、格子定数を3.560Å以上にする方法としては、上記以外にもWC等の炭化物の結合炭素を不足させる方法もある。しかし、炭化物の結合炭素を不足させる方法では、格子定数を3.560Å以上にすることが安定して実現できず、現状の技術では困難であると考えられる。なお、X線回折像を測定する際は、研削面から10−30μmの深さに残留する研削影響層を除去する必要がある。このため、超硬合金における研削面の表面からその深さ方向に50μm以上の研磨を行い鏡面に仕上げることが望ましい。
(実施形態2)
平均粒度が1.5〜7.0μmのWC粉が使用され、Co粉末が4〜15質量%配合される。CrはCoに対する重量比で2〜18%配合する。Crの添加は、Cr粉末を使用するのが良い。そして、用途に応じて、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)の炭化物、炭窒化物、或いはタングステン(W)を含むこれら遷移金属の複炭化物、或いは複炭窒化物のいずれか1種以上を配合する。秤量、湿式混合、プレス、焼結及びfchp像の半価巾を0.42度以下に制御する方法や、格子定数を3.560Å以上に制御する方法は、実施形態1と同様である。この組成は主として切削工具用超硬合金に用いられる。焼結後そのまま切削工具として使用できるものも多いがさらに研削して高精度の工具に仕上げることもある。
(実施形態3)
脱β層が形成された被覆超硬合金の母材を製造する場合は、実施形態2の配合粉に微量の窒化物或いは炭窒化物を加える。秤量、湿式混合、プレス、焼結及びfchp像の半価巾を0.42度以下に制御する方法や、格子定数を3.560Å以上に制御する方法は、上述の実施形態1と同様である。この添加した窒素の作用で真空焼結時に脱β層を発現させることが出来る。本発明に係る被覆超硬合金を製作するための被覆法としては既知のCVD法が適用され、その被覆条件は通常どおりである。
温度が1200℃以上からの冷却速度が速いほうが本発明の実施が安定して実行出来ることから以下に示す実施例では冷却速度を所定速度範囲内に管理して実験している。しかしこの冷却速度の下限値にはまだ余裕があると考えられ、以下に示す実施例よりも遅い冷却速度でもfcc/hcp比を大きく出来、本発明を実施出来ると考えられる。
(実施例1)
冷間鍛造金型の実施例を以下に述べる。
表1は、発明品A1,A2、比較品A3並びに従来品Bのそれぞれの配合組成割合を質量%表示したものである。ここでは、その平均粒度が3μmのWCを使用した。上記の配合比でアルコール中でアトライター混合を6時間行った。アルコールを蒸発させ粉末を乾燥させたのち、プレス圧が1ton/cmでプレスを行い、焼結温度が1380℃で、圧力が1MPa(10bar)の条件にてSinterHIP炉で焼結を行った。発明品A1と従来品Bとは、焼結温度から200℃までの冷却速度が12℃/分で冷却した。発明品A2は、焼結後に温度が1250℃まで加熱し、温度が1250℃から650℃まで冷却速度が30℃/分で1次冷却し、温度が650℃で10分間保持し、温度が200℃まで冷却速度が10℃/分で2次冷却した。比較品A3は、焼結温度から200℃までの冷却速度を調整しなかったが実際の冷却速度は4℃/分であった。各試料について、それぞれ抗折力(TRS)等の物理特性を測定した。その結果を表2に示す。
表2に示すように、発明品A1とA2は、Crを含有しない従来品Bよりも抗折力(TRS)、ビッカース硬度及び圧縮強度が優れている。また、発明品A1とA2は、Crを含有してもfchp像の半価巾が大きい比較品A3よりも抗折力(TRS)及び圧縮強度が優れている。
次に、上述した発明品A1,A2と従来品Bとを用いて冷間鍛造金型を作製した。そして、閉塞鍛造によってクロスジョイントを製造して寿命試験を行なった。
図4は、クロスジョイントを示す平面図である。図中の一点鎖線で囲った箇所がその構造上、応力が集中し易くなっている箇所である。図5は、上記実施形態の強靭超硬合金A1を用いた金型からなるクロスジョイントの寿命試験後の状態を顕微鏡にて観察した画像であり、30万ショットにおいても異常がなかった。図6は、上記従来の超硬合金Bを用いた金型からなるクロスジョイントの寿命試験後の状態を顕微鏡にて観察した画像であり、15万ショットでカケが発生した。上記実施形態の強靭超硬合金A2を用いた金型からなるクロスジョイントにおいても同様に30万ショットにおいても異常がなかった。発明品A2は、発明品A1よりもさらに高寿命が期待できる状態であった。このことから、発明品A1、A2からなる金型寿命は、従来品Bからなる金型寿命と比較して、2倍以上の長寿命であるといえる。実用テストでこのように2倍以上の高性能がだせるのは単にTRSや圧縮強度が少し高いという理由だけではなくfcc/hcp比を増大させることにより疲労強度を大きく向上させることができたからである。
(実施例2)
切削工具の実施例を以下に述べる。
表3は、発明品C1、比較品C2並びに従来品Dのそれぞれの配合組成割合を質量%表示したものである。ここでは、その平均粒度が2μmのWCを使用した。上記の配合比でアルコール中でアトライター混合を6時間行った。アルコールを蒸発させ粉末を乾燥させたのち、プレス圧が1ton/cmでプレスを行い、温度が1400℃で真空焼結を行なった。発明品C1は、1300℃から200℃まで冷却速度が12℃/分で冷却した。比較品C2と従来品Dとは、1300℃から200℃まで冷却速度が4℃/分で冷却した。各試料について、それぞれ抗折力(TRS)等の物理特性を測定した。その結果を表4に示す。
表4に示すように、発明品C1は、比較品C2や従来品Dと比較して、ビッカース硬度は同程度であるが、抗折力(TRS)が大きくなった。発明品C1、比較品C2、従来品Dの合金でそれぞれSNMA432のチップを製作し、下記の条件で旋盤による切削試験を行った。
切削条件としては、被削材がSCM3、切削速度v=100 mm/分、切り込み深さd=2mm、送り速度f=0.4mm/rev、切削時間が30分である。
その結果、発明品C1からなるチップの磨耗度合いは、比較品C2からなるチップの磨耗度合いや、従来品Dからなるチップの磨耗度合いと比較して、約2/3となり、発明品C1の耐摩耗性が優れていることが判った。
(実施例3)
脱β層が形成された母材を用いた被覆超硬合金の切削工具の実施例を以下に述べる。
表5は、発明品Eと従来品Fのそれぞれの配合組成割合を質量%表示したものである。ここでは、その平均粒度が4μmのWCを使用した。上記の配合比でアルコール中でアトライター混合を6時間行った。アルコールを蒸発させ粉末を乾燥させたのち、プレス圧が1ton/cmでプレスを行い、焼結温度が1400℃で真空焼結を行い、その厚みが10μmの脱β層を有する超硬合金を試作した。ここでは、発明品E、従来品Fのいずれも、焼結温度から200℃までの冷却速度が10℃/分であった。そして、各試料の硬さを測定した後、それら母材にTiCNをその厚みが7μmで被覆し、切削試験によって刃先ダレを比較した。
切削条件としては、被覆超硬合金の形状がSNM432、被切削材がSNCM439、切削速度v=140mm/分、切り込み深さd=2mm、送り速度f=0.7mm/rev、切削時間が40分である。その結果を次の表6に示す。
表6に示すように、発明品Eは従来品Fと比較して、ビッカース硬度は同程度であるが、発明品Eは刃先ダレが改善されていることが判る。
(実施例4)
上述した本発明の強靱超硬合金と従来の超硬合金とで、Co含有量と、ビッカース硬度、抗折力、圧縮強度、破壊靭性、並びにfchp回折像半価巾との関係を比較測定した。その結果を次の表7に示す。ここでは、その平均粒度が3μmのWCを使用した。
表7は、発明品A(A11−A15)と従来品B(B10−B15)のそれぞれについて、ビッカース硬度,抗折力,圧縮強度,破壊靭性並びにfchp回折像の半価巾を測定したものである。
表7によれば、発明品A(A11−A15)は従来品B(B10−B15)と比較して、Co含有量が9〜25wt%の範囲内においては、その圧縮強度が0.3〜0.4[GPa]程度大きい値となっている。また、発明品Aは従来品Bと比較して、Co含有量が9〜25wt%の範囲内においては、その破壊靭性が2〜6[MN・m1/2]程度大きい値となっており、Co含有量が大きいほど破壊靭性の差が大きくなる傾向が見られる。
表7によれば、発明品A(A11−A15)は従来品B(B10−B15)と比較して、Co含有量が9〜25wt%の範囲内においては、そのビッカース硬度が80〜140[Hv]程度大きい値となっている。また、発明品Aは従来品Bと比較して、Co含有量が9〜25wt%の範囲内においては、その抗折力が0.2〜0.3[GPa]程度大きい値となっている。
表7に示す超硬合金のうち、Co含有量が25wt%のものについて、超硬合金の組織を光学式金属顕微鏡にて撮像した。図2は、発明品の強靭超硬合金の組織を光学式金属顕微鏡にて撮像した画像である。図3は、従来の超硬合金の組織を光学式金属顕微鏡にて撮像した画像である。
(実施例5)
ボルト・ナット用冷間鍛造金型の実施例を以下に述べる。
表8は、発明品G、Hのそれぞれの配合組成割合を質量%表示したものである。ここでは、その平均粒度が3μmのWCを使用した。試料Hは、上記の配合比でアルコール中でアトライター混合を6時間行った。アルコールを蒸発させ粉末を乾燥させたのち、プレス圧が1ton/cmでプレスを行い、焼結温度が1380℃で、圧力が1MPa(10bar)の条件にてSinterHIP炉で焼結を行った。試料Gは、上記の1380℃で焼結された試料Hを、1280℃で再加熱し、1280℃から540℃までを35℃/分の冷却速度で1次冷却し、540℃で30分間保持し、500℃から200℃までを8℃/分の冷却速度で2次冷却した。発明品G、H各試料について、それぞれ圧縮強度や破壊靭性等の物理特性を測定した。その結果を表9に示す。
表9に示すように、試料Gは、Crを含有してもfchp像の半価巾が大きい試料Hよりも圧縮強度及び破壊靭性が優れている。
次に、上述した発明品G、Hをそれぞれ用いて冷間鍛造金型を作製した。図7は、ボルト・ナット用冷間鍛造金型を例示する図であり、図7(a)は上方向から見た断面図であり、図7(b)は横方向から見た断面図である。被加工材はS25Cである。超硬合金金型の外周には、補強リングが取付けられている(図7)。前方押出鍛造によってボルトを製造してそれぞれの金型にて製造したボルトの生産数を比較した。製造された上記ボルトの六角コーナー部からクラックが入った時点を金型の寿命と判断し製造を止めた。その結果を表10に示す。
表10から明らかなように、上記実施形態の強靭超硬合金製の試料Gを用いた金型の寿命は、試料Hを用いた金型の寿命と比較すると、1.5倍以上の長寿命であるといえる。実用テストでこのように1.5倍以上の高性能が発揮できるのは、圧縮強度及び破壊靭性が優れていることだけでなく、fcc/hcp比を増大させることにより疲労強度を大きく向上させることができたからである。それに加えて、Co中でのCrやWの固溶量を増加させたことで耐熱強度が向上したことも高寿命化に寄与しているものと考えられる。
本発明は、強靱超硬合金及び被覆超硬合金に関する。
従来、炭化タングステン(WC)粒子と結合金属としてのコバルト(Co)とを適切な割合で混合し焼結させた超硬合金が知られている。WC粒子とCoを混合し焼結させた超硬合金(Cemented Carbide)は、高硬度かつ高強度であることなどから、切削工具や金型などの超硬工具を製造するための材料として使用されている。
最近の冷間或いは熱間鍛造加工では超硬合金製金型に対し、ますます負荷も大きく且つ長寿命が要求されるようになっている。切削工具においても同様であり、被覆超硬合金(Coated Cemented Carbide)の開発もこの要求に沿ったものである。切削条件の高速化、高負荷化に伴い、被覆超硬合金の母材にも硬さ、耐塑性変形性、高強度に耐えるものが要求されてきている。これら超硬合金は切削工具や金型、鉱山工具や耐磨耗工具等幅広く使われている。
特許文献1には、超硬合金において、クロム(Cr)或いは炭化クロム(通常はCr)を添加することで、WCの成長抑制や耐食性の向上が見込めるとの記述がある。
特許文献2には、Crが結合相を固溶強化し、超硬合金製切断刃の耐摩耗性を向上させるとの記述がある。
特許文献3には、Coを含む鉄族金属(Fe、Co、Ni)の結合相中にWCを主体とする硬質相が分散された超硬合金を、加熱温度が1200〜1300℃まで加熱した後、直ちに急冷することによって、Coの格子定数が3.570Å以上となり、抗折力は変わらないが、衝撃強度を向上できるとの記述がある。
非特許文献1には、WC−Cr−15%Coの超硬合金においてCrが2質量%までの添加では、抗折力(Transverse-Rupture-Strength; TRS)がほとんど変わらないが、それ以上の添加量ではかなり低下するとの記述がある。
特公昭62−56224号公報 特許第3175077号公報 特許第4537501号公報
"WC−Cr3C2−15%Co超硬合金の組織と機械的性質", 鈴木寿,徳本啓,「粉体および粉末冶金」第31巻第2号 1984年2月 "熱間静水圧燒結したWC−12%Co合金の疲労"藤原由雄,植田文洋,正富宏明,鈴木寿,「粉体および粉末冶金」第27巻第6号 1980年8月
特許文献3では、WC−Co合金(Crを含まない)を加熱した後、直ちに急冷することによって、Co相の六方最密充填構造(hcp)を減少させるとともに、Coの格子定数が3.570Å以上となり、抗折力は変わらないが、衝撃強度を向上できるとしている。
しかし、そのような性能向上をさせるには冷却速度が1000℃/分以上の急冷が必要であると述べている。このような急冷は小さい製品や試験片或いはCo含有量が多く硬度が低い合金には適用可能であるが、一般に実用されている硬度が高い合金製品に適用しようとすると亀裂が発生するか、亀裂の発生が回避できたとしても内部応力の残留等によって信頼性が低下する危険がある。また、本願が対象としているクロム(Cr)は含有されておらず、当然ながら、Crを添加しCrを含有させた場合の超硬合金に対する影響やその効果については言及していない。
そして、従来の技術的な見解では、クロム(Cr)或いは炭化クロム(通常はCr)を添加することで、WCの粒成長抑制や耐食性の向上、特殊切断刃における耐摩耗性の向上が見込まれているが(特許文献1,2)、微量の添加では抗折力(TRS)がほとんど変わらないが、添加量を増加させると抗折力(TRS)が低下するとされている(非特許文献1)。
コバルト(Co)は420℃付近に変態点があり、その温度以上ではfccが安定状態であり、それ以下ではhcpが安定状態である。しかし、超硬合金ではWC等の炭化物相が多くてCo相が少なく薄いため、変態が抑制され、高温の焼結温度から温度が420℃以下や室温に冷却されてもfccが多く残存し、fccとhcpが混在しているのが通常である。fcc構造はhcp構造より延性に富むことから、硬いが延性に劣るWC等の炭化物を結合するCo相(結合相)にはfccのほうが適していると考えられる。また、前記超硬合金は多くの用途で疲労強度も要求されるが、非特許文献2によると疲労が進行するとfccがhcpに変態しhcp/fcc比が増大し遂には破壊に至るのではないかということが推定される。
このような実情に鑑みて、本発明の目的は、炭化タングステン(WC),コバルト(Co)及びクロム(Cr)を含有する超硬合金に関し、クロム(Cr)を微量含有させつつ、従来よりも抗折力や圧縮強度を高めるとともに疲労強度をも高めた強靱超硬合金並びに被覆超硬合金を提供することにある。
本発明の強靭超硬合金は、炭化タングステン(WC),コバルト(Co)及びクロム(Cr)を含有し、WCの平均粒度が1.5〜20.0μm、ビッカース硬度が650〜1650Hvであり、Coが4〜30質量%含有し、CrがCo含有量の2〜18質量%含有し、残部がWC及び不可避不純物よりなり、hcp構造のCoを少なくするために、CrをCo中に固溶させて、Cu‐Kα線を用いたCo相のfccの(111)面のX線回折像(2θ=44.3度)とhcpの(002)面のX線回折像(2θ=44.9度)が重なりあったX線回折像の半価巾を0.42度以下としたことを特徴とする。ここで、前記X線回折像は、Cu‐Kα線を用いた回折角度2θでのX線回折像である。
本発明では、CrをCo中に固溶させCo相(γ相とも呼称される)を強化させ、また靱性を向上させることにより超硬合金の強度を向上させるものである。Co相の強化と改質ではWC粒子間のCo層の厚みがある程度厚くないと、超硬合金の強度向上に寄与し難い。よって、Co質量%がある程度以上であるときに強度向上の効果が期待され、また、Co質量%が少ない場合はWC粒子が大きいときに強度向上の効果が期待されることから、それらの領域で超硬合金のCrの微量添加による効果を詳しく実験した。そして、Crを添加することによりCo相のfcc/hcp比を増大させ易くなることを発見するとともに、このCr添加効果を活用してfcc/hcp比を増大させた合金がその抗折力や圧縮強度等の強度が向上することを発見し、この合金を使用した耐衝撃工具、耐磨耗工具、切削工具において従来品に比較して大幅な性能向上を見出したものである。本発明に関する実験によれば、WCの平均粒度が1.5μm未満ではCo層の厚みが小さくなることに起因して改善はみられなかった。そこで、WCの平均粒度が1.5μm以上にて、Co質量%を変化させて抗折力、圧縮強度を調査した。Co質量%が4質量%以下或いはビッカース硬度が1650Hvを超える場合はやはりCo層の厚みが小さくなることから改善効果がなかった。また、ビッカース硬度が650Hvを下回る場合は超硬合金の実用性がほとんどない。
本発明では、CrのCo含有量に対する割合が、2〜18質量%に設定される。2質量%を下回る場合はCrの効果が現れず、18質量%より大きい場合はCrの結晶が出現し超硬合金の強度はかえって低下したからである。後述する実験結果によれば、本発明に係る超硬合金は、従来品よりも圧縮強度が大きくなるとともに、破壊靭性が大きくなることが判明しており、また、本発明に係る超硬合金は、従来品よりもビッカース硬度が大きくなるとともに、抗折力が大きくなることが判明している。
本発明は、前記WCの一部をTiC、TaC、NbC、HfC、ZrC、VC等の遷移金属の炭化物又はこれら遷移金属の炭窒化物、若しくはWを含むこれら遷移金属の複炭化物又はWを含むこれら遷移金属の複炭窒化物のうちいずれか1種以上で置き換えたことを特徴とする。
後述する本発明に関する実験によれば、抗折力の向上が認められ、切削時の耐摩耗性に改善がみられた。
本発明は、その合金表面に脱β層が形成されており、脱β層の厚みが1〜30μmであることを特徴とする。
この脱β層が形成された超硬合金は被覆超硬合金の母材として利用される。この母材は被覆超硬合金の強度や靱性を向上させ切削工具の長寿命化や信頼性向上に役立っている。しかし欠点として高硬度鋼の切削や一般鋼の高速度切削おいて刃先ダレ(高温での塑性変形)が起こり易いことからこれら切削分野での利用が制限されている。
本発明に係る脱β層が形成された超硬合金を母材とした被覆超硬合金を切削工具に使用すると前記刃先ダレを改善出来ることが判明した。ここで、脱β層とは、β相がない層のことであり、Co含有量がやや多くなり硬度がやや低くなるが強度や靭性に優れている層である。被覆材はセラミックであり硬くて脆いことから、この脱β層で被覆材の脆さを補い、切削工具の靭性を向上させる。その反面、高硬度鋼の切削においては、この脱β層が柔らかいが故に刃先ダレが生じ易く、特に高温時に刃先ダレが生じ易い。本発明によれば、この脱β層のCo中に,Crが固溶し高温での強度を向上させており、前記刃先ダレが改善される。この脱β層の効果が有効な範囲として本発明では脱β層の厚みを1〜30μmとしている。
本発明ではCoのfcc/hcp比を定量的にとらえる手段としてX線回折像を利用する方法を採用し、ターゲットとしてCuを用いている。測定対象となる合金の測定面は研削加工後に50μm研磨を行い鏡面に仕上げた。研削面の表面から10−30μmの深さにおいては通常研削による残留応力や歪によりCo相のfccの一部がhcpに代わりhcp/fcc比が大きくなることが知られている。この研削表面層の影響を避けるため、本特許では半価巾の測定や格子定数の測定では研削面を50μm以上研磨により除去し、鏡面に仕上げた面を測定した。Co相のfccの(111)面のX線回折像は2θが44.3度であり、hcpの(002)面のX線回折像は2θが44.9度である。通常はfccの(111)面のX線回折像のほうが回折強度が大きいが、hcpの(002)面のX線回折像が重なる場合には、この重なったX線回折像の半価巾はhcpが多いほど大きくなる。本明細書では、上記の重なったX線回折像を便宜上、fchp回折像と記述する。実験結果によれば、fchp回折像の半価巾が0.43度以上の合金の強度は、fchp回折像の半価巾が0.42度以下の合金と比べて、強度が劣っていた。
図1に示すCo相のX線回折像において、本発明の強靭超硬合金では、図1(a)と図1(c)に示すようにfchp回折像の半価巾が小さくなっており、fcc/hcp比が大きくなっていることが分かる。その一方で、従来例の超硬合金では、図1(b)と図1(d)に示すようにfchp回折像の半価巾が大きくなっており、fcc/hcp比が小さくなっていることが分かる。ここで、本明細書では、上記の測定法でfchp回折像の半価巾が0.42度以下のものを本発明における高性能強靭超硬合金としている。図1(a)と図1(b)に示す合金ではCoを20質量%含有しており、図1(c)と図1(d)に示す合金ではCoを9質量%含有している。
本発明によれば、fchp半価巾が0.42度以下においても、Crを添加しCr等(Wを含む)の固容元素を増加させることにより、強靱性や耐熱強度が向上する。そしてCo相へのその固容元素量の測定法としてfccの格子定数を測定している。Co相のfccの格子定数が大きいほど固容元素の含有量が増大し強度や耐熱性が向上する。本発明では、Co中でのCrやWの固溶量を増加させて、Co相のfccの格子定数を3.560Å以上としたことを特徴としている。Co相のfccの格子定数が3.550Å以下では、強度や耐熱性の向上効果は少ない。
これら本発明によれば、前記超硬合金の用途に応じて、硬さ、抗折強度、被加工材料との相性などを最適化した良好な加工性を有する切削工具や金型、鉱山工具や耐磨耗工具等となる。
本発明に係る超硬合金の製造方法は、粉末冶金法が適用される。例えば、WC、Co及びCrの各粉末を予め適量混合し、その混合粉末をプレス成型した後、真空中で適温に加熱し焼結させ焼結体とする。前記焼結体に熱間等方加圧焼結処理(HIP処理)を施してもよい。または、SinterHIP炉により焼結とHIP処理を同一炉で同時に行うこともできる。
本発明によれば、CrをCo中に固溶させCo相を強化させ靱性を向上させることにより超硬合金の強度が向上する。Co相の強化・改質ではWC粒子間のCo層の厚みがある程度厚くないと、超硬合金の強度向上に寄与し難いことから、Co質量%が4質量%以上とし、WCの平均粒度を1.5μm以上とした。但しCoが30質量%を超える割合の超硬合金やWCの平均粒度が20.0μmを超える大きさの超硬合金は工業的には実用的ではないことから、Co質量%の上限を30質量%とし、WCの平均粒度の上限を20.0μmとしている。
本発明によれば、既知の合金と同じ硬さでありながら強度向上が期待できるので種々の応用分野で高性能が期待でき、例えば、Co含有量が比較的多い超硬合金が使われる冷間鍛造用金型では、従来品と比較して約2倍の長寿命を発揮する。自動車部品業界や電子部品業界等では冷間鍛造金型が多く使用されており、これら部品の原価低減に貢献することとなる。本発明によれば、常温での強度向上のみならず高温での強度向上も期待でき、切削工具では、その耐摩耗性が向上する。
特に脱β層が形成された母材を用いた被覆超硬合金では脱β層の欠点である切削時の刃先ダレの防止に貢献することとなる。また、その他、鉱山工具等WC粒が大きいか、Co含有量が比較的多い超硬合金において、欠損の低減や耐摩耗性の向上が期待でき工具の長寿命化が実現する。
各種超硬合金におけるCo相のX線回折像であり、(a)と(c)が本発明を適用した実施形態の強靭超硬合金のCo相のX線回折像であり、(b)と(d)が従来例の超硬合金のCo相のX線回折像である。 本発明を適用した実施形態の強靭超硬合金の組織を光学式金属顕微鏡にて撮像した画像である。 従来の超硬合金の組織を光学式金属顕微鏡にて撮像した画像である。 クロスジョイントを例示する平面図である。 上記実施形態の強靭超硬合金からなるクロスジョイントの寿命試験後の状態を顕微鏡にて観察した画像である。 上記従来の超硬合金からなるクロスジョイントの寿命試験後の状態を顕微鏡にて観察した画像である。 ボルト・ナット用冷間鍛造金型を例示する断面図である。
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて以下に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明と実質同一又は均等の範囲内において、既知の変更を加えることが可能である。
(実施形態1)
冷間或いは熱間鍛造加工金型や工具等の耐摩耗用工具、或いは鉱山工具用途としては、その平均粒度が1.5〜20.0μmのWC粉が使用され、Co粉末が7〜25質量%配合される。CrはCoに対する重量比で2〜18%配合する。Crの添加は、Cr粉末を使用するのが良い。Cr粉末も使用出来る。ただし、Cr粉末はその表面が酸化しておりCo%が小さい超硬合金ではその炭素調整が難しくなることがあるので注意する必要がある。高価であるがCrNを使用することも出来る。
これらWC粉、Co粉末、Cr粉末をそれぞれ秤量して有機溶媒(アルコール、アセトン、ヘキサン等)とともにボールミル或いはアトライターにいれて湿式混合する。その後、有機溶媒を蒸発除去し混合した粉末を乾燥させる。スプレードライヤでこれら粉末を乾燥し同時に造粒を行うことで、量産性を高められる。
プレスし易くするための潤滑材(パラフィン、ポリエチレングリコール、樟脳等)を前記粉末混合物に混ぜて、製品の形状に見合った金型に前記粉末混合物を入れて、プレスする。その後、温度が1280℃から1500℃の範囲で真空中で焼結する。焼結は組成・用途に応じて、真空焼結、真空焼結後HIP処理、焼結とHIP処理を同一炉で行うSinterHIP等がある。焼結条件は組成、形状、用途に応じて最適の条件が選ばれる。そして、焼結後に放電加工、研削加工、研磨加工の順に加工が施されて金型等の工具を完成させる。
fchp半価巾を0.42度以下に制御する方法の一つとしては、1200℃以上1500℃以下に加熱された加熱温度から、50℃以上200℃以下の冷却温度までの冷却速度が10℃/分以上であることが望ましい。ここで、上記加熱温度には、焼結温度としての1280℃以上1500℃以下の温度が含まれる。fchp半価巾を制御する方法は上記以外にもあると考えられるが未検討である。
Co相のfcc格子定数を3.560Å以上とし且つfchp回折像の半価巾を0.42度以下にする実用的方法として、超硬合金をその加熱温度又は焼結温度が1200℃以上1500℃以下の温度から800℃以下500℃以上の温度までを1次冷却として急冷し、被熱処理品の温度が均一になるように1次冷却の冷却温度範囲内で一定時間保持し、その1次冷却温度から200℃以下の温度までを2次冷却として急冷する2段階冷却法を見出した。ここで、1次冷却の冷却速度は25℃/分以上とすることが好ましく、2次冷却の冷却速度は5℃/分以上とすることが好ましい。さらに、1次冷却の冷却速度は30℃/分以上とすることが好ましく、2次冷却の冷却速度は10℃/分以上とすることが望ましい。
その一方で、超硬合金をその温度が1200℃以上1500℃以下の範囲から50℃以上200℃以下の範囲まで連続して急速冷却しても、上記2段階冷却法と相当の半価巾と格子定数が得られる。しかし上記2段階冷却のほうが、製品に対する残留応力が軽減されること等を考えるとより汎用性に富んでいるといえる。そして、格子定数を3.560Å以上にする方法としては、上記以外にもWC等の炭化物の結合炭素を不足させる方法もある。しかし、炭化物の結合炭素を不足させる方法では、格子定数を3.560Å以上にすることが安定して実現できず、現状の技術では困難であると考えられる。なお、X線回折像を測定する際は、研削面から10−30μmの深さに残留する研削影響層を除去する必要がある。このため、超硬合金における研削面の表面からその深さ方向に50μm以上の研磨を行い鏡面に仕上げることが望ましい。
(実施形態2)
平均粒度が1.5〜7.0μmのWC粉が使用され、Co粉末が4〜15質量%配合される。CrはCoに対する重量比で2〜18%配合する。Crの添加は、Cr粉末を使用するのが良い。そして、用途に応じて、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)の炭化物、炭窒化物、或いはタングステン(W)を含むこれら遷移金属の複炭化物、或いは複炭窒化物のいずれか1種以上を配合する。秤量、湿式混合、プレス、焼結及びfchp像の半価巾を0.42度以下に制御する方法や、格子定数を3.560Å以上に制御する方法は、実施形態1と同様である。この組成は主として切削工具用超硬合金に用いられる。焼結後そのまま切削工具として使用できるものも多いがさらに研削して高精度の工具に仕上げることもある。
(実施形態3)
脱β層が形成された被覆超硬合金の母材を製造する場合は、実施形態2の配合粉に微量の窒化物或いは炭窒化物を加える。秤量、湿式混合、プレス、焼結及びfchp像の半価巾を0.42度以下に制御する方法や、格子定数を3.560Å以上に制御する方法は、上述の実施形態1と同様である。この添加した窒素の作用で真空焼結時に脱β層を発現させることが出来る。本発明に係る被覆超硬合金を製作するための被覆法としては既知のCVD法が適用され、その被覆条件は通常どおりである。
温度が1200℃以上からの冷却速度が速いほうが本発明の実施が安定して実行出来ることから以下に示す実施例では冷却速度を所定速度範囲内に管理して実験している。しかしこの冷却速度の下限値にはまだ余裕があると考えられ、以下に示す実施例よりも遅い冷却速度でもfcc/hcp比を大きく出来、本発明を実施出来ると考えられる。
(実施例1)
冷間鍛造金型の実施例を以下に述べる。
表1は、発明品A1,A2、比較品A3並びに従来品Bのそれぞれの配合組成割合を質量%表示したものである。ここでは、その平均粒度が3μmのWCを使用した。上記の配合比でアルコール中でアトライター混合を6時間行った。アルコールを蒸発させ粉末を乾燥させたのち、プレス圧が1ton/cmでプレスを行い、焼結温度が1380℃で、圧力が1MPa(10bar)の条件にてSinterHIP炉で焼結を行った。発明品A1と従来品Bとは、焼結温度から200℃までの冷却速度が12℃/分で冷却した。発明品A2は、焼結後に温度が1250℃まで加熱し、温度が1250℃から650℃まで冷却速度が30℃/分で1次冷却し、温度が650℃で10分間保持し、温度が200℃まで冷却速度が10℃/分で2次冷却した。比較品A3は、焼結温度から200℃までの冷却速度を調整しなかったが実際の冷却速度は4℃/分であった。各試料について、それぞれ抗折力(TRS)等の物理特性を測定した。その結果を表2に示す。
表2に示すように、発明品A1とA2は、Crを含有しない従来品Bよりも抗折力(TRS)、ビッカース硬度及び圧縮強度が優れている。また、発明品A1とA2は、Crを含有してもfchp像の半価巾が大きい比較品A3よりも抗折力(TRS)及び圧縮強度が優れている。
次に、上述した発明品A1,A2と従来品Bとを用いて冷間鍛造金型を作製した。そして、閉塞鍛造によってクロスジョイントを製造して寿命試験を行なった。
図4は、クロスジョイントを示す平面図である。図中の一点鎖線で囲った箇所がその構造上、応力が集中し易くなっている箇所である。図5は、上記実施形態の強靭超硬合金A1を用いた金型からなるクロスジョイントの寿命試験後の状態を顕微鏡にて観察した画像であり、30万ショットにおいても異常がなかった。図6は、上記従来の超硬合金Bを用いた金型からなるクロスジョイントの寿命試験後の状態を顕微鏡にて観察した画像であり、15万ショットでカケが発生した。上記実施形態の強靭超硬合金A2を用いた金型からなるクロスジョイントにおいても同様に30万ショットにおいても異常がなかった。発明品A2は、発明品A1よりもさらに高寿命が期待できる状態であった。このことから、発明品A1、A2からなる金型寿命は、従来品Bからなる金型寿命と比較して、2倍以上の長寿命であるといえる。実用テストでこのように2倍以上の高性能がだせるのは単にTRSや圧縮強度が少し高いという理由だけではなくfcc/hcp比を増大させることにより疲労強度を大きく向上させることができたからである。
(実施例2)
切削工具の実施例を以下に述べる。
表3は、発明品C1、比較品C2並びに従来品Dのそれぞれの配合組成割合を質量%表示したものである。ここでは、その平均粒度が2μmのWCを使用した。上記の配合比でアルコール中でアトライター混合を6時間行った。アルコールを蒸発させ粉末を乾燥させたのち、プレス圧が1ton/cmでプレスを行い、温度が1400℃で真空焼結を行なった。発明品C1は、1300℃から200℃まで冷却速度が12℃/分で冷却した。比較品C2と従来品Dとは、1300℃から200℃まで冷却速度が4℃/分で冷却した。各試料について、それぞれ抗折力(TRS)等の物理特性を測定した。その結果を表4に示す。
表4に示すように、発明品C1は、比較品C2や従来品Dと比較して、ビッカース硬度は同程度であるが、抗折力(TRS)が大きくなった。発明品C1、比較品C2、従来品Dの合金でそれぞれSNMA432のチップを製作し、下記の条件で旋盤による切削試験を行った。
切削条件としては、被削材がSCM3、切削速度v=100
mm/分、切り込み深さd=2mm、送り速度f=0.4mm/rev、切削時間が30分である。
その結果、発明品C1からなるチップの磨耗度合いは、比較品C2からなるチップの磨耗度合いや、従来品Dからなるチップの磨耗度合いと比較して、約2/3となり、発明品C1の耐摩耗性が優れていることが判った。
(実施例3)
脱β層が形成された母材を用いた被覆超硬合金の切削工具の実施例を以下に述べる。
表5は、発明品Eと従来品Fのそれぞれの配合組成割合を質量%表示したものである。ここでは、その平均粒度が4μmのWCを使用した。上記の配合比でアルコール中でアトライター混合を6時間行った。アルコールを蒸発させ粉末を乾燥させたのち、プレス圧が1ton/cmでプレスを行い、焼結温度が1400℃で真空焼結を行い、その厚みが10μmの脱β層を有する超硬合金を試作した。ここでは、発明品E、従来品Fのいずれも、焼結温度から200℃までの冷却速度が10℃/分であった。そして、各試料の硬さを測定した後、それら母材にTiCNをその厚みが7μmで被覆し、切削試験によって刃先ダレを比較した。
切削条件としては、被覆超硬合金の形状がSNMA432、被切削材がSNCM439、切削速度v=140mm/分、切り込み深さd=2mm、送り速度f=0.7mm/rev、切削時間が40分である。その結果を次の表6に示す。
表6に示すように、発明品Eは従来品Fと比較して、ビッカース硬度は同程度であるが、発明品Eは刃先ダレが改善されていることが判る。
(実施例4)
上述した本発明の強靱超硬合金と従来の超硬合金とで、Co含有量と、ビッカース硬度、抗折力、圧縮強度、破壊靭性、並びにfchp回折像半価巾との関係を比較測定した。その結果を次の表7に示す。ここでは、その平均粒度が3μmのWCを使用した。
表7は、発明品A(A11−A15)と従来品B(B10−B14)のそれぞれについて、ビッカース硬度,抗折力,圧縮強度,破壊靭性並びにfchp回折像の半価巾を測定したものである。
表7によれば、発明品A(A11−A15)は従来品B(B10−B14)と比較して、その圧縮強度が0.3〜0.4[GPa]程度大きい値となっている。また、発明品Aは従来品Bと比較して、その破壊靭性が2〜6[MN・m1/2]程度大きい値となっており、Co含有量が大きいほど破壊靭性の差が大きくなる傾向が見られる。
表7によれば、発明品A(A11−A15)は従来品B(B10−B14)と比較して、そのビッカース硬度が80〜140[Hv]程度大きい値となっている。また、発明品Aは従来品Bと比較して、その抗折力が0.2〜0.3[GPa]程度大きい値となっている。
表7に示す超硬合金のうち、Co含有量が25wt%のものについて、超硬合金の組織を光学式金属顕微鏡にて撮像した。図2は、発明品の強靭超硬合金の組織を光学式金属顕微鏡にて撮像した画像である。図3は、従来の超硬合金の組織を光学式金属顕微鏡にて撮像した画像である。
(実施例5)
ボルト・ナット用冷間鍛造金型の実施例を以下に述べる。
表8は、発明品G、Hのそれぞれの配合組成割合を質量%表示したものである。ここでは、その平均粒度が3μmのWCを使用した。試料Hは、上記の配合比でアルコール中でアトライター混合を6時間行った。アルコールを蒸発させ粉末を乾燥させたのち、プレス圧が1ton/cmでプレスを行い、焼結温度が1380℃で、圧力が1MPa(10bar)の条件にてSinterHIP炉で焼結を行った。試料Gは、上記の1380℃で焼結された試料Hを、1280℃で再加熱し、1280℃から540℃までを35℃/分の冷却速度で1次冷却し、540℃で30分間保持し、500℃から200℃までを8℃/分の冷却速度で2次冷却した。発明品G、H各試料について、それぞれ圧縮強度や破壊靭性等の物理特性を測定した。その結果を表9に示す。
表9に示すように、試料Gは、Crを含有してもfchp像の半価巾が大きい試料Hよりも圧縮強度及び破壊靭性が優れている。
次に、上述した発明品G、Hをそれぞれ用いて冷間鍛造金型を作製した。図7は、ボルト・ナット用冷間鍛造金型を例示する図であり、図7(a)は上方向から見た断面図であり、図7(b)は横方向から見た断面図である。被加工材はS25Cである。超硬合金金型の外周には、補強リングが取付けられている(図7)。前方押出鍛造によってボルトを製造してそれぞれの金型にて製造したボルトの生産数を比較した。製造された上記ボルトの六角コーナー部からクラックが入った時点を金型の寿命と判断し製造を止めた。その結果を表10に示す。
表10から明らかなように、上記実施形態の強靭超硬合金製の試料Gを用いた金型の寿命は、試料Hを用いた金型の寿命と比較すると、1.5倍以上の長寿命であるといえる。実用テストでこのように1.5倍以上の高性能が発揮できるのは、圧縮強度及び破壊靭性が優れていることだけでなく、fcc/hcp比を増大させることにより疲労強度を大きく向上させることができたからである。それに加えて、Co中でのCrやWの固溶量を増加させたことで耐熱強度が向上したことも高寿命化に寄与しているものと考えられる。

Claims (5)

  1. 炭化タングステン(WC),コバルト(Co)及びクロム(Cr)を含有し、WCの平均粒度が1.5〜20.0μm、ビッカース硬度が650〜1650Hvであり、Coが4〜30質量%含有し、CrがCo含有量の2〜18質量%含有し、残部がWC及び不可避不純物よりなり、hcp構造のCoを少なくするために、CrをCo中に固溶させて、Cu‐Kα線を用いたCo相のfccの(111)面のX線回折像(2θ=44.3度)とhcpの(002)面のX線回折像(2θ=44.9度)が重なりあったX線回折像の半価巾を0.42度以下としたことを特徴とする強靱超硬合金。
  2. 請求項1において、Co中でのCrやWの固溶量を増加させて、Co相のfccの格子定数を3.560Å以上としたことを特徴とする強靭超硬合金。
  3. 請求項1または2において、WCの一部をTiC、TaC、NbC、HfC、ZrC、VC等の遷移金属の炭化物又はこれら遷移金属の炭窒化物、若しくはWを含むこれら遷移金属の複炭化物又はWを含むこれら遷移金属の複炭窒化物のうちいずれか1種以上で置き換えたことを特徴とする強靱超硬合金。
  4. 請求項3において、その合金表面に脱β層が形成されており、脱β層の厚みが1〜30μmであることを特徴とする強靱超硬合金。
  5. 請求項1から4のいずれか一項に記載の強靱超硬合金を母材とした被覆超硬合金。
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