JP7205257B2 - 超硬合金製塑性加工用金型及びその製造方法 - Google Patents
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Description
前記結合相が
0.5~10質量%のNi、
0.2~2質量%のC、
0.5~5質量%のCr、
0.1~5質量%のW、及び
0.2~2.0質量%のSiを含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記超硬合金の1000倍のSEM写真において5μm以上の円相当径を有する複炭化物が観測されないことを特徴とする。
前記成形用粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結して、55~90質量部のWC粒子と10~45質量部の結合相とからなり、1000倍のSEM写真において5μm以上の円相当径を有する複炭化物が観測されない超硬合金を得る焼結工程と、
前記超硬合金を加工して金型を得る加工工程とを備えることを特徴とする。
(A) 組成
本発明の超硬合金製塑性加工用金型に使用する超硬合金は、55~90質量部のWC粒子と10~45質量部のFeを主成分とする結合相とからなる。
前記超硬合金におけるWC粒子の含有量は55~90質量部である。WC粒子が55質量部未満であると硬質なWC粒子が相対的に少なくなるため、超硬合金のヤング率が低くなりすぎる。一方、WC粒子が90質量部を超えると、結合相が相対的に少なくなるため、超硬合金の強度が確保できなくなる。WC粒子の含有量の下限は60質量部が好ましく、65質量部がより好ましい。またWC粒子の含有量の上限は85質量部が好ましい。
本発明の超硬合金製塑性加工用金型に使用する超硬合金において、Feを主成分とする結合相は、
0.5~10質量%のNi、
0.2~2質量%のC、
0.5~5質量%のCr、及び
0.1~5質量%のWを含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する。
(a) Ni:0.5~10質量%
Niは結合相の焼き入れ性を確保するのに必要な元素である。Niが0.5質量%未満であると、結合相の焼き入れ性が不十分であり、得られる超硬合金は十分な圧縮降伏強度を有さない。一方、Niが10質量%を超えると、結合相がオーステナイト化して焼き入れ性が低下し、やはり得られる超硬合金は十分な圧縮降伏強度を有さない。Niの含有量の下限は2.5質量%が好ましく、4質量%がより好ましい。またNiの含有量の上限は8質量%が好ましく、7質量%がより好ましい。
Cは結合相の焼き入れ性を確保するとともに、粗大な複炭化物の発生を防ぐのに必要な元素である。Cが0.2質量%未満では、結合相の焼き入れ性が低すぎる。一方、Cが2質量%を超えると、粗大な複炭化物が生成され、超硬合金の強度が低下する。Cの含有量の下限は0.3質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。また、Cの含有量の上限は1.5質量%が好ましく、1.0質量%がより好ましい。
Crは結合相の焼き入れ性を確保するのに必要な元素である。Crが0.5質量%未満であると、結合相の焼き入れ性が低くすぎ、十分な圧縮降伏強度を確保できない。一方、Crが5質量%を超えると粗大な複炭化物が発生して、超硬合金の強度が低下する。Crは4質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
結合相中のWの含有量は、0.1~5質量%である。結合相中のWの含有量が5質量%を超えると、粗大な複炭化物が発生し、超硬合金の強度が低下する。Wの含有量の下限は0.8質量%が好ましく、1.2質量%がより好ましい。また、Wの含有量の上限は、4質量%が好ましい。
(a) Si:0.2~2.0質量%
Siは結合相を強化するとともに黒鉛化を促進する元素であり、必要に応じ含有しうる。Siが0.2質量%未満であると、結合相を強化する効果がほとんど得られない。一方、Siが2.0質量%超になると、黒鉛が晶出しやすく超硬合金の強度が低下する。そのため、Siを含有させる場合、0.2質量%以上2.0質量%以下であるのが好ましい。さらに結合相の強化効果は、Siの含有量が0.3質量%以上、さらには0.5質量%以上である場合により発揮される。また、Siの含有量の上限は1.9質量%が好ましい。
Coは焼結性を向上させる作用を有するが、本発明の超硬合金製塑性加工用金型に使用する超硬合金では必須ではない。すなわち、Coの含有量は実質的に0質量%であるのが好ましい。しかし、Coの含有量が5質量%以下であれば、超硬合金の組織及び強度に影響を与えない。Coの含有量の上限は2質量%であるのがより好ましく、1質量%であるのが最も好ましい。
Mnは焼入れ性を向上させる作用を有するが、本発明の超硬合金製塑性加工用金型に使用する超硬合金では必須ではない。すなわち、Mnの含有量は実質的に0質量%であるのが好ましい。しかし、Mnの含有量が1質量%以下であれば、超硬合金の組織及び強度に影響を与えない。Mnの含有量の上限は0.5質量%がより好ましく、0.3質量%が最も好ましい。
不可避的不純物としては、Mo、V、Nb、Ti、Al、Cu、N、O等が挙げられる。これらのうち、Mo、V及びNbからなる群から選ばれた少なくとも一種の含有量は合計で2質量%以下であるのが好ましい。Mo、V及びNbからなる群から選ばれた少なくとも一種の含有量は、合計で1質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのが最も好ましい。また、Ti、Al、Cu、N及びOからなる群から選ばれた少なくとも一種の含有量は単独で0.5質量%以下であり、合計で1質量%以下であるのが好ましい。特に、N及びOはそれぞれ1000 ppm未満であるのが好ましい。不可避的不純物の含有量が上記範囲内であれば、超硬合金の組織及び強度は実質的に影響されない。
(1) 複炭化物
本発明の超硬合金製塑性加工用金型に使用する超硬合金の組織は、5μm以上の円相当径を有する複炭化物を実質的に含有しないのが好ましい。複炭化物とはWと金属元素との複炭化物であり、例えば、(W, Fe, Cr)23C6、(W, Fe, Cr)3C、(W, Fe, Cr)2C、(W, Fe, Cr)7C3、(W, Fe, Cr)6C等である。ここで、複炭化物の円相当径とは、超硬合金の研磨断面を示す顕微鏡写真(1000倍程度)において、複炭化物粒子の面積と同じ面積を持つ円の直径のことである。結合相中に5μm以上の円相当径を有する複炭化物が存在しない超硬合金は1700 MPa以上の抗折強度を有する。ここで、「複炭化物を実質的に含有しない」とは、SEM写真(1000倍)上で5μm以上の円相当径を有する複炭化物が観測されないことを意味する。円相当径が5μm未満の複炭化物については、超硬合金にEPMA分析で5面積%未満程度存在しても構わない。
前記超硬合金の結合相は、ベイナイト相及び/又はマルテンサイト相を合計で50面積%以上含有する組織を有するのが好ましい。なお、「ベイナイト相及び/又はマルテンサイト相」とするのは、ベイナイト相及びマルテンサイト相が実質的に同じ作用を有し、かつ顕微鏡写真上で両者を区別するのが困難であるからである。このような組織により、超硬合金は高い圧縮降伏強度及び強度を有する。
EPMA分析の結果、焼結した超硬合金ではWC粒子中にFeが0.3~0.7質量%存在していることが分った。
上記組成及び組織を有する超硬合金は、1200 MPa以上の圧縮降伏強度、及び1700 MPa以上の抗折強度を有するので、本発明の超硬合金製塑性加工用金型を用いて冷間鍛造を行った場合に、Coを結合相とする従来の超硬合金を用いた金型よりも疲労寿命を向上させることができる。勿論、本発明の超硬合金製塑性加工用金型は熱間鍛造にも使用できる。
(A)混合工程
WC粉末55~90質量部と、0.5~10質量%のNi、0.3~2.2質量%のC、0.5~5質量%のCr、0.2~2.0質量%のSi、0~5質量%のCo、及び0~2質量%のMnを含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる金属粉末10~45質量部とをボールミル等で湿式混合し、成形用粉末を調製する。焼結中にWC粉末中のWが結合相に拡散するので、金属粉末にWを含ませなくてもよい。WC粉末の含有量は60~90質量部であるのが好ましく、65~90質量部であるのがより好ましい。WC粉末のメディアン径D50は0.5~10μmであるのが好ましい。なお、WC粉末の含有量の上限は85質量部であるのが好ましい。また、複炭化物の生成を防止するために、金属粉末中のC含有量は0.3~2.2質量%である必要があり、好ましくは0.5~1.7質量%であり、更に好ましくは0.5~1.5質量%である。
成形用粉末を乾燥した後、金型成形、冷間静水圧成形(CIP)等の方法で成形し、所望の形状の成形体を得る。
(1)焼結
得られた成形体を、(液相化開始温度)乃至(液相化開始温度+100℃)の温度で真空中で焼結する。成形体の液相化開始温度は、焼結の昇温過程で液相化が開始する温度であり、示差熱分析装置を用いて測定する。図4に測定結果の一例を示す。成形体の液相化開始温度は、図4に矢印で示すように、吸熱反応が開始する温度である。液相化開始温度+100℃を超える温度で焼結すると、粗大な複炭化物が生成して、得られる超硬合金の強度は低下する。また液相化開始温度未満の温度で焼結すると、緻密化が不十分であり、得られる超硬合金の強度は低い。焼結温度の下限は液相化開始温度+10℃が好ましく、焼結温度の上限は液相化開始温度+90℃が好ましく、液相化開始温度+80℃がより好ましい。得られた焼結体に対して、さらにHIP処理するのが好ましい。
得られた焼結体を、900℃~600℃の間で60℃/時間以上の平均速度で冷却する。60℃/時間未満の平均速度で冷却すると超硬合金の結合相中のパーライト相の割合が多くなるため、ベイナイト相及び/又はマルテンサイト相を合計で50面積%以上とすることができず、超硬合金の圧縮降伏強度が低下する。60℃/時間以上の平均速度での冷却は、焼結炉中で行っても良いし、焼結炉で冷却した後、再度900℃以上に加熱して60℃/時間以上の平均速度で行っても良い。また、HIPを行う場合、HIP炉中の冷却過程で行っても良い。
得られた超硬合金を公知の手段で所望の金型形状に加工することによって超硬合金製塑性加工用金型を得ることができる。
本発明の超硬合金製塑性加工用金型は、加工面に圧接する金属材料を塑性変形させて所定形状に成形加工するためのものであり、前述の超硬合金からなる。本発明の超硬合金製塑性加工用金型は、加工面に圧接する金属材料を塑性変形させて所定形状に成形加工するものであればよく、例えば、線材加工用の線引きダイス、管材加工用の管引きダイス、板材等に対する絞り加工用の絞りダイス、棒材等に対するヘッダー加工用のヘッダーダイスなど、様々なタイプのダイスに適用できる。
WC粉末(純度:99.9%、メディアン径D50:6.4μm、レーザ回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD-2200)で測定したD10:4.3μm,D50:6.4μm,D90:9.0μm)と、表1の組成となるように配合した結合相用粉末とを表2に示す割合で混合し、成形用粉末(試料1~10)を調整した。なお結合相用粉末はいずれも1~10μmのメディアン径D50を有し、微量の不可避的不純物を含んでいた。
各超硬合金から切り出した図3に示す各圧縮試験用試験片の中央部表面に歪ゲージを貼り付け、軸方向に荷重を加えて、応力-歪曲線を作成した。応力-歪曲線において、応力と歪が直線関係から外れたときの応力を圧縮降伏強度とした。結果を表5に示す。
各超硬合金から切り出した4 mm×3 mm×40 mmの試験片に対して、支点間距離30 mmの4点曲げの条件で抗折強度を測定した。結果を表5に示す。
各超硬合金から切り出した幅10 mm×長さ60 mm×厚さ1.5 mmの試験片に対して、自由共振式固有振動法(JIS Z2280)で測定した。結果を表5に示す。
各超硬合金に対して、ロックウェル硬度(Aスケール)を測定した。結果を表5に示す。
試料No.1、2、7、8及び10について、試験片を切り出し、ASTM E399に準拠した試験により破壊靱性値KIc (MPa・m1/2)を測定した。
各試料を鏡面研磨した後、SEM観察を行い、複炭化物の存在、結合相中のベイナイト相及びマルテンサイト相の合計面積率を求めた。結果を表6に示す。図1は、試料2の超硬合金のSEM写真である。白い粒状部はWC粒子であり、灰色の部分は結合相である。
各試料の結合相の組成を電界放出型電子線マイクロアナライザー(FE-EPMA)で測定した。ビーム径1μmの点分析により、WC粒子以外の部分に対して任意の10箇所の点で測定を行い、得られた測定値を平均することにより、結合相の組成を求めた。ただし直径が5μm以上の複炭化物が存在する場合、WC粒子及び複炭化物以外の部分を測定した。結果を表7に示す。
Claims (6)
- WC粒子55~90質量部と、Feを主成分とする結合相10~45質量部とを含有する超硬合金からなる塑性加工用金型であって、
前記結合相が
0.5~10質量%のNi、
0.2~2質量%のC、
0.5~5質量%のCr、
0.1~5質量%のW、及び
0.2~2.0質量%のSiを含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記超硬合金の1000倍のSEM写真において5μm以上の円相当径を有する複炭化物が観測されないことを特徴とする超硬合金製塑性加工用金型。 - 請求項1に記載の超硬合金製塑性加工用金型において、前記結合相がさらに0~5質量%のCo、及び0~1質量%のMnを含有することを特徴とする超硬合金製塑性加工用金型。
- 請求項1又は2に記載の超硬合金製塑性加工用金型において、前記WC粒子のメディアン径D50が0.5~10μmであることを特徴とする超硬合金製塑性加工用金型。
- 請求項1~3のいずれかに記載の超硬合金製塑性加工用金型において、前記結合相におけるベイナイト相及び/又はマルテンサイト相の含有量が合計で50面積%以上であることを特徴とする超硬合金製塑性加工用金型。
- 請求項1~4のいずれかに記載の超硬合金製塑性加工用金型において、前記超硬合金が1200 MPa以上の圧縮降伏強度を有することを特徴とする超硬合金製塑性加工用金型。
- 0.5~10μmのメディアン径D50を有するWC粉末と、0.5~10質量%のNi、0.2~2質量%のC、0.5~5質量%のCr、0.1~5質量%のW、及び0.2~2.0質量%のSiを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、1~10μmのメディアン径D50を有する結合相用粉末とを混合して成形用粉末を得る混合工程と、
前記成形用粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結して、55~90質量部のWC粒子と10~45質量部の結合相とからなり、1000倍のSEM写真において5μm以上の円相当径を有する複炭化物が観測されない超硬合金を得る焼結工程と、
前記超硬合金を加工して金型を得る加工工程とを備えることを特徴とする超硬合金製塑性加工用金型の製造方法。
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